(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163196
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】燃料電池用の触媒
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20231102BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20231102BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20231102BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20231102BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20231102BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20231102BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20231102BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/92
H01M4/90 M
B01J35/10 301G
B01J23/89 M
H01M8/10 101
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073929
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】清水 瞭
(72)【発明者】
【氏名】堀 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】片岡 幹裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲司
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 道久
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA12
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC67B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169EC03X
4G169EC03Y
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4G169EC12Y
4G169EC13Y
4G169ED05
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB19
4G169FB41
4G169FB46
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB16
5H018BB17
5H018EE03
5H018EE08
5H018EE10
5H018HH02
5H018HH06
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】耐久性を向上させ、且つ、触媒性能の低下を抑制することができる燃料電池用の触媒を提供する。
【解決手段】微細孔を有するカーボン担体と、当該カーボン担体に担持された金属と、を含む燃料電池用の触媒であって、前記金属は、白金及び白金合金の内の少なくとも一方であり、前記カーボン担体の比表面積が250m
2/g-carbon以上338m
2/g-carbon以下であり、前記カーボン担体の前記微細孔の面積が48m
2/g-carbon以上74m
2/g-carbon以下である、燃料電池用の触媒。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細孔を有するカーボン担体と、当該カーボン担体に担持された金属と、を含む燃料電池用の触媒であって、
前記金属は、白金及び白金合金の内の少なくとも一方であり、
前記カーボン担体の比表面積が250m2/g-carbon以上338m2/g-carbon以下であり、
前記カーボン担体の前記微細孔の面積が48m2/g-carbon以上74m2/g-carbon以下である、燃料電池用の触媒。
【請求項2】
前記カーボン担体は、アセチレンブラックである、請求項1に記載の燃料電池用の触媒。
【請求項3】
前記燃料電池のIV測定により観測されるガス拡散性限界電流値が0.15A/cm2以上である、請求項1又は2に記載の燃料電池用の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池用の触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用の触媒に関して種々の研究がなされている。
例えば特許文献1では、(a)100~600m2/gの比表面積(BET)を有し、(b)10~90m2/gの微細孔面積を有するカーボン担体材料を含む触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池を搭載した商用車の実用化に向け、燃料電池用の触媒のさらなる耐久性の向上が求められている。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、耐久性を向上させ、且つ、触媒性能の低下を抑制することができる燃料電池用の触媒を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の触媒は、微細孔を有するカーボン担体と、当該カーボン担体に担持された金属と、を含む燃料電池用の触媒であって、
前記金属は、白金及び白金合金の内の少なくとも一方であり、
前記カーボン担体の比表面積が250m2/g-carbon以上338m2/g-carbon以下であり、
前記カーボン担体の前記微細孔の面積が48m2/g-carbon以上74m2/g-carbon以下である。
【0007】
本開示の触媒においては、前記カーボン担体は、アセチレンブラックであってもよい。
【0008】
本開示の触媒においては、前記燃料電池のIV測定により観測されるガス拡散性限界電流値が0.15A/cm2以上であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、燃料電池用の触媒の耐久性を向上させ、且つ、触媒性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、各実施例及び各比較例で用いたカーボン担体の比表面積(SSA)と微細孔面積との関係を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1、2、比較例1、6の0~3.0A/cm
2の範囲での電流密度に対するセル電圧の関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1、2、比較例1、6の0~0.2A/cm
2の範囲での電流密度に対するセル電圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない燃料電池用の触媒等の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、数値範囲における上限値と下限値は任意の組み合わせを採用できる。
【0012】
<燃料電池用の触媒>
本開示の触媒は、微細孔を有するカーボン担体と、当該カーボン担体に担持された金属と、を含む燃料電池用の触媒であって、
前記金属は、白金及び白金合金の内の少なくとも一方であり、
前記カーボン担体の比表面積が250m2/g-carbon以上338m2/g-carbon以下であり、
前記カーボン担体の前記微細孔の面積が48m2/g-carbon以上74m2/g-carbon以下である。
【0013】
長距離運転が想定される燃料電池を搭載した商用車向けの触媒には高耐久性が第一に求められる。加えて積載可能範囲の観点から燃料電池スタックの小型化が必須であり触媒には高性能化も同時に求められている。
従来技術では、触媒の性能と耐久性は背反の関係にあり両立することは困難であった。これは、触媒の耐久性と触媒の性能は、カーボン担体の比表面積と相関しているためであり、耐久性向上のためには比表面積を低減すること、触媒性能向上のためには比表面積を増加させることが必要であり、それぞれがトレードオフの関係になっているためである。
本研究者らは、カーボン担体の微細孔の面積を所定の範囲内で増加させることにより触媒の所望の触媒性能を確保しつつ、耐久性の低下要因となるカーボン担体の比表面積を所定の範囲内に小さく抑えることで所望の耐久性を確保することができることを見出した。したがって、本開示によれば、カーボン担体の比表面積と微細孔の面積を所定の範囲内に制御することにより触媒の耐久性を向上させ、且つ、触媒性能の低下を抑制することができる。これは、比表面積を小さくすることでカーボン担体の劣化点を削減しつつ、微細孔面積を大きくすることでガスの拡散経路を確保し触媒性能損失となる物質異動過電圧を低減するためである。
【0014】
本開示の触媒は、カーボン担体と、当該カーボン担体に担持された金属と、を含む。
本開示の触媒においては、燃料電池のIV測定により観測されるガス拡散性限界電流値が0.15A/cm2以上であってもよい。これにより、触媒が所望の耐久性を有し、且つ、従来の高比表面積品と同等以上の触媒性能を確保することができる。
本開示においてガス拡散性限界電流値は、低電流密度領域における所定の条件(セル温度:45℃、両電極の相対湿度:165%)でのIV測定において0.1~0.6Vの間で観測される電流の平均値とする。
【0015】
金属は、カーボン担体に担持される。
金属は、白金及び白金合金の内の少なくとも一方である。
白金合金としては、白金とコバルト、ニッケル、鉄、マンガン、銅、チタン、タングステン、スズ、ガリウム、ジルコニウム、クロム、ガドリニウム、テルビウム、イッテルビウム、ハフニウム、及び、オスニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属を含む合金であってもよい。これらの中でも、白金、白金-コバルト合金、及び、白金-ニッケル合金等であってもよく、特に白金-コバルト合金であってもよい。
金属は、形状が粒子状である金属粒子であってもよい。
金属粒子の粒径は、特に限定されないが、1nm以上10nm以下であってもよい。金属粒子の粒径は3D-TEM等で測定することができる。
【0016】
カーボン担体は、金属を担持する。
カーボン担体は、微細孔を有する。
微細孔の平均細孔径は、2nm未満であればよい。微細孔の平均細孔径は、無作為に選んだ複数の微細孔の細孔径を測定し、これらの平均値を算出することにより得られる。平均細孔径は3D-TEM(透過型電子顕微鏡)等で測定することができる。
カーボン担体は、多孔質体であってもよい。
カーボン担体は、形状が粒子状であるカーボン担体粒子であってもよい。
カーボン担体粒子の粒径は、微細孔の細孔径よりも大きければ特に限定されず、例えば、2nm以上100nm以下であってもよい。
カーボン担体粒子の粒径は3D-TEM等で測定することができる。
【0017】
カーボン担体の比表面積が250m2/g-carbon以上338m2/g-carbon以下である。当該範囲の比表面積に抑制することで触媒の耐久性を向上させることができる。
比表面積はBET法により測定される。BET法による比表面積の測定は、以下のプロセスにより行われる。
清浄な固体表面を形成するまでカーボン担体を脱気した後、窒素吸着等温線を得、一定温度(通常、1気圧で沸点にある液体窒素の温度)において、吸着されたガスの量をガス圧の関数として測定する。次いで、0.05から0.3(または時には0.2まで低い)の範囲内のP/P0値に対して、1/[Va((P0/P)-1)]対P/P0(式中、Vaは、圧力Pにおいて吸着されるガスの量であり、P0は、ガスの飽和圧力である)のプロットを作成する。プロットを直線でフィッティングし、切片1/VmCおよび傾き(C-1)/VmC(式中、Cは定数である)から単分子層体積(Vm)を得る。試料の表面積は、単一の吸着質分子により占有される面積に補正することにより、単分子層体積から決定することができる。
【0018】
カーボン担体の微細孔の面積が48m2/g-carbon以上74m2/g-carbon以下である。当該範囲の微細孔の面積を確保することで触媒の所望の性能を担保することができる。
微細孔の面積は、微細孔に関連した表面積を指し、微細孔は、2nm未満の内部幅の細孔として定義される。微細孔面積は、上述のような窒素吸着等温線から生成されるt-プロットの使用により決定される。t-プロットは、標準多層厚tの関数としてプロットされる吸着されたガスの体積を有し、t値は、厚さの式、この場合Harkins-Juraの式において、吸着等温線からの圧力値を使用して計算される。0.35nmから0.5nmの間の厚さ値におけるt-プロットの直線部分の傾きを使用して、外部表面積、すなわち、微細孔を除く全ての細孔に関連した表面積が計算される。次いで、BET表面積から外部表面積を差し引くことにより、微細孔表面積が計算される。
【0019】
カーボン担体は、導電性を有する導電性カーボン担体であってもよい。
導電性カーボン担体は、既存のカーボン材料の官能化により得ることができる。カーボンの官能化または賦活化は、物理的活性化の場合においては、酸素、空気、二酸化炭素、水蒸気、オゾン、または酸化窒素等のガスによるカーボンの後処理として、あるいは、化学的活性化の場合においては、カーボン前駆体と、KOH、ZnCl2またはH3PO4等の固体または液体試薬との高温での反応として理解される。賦活化プロセス中、カーボンの一部が化学反応または燃焼により失われる。
カーボン担体の賦活化は、典型的には、酸素、オゾン、過酸化水素、または二酸化窒素等の酸化性ガスを用いて行われ、これは、比表面積の増加をもたらすと同時に、表面基の量の増加ももたらす。また、賦活化は、空気、二酸化炭素または水蒸気処理によって行うこともできる。
カーボン担体は、アセチレンブラックであってもよい。アセチレンブラックは、空気により賦活処理された空気賦活化アセチレンブラックであってもよい。
【0020】
また、カーボン担体は、80℃で24時間にわたる1.2V電位保持を含む加速試験において、その損失量(絶対腐食量、単位:wt%)が9.1%未満、さらには8.0%以下、よりさらには7.9%以下であってもよい。カーボンの損失は、以下の一般的に認められた試験により決定され得る。
選択された触媒またはカーボンの電極を、1M H2SO4液体電解液中において、80℃で1.2V(vs.可逆水素電極(RHE))に保持し、腐食電流を24時間にわたり監視する。カーボンをCO2ガスに変換する4電子プロセスを仮定して実験の間通過した電荷を積分し、除去されたカーボンを計算するために使用する。試験の最初の1分は、この期間中に通過した電荷が電気化学二重層の充電に起因し、したがって腐食プロセスによるものではないため、含まれない。24時間試験の間に失われたカーボンの質量が、電極の最初のカーボン含量のパーセンテージとして表現される。
【0021】
カーボン担体の比腐食率は、56%未満、さらには34%以下未満、よりさらには31%以下であってもよい。
比腐食率は、腐食したカーボンの量を、表面カーボン原子の数のパーセンテージとして表現することにより決定される。3.79×1019原子m-2のカーボン、および4電子プロセスを仮定して、カーボンの1つの単分子層を除去するために必要な最大電荷が決定される。カーボン腐食に関連した実験的に決定された電荷が、単分子層のパーセンテージとして表現され、比腐食率が得られる。
【0022】
本開示の触媒は、燃料電池用である。
燃料電池の種類としては、固体高分子形燃料電池(PEFC)、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)等を挙げることができ、中でも固体高分子形燃料電池であってもよい。
燃料電池は、単セルを1つのみ有するものであってもよいし、単セルを複数個積層した積層体である燃料電池スタックであってもよい。
単セルの積層数は特に限定されず、例えば、2~数百個であってもよい。
【0023】
燃料電池の単セルは、少なくとも膜電極ガス拡散層接合体を備える。
膜電極ガス拡散層接合体は、アノード側ガス拡散層及び、アノード触媒層及び、電解質膜及び、カソード触媒層及び、カソード側ガス拡散層をこの順に有する。
【0024】
カソード(酸化剤極)は、カソード触媒層を含み、必要に応じてカソード側ガス拡散層を含む。
アノード(燃料極)は、アノード触媒層を含み、必要に応じてアノード側ガス拡散層を含む。
カソード触媒層及びアノード触媒層をまとめて触媒層と称する。
触媒層は、上記記載の燃料電池用触媒を含み、通常さらに電解質を含む。
電解質としては、プロトン伝導性を有するものであってもよく、フッ素系樹脂等であってもよい。フッ素系樹脂としては、例えば、Nafion(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸系樹脂等を用いてもよい。
【0025】
カソード側ガス拡散層及びアノード側ガス拡散層をまとめてガス拡散層と称する。
ガス拡散層は、ガス透過性を有する導電性部材等であってもよい。
導電性部材としては、例えば、カーボンクロス、及びカーボンペーパー等のカーボン多孔質体、並びに、金属メッシュ、及び、発泡金属などの金属多孔質体等が挙げられる。
【0026】
電解質膜は、固体高分子電解質膜であってもよい。固体高分子電解質膜としては、例えば、水分が含まれたパーフルオロスルホン酸の薄膜等のフッ素系電解質膜、及び、炭化水素系電解質膜等が挙げられる。電解質膜としては、例えば、ナフィオン膜(デュポン社製)等であってもよい。
【0027】
単セルは、必要に応じて膜電極ガス拡散層接合体の両面を挟持する2枚のセパレータを備えてもよい。2枚のセパレータは、一方がアノード側セパレータであり、もう一方がカソード側セパレータである。本開示では、アノード側セパレータとカソード側セパレータとをまとめてセパレータという。
セパレータは、反応ガス及び冷媒等を単セルの積層方向に流通させるための供給孔及び排出孔等の孔を有していてもよい。冷媒としては、低温時の凍結を防止するために例えばエチレングリコールと水との混合溶液を用いることができる。
本開示においては、燃料ガス、及び、酸化剤ガスをまとめて反応ガスと称する。アノードに供給される反応ガスは、燃料ガスであり、カソードに供給される反応ガスは酸化剤ガスである。燃料ガスは、主に水素を含有するガスであり、水素であってもよい。酸化剤ガスは酸素、空気、及び、乾燥空気等であってもよい。
セパレータは、ガス拡散層に接する面に反応ガス流路を有していてもよい。また、セパレータは、ガス拡散層に接する面とは反対側の面に燃料電池の温度を一定に保つための冷媒流路を有していてもよい。
セパレータは、ガス不透過の導電性部材等であってもよい。導電性部材としては、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン、及び、プレス成形した金属(例えば、鉄、アルミニウム、及び、ステンレス等)板等であってもよい。また、セパレータが集電機能を備えるものであってもよい。
【0028】
<燃料電池用の触媒の製造方法>
本開示の触媒の製造方法は、(1)カーボン担体にPt又はPtとPt以外の金属Mを担持する担持工程を含み、必要に応じて、(2)カーボン担体に担持されたPtとPt以外の金属(例えばCo等)とを合金化する合金化工程、及び、(3)カーボン担体に担持されたPt又はPt合金を酸処理する酸処理工程等を含んでいてもよい。
Pt以外の金属Mとしては、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン、銅、チタン、タングステン、スズ、ガリウム、ジルコニウム、クロム、ガドリニウム、テルビウム、イッテルビウム、ハフニウム、及び、オスニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属等が挙げられる。
【0029】
(1)担持工程
担持工程では、カーボン担体にPtもしくはPtとPt以外の金属Mを例えば、Pt:M=3:1~7:1のモル比で担持させる。
以下で説明する酸処理工程においてPt以外の金属Mの一部が除去されるため、担持工程では、完成品の触媒におけるPtとPt以外の金属Mとの所定のモル比と比較して、Pt以外の金属Mを多く担持する。このようなモル比を採用して製造された触媒を使用することによって、燃料電池の発電の初期性能及び燃料電池の耐久性能を更に向上させることができる。
【0030】
(2)合金化工程
合金化工程では、PtとPt以外の金属Mとを700~900℃、又は、750~850℃で合金化する。このような合金化温度を採用して製造された触媒を使用することによって、燃料電池の発電の初期性能及び燃料電池の耐久性能を更に向上させることができる。
【0031】
(3)酸処理工程
酸処理工程では、カーボン担体に担持されたPt又はPt合金を例えば70~90℃、又は、75~85℃で酸処理する。このような温度で酸処理することによって、反応に寄与しないPt以外の金属Mを十分に除去することができる。これにより、Pt以外の金属Mの溶出を抑制することができる。
酸処理工程において使用する酸としては、例えば、無機酸(硝酸、リン酸、過マンガン酸、硫酸、及び、塩酸等)、有機酸(酢酸、マロン酸、シュウ酸、ギ酸、クエン酸、及び、乳酸等)を挙げることができる。
【0032】
本開示の触媒の製造方法における材料、製造物、及び、それらの特徴等については、<燃料電池用の触媒>の項目において既に説明している。上記項目において説明した事項を本項目において適宜参酌するものとする。
【実施例0033】
以下、実施例及び比較例を用いて本開示をより詳細に説明するが、本開示の技術的範囲はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例は特許請求の範囲に包含されるか否かによって区別されるものではない。特に良好な結果が得られた実施形態を実施例とし、それ以外の実施形態を比較例とした。
【0034】
<電極触媒の製造>
(実施例1)
[担持工程]
微細孔を有するカーボン担体(1.0g:電気化学工業株式会社製)を純水(41.6mL)に分散させた。白金(1.0g)を含むジニトロジアミン白金硝酸溶液(特許第4315857号:キャタラー株式会社製)を滴下し、カーボン担体と十分に馴染ませた。還元剤としてエタノール(3.2g)を加え、還元反応による白金のカーボン担体への担持を行った。分散液をろ過洗浄し、得られた粉末を乾燥させ、白金担持カーボン担体を得た。次に、白金担持カーボン担体の表面上の酸素量を4重量%以下まで低減させ、製品比率(モル比)でPt:Coが7:1となるようにコバルト(0.03g)を白金担持カーボン担体に担持させた。
本実施例で使用したカーボン担体は、アセチレンブラックである。カーボン担体のN2吸着によって求められるBET比表面積(m2/g-carbon)、及び、微細孔面積(m2/g-carbon)を測定した結果を表1に示す。
[合金化工程]
白金-コバルト担持カーボン担体をアルゴン雰囲気下、800℃で合金化し、白金コバルト合金担持カーボン担体を得た。
[酸処理工程]
白金コバルト合金担持カーボン担体を0.5N硝酸を使用して80℃で酸処理し、触媒を得た。
【0035】
(実施例2~6、比較例1~6)
表1に示す比表面積及び微細孔面積を有するカーボン担体を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で触媒を製造した。
【0036】
<カーボン担体の腐食試験>
腐食試験は、単セル温度80℃、バブラー温度80℃(100%RH)条件下、1.2Vで電位保持を24時間行った。腐食試験後のカーボン担体の損失量(絶対腐食量、単位:wt%)と比腐食率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0037】
<発電性能の評価>
各実施例及び各比較例で製造した触媒を有機溶媒に分散させ、分散液をテフロン(登録商標)シートへ塗布して電極を2つ形成した。高分子電解質膜を2つの電極で挟持しホットプレスによって貼り合わせ膜電極接合体を得た。膜電極接合体を2つのガス拡散層で挟持し、固体高分子形燃料電池用の単セルを作成した。
セル温度を60℃、両電極の相対湿度を80%とし、スモール単セル評価装置システム(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、IV測定を行った。
IV測定については、0.01~4.0A/cm2の範囲で任意に電流を制御した。0.2A/cm2時の電圧値を活性と定義した。
また、ガス拡散性限界電流値(A/cm2)は、セル温度を45℃、両電極の相対湿度を165%としたときの低電流密度領域でのIV測定における0.1~0.6Vの間で観測される電流の平均値として測定した。実施例1~6、比較例1、6の測定結果を表1に示す。
【0038】
【0039】
図1は、各実施例及び各比較例で用いたカーボン担体の比表面積(SSA)と微細孔面積との関係を示す図である。
図2は、実施例1、2、比較例1、6の0~3.0A/cm
2の範囲での電流密度に対するセル電圧の関係を示すグラフである。
図3は、実施例1、2、比較例1、6の0~0.2A/cm
2の範囲での電流密度に対するセル電圧の関係を示すグラフである。
表1に示すように、比較例1は、絶対腐食量が小さいため耐久性が高いが、ガス拡散性限界電流値が低いため触媒性能が低い。
比較例5は、絶対腐食量が大きいため耐久性が低い。
比較例6は、ガス拡散性限界電流値が高いため触媒性能が高いが、絶対腐食量が大きいため耐久性が低い。
実施例1,4,6は、絶対腐食量が小さいため高耐久性を示し、且つ、ガス拡散性限界電流値が高く、比較例6と同等の高性能を示す。
実施例1~6の内、実施例2~3は、絶対腐食量が比較的小さいため、比較的高い耐久性を示し、触媒性能は実施例1,4,6に劣るが所望の触媒性能を示す。
以上の結果から、カーボン担体の比表面積を小さくすることにより、カーボン担体の劣化点を削減し、触媒の耐久性を向上させ、且つ、カーボン担体の微細孔面積を大きくすることにより、所望のガス拡散性を確保することで、触媒の性能の低下を抑制することができる。