(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163213
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】畜肉様組成物用添加剤、及びそれを用いた畜肉様組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 13/40 20230101AFI20231102BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20231102BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20231102BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A23L13/40
A23L13/00 A
A23L13/00 Z
A23J3/00 503
A23J3/16 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073961
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】佐治 薫
(72)【発明者】
【氏名】畑中 美帆
(72)【発明者】
【氏名】小野 敦
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC09
4B042AD03
4B042AD20
4B042AD21
4B042AK06
4B042AK08
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK13
4B042AK16
4B042AK17
4B042AK20
4B042AP04
4B042AP21
(57)【要約】
【課題】畜肉様組成物を成形する際の作業性、及び成形後の保形性を改善させることが可能な畜肉様組成物用添加剤を提供する。
【解決手段】粉末状セルロースを含む畜肉様組成物用添加剤であって、該粉末状セルロースは、0.5質量%水分散液としたときの、25℃、標準大気圧条件において30分間静置する透過度試験により得られる透過度T30が、20%未満であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状セルロースを含む畜肉様組成物用添加剤であって、
該粉末状セルロースは、0.5質量%水分散液としたときの、25℃、標準大気圧条件において30分間静置する透過度試験により得られる透過度T30が、20%未満であることを特徴とする畜肉様組成物用添加剤。
【請求項2】
該粉末状セルロースは、さらに下記式(1)で表される初期透過率Rsが、15%未満であることを特徴とする請求項1に記載の畜肉様組成物用添加剤。
Rs=(T5-T0)/(T30-T0)×100・・・(1)
(但し、T0は試験管に該水分散液を入れた直後の高さ15mmにおける透過度であり、T5は試験管に該水分散液を入れ5分間静置後の高さ15mmにおける透過度であり、T30は試験管に該水分散液を入れ30分間静置後の高さ15mmにおける透過度である)
【請求項3】
植物由来たんぱく質、及び請求項1又は2に記載の畜肉様組成物用添加剤を含むことを特徴とする畜肉様組成物。
【請求項4】
前記植物由来たんぱく質が、大豆たんぱく質であることを特徴とする請求項3に記載の畜肉様組成物。
【請求項5】
前記植物由来たんぱく質が、粒径500μm未満の粉末状物を含むことを特徴とする請求項3に記載の畜肉様組成物。
【請求項6】
畜肉素材の含有量が30質量%以下であることを特徴とする、請求項3に記載の畜肉様組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状セルロースを含有する畜肉様組成物用添加剤、及びそれを用いた畜肉様組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に新興国における人口の増大や所得の拡大に伴い、畜肉原料の需要は拡大し続けており、今後は畜肉原料の供給不足が懸念されている。またさらに、宗教的理由あるいは個人的信条、更には健康訴求なども背景に、大豆素材や穀類などの植物性原料を多く配合した、畜肉原料をほとんどあるいは全く使用しない、畜肉様食品は注目を浴びている。
【0003】
そのような畜肉様食品としては、例えば、特定の組織状大豆蛋白を結着原料と混合し、成形加熱することで得られる畜肉様加工食品が提案されていたり(特許文献1)、澱粉及び大豆蛋白質素材を配合した組織状大豆蛋白質と、分離大豆蛋白質、水及び油脂を配合したエマルジョンを含有する嚥下困難者用ハンバーグ様食品が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/043384号
【特許文献2】特開2016-67250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来知られた提案は、結着原料として粉末状大豆蛋白素材を原料として水および油脂を加えて混練したものを用いるものであり、このような結着原料を用いて得られた畜肉様組成物はべたつくため生地のまとまりが悪く、畜肉様組成物を成形する際の作業性に劣るものであり、また、成形後に得られた生地は形状が崩れやすいものであった。また、畜肉原料の配合量を低下させると畜肉様の食感を得られなかったり、添加した澱粉によりぬめりや糊感を生じるため改善が望まれていた。
【0006】
そこで本発明では、畜肉様組成物を成形する際の作業性、及び成形後の保形性を改善させることが可能な畜肉様組成物用添加剤、及び食感に優れる畜肉様加工食品を得ることが可能な畜肉様組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、下記(1)~(6)にて課題を解決できることを見出した。
(1) 粉末状セルロースを含む畜肉様組成物用添加剤であって、該粉末状セルロースは、0.5質量%水分散液としたときの、25℃、標準大気圧条件において30分間静置する透過度試験により得られる透過度T30が、20%未満であることを特徴とする畜肉様組成物用添加剤。
(2) 該粉末状セルロースは、さらに下記式(1)で表される初期透過率Rsが、15%未満であることを特徴とする(1)に記載の畜肉様組成物用添加剤。
Rs=(T5-T0)/(T30-T0)×100・・・(1)
(但し、T0は試験管に該水分散液を入れた直後の高さ15mmにおける透過度であり、T5は試験管に該水分散液を入れ5分間静置後の高さ15mmにおける透過度であり、T30は試験管に該水分散液を入れ30分間静置後の高さ15mmにおける透過度である)
(3) 植物由来たんぱく質、及び(1)又は(2)に記載の畜肉様組成物用添加剤を含むことを特徴とする畜肉様組成物。
(4) 前記植物由来たんぱく質が、大豆たんぱく質であることを特徴とする(3)に記載の畜肉様組成物。
(5) 前記植物由来たんぱく質が、粒径500μm未満の粉末状物を含むことを特徴とする(3)に記載の畜肉様組成物。
(6) 畜肉素材の含有量が30質量%以下であることを特徴とする、(3)に記載の畜肉様組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、畜肉様組成物を成形する際の作業性、及び成形後の保形性を改善させることが可能な畜肉様組成物用添加剤、及び食感に優れる畜肉様加工食品を得ることが可能な畜肉様組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明の詳細を説明するが、特に記載のない場合「AA~BB%」等という記載は、「AA%以上BB%以下」をあらわすものとする。
【0010】
すなわち本発明は、粉末状セルロースを含む畜肉様組成物用添加剤であって、該粉末状セルロースは、0.5質量%水分散液としたときの、25℃、標準大気圧条件において30分間静置する透過度試験により得られる透過度T30が、20%未満である。
【0011】
<粉末状セルロース>
本発明においては、畜肉様組成物用添加剤として、粉末状セルロースを含む。本発明において用いられる粉末状セルロースは、0.5質量%水分散液としたときの、25℃、標準大気圧条件において30分間静置する透過度試験により得られる透過度T30が、20%未満であることが重要であり、0.1%以上15%以下であることが好ましく、0.1%以上10%以下であることがより好ましく、0.1%以上5%以下がさらに好ましい。粉末状セルロースの透過度T30が、本範囲に入っている場合は、水分散液中の粉末状セルロースの沈降が一定程度しか起こらないために透過度がほとんど変動しておらず、よって比較的微細な繊維が適度なバランスで含まれていると考えることができ、このような粉末状セルロースを含む畜肉様組成物用添加剤を用いて得られた畜肉様組成物の生地はきめ細やかな食感となり、さらにまとまりやすく、保水性に優れるため、食感や成形性、保管性に優れる。また、この畜肉様組成物を成形・加熱して得られる畜肉様加工食品は焼き目が崩れることなく付与でき、また肉汁感のようなジューシーさの保持に優れる。粉末状セルロースの透過度T30が、本範囲の上限値より大き過ぎると、微細な繊維分が少ないためきめ細やかな食感や、保管性に劣る懸念がある。
【0012】
透過度試験の条件をコントロールすることにより、得られる透過度の値から、粉末状セルロースの沈降性を知ることができる。セルロースの沈降性はセルロースのフィブリル化の影響を受けるものである。したがって、適切な条件にて透過度試験を行うことにより、得られた透過度の値から、セルロースの繊維状態を総合的に判断することができる。セルロースの繊維状態は、畜肉様組成物などに用いた際に、畜肉様組成物の硬さや保形性(まとまり性)や保水性などの様々な特性に影響を与えるものである。
【0013】
本明細書における透過度は、例えば、液中分散安定性評価装置(タービスキャン LAB、英弘精機社製)を用いた透過度試験を行うことにより測定することができる。具体的には、ガラス製の試験管(直径25mm)に測定用の水分散液を注いだ後、試験管中の測定試料の底部から15mmの位置に、波長880nmの入射光を照射し、透過光を検出して、透過光強度(%)を透過度として求めることができる。なお、透過度T30は、試験管に試料を入れ30分間静置後の高さ15mmにおける透過度を示すものである。
【0014】
本発明で用いる粉末状セルロースは、初期の沈降を抑えより微細な繊維を含み畜肉様組成物の食感や保形性、保管性をさらに向上させる観点から、さらに下記式(1)で表される初期透過率Rsが、15%未満であることが好ましく、1%以上14%以下であることがより好ましく、5%以上12%以下であることがさらに好ましい。
Rs=(T5-T0)/(T30-T0)×100・・・(1)
(但し、T0は試験管に該水分散液を入れた直後の高さ15mmにおける透過度であり、T5は試験管に該水分散液を入れ5分間静置後の高さ15mmにおける透過度であり、T30は試験管に該水分散液を入れ30分間静置後の高さ15mmにおける透過度である。)
【0015】
本発明に用いられる粉末状セルロースは、パルプ原料を塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸で酸加水分解処理したパルプを粉砕処理、あるいは酸加水分解処理を施さないパルプを機械粉砕して得ることができる。
【0016】
その様なパルプ原料としては、広葉樹由来のパルプ、針葉樹由来のパルプ、リンター由来のパルプ、非木材由来のパルプなど特に限定されるものではない。
【0017】
また、本発明において、パルプ化法(蒸解法)は特に限定されるものではなく、サルファイト蒸解法、クラフト蒸解法、ソーダ・キノン蒸解法、オルガノソルブ蒸解法などを例示することができるが、これらの中では、環境面の点から、クラフトパルプが好ましい。
【0018】
本発明のパルプ原料はスラリー状の湿式パルプ、又はスラリーを脱水・乾燥させシート状にした乾式パルプのどちらでもよく特に限定されるものではないが、取扱いの簡便さから乾式パルプ(パルプシート)を用いるのが好ましい。
【0019】
その様にして得られた粉末状セルロースの平均粒子径については特に限定されないが、食品に用いた際の保形性が得られ易い観点、及びセルロース繊維特有の繊維感が増すことによる食感の低下を抑制する観点から、平均粒子径は5~75μmであることが好ましい。粉末状セルロースの平均粒子径が上記下限値よりも小さい場合は、セルロース繊維が細かいため、食品に用いた際の保形性が得られ難く、上記上限値よりも大きい場合は、セルロース繊維を感じやすくなるため、食感が低下するおそれがある。
【0020】
本発明に用いられる粉末状セルロースの粒子径分布については特に限定されないが、粉舞いなどを抑制しハンドリング性を向上させる観点から、粒度分布から算出される蓄積分布で、粒子径100μm以上の粉末状セルロースが0~45.0体積%の範囲にあり、粒子径200μm以上の粉末状セルロースが0~25.0体積%の範囲にあり、粒子径300μm以上の粉末状セルロースが0~12.0体積%以下の範囲にあり、粒子径600μm以上の粉末状セルロースが0~2.0体積%以下の範囲にあることが好ましい。
【0021】
粉末状セルロースの平均粒子径及び粒子径分布測定は、例えば、レーザー回析式粒度分布測定装置(マスターサイザー2000、スペクトリス株式会社製)を使用して行うことができる。測定原理としてレーザー散乱法を用いるものであり、粒度分布を蓄積分布として表し、蓄積分布が50%となる値を平均粒子径とする。
【0022】
また本発明に用いられる粉末状セルロースは、特に限定されないが、平均重合度が100~2500であることが好ましく、結晶化度が60~90%であることが好ましく、さらに平均繊維長が0.1~1.0mmであることが好ましい。
平均重合度は、第16改正日本薬局方解説書、結晶セルロース確認試験(2)記載の銅エチレンジアミンを用いた粘度測定法により求めることができる。結晶セルロースの確認試験(2)記載の方法で計測ができない範囲については、例えばパルプ・ポリマー用全自動粘度測定システムRPV-1(RHEOTEK製)を用い、極限粘度を計測し、「VISCOSITY MEASUREMENTS OF CELLULOSE/SO2-AMINE DIMETHYLSULFOXIDE SOLUTION」(磯貝ら著、1998)に記載の〔η〕=0.909×DP0.85(文献中の式(2))の式から導く方法などが挙げられる。
結晶化度は、試料のX線回折を測定することで求めることができる。X線回折の測定は、適当量の試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出は(L.Segal,J.J.Greely,etal,Text.Res.J.,29,786,1959)、および、Kamideらの手法(K.Kamide et al,Polymer J.,17,909,1985)を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースの結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度
平均繊維長は、例えばファイバーテスター(Lorentzen & Wettre社製)を用いて測定することができる。本発明において、平均繊維長とは、長さ加重平均繊維長のことを示す。
【0023】
本発明に用いられる粉末状セルロースは、特に限定されないが、畜肉様組成物において食感改良又は保水性をより効果的に発揮することが可能な観点から、見掛け比重が0.1~0.6g/mLの範囲が好ましく、0.1~0.45g/mLの範囲がより好ましく、0.15~0.4g/mLの範囲がさらに好ましい。見掛け比重は、常法に従い測定すればよい。
【0024】
<畜肉様組成物用添加剤>
本発明の畜肉様組成物用添加剤としては、特定の条件において行った透過度試験により得られる透過度T30が20%未満である粉末状セルロースを含むものであれば特に限定されない。
【0025】
本発明に用いられる粉末状セルロースは、本発明の効果を損なわない範囲で、機能性付与、もしくは機能性向上を目的に、粉末状セルロースの原料とその他有機および/または無機成分を単独もしくは2種類以上任意の割合で混合し、粉砕することも可能である。また、原料に使用する天然セルロースの重合度を大幅に損なわない範囲で、化学的処理を施すことも可能である。
【0026】
<畜肉様組成物>
本発明の畜肉様組成物は、植物由来たんぱく質、及び前述の畜肉様組成物用添加剤を含むことを特徴とする。本発明の畜肉様組成物用添加剤は保水性に優れるため、これを添加した畜肉様組成物は、カビの発生が抑制される。
【0027】
畜肉様組成物に対する畜肉様組成物用添加剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、畜肉様の食感を得る観点から、畜肉様組成物の全質量に対して畜肉様組成物用添加剤を2~5質量%添加することが好ましく、2.5~4質量%がより好ましい。添加量が上記上限値よりも多すぎる場合は、畜肉様組成物にねちゃつき感が生じるため成形時の作業性に劣る虞があり、また、加熱して得られた畜肉様加工食品は、硬くなりすぎて食感に劣る虞がある。添加量が上記下限値よりも少なすぎる場合は、畜肉様の食感を得られにくくなる恐れがある。さらに畜肉様の食感を得るためには、畜肉様組成物(大豆カード)に対し、畜肉様組成物用添加剤を2~5質量%を添加することが好ましい。
なお、カビの発生を効果的に抑制可能な観点からは、畜肉様組成物(大豆カード)の全質量に対して、畜肉様組成物用添加剤を1~10質量%添加することが好ましく、2~5質量%がより好ましい。
【0028】
<植物由来たんぱく質>
本発明で用いられる植物由来たんぱく質とは、例えば、大豆、えんどう豆、菜種、綿実、落花生、ゴマ、サフラワー、向日葵、コーン、ベニバナ、ココナッツ等の油糧種子、あるいは、米、大麦、小麦等の穀物種子由来のたんぱく質素材等や、これらの抽出・加工たんぱく、例えば、米グルテリン、大麦プロラミン、小麦プロラミン、小麦グルテン、大豆グロブリン、大豆アルブミン、落花生アルブミン等、これらの熱処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理たんぱく質等が挙げられる。入手の容易性および経済性等の点では大豆たんぱく質が好ましい。また、ここでいう大豆たんぱく質は、大豆由来のたんぱく質を含む素材であればよく、丸大豆や半割れ大豆などの全脂大豆や、油脂を除去した減脂大豆や脱脂大豆、含水エタノール洗浄や酸性水洗浄等によりたんぱく質を濃縮した濃縮大豆たんぱく、さらには分離大豆たんぱく質または豆乳、ならびにそれらの加水分解物、オカラ、ホエー等が例示され、これらの少なくとも1種以上を選択できる。これらの内、脱脂大豆が経済性に優れるため特に好ましい。
【0029】
そのような植物由来たんぱく質は、その性状も特に制限はなく、粒状・粉末状・ペースト状・繊維状など、畜肉様組成物に求められる性質などにあわせて適宜選択することができる。本発明に用いられる植物由来たんぱく質は、畜肉様組成物を用いて得られる畜肉様加工食品の食感の向上や粉末状セルロースとの相互作用の観点から、粒径500μm未満の粉末状物を含むことが好ましく、粒径10μm以上200μm未満の粉末状物(粉末状たんぱく)を含むことがより好ましい。このような粉末状の大豆たんぱく質としては、市販のものを用いることもできる。
なお粉末状やペースト状の植物由来たんぱく質を適量の水と混練して得られる成形物はエマルションカードといい、特に大豆たんぱく質から得られる大豆カードは粒状の大豆たんぱく質のつなぎとして併用されることが好ましい。
【0030】
本発明の畜肉様組成物は、畜肉素材の含有量が30質量%以下であることが好ましい。
【0031】
本発明における畜肉素材とは、家畜(豚、牛、羊、山羊、馬など)や、家禽(鶏、うずら、アヒル、鴨、合鴨、ガチョウ、七面鳥など)や、鹿、猪などの、鳥獣の食肉素材を意味する。なお、上記畜肉素材は、いわゆる肉(筋肉)だけでなく皮、脂肪、スジ、軟骨、内臓、血液などの一般的に畜肉加工食品に用いられる組織も含む。
【0032】
本発明の畜肉様組成物は、畜肉素材を含まずとも、畜肉様の優れた食感を再現できる。種々の理由で畜肉を口にしない人でも食べることができるというメリットを得るためには、畜肉素材の含有量は出来るだけ少なくすることが好ましく、例えば畜肉素材の含有量が20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。また畜肉素材を一切含まない(畜肉素材の含有量が0質量%)ことがさらに好ましい。しかしながら畜肉素材のコストや供給安定性・品質安定性を一定に保つために、一定以下であれば畜肉素材を含有することもできる。
【0033】
本発明の畜肉様組成物に含まれる植物由来たんぱく質と粉末状セルロースは、植物由来たんぱく質:粉末状セルロース=60~99質量%:1~40質量%の範囲が好ましく、植物由来たんぱく質:粉末状セルロース=70~98質量%:2~30質量%の範囲がより好ましく、植物由来たんぱく質:粉末状セルロース=80~95質量%:5~20質量%の範囲がさらに好ましい(但し、植物由来たんぱく質と粉末状セルロースの総質量を100質量%とする)。本範囲を満たすことで、畜肉様の優れた食感をより発揮することができ、また保水性により優れるために作業性などを改善することができる。
【0034】
本発明の畜肉様組成物に用いられる他の原料も、特に制限はなく、通常の畜肉加工食品と同様に、求められる風味・食感・物性・外観などに応じてその他の添加材を用いることができる。例えば、メチルセルロースなどの増粘剤、野菜、畜肉素材を除く動物性たんぱく質(卵、乳製品等)、調味料、パン粉などを含む穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。
このうち、メチルセルロースは畜肉様組成物を用いて得られる畜肉様加工食品に良好な弾力性のある食感を与えることができるため、併用されることが好ましい。
【0035】
そのような畜肉様組成物に含まれるメチルセルロースとしては、粉末状セルロース:メチルセルロース=10~90質量%:90~10質量%の範囲となるよう調整することが好ましく、粉末状セルロース:メチルセルロース=30~90質量%:70~10質量%となる範囲がより好ましく、粉末状セルロース:メチルセルロース=50~90質量%:10~50質量%の範囲であることがさらに好ましい。
本範囲でメチルセルロースを配合することで、本発明の効果を発揮しつつ、より弾力性があり畜肉様の食感を得ることができる。
【0036】
また本発明の畜肉様組成物は、植物由来たんぱく質が全固形分量に対して30質量%以上含まれることが好ましく、40質量%以上含まれることがより好ましく、45質量%以上含まれることがさらに好ましい。上限としては90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。畜肉様組成物においては、植物由来たんぱく質以外に、前述される添加材を適量用いることで、より畜肉様の食感や風味を再現できるため好ましい。
【0037】
本発明の畜肉様組成物の前述されるそれぞれの原材料を、混練し得ることができる。混練する方法については特に制限はないが、畜肉様の優れた食感と保水性を得るために、特に粉末状セルロースが植物由来たんぱく質にできるだけ均一になるように混練することが好ましい。
【0038】
<畜肉様加工食品>
そのようにして得られる本発明の畜肉様組成物は、様々な形状に成形が可能であり、加熱処理を行うことで畜肉様加工食品を得ることができる。そのような畜肉様加工食品とは、例えば、ソーセージ、ハンバーグ、肉団子、プレスハム、チョップドハム、サラミ、ナゲット、メンチカツ、ロールキャベツ、ミートローフ、テリーヌ、つくね、肉まん、餃子、シュウマイ、成形肉などが挙げられる。
【0039】
本発明の畜肉様組成物用添加剤は、0.5質量%水分散液としたときの、25℃、標準大気圧条件において30分間静置する透過度試験により得られる透過度T30が、20%未満である粉末状セルロースを含むため、これを用いた畜肉様組成物は、保水性や生地のきめ細やかさに優れるものであり、成形する際の作業性、及び成形後の保形性が改善する。また、この畜肉様組成物を成形・加熱して得られる畜肉様加工食品は、焼き目が崩れることなく付与でき、また肉汁感のようなジューシーさの保持に優れるものであり食感に優れるものである。また、このような粉末状セルロースを含む本発明の畜肉様組成物用添加剤は、粒径500μm未満の粉末状たんぱく質との相性がよく、これらに添加することにより、得られる畜肉様組成物は保水性や生地のきめ細かさに優れる。
【実施例0040】
以下本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記記載の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例における各数値の測定/算出方法が特に記載されていない場合には、明細書中に記載されている方法により測定/算出されたものである。
【0041】
(透過度試験)
製造例で得られた粉末状セルロースを純水で0.5質量%に調整し、500rpmの条件で30秒間撹拌して測定試料を調製した。撹拌子を素早く取り除いた後に、調製した測定試料15mLを、直径25mmの筒状のガラス製セルに注ぎ、セル中の測定試料の底部から高さ15mmの位置に、波長が880nmである入射光を照射した。入射光に対する透過光を検出して透過光強度(%)を測定し、透過度とした。透過度試験は、液中分散安定性評価装置(タービスキャンLab、英弘精機製)を用いて、上記のように調製した測定試料に対して、25℃、標準大気圧の条件で行った。測定試料をセルに注いだ直後のセルの底部から15mmにおける透過度(T0)、5分間静置後のセルの底部から15mmにおける透過度(T5)、及び30分間静置後のセルの底部から15mmにおける透過度(T30)をそれぞれ測定した。
さらに、得られた透過度から、下記式(1)で表される初期透過率Rsを算出した。
Rs=(T5-T0)/(T30-T0)×100・・・(1)
【0042】
(製造例1)
無塩素漂白パルプを、パルプ濃度5.5%、塩酸濃度0.1Nにおいて95℃で2時間、加水分解反応させた。加水分解反応が終了した後、水酸化ナトリウムで中和し、工業用水で洗浄した後、脱液した。これを、固形分が25%以上になるように脱水し、出口乾燥温度100℃で乾燥機にて送風乾燥し、酸加水分解処理パルプを得た。得られた酸加水分解処理パルプを、ハンマーミル(ホソカワミクロン社製、マイクロパルペライザAP-S型)を用いて機械的に適宜粉砕・分級を行い、さらにジェットミル(アイシンナノテクノロジーズ社製、ナノジェットマイザー)で粉砕し、平均粒子径10.0μm、透過度T0=0.02%、T5=0.04%、T30=0.19%、初期透過率Rs=11.8%の粉末状セルロースAを得た。
【0043】
(実施例1~3,比較例1~2)
表1に記載の配合比(全量100g)にて、大豆たんぱく質(ニューフジプロSHE、不二製油社製)に冷水を加え撹拌を行った。十分に混ざったら、撹拌しながらキャノーラ油を少しずつ添加し乳化させ、エマルジョンカードとした。袋に詰めて冷蔵庫で3時間以上保管し、乳化された大豆カードを得た。
得られた大豆カードを用い表2記載の配合比(全量500g)にて、アルミボウル内で、大豆カード、適量の水に溶かした粒状大豆たんぱく、ソテーオニオン、ショートニング、粉末状セルロースA、メチルセルロース及び表2記載の液体性状を示すその他材料を添加し、よく撹拌を行った。
その後、表2記載の粉末性状を示す残りの材料を添加し、粘り気が出るまでよく撹拌を行い、畜肉様組成物を得た。
得られた畜肉様組成物を80g/1個にそれぞれ分けて、ハンバーグ形状に成形した。
温度220℃の鉄板で1分間熱し、ハンバーグ形状の畜肉様組成物1の両面に、焼き目を付けた後、コンベクションオーブンで蒸しあげ(温度85℃/15分間)、畜肉素材が無配合の実施例1~3、比較例1~2のミートレスハンバーグを得た。得られたミートレスハンバーグ及び畜肉様組成物について、以下の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0044】
<成形時の作業性>
畜肉様組成物を、アルミボウル内でゴム手袋をした手で混練しながら、アルミボウル壁面への付着量及びゴム手袋への付着量を目視確認し、以下の基準で判断した。
◎:保水性が強いため、畜肉様組成物がまとまり易く、アルミボウル壁面やゴム手袋への付着量は少ない。
〇:保水性があり、畜肉様組成物がまとまり易く、アルミボウル壁面やゴム手袋への付着は抑えられている。
△:畜肉様組成物のまとまりに多少劣り、若干のアルミボウル壁面やゴム手袋への付着が見られる。
×:保水性が劣り、畜肉様組成物はべたついているため、アルミボウル壁面やゴム手袋に付着がみられる。
【0045】
<保形性(焼く前)>
畜肉様組成物は、ハンバーグ形状に手で成形する際の弾力性等について、比較例2を基準とし、以下の基準で評価した。
◎:弾力性が向上し、しっかりとした硬さが出ており、保形性も高い。
○:弾力性が向上し、保形性も高い。
△:弾力性は向上するが、畜肉様組成物は多少柔らかい。
×:基準値と弾力性や硬さなどは同等であった。
【0046】
<保形性(焼いた後)>
加熱して得られたハンバーグについて、目視にて天面と側面を観察し、鉄板での焼き目をつける処理において形状に崩れがないかを確認した。
◎:型崩れが無く、形状を保持している。
○:型崩れがほとんどなく、形状を保持している。
△:側面などに多少型崩れがみられるが、形状は保持できている。
×:側面などに型崩れがあり、やや横に広がっているなど形状も変化している。
【0047】
<ハンバーグの硬さ>
得られたミートレスハンバーグを、20名のパネラーにて試食を行い、硬さを中心とした食感を5段階に分けることにより、その平均値を硬さの官能評価として算出した。なお官能評価は比較例2を0(基準)とし、これより硬いと感じるほど数値が大きくなる。
【0048】
<ハンバーグの食感>
得られたミートレスハンバーグを、5名のパネラーにて試食を行い、下記の基準で食感を評価しその平均を算出した。
◎:生地のなめらかさやジューシー感をよく感じられ、食感に優れる。
〇:生地のなめらかさやジューシー感があり、ハンバーグらしい食感である。
△:生地のなめらかさやジューシー感が少しあるが、ねっとりした感じがする。
×:生地のなめらかさやジューシー感がなく、ぬるっとした食感である。
【0049】
【0050】
【表2】
※粒状大豆たんぱく・・・ニューフジニック25N:ニューフジニック43N=7:3配合
【0051】
表2からわかる通り、本発明の特定の透過度の範囲の粉末状セルロースを含む畜肉様組成物用添加剤を添加した実施例1~3の畜肉様組成物は、成形時の作業性及び保形性に優れるものであり、この畜肉様組成物を成形・加熱して得られたハンバーグは、きめ細やかな食感とジューシーさがあり、食感に優れる。
【0052】
(実施例4~5,比較例3,参考例1)
表1に記載の配合比で実施例1と同様に大豆カードを得た。得られた大豆カードを用い表3記載の配合比(全量100g)で配合し、よく混練することにより、畜肉様組成物を得た。得られた畜肉様組成物を脱気した密封容器に入れ、温度4℃、湿度40%の条件で50日間保管した。
【0053】
保管後の畜肉様組成物について、目視でカビの発生の有無を確認し、下記の基準で評価した。表3に結果を示した。
○:カビの発生が認められない。
△:一部にカビの発生が確認された。
×:全体的に多量のカビの発生が確認された。
【0054】
【0055】
表3からわかる通り、本発明の特定の透過度の範囲の粉末状セルロースを含む畜肉様組成物用添加剤を添加した実施例4~5の畜肉様組成物は、メチルセルロースのみを添加した比較例3と比べて保管後のカビの発生が抑制されたものであった。