(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163150
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】X線光学素子及びその製造方法、並びにX線照射装置
(51)【国際特許分類】
G21K 1/00 20060101AFI20231101BHJP
G21K 5/02 20060101ALI20231101BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231101BHJP
B22F 10/28 20210101ALN20231101BHJP
B22F 10/12 20210101ALN20231101BHJP
【FI】
G21K1/00 X
G21K5/02 X
B33Y10/00
B22F10/28
B22F10/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067825
(22)【出願日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2022072937
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 彰太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史雄
(72)【発明者】
【氏名】益田 紀彰
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】X線の進行方向を制御することができ、被照射物に照射するX線の強度を高めることができる、X線光学素子を提供する。
【解決手段】X線を反射させ被照射物へ向けて集光させるためのX線光学素子1であって、複数の管状部材2を備え、複数の管状部材2は、それぞれ、異なる内径を有し、複数の管状部材2は、共通の回転対称軸Oを有する、回転対称体である、X線光学素子1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を反射させ被照射物へ向けて集光させるためのX線光学素子であって、
複数の管状部材を備え、
前記複数の管状部材は、それぞれ、異なる内径を有し、
前記複数の管状部材は、共通の回転対称軸を有する、回転対称体である、X線光学素子。
【請求項2】
前記複数の管状部材が同心円状に配置されている、請求項1に記載のX線光学素子。
【請求項3】
前記X線光学素子は、光軸方向において対向している、第1の端面及び第2の端面を有し、
前記X線光学素子は、前記回転対称軸上に設けられている、貫通孔を有し、
前記貫通孔は、前記第1の端面から前記第2の端面に至るように設けられている、請求項2に記載のX線光学素子。
【請求項4】
前記貫通孔の最大となる内径が、2000μm以下である、請求項3に記載のX線光学素子。
【請求項5】
前記X線光学素子は、前記複数の管状部材を連結している、連結部を有し、
前記連結部は、光軸方向に直交する方向に延びている、請求項1~4のいずれか1項に記載のX線光学素子。
【請求項6】
前記X線光学素子の前記光軸方向に直交する断面において、前記連結部が設けられる箇所が12箇所以下である、請求項5に記載のX線光学素子。
【請求項7】
X線を反射させ被照射物へ向けて集光させるためのX線光学素子の製造方法であって、
3Dプリンタを用いて材料を造形することにより、X線光学素子を形成する工程を備える、X線光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のX線光学素子の製造方法であって、
3Dプリンタを用いて材料を造形することにより、X線光学素子を形成する工程を備える、X線光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記管状部材の内面を平滑にする工程をさらに備える、請求項8に記載のX線光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記管状部材の内面にコーティング処理を施し、金属膜を形成する工程をさらに備える、請求項9に記載のX線光学素子の製造方法。
【請求項11】
X線照射源と、
請求項1~4のいずれか1項に記載のX線光学素子と、
を備える、X線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線光学素子、X線光学素子の製造方法、及びX線光学素子を用いたX線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、X線回折装置や蛍光X線分析装置等による分析分野、あるいはレントゲンや放射線治療等による医療分野で広く用いられている。近年では、これらの分野における技術の発展に伴い、必要な個所のみに高強度のX線を照射する技術が求められている。しかしながら、X線は、可視光線のように一般的なレンズによる屈折を利用した進行方向の制御が難しく、微小部に高強度のX線を照射することが難しいという問題がある。そこで、X線モノキャピラリレンズや、X線マルチキャピラリレンズのようなX線光学素子を用いてX線の進行方向を制御し、X線を集光する方法が検討されている(例えば、特許文献1や特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平07-011600号公報
【特許文献2】特公平07-040080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、X線モノキャピラリレンズは、回転楕円体の両端を切断した形状を有する単管により構成されている。X線モノキャピラリレンズでは、この単管の内部をX線ごとに1回全反射させることにより、X線の進行方向を制御し、X線を集光させている。
【0005】
また、X線マルチキャピラリレンズは、微細管が数百~数十万本束ねられて構成されている。X線マルチキャピラリレンズでは、各微細管の内壁面においてX線を複数回全反射させることにより、X線の進行方向を制御し、X線を集光させている。
【0006】
しかしながら、従来のX線モノキャピラリレンズや、X線マルチキャピラリレンズによっても、被照射物に照射するX線の強度をなお十分に高めることが難しいという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、X線の進行方向を制御することができ、被照射物に照射するX線の強度を高めることができる、X線光学素子、X線光学素子の製造方法、及びX線光学素子を用いたX線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するX線光学素子、X線光学素子の製造方法、及びX線光学素子を用いたX線照射装置の各態様について説明する。
【0009】
本発明の態様1に係るX線光学素子は、X線を反射させ被照射物へ向けて集光させるためのX線光学素子であって、複数の管状部材を備え、前記複数の管状部材は、それぞれ、異なる内径を有し、前記複数の管状部材は、共通の回転対称軸を有する、回転対称体であることを特徴としている。なお、本発明におけるX線は、波長10nm以下の広義の電磁波を意味し、一般的なX線に加えてγ線等も含む意味で使用されるものとする。
【0010】
態様2に係るX線光学素子は、態様1において、前記複数の管状部材が同心円状に配置されていることが好ましい。
【0011】
態様3に係るX線光学素子は、態様1又は態様2において、前記X線光学素子は、光軸方向において対向している、第1の端面及び第2の端面を有し、前記X線光学素子は、前記回転対称軸上に設けられている、貫通孔を有し、前記貫通孔は、前記第1の端面から前記第2の端面に至るように設けられていることが好ましい。
【0012】
態様4に係るX線光学素子は、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、前記貫通孔の最大となる内径が、2000μm以下であることが好ましい。
【0013】
態様5に係るX線光学素子は、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、前記X線光学素子が、前記複数の管状部材を連結している、連結部を有し、前記連結部は、光軸方向に直交する方向に延びていることが好ましい。
【0014】
態様6に係るX線光学素子は、態様5において、前記X線光学素子の前記光軸方向に直交する断面において、前記連結部が設けられる箇所が12箇所以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の態様7に係るX線光学素子の製造方法の広い局面では、X線を反射させ被照射物へ向けて集光させるためのX線光学素子の製造方法であって、3Dプリンタを用いて材料を造形することにより、X線光学素子を形成する工程を備えることを特徴としている。
【0016】
本発明の態様8に係るX線光学素子の製造方法の他の広い局面では、態様1から態様6のいずれか一つの態様に従って構成されるX線光学素子の製造方法であって、3Dプリンタを用いて材料を造形することにより、X線光学素子を形成する工程を備えることを特徴としている。
【0017】
態様9に係るX線光学素子の製造方法は、態様7又は態様8において、前記管状部材の内面を平滑にする工程をさらに備えることが好ましい。
【0018】
態様10に係るX線光学素子の製造方法は、態様7から態様9のいずれか一つの態様において、前記管状部材の内面にコーティング処理を施し、金属膜を形成する工程をさらに備えることが好ましい。
【0019】
本発明の態様11に係るX線照射装置は、X線照射源と、態様1から態様6のいずれか一つの態様に従って構成されるX線光学素子とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、X線の進行方向を制御することができ、被照射物に照射するX線の強度を高めることができる、X線光学素子、X線光学素子の製造方法、及びX線光学素子を用いたX線照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的斜視図である。
【
図2】
図1のX線光学素子において、光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。
【
図3】
図1のX線光学素子において、光軸方向に沿う方向における断面を示す模式的断面図である。
【
図4】(a)は、本発明の第1の実施形態に係るX線光学素子の反射面の一例を示す模式図であり、(b)は、従来のX線マルチキャピラリレンズの反射面の一例を示す模式図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的断面図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的断面図である。
【
図7】本発明の第4の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的断面図である。
【
図8】本発明の第5の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るX線照射装置を示す模式的断面図である。
【
図10】実施例2で作製したX線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。
【
図11】実施例3で作製したX線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。
【
図12】実施例4で作製したX線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。
【
図13】実施例5で作製したX線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。
【
図14】実施例6で作製したX線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。
【
図15】実施例7で作製したX線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。
【
図16】実施例1~3及び比較例1で作製したX線光学素子のX線強度測定結果を示す図である。
【
図17】実施例1及び実施例5で作製したX線光学素子のX線強度測定結果を示す図である。
【
図18】実施例4、実施例6、及び実施例7で作製したX線光学素子のX線強度測定結果を示す図である。
【
図19】従来のX線モノキャピラリレンズの一例を示す模式的断面図である。
【
図20】従来のX線マルチキャピラリレンズの一例を示す模式図である。
【
図21】(a)は、比較例1で作製したX線光学素子を示す模式的斜視図であり、(b)は、比較例1で作製したX線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0023】
[X線光学素子]
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的斜視図である。
図2は、
図1のX線光学素子において、光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。また、
図3は、
図1のX線光学素子において、光軸方向に沿う方向における断面を示す模式的断面図である。
【0024】
X線光学素子1は、被照射物へ向けてX線を集光させるための素子である。X線光学素子1は、対向している第1の端面1a及び第2の端面1bを有する。第1の端面1aは、X線源10が配置される側の端面である。また、第2の端面1bは、X線を集光する焦点11側の端面である。なお、各図面においては、第1の端面1a及び第2の端面1bを結ぶ方向が、X線光学素子1の長さ方向であり、光軸方向Xである。
【0025】
図2に示すように、X線光学素子1は、複数の管状部材2を有する。複数の管状部材2は、それぞれ、異なる内径を有している。また、複数の管状部材2は、共通の回転対称軸Oを有する、回転対称体である。本実施形態において、複数の管状部材2は、同心円状に配置されている。すなわち、本実施形態において、複数の管状部材2は、入れ子状に配置されている。この場合、X線光学素子1の光軸方向Xに沿う方向に対して垂直な任意の断面において、複数の管状部材2が同一断面上にあると好ましく、X線光学素子1の光軸方向Xに沿う方向に対して垂直な任意の断面において、すべての複数の管状部材2が同一断面上にあるとより好ましい。なお、本発明においては、複数の管状部材2が、1つの共通の回転対称軸Oを有していればよいが、2以上の共通の回転対称軸を有していてもよい。
【0026】
図3に示すように、X線光学素子1では、光軸方向Xに沿う方向における断面が、略楕円形状である。より具体的には、X線光学素子1では、楕円形状の光軸方向Xに沿う方向における両端部が切断され、第1の端面1a及び第2の端面1bが形成されている。第1の端面1a及び第2の端面1bは、光軸方向Xに略直交する方向に延びるように形成されている。X線光学素子1は、このような断面形状を有する回転楕円体であり、略楕円球形状を有している。
【0027】
本実施形態では、
図3に示すように、X線源10から発せられたX線が、X線光学素子1の第1の端面1a側から入射される。また、第1の端面1a側から入射され、X線光学素子1の内部を通過したX線は、第2の端面1b側から出射される。そして、第2の端面1b側から出射されたX線は、焦点11に集光される。
【0028】
本実施形態のX線光学素子1は、上記の構成を備えるので、X線の進行方向を制御することができ、被照射物に照射するX線の強度を高めることができる。この理由については、従来のX線モノキャピラリレンズや、X線マルチキャピラリレンズと比較して、以下のように説明することができる。
【0029】
図19は、従来のX線モノキャピラリレンズの一例を示す模式的断面図である。なお、
図19は、X線モノキャピラリレンズの光軸方向に沿う方向における断面図である。
図19に示すX線モノキャピラリレンズ101は、回転楕円体の両端を切断した形状を有する単管である。X線モノキャピラリレンズ101では、X線源110から発せられたX線を、その内部においてX線ごとに1回全反射させることにより、焦点111に集光させている。しかしながら、このようなX線モノキャピラリレンズ101では、X線源110から発せられたX線のうち多くの部分が、X線モノキャピラリレンズ101の内壁面102に当たらずに透過してしまうため、焦点111においてX線の強度を十分に高められないという問題があった。
【0030】
図20は、従来のX線マルチキャピラリレンズの一例を示す模式図である。
図20に示すX線マルチキャピラリレンズ121は、内径が2μm~数十μmの微細管122が数百~数十万本束ねられて構成されている。X線マルチキャピラリレンズ121では、X線源から発せられたX線を、各微細管122の内壁面において複数回全反射させることにより進行方向を制御させ、焦点に集光させている。このようなX線マルチキャピラリレンズ121では、各微細管122に入射した全てのX線を制御することができるため、集光させたX線の強度を高めることができる。しかしながら、従来のX線マルチキャピラリレンズ121では、微細管122同士の隙間はX線の全反射に寄与できないし、微細管122の肉厚部分はX線を入射させる際の遮蔽部分となることから、集光させたX線の強度を十分に高められないという問題があった。
【0031】
これに対して、本実施形態のX線光学素子1では、複数の管状部材2が、それぞれ、異なる内径を有しており、しかも複数の管状部材2が、共通の回転対称軸Oを有する、回転対称体であることを特徴としている。このようなX線光学素子1では、X線源10から発せられたX線を、管状部材2の内壁面2aにおいて複数回全反射させることにより進行方向を制御させ、焦点11に集光させることができる。X線光学素子1では、管状部材2内に入射したX線を広い範囲で制御することができ、特に管状部材2の内周面全体を利用してX線を全反射させることができる。そのため、X線光学素子1では、X線源10から発せられたX線を効率良く焦点11に集光させることができ、集光させたX線の強度を効率良く高めることができる。なお、本実施形態においては、X線源10から発せられたX線が、各管状部材2の内壁面2aで複数回全反射して各管状部材2間を進行し、焦点11に集光されている。もっとも、本発明においては、各管状部材2の内壁面2aで1回のみ全反射して各管状部材2間を進行し、焦点11に集光されてもよい。また、本発明においては、最も内側の管状部材4の内壁面2aではX線が全反射せずに、貫通孔3内をそのままX線が進行するように設計されていてもよい。また、各管状部材2と最も内側の管状部材4の形状および/または材質を異ならせてもよい。もっとも、各管状部材2と最も内側の管状部材4の形状および/または材質は、略同一であってもよい。なお、本発明において、各管状部材2と最も内側の管状部材4の形状が異なる場合は、最も内側の管状部材4とそれに最も近い管状部材2との間隔(最も内側の管状部材4と次に内側に配置されている管状部材2との間隔)は、管状部材2間の間隔として採用しないこととする。また、最も内側の管状部材4の形状が円形でない場合、内径は貫通孔3の面積を計測して算出した円相当径を採用することとする。
【0032】
ここで、
図4(a)は、本発明の第1の実施形態に係るX線光学素子の反射面の一例を示す模式図である。
図4(b)は、従来のX線マルチキャピラリレンズの反射面の一例を示す模式図である。なお、
図4(a)及び(b)においては、反射面をハッチングで示している。
【0033】
図4(b)に示す従来のX線マルチキャピラリレンズでは、各微細管122の内周面のうちの一部分のみがX線の反射可能な反射面122bである。また、
図4(b)において矢印で示す、微細管122同士の隙間はX線の全反射に寄与できないことがわかる。一方、
図4(a)に示す本実施形態のX線光学素子では、管状部材2の内周面の略全周にわたってX線を反射可能な反射面2bが設けられている。なお、管状部材2の外周面を利用してX線を反射させてもよい。
【0034】
図2及び
図3に戻り、本実施形態において、X線光学素子1は、中央部に貫通孔3を有している。貫通孔3は、回転対称軸O上に設けられている。また、貫通孔3は、X線光学素子1の第1の端面1a及び第2の端面1b間を貫通するように設けられている。このような貫通孔3を設けることにより、X線光学素子1の中央部においてもX線源10から発せられたX線を通過させることができ、それによって被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。もっとも、本発明において、貫通孔3は、必ずしも設けられていなくてもよく、貫通孔3が設けられる箇所が閉じられていてもよい。
【0035】
X線光学素子1に設けられる貫通孔3の最大となる内径は、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1800μm以下、さらに好ましくは1600μm以下、さらにより好ましくは1500μm以下、さらにより好ましくは1200μm以下、さらにより好ましくは1100μm以下、さらにより好ましくは1000μm以下、さらにより好ましくは800μm以下、さらにより好ましくは600μm以下、さらにより好ましくは500μm以下、さらにより好ましくは300μm以下、さらにより好ましくは200μm以下、さらにより好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは80μm以下、さらにより好ましくは50μm以下、特に好ましくは30μm以下、最も好ましくは10μm以下である。貫通孔3の最大となる内径が上記上限値以下である場合、焦点11においてX線をより一層確実に集光させることができる。なお、貫通孔3の内径は、X線光学素子1を構成する複数の管状部材2のうち最も内側の管状部材4の内径に相当している。また、貫通孔3の最大となる内径とは、光軸方向Xに沿う方向において最も貫通孔3の内径が大きくなる位置における貫通孔3の内径のことをいう。また、貫通孔3の最大となる内径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、さらにより好ましくは0.3μm以上、特に好ましくは0.5μm以上、最も好ましくは1μm以上である。貫通孔3の最大となる内径が上記下限値以上である場合、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。また、貫通孔3を形成しやすくすることができる。
【0036】
また、X線光学素子1に設けられる貫通孔3の最小となる内径については、好ましくは1500μm以下、より好ましくは1200μm以下、さらに好ましくは1100μm以下、さらにより好ましくは1000μm以下、さらにより好ましくは800μm以下、さらにより好ましくは600μm以下、さらにより好ましくは500μm以下、さらにより好ましくは300μm以下、さらにより好ましくは200μm以下、さらにより好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは80μm以下、さらにより好ましくは50μm以下、特に好ましくは30μm以下、最も好ましくは10μm以下である。貫通孔3の最小となる内径が上記上限値以下である場合、焦点11においてX線をより一層確実に集光させることができる。また、X線光学素子1に設けられる貫通孔3の最小となる内径の下限値は特に限定されないが、例えば、0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上である。貫通孔3の最小となる内径が上記下限値以上である場合、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。また、貫通孔3の最小となる内径が上記下限値以上である場合、貫通孔3を形成しやすくすることができる。なお、貫通孔3の最小となる内径とは、光軸方向Xに沿う方向において最も貫通孔3の内径が小さくなる位置における貫通孔3の内径のことをいう。
【0037】
本実施形態において、X線光学素子1の第1の端面1a及び第2の端面1bにおける外径は等しくてもよく、異なっていてもよい。第1の端面1aにおける外径が大きいほどX線光学素子1に入射するX線量を増やすことができ、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。また、第2の端面1bにおける外径が小さいほど、X線光学素子1から被照射物までの距離を縮めることで、X線の広がりを抑えることができ、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。
【0038】
本実施形態において、X線光学素子1は、連結部6を有している。
図2に示すように、連結部6は、光軸方向Xに直交する方向に延びており、複数の管状部材2同士を連結している。連結部6を設けることにより、X線光学素子1の機械強度をより一層高めることができる。また、X線光学素子1の形状を保持し易くすることができる。
【0039】
なお、
図3は、連結部6が設けられていない部分の断面図であるため、連結部6が省略されているが、連結部6は、光軸方向Xに沿う方向にも延びている。連結部6は、光軸方向Xにおいて、第1の端面1aから第2の端面1bまで連続的に延びるように設けられていてもよいし、部分的に設けられていてもよい。後述の3Dプリンタによる製造方法では、連結部6を光軸方向Xにおいて部分的に設けることもできる。
【0040】
また、X線光学素子1では、4箇所において連結部6が設けられている。本発明において、連結部6が設けられる箇所の数は、特に限定されないが、好ましくは12箇所以下、より好ましくは6箇所以下、さらに好ましくは4箇所以下である。この場合、X線を入射させる際の遮蔽部分をより一層少なくすることができ、集光させるX線の強度をより一層高めることができる。特に、中心に近い周ほど、連結部6による遮蔽の影響が大きくなるため、連結部6の本数が少ないことが好ましい。従って、X線光学素子1において、連結部6は設けられなくてもよい。連結部6は、X線光学素子1の機械的強度に応じて1箇所以上に設けられていてもよい。なお、連結部6の肉厚は、例えば、0.01μm以上、0.1μm以上、1.0μm以上、1500μm以下、1000μm以下、500μm以下、200μm以下、100μm以下、50μm以下、20μm以下、10μm以下とすることができる。
【0041】
本実施形態において、X線光学素子1を構成する管状部材2の個数は、特に限定されない。もっとも、管状部材2は、好ましくは同心円状に2個以上、より好ましくは5個以上、さらに好ましくは10個以上、さらに好ましくは20個以上、さらに好ましくは50個以上、さらに好ましくは100個以上、特に好ましくは200個以上、最も好ましくは300個以上配置することができる。この場合、被照射部に照射するX線の強度をより一層高めることができる。なお、管状部材2の個数の上限値は、特に限定されないが、外側の管状部材2ほどX線の強度が低下しやすいことを考慮して、好ましくは2000個以下、より好ましくは1500個以下、さらに好ましくは1000個以下とすることができる。また、X線光学素子1を構成する管状部材2の配置について、各管状部材2の形状が、略円形状である場合、多角形や楕円形など厳密には円形でない場合においても、便宜上、同心円状と表すものとする。
【0042】
また、X線光学素子1では、管状部材2の肉厚が、好ましくは1500μm以下、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは10μm以下、最も好ましくは5μm以下である。管状部材2の肉厚が上記上限値以下である場合、X線を入射させる際の遮蔽部分をより一層少なくすることができ、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。なお、管状部材2の肉厚の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.01μmとすることができる。
【0043】
なお、複数の管状部材2のうち最も外側の管状部材5の肉厚は、好ましくは500μm以上、より好ましくは1000μm以上である。最も外側の管状部材5の肉厚が上記下限値以上である場合、X線光学素子1の機械強度をより一層高めることができる。なお、最も外側の管状部材5の肉厚の上限値は、特に限定されないが、例えば、5000μmとすることができる。
【0044】
また、最も外側の管状部材5以外の各管状部材2の肉厚は、できる限り同じであることが望ましいが、異なっていてもよい。
【0045】
本実施形態において、各管状部材2の内径は、光軸方向Xに直交する方向の外側に配置される管状部材2ほど大きくなっている。また、各管状部材2は、光軸方向Xに直交する方向において、等間隔で配置されている。本実施形態のように、各管状部材2を等間隔で配置した場合は、X線光学素子1を構成する管状部材2の数を多くし易いが、光軸方向Xに直交する方向において、各管状部材2間の間隔は、等間隔でなくともよく、特に限定はされない。なお、各管状部材2間の間隔は、各管状部材2間の間隔が等間隔でない場合、各管状部材2間の間隔を平均した値を採用する。
【0046】
また、光軸方向Xに直交する方向における各管状部材2間の間隔は、特に限定されないが、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下、最も好ましくは1μm以下である。各管状部材2間の間隔が上記下限値以上である場合、各管状部材2の内部により一層確実にX線を入射させることができ、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。また、各管状部材2間の間隔が上記上限値以下である場合、X線光学素子1を構成する管状部材2の個数をより一層多くすることができ、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。
【0047】
本実施形態において、最外周を除く各管状部材2の肉厚をTとし、光軸方向Xに直交する方向における各管状部材2間の間隔をDとした場合、これらの比率T/Dは、2.0以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましく、0.3以下であることがさらに好ましく、0.1以下であることが特に好ましい。また、比率T/Dは、0.001以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましい。比率T/Dが上記上限値以下の場合、光軸方向Xに直交する断面において、X線の透過光量を増加でき、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。また、比率T/Dが上記下限値以上の場合、各管状部材2の剛性を担保でき、取り扱い時に破損し難くすることができる。
【0048】
本実施形態において、X線光学素子1に設けられる貫通孔3の最大となる内径をφとしたときに、光軸方向Xに直交する方向における各管状部材2間の間隔Dとの比率φ/Dは、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましく、1.3以下であることがさらにより好ましく、1.0以下であることが特に好ましい。また、比率φ/Dは、0.001以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましい。比率φ/Dが上記上限値以下の場合、各管状部材2の内部により一層確実にX線を入射させることができ、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。その結果、焦点11においてX線をより一層確実に集光させることができる。また、比率φ/Dが上記下限値以上の場合、貫通孔3を形成しやすくすることができる。
【0049】
X線光学素子1を構成する管状部材2の材料は、特に限定されないが、無機材料であることが好ましい。なかでも、管状部材2の材料は、3Dプリンタで造形できる材料であることが好ましく、金属材料であることがより好ましい。管状部材2の材料が金属材料である場合、全反射臨界角を大きくすることができるため、高エネルギー(短波長)のX線であっても、進行方向をより確実に制御することができる。なかでも、金属材料は、比重の大きい金属であることが好ましい。このような金属材料としては、例えば、Ti、Fe、Ni、Al、Cu等の純金属や、ステンレス、インコネル、アルミ系合金、銅系合金などの合金を用いることができる。なお、管状部材2の材料は、ガラスや樹脂等であってもよい。ガラスとしては、シリカガラス、ホウケイ酸ガラス等を好適に用いることができる。また、樹脂としては、紫外硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等を好適に用いることができる。
【0050】
また、管状部材2の内壁面2aに金属膜が設けられていてもよい。金属膜の材料としては、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Ni等を用いることができる。金属膜の厚みは、例えば、10nm以上、100nm以下とすることができる。
【0051】
管状部材2の内壁面2aの算術平均粗さRaは、特に限定されないが、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下、最も好ましくは2nm以下である。算術平均粗さRaが上記上限値以下である場合、全反射できる光線の割合が増え、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。なお、管状部材2の内壁面2aの算術平均粗さRaの下限値は、特に限定されないが、例えば、0.1nmとすることができる。なお、算術平均粗さRaは、JIS B 0633-2001に準拠して測定することができる。
【0052】
本実施形態において、X線光学素子1の寸法は、特に限定されない。例えば、X線光学素子1の第1の端面1a及び第2の端面1bにおける外径は、例えば、1mm以上、30mm以下とすることができる。また、X線光学素子1の光軸方向Xに沿う方向における中央部の外径は、例えば、1mm以上、50mm以下とすることができる。また、X線光学素子1の光軸方向Xに沿う長さは、例えば、10mm以上、300mm以下とすることができる。
【0053】
本実施形態のX線光学素子1によれば、X線の進行方向を制御することができ、被照射物に照射するX線の強度を高めることができる。そのため、X線光学素子1は、例えば、X線回折装置や、蛍光X線分析装置、多層薄膜膜厚測定・多層薄膜構造解析・立体物構造解析等による分析分野や、レントゲンや放射線治療等による医療分野、X線を用いた材料加工等による工業分野において好適に用いることができる。なかでも、X線光学素子1は、X線顕微分析などの微小領域における分析により好適に用いることができる。
【0054】
(第2~第4の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的断面図である。なお、
図5は、X線光学素子21の光軸方向Xに沿う方向における断面図である。また、
図5では、連結部26A,26Bが設けられる箇所の断面図を示している。
【0055】
図5に示すように、X線光学素子21は、第1の実施形態におけるX線光学素子1の右半分が切断された略半楕円球形状を有している。X線光学素子21は、6個の管状部材22により構成されている。また、X線光学素子21は、光軸方向Xにおいて対向している第1の端面21a及び第2の端面21bを有する。本実施形態において、第1の端面21aの面積は、第2の端面21bの面積よりも小さい。X線光学素子21では、第1の端面21a側にX線源が配置されていてもよいし、第2の端面21b側にX線源が配置されていてもよい。なお、第1の端面21a側にX線源が配置される場合は、第1の端面21a側からX線光学素子21に入射されたX線を第2の端面21b側から平行ビームとして出射することができる。また、第2の端面21b側にX線源が配置される場合は、第2の端面21b側からX線光学素子21に入射されたX線を第1の端面21a側から出射し、焦点に確実に集光することができる。なお、いずれの場合においても、X線源から発せられたX線は、各管状部材22の内壁面22aで複数回全反射して各管状部材22間を進行する。もっとも、本発明においては、各管状部材22の内壁面22aで1回のみ全反射して各管状部材22間を進行させてもよい。
【0056】
また、
図5に示すように、X線光学素子21では、連結部として、点状の連結部26Aと、棒状の連結部26Bが設けられている。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0057】
図6は、本発明の第3の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的断面図である。なお、
図6は、X線光学素子31の光軸方向Xに沿う方向における断面図である。
【0058】
図6に示すように、X線光学素子31では、6個の管状部材32が光軸方向Xに沿うように延びており、各管状部材32が平行に配置されている。従って、X線光学素子31は、略円柱形状を有している。また、X線光学素子31では、第1の端面31a側からX線光学素子31に入射されたX線を第2の端面31b側から平行ビームとして出射することができる。なお、本実施形態においても、X線源から発せられたX線は、各管状部材32の内壁面32aで複数回全反射して各管状部材32間を進行する。もっとも、本発明においては、各管状部材32の内壁面32aで1回のみ全反射して各管状部材32間を進行させてもよい。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0059】
図7は、本発明の第4の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的断面図である。なお、
図7は、X線光学素子41の光軸方向Xに沿う方向における断面図である。
【0060】
図7に示すように、X線光学素子41では、略半楕円球形状のX線光学素子21と略円柱形状のX線光学素子31が組み合わせられた構造を有している。X線光学素子41では、第1の端面41a側にX線源が配置されていてもよいし、第2の端面41b側にX線源が配置されていてもよい。なお、第1の端面41a側にX線源が配置される場合は、第1の端面41a側からX線光学素子41に入射されたX線を第2の端面41b側から平行ビームとして出射することができる。また、第2の端面41b側にX線源が配置される場合は、第2の端面41b側からX線光学素子41に入射されたX線を第1の端面41a側から出射し、焦点に確実に集光することができる。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0061】
第2~第4の実施形態のX線光学素子においても、複数の管状部材が、それぞれ、異なる内径を有している。また、複数の管状部材は、共通の回転対称軸を有する、回転対称体である。そのため、第2~第4の実施形態のX線光学素子によれば、X線の進行方向を制御することができ、被照射物に照射するX線の強度を高めることができる。
【0062】
本発明においては、第2~第4の実施形態のように、X線光学素子の形状が略半楕円球形状であってもよいし、各管状部材が光軸方向に平行に延びている略円柱形状であってもよい。また、X線光学素子の形状は、略半楕円球形状及び略円柱形状を組み合わせた形状であってもよい。あるいは、X線光学素子の形状は、回転双曲面形状であってもよいし、回転双曲面形状及び略楕円球形状を組み合わせた形状であってもよい。さらに、回転双曲面形状及び略円柱形状を組み合わせた形状であってもよい。
【0063】
本発明においては、第1の実施形態のようにX線の入射側と出射側でX線光学素子の形状が同じであってもよく、第4の実施形態のようにX線の入射側と出射側でX線光学素子の形状が異なっていてもよい。なお、X線の入射側と出射側でX線光学素子の形状が異なっている場合は、第4の実施形態のようにその境界で段差なく滑らかに接続されていることが好ましい。
【0064】
また、各管状部材の内面と外面は、異なる形状であってもよい。例えば、各管状部材の内面が楕円面であり、外面が双曲面であってもよい。また、X線光学素子の外形は、円筒状であってもよいし角筒状であってもよい。X線光学素子の外形が角筒状である場合、X線光学素子を保持し易くすることができ、装置に組み込みやすくすることができる。
【0065】
また、
図5に示す第2の実施形態のように、連結部26A,26Bの形状は、隣り合う管状部材22をバラバラにならない程度に連結するものである限りにおいて、特に限定されない。隣り合う管状部材22同士を少なくとも1個以上の点状の連結部26Aにより固定してもよいし、一部又は全部の管状部材22を棒状の連結部26Bで串刺すように固定してもよい。
【0066】
なお、本発明において、連結部26A、26Bの材料は、管状部材22と同じ材料を含むことが好ましく、管状部材22と同じ材料であることがより好ましい。よって、連結部26A、26Bの材料は、特に限定されないが、無機材料であることが好ましい。このようにすることで、連結部26A、26Bと管状部材22とで、熱膨張係数などの特性を同じにしやすいため、固定の信頼性がより向上する。また、製造する際に、管状部材22と一括で成形したり、3Dプリンタで造形したりしやすくなる。連結部26A、26Bの材料は、3Dプリンタで造形できる材料であることが好ましく、金属材料であることがより好ましく、例えば、Ti、Fe、Ni、Al、Cu等の純金属や、ステンレス、インコネル、アルミ系合金、銅系合金などの合金を用いることができる。なお、連結部26A、26Bの材料は、ガラスや樹脂等であってもよい。ガラスとしては、シリカガラス、ホウケイ酸ガラス等を好適に用いることができる。また、樹脂としては、紫外硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等を好適に用いることができる。
【0067】
(第5の実施形態)
図8は、本発明の第5の実施形態に係るX線光学素子を示す模式的断面図である。なお、
図8は、X線光学素子51の光軸方向Xに沿う方向における断面図である。
図8に示すように、X線光学素子51は、X線光学素子本体52と、蓋部53a,53bとを備える。より具体的には、X線光学素子本体52の第1の端面51aは、蓋部53aにより覆われている。また、X線光学素子本体52の第2の端面51bは、蓋部53bにより覆われている。X線光学素子51では、第1の端面51a及び第2の端面51bが蓋部53a,53bによって覆われることにより、内部に異物が混入し、それによってX線が遮蔽されることを防止することができる。そのため、X線光学素子51では、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。
【0068】
蓋部53a,53bの材料は、特に限定されないが、X線を吸収し難い材料であることが好ましい。このような観点から、蓋部53a,53bの材料は、例えば、Beや、有機材料を用いることができる。有機材料としては、例えば、ポリプロピレン、プロレン、ポリエステルを用いることができる。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0069】
第5の実施形態のX線光学素子51においても、複数の管状部材が、それぞれ、異なる内径を有している。また、複数の管状部材は、共通の回転対称軸を有する、回転対称体である。そのため、X線光学素子51によっても、X線の進行方向を制御することができ、被照射物に照射するX線の強度を高めることができる。
【0070】
また、第5の実施形態のX線光学素子51の内部には、Heを充填してもよい。X線光学素子51の内部に、空気ではなく、Heを充填することにより、空気によるX線の吸収を抑制することができ、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。
【0071】
なお、図示は省略しているが、本発明のX線光学素子は、保護部材により保護されていてもよい。保護部材は、X線光学素子の第1の端面及び第2の端面以外の全面を覆う形状でもよいし、一部を覆う形状でもよい。X線光学素子を保護部材によって保護することで、X線光学素子の欠けや破損を低減することができる。保護部材の材料は、特に限定されないが、X線を吸収し易い材料であることが好ましい。このような観点から、保護部材の材料は、例えば、ステンレス系合金や、金属銅を用いることができる。これらの材料を用いることで不必要な場所へのX線の漏洩を生じ難くすることができる。
【0072】
[X線光学素子の製造方法]
本発明のX線光学素子の製造方法では、X線を反射させ被照射物へ向けて集光させるためのX線光学素子が製造される。本発明のX線光学素子の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、3Dプリンタを用いて材料を造形することにより、X線光学素子を形成することができる。なお、本発明において、その他のX線光学素子の製造方法としては、例えば、ガラス材料の場合、線引き加工などが挙げられる。
【0073】
3Dプリンタによる造形に用いられる材料としては、例えば、金属、ガラス、セラミクス、樹脂などが挙げられる。3Dプリンタの造形方法としては、材料粉末を敷き詰めて造形するパウダーベッド方式;材料粉末に熱をかけ吹き付けることにより直接造形するデポジション方式;光硬化性樹脂と材料(金属、ガラス又はセラミクスの粉末を分散したものも含む)に対しUV光などを照射し、硬化させる光硬化方式;金属イオンを含有する溶液を用い、還元により金属を析出させて造形する電気還元方式などを用いることができる。金属、ガラス、セラミックを材料とし、樹脂と同時造形する場合には、いずれの方式においても、一次造形物を焼成し、不要な樹脂部分を除去して作製してもよい。例えば、樹脂と材料を混合してなる前駆体を造形し、その後脱媒、焼成することにより、X線光学素子を得てもよい。
【0074】
第1~第5の実施形態のように、X線光学素子が複数の管状部材により構成される場合、X線光学素子の製造方法は、管状部材の内面を平滑する工程をさらに備えていてもよい。管状部材の内面を平滑にする工程は、例えば、X線光学素子が、金属やガラスにより構成される場合は、管状部材の内面をエッチング処理することにより行うことができる。また、コーティング処理により平滑層を設けてもよい。また、砥粒を含む液体を内部に圧力を印加して通すことで研磨し、平滑層を設けてもよい。管状部材の内面を平滑にすることにより、全反射できる光線の割合が増え、被照射物に照射するX線の強度をより一層高めることができる。
【0075】
また、本発明のX線光学素子の製造方法は、管状部材の内面にコーティング処理を施す工程を備えていてもよい。なお、コーティング処理は、管状部材の内面が平滑であるかどうかや平滑層の有無に関わらず施すことができる。管状部材の内面にコーティング処理を施すことにより、金属膜を形成してもよい。コーティング処理は、例えば、めっき法や蒸着法により行うことができる。めっき法の場合は、例えば、Niを材料として用いることができる。また、蒸着法の場合は、AuやAg等を材料として用いることができる。管状部材の内面にコーティング処理を施すことにより、全反射臨界角を大きくすることができるため、高エネルギー(短波長)のX線であっても、進行方向をより確実に制御することができる。
【0076】
[X線照射装置]
図9は、本発明の一実施形態に係るX線照射装置を示す模式的断面図である。
図9に示すように、X線照射装置61は、X線源10と、上述したX線光学素子1とを備える。
【0077】
X線源としては、例えば、CuKα線(波長λ=1.5418Å)、MoKα線(波長λ=0.71069Å)、コバルト60(波長λ=0.0106Åおよび0.0093Å)等を用いることができる。
【0078】
本実施形態では、
図9に示すように、X線源10から発せられたX線が、X線光学素子1の第1の端面1a側から入射される。また、第1の端面1a側から入射され、X線光学素子1の内部を通過したX線は、第2の端面1b側から出射される。そして、第2の端面1b側から出射されたX線は、焦点11に集光される。
【0079】
X線照射装置61は、上述したX線光学素子1を備えるので、X線の進行方向を制御することができ、被照射物に照射するX線の強度を高めることができる。
【0080】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0081】
(実施例1)
実施例1では、
図1~
図3に示すX線光学素子を作製した。具体的には、SUS316L相当ステンレス系合金粉末を材料に用い、3Dプリンタで造形することにより、略楕円球形状のX線光学素子を作製した。
【0082】
なお、作製したX線光学素子の第1の端面及び第2の端面における外径は、10.4mmであり、X線光学素子の光軸方向に沿う方向における中央部の外径は、14.0mmであり、X線光学素子の光軸方向に沿う長さは、80.0mmである。
【0083】
また、作製したX線光学素子は、5本のSUS316L相当ステンレス系合金の管(管状部材)により構成されており、各管状部材間の間隔はいずれも1000μmである。全ての管状部材の肉厚は、それぞれ、500μmであり、中央部の貫通孔の内径は1000μmである。また、4本の連結部も同じ部材により構成されており、その肉厚は500μmである。
【0084】
(実施例2~11)
実施例2~7では、X線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面形状を下記の表1に示す図面の形状とし、X線光学素子の各構成及び寸法を下記の表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてX線光学素子を作製した。なお、
図13~
図15に示すように、実施例5,6では、X線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面において、中央部に貫通孔は設けられていない。実施例7では、X線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面において、中央部に連結部が設けられている。また、実施例8~11では、図面を割愛しているが、X線光学素子の各構成及び寸法を下記の表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてX線光学素子を作製した。
【0085】
(比較例1)
比較例1では、
図21(a)及び(b)に示すX線光学素子を作製した。なお、
図21(a)は、比較例1で作製したX線光学素子を示す模式的斜視図であり、
図21(b)は、比較例1で作製したX線光学素子の光軸方向に直交する方向における断面を示す模式的断面図である。比較例1のX線光学素子は、外径1250μm、内径1000μmの微細管が61本束ねられて構成されている、SUS316L相当ステンレス系合金製のX線マルチキャピラリレンズである。なお、作製したX線光学素子の第1の端面及び第2の端面における外径は、10.4mmであり、X線光学素子の光軸方向に沿う方向における中央部の外径は、14.0mmであり、X線光学素子の光軸方向に沿う長さは、80.0mmである。
【0086】
[評価]
実施例1及び比較例1で作製したX線光学素子における一方の端面側にX線源(CuKα線)を配置し、他方の端面側にディテクターを配置した。このようなX線照射装置を用いて、ディテクターから検出されるX線強度を測定した。
【0087】
図16~
図18は、比較例1を用いた測定におけるピーク強度を1.00として、実施例1~7で作製したX線光学素子を用いた際のピーク強度の比を示した図である。
【0088】
なお、
図16~
図18において、横軸は、X線光学素子出射端からの距離(レンズ-ディテクター距離)を示しており、縦軸は比較例1を用いた測定におけるピーク強度を1.00として、その比(各位置でのピーク強度[規格化])を示している。
【0089】
図16~
図18から明らかなように、実施例1~7のX線光学素子では、X線光学素子とディテクターとの間の距離を適切な値となるように配置した場合、比較例1のX線光学素子と比較してX線強度を飛躍的に高められていることがわかる。また、
図16から明らかなように、実施例1と比較例1より、同じ周数、同じ中心管径をもつX線光学素子において、本発明のX線光学素子は従来のマルチキャピラリレンズ型のX線光学素子よりもX線集光強度を飛躍的に高められていることがわかる。また、
図16から明らかなように、実施例1~3の比較より、同じ最外径を有するX線光学素子では、周数が多いほど、X線強度がより高められていることがわかる。また、
図17及び
図18から明らかなように、実施例1と実施例5との比較、あるいは実施例4と実施例6,7との比較より、回転対称軸Oに貫通孔を有することにより、X線強度をより高められていることがわかる。
【0090】
なお、実施例1~11及び比較例1において、X線光学素子出射端からの距離を変更したときの最も高いX線強度につき、各実施例と比較例1でピーク強度の比(各実施例のピーク強度/比較例のピーク強度)を求めた。結果を下記の表1及び表2に示す。なお、表1及び表2において、中央部の貫通孔の内径は、貫通孔の最大となる内径である。連結部の個数は、連結部が設けられる箇所の数と同じである。
【0091】
【0092】
【符号の説明】
【0093】
1,21,31,41,51…X線光学素子
1a,21a,31a,41a,51a…第1の端面
1b,21b,31b,41b,51b…第2の端面
2,22,32…管状部材
2a,22a,32a…内壁面
2b…反射面
3…貫通孔
4…最も内側の管状部材
5…最も外側の管状部材
6,26A,26B…連結部
10…X線源
11…焦点
52…X線光学素子本体
53a,53b…蓋部
61…X線照射装置