IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

特開2023-162953ガスセンサ及びガスセンサの製造方法
<>
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図1
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図2
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図3
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図4
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図5
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図6
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図7
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図8
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図9
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図10
  • 特開-ガスセンサ及びガスセンサの製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162953
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びガスセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073680
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智紀
(72)【発明者】
【氏名】高倉 雅博
(72)【発明者】
【氏名】須田 正憲
(72)【発明者】
【氏名】塙 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】黒田 燎
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA11
2G046AA13
2G046AA18
2G046AA24
2G046AA25
2G046AA26
2G046BA08
2G046BA09
2G046BC03
2G046BC05
2G046BE03
2G046EA01
2G046EA02
2G046EA04
2G046EA09
2G046FB02
2G046FE12
2G046FE15
2G046FE16
2G046FE29
2G046FE31
2G046FE34
2G046FE35
2G046FE39
2G046FE44
2G046FE46
2G046FE48
(57)【要約】
【課題】応答性を向上させ得るガスセンサを提供する。
【解決手段】ガスセンサ10は、電極対70を1つ以上備え、第1電極71と第2電極72とが間隙を介して第1方向に対向してなる電極部50と、感応膜60と、を備えている。第1方向における第1電極71と第2電極72との間の電極間距離と第1電極71の第1方向と直交する切断面での電極面積との積を電極間体積とした場合に、電圧印加部80によって電極部50に印加される電圧を電極間体積で除算した除算値は、4.2×1016V/mより大きく2.0×1025V/m以下である。電極面積は、2.5×10-15以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極及び第2電極を有する電極対を1つ以上備え、前記電極対において前記第1電極と前記第2電極とが間隙を介して第1方向に対向してなる電極部と、
前記電極対における前記第1電極と前記第2電極との間に配される感応膜と、
前記電極部に対して前記第1電極側と前記第2電極側との間に電圧を印加する電圧印加部と、
を備え、
前記第1方向における前記第1電極と前記第2電極との間の電極間距離と前記第1電極の前記第1方向と直交する切断面での電極面積との積を電極間体積とした場合に、前記電圧印加部によって前記電極部に印加される電圧を前記電極間体積で除算した除算値は、4.2×1016V/mより大きく2.0×1025V/m以下であり、
前記電極面積は、2.5×10-15以上であるガスセンサ。
【請求項2】
前記電極部は、4以上の前記電極対を有し、
前記電極面積は、全ての前記第1電極を前記第1方向において前記第2電極側の端部から10nm以上100nm以下のいずれかの位置で切断した切断面での全ての前記第1電極の断面の総面積であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記除算値は、6.0×1019V/m以上2.0×1025V/m以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記電極部における全ての前記電極対のうちで最小となる前記電極間距離は、5nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記電極部における全ての前記電極対における前記第1電極の幅の合計値は、20nm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記感応膜は、緻密体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記感応膜を構成する少なくとも一部の粒子間が電気的に結合していることを特徴とする請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項8】
請求項6に記載のガスセンサの製造方法であって、
前記感応膜を、物理気相成長法又は化学気相成長法によって成膜することを特徴とするガスセンサの製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載のガスセンサの製造方法であって、
前記感応膜に対して、成膜後に加熱処理を施すことを特徴とするガスセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ及びガスセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のMEMSを用いた化学センサでは、電極対が設けられ、その電極間の距離が最も短い距離であっても数μmであった。このようなセンサでは、感度としては発現するものの、その応答性が悪く、濃度検出において長い時間を必要とし、数秒単位から数十秒単位をリアルタイムに測定をすることが困難であった。一方で、特許文献1のように、電極間の距離を数nm~100nm程度とし、応答性を改善したナノギャップ電極を用いたガスセンサの報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-32746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のセンサでは、検知ガスに暴露されたときの応答性は早いものの、実際に使用するとセンサ特性の回復に長い時間を要していた。また、その応答性を向上させるためのメカニズムが明らかになっていないこともあり、どのようなセンサ構成によって早い応答性が得られるかの知見が不十分であった。
【0005】
本開示は、応答性を向上させ得るガスセンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一つであるガスセンサは、
第1電極及び第2電極を有する電極対を1つ以上備え、前記電極対において前記第1電極と前記第2電極とが間隙を介して第1方向に対向してなる電極部と、
前記電極対における前記第1電極と前記第2電極との間に配される感応膜と、
前記電極部に対して前記第1電極側と前記第2電極側との間に電圧を印加する電圧印加部と、
を備え、
前記第1方向における前記第1電極と前記第2電極との間の電極間距離と前記第1電極の前記第1方向と直交する切断面での電極面積との積を電極間体積とした場合に、前記電圧印加部によって前記電極部に印加される電圧を前記電極間体積で除算した除算値は、4.2×1016V/mより大きく2.0×1025V/m以下であり、
前記電極面積は、2.5×10-15以上である。
【0007】
本開示の一つであるガスセンサの製造方法は、
上記ガスセンサの製造方法であって、
前記感応膜を、物理気相成長法又は化学気相成長法によって成膜する。
【0008】
本開示の一つであるガスセンサの製造方法は、
前記感応膜に対して、成膜後に加熱処理を施す。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る技術は、応答性を向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態のガスセンサを概略的に示す側断面図である。
図2図2は、図1のガスセンサの一部拡大図である。
図3図3は、ガスセンサの電極対の平面SEM像である。
図4図4は、ガスセンサの感応膜の平面SEM像である。
図5図5は、電極対と電極間体積を説明するための模式図である。
図6図6は、第1電極の切断面において、幅と高さの測定方法を説明するための説明図である。
図7図7は、ガスセンサの製造工程を説明する工程図である。
図8図8は、図7に続くガスセンサの製造工程を説明する工程図である。
図9図9は、センサ評価装置を概略的に説明する説明図である。
図10図10(A)は、比較例2のガスセンサにおける出力の時間変化を示す説明図であり、図10(B)は、実験例4のガスセンサにおける出力の時間変化を示す説明図である。
図11図11(A)は、ガスセンサが被検ガスに暴露される前の酸化スズの空乏層を説明する説明図であり、図11(B)は、ガスセンサが被検ガスに暴露された後の酸化スズの空乏層を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本開示の実施形態が列記されて例示される。なお、以下で例示される〔1〕~〔9〕の特徴は、矛盾しない範囲でどのように組み合わされてもよい。
【0012】
〔1〕本発明のガスセンサは、
第1電極及び第2電極を有する電極対を1つ以上備え、前記電極対において前記第1電極と前記第2電極とが間隙を介して第1方向に対向してなる電極部と、
前記電極対における前記第1電極と前記第2電極との間に配される感応膜と、
前記電極部に対して前記第1電極側と前記第2電極側との間に電圧を印加する電圧印加部と、
を備え、
前記第1方向における前記第1電極と前記第2電極との間の電極間距離と前記第1電極の前記第1方向と直交する切断面での電極面積との積を電極間体積とした場合に、前記電圧印加部によって前記電極部に印加される電圧を前記電極間体積で除算した除算値は、4.2×1016V/mより大きく2.0×1025V/m以下であり、
前記電極面積は、2.5×10-15以上である。
【0013】
この構成によれば、電極部に印加される電圧を電極間体積で除算した除算値を4.2×1016V/mより大きく2.0×1025V/m以下とし、電極面積を2.5×10-15以上とすることで、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0014】
〔2〕上記ガスセンサにおいて、
前記電極部は、4以上の前記電極対を有し、
前記電極面積は、全ての前記第1電極を前記第1方向において前記第2電極側の端部から10nm以上100nm以下のいずれかの位置で切断した切断面での全ての前記第1電極の断面の総面積である。
【0015】
上記の〔2〕のガスセンサでは、4以上の電極対を有し、電極面積の総和が2.5×10-15以上となるような構成として、電極面積の総和が従来技術に比べて大きくなる。これにより、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0016】
〔3〕上記のガスセンサにおいて、
前記除算値は、6.0×1019V/m以上2.0×1025V/m以下である。
【0017】
上記の〔3〕のガスセンサでは、上記除算値を6.0×1019V/m以上2.0×1025V/m以下とすることで、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)をより一層向上できる。
【0018】
〔4〕上記のガスセンサにおいて、
前記電極部における全ての前記電極対のうちで最小となる前記電極間距離は、5nm以上100nm以下である。
【0019】
上記の〔4〕のガスセンサでは、トンネル電流効果が得られ、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)をより一層向上できる。
【0020】
〔5〕上記のガスセンサにおいて、
前記電極部における全ての前記電極対における前記第1電極の幅の合計値は、20nm以上である。
【0021】
上記の〔5〕のガスセンサでは、電極間の抵抗値を低下させることができ、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)をより一層向上できる。
【0022】
〔6〕上記のガスセンサにおいて、
前記感応膜は、緻密体である。
【0023】
上記の〔6〕のガスセンサでは、感応膜を緻密化することで、空乏層での電子の移動が容易になり、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0024】
〔7〕上記のガスセンサにおいて、
前記感応膜を構成する少なくとも一部の粒子間が電気的に結合している。
【0025】
上記の〔7〕のガスセンサでは、感応膜を構成する粒子間が通電可能に結合することで、粒子間の接触抵抗を低減することができ、空乏層での電子の移動が容易になる。
【0026】
〔8〕上記のガスセンサの製造方法であって、
前記感応膜を、物理気相成長法又は化学気相成長法によって成膜する。
【0027】
上記の〔8〕のガスセンサでは、均質な感応膜を形成することができ、電気信号の安定した出力が可能となる。
【0028】
〔9〕上記のガスセンサの製造方法であって、
前記感応膜に対して、成膜後に加熱処理を施す。
【0029】
上記の〔9〕のガスセンサでは、感応膜を構成する粒子間で結合し易くなり、粒子間の接触抵抗を低減することができ、空乏層での電子の移動が容易になる。
【0030】
<第1実施形態>
1-1.ガスセンサの構成
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図1図11を参照して説明する。図1に示す第1実施形態のガスセンサ10は、本開示のガスセンサの一例である。以下の説明では、説明の便宜上、図1図2にあらわれる上下方向をそのまま上下方向として定義するが、ガスセンサ10の実際の配置状態における上下方向と一致しなくてもよい。
【0031】
ガスセンサ10は、基板20と、絶縁層31~35と、発熱体40と、電極部50と、感応膜60と、電圧印加部80(図9参照)と、出力部90(図9参照)と、を備えている。電極部50は、第1電極71及び第2電極72を有する電極対70を1以上備えている。電極部50は、電極対70を4以上備えていることが好ましく、電極対70を100以上備えていることが更に好ましい。
【0032】
図3は、電極対70が複数設けられた電極部50を例示している。図3に示すように、電極対70において、第1電極71と第2電極72とが間隙を介して第1方向に対向してなる。第1方向は、基板20の上面と平行な方向であって、第1電極71及び第2電極72が延びる方向である。第1方向は、第1電極71と第2電極72とが対向する方向でもある。第1方向は、複数の第1電極71の並び方向と直交する方向でもあり、複数の第2電極72の並び方向と直交する方向でもある。
【0033】
基板20は、例えば、シリコンウエハによって構成されている。基板20の材質は、特に限定されないが、例えばシリコン等の半導体である。基板20にサファイア、ジルコニア、アルミナ等のセラミック基板を用いる場合には、後述する絶縁層31~34の形成を省略することができる。基板20の平面形状は、特に限定されず、例えば、矩形又は円形等とすることができる。基板20の大きさは、特に限定されず、一辺が0.1mm~10mmである矩形の基板、及び同程度の面積を有した円形の基板とすることができる。基板20の厚さは、特に限定されず、例えば400μm~500μmとすることができる。
【0034】
基板20は、自身の一部が切り欠かれて形成された空間部21を備えていてもよい。空間部21は、例えば、基板20の表裏両面に開口して貫通する空洞、及び基板20の表裏面の一方にのみ開口している凹部等である。空間部21の開口部22の形状、及び空間部21の内部の断面形状等は特に限定されないが、通常、矩形、円 形等の単純な形状である。空間部21の大きさは、特に限定されず、空間部21が空洞の場合は基板20の表裏の開口のうちの一方の開口面積の方が大きくなるように形成されることが好ましい。この開口面積は、特に限定されないが、大きい方の開口面積を0.01mm~4mmとすることが好ましく、0.25mm~2mmとすることがより好ましい。空間部21が凹部の場合は、開口面積は空洞と同様の範囲とすることができる。
【0035】
後述する電極部50は、基板20に設けられた絶縁層31~35によって基板20から絶縁されている。絶縁層31~35は、基板20の全面に形成されていてもよいし、基板20の一部のみに形成されていてもよい。絶縁層31,33,35は、基板20の一方側の面(上面)に積層されている。基板20には、空間部21が設けられている。基板20が空間部21を有する場合、絶縁層31,33,35は、空間部21の開口部22を覆い、且つ基板20により支持される。絶縁層31,33,35は、開口部22の全面を覆うように形成されてもよく、基板20によって支持することができれば開口部22の一部を覆うように形成されてもよい。絶縁層32,34は、基板20の他方側の面(下面)に積層されている。絶縁層31~35は、十分な絶縁性を有すればよく、材質は特に限定されない。例えば、絶縁層31~35の材質の例として、SiO並びにSi及びSiO(x、yは任意の値)等のケイ素化合物が挙げられる。絶縁層31~35の形状及び厚さは、特に限定されない。絶縁層31,33,35の代わりに単層の絶縁層を設けてもよい。基板20上に酸化シリコン膜を形成することで、電極対70の電極間のリーク電流を抑制し得る。
【0036】
ガスセンサ10には、複数の発熱体40が設けられている。発熱体40は、絶縁層33上に設けられ、絶縁層35に覆われている。発熱体40には、外部回路から電力を供給するためのリード部(図示略)が、発熱体用コンタクト部(図示略)を介して接続されている。発熱体用コンタクト部の表面には、コンタクトパッド(図示略)が設けられている。発熱体40は、電圧の印加により発熱する。これにより、感応膜60が昇温して活性化され、ガス濃度の測定が可能となる。発熱体40を配設する位置は、絶縁層31,33,35の内部であれば特に限定されないが、基板20に空間部21が形成されている場合は、空間部21に対応する位置に配設されていることが好ましい。発熱体40を空間部21に対応する位置に配設することにより、発熱体40からの熱が基板20に逸散してしまうことを抑えることができる。また、感応膜60に効率よく伝熱することができ、感応膜60の温度をより精度よく制御することができる。なお、空間部21に対応する位置とは、基板20の厚み方向において、発熱体40の少なくとも一部が空間部21と重なっている位置関係であるという意味であり、発熱体40の全体が空間部21と重なっていることがより好ましい。発熱体40は、導電性を有しており、その材質は特に限定されない。例えば、発熱体40には、白金、白金合金、ニッケル合金、クロム合金及びニッケルクロム合金等を用いることができる。これらのうちでは、抵抗温度係数が大きく、長期の繰り返し使用においても抵抗値及び抵抗温度係数が変化し難い白金又はニッケルクロム合金を発熱体40に用いることが好ましい。
【0037】
電極部50(1以上の電極対70)は、絶縁層35の表面に設けられている。第1電極71の一端及び第2電極72の一端は、ナノギャップを形成するように対向して配置されている。本第1実施形態において、ナノギャップとは、第1電極71の一端と第2電極72の一端との間の距離が100nm以下であるものをいう。
【0038】
第1電極71及び第2電極72は、一種又は複数種の金属により形成される。第1電極71及び第2電極72を構成する金属として、金(Au)、白金(Pt)等の金属が挙げられる。第1電極71及び第2電極72は、例えば、下層電極と上層電極の2層構造になっている。例えば、下層電極がチタン(Ti)で構成され、上層電極が白金(Pt)で構成される。
【0039】
第1電極71及び第2電極72には、外部回路から電力を供給するためのリード部(図示略)が、電極用コンタクト部(図示略)を介して接続されている。電極用コンタクト部の表面には、コンタクトパッド(図示略)が設けられている。
【0040】
感応膜60は、第1電極71の上面、第2電極72の上面、絶縁層35の上面に設けられている。感応膜60は、電極対70における第1電極71と第2電極72との間に配されている。感応膜60は、金属酸化物からなることが好ましい。感応膜60は、酸化物半導体からなることが好ましい。酸化物半導体は、n型半導体であることが好ましい。n型半導体は、抵抗値が変化し易いSnO、ZnO、In、Fe、ITO(スズドープインジウム)、WOであることが好ましい。
【0041】
感応膜60は、緻密体であることが好ましい。緻密体とは、気孔率が10%未満である物体である。感応膜60の表面は、例えば図4に示すような緻密体の表面となっている。感応膜60を緻密化することで、空乏層での電子の移動が容易になり、出力部90から出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0042】
感応膜60を構成する少なくとも一部の粒子間は、電気的に結合(結着)している。粒子間が電気的に結合しているとは、端部を除いた、少なくとも粒子の表面積の半分以上が自身以外の他の粒子の表面と接し、粒子内を伝導した電子が伝導するパスが粒子の表面積の半分以上形成されている状態と定義する。粒子間が電気的に結合していることで、粒子同士で電気が流れる状態(通電可能な状態)となる。感応膜60を構成する粒子間が電気的に結合することで、粒子間の接触抵抗を低減することができ、空乏層での電子の移動が容易になる。
【0043】
電圧印加部80は、電極部50に対して第1電極71側と第2電極72側との間に電圧を印加する。電圧印加部80は、例えば、電源から供給される電力に基づいて電極部50に電圧を印加する動作を行う電圧制御回路(定電圧回路等)と、電圧制御回路を制御する制御部(CPU等)と、を有している。
【0044】
出力部90は、電極部50を用いて検出されるガス濃度を電気信号として出力する。出力部90は、電気信号を増幅させる増幅器等を有していてもよい。
【0045】
ガスセンサ10の検知ガスは、可燃性であることが好ましい。可燃性ガスでガスセンサ10の抵抗を変化させることができる。可燃性ガスは、ケトン類(アセトン等)、アルコール類(エタノール等)、一酸化炭素、窒素酸化物(NO、NO)、アルデヒド類(アセトアルデヒド等)、硫化物ガス(硫化水素等)、VOCガス類(トルエン等)が好ましい。
【0046】
ガスセンサ10は、抵抗測定型又はインピーダンス測定型であることが好ましい。
【0047】
1-2.電極部における電気的な指標の条件
ガスセンサ10において、電極部50における電気的な指標について説明する。電圧印加部80によって電極部50に印加される電圧Vを電極間体積で除算した除算値を、電極部50における電気的な指標(以下、単に指標ともいう)Xとする。電極間体積Bは、電極間距離Dと電極面積Sとの積である。すなわち、以下の式(1)で指標Xが表される。
X=V/B=V/(D×S) …式(1)
例えば、図5に示す電極対70が1つの場合の例では、第1電極71と第2電極72の間の空間SPの体積が電極間体積Bに相当する。
【0048】
電極間距離Dは、電極部50が1つの電極対70によって構成されている場合には、その電極対70を構成する第1電極71と第2電極72との第1方向における距離(最短距離)である。一方で、電極間距離Dは、電極部50が1つの電極対70によって構成されている場合には、全ての電極対70における第1電極71と第2電極72との第1方向における距離(最短距離)のうちで最小のものである。
【0049】
電極面積Sは、電極部50が1つの電極対70によって構成されている場合には、その電極対70の一方の電極(例えば第1電極71)の電極面積である。一方で、電極面積Sは、電極部50が複数の電極対70によって構成されている場合には、全ての電極対70の一方の電極(例えば第1電極71)の電極面積の総和である。
【0050】
各電極部50における電極面積の具体的な導出方法について説明する。まず、1つの第1電極71を選択(電極対70が1つのみの場合はその電極対70の第1電極71を選択)し、切断面を設定する。例えば、上記電極間距離Dが特定された電極対70の第1電極71を選択する。例えば、基板20の板面に直交し、且つ選択した第1電極71の一端(第2電極72側の端部)に対して他端(第2電極72とは反対側の端部)側に10nm以上100nm以下に含まれるいずれかの距離(好ましくは25nm)離れた位置を通る面を、電極部50の切断面とする。図3の例では、A-A断面が切断面となる。切断面に現れる各第1電極71の面積を電極面積とする。電極面積Sは、全ての第1電極71を第1方向において10nm以上100nm以下のいずれかの位置で切断した切断面での全ての第1電極71の断面の総面積である。
【0051】
切断面に現れる電極面積の測定方法の一例を説明する。第1電極71の切断面において、第1電極71の側面と交わり且つ基板20の板面に平行な直線と切断面とが重なる長さが最短となる長さを、第1電極71の幅Wとする。ここで、側面は、切断面の左右両側で、基板20の板面に直交する直線(直交線ともいう)に対して45°以下の傾きとなる部分と、その下方にある部分である。また、切断面の左右両側が湾曲している場合には、湾曲部分の接線が直交線に対して45°以下の傾きとなる部分である。また、第1電極71の切断面において、第1電極71の上面と交わり且つ直交線と切断面とが重なる長さが最短となる長さを、第1電極71の高さHとする。第1電極71の幅Wと高さHの積を、第1電極71の切断面に現れる電極面積とする。ここで、上面は、切断面の左右方向中央側にあり、側面以外の部分である。
【0052】
例えば、図6(A)に示すような第1電極71の切断面では、基板20の板面に平行な直線L1が、切断面との重なりが最短となり、その重なり長さW1が幅である。また、基板20の板面に直交する直線L2が、切断面との重なりが最短となり、その重なり長さH1が高さである。同様に、図6(B)に示すような第1電極71の切断面では、基板20の板面に平行な直線L3が、切断面との重なりが最短となり、その重なり長さW2が幅である。また、基板20の板面に直交する直線L4が、切断面との重なりが最短となり、その重なり長さH2が高さである。同様に、図6(C)に示すような第1電極71の切断面では、基板20の板面に平行な直線L5が、切断面との重なりが最短となり、その重なり長さW3が幅である。また、基板20の板面に直交する直線L6が、切断面との重なりが最短となり、その重なり長さH3が高さである。
【0053】
なお、電極面積Sは、複数の第1電極71のうちの所定数(例えば100個等)の第1電極71を選択し、選択した第1電極71の断面積の平均値を取り、得られた平均値を電極部50に含まれる第1電極71の数で積をとることで求めてもよい。
【0054】
電極部50における指標(式(1)で表される指標X)は、4.2×1016V/mより大きく2.0×1025V/m以下であり、6.0×1019V/m以上2.0×1025V/m以下であることが好ましく、6.0×1020V/m以上2.0×1025V/m以下であることがより好ましい。このような構成により、出力部90によって出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0055】
1-3.電極面積の条件
上記電極面積Sは、2.5×10-15以上2.1×10-11以下であり、2.1×10-14以上2.1×10-12以下であることが好ましい。なお、電極面積Sは、電極部50が1つの電極対70によって構成されている場合には、その電極対70の第1電極71であり、電極部50が複数の電極対70によって構成されている場合には、全ての電極対70における第1電極71の電極面積の総和である。このような構成により、出力部90によって出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0056】
1-4.電極間距離の条件
電極部50における全ての電極対70のうちで最小となる電極間距離は、5nm以上100nm以下であることが好ましい。このような構成により、電極間でトンネル電流効果が得られ、出力部90から出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)をより一層向上できる。
【0057】
1-5.第1電極の幅の合計値の条件
電極部50における全ての電極対70における第1電極71の幅Wの合計値(電極対70が1つである場合は1つの第1電極71の幅W)は、20nm以上であることが好ましい。このような構成によって、電子移動の抵抗値を低下させることができ、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0058】
1-6.ガスセンサの製造方法
本発明を具体化したガスセンサ10の製造方法について図7図8を参照して説明する。
ガスセンサ10の製造方法は、基板20にリフトオフ法により電極部50を形成する工程と、電極部50のギャップ部分に感応膜60を形成する工程と、を含む。
【0059】
まず、洗浄された基板20(シリコンウエハ)に絶縁層31,33,35及び発熱体40を形成する。洗浄した基板20を、熱処理炉に収容して熱酸化処理により、絶縁層31(第1の絶縁層)となる酸化ケイ素膜(図7(A)参照)を基板20の全面に形成する。なお、図7(A)~(C)、図8(A)~(D)では、基板20の上面側の構成のみを図示し、絶縁層32,34の形成の説明については省略する。続いて、例えばSiH及びNHをソースガスとしたプラズマCVDによって、図7(A)に示すように、絶縁層31上に窒化ケイ素膜を形成し、絶縁層33(下部絶縁層)とする。その後、図7(B)に示すように、絶縁層33の表面に、例えばスパッタリング法により発熱体40を形成する。例えば、発熱体40は、Ti層と、その上のPt層とから構成される。次いで、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行ってエッチング処理により発熱体40のパターンを形成する。
【0060】
発熱体40の形成方法は、特に限定されず、例えば、発熱体40となる成分を絶縁層33の表面に付着堆積させ、その後、空間部21の形成方法において例示された方法と同様な各種のエッチング方法により不必要な部位を除去する。次いで、図7(C)に示すように、その表面に例えば窒化ケイ素膜である絶縁層35を形成し、絶縁層35(上部絶縁層)とする。このようにして、絶縁層33,35(第2絶縁層)と、絶縁層33,35(第2絶縁層)の内部に配設された発熱体40を形成する。なお、基板20の表面に絶縁層31~35となる成分を付着堆積させて形成することもでき、予め形成しておいた絶縁層を基板の表面に貼合して形成することもできる。
【0061】
続いて、図8(A)に示すように、絶縁層35上にフォトレジスト組成物をスピンコートで塗布し、乾燥させることでレジスト膜37を形成する。なお、図8(A)~(D)では、絶縁層35及び発熱体40よりも下側の構成の図示を省略している。レジスト膜37は、例えば20nm~40nmの厚さで形成する。レジスト膜37は、電子ビーム露光用のフォトレジスト組成物によって形成する。マスクパターンは、レジスト膜37を電子ビームリソグラフィにより露光し、現像することにより作製する。マスクパターンは、電極対70のギャップ長が例えば20nmとなるように形成する。
【0062】
続いて、図8(B)に示すように、金属膜70Aを、絶縁層35及びレジスト膜37の表面の略全体を覆うように形成する。金属膜70Aは、金(Au)または白金(Pt)を用いる。金属膜70Aの厚さは、5nm~20nmが好ましく、例えば15nmで形成する。このような金属膜70Aは、例えば電子ビーム蒸着法により形成する。マスクパターンを剥離して、同時にその部分に重なる金属膜70Aを除去する。これにより、図8(C)に示すように、金属膜70Aが積層された電極部50(複数の電極対70)が形成される。例えば、電極対70における電極間距離(ナノギャップ長)は、例えば20nmである。第1電極71の幅は、例えば15nmとなるように形成する。電極対70の形成は、上記の電子ビームリソグラフィの手法の他に、原版となるモールド(金型)を型押しすることによりレジストにパターンを転写するナノインプリントリソグラフィの手法を用いてもよい。なお、電極の形成後、真空中でアニール処理(例えば360℃の熱処理)を行ってもよい。
【0063】
図1に示すように、基板20に空間部21を設ける場合には、例えば、基板20の一部をエッチングによって除去することにより形成することができる。この際、エッチング方法は、特に限定されず、ウェットエッチング法、ドライエッチング法を用いてもよい。また、エッチング方法は、異方性エッチングでもよく、等方性エッチングでもよい。なお、基板20に空洞を形成する場合は、異方性エッチング液を用いたウェットエッチング法が好ましい。
【0064】
続いて、図8(D)に示すように、第1電極71の上面、第2電極72の上面、絶縁層35の上面に、感応膜60を形成する。感応膜60は、物理気相成長法(PVD法)又は化学気相成長法(CVD法)によって成膜することが好ましい。物理気相成長法(PVD法)として、スパッタリング法が挙げられる。感応膜60は、例えばスパッタ用の酸化スズ(SnO)ターゲットを用いて、RFスパッタリング装置によって成膜される。
【0065】
感応膜60に対して、成膜後に加熱処理を施してもよい。これにより、感応膜60に含まれる粒子同士が結着し、緻密な感応膜60が形成される。このときの熱処理は、ガスセンサに設置されているヒータ(発熱体40)を用い、通電により温度を変化させる。これにより、感応膜60を構成する粒子間で結合し易くなり、粒子間の接触抵抗を低減することができ、空乏層での電子の移動が容易になる。
【0066】
1-7.第1実施形態の効果
次の説明は、本構成の効果の一例に関する。
第1実施形態のガスセンサ10は、第1方向における第1電極71と第2電極72との間の電極間距離Dと第1電極71の第1方向と直交する切断面での電極面積Sとの積を電極間体積Bとした場合に、電圧印加部80によって電極部50に印加される電圧を電極間体積Bで除算した除算値(指標X)は、4.2×1016V/mより大きく2.0×1025V/m以下である。電極面積Sは、2.5×10-15以上である。この構成によれば、電極部50に印加される電圧を電極間体積Bで除算した除算値を4.2×1016V/mより大きく2.0×1025V/m以下とし、電極面積Sを2.5×10-15以上とすることで、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0067】
第1実施形態のガスセンサ10は、4以上の電極対70を有し、各電極面積の総和である電極面積Sが2.5×10-15以上となるような構成として、電極面積Sが従来技術に比べて大きくなる。これにより、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0068】
第1実施形態のガスセンサ10は、除算値を6.0×1019V/m以上2.0×1025V/m以下とすることで、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)をより一層向上できる。
【0069】
第1実施形態のガスセンサ10は、電極部50における全ての電極対70のうちで最小となる電極間距離が5nm以上100nm以下である。これにより、電極間でトンネル電流効果が得られ、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)をより一層向上できる。
【0070】
第1実施形態のガスセンサ10は、電極部50における全ての電極対70における第1電極71の幅の合計値が、20nm以上である。これにより、電極間の抵抗値を低下させることができ、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)をより一層向上できる。
【0071】
第1実施形態のガスセンサ10において、感応膜60が緻密体である。これにより、空乏層での電子の移動が容易になり、出力される電気信号の応答速度(立ち上がりの速度と戻りの速度)を向上できる。
【0072】
第1実施形態のガスセンサ10において、感応膜60を構成する少なくとも一部の粒子間が電気的に結合している。これにより、感応膜60を構成する粒子間が通電可能に結合することで、粒子間の接触抵抗を低減することができ、空乏層での電子の移動が容易になる。
【0073】
第1実施形態のガスセンサ10の製造方法は、感応膜60を、物理気相成長法又は化学気相成長法によって成膜する。これにより、均質な感応膜60を形成することができ、電気信号の安定した出力が可能となる。
【0074】
第1実施形態のガスセンサ10の製造方法は、感応膜60に対して、成膜後に加熱処理を施す。これにより、感応膜60を構成する粒子間で結合し易くなり、粒子間の接触抵抗を低減することができ、空乏層での電子の移動が容易になる。
【実施例0075】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
1.ガスセンサの製造
表1に示す実験例1-6、比較例1,2のガスセンサは、以下で説明する工程によって製造した。実験例1-6が、実施例に相当する。
実験例1-6、比較例1,2のガスセンサは、3mm×5mmのシリコン基板(以下、単に基板ともいう)を用いた。基板の表裏面に、絶縁層を形成した。絶縁層は、酸化ケイ素(SiO)により形成された第1の絶縁層と、第1の絶縁層の表面に積層され、窒化ケイ素(Si)により形成された第2の絶縁層とからなる。
【0076】
【表1】
【0077】
基板には、絶縁層が形成されている側の面に開口するように空間部が形成されており、空間部の開口部の面積は1mmであった。絶縁層の内部には、空間部に対応する位置に発熱体が形成されている。この発熱体には、給電のための発熱体用リード部(図示略)が接続されている。発熱体用リード部は、外部回路と接続するためのコンタクト部を有している。発熱体及び発熱体用リード部は、Pt層とTi層とからなる2層構造である。
【0078】
絶縁層の表面には、発熱体に対応する位置に一対又は複数対の電極が形成されている。絶縁層の表面の発熱体に対応する位置には、感応膜が形成されている。感応膜は、電極の上面に接するように絶縁層の表面に形成されている。電極には、電極用リード部が接続されている。電極用リード部は、外部回路と接続するための電極用コンタクト部を有している。
【0079】
実験例1-6の電極は、絶縁層の表面に形成された下層電極と、この下層電極の上面に形成された上層電極と、を有する。下層電極は、Tiからなる。上層電極は、Ptからなる。下層電極の厚さは、3nmである。上層電極の厚さは、10nmである。
比較例1,2の電極は、絶縁層の表面に形成された下層電極と、この下層電極の上面に形成された上層電極と、を有する。下層電極は、Tiからなる。上層電極は、Ptからなる。下層電極の厚さは、20nmである。上層電極の厚さは、40nmである。
【0080】
(1)基板の洗浄
厚さ400μmのシリコン基板を、洗浄液に浸漬し、洗浄処理を行った。
【0081】
(2)絶縁層の形成
洗浄したシリコン基板を、熱処理炉に収容し、熱酸化処理により絶縁層(第1の絶縁層)となる厚さ100nmの酸化ケイ素膜を基板の全面に形成した。
【0082】
(3)絶縁層及び発熱体(発熱体用リード部を含む)の形成
SiH及びNHをソースガスとしたプラズマCVDによって、基板の第1の絶縁層上に窒化ケイ素膜を形成した。基板の一方側の面(上面)に、厚さ400nmの窒化ケイ素膜を形成して、絶縁層(下部絶縁層)とした。基板の他方側の面(下面)に、厚さ200nmの窒化ケイ素膜を形成して、絶縁層(下部絶縁層)とした。その後、第2の絶縁層の表面に、DCスパッタリング装置により発熱体を形成した。具体的には、第2の絶縁層の表面に厚さ25nmのTi層を形成し、更にこのTi層の表面に厚さ250nmのPt層を形成することで発熱体を形成した。次いで、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行ってエッチング処理により発熱体のパターンを形成した。その後、第2の絶縁層のうちの上部絶縁層となる厚さ400nmの窒化ケイ素膜を、下部絶縁層の場合と同様の方法で形成した。このようにして、第2絶縁層、及び第2絶縁層の内部に配設された発熱体を形成した。
【0083】
(4)発熱体用コンタクト部の形成
ドライエッチング法により、絶縁層のエッチングを行って発熱体用コンタクト部に対応する部分を穿孔し、発熱体用コンタクト部となる部位(発熱体の一部)を露出させた。その後、DCスパッタリング装置により、厚さ20nmのTi層を形成し、次いで、厚さ40nmのPt層を形成し、スパッタリング後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行って、発熱体用コンタクト部を形成した。
【0084】
(5)コンタクトパッドの形成
DCスパッタリング装置を用いて、基板に厚さ50nmのCr層を形成し、その表面に厚さ1μmのAu層を形成した。その後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、エッチング処理により電極用コンタクト部及び発熱体用コンタクト部の表面に各々のコンタクトパッドを形成した。
【0085】
(6)空間部の形成
基板をTMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)溶液に浸漬し、シリコンの異方性エッチングを行い、発熱体と対応する位置に空間部を形成した。空間部は、絶縁層が形成されている面が開口するように形成した。
【0086】
(7)感応膜の形成
ナノギャップ電極のナノギャップ部分に設ける金属酸化物のナノ粒子として、酸化スズ(SnO)を用いた。スパッタ用の酸化スズターゲットを用いて、RFスパッタリング装置にて成膜した。基板を280℃に加熱しながら、マスクで感応膜を形成する部分以外にスパッタされないようにし、酸化スズのスパッタを行い、感応膜を形成した。このとき、膜厚が20nm又は200nmの膜を形成した。形成された感応膜を観察したSEM(走査電子顕微鏡)像を図4に示す。図4から分かるように、感応膜は、粒同士が結着し、気孔率10%以下の緻密な膜であることがわかる。感応膜は、電気的に結合(結着)している。
【0087】
なお、更に緻密な感応膜を生成させるために、更に結着処理(熱処理)を行っても良い。このときの熱処理は、ガスセンサに設置されているヒータ(発熱体40)を用い、通電により温度を上げて、清浄空気中で300℃~600℃で10分~5時間加熱することで行った。なお、酸化スズが還元されないように、酸素が共存すれば良く、雰囲気はボンベ等から生成された模擬ガスでも良い。
【0088】
2.ガスセンサの評価方法
製造したガスセンサについて、図9に示すガスセンサ評価装置100で評価した結果を、表1に示す。ガスセンサ評価装置100は、センサ評価部101と、マスフローコントローラ102,103と、を備えている。センサ評価部101は、例えばガスセンサ10の出力部90から出力される電気信号が入力され、評価が行われる。実験例1-6では、電界強度が大きすぎないように、電極対が580対のものを用いた。実験例1-6のガスセンサは、電極間距離(最短の電極間距離)が20nmであり、第1電極の高さが13nmであり、第1電極の幅が27.5nmであった。ここでいう第1電極の高さ及び幅は、後述するように、580対の電極対のうち100個の電極対をランダムに選定し、その平均値を用いた。上層電極のPtの高さは、10nmであり、下層電極のTiの高さは、3nmであった。Ptの高さ及びTiの高さは、後述するように、580対の電極対のうち100個の電極対をランダムに選定し、その平均値を用いた。比較例1,2のガスセンサは、電極間距離が20μmであり、第1電極の高さが60nmであり、第1電極の幅が50μmであった。上層電極のPtは、高さが40nmであり、下層電極のTiは、高さが20nmであった。
【0089】
なお、電極間距離(最短の電極間距離)は、電極部が形成された状態で、SEM(走査電子顕微鏡)で平面観察して測定した。実験例1-6では、第1電極の切断面における幅及び高さとして、580対の電極対のうち100個の電極対をランダムに選定し、その平均値を用いた。切断面は、鏡面研磨して、SEM(走査電子顕微鏡)で観察して測定した。
【0090】
検知ガスとして、アセトンを用いた。ベースガスとして精製空気と、2000ppm/Nバランスボンベ(高千穂工業製)を用いて、アセトンを所望の濃度(ここでは4、10、100ppm)となるようにマスフローコントローラ102,103を用い、精製空気と混合させて測定した。測定流量は200sccmである。測定雰囲気をガスセンサに設置したヒータ(発熱体)を用いて、ガスセンサの温度が250℃になるように電力制御を行った。ヒータ温度の制御は、あらかじめ算出されたヒータ温度とヒータ抵抗の相関を用いて、ヒータ抵抗値に応じた電力を供給し制御した。アセトンを投入したときの応答性測定した結果を図10に示す。ベース抵抗は素子によって異なるが、ベース抵抗と感度はベース抵抗の値を1となるように規格化した。測定は、実験例1,4,比較例1,2で、電極間に2.5Vの電圧を印加し行った。
【0091】
図10(A)は、比較例2のガスセンサにおける出力の時間変化を示す説明図であり、図10(B)は、実験例4のガスセンサにおける出力の時間変化を示す説明図である。比較例2のガスセンサに比べ、実験例4のガスセンサは、アセトンを投入するとセンサ抵抗が応答性良く下がり、また大気に戻したときの応答性も早いことがわかる。ガスセンサに供給する気体は、大気、アセトン4ppm、大気、アセトン10ppm、大気、アセトン100ppmの順である。濃度に応じてガスセンサの出力電圧が変化している。センサ抵抗の変化は、測定回路を用いて抵抗値の変化を電圧変換した値(抵抗値に応じた値の電圧)として出力することができる。図10において、Vaが規格化されたベース抵抗であり、Vgがベース抵抗からの感度発現時の変化抵抗値である。
【0092】
立ち上がり時間、戻り時間において、T90とは、初期値(感度が飽和した時の値)を100%とし、90%に到達するまでの時間である。T50についても同様であり、初期値(感度が飽和した時の値)を100%とし、50%に到達するまでの時間である。実験例4において、立ちあがり応答性(T90応答速度)は、感度発現時においては5秒以内、回復においても15秒で元の値に戻っていた。これは、電極間の電界強度が強いことに起因すると考えられる。
【0093】
実験例4において、電極部の印加電圧が2.5Vであり、電界強度が6.0×1020V/mとなる。一方で、比較例1,2では、電極間距離が20μmであり、立ち上がりの応答(T90応答速度)が30秒であり、比較的早く、測定時間内に出力がベース抵抗(Va)まで戻らず、T50が300秒以上であり、回復特性が非常に悪いことが分かる。これは、比較例1,2においては、実験例1-6と異なり、電界強度が低いことに起因していると考えられる。比較例1,2の電界強度は、第1電極の高さが60nm、第1電極の幅が50μmであることから、4.2×1016V/mとなる。ここで、SnOの膜厚は、200nmであった。
【0094】
実験例2,5では、電極部の印加電圧が0.25Vであり、実験例3,6では、電極部の印加電圧が0.025Vである。表1に示すように、0.025Vまで印加電圧を低下させると、出力の戻りが若干悪くなっていることが分かる。すなわち、この試験により、電界強度は6.0×1018V/m以上であることが好ましいことが分かる。
【0095】
実験例1-6で測定される電流のガス濃度依存性は、酸化スズの酸素空孔の濃度がガスにより変化していることを示す。すなわち、図11(A)から図11(B)への変化のように、ガスセンサが被検ガスに暴露された低酸素分圧の下では、酸化スズの空乏層の幅が低酸素分圧下においてL1からL2に減少し、電子移動が容易にできるため、抵抗が低下したと考えられる。
【0096】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上述した実施形態や後述する実施形態の様々な特徴は、矛盾しない組み合わせであればどのように組み合わされてもよい。
【0097】
上記第1実施形態では、第1電極71の切断面の面積の測定方法として、切断面の幅Wと高さHを測定する方法を例示したが、その他の方法を用いてもよい。例えば、解析ソフト等を用いて切断面の面積を測定してもよい。
【0098】
上記第1実施形態では、電極間距離Dとして、複数の電極対のうち電極間の距離(最短距離)が最小のものを採用したが、複数の電極対のうちの全ての電極間の距離(最短距離)の平均、あるいは複数の電極対のうちの所定数の電極間の距離(最短距離)の平均を用いてもよい。
【0099】
上記第1実施形態では、第1電極71の一端(第2電極72側の端部)から10nm以上100nm以下に含まれるいずれかの距離離れた位置を通る面を切断面とし、その切断面について指標X及び電極面積の条件を規定したが、10nm以上100nm以下のいずれにおける切断面においても上記指標X及び上記電極面積の条件を満たす構成としてもよい。
【0100】
上記第1実施形態では、電極面積Sとして、複数の第1電極71のうちの所定数(例えば100個等)の第1電極71の断面積の平均値を算出し、第1電極71の数で積をとることで求めたが、平均値をとることなく全ての第1電極71の断面積をそのまま総和を取って電極面積Sとしてもよい。
【0101】
上記第1実施形態では、第1電極71及び第2電極72の材質として、金(Au)、白金(Pt)、チタン(Ti)を例示したが、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)のように触媒活性が高いものであってもよい。
【0102】
上記第1実施形態では、発熱体40及び電極部50は、それぞれ絶縁層33及び絶縁層35の上に形成したが、酸化シリコン(SiO)膜や、アルミナ(Al)膜などの絶縁膜上に形成してもよい。
【0103】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0104】
10…ガスセンサ
20…基板
21…空間部
22…開口部
31~35…絶縁層
37…レジスト膜
40…発熱体
50…電極部
60…感応膜
70…電極対
70A…金属膜
71…第1電極
72…第2電極
80…電圧印加部
90…出力部
100…ガスセンサ評価装置
101…センサ評価部
102,103…マスフローコントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11