(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163143
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】自転車用無段変速機に備わるベルト機構
(51)【国際特許分類】
B62M 9/08 20060101AFI20231101BHJP
F16H 9/04 20060101ALI20231101BHJP
F16G 5/00 20060101ALI20231101BHJP
F16G 5/06 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B62M9/08 A
F16H9/04
F16G5/00 Z
F16G5/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065626
(22)【出願日】2023-04-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022073123
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】柳原 一仁
(72)【発明者】
【氏名】高野 啓二
【テーマコード(参考)】
3J050
【Fターム(参考)】
3J050AA02
3J050BA02
3J050CD06
3J050CE01
(57)【要約】
【課題】コンパクトに形成されるとともに、LT係数が過大な使用条件下にあっても、スリップを抑制し、必要な伝達力を確保することができる、自転車用無段変速機に備わるベルト機構を提供する。
【解決手段】回転軸方向に近接離間自在な一対の固定シーブ21及び可動シーブ22から構成された、駆動プーリ2、および、回転軸方向に近接離間自在な一対の固定シーブ31及び可動シーブ32から構成された、従動プーリ3と、駆動プーリ2と従動プーリ3との間に巻き掛けられるVベルト4とを有する、自転車用無段変速機に備わるベルト機構1であって、最も低速側に変速された状態で最大トルクとなる使用条件での、Vベルト4の駆動プーリ2に対するLT係数が8~12の範囲であり、Vベルト4は、ライドアウト変化測定試験におけるベルト横剛性が1500~2500N/mmの範囲にある。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸方向に近接離間自在な一対のシーブから構成された、駆動プーリおよび従動プーリと、
前記駆動プーリおよび前記従動プーリとの間に巻き掛けられるVベルトと、を有する、自転車用無段変速機に備わるベルト機構であって、
最も低速側に変速された状態で最大トルクとなる使用条件での、前記Vベルトの前記駆動プーリに対するLT係数が8~12の範囲であり、
前記Vベルトは、ライドアウト変化測定試験における、ベルト横剛性が1500~2500N/mmの範囲である、自転車用無段変速機に備わるベルト機構。
【請求項2】
前記駆動プーリの最小ピッチ径は、40~45mmの範囲であり、
前記Vベルトのベルト厚みは、7~8mmの範囲である、請求項1に記載の自転車用無段変速機に備わるベルト機構。
【請求項3】
補助動力源付自転車の前記補助動力源に連結される無段変速機に搭載される、請求項1又は2に記載の自転車用無段変速機に備わるベルト機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用無段変速機に備わるベルト機構に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦伝動により動力を伝達するVベルトには、摩擦伝動面(V字状側面)が露出したゴム層であるローエッジ(Raw-Edge)タイプ(ローエッジVベルト)と、摩擦伝動面がカバー布で覆われたラップド(Wrapped)タイプ(ラップドVベルト)とがあり、摩擦伝動面の表面性状(ゴム層とカバー布との摩擦係数)の違いから用途に応じて使い分けられている。
【0003】
また、ローエッジタイプのベルトには、コグを設けないローエッジVベルトの他、ベルトの下面(内周面)のみにコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルトや、ベルトの下面(内周面)および上面(外周面)の両方にコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルト(ローエッジダブルコグドVベルト)がある。
【0004】
ローエッジVベルトやローエッジコグドVベルトは、主として、一般産業機械、農業機械の駆動、自動車エンジンでの補機駆動などに用いられる。また、他の用途として自動二輪車、スノーモービル、四輪バギーなどのベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)に用いられる変速ベルトと呼ばれるローエッジコグドVベルトがある。以下、このローエッジコグドVベルトをVベルト(又は変速ベルト)と表記する。
【0005】
図1に示すように、ベルト式無段変速機に備わるベルト機構30は、駆動プーリ31と従動プーリ32にVベルト1を巻き掛けて、変速比を無段階で変化させる機構である。各プーリ31、32は、軸方向への移動が規制又は固定された固定シーブ31a、32aと、軸方向に移動可能な可動シーブ31b、32bとを備えており、固定シーブ31a、32aの内周壁と可動シーブ31b、32bの内周壁とでV溝状の傾斜対向面を形成している。駆動プーリ31及び従動プーリ32は、これらの固定シーブ31a、32aと可動シーブ31b、32bとで形成される、駆動プーリ31及び従動プーリ32のV溝の幅を連続的に変更できる構造を有している。Vベルト1の幅方向の両端面は、駆動プーリ31及び従動プーリ32のV溝状の傾斜対向面に対応して傾斜が合致するテーパ面で形成され、変更されたV溝の幅に応じて、V溝の対向面における任意の上下方向の位置に嵌まり込む。例えば、駆動プーリ31のV溝の幅を狭く、従動プーリ32のV溝の幅を広くすることにより、
図1の(a)に示す状態から
図1の(b)に示す状態に変更すると、Vベルト1は、駆動プーリ31側ではV溝の上方へ、従動プーリ32側ではV溝の下方へ移動し、駆動プーリ31及び従動プーリ32への巻き掛け径が連続的に変化して、変速比を無段階で変化できる。
【0006】
上述の自動二輪車(スクータ)用のベルト式無段変速機に搭載されるベルト機構(特にはVベルト)に関する技術は、これまで数多く開示されているが、自転車(電動モータなどの補助動力源付き自転車を含む)用のベルト式無段変速機に搭載されるベルト機構に関する技術は、これまでに提案されている事例(例えば、特許文献1、2)は少ない。
【0007】
例えば、特許文献2に記載の、自転車用のベルト式無段変速機に備わるベルト機構(例えば、
図2A)は、詳細は省略するが、先端部にペダルを備えるクランクの回転軸に、ギヤ機構(入力増幅手段7510:
図13B参照)等を介して連結される駆動プーリ(入力手段1100)と、後輪の駆動軸に、ギヤ機構(出力増幅手段7400:
図13B参照)ならびにチェーンを介して連結される従動プーリ(出力手段1300)と、駆動プーリ及び従動プーリに巻き掛けられるVベルト(伝動手段1200)とを備える。当該ベルト機構に付帯する上記ギヤ機構は、当該ベルト機構による無段変速が安定して作動し易くするために駆動プーリ及び従動プーリをより増速状態に維持するもので、クランク軸の回転数が自転車の場合(例えば60~80rpm程度)よりも顕著に高く維持される自動二輪車(スクータ)のベルト式無段変速機には必要なく、自転車用途に特化した構成と云える。
【0008】
このように、自転車用のベルト式無段変速機は、最近になってようやく、特許文献2に記載の、ベルト機構(駆動プーリ、従動プーリ、及びVベルトの構成)及びこれに付帯する他の機構(増速ギヤ機構など)を備えることによって、ペダルの踏力を効率良く自転車の推力に変換できる(例えば、自転車の速度に関わらずペダルの回転数を極力一定に維持できる)機能を有する製品化の提案がなされてきた。しかし、特許文献1、2等の先行文献には、ベルト機構(駆動プーリ、従動プーリ、及びVベルト)を使った自転車用の無段変速機が記載されているにすぎず、当該変速機に好適なベルト機構(特にはVベルト)に関する詳細な設計技術は検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-278668号公報
【特許文献2】特表2019-503923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、自転車用の無段変速機に備わるベルト機構(特にはVベルト)に関し、その前提となる使用条件に適用できるベルト機構の詳細な設計を検討したところ、以下の課題が生じた。
【0011】
(自転車に無段変速機を適応する場合に前提となる使用条件)
・条件1
小型スクータ(排気量50~125cc)に比べ、自転車ではベルト式無段変速機を搭載するのにスペース面および重量面の制約が大きいことから、上記機能の確保のみならず、例えば、特許文献2(
図15の符号8000)に記載のように、当該変速機が充分にコンパクト(小型、軽量)であることが求められる。そのため、当該変速機に備わるベルト機構の各構成においても、下記のような制限を受ける。
【0012】
(1)プーリ(最小ピッチ径)を小径にする
例えば、小型スクータの場合の最小ピッチ径が40~55mm程度であるのに対し、40~45mm程度と下限寄りの範囲に制限される。
(2)上記(1)の小径プーリにベルトを巻き付けるためにベルト厚みを薄くする
例えば、小型スクータの場合のベルト厚みが7~12mm程度であるのに対し、7~9mm程度と下限寄りの範囲に制限される。
【0013】
・条件2
自転車の場合、主動力がペダルの踏力であり、小型スクータと比べ、ペダル回転数(例えば、60~80rpm程度)が低く、たとえ増速ギヤ機構で増速しても2000rpm程度であるため、最大トルク(変速ベルト機構の駆動軸に入力されるトルクの最大値)が比較的大きい(例えば、小型スクータが3~12Nm程度であるのに対し、自転車は10Nm程度と比較的大きい)。
【0014】
すなわち、自転車用ベルト式無段変速機に備わる変速ベルト機構において、駆動プーリのピッチ径(後述の定義参照)が最小(例えば40~45mm程度)となる変速条件下(
図2のプーリレイアウト)において、小型スクータの場合と比べて、最大トルクの大きさに対して、プーリピッチ径(最小ピッチ径)が小さく、しかも、ベルト厚みが薄い、と云える。
【0015】
(この使用条件に適応するための課題)
したがって、当該変速条件下において、小型スクータと比べても、駆動プーリへのベルトの、巻き付き角度(接触角)および巻き付き長さが小さくなり、駆動プーリ(V溝)とベルト(V字状側面)との間の接触面積(摩擦伝動面の面積)が顕著に小さくなるため、摩擦伝動が厳しい状態、即ち、駆動プーリとベルトとの間でスリップが極めて発生し易い状態となる。
【0016】
換言すると、自転車用ベルト式無段変速機に備わる変速ベルト機構においては、ベルトのスリップのし易さを表す一指標(代用特性)として後述の式で定義されるLT(Limit Torque)係数が過大となり、駆動プーリのピッチ径が最小となる変速条件下で、摩擦伝動能力が不足して、駆動プーリとベルトとの間のスリップが極めて誘発し易いといった、過酷な使用条件下(プーリレイアウトや負荷)に置かれることを意味する。
例えば、小型スクータの場合のLT係数が4~8程度であるのに対し、自転車の場合8~12程度と、小型スクータの実績範囲を超えている。
【0017】
そこで、本発明は、コンパクトに形成されるとともに、LT係数が過大な使用条件下にあっても、スリップを抑制し、必要な伝達力を確保することができる、自転車用無段変速機に備わるベルト機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、回転軸方向に近接離間自在な一対のシーブから構成された、駆動プーリおよび従動プーリと、
前記駆動プーリおよび前記従動プーリとの間に巻き掛けられるVベルトと、を有する、自転車用無段変速機に備わるベルト機構であって、
最も低速側に変速された状態で最大トルクとなる使用条件での、前記Vベルトの前記駆動プーリに対するLT係数が8~12の範囲であり、
前記Vベルトは、ライドアウト変化測定試験における、ベルト横剛性が1500~2500N/mmの範囲であることを特徴としている。
【0019】
上記構成によれば、自転車用無段変速機に備わるベルト機構において、小型スクータの場合(LT係数が4~8程度)と比べても、コンパクトに形成され、『ベルトのスリップのし易さ』を表す一指標(代用特性)であるLT係数が8~12と過大であり、駆動プーリのピッチ径が最小となる変速条件下で、摩擦伝動能力が不足して、駆動プーリとVベルトとの間のスリップが極めて誘発し易いといった、過酷な使用条件下(プーリレイアウトや負荷)にあっても、耐側圧性、即ち『軸荷重(側圧)に対する座屈変形のしにくさ』(ライドアウト変化量の大小)を表す一指標(代用特性)であるベルト横剛性(Vベルトの幅方向の剛性)が1500~2500N/mmと、小型スクータの場合(ベルト横剛性が300~1500N/mm程度)と比べても、十分に高い水準に確保されることで、側圧によるベルトの座屈変形(ライドアウト変化量)を最小限(合格レベル)の水準に抑制でき、その結果、スリップが抑制され、必要な伝達力(例えばスリップ率5%以下)を確保することができる。
【0020】
また、本発明は、上記自転車用無段変速機に備わるベルト機構において、
前記駆動プーリの最小ピッチ径は、40~45mmの範囲であり、
前記Vベルトのベルト厚みは、7~8mmの範囲であることを特徴としてもよい。
【0021】
上記構成によれば、自転車用無段変速機に備わるベルト機構を、充分にコンパクトに形成しつつ、LT係数が8~12となる過酷な使用条件下(プーリレイアウトや負荷)にあっても、ベルト横剛性を所定の水準(1500~2500N/mm)にすることができる。
【0022】
また、本発明は、上記自転車用無段変速機に備わるベルト機構が、補助動力源付自転車の前記補助動力源に連結される無段変速機に搭載されることを特徴としてもよい。
【0023】
上記構成によれば、補助動力源(電動モータなど)を有しない自転車に無段変速機が搭載される場合と比較し、補助動力源(電動モータなど)を有する自転車に無段変速機が搭載される場合の方がスペース面および重量面の制約が大きい分、無段変速機に備わるベルト機構をコンパクトに形成する効果をより高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
コンパクトに形成されるとともに、LT係数が過大な使用条件下にあっても、スリップを抑制し、必要な伝達力を確保することができる、自転車用無段変速機に備わるベルト機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一般的な無段変速機に備わるベルト機構の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の、自転車用無段変速機に備わるベルト機構の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の、自転車用無段変速機に備わるベルト機構を構成するVベルトの一例を示す、ベルト幅方向断面斜視図である。
【
図4】
図3に示すVベルトの長手方向断面図である。
【
図5】ライドアウト変化測定試験の方法(プーリレイアウト)を説明するための概略図である。
【
図6】ライドアウト変化測定試験の方法(ライドアウト変化量)を説明するための概略図である。
【
図7】伝達性能(スリップ率)測定試験に使用する2軸走行試験機の説明図である。
【
図8】耐久性能試験に使用する2軸走行試験機の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施形態)
以下、図面に基づき、本発明の自転車用無段変速機に備わるベルト機構の実施形態の一例を説明する。
【0027】
(ベルト機構1)
図2に示すように、自転車用のベルト式無段変速機に備わるベルト機構1は、小型スクータの場合と同様、駆動プーリ2、従動プーリ3、およびVベルト4(ローエッジコグドVベルト)を有し、駆動プーリ2および従動プーリ3にVベルト4を巻き掛けて、変速比を無段階で変化させる構成を有している。
【0028】
駆動プーリ2は、回転軸方向へ移動不能な固定シーブ21と、回転軸方向へ移動可能(近接離間自在)な可動シーブ22とを備えている(一対のシーブに相当)。固定シーブ21の内周壁と可動シーブ22の内周壁とでV溝状の傾斜対向面(V溝23)を形成している。
駆動プーリ2は、固定シーブ21と可動シーブ22とで形成される駆動プーリ2のV溝23の幅を連続的に変更できる構造を有している。
【0029】
従動プーリ3も、回転軸方向へ移動不能な固定シーブ31と、回転軸方向へ移動可能(近接離間自在)な可動シーブ32とを備えている(一対のシーブに相当)。固定シーブ31の内周壁と可動シーブ32の内周壁とでV溝状の傾斜対向面(V溝33)を形成している。
従動プーリ3は、固定シーブ31と可動シーブ32とで形成される従動プーリ3のV溝33の幅を連続的に変更できる構造を有している。
【0030】
Vベルト4の幅方向の両端面は、駆動プーリ2のV溝23及び従動プーリ3のV溝33に対応して傾斜が合致するテーパ面4Aで形成され、変更されたV溝23の幅・V溝33の幅に応じて、V溝23・V溝33の対向面における任意の上下方向の位置に嵌まり込む。
例えば、駆動プーリ2のV溝23の幅を広く、従動プーリ3のV溝33の幅を狭くすることにより、
図2の二点鎖線に示す状態から
図2の実線に示す状態に変更すると(各プーリの可動シーブ22・可動シーブ32が
図2中の矢印方向に移動すると)、Vベルト4は、駆動プーリ2側ではV溝23の径方向内側(下方)へ、従動プーリ3側ではV溝33の径方向外側(上方)へ移動し、駆動プーリ2及び従動プーリ3への巻き掛け径(ピッチ径)が連続的に変化して、変速比を無段階で変化できる。
【0031】
このような用途に用いる変速ベルトは、Vベルト4が大きく屈曲するとともに高負荷での過酷なレイアウトで用いられる。すなわち、駆動プーリ2と従動プーリ3との二軸間の巻き掛け回転走行だけでなく、プーリ半径方向への移動、巻き掛け半径の連続的変化による繰り返される屈曲動作など、高負荷環境での過酷な動きに耐用すべく特異的な設計がなされている。
【0032】
駆動プーリ2及び従動プーリ3は、詳細は省略するが、可動シーブ22・32の背面側に位置する公知のカム機構等(不図示)により、可動シーブ22・32に作用するベルト推力(固定シーブ21・31から離間する方向の押圧力)を固定シーブ21・31に接近する方向の押圧力にそれぞれ変換するように構成されている。
【0033】
なお、
図2に示すように、互いに平行に配置された駆動軸25(入力軸)及び従動軸35(出力軸)は、互いに反対側の軸端側において駆動側及び従動側に連結されている。即ち、駆動プーリ2及び従動プーリ3は、固定シーブ21及び固定シーブ31の軸方向の各位置、ならびに可動シーブ22及び可動シーブ32の軸方向の各位置が互いに反対になるように配置されている。これにより、変速時に、駆動プーリ2及び従動プーリ3の、可動シーブ22及び可動シーブ32が互いに同じ方向(
図2の矢印の方向)に移動するため、Vベルト4にミスアライメントが生じないようになっている。
【0034】
例えば、
図2(実線)に示す状態が、最も低速側に変速された状態(駆動プーリ2のピッチ径が最小となる変速条件下)であり、摩擦伝動能力が不足して、駆動プーリ2とVベルト4との間のスリップが最も誘発し易い状態にあたる。
【0035】
図2に示す、自転車用無段変速機に備わるベルト機構1は、本実施形態の一例である。自転車用途に特化して、ベルト機構1が充分にコンパクトに形成されるように、各部が適切な寸法[プーリピッチ径(定義は後述)、軸間距離、Vベルト4(厚み、ベルトピッチ幅、外周長)、等]で形成されている。
【0036】
本実施形態の自転車用無段変速機に備わるベルト機構1を構成する、駆動プーリ2及び従動プーリ3は、スペース面の制約から、最小ピッチ径(d1)が、例えば45mm程度(例えば40~45mm程度)、最大ピッチ径(d2)が、例えば80mm程度(例えば70~80mm程度)、駆動プーリ2及び従動プーリ3の軸間距離が例えば95mm程度(例えば90~200mm程度)に制限(抑制)されている。
【0037】
自転車用無段変速機に備わるベルト機構1は、通常、外部からの異物(砂埃、泥水、油等)の侵入を抑制するため、付帯する他の機構(増速ギヤ機構など)とともに、筐体等で覆われた内部空間内に配置され、外部とほぼ遮断されている。
【0038】
上記のように、本実施形態のベルト機構1が、自転車用無段変速機に搭載された場合には、小型スクータ(排気量50~125cc)にベルト式無段変速機が搭載された場合と比べ、ベルト機構1がコンパクトであることが求められ、駆動プーリ2及び従動プーリ3が小径で、Vベルト4のベルト厚みも制限される。また、自転車用無段変速機は、小型スクータ(排気量50~125cc)の場合と比べて、最大トルク(ベルト機構1の駆動軸25に入力されるトルクの最大値)が大きいという相違がある。
【0039】
(Vベルト4(変速ベルト))
本実施形態のVベルト4は、自転車用のベルト式無段変速機に備わるベルト機構1に用いられる変速ベルト(ローエッジコグドVベルト4)である(
図3、
図4参照)。
【0040】
以下、本実施形態のローエッジコグドVベルト4を図面に基づいて詳細に説明する。以下においては、
図3に示すように、ローエッジコグドVベルト4の長手方向をベルト長手方向、ベルト長手方向に直交し、複数の心線が並ぶ方向をベルト幅方向、ベルト長手方向及びベルト幅方向に直交する方向をベルト厚み方向として説明する。
【0041】
本実施形態のローエッジコグドVベルト4(
図3、
図4参照)は、ベルト本体の内周面に、ベルト長手方向に沿ってコグ山411とコグ谷412とが交互に並んで形成されたコグ部41を有している。ローエッジコグドVベルト4は、
図4に示すように、積層構造を有しており、ベルト外周側からベルト内周側(コグ部41が形成された側)に向かって、伸張ゴム層42、芯体層43、及び圧縮ゴム層44が順次積層された構成を有する。すなわち、ローエッジコグドVベルト4は、芯体層43のベルト外周側に伸張ゴム層42が積層され、芯体層43のベルト内周側に圧縮ゴム層44が積層されている。
【0042】
ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側からベルト内周側に向かって、ベルト幅が最大となる部分である上幅Wが小さくなる台形形状となっている。さらに、芯体層43内には、芯体となる心線432が、ベルト幅方向に間隔をおいて配列された状態で埋設されており、コグ部41は、図示しないコグ付き成形型により、圧縮ゴム層44に形成されている。
【0043】
本実施形態のローエッジコグドVベルト4は、スペース面の制約から、ベルト厚み(H)が例えば8mm程度(例えば7~9mm程度、より好ましくは7~8mm)、ベルトピッチ幅(Wp)が例えば9mm程度(例えば9~14mm程度)、ひいてはベルト上幅(W)が例えば10mm程度(例えば10~15mm程度)、ベルト外周長(BOC)が例えば400mm程度(例えば400~610mm程度)に制限(抑制)されている。
【0044】
なお、本実施形態のように、圧縮ゴム層44がコグ部41を有する場合、ベルト厚みは、コグ部41の頂部における厚み(ベルトの最大厚み)を意味する。
【0045】
(圧縮ゴム層44)
圧縮ゴム層44は、第1のゴム成分を含むゴム組成物(架橋ゴム組成物)で形成されている。
【0046】
(第1のゴム成分)
第1のゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴムを用いることが好ましく、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど]、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。これらのゴム成分は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0047】
これらのゴム成分のうち、架橋剤及び架橋促進剤が拡散し易い点から、エチレン-α-オレフィンエラストマー(エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)などのエチレン-α-オレフィン系ゴム)、クロロプレンゴムが汎用され、特に、高負荷環境で用いる変速ベルトにおいては、機械的強度、耐候性、耐熱性、耐寒性、耐油性、接着性などのバランスに優れる点から、クロロプレンゴム、EPDMが好ましい。さらに、前記特性に加えて、耐摩耗性にも優れる点から、クロロプレンゴムが特に好ましい。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプであってもよく、非硫黄変性タイプであってもよい。
【0048】
第1のゴム成分がクロロプレンゴムを含む場合、第1のゴム成分中のクロロプレンゴムの割合は、50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上(特に90~100質量%)であり、100質量%(クロロプレンゴムのみ)が最も好ましい。第1のゴム成分がエチレン-α-オレフィンエラストマーを含む場合のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合も、上記クロロプレンゴムの割合と同様である。
【0049】
(第1の短繊維)
圧縮ゴム層44を形成するゴム組成物は、第1の短繊維を更に含んでいてもよい。第1の短繊維としては、ポリアミド短繊維(ポリアミド6短繊維、ポリアミド66短繊維、ポリアミド46短繊維、アラミド短繊維など)、ポリアルキレンアリレート短繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維、ポリエチレンナフタレート短繊維など)、液晶ポリエステル短繊維、ポリアリレート短繊維(非晶質全芳香族ポリエステル短繊維など)、ビニロン短繊維、ポリビニルアルコール系短繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)短繊維などの合成短繊維や、綿、麻、羊毛などの天然短繊維、及びカーボン短繊維などの無機短繊維などが挙げられる。これら第1の短繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、アラミド短繊維、PBO短繊維が好ましく、アラミド短繊維が特に好ましい。
【0050】
第1の短繊維は、繊維状に延伸した繊維を所定の長さにカットした短繊維であってもよい。第1の短繊維は、駆動プーリ2及び従動プーリ3からの側圧に対するVベルト4の圧縮変形を抑制するため(すなわち、耐側圧性を高めるため)、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層44に埋設されることが好ましい。また、表面の摩擦係数を低下させてノイズ(発音)を抑制したり、駆動プーリ2及び従動プーリ3との擦れによる摩耗を低減できるため、圧縮ゴム層44の表面より短繊維を突出させるのが好ましい。
【0051】
第1の短繊維の平均繊維長は、屈曲性を低下させることなく耐側圧性及び耐摩耗性を向上できる点から、例えば0.1~20mm、好ましくは0.5~15mm(例えば0.5~10mm)、更に好ましくは1~6mm(特に2~4mm)程度であってもよい。第1の短繊維の繊維長が短すぎると、列理方向の力学特性を十分に高めることができずに耐側圧性及び耐摩耗性が低下するおそれがあり、逆に長すぎると、ゴム組成物中の短繊維の配向性が低下することにより屈曲性が低下するおそれがある。
【0052】
第1の短繊維の単糸繊度は、屈曲性を低下させることなく高い補強効果を付与できる点から、例えば1~12dtex、好ましくは1.2~10dtex(例えば1.5~8dtex)、更に好ましくは2~5dtex(特に2~3dtex)程度とするのがよい。単糸繊度が大きすぎると、配合量当たりの耐側圧性や耐摩耗性が低下するおそれがあり、単糸繊度が小さすぎるとゴムへの分散性が低下することにより屈曲性が低下するおそれがある。
【0053】
第1の短繊維は、第1のゴム成分との接着力を高めるために、慣用の方法で接着処理(又は表面処理)されていてもよい。表面処理の方法としては、慣用の表面処理剤を含む処理液などで処理する方法などが挙げられる。表面処理剤としては、例えば、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とゴム又はラテックス(L)とを含むRFL液[例えば、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とが縮合物(RF縮合物)を形成し、前記ゴム成分、例えば、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むRFL液]、エポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物、シランカップリング剤、加硫ゴム組成物(例えば、表面シラノール基を含み、ゴムとの化学的結合力を高めるのに有利な含水珪酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンなどを含む加硫ゴム組成物など)などが挙げられる。これらの表面処理剤は、単独で又は二種以上組み合わせてもよく、短繊維を同一又は異なる表面処理剤で複数回に亘り順次に処理してもよい。
【0054】
第1の短繊維の割合は、第1のゴム成分100質量部に対して、例えば5~50質量部、好ましくは5~40質量部(例えば8~35質量部)、更に好ましくは10~30質量部(特に20~30質量部)程度である。第1の短繊維が少なすぎると耐側圧性及び耐摩耗性が低下し、多すぎると加工性が低下したり、Vベルト4の屈曲性が低下することで耐久性が低下するおそれがある。
【0055】
(他の成分)
圧縮ゴム層44を形成するゴム組成物は、さらに添加剤を含んでもよい。添加剤としては、加硫剤又は架橋剤(硫黄系架橋剤、有機過酸化物など)、共架橋剤(ビスマレイミド類など)、架橋助剤又は架橋促進剤(チウラム系促進剤など)、加硫遅延剤、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、補強剤(カーボンブラックや、含水シリカなどの酸化ケイ素)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、軟化剤(パラフィンオイルやナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。
【0056】
(ゴム硬度)
圧縮ゴム層44のゴム硬度は、ベルト横剛性(耐側圧性)を確保する点で、比較的高いゴム硬度を有しており、ゴム硬度は、例えば、93~97度、好ましくは95~97度程度であってもよい。
【0057】
なお、本願において、各ゴム層のゴム硬度は、JIS K6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-硬さの求め方-)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて測定された値Hs(タイプA硬度)を示し、単にゴム硬度と記載する場合がある。
【0058】
(伸張ゴム層42)
ローエッジコグドVベルト4は、第2のゴム成分を含むゴム組成物(加硫ゴム組成物)で形成された伸張ゴム層42を更に含んでいてもよい。
【0059】
第2のゴム成分としては、第1のゴム成分で例示されたゴム成分を利用でき、好ましい態様も第1のゴム成分と同一である。第2のゴム成分は、第1のゴム成分と異なるゴム成分であってもよいが、通常、第1のゴム成分と同一である。
【0060】
伸張ゴム層42を形成するゴム組成物も、耐側圧性及び耐摩耗性をより向上できる点から、第2の短繊維を含むのが好ましい。圧縮ゴム層44だけでなく、伸張ゴム層42も短繊維として第2の短繊維を含むと、耐側圧性及び耐摩耗性が更に向上する。第2の短繊維としては、第1の短繊維で例示された短繊維を利用でき、好ましい態様及び割合も第1の短繊維と同一である。第2の短繊維は、第1の短繊維と異なる短繊維であってもよいが、通常、第1の短繊維と同一である。伸張ゴム層42を形成するゴム組成物も、圧縮ゴム層44を形成するゴム組成物で例示された他の成分を更に含んでいてもよい。
【0061】
(ゴム硬度)
伸張ゴム層42のゴム硬度は、ベルト横剛性(耐側圧性)を確保しつつ、耐久性を確保(例えば、伸張ゴム層42の亀裂を抑制)する観点から、圧縮ゴム層44のゴム硬度よりも小さくしてもよい。伸張ゴム層42のゴム硬度(タイプA硬度)は、例えば、89~95度、好ましくは89~93度程度(特に93度)であってもよい。
【0062】
(芯体層43)
芯体として用いる心線432は、通常、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した撚りコードである。心線432は、ベルト長手方向に延びて配設され、ベルト長手方向に平行な複数本の心線432が配設されていてもよいが、生産性の点から、通常、ローエッジコグドVベルトの略ベルト長手方向に平行に、所定のピッチで並列的に延びて螺旋状に配設されている。心線432を螺旋状に配設する場合、ベルト長手方向に対する心線432の角度は、例えば5°以下であってもよく、ベルト走行性の点から、0 °に近いほど好ましい。
【0063】
芯体層43は、配列密度が調整された心線432を含んでいればよく、心線432のみで形成されてもよいが、層間の剥離を抑制し、ベルト耐久性を向上できる点から、心線432が埋設された架橋ゴム組成物で形成された芯体層43(接着ゴム層431)であるのが好ましい。
【0064】
心線432が埋設された架橋ゴム組成物で形成された芯体層43は、通常、接着ゴム層431と称され、ゴム成分を含む架橋ゴム組成物で形成された層内に、心線432が埋設されている(
図3、
図4参照)。接着ゴム層431は、伸張ゴム層42と圧縮ゴム層44の間に介在して、伸張ゴム層42と圧縮ゴム層44とを接着するとともに、接着ゴム層431には心線432が埋設されている。心線432の埋設形態は、特に限定されず、その一部が接着ゴム層431に埋設されていればよく、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層431に心線432が埋設された形態(すなわち、心線432の全体が接着ゴム層431に完全に埋設された形態)が好ましい。
【0065】
(心線432)
心線432としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。
心線432を構成する繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2-4アルキレン-C6-14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維や、綿、麻、羊毛などの天然繊維、及び炭素繊維などの無機繊維などが汎用される。これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
これらの繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレートなどのC2-4アルキレン-C6-12アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、ポリアミド繊維(アラミド繊維など)などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(特に、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド繊維(特に、アラミド繊維)が好ましく、ポリアミド繊維(特に、アラミド繊維)が最も好ましい。
【0067】
心線432の総繊度は、例えば2000~17000dtexであってもよく、好ましくは4000~15000dtex、更に好ましくは6000~13000dtex程度であってもよい。マルチフィラメント糸は、例えば100~5000本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよく、好ましくは500~4000本、更に好ましくは1000~3000本のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。
【0068】
心線432の平均線径(撚りコードの直径)は、例えば、0.5~3.0mmであってもよく、好ましくは0.6~2.0mm 、更に好ましくは0.7~1.5mm程度であってもよい。心線432が細すぎると、屈曲性は向上するものの、Vベルト4の張力が低下して、最悪の場合、Vベルト4が切断する。また心線432が太すぎると、Vベルト4の耐屈曲性が低下したり、これに起因してVベルト4が過度に発熱を起こすおそれがある。
【0069】
心線432は、接着ゴム層431中に埋設させる場合、接着ゴム層431を形成する架橋ゴム組成物との接着性を向上させるため、表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、前述した圧縮ゴム層44の短繊維の表面処理剤として例示された表面処理剤などが挙げられる。表面処理剤は、単独で又は二種以上組み合わせてもよく、同一又は異なる表面処理剤で複数回に亘り順次に処理してもよい。心線432は、少なくともレゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理液(RFL液)で接着処理するのが好ましい。
【0070】
(接着ゴム層431)
接着ゴム層431を形成する架橋ゴム組成物を構成するゴム成分としては、圧縮ゴム層44のゴム成分として例示されたゴム成分を利用でき、好ましい態様も圧縮ゴム層44のゴム成分と同様である。接着ゴム層431を形成するゴム組成物も、圧縮ゴム層44を形成するゴム組成物で例示された短繊維や他の成分を更に含んでいてもよい。
【0071】
(接着ゴム層431の特性)
接着ゴム層431は、圧縮ゴム層44(または伸張ゴム層42)のゴム硬度よりも低い硬度が好ましい。接着ゴム層431を、このような低硬度に調整することにより、せん断応力が作用した場合に大きく変形することが可能となり、芯体層43と圧縮ゴム層44および伸張ゴム層42との間の剥離を抑制できる。
【0072】
接着ゴム層431のゴム硬度(タイプA硬度)は、例えば60~85度、好ましくは65~84度、さらに好ましくは70~83度、より好ましくは75~82度(特に82度)である。ゴム硬度が低すぎると、耐側圧性が低下する虞があり、高すぎると、接着性が低下する虞がある。
【0073】
圧縮ゴム層44と接着ゴム層431とのゴム硬度の差(圧縮ゴム層44のゴム硬度-接着ゴム層431のゴム硬度)は8度以上であってもよく、例えば8~37度、好ましくは11~32度、さらに好ましくは12~27度、より好ましくは13~22度、最も好ましくは13~15度である。圧縮ゴム層44と接着ゴム層431とのゴム硬度の差が小さすぎると、耐熱性、耐側圧性および耐屈曲疲労性を向上できない虞があり、逆に大きすぎても同様の虞がある。
【0074】
接着ゴム層431の平均厚みは、例えば0.8~3mm、好ましくは1.2~2.8mm、さらに好ましくは1.5~2.5mmである。
【0075】
(補強布)
本実施形態のVベルト4には補強布を備えていないが、Vベルト4が補強布を含む場合、補強布が伸張ゴム層42及び圧縮ゴム層44(コグ部41を含む)の双方(伸張ゴム層42の上面及び圧縮ゴム層44の下面)、あるいはいずれか一方に積層されていてもよい。また、圧縮ゴム層44および/または伸張ゴム層42に補強布が埋設される形態であってもよい。
【0076】
補強布は、例えば、織布、広角度織布、編布、不織布などの布帛(特に、織布)を用いることができる。布帛は、必要に応じて、液状接着剤(RFL液、ゴム糊など)での処理(浸漬、塗布など)、接着性の高いゴム組成物を布目にすり込むフリクション処理、接着性の高いゴム組成物シートと布帛とを積層する処理を施してもよい。
【0077】
(ベルト機構1の使用条件の説明:課題)
自転車用無段変速機に備わるベルト機構1においては、Vベルト4のスリップのし易さを表す一指標(代用特性)として後述の式1で定義されるLT(Limit Torque)係数が過大となり、駆動プーリ2のピッチ径が最小となる変速条件下で、摩擦伝動能力が不足して、駆動プーリ2とVベルト4との間のスリップが極めて誘発し易いといった、過酷な使用条件下(プーリレイアウトや負荷)に置かれる。これは、小型スクータの場合にLT係数が4~8程度であるのに対し、上記使用条件下の場合にはLT係数が8~12程度と、小型スクータの実績範囲を超えることになる。
【0078】
即ち、本実施形態の自転車用無段変速機に備わるベルト機構1では、最も低速側に変速された状態で最大トルクとなる使用条件(駆動プーリ2のピッチ径が最小となる変速条件)における、Vベルト4の駆動プーリ2に対するLT係数が8~12の範囲であることを想定している。具体的には、
図2(実線)に示す状態が、最も低速側に変速された状態(駆動プーリ2のピッチ径が最小となる変速条件)であり、摩擦伝動能力が不足して、駆動プーリ2とVベルト4との間のスリップが最も誘発し易い状態にあたる。
【0079】
(ベルト機構1の使用条件の説明:定義)
[定義]
・ピッチライン
ピッチラインとは、Vベルト4に埋設された芯体(心線432)の中心線のことをいう。
図3に示すように、ベルト幅方向に延びるピッチライン、を意味する場合と、
図4に示すように、ベルト長手方向に延びるピッチライン、を意味する場合がある。
・ベルトピッチ幅(Wp)
ベルトピッチ幅とは、ピッチラインに沿った、ベルト幅方向の長さである(
図3参照)。
・プーリピッチ径(d)
プーリピッチ径とは、Vベルト4がプーリに巻き付いた部分のピッチラインがなす円(ピッチ円)の直径(即ち、巻き掛け径)のことをいう。
下記プーリピッチ半径(r)の2倍(d=2r)である。
・プーリピッチ半径(r)
Vベルト4がプーリに巻き付いた部分のピッチラインがなす円(ピッチ円)の半径である。
・最小ピッチ径(d1)
Vベルト4がプーリに巻き付いた際の、プーリピッチ径(d)の最小値(下限値)である。
下記最小ピッチ半径(r1)の2倍(d1=2r1)である。
・最小ピッチ半径(r1)
Vベルト4がプーリに巻き付いた際の、プーリピッチ半径(r)の最小値(下限値)
・LT係数
LT(Limit Torque)係数は、『ベルトのスリップのし易さ』を表す一指標(代用特性)である。
【0080】
(ベルト機構1の使用条件の説明:LT係数)
LT係数は、本実施形態の自転車用無段変速機に備わるベルト機構1のような変速ベルト機構を対象とする場合、駆動プーリ2が負担する有効張力を摩擦伝動面の面積(巻き付き長さ(L)とベルト厚み(H)との積)で除した数値で表現される係数とされ、式1で表すことができる。
(式1)LT係数
LT係数=有効張力(Te)/巻き付き長さ(L)/ベルト厚み(H)
なお、下記を参照して算出されたLT係数の単位は、厳密にはkgf/cm2であるが、便宜上、無次元で表すものとする。
【0081】
ここで、有効張力(Te)(単位:kgf)とは、プーリを回転させるための張力(張り側張力とゆるみ側張力の差)のことで、式2で表すことができる。
(式2)有効張力
Te=Tmax/(r/100)/9.81
Tmax:最大トルク(単位:Nm)・・・駆動軸に入力されるトルクの最大値
r:プーリピッチ半径(単位:cm)・・・ベルトがプーリに巻き付いた部分のピッチラインがなす円(ピッチ円)の半径にて算出することができる。
【0082】
また、巻き付き長さ(L)(単位:cm)とは、ベルトがプーリに巻き付いた部分の、ピッチラインに沿った長さのことで、式3で表すことができる。
(式3)巻き付き長さ
L=r×θ
θ:巻き付き角度(接触角)(単位:ラジアン)・・・ベルトがプーリに巻き付いた部分の、ピッチラインがなす円弧に対する中心角にて算出することができる。
ベルト厚み(H)(単位:cm):ベルトの総厚(コグ部を含む、ベルト全体の厚み)
【0083】
なお、本願で規定する、最も低速側に変速された状態で最大トルクとなる使用条件での、駆動プーリに対するLT係数は、上記「プーリピッチ半径」(r)を、駆動プーリの「最小ピッチ半径」(r1)に置き換えて、算出する。
【0084】
(ベルト機構1の使用条件の説明:LT係数の数値範囲の意義)
LT係数の数値が過大(例えば、本実施形態のように8~12程度の水準)になると、摩擦伝動能力が不足して、駆動プーリ2とVベルト4との間のスリップが極めて誘発し易いといった、過酷な使用条件下(プーリレイアウトや負荷)に置かれていることを意味する。
LT係数の数値が小さいほど、摩擦伝動能力に余裕が生まれることになり、安定走行(例えばスリップ率5%以下での走行)が期待できる。
【0085】
(ベルト横剛性:説明)
ベルト横剛性は、Vベルト4(一本当たり)の耐側圧性、即ち、『軸荷重(側圧)に対する座屈変形のしにくさ』(後述のライドアウト変化量の大小)を表す一指標(代用特性)である。
即ち、ライドアウト変化測定試験における、ライドアウト変化量(mm)に対する軸荷重(N)の値(N/mm)を、ベルト横剛性(N/mm)としている。
【0086】
(ベルト横剛性:ライドアウト変化測定試験)
[試験機]
ライドアウト変化測定機
[測定方法](1)駆動プーリと従動プーリにVベルト4を掛けて初荷重(軸荷重200N)を付与し、所定の試験条件(駆動プーリのピッチ径45mm、従動プーリのピッチ径45mm、駆動軸回転数50rpm、軸荷重は200N~1000Nにて変量、雰囲気温度23±2℃)でベルトを走行させる。(
図5参照)(2)軸荷重を変量(200Nから1000Nまで段階的に増加)していき、駆動プーリ側のライドアウト変化量(
図6参照)をレーザ変位計により順次測定し、軸荷重(N)とライドアウト変化量(mm)との関係線図(グラフ)を得る。(3)ベルト横剛性[ライドアウト変化量(mm)に対する軸荷重(N)の値(N/mm)]は、グラフ上の軸荷重400N~1000Nの範囲を直線近似した際の傾き(軸荷重400N時のグラフ上の通過点と軸荷重1000N時のグラフ上の通過点とを結ぶ近似直線の傾き)より求める。
【0087】
ここで、ライドアウト(RO)とは、Vベルト4の外周面(ベルト幅方向二等分線上のベルト外周面:レーザ変位計の測定位置)と駆動プーリ(Vプーリ)の外周面との間の径方向の離間距離(mm)のことを指す(
図6参照)。
また、ライドアウト(RO)変化量(mm)とは、変量後の各軸荷重下でのライドアウト(mm)から、初荷重(軸荷重200N)下でのライドアウト(mm)を差し引いた値のことである(
図6参照)。
【0088】
(ベルト横剛性:数値範囲の意義)
本実施形態のVベルト4は、ライドアウト変化測定試験における、ベルト横剛性が1500~2500N/mmの範囲内としている。
ベルト横剛性が1500N/mmを下回ると、Vベルト4の駆動プーリ2に対するLT係数が8~12の範囲でのスリップを抑制できなくなり(例えば、スリップ率が5%を上回り)、必要な伝達力(例えば、スリップ率5%以下)を確保できなくなる。
一方、ベルト横剛性が2500N/mmを上回ると、Vベルト4の曲げ剛性が過大になりすぎ、使用される、最小ピッチ径(駆動プーリ2のピッチ径が最小となる変速条件:例えば45mm)での駆動プーリ2へのVベルト4の巻付き性(Vベルト4の屈曲性)を確保できなくなる。
【0089】
(ローエッジコグドVベルト4の製造方法)
ローエッジコグドVベルト4の製造方法は、特に限定されず、各層の積層工程(ベルトスリーブの製造方法)に関しては、慣用の方法を利用できる。ローエッジコグドVベルト4(補強布を有する構成の場合)の代表的な製造方法について説明する。
【0090】
まず、補強布(下布)と圧縮ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)との積層体を、前記補強布を、歯部と溝部とが交互に配された平坦なコグ付き型に接触させて設置し、温度60~100℃(特に70~80℃)程度でプレス加圧することによりコグ部41を型付けしたコグパッド(完全には架橋しておらず、半架橋状態にあるパッド)を作製する。このコグパッドの両端を適所(特にコグ山411の頂部)から垂直に切断してもよい。
【0091】
次に、コグ部41に対応する歯部と溝部とを交互に配した内母型を、円筒状の金型に被せ、この歯部と溝部に係合させながらコグパッドを内母型の外周に巻き付けて両端(特にコグ山411の頂部)を接ぎ合わせることで、コグパッドを装着する。そして、装着したコグパッドの外周に第2の接着ゴム層用シート(下接着ゴム:未架橋ゴムシート)を巻き付けた後、芯体を形成する心線432(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、さらにその外周に第1の接着ゴム層用シート(上接着ゴム:未架橋ゴムシート)、伸張ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)、補強布(上布)を順次に巻き付けて未架橋ベルト前駆体を作製する。
【0092】
その後、公知の架橋装置(加硫缶など)にて架橋成形を行ってベルトスリーブを作製する。その後、カッターなどを用いて、V状に切断加工し、ローエッジコグドVベルト4を得る。
【0093】
なお、接着ゴム層431は、1枚または複数の接着ゴム層用シートで形成してもよく、芯体を形成する心線432(撚りコード)は、接着ゴム層431への埋設位置に応じて、接着ゴム層用シートの枚数や積層順序と関連付けてスピニングしてもよい。
【0094】
(効果)
上記構成によれば、自転車用無段変速機に備わるベルト機構1において、小型スクータの場合(LT係数が4~8程度)と比べても、コンパクトに形成され、『ベルトのスリップのし易さ』を表す一指標(代用特性)であるLT係数が8~12と過大であり、駆動プーリ2のピッチ径が最小となる変速条件下で、摩擦伝動能力が不足して、駆動プーリ2とVベルト4との間のスリップが極めて誘発し易いといった、過酷な使用条件下(プーリレイアウトや負荷)にあっても、耐側圧性、即ち『軸荷重(側圧)に対する座屈変形のしにくさ』(ライドアウト変化量の大小)を表す一指標(代用特性)であるベルト横剛性(ベルト幅方向の剛性)が1500~2500N/mmと、小型スクータの場合(ベルト横剛性が300~1500N/mm程度)と比べても、十分に高い水準に確保されることで、側圧によるVベルト4の座屈変形(ライドアウト変化量)を最小限(合格レベル)の水準に抑制でき、その結果、スリップが抑制され、必要な伝達力(例えばスリップ率5%以下)を確保することができる。
【0095】
また、上記ベルト機構1では、駆動プーリ2の最小ピッチ径は、40~45mmの範囲とし、Vベルト4のベルト厚みは、7~8mmの範囲としてもよいとしている。この構成によれば、自転車用無段変速機に備わるベルト機構1を、充分にコンパクトに形成しつつ、LT係数が8~12となる過酷な使用条件下(プーリレイアウトや負荷)にあっても、ベルト横剛性を所定の水準(1500~2500N/mm)にすることができる。
【0096】
(その他の実施形態)
上記自転車用無段変速機に備わるベルト機構1は、補助動力源付自転車の補助動力源に連結される無段変速機(電動アシスト付き自転車用のベルト式無段変速機(CVT))に搭載されてもよい。
【0097】
この構成によれば、補助動力源(電動モータなど)を有しない自転車に無段変速機が搭載される場合と比較し、補助動力源(電動モータなど)を有する自転車に無段変速機が搭載される場合の方がスペース面および重量面の制約が大きい分、無段変速機に備わるベルト機構1をコンパクトに形成する効果をより高めることができる。
【実施例0098】
本発明においては、コンパクトに形成されるとともに、LT係数が過大な条件下で使用される自転車用無段変速機に備わるベルト機構にVベルトが適用された場合でも、スリップを抑制し、必要な伝達力を確保する必要がある。
そこで、本実施例では、実施例1~9、比較例1~7、および参考例1に係るベルト機構(以下、各供試体)を作製し、コンパクト性評価、ならびにベルト走行試験[伝達性能(スリップ率)測定試験、耐久性能試験]を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0099】
[Vベルトの使用材料]
(心線)
各供試体のVベルトの心線として、表1に示す構成のA1~A2の撚りコードを作製した。
【0100】
A1の撚りコードは、以下の手順で作成した。
繊度1,680dtexのアラミド繊維のマルチフィラメントの束2本を引き揃えて下撚りし、これを3本合わせて下撚りとは反対方向に上撚りした総繊度10,080dtex の諸撚りコード(平均線径1.19mm)とし、更に接着処理を施した処理コードを調製した。
A2の撚りコードは、繊度1,l00dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のマルチフィラメントの束2本を引き揃えて下撚りし、これを3本合わせて下撚りとは反対方向に上撚りした総繊度6,600dtexの諸撚りコード(平均線径1.00mm)とし、更に接着処理を施した処理コードを調製した。
【0101】
【0102】
(心線の弾性率)
ここで、表1に示した心線(長手方向)の弾性率(引張弾性率)の測定方法について説明する。
オートグラフ((株)島津製作所製「AGS-J10kN」)の下側固定部と上側ロードセル連結部にチャック(掴み具)を取り付け、心線の両端部をチャックで掴む。
次に、心線を250mm/分の速度で切断するまで引っ張ったときに測定された応力-歪み曲線において、比較的直線関係にある領域(100~200N)の直線の傾きを心線の引張弾性率として算出した。
測定結果は、A1の心線の弾性率(MPa)を100とした場合の指数で整理した。
【0103】
(ゴム組成物)
表2~3に示す組成のゴム組成物C1~C5をバンバリーミキサーで混練りし、塊状の未架橋ゴム組成物を調製した。得られた未架橋ゴム組成物をカレンダーロールに通して所定厚みの圧延ゴムシートとして、各ゴム層を形成する未架橋ゴムシートを作製した。それぞれのゴム組成物の架橋物(架橋ゴム)の硬度および引張強度を測定した結果も表2~3に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
(ゴム組成物の原材料)
クロロプレンゴム:デンカ(株)製「PM-40」
酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製「キョーワマグ30」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD-3」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
シリカ:エボニックジャパン(株)製、「ULTRASIL(登録商標)VN3」、BET比表面積175m2/g
可塑剤:ADEKA(株)製「アデカサイザーRS-700」
架橋促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
N,N’-m-フェニレンジマレイミド:大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
アラミド短繊維:帝人(株)製「コーネックス短繊維」(平均繊維長3mm、平均繊維径14μm)を、RFL液[レゾルシン2.6質量部、37%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2質量部、水78.8質量部]で接着処理した固形分の付着率6質量%の短繊維
【0107】
(架橋ゴムのゴム硬度Hs)
各ゴム層用未架橋ゴムシートを温度160℃、時間30分でプレス加熱し、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。架橋ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、JIS K6253(2012)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて架橋ゴムシートの硬度を測定した。
【0108】
(架橋ゴムの引張強度)
架橋ゴムのゴム硬度Hs測定のために作製した架橋ゴムシートを試料とし、JIS K6251(2017)に準じ、ダンベル状(5号形)に打ち抜いた試験片を作製した。短繊維を含む試料においては、短繊維の配列方向(列理平行方向)が引張方向となるようにダンベル状試験片を採取した。そして、試験片の両端をチャック(掴み具)で掴み、試験片を500mm/分の速度で切断するまで引っ張ったときに記録される最大引張力を試験片の初期断面積で除した値(引張強さT)を引張強度とした。
【0109】
[Vベルトの作製]
上記使用材料で説明した、A1~A2の心線(接着処理品)、ならびにC1~C5のゴム組成物(未架橋ゴムシート)をそれぞれ用いて、前記実施形態に記載の方法(但し補強布は使用せず)で各供試体のVベルト(ローエッジコグドVベルト)を作製した。
架橋は180℃で30分間行い、外周側に所定のコグ部が形成されたベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、得られた架橋スリーブをカッターで所定の幅(上幅W)に切断し、更にV角度20°で側面をV状に切断加工した。そして、内周側と外周側とを反転して、内周側にコグ部が形成されるとともに、供試体毎に所定(表5~11に記載)の寸法[ベルト厚み(H)、ベルトピッチ幅(Wp)、ベルト外周長(BOC)]に形成されたVベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。
【0110】
[駆動プーリ及び従動プーリ]
駆動プーリ及び従動プーリは、供試体毎に、所定(表5~11に記載)の寸法[最小ピッチ径(d1)、最大ピッチ径(d2)、軸間距離]になるように構成した。
【0111】
[LT係数]
Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は、上記実施形態(ベルト機構1の使用条件の説明:LT係数)に記載の方法(式1~3)に従い、供試体毎に設定した、「Vベルト」および「駆動プーリ及び従動プーリ」の各部寸法、ならびに最大トルク(駆動軸に入力されるトルクの最大値)(Tmax)の値を用いて、供試体毎に算出した。
なお、最大トルク(Tmax)は、各供試体間で一律に10Nmとした。
【0112】
[ベルト横剛性]
ベルト横剛性(P)[ライドアウト変化測定試験における、ライドアウト変化量(mm)に対する軸荷重(N)の値(N/mm)]は、上記実施形態(ベルト横剛性:説明)に記載のライドアウト変化測定試験方法に従い、供試体(Vベルト)毎に測定した。
【0113】
[各供試体の概要]
各供試体の概要(Vベルトの作製、駆動プーリ及び従動プーリの構成、LT係数及びベルト横剛性の各実績値)を、実施例1をベースにして、後述する検証結果の表5~11中に記載の供試体順に以下に示す。
【0114】
[実施例1]
(Vベルト)
A1のアラミド心線、ならびにゴム組成物C1(架橋後のゴム硬度82°)の接着ゴムシート(未架橋ゴムシート)、ゴム組成物C3(架橋後のゴム硬度93°)の伸張ゴムシート(未架橋ゴムシート)、ゴム組成物C4(架橋後のゴム硬度95°)の圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)をそれぞれ用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。
得られたVベルトの寸法は、ベルト厚み(H)が8mm(その内、コグ山の高さは4mm)、ベルトピッチ幅(Wp)が9.3mm、ベルト外周長(BOC)が400mmであった。
【0115】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
最小ピッチ径(d1)を45mm、最大ピッチ径(d2)を80mmとし、上記Vベルトを使用した結果、軸間距離が94mmとなった。
【0116】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は9.1で、ベルト横剛性(P)は2000N/mmであった。ここで、LT係数の算出過程(式1~3)の詳細を下記に示す。
(式1)LT係数
LT係数=有効張力(Te)/巻き付き長さ(L)/ベルト厚み(H)
=45.3/6.23/0.8=9.1
(式2)有効張力(Te)
Te=Tmax/(r/100)/9.81
=10/(4.5/2/100)/9.81=45.3(kgf)
(式3)巻き付き長さ(L)
L=r×θ=(4.5/2)×2.77=6.23(cm)
なお、式中のθ[駆動プーリ(最小ピッチ径)に対するベルトの巻き付き角度(接触角)]は、2.77ラジアン(159°)であった。
【0117】
[実施例2]
(Vベルト)
実施例1と同じ使用材料を用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト) を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も実施例1と同じである。
【0118】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1に対し、最大ピッチ径(d2)80mmは変更せず、最小ピッチ径(d1)を40mmに変更し、上記Vベルトを使用した結果、軸間距離が97mmとなった。
なお、本変速ベルト機構(ベルト厚みが8mm程度で、ベルトピッチ幅が9mm程度)において、Vベルトをプーリ間に巻き掛けた状態で、プーリピッチ径が40mmを下回ると、Vベルト(内周面)がプーリの回転軸(外周面)に接触する虞がある。したがって、このプーリピッチ径40mmは、変速ベルト機構として正常に機能させ得る許容範囲の下限値に相当する、と云える。
【0119】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は12で、ベルト横剛性(P)は2000N/mmであった。
【0120】
[実施例3]
(Vベルト)
心線をA2(PET心線)に変更したことを除いては、実施例1と同じ使用材料を用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も実施例1と同じである。
【0121】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0122】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は9.1で、ベルト横剛性(P)は1500N/mmであった。
【0123】
[比較例1]
(Vベルト)
圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)のゴム組成物をC3(架橋後のゴム硬度93°)に変更したことを除いては、実施例1と同じ使用材料を用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も実施例1と同じである。
【0124】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0125】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は9.1で、ベルト横剛性(P)は1000N/mmであった。
【0126】
[比較例2]
(Vベルト)
圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)のゴム組成物をC5(架橋後のゴム硬度97°)に変更したことを除いては、実施例1と同じ使用材料を用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト) を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も実施例1と同じである。
【0127】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0128】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は9.1で、ベルト横剛性(P)は2700N/mmであった。
【0129】
[実施例4]
(Vベルト)
圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)の厚み、および伸張ゴムシート(未架橋ゴムシート)の厚みを変更(それぞれ0.5mm薄く)したことを除いては、比較例2と同じ使用材料を用いて、厚み7mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法は、ベルト厚み(H)が7mm(その内、コグ山の高さは4mm)、ベルトピッチ幅(Wp)が9.3mm、ベルト外周長(BOC)が397mmであった。
【0130】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0131】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は10で、ベルト横剛性(P)は2200N/mmであった。
【0132】
[比較例3]
(Vベルト)
圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)の厚みを変更(0.5mm薄く)し、さらに伸張ゴムシート(未架橋ゴムシート)の厚みを変更(1.0mm薄く)したことを除いては、実施例1と同じ使用材料を用いて、厚み6mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法は、ベルト厚み(H)が6mm(その内、コグ山の高さは3mm)、ベルトピッチ幅(Wp)が9.3mm、ベルト外周長(BOC)が397mmであった。
【0133】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0134】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は12で、ベルト横剛性(P)は800N/mmであった。
【0135】
[実施例5]
(Vベルト)
圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)の厚み、および伸張ゴムシート(未架橋ゴムシート)の厚みを変更(それぞれ0.5mm薄く)したことを除いては、実施例1と同じ使用材料を用いて、厚み7mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト) を得た。得られたVベルトの寸法は、ベルト厚み(H)が7mm(その内、コグ山の高さは4mm)、ベルトピッチ幅(Wp)が9.3mm、ベルト外周長(BOC)が397mmであった。
【0136】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0137】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は10で、ベルト横剛性(P)は1500N/mmであった。
【0138】
[実施例6]
(Vベルト)
圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)の厚みを変更(1mm厚く)したことを除いては、実施例1と同じ使用材料を用いて、厚み9mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法は、ベルト厚み(H)を9mm(その内、コグ山の高さは4mm)に変更したことを除いては、実施例1(ピッチ幅、外周長)と同じである。
【0139】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0140】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は8.1で、ベルト横剛性(P)は2500N/mmであった。
【0141】
[比較例4]
(Vベルト)
圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)のゴム組成物をC5(架橋後のゴム硬度97°)に変更したことを除いては、実施例6と同じ使用材料を用いて、厚み9mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト) を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も実施例6と同じである。
【0142】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0143】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は8.1で、ベルト横剛性(P)は3000N/mmであった。
【0144】
[実施例7]
(Vベルト)
圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)のゴム組成物をC3(架橋後のゴム硬度93°)に変更したことを除いては、実施例6と同じ使用材料を用いて、厚み9mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も実施例6と同じである。
【0145】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は8.1で、ベルト横剛性(P)は1500N/mmであった。
【0146】
[比較例5]
(Vベルト)
心線をA2(PET心線)に変更したことを除いては、実施例7と同じ使用材料を用いて、厚み9mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も実施例7と同じである。
【0147】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例1と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0148】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は8.1で、ベルト横剛性(P)は1100N/mmであった。
【0149】
[比較例6]
(Vベルト)
比較例2(アラミド心線、圧縮ゴム層の硬度97°)と同じ使用材料を用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も比較例2と同じである。
【0150】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
比較例2に対し、最大ピッチ径(d2)80mmは変更せず、最小ピッチ径(d1)を40mmに変更し、上記Vベルトを使用した結果、軸間距離が97mmとなった。
【0151】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は12で、ベルト横剛性(P)は2700N/mmであった。
【0152】
[実施例8]
(Vベルト)
心線をA2(PET心線)に変更したことを除いては、比較例6と同じ使用材料を用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト) を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も比較例6と同じである。
【0153】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
比較例6と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0154】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は12で、ベルト横剛性(P)は2500N/mmであった。
【0155】
[実施例9]
(Vベルト)
圧縮ゴム層の硬度を95°に変更したことを除いては、実施例8と同じ使用材料を用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も実施例8と同じである。
【0156】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
実施例8と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0157】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は12で、ベルト横剛性(P)は1500N/mmであった。
【0158】
[比較例7]
(Vベルト)
圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)のゴム組成物をC3(架橋後のゴム硬度93°)に変更したことを除いては、比較例6と同じ使用材料を用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法(厚み、ピッチ幅、外周長)も比較例6と同じである。
【0159】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
比較例6と同じ寸法(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)である。
【0160】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は12で、ベルト横剛性(P)は1000N/mmであった。
【0161】
[参考例1]
自転車用ではなく、小型スクータ用の無段変速機に備わるベルト機構の代表例(ベルト厚みが実施例1と同じ8mmのもの)を参考例1として、実施例1と対比することとし、Vベルト、駆動プーリ、および従動プーリを作製した。
【0162】
(Vベルト)
心線をA2(PET心線)に変更し、さらに、圧縮ゴムシート(未架橋ゴムシート)および伸張ゴムシート(未架橋ゴムシート)の各ゴム組成物をC2(架橋後のゴム硬度89°)に変更したことを除いては、実施例1と同じ使用材料を用いて、厚み8mmのベルトスリーブ(架橋スリーブ)を作製し、Vベルト(ローエッジコグドVベルト)を得た。得られたVベルトの寸法は、ベルト厚み(H)が8mm、ベルトピッチ幅(Wp)が18.9mm、ベルト外周長(BOC)が750mmであった。
【0163】
(駆動プーリ及び従動プーリ)
最小ピッチ径(d1)を55mm、最大ピッチ径(d2)を120mmとし、上記Vベルトを使用した結果、軸間距離が229mmとなった。
【0164】
(LT係数、ベルト横剛性)
その結果、Vベルトの駆動プーリに対するLT係数は5.9で、ベルト横剛性(P)は600N/mmであった。
【0165】
[ベルト機構の評価:項目、方法、基準]
表5~11に示す各供試体について、本願課題を解決し得るベルト機構(特にVベルト)が得られたかどうかを見極めるために、コンパクト性、伝達性能(スリップ率)、および耐久性能を検証した。
【0166】
[コンパクト性]
(判定基準)
ベルト機構がコンパクトであるか否かは、スペース面および重量面の制約を考慮して、自転車用途に特化して専用設計された自転車用無段変速機に搭載可能なようにコンパクトに形成できるかという観点で判断できる。
コンパクト性の判定として、ベルト機構各部の寸法を指標とし、「駆動プーリ及び従動プーリ」の各部寸法に関する下記条件(a)~(c)をすべて満足し、かつ、「Vベルト」の各部寸法に関する下記条件(d1)及び(e)~(f)をすべて満足する場合は、ベルト機構を自転車用無段変速機に搭載可能なようにコンパクトに形成できると評価し、a判定とした。
「駆動プーリ及び従動プーリ」の各部寸法に関する下記条件(a)~(c)をすべて満足し、かつ、「Vベルト」の各部寸法に関する下記条件(d2)及び(e)~(f)をすべて満足する場合は、ベルト機構を自転車用無段変速機に搭載可能なようにコンパクトに形成する観点でやや劣ると評価し、b判定とした。
「駆動プーリ及び従動プーリ」の各部寸法に関する下記条件(a)~(c)、ならびに「Vベルト」の各部寸法に関する下記条件(d2)及び(e)~(f)の内、1つでも満足せず、かつ、「Vベルト」の各部寸法に関する下記条件(d1)も満足しない場合は、ベルト機構を自転車用無段変速機に搭載可能なようにコンパクトには形成できないと評価し、c判定とした。
本用途での実使用に対する適正(ベルト機構のコンパクト性)の観点から、a判定、b判定のベルト機構を合格レベルとした。
【0167】
「駆動プーリ及び従動プーリ」の各部寸法
(a)最小ピッチ径(d1)が40~45mm
(b)最大ピッチ径(d2)が70~80mm
(c)軸間距離が90~200mm
「Vベルト」の各部寸法
(d1)ベルト厚み(H)が6~8mm
(d2)ベルト厚み(H)が8mmを上回り9mm以下
(e)ピッチ幅(Wp)が9~14mm
(f)外周長(BOC)が360~610mm
【0168】
[伝達性能(スリップ率)]
(試験名)伝達性能(スリップ率)測定試験
(試験機)
試験には、
図7に示すプーリレイアウトの2軸走行試験機を使用した。
該試験機は、互いのV溝の幅(固定)は同じだが外径が異なる、駆動プーリ及び従動プーリを有し、所定(表5~11に記載)の軸間距離のもと、駆動プーリのピッチ径が最小(表5~11のd1)で、従動プーリのピッチ径が最大(表5~11のd2)となる変速条件下(つまり、最も低速側に変速された状態で最大トルクとなる使用条件下)での伝達性能(スリップ率)を測定できるように構成されている。
【0169】
(試験方法)
後述の耐久性能試験の前後に、以下の方法で、伝達性能(スリップ率)測定試験を行った。
まず、各供試体のVベルトについて、駆動プーリ及び従動プーリの各V溝間に嵌め入れるように巻き掛けた。そして、常温下、軸間距離を所定(表5~11に記載)の距離に設定し、従動軸に軸荷重600N(一定)を付与した状態で、駆動軸の回転数2000rpm(一定)のもと、Vベルトを無負荷の状態から走行させ、走行後直ぐに10Nmの最大トルク(負荷)が駆動軸に入力された状態での従動プーリの回転数(rpm)を検出器で計測することにより、下記式に従ってスリップ率を算出した。
なお、この計測における無負荷時の駆動プーリ、従動プーリの回転数、および負荷時の駆動プーリの回転数を表4に示した。
スリップ率(%)=[(K2-K1)/K1]×100
[式中、K1=R1/N1、K2=R2/N2であり、R1は無負荷運転時の駆動プーリの回転数(rpm)、N1は無負荷運転時の従動プーリの回転数(rpm)、R2は負荷運転時の駆動プーリの回転数(rpm)、N2は負荷運転時の従動プーリの回転数(rpm)を示す]
【0170】
【0171】
(判定基準)
ベルトの伝達性能の判定として、スリップ率の値を指標(スリップ率の値が小さいほど、スリップを抑制し、必要な伝達力を確保することが可能)とし、スリップ率の値[走行前後(走行前、400Hr完走後)で値が大きい方](%)が、
3.5%以下の場合をa判定、
3.5%を上回り5%以下の場合をb判定、
5%を上回る場合、あるいは所定の最大トルク(負荷)が駆動軸に入力されるよりも前に、既に全面的にスリップする状態(全スリップ状態)となり、所定の負荷下での計測ができなかった場合(測定不能となった場合)をc判定とした。
本用途での実使用に対する適正(Vベルトの伝達性能)の観点から、a判定、b判定のベルトを合格レベルとした。
なお、後述の耐久性能試験の走行前に測定した伝達性能(スリップ率)の判定がc判定であった場合は、耐久性能試験を不実施とした。
【0172】
[耐久性能]
(試験名)耐久性能試験
(試験機)
試験には、
図8に示すプーリレイアウトの2軸走行試験機を使用した。
該試験機は、互いのV溝の幅(固定)は同じだが外径が異なる、駆動プーリ及び従動プーリを有し、所定(表5~11に記載)の軸間距離のもと、駆動プーリのピッチ径が最大(表5~11のd2)で、従動プーリのピッチ径が最小(表5~11のd1)となる変速条件下(つまり、最も高速側に変速された状態で最小トルクとなる使用条件下)での耐久性能(ベルトの故障の有無)を確認できるように構成されている。
【0173】
(試験方法)
各供試体のVベルトについて、駆動プーリ及び従動プーリの各V溝間に嵌め入れるように巻き掛けた。常温下、軸間距離を所定(表5~11に記載)の距離に設定し、従動軸に軸荷重400N(一定)を付与した状態で、駆動軸の回転数2000rpm(一定)のもと、2Nmのトルク(負荷)が駆動軸に入力された状態でVベルトを400時間[実走行距離(自転車、時速25kmの速度)で10,000km相当]走行させ、ベルトを目視で経過観察し、亀裂(特にコグ谷部の亀裂)や剥離などの異常の有無、ベルトが破損するまでの時間を以下の基準で評価した。
【0174】
(判定基準)
ベルトの耐久性能の判定として、
400Hr完走し、亀裂や剥離などの異常が見られなかった場合をa判定、
400Hr完走し、若干の亀裂や剥離が見られた(性能に支障はない程度)場合をb判定、
走行中または400Hr完走時点で、性能に支障が出るほどの異常(亀裂や剥離)が生じ、ベルトが破損したと認められる場合をc判定とした。
本用途での実使用に対する適正(Vベルトの耐久性能)の観点から、a判定、b判定のベルトを合格レベルとした。
【0175】
(総合判定)
本課題を解決し得るベルト機構としての総合的な判定(ランク付け)の基準は、上記3つの評価項目(コンパクト性、伝達性能(スリップ率)、耐久性能)における判定の結果から、以下の通りとした。
ランクA:上記の評価項目で、すべてa判定であった場合は、実用上全く問題ないものと判断し、最良のランクとした。
ランクB:上記の評価項目で、c判定はないが、1つでもb判定があった場合は、実用上問題ないが、やや劣るランクとした。
ランクC:上記の評価項目で、1つでもc判定があった場合は、本課題の解決策として不充分なランク(不合格)とした。
【0176】
[検証結果]
検証結果を表5~11に示す。
以下の、各供試体間の比較検証において、下記に示す条件は、ベルト横剛性、ならびにベルト性能[伝達性能(スリップ率)、耐久性能]に及ぼす影響が比較的小さいことが既知のため、水準の変量は行わず、固定(一定)条件とした。
【0177】
(固定条件)
[Vベルト]
接着ゴム層の硬度、伸張ゴム層の硬度、ベルトピッチ幅、ベルト外周長
[駆動プーリ及び従動プーリ]
最大ピッチ径、軸間距離
【0178】
【0179】
(実施例1、2)
アラミド繊維の心線を用い、圧縮ゴム層の硬度95°、ベルト厚み8mmを一定にしたVベルトを用いたベルト機構において、プーリの最小ピッチ径を変量し、比較した。
使用条件(前提)として、コンパクト性(スペース面の制約)と変速ベルト機構上の許容範囲とを共に満たすプーリの最小ピッチ径は、40~45mmの範囲に制限されている。その範囲内において、プーリの最小ピッチ径が大きくなると、LT係数が小さくなり、スリップ率が減少する傾向が見られた。両者(実施例1、2)のVベルトが同じ態様であるため、両者のベルト横剛性(いずれも2000N/mm)に差は無く、これらの条件では共に所定(合格レベル)のベルト性能[伝達性能(スリップ率)、耐久性能]を確保できた(a判定またはb判定)。
具体的には、プーリの最小ピッチ径が45mm(実施例1)の場合は、伝達性能(スリップ率)および耐久性能がいずれもa判定(総合判定でもランクA)であったが、プーリの最小ピッチ径が40mm (実施例2)の場合は、プーリの最小ピッチ径が45mm(実施例1)の場合と比較し、耐久性能は同等のa判定であったが、LT係数が12とやや大きくなったため、伝達性能(スリップ率)がb判定(総合判定でもランクB)となった。
以上の結果から、コンパクト性とベルト性能[伝達性能(スリップ率)、耐久性能]とを両立できる、という点で、プーリの最小ピッチ径は、40~45mmの範囲が好ましく、45mmが最も好ましいと云える。
【0180】
(心線種(フィラメントの材質)を変更した比較)
【表6】
【0181】
(実施例1、3)
実施例1のベルト機構(圧縮ゴム層の硬度95°、ベルト厚み8mm、プーリの最小ピッチ径45mm)をベースにして、心線を構成する繊維(アラミド繊維)を変更し、比較した。
アラミド心線に比べて、引張弾性率が低いPET心線(指数43)を用いた実施例3では、アラミド心線を用いた場合(実施例1)と比較し、耐久性能は同等のa判定であったが、ベルト横剛性がやや低下したため、伝達性能(スリップ率)がb判定(総合判定でもランクB)となった。
【0182】
【0183】
(実施例1、4、比較例1~2)
実施例1のベルト機構(アラミド心線、ベルト厚み8mm、プーリの最小ピッチ径45mm)をベースにして、圧縮ゴム層の硬度95°を変更し、比較した。
圧縮ゴム層の硬度が大きくなるほど、ベルト横剛性が高くなり、スリップ率が減少するものの、ベルト横剛性が過大になりすぎると、耐久性能(耐亀裂性)が劣る傾向が見られた。
具体的には、実施例1に対して、圧縮ゴム層の硬度を93°まで小さくした比較例1では、ベルト横剛性が1000N/mmと過小になり、耐久走行前の伝達性能(スリップ率)では、測定不能[所定(10Nm)の最大トルクが駆動軸に入力される前に(8Nmのトルクで)全面的にスリップする状態]となりc判定(総合判定でもランクC)となり、実施例1に対して、圧縮ゴム層の硬度を97°(ベルトの製造品質を満足するゴム硬度の上限水準)まで大きくした比較例2では、伝達性能(スリップ率)がa判定であったが、ベルト横剛性が2700N/mmと過大になり、ベルトの屈曲性が過度に低下したためか、走行中に亀裂(コグ谷部)が発生し耐久性能がc判定(総合判定でもランクC)となった。
なお、ベルトの耐久性能(特に耐亀裂性)は、ベルトの屈曲性(屈曲性が適度に良いほど耐亀裂性が良い)にも左右され、ベルトの屈曲性に関しては、ベルト厚みも影響する。
そこで、その影響を確認するため、実施例4は、比較例2のVベルトに対して、圧縮ゴム層の硬度97°を一定とした条件で、ベルト厚みを7mmに減らした例であるが、ベルトの屈曲性がやや改善したためか、耐久性能が実施例1と同等のa判定(総合判定でもランクA)となった。
以上の結果から、ベルト性能[伝達性能(スリップ率)、耐久性能]を確保できる、という点で、Vベルトの圧縮ゴム層の硬度の好適な範囲は95°以上97°以下と云える。
【0184】
【0185】
(実施例1、5~6、比較例3)
実施例1のベルト機構(アラミド心線、圧縮ゴム層の硬度95°、プーリの最小ピッチ径45mm)をベースにして、ベルト厚み8mmを変更し、比較した。
ベルト厚みが大きくなるほど、コンパクト性が損なわれるものの、LT係数が小さくなるとともに、ベルト横剛性が高くなり、スリップ率が減少する傾向が見られた。
具体的には、実施例1に対して、ベルト厚みを7mmまで小さくした実施例5では、伝達性能(スリップ率)がb判定、耐久性能がa判定でランクBと合格レベルであったが、ベルト厚みを6mmまで小さくした比較例3では、LT係数が12で、かつベルト横剛性が800N/mmと過小になり、耐久走行前の伝達性能(スリップ率)では、測定不能(8Nmのトルクで全面的にスリップする状態)となりc判定(総合判定でもランクC)となった。
実施例1に対して、ベルト厚みを9mmまで大きくした実施例6では、コンパクト性がb判定となったが、LT係数が8.1まで下がるとともに、ベルト横剛性が2500N/mmまで増加し、伝達性能(スリップ率)および耐久性能がともにa判定(総合判定はランクB)となった。
以上の結果から、コンパクト性とベルト性能[伝達性能(スリップ率)、耐久性能]とを両立できる、という点で、ベルト厚みは7~9mmの範囲が好ましく、7~8mmの範囲がより好ましく、8mmが最も好ましいと云える。
【0186】
(LT係数が8の水準になる条件間の比較)
【表9】
【0187】
(実施例6~7、比較例4~5)
さらに、実施例6以外に、LT係数が8の水準になる他の条件(ベルト厚み9mm、プーリの最小ピッチ径45mmを一定とした条件)でも、ベルト性能への影響を確認した。
比較例4は、実施例6のベルト機構(アラミド心線、ベルト厚み9mm、プーリの最小ピッチ径45mm)に対して、圧縮ゴム層の硬度を97°まで上げた例であるが、LT係数が同じ8の水準で、ベルト横剛性が3000N/mmと過大となり、伝達性能(スリップ率)が同等のa判定であったが、ベルトの屈曲性が過度に低下したためか、耐久性能がc判定でランクCであった。
実施例7は、実施例6に対して、圧縮ゴム層の硬度を逆に93°まで下げた例であるが、LT係数が同じ8の水準で、ベルト横剛性が1500N/mmまで低下したため、スリップ率の値が増加し、伝達性能がb判定であったが、ベルトの屈曲性が良好なためか、耐久性能は同等のa判定で、ランクBであった。
比較例5は、実施例7に対して、心線をPET心線に変更した例であるが、LT係数が同じ8の水準で、ベルト横剛性が1100N/mmと過小になり、耐久走行前の伝達性能(スリップ率)では、測定不能(8Nmのトルクで全面的にスリップする状態)となりc判定(総合判定でもランクC)となった。
以上の結果から、小型スクータの場合(LT係数が4~8程度)と比べて、LT係数が8と過大であっても、ベルト横剛性が1500~2500N/mmの範囲に確保されていれば、ベルト性能[伝達性能(スリップ率)、耐久性能]を確保できると云える。
【0188】
(LT係数が12の水準になる条件間の比較)
【表10】
【0189】
(実施例8~9、比較例6~7)
さらに、実施例2、比較例3以外に、LT係数が12の水準になる他の条件(ベルト厚み8mm、プーリの最小ピッチ径40mmを一定とした条件)でも、ベルト性能への影響を確認した。
比較例6は、比較例2のベルト機構(アラミド心線、圧縮ゴム層の硬度97°、ベルト厚み8mm)に対して、Vベルトは変更せず、プーリの最小ピッチ径を40mmに減らした例であるが、ベルト横剛性が2700N/mmと過大のまま、LT係数が12とやや増加したため、伝達性能(スリップ率)がb判定となり、耐久性能は同等のc判定でランクCであった。
実施例8は、比較例6に対して、心線をPET心線に変更した例であるが、LT係数が同じ12の水準で、ベルト横剛性が2500N/mmと若干低下したため、スリップ率の値が僅かに増加したが(伝達性能は同等のb判定)、ベルトの屈曲性がやや改善したためか、耐久性能がやや向上し(b判定)、ランクBであった。
実施例9は、実施例8に対して、圧縮ゴム層の硬度を95°に変更した例であるが、LT係数が同じ12の水準で、ベルト横剛性が1500N/mmとやや低下したため、スリップ率の値が若干増加したが(伝達性能は同等のb判定)、ベルトの屈曲性がさらに改善したためか、耐久性能がやや向上しa判定で、ランクBであった。
比較例7は、比較例6に対して、圧縮ゴム層の硬度を93°に減らした例であるが、LT係数が同じ12の水準で、かつベルト横剛性が1000N/mmと過小になり、耐久走行前の伝達性能(スリップ率)では、測定不能(8Nmのトルクで全面的にスリップする状態)となりc判定(総合判定でもランクC)となった。
以上の結果から、小型スクータの場合(LT係数が4~8程度)と比べて、LT係数が12と過大であっても、ベルト横剛性が1500~2500N/mmの範囲に確保されていれば、ベルト性能[伝達性能(スリップ率)、耐久性能]を確保できると云える。
【0190】
【0191】
(実施例1、参考例1)
実施例1のベルト機構(ベルト厚み8mm)に相当する、小型スクータ用の無段変速機に備わるベルト機構の代表例を参考例1とした。
参考例1(小型スクータ用)では、実施例1(自転車用)と比較し、駆動プーリ及び従動プーリに関し、最小ピッチ径が55mm(さらには、最大ピッチ径が120mm、軸間距離が229mm)と大きいため、ベルト厚み(8mm)及び最大トルク(10Nm)を一定にした場合のLT係数は5.9と顕著に小さくなった。そのため、Vベルトに関し、心線がPET繊維で、圧縮ゴム層の硬度が89°であり、ベルト横剛性が600N/mmと過小であっても、ベルト性能[伝達性能(スリップ率)、耐久性能]はa判定であった。
しかし、コンパクト性がc判定であり、コンパクト性とベルト性能[伝達性能(スリップ率)、耐久性能]とを両立できなかった(C判定)。
【0192】
(得られた効果)
表5~11の結果から、実施例の各ベルト機構は、自転車用の無段変速機に搭載可能なように、Vベルト(心線種、圧縮ゴム層の硬度、ベルト厚み、等)、ならびに、駆動プーリ及び従動プーリ(最小ピッチ径、最大ピッチ径、軸間距離)を適切に設計することで、小型スクータの場合(LT係数が4~8程度)と比べても、コンパクトに形成されるとともに、『ベルトのスリップのし易さ』を表す一指標(代用特性)であるLT係数が8~12と過大であり、駆動プーリのピッチ径が最小(40~45mmの範囲内)となる変速条件下で、摩擦伝動能力が不足して、駆動プーリとVベルトとの間のスリップが極めて誘発し易いといった、過酷な使用条件下(プーリレイアウトや負荷)にあっても、耐側圧性、即ち『軸荷重(側圧)に対する座屈変形のしにくさ』(ライドアウト変化量の大小)を表す一指標(代用特性)であるベルト横剛性が1500~2500N/mmと、小型スクータの場合(ベルト横剛性が300~1500N/mm程度)と比べても、十分に高い水準に確保されており、その結果、耐久性能(目標の400時間打ち切りまでに顕著な異常が見られず、完走)の確保はもとより、伝達性能(耐久性能試験前後のスリップ率)に関し、駆動プーリ(最小ピッチ径)とベルトとの間のスリップを抑制し、必要な伝達力(スリップ率5%以下)を確保する効果を及ぼすことが判った。