(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163106
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20231101BHJP
B60T 8/36 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119501
(22)【出願日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2022073075
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 淳
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 政行
【テーマコード(参考)】
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D049BB06
3D049CC02
3D049HH12
3D049HH20
3D049HH30
3D049HH47
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3D049HH52
3D049MM07
3D049NN02
3D049RR04
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3D049RR13
3D246BA02
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3D246MA05
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3D246MA13
3D246MA27
3D246MA29
3D246MA30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】制動制御装置において、電気モータと流体ポンプを接続する連結部の異常を検出すること。
【解決手段】制動制御装置SCは、連結部CAを介して、電気モータMAによって駆動される流体ポンプQAと、流体ポンプQAの吐出部Qoと吸入部Qiとを接続する流体路HKに設けられ、流体ポンプQAが吐出する制動液を出力圧に増加することで、ホイールシリンダCWのホイール圧を増加する差圧弁UAと、電気モータMA、及び、差圧弁UAを駆動するコントローラECUと、を備える。コントローラECUは、電気モータMAを駆動している状態で、差圧弁UAの開弁量を減少する場合に、電気モータMAに係る状態量の変化に基づいて連結部CAが正常であるか否かの適否判定を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結部を介して、電気モータによって駆動される流体ポンプと、
前記流体ポンプの吐出部と前記流体ポンプの吸入部とを接続する流体路に設けられ、前記流体ポンプが吐出する制動液を出力圧に増加することで、ホイールシリンダのホイール圧を増加する差圧弁と、
前記電気モータ、及び、前記差圧弁を駆動するコントローラと、
を備える車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、
前記電気モータを駆動している状態で、前記差圧弁の開弁量を減少する場合に、前記電気モータに係る状態量の変化に基づいて前記連結部が正常であるか否かの適否判定を行う、車両の制動制御装置。
【請求項2】
連結部を介して、電気モータによって駆動される流体ポンプと、
前記流体ポンプの吐出部と前記流体ポンプの吸入部とを接続する流体路に設けられ、前記流体ポンプが吐出する制動液を出力圧に増加することで、ホイールシリンダのホイール圧を増加する差圧弁と、
前記電気モータ、及び、前記差圧弁を駆動するコントローラと、
を備える車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、
前記電気モータの回転数を一定回転数になるように制御している状態で、前記差圧弁の開弁量を減少する場合に、前記電気モータの出力に相当する出力相当値の増加に基づいて前記連結部が正常であるか否かの適否判定を行う、車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載される車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、前記出力相当値が判定しきい値以上になる場合に前記連結部は正常であることを判定する、車両の制動制御装置。
【請求項4】
連結部を介して、電気モータによって駆動される流体ポンプと、
前記流体ポンプの吐出部と前記流体ポンプの吸入部とを接続する流体路に設けられ、前記流体ポンプが吐出する制動液を出力圧に増加することで、ホイールシリンダのホイール圧を増加する差圧弁と、
前記電気モータ、及び、前記差圧弁を駆動するコントローラと、
を備える車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、
前記電気モータに一定電流を供給している状態で、前記差圧弁の開弁量を減少する場合に、前記電気モータの回転数の減少に基づいて前記連結部が正常であるか否かの適否判定を行う、車両の制動制御装置。
【請求項5】
連結部を介して、電気モータによって駆動される流体ポンプと、
前記流体ポンプの吐出部と前記流体ポンプの吸入部とを接続する流体路に設けられ、前記流体ポンプが吐出する制動液を出力圧に増加することで、ホイールシリンダのホイール圧を増加する差圧弁と、
前記電気モータ、及び、前記差圧弁を駆動するコントローラと、
を備える車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、
前記電気モータを駆動している状態で、前記差圧弁を完全に閉弁する場合に、前記電気モータの回転数の減少に基づいて前記連結部が正常であるか否かの適否判定を行う、車両の制動制御装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載される車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、前記回転数が判定回転数以下になる場合に前記連結部は正常であることを判定する、車両の制動制御装置。
【請求項7】
連結部を介して、電気モータによって駆動される流体ポンプと、
前記流体ポンプの吐出部と前記流体ポンプの吸入部とを接続する流体路に設けられ、前記流体ポンプが吐出する制動液を出力圧に増加することで、ホイールシリンダのホイール圧を増加する差圧弁と、
前記出力圧から前記ホイール圧に至るまでの液圧伝達経路に設けられるインレット弁と、
前記流体ポンプからの制動液の吐出を、一方向には許容するが、前記一方向とは反対の他方向には阻止する逆止弁と、
前記電気モータ、前記差圧弁、及び、前記インレット弁を駆動するコントローラと、
を備える車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、
前記インレット弁、及び、前記差圧弁を閉弁した状態で、前記一方向に対応する正転方向に前記電気モータを駆動する場合に、前記電気モータの回転角の増加に基づいて前記連結部が正常であるか否かの適否判定を行う、車両の制動制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載される車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、前記電気モータを前記正転方向に駆動する前の状態を基準として、前記回転角が判定角以上になる場合に前記連結部は異常であることを判定する、車両の制動制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載される車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、前記電気モータを前記正転方向に駆動する前に、前記電気モータを前記正転方向とは反対の逆転方向に駆動する、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ホイールシリンダ圧の検出により、電動モータ制御によるポンプ駆動が正常に行われているかどうかの判断を行いつつ、ホイールシリンダ圧の検出を行うセンサの異常判定を行うために、ブラシレスモータ33を所定制御量駆動した際、圧力センサ16~20によりブレーキ液圧を検出し、この際のブレーキ液圧とブラシレスモータ33の所定制御量駆動時に発生する予め算出された液圧とを比較することにより、ポンプユニット50及びバルブユニット51の異常判断を行うことが記載されている。
【0003】
特許文献1では、ブラシレスモータの制御量から推定される圧力推定値と、圧力センサによって検出される圧力検出値との比較結果によって、ブラシレスモータ33とギヤポンプ34の異常が判定される。具体的には、以下の処理で判定が行われる。
(1)増圧弁25~28を閉じた状態で、ブラシレスモータ33に所定制御量の駆動を行い、ギヤポンプ34で、ブレーキ液配管43内の吐出圧を圧力推定値P01にする。
(2)ブレーキ液配管43の吐出圧(内部圧)を、圧力センサ16により、圧力検出値P1として検出する。そして、ブラシレスモータ33とギヤポンプ34で発生させたはずの圧力推定値P01の上下に範囲を持たせたものと比較する。
(3)P01-ΔP≦P1≦P01+ΔPの条件を満たす場合には、ブラシレスモータ33とギヤポンプ34が性能を充分に発揮していると判断する。P01-ΔP≦P1≦P01+ΔPの条件が成立しない場合には、ブラシレスモータ33とギヤポンプ34に異常が生じ、正常に作動していない可能性を判断する。
【0004】
ところで、ポンプユニット(「電動ポンプ」ともいう)では、電気モータと流体ポンプとはカップリング装置によって連結されている。出願人は、電気モータと流体ポンプを接続するカップリング装置において、特許文献2に記載されるように、寿命が長く回転力を円滑且つ静粛に伝達可能なものを開発している。カップリング装置(「連結部」ともいう)が制動制御装置に適用される場合には、制動制御装置では、連結部の異常が検出されることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-067335号公報
【特許文献2】特開2011-080530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、制動制御装置において、電気モータと流体ポンプを接続する連結部に異常が発生した場合に、この異常が検出され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)は、連結部(CA)を介して、電気モータ(MA)によって駆動される流体ポンプ(QA)と、前記流体ポンプ(QA)の吐出部(Qo)と前記流体ポンプ(QA)の吸入部(Qi)とを接続する流体路(HK)に設けられ、前記流体ポンプ(QA)が吐出する制動液(BF)を出力圧(Pq、Pu)に増加することで、ホイールシリンダ(CW)のホイール圧(Pw)を増加する差圧弁(UA)と、前記電気モータ(MA)、及び、前記差圧弁(UA)を駆動するコントローラ(ECU)と、を備える。
【0008】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)では、前記コントローラ(ECU)は、前記電気モータ(MA)を駆動している状態で、前記差圧弁(UA)の開弁量を減少する場合に、前記電気モータ(MA)に係る状態量(Ma)の変化に基づいて前記連結部(CA)が正常であるか否かの適否判定を行う。
【0009】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)では、前記コントローラ(ECU)は、前記電気モータ(MA)の回転数(Na)を一定回転数(na)になるように制御している状態で、前記差圧弁(UA)の開弁量を減少する場合に、前記電気モータ(MA)の出力に相当する出力相当値(Tm)の増加に基づいて前記連結部(CA)が正常であるか否かの適否判定を行う。具体的には、前記コントローラ(ECU)は、前記出力相当値(Tm)が判定しきい値(ix)以上になる場合に前記連結部(CA)は正常であることを判定する。
【0010】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)では、前記コントローラ(ECU)は、前記電気モータ(MA)に一定電流(im)を供給している状態で、前記差圧弁(UA)の開弁量を減少する場合に、前記電気モータ(MA)の回転数(Na)の減少に基づいて前記連結部(CA)が正常であるか否かの適否判定を行う。或いは、前記コントローラ(ECU)は、前記電気モータ(MA)を駆動している状態で、前記差圧弁(UA)を完全に閉弁する場合に、前記電気モータ(MA)の回転数(Na)の減少に基づいて前記連結部(CA)が正常であるか否かの適否判定を行う。具体的には、前記コントローラ(ECU)は、前記回転数(Na)が判定回転数(nx)以下になる場合に前記連結部(CA)は正常であることを判定する。
【0011】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)は、更に、前記出力圧(Pq、Pu)から前記ホイール圧(Pw)に至るまでの液圧伝達経路(HW)に設けられるインレット弁(VI)と、前記流体ポンプ(QA)からの制動液(BF)の吐出を、一方向には許容するが、前記一方向とは反対の他方向には阻止する逆止弁(GA)と、を備える。また、前記コントローラ(ECU)は、前記インレット弁(VI)を駆動する。前記コントローラ(ECU)は、前記インレット弁(VI)、及び、前記差圧弁(UA)を閉弁した状態で、前記一方向に対応する正転方向に前記電気モータ(MA)を駆動する場合に、前記電気モータ(MA)の回転角(Ka)の増加に基づいて前記連結部(CA)が正常であるか否かの適否判定を行う。具体的には、前記コントローラ(ECU)は、前記電気モータ(MA)を前記正転方向に駆動する前の状態を基準として、前記回転角(Ka)が判定角(kx)以上になる場合に前記連結部(CA)は異常であることを判定する。また、前記コントローラ(ECU)は、前記電気モータ(MA)を前記正転方向に駆動する前に、前記電気モータ(MA)を前記正転方向とは反対の逆転方向に駆動するとよい。
【0012】
電気モータMAと流体ポンプQAとは、連結部CAによって接続されている。電気モータMAが駆動されると、流体ポンプQAから、制動液BFが吐出され、流体路HKに循環する制動液の流れKN(循環流)が発生する。流体路HKには、差圧弁UAが設けられるが、この開弁量が減少されると、制動液BFは流れ難くなる。このため、電気モータMAの負荷は、連結部CAの正常時には大きく、異常時には小さい。上記構成によれば、電気モータMAに係る状態量(例えば、出力相当値Tm、モータ回転数Na、モータ回転角Ka)の変化に基づいて、連結部CAの適否が、好適に判定される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】制動制御装置SCの第1の実施形態を説明するための概略図である。
【
図2】連結部CAの適否判定の概要を説明するためのブロック図である。
【
図3】適否判定の第1処理例を説明するための時系列線図である。
【
図4】適否判定の第2処理例を説明するための時系列線図である。
【
図5】適否判定の第3処理例を説明するための時系列線図である。
【
図6】適否判定の第4処理例を説明するための時系列線図である。
【
図7】制動制御装置SCの第2の実施形態を説明するための概略図である。
【
図8】制動制御装置SCの第3の実施形態を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<構成部材等の記号、及び、記号末尾の添字>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。また、制動液BFの循環流KNにおいて、流体ポンプQAの吐出部Qoに近い側(吸入部Qiから離れた側)が「上流側」と称呼され、流体ポンプQAの吸入部Qiに近い側(吐出部Qoから離れた側)が「下流側」と称呼される。
【0015】
シリンダCM、CS、流体ポンプQA、差圧弁UA、インレット弁VI、ホイールシリンダCW、リザーバRV、RA等は、流体路によって接続される。ここで、「流体路」は、液圧を伝達するよう制動液BFを移動するための経路であり、配管、流体ユニットHU内の流路、ホース等が該当する。以下の説明で、マスタ路HM、ホイール路HW、還流路HK、リザーバ路HR、減圧路HG、サーボ路HV等は流体路である。
【0016】
<制動制御装置SCの第1実施形態>
図1の概略図を参照して、制動制御装置SCの第1の実施形態について説明する。
図1には、制動制御装置SCを構成する流体ユニットHUとして、特開2018-069923号公報のアクチュエータ5(特に、ホイールシリンダCWの一輪分)が模式的に表されている。
【0017】
第1の実施形態に係る制動制御装置SCは、アンチロックブレーキ制御(「ABS制御」ともいう)、横滑り防止制御(ESC:Electronic Stability Control)、及び、トラクション制御を実行するための汎用の装置である。更に、制動制御装置SCでは、これらの制御に加え、自動制動制御が実行される。自動制動制御は、運転支援装置からの要求減速度に基づいて、障害物との衝突を回避する、或いは、衝突時の被害を軽減するように、自動的に車両を減速するものである。
【0018】
制動制御装置SCが備えられる車両には、制動操作部材BPが備えられる。制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。また、車両には、制動装置(非図示)が備えられる。制動装置は、ブレーキキャリパ、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)、及び、回転部材(例えば、ブレーキディスク)にて構成される。ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられる。ホイールシリンダCWに、ホイール圧Pwが制動制御装置SCから供給されることで、摩擦部材が、車輪WHに固定された回転部材に押し付けられる。これにより、車輪WHには制動力が発生される。詳細には、ホイール圧Pwによって車輪WHに制動トルクが加えられ、この制動トルクによって、車輪WHの制動力が発生する。
【0019】
車両には、アンチロックブレーキ制御、横滑り防止制御、トラクション制御等を実行するために、各種センサが備えられる。具体的には、車輪WHの回転速度Vw(車輪速度)を検出するよう、車輪速度センサVWが設けられる。また、操舵操作部材(非図示)の操作量Sa(操舵操作量であって、例えば、操舵角)を検出するよう、操舵操作量センサSAが設けられる。更に、車両(特に、車体)について、ヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサYR、前後加速度Gxを検出する前後加速度センサGX、及び、横加速度Gyを検出する横加速度センサGYが設けられる。これらのセンサ信号は、コントローラECUに入力される。そして、コントローラECUによって、アンチロックブレーキ制御、横滑り防止制御、トラクション制御等が実行される。
【0020】
車両には、制動操作部材BPの操作に応じて、マスタ圧Pmを発生するマスタシリンダCMが備えられる。マスタシリンダCMには、マスタピストンNMが挿入され、液圧室Rm(「マスタ室」という)が形成される。マスタピストンNMには、制動操作部材BPが接続され、制動操作部材BPの操作に連動して、マスタピストンNMが移動される。マスタシリンダCM(特に、マスタ室Rm)とホイールシリンダCWとは、マスタ路HM、還流路HK、ホイール路HW等の流体路によって接続される。マスタピストンNMの移動によって、マスタシリンダCMからホイールシリンダCWに対して、マスタ圧Pmが、ホイール圧Pwとして供給される。マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間に、制動制御装置SCが設けられる。制動制御装置SCは、流体ユニットHU、及び、コントローラECUにて構成される。
【0021】
≪流体ユニットHU≫
制動制御装置SCの流体ユニットHUによって、マスタ圧Pmが、各ホイールシリンダCWで個別に調整(増減)され、ホイール圧Pwとして、ホイールシリンダCWに供給される。流体ユニットHUは、電気モータMA、流体ポンプQA、差圧弁UA、調圧リザーバRA、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOにて構成される。
【0022】
電気モータMAによって、流体ポンプQAが駆動される。電気モータMAと流体ポンプQAとは、連結部CAによって接続される。そして、連結部CAを介して、電気モータMAの回転動力が、流体ポンプQAに伝達される。具体的には、吹き出し部XCAに示すように、電気モータMAの軸部材JMの端部に、モータ回転軸線Jmに平行な平面Mm(「モータ端部平面」という)が形成される。また、流体ポンプQAの軸部材JQの端部に、ポンプ回転軸線Jqに平行な平面Mq(「ポンプ端部平面」という)が形成される。そして、モータ端部平面Mmとポンプ端部平面Mqとの接触によって、動力が伝達される。或いは、モータ端部平面Mmとポンプ端部平面Mqとの間に緩衝部材が設けられ、この緩衝部材を介した接触によって、動力伝達が行われてもよい。例えば、緩衝部材としては、ゴム等の弾性体、若しくは、樹脂が採用される。
【0023】
連結部CAは、「カップリング」、或いは、「軸継手」とも称呼される。連結部CAによって、2つの軸部材(即ち、モータ軸部材JM、及び、ポンプ軸部材JQ)が連結され、動力が伝達される。例えば、連結部CAとして、オルダム軸継手、たわみ軸継手等が採用される。また、モータ軸部材JM、及び、ポンプ軸部材JQのうちの一方の端部に凸部が形成され、それらのうちの他方の端部に凹部が形成され、凸部が凹部に挿入(例えば、圧入)されることで、連結部CAが構成されてもよい。
【0024】
電気モータMAには、回転子(ロータ)の回転角Ka(「モータ回転角」ともいう)を検出するよう、回転角センサKAが設けられる。検出されたモータ回転角Kaは、コントローラECUに入力される。そして、コントローラECUでは、モータ回転角Kaに基づいて、モータ回転数Naが演算される。具体的には、モータ回転角Kaが時間微分されて、モータ回転数Naが決定される。
【0025】
流体ポンプQAにおいて、吸入部Qiと吐出部Qoとは、還流路HK(流体路)によって接続される。還流路HKには、常開型の差圧弁UAが設けられる。差圧弁UAは、通電状態(例えば、供給電流Ia)に基づいて開弁量が連続的に制御されるリニア型の電磁弁である。還流路HKの吐出部Qoの近傍には、逆止弁GAが設けられる。詳細には、還流路HKにおいて、流体ポンプQAの吐出部Qoと差圧弁UAとの間に、逆止弁GAが配置される。逆止弁GAでは、一方側の方向の流れは許容されるが、他方側(一方側とは反対側)の方向の流れは阻止される。つまり、逆止弁GAによって、還流路HKでは、制動液BFが一方側の方向に限って流れるので、流体ポンプQAは、一方向に限って回転することが可能である(即ち、流体ポンプQAは、他方向には回転できない)。還流路HKには、流体ポンプQAに対して下流側に、調圧リザーバRAが設けられる。詳細には、差圧弁UAと流体ポンプQAの吸入部Qiとの間に調圧リザーバRAが配置される。
【0026】
還流路HKは、差圧弁UAと調圧リザーバRAとの間の部位Bmにて、マスタ路HM(流体路)を介して、マスタシリンダCMのマスタ室Rmに接続される。また、還流路HKは、逆止弁GAと差圧弁UAとの間の部位Bwにて、ホイール路HW(流体路)を介して、ホイールシリンダCWに接続される。ホイール路HW(「出力圧Pqからホイール圧Pwに至る液圧伝達経路」に相当)には、常開型のインレット弁VIが設けられる。ホイール路HWは、インレット弁VIとホイールシリンダCWとの間の部位Bgにて、減圧路HG(流体路)を介して、流体ポンプQAの吸入部Qi、及び、調圧リザーバRAに接続される。詳細には、還流路HKの調圧リザーバRAと吸入部Qiとの間の部位Biとホイール路HWの部位Bgとは、減圧路HGによって接続される。そして、減圧路HGには、常閉型のアウトレット弁VOが設けられる。インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOとして、オン・オフ型の電磁弁が採用される。インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOは、各ホイール圧Pwを個別に調節できるよう、ホイールシリンダCW毎に設けられる。
【0027】
流体ユニットHUが駆動されていない場合(即ち、差圧弁UA、電気モータMA、及び、インレット弁VIに電力が供給されていない場合)には、マスタ室Rmで発生されたマスタ圧Pmは、液圧伝達経路である、マスタ路HM、還流路HK、及び、ホイール路HWを介して、ホイールシリンダCWに供給される。電気モータMAに給電が行われ、電気モータMAが駆動されると、還流路HKには、破線矢印で示すように、「Qo→GA→UA→RA→Qi」の循環流KNが発生する。差圧弁UAに給電が行われず、全開状態にある場合には、還流路HKにおいて、差圧弁UAに対して、上流側の液圧Pq(「調整圧」と称呼し、「出力圧」に相当)と下流側の液圧Pm(マスタ圧)とは等しい(即ち、「Pq=Pm」)。
【0028】
差圧弁UAへの通電量Ia(供給電流)が増加されると、差圧弁UAの開弁量が減少される。これにより、差圧弁UAによって循環流KN(還流路HK内で循環する制動液BFの流れ)が絞られ、循環流KNの流れが阻害される。換言すれば、差圧弁UAによって、還流路HKの流路が狭められて、差圧弁UAによるオリフィス効果が発揮される。これにより、差圧弁UAの上流側の液圧Pq(調整圧)が下流側の液圧Pm(マスタ圧)から増加される。つまり、循環流KNにおいて、差圧弁UAに対して、調整圧Pqとマスタ圧Pmとの液圧差(差圧)が発生される。この差圧は、差圧弁UAへの供給電流Iaによって調節される。差圧弁UAによって発生された差圧(結果、調整圧Pq)は、自動制動制御、トラクション制御、及び、横滑り防止制御の実行に利用される。
【0029】
制動制御装置SCでは、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOが制御されて、ホイール圧Pwの減少、増加、保持が、ホイールシリンダCW毎に個別で行われる。ホイール圧Pwの個別調節は、アンチロックブレーキ制御、トラクション制御、及び、横滑り防止制御の実行に利用される。インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOに給電が行われず、それらの作動が停止している場合には、インレット弁VIは開弁され、アウトレット弁VOは閉弁される。この状態では、ホイール圧Pwは、調整圧Pqに等しい。ホイール圧Pwを減少するためには、インレット弁VIが閉弁され、アウトレット弁VOが開弁される。ホイールシリンダCWへの制動液BFの流入が阻止されるとともに、ホイールシリンダCW内の制動液BFが調圧リザーバRAに流出するので、ホイール圧Pwは減少される。ホイール圧Pwを増加するためには、インレット弁VIが開弁され、アウトレット弁VOが閉弁される。制動液BFの調圧リザーバRAへの流出が阻止され、調整圧PqがホイールシリンダCWに供給されるので、ホイール圧Pwが増加される。但し、ホイール圧Pwの増加の上限は調整圧Pqまでである。ホイール圧Pwを保持するためには、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOが共に閉弁される。ホイールシリンダCWは流体的に封止されるので、ホイール圧Pwが一定に維持される。
【0030】
≪コントローラECU≫
コントローラECU(「電子制御ユニット」ともいう)によって、流体ユニットHUが制御される。コントローラECUは、マイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DRにて構成される。
【0031】
コントローラECU(特に、マイクロプロセッサMP)には、車輪速度Vw、操舵操作量Sa、ヨーレイトYr、横加速度Gy、及び、モータ回転角Kaが入力される。コントローラECUにて、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。そして、車体速度Vx、車輪速度Vw、操舵操作量Sa、ヨーレイトYr、及び、横加速度Gyの信号に基づいて、自動制動制御、アンチロックブレーキ制御、トラクション制御、及び、横滑り防止制御が実行される。具体的には、コントローラECUによって、流体ユニットHUを構成する電気モータMA、及び、各種電磁弁(UA等)が駆動される。コントローラECUの駆動回路DRには、モータ回転角Kaに基づいて、電気モータMAを駆動するよう、スイッチング素子(例えば、MOS-FET)にてHブリッジ回路が構成される。また、駆動回路DRには、各種電磁弁(UA等)を駆動するよう、スイッチング素子が備えられる。マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムに基づいて、差圧弁UAへの供給電流Ia(「差圧弁電流」ともいう)、インレット弁VIへの供給電流Ii(「インレット弁電流」ともいう)、アウトレット弁VOへの供給電流Io、電気モータMAへの供給電流Im(「モータ電流」ともいう)が制御される。駆動回路DRには、差圧弁UAへの供給電流Iaを検出する差圧弁電流センサIA、インレット弁VIへの供給電流Iiを検出するインレット弁電流センサII(非図示)、及び、電気モータMAへの供給電流Imを検出するモータ電流センサIMが設けられる。
【0032】
更に、コントローラECU(特に、マイクロプロセッサMP)には、「連結部CAが正常であるか、異常であるか」を判定するために、適否判定ブロックBHが含まれる。該判定が、「適否判定」と称呼される。適否判定ブロックBH(単に、「判定ブロック」ともいう)には、適否判定用のアルゴリズムがプログラムされている。適否判定は、車両が停止している場合に実行される。例えば、適否判定は、イグニッションスイッチがオンされた場合に、制動制御装置SCの初期チェックとして実行される。或いは、運転者が乗車するため、車両のドアが開かれた場合(例えば、カーテシスイッチがオンされた場合)に実行されてもよい。更に、適否判定は、自動走行(例えば、リモート駐車制御等の自動駐車制御)の実行前に行われ得る。ここで、「リモート駐車制御」は、スマートフォン等による遠隔操作にて、自動的に駐車を行う機能である。
【0033】
適否判定ブロックBHには、電気モータMAに係る状態量Maの信号が入力される。「電気モータMAに係る状態量Ma」は、「モータ状態量」とも称呼される。例えば、適否判定ブロックBHには、モータ状態量Maとして、モータ回転角センサKAによって検出されたモータ回転角Kaが入力される。また、適否判定ブロックBHには、モータ状態量Maとして、モータ電流センサIMによって検出された供給電流Im(モータ電流)が入力される。更に、適否判定ブロックBHでは、モータ状態量Maとして、モータ回転数Naが入力される。
【0034】
適否判定ブロックBHでは、電気モータMAが定常駆動されている状態で、差圧弁UAの開弁量が減少される場合に、モータ状態量Maの変化(増減)に基づいて、「連結部CAが正常であるか、否か」の適否判定が行われる。電気モータMAの駆動が開始されるとき(即ち、起動時)には、電気モータMAには突入電流(「起動電流」ともいう)が流れる。その後、モータ電流Imは略一定の状態となる。「定常駆動」は、電気モータMAが、突入電流の発生後に、一定の状態(例えば、モータ回転数Na、モータ電流Imの一定状態)を保って駆動されることである。また、「差圧弁UAの開弁量の減少」には、差圧弁UAが完全に閉弁されることが含まれる。
【0035】
適否判定では、電気モータMA、差圧弁UA、インレット弁VI等の流体ユニットHUの構成要素が駆動される。適否判定における電気モータMA等の一連の駆動が、「判定モード駆動」と称呼される。つまり、適否判定ブロックBHでは、判定モード駆動が実行される場合のモータ状態量Maの変化から連結部CAの適否(正常であるか、否か)が判定される。判定モード駆動は、車両の停止状態(即ち、「Vx=0」の状態)で実行される。また、実行条件に、制動操作部材BPが操作されていない状態(即ち、「Ba=0」の状態)が付け加えられてもよい。
【0036】
適否判定ブロックBHにて、連結部CAの異常が判定されると、該異常が、報知装置WGによって、運転者に報知される。例えば、コントローラECUの適否判定ブロックBHから、報知信号Wgが報知装置WGに出力される。これにより、報知装置WGでは、音、光等によって、連結部CAの異常状態が、運転者に知らされる。
【0037】
<連結部CAの適否判定の概要>
図2のブロック図を参照して、適否判定ブロックBHによって実行される適否判定について概説する。適否判定ブロックBHの処理は、コントローラECUにプログラムされている。適否判定では、差圧弁UA等の開弁量を狭める(又は、閉じる)ことによって、循環流KNを発生させる動力源である電気モータMAに負荷が与えられる。このときの電気モータMAに係る状態量Maの変化に基づいて、連結部CAの適否が判断される。適否判定ブロックBHは、判定モード駆動ブロックMD、信号取得ブロックSG、及び、判定処理ブロックHNにて構成される。
【0038】
判定モード駆動ブロックMDでは、予め設定されたパターンに基づいて、電気モータMA、差圧弁UA等が駆動される。即ち、駆動回路DRに対して、判定モード駆動ブロックMDから指示がなされる。例えば、判定モード駆動は、停車状態での非制動時に実行される(即ち、「Vx=0、Ba=0」の状態)。
【0039】
信号取得ブロックSGでは、判定モード駆動でのモータ状態量Ma(電気モータMAに係る状態量)の信号が取得される。具体的には、モータ状態量Maには、モータ電流Im、モータ回転角Ka、モータ回転数Na等が含まれる。モータ電流Imは、駆動回路DRに設けられたモータ電流センサIMによって検出される。モータ回転角Kaは、電気モータMAに設けられたモータ回転角センサKAによって検出される。モータ回転数Naは、モータ回転角Kaに基づいて、それが時間微分されることで決定される。
【0040】
判定処理ブロックHNでは、判定モード駆動中のモータ状態量Maの変化(増減)に基づいて、連結部CAが正常か否かの適否判定が実行される。詳細は後述するが、判定期間内に、判定条件が満足されることに基づいて、連結部CAの正常状態が判定される。そして、判定期間内に、正常状態が判定されない場合には、判定期間の終了時に、連結部CAの異常状態が判定される。
【0041】
電気モータMAと流体ポンプQAとは、連結部CAを介して接続されている。電気モータMAが駆動されると、流体ポンプQAから、制動液BFが吐出され、還流路HKに循環流KNが発生する。還流路HKには、差圧弁UAが設けられている。差圧弁UAの開弁量が減少される(又は、差圧弁UAが全閉にされる)と、循環流KNは流れ難くなる。このため、連結部CAが正常であれば、電気モータMAの負荷は増加する。これに対し、連結部CAに異常がある場合には、電気モータMAの負荷の増加は少ない(又は、略増加しない)。つまり、差圧弁UAにて流路が狭められた際の電気モータMAに対する負荷は、連結部CAの正常時には大きく、異常時には小さい。判定処理ブロックHNでは、この事象に基づいて、電気モータMAに係る状態量Maの変化に基づいて、連結部CAの適否が判定される。以上、適否判定の概要について説明した。次に、適否判定の具体的な処理例(第1~第3の処理例)について説明する。
【0042】
≪適否判定の第1処理例≫
適否判定に係る第1の処理例の詳細について説明する。
第1処理例では、適否判定用のモータ状態量Maとして、「モータ電流Imから、電気モータMAのトルクとして出力されるまでの状態量(状態変数)」が採用される。該状態量は、電気モータMAのトルク出力に係る状態量であり、「出力相当値Tm(電気モータMAのトルク出力に相当する値)」と称呼される。例えば、出力相当値Tmは、モータ電流Im(モータ電流センサIMの検出値)に基づいて算出される。また、モータ電流Im自体が、出力相当値Tmとして採用されてもよい。電気モータMAの出力を検出するトルクセンサが備えられる構成では、該センサによって検出されるモータトルクが、出力相当値Tmとして採用され得る。
【0043】
第1処理例では、判定期間は、「差圧弁UAへの給電開始時点から、判定時間thを経過するまでの間」として設定される。判定時間thは、予め設定された所定値(定数)である。つまり、差圧弁UAに給電が開始された時点を「0(始点)」としたときに、時間Tの経過において、「T=0(始点)」から「T=th(終点)」までが判定期間である。第1処理例に係る判定期間は、他の判定期間と区別するために、「出力判定期間」とも称呼される。
【0044】
第1処理例では、判定条件は、「出力相当値Tmが判定しきい値ix以上になった状態が、継続時間tjに亘って維持されること」である。判定しきい値ix、及び、継続時間tjは、予め設定された所定値(定数)である。継続時間tjは、ノイズ等の影響を排除するために設けられている。第1の処理例に係る判定条件は、他の判定条件と区別するために、「第1判定条件」とも称呼される。第1判定条件が成立すると、連結部CAの正常状態が判定される。つまり、第1判定条件は、連結部CAの正常状態を判定する条件である。
【0045】
第1処理例の判定モード駆動では、先ず、電気モータMAの回転数Naが一定回転数naとなるように、電気モータMAが正転方向に駆動される。具体的には、電気モータMAの目標回転数Ntが、一定回転数na(予め設定された所定値)に設定される。そして、モータ回転数Naが、目標回転数Nt(=na)に一致するように、電気モータMAのトルク出力が制御される。電気モータMAの出力は、モータ電流Imと相関関係があるため、電気モータMAへの供給電流Imが、回転数フィードバック制御にて調整される。このとき、差圧弁UA、及び、インレット弁VIには通電が行われていないので、それらは全開状態である。従って、電気モータMAに値iaのモータ電流Imが供給されることで、モータ回転数Naは一定回転数naで回転し続ける(即ち、「Im=ia、Na=na(一定回転数)」の定常駆動状態)。次に、電気モータMAが一定回転数naで駆動されている定常状態で、差圧弁UA、及び、インレット弁VIに給電が行われる。これにより、差圧弁UAの開弁量が減少されるとともに、インレット弁VIが閉弁される。
【0046】
適否判定は、判定期間中の出力相当値Tmの変化(特に、増加)に基づいて実行される。具体的には、判定期間内に、「Tm≧ix」の状態が継続時間tjの間に亘って継続され、第1判定条件が満足される場合には、連結部CAが正常であることが判定される。これに対し、出力判定期間内において、「Tm<ix」の状態が継続するか、又は、「Tm≧ix」は達成されるが、その状態が継続時間tjに亘って続かず、第1判定条件が満足されない場合には、連結部CAが異常であることが判定される。連結部CAの異常が判定される場合には、報知装置WGに対して、報知信号Wgが出力される。報知装置WGによって、連結部CAの異常状態が、運転者に報知される。
【0047】
判定モード駆動は、判定期間の終点で終了される。判定モード駆動が終了されると、電気モータMA、差圧弁UA等への給電が停止される。なお、判定条件が成立する時点にて、判定モード駆動が終了されてもよい。
【0048】
判定モード駆動では、インレット弁VIは完全に閉弁されているので、制動液BFは、ホイールシリンダCWに向けては移動されない。また、差圧弁UAへの給電により、差圧弁UAの開弁量は減少されているので、制動液BFが差圧弁UAを通過する際には、電気モータMAに負荷が生じる。モータ回転数Naが一定回転数naに維持されるよう、出力相当値Tmが、回転数フィードバック制御されるので、連結部CAが正常である場合には、電気モータMAの負荷が増加し、出力相当値Tmは増加する。従って、判定条件が満足される場合には、連結部CAの正常が判定される。これに対し、連結部CAに異常がある場合には、電気モータMAから流体ポンプQAには動力が伝達されず、流体ポンプQAから制動液BFが吐出されないか、又は、その吐出量は僅かである。連結部CAに異常がある場合には、出力相当値Tmは然程増加しない。従って、第1判定条件が満足される場合には連結部CAの正常が判定されるが、第1判定条件が満足されない場合には、連結部CAの異常が判定される。
【0049】
第1処理例では、インレット弁VIは閉弁されなくてもよい。この場合、制動液BFは、ホイールシリンダCWに移動されるが、制動装置(ホイールシリンダCW、ブレーキキャリパ、摩擦部材等)の構成要素は十分な剛性を有しているので、電気モータMAに対する負荷は発生される。第1の処理例において、インレット弁VIへの通電によって、これを閉弁することは、判定モード駆動での必須条件ではない。
【0050】
<第1処理例の動作>
図3の時系列線図(時間Tの経過に伴う各種状態量の遷移を表す線図)を参照して、適否判定に係る第1処理例の動作について説明する。第1処理例の判定モード駆動には、差圧弁UA、及び、インレット弁VIの給電方法の組み合わせで、以下の4つの態様が存在する。第1処理例では、これらの何れが採用されても、上記の出力判定期間、及び、第1判定条件に従って、連結部CAの適否が判定される。
(1)インレット弁VIが全閉にされ、差圧弁UAへの給電がステップ的に行われる態様(「態様1a」という)。
(2)インレット弁VIが開弁されたままで、差圧弁UAへの給電が徐々に行われる態様(「態様1b」という)。
(3)インレット弁VIが全閉にされ、差圧弁UAへの給電が徐々に行われる態様(「態様1c」という)。
(4)インレット弁VIが開弁されたままで、差圧弁UAへの給電がステップ的に行われる態様(「態様1d」という)。
【0051】
≪[態様1a]の動作≫
図3(a)を参照して、上記[態様1a]について説明する。該動作例では、連結部CAの異常では、それが破損して、電気モータMAが空回りしている状況が想定されている。なお、電気モータMAが起動される際には、起動電流(突入電流)が発生し、モータ電流Imとして、一時的に大きな電流が流れるが、以下の線図(
図3~
図6)では、これが省略されている。
【0052】
時点t1にて、判定モード駆動が開始される。突入電流が生じた後、電気モータMAが正転方向に定常駆動される。つまり、電気モータMAの回転数Naが、目標回転数Nt(=na)に一致するように、電気モータMAへの供給電流Imが増加される。これに伴い、出力相当値Tmが増加する。そして、モータ回転数Naは目標回転数naに一致した後は、モータ電流Imが一定値iaに維持され、出力相当値Tmは一定となる。
【0053】
電気モータMAが定常駆動されている時点t2にて、インレット弁VI、及び、差圧弁UAが判定モードで駆動される。インレット弁VIへの供給電流Ii(インレット弁電流)が増加され、インレット弁VIが完全に閉弁される。また、差圧弁UAへの供給電流Ia(差圧弁電流)が増加され、差圧弁UAの開弁量が減少される。なお、差圧弁電流Iaは、閉弁電流ic未満であり、差圧弁UAは完全には閉弁されない。閉弁電流icは、差圧弁UAを完全に閉弁するための電流値であり、予め設定された所定値(定数)である。時点t2にて、判定時間thに係る時間Tのカウントが開始される。なお、線図では、出力判定期間は、時点t2~時点t5までの期間(区間)である。
【0054】
実線で示す特性線ZSaを参照して、連結部CAが正常である場合について説明する。連結部CAの正常時には、インレット弁VIの閉弁、及び、差圧弁UAの開弁量の減少により、循環流KNにおいて、制動液BFは流れ難くなる。このため、電気モータMAの負荷が増加する。回転数フィードバック制御により、モータ回転数Naが目標回転数naに一致するように、出力相当値Tmは増加される。従って、時点t2の直後の時点t3にて、出力相当値Tmが判定しきい値ixに到達する。時点t3から、継続時間tjに係る時間Tのカウントが行われる。時点t4にて、第1判定条件が成立し、適否判定では、連結部CAが正常であることが判定される。
【0055】
次に、破線で示す特性線ZIaを参照して、連結部CAが異常である場合について説明する。連結部CAの異常時には、電気モータMAの負荷は増加しないか、又は、僅かに増加するだけであるため、出力相当値Tmは増加しない。従って、出力相当値Tmが判定しきい値ix未満の状態が続き、出力判定期間内では、第1判定条件は成立しない。このため、時点t5にて、連結部CAが異常であることが判定される。
【0056】
判定期間の終了時点t5で、判定モード駆動は終了され、電気モータMA、インレット弁VI、及び、差圧弁UAへの給電が停止される。なお、判定モード駆動は、第1判定条件が成立した時点t4にて終了されてもよい。
【0057】
≪[態様1b]の動作≫
図3(b)を参照して、上記[態様1b]について説明する。[態様1a]との相違点は、判定モード駆動において、「インレット弁VIが開弁されたままであること」、及び、「差圧弁UAへの給電が徐々に行われること」である。以下、相違点を主に説明する。
【0058】
時点t6にて、判定モード駆動が開始され、電気モータMAが正転方向に駆動される。即ち、電気モータMAの回転数Naが、目標回転数Nt(=na)となるように、電気モータMAへの供給電流Imが増加される。その後、電気モータMAは、「Na=na」の定常状態で駆動される。
【0059】
電気モータMAが定常駆動されている時点t7にて、差圧弁UAの駆動が開始される。[態様1b]では、インレット弁VIに給電は行われず、インレット弁VIは開弁したままである。時点t7から、差圧弁電流Iaが、所定の時間勾配da(「増加勾配」という)にて徐々に増加される。そして、差圧弁電流Iaが所定電流ie(「差圧弁所定電流」ともいう)に到達すると、その後、差圧弁電流Iaは所定電流ieに維持される。増加勾配da(時間に対する差圧弁電流Iaの変化量)、及び、所定電流ie(差圧弁所定電流)は、予め設定された所定値(定数)である。時点t7から、判定時間thに係る時間Tのカウントが開始される。[態様1b]では、出力判定期間は、時点t7(始点)~時点t10(終点)までの間である。
【0060】
連結部CAの正常時には、時点t7以降、差圧弁UAの開弁量の減少に伴って、電気モータMAの負荷が増加する。時点t8にて、出力相当値Tmが判定しきい値ix以上であることが、初めて満足される。そして、時点t9にて、「Tm≧ix」の状態が、継続時間tjに亘って継続される(実線で示す特性線ZSgを参照)。これにより、時点t9にて、第1判定条件が成立し、連結部CAが正常であることが判定される。連結部CAの異常時には、電気モータMAの負荷は増加しないため、出力相当値Tmは増加しない(破線で示す特性線ZIgを参照)。出力相当値Tmが判定しきい値ix未満である状態が続き、第1判定条件は成立しないので、時点t10にて、連結部CAが異常であることが判定される。[態様1b]でも、判定期間の終点t10にて、判定モード駆動は終了される。判定モード駆動が終了されると、電気モータMA、及び、差圧弁UAへの給電が停止される。なお、判定モード駆動は、第1判定条件が成立する時点t9にて終了されてもよい。
【0061】
≪適否判定の第2処理例≫
適否判定に係る第2の処理例の詳細について説明する。
第2処理例では、適否判定用のモータ状態量Maとして、モータ回転数Naが採用される。例えば、モータ回転数Naは、モータ回転角センサKAの検出結果(即ち、モータ回転角Ka)に基づいて演算される。第2処理例の判定期間は、第1処理例と同様に、「差圧弁UAへの給電開始時点から、判定時間th(予め設定された所定値)を経過するまでの間」である。第2処理例に係る判定期間は、他の判定期間と区別するために、「回転数判定期間」とも称呼される。
【0062】
第2処理例では、判定条件は、「モータ回転数Naが判定回転数nx以下になった状態が、継続時間tjに亘って継続されること」として設定される。判定回転数nx、及び、継続時間tjは、予め設定された所定値(定数)である。継続時間tjは、ノイズ等の影響を排除するために設けられる。第2処理例に係る判定条件は、他の判定条件と区別するために、「第2判定条件」とも称呼される。第2判定条件が成立すると、連結部CAの正常状態が判定される。つまり、第2判定条件は、連結部CAの正常状態を判定する条件である。
【0063】
第2処理例の判定モード駆動について説明する。第1処理例では、電気モータMAが回転数フィードバック制御によって駆動されたが、第2処理例では、回転数フィードバック制御が行われず、電気モータMAには一定のモータ電流Im(値im)が供給される。判定モード駆動では、先ず、電気モータMAに一定電流imが供給される。一定電流imは、予め設定された所定値(定数)である。このとき、差圧弁UA、及び、インレット弁VIへの給電は停止されており、それらは全開状態である。電気モータMAの回転数Naは、値nmで一定の定常状態になる。そして、該状態で、差圧弁UA、及び、インレット弁VIに給電が行われる。これにより、差圧弁UAの開弁量が減少され、インレット弁VIが完全に閉弁される。
【0064】
適否判定は、判定期間中のモータ回転数Naの変化に基づいて実行される。具体的には、回転数判定期間内に、「Na≦nx」の状態が継続時間tjの間に亘って継続され、第2判定条件が満足される場合には、連結部CAが正常であることが判定される。これに対し、回転数判定期間内において、「Na>nx」の状態が継続するか、又は、「Na>nx」は達成されるが、その状態が継続時間tjに亘って続かず、第2判定条件が満足されない場合には、連結部CAが異常であることが判定される。連結部CAの異常が判定される場合には、報知装置WGに対して、報知信号Wgが出力される。報知装置WGによって、連結部CAの異常状態が、運転者に報知される。
【0065】
上述したように、連結部CAが正常であれば、差圧弁UAの開弁量が減少されると、電気モータMAに負荷が生じる。供給されるモータ電流Imは一定値imであるため、負荷が増加すると、モータ回転数Naは減少するはずである。連結部CAに異常がある場合には、判定モード駆動において、モータ回転数Naは然程減少しない。従って、判定モード駆動において、第2判定条件が満足される場合には、連結部CAの正常が判定されるが、第2判定条件が満足されない場合には、連結部CAの異常が判定される。
【0066】
第2処理例でも、第1処理例と同様に、インレット弁VIは閉弁されなくてもよい。これは、制動装置(CW、ブレーキキャリパ、摩擦部材等)の剛性によって、電気モータMAへの負荷は発生されるためである。従って、第2処理例においても、インレット弁VIへの通電によって、これを閉弁することは、判定モード駆動での必須条件ではない。
【0067】
<第2処理例の動作>
図4の時系列線図(時間Tの経過に伴う各種状態量の遷移を表す線図)を参照して、適否判定に係る第2処理例の動作について説明する。第2処理例の判定モード駆動には、差圧弁UA、及び、インレット弁VIの給電方法の組み合わせで、以下の4つの態様が存在する。第2処理例では、これらの何れが採用されても、上記の回転数判定期間、及び、第2判定条件に従って、連結部CAの適否が判定される。
(1)インレット弁VIが全閉にされ、差圧弁UAへの給電がステップ的に行われる態様(「態様2a」という)。
(2)インレット弁VIが開弁されたままで、差圧弁UAへの給電が徐々に行われる態様(「態様2b」という)。
(3)インレット弁VIが全閉にされ、差圧弁UAへの給電が徐々に行われる態様(「態様2c」という)。
(4)インレット弁VIが開弁されたままで、差圧弁UAへの給電がステップ的に行われる態様(「態様2d」という)。
【0068】
≪[態様2a]の動作≫
図4(a)を参照して、上記[態様2a]について説明する。該動作例では、連結部CAの異常では、それが破損して、電気モータMAが空回りしている状況が想定されている。なお、上述したように、電気モータMAが起動される際の起動電流の表記は省略されている。
【0069】
時点v1にて、判定モード駆動が開始される。起動電流の発生後、電気モータMAが正転方向に定常駆動される。つまり、電気モータMAに予め設定された所定電流im(一定値)が供給される。その結果、モータ回転数Naは、所定電流imに対応する一定回転数nmで定常駆動される。
【0070】
電気モータMAが定常駆動されている時点v2にて、インレット弁VI、及び、差圧弁UAが駆動される。時点v2にて、インレット弁VIが完全に閉弁され、差圧弁UAの開弁量が減少される。ここで、「Ia<ic」であるため、差圧弁UAは完全には閉弁されない。時点v2にて、判定時間thに係る時間Tのカウントが開始される。[態様2a]では、回転数判定期間は、時点v2から時点v5までの間である
【0071】
連結部CAが正常である場合には、インレット弁VIの閉弁、及び、差圧弁UAの開弁量の減少により、電気モータMAの負荷が増加する。モータ電流Imは一定であるため、モータ回転数Naは値nmから減少する(実線で示す特性線ZSbを参照)。このため、差圧弁UAへの給電開始直後の時点v3にて、モータ回転数Naが判定回転数nxに到達する。時点v3にて、継続時間tjに係る時間Tのカウントが開始される。時点v4にて、第2判定条件が成立するため、連結部CAが正常であることが判定される。
【0072】
連結部CAが異常である場合には、電気モータMAの負荷は、増加しないか、又は、僅かに増加するだけである。このため、判定期間において、モータ回転数Naは、略減少しない(破線で示す特性線ZIbを参照)。モータ回転数Naが判定回転数nxよりも大きい状態が続き、第2判定条件は成立しないため、時点v5にて、連結部CAが異常であることが判定される。
【0073】
第2処理例でも、第1処理例と同様に、判定期間の終了時点v5で、判定モード駆動は終了され、電気モータMA、インレット弁VI、及び、差圧弁UAへの給電が停止される。なお、第2判定条件が成立する場合には、その時点v4にて、判定モード駆動が終了されてもよい。
【0074】
≪[態様2b]の動作≫
図4(b)を参照して、上記[態様2b]について説明する。[態様2a]との相違点は、判定モード駆動において、「インレット弁VIが開弁されたままであること」、及び、「差圧弁UAへの給電が徐々に行われること」である。以下、相違点を主に説明する。
【0075】
時点v6にて、判定モード駆動が開始され、電気モータMAが正転方向に駆動される。詳細には、電気モータMAには、「Im=im」が供給され、電気モータMAは、「Na=nm」で定常駆動される。時点v7にて、差圧弁UAが判定モードで駆動される。[態様2b]では、インレット弁VIに給電は行われず、インレット弁VIは開弁したままである。時点v7から、差圧弁電流Iaが、増加勾配daにて徐々に増加される。そして、差圧弁電流Iaが所定電流ieに到達すると、その後、差圧弁電流Iaは所定電流ieに維持される。上述したように、増加勾配da(時間に対する差圧弁電流Iaの変化量)、及び、所定電流ieは、予め設定された所定値(定数)である。時点v7にて、判定時間thに係る時間Tのカウントが開始される。[態様2b]では、回転数判定期間は、時点v7~時点v10までの間である。
【0076】
連結部CAの正常時には、時点v7以降、差圧弁UAの開弁量の減少に伴って、電気モータMAの負荷が増加するので、モータ回転数Naが減少する。時点v8にて、モータ回転数Naが判定回転数nx以下であることが、初めて満足される。そして、時点v9にて、「Na≦nx」の状態が、継続時間tjに亘って継続される(実線で示す特性線ZShを参照)。これにより、時点v9にて、第2判定条件が成立し、連結部CAが正常であることが判定される。連結部CAの異常時には、電気モータMAの負荷は増加しないため、モータ回転数Naは減少しない(破線で示す特性線ZIhを参照)。モータ回転数Naが判定回転数nxよりも大きい状態が続き、第2判定条件は成立しないので、時点v10にて、連結部CAが異常であることが判定される。[態様2b]でも、判定期間の終了時点v10にて、判定モード駆動は終了される。また、第2判定条件が満足される場合には、該時点v9にて終了されてもよい。
【0077】
≪適否判定の第3処理例≫
適否判定に係る第3の処理例の詳細について説明する。
第3処理例でも、第2処理例と同様に、適否判定用のモータ状態量Maとして、モータ回転数Naが採用される。第3処理例の判定期間は、第1、第2処理例と同様に、「差圧弁UAへの給電開始時点から、判定時間th(予め設定された所定値)までの間」である。第3処理例に係る判定期間は、第2処理例と同様に、「回転数判定期間」とも称呼される。
【0078】
第3処理例では、第2処理例と同様に、判定条件は、「モータ回転数Naが判定回転数nx以下になった状態が、継続時間tjに亘って継続されること」である。判定回転数nx、及び、継続時間tjは、予め設定された所定値(定数)である。例えば、判定回転数nxは「0(電気モータMAの停止状態)」に設定され得る。継続時間tjは、ノイズ等の影響を排除するために設けられる。第3処理例に係る判定条件は、他の判定条件と区別するために、「第3判定条件」とも称呼される。第3判定条件が成立すると、連結部CAの正常状態が判定される。つまり、第3判定条件は、連結部CAの正常状態を判定する条件である。
【0079】
第3処理例の判定モード駆動では、先ず、電気モータMAが駆動される。第3判定例では、第1判定例と同様に、電気モータMAが回転数フィードバック制御にて、モータ回転数Naが、一定回転数na(予め設定された所定値)となるように制御される。或いは、第2判定例と同様に、モータ電流Imとして、一定電流im(予め設定された所定値)が供給されて、電気モータMAが駆動されてもよい。電気モータMAが定常状態で駆動されている途中で、差圧弁UA、及び、インレット弁VIが、共に完全に閉弁される。つまり、第1、第2処理例では、差圧弁UAは、その開弁量が減少されるが、開弁されていた。これに対し、第3処理例では、インレット弁VIと同様に、差圧弁UAも完全に閉弁される。
【0080】
第3処理例の適否判定は、第2処理例と同様に、判定期間中のモータ回転数Naの変化に基づいて実行される。具体的には、回転数判定期間内に、第3判定条件が満足される場合には、連結部CAが正常であることが判定される。これに対し、第3判定条件が満足されない場合には、連結部CAが異常であることが判定される。
【0081】
差圧弁UA、及び、インレット弁VIが完全に閉弁されている場合には、流体ポンプQAの吐出部Qoは流体的に封止されるので、連結部CAが正常である場合には、電気モータMA、及び、流体ポンプQAは回転しないか、若しくは、流体路の剛性、連結部CAのガタ等により、僅かに回転する程度である。例えば、電気モータMAの回転数Naが全く生じない場合(即ち、「Na=0」の場合)には、連結部CAの正常状態が判定される。これに対し、「Na>nx(=0)」であり、電気モータMAの回転数Naが発生する場合(即ち、「Na≠0」の場合)には、電気モータMAが空回りしている状態であるため、連結部CAの異常状態が判定される。連結部CAの異常が判定されると、報知装置WGに対して、報知信号Wgが出力され、運転者に対する報知が行われる。
【0082】
第3処理例でも、第1、第2処理例と同様に、インレット弁VIは閉弁されなくてもよい。これは、制動装置(ホイールシリンダCW、ブレーキキャリパ、摩擦部材等)の剛性によって、電気モータMAへの負荷は発生されるためである。従って、第3処理例においても、インレット弁VIへの通電によって、これを閉弁することは、判定モード駆動での必須条件ではない。
【0083】
<第3処理例の動作>
図5の時系列線図を参照して、適否判定に係る第3の処理例の動作について説明する。第3処理例の判定モード駆動には、差圧弁UA、及び、インレット弁VIの給電方法の組み合わせで、以下の4つの態様が存在する。第3処理例では、これらの何れが採用されても、上記の回転数判定期間、及び、第3判定条件に従って、連結部CAの適否が判定される。
(1)インレット弁VIが全閉にされ、差圧弁UAへの給電がステップ的に行われる態様(「態様3a」という)。
(2)インレット弁VIが開弁されたままで、差圧弁UAへの給電が徐々に行われる態様(「態様3b」という)。
(3)インレット弁VIが全閉にされ、差圧弁UAへの給電が徐々に行われる態様(「態様3c」という)。
(4)インレット弁VIが開弁されたままで、差圧弁UAへの給電がステップ的に行われる態様(「態様3d」という)。
【0084】
≪[態様3a]の動作≫
図5(a)を参照して、上記[態様3a]について説明する。
時点s1にて、判定モード駆動が開始され、電気モータMAが正転方向に駆動される。時点s1から、電気モータMAへの供給電流Imが増加され、モータ回転数Naは増加する。その後、モータ回転数Naは、一定回転数naの定常状態で駆動される。
【0085】
時点s2にて、インレット弁VI、及び、差圧弁UAが判定モードで駆動される。時点s2にて、インレット弁VI、及び、差圧弁UAが完全に閉弁される。なお、差圧弁UAの閉弁は、差圧弁UAに所定電流igが供給されること達成される。所定電流igは、閉弁電流icよりも大きい値であり、予め設定された所定値(定数)である。時点s2にて、判定時間thに係る時間Tのカウントが開始される。[態様3a]では、回転数判定期間は、時点s2から時点s5までの間である。
【0086】
連結部CAが正常である場合には、インレット弁VI、及び、差圧弁UAの全閉状態により、電気モータMAの負荷は急増する。これにより、電気モータMAの回転が停止するよう、モータ回転数Naは急減する(実線で示す特性線ZScを参照)。差圧弁UAへの給電開始の直後の時点s3にて、モータ回転数Naが判定回転数nxにまで低下する。時点s4にて、第3判定条件が成立するので、連結部CAが正常であることが判定される。連結部CAが異常である場合(例えば、連結部CAが破損した場合)には、インレット弁VI、及び、差圧弁UAが全閉状態にされても、電気モータMAの負荷は略増加しない。このため、判定モード駆動において、モータ回転数Naは減少しない(破線で示す特性線ZIcを参照)。モータ回転数Naが判定回転数nxよりも大きい状態が続き、第3判定条件は成立しなので、時点s5にて、連結部CAが異常であることが判定される。第3の処理例でも、第1、第2の処理例と同様に、判定期間の終了時点s5にて、判定モード駆動は終了される。また、第3判定条件が成立する時点s4にて、判定モード駆動が終了されてもよい。
【0087】
≪[態様3b]の動作≫
図5(b)を参照して、上記[態様3b]について説明する。[態様3a]との相違点は、判定モード駆動において、「差圧弁UAへの給電が徐々に行われること」、及び、「インレット弁VIが閉弁されないこと」である。以下、相違点を主に説明する。
【0088】
時点s6にて、判定モード駆動が開始され、電気モータMAが正転方向に駆動される。具体的には、電気モータMAが、「Na=na」の定常状態で駆動される。時点s7にて、差圧弁UAが判定モードで駆動される。[態様2b]では、インレット弁VIに給電は行われず、インレット弁VIは開弁したままである。時点s7から、差圧弁電流Iaが、増加勾配daにて徐々に増加される。そして、差圧弁電流Iaが所定電流igに到達すると、その後、差圧弁電流Iaは所定電流igに維持される。上述したように、増加勾配da(時間に対する差圧弁電流Iaの変化量)、及び、所定電流igは、予め設定された所定値(定数)である。時点s7にて、判定時間thに係る時間Tのカウントが開始される。[態様3b]では、回転数判定期間は、時点s7から時点s10までの間ある。
【0089】
連結部CAの正常時には、差圧弁電流Iaが閉弁電流icを超えると、差圧弁UAは全閉状態になる。これにより、電気モータMAの負荷は増加し、モータ回転数Naは減少する。時点s8にて、モータ回転数Naが判定回転数nx以下であることが、初めて満足される。そして、時点s9にて、「Na≦nx」の状態が、継続時間tjに亘って継続される(実線で示す特性線ZSiを参照)。これにより、時点s9にて、第3判定条件が成立するので、連結部CAが正常であることが判定される。連結部CAの異常時には、差圧弁UAが閉弁されても、電気モータMAの負荷は増加しないため、モータ回転数Naは減少しない(破線で示す特性線ZIiを参照)。モータ回転数Naが判定回転数nxよりも大きい状態が続き、第3判定条件は成立しないので、時点s10にて、連結部CAが異常であることが判定される。[態様3b]でも、判定期間の終了時点s10にて、判定モード駆動は終了される。また、第3判定条件が満足される時点s9にて、判定モード駆動が終了されてもよい。
【0090】
≪適否判定の第4処理例≫
適否判定に係る第4の処理例の詳細について説明する。
第1~第3の判定例では、電気モータMAが正転方向に定常駆動されている状態で、差圧弁UAの開弁量が減少される場合に、モータ状態量Maの変化に基づいて適否判定が実行された。これとは逆に、第4の処理例では、差圧弁UA、及び、インレット弁VIへの給電が行われた後に、電気モータMAが正転方向に駆動される。このとき、差圧弁UA、及び、インレット弁VIは、共に完全閉弁の状態にされる。
【0091】
第1~第3の処理例では、モータ状態量Maの変化に基づいて連結部CAの正常状態が判定された。そして、判定期間内に正常状態が判定されない場合に、連結部CAの異常状態が判定された。これとは逆に、第4の処理例では、モータ状態量Maの変化に基づいて連結部CAの異常状態が判定される。そして、判定期間内に異常状態が判定されない場合に、連結部CAの正常状態が判定される。
【0092】
第4処理例では、判定期間は、「電気モータMAが正転方向に駆動される時点から、判定時間tmを経過するまでの間」として設定される。判定時間tmは、予め設定された所定値(定数)である。第4処理例に係る判定期間は、他の判定期間と区別するために、「回転角判定期間」とも称呼される。
【0093】
流体ポンプQA、及び、電気モータMAの回転方向について説明する。還流路HKには、逆止弁GAが設けられる。このため、流体ポンプQAは、一方向に限って回転することができるが、他方向(一方向とは反対方向)への回転は、逆止弁GAによって阻止される。換言すれば、流体ポンプQAの一方向は、流体ポンプQAが制動液BFを吐出できる方向であり、流体ポンプQAの他方向は、流体ポンプQAが制動液BFを吐出できない方向である。電気モータMAの回転方向において、正転方向は、流体ポンプQAの一方向に対応し、逆転方向は、流体ポンプQAの他方向に対応している。
【0094】
第4処理例では、適否判定用のモータ状態量Maとして、モータ回転角Ka(ゼロ点からの角変位)が採用される。第4処理例では、判定条件は、「判定期間の前の状態(即ち、電気モータMAが正転方向に駆動される前の状態)に対して、モータ回転角Kaが判定角kx以上に変化した状態が、継続時間tkに亘って継続されること」である。判定角kx、及び、継続時間tkは、予め設定された所定値(定数)である。継続時間tkは、ノイズ等の影響を排除するために設けられる。第4処理例に係る判定条件は、他の判定条件と区別するために、「第4判定条件」とも称呼される。第4判定条件が成立すると、連結部CAの異常状態が判定される。つまり、第4判定条件は、連結部CAの異常状態を判定する条件である。
【0095】
上述したように、差圧弁UA、及び、インレット弁VIが完全に閉弁されている場合には、連結部CAが正常であれば、電気モータMA、及び、流体ポンプQAは略回転できない。これに対し、判定期間前の状態からモータ回転角Kaが増加する場合には、電気モータMAが空回りしているか、或いは、連結部CAのガタ(遊び)が増加している状態である。従って、第4判定条件が満足される場合には、連結部CAの異常状態が判定される。連結部CAの異常が判定されると、報知装置WGに対して、報知信号Wgが出力され、運転者に対する報知が行われる。
【0096】
連結部CAにおける動力伝達では、モータ端部平面Mm、及び、ポンプ端部平面Mqのうちの少なくとも一方が摩耗し、それらの間のガタ(部材間の隙間)が、経時的に増加する場合がある。差圧弁UA、及び、インレット弁VIが共に閉弁される場合のモータ回転角Kaが、連結部CAのガタに相当する。第4の処理例では、モータ状態量Maとして、モータ回転角Kaが採用されるため、連結部CAにおけるガタの増大が判定され得る。
【0097】
≪第4処理例の変形例≫
上記の判定例では、判定期間の開始前のモータ回転角Kaが、モータ回転角Kaの基準となるゼロ点として設定された。更に、連結部CAのガタを、より正確に検出できるよう、判定モード駆動の前に、電気モータMAが、一旦逆転方向に駆動されるとよい。
【0098】
逆止弁GAによって、流体ポンプQAの他方向への回転は阻止されているので、電気モータMAの逆転方向に駆動されると、該逆転方向において、モータ端部平面Mmとポンプ端部平面Mqとの隙間(ガタ)がなくなる。判定期間前の電気モータMAの逆転駆動が「ガタ詰め駆動」と称呼される。
【0099】
変形例では、先ず、ガタ詰め駆動によって、連結部CAのガタ詰めが行われ、その際に発生した回転角Kaが、その変化に係るゼロ点(0)として設定される。そして、回転角判定期間において、該ゼロ点(0)から正転方向に生じたモータ回転角Kaに基づいて適否判定が実行される。具体的には、ガタ詰め駆動により設定されたゼロ点(0)を基準として、モータ回転角Ka(ゼロ点からの角変位)が所定角kx以上になる場合に、連結部CAの異常状態が判定される。変形例では、判定期間に先立って、連結部CAのガタ詰めが行われるので、より正確に、連結部CAの異常判定の精度が向上され得る。
【0100】
<第4処理例の動作>
図6の時系列線図を参照して、連結部CAの適否判定に係る第4の処理例の動作について説明する。
図6では、連結部CAの異常として、連結部CAにおけるガタが増大した状況が想定されている。
【0101】
図6(a)を参照して、電気モータMAが正転方向に限って駆動される判定方法について説明する。時点u1にて、インレット弁VI、及び、差圧弁UAが判定モードで駆動される。具体的には、インレット弁VIへの供給電流Ii(インレット弁電流)が増加され、インレット弁VIが完全に閉弁される。また、差圧弁UAへの供給電流Ia(差圧弁電流)が値ig(>ic)まで増加され、差圧弁UAも完全に閉弁される。
【0102】
時点u2にて、判定期間が開始され、電気モータMAが正転方向に駆動される。具体的には、電気モータMAへの供給電流Imが、所定電流ibにまで、徐々に増加される。所定電流ibは、電気モータMAの正転方向に対応する、予め設定された所定値(定数)である。なお、
図6では、電気モータMAの突入電流の表示は省略されている。
【0103】
連結部CAのガタが増大した場合(即ち、連結部CAの異常時)には、時点u2から、モータ電流Imの増加に従って、モータ回転角Kaがゼロ点(0)から増加する(破線で示す特性線ZIdを参照)。ここで、モータ回転角Kaの基準となるゼロ点(0)には、判定期間の開始前のモータ回転角Kaが採用されている。時点u3にて、ゼロ点(0)を基準とするモータ回転角Ka(即ち、ゼロ点からのモータ回転角Kaの変化量)が判定角kx以上となる。時点u3から、「Ka≧kx」の状態の時間カウントが開始される。時点u4にて、「Ka≧kx」の状態の維持時間が、継続時間tkに到達する。即ち、電気モータMAが正転方向に駆動される前の状態に対して、モータ回転角Kaが判定角kx以上に変化する状態が継続時間tk(予め設定された所定値)に亘って継続される。第4判定条件が満足されるので、時点u4にて、連結部CAの異常が判定される。
【0104】
連結部CAが正常である場合には、ガタは僅かであるため、判定期間の前の状態(即ち、時点u2以前の状態)から、モータ回転角Kaは増加しないか、或いは、僅かに増加する(実線で示す特性線ZSdを参照)。従って、判定期間内(時点u2から時点u5までの間)に、第4判定条件は満足されない。時点u5にて、連結部CAが正常であることが判定される。第4判定例でも、判定期間が終了すると、判定モード駆動は終了される。また、第4判定条件が満足される時点u4にて、判定モード駆動が終了されてもよい。
【0105】
≪変形例≫
図6(b)は、第4処理例の変形として、電気モータMAが一旦逆転方向(正転方向とは反対方向)に駆動された後に正転方向に駆動される場合を例示している。
図6(b)では、時点u7から時点u8までがガタ詰め駆動の期間であり、時点u9から時点u12までが判定期間である。
【0106】
変形例でも、先ず、時点u6にて、インレット弁VI、及び、差圧弁UAが閉弁される。その後、時点u7にて、ガタ詰め駆動が開始され、電気モータMAが逆転方向に駆動される。具体的には、電気モータMAへの供給電流Imが、所定電流idにまで徐々に増加される(モータ電流Imの負符号を考慮すると、所定電流idにまで徐々に減少される)。所定電流idは、電気モータMAの逆転方向に対応する、予め設定された所定値(定数)である。ガタ詰め駆動は、所定時間tnに亘って継続される。所定時間tnは、予め設定された所定値(定数)である。ガタ詰め駆動より、モータ端部平面Mmとポンプ端部平面Mqとの隙間がなくなる。
【0107】
ガタ詰め駆動により発生したモータ回転角Kaが、その基準となるゼロ点(0)に決定される。例えば、ガタが小さい場合には、ゼロ点(0)は値kaとなる。これに対し、ガタが大きい場合には、ゼロ点(0)は、値kbとなる。時点u8にて、ガタ詰め駆動が終了され、モータ電流Imが「0」にされる。
【0108】
時点u9から、モータ電流Imが、所定電流ibにまで、徐々に増加される。これにより、電気モータMAが正転方向に駆動され、モータ回転角Kaは徐々に増加する。電気モータMAの正転駆動が開始される時点u9が、回転角判定期間の始点とされる。時点u9から、判定時間tmに係る時間カウントが開始される。判定期間では、判定期間前のモータ回転角Kaを基準(ゼロ点)としたモータ回転角Kaに基づいて適否が判定される。
【0109】
連結部CAのガタが増大した場合(即ち、連結部CAの異常時)には、モータ電流Imの増加に従って、モータ回転角Kaがゼロ点(値kbの位置)から増加する(破線で示す特性線ZIeを参照)。時点u10にて、ゼロ点(値kb)を基準とするモータ回転角Ka(即ち、ゼロ点からのモータ回転角Kaの変化量)が判定角kx以上となる。時点u10から、「Ka≧kx」の状態の時間カウントが開始される。時点u11にて、「Ka≧kx」の状態が継続する時間が、継続時間tkに到達する。即ち、電気モータMAが正転方向に駆動される前の状態に対して、モータ回転角Kaが判定角kx以上に変化する状態が継続時間tk(予め設定された所定値)に亘って継続される。第4判定条件が満足されるので、時点u11にて、連結部CAの異常が判定される。
【0110】
連結部CAが正常である場合には、ガタは僅かである。このため、モータ回転角Kaは、ゼロ点(値kaの位置)から増加しないか、或いは、僅かに増加する程度である(実線で示す特性線ZSeを参照)。従って、判定期間内(時点u9~時点u12までの間)に、第4判定条件は満足されない。時点u12にて、連結部CAが正常であることが判定される。第4判定例でも、判定期間が終了すると、判定モード駆動は終了される。また、第4判定条件が満足される時点u11にて、判定モード駆動が終了されてもよい。
【0111】
変形例では、判定期間の前に、電気モータMAの逆転駆動によるガタ詰めが実行される。その後、電気モータMAが正転駆動されて、判定期間が開始される。判定期間では、ガタ詰め駆動によって設定されたモータ回転角Kaのゼロ点(0)が基準とされて、モータ回転角Kaの変化が監視される。電気モータMAのガタ詰め駆動により、モータ回転角Kaのゼロ点(0)が決定されるので、より正確に連結部CAのガタに起因する異常状態が判定され得る。
【0112】
上述した動作例では、ガタ詰め期間の前の時点u6にて、電磁弁UA、VIの閉弁が行われたが、これらの閉弁は、判定期間の開始時点u9の前に行われればよい。つまり、「電磁弁UA、VIの閉弁」→「ガタ詰め駆動」→「判定期間」の順でもよいが、「ガタ詰め駆動」→「電磁弁UA、VIの閉弁」→「判定期間」の順でもよい。これは、電気モータMAの逆転方向(流体ポンプQAの他方向に対応)の駆動は、逆止弁GAによって阻止されているためである。
【0113】
<制動制御装置SCの第2実施形態>
図7の概略図を参照して、制動制御装置SCの第2の実施形態について説明する。
図7には、制動制御装置SCを構成する流体ユニットHUとして、特開2019-059294号公報に記載される構成(特に、上部流体ユニットYUの調圧ユニットYC、及び、マスタシリンダCMから前輪ホイールシリンダCWiの一輪分)を模式化したものである。
【0114】
制動制御装置SCの第2の実施形態が適用される車両には、制動操作部材BPの操作量Ba(「制動操作量」という)を検出する制動操作量センサBAが設けられる。例えば、制動操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSPが設けられる。加えて、ストロークシミュレータSSの液圧Pz(「シミュレータ圧」という)を検出するシミュレータ圧センサPZが採用される。制動制御装置SCにおいては、制動操作量Baは、運転者の制動意志を表す信号の総称であり、制動操作量センサBAは、制動操作量Baを検出するセンサの総称である。制動操作量Baは、コントローラECUに入力される。
【0115】
制動制御装置SCには、ストロークシミュレータSS(単に、「シミュレータ」ともいう)が設けられる。シミュレータSSによって、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。制動制御装置SCは、ブレーキバイワイヤ型であるため、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spと操作力Fpとの関係)は、シミュレータSSによって発生される。シミュレータ圧Pzを検出するよう、シミュレータ圧センサPZが設けられる。なお、シミュレータ圧Pzは、制動操作部材BPの操作力Fpを表す状態量である。
【0116】
第1の実施形態に係る流体ユニットHUは、横滑り防止制御等を実行するための汎用ユニットであった。これに対し、制動制御装置SCの第2の実施形態は、ブレーキバイワイヤ型のサービスブレーキ用装置である。制動制御装置SCは、流体ユニットHU、及び、コントローラECUにて構成される。
【0117】
第2実施形態に係る流体ユニットHUは、サービスブレーキ(「常用ブレーキ」ともいう)のためのユニットである。流体ユニットHUによって、制動操作量Baに応じて、ホイールシリンダCWのホイール圧Pwが調整される。具体的には、ホイール圧Pwは、制動操作量Baが大きいほど、大きくなるように制御される。第1実施形態と同様に、第2実施形態でも、流体ユニットHUには、電気モータMA、流体ポンプQA、差圧弁UA、及び、インレット弁VIが含まれている。
【0118】
第1実施形態に対する相違点は、第2実施形態では、「流体ポンプQAがマスタリザーバRV(「大気圧リザーバ」ともいう)から制動液BFを吸引できること」、及び、「差圧弁UAによって調整された液圧Pu(「サーボ圧」という)が、制御シリンダCSと制御ピストンNSとを介して、ホイールシリンダCWに、ホイール圧Pwとして伝達されること」である。具体的には、第2実施形態において、液圧は、「Pu→Ps→Pw」の順で伝達される。上述したように、第1実施形態と同一の符号が付された構成要素は、同一機能であるため、主として、相違点について説明する。
【0119】
電気モータMAと流体ポンプQAとは、連結部CAを介して接続される。電気モータMAの動力は、連結部CAを介して流体ポンプQAに伝達される。電気モータMAには、回転子(ロータ)の回転角Kaを検出するよう、回転角センサKAが設けられる。コントローラECUでは、モータ回転角Kaに基づいて、モータ回転数Naが演算される。
【0120】
流体ポンプQAにおいて、吸入部Qiと吐出部Qoとは、還流路HKによって接続される。還流路HKには、常開型のリニア型電磁弁である差圧弁UAが設けられる。還流路HKの吐出部Qoの近傍には、逆止弁GAが設けられる。還流路HKは、差圧弁UAの下流側で、吸入部Qiの上流側の部位Br(差圧弁UAと吸入部Qiとの間の部位)にて、リザーバ路HR(流体路)を介して、マスタリザーバRVに接続される。また、還流路HKは、逆止弁GAの下流側で、差圧弁UAの上流側の部位Bs(流体ポンプQAと差圧弁UAとの間の部位)にて、サーボ路HV(流体路)を介して、制御シリンダCSのサーボ室Ruに接続される。
【0121】
制御シリンダCSには、制御ピストンNSが挿入される。制御シリンダCSの内部は、制御ピストンNSによって、2つの液圧室(「サーボ室Ru」及び「制御室Rs」という)に仕切られている。サーボ室Ruは、サーボ路HVに接続される。また、制御室Rsは、ホイール路HWを介して、ホイールシリンダCWに接続される。ホイール路HW(「出力圧Puからホイール圧Pwに至る液圧伝達経路」に相当)には、常開型のオン・オフ電磁弁であるインレット弁VIが設けられる。
【0122】
制動操作量Baが「0(ゼロ)」である場合(即ち、非制動時)には、流体ユニットHUは駆動されない。従って、差圧弁UA、電気モータMA、及び、インレット弁VIに電力が供給されない。制動時には、電気モータMAが駆動され、還流路HKには、破線矢印で示すように、「Qo→GA→UA→Qi」の循環流KNが発生される。差圧弁UAに給電が行われず、全開状態にある場合には、還流路HKにおいて、差圧弁UAに対して、上流側の液圧Pu(サーボ圧であり、「出力圧」に相当)と下流側の液圧(大気圧)とは等しい(即ち、「Pu=0」)。
【0123】
制動操作量Baの増加に応じて、差圧弁UAへの通電量Ia(供給電流)が増加されると、差圧弁UAの開弁量が減少される。これにより、差圧弁UAによって循環流KN(還流路HK内で循環する制動液BFの流れ)が絞られ、循環流KNの流れが阻害される。これにより、差圧弁UAの上流側の液圧Pu(サーボ圧)が大気圧から増加される。
【0124】
サーボ圧Puは、サーボ路HVを介して、サーボ室Ruに供給される。サーボ圧Puの増加によって、制御ピストンNSが前進方向(サーボ室Ruの体積が増加し、制御室Rsの体積が減少する方向)に押圧される。これにより、制御室Rs内の液圧Ps(「制御圧」という)が増加される。制御室Rsは、ホイール路HWを介して、ホイールシリンダCWに接続されているので、制御室Rsが、ホイール圧Pwとして、ホイールシリンダCWに供給される。なお、制動時(アンチロックブレーキ制御等の非実行時のサービスブレーキの場合)には、インレット弁VIへの給電は行われず、インレット弁VIは全開状態である。
【0125】
第2の実施形態に係る流体ユニットHUでは、流体ポンプQAが吐出する制動液BFの循環流KNが、差圧弁UAによって絞られることで、サーボ圧Puが発生される。サーボ圧Puは、制御シリンダCS内のサーボ室Ruに供給される。サーボ圧Puは、制御ピストンNSを介して、制御圧Psとして伝達される。そして、制御圧Psは、ホイール路HWを介して、ホイール圧PwとしてホイールシリンダCWに供給される。
【0126】
コントローラECUによって、流体ユニットHUが制御される。コントローラECUには、制動操作量Ba(Sp、Pz等)、及び、モータ回転角Kaが入力される。コントローラECUにて、制動操作量Baの信号に基づいて、サービスブレーキ制御が実行される。「サービスブレーキ制御」は、サービスブレーキの機能を実現するために、制動操作量Baに応じたホイール圧Pwの制御である。具体的には、コントローラECUによって、電気モータMAが駆動され、還流路HKに循環流KNが発生される。そして、差圧弁電流Iaは、制動操作量Baが大きいほど、大きくなるように調整される。これにより、サービスブレーキ制御では、制動操作量Baが大きいほど、サーボ圧Pu(結果、ホイール圧Pw)が大きくなるように制御される。コントローラECUでは、上記同様に、連結部CAの適否判定が実行される。
【0127】
<制動制御装置SCの第3実施形態>
図8の概略図を参照して、制動制御装置SCの第3の実施形態について説明する。
図8には、制動制御装置SCを構成する流体ユニットHUとして、特開2019-059294号公報に記載される構成(特に、上部流体ユニットYUの調圧ユニットYCから後輪ホイールシリンダCWkの一輪分)を模式化したものである。
【0128】
第2の実施形態と同様に、第3の実施形態に係る制動制御装置SCは、サービスブレーキのためのブレーキバイワイヤ型ユニットである。それらの相違点は、第2実施形態では、サーボ圧Puが制御シリンダCS、及び、制御ピストンNSを介してホイールシリンダCWに伝達されるのに対し、第3実施形態では、サーボ圧Puが直接ホイールシリンダCWに伝達される。具体的には、第3の実施形態では、還流路HKが、逆止弁GAの下流側で、差圧弁UAの上流側の部位Bs(流体ポンプQAと差圧弁UAとの間の部位)にて、ホイール路HWを介して、ホイールシリンダCWに接続される。これにより、サーボ圧Puが、ホイール圧Pwとして、ホイールシリンダCWに対して、直接供給される。第3の実施形態でも、上記同様に、コントローラECUでは、連結部CAの適否判定が実行される。
【0129】
<実施形態のまとめ>
以下、制動制御装置SCの実施形態についてまとめる。
制動制御装置SCは、電気モータMA、流体ポンプQA、差圧弁UA、インレット弁VI、及び、コントローラECUにて構成される。電気モータMA、及び、流体ポンプQAは、連結部CAによって連結(接合)される。電気モータMAの動力が、連結部CAを介して、流体ポンプQAに伝達されることで、流体ポンプQAが駆動される。流体路HK(還流路)が、流体ポンプAの吐出部Qoと流体ポンプQAの吸入部Qiとを接続するように設けられる。
【0130】
流体路HKには、逆止弁GAが設けられる。逆止弁GAによって、流体ポンプQAは一方向には回転可能であるが、他方向(一方向とは逆方向)には回転できない。回転方向において、流体ポンプQAの一方向は電気モータMAの正転方向に対応し、流体ポンプQAの他方向は電気モータMAの逆転方向に対応している。従って、連結部CAが正常であれば、逆止弁GAによって、電気モータMAは正転方向に回転できるが、正転方向とは反対の逆転方向には回転できない。
【0131】
流体路HKには、差圧弁UAが設けられる。例えば、差圧弁UAは、常開型のリニア電磁弁である。差圧弁UAによって、流体ポンプQAが吐出する制動液BFが出力圧Pq、Puに増加される。具体的には、第1実施形態では、調整圧Pqが出力圧に該当し、マスタ圧Pmが調整圧Pqにまで増加される。第2、第3実施形態では、サーボ圧Puが出力圧に該当し、大気圧がサーボ圧Puにまで増加される。そして、出力圧Pq、Puによって、ホイールシリンダCWのホイール圧Pwが増加される。
【0132】
インレット弁VI(例えば、常開型のオン・オフ電磁弁)が、出力圧Pq、Puからホイール圧Pwに至るまでの液圧伝達経路(HW等)に設けられる。具体的には、第1実施形態では、上記の液圧伝達経路は、差圧弁UAと流体ポンプQAとの間の部位BwとホイールシリンダCWとを接続するホイール路HWが該当する。第2実施形態では、上記の液圧伝達経路は、制御シリンダCSの制御室RsとホイールシリンダCWとを接続するホイール路HWが該当する。第3実施形態では、上記の液圧伝達経路は、差圧弁UAと流体ポンプQAとの間の部位BsとホイールシリンダCWとを接続するホイール路HWが該当する。つまり、上記の液圧伝達経路は、ホイールシリンダCWに接続されるホイール路HWが該当する。コントローラECUによって、電気モータMA、差圧弁UA、及び、インレット弁VIが駆動される。
【0133】
コントローラECUには、連結部CAが正常であるか異常であるかの適否判定を行うよう、適否判定ブロックBHが含まれる。コントローラECU(即ち、適否判定ブロックBH)での適否判定は、車両の停止時(即ち、「Vx=0」の場合)に実行される。例えば、適否判定は、イグニッションスイッチがオンされた場合に、制動制御装置SCの初期チェックとして実行される。或いは、車両のドアが開かれ、運転者が乗車する場合(例えば、カーテシスイッチがオンされた場合)に実行されてもよい。更に、適否判定は、リモート駐車制御等の自動駐車制御を含む自動走行の実行前に行われ得る。
【0134】
コントローラECUは、電気モータMAを駆動している状態で、差圧弁UAの開弁量を減少する場合に、電気モータMAに係る状態量Ma(モータ状態量)の変化に基づいて連結部CAが正常であるか否かの適否判定を行う。詳細には、電気モータMAの駆動が一定の状態(即ち、定常状態)で維持されている場合に、差圧弁UAの開弁量が減少される。その際の、モータ状態量Maの変化に基づいて連結部CAの正常が判定される。そして、連結部CAの正常が判定されない場合には、連結部CAの異常が判定される。
【0135】
コントローラECU(特に、第1処理例)は、電気モータMAの回転数Naを一定回転数naになるように制御している状態(即ち、定常駆動状態)で、差圧弁UAの開弁量を減少する場合に、電気モータMAの出力に相当する出力相当値Tmの変化(増加)に基づいて適否判定を実行する。具体的には、出力相当値Tmが判定しきい値ix以上になる場合に連結部CAは正常であることが判定される。一方、連結部CAの正常が判定されない場合には、連結部CAは異常であることが判定される。判定しきい値ixは、出力相当値Tmに対応する判定用のしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。連結部CAの正常時に、差圧弁UAの開弁量が減少されると、電気モータMAの負荷は増加する。電気モータMAでは、モータ回転数Naが所定回転数naで一定になるように制御されているため、負荷の増加に応じて、出力相当値Tmが増加するように、モータ電流Imが増加される。従って、出力相当値Tmが判定しきい値ix以上に増加する場合には、連結部CAの正常状態が判定される。
【0136】
コントローラECU(特に、第2処理例)は、電気モータMAに一定電流imを供給して、電気モータMAを駆動している状態(即ち、定常駆動状態)で、差圧弁UAの開弁量を減少する場合に、電気モータMAの回転数Naの変化(減少)に基づいて適否判定を実行する。具体的には、モータ回転数Naが判定回転数nx以下になる場合に連結部CAは正常であることが判定される。一方、連結部CAの正常が判定されない場合には、連結部CAは異常であることが判定される。判定回転数nxは、モータ回転数Naに対応する判定用のしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。連結部CAの正常時に、差圧弁UAの開弁量が減少されると、電気モータMAの負荷は増加する。電気モータMAに供給されるモータ電流Imは一定値imであるため、負荷の増加に応じて、モータ回転数Naは減少する。従って、モータ回転数Naが判定回転数nx以下に減少する場合には、連結部CAの正常状態が判定される。
【0137】
コントローラECU(特に、第3処理例)は、電気モータMAを駆動している状態で、差圧弁UAを完全に閉弁する場合に、電気モータMAの回転数Naの変化(減少)に基づいて適否判定を実行する。具体的には、モータ回転数Naが判定回転数nx以下になる場合に連結部CAは正常であることが判定される。一方、連結部CAの正常が判定されない場合には、連結部CAは異常であることが判定される。判定回転数nxは、モータ回転数Naに対応する判定用のしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。連結部CAの正常時に、差圧弁UAが全閉状態にされると、電気モータMAの負荷は増加し、モータ回転数Naは減少する。従って、モータ回転数Naが判定回転数nx以下に減少する場合には、連結部CAの正常状態が判定される。
【0138】
コントローラECU(特に、第4処理例)は、インレット弁VI、及び、差圧弁UAを閉弁した状態で、電気モータMAを正転方向に駆動する場合に、電気モータMAの回転角Kaの増加(詳細には、正転方向への増加)に基づいて適否判定を実行する。具体的には、電気モータMAを正転方向に駆動する前の状態に対して、モータ回転角Kaが判定角kx以上に変化する場合に連結部CAは異常であることが判定される。一方、連結部CAの異常が判定されない場合には、連結部CAは正常であることが判定される。判定角kxは、モータ回転角Kaに対応する判定用のしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。連結部CAの正常時に、差圧弁UA、及び、インレット弁VIが全閉状態にされると、電気モータMAは略回転できない状態にされる。従って、モータ回転角Kaが判定角kx以上に増加する場合には、連結部CAの異常状態が判定される。なお、電気モータMAが正転方向に駆動される前に、電気モータMAが正転方向とは反対の逆転方向に駆動されるとよい。電気モータMAの逆転駆動により、連結部CAのガタ詰めが行われ、判定精度が向上され得る。
【符号の説明】
【0139】
SC…制動制御装置、WG…報知装置、BP…制動操作部材(ブレーキペダル)、CM…マスタシリンダ、NM…マスタピストン、CW…ホイールシリンダ、CS…制御シリンダ、NS…制御ピストン、SS…ストロークシミュレータ、HU…流体ユニット、ECU…コントローラ(電子制御ユニット)、MA…電気モータ、QA…流体ポンプ、Qi…流体ポンプの吸入部、Qo…流体ポンプの吐出部、CA…連結部(カップリング、軸継手)、GA…逆止弁、UA…差圧弁、HK…還流路、HM…マスタ路、HW…ホイール路、HV…サーボ路、HR…リザーバ路、VI…インレット弁、VO…アウトレット弁、Pm…マスタ圧、Pq…調整圧(出力圧の一例)、Pw…ホイール圧、Pu…サーボ圧(出力圧の一例)、Ps…制御圧、Ba…制動操作量、Rm…マスタ室、Ru…サーボ室、Rs…制御室、Im…モータ電流、Tm…出力相当値(MAの出力に相当する値)、Ka…モータ回転角、Na…モータ回転数、ix…判定しきい値(適否判定用の所定値)、nx…判定回転数(適否判定用の所定値)、kx…判定角(適否判定用の所定値)。