(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163214
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】畜肉様食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23J 3/00 20060101AFI20231102BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20231102BHJP
A23L 13/60 20160101ALI20231102BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20231102BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20231102BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20231102BHJP
【FI】
A23J3/00 503
A23J3/14
A23L13/60 Z
A23L13/00 Z
A23L29/262
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073962
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】畑中 美帆
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
(72)【発明者】
【氏名】辰見 嘉隆
(72)【発明者】
【氏名】三木 将義
【テーマコード(参考)】
4B036
4B041
4B042
【Fターム(参考)】
4B036LF13
4B036LH03
4B036LH10
4B036LH11
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH14
4B036LH16
4B036LH26
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4B036LK01
4B036LP01
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4B041LC03
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4B042AD20
4B042AD36
4B042AH11
4B042AK01
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4B042AK09
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK13
4B042AK16
4B042AK17
4B042AK20
4B042AP02
4B042AP03
4B042AP14
4B042AP21
(57)【要約】
【課題】成形性及び製造する際の作業性に優れ、食感に優れる畜肉様加工食品を得ることが可能な畜肉様食品組成物を提供する。
【解決手段】植物由来たんぱく質、及びカルボキシメチルセルロースゲル化物を含有する畜肉様食品組成物であって、畜肉素材の含有量が30質量%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来たんぱく質、及びカルボキシメチルセルロースゲル化物を含有する畜肉様食品組成物であって、畜肉素材の含有量が30質量%以下であることを特徴とする畜肉様食品組成物。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースゲル化物が、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が酸に接触することにより分子間結合してなるゲル状物であることを特徴とする請求項1に記載の畜肉様食品組成物。
【請求項3】
前記酸が、クエン酸又は酢酸であることを特徴とする請求項2に記載の畜肉様食品組成物。
【請求項4】
前記カルボキシメチルセルロースゲル化物が、カルボキシメチルセルロースが2価以上の金属元素を介して、分子間結合してなるゲル状物であることを特徴とする請求項1に記載の畜肉様食品組成物。
【請求項5】
前記金属元素が、カルシウムであることを特徴とする請求項4に記載の畜肉様食品組成物。
【請求項6】
前記カルボキシメチルセルロースが、カルボキシメチル置換度が0.5以上1.5以下であることを特徴とする請求項2又は4に記載の畜肉様食品組成物。
【請求項7】
前記カルボキシメチルセルロースが、カルボキシメチル置換度が0.01以上0.5未満であることを特徴とする請求項2又は4に記載の畜肉様食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来たんぱく質、及びカルボキシメチルセルロースゲル化物を含有する畜肉様食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に新興国における人口の増大や所得の拡大に伴い、畜肉原料の需要は拡大し続けており、今後は畜肉原料の供給不足が懸念されている。またさらに、宗教的理由あるいは個人的信条、更には健康訴求なども背景に、大豆素材や穀類などの植物性原料を多く配合した、畜肉原料をほとんどあるいは全く使用しない、畜肉様食品は注目を浴びている。
【0003】
そのような畜肉様食品としては、例えば、特定の組織状大豆蛋白を結着原料と混合し、成形加熱することで得られる畜肉様加工食品が提案されていたり(特許文献1)、澱粉及び大豆蛋白質素材を配合した組織状大豆蛋白質と、分離大豆蛋白質、水及び油脂を配合したエマルジョンを含有する嚥下困難者用ハンバーグ様食品が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/043384号
【特許文献2】特開2016-67250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来知られた提案は、結着原料として粉末状大豆蛋白素材を原料として水および油脂を加えて混練したものを用いるものであり、このような結着原料を用いて得られた畜肉様食品組成物はべたつくため、成形性に劣り、また畜肉様食品組成物の材料を混練する際の作業性にも劣るものであった。また、畜肉原料の配合量を低下させると畜肉様の食感を得られなかったり、添加した澱粉によりぬめりや糊感を生じるため改善が望まれていた。
【0006】
そこで本発明では、成形性及び製造する際の作業性に優れ、食感に優れる畜肉様加工食品を得ることが可能な畜肉様食品組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、下記(1)~(7)にて課題を解決できることを見出した。
(1) 植物由来たんぱく質、及びカルボキシメチルセルロースゲル化物を含有する畜肉様食品組成物であって、畜肉素材の含有量が30質量%以下であることを特徴とする畜肉様食品組成物。
(2) 前記カルボキシメチルセルロースゲル化物が、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が酸に接触することにより分子間結合してなるゲル状物であることを特徴とする(1)に記載の畜肉様食品組成物。
(3) 前記酸が、クエン酸又は酢酸であることを特徴とする(2)に記載の畜肉様食品組成物。
(4) 前記カルボキシメチルセルロースゲル化物が、カルボキシメチルセルロースが2価以上の金属元素を介して、分子間結合してなるゲル状物であることを特徴とする(1)に記載の畜肉様食品組成物。
(5) 前記金属元素が、カルシウムであることを特徴とする(4)に記載の畜肉様食品組成物。
(6) 前記カルボキシメチルセルロースが、カルボキシメチル置換度が0.5以上1.5以下であることを特徴とする(2)又は(4)に記載の畜肉様食品組成物。
(7) 前記カルボキシメチルセルロースが、カルボキシメチル置換度が0.01以上0.5未満であることを特徴とする(2)又は(4)に記載の畜肉様食品組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形性及び製造する際の作業性に優れ、食感に優れる畜肉様加工食品を得ることが可能な畜肉様食品組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明の詳細を説明するが、特に記載のない場合「AA~BB%」等という記載は、「AA%以上BB%以下」をあらわすものとする。
【0010】
すなわち本発明は、植物由来たんぱく質、及びカルボキシメチルセルロースゲル化物を含有する畜肉様食品組成物であって、畜肉素材の含有量が30質量%以下であることを特徴とする、畜肉様食品組成物である。
【0011】
<植物由来たんぱく質>
本発明で用いられる植物由来たんぱく質とは、例えば、大豆、えんどう豆、菜種、綿実、落花生、ゴマ、サフラワー、向日葵、コーン、ベニバナ、ココナッツ等の油糧種子、あるいは、米、大麦、小麦等の穀物種子由来のたんぱく質素材等や、これらの抽出・加工たんぱく、例えば、米グルテリン、大麦プロラミン、小麦プロラミン、小麦グルテン、大豆グロブリン、大豆アルブミン、落花生アルブミン等、これらの熱処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理たんぱく質等が挙げられる。入手の容易性および経済性等の点では大豆たんぱく質が好ましい。また、ここでいう大豆たんぱく質は、大豆由来のたんぱく質を含む素材であればよく、丸大豆や半割れ大豆などの全脂大豆や、油脂を除去した減脂大豆や脱脂大豆、含水エタノール洗浄や酸性水洗浄等によりたんぱく質を濃縮した濃縮大豆たんぱく、さらには分離大豆たんぱく質または豆乳、ならびにそれらの加水分解物、オカラ、ホエー等が例示され、これらの少なくとも1種以上を選択できる。これらの内、脱脂大豆が経済性に優れるため特に好ましい。
【0012】
そのような植物由来たんぱく質は、その性状も特に制限はなく、粒状・粉末状・ペースト状・繊維状など、畜肉様食品組成物に求められる性質などにあわせて適宜選択することができる。
【0013】
<カルボキシメチルセルロースゲル化物>
本発明で用いられるカルボキシメチルセルロースゲル化物は、カルボキシメチルセルロースを含有するゲル状物であり、このようなゲル状物は、例えば、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が酸に接触することにより分子間結合してなるゲル状物であってよく、カルボキシメチルセルロースが2価以上の金属元素を介して分子間結合してなるゲル状物であってもよい。本発明の畜肉様食品組成物は、カルボキシメチルセルロースゲル化物を含むことにより、成形性および保水性に優れるものであり、またこの畜肉様食品組成物を用いて得られた畜肉様加工食品は畜肉様の優れた食感を有する。
【0014】
カルボキシメチルセルロースゲル化物が、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が酸に接触することにより分子間結合してなるゲル状物である場合、このようなゲル状物は、例えば、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩の水溶液に酸を添加、混合することにより得ることができる。なお、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩が挙げられる。
【0015】
酸を添加することで、カルボキシメチルセルロースのカルボキシル基が金属塩型から酸型となり、カルボキシメチルセルロース分子間で水素結合が形成され、ゲル状物となる。
【0016】
カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩の水溶液に酸を添加する際のカルボキシメチルセルロース水溶液の濃度は特に限定されるものではないが、粘性の増加による作業性の悪化防止の観点から、通常1~30質量%とすることが好ましい。
【0017】
酸としては、クエン酸、酢酸、ホウ酸等を例示することができ、酸味がマイルドで畜肉様加工食品に用いた際に畜肉様の味を損なわない観点から、酢酸を用いることが好ましい。酸は、そのまま、もしくは水溶液として用いることができる。酸水溶液の濃度は特に制限されないが、連鎖的な架橋反応による塊状化を抑制するため10~90質量%の範囲に希釈し、カルボキシメチルセルロースの水溶液に攪拌しながら徐々に添加することが好ましい。酸または酸水溶液の使用量としては、特に制限はなく粘性が向上しゲル状物の性状に変化するまで適宜添加すればよい。
【0018】
カルボキシメチルセルロースゲル化物が、カルボキシメチルセルロースが2価以上の金属元素を介して分子間結合してなるゲル状物である場合、このようなゲル状物は、例えば、カルボキシメチルセルロース水溶液に2価以上の金属の無機塩、有機酸塩を添加、混合することにより得ることができる。
【0019】
2価以上の金属の塩の添加によって、カルボキシメチルセルロースのカルボキシル基間に2価以上の金属イオンによる架橋が形成され、カルボキシメチルセルロース同士のネットワークが強固になり、ゲル状物となる。
【0020】
カルボキシメチルセルロース水溶液に2価以上の金属の塩を添加する際のカルボキシメチルセルロース水溶液の濃度は特に限定されるものではないが、粘性の増加による作業性の悪化防止の観点から、通常1~30質量%とすることが好ましい。
【0021】
また、得られるカルボキシメチルセルロースゲル化物の全体に対して、2価以上の金属元素が0.1~10質量%含まれることが好ましい。
【0022】
上記カルボキシメチルセルロース水溶液に添加する2価以上の金属としては特に限定されるものではないが、2価あるいは3価の金属の無機塩、有機酸塩を用いることが好ましく、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄などの塩化物、炭酸塩、有機酸塩を用いることがより好ましく、カルシウムの塩化物、炭酸塩、有機酸塩を用いることがさらに好ましく、カルシウムの塩化物(塩化カルシウム)を用いることが特に好ましい。ここで、カルシウムの有機酸塩としては、酢酸カルシウムなどが挙げられる。
【0023】
また、カルボキシメチルセルロースゲル化物中の2価以上の金属元素の含有量については、ICP発光分光分析や蛍光X線等の元素分析から定性的、定量的に確認できる。
【0024】
<カルボキシメチルセルロース>
本発明に用いられるカルボキシメチルセルロースは塩の形状でも良い(以下、それらを合わせてCMCということがある)。
【0025】
本発明に用いられるCMCは、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基(以下、「置換度」あるいは「CM-DS」ということがある。)が0.5以上1.5以下であることが好ましく、0.6以上1.3以下がより好ましく、0.7以上1.1以下がさらに好ましい。CMCの置換度が本範囲にあることで、これを用いたCMCゲル化物を畜肉様食品組成物に添加した際に、その他添加される油や油脂類などの安定な乳化物の形成を促進することができ、畜肉様食品組成物を扱う際の作業性、及び粘結性をより発揮し粘着性に優れたものとすることができ、この畜肉様食品組成物を用いて得られる畜肉様加工食品の食感や風味を優れたものとすることができる。なお、CMCの置換度が1.5超等の高くなる場合、水に溶解しやすくなるため、これを用いたCMCゲル化物を畜肉様食品組成物に添加した際にベタついてしまい、食感や作業性に劣るため適さない。
【0026】
本発明に用いられるCMCは、置換度が0.01以上0.5未満であることが好ましく、0.01以上0.4以下がより好ましく、0.01以上0.3以下がさらに好ましい。CMCの置換度が本範囲にあることで、これを用いたCMCゲル化物を畜肉様食品組成物に添加した際に、作業性のみならず保水性や成形性にも優れ、この畜肉様食品組成物を用いて得られる畜肉様加工食品の食感や風味を優れたものとすることができる。なお、CMCの置換度が0.01未満などの低くなる場合、CMCは親水性が低下するため、これを用いたCMCゲル化物を畜肉様食品組成物に添加した際に保水性に劣るため適さない。
【0027】
なお、カルボキシメチル置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシメチル化セルロースの塩(CMC)をH-CMC(水素型カルボキシメチル化セルロース)に変換する。その絶乾H-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-H2SO4で過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-H2SO4(mL)×F)×0.1]/(H-CMCの絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-H2SO4のファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
【0028】
さらに本発明に用いられるCMCは、固形分濃度1質量%水溶液としたときの25℃、30rpm条件におけるB型粘度が1~10000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは10~5000mPa・s、さらに好ましくは50~2000mPa・sの範囲である。CMCの粘度が本範囲になることで、これを用いたCMCゲル化物を畜肉様食品組成物に添加した際に、適度な保水性を与えることができ、また得られる畜肉様加工食品は食感に優れる。
【0029】
CMCの結晶化度は、結晶I型が50%未満であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、0%(結晶化度を有さないこと)が特に好ましい。結晶性を上記範囲に調整すると、保水後の離水がより起こりにくくなるため離水防止効果に優れる。
【0030】
カルボキシメチルセルロースのセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c―Ia)/I100
Xc=セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
【0031】
本発明に用いられるCMCは、セルロース原料にカルボキシメチル化反応を行うことで製造することができる。セルロース原料としては、晒又は未晒木材パルプ、精製リンター、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロースや、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等、何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸された再生セルロース、及び上記セルロース系素材の加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等によって解重合処理した微細セルロース又は機械的に処理した微細セルロースが例示される。
【0032】
本発明に用いられるCMCは公知の方法、例えば、セルロースを発底原料にし、溶媒に3~20質量倍の低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合物と水の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールの混合割合は、60~95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料のグルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~2.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0033】
本発明において、CMCの純度をあげるため、公知の方法、即ち溶媒に3~20質量倍の低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合物と水の混合媒体を使用し、純分99%まで精製処理し、その後乾燥を行う。
【0034】
他の素材との均一な混合を目的に、精製したCMCを機械的処理により微粉砕化及び/又は分級を行っても良い。
【0035】
機械的処理とは具体的には、カッティング式ミル単独、もしくはカッティング式ミル及び衝撃式ミル及び/又は気流式ミルを単独あるいは併用して、さらには同機種で数段処理することができる。カッティング式ミルとしては、メッシュミル((株)ホーライ製)、アトムズ((株)山本百馬製作所製)、ナイフミル(パルマン社製)、グラニュレータ(ヘルボルト製)、ロータリーカッターミル((株)奈良機械製作所製)、等が例示される。
【0036】
また、衝撃式ミルとしては、パルペライザ(ホソカワミクロン(株)製)、ファインインパクトミル製(ホソカワミクロン(株)製)、スーパーミクロンミル(ホソカワミクロン(株))、サンプルミル((株)セイシン製)、トルネードミル(日機装(株))、ターボミル(ターボ工業(株))、ベベルインパクター(相川鉄工(株))等が例示される。一方、気流式ミルとしては、CGS型ジェットミル(三井鉱山(株)製)、ジェットミル(三庄インダストリー(株))、エバラジェットマイクロナイザ((株)荏原製作所製)、セレンミラー(増幸産業(株)製)、が例示される。さらに、媒体ミルとしては、振動ボールミル等が例示される。一方、湿式粉砕機としては、マスコロイダー(増幸産業(株))等が例示される。
【0037】
乾式粉砕工程においては、粉砕後分級工程を設けることによって、微細部分と粗砕部分に分別することもできる。また、分級工程は、湿式粉砕又は摩砕物を乾燥した後の乾燥物に対しても設定することができる。
【0038】
上記、いずれかの粉砕機により微粉砕化されたCMCの粉砕後の平均粒子径は、特に制限はないが、0.1~300μm、好ましくは10~100μm、より好ましくは1.0~70μmであり、さらに好ましくは1.0~65μmであり、特に好ましくは10~60μmである。0.1μm未満では、製造上煩雑であり、300μmを超える場合には、畜肉様食品組成物中での均一な混合が難しく好ましくない。
【0039】
なお、本発明でいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいい、例えばメタノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計50%粒子径の値から得る。
【0040】
そのようにして得られた本発明に用いるカルボキシメチルセルロースは、メタノール等の有機溶媒中では膨潤を行わないが、水中に分散させるとカルボキシメチル化された部分が吸水し、膨潤を行うため、水中分散時とメタノール分散時では粒度分布や平均粒子径が異なるものが好ましい。そのような平均粒子径(分散媒:水)としては、70μm超200μm以下が好ましく、80μm~150μmがより好ましく、80μm~130μmがさらに好ましい。
【0041】
また平均粒子径(分散媒:水)/平均粒子径(分散媒:メタノール)×100であらわされる膨潤率は、100~400%であることが好ましく、150~300%であることがより好ましく、180~300%がさらに好ましい。膨潤率が本範囲であると、高い保水率でありながら形状を維持しており、畜肉様加工食品に用いた際に、例えば型崩れなくしっとりとした食感を維持することができる。
【0042】
<畜肉様食品組成物>
本発明の畜肉様食品組成物は、前述する植物由来たんぱく質、及び前述するカルボキシメチルセルロースゲル化物を含有し、畜肉素材の含有量が30質量%以下であることを特徴とする。
【0043】
本発明における畜肉素材とは、家畜(豚、牛、羊、山羊、馬など)や、家禽(鶏、うずら、アヒル、鴨、合鴨、ガチョウ、七面鳥など)や、鹿、猪などの、鳥獣の食肉素材を意味する。なお、上記畜肉素材は、いわゆる肉(筋肉)だけでなく皮、脂肪、スジ、軟骨、内臓、血液などの一般的に畜肉加工食品に用いられる組織も含む。
【0044】
本発明の畜肉様食品組成物は、畜肉素材を含まずとも、畜肉様の優れた食感を再現できる。種々の理由で畜肉を口にしない人でも食べることができるというメリットを得るためには、畜肉素材の含有量は出来るだけ少なくすることが好ましく、例えば畜肉素材の含有量を20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。また畜肉素材を一切含まない(畜肉素材の含有量が0質量%)ことがさらに好ましい。しかしながら畜肉素材のコストや供給安定性・品質安定性を一定に保つために、一定以下であれば畜肉素材を含有することもできる。
【0045】
本発明の畜肉様食品組成物に含まれる植物由来たんぱく質とCMCゲル化物に含まれるCMC(固形分)は、植物由来たんぱく質:CMC=60~99.5質量%:0.5~40質量%の範囲が好ましく、植物由来たんぱく質:CMC=70~99質量%:1~30質量%の範囲がより好ましく、植物由来たんぱく質:CMC=80~98.5質量%:1.5~20質量%の範囲がさらに好ましい(但し、植物由来たんぱく質とCMCゲル化物に含まれるCMC(固形分)の総質量を100質量%とする)。本範囲を満たすことで、畜肉様の優れた食感をより発揮することができ、また保水性により優れるために作業性などを改善することができる。
【0046】
本発明の畜肉様食品組成物に用いられる他の原料も、特に制限はなく、通常の畜肉加工食品と同様に、求められる風味・食感・物性・外観などに応じてその他の添加材を用いることができる。例えば、メチルセルロースなどの増粘剤、野菜、畜肉素材を除く動物性たんぱく質(卵、乳製品等)、調味料、パン粉などを含む穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。
【0047】
このうち、メチルセルロースは畜肉様食品組成物に良好な弾力性のある食感を与えることができるため、併用されることが好ましい。
そのような畜肉様食品組成物に含まれるメチルセルロースとしては、CMCゲル化物に含まれるCMC(固形分)に対して、CMC:メチルセルロース=10~90質量%:90~10質量%の範囲となるよう調整することが好ましく、CMC:メチルセルロース=30~90質量%:70~10質量%となる範囲がより好ましく、CMC:メチルセルロース=50~90質量%:10~50質量%の範囲であることがさらに好ましい。
本範囲でメチルセルロースを配合することで、本発明の効果を発揮しつつ、より弾力性があり畜肉様の食感を得ることができる。
【0048】
そのような本発明の畜肉様食品組成物は、植物由来たんぱく質が全固形分量に対して20質量%以上含まれることが好ましく、25質量%以上含まれることがより好ましく、27質量%以上含まれることがさらに好ましい。上限としては90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。畜肉様食品組成物においては、植物由来たんぱく質以外に、前述される添加材を適量用いることで、より畜肉様の食感や風味を再現できるため好ましい。
【0049】
本発明の畜肉様食品組成物の前述されるそれぞれの原材料を、混練し得ることができる。混練する方法については特に制限はないが、畜肉様の優れた食感および保水性を得るために、特にCMCゲル化物が植物由来たんぱく質にできるだけ均一になるように混練することが好ましい。
【0050】
<畜肉様加工食品>
そのようにして得られる本発明の畜肉様食品組成物は、様々な形状に成形が可能であり、加熱処理を行うことで畜肉様加工食品を得ることができる。そのような畜肉様加工食品とは、例えば、ソーセージ、ハンバーグ、肉団子、プレスハム、チョップドハム、サラミ、ナゲット、メンチカツ、ロールキャベツ、ミートローフ、テリーヌ、つくね、肉まん、餃子、シュウマイ、成形肉などが挙げられる。
【0051】
本発明の畜肉様食品組成物は、CMCゲル化物を含有するため、成形性および保水性に優れるものであり、またこの畜肉様食品組成物を用いて得られた畜肉様加工食品は畜肉様の優れた食感を有する。
【実施例0052】
以下本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記記載の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(製造例1)
(CMC1の製造)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダ―にイソプロピルアルコール(IPA)522部と水酸化ナトリウム33部を水58部に溶解したものを加え、市販の溶解パルプを絶乾で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調整後、酢酸16部添加して過剰のマーセル化剤を中和した。更に撹拌しつつ90%IPA45部に溶解したモノクロロ酢酸19部を添加し、70℃に昇温して90分間エーテル化反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕して、CM-DS0.28、セルロースI型の結晶化度0%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC1)を得た。
【0054】
得られたCMC1の平均粒子径(分散媒:メタノール)は51μmであり、平均粒子径(分散媒:水)は102μmであり、膨潤率は198%であった。また、濃度1質量%水溶液としたときの25℃、30rpm条件におけるB型粘度が100mPa・sであった。
【0055】
(CMCゲル化物の製造)
得られたCMC1の濃度5質量%水溶液に、濃度15質量%に調整した塩化カルシウム水溶液を撹拌しながら徐々に滴下した。撹拌の状態から粘性の向上を目視確認し、CMCゲル化物1を得た。
【0056】
(実施例1~2、比較例1)
表1に記載の配合比(全量100g)にて、大豆たんぱく質(ニューフジプロSHE、不二製油社製)、CMCゲル化物1(及び、必要に応じて用いられるメチルセルロース)にさらに冷水を加え撹拌を行った。十分に混ざったら、撹拌しながらキャノーラ油を少しずつ添加し乳化させ、エマルジョンカードとした後、袋に詰めて冷蔵庫で3時間以上保管し、乳化された大豆カードを得た。
得られた大豆カードを用い表2記載の配合比(全量500g)にて、アルミボウル内で、大豆カード、適量の水に溶かした粒状大豆たんぱく質、ソテーオニオン、ショートニング、及び表2記載の液体性状を示すその他材料を添加し、よく撹拌を行った。
その後、表2記載の粉末性状を示す残りの材料を添加し、粘り気が出るまでよく撹拌を行い、畜肉様食品組成物を得た。
得られた畜肉様食品組成物を、手で混練しながら、アルミボウルの壁面と手に付着する様子を目視にて確認した。
畜肉様食品組成物を80g/1個にそれぞれ分けて、ハンバーグ形状に成形した。
温度220℃の鉄板で1分間熱し、ハンバーグ形状の畜肉様食品組成物の両面に、焼き目を付けた後、コンベクションオーブンで蒸しあげ(温度85℃/15分間)、畜肉素材が無配合の実施例1~2、比較例1のミートレスハンバーグを得た。得られたミートレスハンバーグや畜肉様食品組成物は、以下の評価を実施した。
【0057】
<作業性>
畜肉様食品組成物を、アルミボウル内でゴム手袋をした手で混練しながら、アルミボウル壁面への付着量及びゴム手袋への付着量を目視確認し、以下の基準で判断した。
◎:保水性が強いため、畜肉様食品組成物がまとまり易く、アルミボウル壁面やゴム手袋への付着量は少ない。
〇:保水性があり、畜肉様食品組成物がまとまり易く、アルミボウル壁面やゴム手袋への付着は抑えられている。
×:保水性が劣り、畜肉様食品組成物はべたついているため、アルミボウル壁面やゴム手袋に付着がみられる。
【0058】
<ハンバーグの食感>
得られたミートレスハンバーグを、5名のパネラーにて試食を行い、下記の基準で食感を評価しその平均を算出した。
◎:大豆たんぱく質の肉粒感をよく感じられ、弾力性に富んだ食感である。
〇:大豆たんぱく質の肉粒感があり、ハンバーグらしい食感である。
×:大豆たんぱく質の肉粒感がなく、ぬるっとした食感である。
【0059】
<冷凍保存後の加熱における離水/離油>
得られたミートレスハンバーグを、冷凍庫(-18℃)で12時間冷凍保管した。その後、ハンバーグを取り出し、電子レンジ(600W)で解凍・加熱し、ハンバーグ表面に発生した離水・離油の状態を目視にて確認した。
〇:ハンバーグ表面に離水・離油が若干みられるが、その量は少なかった。
×:ハンバーグ表面離水・離油がみられる。
【0060】
【0061】
【表2】
※粒状大豆たんぱく・・・ニューフジニック25N:ニューフジニック43N=7:3配合
【0062】
表2からわかる通り、植物由来たんぱく質、及びCMCゲル化物を含有し、畜肉素材の含有量が30質量%以下である実施例1~2の畜肉様食品組成物は、CMCゲル化物を含まない比較例1の畜肉様食品組成物と比較して製造時の作業性が改善されたものであり、この畜肉様食品組成物を成形・加熱して得られたミートレスハンバーグは、食感に優れるものであり、得られたミートレスハンバーグを冷凍保存後に解凍・加熱した際の離水・離油が抑制されたものであった。