(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163088
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ぶどう加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20231101BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L19/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073915
(22)【出願日】2022-04-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】301048150
【氏名又は名称】株式会社岩手くずまきワイン
(71)【出願人】
【識別番号】306017014
【氏名又は名称】地方独立行政法人 岩手県工業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【弁理士】
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】山下 佑子
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 望
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亜弓
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LG01
4B016LK11
4B016LK18
4B016LP02
4B016LP05
4B016LP06
4B016LP08
4B016LP13
(57)【要約】
【課題】ぶどうを使用し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑えた状態に品質を保つことができるぶどう加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】乾燥したぶどうを加工するぶどう加工食品の製造方法は、乾燥したぶどうを蒸すぶどう蒸し工程と、蒸したぶどうを果汁又は糖液に浸漬するぶどう浸漬工程と、浸漬したぶどうをろ過してぶどうとろ液に分離する固液分離工程と、ろ過したぶどうに酵母を添加する酵母添加工程と、酵母を添加したぶどうを保温して発酵させる発酵工程と、発酵したぶどうを加熱して酵母の生菌を殺菌し発酵を停止させる殺菌工程とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥したぶどうを加工するぶどう加工食品の製造方法であって、
乾燥した前記ぶどうを蒸すぶどう蒸し工程と、
蒸した前記ぶどうを果汁又は糖液に浸漬するぶどう浸漬工程と、
浸漬した前記ぶどうをろ過して前記ぶどうとろ液に分離する固液分離工程と、
ろ過した前記ぶどうに酵母を添加する酵母添加工程と、
前記酵母を添加した前記ぶどうを保温して発酵させる発酵工程と、
発酵した前記ぶどうを加熱して前記酵母の生菌を殺菌し発酵を停止させる殺菌工程と、
を備えていることを特徴とするぶどう加工食品の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のぶどう加工食品の製造方法であって、
前記ぶどう蒸し工程は、前記ぶどうの水分活性を0.880以上0.947未満にすることを特徴とするぶどう加工食品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のぶどう加工食品の製造方法であって、
前記ぶどう浸漬工程は、前記ぶどうの乾燥固形分を58%以下且つ糖度を40%以下にすることを特徴とするぶどう加工食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載のぶどう加工食品製造方法であって、
前記酵母添加工程は、前記酵母を醸造用酵母とすることを特徴とするぶどう加工食品の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2記載のぶどう加工食品の製造方法であって、
前記発酵工程は、前記ぶどうを20℃以上30℃以下の間の一定温度で発酵させることを特徴とするぶどう加工食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2記載のぶどう加工食品の製造方法であって、
前記発酵工程の次に、前記ぶどうを0℃以上4℃以下で冷却して発酵を停止させる冷却工程を備えていることを特徴とするぶどう加工食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2記載のぶどう加工食品の製造方法であって、
前記殺菌工程は、58℃以上70℃未満で、10分以上1時間以下にて湯浴殺菌していることを特徴とするぶどう加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥したぶどうを加工するぶどう加工食品の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から洋菓子などには、ドライフルーツと呼ばれる乾燥したフルーツや砂糖に漬けたフルーツを使用したものが多く流通している。昨今、健康志向の高まりやドライフルーツを加えたシリアル類のブーム等を受けてドライフルーツに注目が集まっており、このドライフルーツを使用する場合、加工工程で損なわれた香りを補ったり、縮んで硬くなった実を戻したり、甘さ等を引き出すために砂糖や酒類に漬けたりする工夫がなされている。
【0003】
一般的に、ドライフルーツを酒類に漬ける場合は、ドライフルーツに所定の割合で酒類を混合して定期的に撹拌する等の工程を介し、ドライフルーツが柔らかくなり食するのに適した状態になるまで長時間保存して熟成させる方法が取られる。
【0004】
また、生体の果実やドライフルーツの風味を出すために、生体の果実やドライフルーツ等に酵母菌等を注入して、熟成の過程で、その果実独自の成分を媒体とした発酵果実を作る方法等も知られている。このような、生体の果実やドライフルーツに酵母菌を注入して発酵果実を作る方法として特許文献1の技術が開示されている。
【0005】
特許文献1の技術は、果実として苺を使用した例であり、少し赤みの出てきた頃の苺の果実に、米麹10gに60mlの水を加え、55℃で6時間糖化し、PH3.6~3.8になるように乳酸を添加して常温に冷却した培養液に、酵母菌を混合した液を注入する。すると、苺果実の熟成と共に発酵も進み、微量のアルコールや高い芳香を生成した熟成苺が得られるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フルーツの中でも芳醇な香りや風味を醸し出すものとして、特にぶどうの需要が高まっており、ぶどうの加工食品において香りや風味を向上させることができれば好ましい。ぶどうを原料とするものとしてワインはよく知られているが、ぶどうの加工食品としては、干しぶどうとも呼ばれるレーズンをラム酒などに漬け込んだラムレーズンなどがある。しかし、ラムレーズンでは糖分が高いうえにアルコール分も20%程度と高く、とても甘くアルコールも強く感じるため単独で食べるには難しく、果実感も少なくなり、せっかくのぶどうの良さが損なわれてしまう。
【0008】
また、特許文献1の技術では、苺の果実に米麹10gに60mlの水を加えて55℃で6時間糖化し、元々の苺の糖分に加えて糖化でさらに甘くなる。さらに、PH3.6~3.8になるように乳酸を添加して常温に冷却した培養液に酵母菌を混合した液を注入するだけであるため、完成後に保管している間や出荷後など時間の経過とともにさらに発酵が進むことでアルコール分が高まり過ぎ、やはりとても甘くアルコールも強く感じるため単独で食べるには難しくなる。そのうえ、苺を例にしており、ぶどうに適した特有の香りや風味を引き出すことができない。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、ぶどうを使用し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑えた状態に品質を保つことができるぶどう加工食品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]上記目的を達成するため、本発明の乾燥したぶどうを加工するぶどう加工食品の製造方法は、
乾燥した前記ぶどうを蒸すぶどう蒸し工程と、
蒸した前記ぶどうを果汁又は糖液に浸漬するぶどう浸漬工程と、
浸漬した前記ぶどうをろ過して前記ぶどうとろ液に分離する固液分離工程と、
ろ過した前記ぶどうに酵母を添加する酵母添加工程と、
前記酵母を添加した前記ぶどうを保温して発酵させる発酵工程と、
発酵した前記ぶどうを加熱して前記酵母の生菌を殺菌し発酵を停止させる殺菌工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、ぶどう蒸し工程と、蒸したぶどうを果汁又は糖液に浸漬するぶどう浸漬工程と、固液分離工程と、を備えている。加えて、ろ過したぶどうに酵母を添加する酵母添加工程と、酵母を添加したぶどうを保温して発酵させる発酵工程とを備えており、従来のラムレーズンのように直接ラム酒などの酒類に漬け込むものではないので、本発明はぶどうを使用し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑え、ぶどう特有の風味を引き出したぶどう加工食品を提供することができる。さらに本発明は、発酵したぶどうを加熱して酵母の生菌を殺菌し発酵を停止させる殺菌工程を備えているので、従来技術のように完成後の保管している間や出荷後など時間の経過とともにさらに発酵が進むことでアルコール分が過剰となることを抑制する。このため、本発明は、ぶどうを使用し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑えた状態に品質を保つことができるぶどう加工食品の製造方法を提供することができる。
【0012】
[2]好ましくは、前記ぶどう蒸し工程は、前記ぶどうの水分活性を0.880以上0.947未満にする。
【0013】
水分活性とは食品中で微生物が利用できる水分(自由水)の割合を0~1で表した数値であり、一般的に、水分活性が低いほど自由水が少なく微生物が増殖し難くなり、水分活性が高いほど自由水が多く微生物が増殖し易い。本発明のかかる構成によれば、ぶどうの水分活性を0.880以上とすることで、酵母により十分に発酵しぶどう加工食品の風味を向上させることができる。また、水分活性が高すぎると発酵するものの過発酵となりぶどう加工食品の味が悪くなるところ、本発明のかかる構成によれば水分活性を0.947未満としたのでぶどう加工食品の味を良好に保つことができる。
【0014】
[3]好ましくは、前記ぶどう浸漬工程は、前記ぶどうの乾燥固形分を58%以下且つ糖度を40%以下にする。
【0015】
かかる構成によれば、ぶどう浸漬工程は、ぶどうの乾燥固形分を58%以下且つ糖度を40%以下にするので、発酵後のぶどう加工食品の水分を多くして柔らかい食感にできるとともに、甘さも抑えてぶどう加工食品の風味を向上させることができる。
【0016】
[4]好ましくは、前記酵母添加工程は、前記酵母を醸造用酵母とする。
【0017】
かかる構成によれば、酵母添加工程は、酵母を醸造用酵母とするので、製造原価を安価にできるうえにぶどうに適した発酵を促すことができる。
【0018】
[5]好ましくは、前記発酵工程は、前記ぶどうを20℃以上30℃以下の間の一定温度で発酵させる。
【0019】
かかる構成によれば、発酵工程は、ぶどうを20℃以上30℃以下の間の一定温度で発酵させるので、酵母によりぶどうが適切に発酵してアルコールが発生し、発酵由来の風味が付与される。
【0020】
[6]好ましくは、前記発酵工程の次に、前記ぶどうを0℃以上4℃以下で冷却して発酵を停止させる冷却工程を備えている。
【0021】
酵母により発酵することで糖分がアルコールに変わる。換言すると、発酵により糖分が減り、アルコールが増加する。本発明のかかる構成によれば、冷却工程により凍らない温度でぶどうを冷却して発酵を停止させるので、アルコールの増加を抑制し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑えた状態に品質を保つことができる。
【0022】
[7]好ましくは、前記殺菌工程は、58℃以上70℃未満で、10分以上1時間以下にて湯浴殺菌している。
【0023】
冷却工程では、アルコールの増加を抑制するものの、酵母が生きた状態で残っているため、その後の状態変化により再び発酵が進むことがある。この点、本発明のかかる構成によれば、殺菌工程は、58℃以上70℃未満で、10分以上1時間以下にて湯浴殺菌しているので、酵母を死滅してその後の状態変化によっても再び発酵が進むことを防止し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑えた状態に品質を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施例に係るぶどう加工食品の製造方法のフローである。
【
図2】本発明の実施例に係るぶどう加工食品の製造方法を説明する図である。
【
図3】比較例に係るぶどう加工食品(ラムレーズン)の製造方法を説明する図である。
【
図4】浸漬工程に使用する糖分を含んだ液体の違いによる発酵日数とアルコール分の関係を説明する図である。
【
図5】
図5(a)は浸漬時の果汁量による発酵速度の差を説明する図である。
図5(b)はサンプルの違いによる浸漬後の糖度と浸漬後の水分活性を説明する図である。
【
図6】
図6(a)は前処理条件の違いによる発酵速度の差を説明する図である。
図6(b)は浸漬と蒸す順番の違いによる浸漬後の糖度と浸漬後の水分活性を説明する図である。
【
図7】
図7(a)は殺菌条件を説明する図である。
図7(b)は殺菌条件の違いによる1g当たりの生菌量を説明する図である。
【
図8】サンプルの違いによる水分活性と乾燥固形分の割合等を説明する図である。
【
図9】サンプルの違いによる糖度とアルコール分の違いを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例0026】
図1に示されるように、本発明の実施例に係るぶどう加工食品の製造方法は、STEP1(図ではSTEPをSと表記する)でドライフルーツの1種である乾燥したぶどう(レーズン、干しぶどう、とも呼ばれる)を準備する(乾燥したぶどう準備工程)。乾燥したぶどうは、市販のレーズンでも生のぶどうを乾燥したものでもよい。なお、市販のレーズンであればカリフォルニアレーズン等でもよく、生のぶどうの品種であればデラウェア、キャンベル、ナイアガラ、いわゆるヤマブドウ等でもよく、さらにはこれらの品種以外のものであっても差し支えない。
【0027】
STEP2で乾燥したぶどうを蒸す(ぶどう蒸し工程)。ぶどう蒸し工程は、いわゆるスチーム処理であり、乾燥したぶどうを30分程度蒸して水分を含ませて、表面を軟化させる。
【0028】
STEP3で蒸したぶどうを果汁又は糖液に浸漬する(ぶどう浸漬工程)。浸漬後は水分活性を0.880以上にすることが好ましい。なお、水分活性は、生のぶどうで0.98以上であり、市販のレーズンで0.6~0.7程度であり、ぶどう蒸し工程における処理後のぶどうは0.880以上で0.947未満が好ましい。蒸したぶどう10の水分活性を0.880以上とすることで酵母により十分に発酵しぶどう加工食品の風味を向上させることができる。また、水分活性が0.947以上として高すぎると発酵するものの過発酵となりぶどう加工食品の味が悪くなるところ、本発明のかかる構成によれば水分活性を0.947未満としたのでぶどう加工食品の味を良好に保つことができる。カリフォルニアレーズンのような皮の薄いタイプは蒸し後に果汁浸漬し、国産ぶどうのレーズンのような皮の厚いタイプは果汁に浸漬してから蒸してもよい。果汁は糖分がある程度含まれているものがよく、例えば糖度が20%程度の果汁であれば好ましい。また、果汁でなくフルクトース(果糖)が20%程度含まれる糖液を使用してもよいが、果汁を使用した方が味の面で好ましい。なお、ぶどう浸漬工程に糖度が25%以上の果汁または糖液を使用すると、浸漬後の糖度が40%以上と高くなり酵母の発酵を阻害する上にとても甘い状態となる。また、市販のぶどうジュースの多くは糖度(Brix)20%以下である。なお、ぶどう蒸し工程とぶどう浸漬工程とを同時に行ってもよい(ぶどうを果汁又は糖液に浸漬した状態で蒸してもよい)。
【0029】
STEP4で浸漬したぶどうをろ過してぶどうとろ液に分離する(第1の固液分離工程)。STEP4-1でろ過して分離した浸漬果汁(液体部分)を別用途に使用してもよく、または廃棄しても構わない。
【0030】
STEP5でろ過したぶどうに酵母を添加する(酵母添加工程)。酵母はワイン酵母が好ましい。なお、ワイン酵母に限定されず、清酒酵母、ビール酵母など醸造用酵母であれば好ましく、さらには醸造用酵母でないパンなどに使用される酵母などでもよく、酵母の種類は一般的なものであってもよい。ワイン酵母の場合、乾燥状態で保存されていた酵母を、35℃~40℃で水に約20分つけて戻し、これをろ過したぶどうに添加する。
【0031】
STEP6で酵母を添加したぶどうを発酵させる(発酵工程)。一定温度で所定日数をかけてぶどうをアルコールが生成するまで発酵させる(インキュベートともいう)。ここで発酵させる一定温度とは20℃以上30℃以下が好ましく、所定日数とは3~5日が好ましい。これにより、ぶどうに発酵由来のフレーバーが付与され、特有の風味が引き出される。
【0032】
STEP7で発酵したぶどうを所定の温度で冷却して酵母の発酵を停止させ、アルコールの増加を抑制する(冷却工程)。所定の温度は0℃以上4℃以下であればよく、4℃程度がより好ましい。0℃より低くするとぶどうが凍ってしまい、4℃より高くすると温度が高く発酵が停止し難くなるからである。
【0033】
STEP8で冷却したぶどうをろ過してぶどうとろ液に分離する(第2の固液分離工程)。STEP8-1でろ過して分離した液体部分を別用途に使用してもよく、または廃棄しても構わない。
【0034】
STEP9で発酵したぶどうを加熱して前記酵母の生菌を殺菌し発酵を停止させる(殺菌工程)。殺菌は、約65℃で30分の湯浴の条件で行い、生菌数が100個/g以下にすることが好ましい。従来技術のように酵母菌を混合した液を注入するだけの場合や、冷却工程で酵母の発酵を停滞させただけの場合、完成後の保管している間や出荷後などの環境により再び発酵が進んでアルコール分が高まることがあるところ、本発明の実施例では、加熱により酵母の生菌を殺菌するので、その後の環境によっても再び酵母が発酵することがない。このため、ぶどうを使用し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑えた状態に品質を保つことができるぶどう加工食品の製造方法を提供することができる。なお、殺菌工程は、58℃以上70℃未満で、10分以上1時間以下にて湯浴殺菌することで生菌数を100個/g以下にすることができる。
【0035】
STEP10で殺菌工程を介してぶどうを容器などに移し、商品としてのぶどう加工食品を得る。
【0036】
次に本発明の実施例に係るぶどう加工食品の製造方法について使用する道具を交えて説明する。
図2に示されるように、(a)で乾燥したぶどう10(レーズン、干しぶどう、とも呼ばれる)を準備する(
図1のSTEP1、ぶどう準備工程)。(b)でぶどう10を水と共に蒸し器20に入れて加熱機具21で30分程度蒸して水分を含ませる(
図1のSTEP2、ぶどう蒸し工程)。これによりぶどう10についているカビが殺菌されてなくなり、この後の酵母添加工程で醸造用の酵母をぶどう10に付き易くし、発酵で増加し易くできる。
【0037】
(c)で蒸したぶどう10を容器22に入れて、果汁11に浸漬する(
図1のSTEP3、ぶどう浸漬工程)。(d)で浸漬したぶどう10をザル23でろ過してろ液(果汁)11を回収容器24に集め、ぶどう10とろ液11に分離する(
図1のSTEP4、第1の固液分離工程)。(e)でろ過したぶどう10を容器22に入れ、ここに酵母12を入れて撹拌棒25で撹拌する(
図1のSTEP5、酵母添加工程)。
【0038】
(f)で酵母12を添加したぶどう10をトレー26に移し、加熱保温機(インキュベーター)27に入れ、例えば25℃にして3日~5日発酵させる(
図1のSTEP6、発酵工程)。発酵した酵母12aは、ブクブクとなるように増殖して膨らんだ状態となる。これにより、生菌数が約100000000個/gとなる。なお、温度を20℃未満として低い温度にすると発酵に時間がかかってカビが生えることがある。また、温度を30℃より高くすると酵母12の発酵の時間は短くなるが、過発酵となり風味が悪くなる上に他の菌も増えるおそれがある。
【0039】
(g)で発酵後のぶどう10をトレー26と共に冷蔵庫28に入れて冷却する(
図1のSTEP7、冷却工程)。(h)で冷却したぶどう10をザル23でろ過してろ液13を回収容器24に集め、ぶどう10とろ液13に分離する(
図1のSTEP8、第2の固液分離工程)。
【0040】
(i)でろ過したぶどう10を密封包装材32に入れて密封し、さらにお湯31が入った鍋型容器30にぶどう10が密封された密封包装材32を入れ、加熱機具21で加熱して湯浴殺菌する(
図1のSTEP9、殺菌工程)。加熱による湯浴殺菌は、約65℃で30分の湯浴の条件で行い、生菌数が100個/g以下にすることが好ましい。
【0041】
(j)で殺菌工程を介したぶどう10を包装容器29などに移し、商品としてのぶどう加工食品を得る(
図1のSTEP10、ぶどう加工食品)。
【0042】
次に比較例のラムレーズンの製造方法について説明する。
図3は比較例のラムレーズンの製造方法を説明する図であり、レーズン100をラム酒が入った容器101に入れてラム酒に漬ける。所定の環境下で漬け込んだ後に取り出すと、ラムレーズン100aが得られる。ラムレーズン100aは直接アルコールに漬けるため、アルコール分も高く、糖分も高い状態となる。このためぶどう特有の風味を十分に引き出すことができない。
【0043】
次に浸漬の種類別の発酵速度について説明する。
図4に示されるように、ヤマブドウ果汁とフルクトース溶液をどちらも糖度(Brix)17%の浸漬液として使用し、25℃で発酵させた結果、ヤマブドウ果汁を使用した方が発酵は速い結果となった。官能評価としては、ヤマブドウ果汁を使用した方がフレーバーは多く感じられ、フルクトース溶液を使用した方はあっさりとした香りとなった。
【0044】
次に発酵可能なレーズンについて説明する。
図5(a)に示されるように、浸漬時の果汁量による発酵速度の差は、ぶどう重量:果汁量=100:100としたものをサンプル100%とし、ぶどう重量:果汁量=100:150としたものをサンプル150%とし、ぶどう重量:果汁量=100:200としたものをサンプル200%とすると、サンプル200%が最も発酵速度が速く、サンプル150%が僅差で2番に発酵速度が速く、サンプル100%はほとんど発酵しない結果となった。
【0045】
図5(b)に示されるように、サンプル100%は浸漬後の糖度が44.8%、浸漬後の水分活性が0.916であり、サンプル150%は浸漬後の糖度が38.4%、浸漬後の水分活性が0.934であり、サンプル200%は浸漬後の糖度が33.4%、浸漬後の水分活性が0.935である。水分活性が高い方が発酵しやすく、浸漬後の糖度が高すぎると発酵を阻害すると推察される。
【0046】
図6(a)に示されるように、前処理の違いによる発酵速度の差は、ぶどう重量:果汁量=100:200で蒸し後に浸漬したサンプル(蒸し後浸漬)と、ぶどう重量:果汁量=100:200で浸漬後に蒸したサンプル(浸漬蒸し)とでは、4日を過ぎたところから浸漬蒸しの方が発酵速度は速い結果となった。
【0047】
図6(b)に示されるように、サンプル(蒸し後浸漬)は浸漬後の糖度が21.5%、浸漬後の水分活性が0.871であり、サンプル(浸漬蒸し)は浸漬後の糖度が26.0%、浸漬後の水分活性が0.902である。水分活性が高い方が発酵しやすいことがわかる。
【0048】
次に条件の違いによる殺菌の結果ついて説明する。
図7(a)は、(1)~(5)の5つの異なる条件を示したものである。(1)は果汁をレーズン重量の50%添加し、ピロ亜硫酸カリウム200ppm添加(1晩放置)である。(2)は乾燥機で65℃、1時間としたものである。(3)は果汁をレーズン重量の50%添加し、湯浴で65℃、30分としたものである。(4)は湯浴で65℃、30分としたものである。(5)はマイナス30℃で3週間保存したものである。
【0049】
図7(b)に示されるように、1g当たりの生菌数は、(3)及び(4)の湯浴で65℃、30分としたもの(または含めたもの)が、生菌数が1g当たり100個以下となった。これにより、65℃の湯浴殺菌が好ましい結果となった。なお、スチーム処理で殺菌してもよいが、風味の面で湯浴殺菌のようが好ましい。
【0050】
次にレーズン吸水後のデータについて説明する。
図8に示されるように、「キャンベル、蒸し後浸漬」のサンプルは、水分活性平均が0.962であり、糖度が42.4%、乾燥固形分63.9%である。「ナイアガラ、蒸し後浸漬」のサンプルは、水分活性平均が0.947であり、糖度が47.4%、乾燥固形分60.7%である。水分活性が高くても、糖度が40%よりも高いと発酵に向かない結果となっている。また、乾燥固形分が58%よりも大きいと発酵に向かない結果となっている。
【0051】
このように、
図5、
図8に示す結果から、ぶどう浸漬工程は、ぶどうの乾燥固形分を58%以下且つ糖度を40%以下にすることが好ましい。
【0052】
以上に述べたぶどう加工食品の製造方法の作用、効果を説明する。
本発明の実施例は、ぶどう蒸し工程と、蒸したぶどうを果汁又は糖液に浸漬するぶどう浸漬工程と、固液分離工程とを備えている。加えて、ろ過したぶどうに酵母を添加する酵母添加工程と、酵母12を添加したぶどうを保温して発酵させる発酵工程とを備えており、従来のラムレーズンのように直接ラム酒などの酒類に漬け込むものではないので、本発明はぶどう10を使用し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑え、ぶどう特有の風味を引き出したぶどう加工食品を提供することができる。さらに本発明は、発酵したぶどう10を加熱して生菌を殺菌し発酵を停止させる殺菌工程を備えているので、従来技術のように完成後の保管している間や出荷後など時間の経過とともにさらに発酵が進むことでアルコール分が過剰となることを抑制する。このため、本発明は、ぶどう10を使用し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑えた状態に品質を保つことができるぶどう加工食品の製造方法を提供することができる。
【0053】
さらに、ぶどう10の水分活性を0.880以上とすることで、酵母12により十分に発酵しぶどう加工食品10aの風味を向上させることができる。また、水分活性が高すぎると発酵するものの過発酵となりぶどう加工食品10aの味が悪くなるところ、本発明のかかる構成によれば水分活性を0.947未満としたのでぶどう加工食品10aの味を良好に保つことができる。
【0054】
さらに、ぶどう浸漬工程は、ぶどう10の乾燥固形分を58%以下且つ糖度を40%以下にするので、発酵後のぶどう加工食品10aの水分を多くして柔らかい食感にできるとともに、甘さも抑えてぶどう加工食品10aの風味を向上させることができる。
【0055】
さらに、酵母添加工程は、酵母12を醸造用酵母とするので、製造原価を安価にできるうえにぶどう10に適した発酵を促すことができる。
【0056】
さらに、発酵工程は、ぶどう10を20℃以上30℃以下の間の一定温度で発酵させるので、酵母12によりぶどう10が適切に発酵してアルコールが発生し、発酵由来の風味が付与される。
【0057】
さらに、酵母12により発酵することで糖分がアルコールに変わる。換言すると、発酵により糖分が減り、アルコールが増加する。本発明のかかる構成によれば、冷却工程により凍らない温度でぶどうを冷却して発酵を停止させるので、アルコールの増加を抑制し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑えた状態に品質を保つことができる。
【0058】
さらに、殺菌工程は、58℃以上70℃未満で、10分以上1時間以下にて湯浴殺菌しているので、酵母12を死滅してその後の状態変化によっても再び発酵が進むことを防止し、アルコール分を所定の値に抑えたうえで糖度も適度に抑えた状態に品質を保つことができる。
【0059】
次にレーズン等の糖分について説明する。
さらに、
図9に示されるように、サンプルは、レーズン、レーズンにヤマブドウ果汁を使用して発酵させたぶどう加工食品A、レーズンにフルクトース17%溶液を使用して発酵させたぶどう加工食品B、ラム酒漬けの4種類である。レーズンのサンプルは、アルコール分が0%であり好ましくない。ラム酒漬けのサンプルは、アルコール分が発生しているものの、アルコール分が15%以上と高く、糖分が30%よりも高く甘すぎるため好ましくない。
【0060】
尚、実施例では発酵工程を、ぶどうを20℃以上30℃以下の間の一定温度で発酵させるものとしたが、これに限定されず、発酵させる一定温度は、20℃以上30℃以下ではなく、18℃、32℃などでもよく、発酵できれば他の温度でもよい。また、所定日数も3~5日ではなく、2日、6日、7日などでもよく、適度にアルコールが生成され、発酵由来の風味が付与されていれば他の日数でもよい。
【0061】
即ち、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。