(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163202
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】締結工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20231102BHJP
B25C 1/06 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B25B21/00 530A
B25C1/06
B25B21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073940
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006301
【氏名又は名称】マックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大澤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和也
【テーマコード(参考)】
3C068
【Fターム(参考)】
3C068AA01
3C068BB01
3C068CC07
3C068HH04
3C068HH09
(57)【要約】
【課題】ドライバビットとネジとの噛み合い量のばらつきによらず、締結対象物に締め込まれたネジの締め込み深さが一定になるようにした締結工具を提供する。
【解決手段】締結工具1は、ドライバビットを回転させるビット回転モータ40と、ビット回転モータ40の状態を検出する検出部112と、検出部112で検出されたビット回転モータ40の状態に基づき、ドライバビットとネジとの係合が外れたと判断すると、ビット回転モータ40の回転を停止させる制御部100を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジに係合可能なドライバビットを保持し、ドライバビットの周方向に回転可能および軸方向に移動可能なビット保持部と、
前記ビット保持部を回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの状態を検出する検出部と
を備え、
前記制御部は、ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際、検出された前記モータの状態に基づいてドライバビットとネジとの係合が外れたか否かを判断し、ドライバビットとネジとの係合が外れたと判断したとき、前記モータの回転を停止させる
締結工具。
【請求項2】
前記ビット保持部の移動位置を検出する位置検出部を備え、
前記制御部は、検出された前記ビット保持部の移動位置が停止判断許容位置に移動した後、ドライバビットとネジとの係合が外れたか否かを判断する
請求項1に記載の締結工具。
【請求項3】
前記停止判断許容位置は、前記ビット保持部の前進終了位置である
請求項2に記載の締結工具。
【請求項4】
前記検出部は、前記モータの回転量を検出し、
前記制御部は、検出された前記モータの回転量が停止判断許容回転量に到達したか否かを判断し、前記回転量が前記停止判断許容回転量に到達したとき、ドライバビットとネジとの係合が外れたか否かを判断する
請求項1に記載の締結工具。
【請求項5】
前記ドライバビットの軸方向に移動可能なコンタクト部材と、
前記コンタクト部材の移動位置に応じて、オンとオフを切り替えるコンタクトスイッチ部と
を備え、
前記制御部は、前記コンタクトスイッチ部がオン状態のとき、ドライバビットとネジとの係合が外れたか否かを判断する
請求項1に記載の締結工具。
【請求項6】
前記検出部は、前記モータの電流値を検出し、
前記制御部は、検出された前記電流値に基づき、ドライバビットとネジとの係合が外れたか否かを判断する
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の締結工具。
【請求項7】
前記検出部は、前記モータの回転速度を検出し、
前記制御部は、検出された前記回転速度に基づき、ドライバビットとネジとの係合が外れたか否か判断する
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の締結工具。
【請求項8】
前記検出部は、前記モータの回転量を検出し、前記制御部は、検出された前記回転量に基づき、ドライバビットとネジとの係合が外れたか否かを判断する
請求項3に記載の締結工具。
【請求項9】
前記検出部は、前記モータの回転時間を検出し、
前記制御部は、検出された前記回転時間に基づき、ドライバビットとネジとの係合が外れたか否かを判断する
請求項3に記載の締結工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジにドライバビットを係合させ、ドライバビットでネジを押して締結対象物に押し付け、ドライバビットを回転させて捩じ込む締結工具に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンプレッサから供給される圧縮空気の空気圧や、ガスの燃焼圧を利用し、マガジンに装填された連結止め具を、ドライバガイドの先端から順次打ち出す可搬形の打込機と称す工具が知られている。
【0003】
ビットを回転させてネジを締めると共に、ネジを打ち込む方向にビットを移動させる工具では、従来、エアモータでビットを回転させ、ネジを打ち込む方向にはエア圧で移動させる空気圧式ネジ打ち機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ドライバビットを回転させるモータの駆動力でバネを圧縮し、バネの付勢でドライバビットを軸方向に移動させてネジを打ち込むネジ打ち機が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5262461号
【特許文献2】特許第6197547号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ドライバビットをネジのリセスに係合させ、ドライバビットを回転させてネジを締め込む場合、ネジのリセスとドライバビットの先端は斜面で接するため、ドライバビットを回転させる回転トルクの一部が、ドライバビットをネジから浮かせる方向の力となる。このため、ネジ打ち機を締結対象物の方向へ押し付ける力の強弱により、ドライバビットとネジのリセスとの噛み合い量にばらつきが生じる可能性がある。
【0007】
このように、ドライバビットとネジのリセスとの噛み合い量にばらつきが生じると、ネジの締め込み深さが一定にならない場合があり、ネジの頭部が締結対象物に埋まるなど、仕上がりが安定しない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためされたもので、ドライバビットとネジとの噛み合い量のばらつきによらず、締結対象物に締め込まれたネジの締め込み深さが一定になるようにした締結工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明は、ネジに係合可能なドライバビットを保持し、ドライバビットの周方向に回転可能および軸方向に移動可能なビット保持部と、ビット保持部を回転させるモータと、モータを制御する制御部と、モータの状態を検出する検出部とを備え、制御部は、ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際、検出されたモータの状態に基づいてドライバビットとネジとの係合が外れたか否かを判断し、ドライバビットとネジとの係合が外れたと判断したとき、モータの回転を停止させる締結工具である。
【0010】
本発明では、ドライバビットとネジとの係合が外れたと判断すると、ネジの頭部が面一な状態までネジが締結対象物に締め込まれたと判断して、ドライバビットを回転させるモータの回転を停止させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ドライバビットとネジとの噛み合い量にばらつきがあっても、ネジの頭部が面一な状態までネジが締結対象物に締め込まれたタイミングで、モータの回転を停止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す側断面図である。
【
図1B】本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す上面断面図である。
【
図1C】本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す分解斜視図である。
【
図2A】本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す斜視図である。
【
図2B】本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す斜視図である。
【
図3A】本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す断面斜視図である。
【
図3B】本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す断面斜視図である。
【
図4】本実施の形態のネジ送り部及びノーズ部の一例を示す斜視図である。
【
図5】本実施の形態の締結工具の一例を示すブロック図である。
【
図7】本実施の形態の締結工具の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9A】ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフである。
【
図9B】ビット回転モータの電流変化を示すグラフである。
【
図10】本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャートである。
【
図11】本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の締結工具の実施の形態について説明する。
【0014】
<本実施の形態の締結工具の構成例>
図1Aは、本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す側断面図、
図1Bは、本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す上面断面図、
図1Cは、本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す分解斜視図である。
【0015】
本実施の形態の締結工具1は、ネジ200に係合可能なドライバビット2を回転可能、及び、軸方向に移動可能に保持するビット保持部3と、ビット保持部3で保持されたドライバビット2を回転させる第1の駆動部4と、ビット保持部3で保持されたドライバビット2を軸方向に移動させる第2の駆動部5を備える。
【0016】
また、締結工具1は、ネジ200が収納されるネジ収納部6と、ネジ収納部6に収納されたネジを送る後述するネジ送り部7と、ネジ200が締結される締結対象物に押し付けられると共に、ネジ200が射出されるノーズ部8を備える。
【0017】
更に、締結工具1は、工具本体10とハンドル11を備える。また、締結工具1は、ハンドル11の端部に、バッテリ12が着脱可能に取り付けられるバッテリ取付部13を備える。
【0018】
締結工具1は、工具本体10が矢印A1、A2で示すドライバビット2の軸方向に沿った一の方向に延伸し、工具本体10の延伸方向に対して交差する他の方向にハンドル11が延伸する。締結工具1は、工具本体10が延伸する方向、すなわち、矢印A1、A2で示すドライバビット2の軸方向を前後方向とする。また、締結工具1は、ハンドル11が延伸する方向を上下方向とする。更に、締結工具1は、工具本体10の延伸方向及びハンドル11の延伸方向に直交する方向を左右方向とする。
【0019】
第1の駆動部4は、ハンドル11を挟んで、工具本体10の一方の側である後方に設けられる。また、第2の駆動部5は、ハンドル11を挟んで、工具本体10の他方の側である前方に設けられる。
【0020】
ネジ収納部6は、複数のネジ200が連結帯で連結され、渦巻き状に巻かれた連結ネジが収納される。
【0021】
図2A、
図2Bは、本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す斜視図、
図3A、
図3Bは、本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す断面斜視図であり、次に、各図を参照して、ビット保持部3及び第1の駆動部4について説明する。
【0022】
ビット保持部3は、ドライバビット2を着脱可能に保持する保持部材30と、保持部材30をドライバビット2の軸方向に沿った矢印A1、A2で示す前後方向へ移動可能に支持すると共に、保持部材30と共に回転する回転ガイド部材31と、保持部材30を回転ガイド部材31に沿って前後方向に移動させる移動部材32と、移動部材32を矢印A2で示す後方向へ付勢する付勢部材33を備える。
【0023】
保持部材30は、回転ガイド部材31の内径より外径が若干小さく、回転ガイド部材31の内側に入れられる例えば円柱状の部材で構成される。保持部材30は、ドライバビット2の軸方向に沿った前側の端部に、ドライバビット2の断面形状と合致した形状の開口30aが設けられる。保持部材30は、ドライバビット2を着脱可能に保持する着脱保持機構30cを開口30aに備える。保持部材30は、開口30aが回転ガイド部材31の内側に露出し、開口30aにドライバビット2が着脱可能に挿入される。
【0024】
着脱保持機構30cは、開口30a内に露出するボール30dと、ボール30dを開口30a内に露出する方向に付勢するバネ30eを備える。バネ30eは、環状の板バネで構成され、保持部材30の外周に嵌められる。
【0025】
着脱保持機構30cは、バネ30eで付勢されたボール30dがドライバビット2の溝部に嵌ることで、ドライバビット2が保持部材30から不用意に抜けることが抑制される。また、ドライバビット2を保持部材30から抜く方向に所定以上の力が掛かると、環状のバネ30eを変形させながらボール30dが退避することで、ドライバビット2を保持部材30から抜くことが可能である。
【0026】
回転ガイド部材31は、工具本体10の延伸方向、すなわち、ドライバビット2の軸方向に沿った矢印A1、A2で示す前後方向に沿って延伸する。回転ガイド部材31は、内側に保持部材30が入る円筒形状で、前側の端部が、工具本体10の外装を構成するケース10aの前側に設けられる前フレーム10bに、軸受の一例であるベアリング34aを介して回転可能に支持される。また、回転ガイド部材31は、後側の端部が第1の駆動部4と連結される。
【0027】
回転ガイド部材31は、ドライバビット2の軸方向に沿った矢印A1、A2で示す前後方向に延伸する溝部31aが、径方向に対向する周面の2箇所に形成される。回転ガイド部材31は、保持部材30を径方向に貫通し、保持部材30の両側方から突出した連結部材30bが溝部31aに入ることで、連結部材30bを介して保持部材30と連結される。
【0028】
連結部材30bは、断面形状が長円形状の筒状の部材で構成され長円形状の長手方向が、矢印A1、A2で示すドライバビット2の軸方向と平行な溝部31aの延伸方向に沿った向きとなる。また、連結部材30bは、長円形状の短手方向が、矢印B1、B2方向で示す溝部31aの延伸方向と直交する向き、すなわち、回転ガイド部材31の回転方向に沿った向きとなる。そして、連結部材30bは、長円形状の短手方向の幅、すなわち、回転ガイド部材31の回転方向に沿った幅が、溝部31aの同方向に沿った幅より若干小さく構成される。
【0029】
これにより、溝部31aに入れられた連結部材30bは、回転ガイド部材31の軸方向に沿って移動可能に溝部31aに支持される。また、連結部材30bは、回転ガイド部材31に対して回転方向に沿った移動が、溝部31aの延伸する方向に沿った溝部31aの一方の側面と他方の側面との間で規制される。よって、連結部材30bは、回転ガイド部材31が回転する動作で、回転ガイド部材31の回転方向に応じて溝部31aの一方の側面または他方の側面に押され、回転ガイド部材31から回転方向である周方向の力を受ける。
【0030】
従って、保持部材30は、回転ガイド部材31が回転すると、連結部材30bが回転ガイド部材31の溝部31aに押されることで、回転ガイド部材31と共に回転する。また、保持部材30は、連結部材30bが回転ガイド部材31の溝部31aにガイドされ、ドライバビット2の軸方向に沿った前後方向に移動する。
【0031】
移動部材32は、保持部材30と共に回転し、保持部材30を回転ガイド部材31に沿って前後方向に移動させる第1の移動部材32aと、ベアリング32bを介して第1の移動部材32aに支持され、ベアリング32bを介して第1の移動部材32aを押す第2の移動部材32cと、第2の移動部材32cの後側に取り付けられる緩衝部材32dを備える。
【0032】
第1の移動部材32aは、回転ガイド部材31の外径より内径が若干大きく、回転ガイド部材31の外側に入れられる例えば円筒状の部材で構成される。第1の移動部材32aは、回転ガイド部材31の溝部31aから突出した連結部材30bを介して保持部材30と連結されることで、回転ガイド部材31の軸方向に沿って移動可能に支持される。
【0033】
ベアリング32bは軸受の一例で、第1の移動部材32aの外周と第2の移動部材32cの内周の間に挿入される。第1の移動部材32aは、ベアリング32bの内輪を保持する軸受内輪保持部材を構成し、第2の移動部材32cは、ベアリング32bの外輪を保持する軸受外輪保持部材を構成する。ベアリング32bは、内輪が第1の移動部材32aの外周に回転方向と軸方向の移動を不能に支持され、外輪が第2の移動部材32cの内周に回転方向と軸方向の移動を不能に支持される。
【0034】
これにより、第2の移動部材32cは、第1の移動部材32aに対して、軸方向に沿った前後方向への移動が規制された状態で、ベアリング32bを介して連結される。また、第2の移動部材32cは、ベアリング32bを介して第1の移動部材32aを回転可能に支持する。
【0035】
従って、第1の移動部材32aは、第2の移動部材32cが軸方向に沿った前後方向に移動する動作で、ベアリング32bを介して第2の移動部材32cに押され、第2の移動部材32cと共に軸方向に沿った前後方向に移動する。また、第1の移動部材32aは、回転ガイド部材31に対して非回転な第2の移動部材32cに対して回転可能である。
【0036】
付勢部材33は、本例ではコイルバネで構成され、回転ガイド部材31の外側で、工具本体10のケース10aの前側に設けられる前フレーム10bと、移動部材32の第2の移動部材32cとの間に入れられ、ベアリング32bの外輪の端面に接触するように配置されたばね座32fに当接する。付勢部材33は、移動部材32が矢印A1で示す前方向に移動することで圧縮され、移動部材32を矢印A2で示す後方向に押す力を移動部材32に掛ける。
【0037】
第1の駆動部4は、バッテリ12から供給される電気で駆動されるビット回転モータ40と、減速機41を備える。ビット回転モータ40はモータ、第1のモータの一例で、ビット回転モータ40の軸40aが、減速機41と連結され、減速機41の軸41aが、回転ガイド部材31に連結される。第1の駆動部4は、減速機41が遊星歯車を利用した構成で、ビット回転モータ40が回転ガイド部材31及び保持部材30と、保持部材30に保持されたドライバビット2と同軸上に配置される。
【0038】
第1の駆動部4は、工具本体10のケース10aの後側に設けられる後フレーム10cに、ビット回転モータ40及び減速機41が取り付けられ、減速機41の軸41aが、ベアリング42を介して後フレーム10cに支持される。回転ガイド部材31は、後側の端部が、減速機41の軸41aと連結され、軸41aが、ベアリング42を介して後フレーム10cに支持されることで、軸受の一例であるベアリング42を介して回転可能に支持される。
【0039】
ビット保持部3と第1の駆動部4は、前フレーム10bと後フレーム10cが、前後方向に延伸する結合部材10dで連結されることで、一体に組み立てられ、前フレーム10bが、工具本体10のケース10aにネジ10eにより固定される。
【0040】
また、ビット保持部3は、回転ガイド部材31の前側の端部が、工具本体10のケース10aの前側に固定される前フレーム10bにベアリング34aを介して支持され、回転ガイド部材31の後側の端部が、ケース10aの後側に固定される後フレーム10cに、減速機41の軸41a及びベアリング42を介して支持される。よって、ビット保持部3は、回転ガイド部材31が工具本体10に回転可能に支持される。
【0041】
これにより、第1の駆動部4は、ビット回転モータ40により回転ガイド部材31を回転させる。ドライバビット2が保持される保持部材30は、回転ガイド部材31が回転すると、連結部材30bが回転ガイド部材31の溝部31aに押されることで、回転ガイド部材31と共に回転する。
【0042】
ビット保持部3は、第2の移動部材32cにガイド部材32gが設けられる。第2の移動部材32cは、ガイド部材32gが結合部材10dにガイドされることで、ドライバビット2の軸方向に沿った矢印A1、A2で示す前後方向に移動可能で、かつ、回転ガイド部材31に追従した回転が規制される。
【0043】
次に、各図を参照して、第2の駆動部5について説明する。第2の駆動部5は、バッテリ12から供給される電気で駆動されるビット移動モータ50と、減速機51を備える。ビット移動モータ50は第2のモータの一例で、ビット移動モータ50の軸50aが、減速機51と連結され、減速機51の軸51aが伝達部材の一例であるプーリ52と連結される。第2の駆動部5は、プーリ52がベアリング53を介して工具本体10に支持される。第2の駆動部5は、ビット移動モータ50の軸50aがハンドル11の延伸方向に沿って配置される。
【0044】
第2の駆動部5は、伝達部材の一例である線状のワイヤ54の一端がプーリ52に連結され、プーリ52が回転することでワイヤ54がプーリ52に巻かれる。また、ワイヤ54の他端が、移動部材32の第2の移動部材32cに設けたワイヤ連結部32hに連結される。
【0045】
これにより、第2の駆動部5は、ビット移動モータ50によりプーリ52を回転させて、ワイヤ54を巻き取ることで、第2の移動部材32cを矢印A1で示す前方向に移動させる。ビット保持部3は、第2の移動部材32cが前方向に移動することで、ベアリング32bを介して第1の移動部材32aが押され、第1の移動部材32aが第2の移動部材32cと共に軸方向に沿った前方向に移動する。第1の移動部材32aが前方向に移動することで、第1の移動部材32aと連結部材30bを介して連結された保持部材30が前方向に移動し、保持部材30で保持されたドライバビット2が、矢印A1で示す前方向に移動する。
【0046】
したがって、ビット移動モータ50の回転量を制御することで、保持部材30に取り付けられたドライバビット2の移動量を制御可能となる。また、ビット移動モータ50の回転速度を制御することで、ドライバビット2の移動速度を制御可能となる。
【0047】
なお、ワイヤ54は、プーリ52に巻き取ることが可能な可撓性を有することから、第2の移動部材32cを押して移動部材32を後方へ移動させることができない。そこで、移動部材32が矢印A1で示す前方向に移動することで圧縮され、移動部材32を矢印A2で示す後方向に押す力を移動部材32に掛ける付勢部材33を備える。これにより、プーリ52でワイヤ54を巻き取り、ドライバビット2を前進させる構成で、前進後のドライバビット2を後進させることができる。
【0048】
図4は、本実施の形態のネジ送り部及びノーズ部の一例を示す斜視図であり、次に、各図を参照して、ネジ送り部7及びノーズ部8について説明する。ネジ送り部7は、ネジ送りモータ70と、ネジ送りモータ70の軸に減速機を介して取り付けられるピニオンギア71と、ピニオンギア71と噛み合うラックギア72と、ラックギア72と連結され、ネジ収納部6から送られる連結ネジと係合する係合部73を備える。
【0049】
ネジ送り部7は、ラックギア72が、連結ネジの送り方向に沿った上下方向に移動可能に支持される。ネジ送り部7は、ネジ送りモータ70が正転及び逆転することで、連結ネジと係合する係合部73が上下方向に往復移動し、連結ネジが送られる。なお、ネジ送り部7は、ソレノイドなどの電磁力と付勢手段の組み合わせで直動する駆動部により係合部73を往復移動させる構成としてもよい。
【0050】
ノーズ部8は、ネジ送り部7によりネジ200が供給されると共に、ドライバビット2が通る射出通路80を備える。また、ノーズ部8は、射出通路80と連通する射出口81aを有し、締結対象物に接触するコンタクト部材81を備える。更に、ノーズ部8は、コンタクト部材81と連動して前後方向に移動するコンタクトアーム82を備える。
【0051】
ノーズ部8は、コンタクト部材81が矢印A1、A2で示す前後方向に移動可能に支持され、コンタクト部材81と連動してコンタクトアーム82が前後方向に移動する。ノーズ部8は、コンタクト部材81が図示しない付勢部材で前方向に付勢され、締結対象物に押し付けられて後方に移動したコンタクト部材81が、付勢部材で付勢されて前方向に移動する。
【0052】
締結工具1は、コンタクトアーム82に押されて作動するコンタクトスイッチ部84を備える。コンタクトスイッチ部84は、コンタクト部材81が締結対象物に押し付けられて後方へ移動するコンタクトアーム82の移動位置に応じて、コンタクトアーム82に押されることで作動の有無が切り替えられる。本例では、コンタクトアーム82に押されておらず、コンタクトスイッチ部84が非作動な状態をコンタクトスイッチ部84のオフ、コンタクトアーム82に押されてコンタクトスイッチ部84が作動した状態をコンタクトスイッチ部84のオンとする。
【0053】
図5は、本実施の形態の締結工具の一例を示すブロック図であり、次に、各図を参照して、締結工具1の制御及び操作に関する構成について説明する。
【0054】
締結工具1は、操作を受けるトリガ9と、トリガ9の操作で作動するトリガスイッチ部90を備える。トリガ9は、
図1A等に示すように、ハンドル11の前側に設けられ、ハンドル11を把持する手の指で操作可能に構成される。トリガスイッチ部90は、トリガ9に押されて作動する。
【0055】
トリガスイッチ部90は、トリガ9に押されることで作動の有無が切り替えられ、本例では、トリガ9が操作されておらず、トリガ9でトリガスイッチ部90が押されずトリガスイッチ部90が非作動な状態をトリガスイッチ部90のオフ、トリガ9が操作され、トリガ9に押されてトリガスイッチ部90が作動した状態をトリガスイッチ部90のオンとする。
【0056】
締結工具1は、トリガ9の操作で作動するトリガスイッチ部90及びコンタクト部材81に押されて作動するコンタクトスイッチ部84の出力に基づき、第1の駆動部4、第2の駆動部5及びネジ送り部7を制御する制御部100を備える。制御部100は、各種電子部品が実装された基板で構成され、
図1Aに示すように、ネジ収納部6とハンドル11との間で、ネジ収納部6の裏面側に設けた基板収納部111に収納される。
【0057】
制御部100は、コンタクトスイッチ部84のオン、オフと、トリガスイッチ部90のオン、オフの組み合わせに基づき、第2の駆動部5のビット移動モータ50と第1の駆動部4のビット回転モータ40の駆動の有無を制御する。
【0058】
締結工具1は、上述したように、ビット保持部3で保持部材30に保持されたドライバビット2を、ビット回転モータ40の駆動により回転させる第1の駆動部4を備える。また、締結工具1は、ビット保持部3で保持部材30に保持されたドライバビット2を、ビット移動モータ50の駆動により軸方向に沿った前後方向に移動させる第2の駆動部5を備える。
【0059】
締結工具1は、ビット移動モータ50が所定の方向に回転することで、ビット保持部3で保持部材30に保持されたドライバビット2が矢印A1で示す前方向に移動(前進)する。また、締結工具1は、ビット回転モータ40が所定の方向に回転することで、ネジ200を締結する方向にドライバビット2が回転する。
【0060】
締結工具1は、ビット移動モータ50の回転でドライバビット2を前進させることで、ドライバビット2とネジ200のリセスを係合させ、ネジ200を前方向に移動させて、締結対象物に押し付ける。
【0061】
また、締結工具1は、ビット回転モータ40の回転でネジ200を締結する方向にドライバビット2を回転させることで、ドライバビット2と係合したネジ200を締結対象物に締結する。
【0062】
更に、締結工具1は、ビット回転モータ40の回転に連動してビット移動モータ50を回転させることで、ネジ200の締結に追従してドライバビット2を前進させる。
【0063】
そこで、制御部100は、ビット移動モータ50の回転量を制御することで、ドライバビット2の移動量(前進量)を制御する。制御部100は、ドライバビット2の移動量を制御することで、ドライバビット2の軸方向に沿った停止位置を制御する。
【0064】
また、制御部100は、ビット回転モータ40の回転速度とビット移動モータ50の回転速度を制御することで、ネジ200の締結に追従してドライバビット2を前進させる。
【0065】
更に、制御部100は、ビット回転モータ40の状態に基づき、ドライバビット2とネジ200との係合の有無を判断し、ビット回転モータ40の回転を停止させるタイミングを制御する。
【0066】
このため、締結工具1は、ビット回転モータ40を回転させる動作で、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたか否かを判断するビット回転モータ40の状態を検出する検出部112を備える。
【0067】
検出部112は、ビット回転モータ40の状態として、ビット回転モータ40に掛かる負荷が、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことに相当する負荷になるか否かを検出する。そのため、検出部112は、ビット回転モータ40の電流値または回転速度または電圧値を検出する。検出部112は、例えば、ビット回転モータ40に流れる電流値、または、ビット回転モータ40に流れる電流により変化するモータ印加電圧値に基づき、ビット回転モータ40に掛かる負荷が、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことに相当する負荷になるか否かを検出する。また、検出部112は、ビット回転モータ40の回転速度に基づき、ビット回転モータ40に掛かる負荷が、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことに相当する負荷になるか否かを検出しても良い。なお、検出部112の機能は、制御部100で実現しても良い。また、検出部112でビット回転モータ40の回転量を検出し、制御部100は、検出部112で検出されたビット回転モータ40の回転量に基づき、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたか否かを判断しても良い。更に、検出部112でビット回転モータ40の回転時間を検出し、制御部100は、検出部112で検出されたビット回転モータ40の回転時間に基づき、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたか否かを判断しても良い。
【0068】
制御部100は、ビット保持部3で保持部材30に保持されたドライバビット2に係合したネジ200を、締結対象物に締結する方向にビット回転モータ40を回転させる動作で、検出部112で検出されたビット回転モータ40の状態に基づき、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたと判断すると、ビット回転モータ40の回転を停止させる。
【0069】
また、制御部100は、ビット保持部3の軸方向に沿った位置をビット移動モータ50の回転量で制御し、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことの検出を許容する停止判断許容位置までビット保持部3が移動したと判断すると、検出部112で検出されたビット回転モータ40の状態に基づき、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたか否かを判断する。
【0070】
そこで、締結工具1は、ドライバビット2の軸方向に沿った移動位置(保持部材30の移動位置)を検出する位置検出部113を備える。位置検出部113は、例えば、ビット移動モータ50の回転量を検出し、ビット移動モータ50の回転量に基づきドライバビット2の位置(保持部材30の位置)を検出する。制御部100は、位置検出部113で検出されたドライバビット2の位置(保持部材30の位置)に基づき、ドライバビット2(保持部材30)が所定の停止判断許容位置(前進終了位置)に移動したか否か判断する。なお、位置検出部113の機能は、制御部100で実現しても良い。
【0071】
これにより、ネジ200を締結対象物に締結している途中で、ドライバビット2とネジ200との係合が外れた場合に、これを検出部112で検出されたビット回転モータ40の状態に基づき判断してビット回転モータ40の回転を停止させることが抑制される。
【0072】
締結工具1は、ドライバビット2の前進量を規定するビット移動モータ50の回転量等が設定される設定部110を備える。
図6は、設定部の一例を示す斜視図であり、次に、各図を参照して設定部110について説明する。
【0073】
設定部110は設定手段の一例で、複数の設定値の中から任意の設定値が選択可能、または、任意の設定値が無段階で選択可能に構成される。
【0074】
設定部110は、本例では、ボタンで構成される操作部110aで設定値が選択される構成である。また、操作部110aは、回転式のダイヤルで設定値が選択される構成でも良い。また、設定部110は、現在の設定値を作業者が容易に把握できるよう、ラベルや刻印等で現在値を示す方法や、LED等の表示部110bで現在値を示す方法等により、選択された設定値を表示する構成を備えても良い。表示部110bに表示される内容としては、ドライバビット2の前進量で規定されるネジ深さの設定値に加え、電源のON/OFFの状態、選択可能な各種運転モードの中から選択された運転モード、ネジの有無、ネジの残量、異常の有無などである。
【0075】
設定部110は、ネジ収納部6の裏面側に設けた基板収納部111において、ハンドル11と対向する側の面の左右両側にそれぞれ設けられる。
【0076】
これにより、締結工具1を後方からみた場合に、ハンドル11の左右両側から設定部110を視認することが可能である。
【0077】
<本実施の形態の締結工具の動作例>
図7は、本実施の形態の締結工具の動作の一例を示すフローチャート、
図8A、
図8B及び
図8Cは、ネジの締結状態を示す断面図、
図9Aは、ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフ、
図9Bは、ビット回転モータの電流変化を示すグラフであり、次に、各図を参照して、本実施の形態の締結工具の締結動作について説明する。
【0078】
締結工具1は、待機状態では、
図1Aに示すように、ドライバビット2の先端が、射出通路80の後方の待機位置P1に位置し、射出通路80にネジ200を供給可能である。
【0079】
制御部100は、
図7のステップSA1で、設定部110で選択された設定値に基づき、ドライバビット2の前進量を規定するビット移動モータ50の回転量を設定する。制御部100は、コンタクト部材81が締結対象物202に押し付けられ、コンタクトアーム82によりコンタクトスイッチ部84が押されて、ステップSA2でコンタクトスイッチ部84がオン状態となり、トリガ9が操作されて、ステップSA3でトリガスイッチ部90がオンになると、ステップSA4で第1の駆動部4のビット回転モータ40を駆動すると共に、ステップSA5で第2の駆動部5のビット移動モータ50を駆動する。
【0080】
ビット移動モータ50が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、プーリ52が正方向に回転することでワイヤ54がプーリ52に巻き取られる。プーリ52にワイヤ54が巻き取られることで、ワイヤ54と連結された第2の移動部材32cが、回転ガイド部材31にガイドされて軸方向に沿った前方向に移動する。第2の移動部材32cが前方向に移動すると、第1の移動部材32aがベアリング32bを介して第2の移動部材32cに押され、第2の移動部材32cと共に、付勢部材33を圧縮しながら軸方向に沿った前方向に移動する。
【0081】
第1の移動部材32aが前方向に移動すると、第1の移動部材32aと連結部材30bで連結された保持部材30が、回転ガイド部材31の溝部31aに連結部材30bがガイドされて、ドライバビット2の軸方向に沿った前方向に移動する。
【0082】
これにより、保持部材30に保持されたドライバビット2が矢印A1で示す前方向に移動し、ノーズ部8の射出口81aに供給されたネジ200と係合してネジ200を前方向に移動させ、締結対象物202に押し付ける。
【0083】
また、ビット回転モータ40が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、回転ガイド部材31が正方向に回転する。回転ガイド部材31が正方向に回転すると、保持部材30と連結された連結部材30bが回転ガイド部材31の溝部31aに押されることで、保持部材30が回転ガイド部材31と共に回転する。
【0084】
これにより、保持部材30に保持されたドライバビット2がネジ200を正方向(時計回り)に回転させ、締結対象物202に締め込む。締結工具1は、ドライバビット2を回転させてネジ200を締結対象物に締め込む動作を開始すると、ネジ200を介してドライバビット2に掛かる負荷が発生する。ネジ締めによる負荷の発生のタイミングT1以降、ビット回転モータ40の回転速度V1と、ビット移動モータ50の回転速度V2がともに低下する。
【0085】
制御部100は、ステップSA6でビット移動モータ50の回転量が、設定部110で選択された設定値となり、タイミングT2で、
図8A、
図8Bに示すように、ドライバビット2の先端が設定された前進終了位置P2に到達したと判断すると、ステップSA7でビット移動モータ50の正方向への回転を停止させる。
【0086】
制御部100は、ステップSA8でコンタクトスイッチ部84がオン状態であるとビット回転モータ40の正方向への回転を継続する。制御部100は、ビット移動モータ50の回転を停止させた後、ビット保持部3に保持され、ビット回転モータ40により回転するドライバビット2と、ネジ200との係合が外れたか否かを、検出部112で検出されたビット回転モータ40の状態に基づきステップSA9で判断する。
【0087】
制御部100は、ビット保持部3で保持部材30に保持されたドライバビット2に係合したネジ200を、締結対象物202に締結する方向にビット回転モータ40を回転させる動作で、検出部112で検出されたビット回転モータ40の状態に基づき、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたと判断すると、ステップSA10でビット回転モータ40の駆動を停止した後、ステップSA11でビット移動モータ50を逆転させる。
【0088】
ビット移動モータ50が他の方向である逆方向に回転すると、プーリ52が逆方向に回転することでワイヤ54がプーリ52から引き出される。ワイヤ54がプーリ52から引き出されることで、第2の移動部材32cが前方向に移動することで圧縮されていた付勢部材33が伸び、第2の移動部材32cを後方向に押す。
【0089】
第2の移動部材32cは、付勢部材33により後方向に押されることで、回転ガイド部材31にガイドされ軸方向に沿った後方向に移動する。第2の移動部材32cが後方向に移動すると、第1の移動部材32aがベアリング32bを介して第2の移動部材32cに引かれ、第2の移動部材32cと共に軸方向に沿った後方向に移動する。
【0090】
第1の移動部材32aが後方向に移動すると、第1の移動部材32aと連結部材30bで連結された保持部材30が、回転ガイド部材31の溝部31aに連結部材30bがガイドされて、ドライバビット2の軸方向に沿った後方向に移動する。
【0091】
制御部100は、ステップSA12で、プーリ52からワイヤ54が所定量引き出される初期位置までビット移動モータ50が逆転し、ドライバビット2の先端が待機位置P1に戻る位置まで、保持部材30及び移動部材32が後方向に移動すると、ステップSA13でビット移動モータ50の逆転を停止する。
【0092】
制御部100は、トリガスイッチ部90がオフになると、ネジ送りモータ70を一の方向に回転させることで、係合部73を下降させる。係合部73が次のネジ200と係合する位置まで下降すると、制御部100は、ネジ送りモータ70を逆転させることで、係合部73を上昇させ、次のネジ200を射出通路80に供給する。なお、トリガスイッチ部90がオフになる前で、ネジ200の締結動作を実行している間に、係合部73を次のネジ200と係合する位置まで下降させて待機させてもよい。これにより、次のネジ200を射出通路80に供給可能するまでの時間を短縮できる。
【0093】
ドライバビット2をネジ200のリセス200aに係合させ、ドライバビット2を回転させてネジ200を締め込む場合、ネジ200のリセス200aとドライバビット2は斜面で接するため、回転トルクの一部はドライバビット2をネジ200から浮かせる方向の力となり、締結工具1を締結対象物202の方向に押し付ける作業者の押し付け力が弱い場合、ネジ200のリセス200aとドライバビット2の先端とが密着しない場合がある。
【0094】
このため、ドライバビット2でネジ200を締結する動作で、ドライバビット2とネジ200のリセス200aとの噛み合い量にばらつきが生じる可能性がある。
【0095】
そこで、ネジ200の頭部201が締結対象物202から浮いた状態となるドライバビット2の先端の位置を前進終了位置P2とする。このようにすることで、ドライバビット2の先端が前進終了位置P2に到達してビット移動モータ50の正転を停止させ、ドライバビット2の前進が終了した後、まだ、ネジ200の頭部201が締結対象物202から浮いた状態であり、ビット回転モータ40の正転を継続することで、ネジ200は締結対象物202に更に締め込まれる。
【0096】
ネジ200の頭部201が締結対象物202の表面から浮き上がったり、埋まったりしない所謂面一な状態までネジ200が締結対象物202に締め込まれると、ドライバビット2とネジ200のリセス200aとの係合が外れる所謂カムアウトと称す状態が発生する。
【0097】
これにより、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことを検出すると、ネジ200の頭部201が面一な状態までネジ200が締結対象物202に締め込まれたと判断できる。
【0098】
図8Aと
図8Bに示すように、ドライバビット2とネジ200のリセス200aとの噛み合い量L1、L2にバラつきがあると、ドライバビット2の先端が前進終了位置P2に到達した段階で、ネジ200の締め込み深さが一定しない。
【0099】
これに対し、制御部100は、ドライバビット2の先端が前進終了位置P2に到達した後、ドライバビット2とネジ200との係合が外れるまでビット回転モータ40を回転させ、検出部112で検出されたビット回転モータ40の状態に基づき、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたと判断すると、ビット回転モータ40の駆動を停止する。
【0100】
これにより、ドライバビット2とネジ200のリセス200aとの噛み合い量によらず、ドライバビット2とネジ200のリセス200aとの係合が外れる位置で、ネジ200の締め込み深さが決まる。したがって、
図8Cに示すように、ネジ200の頭部201が面一な状態までネジ200が締結対象物202に締め込まれたタイミングで、ビット回転モータ40の回転を停止でき、ネジの締め込み深さを正確に管理することができる。
【0101】
制御部100は、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことを、検出部112で検出された例えばビット回転モータ40の回転速度の変化から判断する。ネジ200を締結対象物202に締め込む間は、ビット回転モータ40に常に負荷がかかり続けることから、
図9Aに示すように、ビット回転モータ40の回転速度V1が徐々に低下していく。これに対し、ドライバビット2とネジ200との係合が外れると、ビット回転モータ40にかかる負荷が小さくなることで回転速度が増加するため、ビット回転モータ40の回転速度の増加を検出することで所謂カムアウトの判断を行う。例えば、ビット回転モータ40を回転させる動作中に、ビット回転モータ40の回転速度が上昇したタイミングT3で、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたと判断する。また、ドライバビット2とネジ200との係合が外れると、ドライバビット2が空転した状態(無負荷または無負荷に近い状態)となることから、ビット回転モータ40の回転速度が、ドライバビット2の空転時と同等の回転速度になると、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたと判断しても良い。
【0102】
ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことの判断は、ビット回転モータ40に流れる電流値や電圧値の変化を検出して行っても良い。ドライバビット2とネジ200との係合が外れると、ビット回転モータ40にかかる負荷が小さくなることでビット回転モータ40に流れる電流が低下する。そこで、ビット回転モータ40を回転させる動作中に、
図9Bに示すように、ビット回転モータ40に流れる電流が低下したタイミングT3で、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたと判断しても良い。また、ドライバビット2とネジ200との係合が外れると、ビット回転モータ40にかかる負荷が小さくなることでビット回転モータ40に印加される電圧が上昇する。そこで、ビット回転モータ40を回転させる動作中に、ビット回転モータ40に印加される電圧が上昇したタイミングで、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたと判断しても良い。更に、ドライバビット2とネジ200との係合が外れると、ドライバビット2が空転した状態(無負荷または無負荷に近い状態)となることから、ビット回転モータ40に流れる電流、電圧が、ドライバビット2の空転時と同等の電流値、電圧値になると、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたと判断しても良い。
【0103】
なお、カムアウトが発生した状態でビット回転モータ40の回転が連続すると、ドライバビット2の摩耗やカムアウト発生中の音により作業者に不快感を与えることから、カムアウトを短時間で検出してビット回転モータ40の回転の停止することが望ましい。カムアウトを検出するための回転速度増加量の閾値を小さく設定すれば、短時間でカムアウトを検出できる。但し、回転速度増加量の閾値を小さく設定してしまうと誤検出が発生しやすくなる。
【0104】
そこで、カムアウトの検出を実施するタイミングを設定することで、誤検出の発生を回避する。カムアウトの検出を実行するタイミングは、例えば、ビット回転モータ40に掛かる負荷が、ネジ200を締め込む負荷以上となったことを検出した以降、あるいは、ドライバビット2の軸方向に沿った位置がカムアウトの検出を許容する停止判断許容位置まで前進した以降、あるいはコンタクトスイッチ部84がオンであることのいずれの条件でも、誤検出の発生を抑止可能となる。停止判断許容位置は、前進終了位置P2でも良い。さらに上述したいずれかの条件に加えて、ビット回転モータ40の回転量がカムアウトが発生し得ない回転量しか回転していない場合にはカムアウトの検出を抑制し、カムアウトの検出を許容する停止判断許容回転量に到達した以降にカムアウトの検出を実行するするという条件を加えることで、さらに誤検出の発生を抑制可能となる。
【0105】
図10は、本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャートである。ビット保持部3で保持されたドライバビット2を軸方向に移動させる第2の駆動部5は、例えばバネなどの付勢部材により付勢される力、気体の圧力などを利用して、ドライバビット(保持部材30)を軸方向に移動させても良い。付勢部材により付勢される力、気体の圧力などを利用して、ドライバビット2(保持部材30)を軸方向に移動させる構成では、ドライバビット2(保持部材30)の移動量を、保持部材30を位置決め部材に突き当てるなどの機械的な構成で規定し、ドライバビット2(保持部材30)が所定の前進終了位置に移動したとみなして制御を行っても良い。なお、ドライバビット2(保持部材30)が前進を開始してからの時間の経過で、ドライバビット2(保持部材30)が所定の前進終了位置に移動したとみなしても良い。
【0106】
制御部100は、コンタクト部材81が締結対象物202に押し付けられ、コンタクトアーム82によりコンタクトスイッチ部84が押されて、ステップSB1でコンタクトスイッチ部84がオン状態となり、トリガ9が操作されて、ステップSB2でトリガスイッチ部90がオン状態になると、ステップSB3で第1の駆動部4のビット回転モータ40を駆動すると共に、ステップSB4でドライバビット2(保持部材30)を前進させる。
【0107】
これにより、ドライバビット2が前方向に移動し、ノーズ部8の射出口81aに供給されたネジ200と係合してネジ200を前方向に移動させ、締結対象物202に押し付ける。
【0108】
また、ビット回転モータ40が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、保持部材30に保持されたドライバビット2がネジ200を正方向に回転させ、締結対象物202に締め込む。
【0109】
制御部100は、ドライバビット2の先端が設定された前進終了位置P2に到達したとみなし、ステップSB5でドライバビット2(保持部材30)の前進を終了する。
【0110】
制御部100は、ステップSB6でコンタクトスイッチ部84がオン状態であるとビット回転モータ40の正方向への回転を継続する。制御部100は、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたか否かを、検出部112で検出されたビット回転モータ40の状態に基づきステップSB7で判断する。
【0111】
制御部100は、検出部112で検出されたビット回転モータ40の状態に基づき、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたと判断すると、ステップSB8でビット回転モータ40の駆動を停止した後、ステップSB9でドライバビット2を初期位置に戻す。
【0112】
これにより、ネジ200の頭部201が面一な状態までネジ200が締結対象物202に締め込まれたタイミングで、ビット回転モータ40の回転を停止でき、ネジの締め込み深さを正確に管理することができる。
【0113】
図11は、本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャートである。ビット回転モータ40を停止させる制御を、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたとみなす所定の停止条件に基づき行っても良い。
【0114】
制御部100は、
図11のステップSC1で、設定部110で選択された設定値に基づき、ドライバビット2の前進量を規定するビット移動モータ50の回転量を設定する。制御部100は、コンタクト部材81が締結対象物202に押し付けられ、コンタクトアーム82によりコンタクトスイッチ部84が押されて、ステップSC2でコンタクトスイッチ部84がオン状態となり、トリガ9が操作されて、ステップSC3でトリガスイッチ部90がオンになると、ステップSC4で第1の駆動部4のビット回転モータ40を駆動すると共に、ステップSC5で第2の駆動部5のビット移動モータ50を駆動する。
【0115】
これにより、保持部材30に保持されたドライバビット2が前方向に移動し、ノーズ部8の射出口81aに供給されたネジ200と係合してネジ200を前方向に移動させ、締結対象物202に押し付ける。
【0116】
また、ビット回転モータ40が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、保持部材30に保持されたドライバビット2がネジ200を正方向(時計回り)に回転させ、締結対象物202に締め込む。
【0117】
制御部100は、ステップSC6でビット移動モータ50の回転量が、設定部110で選択された設定値となり、ドライバビット2の先端が設定された前進終了位置P2に到達したと判断すると、ステップSC7でビット移動モータ50の正方向への回転を停止させる。
【0118】
制御部100は、ステップSC8でコンタクトスイッチ部84がオン状態であるとビット回転モータ40の正方向への回転を継続する。制御部100は、ビット移動モータ50の回転を停止させた後、ビット回転モータ40の回転を停止させる所定の停止条件となっているか否かをステップSC9で判断する。
【0119】
制御部100は、ビット回転モータ40の所定の停止条件として、ビット回転モータ40の回転量が、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことに相当する規定回転量になったと判断すると、ステップSC10でビット回転モータ40の駆動を停止させる。または、制御部100は、ビット回転モータ40の所定の停止条件として、ビット回転モータ40の回転時間が、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことに相当する規定回転時間になったと判断すると、ステップSC10でビット回転モータ40の駆動を停止させる。制御部100は、ステップSC10でビット回転モータ40の駆動を停止させると、ステップSC11でビット移動モータ50を逆転させる。
【0120】
制御部100は、ステップSC12で所定の初期位置までビット移動モータ50が逆転し、ドライバビット2の先端が待機位置P1に戻る位置まで、保持部材30及び移動部材32が後方向に移動すると、ステップSC13でビット移動モータ50の逆転を停止する。
【0121】
ドライバビット2の先端が前進終了位置P2に到達してビット移動モータ50の正転を停止させることで、ドライバビット2の前進が終了した後、まだ、ネジ200の頭部201が締結対象物202から浮いた状態であり、ビット回転モータ40の正転を継続することで、ネジ200は締結対象物202に更に締め込まれる。
【0122】
ネジ200の頭部201が締結対象物202から浮いた状態から、ビット回転モータ40を更に正転させることで、ドライバビット2とネジ200との係合が外れるまでに必要なビット回転モータ40の回転量、回転時間はおおよそ推定可能である。
【0123】
そこで、ビット回転モータ40の回転量が、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことに相当する規定回転量になったと判断すると、ビット回転モータ40の駆動を停止させることで、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことを検出することなく、ネジ200の頭部201が面一な状態までネジ200が締結対象物202に締め込まれたと判断できる。また、ビット回転モータ40の回転時間が、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことに相当する規定回転時間になったと判断すると、ビット回転モータ40の駆動を停止させることで、ドライバビット2とネジ200との係合が外れたことを検出することなく、ネジ200の頭部201が面一な状態までネジ200が締結対象物202に締め込まれたと判断できる。
【0124】
<本実施の形態の締結工具の変形例>
図12A及び
図12Bは、ネジの締結状態を示す断面図であり、次に、各図を参照して、本実施の形態の締結工具の変形例について説明する。
【0125】
締結工具1は、
図12Aに示すように、締結対象物202の表面に対してネジ200を略垂直な向きで締め込む動作以外に、入隅(例えば直交する2つの面で形成されるへこんだ角部)等における締結作業において、締結工具1を締結対象物202に対して垂直に当てられない状態で、
図12Bに示すように、締結対象物202の表面に対してネジ200を傾けて締め込む斜め打ちと称す動作も考えられる。
【0126】
締結工具1は、締結対象物202の表面に対してネジ200を傾けて締め込む斜め打ち動作では、コンタクト部材81の先端の一部が締結対象物202と接した状態となって、ノーズ部8の射出口81aと締結対象物202との間に隙間L3が生じる。このため、締結対象物202の表面に対してネジ200を略垂直な向きで締め込む動作に合わせて設定された前進終了位置P2にドライバビット2の先端が到達した段階で、ビット移動モータ50の回転を停止させると、ドライバビット2の移動量(前進量)が不足する場合がある。
【0127】
そこで、斜め打ち動作に合わせた前進終了位置P2を設定部110で設定可能とする。斜め打ち動作(斜め打ちモードとも称す)に合わせた前進終了位置P2の設定は、設定部110の操作でドライバビット2の移動量(前進量)を段階的に増加させて、前進終了位置P2を選択可能とする。
【0128】
斜め打ちモードにおける前進終了位置P2の設定は、例えば、ボタンで構成される操作部110aの何れかを同設定に割り当て、操作部110aを1回押すごとに、前進終了位置P2を切り替えらえるようにする。斜め打ちモードにおける前進終了位置P2の設定は、前進終了位置P2を微調整する場合と比較して、ドライバビット2の移動量(前進量)の変化率が大きくなるようにする。また、締結対象物202の表面に対してネジ200を傾ける角度に応じて、何種類かの前進終了位置P2を選択可能としても良い。これにより、前進終了位置P2を微調整する場合と比較して、斜め打ちモードに応じた前進終了位置P2の設定を、迅速かつ簡単に行うことができる。
【符号の説明】
【0129】
1・・・締結工具、10・・・工具本体、11・・・ハンドル、2・・・ドライバビット、3・・・ビット保持部、30・・・保持部材、31・・・回転ガイド部材、32・・・移動部材、33・・・付勢部材、4・・・第1の駆動部、40・・・ビット回転モータ(モータ、第1のモータ)、5・・・第2の駆動部、50・・・ビット移動モータ(第2のモータ)、52・・・プーリ、54・・・ワイヤ、6・・・ネジ収納部、7・・・ネジ送り部、8・・・ノーズ部、81・・・コンタクト部材、84・・・コンタクトスイッチ部、9・・・トリガ、90・・・トリガスイッチ部、100・・・制御部、110・・・設定部、112・・・検出部、113・・・位置検出部