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特開2023-163309運用容量算出装置、運用容量算出システム、運用容量算出装置用コンピュータプログラムおよび運用容量算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163309
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】運用容量算出装置、運用容量算出システム、運用容量算出装置用コンピュータプログラムおよび運用容量算出方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20231102BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20231102BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/38 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074121
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】下尾 高廣
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 高弘
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 尚志
(72)【発明者】
【氏名】中村 正
(72)【発明者】
【氏名】平戸 康太
(72)【発明者】
【氏名】舘小路 公士
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AA02
5G066AA03
5G066AA05
5G066AA06
5G066AA09
5G066AE01
5G066AE09
5G066DA06
5G066HA13
5G066HB06
5G066HB09
5G066JA03
5G066JB03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】送配電設備の定格値より大きい電力を、既設の送配電設備により安全に送配電し、電力系統において電力を安定的に供給する運用容量を算出する運用容量算出装置及び方法等を提供する。
【解決手段】運用容量算出システムにおいて、運用容量算出装置1は、電力系統の予め定められた範囲内に配置された1つ以上の送配電設備にかかる全ての送配電設備の予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する潮流値計算部21と、最大潮流値が送電される電力系統の評価を行う系統安定度評価部22とを有し、系統安定性の評価において、予め定められた安定化制御対象である発電設備に対して最大潮流値が送電されている条件下で故障等系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定となる場合、電力系統を安定化させる安定限界潮流値を算出し、最大潮流値と安定限界潮流値のうち小さい潮流値を送配電設備の運用容量とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備により発電された電力を供給する電力系統の、予め定められた範囲内に配置された1つ以上の送配電設備にかかる全ての前記送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する潮流値計算部と、
前記潮流値計算部により算出された前記最大潮流値が送電される電力系統の系統安定性の評価を行う系統安定度評価部と、を有し、
前記系統安定度評価部は、前記系統安定性の評価において、予め定められた前記発電設備である安定化制御対象に対して前記最大潮流値が送電されている条件下で系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定となる場合、前記安定化制御対象を拡大させた前記発電設備である拡大制御対象を選択し、前記拡大制御対象に対して安定化制御を実施した場合に、前記電力系統を安定化させる安定限界潮流値を算出し、前記最大潮流値と前記安定限界潮流値のうち小さい潮流値を前記送配電設備の運用容量とする、
運用容量算出装置。
【請求項2】
前記系統安定度評価部は、前記系統安定性の評価において、同期安定性、周波数安定性、電圧安定性、定態安定性に関する評価のうち少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の運用容量算出装置。
【請求項3】
前記系統安定度評価部は、前記系統安定性の評価により安定性の高い順に前記発電設備を選択し前記拡大制御対象とする、
請求項1に記載の運用容量算出装置。
【請求項4】
前記拡大制御対象は、再生可能エネルギー発電装置、蓄電装置、のうち少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の運用容量算出装置。
【請求項5】
前記系統安定度評価部は、前記最大潮流値と、前記拡大制御対象に対して安定化制御を実施した場合に前記電力系統を安定化させる安定限界潮流値のうち小さい潮流値を前記送配電設備の運用容量とする場合において、前記電力系統に異常が検出された場合、前記拡大制御対象にかかる前記発電設備の制御を行う、
請求項1に記載の運用容量算出装置。
【請求項6】
前記系統安定度評価部は、運用容量を、前記最大潮流値と、前記拡大制御対象に対して安定化制御を実施した場合に前記電力系統を安定化させる安定限界潮流値の小さい潮流値としない場合、制御の対象となる前記発電設備を拡大制御対象から安定化制御対象に変更する、
請求項1に記載の運用容量算出装置。
【請求項7】
前記潮流値計算部は、前記送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値をダイナミックレーティングにより算出する、
請求項1に記載の運用容量算出装置。
【請求項8】
前記潮流値計算部は、将来における1つ以上の時間断面のそれぞれに対して前記最大潮流値を算出し、
前記系統安定度評価部は、前記最大潮流値が送電されている条件下で系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定になると予測される場合、安定化制御を実施した場合に前記電力系統を安定化させる前記発電設備を、前記時間断面のそれぞれにおける前記拡大制御対象として選択し、
前記拡大制御対象に対して、安定化制御を実施した場合に前記電力系統を安定化させる安定限界潮流値を算出し、前記最大潮流値と前記安定限界潮流値のうち小さい潮流値を前記時間断面ごとの前記運用容量とし、
将来の前記時間断面の前記拡大制御対象は、前記拡大制御対象の将来の前記時間断面における予測出力を予測し、前記予測出力の一部または全部を制御することで将来の前記時間断面において前記電力系統を安定化することができる前記発電設備が、前記拡大制御対象として選択される、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の運用容量算出装置。
【請求項9】
発電設備により発電された電力を供給する電力系統の、予め定められた範囲内に配置された1つ以上の送配電設備にかかる全ての前記送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する潮流値計算部と、
前記潮流値計算部により算出された前記最大潮流値が送電される電力系統の系統安定性の評価を行う系統安定度評価部と、を有し、
前記系統安定度評価部は、前記系統安定性の評価において、予め定められた前記発電設備である安定化制御対象に対して前記最大潮流値が送電されている条件下で系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定となる場合、前記安定化制御対象を拡大させた前記発電設備である拡大制御対象を選択し、前記拡大制御対象に対して安定化制御を実施した場合に、前記電力系統を安定化させる安定限界潮流値を算出し、前記最大潮流値と前記安定限界潮流値のうち小さい潮流値を前記送配電設備の運用容量とする、
運用容量算出装置と、
前記運用容量算出装置から指示された前記運用容量の適用時には、前記拡大制御対象にかかる前記発電設備に対し、前記電力系統を安定化させる制御を行う
電力制御装置と、
を備えた運用容量算出システム。
【請求項10】
コンピュータに、
発電設備により発電された電力を供給する電力系統の、予め定められた範囲内に配置された1つ以上の送配電設備にかかる全ての前記送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出させる潮流値計算ステップと、
前記潮流値計算ステップにより算出された前記最大潮流値が送電される電力系統の系統安定性の評価を行う系統安定度評価ステップと、を実行させる運用容量算出装置用コンピュータプログラムであって、
前記系統安定度評価ステップは、前記系統安定性の評価において、予め定められた前記発電設備である安定化制御対象に対して前記最大潮流値が送電されている条件下で系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定となる場合、前記安定化制御対象を拡大させた前記発電設備である拡大制御対象を選択し、前記拡大制御対象に対して安定化制御を実施した場合に、前記電力系統を安定化させる安定限界潮流値を算出し、前記最大潮流値と前記安定限界潮流値のうち小さい潮流値を前記送配電設備の運用容量とする、
運用容量算出装置用コンピュータプログラム。
【請求項11】
発電設備により発電された電力を供給する電力系統の、予め定められた範囲内に配置された1つ以上の送配電設備にかかる全ての前記送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する潮流値計算手順と、
前記潮流値計算手順により算出された前記最大潮流値が送電される電力系統の系統安定性の評価を行う系統安定度評価手順と、を有し、
前記系統安定度評価手順による前記系統安定性の評価において、予め定められた前記発電設備である安定化制御対象に対して前記最大潮流値が送電されている条件下で系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定となる場合、前記安定化制御対象を拡大させた前記発電設備である拡大制御対象を選択し、前記拡大制御対象に対して安定化制御を実施した場合に、前記電力系統を安定化させる安定限界潮流値を算出し、前記最大潮流値と前記安定限界潮流値のうち小さい潮流値を前記送配電設備の運用容量とする、
運用容量算出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電力系統の送配電において許容される、電力の容量の算出を行う運用容量算出装置、運用容量算出システム、運用容量算出装置用コンピュータプログラムおよび運用容量算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電装置の脱調を防止すべく、収集した電力系統の情報に基づき電力系統における発電装置の出力量を制御する運用容量算出装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-130777号公報
【特許文献2】特開2016-208826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力系統において、電力の発電を行う発電装置は、電力の送配電を行う複数の送配電設備に接続される。複数の発電装置から出力された電力は、送配電設備を介し負荷に供給される。電力系統にかかる電力は、複数の送配電設備が監視されることにより、発電装置が適切に制御され効率よく供給されることが望ましい。
【0005】
複数の発電装置から出力された電力は、電力の送配電を行う複数の送配電設備を介し負荷に供給される。発電装置は、水力、火力、原子力または風力や太陽光などの再生可能エネルギー等により発電を行う。送配電設備は、変圧器、送電線等により構成される。電力系統にかかる電力は、複数の発電装置が適切に制御されることにより調整される。
【0006】
昨今の電力自由化により風力発電装置や太陽光発電装置などの再生可能エネルギー発電装置等により発電された電力が、既設の送配電設備を介し送配電される場合も多くなった。再生可能エネルギー発電装置の有効利用を推進するとともに、既設の送配電設備をどのように有効活用するかという議論が盛んに行われている。
【0007】
その中で、気象条件(気温、風、日照)を考慮して最大電流量を決めるダイナミックレーティングの適用が期待されている。ダイナミックレーティングとは、予め定められた送配電設備にかかる潮流値を超えた、送配電設備が上限温度以下となる潮流値を供給し、電力系統の送電容量を増加させる技術である。
【0008】
しかしながら、ダイナミックレーティングにより熱容量の上限を拡大し送電容量を増加させた場合、系統安定性が悪化し、系統安定性を確保するために送電容量が制約されるとの問題点があった。
【0009】
昨今、既存の電力会社とは異なる一般企業による、いわゆるノンファーム型の発電装置により発電が行われる場合も多くなってきている。このため、定義された定格値に制限されることなく、既設の送配電設備を用いて安全に、より多くの電力を送配電することが望まれる場合もある。一方、電力系統における安定性は、確保されることが好ましい。電力系統における安定性が損なわれた場合、大規模な停電(ブラックアウト)を引き起こす可能性がある。
【0010】
本実施形態は、送配電設備の定義された定格値より大きい電力を、既設の送配電設備により安全に送配電することができる運用容量であり、電力系統において電力を安定的に供給することができる運用容量を算出する運用容量算出装置、運用容量算出システム、運用容量算出装置用コンピュータプログラムおよび運用容量算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態の電力系統監視装置は、次のような特徴を有する。
(1)発電設備により発電された電力を供給する電力系統の、予め定められた範囲内に配置された1つ以上の送配電設備にかかる全ての前記送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する潮流値計算部を有する。
(2)前記潮流値計算部により算出された前記最大潮流値が送電される電力系統の系統安定性の評価を行う系統安定度評価部を有する。
(3)前記系統安定度評価部は、前記系統安定性の評価において、予め定められた前記発電設備である安定化制御対象に対して前記最大潮流値が送電されている条件下で故障等系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定となる場合、前記安定化制御対象を拡大させた前記発電設備である拡大制御対象を選択し、前記拡大制御対象に対して安定化制御を実施した場合に、前記電力系統を安定化させる安定限界潮流値を算出し、前記最大潮流値と前記安定限界潮流値のうち小さい潮流値を前記送配電設備の運用容量とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態にかかる運用容量算出装置を用いたシステムの全体構成を示す図
図2】第1実施形態にかかる運用容量算出装置の構成を示す図
図3】第1実施形態にかかる運用容量算出装置のプログラムを示すフロー図
図4】第1実施形態にかかる運用容量算出装置により作成される拡大制御対象データの例を示す図
図5】第1実施形態にかかる運用容量算出装置により作成される潮流値にかかるデータを示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1~2を参照して本実施形態の一例として、運用容量算出装置1について説明する。なお、本実施形態において、同一構成の装置や部材が複数ある場合にはそれらについて同一の番号を付して説明を行い、また、同一構成の個々の装置や部材についてそれぞれを説明する場合に、共通する番号にアルファベットの添え字を付けることで区別する。
【0014】
図1に、本実施形態にかかる運用容量算出装置を用いたシステムの全体構成を示す。本システムは、運用容量算出装置1、電力制御装置8、電力系統3を有する。運用容量算出システム100は、運用容量算出装置1、電力制御装置8により構成される。後述する発電機4a、4b、再生可能エネルギー発電装置5を総称して発電設備と呼ぶ場合がある。また、後述する送信部12と表示部15を総称して出力部と呼ぶ場合がある。
【0015】
(電力系統3)
電力系統3は、電力を供給する電力供給網である。電力系統3は、発電機4、再生可能エネルギー発電装置5、変圧器6、送電線7を有する。電力系統3は、一例として電力系統3a、3b、3c、3d、3eにより構成される。電力系統3は、遮断器、断路器、調相器等を有していてもよい。
【0016】
電力系統3aは、発電機4a、変圧器6a、送電線7aにより構成される。発電機4aは、水力、火力、原子力等により発電を行う設備である。発電機4aは、出力電力を電力制御装置8により制御される。変圧器6aは、発電機4aから出力された電力の変圧を行う。変圧器6aは、電圧切替用のタップを有する。送電線7aは、変圧器6aにより変圧された電力を送電する。
【0017】
同様に電力系統3bは、発電機4b、変圧器6b、送電線7bにより構成される。発電機4bにより発電された電力は、変圧器6bにより変圧され送電線7bにより送電される。
【0018】
電力系統3cは、再生可能エネルギー発電装置5、変圧器6c、送電線7cにより構成される。再生可能エネルギー発電装置5は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーにより発電を行う装置である。再生可能エネルギー発電装置5は、出力電力を電力制御装置8により制御される。
【0019】
電力系統3dは、変圧器6d、送電線7dにより構成される。変圧器6dは、電力系統3a、電力系統3b、電力系統3cから供給された電力を変圧する。送電線7dは、変圧器6aにより変圧された電力を送電する。
【0020】
同様に電力系統3eは、変圧器6e、送電線7eにより構成される。電力系統3a、電力系統3b、電力系統3cから供給された電力は、変圧器6eにより変圧され送電線7eにより送電される。
【0021】
電力系統3a~3eの各変圧器6a~6eには、それぞれ測定装置61a~61eが設けられる。測定装置61は、変圧器6における現在の温度、電力、電圧、電流、周波数を測定する。測定装置61は、温度、電力、電圧、電流、周波数の測定回路および送受信回路により構成される。測定された温度、電力、電圧、電流、周波数にかかるデータは、測定データD11として通信線91を介し運用容量算出装置1に送信される。
【0022】
電力系統3a~3eの各送電線7a~7eには、それぞれ測定装置71a~71eが設けられる。測定装置71は、送電線7における現在の温度、電力、電圧、電流、周波数を測定する。測定装置71は、温度、電力、電圧、電流、周波数の測定回路および送受信回路により構成される。測定された温度、電力、電圧、電流、周波数にかかるデータは、通信線91を介し運用容量算出装置1に送信される。
【0023】
(運用容量算出装置1)
図2に、本実施形態にかかる運用容量算出装置1の構成を示す。運用容量算出装置1は、定義された定格値に制限されることなく、予め定められた送配電設備の熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する。また、運用容量算出装置1は、電力系統3の安定性の評価を行い、予め定められた安定化制御対象に基づき安定化制御を実施しても不安定となる場合、安定化制御対象を拡大させた拡大制御対象に基づき電力系統3を安定化させることができる安定限界潮流値を算出する。さらに運用容量算出装置1は、最大潮流値と安定限界潮流値のうち小さい潮流値を送配電設備の運用容量とする。
【0024】
運用容量算出装置1は、通信線91を介して電力系統3に、通信線93を介して電力制御装置8に接続される。運用容量算出装置1は、コンピュータ等により構成される。運用容量算出装置1は、電力系統3の監視または制御を行う事業者の事務所等に設置される。
【0025】
運用容量算出装置1は、受信部11、送信部12、演算部13、記憶部14、表示部15を有する。
【0026】
受信部11は、通信回路により構成される。受信部11は、通信線91を介し電力系統3の測定装置61、測定装置71に接続される。通信線91は、有線または無線により通信を行う専用線、インターネット回線、電話回線等であってよい。受信部11は、測定装置61、測定装置71から測定データD11を受信する。測定データD11は、測定装置61により測定された変圧器6の温度、電力、電圧、電流、周波数にかかるデータ、および測定装置71により測定された送電線7の温度、電力、電圧、電流、周波数にかかるデータである。
【0027】
また受信部11は、気象予報サービスにかかるサイト(図中不指示)から気象情報D12を受信する。気象情報D12は、現在および未来に予測される気象にかかる温度、風速、日射量等にかかる情報である。気象情報D12は、気象等のサイトからインターネット回線を介し送信されるものであってよい。
【0028】
さらに受信部11は、外部装置(図中不指示)から需給計画データD13を受信する。需給計画データD13は、発電機4a、4bおよび再生可能エネルギー発電装置5にかかる、例えば30分毎または5分ごとの発電計画にかかるデータである。需給計画データD13は、電力制御装置8から送信されるものであってもよい。
【0029】
受信部11は、演算部13に接続される。受信部11は、演算部13により通信動作を制御される。受信部11は、測定データD11、気象情報D12、需給計画データD13を演算部13に送信する。
【0030】
送信部12は、通信回路により構成される。送信部12は、通信線93を介し、電力制御装置8に接続される。通信線93は、有線または無線により通信を行う専用線、インターネット回線、電話回線等であってよい。通信線93は他の任意の装置に接続されるようにしてもよい。また、送信部12は、演算部13に接続される。送信部12は、演算部13により通信動作を制御される。
【0031】
送信部12は、演算部13により作成された最大潮流値データD21、安定限界潮流値データD22、拡大安定限界潮流値データD23、運用容量値データD24、拡大制御対象データF3を電力制御装置8に送信する。最大潮流値データD21、安定限界潮流値データD22、拡大安定限界潮流値データD23、運用容量値データD24、拡大制御対象データF3は、他の任意の装置に送信されるようにしてもよい。
【0032】
表示部15は、液晶表示器、プラズマ表示器等により構成される。表示部15は、演算部13により作成された最大潮流値データD21、安定限界潮流値データD22、拡大安定限界潮流値データD23、運用容量値データD24、拡大制御対象データF3を表示する。送信部12と表示部15を総称して出力部と呼ぶ場合がある。
【0033】
演算部13は、コンピュータにより構成される。演算部13は、運用容量算出装置1の内部において受信部11、送信部12、記憶部14、表示部15に接続される。演算部13は、潮流値計算部21、系統安定度評価部22を有する。潮流値計算部21、系統安定度評価部22は、コンピュータ内の演算部または、ソフトウェアモジュールにより構成される。
【0034】
潮流値計算部21、系統安定度評価部22が、コンピュータプログラムによるソフトウェアモジュールにて構成される場合、潮流値計算部21を潮流値計算ステップと、系統安定度評価部22を系統安定度評価ステップと呼ぶ場合がある。
【0035】
潮流値計算部21は、測定データD11および後述する定格データF1に基づき最大潮流値データD21を作成する。潮流値計算部21は、発電設備により発電された電力を供給する電力系統3の、予め定められた範囲内に配置された1つ以上の送配電設備にかかる全ての送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する。
【0036】
測定データD11は、変圧器6、送電線7の温度、電力、電圧、電流、周波数にかかるデータである。定格データF1は、変圧器6、送電線7の定格電力および上限温度に関するデータである。定格データF1は、記憶部14に予め設定され記憶される。
【0037】
運用容量算出装置1は、変圧器6、送電線7の定格電力に制限されることなく、変圧器6、送電線7の温度が予め定められた上限温度以下となる電力を最大潮流値として算出する。算出された最大潮流値は、最大潮流値データD21として記憶部14に記憶される。
【0038】
系統安定度評価部22は、潮流値計算部21により算出された、最大潮流値データD21にかかる最大潮流値が送電された場合における、電力系統3の系統安定性の評価を行う。系統安定度評価部22は、系統安定性の評価において、予め定められた発電設備である安定化制御対象に対して最大潮流値データD21にかかる最大潮流値が送電されている条件下で故障等系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定となる場合、安定化制御対象を拡大させた発電設備である拡大制御対象を選択する。拡大制御対象は、安定化制御対象を含んでいてよい。安定化制御対象は、安定化制御対象データF2として予め記憶部14に設定され記憶される。選択された拡大制御対象は拡大制御対象データF3として記憶部14に記憶される。
【0039】
系統安定度評価部22は、安定化制御対象データF2にかかる安定化制御対象に対して安定化制御を実施した場合に、電力系統3を安定化させることができる安定限界潮流値を算出する。算出された安定限界潮流値は、安定限界潮流値データD22として記憶部14に記憶される。また、系統安定度評価部22は、電力系統3のそれぞれを安定に運用することができる拡大安定限界潮流値を算出する。拡大安定限界潮流値は、拡大制御対象データF3にかかる拡大制御対象に対し制御を行なった場合における安定限界潮流値である。算出された拡大安定限界潮流値は、拡大安定限界潮流値データD23として記憶部14に記憶される。さらに、系統安定度評価部22は、最大潮流値と安定限界潮流値(安定限界潮流値に対して拡大安定限界潮流値を採用した場合は拡大安定限界潮流値)のうち小さい潮流値を送配電設備の運用容量値とする。運用容量値は、運用容量値データD24として記憶部14に記憶される。
【0040】
(電力制御装置8)
電力制御装置8は、電力系統3の実際の制御を行う装置である。電力制御装置8は、通信線92を介して電力系統3に、通信線93を介して運用容量算出装置1に接続される。電力制御装置8は、コンピュータ等により構成される。電力制御装置8は、電力系統3の監視または制御を行う一般送配電事業者の変電所などに設置される。電力制御装置8は、系統安定化装置、中央制御装置と呼ばれる場合がある。
【0041】
電力制御装置8は、発電機4、再生可能エネルギー発電装置5の発電量の制御を指示する。電力制御装置8は、通常時制御部81、拡大対象制御部82を有する。電力制御装置8は、測定装置61、測定装置71により系統事故等の異常が検出された場合、通常時制御部81または拡大対象制御部82により、発電量の制御の指示を行う。
【0042】
従来の運用容量の場合、すなわち、安定限界潮流値に対して拡大安定限界潮流値を採用し、最大潮流値と、拡大安定限界潮流値のうち小さい潮流値を運用容量としない場合に、電力系統3に事故などの異常が発生した場合、電力制御装置8は通常時制御部81により、安定化制御対象を制御候補として、安定化に必要な制御量を算出し、安定化制御対象に発電量を指示する。通常時制御部81は、自立して電力系統3の制御を行う。安定化制御対象は、安定化制御対象データF2にかかる制御対象であり、例えば発電機4である。
【0043】
それに対して、安定限界潮流値に対して拡大安定限界潮流値を採用し、最大潮流値と、拡大安定限界潮流値のうち小さい潮流値を運用容量とした場合に、電力系統3に事故などの異常が発生した場合、電力制御装置8は拡大対象制御部82により、拡大制御対象を制御候補として、安定化に必要な制御量を算出し、拡大制御対象に発電量を指示する。拡大制御対象は、拡大制御対象データF3にかかる制御対象であり、例えば発電機4、再生可能エネルギー発電装置5である。
【0044】
電力制御装置8の拡大対象制御部82は、運用容量算出装置1から最大潮流値データD21、安定限界潮流値データD22、拡大安定限界潮流値データD23、運用容量値データD24、安定化制御対象データF2、拡大制御対象データF3を受信する。拡大対象制御部82は、拡大制御対象データF3に基づき制御対象を選択し、拡大制御対象に制御指令を送信する。
【0045】
以上が、本実施形態にかかる運用容量算出装置1を用いたシステムの全体構成である。
【0046】
[1-2.作用]
次に、図1~5に基づき本実施形態の運用容量算出装置1の動作の概要を説明する。以下では、一例として運用容量算出装置1は、図1に示す電力系統3を監視するものとするが、運用容量算出装置1により監視される電力系統はこれに限られず任意の構成であってよい。
【0047】
運用容量算出装置1の各部において以下のデータが作成、記憶、または送受信される。
測定データD11
気象情報D12
需給計画データD13
最大潮流値データD21
安定限界潮流値データD22
拡大安定限界潮流値データD23
運用容量値データD24
定格データF1
安定化制御対象データF2
拡大制御対象データF3
【0048】
運用容量算出装置1は、電力系統3の予め定められた範囲内に配置された1つ以上の送配電設備にかかる全ての送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する。運用容量算出装置1は、定義された定格値に制限されることなく、潮流値を最大潮流値として算出する。
【0049】
運用容量算出装置1は、算出した最大潮流値が送電される電力系統3の系統安定性の評価を行う。運用容量算出装置1は、最大潮流値が送電される条件で予め定められた安定化制御対象に基づき安定化制御を実施しても不安定となる場合、安定化制御対象を拡大させた拡大制御対象に基づき電力系統3を安定化させることができる安定限界潮流値(拡大安定限界潮流値)を算出する。さらに運用容量算出装置1は、最大潮流値と安定限界潮流値のうち小さい潮流値を送配電設備の運用容量とする。
【0050】
上記において、予め定められた電力系統3の範囲とは電力系統3a~3eに相当する。送配電設備は変圧器6、送電線7に、発電設備は発電機4、再生可能エネルギー発電装置5に相当する。
【0051】
運用容量算出装置1は、予め定められた電気量の上限値を示す定格値に制限されることなく、最大潮流値を算出する。最大潮流値は、既設の送配電設備の上昇温度が予め定められた上限温度以下となる、気象状況の変化に対応した潮流値である。最大潮流値は、発電機4または再生可能エネルギー発電装置5により発電された電力が反映された潮流値である。定格値は、所定の気象条件における送配電設備の上昇温度が予め定められた上限温度以下となる潮流値に、更にマージンを与えた値として定義される。
【0052】
上記の運用容量算出装置1の動作は、図3に示すプログラムにより実現される。図3に示すプログラムのフロー図に基づき、運用容量算出装置1の動作を説明する。図3に示すプログラムは、運用容量算出装置1の演算部13に内蔵される。
【0053】
(ステップS301:測定データD11、気象情報D12、需給計画データD13の受信)
運用容量算出装置1は、運転が開始されることにより、受信部11により測定データD11、気象情報D12、需給計画データD13を逐次受信する。受信部11は、受信した測定データD11、気象情報D12、需給計画データD13を演算部13に送信する。
【0054】
演算部13は、例えば1分、5分、30分等の周期にて測定データD11、気象情報D12、需給計画データD13を受信部11から、定格データF1を記憶部14から受信する。定格データF1は、変圧器6、送電線7の定格電力および上限温度に関するデータである。
【0055】
(ステップS302:最大潮流値の算出)
演算部13は、潮流値計算部21により、電力系統3a~3eのそれぞれにおいて許容することができる最大潮流値を算出する。最大潮流値は、変化する気象に対応するため、例えば1分、5分、30分等の周期にて算出される。また最大潮流値は、予め定められた電力系統3の範囲である電力系統3a~3eごとに算出される。最大潮流値は、電力系統3a~3eが許容することができる最大電力または、最大電流である。算出された最大潮流値は、最大潮流値データD21として記憶部14に記憶される。
【0056】
電力系統3a~3eに配置された送配電設備である変圧器6、送電線7は、定格データF1により定格電力が定義される。定格データF1にかかる定格電力は、所定の気象条件における送配電設備の上昇温度が予め定められた上限温度以下となる潮流値として定義される。したがって変圧器6、送電線7は、周囲の温度等の条件を反映し、定格電力以上の電力を許容することができる。許容される定格電力以上の電力を最大潮流値と呼ぶこととする。
【0057】
例えば電力系統3aに配置された変圧器6a、送電線7aは、変圧器6a、送電線7aの温度が定格データF1にかかる上限温度以下である最大潮流値にかかる電力を許容することができる。変圧器6a、送電線7aの上限温度は、それぞれを構成する部材のうち、最小の上限温度を有する部材により決定される。例えば変圧器6a、送電線7aの上限温度は、構成部品である絶縁材料の上限温度に基づき決定される。
【0058】
電力系統3aの最大潮流値は、変圧器6a、送電線7aの現在の温度と上限温度との差分に応じ算出される。また、変圧器6a、送電線7aの温度は、変圧器6a、送電線7aを取り囲む周囲の温度(気象にかかる温度)、風速、日射量等に基づき変動する。例えば送電線7の上限温度と最大潮流の関係は(式1)に示すとおりとなる。
【0059】
(式1)に基づき、上限温度を入力すると、想定する気象条件に見合った最大潮流値が算出される。(式1)は熱流入項と熱流出項が均衡した平衡点における式(定常状態の式)であるが、平衡点に達する手前で熱流入項と熱流出項が釣り合わない状態で用いられる微分方程式(過渡状態の式)を用いてもよい。
【数1】
・・・・・(式1)
【0060】
潮流値計算部21は、気象情報D12にかかる現在の温度、風速、日射量等に関する情報、定格データF1にかかる変圧器6a、送電線7aの上限温度、測定データD11にかかる変圧器6a、送電線7aの現在の温度に基づき、変圧器6a、送電線7aの両者が上限温度以下となる潮流値であり、変圧器6a、送電線7aの少なくとも一方が定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する。なお、気象条件によっては算出した潮流値が定格値未満になる場合もある。この場合、定格値を最大潮流値(すなわち変更なし)としてもよいし、算出した定格値未満の潮流値を最大潮流値としてもよい。
【0061】
最大潮流値は、定格データF1にかかる定格電力に制限されることなく算出される。演算部13の潮流値計算部21は、時々刻々変化する気象に対応し、例えば1分、5分、30分等の周期にて、電力系統3a~3eごとの最大潮流値の算出を行う。
【0062】
また、最大潮流値は、気象情報D12により予測された将来の温度、風速、日射量等に関する情報に基づき、需給計画データD13にかかる発電計画の時間帯に対応する時刻の最大潮流値を算出するようにしてもよい。潮流値計算部21は、需給計画データD13に対応する時刻に予測される、変圧器6aまたは送電線7aの上限温度に達する潮流値を最大潮流値として算出する。
【0063】
また、最大潮流値は、予め定められた一定の時間後に、変圧器6aまたは送電線7aの上限温度に達する潮流値として算出されるようにしてもよい。
【0064】
変圧器6aまたは送電線7aは、定格電力を超える潮流値にかかる電力が供給された場合であっても、上限温度に達するまでに時間を要する。したがって予め定められた時間に対応し、定格電力を超える潮流値を最大潮流値とすることができる。最大潮流値をこのように算出することにより、より大きい電力を電力系統3a~3eに供給することができる。
【0065】
(ステップS303:安定限界潮流値の算出)
演算部13は、系統安定度評価部22により、安定化制御対象データF2にかかる安定化制御対象に対し制御を行なった場合に、電力系統3a~3eのそれぞれを安定に運用することができる安定限界潮流値を算出する。安定限界潮流値として同期安定限界潮流値G1、周波数安定限界潮流値G2、電圧安定限界潮流値G3が算出される。同期安定限界潮流値G1、周波数安定限界潮流値G2、電圧安定限界潮流値G3は、電力系統3a~3eごとに算出される。
【0066】
同期安定限界潮流値G1は、同期安定性を確保するために許容される電力値である。周波数安定限界潮流値G2は、周波数安定性を確保するために許容される電力値である。電圧安定限界潮流値G3は、電圧安定性を確保するために許容される電力値である。算出された同期安定限界潮流値G1、周波数安定限界潮流値G2、電圧安定限界潮流値G3は、安定限界潮流値データD22として記憶部14に記憶される。
【0067】
算出される安定限界潮流値は、同期安定限界潮流値G1、周波数安定限界潮流値G2、電圧安定限界潮流値G3に限られない。他の安定性を確保するために許容される最大電力または、最大電流であってもよい。例えば、系統安定度評価部22は、系統安定性の評価において、同期安定性、周波数安定性、電圧安定性、定態安定性に関する評価を行い、安定性を確保するために許容される電力値を安定限界潮流値として算出するようにしてもよい。
【0068】
(ステップS304:最大潮流値は安定限界潮流値未満であるかの判断)
演算部13は、ステップS302において算出された最大潮流値がステップS303において算出された安定限界潮流値未満であるかの判断を行う。最大潮流値は安定限界潮流値未満であると判断されない場合(ステップS304のNO)、プログラムは、ステップS305に移行する。最大潮流値は安定限界潮流値未満であると判断された場合(ステップS305のYES)、プログラムは、ステップS308に移行する。
【0069】
最大潮流値が同期安定限界潮流値G1、周波数安定限界潮流値G2、電圧安定限界潮流値G3の全ての安定限界潮流値未満である場合、最大潮流値は安定限界潮流値未満であると判断される。最大潮流値が同期安定限界潮流値G1、周波数安定限界潮流値G2、電圧安定限界潮流値G3のうちの少なくとも一つの安定限界潮流値未満でない場合、最大潮流値は安定限界潮流値未満であると判断されない。最大潮流値は安定限界潮流値未満であるかの判断は、電力系統3a~3eごとに行われる。
【0070】
(ステップS305:拡大制御対象の選択)
演算部13は、ステップS304において最大潮流値は安定限界潮流値未満であると判断されない場合、拡大制御対象の選択を行う。選択された拡大制御対象は、拡大制御対象データF3として記憶部14に記憶される。
【0071】
拡大制御対象は、系統安定性を評価する際の制御対象(電制対象)を増加させたものである。電力系統3に事故などの異常が発生した場合、電力制御装置8は通常時制御部81により、安定化制御対象に制御指令を送信する。通常時制御部81は、自立して電力系統3の制御を行う。安定化制御対象は、安定化制御対象データF2にかかる制御対象である。
【0072】
一例として電力系統3aの発電機4aは、水力発電機である発電機4a1、4a2、4a3、4a4(図中不示)により構成されているものとする。同様に電力系統3bの発電機4bは、火力発電機である発電機4b1、4b2、4b3、4b4(図中不示)により構成されているものとする。また、電力系統3cの再生可能エネルギー発電装置5は、太陽光発電装置であるである発電装置51、52、53、54(図中不示)により構成されているものとする。
【0073】
安定化制御対象は、予め安定化制御対象データF2として設定され、記憶部14に記憶されている。一例として火力発電機である発電機4b1、4b2が選択され安定化制御対象データF2にかかる安定化制御対象とされる。電力系統3に事故などの異常が発生した場合、通常時制御部81は、発電機4b1、4b2に対して発電量を指示する制御を行う。
【0074】
拡大制御対象は、安定化制御対象に加え、制御の対象となる発電機4、再生可能エネルギー発電装置5を選択したものである。拡大制御対象の選択は、ステップS302において算出された最大潮流値が送電されている条件下で故障等系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても、電力系統3が不安定となる場合に実行される。選択された拡大制御対象は、拡大制御対象データF3として記憶部14に記憶される。拡大制御対象は、再生可能エネルギー発電装置5の他、安定化制御対象に含まれない発電機や電力系統3に接続された蓄電装置(図中不示)を含んでいてよい。蓄電装置は蓄電池、燃料電池、揚水発電装置であってもよい。
【0075】
一例として再生可能エネルギー発電装置5である発電装置51、52、53、54、火力発電機である発電機4b3、4b4が拡大制御対象データF3にかかる拡大制御対象とされる。拡大制御対象データF3の例を図4に示す。
【0076】
拡大制御対象データF3は、同期安定性、周波数安定性、電圧安定性を確保する制御を行なった場合に、効果の高い再生可能エネルギー発電装置5または発電機4の順に選択され作成される。拡大制御対象データF3は、再生可能エネルギー発電装置5または発電機4の効果の高い順に優先順位が付され作成される。一例として再生可能エネルギー発電装置5である発電装置51、52、53、54、発電機4である発電機4b3、4b4の順に安定性に対する効果が高い場合、前述の順により拡大制御対象データF3は作成される。
【0077】
再生可能エネルギー発電装置5である発電装置51、52、53、54、発電機4である発電機4b3、4b4の安定性に対する効果は、一定量の電制を行なった場合における安定性の改善の程度により評価される。
【0078】
また、拡大制御対象データF3は、発電機4、再生可能エネルギー発電装置5ごとに、電制により削減することができる削減量の限度が予め定められるようにしてもよい。電制により削減することができる削減量の限度は、削減にかかる電力値または定格出力に対する比率であってもよい。
【0079】
(ステップS306:拡大安定限界潮流値の算出)
演算部13は、系統安定度評価部22により、電力系統3a~3eのそれぞれを安定に運用することができる拡大安定限界潮流値を算出する。拡大安定限界潮流値は、拡大制御対象データF3にかかる拡大制御対象に対し制御を行なった場合における安定限界潮流値である。
【0080】
拡大安定限界潮流値として拡大同期安定限界潮流値H1、拡大周波数安定限界潮流値H2、拡大電圧安定限界潮流値H3が算出される。拡大同期安定限界潮流値H1、拡大周波数安定限界潮流値H2、拡大電圧安定限界潮流値H3は、電力系統3a~3eごとに算出される。
【0081】
拡大同期安定限界潮流値H1は、同期安定性を確保するために許容される電力値である。拡大周波数安定限界潮流値H2は、周波数安定性を確保するために許容される電力値である。拡大電圧安定限界潮流値H3は、電圧安定性を確保するために許容される電力値である。算出された拡大同期安定限界潮流値H1、拡大周波数安定限界潮流値H2、拡大電圧安定限界潮流値H3は、拡大安定限界潮流値データD23として記憶部14に記憶される。
【0082】
算出される拡大安定限界潮流値は、拡大同期安定限界潮流値H1、拡大周波数安定限界潮流値H2、拡大電圧安定限界潮流値H3に限られない。他の安定性を確保するために許容される最大電力または、最大電流であってもよい。
【0083】
(ステップS307:運用容量値の選択)
演算部13は、系統安定度評価部22により、運用容量値の選択を行う。
【0084】
ステップS302にて算出された最大潮流値、ステップS306にて算出された拡大同期安定限界潮流値H1、拡大周波数安定限界潮流値H2、拡大電圧安定限界潮流値H3のうち最少の潮流値が選択され、運用容量値とされる。選択された運用容量値は、運用容量値データD24として記憶部14に記憶される。
【0085】
(ステップS308:運用容量値を最大潮流値とする)
演算部13は、ステップS304において最大潮流値は安定限界潮流値未満であると判断された場合、ステップS302にて算出された最大潮流値を運用容量値として採用する。運用容量値は、運用容量値データD24として記憶部14に記憶される。図5に運用容量値データD24の一例を示す。
【0086】
ステップS307またはステップS308において運用容量値データD24は、電力系統3a~3eのそれぞれについて作成される。また、運用容量値データD24は、例えば1分、5分、30分等の周期にて時間帯に対応して作成され、蓄積して記憶部14に記憶される。運用容量値データD24は、需給計画データD13にかかる発電計画における、将来の時間帯に対応する時刻の運用容量値として算出されるものであってもよい。
【0087】
(ステップS309:運用容量値を出力する)
演算部13は、ステップS307またはステップS308において作成された運用容量値データD24にかかる運用容量値を出力する。運用容量値は、送信部12、表示部15に出力される。
【0088】
安定限界潮流値に対して拡大安定限界潮流値を採用し、最大潮流値と、拡大安定限界潮流値のうち小さい潮流値を運用容量とした場合において、電力系統3に事故などの異常が発生した場合、運用容量算出装置1は、拡大対象制御部82を介し、拡大制御対象である発電装置51、52、53、54、発電機4b1、4b2、4b3、4b4に対して発電量を指示する制御を行う。発電機4b1、4b2は、安定化制御対象でもある。拡大制御対象は、安定化制御対象を含んでいてよい。運用容量算出装置1は、送信部12により運用容量値データD24にかかる運用容量値を電力制御装置8の拡大対象制御部82に送信する。
【0089】
系統安定度評価部22は、従来の運用容量の場合、すなわち、安定限界潮流値に対して拡大安定限界潮流値を採用し、最大潮流値と、拡大安定限界潮流値のうち小さい潮流値を運用容量としない場合、検出制御の対象となる発電設備を拡大制御対象から安定化制御対象に変更する。
【0090】
また、演算部13は、最大潮流値データD21、安定限界潮流値データD22、拡大安定限界潮流値データD23、運用容量値データD24、拡大制御対象データF3を送信部12、表示部15に出力する。
【0091】
送信部12は、演算部13から送信された最大潮流値データD21、安定限界潮流値データD22、拡大安定限界潮流値データD23、運用容量値データD24、拡大制御対象データF3を電力制御装置8、他の任意の装置に送信する。
【0092】
表示部15は、演算部13から送信された最大潮流値データD21、安定限界潮流値データD22、拡大安定限界潮流値データD23、運用容量値データD24、拡大制御対象データF3を表示する。
【0093】
電力制御装置8は、運用容量算出装置1の送信部12から送信された最大潮流値データD21、安定限界潮流値データD22、拡大安定限界潮流値データD23、運用容量値データD24、拡大制御対象データF3を受信する。電力制御装置8は、最大潮流値データD21、安定限界潮流値データD22、拡大安定限界潮流値データD23、運用容量値データD24、拡大制御対象データF3を参照して電力系統3の制御を行う。
【0094】
上記において、安定限界潮流値、同期安定限界潮流値G1、周波数安定限界潮流値G2、電圧安定限界潮流値G3、拡大安定限界潮流値、拡大同期安定限界潮流値H1、拡大周波数安定限界潮流値H2、拡大電圧安定限界潮流値H3を総称して安定限界潮流値と呼ぶ場合がある。以上が運用容量算出装置1の動作の概要である。
【0095】
[1-3.効果]
(1)本実施形態によれば、運用容量算出装置1は、発電設備により発電された電力を供給する電力系統3の、予め定められた範囲内に配置された1つ以上の送配電設備にかかる全ての送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値を最大潮流値として算出する潮流値計算部21と、潮流値計算部21により算出された最大潮流値が送電される電力系統3の系統安定性の評価を行う系統安定度評価部22と、を有し、系統安定度評価部22は、系統安定性の評価において、予め定められた発電設備である安定化制御対象に対して最大潮流値が送電されている条件下で故障等系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定となる場合、安定化制御対象を拡大させた発電設備である拡大制御対象を選択し、拡大制御対象に対して安定化制御を実施した場合に、電力系統3を安定化させる安定限界潮流値を算出し、最大潮流値と安定限界潮流値のうち小さい潮流値を送配電設備の運用容量とするので、送配電設備の定義された定格値より大きい電力を、既設の送配電設備により安全に送配電することができる運用容量であり、電力系統において電力を安定的に供給することができる運用容量を算出する運用容量算出装置1を提供することができる。
【0096】
定義された定格値に制限されることなく、送配電設備を用いてより多くの電力を送配電した場合、電力系統3における電力供給の安定性が損なわれる恐れがあるが、運用容量算出装置1は、安定化制御対象を拡大させた発電設備である拡大制御対象を選択するので、拡大制御対象に対して安定化制御を実施することにより電力系統3において電力を安定的に供給することができる。
【0097】
運用容量算出装置1は、拡大制御対象に対して安定化制御を実施した場合に、電力系統3を安定化させる安定限界潮流値を算出し、最大潮流値と安定限界潮流値のうち小さい潮流値を送配電設備の運用容量とするので、送配電設備の定義された定格値より大きい電力を、電力系統3により供給することができる。
【0098】
(2)本実施形態によれば、運用容量算出装置1の系統安定度評価部22は、系統安定性の評価において、同期安定性、周波数安定性、電圧安定性、定態安定性に関する評価のうち少なくとも1つを含むので、これらの安定性に基づき電力系統3を安定化させる安定限界潮流値が算出され、最大潮流値と安定限界潮流値のうち小さい潮流値が送配電設備の運用容量とされるので、電力系統3において電力を安定的に供給することができる。
【0099】
(3)本実施形態によれば、運用容量算出装置1の系統安定度評価部22は、系統安定性の評価により安定性の高い順に発電設備を選択し拡大制御対象とするので、拡大制御対象に基づき選択された発電設備に対して安定化制御を実施することにより、効率よく電力系統3を安定化することができる。
【0100】
(4)本実施形態によれば、運用容量算出装置1の系統安定度評価部22により選択される拡大制御対象は、再生可能エネルギー発電装置5、蓄電装置のうち少なくとも1つを含むので、制御対象を拡大することができ、より確実に電力系統3を安定化することができる。また、このように構成することにより制御量をより少なくすることができ、効率よく電力系統3を安定化することができる。なお、拡大制御対象は、安定化制御対象を含んでいてもよい。
【0101】
(5)本実施形態によれば、運用容量算出装置1の系統安定度評価部22は、最大潮流値と拡大安定限界潮流値に基づき送配電設備の運用容量を更新して運用を行う場合、つまりダイナミックレーティングによる潮流値が従来の安定限界潮流値を超過し、拡大制御対象に基づいた拡大安定限界潮流値を安定限界潮流値として採用した場合において、電力系統に異常が検出された場合、拡大制御対象にかかる発電設備の制御を行うので、異常時において、より効率よく電力系統3を安定化することができる。
【0102】
(6)本実施形態によれば、運用容量算出装置1の系統安定度評価部22は、運用容量を最大潮流値と安定限界潮流値のうち小さい潮流値としない場合、つまりダイナミックレーティングによる潮流値の算出がされない場合やダイナミックレーティングによる潮流値が従来の安定限界潮流値を超過しない場合、制御の対象となる発電設備を拡大制御対象から安定化制御対象に変更する。これにより、不必要に制御対象を拡大する必要がなくなり、安定化制御対象に加え、新たに拡大制御対象に追加された再生可能エネルギー発電装置5などの事業者における不利益を削減することができる。
【0103】
(7)本実施形態によれば、運用容量算出装置1の潮流値計算部21は、送配電設備の、予め定められた熱容量の定格値以上となる潮流値をダイナミックレーティングにより算出するので、ダイナミックレーティングにより、精度よく最大潮流値を算出することができる。
【0104】
[2.他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0105】
(1)上記実施形態では、拡大制御対象は系統安定度評価部22により選択され、拡大制御対象データF3として記憶部14に記憶されるものとした。しかしながら、拡大制御対象は、作業者により選択され、拡大制御対象データF3として予め記憶部14に記憶されるものであってもよい。
【0106】
(2)運用容量算出装置1は、需給計画データD13に対応した各時間帯ごとに、予測に基づき最大潮流値を算出し、拡大制御対象の選択、運用容量の算出を行うようにしてもよい。
【0107】
つまり、前記潮流値計算部21は、需給計画データD13の各時間帯に対応した将来における1つ以上の時間断面のそれぞれに対して最大潮流値を算出する。また、系統安定度評価部22は、将来の各時間断面において最大潮流値が送電されている条件下で故障等系統の異常が発生した場合に安定化制御を実施しても不安定になると予測される場合、それぞれの時間断面における拡大制御対象を選択する。拡大制御対象として、安定化制御を実施した場合に電力系統3を安定化させることができると予測される発電設備が選択される。
【0108】
系統安定度評価部22は、拡大制御対象に対して、安定化制御を実施した場合に電力系統3を安定化させる安定限界潮流値を算出し、最大潮流値と安定限界潮流値のうち小さい潮流値を時間断面ごとの運用容量値とする。将来の時間断面の拡大制御対象は、拡大制御対象の将来の時間断面における予測出力を予測し、予測出力の一部または全部を制御することで将来の時間断面において電力系統3を安定化することができる発電設備が、拡大制御対象として選択される。
【0109】
このように構成することにより、送配電設備の定義された定格値より大きい電力を、既設の送配電設備により安全に送配電することができる運用容量であり、電力系統において電力を安定的に供給することができる将来の時間断面における運用容量を算出する運用容量算出装置1を提供することができる。
【符号の説明】
【0110】
1・・・運用容量算出装置
100・・・運用容量算出システム
11・・・受信部
12・・・送信部
13・・・演算部
14・・・記憶部
15・・・表示部
21・・・潮流値計算部
22・・・系統安定度評価部
8・・・電力制御装置
81・・・通常時制御部
82・・・拡大対象制御部
3・・・電力系統
4・・・発電機
5・・・再生可能エネルギー発電装置
6・・・変圧器
7・・・送電線
61,71・・・測定装置
91,92,93・・・通信線

図1
図2
図3
図4
図5