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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163091
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】電気刺激皮膚感覚ディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/08 20060101AFI20231101BHJP
   A61F 11/04 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
A61F9/08
A61F11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022081906
(22)【出願日】2022-04-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.マジックテープ
(71)【出願人】
【識別番号】595016897
【氏名又は名称】三井 隆久
(72)【発明者】
【氏名】三井 隆久
(57)【要約】
【課題】皮膚感覚を用いて視覚や聴覚と同様に外界を見たり音を聞いたりすることができる機器を提供することである。
【解決手段】電気的導体から成る単電極と、該単電極を電気的絶縁物上に複数備えた集合電極と、該集合電極内の該単電極である第1の単電極と、該集合電極内の該単電極であって該第1の単電極とは異なる該単電極、又は該集合電極外に備えられた該単電極のいずれか一つの該単電極である第2の単電極と、該第1の単電極と該第2の単電極とからなる電極対と、情報を生体に伝達するために必要な複数の該電極対からなる電極対群を構築する手段と、該情報をもとにして該電極対群内の個々の該電極対内の該第1の単電極及び該第2の単電極間に印加する電圧である信号電圧を求める手段と、該電極対群内の該電極対に該信号電圧を印加する電圧印加手段と、該電極対群内の該電極対に順次該信号電圧を印加する走査手段と、を備えることを特徴とする皮膚感覚ディスプレイ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的導体から成る単電極と、
該単電極を電気的絶縁物上に複数備えた集合電極と、
該集合電極内の該単電極である第1の単電極と、
該集合電極内の該単電極であって該第1の単電極とは異なる該単電極、又は該集合電極外に備えられた該単電極のいずれか一つの該単電極である第2の単電極と、
該第1の単電極と該第2の単電極とからなる電極対と、
情報を生体に伝達するために必要な複数の該電極対からなる電極対群を構築する手段と、
該情報をもとにして該電極対群内の個々の該電極対内の該第1の単電極及び該第2の単電極間に印加する電圧である信号電圧を求める手段と、
該電極対群内の該電極対に該信号電圧を印加する電圧印加手段と、
該電極対群内の該電極対に順次該信号電圧を印加する走査手段と、
を備えることを特徴とする皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項2】
前記電圧印加手段が第1の端子と第2の端子とを備え、
前記単電極を該第1の端子に電気的に接続する状態又は該第2の端子に電気的に接続する状態又はどちらにも接続しない状態のいずれか一つの状態とする機能を有する単電極制御器を備えることを特徴とする請求項1記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項3】
前記電圧印加手段が、
前記単電極制御器を制御することで前記電極対群の中の指定した一つの前記単電極を前記第1の端子に電気的に接続する手段、
を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項4】
前記電圧印加手段が、
前記単電極制御器を制御することで前記電極対群の中の指定した一つの前記単電極を前記第2の端子に電気的に接続する手段、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項5】
請求項2記載の前記単電極制御器が、
各前記単電極に対してそれぞれ第1のスイッチ及び第2のスイッチを備え、
該第1のスイッチが該単電極を前記第1の端子に電気的に接続するもしくは接続しない状態を切り替える機能を備え、
該第2のスイッチが該単電極を前記第2の端子に電気的に接続するもしくは接続しない状態を切り替える機能を備える、
ものであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項6】
請求項3及び4記載の単電極指定の方法が、行アドレス信号と列アドレス信号とを用いる方法であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項7】
前記電圧印加手段が、
前記第1のスイッチと前記第2のスイッチとに流れる電流を制限する電流制限器を備えるものであることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項8】
前記電圧印加手段が、
前記電流制限器を経て前記第1の端子及び前記第2の端子間に前記信号電圧を印加するものであることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項9】
請求項1記載の前記電気的絶縁物上に半導体素子で作成された前記第1のスイッチ及び前記第2のスイッチを備えるものであることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項10】
請求項1記載の前記情報が、画素を1次元又は2次元に配置した画像であって、前記電極対群内の前記電極対の配置が該画素の配置と類似の幾何学的配置であることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項11】
請求項1記載の前記生体に印加する刺激又は請求項1記載の前記情報を、1次元又は2次元の画素の集合からなる画像又は動画と同等な請求項10記載の前記情報に変換する手段を備えることを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項12】
請求項1記載の前記情報を取得する手段を備えることを特徴とする請求項1乃至11いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項13】
請求項1記載の前記第2の単電極が、前記集合電極内の前記単電極であって、前記第1の単電極に隣接していることを特徴とする請求項1乃至12いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項14】
前記第1のスイッチ及び前記第2のスイッチの一部又は全てが半導体集積回路上に備えられたものであることを特徴とする請求項1乃至13いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項15】
請求項5記載の前記第1のスイッチ及び前記第2のスイッチの一部分又は全てがフォトカプラを備えるものであることを特徴とする請求項1乃至14いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項16】
前記電圧印加手段が、前記電極対に流れる電流である電極対電流、又は該電極対電流に換算可能な電磁気学的物理量を測定する手段を備えることを特徴とする請求項1乃至15いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項17】
請求項16記載の前記電磁気学的物理量を前記走査時に前記電極対群内の各前記電極対に対して測定する手段と、
該電磁気学的物理量から算出された前記生体の電磁気学的状態又は生理学的状態を画像化して表示する手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至16いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【請求項18】
ゲーム機能を備える機器又は時計機能を備える機器又は通信機能を備える機器又は眼鏡又は帽子又は靴又は衣類のいずれかに、
前記集合電極又は前記電圧印加手段の全て又は部分が備えられていることを特徴とする請求項1乃至17いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚および聴覚と同様の知覚を、皮膚感覚を用いて人間が獲得する手段を提供するものであり、皮膚感覚ディスプレイと呼ばれる技術分野に属する。例えば、ビデオカメラの映像を皮膚刺激で人間に伝達することで視覚を用いずに周囲の環境の認識(見ること)ができ、マイクロフォンで検出した音声信号を皮膚刺激で伝達することで聴覚を用いずに音声の認識(聴くこと)ができ、更に、文字や警報などの情報も皮膚刺激で人間に伝達することができる。また、電気刺激を利用しているため、従来と比べてきめ細かいマッサージなど多様な刺激の伝達手段としても用いることができる。
【背景技術】
【0002】
人間において視覚は外界の情報を獲得するための最も優れた感覚器である。このことは、見方を変えれば視覚に障害がある場合には日常生活にハンディキャップを負うことになる。聴覚は、視覚で得ることのできない外界情報の取得や、人間同士の会話を円滑に進めるうえで役立つ。聴覚もまた、障害がある場合には日常生活にハンディキャップを負うことになる。
【0003】
視覚や聴覚のような優れた知覚をこれらの感覚器官を用いずに人間に導入できれば障害がある場合の助けになり、人類にとっての重要な一里塚となる。しかし、このために被験者が大きな苦痛を伴うようなことがあってはならない。
【0004】
皮膚感覚は、非侵襲で人体に情報を伝達するための有力な手段である。皮膚には、凸凹・摩擦・振動を感じる触覚や温度・静電気・電流などに対する感覚があり、これらの刺激を用いた皮膚経由の情報伝達法の研究がなされている。この目的、すなわち、皮膚の持つ感覚を用いて人間に情報を伝達する機器を皮膚感覚ディスプレイと呼ぶ。
【0005】
一方で、有用な2次元動画の情報伝達を視覚の代用として行うためには、画像の画素数は目安として4096画素以上で、毎秒30枚程度の画像更新を行う必要がある。さらに、小型軽量、安価、非侵襲であることが重要である。
【0006】
この条件を満たす発明は、開発が切望されているにもかかわらず有効な解決手段が無いためなされていない。実際、視覚を用いないで周囲を見ながら安心して道を歩ける時代にはなっていない。
【先行技術文献】
【0007】
【非特許文献1】梶本裕之、川上直樹、前田太郎、舘すすむ著「皮膚感覚神経を選択的に刺激する電気触覚ディスプレイ」電子情報通信学会論文誌 D-II Vol.J84-D-II No.1,pp.120-128(2001)。
【0008】
【非特許文献2】山本晃生、石井利樹、樋口俊郎著、「摩擦力制御を用いた静電皮膚感覚ディスプレイ」、計測自動制御学会論文集 Vol.40、No.11、pp.1132-1139(2004)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
視覚や聴覚と同様の知覚を、皮膚感覚を用いて非侵襲的に人間に導入し、これらの知覚に障害のある場合でも大きなハンディキャップを感じずに日常生活を送ることができる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
電気的導体から成る単電極と、該単電極を電気的絶縁物上に複数備えた集合電極と、該集合電極内の該単電極である第1の単電極と、該集合電極内の該単電極であって該第1の単電極とは異なる該単電極、又は該集合電極外に備えられた該単電極のいずれか一つの該単電極である第2の単電極と、該第1の単電極と該第2の単電極とからなる電極対と、情報を生体に伝達するために必要な複数の該電極対からなる電極対群を構築する手段と、該情報をもとにして該電極対群内の個々の該電極対内の該第1の単電極及び該第2の単電極間に印加する電圧である信号電圧を求める手段と、該電極対群内の該電極対に該信号電圧を印加する電圧印加手段と、該電極対群内の該電極対に順次該信号電圧を印加する走査手段と、を備えることを特徴とする皮膚感覚ディスプレイ。
【0011】
前記電圧印加手段が第1の端子と第2の端子とを備え、前記単電極を該第1の端子に電気的に接続する状態又は該第2の端子に電気的に接続する状態又はどちらにも接続しない状態のいずれか一つの状態とする機能を有する単電極制御器を備えることを特徴とする請求項1記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0012】
前記電圧印加手段が、前記単電極制御器を制御することで前記電極対群の中の指定した一つの前記単電極を前記第1の端子に電気的に接続する手段、を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0013】
前記電圧印加手段が、前記単電極制御器を制御することで前記電極対群の中の指定した一つの前記単電極を前記第2の端子に電気的に接続する手段、を備えることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0014】
請求項2記載の前記単電極制御器が、各前記単電極に対してそれぞれ第1のスイッチ及び第2のスイッチを備え、該第1のスイッチが該単電極を前記第1の端子に電気的に接続するもしくは接続しない状態を切り替える機能を備え、該第2のスイッチが該単電極を前記第2の端子に電気的に接続するもしくは接続しない状態を切り替える機能を備える、ものであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0015】
請求項3及び4記載の単電極指定の方法が、行アドレス信号と列アドレス信号とを用いる方法であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0016】
前記電圧印加手段が、前記第1のスイッチと前記第2のスイッチとに流れる電流を制限する電流制限器を備えるものであることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0017】
前記電圧印加手段が、前記電流制限器を経て前記第1の端子及び前記第2の端子間に前記信号電圧を印加するものであることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0018】
請求項1記載の前記電気的絶縁物上に半導体素子で作成された前記第1のスイッチ及び前記第2のスイッチを備えるものであることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0019】
請求項1記載の前記情報が、画素を1次元又は2次元に配置した画像であって、前記電極対群内の前記電極対の配置が該画素の配置と類似の幾何学的配置であることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0020】
請求項1記載の前記生体に印加する刺激又は請求項1記載の前記情報を、1次元又は2次元の画素の集合からなる画像又は動画と同等な請求項10記載の前記情報に変換する手段を備えることを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0021】
請求項1記載の前記情報を取得する手段を備えることを特徴とする請求項1乃至11いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0022】
請求項1記載の前記第2の単電極が、前記集合電極内の前記単電極であって、前記第1の単電極に隣接していることを特徴とする請求項1乃至12いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0023】
前記第1のスイッチ及び前記第2のスイッチの一部又は全てが半導体集積回路上に備えられたものであることを特徴とする請求項1乃至13いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0024】
請求項5記載の前記第1のスイッチ及び前記第2のスイッチの一部分又は全てがフォトカプラを備えるものであることを特徴とする請求項1乃至14いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0025】
前記電圧印加手段が、前記電極対に流れる電流である電極対電流、又は該電極対電流に換算可能な電磁気学的物理量を測定する手段を備えることを特徴とする請求項1乃至15いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0026】
請求項16記載の前記電磁気学的物理量を前記走査時に前記電極対群内の各前記電極対に対して測定する手段と、該電磁気学的物理量から算出された前記生体の電磁気学的状態又は生理学的状態を画像化して表示する手段と、を備えることを特徴とする請求項1乃至16いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【0027】
ゲーム機能を備える機器又は時計機能を備える機器又は通信機能を備える機器又は眼鏡又は帽子又は靴又は衣類のいずれかに、前記集合電極又は前記電圧印加手段の全て又は部分が備えられていることを特徴とする請求項1乃至17いずれかに記載の皮膚感覚ディスプレイ。
【発明の効果】
【0028】
本発明は皮膚感覚を用いて視覚や聴覚同様の知覚を獲得するための機器を提供するものである。したがって、視覚を用いずに時々刻々変化する外界の形状を認識することや動画の閲覧が可能となり、聴覚を用いずに音や言葉の認識が可能になり、腕などの皮膚感覚で点字や文字、警報などのメッセージを認識できるようになる。ただし、大多数の人間は腕などの皮膚で動画を閲覧することに慣れていないため、練習が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は皮膚感覚ディスプレイの構成例を示す図である。(実施例1)
図2図2はフォトカプラを第1及び第2のスイッチとして用いた単電極制御器の例を示す図である。(実施例2)
図3図3は電圧印加手段において、行アドレス信号と列アドレス信号を用いて第1及び第2のスイッチを制御し、選択した電極対に信号電圧を印加する例を示す図である。(実施例2)
図4図4は集合電極内において、単電極を格子状に配置する例を示す図である。(実施例2)
図5図5は共通電極を用いた電極対形成法における単電極の配置例を示す図である。(実施例3)
図6図6は腕時計の皮膚に接触する側に単電極を配置して、腕時計に皮膚感覚ディスプレイ機能を併設する例を示す図である。(実施例8)
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、実用的な皮膚感覚ディスプレイの提供を目的とし、皮膚経由で刺激や情報を人間に伝えるため、電極を人体に電気的に接触させて皮膚に電流を流す。このため、本発明において電極は重要な素子であり、単電極、電極対、第1の単電極、第2の単電極、電極対群、集合電極などの種類がある。
【0031】
単電極は、全体がほぼ同電位になるように作成された一つの電極であり、導電性のゴムなどの樹脂又は金属等で作成される。人体に電流を流すためには、人体に電気的に接触させた2個の単電極間に電圧を印加する必要がある。以後、電圧を印加する目的で対にして扱う2個の単電極を電極対と呼び、電極対を形成する一方の単電極を第1の単電極、他方の単電極を第2の単電極と呼ぶ。2個の単電極の中のどちらを第1の単電極とするかは請求項1の記載に準拠するが、運用面では電圧の極性に関連する問題でありその都度個別に決めていく。また、「電極対に電圧を印加する」とは、電極対を形成する第1及び第2の単電極間に電圧を印加することである。
【0032】
人体に電流を流すと、感電と呼ばれる現象が生じる。多くの場合に感電は不快や苦痛を伴い、時には命の危険がある。しかし、制御された適量の感電はむしろ快感となる。例えば、医療機器として低周波治療器が以前から研究され実用化されている。これは電圧40~100Vでパルス幅200μs程度の電気パルスを皮膚に張り付けた電極対に印加し、5~50mA程度の電流を人体に短時間流すことで筋肉を動かし血行を促進する機器である。
【0033】
皮膚感覚ディスプレイは、1次元もしくは2次元画像を人間に皮膚経由で伝達するための表示装置である。一般に画像は、画素と呼ばれる画像の構成単位を1次元画像では線上に、2次元画像では面上に配置した構造をしている。
【0034】
本発明の基本原理は以下の通りである。1)電極対を画素と類似の幾何学的配置で並べ、画素を電極対に1対1対応させる。以後は、画素の集合である画像に対応する電極対の集合を電極対群と呼ぶ。2)電極対に印加する電圧(以後、信号電圧と呼ぶ)を対応する画素の輝度などの情報から算出する。3)電極対に信号電圧を定めた時間印加する。ただし、同時には1つの電極対にのみ信号電圧を印加し、他の単電極は電気的に人体から切り離す。これにより、皮膚の定まった部分のみを定めた大きさで電気刺激できる。4)信号電圧を印加する電極対を電極対群内の全ての電極対に渡り順次変えていく(以後、この操作を走査と呼ぶ)。これにより画像の情報を皮膚経由で人体に伝える。動画の伝達は画像を変えながら画像の伝達を繰り返すことで成される。
【0035】
本発明は、この原理を基礎として用い、更に単電極の配置や数、電圧印加方法を工夫し、動画や音声だけでなく様々なメッセージ又はマッサージなどの刺激を人間に皮膚経由で伝達できるように改良したものである。
【0036】
実際に行った結果によれば、一つの電極対に信号電圧を印加する時間を最短5μsとして走査を行い、毎秒30枚程度の画像を伝達すれば皮膚刺激で動画を違和感なく認識することができる。このことから、最高で6700画素の動画表示ができ、実用上十分である。ただし、ここで示した信号電圧を印加する時間5μsは、実施例2で製作した機器における最小値であり、更に短い時間でも実用になる可能性がある。
【0037】
電極対を画素と類似の幾何学的配置にするためには、単電極を画素と類似の配置にする必要がある。以後は、このように単電極を配置した電極を集合電極と呼ぶことにする。集合電極は、電気的な絶縁基板を母体とし、この絶縁基板上に多数の単電極を配置した構造である。人体の形状は多様であるから、集合電極の形状も人体に合わせる必要がある。このためには、人体を計測し形状に合わせて作成する、又は単電極をバネのようなものに取り付けて位置が変化できるように作成する、又は布や軟質プラスチックもしくは蝶番の付いた板のように曲げることのできる基板上に単電極を配置して、ひもやマジックテープ等で人体に固定する構造などが考えられる。人体と単電極との電気的接触をより確実にするためには、導電性ゲルなどを人体と単電極の間に塗布するとよい。
【0038】
人体と単電極の電気的接触抵抗を下げるためには、集合電極の母体となる絶縁基板面よりも単電極が出っ張っている方が皮膚に大きな力で単電極が接触するため、効果的である。一方で、このような配置は皮膚に強い刺激を与え長時間運用の妨げになる。これを防ぐためには、絶縁基板面と単電極面を同じ高さ、すなわち、絶縁基板面上に単電極が出っ張らないようにすればよい。
【0039】
人間の皮膚、例えば腕の皮膚は1cm程度離れた2点を識別できるため、本発明の皮膚感覚ディスプレイは、この程度の大きさの単電極を多数備えた集合電極を用いる。一方で、人間の皮膚感覚は多数の点、例えば100個の点を同時に識別することに慣れていない。このため、大多数の人間は腕で動画を閲覧するためには練習が必要である。
【実施例0040】
図1に本発明の皮膚感覚ディスプレイの基本的な構成例を示す。この図では例として単電極が3個の場合を示したが、さらに多数ある場合も同様である。ビデオカメラ等の映像をコンピュータ等の制御装置に取り入れ、Digital to Analog Converter(DAC)により信号電圧を発生して、電極対群の中の指定した電極対を形成する第1の単電極と第2の単電極間に信号電圧を印加し、それ以外の単電極は電気的に人体から切り離すことを基本的な動作とする装置である。信号電圧は0~80V、1つの電極対に対する信号電圧の印加時間は5μs~200μs程度である。
【0041】
信号電圧は第1の端子及び第2の端子(請求項2に記載)に伝わり、この端子に接続された単電極制御器を介して指定した電極対に信号電圧が印加される。単電極制御器は、単電極1個につき2個のスイッチが接続され、第1の端子と単電極に接続されたスイッチを第1のスイッチ、第2の端子と単電極に接続されたスイッチを第2のスイッチと呼ぶ。第1および第2のスイッチはそれぞれ単電極と同数備え、同時にONとなるスイッチはそれぞれ一つである。
【0042】
電流の経路は以下の通りである。DAC、信号電圧端子、電流制限器、第2の端子、ONにした一つの第2のスイッチ、単電極、人体、単電極、ONにした一つの第1のスイッチ、第1の端子、接地端子。ここでの2個の単電極は電極対を形成する第1及び第2の単電極である。
【0043】
第1のスイッチは全てがOFFの状態と、指定した電極対を形成する片方の単電極に接続された第1のスイッチのみがONになる状態がある。ONにする第1のスイッチを指定する信号をアドレス信号(第1のスイッチアドレス信号)と呼び、アドレス信号で指定された第1のスイッチのみをONにするためにデコーダー(第1のスイッチデコーダー)を電圧印加手段は備える。第1のスイッチデコーダーイネーブル信号が偽のとき全ての第1のスイッチがOFFになり、真にするとアドレス信号で指定した第1のスイッチのみがONになる。第2のスイッチも同様に第2のスイッチアドレス信号でONにする第2のスイッチを指定する。
【0044】
信号電圧端子のすぐ後にある電流制限抵抗は、人体に過大な電流が流れることを防ぐこと、又は誤動作、例えば同じ単電極に接続された第1のスイッチと第2のスイッチが同時にONとなった場合、過大な電流がスイッチに流れスイッチが損傷することを防ぐ目的の電流制限器である。スイッチは、実際にはMOSFETやトランジスタでありこれらの耐性、および低周波治療器の安全基準などを考慮して、実施例では電流制限抵抗を1kΩとした。抵抗値の値は、例であり、状況に応じて調節する必要がある。電流制限抵抗は、本実施例のように信号電圧端子と第2の端子間でも良いし、接地端子と第1の端子間に入れてもよいし、両者に入れてもよい。電流制限器を入れる場所の候補は他にもあり、単電極と単電極制御器との間、第1の端子と第1のスイッチとの間、第2の端子と第2のスイッチとの間などが挙げられる。電流制限器は抵抗の他に例えば半導体素子で作成することもできる。
【0045】
電極対を生体に接触させると電流が流れ、このとき電流制限抵抗による電圧降下が生じるため、電極対の電圧は信号電圧より小さくなる。しかしながら、信号電圧を起源とした電圧が電極対に印加されるので、本明細書では「電極対に信号電圧を印加する」という表現をこのような状況にも用いる。
【0046】
電極対は第1及び第2の単電極で形成され、両者間に印加する信号電圧の極性は重要な問題である。低周波治療器においては常に同じ符号で電圧を印加すると電気分解などにより刺激物質が生じ皮膚の炎症を引き起こすことが知られており、これを防ぐために極性を反転して電圧を印加することが行われている。本発明でも同様の現象が生じる恐れがあり、必要に応じて電圧の極性を反転した。
【実施例0047】
本実施例では、行アドレス信号と列アドレス信号を用いてONにする第1及び第2のスイッチを指定する例を示す。集合電極は単電極が格子状に縦16行・横16列並び、計256個の単電極から成る。
【0048】
第1及び第2のスイッチは単電極1個につきそれぞれ1個必要なので、それぞれ256個必要となる。したがって、第1のスイッチアドレス信号として0~255までの数字、すなわち8bitの制御信号が必要であり、第2のスイッチアドレス信号も同様である。本実施例では、この8bitの制御信号を4bitの行アドレス信号と4bitの列アドレス信号に分けて配線の数を減らした。このためには、2個(行アドレス信号で選ばれた端子と列アドレス信号で選ばれた端子)の論理信号が同時に真(AND論理)になったときのみONとなるようなスイッチを第1及び第2のスイッチとして用いる必要がある。
【0049】
一方、回路設計の観点では、第1のスイッチは接地電位近辺で制御できるので、例えば小電力用トランジスタ1個でよい。しかし、第2のスイッチは信号電圧(0~80V)近辺で動作するので設計が厄介である。
【0050】
これらのことを考慮して第1及び第2のスイッチとしてフォトカプラを用いた。図2に本実施例の単電極制御器例を示す。フォトカプラは発光ダイオード(LED)等の発光素子と光検出器およびトランジスタなどの半導体スイッチ素子が一体形成された回路素子であり、LEDが消灯しているときスイッチが遮断(OFF)になり、LEDが点灯しているときスイッチが導通(ON)となる。LEDと半導体スイッチ素子は光で結合しているため、両者の電位関係に制約が無い。このため第2のスイッチのように、スイッチ両端の電位が定まっていない場合でも接地電位近辺の低電圧で制御できる。
【0051】
フォトカプラを用いるもう一つの利点は、LED点灯のために2条件(アノードがハイ電圧かつカソードがロウ電圧)必要であること。このため、アノードをハイアクティブ出力の行アドレスデコーダーに接続し、カソードをロウアクティブ出力の列アドレスデコーダーに接続することで、行アドレス信号と列アドレス信号で選択した端子に接続されたLEDのみを点灯させることができる。
【0052】
図3に本実施例の電圧印加手段部分を示す。ONにする第1及び第2のスイッチは、それぞれ8bitのアドレス信号で選択される。この上位4bitは行アドレス信号であり、4-to-16ハイアクティブデコーダーに入力し、出力はLEDのアノードに接続される。また、下位4bitは列アドレス信号であり4-to-16ロウアクティブデコーダーに入力し、出力はLEDのカソードに接続される。
【0053】
4-to-16ハイアクティブデコーダーは、イネーブル端子が偽のとき、出力はロウ電圧(ほぼ0V)であり、真のとき、4bitの値で指定された出力端子のみがハイ電圧(ほぼ電源電圧)になる。ロウアクティブデコーダーは出力の極性が逆であり、イネーブル端子が偽のとき、全ての出力端子がハイ電圧であり、イネーブル端子が真の時4bitの値で指定された出力端子のみがほぼ0Vになる。ハイアクティブデコーダーとして本実施例では74HC4514(4.5 Vで駆動)、ロウアクティブデコーダーとして74HC4515(5 Vで駆動)を使用した。デコーダーの駆動電圧が両者で異なるのは、デコーダー出力電圧のわずかな誤差でLEDに僅かな電流が流れトランジスタのOFF抵抗が下がることを防ぐためである。LEDやデコーダーを保護するための電流制限抵抗は330Ωを用いたが、状況に応じて調節する必要がある。
【0054】
集合電極は図4に示すように単電極が格子状に並んだ構造である。この図では例として単電極を64個並べてあるが、実際に作成したものは単電極が縦16行・横16列並び、計256個ある。また、電極対は左右(横方向)に隣接した2個の単電極を第1及び第2の単電極として形成した。具体的に特定の行に注目して電極対形成方法について説明する。1行は横に16個の単電極が並んでおり、左から右へ単電極1~単電極16とする。このとき、表示できる画像は画素が横方向に15個となり、左から右に画素1~画素15とする。電極対は以下のように形成した。画素1に対応する電極対1は単電極1と2で形成され、画素2に対応する電極対2は単電極2と3で形成され、最後に画素15に対応する電極対15は単電極15と16により形成した。走査は、画素1の情報をもとに算出した信号電圧1を電極対1に定めた時間パルス状に印加し、終了後に画素2の情報をもとに算出した信号電圧2を電極対2に対して定めた時間パルス状に印加し、これを繰り返して最後に画素15の情報をもとに算出した信号電圧15を電極対15に定めた時間パルス状に印加する。これにより1行の表示が終了し、引き続き次の行の表示を行う。全ての行(16行)の表示が終わると1画像の表示が終了し、画像表示を繰り返すことで動画の人体へ伝達が行われる。画素が15列16行に並ぶので画素数は240個である。
【0055】
本実施例での皮膚感覚ディスプレイの制御手順は以下の通りである。まず初めにビデオカメラの動画映像から1枚の静止画像を取り出し、画像解像度を240画素に下げる。一つの電極対に信号電圧を印加する手順は以下の1)~8)であり、この手順を電極対群内の240個の電極対に対して左から右、上から下に走査しながら行うことで1枚の画像情報を伝える。
1)デコーダーのイネーブル端子を偽の状態にする。このとき、ハイアクティブデコーダーはロウ出力(0V)、ロウアクティブデコーダーはハイ出力(約5V)となり、すべてのLEDが消灯して、電極対が人体から電気的に切り離される。
2)電圧を印加する対象の電極対に対応する画素の情報から信号電圧を算出しDAコンバーターを用いて信号電圧端子に電圧を出力する。
3)電極対は左右に隣接した2個の単電極で形成し、左側の単電極を第1の単電極、右側を第2の単電極とした。第1の単電極の第1のスイッチ及び第2の単電極の第2のスイッチアドレス信号をデコーダーに入力する。
4)デコーダーのイネーブル端子を真にして、選択した電極対に電圧を出力し、定めた時間(10μs)待つ。
5)デコーダーのイネーブル端子を偽にして全ての電極対を人体から電気的に切り離し、定めた時間(5μs)待つ。
逆極性の信号電圧を電極対に印加する場合には以下の6)~8)の手順を行い、印加しない場合には省く。
6)逆極性の電圧を電極対に出力するため、第1及び第2のスイッチアドレスを互いに入れ替えたアドレスをデコーダーに入力する。
7)デコーダーのイネーブル端子を真にして選択した電極対に電圧を出力し、定めた時間(10μs)待つ。
8)デコーダーのイネーブル端子を偽の状態にして全ての電極を電気的に人体から切り離し、定めた時間(5μs)待つ。
引き続き、動画の中の次の画像表示を行うことで動画情報を人間に伝える。
【0056】
本実施例は、240画素からなる白黒映像を例えば腕の皮膚感覚を用いて表示する皮膚感覚ディスプレイである。この画素数は、画像としてはかなり低解像度であり、現在市販されているカメラはほとんどがこれよりも高解像度である。このため、数値処理により画素数を減らす必要がある。本実施例では、低解像度画像の画素内に含まれる高解像度画像の画素の輝度の平均値を用いて低解像度画像の画素の輝度とした。更なる問題として、輝度と電極対に印加する電気パルスの電圧・パルス幅・パルス頻度との関係がある。例えば画素の輝度に応じたパルス幅やパルス頻度とすることでより確実に情報を伝達できるようになる。
【0057】
実際に行った経験によれば、電極対への印加電圧と皮膚感覚には比例関係が無く、閾値となる電圧があり、それ以下ではほとんど感じず、それ以上になると急激に激しい感覚となる。このため、画素の輝度情報を閾値近辺の電圧になるように変換する必要がある。本実施例では、輝度の最小値が対応する信号電圧、および輝度の最大値が対応する信号電圧の両者を、被験者が設定できるようにした。また、この範囲内において輝度と信号電圧とが比例するようにした。このようにして被験者は、さまざまな画像に対応する信号電圧を実際に印加しながら画像認識における最適値を設定することができる。
【0058】
さらに、輝度と信号電圧の符号の関係、すなわち明るい画素を高電圧に対応させ、暗い画素を低電圧に対応させる方法と、この逆で暗い画素を高電圧に対応させ、明るい画素を低電圧に対応させる方法を被験者が選べるようにした。これにより、対象物がより認識しやすくなった。
【0059】
画素の輝度情報を信号電圧のパルス幅やパルス頻度に対応させる場合も同様である。カラー画像の皮膚認識は今後の課題であるが、パルスの電圧・幅・頻度・電圧の極性などを組み合わせる必要がある。
【0060】
本実施例では手作業で個別部品を組み合わせて作成したため、第1及び第2のスイッチはフォトカプラを用いて実装した。しかし、80V50mAを数μsでスイッチングする素子は、半導体集積回路で作成可能なので、実用的な機器を作成するためには専用の集積回路を用いるべきである。集積回路を用いれば、単電極数を256個よりも遥かに多く実装でき、デコーダーも集積化して集合電極と同じ絶縁基板上に集積回路を設置することで配線の数を著しく減らすことができる。このことは、実用的な機器の作成には不可欠である。更に、ビデオカメラも集合電極と同じ絶縁基板上に備えれば、一体化した皮膚感覚ディスプレイとなる。
【0061】
本実施例における単電極は直径8mm、厚さ1mmの導電性ゴムであり人体との電気的接触抵抗を下げるために人体と単電極間に導電性ゲルを塗布した。更に高解像度とするためには単電極を小さくする必要があり、人体との接触抵抗が増大する。実施例3はこの問題点に対する解決法であるが他の問題点もあり一長一短である。
【実施例0062】
本実施例は、電極対の形成方法が実施例2と異なり、図5のように集合電極の他に単電極を一つ備え、これを第2の単電極とし、集合電極内から選ぶ第1の単電極と対にして電極対を形成する。集合電極内の単電極が縦16行・横16列、計256個なので、表示する2次元画像の画素も同じ配置となる。
【0063】
本実施例の第2の単電極は全ての電極対で共用するので、以後は共通電極と呼ぶ。共通電極のための単電極制御器は図2であり、エンコーダーを設けずにコンピュータ制御機器のデジタル出力端子を用いてLEDを直接制御した。共通電極用の単電極制御器の第1及び第2の端子は、集合電極内の単電極用の単電極制御器における同端子と接続した。
【0064】
本実施例での皮膚感覚ディスプレイの制御手順は以下の通りである。まず初めにビデオカメラの動画映像から1枚の静止画像を取り出し、画像解像度を256画素に下げる。一つの電極対に信号電圧を印加する手順は以下の1)~8)であり、この手順を電極対群内の256個の電極対に対して左から右、上から下に走査しながら行うことで1枚の画像情報を伝える。
1)集合電極のデコーダーのイネーブル端子を偽の状態にして単電極を人体から電気的に切り離す。共通電極もLEDを消灯して人体から電気的に切り離す。
2)電圧を印加する対象の電極対に対応する画素の情報から信号電圧を算出し信号電圧端子に信号電圧を出力する。
3)第1の単電極のアドレス信号を第2のスイッチデコーダーに入力する。
4)共通電極の第1のスイッチをON、集合電極の第2のスイッチデコーダーイネーブル信号を真にして、選択した電極対に電圧を出力し、定めた時間(10μs)待つ。
5)共通電極の第1のスイッチをOFFおよび集合電極のデコーダーのイネーブル信号を偽にして全ての電極対を人体から電気的に切り離し、定めた時間(5μs)待つ。
6)逆極性の電圧を電極対に出力するため、第1の単電極のアドレス信号を第1のスイッチのデコーダーに入力する。
7)共通電極の第2のスイッチをON、集合電極の第1のスイッチデコーダーイネーブル信号を真にして選択した電極対に電圧を出力して定めた時間(10μs)待つ。
8)共通電極の第2のスイッチをOFFおよび集合電極のデコーダーのイネーブル信号を偽の状態にして定めた時間(5μs)待つ。
一枚の画像の表示終了後、動画の中の次の画像の表示を行う。
【0065】
共通電極を用いる本実施例は電極対に印加する電圧の極性を反転(上記6)~8))させないと、集合電極内の単電極を走査しても、集合電極が大きな1枚の同極性の電極として振る舞い、低周波治療器同様に筋肉全体の大きな運動を誘発する。本発明では、集合電極が細分化されているので電圧の極性を反転させることでこの現象を防ぐことができる。一方、実施例2では、隣接した単電極で電極対を形成しているのでこのような現象は生じない。本実施例の利点は、共通電極の面積を大きくすることで、電極対の人体への電気的接触抵抗を実施例2より下げることができる点である。
【実施例0066】
音波はマイクロフォンで電気信号(音声信号)に変換できる。この音声信号や電子機器で合成した信号音を直接、又は録音の後、皮膚感覚で生体に伝達することを目的とする実施例について説明する。
【0067】
音声信号の波形はオシロスコープで視覚化でき、実施例1、2の方法で、オシロスコープと同様の画面を生体に伝達できるので聴覚を使用しない音声認識に役立つ。音声信号以外にも様々な電気信号の表示にも用いることができる。
【0068】
音声信号をフーリエ変換して得られるスペトラムは、例えばスペクトラムアナライザで観測できる。この画面も本発明を用いれば生体に伝達でき、聴覚を使用しない音声認識に役立つ。また、音声だけでなく、様々な電気信号の周波数スペクトラムを表示する装置として用いることができる。
【0069】
声紋は音声を解析する際に用いる音声信号の表示方法である。音声を短時間(例えば20ms程度)サンプリングして、横軸をたとえばサンプリングの中心時刻、縦軸をスペクトラムとして2次元画像表示したものである。声紋を本発明の機器で表示することで、聴覚を用いない音声認識が可能になる。
【0070】
声紋のように2次元表示器を用いず、短時間(例えば20ms程度)サンプリングした音声信号のスペクトラムを1次元配置した電極対を用いてリアルタイムで生体に伝達することで、小型の音声伝達装置を提供できる。具体的には、電極対配置の長さ方向を周波数とし、当該周波数のスペクトラムから導かれた信号電圧を電極対に印加し、生体にリアルタイム情報を伝達する。この装置を実施例8に示す腕時計型やリストバンド型にすることで、聴覚障碍者の音声認識や警報察知に役立つ小型・安価・簡便な機器となる。
【実施例0071】
本発明を用いれば、レーダーの映像や超音波エコー探知機の映像等、人間の五感と異なる情報の伝達を皮膚感覚経由で提供できる。このことにより、視覚で周囲を見ながら、同時に皮膚感覚で更なる遠方など別な世界を見ることができる。同様に、ゲーム機や映像作品において、プレイヤーや観客に対する皮膚触覚でメッセージを伝える手段として利用できる。例えば、ゲームで失敗したときや電撃攻撃時の感電、芋虫が皮膚を這いずり回る感覚や不審者にボディタッチされるときの感覚等を体感できる。
【実施例0072】
本発明は、生体に対する様々なメッセージの伝達手段として用いることが出来る。特徴は、他人に知られることなく又は他人に迷惑をかけることなく、装着した本人にのみメッセージを伝えることができることである。このため、公の場で携帯電話などからの機密情報を伝達することや、重要なメッセージを強い刺激(例えば、電極対へ印加する信号電圧を高くする等)で確実に伝えることができる。メッセージとしては、目覚まし時計など時刻のアラーム、残り時間の表示、地震情報や背後から来る車など危険物の情報など多様である。また、文字認識として用いる場合には、文字の形状や点字を表示することもできるが、ペン先の動きを動く点として伝達すれば容易に文字認識ができる。
【0073】
多数のメッセージを同時に人体に伝達するために、例えば右腕と左腕に集合電極を設置することが考えられる。その際に、両集合電極間に人体経由で電流が流れないように、両者は人体以外の部分を互いに電気的に絶縁状態にする必要がある。これは、同一の集合電極内を分割して情報の同時伝達もしくは並列化して高速伝達を行う場合にもあてはまる。
【実施例0074】
本発明の動作原理は低周波治療器で実用化されている電気刺激である。このため、本発明はマッサージ器としても用いることができる。現在の低周波治療器は一対もしくは少数の電極対で電気刺激を行っているため、筋肉全体の大きな運動を誘発し、マッサージ効果が少ない。これは、筋肉全体の大きな運動は筋肉内部の相対的な運動をもたらさないので血行の促進にならないことによる。本発明は多数の小さな電極対により部位により異なるきめ細かい刺激を筋肉に与えることができるため、筋肉内部の細かな相対的運動を誘発してマッサージ効果が高い。音楽や映像を電気刺激データとして表示しながらマッサージすると更に快適である。また、実際に用いた結果では、柔軟で多様な皮膚刺激により、精神状態が安定し眠気を誘う場合がある。
【0075】
マッサージなどを行うと人体の体調が変化する。本発明は、人体など生体の体調をモニターする機器としても活用できる。電極対に電圧を印加すると生体に電流が流れ、この電流は電極対へ印加した信号電圧、電極対の皮膚に対する接触抵抗、及び生体内部の電気抵抗により決まる。これらは、発汗状態、血流、筋肉の状態、精神状態、疲労状態などに強く依存し、この電流から得られる情報は生体の状態を知る上で極めて重要である。電極対に流れる電流の測定方法として、電圧印加手段で用いる電流制限抵抗の両端の電圧を測定して抵抗値で除することは簡便で有力な方法である。
【0076】
走査時に電流測定を行うことで電極対群内の全ての電極対における電流値が求まり、生体の電磁気学的状態を用いた1次元又は2次元の画像化ができる。これにより生体の状態をより的確に知ることができる。例えば、頭皮に応用すると精神状態や疲労状態のモニターやマッサージの効果の検証に役立つ。
【実施例0077】
腕時計・ブレスレット・リストバンド・眼鏡・帽子・靴・衣類など馴染みのある装着物に本発明を組み込むと利便性が向上する。例えば、腕時計であれば、図6に示すように時計本体の人体に接する部分やベルトの部分に本発明の集合電極を取り付け、電極対に信号電圧を印加することで、様々な情報を人間に伝達することができる。眼鏡であれば、ビデオカメラと電子回路を眼鏡に組み込み、集合電極は耳に接する部分に作成又は額など外部に取り付ける等が考えられる。
【実施例0078】
本発明の電圧印加手段は、非侵襲な集合電極に対する応用だけでなく、生体に刺した針など侵襲電極にも応用できる。これにより、例えば、針治療などのマッサージ効果の向上が期待できる。侵襲電極は、皮膚だけでなく、臓器や神経を直接刺激する手段として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の電気刺激皮膚感覚ディスプレイは、視覚や聴覚の代替手段であり、人間がより多くの情報を獲得するために役立つだけでなく、視覚や聴覚にハンディキャップがある場合において日常生活の向上に役立つ。
【符号の説明】
【0080】
1 ビデオカメラ
2 コンピュータ等の制御装置
11 DA変換器
12 接地端子
13 信号電圧端子
14 第1の端子
15 第2の端子
16 電流制限器としての電流制限抵抗
17 単電極
18 第1のスイッチ
19 第2のスイッチ
20 単電極制御器
21 電圧印加手段
22 第1のスイッチデコーダー
23 第1のスイッチアドレス信号
24 第1のスイッチデコーダーイネーブル信号
25 第1のスイッチデコーダー出力
26 第2のスイッチデコーダー
27 第2のスイッチアドレス信号
28 第2のスイッチデコーダーイネーブル信号
29 第2のスイッチデコーダー出力
30 フォトカプラ
31 LED及びデコーダー保護のための電流制限抵抗
32 第2のスイッチ行アドレス信号
33 第2のスイッチ行アドレスデコーダー
34 第2のスイッチデコーダーイネーブル信号
35 第2のスイッチ行アドレスデコーダー出力
36 第1のスイッチデコーダーイネーブル信号
37 第1のスイッチ列アドレス信号
38 第1のスイッチ列アドレスデコーダー
39 第1のスイッチ列アドレスデコーダー出力
40 第1のスイッチ行アドレス信号
41 第1のスイッチ行アドレスデコーダー
42 第1のスイッチデコーダーイネーブル信号
43 第1のスイッチ行アドレスデコーダー出力
44 第2のスイッチ列アドレス信号
45 第2のスイッチ列アドレスデコーダー
46 第2のスイッチデコーダーイネーブル信号
47 第2のスイッチ列アドレスデコーダー出力
48 集合電極
49 絶縁基板
50 共通電極
51 腕時計
図1
図2
図3
図4
図5
図6