(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162990
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ロータ及びこれを備えるモータ、並びにロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2733 20220101AFI20231101BHJP
【FI】
H02K1/2733
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073750
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 和司
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸明
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622CA01
5H622CA05
5H622PP01
5H622PP19
(57)【要約】
【課題】ロータのシャフトとマグネットとを接着剤で固定する際に、はみ出した接着剤が他の部品に拡散することを防ぐ構造を有するロータ、及びこれを備えるモータ、並びにロータの組み立て方法を提供する。
【解決手段】回転軸であるシャフトと、永久磁石からなるマグネットと、を備え、前記マグネットは、前記シャフトが挿通される入口および出口を有する貫通穴である軸穴を有し、前記シャフトは、その一部に、該シャフトの直径が小さく形成された部分である小径部を有し、前記小径部は、前記軸穴内の出口付近から該出口の外側まで連続しているロータによりこれを解決する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸であるシャフトと、
永久磁石からなるマグネットと、を備え、
前記マグネットは、前記シャフトが挿通される入口および出口を有する貫通穴である軸穴を有し、
前記シャフトは、その一部に、該シャフトの直径が小さく形成された部分である小径部を有し、
前記小径部は、前記軸穴内の出口付近から該出口の外側まで連続している、
ロータ。
【請求項2】
前記シャフトの、前記小径部と他の部分との境界には段差が設けられている、
請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
前記シャフトの、前記小径部と他の部分とは傾斜面で連続している、
請求項1に記載のロータ。
【請求項4】
前記小径部は、前記シャフトの外周面に形成された環状の溝である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のロータ。
【請求項5】
前記小径部は、前記軸穴内の出口付近から該出口の外側の端部まで連続している、
請求項1から3のいずれか一項にロータ。
【請求項6】
前記マグネットは、前記軸穴の入口側の端面に、該入口よりも大きな内径を有し、該入口に連続する凹部である接着剤溜まりを有する、
請求項1に記載のロータ。
【請求項7】
前記接着剤溜まりは、その開口から前記軸穴の入口側に向かって段状に又は次第にその内径が小さくなる、
請求項6に記載のロータ。
【請求項8】
前記マグネットは、前記軸穴の出口側の端面に、該出口よりも大きな内径を有し、該出口に連続する凹部である軸受収容部を有する、
請求項1に記載のロータ。
【請求項9】
前記シャフトと前記マグネットとは、紫外線硬化性を有する接着剤で固定される、
請求項1に記載のロータ。
【請求項10】
前記シャフトは金属製であり、
前記シャフトと前記マグネットとは、嫌気性を有する接着剤で固定される、
請求項1又は9に記載のロータ。
【請求項11】
前記小径部の直径は1.5mm以下である、
請求項1に記載のロータ。
【請求項12】
請求項8に記載のロータを備え、
前記軸受収容部には、その内部に前記シャフトの軸受が張り出しており、
前記軸穴の深さ方向における出口側を下とし、前記マグネットの下側の端面を該マグネットの下面というときに、
前記マグネットの下面が限界まで下方に移動しても、前記軸受は前記小径部の形成位置には至らない、
モータ。
【請求項13】
回転軸であるシャフトと、
永久磁石からなるマグネットと、を備えるロータの組み立て方法であって、
前記マグネットは、前記シャフトが挿通される入口および出口を有する貫通穴である軸穴を有し、
前記シャフトは、その一部に、該シャフトの直径が小さく形成された部分である小径部を有し、
前記小径部は前記軸穴の出口付近に形成され、
紫外線硬化性の接着剤を前記シャフトに塗布する第1工程と、
前記シャフトを前記ロータマグネットの軸穴に差し込む第2工程と、
前記軸穴の入口側にのみ紫外線を照射する第3工程と、を含み、
前記軸穴の出口側には紫外線が照射されない、
ロータの組み立て方法。
【請求項14】
前記小径部は、前記軸穴内の出口付近から該出口の外側まで連続している、
請求項13に記載のロータの組み立て方法。
【請求項15】
前記小径部は、前記シャフトの外周面に形成された環状の溝である、
請求項14に記載のロータ。
【請求項16】
前記マグネットは、前記軸穴の入口側の端面に、該入口よりも大きな内径を有し、該入口に連続する凹部である接着剤溜まりを有する、
請求項13に記載のロータの組み立て方法。
【請求項17】
前記シャフトは金属製であり、
前記接着剤は嫌気性をさらに有する、
請求項13に記載のロータの組み立て方法。
【請求項18】
前記第3工程の後に、
前記ロータを加熱する第4工程をさらに含む、
請求項13又は17に記載のロータの組み立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気モータのロータに関し、より具体的には、ロータシャフトとロータマグネットとを固定する接着剤の拡散防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献には、ロータシャフトとロータマグネットとが接着剤で固定されるステッピングモータが開示されている。特許文献1のステッピングモータは、シャフトの外周面に溝を設け、溝で接着剤を受け止めることで接着剤のはみ出しを防止している。特許文献2のステッピングモータは、接着剤が溜められる凹部がマグネットの端面に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-155926号公報
【特許文献2】特開2014-142093号公報
【特許文献3】特開2004-328967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロータのシャフトとマグネットとを接着剤で固定する場合、これらの接着面からはみ出した接着剤の対処が必要となる。はみ出した接着剤がモータの他の部品に拡散した場合、モータの正常動作が妨げられるおそれがある。
【0005】
上記特許文献1のように、余分な接着剤をシャフトの外周面に刻まれた溝で保持する場合、溝が常に接着剤で満たされるわけではないため、シャフトとロータとの接着面積が溝の面積に準じて減少する。特に、濡れ性の高い接着剤を用いる場合、にじみ出した接着剤がシャフトを伝って拡散しやすいため、溝の容積を十分に確保しておく必要がある。一方、例えばシャフトの直径が1ミリ程度の小型モータでは、シャフトとマグネットの接着面積がそもそも最小限に抑えられているため、接着面積と溝の容積とを両立させることが難しい場合がある。また、このような小型モータでは、安定した精度でシャフトに細い溝を形成すること自体に高い加工技術が要求される。
【0006】
また、接着剤に紫外線硬化型のものを用いる場合、ロータの一方の端面にのみ紫外線を照射すると、硬化しきれなかった接着剤が他方の端面からにじみ出るおそれがある。これを防ぐためには、ロータの両端面に紫外線を照射することが望ましいが、組み立て作業の工程数や工数の点からは理想的とはいえない。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ロータのシャフトとマグネットとを接着剤で固定する際に、はみ出した接着剤が他の部品に拡散することを防ぐ構造を有するロータ、及びこれを備えるモータ、並びにロータの組み立て方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のロータは、回転軸であるシャフトと、永久磁石からなるマグネットと、を備え、前記マグネットは、前記シャフトが挿通される入口および出口を有する貫通穴である軸穴を有し、前記シャフトは、その一部に、該シャフトの直径が小さく形成された部分である小径部を有し、前記小径部は、前記軸穴内の出口付近から該出口の外側まで連続していることをその要旨とする。
【0009】
本発明のシャフトは、軸穴内の出口付近からその外側まで連続する小径部を有している。軸穴の出口側にはみ出してきた接着剤は、軸穴の内面と小径部との間に形成された空間内において、その表面張力により、表面積ができるだけ小さくなるよう、はみ出し口付近に溜まる。このはみ出し口付近に溜まった接着剤は、後続の接着剤の漏出を防ぐシール効果を発揮する。これにより、軸穴から漏出した接着剤が他の部品に拡散することが防止される。
【0010】
このとき、前記シャフトの、前記小径部と他の部分との境界には段差が設けられることが好ましい。小径部と他の部分との境界に段差(角・エッジ)が設けられることにより、接着剤の表面張力によるシール効果が得やすくなるとともに、接着剤がシャフト側に拡散しにくくなる。
【0011】
またこのとき、前記シャフトの、前記小径部と他の部分とは傾斜面で連続していてもよい。これにより、小径部が形成する空間にはみ出した接着剤を後続の接着剤のシールに適した形状に溜め置くことができる。
【0012】
また、前記小径部は、前記シャフトの外周面に形成された環状の溝であることが好ましい。小径部が環状の溝であることにより、小径部に到達した接着剤は、小径部の向こう岸を乗り越えなければシャフトのその先に濡れ広がることができない。また、本発明では小径部が軸穴の外側まで連続しているため、溝にある程度接着剤が溜まったとしても、接着剤が軸穴の内面を伝って小径部の向こう岸に渡ることはない。
【0013】
またこのとき、前記小径部は、前記軸穴内の出口付近から該出口の外側の端部まで連続していてもよい。これにより小径部の加工が容易となる。
【0014】
また、前記マグネットは、前記軸穴の入口側の端面に、該入口よりも大きな内径を有し、該入口に連続する凹部である接着剤溜まりを有することが好ましい。これにより、余分な接着剤を軸穴の入口側に留めておくことができ、軸穴の出口側からはみ出す接着剤の量を減らすことができる。
【0015】
このとき、前記接着剤溜まりは、その開口から前記軸穴の入口側に向かって段状に又は次第にその内径が小さくなることが好ましい。シャフトの差込口の開口が広くとられることで、シャフトをスムーズにマグネットに差し込むことができる。これに加え、接着剤の塗布量の誤差を接着剤溜まりの開口付近で吸収することができる。
【0016】
また、前記マグネットは、前記軸穴の出口側の端面に、該出口よりも大きな内径を有し、該出口に連続する凹部である軸受収容部を有することが好ましい。これにより、シャフトの軸受等の他部材をロータの内部に収容することが可能となり、本発明のロータを用いる装置を小型化することができる。
【0017】
また、前記シャフトと前記マグネットとは、紫外線硬化性を有する接着剤で固定されることが好ましい。これにより接着剤の硬化に要する時間を短縮することができる。
【0018】
また、本発明のロータは、前記シャフトが金属製であり、前記シャフトと前記マグネットとは、嫌気性を有する接着剤で固定されることが好まい。これにより接着剤の硬化に要する時間を短縮することができる。
【0019】
また、本発明のロータは、前記小径部の直径が1.5mm以下であることが好ましい。本発明のシャフトの小径部は、軸穴の内面の、つまりシャフトとマグネットとの接着面の、出口付近から該出口の外側に連続するように設けられている。これにより接着面積の減少が最小限に抑えられており、はみ出した接着剤を保持する容積と接着面積との両立が図られている。また、本発明の小径部の構成であれば加工も比較的容易である。
【0020】
また、上記課題を解決するため、本発明のモータは、本発明のロータを備え、前記軸受収容部には、その内部に前記シャフトの軸受が張り出しており、前記軸穴の深さ方向における出口側を下とし、前記マグネットの下側の端面を該マグネットの下面というときに、前記マグネットの下面が限界まで下方に移動しても、前記軸受は前記小径部の形成位置には至らないことをその要旨とする。
【0021】
本発明のロータによれば、軸穴の出口側にはみ出してきた接着剤は、シャフトの小径部の形成範囲に留まる。小径部をシャフトの軸受が届かない位置に設けることで、小径部に溜まった接着剤が軸受に付着することが防止される。
【0022】
また、上記課題を解決するため、本発明のロータの組み立て方法は、回転軸であるシャフトと、永久磁石からなるマグネットと、を備えるロータの組み立て方法であって、前記マグネットは、前記シャフトが挿通される入口および出口を有する貫通穴である軸穴を有し、前記シャフトは、その一部に、該シャフトの直径が小さく形成された部分である小径部を有し、前記小径部は前記軸穴の出口付近に形成され、紫外線硬化性の接着剤を前記シャフトに塗布する第1工程と、前記シャフトを前記ロータマグネットの軸穴に差し込む第2工程と、前記軸穴の入口側にのみ紫外線を照射する第3工程と、を含み、前記軸穴の出口側には紫外線が照射されないことを要旨とする。
【0023】
シャフトとマグネットとの接着に紫外線硬化型の接着剤を用いる場合、軸穴の入口側にのみ紫外線を照射すると、硬化しきれなかった接着剤が軸穴の出口から漏れ出すおそれがある。また、軸穴の入口側にのみ紫外線を照射すると、軸穴の入口側は硬化した接着剤で蓋がされた状態になり、軸穴内の未硬化接着剤は必然的に出口側に流れることになる。本発明のシャフトは、軸穴の出口付近に小径部を有しており、出口側にはみ出した接着剤は小径部に保持される。これにより接着剤の拡散が防止されるとともに、軸穴の出口側への紫外線照射工程を省略することが可能となる。
【0024】
このとき、前記小径部は、前記軸穴内の出口付近から該出口の外側まで連続していることが好ましい。その効果は上記ロータの発明において述べた通りである。
【0025】
またこのとき、前記小径部は、前記シャフトの外周面に形成された環状の溝であることが好ましい。その効果は上記ロータの発明において述べた通りである。
【0026】
また、前記マグネットは、前記軸穴の入口側の端面に、該入口よりも大きな内径を有し、該入口に連続する凹部である接着剤溜まりを有することが好ましい。これにより、余分な接着剤を軸穴の入口側に留めておくことができ、軸穴の出口側からはみ出す接着剤の量を減らすことができる。また、入口側には紫外線が照射されるため、接着剤溜まりに蓄えられた接着剤は速やかに硬化される。
【0027】
また、本発明のロータの組み立て方法においては、前記シャフトが金属製であり、前記接着剤は嫌気性をさらに有することが好ましい。その効果は上記ロータの発明において述べた通りである。
【0028】
また、本発明のロータの組み立て方法は、前記第3工程の後に、前記ロータを加熱する第4工程をさらに含んでもよい。ロータが加熱されると、軸穴内やマグネット内の空気が膨張して接着剤がより出口側に押し出される。この場合でもシャフトの小径部によって接着剤が保持されるため、接着剤の拡散は防止される。
【発明の効果】
【0029】
このように、本発明によれば、ロータのシャフトとマグネットとを接着剤で固定する際に、はみ出した接着剤が他の部品に拡散することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】モータ装置の内部構造を示す側面視断面図である。
【
図3】マグネットの構造を示す側面視断面図である。
【
図4】マグネットにリードスクリューが差し込まれた状態を示す側面視断面図である。
【
図6】
図5(b)の一点鎖線で囲んだ部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のロータ及びモータの実施形態について図面を参照しながら説明する。以下に説明するモータ装置90はその駆動源として本発明のモータを採用しており、そのモータは本発明のロータを採用している。
【0032】
以下の説明における「上下」とは、
図1に描かれた座標軸のZ軸に平行な方向を意味しており、Z1側を「上」、Z2側を「下」とする。「前後」とは同座標軸のX軸に平行な方向であり、X1側を「前」、X2側を「後ろ」とする。
【0033】
(全体構成)
図1はモータ装置90の外観を示す斜視図である。モータ装置90は、駆動源であるステッピングモータ80(以下、単に「モータ80」という。)と、金属製のリードスクリュー10とを有し、モータ80の回転運動をリードスクリュー10によって直線運動に変換する装置である。モータ80は、直径が10mm又はそれ以下の汎用的な小型・精密モータである。モータ80及びリードスクリュー10は金属製の枠体であるフレーム91に固定されている。リードスクリュー10には図示しないナット部材が装着されてもよい。
【0034】
図2はモータ装置90の内部構造を示す側面視断面図である。モータ80はPM型(永久磁石型)のステッピングモータである。モータ80は、主に、ロータ70、ステータ81、及びリードスクリュー10の軸受である軸受部材82により構成されており、これらはモータケース89に収容または結合されている。また、モータケース89の底部(X2側端部)には板ばね891が設けられており、ロータ70は板ばね891により前方に付勢されている。ロータ70は、ロータシャフトであるリードスクリュー10と、円筒形状の永久磁石であるマグネット30とにより構成されている。詳しくは後段で述べるが、リードスクリュー10はその根元部11がマグネット30の筒内に接着固定されている。ステータ81はマグネット30の外周面と所定のエアギャップを挟んで対向配置されている。
【0035】
(マグネットの構造)
図3はマグネット30の構造を示す側面視断面図である。
図4は、マグネット30にリードスクリュー10が差し込まれた状態を示す側面視断面図である。以下、
図3及び
図4を参照して本形態のマグネット30の構造について説明する。
【0036】
マグネット30は、リードスクリュー10の根元部11が挿通される筒穴31を有している。筒穴31はその前側(X1側)から順に、接着剤溜まり50、軸穴40、及び軸受収容部60に区画されている。
【0037】
軸穴40は、筒穴31の全体のうち最も小さな内径を有する部分であり、リードスクリュー10の根元部11の最大径とほぼ同じ(僅かに大きい)内径の穴である。軸穴40はリードスクリュー10が挿通される入口41及び出口42を有している。
【0038】
接着剤溜まり50は、マグネット30の前面(X1側端面)に設けられた凹部である。接着剤溜まり50は軸穴40よりも大きな内径を有し、その底部の中央に軸穴40の入口41が設けられている。また、接着剤溜まり50の開口には、その内径が段状・テーパ状に拡張されたガイド部51が設けられている。
【0039】
軸受収容部60は、マグネット30の背面(X2側端面)に設けられた凹部である。軸受収容部60は軸穴40よりも大きな内径を有し、その底部の中央に軸穴40の出口42が設けられている。
図2に示されるように、軸受収容部60の内部には軸受部材82の一部が張り出している。
【0040】
(ロータの組み立て方法)
図5はロータ70の組み立て方法を示す図である。以下、
図5を参照してリードスクリュー10とマグネット30とを接着結合する工程を説明する。
【0041】
まず第1工程として、リードスクリュー10の根元部11に接着剤99を塗布する(
図5(a))。本形態の接着剤99は紫外線硬化性と嫌気性とを有する接着剤である。これにより接着剤の硬化に要する時間が短縮されている。
【0042】
そして第2工程として、リードスクリュー10の根元部11をマグネット30の軸穴40に差し込む(
図5(b))。このとき、リードスクリュー10に塗布された余分な接着剤99は軸穴40の入口41にこそぎとられ、接着剤溜まり50に溜まる。本形態のモータ80は小型・精密モータであり、リードスクリュー10の直径も1.5mm又はそれ以下である。そのため、リードスクリュー10をマグネット30に差し込む作業はそれなりに細かな作業となるが、本形態のマグネット30にはガイド部51が設けられ、差込口の間口が広くなっているため、比較的スムーズにこの作業を行うことができる。また、ガイド部51は、接着剤99の塗布量の誤差を吸収するバッファとしても用いることができる。
【0043】
その後、第3工程として、マグネット30の前面側にのみ紫外線を照射する。これにより接着剤溜まり50の接着剤99は速やかに硬化する。尚、詳しくは後段で述べるが、本形態ではマグネット30の背面側には紫外線が照射されない。
【0044】
その後、第4工程として、ロータ70を80℃~105℃程度の温度で約1時間加熱する。これにより接着剤99の嫌気性による重合反応を促進する。尚、リードスクリュー10が樹脂製であったり、接着剤99が嫌気性接着剤でなかったりすればこの工程は省略できる。
【0045】
(接着剤の拡散防止構造)
図6は、
図5(b)の一点鎖線で囲んだ部分の拡大図である。以下、
図4及び
図6を参照して、モータ装置90内における接着剤99の拡散防止構造について説明する。
【0046】
図4及び
図6に示されるように、リードスクリュー10には、その根元部11に、根元部11の直径が部分的に小さく形成された小径部20が設けられている。小径部20は、軸穴40内の出口42付近からその外側まで連続している。小径部20は、根元部11の外周面に形成された環状の溝であり、小径部20と他の部分との境界には段差20a,20bが設けられている。
【0047】
このように、本発明のモータ装置90は、リードスクリュー10の根元部11に、軸穴40内の出口42付近からその外側まで連続する小径部20を有していることで、軸穴40の出口42側にはみ出してきた接着剤99は、軸穴40の内面と小径部20との間に形成された空間内に保持される。はみ出してきた接着剤99は、その表面張力により、表面積ができるだけ小さくなるよう、はみ出し口付近に溜まる。このはみ出し口付近に溜まった接着剤99は、後続の接着剤99の漏出を防ぐシール効果を発揮する。これにより、軸穴40から漏出した接着剤99が他の部品に拡散することが防止される。
【0048】
本形態では、小径部20と他の部分との境界に段差20a,20b(角・エッジ)が設けられていることにより、接着剤99の表面張力によるシール効果が得やすくなっており、また、接着剤99がリードスクリュー10側に拡散しにくくなっている。
【0049】
さらに、本形態では、小径部20が環状の溝であることにより、小径部20に到達した接着剤99は、小径部20の向こう岸(段差20b)を乗り越えなければ根元部11のその先に濡れ広がることができない。特に、本形態では小径部20が軸穴40の外側まで連続しているため、溝にある程度接着剤99が溜まったとしても、接着剤99が軸穴40の内面を伝って小径部20の段差20bを乗り越えることはない。これにより、接着剤99が根元部11を伝って軸受部材82(
図2参照)に浸潤し、ロータ70の回転を妨げることが防止される。
【0050】
そして、本形態では、リードスクリュー10とマグネット30の接着に紫外線硬化型の接着剤99を用いており、上述の第3工程では、マグネット30の前面側にのみ、つまり軸穴40の入口41側にのみ紫外線を照射する。これにより軸穴40の入口41側には硬化した接着剤99で蓋がされた状態になり、軸穴40内の未硬化の接着剤99は必然的に出口42側に流れることになる。つまり未硬化の接着剤99が軸穴40の出口42から漏れ出すおそれがある。これを防ぐためには、マグネット30の前面側だけでなく背面側にも紫外線を照射することが望ましいが、組み立て作業の工程数や工数の点からは理想的とはいえない。本形態のモータ装置90は、軸穴40の出口42付近に小径部20を設け、小径部20により接着剤99の拡散を防止することで、マグネット30の背面側への紫外線照射工程を省略することを可能としている。
【0051】
また、本形態のロータ70の組み立て方法では、マグネット30の前面側に紫外線を照射した後でロータ70を加熱する(第4工程)。ロータ70が加熱されると、軸穴40内やマグネット30内の空気が膨張することで接着剤99はより出口42側に押し出されることになる。この場合でも小径部20により接着剤99の拡散が防止される。
【0052】
また、上でも述べたように、本形態のモータ80は小型であることをその特徴とするモータであり、リードスクリュー10とマグネット30の接着面積についても十分な余裕があるわけではない。本形態のモータ装置90では、小径部20が、軸穴40の内面の、つまりリードスクリュー10とマグネット30の接着面の、出口42付近からその外側に連続するように設けられており、これにより接着面積の減少が最小限に抑えられ、はみ出した接着剤99を収容する容積と接着面積との両立が図られている。また、本形態の小径部20の構成であれば、加工にもそれほど高度な精密さは要求されない。
【0053】
尚、本形態の小径部20の構成は、リードスクリュー10とマグネット30の接着面積の確保、接着剤99の収容容積の確保、安定した加工精度の確保、軸穴40を伝った段差22bの乗り越え阻止等を目的としたものであり、小径部20は常に軸穴40の外まで延びていなければならないということではない。ここで挙げたような課題がなければ、又はその課題が問題とならなければ、軸穴40の内部に閉じた範囲に小径部20を設けることもできる。
【0054】
(軸受構造)
図2に示すように、マグネット30の軸受収容部60には、軸受部材82の一部が張り出しており、これがリードスクリュー10の軸受となっている。上でも述べたように、モータケース89の底部には板ばね891が設けられており、ロータ70は板ばね891により前方に付勢されている。
【0055】
リードスクリュー10に何らかの外力が加えられ、リードスクリュー10が後方に押されたときには、リードスクリュー10は、マグネット30の背面が軸受部材82に突き当たる位置まで後退する。本形態の小径部20は、この場合でも軸受部材82に重ならない範囲に形成されている。小径部20を軸受部材82が届き得ない位置に設けることで、小径部20に溜まった接着剤99が軸受部材82に付着することが防止されている。尚、リードスクリュー10やマグネット30についての前方や背面などの向きの表現は単に便宜上のものであり、例えば前方を上、背面を下面などと定義しても構わない。
【0056】
(小径部の変形例)
図7は小径部20の変形例である小径部21(a)及び小径部22(b)を示す模式図である。以下、
図7を参照して小径部20の変形例について説明する。
【0057】
図7(a)の小径部21は、根元部11における軸穴40内の出口42付近からその外側の端部まで連続している。小径部21は、上記実施形態の小径部20に比べて接着剤99の拡散を防ぐ性能は劣るが、小径部20よりも加工が容易である。はみ出す接着剤99の量がごく僅かであったり、接着剤99の濡れ性がそれほど高くないのであれば採用できる余地がある。
【0058】
図7(b)の小径部22は、小径部22とその前側の部分とが傾斜面であるテーパ22aで連続している。これにより、小径部22にはみ出した接着剤99を後続の接着剤99のシールにより適した形状に溜め置くことが可能となる。また、小径部22は根元部11の外周面に形成された環状の溝であり、小径部22の向こう岸は傾斜面ではなく段差22bとなっている。これにより小径部22bに溜まった接着剤99が根元部11のその先に濡れ広がることを防止している。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0060】
10:リードスクリュー(シャフト),11:根元部,20:小径部,20a:段差,20b:段差,21:小径部,22:小径部,22a:テーパ(傾斜面),22b:段差,30:マグネット,31:筒穴,40:軸穴,41:入口,42:出口,50:接着剤溜まり,51:ガイド部,60:軸受収容部,70:ロータ,80:ステッピングモータ,81:ステータ,82:軸受部材,89:モータケース,891:板ばね,90:モータ装置,91:支持板,99:接着剤