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特開2023-162875シリコン部材、および、シリコン部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162875
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】シリコン部材、および、シリコン部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
H01L21/302 101L
H01L21/302 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073574
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】角野 知之
【テーマコード(参考)】
5F004
【Fターム(参考)】
5F004BA04
5F004BB28
(57)【要約】
【課題】接合強度が十分に高く、かつ、耐熱性に優れ、高温環境下でも安定して使用することが可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供する。
【解決手段】Si含有材料からなる複数の板状部材が厚さ方向に接合されたシリコン部材10であって、板状部材11,12同士の間に形成された接合部20は、板状部材11,12の接合面に形成された金属層21,21と、これら金属層21,21の間に形成された接合材層25と、を備えており、金属層21は、板状部材11,12から接合材層25へのSiの拡散を抑制する金属で構成されていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si含有材料からなる複数の板状部材が厚さ方向に接合されたシリコン部材であって、
前記板状部材同士の間に形成された接合部は、前記板状部材の接合面に形成された金属層と、複数の前記金属層の間に形成された接合材層と、を備えており、
前記金属層は、前記板状部材から前記接合材層へのSiの拡散を抑制する金属を含むことを特徴とするシリコン部材。
【請求項2】
前記金属層は、Ni,Tiから選択される一種または二種で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項3】
前記接合材層は、Al,In,Snから選択される一種または二種以上で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項4】
前記接合材層におけるSi相の面積率が3%以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項5】
前記接合材層におけるSi相の平均円相当径が10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項6】
前記接合材層におけるSi相のアスペクト比が3.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のシリコン部材を製造するシリコン部材の製造方法であって、
前記板状部材の接合面に金属層を形成する金属層形成工程と、
複数の前記板状部材を互いの前記金属層が対向するように配置するとともに、対向する前記金属層に接するように接合材を配置し、複数の前記板状部材と前記接合材との積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を積層方向に加圧した状態で加熱する加圧および加熱工程と、
を有していることを特徴とするシリコン部材の製造方法。
【請求項8】
前記加圧および加熱工程における保持温度が前記接合材の融点未満であることを特徴とする請求項7に記載のシリコン部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プラズマ処理装置に用いられるシリコン部材、および、シリコン部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置においては、各種装置のチャンバー内に、高周波電源に接続される電極板と架台とを例えば上下に対向配置し、架台の上にシリコンウエハを載置した状態として、電極板に形成した貫通孔からガスをシリコンウエハに向かって流通させながら高周波電圧を印加することによりプラズマを発生させ、シリコンウエハにエッチング等の処理を行う構成とされている。
【0003】
上述のプラズマ処理装置等においては、チャンバー内の金属汚染を抑制するために、シリコン部材が広く使用されている。
例えば、プラズマ処理装置に用いられる電極板としては、シリコン板材に複数の通気孔が形成された構造のシリコン部材が使用されている。
【0004】
プラズマ処理装置等のチャンバー内に配設されたシリコン部材においては、使用によって徐々に損耗することになる。そのため、損耗したシリコン部材に他のシリコン部材を接合し、得られたシリコン接合体をシリコン部材として再利用することが求められている。例えば、特許文献1においては、シリコン製の複数の板状電極部材を厚さ方向に接合したシリコン電極板が開示されている。
【0005】
この特許文献1においては、板状電極部材の間にAl箔を挟み込み、800℃で加熱処理することにより、Al-Si共晶合金からなる接合部を形成し、板状電極部材同士を接合している(引用文献1段落番号0018-0026参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6146840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載されたシリコン電極板においては、接合部がシリコンとの共晶合金(例えば、Al-Si共晶合金等)で構成されているため、接合部にSi相が多く存在しており、高温環境下で使用した場合に接合部中のSi相が破壊の起点となり、接合部にクラックが生じるおそれがあり、耐熱性が不十分であった。また、接合部にボイドや引け巣が生じ、接合強度が低くなるおそれがあった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、接合強度が十分に高く、かつ、耐熱性に優れ、高温環境下でも安定して使用することが可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の態様1のシリコン部材は、Si含有材料からなる複数の板状部材が厚さ方向に接合されたシリコン部材であって、前記板状部材同士の間に形成された接合部は、前記板状部材の接合面に形成された金属層と、複数の前記金属層の間に形成された接合材層と、を備えており、前記金属層は、前記板状部材から前記接合材層へのSiの拡散を抑制する金属を含むことを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1のシリコン部材によれば、前記板状部材の接合面に、前記板状部材から前記接合材層へのSiの拡散を抑制する金属で構成された金属層が形成されているので、接合部に粗大なSi相が形成されることが抑制され、高温環境下で使用した場合であっても接合部の破損を抑制することができ、耐熱性に優れている。また、接合部に引け巣やボイドが多く存在せず、接合強度に優れている。
【0011】
本発明の態様2は、本発明の態様1のシリコン部材において、前記金属層は、Ni,Tiから選択される一種または二種で構成されていることを特徴としている。
本発明の態様2のシリコン部材によれば、前記シリコン部材の接合面に形成された金属層がNi,Tiから選択される一種または二種で構成されているので、前記板状部材から前記接合材層へのSiの拡散を確実に抑制することができ、前記接合材層に粗大なSi相が形成されることを十分に抑制することができる。
【0012】
本発明の態様3は、本発明の態様1または態様2のシリコン部材において、前記接合材層は、Al,In,Snから選択される一種または二種以上で構成されていることを特徴としている。
本発明の態様3のシリコン部材によれば、前記接合材層は、Al,In,Snから選択される一種または二種以上で構成されているので、Si含有材料からなる複数の板状部材を厚さ方向に確実に接合することができる。
【0013】
本発明の態様4は、本発明の態様1から態様3のいずれか一つのシリコン部材において、前記接合材層におけるSi相の面積率が3%以下であることを特徴としている。
本発明の態様4のシリコン部材によれば、前記接合材層におけるSi相の面積率が3%以下に抑えられているので、高温環境下で使用した場合であっても接合部の破損を抑制することができ、耐熱性に特に優れている。
【0014】
本発明の態様5は、本発明の態様1から態様4のいずれか一つのシリコン部材において、前記接合材層におけるSi相の平均円相当径が10μm以下であることを特徴としている。
本発明の態様5のシリコン部材によれば、前記接合材層におけるSi相の平均円相当径が10μm以下に抑えられているので、高温環境下で使用した場合であっても接合部の破損を抑制することができ、耐熱性に特に優れている。
【0015】
本発明の態様5は、本発明の態様1から態様4のいずれか一つのシリコン部材において、前記接合材層におけるSi相のアスペクト比が3.0以下であることを特徴としている。
この場合、前記接合材層にSi相が生成しても、Si相のアスペクト比が3.0以下とされているので、高温環境下で使用した場合であっても接合部の破損を抑制することができ、耐熱性に特に優れている。
【0016】
本発明の態様6のシリコン部材の製造方法は、本発明の態様1から態様5のいずれか一つのシリコン部材を製造するシリコン部材の製造方法であって、前記板状部材の接合面に金属層を形成する金属層形成工程と、複数の前記板状部材を互いの前記金属層が対向するように配置するとともに、対向する前記金属層に接するように接合材を配置し、複数の前記板状部材と前記接合材との積層体を形成する積層工程と、前記積層体を積層方向に加圧した状態で加熱する加圧および加熱工程と、を有していることを特徴としている。
【0017】
本発明の態様6のシリコン部材の製造方法によれば、前記板状部材の接合面に形成された金属層と、これら金属層の間に形成された接合材層と、を備えた接合部を介して、複数の板状部材を接合することができ、加圧および加熱工程において、板状部材のSiが接合材へと拡散することを金属層によって防止できる。よって、接合部に粗大なSi相が形成されることを抑制でき、耐熱性に優れたシリコン部材を製造することができる。
【0018】
本発明の態様7は、本発明の態様6のシリコン部材の製造方法において、前記加圧および加熱工程における保持温度が前記接合材の融点未満であることを特徴としている。
本発明の態様7のシリコン部材の製造方法によれば、前記加圧および加熱工程における保持温度が前記接合材の融点未満とされているので、前記加圧および加熱工程において多量の液相が生じることがなく、接合材のはみだしを抑制できるとともに、接合部に引け巣やボイドが形成されることがなくなり、接合強度を確実に向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、接合強度が十分に高く、かつ、耐熱性に優れ、高温環境下でも安定して使用することが可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るシリコン部材の一例を示す説明図である。(a)が斜視図、(b)が接合部の拡大説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係るシリコン部材の製造方法を示すフロー図である。
図3】本発明の一実施形態に係るシリコン部材の製造方法を示す説明図である。
図4】本発明例1のシリコン部材の接合部の観察写真である。(a)がSEM像、(b)がAlのマッピング結果、(c)がSiのマッピング結果、(d)がTiのマッピング結果である。
図5】比較例1のシリコン部材の接合部の観察写真である。(a)がSEM像、(b)がAlのマッピング結果、(c)がSiのマッピング結果である。
図6】実施例における引張試験の概略説明図である。(a)が試験片,(b)が試験片および引張試験治具、(c)が引張試験機である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態であるシリコン部材、および、シリコン部材の製造方法について説明する。
本実施形態であるシリコン部材においては、例えば、例えば半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置において、チャンバー内に配設されるシリコン部材であり、本実施形態では、シリコン板材に複数の通気孔が形成された構造のシリコン電極板とされている。すなわち、本実施形態のシリコン部材においては、使用によって損耗した複数のシリコン電極板を貼り合わせ、再生シリコン電極板として利用するものである。
【0022】
本実施形態であるシリコン部材10(再生シリコン電極板)は、図1(a)に示すように、厚さ方向に貫通する複数の通気孔10Aと、を備えている。
そして、本実施形態であるシリコン部材10は、図1(a),(b)に示すように、第1板状部材11と第2板状部材12とが厚さ方向に接合された構造とされており、第1板状部材11と第2板状部材12との間には、接合部20が形成されている。
【0023】
第1板状部材11および第2板状部材12は、例えば、シリコン、窒化ケイ素等のSi含有材料で構成されている。
そして、接合部20は、第1板状部材11の接合面(第1接合面)および第2板状部材12の接合面(第2接合面)にそれぞれ形成された金属層21,21と、これら2つの金属層21,21の間に形成された接合材層25と、を備えている。
【0024】
ここで、金属層21は、第1板状部材11および第2板状部材12から接合材層25へのSiの拡散を抑制する金属で構成されている。本実施形態においては、金属層21は、Ni,Tiから選択される一種または二種で構成されていることが好ましい。
なお、金属層21の厚さに特に制限はないが、0.05μm以上2μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0025】
接合材層25は、後述するように、第1板状部材11および第2板状部材12を接合する際に用いられる接合材35によって構成されるものである。接合材層25は、Al,In,Snから選択される一種または二種以上で構成されていることが好ましい。本実施形態では、接合材層25はAlで構成されたものとされている。
なお、接合材層25の厚さに特に制限はないが、0.5μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0026】
さらに、本実施形態においては、接合材層25におけるSi相の面積率が3%以下であることが好ましい。
なお、接合材層25におけるSi相の面積率は2%以下であることがより好ましい。
本実施形態では、接合材層25におけるSi相の面積率は、シリコン部材の積層方向に沿った接合材層25の断面における面積率である。
【0027】
また、本実施形態において、接合材層25におけるSi相の平均円相当径が10.0μm以下であることが好ましい。
なお、接合材層25におけるSi相の平均円相当径は、5.0μm以下であることがさらに好ましく、3.0μm以下であることがより好ましい。
【0028】
また、本実施形態において、接合材層25におけるSi相のアスペクト比が3.0以下であることが好ましい。
なお、接合材層25におけるSi相のアスペクト比は2.5以下であることがさらに好ましい。接合材層25におけるSi相の形態 は、球形状が好ましい。
【0029】
ここで、本実施形態においては、第1板状部材11の接合面および第2板状部材12の接合面にそれぞれ形成された金属層21,21と、接合材層25と、は固相拡散接合されている。
【0030】
次に、本実施形態であるシリコン部材10の製造方法について、図2および図3を参照して説明する。
【0031】
本実施形態であるシリコン部材10の製造方法においては、図2および図3に示すように、使用済みのシリコン電極板である第1板状部材11および第2板状部材12の表面を研削する表面研削工程S01と、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面にそれぞれ金属層21を形成する金属層形成工程S02と、第1板状部材11と接合材35と第2板状部材12との積層体を形成する積層工程S03と、積層体を積層方向に加圧した状態で加熱する加圧および加熱工程S04と、を備えている。
【0032】
以下に、本実施形態であるシリコン部材10の製造方法の各工程について詳しく説明する。
【0033】
(表面研削工程S01)
本実施形態では、図3に示すように、使用済のシリコン電極板を2枚準備する。
そして、シリコン電極板の表面(プラズマ面)を研削盤40によって研削する。これにより、第1板状部材11および第2板状部材12を得る。なお、プラズマ面を研削することにより、使用による損耗によって拡径した通気孔のプラズマ面側の部分が除去されることになる。
【0034】
(金属層形成工程S02)
次に、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面に、それぞれ金属層21を形成する。
なお、金属層21の形成方法に特に制限はなく、既存の各種方法を適宜選択することができる。本実施形態では、成膜対象の金属からなるスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法によって金属層21を形成している。
【0035】
(積層工程S03)
次に、第1板状部材11および第2板状部材12を互いの金属層21,21が対向するように配置するとともに、対向する金属層21,21に接するように接合材35を配置し、第1板状部材11と接合材35と第2板状部材12との積層体を形成する。
ここで、接合材35としては、Al,In,Snから選択される一種または二種以上で構成されている。本実施形態では、接合材35としてAl箔を用いている。
【0036】
(加圧および加熱工程S04)
次に、積層体を積層方向に加圧した状態で加熱し、第1板状部材11および第2板状部材12を、接合部20を介して接合する。
ここで、加圧および加熱工程S04における保持温度は、接合材35の融点未満とし、接合材35と金属層21とを固相拡散接合することが好ましい。
【0037】
本実施形態において、接合材35としてAl箔を用いる場合には、保持温度は500℃以上650℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、接合材35としてInを用いる場合には、保持温度は120℃以上145℃以下の範囲内とすることが好ましい。接合材35としてSnを用いる場合には、保持温度は180℃以上210℃以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、接合材35としてAl箔を用いる場合には、保持温度の下限を550℃以上とすることがさらに好ましく、580℃以上とすることがより好ましい。また、保持温度の上限を640℃以下とすることがさらに好ましく、600℃以下とすることがより好ましい。
【0038】
また、加圧および加熱工程S04における保持時間は1時間以上16時間以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、保持時間の下限は、1.5時間以上とすることがさらに好ましく、2時間以上とすることがより好ましい。また、保持時間の上限は、8時間以下とすることがさらに好ましく、6時間以下とすることがより好ましい。
【0039】
さらに、加圧および加熱工程S04における積層方向の加圧荷重は、0.01MPa以上10MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、積層方向の加圧荷重の下限は、0.03MPa以上とすることがさらに好ましく、0.1MPa以上とすることがより好ましい。また、積層方向の加圧荷重の上限は、8MPa以下とすることがさらに好ましく、6MPa以下とすることがより好ましい。
【0040】
上述の各種工程により、本実施形態であるシリコン部材10(再生シリコン電極板)を製造することができる。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態であるシリコン部材10においては、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面に、第1板状部材11および第2板状部材12から接合材層25へのSiの拡散を抑制する金属で構成された金属層21,21が形成されているので、接合材層25に粗大なSi相が形成されることが抑制され、高温条件下で使用した場合であっても、Si相を起因とした接合材層25(接合部20)の破損を抑制することができ、耐熱性に優れている。
【0042】
本実施形態であるシリコン部材10において、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面に形成された金属層21,21が、Ni,Tiから選択される一種または二種の金属で構成されている場合には、第1板状部材11および第2板状部材12から接合材層25へのSiの拡散を確実に抑制することができ、接合材層25に粗大なSi相が形成されることを十分に抑制することができる。
【0043】
ここで、本実施形態であるシリコン部材10において、接合材層25がAl,In,Snから選択される一種または二種以上の金属で構成されている場合には、Si含有材料からなる第1板状部材11および第2板状部材12を確実に接合することができる。
【0044】
また、本実施形態であるシリコン部材10において、接合材層25におけるSi相の面積率が3%以下である場合には、高温条件下で使用した場合であっても、Si相に起因した接合材層25(接合部20)の破損を確実に抑制することができ、安定して使用することができる。
【0045】
また、本実施形態であるシリコン部材10において、接合材層25におけるSi相の平均円相当径が10μm以下である場合には、高温条件下で使用した場合であっても、Si相に起因した接合材層25(接合部20)の破損を確実に抑制することができ、安定して使用することができる。
【0046】
また、本実施形態であるシリコン部材10において、接合材層25におけるSi相のアスペクト比が3.0以下である場合には、高温条件下で使用した場合であっても、Si相に起因した接合材層25(接合部20)の破損を確実に抑制することができ、安定して使用することができる。
【0047】
本実施形態であるシリコン部材の製造方法によれば、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面にそれぞれ金属層21,21を形成する金属層形成工程S02と、第1板状部材11および第2板状部材12を互いの金属層21,21が対向するように配置するとともに、対向する金属層21,21に接するように接合材35を配置し、第1板状部材11と接合材35と第2板状部材12の積層体を形成する積層工程S03と、積層体を積層方向に加圧した状態で加熱する加圧および加熱工程S04と、を有しているので、金属層21,21によって接合時に第1板状部材11および第2板状部材12のSiが接合材35側に拡散することが抑制され、接合材層25に粗大なSi相が形成されず、Si相を起因とした接合材層25の破損を抑制することができる。
【0048】
ここで、本実施形態であるシリコン部材の製造方法において、加圧および加熱工程S04における保持温度が接合材35の融点未満である場合には、加圧および加熱工程S04において多量の液相が生じることがなく、接合材35のはみだしを抑制できるとともに、接合部20に引け巣やボイドが形成されることがなくなり、接合信頼性に優れたシリコン部材10を製造することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、シリコン部材は、使用済の2枚のシリコン電極板を接合することで形成された再生シリコン電極板としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、シリコン部材は、Si含有材料からなる板状部材同士が接合されたものであればよく、3つ以上の板状部材が接合されたものであってもよい。
【実施例0050】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0051】
シリコン製の板状部材(φ125mm×5mmt)を準備した。そして、板状部材の接合面に表1に示すように金属層を、スパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜した。また、表1に示す接合材を準備した。
準備した板状部材と接合材と板状部材を積層した積層体を形成した。この積層体に対して表1に示す条件で加圧および加熱することにより2枚の板状部材を接合し、接合部を有する各種シリコン部材を製造した。
得られたシリコン部材について、以下のように評価した。
【0052】
(Si相の面積率)
シリコン部材の積層方向に沿った断面を観察し、その断面における接合材層を5000倍の視野で、Siと接合材層を構成する元素(以下、接合材層元素)のマッピングを行った。各マッピング結果について、装置付属ソフトの定量マップ機能を用いて各ピクセル毎に、Siと接合材層元素のみがいると仮定した半定量計算を行い、それぞれのピクセル毎の含有量(重量%)を示す定量マップを作成した。作成された定量マップを基に視野内の接合材層におけるSi含有量が99mass%以上の相をSi相とし、視野内の接合材層におけるSi相の面積率を算出した。
視野のうち接合材層の輪郭内のSi相の面積率を算出した。算出に用いた視野は複数であり3視野(3画像)で、面積率はそれらの平均値とした。なお、観察倍率は、接合材層の上下界面が視野内に入る倍率を選択すればよい。
ここで、本発明例1の観察結果およびマッピング結果を図4に、比較例1の観察結果およびマッピング結果を図5示す。
【0053】
(Si相のアスペクト比)
上記で求めたSi相のアスペクト比を、市販の画像解析ソフト(WIN Roof)を用いて算出し、その平均を求めた。
観察されたSi相の最も長い寸法を長軸長さとし、この長軸に直交する方向で最も長い寸法を短軸長さとし、アスペクト比は、長軸長さ/短軸長さとした。
【0054】
(Si相の平均円相当径)
各Si相の面積を、市販の画像解析ソフト(WIN Roof)を用いて算出し、以下の式を用いて円相当径を算出し、その平均を求めた。
円相当径=2×√(面積/円周率)
【0055】
(外観観察)
得られたシリコン部材の外観を目視観察し、接合材のはみ出しの有無、および、割れの有無を評価した。接合材のはみ出しと割れが確認されたものを「×」、接合材のはみ出しはあるが割れがないものを「△」、接合材のはみ出しと割れが確認されなかったものを「〇」と表記した。
【0056】
(接合強度)
図6に示すように、得られたシリコン部材を10mm角に切り出し、板状部材の接合面とは反対側の面をそれぞれ引張試験治具に接着剤を用いて接合した。そして、万能引張試験機にセットし、0.1mm/minの速度で引張試験を実施した。なお、接着剤による板状部材と引張試験治具との接合強度である15MPaを超える場合は「15MPa以上」と表記した。
【0057】
(耐熱試験)
Al系で接合されたシリコン部材は、300℃で24時間保持し、その後の外観を目視観察し、割れや剥がれの有無を確認した。
SnおよびInで接合されたシリコン部材は、100℃で24時間保持し、その後の外観を目視観察し、割れや剥がれの有無を確認した。
割れや剥がれが確認されたものを「×」、割れや剥がれが確認されなかったものを「〇」と表記した。
【0058】
【表1】
【0059】
比較例1においては、板状部材の接合面に金属層を形成せず、接合材としてAlを用い、無加圧、保持温度800℃の条件で接合した。その結果、接合部におけるSi相の面積率が13%、Si相のアスペクト比が4.5、Si相の円相当径が11.0μmとなった。そして、接合強度が4.1MPaと低く、耐熱試験後に割れや剥がれが確認された。また、得られたシリコン部材には、接合材のはみ出しが確認された。
【0060】
比較例2においては、板状部材の接合面に金属層を形成せず、接合材としてAlを用い、加圧荷重3MPa、保持温度800℃の条件で接合した。その結果、接合部におけるSi相の面積率が14%、Si相のアスペクト比が4.3、Si相の円相当径が8.5μmとなった。そして、接合強度が5.3MPaと低く、耐熱試験後に割れや剥がれが確認された。また、得られたシリコン部材には、接合材のはみ出し、割れが確認された。
【0061】
比較例3においては、板状部材の接合面に金属層を形成せず、接合材としてAlを用い、加圧荷重3MPa、保持温度550℃の条件で接合しようとしたが、板状部材同士を接合することができず、シリコン部材を得ることができなかった。
【0062】
これに対して、本発明例1においては、板状部材の接合面にTiからなる金属層を形成し、接合材としてAlを用い、加圧荷重3MPa、保持温度600℃の条件で接合した。その結果、接合部におけるSi相の面積率が0%となった。また、接合強度が15MPa以上と高く、耐熱試験後に割れや剥がれが確認されなかった。また、得られたシリコン部材には、接合材のはみ出し等は確認されなかった。なお、図4に示すように、接合材層にはSi相が存在していないことが確認される。Tiからなる金属層によって板状部材から接合材層へのSiの拡散が抑制されたと推測される。
【0063】
本発明例2においては、板状部材の接合面にTiからなる金属層を形成し、接合材としてAlを用い、加圧荷重3MPa、保持温度550℃の条件で接合した。その結果、接合部におけるSi相の面積率が0%となった。また、接合強度が15MPa以上と高く、耐熱試験後に割れや剥がれが確認されなかった。また、得られたシリコン部材には、接合材のはみ出し等は確認されなかった。
【0064】
本発明例3においては、板状部材の接合面にTiからなる金属層を形成し、接合材としてSnを用い、加圧荷重3MPa、保持温度300℃の条件で接合した。その結果、接合部におけるSi相の面積率が0%となった。また、接合強度が15MPa以上と高く、耐熱試験後に割れや剥がれが確認されなかった。また、得られたシリコン部材には、接合材のはみ出し等は確認されなかった。
【0065】
本発明例4においては、板状部材の接合面にNiからなる金属層を形成し、接合材としてAlを用い、加圧荷重3MPa、保持温度600℃の条件で接合した。その結果、接合部におけるSi相の面積率が0%となった。また、接合強度が15MPa以上と高く、耐熱試験後に割れや剥がれが確認されなかった。また、得られたシリコン部材には、接合材のはみ出し等は確認されなかった。
【0066】
本発明例5においては、板状部材の接合面にTiからなる金属層を形成し、接合材としてAlを用い、加圧荷重3MPa、保持温度800℃の条件で接合した。その結果、接合部におけるSi相の面積率が3%、Si相のアスペクト比が2.2、Si相の円相当径が2.7μmとなった。そして、接合強度が6.5MPaとなり、耐熱試験後に割れや剥がれが確認されなかった。また、得られたシリコン部材には、接合材のはみ出しが確認された。
【0067】
以上の結果、本発明例によれば、接合強度が十分に高く、かつ、耐熱性に優れ、高温環境下でも安定して使用することが可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
10 シリコン部材(再生シリコン電極板)
11 第1板状部材
12 第2板状部材
20 接合部
21 金属層
25 接合材層
図1
図2
図3
図4
図5
図6