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特開2023-162918ヒートシール用フィルム、積層フィルム、包装材料およびフィルムのヒートシール性向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162918
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ヒートシール用フィルム、積層フィルム、包装材料およびフィルムのヒートシール性向上方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 11/08 20060101AFI20231101BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231101BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20231101BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20231101BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20231101BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231101BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20231101BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20231101BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20231101BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C09J11/08
C08L101/00
C08L67/04
C08G63/06
C08G63/60
B32B27/00 A
B32B27/00 H
C09J201/00
C09J5/06
C09J7/35
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073633
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】511234987
【氏名又は名称】学校法人東洋食品工業短期大学
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】井上 保
(72)【発明者】
【氏名】木原 正博
(72)【発明者】
【氏名】石津 忍
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
4J004
4J029
4J040
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD23
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB41
3E086CA01
3E086CA28
3E086CA31
4F100AB01A
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK03B
4F100AK04B
4F100AK07B
4F100AK41B
4F100AK42B
4F100AK69B
4F100AL09B
4F100AS00B
4F100AT00A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100CB03B
4F100EH20
4F100GB18
4F100JB12B
4F100JL12B
4F100YY00B
4J002AA01W
4J002BB00W
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4J002BB12W
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4J002CF06W
4J002CF18W
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4J002CM04W
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4J002GJ02
4J004AA07
4J004AA08
4J004AA15
4J004AB03
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4J004CC02
4J004CE01
4J004FA06
4J029AA02
4J029AA04
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4J029AE16
4J029BB05A
4J029CB06A
4J029EB05A
4J029EC06A
4J029FB03
4J029HA01
4J029HB01
4J029JB161
4J029KD02
4J029KE03
4J029KE06
4J040DA021
4J040DA031
4J040DA101
4J040ED011
4J040ED082
4J040JA09
4J040JB01
4J040LA08
4J040MB03
4J040PA30
4J040PB05
4J040PB19
(57)【要約】
【課題】本発明は、高耐熱性と高ヒートシール性を両立させ、好適には水蒸気及びガスのバリア性をもつヒートシール用フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、液晶性を示さない熱可塑性樹脂100質量部に対して、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含み、結晶融解温度が300℃以下である液晶ポリマー0.1~100質量部を含有する樹脂組成物からなるヒートシール用フィルムに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性を示さない熱可塑性樹脂100質量部に対して、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含み、結晶融解温度が300℃以下である液晶ポリマー0.1~100質量部を含有する樹脂組成物からなるヒートシール用フィルム。
【請求項2】
液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化2】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリマー中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
0.1≦r≦25、および
0.1≦s≦25]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
式(III)および/または式(IV)は、ArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルである、請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
液晶性を示さない熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
液晶性を示さない熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、オレフィン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種以上である請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のヒートシール用フィルムと基材フィルムを含んでなる積層フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の積層フィルムを含む包装材料。
【請求項8】
包装袋または密封容器の蓋材である、請求項7に記載の包装材料。
【請求項9】
液晶性を示さない熱可塑性樹脂100質量部に対して、式(I)および(II)
【化4】
で表される繰返し単位を含み、結晶融解温度が300℃以下である液晶ポリマー0.1~100質量部を含有させる、フィルムのヒートシール性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袋状に成形される包装袋や、容器本体に溶融接着される蓋材に使用されるヒートシール用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品や医薬品、電子部品等の包装材として、基材フィルムにヒートシール用フィルムを積層した積層フィルムが用いられている。これらの包装材は、一方の積層フィルムと他方の積層フィルムをヒートシール用フィルム層同士が対向するように重ね合わせて圧着加熱し、開口部以外を溶融接着(ヒートシール)して袋状あるいは容器状に加工し、開口部から内容物を入れた後、開口部のヒートシール用フィルム層同士をさらに圧着加熱により溶融接着し、内容物を密封することができる。
【0003】
一般的に、積層フィルムのヒートシールは、ヒートシーラーで圧着加熱することによって実施されるが、加熱温度は基材フィルムを形成する材料の融点未満、かつヒートシール用フィルムを形成する主材料の融点以上の温度に設定される。また圧着時間は通常0.1秒~数秒間で行われるが、生産効率が重要視される近年、より短時間の圧着で強いヒートシール強度が得られるヒートシール用フィルムが求められている。
【0004】
ヒートシール用フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、アイオノマー、EMMA等のコポリマー樹脂からなるフィルムが多用されている。これらの樹脂は、ヒートシールにより高い密着強度を達成することができることが知られている。
【0005】
また、ヒートシール用フィルムはレトルト食品のパッケージングに用いられるレトルトパウチ等にも用いられるため、レトルト処理(120~135℃)に耐えられる耐熱性が必要とされる。このように、ヒートシール用フィルムには高耐熱性と高ヒートシール性の両立が求められている。
【0006】
特許文献1には、L-LDPEからなるシーラント層と該シーラント層に比べて高密度のL-LDPEからなる中間層と二軸延伸フィルムからなるベースフィルム層との三層構造を有することを特徴とする耐熱性およびヒートシール性にすぐれる包装用フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-289471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のフィルムは、耐熱性およびヒートシール性にすぐれる包装用フィルムを得るためにシーラント層に加えて高密度のL-LDPEからなる中間層を設けることを要するものであって、シーラント層自体の耐熱性を改善したものではなかった。
【0009】
本発明の目的は、高耐熱性と高ヒートシール性を両立させ、好適には水蒸気及びガスのバリア性をもつヒートシール用フィルム、及び該フィルムを含んでなる積層フィルムおよび包装材料を提供することにある。本発明の別の目的は、フィルムのヒートシール性能を向上させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、液晶性を示さない熱可塑性樹脂に特定の液晶ポリマーを配合することにより、驚くべきことに該熱可塑性樹脂又は該液晶ポリマーを単独で用いてフィルムとした場合に比べてヒートシール性が向上し、高耐熱性と高ヒートシール性を両立させたヒートシール用フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕液晶性を示さない熱可塑性樹脂100質量部に対して、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含み、結晶融解温度が300℃以下である液晶ポリマー0.1~100質量部を含有する樹脂組成物からなるヒートシール用フィルム。
〔2〕液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化2】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリマー中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
0.1≦r≦25、および
0.1≦s≦25]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、〔1〕に記載のフィルム。
〔3〕式(III)および/または式(IV)は、ArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルである、〔2〕に記載のフィルム。
〔4〕液晶性を示さない熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のフィルム。
〔5〕液晶性を示さない熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、オレフィン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種以上である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のフィルム。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のヒートシール用フィルムと基材フィルムとを含んでなる積層フィルム。
〔7〕〔6〕に記載の積層フィルムを含む包装材料。
〔8〕包装袋または密封容器の蓋材である、〔7〕に記載の包装材料。
〔9〕液晶性を示さない熱可塑性樹脂100質量部に対して、式(I)および(II)
【化4】
で表される繰返し単位を含み、結晶融解温度が300℃以下である液晶ポリマー0.1~100質量部を含有させる、フィルムのヒートシール性向上方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のヒートシール用フィルムは、高耐熱性かつ高ヒートシール性であり、また水蒸気及びガスのバリア性に優れるため、袋状に成形される包装袋や、容器本体に溶融接着される蓋材として好適に使用される。本発明のフィルムのヒートシール性能を向上させる方法は、フィルムの耐熱性、ヒートシール性および水蒸気及びガスのバリア性を高める方法として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のヒートシール用フィルムにおける樹脂組成物に使用する液晶ポリマーとは、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる、異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドである。
【0014】
液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0015】
本発明に使用する液晶ポリマーとして、式(I)および式(II)で表される繰返し単位を含む液晶ポリマーが好適に使用される。この繰り返し単位を与える単量体としては、4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの繰返し単位を含有することによって、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整することができる。
【化5】
【0016】
本明細書および特許請求の範囲において、「式(I)および式(II)で表される繰返し単位を含む液晶ポリマー」とは、液晶ポリマーがその構成成分として式(I)および式(II)で表される繰返し単位を含み、液晶ポリマーの結晶融解温度が300℃以下となる限り、他の繰返し単位をさらに含有していてもよいことを意味する。
【0017】
本発明に使用する液晶ポリマーの構成成分として含有してよい、式(I)および式(II)で表される繰返し単位以外の主たる繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、脂肪族ジカルボニル繰返し単位、脂肪族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位およびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0018】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸である、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸など、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0019】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸が、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0020】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルが、重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0021】
脂肪族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、シクロヘキサンジカルボン酸およびヘキサヒドロテレフタル酸が挙げられる。
【0022】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。
【0023】
芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体としては、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸などが挙げられる。
【0024】
本発明に使用する液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、例えば芳香族オキシジカルボニル繰返し単位やチオエステル結合を含むものであってもよい。チオエステル結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体などの合計量を含む全体に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0025】
これらの繰り返し単位を組み合わせた共重合体には、単量体の構成や組成比、共重合体中での各繰り返し単位のシークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用する液晶ポリマーは異方性溶融相を形成する共重合体に限られる。
【0026】
本発明に使用する液晶ポリマーは、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものであってもよい。
【0027】
本発明に使用する液晶ポリマーの示差走査熱量計により測定される結晶融解温度は300℃以下であり、好ましくは150~280℃であり、より好ましくは160~260℃であり、さらに好ましくは170~250℃である。
【0028】
液晶ポリマーの結晶融解温度が300℃以下であることにより、ヒートシール用フィルムを製造する際に、液晶性を示さない熱可塑性樹脂の熱劣化を抑えることができ、加工性にも優れる。
【0029】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定用機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製Exstar6000等を使用することができる。
【0030】
本発明に使用する液晶ポリマーとしては全芳香族液晶ポリエステルが好適に使用され、式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルがより好適に使用される。
【化6】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たすものである:
0.5≦p/q≦2.5
0.1≦r≦25、および
0.1≦s≦25]
【0031】
上記式(I)に係る組成比p(モル%)と式(II)に係る組成比q(モル%)のモル比(p/q)は、0.5~2.5が好ましく、0.6~1.8がより好ましく、0.8~1.6がさらに好ましい。
【0032】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、pとqの合計の組成比は、50~99.8モル%が好ましく、60~96モル%が好ましく、70~90モル%がより好ましい。
【0033】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(I)に係る組成比pと式(II)に係る組成比qは、それぞれ、20~60モル%が好ましく、30~55モル%がより好ましい。
【0034】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位を、少なくとも上記のモル比(p/q)、および場合により上記のpとqの合計の組成比および/またはpとqのそれぞれの組成比(モル%)で含むことにより、上記の結晶融解温度を示す全芳香族液晶ポリエステルを好適に得ることができる。
【0035】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(III)に係る組成比rと式(IV)に係る組成比sは、それぞれ、0.1~25モル%が好ましく、2~20モル%がより好ましく、5~15モル%がさらに好ましい。rとsは、等モル量であるのが好ましい。
【0036】
上記の繰返し単位において、例えばAr(またはAr)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0037】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0038】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0039】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0040】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0041】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルのなかでも、式(III)および式(IV)で表される繰返し単位に係るArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが、さらに好適に使用される。
【化7】
【0042】
これらの中でも、式(III)で表される繰返し単位としては、式(1)、式(2)および式(4)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸ならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0043】
また、式(IV)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(3)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、ハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、重合時の反応性および得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0044】
上記の繰返し単位において、例えばAr(またはAr)が2種以上の芳香族基を含むとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。すなわち、式(III)および/または式(IV)は、ArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0045】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0046】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルを構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0047】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0048】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0049】
以下、本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0050】
本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組合せからなるエステル結合やアミド結合などを形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを使用することができる。
【0051】
溶融アシドリシス法とは、本発明で使用する液晶ポリマーの製造方法に使用するのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0052】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0053】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に使用する方法が挙げられる。
【0054】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0055】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0056】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、二酸化チタン、三酸化アンチモン、有機チタン化合物(アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BFなど)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0057】
触媒の使用割合は、単量体全量に対して通常1~1000ppm、好ましくは2~100ppmである。
【0058】
このようにして重縮合反応されて得られた液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0059】
本発明における樹脂組成物に使用される液晶性を示さない熱可塑性樹脂は、液晶ポリマーを除く熱可塑性樹脂を意味する。これらの中では、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上が好適に使用される。
【0060】
ポリオレフィン樹脂は、オレフィンを重合してなるポリマーであり、好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~10、さらに好ましくは炭素数3~6のオレフィンを、単独でまたは2種以上を併用して重合してなるポリマーである。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)、ポリイソブテン、ポリ(1-ペンテン)、ポリ(4-メチルペンテン-1)やエチレン-プロピレン共重合体等のオレフィン系エラストマーが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を併用することができる。これらの中でも、ヒートシール性や耐熱性の観点からポリエチレン、ポリプロピレンおよびオレフィン系エラストマーが好ましい。
【0061】
ポリビニル樹脂は、オレフィン以外の、α位に極性基や芳香族基が直接結合するビニルモノマーを重合してなるポリマーであり、共重合成分としてオレフィンを含んでいてもよい。ポリビニル樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ガスバリア性の観点からエチレンビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0062】
ポリエステル樹脂は、エステル結合を主鎖に有するポリマーである。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、環境負荷低減や耐熱性の観点からポリ乳酸とポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0063】
ポリエーテル樹脂は、エーテル結合を主鎖に有するポリマーである。エーテル樹脂としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアセタール、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド(PEI)等が挙げられる。
【0064】
ポリアミド樹脂は、主鎖にアミド結合を有するポリマーである。ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン116、ナイロン4、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン11およびナイロン12等が挙げられる。
【0065】
本発明において、液晶性を示さない熱可塑性樹脂は、1種の樹脂であってもよいし、2種以上の樹脂を組み合わせて使用してもよい。前記樹脂の中でも、ヒートシール性や耐熱性、ガスバリア性のバランスの観点から、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種以上であることが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、オレフィン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種以上であることがより好ましい。
【0066】
本発明のヒートシール用フィルムに使用される樹脂組成物において、液晶性を示さない熱可塑性樹脂と液晶ポリマーの配合比は、液晶性を示さない熱可塑性樹脂100質量部に対し、液晶ポリマー0.1~100質量部、好ましくは1~75質量部、より好ましくは3~50質量部、さらに好ましくは5~40質量部である。
【0067】
液晶性を示さない熱可塑性樹脂100質量部に対する液晶ポリマーの比率が0.1質量部を下回ると、耐熱性、ヒートシール性およびガスバリア性の改良効果が十分に得られない。液晶ポリマーの比率が100質量部を上回ると、ヒートシール用フィルムの有する柔軟性や靭性などのしなやかな機械特性が損なわれると共に、フィルム加工性が低下する。
【0068】
本発明のヒートシール用フィルムに使用される樹脂組成物に配合される液晶ポリマーは、結晶融解温度が300℃以下であるという特徴を有する。この特徴により、溶融混練時や成形加工時にマトリクス樹脂である液晶性を示さない熱可塑性樹脂の熱分解を抑制することが可能となる。また、フィルム製膜時に樹脂の劣化等によって生じる異物の混入を防ぐことができる。さらに、製膜時に分解ガスが生じる等の不都合なしに、本発明の目的である耐熱性、ヒートシール性およびガスバリア性に優れたヒートシール用フィルムを得ることができる。
【0069】
本発明に使用される樹脂組成物には、必要により無機充填材および/または有機充填材を配合してもよい。
【0070】
無機充填材および/または有機充填材としては、たとえばタルク、マイカ、グラファイト、シリカ、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびアラミド繊維等からなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中では、タルク、マイカおよびシリカが物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0071】
無機充填材および/または有機充填材を用いる場合、該充填材の配合量は、液晶性を示さない熱可塑性樹脂および液晶ポリマーの合計量100質量部に対して、0.01~100質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05~50質量部、さらに好ましくは0.1~30質量部である。
【0072】
液晶性を示さない熱可塑性樹脂および液晶ポリマーの相溶性をより向上させる目的で、相溶化剤を添加してもよい。ここで、相溶化剤とは、混合ポリマーを構成する各ポリマーの相の界面に局在し、それらの相間の界面張力を低下させる機能を有するものをいう。相溶化剤としては、本発明の目的が達成される限り特にその種類は限定されないが、従来知られているもの、例えば特開2014-148616号公報、特開2000-256517号公報等に記載のものを用いることができる。
【0073】
本発明のヒートシール用フィルムには、液晶性を示さない熱可塑性樹脂および液晶ポリマー以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の添加剤を配合してもよい。他の添加剤としては、酸化防止剤、塩酸吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、難燃剤、核剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、気泡防止剤、架橋剤などが挙げられる。
【0074】
相溶化剤および他の添加剤はそれぞれ、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。該添加剤の配合量は、液晶性を示さない熱可塑性樹脂および液晶ポリマーの合計量100質量部に対して0.001~5質量部であることが好ましく、0.01~3質量部であることがより好ましい。
【0075】
本発明のヒートシール用フィルムを製膜する際には、液晶性を示さない熱可塑性樹脂および液晶ポリマーを、必要により上記の無機充填材および/または有機充填材、相溶化剤、他の添加剤と共に、別々となっている原料を一括投入して製膜してもよく、事前に混練機で溶融混練した混合物を使用して製膜してもよい。
【0076】
事前に溶融混練する場合、混練機としては、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などが使用される。例えば、二軸押出し機を用いた場合などは、ベントポートを真空にしながら混練を行うのがよいが、これに限らず、不活性ガス雰囲気下で混練を行ってもよい。
【0077】
本発明のヒートシール用フィルムは、上述した材料を押出成形、プレス成形、射出成形等の公知の成形法により加工して得ることができる。また、材料を溶剤に溶解した溶解液を塗布した後に乾燥することによって得ることもできる。これらの成形法のなかでも押出成形が好ましく、押出成形法としては任意の方法が適用できるが、周知のTダイ法、ラミネート延伸法、インフレーション法などが工業的に有利である。
【0078】
また、ヒートシール用フィルムは、よりヒートシール性に優れるという観点から無延伸であることが好ましいが、押出成形した後に、必要に応じて延伸を行ってもよい。延伸は、二軸延伸や一軸延伸などの公知の方法を採用できるが、分子配向度を制御することがより容易であることから、二軸延伸が好ましい。また、延伸機としては、公知の一軸延伸機、同時二軸延伸機、逐次二軸延伸機などが使用できる。
【0079】
本発明のヒートシール用フィルムの厚みは特に限定されないが、好ましくは1~1000μm、より好ましくは2~500μm、さらに好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~100μmである。
【0080】
本発明は、このようにして得られた本発明のヒートシール用フィルムと、基材フィルムとを含んでなる積層フィルムにも関する。基材フィルムの材料としては、要求される引張強度や突き刺し強さ等の機械物性や、耐熱性、耐薬品性などを満たすものであれば、特に限定されない。例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂や、金属、紙等が挙げられる。
【0081】
ヒートシール用フィルムと基材フィルムとを積層して積層フィルムとする方法は特に限定されない。例えば、(1)基材フィルムの片面あるいは両面に接着剤等を用いてヒートシール用フィルムを貼り合わせる方法、(2)液晶性を示さない熱可塑性樹脂と液晶ポリマーを含有するヒートシール用フィルム材料を溶媒に溶解または分散させ、得られた溶液を基材フィルムの片面あるいは両面に塗布した後に乾燥する方法、(3)ヒートシール用フィルム材料と基材フィルムを形成するための樹脂を別々の押出機に供給し、溶融させた後、Tダイ法やインフレーション法等により共押出して積層する方法等が挙げられる。
【0082】
このようにして作製された積層フィルムは、食品、医薬品、電子部品等の包装袋や密封容器の蓋材などの包装材料として好適に使用される。具体的には、レトルトパウチ等の包装袋や、容器本体の開口部を塞ぎ密封容器を形成するための蓋材(通常はシート状物)などが挙げられる。
【0083】
本発明の包装材料は、例えば、一方の積層フィルムと他方の積層フィルムをヒートシール用フィルム層同士が対向するように重ね合わせて圧着加熱し、開口部以外を溶融接着(ヒートシール)して袋状あるいは容器状に加工し、開口部から内容物を入れた後、開口部のヒートシール用フィルム層同士をさらに圧着加熱により溶融接着し、内容物を密封することができる。
【0084】
積層フィルムを密封容器の蓋材として用いる場合、例えば、容器本体に内容物を収容し、ヒートシール用フィルム層が容器本体の開口部の縁フランジに接触するように積層フィルムを縁フランジ上に配置する。次いで、加熱圧着することにより、積層フィルムが縁フランジにヒートシールされ、これにより内容物を密封することができる。密封容器の容器本体の材料は特に限定されないが、例えばポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂が挙げられる。
【0085】
また、本発明は、液晶性を示さない熱可塑性樹脂100質量部に対して、式(I)および(II)で表される繰返し単位を含み、結晶融解温度が300℃以下である液晶ポリマー0.1~100質量部を含有させる、フィルムのヒートシール性向上方法を提供する。
液晶性を示さない熱可塑性樹脂に対して特定の液晶ポリマーを含有させることによって、ヒートシール性が要求されるフィルムに用いられる液晶性を示さない熱可塑性樹脂のヒートシール性を向上させることができる。
【実施例0086】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例における各物性値は以下の方法によって測定した。
【0087】
〈結晶融解温度〉
セイコーインスツルメンツ(株)製の示差走査熱量計(DSC)Exstar6000を用いて測定を行った。樹脂材料の試料を、室温から20℃/分の昇温条件下で測定し、吸熱ピーク温度(Tm1)を観測した後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持する。次いで20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を樹脂材料の結晶融解温度とする。
【0088】
〈ヒートシール強度〉
加工温度230℃のTダイ法にて、100μm厚み、幅200mmの単層フィルムを作成し、このフィルムから長尺方向が樹脂の流れ方向となるよう30mm×70mmに切り出した2枚を重ねて配置し、ヒートシーラーによって、シール幅17mm、シール圧0.3MPaにて2秒間圧着することによりヒートシールした。ヒートシール温度は各材料に合わせて設定し、複数の温度条件で試験した。次いで、JIS Z1707(食品包装用プラスチックフィルム通則 7.5 ヒートシール強さ試験)に基づき、ヒートシールしたフィルムから、ヒートシール部(長さ17mm)とヒートシールされていない非シール部(長さ53mm)からなる、長さ70mm、幅15mmの試験片を切り取った。そして、この試験片を、ヒートシール部を中央にして、180°に開き、その両端を引張試験機の両つかみ部に取り付け、速度100mm/分でヒートシール部が破断するまで引っ張った際の最大荷重を求めた。
【0089】
〈水蒸気透過度〉
加工温度230℃のTダイ法にて、100μm厚み、幅200mmの単層フィルムを作成し、これを用いてJIS K7129-2に準拠し、温度40℃、湿度90%における水蒸気透過度試験を行った。
【0090】
〈酸素ガス透過度〉
加工温度230℃のTダイ法にて、100μm厚み、幅200mmの単層フィルムを作成し、これを用いてJIS K7126-2に準拠し、温度20℃、湿度65%における酸素ガス透過度試験を行った。
【0091】
〈荷重たわみ温度(DTUL)〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度を230℃、金型温度40℃で、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの短冊状試験片に成形し、これを用いてISO 75に準拠し、荷重0.46MPa、昇温速度2℃/分で測定した。
【0092】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
PE:ポリエチレン
PP:ポリプロピレン
PLA:ポリ乳酸
EVOH:エチレンビニルアルコール共重合体
LCP:液晶ポリマー
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
【0093】
〈液晶性を示さない熱可塑性樹脂〉
液晶性を示さない熱可塑性樹脂として以下のものを使用した。
PE:ハイゼックス2200J(プライムポリマー社製、高密度ポリエチレン、MFR 5g/10分(230℃、荷重2.16kg)、結晶融解温度 134℃、密度 0.96g/cm
PP:プライムポリプロJ105G(プライムポリマー社製、ホモポリプロピレン、MFR 9g/10分(230℃、荷重2.16kg)、結晶融解温度 162℃)
PLA:7032D(ネイチャーワークス社製、ポリ乳酸、MFR 15g/10分(230℃、荷重2.16kg)、結晶融解温度 164℃)
EVOH:エバールE105B(クラレ社製、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン含有 44モル%、MFR 23g/10分(230℃、荷重2.16kg)、結晶融解温度 164℃)
【0094】
[合成例1(LCPの合成)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、HQおよびTPAを表1に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0095】
窒素ガス雰囲気下に室温~145℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ330℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機によりLCPのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0096】
得られたLCPのDSCにより測定された結晶融解温度は218℃であった。
【0097】
【表1】
【0098】
[実施例1~5]
液晶性を示さない熱可塑性樹脂およびLCPを、表2~5に示す種類と含有量となるように配合して、2軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、シリンダー温度230℃で溶融混練して、樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて上記の方法により、ヒートシール強度、水蒸気透過度、酸素ガス透過度および荷重たわみ温度を測定した。結果を表2~5に示す。
【0099】
[比較例1~4]
LCPを配合せずに、表2~5に示す液晶性を示さない熱可塑性樹脂のペレットのみを用いて、上記の方法により、ヒートシール強度、水蒸気透過度、酸素ガス透過度および荷重たわみ温度を測定した。結果を表2~5に示す。
【0100】
[参考例1]
液晶性を示さない熱可塑性樹脂を配合せず、LCPペレットのみを用いて、上記の方法により、ヒートシール強度を測定した。結果を表6に示す。
【0101】
液晶性を示さない熱可塑性樹脂にLCPを配合した各実施例におけるフィルム(実施例1~5)は、いずれもLCPを配合しないフィルム(比較例1~4)と比較して、同一温度領域でのヒートシール強度が高くなると共に、より低い温度領域から高いヒートシール強度を示し、ヒートシール性に優れるものであった。
また、LCPを配合したフィルムは、いずれもLCPを配合しないフィルムと比較して水蒸気透過度が小さく、水蒸気バリア性に優れるものであった。
また、LCPを配合したフィルムは、いずれもLCPを配合しないフィルムと比較して酸素ガス透過度が小さく、酸素ガスバリア性に優れるものであった。
さらに、LCPを配合したペレットは、LCPを配合しないペレットと比較して荷重たわみ温度が高く、耐熱性に優れるものであった。
【0102】
一方、液晶性を示さない熱可塑性樹脂を配合せず、LCPペレットのみを用いた参考例1におけるフィルムは、高い温度領域でも接着せず、ヒートシール性に劣るものであった。
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】