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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162938
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】マイクロリアクタ装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20231101BHJP
   B01F 33/30 20220101ALI20231101BHJP
   B01F 33/40 20220101ALI20231101BHJP
   B01F 35/213 20220101ALI20231101BHJP
   B01F 35/22 20220101ALI20231101BHJP
   B01F 23/45 20220101ALI20231101BHJP
   B01F 25/10 20220101ALI20231101BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B01F33/30
B01F33/40
B01F35/213
B01F35/22
B01F23/45
B01F25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073663
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】宮 瞭
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳也
(72)【発明者】
【氏名】中村 太一
(72)【発明者】
【氏名】秋山 真之介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大哲
【テーマコード(参考)】
4G035
4G036
4G037
4G075
【Fターム(参考)】
4G035AB37
4G035AB54
4G035AE02
4G035AE13
4G036AC02
4G036AC70
4G037AA02
4G037AA18
4G037BA01
4G037BB01
4G037BC03
4G037BD04
4G037BD10
4G037EA01
4G075AA13
4G075AA39
4G075AA61
4G075AA65
4G075BA10
4G075BB05
4G075BD13
4G075BD15
4G075DA02
4G075DA04
4G075DA05
4G075EB50
4G075FB12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スラグ流を形成する混合流体において、スラグ流のセル体積比の変動を抑制可能なマイクロリアクタ装置を提供する。
【解決手段】マイクロリアクタ装置100は、互いに可溶性を有する複数の液体を含む第1の流体と、第1の流体に対して不溶性を有する第2の流体とを、混合流路40に送入する流体送入部200であって、第1の流体を、第1流体送入量で混合流路に送入し、第2の流体を、第1の流体の流れと交差する方向から送入して、合流後の混合流内に、第1の流体のセルと第2の流体のセルとが交互に並んで流れるスラグ流を形成させ、スラグ流に対して導電率を検出する導電率検出部60と、検出された導電率に基づき、スラグ流における第1の流体のセルと第2の流体のセルとのセル体積比を算出するセル体積比算出部と、算出されたセル体積比に基づいて流体送入部の流体送入を制御する流体送入制御部80と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流体を混合流路に導入して混合させるマイクロリアクタ装置であって、
互いに可溶性を有する複数の液体を含む第1の流体と、前記第1の流体に対して不溶性を有する第2の流体とを、前記混合流路に送入する流体送入部であって、前記第1の流体を、第1流体送入量で前記混合流路に送入し、前記第2の流体を、前記混合流路に送入された前記第1の流体の流れと交差する方向から、前記第1流体送入量に対して第2流体送入量で前記混合流路に送入して、前記第2の流体が合流した後の前記混合流路内に、前記第1の流体のセルと前記第2の流体のセルとが交互に並んで流れるスラグ流を形成させる、前記流体送入部と、
送入された前記第1の流体と前記第2の流体とを合流させて下流側に流れる混合流路と、
前記スラグ流に対して導電率を検出する導電率検出部と、
検出された前記導電率に基づき、前記スラグ流における前記第1の流体のセルと前記第2の流体のセルとのセル体積比を算出するセル体積比算出部と、
算出された前記セル体積比に基づいて前記流体送入部の流体送入を制御する流体送入制御部と、
を備える、
マイクロリアクタ装置。
【請求項2】
送入量調整判定部を更に備え、
前記送入量調整判定部は、
前記セル体積比算出部により算出された前記セル体積比と、所定のセル体積比の基準値とを比較することによって、前記第2流体送入量の調整を判定し、
前記流体送入制御部は、判定された前記第2流体送入量の調整に基づいて、前記第2流体送入量を制御する、
請求項1に記載のマイクロリアクタ装置。
【請求項3】
前記導電率検出部は、
前記第1の流体に対応する第1導電率と前記第2の流体に対応する第2導電率とを検出するように構成され、
前記セル体積比算出部は、前記第1導電率が検出された時間と前記第2導電率が検出された時間とに基づいて、前記セル体積比を算出する、
請求項1又は2に記載のマイクロリアクタ装置。
【請求項4】
前記導電率検出部は、更に、前記第1導電率と前記第2導電率との間の値を有する導電率を検出し、
前記セル体積比算出部は、前記第1導電率が検出された時間と、前記第2導電率が検出された時間と、前記第1導電率と前記第2導電率との間の値を有する導電率が検出された時間とに基づいて、前記セル体積比を算出する、
請求項3に記載のマイクロリアクタ装置。
【請求項5】
前記導電率検出部は、
端部が前記スラグ流に接するように前記混合流路に配置される2つ以上の電極を備え、
2つ以上の前記電極のそれぞれは、前記端部以外の部分に絶縁性を有する素材からなる被覆層を有する、
請求項1又は2に記載のマイクロリアクタ装置。
【請求項6】
前記流体送入部は、流量調整手段を含み、
前記流体送入制御部は、前記流量調整手段を動作させることによって、前記第2流体送入量を制御する、
請求項1又は2に記載のマイクロリアクタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、互いに可溶性を有する液体同士を、微細流路内で混合するためのマイクロリアクタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、互いに可溶性を有する液体(反応剤)同士を、微細な流路の流れの中で混合し、反応を行わせることにより、所望の反応生成物を生産するための反応製造方法として、いわゆるマイクロチャネルリアクタと呼ばれる流路形成体を用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。マイクロチャネルリアクタは、表面に多数の微小溝が形成された基体を備え、これらの溝により構成された微細流路は、液体反応物の反応場として利用される。
【0003】
液体反応物を微細流路内に流すことにより、単位体積あたりにおける液体同士の接触表面積を飛躍的に増大させることができる。微細流路内の液体反応物の混合を促進することによって、液体反応物の混合が完了するまでに必要な微細流路の流路長を短縮することができる。これによりマイクロチャネルリアクタ全体の小型化を可能にするとともに、液体反応物の混合中に不要な副反応の発生を抑制することができる。
【0004】
マイクロチャネルリアクタ装置において、微細流路内の液体の混合を促進するための手段として、微細流路内に、混合する液体に対して不溶性を有する流体を導入することによって強制的にスラグ流を形成する手法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
ここにいう「スラグ流」とは、気体と液体、又は水性液体と油性液体などの互いに親和性のない流体が同時に微細流路内で流れる場合に、一方の流体からなる第1流体相と他方の流体からなる第2流体相とが、微細流路の長手方向に沿って交互に並んで流れるものをいう。スラグ流内では、親和性のない流体が互いに相界面によって区切られて、交互に並ぶ第1流体相のセルと、第2流体相のセルとが形成される。このとき、流体相のセル内に循環流が発生し、局所的な攪拌作用が生じる。なお、ここにいう「セル」は、「スラグ」とも呼ばれ、微細流路内に交互に並んで流れる流体柱である。
【0006】
反応製造において、微細流路内にスラグ流を形成させ、流体相のセル内に発生した循環流の攪拌作用を利用することによって、液体反応物の混合を促進することができる。本明細書では、スラグ流の形成において、混合する液体を、「混合対象液体」と称し、混合する液体に対して不溶性を有する流体を、「不溶流体」と称す。
【0007】
スラグ流において、混合対象液体のセルが小さいほど、循環流による混合促進効果が高まる。スラグ流の混合促進効果を利用する反応製造において、スラグ流における混合対象液体のセルと不溶流体のセルとの体積の比を一定の範囲内に保つことが望ましい。具体的には、上記体積の比が小さいほど、循環流が混合促進に寄与する度合いが高いが、不溶流体のセルの割合の増加により生産効率が低下するとともに、混合流路内の圧力損失の増加や不溶流体の消費量の不必要な増加にもつながる。反対に、上記体積の比が大きいほど、生産効率が向上するが、循環流による混合促進効果の低下により反応生成物の品質低下が生じる場合がある。従来、スラグ流を利用する反応製造において、スラグ流における混合対象液体のセル体積と不溶流体のセル体積との比(以下、「セル体積比」と称す)は、混合対象液体の送入量に対する不溶流体の送入量(以下、「不溶流体の相対送入量」と称す)によって予め設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-168173号公報
【特許文献2】特開2013-6130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、特許文献2に記載の装置では、形成されるスラグ流のセル体積比は、液体混合を開始する前に、不溶流体の相対送入量の設定値によって決定され、混合反応中に流体の送入について調整手段が設けられていない。しかしながら、混合反応中に、スラグ流のセル体積比は、混合流路内の混合対象液体及び不溶流体の物性や状態、流体供給の安定性などによって影響され、事前に決定されたセル体積比から変動する場合がある。混合対象液体及び不溶流体の物性や状態による影響については、例えば、使用する混合対象液体と不溶流体との粘性や熱膨張率、又は混合対象液体と不溶流体との間の表面張力によって、実際に混合流路内で流れるスラグ流のセル体積比は設定値から変動が生じる。
【0010】
特許文献2に記載の装置では、流体の送入について調整手段がないため、混合反応中にスラグ流のセル体積比の変動に対応できない。その結果、反応生成物の品質や生産性の変動が生じる課題を有している。したがって、スラグ流のセル体積比の変動による反応生成物の生産の不具合を一層抑えるという観点において、従来のマイクロリアクタ装置の構成は未だ改善の余地がある。
【0011】
本開示は、上記従来の課題を解決するものであって、スラグ流が形成された混合流体において、スラグ流のセル体積比の変動を抑制することができるマイクロリアクタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本開示の一態様に係るマイクロリアクタ装置は、複数の流体を混合流路に導入して混合させるマイクロリアクタ装置であって、互いに可溶性を有する複数の液体を含む第1の流体と、第1の流体に対して不溶性を有する第2の流体とを、混合流路に送入する流体送入部であって、第1の流体を、第1流体送入量で混合流路に送入し、第2の流体を、混合流路に送入された第1の流体の流れと交差する方向から、第1流体送入量に対して第2流体送入量で混合流路に送入して、第2の流体が合流した後の混合流路内に、第1の流体のセルと第2の流体のセルとが交互に並んで流れるスラグ流を形成させる、流体送入部と、送入された第1の流体と第2の流体とを合流させて下流側に流れる混合流路と、スラグ流に対して導電率を検出する導電率検出部と、検出された導電率に基づき、スラグ流における第1の流体のセルと第2の流体のセルとのセル体積比を算出するセル体積比算出部と、算出されたセル体積比に基づいて流体送入部の流体送入を制御する流体送入制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様に係るマイクロリアクタ装置によれば、スラグ流が形成された混合流体において、スラグ流のセル体積比の変動を抑制することができ、安定な品質及び生産性を有する反応生産物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の実施の形態に係るマイクロリアクタ装置の構成の一例を示す概略図である。
図2図1のマイクロリアクタ装置の混合流路に形成されたスラグ流の一例を示す図である。
図3図1のマイクロリアクタ装置の混合流路に形成されたスラグ流の他の一例を示す図である。
図4】スラグ流における流体セルの形状の変化及びセル体積の変動の例を示す図である。
図5図1のマイクロリアクタ装置の混合流路に配置された導電率測定器の電極部を示す図である。
図6図5の導電率測定器の電極部のA-A線断面図である。
図7図1に示す流体送入制御機構の演算装置の一構成例を示すブロック図である。
図8図7の演算装置のプログラムのフローチャートである。
図9】本開示の実施形態に係るマイクロリアクタ装置の液体混合プロセスのフローチャートを示す図である。
図10】本開示の実施形態に係るマイクロリアクタ装置の演算装置によるセル体積比の算出の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の第1態様によれば、複数の流体を混合流路に導入して混合させるマイクロリアクタ装置であって、互いに可溶性を有する複数の液体を含む第1の流体と、第1の流体に対して不溶性を有する第2の流体とを、混合流路に送入する流体送入部であって、第1の流体を、第1流体送入量で混合流路に送入し、第2の流体を、混合流路に送入された第1の流体の流れと交差する方向から、第1流体送入量に対して第2流体送入量で混合流路に送入して、第2の流体が合流した後の混合流路内に、第1の流体のセルと第2の流体のセルとが交互に並んで流れるスラグ流を形成させる、流体送入部と、送入された第1の流体と第2の流体とを合流させて下流側に流れる混合流路と、スラグ流に対して導電率を検出する導電率検出部と、検出された導電率に基づき、スラグ流における第1の流体のセルと第2の流体のセルとのセル体積比を算出するセル体積比算出部と、算出されたセル体積比に基づいて流体送入部の流体送入を制御する流体送入制御部と、を備える、マイクロリアクタ装置を提供する。
【0016】
この態様によれば、スラグ流が形成された混合流体において、スラグ流のセル体積比の変動を抑制することができ、安定な品質及び生産性を有する反応生産物を提供することができる。
【0017】
本開示の第2態様によれば、送入量調整判定部を更に備え、送入量調整判定部は、セル体積比算出部により算出されたセル体積比と、所定のセル体積比の基準値とを比較することによって、第2流体送入量の調整を判定し、流体送入制御部は、判定された第2流体送入量の調整に基づいて、第2流体送入量を制御する、第1態様に記載のマイクロリアクタ装置を提供する。
【0018】
本開示の第3態様によれば、導電率検出部は、第1の流体に対応する第1導電率と第2の流体に対応する第2導電率とを検出するように構成され、セル体積比算出部は、第1導電率が検出された時間と第2導電率が検出された時間とに基づいて、セル体積比を算出する、第1又は第2態様に記載のマイクロリアクタ装置を提供する。
【0019】
本開示の第4態様によれば、導電率検出部は、更に、第1導電率と第2導電率との間の値を有する導電率を検出し、セル体積比算出部は、第1導電率が検出された時間と、第2導電率が検出された時間と、第1導電率と第2導電率との間の値を有する導電率が検出された時間とに基づいて、前記セル体積比を算出する、第3態様に記載のマイクロリアクタ装置を提供する。
【0020】
本開示の第5態様によれば、導電率検出部は、端部がスラグ流に接するように混合流路に配置される2つ以上の電極を備え、2つ以上の電極のそれぞれは、端部以外の部分に絶縁性を有する素材からなる被覆層を有する、第1から第4態様のいずれか1つに記載のマイクロリアクタ装置を提供する。
【0021】
本開示の第6態様によれば、流体送入部は、流量調整手段を含み、流体送入制御部は、流量調整手段を動作させることによって、第2流体送入量を制御する、第1から第5態様のいずれか1つに記載のマイクロリアクタ装置を提供する。
【0022】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【0023】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0024】
本開示の実施の形態に係るマイクロリアクタ装置について、図1乃至図10を参照しながら説明する。添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供するものであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。なお、図面において実質的に同一の部材については、同一の符号を付している。
【0025】
(実施の形態)
《マイクロリアクタ装置》
図1は、本開示の実施の形態1に係るマイクロリアクタ装置100の構成の一例を示す概略図である。図1に示すマイクロリアクタ装置100は、流体送入部200と、混合流路40と、回収容器50と、流体送入制御機構300とを備えている。
【0026】
マイクロリアクタ装置100は、複数の流体を混合流路に導入して混合させるために利用することができる。図1に示すマイクロリアクタ装置100において、互いに可溶性を有する複数の混合対象液体と、複数の混合対象液体に対して不溶性を有する不溶流体とが、流体送入部200から順に混合流路40に送入される。混合流路40において、送入された複数の流体が合流して回収容器50に向かって流れる。流体送入制御機構300は、不溶流体が合流した後の混合流路において形成されたスラグ流に対して導電率を検出して、流体送入部200の流体送入を制御する。また、図1の矢印A1,A2、B1,B2、及びCは、流体の流れ方向を示し、矢印D、E、及びFは、流体送入の制御にかかるデータ又は信号の伝送方向を示している。なお、マイクロリアクタ装置100におけるデータ又は信号の伝送は、有線接続によって実現されてもよく、無線接続によって実現されてもよい。以下、マイクロリアクタ装置100の構成要素及び動作について、詳細に説明する。
【0027】
<流体送入部>
流体送入部200は、第1液体供給部10と、第2液体供給部20と、不溶流体導入部30とを含む。第1液体供給部10と第2液体供給部20とは、それぞれ互いに可溶性を有する第1液体と第2液体とを混合流路40に供給し、不溶流体導入部30は、第1液体及び第2液体に対して不溶性を有する不溶流体を混合流路40に送入する。
【0028】
本実施の形態では、第1液体供給部10と、第2液体供給部20と、不溶流体導入部30とは、それぞれ、流体容器12,22,32と、これらの流体容器と混合流路40とをそれぞれ接続する配管14,24,34とを含む。更に、第1液体それぞれの流体容器12,22,32内の流体を、それぞれ配管14,24,34を通して混合流路40に送入するポンプ16,26,36を含むことができる。
【0029】
第1液体供給部10と第2液体供給部20とにより供給される第1液体と第2液体とは、それぞれ図示方向A1,A2に沿って、混合流路40に送入され、合流点P1で合流し、合流した混合対象液体は、混合流路40に沿って図示下流方向Cへ流れる。本実施の形態では、2種の液体を接触させ、混合させる例を示しているが、3種以上の液体を混合させる場合、流体送入部200において、第1液体供給部10と第2液体供給部20と同様の構成を更に並列に配置してもよい。
【0030】
不溶流体導入部30により送入される不溶流体は、図示方向B1,B2に沿って、混合流路40に送入された混合対象液体の流れと交差する方向から混合流路40に導入され、合流点P2において混合対象液体と合流する。本実施の形態では、不溶流体は、混合対象液体が混合流路40に送入された合流点P1の位置よりも下流側の合流点P2の位置で混合流路40に導入されたが、本開示はこれに限定されない。例えば、合流点P1の位置において、混合対象液体と不溶流体とを同時に混合流路40に導入してもよい。このように導入された混合対象液体と不溶流体とは、合流した後の混合流路40内において、混合対象液体からなるセルと不溶流体からなるセルとが交互に並んで流れるスラグ流を形成することができる。形成されたスラグ流は、混合流路40に沿って、更に図示下流方向Cへ流れ、混合流路40の終端P3において回収容器50に流入する。混合流路40内で形成されたスラグ流について後段で詳述する。
【0031】
本実施の形態では、第1液体及び第2液体は水溶液であるが、本開示はこれに限定されない。第1液体及び第2液体は、互いに可溶性を有するものであればよく、水溶性、非水溶性を問わない。例えば、第1液体及び第2液体は水性液体であってもよく、有機溶媒又は油性液体であってもよい。また、第1液体と第2液体との混合比は自由に設定することができる。
【0032】
本開示に係る不溶流体は、本実施の形態では主成分がオレイン酸であるが、本開示はこれに限定されない。不溶流体は、混合対象液体に対して不溶性を有するものであればよい。また、不溶流体は、液体であってもよく、気体であってもよい。例えば、混合対象液体が水又は水溶液である場合には、不溶流体は、例えば、非水溶性の有機溶媒又はガスを使用することができる。また、混合対象液体が油性液体である場合には、不溶流体は、例えば、水又はガスを用いることができる。なお、不溶流体としてガスが用いられる場合、流体容器32に代えて、ガスボンベを設けることができ、ガスボンベの圧力によって配管34を通して所定量のガスを混合流路40に圧送することができる。また、望ましくは、反応生成物に影響を与えないガス、例えば、Arガス又はNガスといった不活性ガスを使用することができる。
【0033】
本実施の形態では、ポンプ16,26,36は、それぞれ第1液体、第2液体、不溶流体を、流体容器から混合流路へ送入するときの流量調整手段として用いることができる。また、本開示はこれに限定されることなく、別途の流量調整手段、例えば、流量計、比例制御供給弁等(図示せず)を設けてもよい。なお、不溶流体としてガスが用いられる場合には、不溶流体の流量調整手段として、例えば、ガス流量調整器(図示せず)を設けることができる。本実施の形態では、ポンプ16,26,36は、流体送入制御機構300の流体送入制御部80に電気的に接続され、混合反応中に流体送入制御部80の制御によって動作することで、流体の送入量を制御することができる。これについて、後段で詳述する。
【0034】
また、第1液体供給部10と第2液体供給部20とは、用途により恒温槽等を設けて、混合流路40に供給される第1液体及び第2液体の温度を一定に保ってもよい。本実施の形態では恒温槽等を省略し、図示していない。
【0035】
<混合流路>
流体送入部200により送入されたそれぞれの流体が混合流路40で合流する。混合流路40は、微小溝により構成されてもよく、本実施の形態では、第1流路部41と第2流路部42とを含む。第1流路部41は、上流側の合流点P1から、下流側の合流点P2までの流路であって、内部に第1液体と第2液体とが合流した混合対象液体が流れている。第2流路部42は、下流側の合流点P2から、終端P3までの流路であって、内部に混合対象液体と不溶流体とが合流して形成されたスラグ流が流れている。
【0036】
混合流路の流路径は、マイクロミキサないしはマイクロリアクタとして機能する範囲で設計することができ、例えば、流路径を0.1~1.0mmとすることができる。なお、図1において、混合流路40が直線状に示しているが、本開示はこれに限定されない。混合流路40は、例えば、湾曲の流路部を含んでもよく、用途に応じて任意の長さで構成されてもよい。
【0037】
本実施の形態では、第2流路部42には、導電率測定器61が配置され、第2流路部42内で流れるスラグ流に対して導電率を検出する。スラグ流の導電率を検出するため、第2流路部42は、開口部(後段で説明する図5及び図6に示す)を備え、導電率測定器61の電極部は開口部を通って第2流路部42に配置されている。導電率測定器61の構成及び配置については、後段で詳述する。
【0038】
図1に示すように、混合流路40の第2流路部42内に、混合対象液体と不溶流体とが合流してスラグ流が形成される。第2流路部42内で流れているスラグ流の様子について、図2から図4を参照して説明する。図2は、図1のマイクロリアクタ装置の混合流路に形成されたスラグ流の一例110を示す図である。図3は、図1のマイクロリアクタ装置の混合流路に形成されたスラグ流の他の一例210を示す図である。図4は、スラグ流における流体セルの形状の変化及びセル体積の変動の例を示す図である。なお、以下の説明において、説明の便利のために、混合流路に送入された複数の混合対象液体を含む流体を、「第1の流体」と称し、混合対象液体に対して不溶性を有する不溶流体を、「第2の流体」と称す。
【0039】
<スラグ流>
図2に示すように、本実施の形態では、第2流路部421内に流れているスラグ流110は、第1液体及び第2液体を含む第1の流体のセル11a,12aと、不溶流体からなる第2の流体のセル11b,12b,13bと、を含む。第1の流体のセル11a,12aと第2の流体のセル11b,12b,13bとは、第2流路部42aに沿って交互に並んで下流方向Cに流れる。
【0040】
スラグ流110において、第1の流体のセル11a,12a内に、循環流C11が発生し、局所的な攪拌作用が生じる。これによって、第1の流体のセル11a,12a内の液体混合が促進される。また、図2に示すように、第1の流体のセル11a,12aは、セル体積V11aを有し、第2の流体のセル11b,12b,13bは、セル体積V11bを有する。
【0041】
ここで、セル体積は、対象となるスラグ流における複数の第1の流体のセル又は複数の第2の流体の平均セル体積としてを示している。この場合、当該スラグ流における第1の流体のセル体積と第2の流体のセル体積の比、すなわち、スラグ流110のセル体積比は、V11a/V11bである。混合反応中に、当該セル体積比は、第1の流体及び第2の流体の物性や状態等によって変動する場合がある。
【0042】
例えば、図3に示す第2流路部422内に流れているスラグ流210は、第1の流体のセル21a,22a,23aと、第2の流体のセル21b,22b,23b,24bと、を含む。第1の流体のセル21a,22a,23aと、第2の流体のセル21b,22b,23b,24bとは、第2流路部42bに沿って交互に並んで下流方向Cに流れる。
【0043】
図示のように、スラグ流210において、第2の流体のセルの占有率が増加し、より小さく分断された第1の流体のセルが形成されている。より小さい第1の流体のセル21a,22a,23aのそれぞれには、スラグ流110内の循環流C11よりも更に細かな循環流C21が形成ることが推察される。このとき、スラグ流210のセル体積比V21a/V21bは、スラグ流110のセル体積比V11a/V11bよりも小さい値を有する。
【0044】
スラグ流におけるセル体積の変動について、図4を参照してより詳しく説明する。スラグ流における流体セルは、混合流路内で流れる柱体の形状を有し、流れ方向Cに沿った端部において2つの流体相の境界面が形成される。2つの流体相の境界面は、表面張力の働きによって部分球面形状が形成される。したがって、図4に示すように、流体セル31b,32b,33bは、両端に部分球面形状に近い丸みを帯びた柱体の形状を呈し、それぞれセル体積V31b,V32b,V33bを有する。これらの流体セルは、長さhm31,hm32,hm33の中央部と、長さhf31,hf32,hf33の流れ方向C側の前端部と、長さhr31,hr32,hr33の流れ反対方向側の後端部とを有する。
【0045】
スラグ流に含まれる流体の物性や状態等によって、流体セルの形状に変化が生じる。例えば、図4の上段の流体セル31bは、中央部の長さがhm31からhm41まで伸びて、下段の流体セル41bとなるように変形する場合がある。同様に、上段の流体セル32b,33bは、後端部の長さがhr32からhr42まで伸び、又は前端部の長さがhf33からhf43まで伸びることで、下段の流体セル42b,43bとなるように変形する場合もある。又は、図3に示す変形例の組み合わせによる変形が生じることも可能である。形状が変化した後の流体セル41b,42b,43bは、形状が変化する前よりも大きいセル体積V41b,V42b,V43bを有する。このように、流体の物性や状態等により、流体セルの形状の変化及びセル体積の変動が生じることとなる。
【0046】
前述したように、混合反応において、安定な品質及び生産性を有する反応生産物を提供するためには、スラグ流のセル体積比を所定の範囲内に維持することが望ましい。スラグ流のセル体積比は、混合反応を開始する前に第1流体送入量と第2流体送入量との設定により予め設定することができる。しかしながら、混合反応中に、実際に混合流路内で流れる第1の流体及び第2の流体の物性や状態等によって、図4に示すように、流体セルの形状の変化が生じ、混合流路内のスラグ流のセル体積比は予め設定されたセル体積比から変動する場合がある。本実施の形態では、流体送入制御機構300によって、混合流路内のスラグ流の流体セルの形状の変化及びセル体積比の変動を把握し、それに基づいて流体送入部の流体送入を制御することができる。これによって、流体供給の安定性によるセル体積比の変動だけでなく、混合流路内の流体の物性や状態等による流体セルの形状の変化を併せて把握し、スラグ流のセル体積比を精密に制御することができる。以下、流体送入制御機構300の構成について詳細に説明する。
【0047】
<流体送入制御機構>
図1に戻って、本実施の形態に係る流体送入制御機構300は、導電率検出部60と、演算装置70と、流体送入制御部80とを含む。演算装置70は、導電率検出部60及び流体送入制御部80にそれぞれ接続され、流体送入制御部80は、流体送入部200に設けられた流量調整手段、本実施の形態では、ポンプ16,26,36に接続されている。
【0048】
(導電率検出部)
導電率検出部60は、第2の流体が合流した後の混合流路40の第2流路部42内に形成されたスラグ流に対して、導電率を検出するために用いられる。本実施の形態では、導電率検出部60は、導電率測定器61とデータ転送部62とを有する。導電率測定器61の構成について、図5及び図6を参照して説明する。
【0049】
図5は、図1のマイクロリアクタ装置の混合流路内に配置された導電率測定器61の電極部610を示す図である。図6は、図5の導電率測定器61の電極部610のA-A線断面図である。
【0050】
導電率測定器61は、交流2電極式又は交流4電極式を用いることができる。測定時に、図5に示すように、導電率測定器61の電極部610は、スラグ流が流れている混合流路の第2流路部42に配置される。4電極式は電極表面の汚れや分極の影響を受けにくく、導電率の高い領域での正確な測定が可能である。一方、4電極式導電率測定器の電極部の構造が複雑であり、測定対象流体と電極部との接触面積が増えることによって、反応生産物の品質に悪影響を与える可能性が考えられる。そのため、導電率測定器の電極部が混合反応に与える影響、及び混合流路内で流れる第1の流体と第2の流体との導電率に基づいて、適切な導電率測定器を選択することが望ましい。本実施形態では、交流2電極式の導電率測定器を採用している。
【0051】
本実施の形態の導電率測定器61の電極部610は、図5及び図6に示すように、2つの電極611,612を含む。本実施の形態では、混合流路の第2流路部42は、流路の外壁面42a及び内壁面42bを貫通して設けられた2つの開口部S1,S2を有する。導電率測定器61の2つの電極611,612は、それぞれ2つの開口部S1,S2を通って対向に取り付けられ、電極の端部が第2流路部42内に流れているスラグ流310に接するように設置されている。本実施の形態では、電極611,612は、第2流路部42内の流体の流れ方向Cと直交する同一の流路断面に設置している(図5)。これによって、流体の流れ方向における電極の位置の差による測定誤差を低減することができる。なお、導電率測定器の電極が同一の流路断面に設置しない場合は、電極の位置の差による測定誤差を演算装置70で補正することができる。また、電極611,612の第2流路部42に挿入される端部が流路内の流体の流れを妨害しないことが望ましい。本実施の形態では、電極611,612は、図示のように、スラグ流310に接する端面が第2流路部42の内壁面42bと同一面にあるように設置されている。
【0052】
本実施形態では、電極部610は銅(Cu)で構成されている。しかし、本開示は、導電率測定器の電極部の構成素材に限定されることなく、測定対象流体との副反応や、電気的応答性を考慮して、例えば、銀(Ag)又はアルミ(Al)素材を用いて電極部を構成してもよい。
【0053】
本実施形態では、電極部610の電極611,612は、スラグ流に接する端部以外の部分に絶縁性を有する素材からなる被覆層を有するように構成されている。被覆層の素材は、例えば、PTFE、PFA等のフッ素樹脂であってもよく、その他の絶縁性素材を使用してもよい。これによって、測定の誤差又は不安定を抑制することができる。また、電極の端部以外の部分を絶縁性の素材で被覆しない場合は、導電率測定器61に絶縁性の回路を用いる等によって、電極611,612間にスラグ流以外の導電経路が存在しないような設計することができる。
【0054】
スラグ流が導電率測定器61の電極部610の電極611,612間の測定空間を通って流れると、第1の流体と第2の流体とのそれぞれによる導電率が検出される。検出された導電率のデータは、データ転送部62に記録され、演算装置70に送信される。導電率検出部60の導電率検出機構は、従来知られている導電率検出装置の構成を採用することができ、本明細書では更なる詳細な説明を省略する。
【0055】
(演算装置)
演算装置70は、導電率検出部60からスラグ流の導電率の測定データを受信し、電極部610の測定空間を通過したスラグ流の導電率の測定結果に基づいて、当該スラグ流のセル体積比を算出することができる。以下、図7を参照して演算装置70の構成について説明する。図7は、図1に示す流体送入制御機構300の演算装置70の一構成例を示すブロック図である。演算装置70は、例えば、コンピュータ装置である。このコンピュータ装置として、汎用的なコンピュータ装置を用いることができ、例えば、図7に示すように、処理部71、記憶部72、表示部73を含むことができる。なお、演算装置70は、更に入力装置、記憶装置、インタフェース等を含んでもよい。演算装置70は、導電率検出部60からスラグ流の導電率の測定データを受信し、演算処理を行うことができる。
【0056】
≪処理部71≫
処理部71は、例えば、中央処理演算子(CPU)、マイクロコンピュータ、又は、コンピュータで実行可能な命令を実行できる処理装置であればよい。
【0057】
≪記憶部72≫
記憶部72は、例えば、ROM、EEPROM、RAM、フラッシュSSD、ハードディスク、USBメモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等の少なくとも一つであってもよい。
【0058】
記憶部72には、プログラム75を含む。なお、演算装置70がネットワークに接続されている場合には、必要に応じてプログラム75をネットワークからダウンロードしてもよい。
【0059】
≪プログラム75≫
プログラム75は、セル体積比算出部75aと、送入量調整判定部75bとを含むことができる。セル体積比算出部75aと、送入量調整判定部75bとは、実行時には、記憶部72から読み出されて処理部71にて実行される。
【0060】
セル体積比算出部75aは、導電率検出部60によって検出されたスラグ流の導電率値の時間変化に基づいて、当該スラグ流の第1の流体と第2の流体とのそれぞれが対応する導電率が検出された時間の長さを得ることができる。更に混合流路内の第1の流体と第2の流体との流速、及び混合流路の流路径を用いて、当該スラグ流のセル体積比を算出することができる。
【0061】
送入量調整判定部75bは、セル体積比算出部75aにより算出されたセル体積比と、所定のセル体積比の基準値とを比較することによって、第2流体送入量の調整を判定することができる。ここで、所定のセル体積比の基準値は、用途に応じて定められてもよく、例えば、所望の反応生成物の品質及び生産性を担保することができる一定の基準範囲であってもよい。送入量調整判定部75bは、例えば、セル体積比算出部75aにより算出されたスラグ流のセル体積比と、所定のセル体積比の基準値とを比較することで、算出されたスラグ流のセル体積比が所定のセル体積比の基準範囲内にあるか否かを判定することができる。更に、例えば、算出されたスラグ流のセル体積比が所定のセル体積比の基準範囲を超えたと判定した場合に、算出されたスラグ流のセル体積比と所定のセル体積比の基準値との差分を減少させるように、第2流体送入量の調整について判定することができる。送入量調整判定部75bによる第2流体送入量の調整についての判定は、後段の液体混合プロセスの説明において更に具体的に説明する。
【0062】
図8を参照して、演算装置70において実行されるプログラム75の流れについて説明する。図8は、図7の演算装置70のプログラム75のフローチャートである。図8に示すように、プログラム75は、以下3つのステップからなる。セル体積比算出部75aは、ステップS701に対応し、送入量調整判定部75bは、ステップS702及びS703に対応する。
(1)導電率検出部60によって検出されたスラグ流の導電率に基づいて、スラグ流のセル体積比を算出する(S701)。
(2)次に、算出されたスラグ流のセル体積比を、所定のセル体積比の基準値と比較することによって、第2流体送入量の調整を判定する(S702)。
(3)次いで、判定された第2流体送入量の調整を、流体送入制御部80に送信する(S703)。
【0063】
≪表示部73≫
表示部73は、例えば、処理部71によりプログラム75が実行されて、得られたスラグ流のセル体積比、及び/又は第2流体送入量の調整の判定結果等を、例えば、ディスプレイ等に表示することができる。なお、表示部73は、用途によって省略することもできる。
【0064】
(流体送入制御部)
流体送入制御部80は、演算装置70により判定された第2流体送入量の調整に基づいて、流体送入部200の流量調整手段を動作させることによって、流体送入部200の流体送入を制御することができる。本実施の形態では、流体送入制御部80は、流体送入部200の流量調整手段であるポンプ16,26,36に接続されている(図1)。流体送入制御部80は、例えば、判定された第2流体送入量の調整に基づいて、算出されたスラグ流のセル体積比と所定のセル体積比の基準値との差分を減少させるように、ポンプ16,26,36のうちの1つ又は複数を動作させて流体送入部200の流体送入を制御することができる。
【0065】
このように、本開示のマイクロリアクタ装置100は、流体送入制御機構300により、流体送入部200の流体送入を制御することによって、混合反応中にスラグ流のセル体積比の変動を抑制し、所望の品質及び生産性を有する反応生産物を提供することができる。
【0066】
本開示の実施の形態に係るマイクロリアクタ装置100の液体混合プロセスについて、以下、図9及び図10を参照して説明する。図9は、本開示の実施形態に係るマイクロリアクタ装置100の液体混合プロセスのフローチャートを示す図である。図10は、本開示の実施形態に係るマイクロリアクタ装置100の演算装置70によるセル体積比の算出の例を示す図である。
【0067】
《マイクロリアクタ装置の液体混合プロセス》
図9を用いて、併せて図1を参照しながらマイクロリアクタ装置100による液体混合プロセスを説明する。
【0068】
(1)まず、S801では、第1の流体と第2の流体とを混合流路40に送入する。本開示の実施の形態において、互いに可溶性を有する複数の液体を含む第1の流体の主成分は水であって、第1の流体に対して不溶性を有する第2の流体の主成分はオレイン酸である。また、第2の流体は、混合流路40に送入された第1の流体の流れと交差する方向B2から混合流路40に導入される(図1参照)。これによって、第2の流体が合流した後の混合流路40の第2流路部42内に、第1の流体のセルと第2の流体のセルとが交互に並んで流れるスラグ流を形成させる。
【0069】
(2)次に、S801では、第1の流体の送入量である第1流体送入量と、第1流体送入量に対する第2の流体の送入量である第2流体送入量とを設定する。このとき、流体送入部200に設けられた流量調整手段であるポンプ16,26,36によって、第1の流体と第2の流体とは、それぞれ予め設定された第1流体送入量と第2流体送入量とで送入される。このとき、スラグ流のセル体積比が反応生産性及び反応生産物の品質に対する影響について事前に検証し、検証結果に基づいてスラグ流のセル体積比の基準値を設定することができる。第1流体送入量と第2流体送入量との初期設定値は、規定されたスラグ流のセル体積比の基準範囲内にあるように設定することができる。本実施の形態では、第1の流体のセルの体積対第2の流体のセルの体積の比をスラグ流のセル体積比とし、当該セル体積比の基準値を0.9~1.1の範囲とすることができる。
【0070】
また、本実施の形態では、液体混合開始時の第1流体送入量と第2流体送入量との初期設定は、流体送入制御部80が流体送入部200の流量調整手段であるポンプ16,26,36を動作させて行っている。しかし、本開示はこれに限定されない。例えば、手動で流量調整手段を操作して初期設定してもよい。なお、S801とS802とは、逆の順番で実行されてもよい。
【0071】
(3)S803では、導電率検出部60によって、第2流路部42内のスラグ流に対して導電率を検出する。このとき、導電率検出部60の導電率測定器61は、所定時間において、電極部610の電極間を通過するスラグ流に対して導電率を測定し、得られた導電率の測定データを演算装置70に送信する。
【0072】
本実施の形態による導電率の測定データの一例を図10に示している。図10の下段には、導電率検出部60によって検出された混合流路内のスラグ流の導電率値の時間変化の一例を示し、図10の上段には、下段に示される導電率の測定結果に対応するスラグ流の構成状態のイメージ図を示している。
【0073】
図示のように、第2流路部42内のスラグ流310において、第1の流体のセル311a,312aと、第2の流体のセル311b,312b,313bとが形成されている。
導電率σとσとは、それぞれスラグ流における第1の流体と第2の流体との導電率の値を示し、時間tとtとは、それぞれ第1の流体の導電率σが測定された時間と第2の流体の導電率σが測定された時間とを示している。前述したように、第1の流体と第2の流体と境界部において、表面張力の働きにより、流体セルは両端に部分球面形状に近い丸みを帯びた柱体の形状を呈している。したがって、時間tとtとは、第1の流体のセルの長さhm311aの中央部と、第2の流体のセルの長さhm311bの中央部とのそれぞれが導電率測定器61の電極部の測定空間を通過するときの導電率が検出された時間を示している。一方、第1の流体と第2の流体と境界部が導電率測定器61の電極部の測定空間を通過するときに、σとσとの間の値を有する導電率が検出される。本実施の形態では、図示第2の流体のセルの長さhf311bの前端部に対応する導電率の検出時間と、第2の流体のセルの長さhr311b,hr312bの後端部に対応する導電率の検出時間とを等しい値とし、共にtで示している。
【0074】
導電率の値について、例えば、σは第1の流体、本実施形態では水溶液の導電率であり、溶解しているイオン種とその濃度で値は変動するが、例えば、10[wt%]のNaCl水溶液の場合、約140[mS/cm]の値とすることができる。σは第2の流体、本実施形態ではオレイン酸の導電率であり、オレイン酸は絶縁性を有するため、σLは0に近い値とすることができる。前述したように、不溶流体には、ArガスやNガスといった不活性ガスの使用も考えられる。これらの不活性ガスも絶縁性を有するため、対応するσは0に近い値とすることができる。
【0075】
(4)続いて、S804では、演算装置70のセル体積比算出部75aによってスラグ流のセル体積比を算出する。例えば、導電率検出部60によって検出された第1の流体と第2の流体とのそれぞれに対応する導電率σ,σの検出された時間t,tに基づいて、更に混合流路内の第1の流体と第2の流体との流速及び混合流路の流路径を用いることで、スラグ流における第1の流体と第2の流体とのセル体積比を算出することができる。このとき、更に、第1の流体と第2の流体と境界部に対応するσとσとの間の値を有する導電率の検出された時間tを用いて、第1の流体のセルと第2の流体のセルとの境界部の形状の変化を把握することができ、より正確にセル体積比を算出することができる。
【0076】
以下、一例として、スラグ流が流れる混合流路の断面が円形である場合に、第1の流体と第2の流体との間の表面張力による境界部の形状を考慮したスラグ流のセル体積比の算出方法を具体的に説明する。
【0077】
まず、表面張力は流体間の境界面で働く張力であり、流体間の境界面は、表面張力をできる限り小さくするように、部分球面形状に形成される。当該部分球面形状は、球を1つの平面で切り取ったときにできた立体形状である球欠型に近似することができる。球欠の側面部分は球冠と呼ばれ、球欠の切り口の円の半径をrとし、球欠切り口の円の中心から球冠までの距離をhとしたとき、一般に、球欠の体積は以下の式により算出することができる。
【0078】
【数1】
【0079】
図10に示すスラグ流310が流れる第2流路部42の断面を半径rの円形とし、スラグ流310における流体の流速がuである場合、第1の流体のセル311aの体積をVとし、第2の流体のセル311bの体積をVとし、第1の流体と第2の流体との境界部の球欠の体積をVとすると、V、V、Vは、それぞれ以下の式により算出することができる。
【0080】
【数2】

【0081】
このように、第1の流体と第2の流体との間の表面張力による境界部の形状を考慮して、スラグ流310のセル体積比V/Vをより正確に算出することができる。なお、ここで、スラグ流が流れる混合流路の断面を円形としてセル体積比V/Vの算出方法を説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、スラグ流が流れる混合流路の流路断面が矩形、又は他の形状であってもよく、実際の流路断面形状に合わせてスラグ流のセル体積比を算出することができる。また、導電率に基づいてスラグ流のセル体積比の算出は、前記の例示に限定されない。例えば、スラグ流における流体セルの前端部と後端部とが均等な形状を有さない場合に、流体セルの前端部と後端部とのそれぞれに対応する導電率の検出時間を用いてセル体積比を算出することができる。
【0082】
(5)続いて、S805では、演算装置70の送入量調整判定部75bによって第2流体送入量の調整を判定する。このとき、セル体積比算出部75aによって算出されたスラグ流のセル体積比V/Vと予め設定した体積比の基準値とを比較することによって第2流体送入量の調整を判定することができる。
【0083】
例えば、判定1において、算出されたスラグ流のセル体積比V/Vが所定のセル体積比の基準値よりも大きい場合には、第2流体送入量を減少するように、第2流体送入量の調整を判定することができる(S806)。反対に、判定2において、算出されたスラグ流のセル体積比V/Vが所定のセル体積比の基準値よりも小さい場合には、第2流体送入量を増加するように、第2流体送入量の調整を判定することができる(S807)。また、判定3において、算出されたスラグ流のセル体積比V/Vが所定のセル体積比の基準範囲内である場合には、第2流体送入量を維持するように、第2流体送入量の調整を判定することができる(S808)。
【0084】
具体的には、本実施の形態では、例えば、セル体積比算出部75aにより算出されたスラグ流のセル体積比V/Vと、予め設定されたセル体積比の基準値の範囲0.9~1.1に比較する。この場合、例えば、送入量調整判定部75bによる比較した結果、混合流路内で流れているスラグ流のセル体積比が基準値0.9未満であるときは、図9に示す判定1となる。すなわち、第1の流体のセル311a,312aが小さく、第2の流体のセル311b,312b、313bの割合が大きすぎるため、所望の反応生産性の確保が影響される状態であると推定される。この場合、送入量調整判定部75bは、第2流体送入量を減少するように、第2流体送入量の調整を判定することができる(図9に示すS806)。
【0085】
反対に、例えば、送入量調整判定部75bによる比較した結果、算出されたスラグ流のセル体積比V/Vがセル体積比の基準値1.1を超えたときは、図9に示す判定2となる。すなわち、第1の流体のセル311a,312aが大きく、第2の流体のセル311b,312b、313bの割合が小さすぎるため、所望の反応生成物の品質確保が影響される状態であると推定される。この場合、送入量調整判定部75bは、第2流体送入量を増加するように、第2流体送入量の調整を判定することができる(図9に示すS807)。
【0086】
また、送入量調整判定部75bによる比較した結果、算出されたスラグ流のセル体積比V/Vがセル体積比の基準範囲0.9~1.1内であるときは、図9に示す判定3となる。すなわち、混合流路内で流れているスラグ流は、所望の反応生産性及び所望の反応生成物の品質が確保可能な状態であると推定される。この場合、送入量調整判定部75bは、第2流体送入量を維持するように、第2流体送入量の調整を判定することができる(図9に示すS808)。
【0087】
続いて、送入量調整判定部75bによる第2流体送入量の調整についての判定結果は、流体送入制御部80に送信される。流体送入制御部80は、当該判定結果に基づいて、流体送入部200に設けられた流量調整手段を動作させることによって、例えば、第2流体送入量を調整した値で再設定するように制御する(S802に戻る)か、又は設定された第2流体送入量を維持して液体混合を進める。このように、混合反応において、S802乃至805、そして、806又は807又は808の操作を繰り返すことによって、スラグ流のセル体積比の変動を抑制することができ、安定な品質及び生産性を有する反応生産物を提供することができる。
【0088】
このように、本開示のマイクロリアクタ装置100は、流体供給の安定性によるセル体積比の変動だけでなく、混合流路内の流体の物性や状態等による流体セルの形状の変化を併せて把握し、スラグ流のセル体積比を精密に制御することができる。
【0089】
なお、本開示の実施の形態に係る流体送入制御機構300は、第1の流体の送入量に対する第2の流体の相対送入量の制御において、流体送入部による第2の流体の送入量を調整することによって実行されてもよく、用途に応じて、代えて又は合わせて第1の流体の送入量を調整することによって実行してもよい。
【0090】
また、上記実施の形態において、算出されたセル体積比と、所定のセル体積比の基準値との比較に基づいて、流体の送入を制御するように説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、連続的に検出されたスラグ流の導電率に基づいて算出したスラグ流のセル体積比の変動と所定の基準値との比較に基づいて、流体の送入を制御することもできる。
【0091】
以上のように、本開示における技術の例示としての実施の形態を説明するために、添付図面及び詳細な説明を提供した。したがって、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。したがって、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0092】
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施の形態に関連して充分に記載されているが、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。そのような変更、及び異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本開示は、互いに可溶性を有する流体を混合する装置に適用可能である。本開示は、例えば、水熱合成反応を用いた微粒子の製造等に適用可能である。
【符号の説明】
【0094】
10,20 液体供給部
30 不溶流体導入部
40 混合流路
12,22,32 流体容器
14,24,34 配管
16,26,36 ポンプ
41,42,421,422 流路部
42a,42b 流路壁
50 回収容器
60 導電率検出部
61 導電率測定器
62 データ転送部
70 演算装置
71 処理部
72 記憶部
73 表示部
75 プログラム
75a セル体積比算出部
75b 送入量調整判定部
80 流体送入制御部
100 マイクロリアクタ装置
200 流体送入部
300 流体送入制御機構
610 電極部
611,612 電極
S1,S2 開口部
110,210,310 スラグ流
C11,C21 循環流
V11a,V21a,V11b,V21b セル体積
,V セル体積
流体セルの前端部又は後端部の体積
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-05-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0080
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0080】
【数2】