(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162916
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】無線信号の伝搬特性を推定するための学習モデルの生成装置
(51)【国際特許分類】
H04B 17/391 20150101AFI20231101BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20231101BHJP
H04B 17/309 20150101ALI20231101BHJP
H04W 16/18 20090101ALI20231101BHJP
【FI】
H04B17/391
G06T7/00 350C
H04B17/309
H04W16/18 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073630
(22)【出願日】2022-04-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度総務省「仮想空間における電波模擬システム技術の高度化向けた研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 慧司
(72)【発明者】
【氏名】天野 良晃
【テーマコード(参考)】
5K067
5L096
【Fターム(参考)】
5K067FF03
5K067FF23
5L096BA08
5L096DA01
5L096FA67
5L096HA11
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】反射物の表面の形状を考慮した伝搬特性の推定技術を提供する。
【解決手段】生成装置は、複数の教師データに基づき無線信号の伝搬特性を推定するための学習モデルを生成する学習手段を備え、前記複数の教師データのそれぞれは、1つ以上の種別の法線マップを示すデータと、送信位置で送信した前記無線信号の受信位置における特性値を示す正解データと、を含み、前記1つ以上の種別の法線マップそれぞれは、前記送信位置及び前記受信位置の少なくとも1つを含む範囲内の複数の画素それぞれの位置にある物体の法線方向を示している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の教師データに基づき無線信号の伝搬特性を推定するための学習モデルを生成する学習手段を備え、
前記複数の教師データのそれぞれは、1つ以上の種別の法線マップを示すデータと、送信位置で送信した前記無線信号の受信位置における特性値を示す正解データと、を含み、
前記1つ以上の種別の法線マップそれぞれは、前記送信位置及び前記受信位置の少なくとも1つを含む範囲内の複数の画素それぞれの位置にある物体の法線方向を示す、生成装置。
【請求項2】
前記1つ以上の種別の法線マップは、前記受信位置から前記送信位置の方向を見た第1種別の法線マップを含む、請求項1に記載の生成装置。
【請求項3】
前記1つ以上の種別の法線マップは、前記送信位置から前記受信位置の方向を見た第2種別の法線マップを含む、請求項2に記載の生成装置。
【請求項4】
前記1つ以上の種別の法線マップは、前記送信位置及び前記受信位置を含む第3種別の法線マップを含む、請求項3に記載の生成装置。
【請求項5】
前記複数の教師データのそれぞれは、前記1つ以上の種別の法線マップそれぞれと同じ位置から同じ方向を見た同じ範囲の画像データを含む、請求項1に記載の生成装置。
【請求項6】
前記1つ以上の種別の法線マップそれぞれは、球座標の2つの角度により前記法線方向を示す、請求項1に記載の生成装置。
【請求項7】
無線信号の送信位置と、前記無線信号の受信位置と、法線マップを示すデータと、に基づき第1マップを示す第1データを生成する生成手段と、
複数の教師データに基づき前記無線信号の伝搬特性を推定するための学習モデルを生成する学習手段と、を含み、
前記複数の教師データのそれぞれは、前記第1マップを示す前記第1データと、前記送信位置で送信した前記無線信号の前記受信位置における特性値を示す正解データと、を含み、
前記法線マップは、前記送信位置及び前記受信位置の少なくとも1つを含む所定範囲内の複数の第1画素それぞれの位置にある物体の法線方向を示し、
前記第1マップは、前記所定範囲内の前記複数の第1画素それぞれに対応する複数の第2画素を含み、
前記生成手段は、前記複数の第1画素それぞれについて、第1画素の前記法線方向に基づき、前記送信位置からの前記無線信号を前記受信位置に向けて反射する第3画素を判定し、前記第1マップの前記複数の第2画素の内、前記第3画素に対応する第4画素の値を第1の値とし、前記第1マップの前記複数の第2画素の内の前記第4画素とは異なる画素の値を前記第1の値とは異なる値とする様に、前記第1マップを示す前記第1データを生成する、生成装置。
【請求項8】
前記伝搬特性の特性値は、遅延スプレッドである、請求項1に記載の生成装置。
【請求項9】
前記伝搬特性の特性値は、角度スプレッドである、請求項1に記載の生成装置。
【請求項10】
1つ以上のプロセッサを有する装置の前記1つ以上のプロセッサで実行されると、前記装置を請求項1から9のいずれか1項に記載の生成装置として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号の伝搬特性の推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、受信点を含む地図データにCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を適用して都市構造パラメータを抽出し、当該都市構造パラメータにより電波の伝搬特性を推定する構成を開示している。また、非特許文献1は、物体表面の凹凸サイズが第2フレネルゾーンの直径よりも大きい場合、当該物体表面において無線信号は拡散反射することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】今井哲郎、"電波伝搬解析のためのレイトレーシング法-基礎から応用まで-"、コロナ社、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無線信号の伝搬特性を推定するためには、空間上に存在する建物といった無線信号の反射物の影響を考慮する必要がある。ここで、非特許文献1に記載されている様に、反射物の表面の凹凸の大きさに応じて、当該表面での反射は正反射成分より拡散反射成分が大きくなる。特許文献1は、伝搬特性の推定に地図データを活用することを開示しているが、建物等の表面の凹凸を考慮していはいない。
【0006】
本発明は、反射物の表面の形状を考慮した伝搬特性の推定技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によると、生成装置は、複数の教師データに基づき無線信号の伝搬特性を推定するための学習モデルを生成する学習手段を備え、前記複数の教師データのそれぞれは、1つ以上の種別の法線マップを示すデータと、送信位置で送信した前記無線信号の受信位置における特性値を示す正解データと、を含み、前記1つ以上の種別の法線マップそれぞれは、前記送信位置及び前記受信位置の少なくとも1つを含む範囲内の複数の画素それぞれの位置にある物体の法線方向を示す。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、反射物の表面の形状を考慮した伝搬特性の推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態による学習モデルの生成装置と、伝搬特性の推定装置の構成図。
【
図4】他の実施形態による学習モデルの生成装置と、伝搬特性の推定装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
図1(A)は、伝搬特性を推定するための学習モデルを生成する生成装置の構成図であり、
図1(B)は、
図1(A)の生成装置が生成した学習モデルを使用して伝搬特性の推定を行う推定装置の構成図である。生成装置は、学習部を有する。学習部は、法線マップデータを含む教師データを入力として、公知の機械学習技術を使用して学習モデルを生成する。推定装置は、推定部を有する。推定部は、生成装置が生成した学習モデルを有する。推定部は、法線マップデータを含む入力データに基づき、学習モデルを使用して伝搬特性の推定値を出力する。なお、推定する伝搬特性は、所定の受信位置での遅延スプレッド、角度スプレッド、受信電力等であり得るが、他の伝搬特性の値であっても良い。
【0012】
図2は、法線マップデータが示す法線マップの説明図である。法線マップは、通常の静止画像と同様に、2次元(U方向及びV方向)に配列される複数の画素で構成される。通常の静止画像において、各画素は、R(赤)、G(緑)、B(青)の3値で表現される色を示している。一方、法線マップにおいて、画素は、当該画素の位置にある反射物の法線の方向を示している。
図2において、1つの画素の画素値が(Xa、Yb、Zb)であることを示している。画素値(Xa、Yb、Zb)は、実空間における所定位置を原点とする3次元の世界座標系における法線ベクトル(法線の方向)を示している。なお、反射物のない画素の法線ベクトルは、例えば、(0,0,0)である。
【0013】
法線マップは、物体表面の凹凸を示すものである。拡散反射は、物体表面の凹凸により様々な方向に電波が反射する現象であるが、物体表面の微小な面積それぞれでの反射は正反射で近似できる。したがって、ある画素の位置にある反射物に入射する無線信号の伝搬方向と、当該反射物の法線方向に基づき、当該無線信号の反射方向は定まる。この様に、法線マップを使用することで拡散反射を考慮した、つまり、反射物の表面の形状を考慮した伝搬特性の推定を行うことができる。
【0014】
以下、本実施形態における各実施例について
図3を用いて説明する。
図3は、各実施例における教師データを示している。教師データは、例題データと正解データとを有する。生成装置の学習部は、学習モデルに例題データを入力したときの当該学習モデルの出力が、当該例題データに対応する正解データに近づく様に学習モデルの調整を繰り返すことで学習モデルを生成する。なお、
図3に示す様に、正解データは、いずれも、推定する伝搬特性の特性値である。例えば、推定対象が遅延スプレッドの場合、特性値は遅延スプレッドであり、推定対象が角度スプレッドの場合、特性値は角度スプレッドである。
【0015】
<実施例1>
本実施例では、受信位置から送信位置を見たときの法線マップ(以下、第1法線マップ)データを例題データとし、そのときの受信位置での特性値を正解データとする。なお、このとき
図2の黒丸で示す様に、送信位置は、法線マップの所定位置、例えば、中心とする。なお、教師データは、複数の第1法線マップデータと、当該複数の第1法線マップデータそれぞれの正解データと、を含むが、複数の第1法線マップデータそれぞれが示す複数の第1法線マップにおいて、送信位置は同じ位置とする。
【0016】
受信位置での特性値を判定するには、受信位置から見える反射物における散乱波の方向が重要になる。第1法線マップは、受信位置から見える反射物の法線方向を表すため、第1法線マップにより受信位置に到来する拡散反射成分を考慮した推定が可能になる。また、教師データとして使用する複数の第1法線マップデータが示す各第1法線マップにおいて送信位置を同じ位置とすることで、送信位置を考慮した推定となり推定精度が向上する。
【0017】
<実施例2>
本実施例では、送信位置から受信位置を見たときの法線マップ(以下、第2法線マップ)データを例題データとし、そのときの受信位置での特性値を正解データとする。なお、このとき
図2の黒丸で示す様に、受信位置は、法線マップの所定位置、例えば、中心とする。なお、教師データとする複数の第2法線マップデータが示す各第2法線マップにおいて受信位置は同じ位置とする。
【0018】
受信位置までの反射回数は伝搬特性に大きな影響を与える。第2法線マップは、送信位置から見える反射物における散乱波の方向と、受信位置とを表す。したがって、第2法線マップデータにより受信位置に到来する拡散反射成分の反射回数を考慮した推定が可能になる。
【0019】
<実施例3>
本実施例では、第1法線マップデータ及び第2法線マップデータの両方を例題データとする。具体的には、ある受信位置から、ある送信位置を見たときの第1法線マップを示す第1法線マップデータと、当該送信位置から当該受信位置を見たときの第2法線マップを示す第2法線マップデータと、そのときの受信位置での特性値を正解データとする。なお、教師データとする複数の第1法線マップデータが示す各第1法線マップにおいて送信位置は同じ位置とし、教師データとする複数の第2法線マップデータが示す各第2法線マップにおいて受信位置は同じ位置とする。本実施例では、実施例1及び実施例2の両方の利点を持つ推定が可能になる。
【0020】
<実施例4>
本実施例では、第1法線マップデータに加えて、送信位置及び受信位置を含む法線マップ(以下、第3法線マップ)データを例題データとする。なお、第1法線マップは実施例1と同様である。第3法線マップにおける送信位置及び受信位置は、任意であり、教師データとして使用する複数の第3法線マップデータが示す各第3法線マップにおいて送信位置や受信位置を同じ位置にする必要はない。本実施例では、受信位置から死角にある反射物の情報を使用することができ推定精度が向上する。
【0021】
<実施例5>
本実施例では、第2法線マップデータに加えて、第3法線マップデータを例題データとする。なお、第2法線マップは実施例2と同様であり、第3法線マップは実施例4と同様である。本実施例では、送信位置から死角にある反射物の情報を使用することができ推定精度が向上する。
【0022】
<実施例6>
本実施例では、第1法線マップデータ、第2法線マップデータ及び第3法線マップデータを例題データとする。なお、第1法線マップは実施例1と同様であり、第2法線マップは実施例2と同様であり、第3法線マップは実施例4と同様である。本実施例では、送信位置及び受信位置から死角にある反射物の情報を使用することができ推定精度が向上する。
【0023】
<実施例7>
本実施例は、上記実施例1~実施例6で述べた法線マップデータに加えて、法線マップと同じ範囲の画像の画像データを例題データとする。なお、画像データが示す各画素は、例えばRGBそれぞれの輝度値を示す。法線マップに加えて同じ範囲の画像を入力とすることで、例えば、反射物における反射の程度の推定精度が向上し得る。
【0024】
以上、例題データの各実施例について説明した。なお、
図2において、法線マップは、法線方向を直交座標系で示していたが、球座標系で法線方向を示すものであっても良い。この場合、大きさの情報は必要ないため、法線方向を2つの角度で示すことができ、情報量を削減することができる。
【0025】
なお、推定装置で推定する際、入力データは、使用する学習モデルを生成した際の例題データと同じデータを使用する。例えば、実施例1で生成した学習モデルを使用して推定を行う場合、入力データは、受信位置から送信位置を見たときの第1法線マップデータとする。
【0026】
<変形形態>
図4(A)及び
図4(B)は、
図1(A)及び
図1(B)に示す生成装置及び推定装置の変形形態の構成図である。生成装置の生成部は、教師データに含まれる法線マップのデータを、当該法線マップにおける送信位置及び受信位置に基づき変換して、第1マップを示す第1マップデータを生成する。学習部は、第1マップを含む教師データに基づき学習を行う。同様に、推定装置の生成部は、入力データに含まれる法線マップのデータを、当該法線マップにおける送信位置及び受信位置に基づき変換して、第1マップを示す第1マップデータを生成する。推定部は、第1マップデータに基づき伝搬特性の推定値を出力する。
【0027】
生成部は、法線マップが示す各画素の法線方向と、送信位置と、に基づき各画素での正反射方向を判定し、正反射方向が受信位置に向かう法線マップの画素を判定する。そして、法線マップにおいて正反射方向が受信位置に向かう画素と同じ第1マップの画素の画素値を第1の値とし、それ以外の画素の画素値を第2の値とすることで第1マップデータを生成する。つまり、第1マップの各画素は、当該画素の位置に対応する反射物での反射光が受信位置に向かうか否かを示す。正反射方向が受信位置に向かう場合の受信点における反射波の電力は、正反射方向以外が受信位置に向かう場合の受信点における反射波の電力に比べ大きく、電力の大きい反射波は伝搬特性に対する影響が大きい。したがって、この様な第1マップに基づき学習モデルを生成し、第1マップに基づき伝搬特性の推定を行うことで、精度の良い推定を行うことができる。
【0028】
なお、本発明による生成装置及び推定装置それぞれは、コンピュータを上記生成装置及び推定装置として動作させるプログラムにより実現することができる。これらコンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されて、又は、ネットワーク経由で配布が可能なものである。
【0029】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。