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2023-163132含水堆積物の軟化方法及び含水堆積物用軟化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163132
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】含水堆積物の軟化方法及び含水堆積物用軟化剤
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20231101BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C02F11/00 Z
B09C1/08 ZAB
C02F11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038694
(22)【出願日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2022073165
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(74)【代理人】
【識別番号】100203242
【弁理士】
【氏名又は名称】河戸 春樹
(72)【発明者】
【氏名】小柳 幸司
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004CA34
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA09
4D004DA10
4D004DA20
4D059AA09
4D059BF15
4D059BF17
4D059DB08
4D059EB01
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】含水堆積物用軟化剤を含水堆積物の原位置で適用する、含水堆積物の軟化方法を提供する。
【解決手段】含水堆積物用軟化剤がヒドロキシ多価カルボン酸を含有し、含水堆積物の水の含有量が80質量%以上99.5質量%以下である、含水堆積物の軟化方法を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水堆積物用軟化剤を含水堆積物の原位置で適用する、含水堆積物の軟化方法であって、
含水堆積物用軟化剤がヒドロキシ多価カルボン酸を含有し、
含水堆積物の水の含有量が80質量%以上99.5質量%以下である、含水堆積物の軟化方法。
【請求項2】
前記含水堆積物用軟化剤を、含水堆積物の表面及び/または内部に適用する、請求項1に記載の含水堆積物の軟化方法。
【請求項3】
含水堆積物が、鉄バクテリアの代謝物を含む、請求項1又は2に記載の含水堆積物の軟化方法。
【請求項4】
ヒドロキシ多価カルボン酸が炭素数3以上8以下のヒドロキシ多価カルボン酸である、請求項1~3の何れか1項に記載の含水堆積物の軟化方法。
【請求項5】
ヒドロキシ多価カルボン酸が炭素数4以上6以下のヒドロキシ多価カルボン酸である、請求項1~3の何れか1項に記載の含水堆積物の軟化方法。
【請求項6】
ヒドロキシ多価カルボン酸が、一般式(1)で表されるヒドロキシ多価カルボン酸から選ばれる1種または2種以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の含水堆積物の軟化方法。
【化1】

[式中、nは0~3の整数を示す。点線はnが1のときは結合無しまたは単結合を示し、nが0、2または3のときは、結合無しを示す。点線が結合無しの場合、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、メチル基、水酸基または-R-COOH[Rは炭素数1~4のアルキレン基を示す。]で表されるカルボキシアルキル基を示す。点線が単結合の場合、RおよびRは無く、Rは、水素原子、メチル基、水酸基または-R-COOH[Rは炭素数1~4のアルキレン基を示す。]で表されるカルボキシアルキル基を示す。]
【請求項7】
ヒドロキシ多価カルボン酸が、クエン酸、リンゴ酸、及び酒石酸、から選ばれる1種または2種以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の含水堆積物の軟化方法。
【請求項8】
ヒドロキシ多価カルボン酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である、請求項1~7の何れか1項に記載の含水堆積物の軟化方法。
【請求項9】
含水堆積物用軟化剤の形態が固体である、請求項1~8の何れか1項に記載の含水堆積物の軟化方法。
【請求項10】
含水堆積物用軟化剤の粒径が5mm以上100mm以下である、請求項1~9の何れか1項に記載の含水堆積物の軟化方法。
【請求項11】
含水堆積物用軟化剤の密度が0.8g/cm以上1.5g/cm以下である、請求項1~10の何れか1項に記載の含水堆積物の軟化方法。
【請求項12】
ヒドロキシ多価カルボン酸を含有する、含水堆積物用軟化剤。
【請求項13】
ヒドロキシ多価カルボン酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である、請求項12に記載の含水堆積物用軟化剤。
【請求項14】
形態が固体である、請求項12又は13に記載の含水堆積物用軟化剤。
【請求項15】
粒径が5mm以上100mm以下である、請求項12~14の何れか1項に記載の含水堆積物用軟化剤。
【請求項16】
密度が0.8g/cm以上1.5g/cm以下である、請求項12~15の何れか1項に記載の含水堆積物用軟化剤。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水堆積物の軟化方法及び含水堆積物用軟化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
暗渠やトンネル内に生じる含水堆積物は水の流れを滞留させ、様々な問題の原因となる場合がある。例えば、バクテリアが生成する汚泥状の堆積物、特に鉄バクテリア汚泥は、これが大量に生成し堆積した場合、見た目が汚いだけでなく、車両通過時の風により堆積物の飛び散りや汚染を引き起こす。また、暗渠やトンネルに設置されている集水パイプや排水溝、排水管などの設備に鉄バクテリア汚泥が堆積した場合、排水が不十分となることで滞水や冠水が生じ、車両が通行できなくなる、レールや固定具などの金属部材が錆びる、といった問題が生じる。
【0003】
従来、バクテリアが生成する汚泥状の堆積物の抑制対策として、バクテリア自体を死滅させるための殺菌性を有する化合物を用いた組成物や、その組成物を固定するための装置などが知られている(特許文献1~4)。
【0004】
また、特許文献5には、シュウ酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、アスコルビン酸及びリンゴ酸からなる群から選ばれる2種以上の有機酸を有効成分として含有する高架水槽又は地下水槽の洗浄剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭48-2775号公報
【特許文献2】特開2001-219173号公報
【特許文献3】特開平11-246309号公報
【特許文献4】特開2007-021302号公報
【特許文献5】特開昭59-164398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
暗渠やトンネル内に生じる含水堆積物を定期的に除去するには、多大な時間と労力を要する。含水堆積物を機械的に除去する方法もあるが、作業場所まで機材や動力源、洗浄用の水を運搬する必要があるため、準備と作業に手間がかかる点は解消されず、また作業スペースや作業時間も限られる中での対応は困難であった。また、殺菌剤のような薬剤を使用してバクテリアを殺菌して含水堆積物の生成を抑制することもできるが、自然環境への影響からは、できるだけ殺菌剤のような化合物の使用は低減する方が望ましい。
【0007】
本発明は、簡易な手法で効果的に含水堆積物、中でも鉄バクテリア汚泥を軟化、例えば、容易に除去できるように軟化させることができ、且つ自然環境への負荷も小さい含水堆積物の軟化方法、及び含水堆積物用軟化剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、含水堆積物用軟化剤を含水堆積物の原位置で適用する、含水堆積物の軟化方法に関する。
【0009】
また、本発明は、前記軟化方法で用いるヒドロキシ多価カルボン酸を含有し、含水堆積物の水の含有量が80質量%以上99.5質量%以下である、軟化剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な手法で効果的に含水堆積物、中でも鉄バクテリア汚泥を軟化、例えば、容易に除去できるように軟化させることができ、且つ自然環境への負荷も小さい含水堆積物の軟化方法が提供される。また、前記軟化方法で用いるヒドロキシ多価カルボン酸を含有する含水堆積物用軟化剤が提供される。
【0011】
本発明の含水堆積物用の軟化方法(以下、軟化方法と略す)は、ヒドロキシ多価カルボン酸を含有する含水堆積物用軟化剤(以下、軟化剤と略す)により堆積した含水堆積物、中でも鉄バクテリア汚泥の凝集構造を破壊して、固体-水の分離を促進することにより分離した固体成分を容易に流動する状態とし、軟化剤を適用した後、例えば、水流やエネルギー負荷を低減した洗浄操作などにより、容易に流し去ることができるものである。それにより、排水の流れが滞ることで生じる滞水や、堆積物の飛び散りで車両、設備、トンネル内部等を汚染すること、レールや固定具などの金属部材が錆びること、を未然に防ぐことができる。本発明の軟化方法を用いると、含水堆積物が流動化しやすくなるとともに、堆積物粒子も分散しやすくなるので、排水溝や配管への再堆積も抑制され、効果的に自然界に戻すことができる。さらには、堆積物の回収、処理の手間をも削減することができる他、特に鉄バクテリアが生成する汚泥は、鉄分を豊富に含むため、水域の生物の栄養源となり好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の軟化方法が対象とする含水堆積物は、本発明の軟化剤の軟化効果、例えば、凝集構造破壊能、固体-水の分離能などが発現し得る物性、規模ものであってよい。例えば、河原の砂利や地層に代表される、動かすために大きな機械力を必要とするものや、元々高い流動性を有しているものは、本発明の対象とする含水堆積物からは除かれる。すなわち、本発明の対象とする含水堆積物は、本発明に係る軟化剤で固体-水が分離し、さらに流動化して除去できるものが対象である。本発明の軟化方法の対象となる含水堆積物の例として、汚泥が挙げられ、好ましくは有機物を含む汚泥が挙げられる。汚泥に含まれる有機物を含む汚泥としては、バクテリアなどの微生物の代謝に由来する鉄バクテリア汚泥、バイオフィルム、バイオマット、などの他、落ち葉や動植物の破片や腐敗物を含む汚泥などが例示され、それらの混合物であってもよい。また、汚泥として、砂、粘土、泥などの粒子を含む汚泥も挙げられる。有機物を含む汚泥の有機物は、流動性が低い汚泥である観点から、好ましくは酸化鉄及び水酸化鉄から選ばれる1種以上含む汚泥、より好ましくは鉄バクテリア汚泥である。酸化鉄及び水酸化鉄から選ばれる1種以上の汚泥中の含有量は、鉄換算で固形分中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下である。
【0013】
本発明の軟化方法は、ヒドロキシ多価カルボン酸を含有する軟化剤を、含水堆積物の原位置で適用する、含水堆積物の軟化方法である。また、本発明の軟化剤は、含水堆積物の原位置で適用し、固体-水分離を促進して含水堆積物を流動化して除去する、含水堆積物の除去方法に使用できる。軟化剤の適用は、含水堆積物の表面及び/又は内部で行われるのが好ましい。
【0014】
本発明の軟化方法における軟化剤の添加方法として、含水堆積物の表面に、固体状、例えば粒状の軟化剤をふりかける、含水堆積物の表面に錠剤状の軟化剤を置く、含水堆積物の内部に固体状、例えば粒状ないし粉末状の軟化剤を埋め込む、前含水堆積物の内部に錠剤状の軟化剤を埋め込む、等の方法が挙げられる。
【0015】
本発明の軟化方法が対象とする含水堆積物の水の含有量は、軟化効果の点で、含水堆積物中、80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは94質量%以上であり、そして、99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、更にこの好ましくは98質量%以下である。
【0016】
本発明の軟化方法が対象とする含水堆積物の固形分の含有量は、軟化効果の点で、含水堆積物中、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。なお、含水堆積物の固形分とは、水を蒸発させた際の残分をいう。
【0017】
本発明の軟化方法が対象とする含水堆積物は、鉄を含有するものであってよい。含水堆積物中の固形分中の鉄の含有量は、例えば、0.1質量%以上、更に1質量%以上、更に5質量%以上、そして、77質量%以下、更に60質量%以下、更に50質量%以下であってよい。含水堆積物中では、鉄は例えば、水酸化物や酸化物などの鉄化合物として存在する。本発明では、含水堆積物中の鉄の含有量は、元素として存在する鉄の量を示す。また、この鉄の含有量は、例えば、原子吸光光度法で測定することができる。
【0018】
本発明の軟化方法は、鉄バクテリアの代謝物を含む汚泥(以下、鉄バクテリア汚泥と略す)の軟化に好適である。鉄バクテリアの代謝物を含む汚泥は、鉄バクテリア(鉄酸化バクテリア、鉄酸化細菌、鉄細菌、などとも呼称される)が自身のエネルギーを得るため、2価の鉄イオン(Fe2+)を3価の鉄イオン(Fe3+)に酸化した後に、3価の鉄イオンから生じた水難溶性の鉄化合物(水酸化物、酸化物など)を含む堆積物であり、スライム、ゲル、バイオマット、褐色寒天状物質、赤水、赤泥、ソブ、などとも呼称される。つまり、鉄バクテリアの生命活動の結果、鉄バクテリアの代謝物を含む汚泥が生じている。
【0019】
本発明の鉄バクテリア汚泥の軟化方法における軟化剤の添加方法の一例として、トンネル内に発生した鉄バクテリア汚泥の表面に、固体状、例えば粒状の軟化剤をふりかける、前記鉄バクテリア汚泥の表面に錠剤状の軟化剤を置く、前記鉄バクテリア汚泥の内部に固体状、例えば粒状ないし粉末状の軟化剤を埋め込む、前記鉄バクテリア汚泥の内部に錠剤状の軟化剤を埋め込む、等の方法が挙げられる。
【0020】
本発明の軟化剤は、有効成分として、ヒドロキシ多価カルボン酸を含有する。ヒドロキシ多価カルボン酸としては、例えば、1つまたは2つ以上の水酸基と2つ以上のカルボキシル基を有する化合物が挙げられる。
ヒドロキシ多価カルボン酸としては、炭素数3以上、更に4以上、そして、8以下、更に6以下のヒドロキシ多価カルボン酸が挙げられる。
ヒドロキシ多価カルボン酸としては、軟化効果が高い点で、炭素数3以上8以下のヒドロキシ多価カルボン酸が好ましい。
ヒドロキシ多価カルボン酸のヒドロキシ基の数は、1以上であり、そして、軟化効果が高い点で、好ましくは4以下、より好ましくは2以下である。
ヒドロキシ多価カルボン酸のカルボキシ基の数は、2以上であり、そして、軟化効果が高い点で、好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。
【0021】
本発明では、ヒドロキシ多価カルボン酸は、カルボキシル基が全て酸型である化合物で用いることが好ましい。また、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたはアンモニウムイオン等でカルボキシル基の一部が塩となった化合物を用いてもよい。
【0022】
ヒドロキシ多価カルボン酸としては、下記一般式(1)で表されるヒドロキシ多価カルボン酸が挙げられる。
【0023】
【化1】

[式中、nは0~3の整数を示す。点線はnが1のときは結合無しまたは単結合を示し、nが0、2または3のときは、結合無しを示す。点線が結合無しの場合、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、メチル基、水酸基または-R-COOH[Rは炭素数1~4のアルキレン基を示す。]で表されるカルボキシアルキル基を示す。点線が単結合の場合、RおよびRは無く、Rは、水素原子、メチル基、水酸基または-R-COOH[Rは炭素数1~4のアルキレン基を示す。]で表されるカルボキシアルキル基を示す。]
【0024】
ヒドロキシ多価カルボン酸としては、具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、2-ヒドロキシクエン酸、2-メチルクエン酸、イソクエン酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、タルトロン酸、2-メチルタルトロン酸、ヒドロキシフマル酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシメタントリカルボン酸、アルダル酸及びその異性体等が例示できる。なお、これらの水和物を用いることができる。
【0025】
ヒドロキシ多価カルボン酸としては、軟化効果が高い点で、クエン酸、リンゴ酸、及び酒石酸、から選ばれる1種または2種以上が好ましい。
【0026】
なお、例示したヒドロキシ多価カルボン酸のうち、不斉炭素を含むものについては、光学異性体単独で用いることができるし混合物で用いることもできる。入手容易かつ経済性の観点から混合物が好ましい。
【0027】
本発明の軟化剤中のヒドロキシ多価カルボン酸の含有量は、軟化効果の点で、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、そして、100質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。また、当該含有量は100質量%であってもよい。すなわち、本発明の軟化剤は、ヒドロキシ多価カルボン酸からなるものであってよい。
【0028】
本発明の軟化剤の形態は特に限定されないが、固体であることが好ましい。具体的には、粉末状、粒状、顆粒状、及び、ペレット、ロッド等の錠剤状等の形態が挙げられる。
【0029】
本発明の軟化剤は、必要に応じて適当な添加剤(賦形剤等)を加えて成形してもよく、また成形後に粉砕、篩分けのような操作を行ってもよい。成形する際の賦形剤としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、セルロース類等の親水性の高分子や寒天、ゼラチン等の天然由来の高分子を用いることができる。また、水溶性ないし水解性のフィルムや紙などに包んで用いてもよい。
【0030】
軟化剤製造の効率や使用時の利便性の点で、粒状が好ましい。粒径の測定はノギスで最大径を測定することができる。粒径としては好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm以上、さらに好ましくは20mm以上であり、そして、好ましくは100mm以下、より好ましくは90mm以下、さらに好ましくは80mm以下である。
【0031】
また、使用時の利便性の点で、軟化剤の密度は、好ましくは0.8g/cm以上、より好ましくは0.9g/cm以上、さらに好ましくは1.0g/cm以上であり、そして、好ましくは1.5g/cm以下、より好ましくは1.3g/cm以下、さらに好ましくは1.1g/cm以下である。投入後自然に堆積物に埋没するために、1.0g/cm以上であることが好ましい。
【0032】
本発明の軟化剤は、炭酸塩及び炭酸水素塩から選ばれる1種以上の化合物を含んでいてもよい。また、炭酸塩への過酸化水素付加物(過炭酸塩)を用いることもできる。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム等を用いることができる。これらは単独で使用しても併用しても良い。
【0033】
炭酸塩及び炭酸水素塩から選ばれる1種以上の化合物を用いる場合、軟化剤中の該化合物の含有量は5質量%以下が好ましい。
【0034】
本発明の軟化剤が含有し得るその他の任意成分としては、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩、着色剤、防腐剤、防錆剤、香料、殺菌剤、殺鼠剤、誤食防止のための苦み剤などが例示される。これらの含有量は、成分により適宜設定できるが、例えば、軟化剤100質量部に対して、0.1以上、そして、200質量部以下、更に100質量部以下、更に50質量部以下、更に20質量部以下から選択することができる。
【0035】
本発明の軟化剤の使用量は、特に限定されないが、含水堆積物の厚さ、硬さ、水分量、除去したいレベルなどに応じて適宜調整できる。例えば、含水堆積物1L当たりの本発明の軟化剤の使用量は1g以上、さらに5g以上、さらに10g以上、そして、300g以下、さらに200g以下、さらに100g以下であってよい。
【0036】
本発明の軟化剤は、含水堆積物に接触した状態で堆積物の凝集構造を破壊して固体-液体の分離を促進し、残留した固体成分を軟化させて流動化する。本発明の軟化剤を適用させた後は、含水堆積物に水を適用する、例えば周囲環境に存在する水、例えば、漏水、湧水、排水などにより、あるいは、簡易な操作を行うことにより、容易に堆積箇所から流し去ることが可能である。
【実施例0037】
<含水堆積物>
以下の2種類の含水堆積物を用いた。
1.和歌山県和歌山市某所のため池から採取した含水堆積物である。この堆積物は、水分が高く鉄分も含有しており、その性状は鉄バクテリア汚泥に近いものであった。除去試験(実施例1~4、比較例1~16)は、これをモデル汚泥として用いた。
2.鉄バクテリア汚泥として、大阪府阪南市某所の用水路に生成していた含水堆積物を用いた。除去試験(実施例5~8)は現地にて、含水堆積物そのものに対して行った。
表1に各含水堆積物の外観、性状及び水、固形分、鉄の含有量を示した。なお、固形分の含有量は、堆積物を105℃で2時間乾燥させた際の残留分量から求めたものであり、蒸発して失われた分を水の含有量とした。
鉄の含有量は原子吸光光度法で分析した。測定装置は、アジレント・テクノロジー株式会社製AA240FSを用いた。サンプルは、105℃で2時間乾燥させ水分を除いた後、硝酸による前処理(溶解)を行い、測定に用いた。
【0038】
【表1】
【0039】
<軟化剤の製造と成形>
軟化剤の調製に用いた試薬は、全てFUJIFILM和光株式会社製の試薬を精製せずに用いた。
各種酸(またはその塩)100質量部に対して6質量部のPEG400及び場合によって炭酸ナトリウムを十分に混合し、得られた粉体状軟化剤40gをおにぎりの型(一辺45mmの角が丸い正三角形様、最大径37mm)に詰めて0.5MPaの圧力をかけて圧縮成形した。圧縮成形後の軟化剤の厚みは34mmであった。
モデル汚泥を用いた除去試験(実施例1~4、比較例1~12)では、これを破砕した後、篩に通し5±2mmに大きさを揃えて用いた。比較例13~16の軟化剤は、用いた酸が液体または水溶液であるため、PEG400を添加せず、液体のまま用いた。
鉄バクテリア汚泥の除去試験(実施例5~8)では、圧縮成形したものをそのまま用いた。
【0040】
【表2】
【0041】
<モデル汚泥を用いた除去試験>
透明アクリル容器(内寸 幅50mm×長さ750mm×高さ60mm)を傾け、端部に300mLのモデル汚泥を静かに流し込み、その後、容器を静かに水平に戻すことで、モデル汚泥に約13°の傾斜が付いた状態を作った。その汚泥に、端部から約10~60mmの位置に表2の破砕した各軟化剤10gをガラス棒で静かに押して、軟化剤が埋まった状態になるように設置した。このときの時間を0分、汚泥の先端部を0cmとした。その後、モデル汚泥が軟化されて自重により透明アクリル容器中を流動していく変化を観察し、30分後の状態、分離して流動した汚泥及び水の先端部までの長さを計測し、固形物の軟化の指標として汚泥の流動距離(i)、水の流動距離(ii)とした。さらに、固形物と水の分離の程度の指標として(ii)-(i)を算出し、表2に示した。
流動距離(i)が大きいほど軟化の程度が大きく、(ii)-(i)が大きいほど汚泥と水が分離し易いといえる。軟化の程度が大きく汚泥と水が分離しにくいほど、例えば、流水により汚泥を洗い流すことが容易になる。一方、軟化の程度が大きく汚泥と水が分離し易くなると、例えば、流動化された汚泥の濃縮が容易になる。
【0042】
表2の実施例1~4に示したように、クエン酸、リンゴ酸及び酒石酸を含む軟化剤を用いると、固形物と水が良好に分離((ii)-(i)が10~35cm)し、かつ、汚泥先端も15~20cm移動し、軟化していることがわかった。一方、実施例で良好な性能を示したクエン酸及び酒石酸のナトリウムまたはカリウムの塩を用いると、汚泥の軟化が不十分であった。水酸基をもたないコハク酸(比較例4及び5)、フマル酸(比較例6)、グルタミン酸(比較例9)、グリシン(比較例10)、酢酸(比較例16)も同様に汚泥の軟化不十分であり、比較例4、5、6、9、10では水との分離も不十分であった。多価カルボン酸ではないサリチル酸(比較例7)、グルコン酸(比較例14)、乳酸(比較例15)でも汚泥の軟化は不十分であった。ラクトン構造のアスコルビン酸(比較例8)も汚泥の軟化、水との分離共に不十分であった。カルボン酸ではなく水酸基をもたないスルファミン酸(比較例11)、ポリリン酸(比較例12)、リン酸(比較例13)は水との分離は良好であるが、軟化が不十分であった。なお、液体の軟化剤である比較例13~16は水の流動距離は長いが、軟化剤そのものが流動している可能性がある。
【0043】
<鉄バクテリア汚泥の除去試験>
実施例5:
大阪府阪南市某所の、水路の底に生じていた鉄バクテリア汚泥(縦:約40cm、幅:約10cm、中央部の厚み:約3cm)に、表1の実施例1の組成を有する軟化剤40gを静かに押して、軟化剤の下半分が埋まった状態になるように設置し、放置した。30分後に確認すると、汚泥が軟化されたことにより、自重により流動して広がっており、軟化剤投入部の鉄バクテリア汚泥の厚みは0.5cmにまで減少していた。
【0044】
実施例6:
大阪府阪南市某所の、水路の底に生じていた鉄バクテリア汚泥(縦:約40cm、幅:約10cm、中央部の厚み:約3cm)に、表1の実施例2の組成を有する軟化剤40gを静かに押して、軟化剤の下半分が埋まった状態になるように設置し、放置した。30分後に確認すると、汚泥が30分後に確認すると、汚泥が軟化されたことにより、自重により流動して広がっており、軟化剤投入部の鉄バクテリア汚泥の厚みは1.0cmにまで減少していた。
【0045】
実施例7:
大阪府阪南市某所の、水路の底に生じていた鉄バクテリア汚泥(縦:約40cm、幅:約10cm、中央部の厚み:約3cm)に、表1の実施例3の組成を有する軟化剤40gを静かに押して、軟化剤の下半分が埋まった状態になるように設置し、放置した。30分後に確認すると、汚泥が30分後に確認すると、汚泥が軟化されたことにより、自重により流動して広がっており、軟化剤投入部の鉄バクテリア汚泥の厚みは0.8cmにまで減少していた。
【0046】
実施例8:
大阪府阪南市某所の、水路の底に生じていた鉄バクテリア汚泥(縦:約40cm、幅:約10cm、中央部の厚み:約3cm)に、表1の実施例4の組成を有する軟化剤40gを静かに押して、軟化剤の下半分が埋まった状態になるように設置し、放置した。30分後に確認すると、汚泥が30分後に確認すると、汚泥が軟化されたことにより、自重により流動して広がっており、軟化剤投入部の鉄バクテリア汚泥の厚みは0.7cmにまで減少していた。