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特開2023-162870インク塗工装置保全用液、及びインク塗工装置の保全方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162870
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】インク塗工装置保全用液、及びインク塗工装置の保全方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/26 20060101AFI20231101BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20231101BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231101BHJP
   C09D 11/30 20140101ALN20231101BHJP
   B41M 5/00 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
C11D7/26
B41J2/17
B41J2/01 501
C09D11/30
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073564
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】391001505
【氏名又は名称】アジア原紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】国保 怜
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H003
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056FC01
2C056JB15
2C056JB18
2H186FB04
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB18
2H186FB36
2H186FB37
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB46
2H186FB48
4H003DA05
4H003DA12
4H003DB03
4H003EB06
4H003EB09
4H003ED29
4H003FA02
4H003FA04
4H003FA16
4H003FA30
4J039AD09
4J039AE11
4J039BE22
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インク流路における流動性を確保した場合であっても、インク流路に用いられるゴム製部材の性能の低下を抑えることのできるインク塗工装置保全用液、及びインク塗工装置の保全方法を提供する。
【解決手段】インク塗工装置の保全の用途に用いられるインク塗工装置保全用液は、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有する。
-(CO)-(OR-O-(CO)-R ・・・(1)
OCO-R-COOR ・・・(2)
一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数7~11の炭化水素基を表し、Rは、水素原子又は炭素数7~11の炭化水素基を表し、Rは、炭素数3~6の炭化水素基を表し、Rは、炭素数2~4の炭化水素基を表し、nは、1~3の整数を表し、xは、0又は1の整数を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク塗工装置の保全の用途に用いられるインク塗工装置保全用液であって、
下記一般式(1)及び(2):
-(CO)-(OR-O-(CO)-R ・・・(1)
OCO-R-COOR ・・・(2)
(一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数7~11の炭化水素基を表し、Rは、水素原子又は炭素数7~11の炭化水素基を表し、Rは、炭素数3~6の炭化水素基を表し、Rは、炭素数2~4の炭化水素基を表し、nは、1~3の整数を表し、xは、0又は1の整数を表す。)
で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有する、インク塗工装置保全用液。
【請求項2】
前記インク塗工装置保全用液中における前記一般式(1)及び(2)で表される化合物の合計の含有量は、30質量%以上である、請求項1に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項3】
下記一般式(3)及び(4):
-(OR-OR ・・・(3)
-(CO)-(OR-OCOR ・・・(4)
(一般式(3)及び(4)中、Rは、炭素数3~6の炭化水素基を表し、Rは、炭素数1~6の炭化水素基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基を表し、mは、2又は3の整数を表し、pは、1又は2の整数を表し、yは、0又は1の整数を表す。)
で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物をさらに含有する、請求項1に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項4】
前記インク塗工装置保全用液中における前記一般式(1)~(4)で表される化合物の合計の含有量は、65質量%以上である、請求項3に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項5】
前記インク塗工装置保全用液中における前記一般式(3)及び(4)で表される化合物の合計の含有量は、70質量%以下である、請求項3又は請求項4に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項6】
25℃における粘度は、30mPa・s以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項7】
エチレングリコールエーテル系溶剤及びジエチレングリコールエーテル系溶剤を含有しない、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項8】
酸化防止機能及び重合抑制機能の少なくとも一方の機能を有する化合物を含む安定剤をさらに含有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項9】
前記安定剤は、(メタ)アクリレート基を含有する化合物及びフェノチアジン系化合物から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項8に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項10】
前記インク塗工装置のインク塗工方式は、インクジェット方式である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項11】
前記インク塗工装置保全用液中における溶存酸素量が9.0mg/L以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のインク塗工装置保全用液。
【請求項12】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のインク塗工装置保全用液を用いて前記インク塗工装置を保全する、インク塗工装置の保全方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク塗工装置保全用液、及びインク塗工装置の保全方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、印刷物の高画質化に伴って、インク塗工装置が精密化する傾向にある。精密化したインク塗工装置では、例えば、インク中で生じた凝集物等の異物がインク流路に混入することを要因とする故障のリスクが高まっている。このようなインク塗工装置におけるインク流路の清浄性を保つために、インク塗工装置保全用液が用いられる。インク塗工装置保全用液を用いてインク流路を洗浄する等の保全を行うことで、インク塗工装置を正常な状態で使用することが可能となる。インク塗工装置保全用液の成分としては、特許文献1~4に開示されるように、重合性単量体、芳香族系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、エステル系溶媒等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-191062号公報
【特許文献2】特開2006-160894号公報
【特許文献3】特開2013-194123号公報
【特許文献4】特開2000-044993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インク塗工装置保全用液では、低粘度の成分の配合によってインク流路における流動性を確保することで、例えば、インク流路の洗浄性を高めることができる。ところが、流動性を確保したインク塗工装置保全用液では、インク流路で使用されるゴム製部材に対する攻撃性が高くなることで、ゴム製部材の性能を低下させるおそれがあった。このようにゴム製部材の性能が低下することで、例えば、インク流路のシール性の低下を招くおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様では、インク塗工装置の保全の用途に用いられるインク塗工装置保全用液であって、
下記一般式(1)及び(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有する。
【0006】
-(CO)-(OR-O-(CO)-R ・・・(1)
OCO-R-COOR ・・・(2)
一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数7~11の炭化水素基を表し、Rは、水素原子又は炭素数7~11の炭化水素基を表し、Rは、炭素数3~6の炭化水素基を表し、Rは、炭素数2~4の炭化水素基を表し、nは、1~3の整数を表し、xは、0又は1の整数を表す。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、インク流路における流動性を確保した場合であっても、インク流路に用いられるゴム製部材の性能の低下を抑えることができるという効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、インク塗工装置保全用液、及びインク塗工装置の保全方法の一実施形態について説明する。なお、以下では、インク塗工装置保全用液を単に「保全用液」という場合がある。
【0009】
<インク塗工装置保全用液の用途>
インク塗工装置保全用液は、インク塗工装置の保全の用途に用いられる。保全用液は、インク流路の洗浄、インク流路の恒常性の維持等を目的として使用される。保全用液は、インク塗工装置及びその付帯設備におけるインク流路を流通させてもよいし、インク流路に一定時間充填させてもよい。
【0010】
インク塗工装置は、インクの貯蔵部、インクの塗工部、インクの排出部、塗工部と貯蔵部とを接続する接続部、及び塗工部と排出部とを接続する接続部の各部を含むインク流路を有している。インクの貯蔵部は、インク塗工装置の外部に配置されていてもよい。また、インクの貯蔵部は、塗工部を介さずに排出部に接続される接続部を有していてもよい。また、インク排出部は、インク塗工装置の外部に配置されていてもよい。インク塗工装置保全用液は、インク塗工装置の外部に配置される貯蔵部、及びこの貯蔵部とインク塗工装置とを接続する接続部の洗浄に用いてもよい。また、インク塗工装置保全用液は、インク塗工装置の外部に配置される排出部、及びこの排出部とインク塗工装置とを接続する接続部の洗浄に用いてもよい。
【0011】
インク流路を構成する部材としては、例えば、供給管、供給管接続部材、インクカートリッジ、インクリザーバータンク、廃液の受け皿、廃液貯蔵部のタンク、タンクへの接続部材、バルブのシール材、チューブポンプ(ペリスタルティックポンプ)、ダイヤフラムポンプ、印刷ヘッド、印刷版胴、インクローラー、印刷ブランケット、インクチャンバー、アニロックスローラー等が挙げられる。
【0012】
インク流路を構成する部材は、ゴム製部材を含む。ゴム製部材の種類は、特に限定されない。ゴム製部材としては、例えば、上記インク流路を構成する部材の少なくとも一部が挙げられる。ゴム製部材は、上記インク流路を構成するシール部材であってもよい。シール部材としては、例えば、ガスケット、パッキン、Oリング等が挙げられる。ゴム製部材は、インク流路を構成する部材の内層又は外層であってもよい。
【0013】
ゴム製部材のゴムは、常温でゴム弾性又はゴム状弾性を有する材料であり、例えば、JIS 6200(2008)、JIS 6200(2019)等に規定される。詳述すると、ゴムは、沸とうした溶剤、例えば、ベンゼン、メチルエチルケトン、又はエタノール/トルエン共沸混合物等に、本質的に不溶(膨潤し得る)となる状態に改質できるか、または既にそのような状態になっている物質を指す。ゴムは、改質され、かつ、希釈剤を含有していない状態では、室温(18℃~29℃)においてその長さを2倍に伸ばし、かつ、緩める前に1分間そのままに保持しても、1分以内に元の長さの1.5倍未満に収縮する。また、ゴムは、改質後のゴムの状態では、加熱及び圧力を加えても容易に恒久的な形状に再成形できない性質を有する。
【0014】
ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、イソブチレンイソプレンゴム、ニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロスルホン化エチレンゴム、ウレタンゴム、ポリエステルウレタンゴム、ポリエーテルウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレンプロピレンゴム、パーフロロゴム等が挙げられる。
【0015】
インク塗工装置のインク塗工方式としては、例えば、インクジェット方式、オフセット方式、ロールコーター方式、フレキソ方式、グラビア方式、シルクスクリーン方式、パッド方式、スプレー塗布等が挙げられる。本実施形態のインク塗工装置保全用液は、インクジェット方式のインク塗工装置に好適に用いることができる。
【0016】
<インク塗工装置保全用液の成分>
インク塗工装置保全用液は、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有する。インク塗工装置保全用液は、下記一般式(3)及び(4)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物をさらに含有することが好ましい。インク塗工装置保全用液は、安定剤をさらに含有することが好ましい。
【0017】
<一般式(1)~(4)で表される化合物>
一般式(1)及び(2)で表される化合物は、洗浄成分である。洗浄成分を含有する保全用液は、インク流路内に充填される。インク流路に充填された保全用液がインク流路から排出されることで、インク流路内のインク成分、インク成分の凝集物、インク流路内に存在する揮発物等をインク流路から除去することができる。
【0018】
-(CO)-(OR-O-(CO)-R ・・・(1)
OCO-R-COOR ・・・(2)
一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数7~11の炭化水素基を表す。この炭化水素基は、直鎖型、分岐型、及び環状炭化水素基のいずれであってもよい。Rの炭素数は、8~11であることが好ましく、より好ましくは、8~10である。Rの炭素数が7以上であることで、ゴム製部材に対する攻撃性を抑えることができる。Rの炭素数が11以下であることで、保全用液の流動性を高めることができる。ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えるという観点から、Rは、不飽和結合を含まないことが好ましい。
【0019】
一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数7~11の炭化水素基を表す。この炭化水素基は、直鎖型、分岐型、及び環状炭化水素基のいずれであってもよい。Rの炭素数は、8~10であることが好ましく、より好ましくは、8又は9である。Rの炭素数が7以上であることで、ゴム製部材に対する攻撃性を抑えることができる。Rの炭素数が11以下であることで、保全用液の流動性を高めることができる。Rは、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えるという観点から、不飽和結合を含まないことが好ましい。
【0020】
一般式(1)中、Rは、炭素数3~6の炭化水素基を表す。Rの炭素数が3以上であることで、保全用液をインクと混合した際の安定性を高めることができる。具体的には、インク流路中で保全用液がインクと任意の比率で混合されて放置された場合であっても、混合液のゲル化や異物の発生を要因とした濁りの発生を抑えることができる。これにより、インク流路の清浄性が高まることで、インク塗工装置の恒常性を高めることができる。Rの炭素数が6以下であることで、保全用液の流動性を高めることができる。Rの炭化水素基は、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えるという観点から、不飽和結合を含まないことが好ましく、不飽和結合を含まない直鎖型又は分岐型であることがより好ましい。
【0021】
一般式(2)中、Rは、炭素数2~4の炭化水素基を表す。この炭化水素基は、直鎖型又は分岐型であることが好ましい。Rは、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えるという観点から、不飽和結合を含まないことが好ましい。
【0022】
一般式(1)中、nは、1~3の整数を表す。この場合、保全用液の流動性を高めることができる。一般式(1)中、xは、0又は1の整数を表す。この場合、保全用液の流動性を高めることができる。
【0023】
一般式(1)で表される化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。一般式(2)で表される化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。
一般式(1)及び(2)で表される化合物としては、例えば、プロピレングリコール-モノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコール-モノ-2-エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコール-モノ-2-エチルヘキサノエート、3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピオン酸、コハク酸ビス(2-エチルヘキシル)、コハク酸ジイソノニル、コハク酸ジイソデシル、グルタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、グルタル酸ジイソノニル、グルタル酸ジイソデシル、アジピン酸ジヘプチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル等が挙げられる。
【0024】
保全用液中における一般式(1)及び(2)で表される化合物の含有量は、30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、32.5質量%以上であり、さらに好ましくは、35%質量以上である。保全用液中における一般式(1)及び(2)で表される化合物の含有量を増大させることで、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えることが可能となる。保全用液中における一般式(1)及び(2)で表される化合物の含有量の上限は、特に限定されない。
【0025】
一般式(3)及び(4)で表される化合物も、一般式(1)及び(2)で表される化合物と同様に上記洗浄成分である。一般式(3)及び(4)で表される化合物を第1洗浄成分とした場合、一般式(3)及び(4)で表される化合物は第2洗浄成分となる。
【0026】
-(OR-OR ・・・(3)
-(CO)-(OR-OCOR ・・・(4)
一般式(3)及び(4)中、Rは、炭素数3~6の炭化水素基を表す。この炭化水素基は、直鎖型、分岐型、及び環状炭化水素基のいずれであってもよい。Rの炭素数が3以上であることで、インクと混合した混合液において、ゲル化や異物の発生を要因とした濁りの発生を抑えることができる。これにより、清浄性を高めることができる。Rの炭素数が6以下であることで、保全用液の流動性を高めることができる。Rは、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えるという観点から、不飽和結合を含まないことが好ましい。
【0027】
一般式(3)及び(4)中、Rは、炭素数1~6の炭化水素基を表す。この炭化水素基は、直鎖型、分岐型、及び環状炭化水素基のいずれであってもよい。Rの炭素数が1以上であることで、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えることができる。Rの炭素数が6以下であることで、保全用液の流動性を高めることができる。Rは、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えるという観点から、不飽和結合を含まないことが好ましい。
【0028】
一般式(3)及び(4)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基を表す。この炭化水素基は、直鎖型、分岐型、及び環状炭化水素基のいずれであってもよい。Rの炭素数が1以上であることで、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えることができる。Rの炭素数が6以下であることで、保全用液の流動性を高めることができる。Rは、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えるという観点から、不飽和結合を含まないことが好ましい。
【0029】
一般式(3)中、mは、2又は3の整数を表す。この場合、保全用液の流動性を高めるとともに揮発性を抑えることができる。一般式(4)中、pは、1又は2の整数を表す。この場合、保全用液の流動性を高めることができる。一般式(4)中、yは、0又は1の整数を表す。この場合、保全用液の流動性を高めるとともに揮発性を抑えることができる。
【0030】
一般式(3)で表される化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。一般式(4)で表される化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。
一般式(3)及び(4)で表される化合物としては、例えば、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコール-モノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル-3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート等が挙げられる。
【0031】
保全用液中における一般式(3)及び(4)で表される化合物の合計の含有量は、70質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、70質量%未満であり、さらに好ましくは、69質量%以下であり、最も好ましくは60質量%以下である。
【0032】
保全用液中における一般式(1)~(4)で表される化合物の合計の含有量は、65質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、68質量%以上であり、さらに好ましくは、70質量%以上である。保全用液中における一般式(1)~(4)で表される化合物の合計の含有量を増大させることで、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えることが可能となる。
【0033】
なお、保全用液中には、上記一般式(1)~(4)で表される化合物以外の化合物として、エチレングリコールエーテル系溶剤及びジエチレングリコールエーテル系溶剤を含有させることも可能である。但し、保全用液がインクと混合された状態における安定性を高めるという観点から、保全用液中におけるエチレングリコールエーテル系溶剤及びジエチレングリコールエーテル系溶剤の含有量は、例えば、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、5質量%以下であり、さらに好ましくは、1質量%以下である。保全用液には、エチレングリコールエーテル系溶剤及びジエチレングリコールエーテル系溶剤を含有させないことが最も好ましい。
【0034】
エチレングリコールエーテル系溶剤及びジエチレングリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
【0035】
<安定剤>
保全用液中の成分やインク流路中のインク成分は、例えば、照明、屋外光等に含まれる活性エネルギー線(例えば、紫外線)や、保全用液の保管時や使用時に加わる熱等により劣化するおそれがある。詳述すると、保全用液中の成分やインク流路中のインク成分は、活性エネルギー線や熱により、例えば、酸化、固化、増粘、変色等の劣化反応するおそれがある。このような劣化反応は、インク流路の清浄性の低下を招くため、劣化反応を抑える安定剤を保全用液に含有させることが好ましい。
【0036】
安定剤としては、上記のような劣化反応を抑える化合物、例えば、酸化防止機能、重合抑制機能等を有する化合物を用いることかできる。安定剤は、上記劣化反応を効率よく抑えるという観点から、(メタ)アクリレート基を含有する化合物、及びフェノチアジン系化合物から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0037】
(メタ)アクリレート基を含有する化合物は、分子内にインク成分の酸化還元反応、重合反応等の劣化反応を抑制する機構を有する。(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを示す。(メタ)アクリレート基を含有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリレート基を含有するヒンダードアミン、(メタ)アクリレート基を含有するヒンダードフェノール、下記一般式(5)で表されるフェニル(メタ)アクリレート基を含有する化合物、グリセリルプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
【化1】
一般式(5)中、Rは、水素原子又はメチル基を示し、R~R18は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~16の炭化水素基、炭素数1~16の炭化水素基を有するアルコール基、炭素数1~4の炭化水素基を有するアルコールと炭素数1~14の炭化水素基を有するアルコールとからなるエーテル基、又は、炭素数1~4の炭化水素基を有するカルボン酸と炭素数1~14の炭化水素基を有するアルコールとからなるエステル基を示す。なお、アルコール基は、一つ又は二つ以上の水酸基を有する炭化水素基をいう。
【0039】
より具体的な(メタ)アクリレート基を含有する化合物としては、例えば、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンタフェニルアクリレート、テトラメチルピペリジルメタクリレート、ペンタメチルピペリジルメタクリレート等が挙げられる。
【0040】
(メタ)アクリレート基を含有する化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。
保全用液中における(メタ)アクリレート基を含有する化合物の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.05質量%以上であり、さらに好ましくは、0.1質量%以上である。保全用液中における(メタ)アクリレート基を含有する化合物の含有量を増大させることで、稼働停止時に保全用液とインクとが混合された状態であっても混合液の安定性が確保され易くなる。
【0041】
保全用液中における(メタ)アクリレート基を含有する化合物の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、5質量%以下であり、さらに好ましくは、2.5質量%以下である。保全用液中における(メタ)アクリレート基を含有する化合物の含有量を低下させることで、稼働時のインクに保全用液が混入した場合であっても、インクの硬化性を阻害し難い。
【0042】
フェノチアジン系化合物としては、例えば、フェノチアジン、2-メトキシフェノチアジン、2-シアノフェノチアジン、ビス(α-メチルベンジル)フェノチアジン、3,7-ジオクチルフェノチアジン、及びビス(α,α-ジメチルベンジン)フェノチアジン等が挙げられる。
【0043】
フェノチアジン系化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。
保全用液中におけるフェノチアジン系化合物の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.005質量%以上であり、さらに好ましくは、0.01質量%以上である。保全用液中におけるフェノチアジン系化合物の含有量を増大させることで、稼働停止時に保全用液とインクとが混合された混合液がインク流路に存在した場合であっても、混合液の安定性が確保され易くなる。
【0044】
保全用液中におけるフェノチアジン系化合物の含有量は、1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、0.8質量%以下であり、さらに好ましくは、0.5質量%以下である。保全用液中におけるフェノチアジン系化合物の含有量を低下させることで、稼働時のインクに保全用液が混入した場合であっても、インクの硬化性を阻害し難い。
【0045】
上記(メタ)アクリレート基を含有する化合物及びフェノチアジン系化合物以外の安定剤としては、例えば、(メタ)アクリレート基を有しないヒンダードフェノール系化合物、ニトロソアミン系化合物、(メタ)アクリレート基を有しないヒンダードアミン系化合物、リン系化合物等が挙げられる。
【0046】
<上記以外の成分>
保全用液には、例えば、環状カーボネート、多塩基酸エステル、アシルグリセロール、重合性化合物等を含有させることもできる。
【0047】
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。多塩基酸エステルとしては、例えば、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。アシルグリセロールとしては、トリアセチン、トリプロピオニン等が挙げられる。重合性化合物としては(メタ)アクリレート化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物等が挙げられる。
【0048】
保全用液には、必要に応じて、水、表面張力調整剤を含有させてもよい。表面張力調整剤は、保全用液の表面張力を所定の範囲に調整することが可能な化合物である。表面張力調整剤としては、例えば、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0049】
イオン性界面活性剤のアニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ベンゼンスルホン酸塩類、ナフタレンスルホン酸塩類、スルホコハク酸エステル塩類、ポリオキシエチレン硫酸エステル塩類、及びリン酸エステル塩類が挙げられる。
【0050】
脂肪酸塩類としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、及び半硬化牛脂脂肪酸ナトリウムが挙げられる。
アルキル硫酸エステル塩類としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸トリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、及びオクタデシル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0051】
ベンゼンスルホン酸塩類としては、例えば、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0052】
ナフタレンスルホン酸塩類としては、例えば、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム、及びナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物が挙げられる。
スルホコハク酸エステル塩類としては、例えば、スルホコハク酸ジドデシルナトリウム、及びスルホコハク酸ジオクタデシルナトリウムが挙げられる。
【0053】
ポリオキシエチレン硫酸エステル塩類としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸トリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル硫酸ナトリウム、及びポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0054】
リン酸エステル塩類としては、例えば、ドデシルリン酸カリウム、及びオクタデシルリン酸ナトリウムが挙げられる。
イオン性界面活性剤のカチオン性界面活性剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩類が挙げられる。第四級アンモニウム塩類としては、例えば、酢酸オクタデシルアンモニウム、ヤシ油アミン酢酸塩等のアルキルアミン塩類、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、及び塩化ドデシルベンジルジメチルアンモニウムが挙げられる。
【0055】
イオン性界面活性剤の両性イオン性活性剤としては、例えば、アルキルベタイン類、及びアミンオキシド類が挙げられる。アルキルベタイン類としては、例えば、ドデシルベタイン、及びオクタデシルベタインが挙げられる。アミンオキシド類としては、例えば、ドデシルジメチルアミンオキシドが挙げられる。
【0056】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンフェニルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ソルビトール脂肪酸エステル類、及びグリセリン脂肪酸エステル類が挙げられる。
【0057】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル類としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(9-オクタデセニル)エーテルが挙げられる。
【0058】
ポリオキシエチレンフェニルエーテル類としては、例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが挙げられる。
ソルビタン脂肪酸エステル類としては、例えば、ソルビタンドデカン酸エステル、ソルビタンヘキサデカン酸エステル、ソルビタンオクタデカン酸エステル、ソルビタン(9-オクタデセン酸)エステル、ソルビタン(9-オクタデセン酸)トリエステル、ポリオキシエチレンソルビタンドデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンヘキサデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンオクタデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンオクタデカン酸トリエステル、ポリオキシエチレンソルビタン(9-オクタデセン酸)エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン(9-オクタデセン酸)トリエステルが挙げられる。
【0059】
ソルビトール脂肪酸エステル類としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビトール(9-オクタデセン酸)テトラエステルが挙げられる。
グリセリン脂肪酸エステル類としては、例えば、グリセリンオクタデカン酸エステル、グリセリン(9-オクタデセン酸)エステルが挙げられる。
【0060】
変性シリコーンオイルとしては、例えば、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチレン変性シリコーンオイル、オレフィン変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、及びアルキル変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0061】
保全用液には、必要に応じて分散剤を含有させることもできる。分散剤は、インクと保全用液とが混合された際にインク中に分散している着色成分、及びフィラー等の粒子状成分の凝集を抑える成分である。分散剤としては、例えば、高分子型分散剤、及び低分子型分散剤が挙げられる。
【0062】
<保全用液の粘度>
保全用液の粘度は、25℃において30mPa・s以下が好ましく、より好ましくは、20mPa・s以下であり、さらに好ましくは、15mPa・s以下である。保全用液の粘度を低く抑えることにより、例えば、保全用液をインク流路に容易に供給することが可能となる。また、保全用液の粘度を低く抑えることにより、例えば、インクとの混合性等も高めることが可能となる。保全用液の粘度の下限は、特に限定されないが、25℃において、例えば、0.5mPa・s以上である。
【0063】
<保全用液の調製及びインク塗工装置の保全方法>
複数の化合物を含有する保全用液は、必要に応じて混合機を用いて混合することで、調製される。保全用液は、脱気した後に使用してもよい。脱気した保全用液を使用することで、インク流路に存在する気泡を保全用液に溶け込ませることが可能となる。これにより、インク流路に混入した気泡を容易に除去することが可能となる。保全用液の脱気度は溶存酸素量を用いて管理することができる。保全用液中における溶存酸素量は、9.0mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは、6.0mg/L以下であり、さらに好ましくは、4.0mg/L以下である。また、保全用液は、異物の混入のリスクを低減するという観点から、ろ過されていることが好ましい。保全用液の調製方法は、ろ過工程及び脱気工程の少なくとも一方の工程を備えることが好ましい。ろ過工程及び脱気工程は、常法にしたがって行うことができる。なお、ろ過工程及び脱気工程は、インク流路を利用して行うこともできる。すなわち、例えば、インク流路に装備したろ過装置及び脱気装置を用いることで、保全用液の使用の際に保全用液のろ過工程及び脱気工程を行うことができる。インク塗工装置のインク塗工方式が、インクジェット方式の場合、保全用液のろ過工程及び脱気工程を行うことが好ましい。
【0064】
インク塗工装置の保全方法としては、保全用液を用いてインク流路内を洗浄する方法、保全用液を用いてインク流路の恒常性の維持する方法等が挙げられる。保全用液を用いてインク流路内を洗浄する方法としては、保全用液を手動又は自動でインク流路へ供給し、インク流路から排出することでインク成分及び異物等を除去する方法が挙げられる。このような洗浄工程は、複数回繰り返してもよい。また、インク流路内に保全用液を循環させてもよい。
【0065】
保全用液を用いてインク流路の恒常性の維持する方法としては、保全用液をインク流路に充填する。保全用液の充填をインク塗工装置の製造時に行うことで、例えば、インク流路への気泡の混入を抑えることができる。また、保全用液の充填をインク塗工装置の稼働後、一時的又は長期的にインク塗工装置を停止する際に行うことで、インクの残渣の乾燥や反応に基づく固化や凝集を抑えたり、インク流路への気泡の混入を抑えたりすることができる。
【0066】
保全用液をインク流路から排出した後、インク塗工装置の塗工部に付着している保全用液は、取り除いてもよい。保全用液を取り除く方法としては、例えば、繊維、多孔質材等を用いた拭き取りや吸収、ワイピングブレードを用いた掻き取り、エアーブローを用いた除去等が挙げられる。
【0067】
保全用液は、例えば、活性エネルギー線硬化型組成物に使用される(メタ)アクリレート化合物等の成分との相溶性が良好である。このため、活性エネルギー線硬化型組成物を用いたインク塗工装置に用いられることが好ましい。活性エネルギー線硬化型組成物の用途としては、例えば、文字、写真、イラスト、図、又は記号を表現する着色を目的とした用途が挙げられる。活性エネルギー線硬化型組成物の用途は、オーバーコート剤、アンダーコート剤、スポットコーティング剤、接着剤、プライマー等の着色を目的としない用途であってもよい。本明細書で言うインクは、着色を目的としない用途に用いられる組成物も含まれる。
【0068】
<本実施形態の作用及効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)インク塗工装置の保全の用途に用いられるインク塗工装置保全用液は、上記一般式(1)及び(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有する。この構成によれば、インク流路における流動性を確保した場合であっても、インク流路に用いられるゴム製部材の性能の低下を抑えることができるという効果を発揮する。インク流路における流動性が確保されることで、インク流路に保全用液が流通し易くなるため、例えば、インク流路から保全用液を容易に排出することが可能となる。これにより、インク流路内の異物や気泡を効率よく排出することが可能となる。また、インク流路に用いられるゴム製部材の性能の低下を抑えることができるため、インク流路のシール性の低下を抑えたり、ゴム製部材中の成分の流出を抑えたりすることができる。従って、インク流路の洗浄やインク流路の恒常性の維持に好適に用いることができる。
【0069】
なお、上記一般式(1)及び(2)で表される化合物は、末端に長鎖の炭化水素基を有するため、立体障害によってゴム分子鎖間への浸透が抑えられると推測される。これにより、ゴム製部材の膨潤、ゴム製部材の分解、又はゴム製部材中の成分の流出を抑えることができると推測される。
【0070】
(2)保全用液中における一般式(1)及び(2)で表される化合物の合計の含有量は、30質量%以上であることが好ましい。この場合、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えることが可能となる。
【0071】
(3)保全用液は、上記一般式(3)及び(4)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物をさらに含有することが好ましい。この場合、例えば、保全用液の粘度を低く抑えることが可能となるため、保全用液の流動性を容易に確保することができる。
【0072】
(4)保全用液中における上記一般式(1)~(4)で表される化合物の合計の含有量は、65質量%以上であることが好ましい。この場合、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えることが可能となる。
【0073】
(5)保全用液中における上記一般式(3)及び(4)で表される化合物の合計の含有量は、70質量%以下であることが好ましい。この場合、一般式(1)及び(2)で表される化合物の含有量を確保することで、ゴム製部材に対する攻撃性をより抑えることが可能となる。
【0074】
(6)保全用液の25℃における粘度は、30mPa・s以下であることが好ましい。この場合、例えば、保全用液をインク流路に容易に供給することが可能となる。また、保全用液の粘度を低く抑えることにより、インクとの混合性を高めることができるため、例えば、インク流路の洗浄性が良好となる。
【0075】
(7)保全用液は、エチレングリコールエーテル系溶剤及びジエチレングリコールエーテル系溶剤を含有しないことが好ましい。この場合、例えば、保全用液とインクとが混合された状態における安定性を高めることが可能となる。特に、インクが活性エネルギー線硬化型組成物である場合、エチレングリコールエーテル系溶剤及びジエチレングリコールエーテル系溶剤を含有しないことが好ましい。
【0076】
(8)保全用液は、酸化防止機能及び重合抑制機能の少なくとも一方の機能を有する化合物を含む安定剤をさらに含有することが好ましい。この場合、保全用液中の成分やインク流路中のインク成分の劣化反応を抑えることが可能となる。これにより、インク流路の清浄性の低下を抑えることができる。安定化剤は、(メタ)アクリレート基を含有する化合物及びフェノチアジン系化合物から選ばれる少なくとも一種を含むことがさらに好ましい。
【0077】
(9)インク塗工装置のインク塗工方式は、インクジェット方式であることが好ましい。上記保全用液は、インクジェット方式のようなより精密化されたインク流路の保全に好適に用いることができる。
【0078】
(10)保全用液中における溶存酸素量は、9.0mg/L以下であることが好ましい。この場合、インク流路に存在する気泡を保全用液に溶け込ませることが可能となる。これにより、インク流路に混入した気泡を容易に除去することが可能となる。
【実施例0079】
次に、実施例及び比較例を説明する。
(実施例1~16及び比較例1~5)
実施例1~16及び比較例1~5では、表1~3に示す組成となるように各原料を容器に入れ、室温下で固形物がなくなるまで撹拌した後、ガラス繊維ろ紙(アドバンテック東洋社製、商品名:GS-25)を用いてろ過することにより保全用液を調製した。
【0080】
調製した保全用液、及び後述する保全用液-試験用インク混合液の粘度を、測定温度25℃において粘度計(東機産業社製、商品名:RE85L)を用いて測定した。
表1中、組成を示す数値の単位は、質量%である。また、表1中の略号は以下のとおりである。
【0081】
“化合物A11”は、一般式(2)で表される化合物であり、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)(ジェイ・プラス社製、商品名:DOA)である。
“化合物A12”は、一般式(2)で表される化合物であり、アジピン酸ジイソデシル(ジェイ・プラス社製、商品名:DIDA)である。
【0082】
“化合物A13”は、一般式(1)で表される化合物であり、プロピレングリコール-モノ-2-エチルヘキサノエート(四日市合成社製、商品名:ワイジノールEHP-01)である。
【0083】
“化合物A21”は、一般式(3)で表される化合物であり、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(日本乳化剤社製、商品名:プロピルプロピレンジグリコール)である。
【0084】
“化合物A22”は、一般式(4)で表される化合物であり、1,6-ヘキサンジオールジアセテート(ダイセル社製、商品名:1,6-HDDA)である。
“化合物A3”は、上記一般式(1)~(4)で表される化合物以外の化合物であり、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチルの混合物(田岡化学社製、商品名:No.23エステル)である。
【0085】
“化合物A4”は、上記一般式(1)~(4)で表される化合物以外の化合物であり、アセチルクエン酸トリブチル(ジェイ・プラス社製、商品名:ATBC)である。
“化合物A5”は、上記一般式(1)~(4)で表される化合物以外の化合物であり、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(日本乳化剤社製、商品名:ヘキシルグリコール)である。
【0086】
“化合物A6”は、上記一般式(1)~(4)で表される化合物以外の化合物であり、エチレングリコールモノベンジルエーテル(日本乳化剤社製、商品名:ベンジルグリコール)である。
【0087】
“化合物A7”は、上記一般式(1)~(4)で表される化合物以外の化合物であり、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(日本乳化剤社製、商品名:ブチルジグリコール)である。
【0088】
“化合物B11”は、(メタ)アクリレート基を含有する化合物であり、テトラメチルピぺリジニルメタクリレート(昭和電工マテリアルズ社製、商品名:FA-712HM)である。
【0089】
“化合物B12”は、(メタ)アクリレート基を含有する化合物であり、グリセリルプロポキシトリアクリレート及び、ビスフェノールAジグリシジルジアクリレートの混合物(RAHN製、商品名:GENORAD16)である。
【0090】
“化合物B13”は、(メタ)アクリレート基を含有する化合物であり、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学社製、商品名:スミライザーGM(F))である。
【0091】
“化合物B21”は、フェノチアジン系化合物であり、フェノチアジン(精工化学社製)である。
(ゴム製部材の適合性の評価)
評価に用いるゴム製部材として、Oリング(エア・ウォーター・マッハ社製、太さ:1.9mm、内径:8.8mm)を準備した。Oリングの材料は、JIS B2401-1(2012)に規定される以下の材料1~5の5種類とした。
【0092】
材料1:NBR-70-1(ニトリルゴム、商品名:N7-438)
材料2:NBR-70-2(ニトリルゴム、商品名:N7-995)
材料3:EPDM-70(エチレンプロピレンゴム、商品名:E7-512)
材料4:VMQ-70(シリコーンゴム、商品名:S7-947)
材料5:FKM-70(フッ素ゴム、商品名:F7-135)
上記材料1~5の各Oリングについて以下のように保管試験を行った。
【0093】
まず、保管前の各Oリングの質量を精密天秤でmgの単位まで測定した。保管前の各Oリングの質量をm0[mg]とする。
次に、各Oリングを20mL褐色瓶に別々に収容するとともに、各褐色瓶に実施例1の保全用液5gを注入した。各褐色瓶を密閉した後、60℃の温度下で4週間保管した。
【0094】
保管後の各褐色瓶からOリングを取り出した後、各Oリングの表面に付着している保全用液を拭き取った。各Oリングを室温下で1日間放置した後、各Oリングの質量を再度測定した。保管後の各Oリングの質量をmi[mg]とする。
【0095】
各Oリングの保管試験前後における質量変化率を下記式にしたがって算出した。
質量変化率[%]=(mi[mg]-m0[mg])/m0[mg]×100
算出した質量変化率から以下の評価基準でゴム製部材適合性を評価した。
【0096】
質量変化率が0.0%以上、10.0%以下の範囲内の場合:ゴム製部材への攻撃性が非常に低く、ゴム製部材の適合性に優れる(○○)と評価した。
質量変化率が10.1%以上、20.0%以下の場合:ゴム製部材への攻撃性が低く、ゴム製部材の適合性が良好(○)と評価した。
【0097】
質量変化率が-3.0%以上、0.0%未満の範囲内の場合:ゴム製部材への攻撃性がやや高く、ゴム製部材の適合性にやや劣る(△-)と評価した。
質量変化率が20.1%以上、30.0%以下の範囲内の場合:ゴム製部材への攻撃性がやや高く、ゴム製部材の適合性にやや劣る(△+)と評価した。
【0098】
質量変化率が-3.1%以下の場合、ゴム製部材への攻撃性が高く、ゴム製部材の適合性に劣る(×-)と評価した。
質量変化率が30.1%以上の場合:ゴム製部材への攻撃性が高く、ゴム製部材の適合性に劣る(×+)と評価した。
【0099】
実施例2~16及び比較例1~5の保全用液についても、実施例1の保全用液と同様に、ゴム製部材適合性の評価を行った。ゴム製部材適合性の評価結果を表2~4に示す。
(インクとの混合安定性の評価)
実施例1の保全用液と試験用インクとを所定の質量比率で混合することで、混合安定性の評価用のサンプルを準備した。サンプルは、質量比率の異なる以下のサンプル1~7の7種類を調製した。
【0100】
サンプル1:保全用液の質量/試験用インクの質量=1/99
サンプル2:保全用液の質量/試験用インクの質量=5/95
サンプル3:保全用液の質量/試験用インクの質量=20/80
サンプル4:保全用液の質量/試験用インクの質量=50/50
サンプル5:保全用液の質量/試験用インクの質量=80/20
サンプル6:保全用液の質量/試験用インクの質量=95/5
サンプル7:保全用液の質量/試験用インクの質量=99/1
試験用インクは、表1に示す組成となるように各原料を容器に入れ、40~50℃の湯浴中で固形物がなくなるまで撹拌した後、ガラス繊維ろ紙(アドバンテック東洋社製、商品名:GS-25)を用いてろ過することにより試験用インクを調製した。
【0101】
表1中の試験用インクの原料(商品名)は、以下の通りである。
“VEEA”は、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(日本触媒社製、商品名:VEEA)である。
【0102】
“SR9087”は、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート(サートマー社製、商品名:SR9087)である。
“SR508”は、ジプロピレングリコールジアクリレート(サートマー社製、商品名:SR508NS)である。
【0103】
“OMNIRAD TPO”は、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(IGM Resins社製)である。
“OMNIRAD 184”は、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IGM Resins社製)である。
【0104】
“ITX”は、2-イソプロピルチオキサントン(DKSHジャパン社製、商品名:Lunacure 2-ITX)である。
“VARIPLUS AP”は、ケトンアルデヒド縮合樹脂(EVONIK Industries AG社製、商品名:VARIPLUS AP)である。
【0105】
“TEGO GLIDE 440”は、ポリエーテル変性シロキサンコポリマー(EVONIK Industries AG社製、商品名:TEGO GLIDE 440)である。
【0106】
“Irganox 1010”は、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(BASF社製、商品名:Irganox 1010)である。
【0107】
上記サンプル1~7は、真空脱気装置を用いて溶存酸素量が2.0±0.1ppmになるまで脱気した。各サンプルの溶存酸素量は、酸素センサー(隔膜形ガルバニ電池式酸素センサー、飯島電子工業社製、商品名:B-506)を用いて測定した。脱気した各サンプルを予め空気を抜いた密閉容器内にそれぞれ充填した。
【0108】
各サンプルを60℃の雰囲気下で、4週間保管した。予め測定した各サンプルの粘度と、4週間保管後の各サンプルの粘度とから下記式にしたがって粘度変化率を求めた。予め測定した各サンプルの粘度は、V0[mPa・s]であり、保管後の各サンプルの粘度は、Vi[mPa・s]で示す。
【0109】
粘度変化率[%]=Vi[mPa・s]/V0[mPa・s]×100
算出した粘度変化率と保管後のサンプルの外観から以下の評価基準でインクとの混合安定性を評価した。
【0110】
サンプル1~7の全てにおいて粘度変化率が±10.0%の範囲内であり、各サンプルに異物の発生による液の濁り、ゾル状物質等の異物の発生、ゲル化のいずれの外観異常も認められない場合:インクとの混合安定性に優れる(○○)と評価した。
【0111】
サンプル1~7の全てにおいて上記外観異常は認められないが、少なくとも一つのサンプルにおいて粘度変化率が10.1%以上、20.0%以下、もしくは、-20.0%以上、-10.1%以下の範囲内である場合:インクとの混合安定性が良好である(○)と評価した。
【0112】
サンプル1~7の全てにおいて上記外観異常は認められないが、少なくとも一つのサンプルにおいて粘度変化率が20.1%以上、もしくは、-20.1%以下の範囲内の場合:インクとの混合安定性が劣る(△)と評価した。
【0113】
サンプル1~7の少なくとも一つのサンプルにおいて上記外観異常が認められた場合:インクとの混合安定性が非常に劣る(×)と評価した。
実施例2~16及び比較例1~5の保全用液についても、実施例1の保全用液と同様に、インクとの混合安定性を評価した。インクとの混合安定性の評価結果を表2~4に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
表2及び表3に示すように、各実施例の保全用液では、25℃の粘度が低く抑えられていることから、インク流路における流動性が確保できることが分かる。
【0118】
また、各実施例の保全用液では、上記材料1~5のゴム製部材の適合性について、優れる又は良好の評価結果が得られることが分かる。
また、実施例1~15では、インクとの混合安定性について優れる結果が得られることが分かる。
【0119】
表4に示すように、各比較例の保全用液では、上記材料1~5のゴム製部材のうち、少なくとも一種のゴム製部材の適合性について、やや劣る又は劣る評価結果となった。
<付記>
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
【0120】
(付記1)インク塗工装置の保全の用途に用いられるインク塗工装置保全用液であって、
上記一般式(1)及び(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有する、インク塗工装置保全用液。
【0121】
(付記2)前記インク塗工装置保全用液中における前記一般式(1)及び(2)で表される化合物の合計の含有量は、30質量%以上である、(付記1)に記載のインク塗工装置保全用液。
【0122】
(付記3)上記一般式(3)及び(4)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物をさらに含有する、(付記1)又は(付記2)に記載のインク塗工装置保全用液。
【0123】
(付記4)前記インク塗工装置保全用液中における前記一般式(1)~(4)で表される化合物の合計の含有量は、65質量%以上である、(付記3)に記載のインク塗工装置保全用液。
【0124】
(付記5)前記インク塗工装置保全用液中における前記一般式(3)及び(4)で表される化合物の合計の含有量は、70質量%以下である、(付記3)又は(付記4)に記載のインク塗工装置保全用液。
【0125】
(付記6)25℃における粘度は、30mPa・s以下である、(付記1)から(付記5)のいずれか一つに記載のインク塗工装置保全用液。
(付記7)エチレングリコールエーテル系溶剤及びジエチレングリコールエーテル系溶剤を含有しない、(付記1)から(付記6)のいずれか一つに記載のインク塗工装置保全用液。
【0126】
(付記8)酸化防止機能及び重合抑制機能の少なくとも一方の機能を有する化合物を含む安定剤をさらに含有する、(付記1)から(付記7)のいずれか一つに記載のインク塗工装置保全用液。
【0127】
(付記9)前記安定剤は、(メタ)アクリレート基を含有する化合物及びフェノチアジン系化合物から選ばれる少なくとも一種を含む、(付記8)に記載のインク塗工装置保全用液。
【0128】
(付記10)前記インク塗工装置のインク塗工方式は、インクジェット方式である、(付記1)から(付記9)のいずれか一つに記載のインク塗工装置保全用液。
(付記11)前記インク塗工装置保全用液中における溶存酸素量が9.0mg/L以下である、(付記1)から(付記10)のいずれか一つに記載のインク塗工装置保全用液。
【0129】
(付記12)上記(付記1)から(付記11)のいずれか一つに記載のインク塗工装置保全用液を用いて前記インク塗工装置を保全する、インク塗工装置の保全方法。