IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機エンジニアリング株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163296
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】バイタルサイン検出装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20231102BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61B5/11 110
A61B5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074090
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】榊原 誠史
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB31
4C038VC20
4C117XA03
4C117XB01
4C117XB04
4C117XE13
4C117XE24
4C117XE55
4C117XJ17
(57)【要約】
【課題】ドップラーレーダを使用して、より簡素な構成で、より高精度に生体情報を検出することのできるバイタルサイン検出装置を得る。
【解決手段】センサで検出された動き情報である出力信号に対してバイタルサインの検出に適したフィルタ帯域を通過させるフィルタリング処理を行うフィルタリング処理部と、フィルタリング後の信号に対して自己相関処理を行う自己相関処理部と、相関値スレッシュ以上となる相関値ピーク点の数をカウント値として算出するピークカウント部と、カウント値に基づいてバイタルサインの算出を行うバイタルサイン算出部とを備え、フィルタリング処理部は、出力信号に含まれているバイタルサインに関連する周波数成分を特定する解析処理を実行する信号解析部と、特定された周波数成分に基づいてフィルタリング処理に用いるフィルタ帯域を動的に決定するフィルタ帯域選定部とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を利用して、被測定者に対する送信波と反射波との差分から前記被測定者の動き情報を検出して出力信号として出力するセンサと、
前記出力信号に対してバイタルサインの検出に適したフィルタ帯域を通過させるフィルタリング処理を行い、フィルタリング後の信号を出力するフィルタリング処理部と、
前記フィルタリング後の信号の中からあらかじめ決められた単位時間に対応する部分信号を抜き出し、前記部分信号に対して自己相関処理を行うことで相関値を算出する自己相関処理部と、
前記相関値の中で相関値スレッシュ以上となる相関値ピーク点の数をカウント値として算出するピークカウント部と、
前記ピークカウント部により算出された前記カウント値に基づいてバイタルサインの算出を行うバイタルサイン算出部と
を備え、
前記フィルタリング処理部は、
前記出力信号に含まれているバイタルサインに関連する周波数成分を特定する解析処理を実行する信号解析部と、
特定された前記周波数成分に基づいて前記フィルタリング処理に用いる前記フィルタ帯域を動的に決定するフィルタ帯域選定部と
を有するバイタルサイン検出装置。
【請求項2】
前記ピークカウント部は、
前記単位時間に含まれる相関値ピーク点のカウント値の許容範囲が、算出すべきバイタルサインに応じてあらかじめ設定されており、
前記相関値スレッシュの値を最大値から徐々に下げていき、前記カウント値が前記許容範囲内となるように前記相関値スレッシュを動的に可変設定する
請求項1に記載のバイタルサイン検出装置。
【請求項3】
前記信号解析部は、ウェーブレット変換を使用して前記解析処理を実行する
請求項1または2に記載のバイタルサイン検出装置。
【請求項4】
前記フィルタ帯域選定部は、
動的に決定した前記フィルタ帯域の前回値を記憶し、
前記フィルタ帯域の今回値を決定した際に、前記前回値に対する前記今回値の変化率を算出し、前記変化率があらかじめ設定された更新許可範囲内であれば前記フィルタリング処理に用いるフィルタ帯域として前記今回値を採用し、前記変化率が前記更新許可範囲外であれば前記フィルタリング処理に用いるフィルタ帯域として前記前回値を採用する
請求項1または2に記載のバイタルサイン検出装置。
【請求項5】
前記フィルタ帯域選定部は、前記今回値が前記更新許可範囲よりも小さい値であった場合には、前記フィルタリング処理に用いるフィルタ帯域として前記前回値を採用するとともに、間引き処理を行う回数を規定する2以上の整数値としてz回を設定し、
前記信号解析部は、前記z回ごとに前記解析処理を実行することで前記間引き処理を行う
請求項4に記載のバイタルサイン検出装置。
【請求項6】
前記フィルタリング処理部は、バイタルサインの検出に適した既知の値が前記フィルタ帯域の初期値としてあらかじめ設定されており、
前記ピークカウント部は、バイタルサインの検出に適した既知の値が前記相関値スレッシュの初期値としてあらかじめ設定されている
請求項1または2に記載のバイタルサイン検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被測定者のバイタルサインの検出を非侵襲に行うバイタルサイン検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人検知あるいは介護の見守りにおいて、個人情報保護の点から、遠隔からのバイタルデータの観測への需要が高まっている。
【0003】
ドップラーレーダ技術を用いることで、取得した信号に対して適切な周波数フィルタにより距離、歩行などの大きな動きから、心拍、呼吸などによる微細な動きまで、さまざまなデータを遠隔から観測可能である。このようなドップラーレーダ技術を利用した非侵襲な心拍計測を実現した従来技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、取得したデータに対して複数の周波数成分において、それぞれ自己相関解析を実行することでバイタルデータの検出を行う従来技術もある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3057438号公報
【特許文献2】特許第5333427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
高齢者などの見守りのための検出装置においては、プライバシー保持など対象者への影響に配慮したやさしいシステムが求められる。
【0007】
また、ドップラーレーダ技術を利用してバイタルサインを抽出する際には、過渡的な体動、外来ノイズなど、バイタルデータに関係のない成分をできるだけ排除し、目的とする周波数付近のみを切り取ることが重要となる。
【0008】
最近では、より精度の高いデータ検出を行うために、自己相関などの信号解析が多用され、システム構成あるいはソフトウェアによる処理が複雑になる傾向にある。特許文献1、2に係る従来技術も、システム構成あるいはソフトウェアによる処理が複雑になる課題が挙げられる。この結果、処理負荷が重くなることで、リアルタイムでのバイタルサインの検出に影響が出ることがある。
【0009】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、ドップラーレーダを使用して、従来技術と比較して、より簡素な構成で、より高精度に生体情報を検出することのできるバイタルサイン検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係るバイタルサイン検出装置は、電磁波を利用して、被測定者に対する送信波と反射波との差分から被測定者の動き情報を検出して出力信号として出力するセンサと、出力信号に対してバイタルサインの検出に適したフィルタ帯域を通過させるフィルタリング処理を行い、フィルタリング後の信号を出力するフィルタリング処理部と、フィルタリング後の信号の中からあらかじめ決められた単位時間に対応する部分信号を抜き出し、部分信号に対して自己相関処理を行うことで相関値を算出する自己相関処理部と、相関値の中で相関値スレッシュ以上となる相関値ピーク点の数をカウント値として算出するピークカウント部と、ピークカウント部により算出されたカウント値に基づいてバイタルサインの算出を行うバイタルサイン算出部とを備え、フィルタリング処理部は、出力信号に含まれているバイタルサインに関連する周波数成分を特定する解析処理を実行する信号解析部と、特定された周波数成分に基づいてフィルタリング処理に用いるフィルタ帯域を動的に決定するフィルタ帯域選定部とを有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ドップラーレーダを使用して、従来技術と比較して、より簡素な構成で、より高精度にバイタルサインを検出することのできるバイタルサイン検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施の形態1に係るバイタルサイン検出装置の概略ブロック図である。
図2】本開示の実施の形態1におけるフィルタリング処理部の内部構成を示したブロック図である。
図3】本開示の実施の形態1に係るフィルタリング処理部内の信号解析部による信号解析結果の一例を示した説明図である。
図4】本開示の実施の形態1における演算処理部で実行される一連処理に関するフローチャートである。
図5】本開示の実施の形態1におけるフィルタリング処理部によるフィルタリング前の波形とフィルタリング後の波形との比較を示した説明図である。
図6】本開示の実施の形態1に係るフィルタリング処理部から出力されたフィルタリング波形に対して、ある単位時間で切り出した部分信号を示した図である。
図7】本開示の実施の形態1に係るフィルタリング処理部において、最適なフィルタ帯域の選定が行われた場合と行われなかった場合のそれぞれの部分信号について自己相関処理を行った際の比較結果を示した説明図である。
図8】本開示の実施の形態1に係る自己相関処理部による自己相関処理結果に対して、ピークカウント部によりピークカウント処理を実行した状態を示した説明図である。
図9】本開示の実施の形態1に係るピークカウント部により実行されるピークカウント処理に関するフローチャートである。
図10】本開示の実施の形態2におけるバイタルサイン検出装置の設置例を示した説明図である。
図11】本開示の実施の形態2に係るバイタルサイン検出装置で用いられるアナログ信号処理部、A/D変換部、およびフィルタリング処理部を抜粋した概略ブロック図である。
図12】本開示の実施の形態2におけるフィルタリング処理部に対する入力信号と、入力信号に対する信号解析部によるウェーブレット変換を用いた解析結果とを示した図である。
図13】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数20Hzに対する解析結果を示した図である。
図14】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数25Hzに対する解析結果を示した図である。
図15】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数30Hzに対する解析結果を示した図である。
図16】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数35Hzに対する解析結果を示した図である。
図17】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数40Hzに対する解析結果を示した図である。
図18】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数20Hzに対する解析結果を示した図である。
図19】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数25Hzに対する解析結果を示した図である。
図20】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数30Hzに対する解析結果を示した図である。
図21】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数35Hzに対する解析結果を示した図である。
図22】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における周波数40Hzに対する解析結果を示した図である。
図23】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域以外の周波数15Hzに対する解析結果を示した図である。
図24】本開示の実施の形態2における心拍信号帯域以外の周波数15Hzに対する解析結果を示した図である。
図25】本開示の実施の形態2に係るフィルタリング処理部により実行される、心拍波形抽出に適したフィルタ帯域の選定に関する一連処理を示したフローチャートである。
図26】本開示の実施の形態3に係るフィルタ帯域選定部の内部構成を示したブロック図である。
図27】本開示の実施の形態3に係るフィルタ帯域選定部において実施されるフィルタ帯域の更新処理に関する説明図である。
図28】本開示の実施の形態3に係るフィルタ帯域選定部により実行される最適フィルタ帯域の選定に関する一連処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示のバイタルサイン検出装置の好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。本開示に係るバイタルサイン検出装置は、動的に実施する最適フィルタリング処理を備えることで、より簡素な構成で、より高精度に生体情報を検出することができる点に技術的特徴を有するものである。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1に係るバイタルサイン検出装置の概略ブロック図である。図1に示した本実施の形態1に係るバイタルサイン検出装置は、ドップラーセンサ1と信号処理部3とを備えて構成されている。
【0015】
ドップラーセンサ1は、被測定者2からの情報採取のために、GHz帯の電磁波の送受信動作を行うものであり、ドップラーレーダに相当する。具体的には、ドップラーセンサ1は、送信信号Txを送信波として被測定者2に向けて送信し、被測定者2で反射した反射波を受信信号Rxとして受信し、送信波と反射波との差分から被測定者2の動き情報を検出して出力信号を生成し、信号処理部3に対して出力する。
【0016】
信号処理部3は、ドップラーセンサ1の出力信号に対して一連の信号処理を実施することで、被測定者2に関する生体情報を高精度に算出する。
【0017】
ここで、信号処理部3は、アナログ信号処理部4、A/D変換部5、演算処理部6、表示部11、制御部12、および操作部13を備えて構成されている、また、演算処理部6は、フィルタリング処理部7、自己相関処理部8、ピークカウント部9、および心拍数算出部10を備えて構成されている。ここで、心拍数算出部10は、バイタルサイン算出部に相当する。
【0018】
アナログ信号処理部4は、ドップラーセンサ1の出力信号に対して前処理を実施する。A/D変換部5は、前処理されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。演算処理部6は、デジタル信号に対して演算処理を実施し、心拍・呼吸数などのバイタルサインを算出する。
【0019】
表示部11は、演算処理部6による演算の結果として検出されたバイタルサインを表示する。制御部12は、信号処理部3全体の動作を制御するコントローラである。さらに、操作部13は、装置外部からユーザが操作できる入力手段である。
【0020】
図2は、本開示の実施の形態1におけるフィルタリング処理部7の内部構成を示したブロック図である。本実施の形態1に係るフィルタリング処理部7は、帯域フィルタ部20、信号解析部21、およびフィルタ帯域選定部22を備えている。
【0021】
フィルタリング処理部7内の帯域フィルタ部20は、A/D変換後のデジタル信号に相当する入力信号に対してバイタルサインデータの周波数成分を抽出する。信号解析部21は、帯域フィルタ部20による抽出帯域を決めるために、入力信号の解析を行う。また、フィルタ帯域選定部22は、信号解析部21による信号解析の結果から、フィルタ帯域を決定する。
【0022】
つまり、本実施の形態1におけるフィルタリング処理部7は、帯域フィルタ部20のフィルタリング処理に用いる周波数帯域が固定でなく、入力信号に含まれるバイタルサインデータのおおよその周波数成分情報に基づき、帯域が動的に可変設定される構成となっている。
【0023】
図3は、本開示の実施の形態1に係るフィルタリング処理部7内の信号解析部21による信号解析結果の一例を示した説明図である。より具体的には、A/D変換部5によるA/D変換後の信号をFFTにより周波数解析した結果の一例を示している。詳細は後述するが、図3においては、信号解析部21によりFFTを行った結果、心拍成分30と呼吸成分31とが抽出され、心拍成分30を抽出するために適した帯域32が、下限周波数f0~上限周波数f1の範囲として選定された状態が例示されている。
【0024】
図4は、本開示の実施の形態1における演算処理部6で実行される一連処理に関するフローチャートである。図1の概略ブロック図の演算処理部6において、A/D変換部5以降の動作フローを示している。なお、ステップS10~ステップS14は、フィルタリング処理部7において実行される処理であり、図4中では点線で囲っている。
【0025】
まず始めに、ステップS10において、フィルタリング処理部7は、A/D変換部5によるA/D変換後の信号を入力信号として受け取る。次に、ステップS11において、信号解析部21は、ウェーブレット変換等を用いて入力信号に対する信号解析を行う。なお、ウェーブレット変換については後述する。
【0026】
次に、ステップS12において、フィルタ帯域選定部22は、図3に示したように、信号解析部21による信号解析の結果から、入力信号に応じて最適なフィルタ帯域を決定する。
【0027】
次に、ステップS13において、帯域フィルタ部20は、下限周波数f0~上限周波数f1の範囲として選定されたフィルタ帯域を用いてフィルタリング処理を実行する。さらに、ステップS14において、あらかじめ決められた単位時間に対応する部分信号の切り出しが行われる。なお、ステップS11およびステップS12の処理は、毎回実施する必要はなく、必要に応じて、あるいは定期的に実施することができ、詳細は実施の形態3で後述する。
【0028】
図5は、本開示の実施の形態1におけるフィルタリング処理部7によるフィルタリング前の波形とフィルタリング後の波形との比較を示した説明図である。より具体的には、図5(A)は、ある単位時間で切り出したフィルタリング前の部分信号に関する波形を示しており、図5(B)は、ある単位時間で切り出したフィルタリング後の部分信号に関する波形を示している。
【0029】
図6は、本開示の実施の形態1に係るフィルタリング処理部7から出力されたフィルタリング波形に対して、ある単位時間で切り出した部分信号を示した図である。図6に示した部分信号は、フィルタリング処理部7により必要なバイタルサイン情報が抽出された波形に相当する。より具体的には、正しいバイタルサイン情報を表す周期性のある波形として、第1波形60aと第2波形60bから、ほぼ1秒間隔での拍動が確認でき、これらは被測定者2から得られた心拍情報の一部に相当する。
【0030】
次に、ステップS15において、自己相関処理部8は、図6に示したようなフィルタリング処理後の部分信号に対して自己相関処理を行う。自己相関処理を施すことで、図6に示した周期性のあるバイタルサイン情報を定量的に抽出することができる。
【0031】
図7は、本開示の実施の形態1に係るフィルタリング処理部7において、最適なフィルタ帯域の選定が行われた場合と行われなかった場合のそれぞれの部分信号について自己相関処理を行った際の比較結果を示した説明図である。図7(A)は、最適なフィルタ帯域選定が行われた場合の自己相関結果であり、図7(B)は、最適なフィルタ帯域選定が行われなかった場合の自己相関結果である。
【0032】
図7(A)と図7(B)とを比較すると、図7(A)では、周期性のある自己相関結果が得られているが、図7(B)では、周期性のある自己相関結果が得られていないことがわかる。すなわち、被測定者2から得られた生体情報に対して、最適なフィルタ帯域選定を動的に行うことで、1回の自己相関処理を用いて周期性のあるバイタルサイン情報を高精度に抽出できることがわかる。
【0033】
図8は、本開示の実施の形態1に係る自己相関処理部8による自己相関処理結果に対して、ピークカウント部9によりピークカウント処理を実行した状態を示した説明図である。
【0034】
本実施の形態1に係るピークカウント部9で用いられるピークカウントのための相関値スレッシュ81は、固定ではなく、第1ピーク80a、第2ピーク80bで示すように、想定されるピーク数の範囲内で可変とすることができる。そこで、相関値スレッシュ81を可変動作させる具体的な処理について、図9を用いて説明する。ただし、バイタルサインの検出に適した既知の値を、フィルタ帯域の初期値としてあらかじめ設定しておくことも可能である。
【0035】
図9は、本開示の実施の形態1に係るピークカウント部9により実行されるピークカウント処理に関するフローチャートである。具体的には、先の図4に示したフローチャートのステップS16内の詳細処理を示している。
【0036】
まず始めに、ステップS20において、ピークカウント部9は、ピークカウントに用いる閾値に相当する相関値スレッシュ81を、maxの値に設定する。次に、ステップS21において、ピークカウント部9は、自己相関値の部分信号と相関値スレッシュ81とを比較し、相関値スレッシュ81以上の自己相関値を有する点をピークとして抽出し、ピーク数をカウントする。すなわち、ピークカウント部9は、周期性が高く、正しいバイタルサインのピークだけをカウントするために、相関値スレッシュ以上のピークを抽出していく。
【0037】
次に、ステップS22において、ピークカウント部9は、ステップS21によるカウント値が、あらかじめ設定した最小値Nmin以上、かつ、あらかじめ設定した最大値Nmax以下で規定される検出範囲であるか否かを判断する。
【0038】
ここで、最小値Nminおよび最大値Nmaxについて補足説明する。心拍、呼吸などのバイタルサインは、個人差、状態変化などに依存しながらも、ある範囲内に存在する。心拍数においては、一般の健常者であれば、通常時、約60~100BPMである。すなわち、このようなすでに既知である検出範囲に相当する最小値Nminおよび最大値Nmaxをあらかじめ検出範囲として設定しておくことで、採取されたデータに惑わされることなく、正しいバイタルサインの情報をより早く検出することが可能となる。
【0039】
従って、ピークカウント部9は、ステップS22においてカウント値が検出範囲内でないと判断した場合には、ステップS23に進み、相関値スレッシュの値を1ランク下げ、ステップS21の処理を再度実行する。
【0040】
そして、ピークカウント部9は、カウント値が検出範囲内になるまで、ステップS23およびステップS21の処理を繰り返す。ピークカウント部9は、カウント値が検出範囲内になるまで相関値スレッシュ81を下げていき、その都度、カウント値を確認し、最終的に、カウント値が検出範囲となったことで、ステップS24に進み、カウント値をセットした後、一連処理を終了する。
【0041】
図8の例では、ピークカウント部9は、徐々に相関値スレッシュを下げていき、第1ピーク80aを検知した時点で、ピーク間の周期が約1秒となることで、カウント値が60BPMとなり、ピークのカウント値があらかじめ設定された検出範囲となることで、ピーク検知に関する一連処理を終了させる。
【0042】
なお、図8に示したように、ノイズ領域として、ピーク82のような、ピーク値が低く不要な成分が存在する。しかしながら、相関値スレッシュをさらに下げて行った際にこれらをカウントした場合には、例えば、60BPMの2倍以上の120~180BPMとなり、あらかじめ設定された一般の健常者における約60~100BPMの検出範囲外となる。
【0043】
従って、相関値ピーク点のカウント値の許容範囲を検出範囲として規定しておくことで、ピーク82を誤検出してしまうまで相関値スレッシュ81を下げてしまうことを防止でき、ピーク82は検知されないこととなる。
【0044】
このように、フィルタリング処理部7は、ステップS10~ステップS14の処理を行うことで、入力信号に応じて最適なフィルタ帯域を動的に決定して部分信号を抽出することができる。この結果、図6に示すように、正しいバイタルサイン情報を表す周期性の高い信号成分の極大ピ-クとして、第1波形60aのピークおよび第2波形60bのピークを抽出し、比較的低い値であるピークあるいはノイズ成分として周期性の低い小ピークに相当するピーク61を抽出せず、両者を識別することができる。
【0045】
さらに、自己相関処理部8は、ステップS15の処理を行うことで、部分信号に対する自己相関処理を実施でき、ピークカウント部9は、ステップS16の処理を行うことで、自己相関値に対して所望の検出範囲内のカウント数になるまで相関値スレッシュを徐々に下げながら、ピーク検知を行うことができる。この結果、周期性が高く正しいバイタルサインのピークだけをカウントし、ノイズ成分あるいはバイタルサインと関係性が低いピークを除外することができる。
【0046】
換言すると、演算処理部6は、フィルタリング処理における最適なフィルタ帯域の決定、および所望のデータ数の範囲となるように相関値スレッシュを可変させてのピークカウント数の抽出といった、バイタルサインの抽出に適した予測的な処理を行うことを技術的特徴としている。
【0047】
この結果、ドップラーセンサ1による採取データだけに依存せず、バイタルサインに関連する正しい情報を定量的に、かつ高精度に検出することが可能となる。なお、フィルタリング処理における最適なフィルタ帯域のみを行うことでも、上述した効果を実現できる。
【0048】
最終的に、ステップS17において、心拍数算出部10は、バイタルサインに関するピークのカウント値に基づいて、心拍数を算出する。
【0049】
以上のように、実施の形態1によれば、バイタルサインに関連する正しい情報を抽出するために、フィルタリング処理においては、被測定者から取得した生体情報に対して適切なフィルタ帯域を動的に設定している。
【0050】
すなわち、ドップラーセンサからの出力信号に含まれているバイタルサインに関連する周波数成分を特定する解析処理を実施してフィルタ特性に反映することで、常に最適な帯域特性においてフィルタリング処理を行うことができる。この結果、バイタルサイン検出のために必要な、十分にS/Nのよい信号を得ることができる。
【0051】
また、バイタルサイン検出のために必要な、十分にS/Nのよい信号が得られることで、入力信号に対して直接的に処理を行う信号処理過程を極力少なくすることができる。この結果、1回の自己相関処理での実現など、シンプルなシステム構成が可能となる。
【0052】
さらに、実施の形態1によれば、ピークカウント処理においては、相関値スレッシュを徐々に下げながら所望の数のピーク値を抽出している。このようなピークカウント処理機能を、適切なフィルタ帯域を動的に設定する機能と併用することで、バイタルサインの検出精度をさらに向上させることができる。
【0053】
この結果、ドップラーレーダを使用して、従来技術と比較して、より簡素な構成で、より高精度にバイタルサインを検出することのできるバイタルサイン検出装置を得ることができる。
【0054】
実施の形態2.
本実施の形態2では、本開示の主要な構成であるドップラーセンサ1と信号処理部3の具体的な設置状態を踏まえ、バイタルサインとして心拍数および呼吸数を検出する際に、より高度な信号解析が可能なウェーブレット変換による信号解析を用いる場合について説明する。
【0055】
図10は、本開示の実施の形態2におけるバイタルサイン検出装置の設置例を示した説明図である。具体的には、図10では、バイタルサイン検出装置を構成するドップラーセンサ1および信号処理部3の設置状態の例を示すとともに、被測定者2との位置関係も示している。
【0056】
バイタルサインの測定のための設置状況としては、図10に示したように、例えば、鏡101といった毎日利用し、かつ被測定者2が椅子102に座っている静止状態でいる環境を利用することが考えられる。このような環境を利用することで、非侵襲で、バイタルサインの計測を実現することができる。
【0057】
ドップラーセンサ1と信号処理部3を備えたバイタルサイン検出装置を、被測定者2が一定時間同一の姿勢で作業する鏡101の前のような環境に設置する。図10では、鏡101の上部にドップラーセンサ1が設置され、鏡101の前の椅子102に座っている被測定者2に対して送信信号Txを送信し、被測定者2で反射した受信信号Rxを受信する。
【0058】
一方、信号処理部3は、鏡101の背面側に設置され、ドップラーセンサ1の出力信号である受信信号Rxに対して一連の信号処理を実施することで、被測定者2に関するバイタルサインを高精度に算出する。なお、信号処理部3は、算出結果をデータベースに相当するクラウド103に送信することもできる。
【0059】
本実施の形態2では、バイタルサインとして、心拍数と呼吸数を検出することとする。人の心拍数の正常値は、年齢により異なるが、健康体の成人であれば、通常、60~100BPMといわれている。
【0060】
一方で、実際の心拍による体表面の動きは、60~100BPM、すなわち1~1.5Hz付近の緩やかな変化をするものではなく、先の図7に示したように、20~40Hz付近の動きが60~100BPMで繰り返される。このようなことから、ドップラーセンサ1を用いて体表面の動きから心拍を算出する際には、20~40Hz付近の動きを観測することとなる。
【0061】
また、人の呼吸数の正常値に関しては、健康体の成人であれば、通常、12~20BPMといわれている。ここで、呼吸による体表面の動きは、心拍とは異なり、12~20BPM、すなわち0.2~0.3Hz付近の緩やかな動きとして体表面に現れる。
【0062】
このような背景を踏まえ、心拍数および呼吸数の両方を高精度に検出するための構成について、次に説明する。図11は、本開示の実施の形態2に係るバイタルサイン検出装置で用いられるアナログ信号処理部4a、A/D変換部5a、5b、およびフィルタリング処理部7a、7bを抜粋した概略ブロック図である。
【0063】
アナログ信号処理部4aは、信号分岐処理部111、20~40Hzのアナログフィルタ112a、および0.5~2Hzのアナログフィルタ112bを備えて構成されている。アナログ信号処理部4aは、図11に示した構成を備えることで、心拍数の抽出に適したアナログ信号をA/D変換部5aに対して出力し、呼吸数の抽出に適したアナログ信号をA/D変換部5bに対して出力する。
【0064】
演算処理部6内のA/D変換部5aは、心拍数の抽出に適したアナログ信号をデジタル信号に変換し、フィルタリング処理部7aは、心拍数の抽出に適したデジタル信号に対してフィルタリング処理を実行する。
【0065】
同様に、演算処理部6内のA/D変換部5bは、呼吸数の抽出に適したアナログ信号をデジタル信号に変換し、フィルタリング処理部7bは、呼吸数の抽出に適したデジタル信号に対してフィルタリング処理を実行する。
【0066】
本実施の形態2では、ドップラーセンサ1の出力信号を、図11に示すような処理にて2つ以上の成分に分岐させて、それぞれを並列に信号処理する。この結果、抽出するための周波数帯域によって弁別可能な複数のバイタルサインを、1つのドップラーセンサ1から観測することを可能としている。すなわち、1つのドップラーセンサ1による出力信号に基づいて、複数の目的とするバイタルサインを取得することを可能としている。
【0067】
たとえば、心拍数および呼吸数の同時計測を行う場合には、計測するバイタルサインが全て体表面の動きとして現れる胸部のような部位を対象として、ドップラーセンサ1によるセンシングを行う。
【0068】
ドップラーセンサ1の出力データを、信号分岐処理部111により、計測する目的のデータに併せて分岐させ、心拍波形抽出のための20~40Hzのアナログフィルタ112aと、呼吸波形抽出のための0.5~2Hzのアナログフィルタ112bを用いて、それぞれの信号成分を抽出する。抽出した信号をそれぞれ心拍数用のA/D変換部5aと呼吸数用のA/D変換部5bによってデジタルデータに変換し、その後のフィルタリング処理部7a、7b以降の信号処理により、それぞれのバイタルサインを算出する。
【0069】
次に、フィルタリング処理部7aを中心に、心拍数の検出を例として、フィルタ帯域の設定に関する詳細な動作について説明する。心拍数を体表面の動きから検出する際には、前述の通り、実際の心拍数である60~100BPM付近を観測するのではなく、他の動きの成分と弁別可能な帯域として、心拍の1周期での動きである20~40Hzを対象として観測をする。
【0070】
先の図1における自己相関処理部8の処理を行うにあたり、前段のフィルタリング処理部7の段階で周波数フィルタを用いて、心拍成分以外の成分を除去する。その際の帯域は、心拍成分を除去しない範囲内であれば、より限定的であるほど、後段の自己相関処理部8の精度が向上する。
【0071】
しかしながら、心拍に含まれる成分には個人差あるいは体調の影響があり、フィルタリング処理部7における乗数を固定した上で、汎用性を持たせる場合には、周波数帯域を広く設ける必要がある。
【0072】
そこで、本実施の形態2では、先の図2に示したフィルタリング処理の過程で取得した波形を、フィルタリング処理部7内の信号解析部21により信号解析し、その結果に基づいてA/D変換部5によるA/D変換後の信号に対する最適なフィルタ帯域の選定を行う。この結果、心拍に含まれる成分の個人差などの影響を抑制し、自己相関処理部8の前段でのフィルタ帯域幅を限定することができ、バイタルサイン検出の精度向上が可能となる。
【0073】
胸部を対象として観測したドップラーセンサ1の出力波形をFFTにて信号解析を行った場合には、先の図3に示したように、呼吸成分31に相当する1Hz付近の波形に、非常に大きなピークが現れる。その一方で、心拍波形抽出の対象としている20~40Hz付近における心拍成分30の波形を見ると、複数のピークが立っているような形となる。従って、信号解析結果から得られる入力信号の周波数成分の状態を把握することで、目的の信号成分を精度よく取り出すことが可能となる。
【0074】
その際、上述したようなFFTを信号解析部21による解析処理として使用しても実現可能である。ただし、心拍による体表面の動きは非常に微弱であり、ノイズによる影響を非常に受けやすく、心拍成分を抽出するための帯域を正確に特定することが難しい場合がある。
【0075】
そこで、本実施の形態2では、信号解析部21において、より高度な信号解析が可能なウェーブレット変換を用いて、A/D変換後の信号に含まれているバイタルサインに関連する周波数成分を特定する。
【0076】
図12は、本開示の実施の形態2におけるフィルタリング処理部7aに対する入力信号120と、入力信号120に対する信号解析部21によるウェーブレット変換を用いた解析結果121とを示した図である。図12(A)は、横軸を時間、縦軸を振幅レベルとした入力信号120を示しており、図12(B)は、横軸を時間、縦軸を周波数とした解析結果121を示している。
【0077】
ウェーブレット変換では、信号強度を周波数と時間変化の次元で確認することができる。このため、図12に示したように、20~40Hzの帯域の中で信号強度が心拍数と同様の60~100BPM付近で変化している部分を確認することが可能となる。
【0078】
先の図2に示した信号解析部21において、A/D変換部5によるA/D変換後の信号に対してウェーブレット変換を実行することにより、その解析結果として、図12に示すような時間に対する周波数とその強度との関係の情報を得ることができる。図12(B)において表示されている輝度は、信号強度を示しており、この図12では、輝度レベルが低い方が、信号強度が高いことを表している。
【0079】
また、図13図22は、本開示の実施の形態2における心拍信号帯域における各周波数に対する解析結果を示した図である。具体的には、図13では周波数20Hzにおける周波数波形131、図14では周波数25Hzにおける周波数波形141、図15では周波数30Hzにおける周波数波形151、図16では周波数35Hzにおける周波数波形161、図17では周波数40Hzにおける周波数波形171、がそれぞれ示されている。
【0080】
また、図18では周波数20Hzにおける絶対値の周波数波形181およびピーク検出結果182、図19では周波数25Hzにおける絶対値の周波数波形191およびピーク検出結果192、図20では周波数30Hzにおける絶対値の周波数波形201およびピーク検出結果202、図21では周波数35Hzにおける絶対値の周波数波形211およびピーク検出結果212、図22では周波数40Hzにおける絶対値の周波数波形221およびピーク検出結果222、がそれぞれ示されている。
【0081】
さらに、図23図24は、本開示の実施の形態2における心拍信号帯域以外の周波数に対する解析結果を示した図である。具体的には、具体的には、図23では心拍信号帯域以外の周波数15Hzにおける周波数波形231が示されており、図24では心拍信号帯域以外の周波数15Hzにおける絶対値の周波数波形241が示されている。
【0082】
信号解析部21は、図12に示したような時間に対する周波数とその強度との関係の情報から、20Hz、25Hz、30Hz、35Hz、40Hの各周波数に対して、図13図17に示したような信号強度の時間変化を取り出す。さらに、信号解析部21は、抽出した各周波数における信号に対して絶対値をとり、平滑化を行った後に、図18図23に示したように、極大・極小値の検出を行い、これらの情報の中から、心拍波形抽出に最適なフィルタ帯域の選定を行う。
【0083】
このような動作についてフローチャートを用いて説明する。図25は、本開示の実施の形態2に係るフィルタリング処理部7aにより実行される、心拍波形抽出に適したフィルタ帯域の選定に関する一連処理を示したフローチャートである。図25では、先の図4で説明したステップS12における「最適フィルタ帯域の選定」に関する処理について、ウェーブレット変換結果を用いた具体的な処理を示している。
【0084】
図4におけるステップS12は、図25においてはステップS251~ステップS256で構成されており、フィルタリング処理部7a内のフィルタ帯域選定部22で実行される一連の処理を以下に説明する。
【0085】
フィルタ帯域選定部22は、ウェーブレット変換によって抽出された各周波数における信号に対して、図18図22に示したように、絶対値をとり平滑化を行った後に、極大・極小値の検出を行い、極大・極小値のそれぞれの間隔を求める(ステップS251に相当)。
【0086】
フィルタ帯域選定部22は、一般の健常者の通常時の心拍数に相当する約60~100BPMで変化する周波数をリストアップしておく(ステップS252に相当)。そして、フィルタ帯域選定部22は、ステップS251で検出したピーク間隔が60~100BPMで変化している周波数を、最適フィルタ周波数fとして選定し、(f-5)Hzを帯域フィルタ部20の下限値f0、(f+5)Hzを帯域フィルタ部20の上限値f1として、フィルタ帯域を設定する(ステップS254に相当)。
【0087】
また、フィルタ帯域選定部22は、ピーク間隔が60~100BPMで変化している周波数が2つ以上存在する場合(ステップS253に相当)には、それらのピーク間隔の中央値を算出し(ステップS255に相当)、中央値に最も近い周波数を最適フィルタ周波数fとして選定する(S256に相当)。
【0088】
たとえば、先の図12の解析結果から抽出可能な20Hz、25Hz212、30Hz、35Hz、40Hzの各周波数成分(図13図17参照)を比較し、選定を行った場合を考える。この場合、図14の25Hzにおける周波数波形141を中心として±5Hzの範囲が最適なフィルタ帯域として選定されることになる。
【0089】
図14の25Hzにおける周波数波形は、他の周波数成分の周波数波形と比較すると、ピーク間隔とともに信号強度が安定している。従って、後段のフィルタリング処理を行うに当たって、最適なフィルタ帯域が選定されることが分かる。
【0090】
一方で、たとえば、図23の周波数15Hzにおける周波数波形231に示すような、最適な帯域からはずれた周波数成分は、図24の絶対値の周波数波形241のとおり、ピーク間隔が一定でない。従って、図25に示したフローチャートによる処理では、15Hzの周波数は最適な帯域としては選定されない。すなわち、このような心拍に対する検出精度が悪くなるような帯域でのフィルタリング処理は行われない。
【0091】
このように、フィルタリング処理部7aへの入力信号の信号解析により検出した極大・極小値の間隔から、心拍の成分である60~100BPMで信号強度が変化している箇所から心拍の成分が強く表れる帯域を特定することにより、最適なフィルタ周波数帯域f0~f1を動的に選定することが可能となる。
【0092】
結果的に、入力信号に対して、バイタルサインの検出に適した最適な周波数帯域を通過させるフィルタリング処理を行うことができ、不要な信号を極力除去した状態で、後段の自己相関処理を行うことができ、心拍数の検出精度が向上する。さらには、入力信号に動的に依存するため、フィードバックループを有する適応フィルタのように意図しない特性ズレ等の性能劣化は発生せず、それらを補正するためのフィルタ特性や構成の初期化処理等の必要がない。
【0093】
なお、自己相関処理を1回実施した後に、上述したようなピークカウント処理を行うことで、正しいバイタルサインのカウントを可能とするためには、前述のとおり、フィルタリング処理部7において最適なフィルタ帯域を用いてフィルタリング処理を行うことが必要不可欠である。
【0094】
例えば、フィルタ帯域を固定帯域とした場合には、フィルタリング処理部への入力信号によっては最適な帯域でない状態でのフィルタリングが行われてしまうことが想定される。この場合には、自己相関処理を行った後のデータにノイズ等不要な成分が増加してしまうため、正しくバイタルサインの周期をカウントすることができない結果となる。
【0095】
すなわち、本実施の形態2では、前段での動的に設定されたフィルタ帯域を用いた最適フィルタリング処理と、後段での相関値スレッシュを徐々に下げながら行うピークカウント処理との組合せることにより、高精度なバイタルサインの検出システムが、シンプルな構成により、処理負荷軽減などの相乗効果とともに実現可能となる。
【0096】
なお、上述した実施の形態2では、心拍検出を主な例として述べたが、一部記載のとおり、呼吸検出も同時に実現可能であり、呼吸検出側に本開示の検出手法を適用できるのはもちろんである。
【0097】
なお、胸部の体表面の動きとして、心拍による体表面の動きは非常に微細なものである一方で、呼吸による体表面の動きは比較的大きく表れる。すなわち、胸部を対象とする呼吸の検出・測定の場合には、ウェーブレット変換を省略してもよく、これにより、信号解析にかかる時間をさらに短縮することが可能となる。
【0098】
また、信号解析にウェーブレット変換を使用しているが、これに限らず、最適フィルタリングのための周波数帯域が抽出可能であれば、この解析手法に限らないことは言うまでもない。
【0099】
さらに、バイタルサインのデータを取得した後に、先の図10に示したように、生のデータをクラウド103へ送信し、演算処理をクラウド103で行うことで装置の小型化、および処理の高速化が可能となる。
【0100】
また、本開示に係る表示部11は、バイタルサインの検出結果を表示させるとともに、ネットワーク接続機能を有している。従って、表示部11を活用することで、必要に応じて外部に対してデータの送受信を行うことも可能である。
【0101】
実施の形態3.
本実施の形態3では、バイタルサイン検出装置を心拍数検出に適用するとともに、フィルタリング処理部7において演算負荷の軽減を図る処理を適用する場合について説明する。
【0102】
図26は、本開示の実施の形態3に係るフィルタ帯域選定部22aの内部構成を示したブロック図である。本実施の形態3におけるフィルタ帯域選定部22aは、帯域データ抽出部260、帯域データ比較部261、データ格納部262、およびフィルタ帯域決定部263を備えて構成されている。
【0103】
また、図27は、本開示の実施の形態3に係るフィルタ帯域選定部22aにおいて実施されるフィルタ帯域の更新処理に関する説明図である。さらに、図28は、本開示の実施の形態3に係るフィルタ帯域選定部22aにより実行される最適フィルタ帯域の選定に関する一連処理を示したフローチャートである。これら図26図28を用いて、フィルタリング処理部7内のフィルタ帯域選定部22aにおける演算負荷の軽減を図る手法について説明する。
【0104】
帯域データ抽出部260は、先の実施の形態1、2におけるフィルタ帯域選定部22と同様の処理を行うことで、フィルタリング処理に用いるフィルタ帯域を動的に決定し、決定したフィルタ帯域を今回値とする。
【0105】
帯域データ比較部261は、前回処理において動的に決定されたフィルタ帯域が前回値として記憶されているデータ格納部262から前回値を抽出する。そして、帯域データ比較部261は、前回値に対する今回値の変化率を算出することで、前回値と今回値との差異を定量的に比較する。
【0106】
そして、フィルタ帯域決定部263は、変化率があらかじめ設定された更新許可範囲内であるか、あるいは更新許可範囲外であるかに応じて、フィルタリング処理に用いるフィルタ帯域として今回値を採用するか、前回値を採用するかを決定する。
【0107】
フィルタ帯域の具体的な更新処理について、図27を用いて説明する。図27に示した説明図において、横軸はデータ比較回数を表し、縦軸はデータ比較時の変化率の大きさを表している。また、図27において、変化率Aは、比較的小さい変化率を意味しており、変化率Bは、変化率Aよりも大きく、中程度の変化率を意味しており、あらかじめ設定される値である。
【0108】
フィルタ帯域選定部22aは、変化率の大きさおよび比較回数に応じて、フィルタ帯域として今回値あるいは前回値のいずれかを選定し、更新処理を実施する。
【0109】
具体的には、フィルタ帯域選定部22a内のフィルタ帯域決定部263は、今回値として算出した変化率が、変化率A以下であれば、フィルタ帯域の更新処理を実施せず、現在のフィルタ帯域、すなわち前回値をそのまま採用する(図27中の符号270の処理に相当)。
【0110】
また、フィルタ帯域決定部263は、今回値として算出した変化率が
変化率A<今回値<変化率B
の範囲内であれば、今回値を最新のフィルタ帯域とする更新処理を行う(図27中の符号271の処理に相当)。
【0111】
また、フィルタ帯域決定部263は、今回値として算出した変化率が変化率Bを超える値である場合には、今回値として算出した変化率が極端に大きいと判断し、一旦、フィルタ帯域は更新せず、現在のフィルタ帯域、すなわち前回値をそのまま採用する(図27中の符号272の処理に相当)。
【0112】
そして、フィルタ帯域決定部263は、今回値として算出した変化率が変化率Bを超える状態が、あらかじめ設定した整数値であるn回以上続いた時点で、今回値を最新のフィルタ帯域とする更新処理を行う(図27中の符号273の処理に相当)。
【0113】
このような更新処理の流れをまとめたものが図28に示したフローチャートである。今回値を求める処理は、バイタルサインの検出の都度、毎回実行してもよいが、必要に応じて一時的に処理を止める間引き処理を実行し、フィルタの帯域を固定とすることも可能であり、間引き処理を行うことで演算負荷の軽減を図ることができる。そこで、図28に示したフローチャートでは、このような間引き処理も含めた一連処理が示されており、以下に説明する。
【0114】
本実施の形態3におけるフィルタ帯域選定部22aは、図27に示した比較処理において、フィルタ帯域として抽出した前回値に対する今回値の変化率を算出し、変化率および比較回数を参照する(ステップS283、ステップS287の処理に相当)。
【0115】
そして、フィルタ帯域選定部22aは、変化率が変化率A以下であり、微小変化に相当する場合には、バイタルサインの検出に影響ないとして、トータル処理の効率化のため、フィルタの帯域は前回値のまま固定とする(ステップS289の処理に相当)。
【0116】
また、フィルタ帯域選定部22aは、変化率が変化率Aを超え、変化率B未満の範囲である場合には、バイタルサイン検出の最適化を優先し、フィルタ帯域として今回値を採用するとともに、格納データを前回値から今回値に更新する(ステップS284、ステップS285の処理に相当)。
【0117】
また、フィルタ帯域選定部22aは、変化率が変化率B以上であり、通常予想外の大きな変化に相当する場合には、いったんフィルタ設定は前回値のまま(ステップS288の処理に相当)としながら、n回分程度変化状況を見極め(ステップS287の処理に相当)、それでも同じ状況が続く場合には、なにがしか大きな状態変化が発生したと判断して、その状況に追従するため、あらためて、フィルタ帯域として今回値を採用するとともに、格納データを前回値から今回値に更新する(ステップS284、ステップS285の処理に相当)。
【0118】
また、電源投入開始後の初回検出時には、固定の初期値をフィルタ帯域として採用してもよい。ただし、図28に示したフローチャートでは、ステップS280、ステップS286、ステップS288処理を経由することで、格納された前回値の帯域データを読み出して、フィルタ帯域としている。これにより、毎回同じ被測定者2が使用とすることを想定すれば、測定開始時の早期から、正確なバイタルサインの検出が可能となる。
【0119】
さらには、負荷の重い信号解析処理の軽減目的において、例えば、抽出された帯域データの変化率が変化率Aより少ない場合には、上述のようにフィルタ帯域を固定とする処理だけでなく、一時的に信号解析部21による信号解析処理を行わないように間引き処理を行うことができる。つまり、変化が少ない場合には、被測定者2の測定状態が安定した状況が想定され、影響のない範囲で、信号解析処理を間引きつつ、バイタルサインの検出を実行する。
【0120】
このような間引き処理を行う際には、ステップS289にて間引きカウントzを2以上の整数値としてセットし、ステップS288にて間引きカウントzから1を減算し、ステップS280にて間引きカウントzが0より大きいか否かを判断する。
【0121】
このように間引きカウントzを用いることで、検出のタイミングにおいて、z回に1回の割合で間引いて信号解析を行うことができる。たとえば、あらかじめz=5と設定したとすれば、状態安定時には検出動作5回のうち信号解析処理を1回に間引くことができ、通常の20%の解析処理負荷にて検出が可能となる。
【0122】
以上のように、実施の形態3によれば、フィルタリング処理部に対する入力信号の変化状況に応じて、フィルタ帯域の更新処理の停止と実行、および信号解析処理の停止と実行、を切り替えることができる。この結果、トータル処理の効率化による検出時間の短縮化を図ることができ、検出データのリアルタイム性が向上するとともに、精度のよいバイタルサイン検出装置の実現が可能となる。
【0123】
なお、上述したようなフィルタ帯域設定時の負荷軽減は、間引き解析に限らない。例えば、電源投入後、初回安定状態までの解析処理に間引き処理を適用し、安定状態となった後は、フィルタ帯域設定を固定としてもよい。また、ユーザによる操作部13からのコマンド入力時にフィルタ帯域を動的に設定するための解析処理を実行するといったように、フィルタ帯域の再設定タイミングをユーザに任せてもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0124】
1 ドップラーセンサ(ドップラーレーダ)、3 信号処理部、4 アナログ信号処理部、5、5a、5b A/D変換部、6 演算処理部、7 フィルタリング処理部、8 自己相関処理部、9 ピークカウント部、10 心拍数算出部(バイタルサイン算出部)、11 表示部、12 制御部、13 操作部、20 帯域フィルタ部、21 信号解析部、22 フィルタ帯域選定部、30 心拍成分、31 呼吸成分、32 心拍検出用アナログフィルタ帯域、260 帯域データ抽出部、261 帯域データ比較部、262 データ格納部、263 フィルタ帯域決定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28