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  • 特開-放熱シミュレーション用装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162957
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】放熱シミュレーション用装置
(51)【国際特許分類】
   G09B 25/00 20060101AFI20231101BHJP
   G01N 25/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G09B25/00 Z
G01N25/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073685
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古▲高▼ 啓介
(72)【発明者】
【氏名】小松 陽子
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB13
2G040BA14
2G040BA25
2G040CA01
2G040DA02
2G040EA02
2G040EC07
2G040FA07
2G040GA06
(57)【要約】
【課題】人体の形状を模擬しつつ、有風下においても試料内の乱気流が生じにくい、簡易に熱流体シミュレーションを行い得る放熱シミュレーション用装置を提供することを目的とする。
【解決手段】温度制御可能な第1装置Jと、模擬皮膚1とを含み、前記第1装置の表面は筒状の第1領域を含み、前記第1装置は前記第1領域に液状物質を吐出し、前記模擬皮膚は、前記第1領域を覆うように設けられ、前記液状物質が拡散される、放熱シミュレーション用装置100。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度制御可能な第1装置と、模擬皮膚とを備え、
前記第1装置の表面は筒状の第1領域を含み、前記第1装置は前記第1領域に液状物質を吐出し、
前記模擬皮膚は、前記第1領域を覆うように設けられ、前記液状物質が拡散される、
放熱シミュレーション用装置。
【請求項2】
前記第1領域の筒軸方向での両端における前記第1装置の外径が同一である、請求項1に記載の放熱シミュレーション用装置。
【請求項3】
前記模擬皮膚を筒状に覆うように模擬衣服を支持する支持具をさらに備え、
前記模擬衣服が前記支持具により支持される際、前記模擬衣服の筒軸方向において、前記模擬衣服の両端はそれぞれ、前記第1領域の両端と同一の位置にある、
請求項1または2に記載の放熱シミュレーション用装置。
【請求項4】
前記模擬皮膚を筒状に覆うように模擬衣服を支持する支持具をさらに備え、
前記模擬衣服が前記支持具により支持される際、前記模擬皮膚のいずれの箇所についても、当該箇所と前記模擬衣服との間の最短の距離が同一の第1距離である、
請求項1または2に記載の放熱シミュレーション用装置。
【請求項5】
前記第1距離は0.1~5.0cmである、請求項4に記載の放熱シミュレーション用装置。
【請求項6】
前記第1装置は、前記第1領域に、前記液状物質を吐出する複数の発汗孔を有し、
前記複数の発汗孔は各々、0.1~2.0mmの内径を有し、
前記複数の発汗孔は、前記第1領域に0.01~0.1個/cmの密度で存在する、
請求項1または2に記載の放熱シミュレーション用装置。
【請求項7】
前記第1領域の筒軸方向での長さが20~60cmであり、前記第1領域の前記筒軸方向での少なくとも一方の端の周長が20~75cmである、
請求項1または2に記載の放熱シミュレーション用装置。
【請求項8】
前記第1装置は、温度制御可能な第2装置と、前記液状物質を吐出する第3装置とを含み、
前記第2装置の表面は筒状の第2領域を含み、前記第3装置は前記第2領域を覆うように設けられる、
請求項1または2に記載の放熱シミュレーション用装置。
【請求項9】
前記第1装置に前記液状物質を送る送水機構、および、前記第1装置の温度制御のための産熱制御機構をさらに備える、請求項1または2に記載の放熱シミュレーション用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服を着用した人が発汗する状態を模擬したシミュレーションを行う装置に関する。より詳細には、例えば風の吹く環境にて衣服を着用した人が汗をかく状態を模擬する装置であって、衣服内の環境に係る熱流体シミュレーションを行い得る装置に関する。熱流体シミュレーションでは、人の発汗時の衣服内部の環境が模擬されつつ、気流および熱の移動の計算等に関して模擬実験が行われ、有風下で発汗時の人体からの放熱量の予測が行われ得る。
【背景技術】
【0002】
人体の発汗状態等を模擬し、衣服の使用状態に即したシミュレーションを行う方法が知られている。例えば、特許文献1は、人体の発汗の模擬のための複数の孔を有する平板型の熱板を有する装置であって、当該熱板へ送水することで衣服内の気候をシミュレーションすることのできる装置を開示している。さらに、特許文献2は、人体の形状を模擬した発汗装置を開示しており、当該装置によると、例えば人体にあたる風により影響を受ける衣服内気候がより正確に模擬されたシミュレーションが可能となる。当該衣服内気候は、衣服の外側にあたった風が衣服に沿って流れること、ならびに、襟および裾等の通気により衣服内に入った風が人体に沿って流れることにより、影響を受ける。特許文献3も同様に、人体の形状を模擬した発汗装置を開示しており、当該装置は、人に近い発汗状態を模擬する模擬発汗機構と、該発汗機構を上下および前後等に回転稼動させ人が動いている状態を模擬する稼動機構とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-49311号公報
【特許文献2】特開2003-50541号公報
【特許文献3】特開2008-20466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような人体の形状を模擬する従来の装置では、人体の形状を模しているために凹凸部があり、衣服を模擬する試料内に風が入る際に当該凹凸部が原因で試料内に生じる乱気流が、熱流体シミュレーションを複雑化していた。すなわち、有風下で発汗状態における人体の衣服着用時の放熱量を予測するための熱流体シミュレーションは難しかった。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明は、人体の形状を模擬しつつ、有風下においても試料内の乱気流が生じにくい、簡易に熱流体シミュレーションを行い得る放熱シミュレーション用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
温度制御可能な第1装置と、模擬皮膚とを含み、前記第1装置の表面は筒状の第1領域を含み、前記第1装置は前記第1領域に液状物質を吐出し、前記模擬皮膚は、前記第1領域を覆うように設けられ、前記液状物質が拡散される、放熱シミュレーション用装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、発汗を模擬している際の試料と模擬皮膚との間の微小空間の乱気流を抑えつつ簡易に熱流体シミュレーションが行われ得、ゆえに、有風下で発汗時の人体からの放熱量の予測が簡易に行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る放熱シミュレーション用装置の構成の一例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願の第1実施形態に係る放熱シミュレーション用装置を詳述する。
【0010】
[第1実施形態]
<放熱シミュレーション用装置>
図1は、本願の第1実施形態に係る放熱シミュレーション用装置100の構成の一例を模式的に示す。放熱シミュレーション用装置100(以下、単に装置100とも称され得る。)は、着衣した人が例えば有風下で発汗した状態を模擬的に再現可能であり、発汗時の人体からの放熱量を予測する熱流体シミュレーションを簡易に行うことが可能である。
【0011】
装置100は、例えば、産熱発汗機構A、送水機構B、産熱制御機構C、下部支持具D、および上部支持具Eを含む。図1では、装置100とは別個に設けられ装置100に送風する送風機構Fが示されているが、送風機構Fも装置100に含まれるものであってもよい。さらに、図1では、装置100とは別個の試料Gも示されているが、試料Gも装置100に含まれるものであってもよい。
【0012】
産熱発汗機構Aは、人体を模擬したものであり、より具体的には、人の体温を模擬するように産熱し得、また、人体による発汗を模擬するように動作し得る。当該発汗の模擬のため、産熱発汗機構Aには複数の孔(以下、発汗孔とも称され得る。)Hが設けられている。
【0013】
送水機構Bは、当該複数の発汗孔Hに送水する。当該送水により、産熱発汗機構Aによる発汗の模擬が実現され得る。当該送水の方法としては、チューブポンプを用いて送水する方法が、微量の水を精度良く吐出することが可能であり、かつ、取扱いも容易であるため、適している。本実施形態では、当該複数の発汗孔Hに水が送られて、当該複数の発汗孔Hが水を吐出するものとして説明するが、本実施形態はこれに限定されない。このように送られ吐出される水には不純物が含まれていてもよい。例えば実際に人体の発汗を模擬するように水に他の物質を加えた液状物質が用いられてもよい。
【0014】
産熱制御機構Cは産熱発汗機構Aに電力を供給する。当該電力の供給により、産熱発汗機構Aによる産熱が実現される。より具体的には次のとおりである。産熱制御機構Cは、温度制御用の温度センサを用いて、産熱発汗機構Aに係る温度を検知する。例えば、産熱発汗機構A中の後述する基体の温度が検知される。産熱制御機構Cは、例えば、当該温度が設定値で一定になるように、産熱発汗機構Aに電力を供給する。あるいは、産熱制御機構Cは、一定の電力を産熱発汗機構Aに供給する。
【0015】
下部支持具Dは試料Gを支持する。試料Gは、例えば衣服を模擬したものである。上部支持具Eは、例えば上部から試料Gを吊り下げることにより支持する。下部支持具Dと上部支持具Eとのうちの少なくとも一方により、試料Gが保持され得る。図1では、装置100が下部支持具Dと上部支持具Eとを含む場合の例が示されているが、装置100は、下部支持具Dと上部支持具Eとの両方を必ずしも含まなくてもよい。例えば、下部支持具Dで支持することにより自立可能な硬さを有するフィルム等が試料Gとして用いられる場合には、下部支持具Dのみが設けられていればよい。下部支持具Dで支持するだけでは自立が難しい生地等が試料Gとして用いられる場合には、例えば上部支持具Eが設けれている。
【0016】
<産熱発汗機構>
以下、産熱発汗機構Aの形状について説明した後に、産熱発汗機構Aの構成をより詳細に説明する。後述するように、産熱発汗機構Aは、例えば、模擬皮膚1、基体2、および産熱体3を含む。基体2および産熱体3に対して模擬皮膚1の厚さは例えば殆どないに等しい。このため、以下で説明する産熱発汗機構Aの形状に関係する説明は、基体2と産熱体3との組み合わせからなる装置(以下、産熱発汗部Jとも称され得る。)についての説明に読み替え可能である。なお、産熱発汗部Jは第1装置とも称され得る。
【0017】
産熱発汗機構Aは、例えば円柱形の形状を有する。当該円柱形の形状では、少なくとも一方の底面と側面とがなす角が直角となっている。円柱形の形状では、当該形状の側面において、人体形状のような凹凸部を少なくすることができ、ゆえに、例えば、産熱発汗機構Aの円柱形の側面と試料Gとの間の微小な空間における乱気流が抑えられる。ここで、直角とは前記少なくとも一方の底面と側面とのなす角度が90度のみならず、85~95度の範囲を含むものであってもよい。例えばシミュレーション結果の正確性が向上することから、前記角度は86度以上であることが好ましく、より好ましくは87度以上であり、さらに好ましくは88度以上であり、よりさらに好ましくは89度以上である。また、同様の理由から、前記角度は、94度以下であることが好ましく、より好ましくは93度以下であり、さらに好ましくは92度以下であり、よりさらに好ましくは91度以下であり、特に好ましくは90度である。
【0018】
産熱発汗機構Aの円柱形状では、例えば、一方の底面積と他方の底面積が等しい。等しくすることで、例えば、模擬皮膚1の任意の箇所と試料Gとの距離を一定に維持することが容易となり、また、産熱発汗機構Aの設計が容易となる。ここで、等しいとは、前記一方の底面積と他方の底面積との間に±5%の範囲で誤差があることを許容する。シミュレーション結果の正確性が向上することから、前記誤差は±4%以内であることが好ましく、より好ましくは±3%以内であり、さらに好ましくは±2%以内であり、よりさらに好ましくは±1%以内であり、特に好ましくは0%である。このように、本明細書において「等しい」、「同一」、「一定」、「一致」、「維持」等の用語が用いられる場合、同様の設計上の誤差が許容される。
【0019】
産熱発汗機構Aは、当該円柱形状において、好ましくは、母線方向(以下、高さ方向とも称され得る。)での20~60cmの長さを有し、底面積の円周での20~75cmの長さを有する。これらは各々、上記で示した数値範囲より小さいサイズでは、外気の影響が大きくなるためである。また、これらは各々、上記で示した数値範囲より大きいサイズでは、当該サイズが実際の人体を超える程度となって、簡易なシミュレーションが困難となり得るためである。
【0020】
試料Gは、衣服用の編織物等が縫製または高透湿性のサージカルテープ等で貼り合わせられて筒状にされたものである。あるいは、試料Gとしてはフィルムが用いられてもよい。このように、試料Gは、産熱発汗機構Aを筒状に覆うように支持される。試料Gの筒軸方向は、例えば、産熱発汗機構Aの高さ方向と一致する。本明細書における筒軸とは、筒状の物体または領域の中心線であって、当該物体または領域が筒状に延びている方向に平行な中心線、を通る軸のことを意味する。試料Gの筒軸方向において、試料Gの両端はそれぞれ、産熱発汗機構Aの円柱形状の両端と同一の位置にある。ここで、試料Gの筒軸方向において同一の位置とは、例えば、試料Gの筒軸方向での長さの5%以内の範囲で誤差があることを許容する。あるいは、当該長さの4%以内の誤差があることが許容されるものであってもよく、当該長さの3%以内の誤差があることが許容されるものであってもよく、当該長さの2%以内の誤差があることが許容されるものであってもよく、当該長さの1%以内の誤差があることが許容されるものであってもよい。以上のように試料Gが設けられるのは、例えば、産熱発汗機構Aの円柱形状の凹凸が少ない側面と試料Gとの間の空間を熱流体シミュレーションでの測定対象とする目的による。
【0021】
本実施形態では、上述したように産熱発汗機構Aが円柱形の形状を有する場合を例に挙げて説明するが、本実施形態はこれに限定されない。産熱発汗機構Aの形状は、円柱形状のように、産熱発汗機構Aの表面が筒状の領域を有する他の形状であってもよい。以下で説明する産熱発汗機構Aの形状に関係する説明も、産熱発汗部Jについての説明に読み替え可能である。なお、産熱発汗部Jの表面のうちの当該筒状の領域は、筒状の第1領域とも称され得る。
【0022】
当該筒状の領域の筒軸方向での両端における産熱発汗機構Aの外径は例えば同一である。当該筒状の領域の筒軸方向での任意の位置における産熱発汗機構Aの外径は例えば一定である。このような関係により、例えば、模擬皮膚1の任意の箇所と試料Gとの距離を一定に維持することが容易となり、また、産熱発汗機構Aの設計が容易となる。ここで、同一および一定とは、比較される2つの外径の間に±5%の範囲で誤差があることを許容する。模擬皮膚1の任意の箇所と試料Gとの距離を一定に維持すること、および、産熱発汗機構Aの設計を容易とすることから、前記誤差は±4%以内であることが好ましく、より好ましくは±3%以内であり、さらに好ましくは±2%以内であり、よりさらに好ましくは±1%以内であり、特に好ましくは0%である。さらに、筒状の領域の形状はこれらに限定されず、筒状の領域としては、当該領域の筒軸方向での位置と当該位置における産熱発汗機構Aの外径との関係について、当該位置の変化に対し当該外径が一定の割合で変化するようなものが含まれてもよい。上記では、表面のうち筒状の領域の、筒軸方向に垂直な平面での断面が、円形であるものとして説明を行った。このように、例えば設計の観点からは当該断面が円形であることが好ましいが、当該断面は楕円形であってもよい。ここで、円形には、例えば、楕円形であって、当該楕円形の長径と短径との長さの比((長径の長さ)/(短径の長さ))が例えば1.05以内であるものが含まれてもよい。あるいは、円形には、当該比が1.04以内の楕円形までが含まれるものであってもよく、当該比が1.03以内の楕円形までが含まれるものであってもよく、当該比が1.02以内の楕円形までが含まれるものであってもよく、当該比が1.01以内の楕円形までが含まれるものであってもよい。以上に説明したような筒状の領域では、凹凸部が殆どなく、ゆえに、産熱発汗機構Aの表面のうち当該筒状の領域と試料Gとの間の微小な空間における乱気流が抑えられる。
【0023】
上記で説明した産熱発汗機構Aの円柱形状に関係する説明について、円柱形状の側面をこのような筒状の領域に読み替えたものが成り立つ。すなわち、産熱発汗機構Aは、上記筒状の領域について、当該筒状の領域の筒軸方向での20~60cmの長さを有し、当該筒軸方向での少なくとも一方の端での20~75cmの周長を有する。さらに、試料Gの筒軸方向は、例えば、産熱発汗機構Aの表面の当該筒状の領域の筒軸方向と一致する。試料Gの筒軸方向において、試料Gの両端はそれぞれ、産熱発汗機構Aの表面の当該筒状の領域の両端と同一の位置にある。上述したように、このような、産熱発汗機構A、および、産熱発汗機構Aの表面の筒状の領域、に関係する説明は、産熱発汗部J、および、産熱発汗部Jの表面の筒状の第1領域、についての説明に読み替え可能である。
【0024】
図1はさらに、産熱発汗機構Aの或る断面の一部の断面図の一例も示している。当該断面図では試料Gも併せて示されている。当該断面図では、産熱発汗機構Aと試料Gとの間の例えば微小な空間が、空間Iとして示されている。空間Iは、上記で説明した、産熱発汗機構Aの円柱形の側面と試料Gとの間の空間に相当する。
【0025】
産熱発汗機構Aは、例えば、模擬皮膚1、基体2、および産熱体3を含む。産熱体3の表面は筒状の領域を含む。産熱体3の表面のうちの当該筒状の領域は、筒状の第2領域とも称され得る。基体2は、例えば、産熱体3を覆うように設けられている。模擬皮膚1は、例えば、基体2を覆うように設けられている。模擬皮膚1および基体2の各々の表面について、以下では、産熱体3側に設けられている表面が裏側の表面と称され得、空間I側に設けられている表面が表側の表面と称され得る。本明細書では、基体2と産熱体3とが別個の装置であるとして説明を行うが、基体2および産熱体3が一体となったような装置であって、以下で説明する基体2および産熱体3に係る機能を実現する1つの装置が用いられてもよい。なお、産熱体3は第2装置とも称され得、基体2は第3装置とも称され得る。
【0026】
基体2が産熱体3を覆うため、基体2の表側の表面は筒状の領域を含む。当該筒状の領域が、産熱発汗部Jの表面のうちの筒状の第1領域に相当する。模擬皮膚1が少なくとも基体2の表側の表面のうち筒状の領域を覆うため、模擬皮膚1の表側の表面は筒状の領域を含む。当該筒状の領域は、産熱発汗機構Aの表面のうちの筒状の領域に相当する。すなわち、図1の例では、当該筒状の領域は、産熱発汗機構Aの円柱形状の側面を構成し得る。
【0027】
模擬皮膚1は、例えば、0.1ccの水を滴下した場合の10秒後の水拡散面積が7cm以上となるような編物、織物、または濾紙からなる。ただし、当該水拡散面積は、模擬皮膚1の内側に基体2が接触された状態で計測されるものである。模擬皮膚1としては、特に、ポリエステルフィラメントからなる薄地織物等のように、吸湿性が殆どなく、水の移行性が速いものが用いられることが望ましい。
【0028】
基体2は、例えば、アルミニウム、ステンレスなどの金属板から構成されてなる。基体2の形状は、放熱量を簡易かつ正確に熱流体シミュレーションするため、筒状の領域を含むことが望ましい。基体2の表側の表面には、簡易な熱流体シミュレーションのために、後述する発汗孔Hによるものを除いて凹凸がないことが好ましい。
【0029】
基体2は、上述した複数の発汗孔Hを有する。より具体的には、当該複数の発汗孔Hは各々、基体2の表側の表面の筒状の領域に達するように設けられている。当該複数の発汗孔Hは各々、例えば、円形であり、0.1mm~2.0mmの内径を有する。基体2の表側の表面の筒状の領域に対して当該複数の発汗孔Hは、0.01~0.1個/cmの密度で配置する。このような範囲の内径および密度のため、当該複数の発汗孔Hは、例えば、基体2の表側の表面の上記筒状の領域の面積に影響を及ぼさない。ここで、面積に影響を及ぼさないとは、例えば、当該筒状の領域に、熱流体シミュレーションを複雑化させるほどに乱気流を生じさせ得る凹凸が存在しないということを意味する。また、基体2の表側の表面の発汗孔H周辺には、例えば模擬皮膚への水の移行速度を高めるため、長さ5mm~30mm、深さ0.2~1.0mmの溝が付与されていることが望ましい。各発汗孔Hは、樹脂、ステンレス、アルミニウムなどのチューブに接続され、産熱体3の内部を経て、送水機構Bから送られてくる水を、基体2の表側の表面に吐出する。
【0030】
産熱体3は基体2の内側に位置する。産熱体3は、上述した産熱発汗機構Aによる産熱を、産熱体3を次のように加熱することにより実現する。当該加熱の方法には、シリコンラバー等のエラストマーで成型した面状ヒータを用いたり、被覆した電熱線を伝熱セメントで固定したりする方法がある。産熱体3による加熱では、産熱制御機構Cにより産熱発汗機構Aに供給されるとして説明した電力が産熱体3に供給され、当該電力が利用される。上述した産熱制御機構Cによる温度センサを用いた温度の検知では、例えば、産熱体3に接した基体2の温度が検知され、上述したように、当該温度に基づいて、産熱体3による加熱が行われる。
【0031】
模擬皮膚1と試料Gとの間の平均距離は、0.1~5.0cmであることが望ましい。当該平均距離は、0.1~2.0cmであることがより望ましい。これらは、衣服内に対応する微小な空間Iでの放熱が妨げられないことを目的とする。さらには、これらは、人体と衣服との間の空間が模擬されることを目的とする。このような距離が実現可能なように、下部支持具D及び/又は上部支持具Eは配置されている。さらには、例えば、模擬皮膚1のいずれの箇所についても、当該箇所と試料Gとの間の最短の距離が同一であり、0.1~5.0cmである。模擬皮膚1のいずれの箇所についても、当該箇所と試料Gとの間の最短の距離が同一である場合、上述した乱気流がより抑えられ得る。当該同一の距離が0.1~5.0cmであることにより、人体と衣服との間の空間が模擬される。当該同一の距離は第1距離とも称され得る。
【0032】
<放熱量計測方法>
本願に係る熱流体シミュレーションにおける放熱量計測方法の1つは、産熱制御機構Cにより温度センサを用いて検知される基体2の温度を一定に維持するための消費電力を計測することである。消費電力は、基体2の温度を一定に維持するために産熱制御機構Cにより供給された電力を計測し、式(1)より求める。
Q=W×1/S…(1)
Q:消費電力(W/m
W:供給電力(W)
S:基体面積(m
【0033】
本願に係る計測手順は、次の通りである。まず、基体2上に模擬皮膚1を粘着テープ等で密着固定する。このとき粘着テープ部の基体2に対する占有面積ができるだけ小さくなるようにする。次に、基体2の温度を設定し、産熱制御機構Cにより基体2を加熱する。基体2の温度が一定になった状態で、試料Gを下部支持具D及び/又は上部支持具Eに取り付け、送水機構Bにより基体2に所定の水を送り込みながら、供給電力を計測する。模擬皮膚1の取り付けは基体2の温度が一定になった後でも構わない。送水機構Bからの送水を行わない場合には、水分蒸発による放熱量以外の放熱量を計測することができる。さらに、送水機構Bからの送水を行ったり止めたりする方法で放熱量を計測することもできる。このような計測は、送風機構Fにより送風が行われている間に実行されてもよい。
【実施例0034】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下では、参照を容易とする目的で、図1を参照して説明した各構成要件の名称を用いるが、図1を参照して説明した参照符号については省略して説明を行う。
【0035】
<実施例1>
放熱シミュレーション用装置を用い、実験室における測定環境20℃、50%RHの条件で、産熱制御機構により温度センサを用いて検知される基体の温度(以下、基体温度とも称される。)を35℃で一定に維持するように設定した。模擬皮膚はポリエステルフィラメントからなる目付80g/mの織物を用いた。基体の表側の表面に対して発汗孔を介して吐出される水の量(以下、発汗量とも称される。)は100g/m/hr、送風機構による送風速度は1m/s、実験手順は、模擬皮膚と試料との間の平均距離が0.1cmとなるように試料を模擬皮膚の周囲に筒状にして支持具に設置し、産熱発汗機構による発汗の模擬、および、送風を行った。本明細書における送風速度は、模擬皮膚から10cmの位置で計測されたものである。この時、上記で説明した放熱量計測方法で放熱量を計測した。一方、コンピュータ上に同形の装置モデルを作成し、装置モデルと試料モデルとの間の平均距離が0.1cmとなるような配置の筒状の試料モデルを作成した。当該コンピュータ上においても、測定環境20℃、50%RHの条件で、基体温度を35℃に設定した。発汗量は100g/m/hr、送風速度は1m/sとした。定常計算を行い、計算収束後の装置モデルの放熱量を計算した。
【0036】
<実施例2>
実施例1と同様の装置を用いた。実施例1と同じく、測定環境20℃、50%RHの条件で、基体温度を35℃で一定に維持するように設定した。実施例1と同じく、模擬皮膚はポリエステルフィラメントからなる目付80g/mの織物を用いた。実施例1と同じく、発汗量は100g/m/hr、送風速度は1m/sとしたが、実験手順では、実施例1と異なり、模擬皮膚と試料との間の平均距離が1.9cmとなるように試料を筒状にして支持具に設置し、産熱発汗機構による発汗の模擬、および、送風を行った。この時、実施例1と同様に放熱量を計測した。一方、コンピュータ上に同形の装置モデルを作成し、装置モデルと試料モデルとの間の平均距離が1.9cmとなるような配置の筒状の試料モデルを作成した。当該コンピュータ上においても、測定環境20℃、50%RHの条件で、基体温度を35℃に設定した。発汗量は100g/m/hr、送風速度は1m/sとした。定常計算を行い、計算収束後の装置モデルの放熱量を計算した。
【0037】
<比較例1>
特許文献2のような人体形状を模擬した発汗装置を用いた。それ以外の条件は実施例1と同じである。測定環境20℃、50%RHの条件で、基体温度を35℃で一定に維持するように設定した。発汗量は100g/m/hr、送風速度は1m/s、実験手順は、発汗装置に試料を着用させ、産熱発汗機構による発汗の模擬、および、送風を行った。この時、実施例1と同様に放熱量を測定した。一方、コンピュータ上に簡単な人体形状の発汗装置モデルを作成し、発汗装置モデルの形状に沿って試料モデルを作成した。当該コンピュータ上においても、測定環境20℃、50%RHの条件で、基体温度を35℃に設定した。発汗量は100g/m/hr、送風速度は1m/sとした。定常計算を行い、計算収束後の装置モデルの放熱量を計算した。
【0038】
<比較例2>
特許文献3のような人の上半身形状を模擬した換気放熱性計測装置を用いた。それ以外の条件は実施例1と同じである。測定環境20℃、50%RHの条件で、基体温度を35℃で一定に維持するように設定した。発汗量は100g/m/hr、送風速度は1m/s、実験手順は、換気放熱性計測装置に試料を取り付け、産熱発汗機構による発汗の模擬、および、送風を行った。この時、実施例1と同様に消費電力を計測した。一方、コンピュータ上に簡単な上半身形状の換気放熱性計測装置モデルを作成し、換気放熱性計測装置モデルの形状に沿って試料モデルを作成した。当該コンピュータ上においても、測定環境20℃、50%RHの条件で、基体温度を35℃に設定した。発汗量は100g/m/hr、送風速度は1m/sとした。定常計算を行い、計算収束後の装置モデルの放熱量を計算した。
【0039】
実施例1、2および比較例1、2の計測データを表1に実装置計測として示す。コンピュータ上での計算結果がモデル計算として示されている。
【0040】
【表1】
【0041】
実装置計測とモデル計算との両方のシミュレーションで得られた放熱量の値が式(2)を満たす場合、当該実装置計測は許容可能なものである。
Q1×0.8<Q2<Q1×1.2…(2)
Q1:実装置計測放熱量(W/m
Q2:モデル計算放熱量(W/m
表1から、実施例1および2は式(2)を満たし、比較例1および2は式(2)を満たさないことが分かる。本結果より、実施例1および2による方法は、コンピュータでモデル計算を行うシミュレーションとほぼ同程度で、有風下で発汗時の人体からの放熱量を計測できていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、有風下で発汗時の人体からの放熱量を予測する熱流体シミュレーションを簡易に行うことを可能とした。
【符号の説明】
【0043】
100:放熱シミュレーション用装置、A:産熱発汗機構、B:送水機構、C:産熱制御機構、D:下部支持具、E:上部支持具、F:送風機構、G:試料、1:模擬皮膚、2:基体、3:産熱体、J:産熱発汗部、I:空間
図1