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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162985
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ロータリ圧縮機および冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/356 20060101AFI20231101BHJP
   F04C 18/32 20060101ALI20231101BHJP
   F04C 18/344 20060101ALI20231101BHJP
   F04C 29/12 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
F04C18/356 L
F04C18/32
F04C18/344 351P
F04C29/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073744
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】外島 隆造
(72)【発明者】
【氏名】片山 達也
(72)【発明者】
【氏名】上野 広道
(72)【発明者】
【氏名】吉良 ありさ
【テーマコード(参考)】
3H040
3H129
【Fターム(参考)】
3H040AA09
3H040BB01
3H040CC10
3H040DD03
3H040DD22
3H040DD40
3H129AA04
3H129AA13
3H129AB03
3H129BB23
3H129CC03
3H129CC24
(57)【要約】
【課題】ロータリ圧縮機の振動を低減する。
【解決手段】ロータリ圧縮機は、2つのシリンダ(30,35)の外周面のそれぞれには、吸入側空間(S1,S1)に連通する吸入ポート(33,38)を構成する第1開口(30a,35a)が設けられ、2つのシリンダ(30,35)の一方の第1開口(30a)および他方の第1開口(35a)は、駆動軸(70)の軸方向からみて、シリンダ(30,35)の周方向に互いにずれて配置され、2つのシリンダ(30,35)における吸入閉じ切り角度の差を小さくする第1機構(80)が設けられている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(16)と、
該ケーシング(16)の内部に収容される2つのシリンダ(30,35)と、
各前記シリンダ(30,35)内を偏心回転するピストン(40,45)と、
各前記シリンダ(30,35)のシリンダ室(S,S)を吸入側空間(S1,S1)と吐出側空間(S2,S2)とに仕切るブレード(41,46)と、
各前記ピストン(40,45)を駆動する駆動軸(70)とを備えるロータリ圧縮機であって、
2つの前記シリンダ(30,35)の外周面のそれぞれには、前記吸入側空間(S1,S1)に連通する吸入ポート(33,38)を構成する第1開口(30a,35a)が設けられ、
2つの前記シリンダ(30,35)の一方の前記第1開口(30a)および他方の前記第1開口(35a)は、前記駆動軸(70)の軸方向からみて、前記シリンダ(30,35)の周方向に互いにずれて配置され、
2つの前記シリンダ(30,35)における吸入閉じ切り角度の差を小さくする第1機構(80)が設けられている
ことを特徴とするロータリ圧縮機。
【請求項2】
2つの前記シリンダ(30,35)のそれぞれの内周面には、前記吸入ポート(33,38)を構成する第2開口(30b,35b)が設けられ、
前記第1機構(80)は、2つの前記シリンダ(30,35)の少なくとも一方において、前記第1開口(30a,35a)と前記第2開口(30b,35b)との並び方向が該シリンダ(30,35)の径方向に対してずれるように構成される
ことを特徴とする請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記第1機構(80)は、
2つの前記シリンダ室(S,S)における圧縮開始のタイミングが180°ずれるように、前記駆動軸(70)方向から見て、一方の前記ピストン(40)の上死点と他方の前記ピストン(45)の上死点とが前記シリンダ(30,35)の周方向上において互いにずれて配置される構成である
ことを特徴とする請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項4】
一端が前記吸入ポート(33,38)に接続され、他端がアキュームレータ(2)に接続される2つの吸入管(61,62)をさらに備え、
2つの前記吸入管(61,62)は、前記駆動軸(70)の軸方向から見て、前記ケーシング(16)の筒軸中心の同心円上に配置される
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載のロータリ圧縮機。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1つに記載のロータリ圧縮機を備えた冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロータリ圧縮機および冷凍装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2気筒の圧縮機構を備えるロータリ圧縮機が記載されている。2つのシリンダのそれぞれに設けられる吸入ポートには、密閉容器に形成される取付穴を介して吸入管が接続される。2つの取付穴は、駆動軸の軸方向から見て互いにずれるように配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09-079161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、2つのシリンダにおいて、閉じ切り角度の差が大きくなるとトルク変動により圧縮機の振動が増大することが知見として得られている。閉じ切り角度は、シリンダの中心を中心点として、該中心点とピストンの上死点とを結んだ線と、該中心点と吸入ポートとを結んだ線との間の角度である。
【0005】
本開示の目的は、ロータリ圧縮機の振動を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、
ケーシング(16)と、
該ケーシング(16)の内部に収容される2つのシリンダ(30,35)と、
各前記シリンダ(30,35)内を偏心回転するピストン(40,45)と、
各前記シリンダ(30,35)のシリンダ室(S,S)を吸入側空間(S1,S1)と吐出側空間(S2,S2)とに仕切るブレード(41,46)と、
各前記ピストン(40,45)を駆動する駆動軸(70)とを備えるロータリ圧縮機であって、
2つの前記シリンダ(30,35)の外周面のそれぞれには、前記吸入側空間(S1,S1)に連通する吸入ポート(33,38)を構成する第1開口(30a,35a)が設けられ、
2つの前記シリンダ(30,35)の一方の前記第1開口(30a)および他方の前記第1開口(35a)は、前記駆動軸(70)の軸方向からみて、前記シリンダ(30,35)の周方向に互いにずれて配置され、
2つの前記シリンダ(30,35)における吸入閉じ切り角度の差を小さくする第1機構(80)が設けられている。
【0007】
本開示の第1の態様では、第1機構(80)により両シリンダ(30,35)の吸入閉じ切り角度の差を小さくできるため、閉じ切り角度の差異により生じるトルク変動を低減でき、ロータリ圧縮機の振動を抑えることができる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、
2つの前記シリンダ(30,35)のそれぞれの内周面には、前記吸入ポート(33,38)を構成する第2開口(30b,35b)が設けられ、
前記第1機構(80)は、2つの前記シリンダ(30,35)の少なくとも一方において、前記第1開口(30a,35a)と前記第2開口(30b,35b)との並び方向が前記シリンダ(30,35)の径方向に対してずれるように構成される。
【0009】
第2の態様では、両シリンダ(30,35)の第2開口(30b,35b)を、シリンダ(30,35)の周方向上において互いに近接して配置できる。このことで、両シリンダ(30,35)における閉じ切り角度の差を小さくできる。
【0010】
本開示の第3の態様は、第1の態様において、
前記第1機構(80)は、
2つの前記シリンダ室(S,S)における圧縮開始のタイミングが180°ずれるように、前記駆動軸(70)方向から見て、一方の前記ピストン(40)の上死点と他方の前記ピストン(45)の上死点とが前記シリンダ(30,35)の周方向上において互いにずれて配置される構成である。
【0011】
第3の態様では、両シリンダ(30,35)の吸入閉じ切り角度の差を小さくできる。
【0012】
本開示の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つにおいて、
一端が前記吸入ポート(33,38)に接続され、他端がアキュームレータ(2)に接続される2つの吸入管(61,62)をさらに備え、
2つの前記吸入管(61,62)は、前記駆動軸(70)の軸方向から見て、前記ケーシング(16)の筒軸中心の同心円上に配置される。
【0013】
第4の態様では、2つの吸入配管がこのように配置されることでアキュームレータの固定を強化できる。その結果、アキュームレータの振動を抑えることができる。
【0014】
本開示の第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか1つの圧縮機を備えた冷凍装置である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態に係る冷凍装置の配管系統図である。
図2図2は、実施形態に係るロータリ圧縮機の縦断面図である。
図3図3は、取付穴を正面から見たロータリ圧縮機の外観図である。
図4図4は、圧縮機構の横断面図である。(A)は、第1圧縮機構の横断面図である。(B)は、第2圧縮機構の横断面図である。
図5図5は、第1圧縮機構および第2圧縮機構の動作を示す図である。
図6図6は、吸入閉じ切り角度に関する課題について説明する図である。
図7図7は、実施形態に係る第1機構を説明する図である。(A)は、第1圧縮機構の横断面図である。(B)は、第2圧縮機構の横断面図である。
図8図8は、第1機構によりトルク変動が抑えられたことを示すグラフである。
図9図9は、変形例1にかかる第1機構を説明する図である。(A)は、第1圧縮機構の横断面図である。(B)は、第2圧縮機構の横断面図である。(C)は、第1ピストンと第2ピストンとの位置関係を示す図である。
図10図10は、変形例2のロータリ圧縮機を上からみたときの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。また、以下に説明する各実施形態、変形例、その他の例等の各構成は、本発明を実施可能な範囲において、組み合わせたり、一部を置換したりできる。
【0017】
(1)冷凍装置
図1に示すように、本例のロータリ圧縮機(1)は冷凍装置(100)に適用される。冷凍装置(100)は、例えば室内を空調する空気調和装置である。冷凍装置(100)は、室外に配置される室外ユニット(7)と、室内に配置される室内ユニット(8)とを有する。室外ユニット(7)には、ロータリ圧縮機(1)、四方切換弁(3)、室外熱交換器(4)、および膨張弁(5)が配置される。室内ユニット(8)には、室内熱交換器(6)が配置される。
【0018】
冷凍装置(100)は、冷媒回路(9)を備える。冷媒回路(9)には、ロータリ圧縮機(1)、アキュームレータ(2)、四方切換弁(3)、室外熱交換器(4)、膨張弁(5)、及び室内熱交換器(6)が接続される。冷媒回路(9)に冷媒が流れることで冷凍サイクルが行われる。
【0019】
冷凍装置(100)は、四方切換弁(3)を切り換えることで暖房運転と冷房運転とを行う。冷房運転では、第1冷凍サイクルが行われる。具体的に、四方切換弁(3)の第1ポート(P1)と第3ポート(P3)とが連通し、かつ、第2ポート(P2)と第4ポート(P4)とが連通することで(図1の実線)、室内熱交換器(6)が蒸発器として機能し、室外熱交換器(4)が放熱器として機能する。暖房運転では、第2冷凍サイクルが行われる。具体的に、四方切換弁(3)の第1ポート(P1)と第4ポート(P4)とが連通し、かつ、第2ポート(P2)と第3ポート(P3)とが連通することで(図1の破線)、室内熱交換器(6)が放熱器として機能し、室外熱交換器(4)が蒸発器として機能する。
【0020】
(2)ロータリ圧縮機
図2および図3に示すように、ロータリ圧縮機(1)では、圧縮機構(15)と電動機(10)とがケーシング(16)に収容されている。ケーシング(16)は、起立した状態の円筒状の密閉容器である。ケーシング(16)は、円筒状の胴部(17)と、胴部(17)の端部を閉塞する一対の鏡板(18,19)とを備えている。上側の鏡板(18)には、吐出管(13)が取り付けられる。
【0021】
胴部(17)の下部には、第1取付穴(91)および第2取付穴(92)が形成される。各取付穴(91,92)は吸入管(61,62)の一端が挿通する穴である。具体的に、第1取付穴(91)には、第1吸入管(61)が挿通する。第2取付穴(92)には、第2吸入管(62)が挿通する。2つの取付穴(91,92)は、ケーシング(16)の筒軸方向から見てケーシング(16)の周方向に互いにずれた位置に設けられる。別の言い方をすると、2つの取付穴(91,92)の並び方向は、ケーシング(16)の筒軸方向に対して斜めになっている。
【0022】
電動機(10)は、ケーシング(16)の内部空間の上部に配置されている。電動機(10)は、固定子(11)と、回転子(12)とを備えている。固定子(11)は、ケーシング(16)の胴部(17)に固定されている。回転子(12)は、後述する圧縮機構(15)の駆動軸(70)に取り付けられている。
【0023】
圧縮機構(15)は、いわゆる揺動ピストン型のロータリ式流体機械である。ケーシング(16)の内部空間において、圧縮機構(15)は、電動機(10)の下方に配置されている。
【0024】
(2-1)圧縮機構
圧縮機構(15)は、第1圧縮機構(K1)および第2圧縮機構(K2)を備える二気筒のロータリ式流体機械である。各圧縮機構(K1,K2)は、シリンダ(30,35)と、ピストン(40,45)と、ブレード(41,46)とを一つずつ備えている。各シリンダ(30,35)には、対になった二つのブッシュ(42,47)が、一組ずつ設けられている。
【0025】
圧縮機構(15)では、フロントヘッド(20)、第1シリンダ(30)、中間プレート(50)、第2シリンダ(35)、及びリアヘッド(25)が上方から下方に向かって順に配置されている。フロントヘッド(20)と、第1シリンダ(30)と、中間プレート(50)と、第2シリンダ(35)と、リアヘッド(25)とは、図外の複数本のボルトによって互いに締結されている。圧縮機構(15)は、フロントヘッド(20)がケーシング(16)の胴部(17)に固定されている。
【0026】
(2-2)第1圧縮機構および第2圧縮機構
図4に示すように、第1圧縮機構(K1)は、第1シリンダ(30)と、第1ピストン(40)と、第1ブレード(41)と備えている。第2圧縮機構(K2)は、第2シリンダ(35)と、第2ピストン(45)と、第2ブレード(46)と備えている。圧縮機構(15)において、第1圧縮機構(K1)と、第2圧縮機構(K2)とは、中間プレート(50)を挟んで上下方向に積層されている。
【0027】
なお、本実施形態において、第1圧縮機構(K1)および第2圧縮機構(K2)は、吸入ポート(33,38)の構成以外は同一である。第1圧縮機構(K1)と第2圧縮機構(K2)との異なる構成については後述する。
【0028】
(2-2-1)シリンダ
2つのシリンダ(30,35)は、ケーシング(16)の内部に収容される。各シリンダ(30,35)は、厚肉円板状の部材である。各シリンダ(30,35)には、シリンダボア(31,36)と、ブレード収容孔(32,37)とが形成される。第1シリンダ(30)には、第1吸入ポート(33)が形成される。第2シリンダ(35)には、第2吸入ポート(38)が形成される。
【0029】
第1シリンダ(30)と第2シリンダ(35)は、それぞれの厚さが等しい。なお、図2では図示を省略するが、各シリンダ(30,35)には、圧縮機構(15)の組み立て用のボルトを挿し通すための貫通孔などの、各シリンダ(30,35)を厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成される。
【0030】
シリンダボア(31,36)は、シリンダ(30,35)を厚さ方向に貫通する円形孔である。シリンダボア(31,36)は、シリンダ(30,35)の中央部に形成される。第1シリンダ(30)のシリンダボア(31)には、第1ピストン(40)が収容される。第2シリンダ(35)のシリンダボア(36)には、第2ピストン(45)が収容される。第1シリンダ(30)のシリンダボア(31)の内径と、第2シリンダ(35)のシリンダボア(36)の内径とは、互いに等しい。
【0031】
第1シリンダ(30)では、シリンダボア(31,36)の壁面と、後述する第1ピストン(40)との間に、第1のシリンダ室(S)が形成される。第2シリンダ(35)では、シリンダボア(31,36)の壁面と、後述する第2ピストン(45)との間に、第2のシリンダ室(S)が形成される。
【0032】
ブレード収容孔(32,37)は、シリンダ(30,35)の内周面(即ち、シリンダボア(31,36)の外縁)からシリンダ(30,35)の径方向の外側へ向かって延びる孔である。このブレード収容孔(32,37)は、シリンダ(30,35)を厚さ方向に貫通する。第1シリンダ(30)のブレード収容孔(32)には、第1ブレード(41)が収容される。第2シリンダ(35)のブレード収容孔(37)には、第2ブレード(46)が収容される。
【0033】
各吸入ポート(33,38)は、図4におけるブレード収容孔(32,37)の右側に配置される。吸入ポート(33,38)は、後述する第1室(S1)に連通する。具体的に、各吸入ポート(33,38)は、第1開口(30a,35a)と、第2開口(30b,35b)と、吸入路(30c,35c)とにより構成される。
【0034】
第1開口(30a,35a)は、シリンダ(30,35)の外周面に形成される開口である。第2開口(30b,35b)はシリンダ(30,35)の内周面に形成される開口である。吸入路(30c,35c)は、第1開口(30a,35a)と第2開口(30b,35b)とを連通する流路である。
【0035】
各第1開口(30a,35a)は、対応するケーシング(16)の取付穴(91,92)に対して向かい合って配置される(図2参照)。具体的に、第1シリンダ(30)の第1開口(30a)は、第1取付穴(91)に向かい合う。第2シリンダ(35)の第1開口(35a)は、第2取付穴(92)に向かい合う。第1吸入管(61)は、第1取付穴(91)を介して、第1吸入ポート(33)に接続される。第2吸入管(62)は、第2取付穴(92)を介して、第2吸入ポート(38)に接続される。
【0036】
2つのシリンダ(30,35)の一方の第1開口(30a)および他方の第1開口(35a)は、駆動軸(70)の軸方向から見て、シリンダ(30,35)の周方向に互いにずれて配置される。別の言い方をすると、第1シリンダ(30)の第1開口(30a)と第2シリンダ(35)の第1開口(35a)は、その並び方向が駆動軸(70)の軸方向に対してずれるように配置される。第2開口(30b,35b)および吸入路(30c,35c)の詳細については後述する。
【0037】
(2-2-2)フロントヘッド
図2に示すように、フロントヘッド(20)は、第1シリンダ(30)の電動機(10)側の端面(図1における第1シリンダ(30)の上端面)を閉塞する部材である。フロントヘッド(20)は、本体部(21)と、主軸受部(22)と、外周壁部(23)とを備えている。本体部(21)と、主軸受部(22)と、外周壁部(23)とは一体に成形されている。
【0038】
本体部(21)は、概ね円形の厚板状に形成されている。本体部(21)は、第1シリンダ(30)の端面を覆うように配置される。本体部(21)の下面は、第1シリンダ(30)に密着している。主軸受部(22)は、本体部(21)から電動機(10)側(図1における上側)へ延びる円筒状に形成されている。主軸受部(22)は、本体部(21)の中央部に配置される。主軸受部(22)は、圧縮機構(15)の駆動軸(70)を支持するジャーナル軸受を構成する。外周壁部(23)は、本体部(21)の外周縁部に連続して形成された肉厚の環状の部分である。
【0039】
フロントヘッド(20)には、第1吐出ポート(24)が形成されている。第1吐出ポート(24)は、フロントヘッド(20)の本体部(21)を、その厚さ方向に貫通する。第1吐出ポート(24)は、図4(A)に示すブレード収容孔(32)の左側に配置される。フロントヘッド(20)の本体部(21)には、第1吐出ポート(24)を開閉する吐出弁(図示省略)が設けられる。
【0040】
(2-2-3)リアヘッド
リアヘッド(25)は、第2シリンダ(35)の電動機(10)とは逆側の端面(図1における第2シリンダ(35)の下端面)を閉塞する部材である。リアヘッド(25)は、本体部(26)と、副軸受部(27)と、外周壁部(28)とを備えている。
【0041】
本体部(26)は、概ね円形の厚板状に形成されている。本体部(26)は、第2シリンダ(35)の端面を覆うように配置される。本体部(26)の上面は、第2シリンダ(35)に密着している。副軸受部(27)は、本体部(26)から第2シリンダ(35)とは逆側(図2における下側)へ延びる円筒状に形成されている。副軸受部(27)は、本体部(26)の中央部に配置される。副軸受部(27)は、圧縮機構(15)の駆動軸(70)を支持するジャーナル軸受を構成する。外周壁部(28)は、本体部(26)の外周縁部から第2シリンダ(35)とは逆側へ延びる円筒状に形成されている。
【0042】
リアヘッド(25)には、第2吐出ポート(29)が形成されている。第2吐出ポート(29)は、リアヘッド(25)の本体部(26)を、その厚さ方向に貫通する。第2吐出ポート(29)は、図4(B)に示すブレード収容孔(37)の左隣に配置される。リアヘッド(25)の本体部(26)には、第2吐出ポート(29)を開閉する吐出弁(図示省略)が設けられる。
【0043】
(2-2-4)中間プレート
図2に示すように、中間プレート(50)は、第1シリンダ(30)と第2シリンダ(35)との間に挟み込まれるように配置される。中間プレート(50)は、第1シリンダ(30)の下端面と第2シリンダ(35)の上端面とに密着する。
【0044】
中間プレート(50)の中央部には、中間プレート(50)を厚さ方向へ貫通する中央孔(51)が形成されている。中間プレート(50)の中央孔(51)には、後述する駆動軸(70)の中間連結部(78)が挿し通される。
【0045】
(2-2-5)駆動軸
図2および図4に示すように、駆動軸(70)は、ピストン(40,45)を駆動する部材である。具体的に、駆動軸(70)は、主軸部(72)、第1偏心部(75)、中間連結部(78)、第2偏心部(76)、および副軸部(74)を備える(図1参照)。駆動軸(70)は、その回転中心軸(70a)が各シリンダ(30,35)のシリンダボア(31,36)の中心軸と実質的に一致する。
【0046】
駆動軸(70)では、主軸部(72)と、第1偏心部(75)と、中間連結部(78)と、第2偏心部(76)と、副軸部(74)とが、上から下へ向かって順に配置されている。駆動軸(70)において、主軸部(72)と、第1偏心部(75)と、中間連結部(78)と、第2偏心部(76)と、副軸部(74)とは、互いに一体に形成されている。
【0047】
主軸部(72)及び副軸部(74)は、円形断面の柱状あるいは棒状の部分である。主軸部(72)の上部には、電動機(10)の回転子(12)が取り付けられる。主軸部(72)の下部は、フロントヘッド(20)の主軸受部(22)によって支持されるジャーナルを構成する。副軸部(74)は、リアヘッド(25)の副軸受部(27)によって支持されるジャーナルを構成する。主軸部(72)の中心軸と副軸部(74)の中心軸は、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)と一致する。
【0048】
各偏心部(75,76)は、主軸部(72)よりも大径の円柱状の部分である。各偏心部(75,76)は、それぞれの中心軸が駆動軸(70)の回転中心軸(70a)に対して偏心している。第1偏心部(75)は、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)に対して、第2偏心部(76)とは反対側へ偏心している。言い換えると、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)に対する第1偏心部(75)の偏心方向は、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)に対する第2偏心部(76)の偏心方向と180°異なっている。
【0049】
第1偏心部(75)の偏心量e1と、第2偏心部(76)の偏心量e2は、互いに等しい。なお、第1偏心部(75)の偏心量e1は、第1偏心部(75)の中心軸(75a)と駆動軸(70)の回転中心軸(70a)との距離である。第2偏心部(76)の偏心量e2は、第2偏心部(76)の中心軸(76a)と駆動軸(70)の回転中心軸(70a)との距離である。
【0050】
第1偏心部(75)の外径は、第2偏心部(76)の外径と等しい。第1偏心部(75)と第2偏心部(76)は、それぞれの高さ(上下方向の長さ)が互いに実質的に等しい。
【0051】
中間連結部(78)は、第1偏心部(75)と第2偏心部(76)の間に配置され、第1偏心部(75)と第2偏心部(76)を連結する。
【0052】
駆動軸(70)には、給油通路(71)が形成されている(図1を参照)。ケーシング(16)の底部に溜まった潤滑油は、給油通路(71)を通って駆動軸(70)と各軸受部(22,27)との摺動部分や圧縮機構(15)の摺動部分へ供給される。
【0053】
(2-2-6)ピストン
ピストン(40,45)は、シリンダ(30,35)内を偏心回転する。第1ピストン(40)及び第2ピストン(45)は、形状、寸法、及び材質が同一の部材である。各ピストン(40,45)は、やや厚肉の円筒状の部材である。
【0054】
第1ピストン(40)は、第1シリンダ(30)に収容される。第1ピストン(40)には、駆動軸(70)の第1偏心部(75)が挿し通される。第1ピストン(40)は、駆動軸(70)の第1偏心部(75)が回転することで、偏心回転する。
【0055】
第1ピストン(40)は、外周面が第1シリンダ(30)の内周面と摺動し、一方の端面(上面)がフロントヘッド(20)の本体部(21)の下面と摺動し、他方の端面(下面)が中間プレート(50)の上面と摺動する。圧縮機構(15)では、第1ピストン(40)の外周面と第1シリンダ(30)の内周面との間に第1のシリンダ室(S)が形成される。
【0056】
第2ピストン(45)は、第2シリンダ(35)に収容されて偏心回転する。第2ピストン(45)には、駆動軸(70)の第2偏心部(76)が挿し通される。第2ピストン(45)は、駆動軸(70)の第2偏心部(76)が回転することで、偏心回転する。
【0057】
第2ピストン(45)は、外周面が第2シリンダ(35)の内周面と摺動し、一方の端面(下面)がリアヘッド(25)の本体部(21)の上面と摺動し、他方の端面(上面)が中間プレート(50)の下面と摺動する。圧縮機構(15)では、第2ピストン(45)の外周面と第2シリンダ(35)の内周面との間に第2のシリンダ室(S)が形成される。
【0058】
(2-2-7)ブレード
図4に示すように、各ブレード(41,46)は、やや厚肉の矩形平板状の部材である。第1ブレード(41)は、第1ピストン(40)と一体に形成される。第2ブレード(46)は、第2ピストン(45)と一体に形成される。各ブレード(41,46)は、対応するピストン(40,45)の外側面から、ピストン(40,45)の径方向の外側へ向かって伸びる。各ブレード(41,46)の上下方向(駆動軸(70)軸方向)の厚さは、ピストン(40,45)の上下方向の厚さと同一である。
【0059】
第1ブレード(41)は、第1シリンダ(30)のブレード収容孔(32)に嵌まる。第1ブレード(41)は、第1シリンダ(30)内に形成される第1のシリンダ室(S)を、吸入側(第1吸入ポート(33)側)の第1室(S1)と、吐出側(第1吐出ポート(24)側)の第2室(S2)に仕切る。第2ブレード(46)は、第2シリンダ(35)のブレード収容孔(37)に嵌まる。第2ブレード(46)は、第2シリンダ(35)内に形成されるシリンダ室(S)を、吸入側(第2吸入ポート(38))側の第1室(S1)と、吐出側(第2吐出ポート(29)側)の第2室(S2)に仕切る。第1室(S1)は、本開示の吸入側空間(S1)の一例である。第2室(S2)は、本開示の吐出側空間(S2)の一例である。
【0060】
(2-2-8)ブッシュ
第1シリンダ(30)と第2シリンダ(35)のそれぞれには、一対のブッシュ(42,47)が設けられる。各ブッシュ(42,47)は、互いに向かい合う前面が平坦面となり、背面が円弧面となった小さい板状の部材である。
【0061】
第1シリンダ(30)に設けられた一対のブッシュ(42)は、第1シリンダ(30)のブレード収容孔(32)に嵌まった第1ブレード(41)を、両側から挟み込むように配置される。第1ピストン(40)と一体の第1ブレード(41)は、このブッシュ(42)を介して第1シリンダ(30)に揺動自在で且つ進退自在に支持される。
【0062】
本実施形態では、このような一対のブッシュ(42)と第1ブレード(41)とにより、第1ピストン(40)は、駆動軸(70)の回転に伴って第1シリンダ(30)の内壁面に沿って公転しながら、第1偏心部(75)の中心軸(75a)に対して揺動する揺動型ピストンに構成されている。
【0063】
第2シリンダ(35)に設けられた一対のブッシュ(47)は、第2シリンダ(35)のブレード収容孔(37)に嵌まった第2ブレード(46)を、両側から挟み込むように配置される。第2ピストン(45)と一体の第2ブレード(46)は、このブッシュ(47)を介して第2シリンダ(35)に揺動自在で且つ進退自在に支持される。
【0064】
本実施形態では、このような一対のブッシュ(47)と第2ブレード(46)とにより、第2ピストン(45)は、駆動軸(70)の回転に伴って第2シリンダ(35)の内壁面に沿って公転しながら、第2偏心部(76)の中心軸(76a)に対して揺動する揺動型ピストンに構成されている。
【0065】
(3)圧縮機の運転動作
ロータリ圧縮機(1)の運転動作について、図5を参照しながら説明する。
【0066】
電動機(10)が駆動軸(70)を駆動すると、圧縮機構(15)の各ピストン(40,45)が駆動軸(70)によって駆動される。各ピストン(40,45)は、対応するシリンダ(30,35)内において、駆動軸(70)が一回転する毎に、図5に示すように、周期的に変位する。ロータリ圧縮機(1)では、圧縮機構(15)の第1圧縮機構(K1)と第2圧縮機構(K2)のそれぞれにおいて、冷媒を吸入し、圧縮し、吐出する行程が行われる。
【0067】
(4)圧縮機構の運転動作
上述したように、本実施形態の圧縮機構(15)では、各圧縮機構(K1,K2)における各ピストン(40,45)の偏心方向が、互いに異なる。具体的には、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)に対する第1ピストン(40)の偏心方向は、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)に対する第2ピストン(45)の偏心方向と180°異なっている。そのため、第1ピストン(40)の変位の周期と、第2ピストン(45)の変位の周期は、180°(すなわち、半周期)ずれている。
【0068】
各シリンダ(30,35)では、ピストン(40,45)の変位に伴って、シリンダ室(S,S)の第1室(S1)と第2室(S2)の容積が変化する。そして、各シリンダ(30,35)では、吸入ポート(33,38)からシリンダ室(S,S)へ冷媒を吸入する吸入行程と、シリンダ室(S,S)へ吸入した冷媒を圧縮する圧縮行程と、圧縮した冷媒を吐出ポート(24,29)からシリンダ室(S,S)の外部へ吐出する吐出行程とが行われる。
【0069】
ここで、図5に示す角度は、第1圧縮機構(K1)の第1ブレード(41)が第1シリンダ(30)から最も退く位置での駆動軸(70)の回転角度を0°とし、第1圧縮機構(K1)の第1ブレード(41)が第1シリンダ(30)の内側に最も進入する位置での駆動軸(70)の回転角度を180°とする。
【0070】
(4-1)第1圧縮機構の動作
第1のシリンダ室(S)で冷媒を吸入する吸入工程について説明する。第1圧縮機構(K1)では、駆動軸(70)が回転角度0°の状態から図5の時計方向へ僅かに回転すると、第1ピストン(40)と第1シリンダ(30)の接触位置が第1吸入ポート(33)の第2開口(30b)を通過する。このとき、第1シリンダ(30)の第1室(S1)への冷媒の吸入が開始される。
【0071】
駆動軸(70)の回転角度が大きくなると、次第に、第1室(S1)の容積が増大し、第1室(S1)へ吸入される冷媒量が増加する。そして、この冷媒の吸入行程は、駆動軸(70)の回転角度が360°になるまで続き、その後、吐出行程へと移行する。
【0072】
第1のシリンダ室(S)で冷媒を圧縮して吐出する吐出行程について説明する。駆動軸(70)が回転角度0°の状態から僅かに回転すると、第1ピストン(40)と第1シリンダ(30)の接触位置が再び第1吸入ポート(33)の第2開口(30b)を通過する。このとき、第1室(S1)における冷媒の閉じ込みが完了し、第1吸入ポート(33)に繋がっていた第1室(S1)は、第1吐出ポート(24)だけに繋がる第2室(S2)となる。
【0073】
この状態から、第2室(S2)における冷媒の圧縮が開始される。駆動軸(70)の回転角度が大きくなると、第2室(S2)の容積が減少し、第2室(S2)の圧力が上昇する。第2室(S2)の圧力が所定圧力を上回ると、吐出弁が開く。このとき、第2室(S2)の冷媒は、第1吐出ポート(24)から圧縮機構(15)外へ吐出される。
【0074】
この冷媒の吐出行程は、駆動軸(70)の回転角度が360°になるまで続き、その後、吸入行程へと移行する。このように、第1圧縮機構(K1)において、吸入行程と吐出行程とが交互に繰り返されることによって、冷媒の圧縮動作が連続的に行われる。
【0075】
(4-2)第2圧縮機構の動作
第2のシリンダ室(S)で冷媒を吸入する吸入工程について説明する。第2圧縮機構(K2)では、駆動軸(70)が回転角度180°の状態から図5の時計方向へ僅かに回転すると、第2ピストン(45)と第2シリンダ(35)の接触位置が第2吸入ポート(38)の第2開口(35b)を通過する。このとき、第2シリンダ(35)の第1室(S1)への冷媒の吸入が開始される。
【0076】
駆動軸(70)の回転角度が大きくなると、次第に、第1室(S1)の容積が増大し、第1室(S1)へ吸入される冷媒量が増加する。そして、この冷媒の吸入行程は、駆動軸(70)の回転角度が次の180°になるまで続き、その後、吐出行程へと移行する。
【0077】
第2のシリンダ室(S)で冷媒を圧縮して吐出する吐出行程について説明する。駆動軸(70)が回転角度180°の状態から僅かに回転すると、第2ピストン(45)と第2シリンダ(35)の接触位置が再び第2吸入ポート(38)の第2開口(35b)を通過する。このとき、第1室(S1)における冷媒の閉じ込みが完了し、第1吸入ポート(33)に繋がっていた第1室(S1)は、第2吐出ポート(29)だけに繋がる第2室(S2)となる。
【0078】
この状態から、第2室(S2)における冷媒の圧縮が開始される。駆動軸(70)の回転角度が大きくなると、第2室(S2)の容積が減少し、第2室(S2)の圧力が上昇する。第2室(S2)の圧力が所定圧力を上回ると、吐出弁が開く。このとき、第2室(52)の冷媒は、第2吐出ポート(29)から圧縮機構(15)外へ吐出される。
【0079】
この冷媒の吐出行程は、駆動軸(70)の回転角度が次の180°になるまで続き、その後、吸入行程へと移行する。このように、第2圧縮機構(K2)において、吸入行程と吐出行程とが交互に繰り返されることによって、冷媒の圧縮動作が連続的に行われる。
【0080】
(5)吸入閉じ切り角度による課題
2気筒の圧縮機構を備えるロータリ圧縮機における、吸入閉じ切り角度に関する課題について図6を用いて説明する。
【0081】
吸入閉じ切り角度は、吸入ポートがピストンで閉じ切られて吸入行程が完了するときの駆動軸の角度を意味する。具体的に、閉じ切り角度は、シリンダ室の中心を中心点として、ピストンの上死点の位置を0°としたときの、吸入ポートのシリンダ内面の開口位置の角度である。
【0082】
ここで、本例のように2シリンダの圧縮機構を備えるロータリ圧縮機において、吸入管が接続される2つの取付穴は、駆動軸の軸方向上に並んで配置するよりも、該軸方向からずらして配置している方が2つの取付穴の間の残り代が大きくなり、ケーシングの耐圧強度や吸入管の取付作業の観点から好ましい。
【0083】
この場合、取付穴に対向して配置される2つの吸入ポートも駆動軸の軸方向からずれて配置されるため、2つのシリンダにおいて吸入閉じ切り角度は互いに異なってしまう。例えば、第1シリンダ(30)における吸入閉じ切り角度をαとし、第2シリンダ(35)における吸入閉じ切り角度をβとする。角度βは角度αよりも大きい(図6(A)及び(B))。
【0084】
図6(C)に示すように、吸入閉じ切り角度を0°とした場合のクランク角度に対するトルクの変動(破線)に比べ、2つのシリンダの吸入閉じ角度に差が生じた場合、このトルク変動が大きくなる。この2つの吸入閉じ切り角度の差が大きくなると、トルク変動も増大し、圧縮機の振動が増大することが知見として得られた。
【0085】
そこで、圧縮機の振動を抑えるためには、2つの吸入閉じ切り角度が小さくなるように2つの吸入ポートを互いに接近して配置することが考えられる。しかし、2つの取付穴も互いに近接して配置されることになり、上述のようにケーシングの耐圧強度が低下する恐れがある。
【0086】
このような課題に対して、本開示のロータリ圧縮機(1)は、2つの吸入ポートがその並び方向が第1方向からずれて配置されても、2つのシリンダ(30,35)の吸入閉じ切り角度の差を小さくする第1機構(80)を備える。本実施形態の第1機構(80)について、以下説明する。
【0087】
図7に示すように、第1吸入ポート(33)の吸入路(30c)は、第1シリンダ(30)の径方向に沿って形成される。第1吸入ポート(33)の第1開口(30a)および第2開口(30b)は、第1シリンダ(30)の同一径方向上に配置される。このため、第1ピストン(40)の上死点と第1開口(30a)との間の角度と、第1ピストン(40)の上死点と第2開口(35b)との間の角度は同一である。第1ピストン(40)の上死点と第2開口(30b)との間の角度は、第1シリンダ(30)における吸入閉じ切り角度であり、この角度をαとする。
【0088】
本実施形態の第1機構(80)は、第2シリンダ(35)に設けられる。第1機構(80)では、第2シリンダ(35)の第1開口(35a)と第2開口(35b)との並び方向が、第2シリンダ(35)の径方向に対してずれるように構成される。
【0089】
具体的に、第2ピストン(45)の上死点と第2吸入ポート(38)の第1開口(35a)との間の角度をβ(β>α)としたときに、第2吸入ポート(38)の第2開口(35b)は、第2ピストン(45)の上死点と第2開口(35b)との間の角度がαとなるように配置される。言い換えると、第2シリンダ(35)の吸入閉じ切り角度もαとなる。このように、第1機構(80)では、2つのシリンダ(30,35)の一方の第2開口(35b)は、他方の第2開口(30b)に対してシリンダ(30,35)を筒軸方向から見て一致、または近づくように配置される。また、第1機構(80)において、第2吸入ポート(38)の第1開口(35a)と第2開口(35b)とは、第2ピストン(45)の上死点からの角度が互いに異なるため、第2吸入ポート(38)の吸入路(35c)は、第2シリンダ(35)の径方向に沿って形成されない(図7(B))。
【0090】
(6)特徴
(6-1)特徴1
本実施形態のロータリ圧縮機(1)は、2つのシリンダ(30,35)のそれぞれの外周面には、吸入側空間(S1)に連通する吸入ポート(33,38)を構成する第1開口(30a,35a)が設けられる。2つのシリンダ(30,35)の一方の第1開口(30a)および他方の第1開口(35a)は、シリンダ(30,35)の周方向に互いにずれて配置されている。ロータリ圧縮機(1)には、2つのシリンダ(30,35)の吸入閉じ切り角度の差を小さくする第1機構(80)が設けられている。
【0091】
本実施形態によると、2つの第1開口(30a,35a)がシリンダ(30,35)の周方向に互いにずれて配置されていても、第1機構(80)により、両シリンダ(30,35)の吸入閉じ切り角度の差を小さくできる。このため、閉じ切り角度の差異により生じるトルク変動を低減できる(図8参照)。その結果、ロータリ圧縮機(1)の振動を抑えることができる。
【0092】
加えて、2つの第1開口(30a,35a)がシリンダ(30,35)の周方向に互いにずれて配置されているため、各第1開口(30a,35a)に対向して配置される2つの取付穴(91,92)は、上下方向に並んで位置する場合よりも、互いに離れて設けられる。このように、2つの取付穴(91,92)が互いに離れて配置されることで、両取付穴(91,92)間の残り代を大きくすることができ、ケーシング(16)の耐圧強度の低下を抑えることができる。さらに、吸入管(61,62)の取付作業を容易にできる。
【0093】
(6-2)特徴2
本実施形態のロータリ圧縮機(1)では、第1機構(80)は、第2シリンダ(35)の一方において、第1開口(35a)と第2開口(35b)との並び方向が第2シリンダ(35)の径方向に対してずれるように構成される。
【0094】
本実施形態の第1機構(80)では、シリンダ(30,35)の筒軸方向から見て、第2シリンダ(35)の第2開口(35b)は、第1シリンダ(30)の第2開口(30b)に対して、シリンダ(30,35)の周方向上一致するように設けられる。そのため、第1シリンダ(30)の第1開口(30a)と第2シリンダ(35)との第1開口(35a)とが、シリンダ(30,35)の周方向上互いにずれた位置に設けられても、第1圧縮機構(K1)と第2圧縮機構(K2)との吸入閉じ切り角度を同一にできる。
【0095】
加えて、第1機構(80)により、両シリンダ(30,35)の第2開口(30b,35b)を上死点の近傍に配置できる。このように各シリンダ(30,35)において、吸入閉じ切り角度を小さくできるため、各シリンダ(30,35)の押しのけ容積の低減を抑えることができ、ピストン(40,45)の1回転当たりの冷媒循環量の低減を抑えることができる。さらには、ピストン(40,45)が連続して回転している間に、吐出行程が完了する位置から次の吸入閉じ切り位置までの無効動力区間を短くすることができ、圧縮効率の低下を抑えることができる。
【0096】
(7)変形例
(7-1)変形例1
変形例1のロータリ圧縮機(1)では、上記実施形態の第1機構(80)と構成が異なる。以下では、上記実施形態と異なる構成について説明する。
【0097】
図9(A)および(B)に示すように本例の第1機構(80)では、2つのシリンダ室(S)における圧縮開始のタイミングが180°ずれるように、駆動軸(70)方向から見て、一方の第1ピストン(40)の上死点と他方の第2ピストン(45)の上死点とがずれて配置される。
【0098】
本例の圧縮機構(15)では、第1圧縮機構(K1)及び第2圧縮機構(K2)を構成する部材の形状、寸法は互いに同一である。第1吸入ポート(33)および第2吸入ポート(38)は、各シリンダ(30,35)径方向に沿って設けられる。言い換えると、第1吸入ポート(33)および第2吸入ポート(38)の第1開口(30a,35a)と第2開口(30b,35b)とは、シリンダ(30,35)の同一径方向上に並んで配置される。
【0099】
本例の第1機構(80)は、第2圧縮機構(K2)に設けられている。具体的に、圧縮機構(15)の回転中心軸(70a)から図9の垂直上向き方向をD1とする。第1圧縮機構(K1)では、D1上に上死点が位置する。第1吸入ポート(33)が、D1から図9の時計回りにα°の位置にあるとする。
【0100】
このとき第2圧縮機構(K2)は、第2吸入ポート(38)がD1から図9の時計回りにβ°(β>α)の位置にあるとして、上死点がD1から時計回り方向へ(β-α)°の位置にあるように設けられる。すなわち、第2圧縮機構(K2)の上死点から第2吸入ポートまでの角度はα°となる。また、第1ピストン(40)および第2ピストン(45)は、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)に対する第1ピストン(40)の偏心方向が、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)に対する第2ピストン(45)の偏心方向と180°異なる(第1ピストン(40)の変位の周期と、第2ピストン(45)の変位の周期は、180°ずれる)ようにそれぞれ配置される。
【0101】
このように、本例の圧縮機構(15)では、第2圧縮機構(K2)を第1圧縮機構(K1)に対して、図9の時計回り方向へ(β-α)°回転させた状態で、第1圧縮機構(K1)と第2圧縮機構(K2)とが重ね合わされている。このことにより、駆動軸(70)の軸方向から見て、第1シリンダ(30)および第2シリンダ(35)の第1開口(30a,35a)は、互いにシリンダ(30,35)の周方向にずれて配置されるが、第1圧縮機構(K1)および第2圧縮機構(K2)の吸入閉じ切り角度は同一(α°)となる。従って、本例のロータリ圧縮機(1)においても、トルク変動を低減でき、圧縮機の振動を抑制できる。
【0102】
特に図9(C)に示すように、第1ピストン(40)の上記偏心方向が、第2ピストン(45)の上記偏心方向に対して180°よりずれるように、第1ピストン(40)および第2ピストン(45)が配置されることで、トルク変動をより低減できる。具体的に、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)および第1偏心部(75)の中心軸(75a)を結ぶ線と、駆動軸(70)の回転中心軸(70a)および第2偏心部(76)の中心軸(76a)を結ぶ線との間の角度γは180°よりも小さい。
【0103】
(7-2)変形例2
変形例2では、ロータリ圧縮機(1)は、各取付穴(91,92)に接続される吸入管(61,62)を有する(図3参照)。第1吸入管(61)の一端は、第1取付穴(91)を挿通して第1吸入ポート(33)に接続される。第2吸入管(62)の一端は、第2取付穴(92)を挿通して第2吸入ポート(38)に接続される。各吸入管(61,62)の他端は、アキュームレータ(2)に接続される。
【0104】
各吸入管(61,62)は、取付穴(91,92)から水平方向に延びた後、ケーシング(16)の筒軸方向に沿って上方へ延びる。アキュームレータ(2)は、その下端において上方に延びる2本の吸入管(61,62)に接続される。
【0105】
図10に示すように、ケーシング(16)の筒軸方向上向きに伸びる2本の吸入管(61,62)は、ケーシング(16)を上方から見たときにケーシング(16)の筒軸中心Oの同心円C(破線)上に配置される。具体的に、同心円C上に各吸入管(61,62)の縦断面の中心が位置するように、2本の吸入管(61,62)は配置される。このように2本の吸入管(61,62)が配置されることで、アキュームレータ(2)の固定を強化でき、アキュームレータ(2)の振動を抑えることができる。
【0106】
(8)その他の実施形態
上記実施形態および上記各変形例については、以下のような構成としてもよい。
【0107】
実施形態において、第1機構(80)は、第1圧縮機構(K1)に設けられてもよいし、第1圧縮機構(K1)および第2圧縮機構(K2)に設けられてもよい。第1機構(80)が第1圧縮機構(K1)および第2圧縮機構(K2)に設けられる場合、第1シリンダ(30)および第2シリンダ(35)のそれぞれの第1開口(30a,35a)および第2開口(30b,35b)は、その並び方向がシリンダ(30,35)の径方向とずれるように配置される。
【0108】
実施形態の第1機構(80)において、第1シリンダ(30)の第2開口(30b,35b)と第2シリンダ(35)の第2開口(30b,35b)とは、シリンダ(30,35)周方向上一致するように配置される必要はなく、互いに近接して配置されていればよい。
【0109】
変形例1において、第1機構(80)は、第1圧縮機構(K1)に設けられてもよい。
【0110】
第1機構(80)は、2つのシリンダ(30,35)の吸入閉じ切り角度の差を小さくする機構であればよく、上記実施形態および上記変形例1のような構成に限定されない。
【0111】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。以上に述べた「第1」、「第2」、…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上説明したように、本開示は、ロータリ圧縮機および冷凍装置について有用である。
【符号の説明】
【0113】
1 ロータリ圧縮機
2 アキュームレータ
16 ケーシング
30 第1シリンダ(シリンダ)
35 第2シリンダ(シリンダ)
30a,35a 第1開口
30b,35b 第2開口
33 第1吸入ポート(吸入ポート)
38 第2吸入ポート(吸入ポート)
40 第1ピストン
45 第2ピストン
41 第1ブレード(ブレード)
46 第2ブレード(ブレード)
61 第1吸入管(吸入管)
62 第2吸入管(吸入管)
70 駆動軸
80 第1機構
100 冷凍装置
S シリンダ室
S1 第1室(吸入側空間)
S2 第2室(吐出側空間)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10