(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163316
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】集積回路、光受信装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/822 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
H01L27/04 C
H01L27/04 E
H01L27/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074147
(22)【出願日】2022-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.(1)発行日 令和4年2月6日 (2)刊行物 International Conference on Electronics,Information,and Communication 2022 (3)公開者 土谷 亮、井上 敏之、岸根 桂路、▲高▼橋 康宏、伊藤 大輔、中村 誠 (4)公開された発明の内容 土谷亮、井上敏之、岸根桂路、▲高▼橋康宏、伊藤大輔、および中村誠が、International Conference on Electronics,Information,and Communication 2022にて、土谷亮、井上敏之、岸根桂路、伊藤大輔、中村誠および▲高▼橋康宏が発明したCapacitor Under Pad for Small Area Integration of High-Speed Signal-to-Differential Amplifierについて公開した。 2.(1)開催日 令和4年2月8日 (2)集会名、主催者 International Conference on Electronics,Information,and Communication 2022 Zoomミーティング the Institute of Electronics and Information Engineers (3)公開者 土谷 亮 (4)公開された発明の内容 土谷亮が、International Conference on Electronics,Information,and Communication 2022 Zoomミーティングにて、土谷亮、井上敏之、岸根桂路、伊藤大輔、中村誠および▲高▼橋康宏が発明したCapacitor Under Pad for Small Area Integration of High-Speed Signal-to-Differential Amplifierについて公開した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構委託事業、研究開発項目「Beyond 5G 超大容量無線通信を支える次世代エッジクラウドコンピューティング基盤の研究開発」副題「Beyond 5Gに向けた革新的高速大容量データ転送ハードウェア開発と高機能エッジクラウド情報処理基盤の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏之
(72)【発明者】
【氏名】岸根 桂路
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 康宏
【テーマコード(参考)】
5F038
【Fターム(参考)】
5F038AC05
5F038CA02
5F038CA10
5F038DF02
5F038EZ20
(57)【要約】
【課題】大きな実装面積を占めるコンタクトパッドの下部を有効に活用できる構造の集積回路を提供する。
【解決手段】集積回路10は、コンタクトパッド11と、連続的に変化する信号を整形するためのローパスフィルタLPFを備え、ローパスフィルタLPFが有するキャパシタの第1電極15の少なくとも一部の領域及び第2電極16の少なくとも一部の領域が、コンタクトパッド11の下部領域にある。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトパッドと、
連続的に変化する信号を整形するためのローパスフィルタと、
を備え、
前記ローパスフィルタが有するキャパシタの第1電極の少なくとも一部の領域及び第2電極の少なくとも一部の領域が、前記コンタクトパッドの下部領域にある、
集積回路。
【請求項2】
前記第1電極は前記ローパスフィルタにより整形された信号の出力端子であり、
前記第2電極はグラウンド電位又は電源電位に接続される、
請求項1に記載の集積回路。
【請求項3】
さらに単相差動変換回路を備え、
前記単相差動変換回路は、前記ローパスフィルタへの入力信号と、前記ローパスフィルタにより整形された信号とを入力とする差動増幅器を有する、
請求項1または2のいずれかに記載の集積回路。
【請求項4】
前記第1電極と前記コンタクトパッド間の容量は、前記第1電極と前記第2電極間の容量より小さい、
請求項1または2のいずれかに記載の集積回路。
【請求項5】
前記第1電極と前記コンタクトパッドの間の距離は、前記第1電極と前記第2電極の間の距離よりも大きい、
請求項1または2のいずれかに記載の集積回路。
【請求項6】
請求項1または2のいずれかに記載の前記集積回路と、フォトダイオードを備え、
前記連続的に変化する信号は、前記フォトダイオードの出力信号から生成されることを特徴とする光受信装置。
【請求項7】
コンタクトパッドと、
少なくとも一部の領域が、前記コンタクトパッドの下部領域にある第1電極と、
前記1電極よりも下部領域にある第2電極と、
を備え、
前記第2電極は、グランド電位に接続され、前記第1電極との間にキャパシタを形成し、
前記第1電極と前記コンタクトパッドの間の距離は、前記第1電極と前記第2電極の間の距離よりも大きい、
集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路、光受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速光通信は現在の計算機システムにおいて大容量データ転送を担う基幹技術であり、更なる性能向上が求められている。光通信システムにおいて、多数の送受信回路を1つの集積回路に実装し、並列化することが一般的である。しかし、送受信回路の数が増えると1つの回路に使用できる面積が減少する。このため、実装面積の小面積化が重要な課題となる。
【0003】
集積回路において大きな面積を占めるものにコンタクトパッドがある。コンタクトパッドは、ボンディングワイヤやバンプを介して集積回路内の回路と外部回路を接続するために用いられる。コンタクトパッドは、通常100μm平方程度の大きさが必要であり、実装面において、集積回路内の回路と比較して大きな面積を占める。
【0004】
特許文献1には、入力パッド(コンタクトパッド)に印加される高電圧パルス信号のピークレベルを抑制するために、入力パッドの下部に設けたキャパシタを利用したローパスフィルタを形成した入力保護回路が記載されている。また非特許文献1には、コンタクトパッドの下部にインダクタを実装した技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Kim, S. Kundu, A. Balankutty, M. Beach, B. C. Kim, S. Kim, Y. Liu, S. K. Murthy, P. Wali, K. Yu, H. S. Kim, C. -c. Liu, D. Shin, A. Cohen, Y. Fan, F. O’Mahony,“A 224Gb/s DAC-Based PAM-4 Transmitter with 8-Tap FFE in 10nm CMOS,” 2021 IEEE International Solid- State Circuits Conference (ISSCC), pp.126-128, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンタクトパッドの下部に配線を配置するとコンタクトパッドと配線の間の寄生容量により容量結合され、配線とコンタクトパッドの間に雑音経路が生じる可能性がある。特に増幅回路入力信号を伝送する配線では信号が微弱なため、寄生容量による速度低下や雑音、誤動作が大きな問題となる。
【0008】
光通信システムにおいては、バースト信号である光信号を電気信号に変換した後、単相差動変換回路によって差動電圧信号に変換する。単相差動変換回路においては、差動増幅器に相補信号を入力するため、単相信号のパルス周波成分を遮断し低周波成分のみを取り出す波形整形を行うことで、パルス信号の中間電位である準定常的な電位を生成する必要がある。単相差動変換回路は、光信号に対応する連続的に変化する電圧信号を整形するために、一方の入力端子にローパスフィルタを有している。当該ローパスフィルタは、大きな時定数を必要とし、ローパスフィルタを構成するキャパシタも大きな容量が必要である。従って、単相差動変換回路が有するローパスフィルタのキャパシタは大きな実装面積を要する。
【0009】
このような準定常的な電位を生成するローパスフィルタのキャパシタ電極であれば、コンタクトパッドの下部に配置したとしても、雑音の影響を受ける可能性は低く、正常な動作が期待できる。本発明の目的は、大きな実装面積を占めるコンタクトパッドの下部を有効に活用できる構造の集積回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る集積回路は、コンタクトパッドと、連続的に変化する信号を整形するためのローパスフィルタとを備える。ローパスフィルタが有するキャパシタの第1電極の少なくとも一部の領域及び第2電極の少なくとも一部の領域が、コンタクトパッドの下部領域にあることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、コンタクトパッドの下部に形成されたキャパシタを、ローパスフィルタのキャパシタとして利用できるので、当該キャパシタに相当する実装面積を削減可能である。
【0012】
本発明に係る集積回路において、第1電極はローパスフィルタにより整形された信号の出力端子であり、第2電極はグラウンド電位又は電源電位に接続されることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、ローパスフィルタが有するキャパシタの一端が集積回路のグランド電位又は電源電位に接続され電位が安定するので、集積回路への雑音の影響を抑制することができる。
【0014】
本発明に係る集積回路において、さらに単相差動変換回路を備え、単相差動変換回路は、ローパスフィルタへの入力信号と、ローパスフィルタにより整形された信号とを入力とする差動増幅器を有することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、単相差動変換回路のローパスフィルタのキャパシタとして、コンタクトパッドの下部を利用可能となる。
【0016】
本発明に係る集積回路において、第1電極とコンタクトパッド間の容量は、第1電極と第2電極間の容量より小さいことが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、コンタクトパッドの下部に形成されるキャパシタの内で、容量の大きいキャパシタをローパスフィルタに組み込むことができ、ローパスフィルタの出力の平滑度を高めることができる。
【0018】
本発明に係る集積回路において、第1電極とコンタクトパッドの間の距離は、第1電極と第2電極の間の距離よりも大きいことが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、コンタクトパッドの下部に形成されるキャパシタの内で、ローパスフィルタのキャパシタの容量を他方のキャパシタより容量を大きくすることができ、ローパスフィルタの出力の平滑度を高めることができる。
【0020】
また本発明に係る光受信装置は、上述の集積回路と、フォトダイオードを備え、連続的に変化する信号は、フォトダイオードの出力信号から生成されることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、実装面積が削減された集積回路により、小型化が可能な光受信装置が実現できる。
【0022】
また本発明に係る集積回路は、コンタクトパッドと、少なくとも一部の領域が、コンタクトパッドの下部領域にある第1電極と、第1電極よりも下部領域にある第2電極とを備える。第2電極は、グランド電位に接続され、第1電極との間にキャパシタを形成し、第1電極とコンタクトパッドの間の距離は、第1電極と第2電極の間の距離よりも大きいことを特徴とする。
【0023】
上記構成によれば、コンタクトパッドの下部に形成されるキャパシタを集積回路のキャパシタンスとして利用することができる。当該キャパシタは一端がグランド電位に接続され集積回路への雑音の影響を抑制される。当該キャパシタの容量は、コンタクトパッドと第1電極に形成されるキャパシタの容量よりも大きく形成できるので、実装面積を削減することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る集積回路は、大きな実装面積を占めるコンタクトパッドの下部をキャパシタとして有効に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】単相差動変換回路とローパスフィルタの回路図である。
【
図2】本発明の集積回路のコンタクトパッドの下部に形成されるキャパシタを示す図である。
【
図3】本発明の集積回路の構造を示す図であり、(a)はコンタクトパッドの平面図、(b)はコンタクトパッドを含む断面図である。
【
図4】本発明の実施例のキャパシタを用いた光受信装置の回路図である。
【
図5】(a)、(b)は本発明の光受信装置におけるTIAの入力電流波形であり、(c)は(b)における入力電流に対応するローパスフィルタの出力電圧波形である。
【
図6】従来の集積回路の構造を示す図であり、(a)はコンタクトパッドの平面図、(b)はコンタクトパッドを含む断面図である。
【
図8】
図4の光受信装置の基板実装レイアウト図である。
【
図9】実施例の光受信装置と従来回路のTIAゲインを比較したグラフである。
【
図10】従来回路における光受信装置の出力信号波形のアイダイヤグラムである。
【
図11】実施例における光受信装置の出力信号波形のアイダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明において、具体的な形状、材料、方向、数値等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等に合わせて適宜変更することができる。また、以下で説明する実施形態および変形例の構成要素を選択的に組み合わせることは当初から想定されている。
【0027】
<実施形態>
<単相差動変換回路>
図1に単相差動変換回路40を示す。単相差動変換回路40は差動増幅器60とローパスフィルタLPFを有している。ここでV
outは連続的に変化する信号であり、例えば一定の時間ごとに変化する低電位と高電位を2値情報として伝送する単相のデジタル信号である。V
outは差動増幅器の一方の入力端子に入力されるとともに、抵抗R
LPF、キャパシタC
LPFを有するローパスフィルタLPFにも入力され、高周波成分を遮断し低周波成分のみを通過させることで、連続的に変化するデジタル信号の低電位と高電位の中間の準定常的な電位を示す信号V
LPFを生成する。この信号V
LPFはコモンモード電圧として、差動増幅器60の他方の入力端子に入力される。これにより、差動増幅器60からは、V
outとV
LPFとの電位の差異に応じて元のデジタル信号V
outと同相の信号と逆相の信号の一対の差動電圧信号(V
op、V
on)が出力される。ここでローパスフィルタLPFのキャパシタC
LPFの一端をグランド電位に接続しているが、安定な定常電位であればよく、例えばグランド電位の代わりに電源電位に接続してもよい。
【0028】
<コンタクトパッドの下部に形成されるキャパシタ>
図2は、本発明によるコンタクトパッド11の下部領域に形成されるキャパシタの模式図である。コンタクトパッド11の下部に、第1電極15と第2電極16を設けることで、この第1電極15と第2電極16の間に平行平板キャパシタ20が形成される。このキャパシタ20を前述のローパスフィルタLPFのキャパシタC
LPF又はキャパシタC
LPFの一部として用いることで、例えば、第1電極15をV
LPFが生成される端子と接続し、第2電極16をグランド電位に接続することで、集積回路の面積を縮小することが可能となる。
【0029】
しかしながらコンタクトパッド11と第1電極15の間には、平行平板キャパシタ21が形成され、寄生容量CFが生じる。また、コンタクトパッド11と第2電極16の間にも寄生容量Cpadが生じる。これらの寄生容量により、コンタクトパッド11に入力される信号またはコンタクトパッド11から出力される信号の影響を受け、第1電極15つまりVLPFの電位は変動する。
【0030】
ここでキャパシタ20の容量をCG、キャパシタ21の容量をCF、寄生容量22の容量をCpadとすると、Cpadはコンタクトパッド11と第2電極16の周辺領域の容量を主成分とし、コンタクトパッド11と第2電極16の間隔も広いため、一般的にCpad<<CF、CGの関係があり、寄生容量Cpadを介したVLPFの電位変動への影響は非常に少ない。
【0031】
一方、寄生容量CFを介したVLPFの電位変動は、キャパシタ20により緩和され、コンタクトパッド11に入力あるいは出力される信号の電圧振幅のCF/(CF+CG)程度の電圧変動を受ける。容量CFと容量CGは、ともに平行平板キャパシタによる容量であり、電極面積も同程度である。仮にCF=CGとし、コンタクトパッド11の信号が電源電位とグランド電位間のフル振幅で動作するような場合には、第1電極15つまりVLPFの電位は電源電位の約半分程度の電圧変動が生じると考えられる。
【0032】
図1の単相差動変換回路40において、コモンモード電圧V
LPFは、V
outに入力される連続的に変化する信号の高電位信号と低電位信号の期間の比であるデューティ比に応じて電位は変化するものの、V
outの高電位と低電位のほぼ中央近辺の電位である。よってV
LPFの変動が電源電位の約半分程度の場合、誤動作を生じる可能性が生じてくる。従って、誤動作を生じさせないためには、C
F<C
Gである必要があり、また更に安定な動作のためには、C
FはC
Gに比べて一桁以上小さくすることが好ましい。
【0033】
また第1電極15をグランド電位に、第2電極16をV
LPFが生成される端子と接続することで、コンタクトパッドの影響を少なくすることも可能である。さらに、第2電極として、配線を用いるのではなく、シリコン基板17(
図3参照)、あるいは基板上に形成した半導体領域を用いることも可能である。シリコン基板17又は領域が、特にp型であればグランド電位を印可することが多く、そのままグランド配線として用いることも可能である。
【0034】
第1のキャパシタ20と第2のキャパシタ21の容量CG、CFは、第1電極15とコンタクトパッド11、第2電極16との距離及び各電極が対向する面積に依存する。第1のキャパシタ20の容量を大きくするためには、できるだけ第1電極15の面積を大きくし、第2電極と対向する面積を大きくすることが好ましい。更に、第1電極15と第2電極16との距離を短くすることで、第1のキャパシタ20の容量CGを大きくすることができる。
【0035】
具体的には、
図3(b)に示すように、第1電極15と第2電極16の距離をd1、第1電極15とコンタクトパッド11の距離をd2としたとき、d1<d2となるように構成する。上記構成により、第1のキャパシタ20の容量C
Gを、第2のキャパシタ21の容量C
Fより大きく形成することができる。第1のキャパシタ20の容量C
Gを第2のキャパシタ21の容量C
Fよりも1桁以上大きく形成するには、d1≦d2/10を満足するように形成する。
【0036】
以上により、本発明では、従来活用されていなかったコンタクトパッド11の下部領域に第1電極15及び第2電極の少なくとも一部の領域を配置することで、ローパスフィルタの有するキャパシタを形成することができ、このローパスフィルタを含む集積回路の実装面積の削減が可能である。
【0037】
<実施例>
図4は、本発明による集積回路10とフォトダイオードPDを接続した光受信装置30の回路の一例を示すものである。集積回路10は半導体チップあるいはそのチップをパッケージに組み込んだものであり、フォトダイオードPDは、フォトダイオード素子Pを搭載した半導体チップまたはそのチップをパッケージに組み込んだものである。これらのチップに形成された回路や素子をチップ外の回路や素子と接続するための端子がコンタクトパッド11であり、パッケージの接続端子又は他のチップのコンタクトパッドとボンディングワイヤやパンプを介して電気的に接続をしている。集積回路10は、トランスインピーダンスアンプ(以後、TIAと記す)50、単相差動変換回路40と、その他の信号処理用の種々の回路を備えている。
【0038】
フォトダイオードPDは外部からのバースト信号である光信号を受信して、光が照射されている間は電流源として動作し、パルス状の電流信号を生成する。生成された電流信号は、集積回路10のコンタクトパッド11を介してトランスインピーダンスアンプ(TIA)50に入力される。
図5(a)、(b)にTIA50の入力電流の波形を示す。
図5(a)は、プリアンブル期間とペイロード期間を示す。
図5(b)はプリアンブル期間を示す。TIA50の入力電流は、プリアンブル期間とペイロード期間を有するバースト信号である。プリアンブル期間は、「1」と「0」のビットが交互に並ぶデータパターンを有している。ペイロード期間は同符号が連続する期間であるCID(Consecutive identical digit)期間を有している。TIA50は、フォトダイオードPDからの電流信号を入力して、電圧信号V
outに変換して、単相差動変換回路40に出力する。
【0039】
TIA50は、増幅回路(例えば、反転増幅回路)と帰還抵抗Rfを備えている。
図4のTIA50は、p-MOSFET(Mp1)とn-MOSFET(Mn1)から成る反転増幅回路を備えている。反転増幅回路は、p-MOSFETとn-MOSFETのそれぞれのドレイン端子同士、ゲート端子同士を接続している。p-MOSFETのソース端子は、電源電圧Vddに接続されている。n-MOSFETのソース端子は、回路グランド(GND)に接続されている。反転増幅回路は、ゲート端子に入力された電圧V
inを反転増幅してV
outをドレイン端子に出力する。従って、TIA50においては、フォトダイオードPDの出力電流が増加すると、TIA50の出力電圧が減少するように動作する。
【0040】
単相差動変換回路40は、ローパスフィルタLPFと差動増幅器60を備えている。TIA50の出力電圧信号Voutは差動増幅器60の一方の入力端子に直接入力されるとともに、ローパスフィルタLPFにも入力され、ローパスフィルタLPFにより平滑化された信号であるコモンモード電圧VLPFが差動増幅回路60のもう一方の入力端子に入力される。
【0041】
ローパスフィルタLPFは、抵抗R
LPFとキャパシタの直列回路である。十分に大きい時定数を設定することで、時間的にほとんど変化しないコモンモード電圧V
LPFを出力する。
図4においては、ローパスフィルタLPFのキャパシタは、キャパシタC
LPFと上述のキャパシタ20が並列に接続されたものであり、容量は、キャパシタC
LPFの容量とキャパシタ20の容量C
Gを足したものとなる。したがって、第1のキャパシタ20の容量だけキャパシタC
LPFを小さくすることができる。第1のキャパシタ20の容量C
Gを十分大きくすれば、キャパシタC
LPFを省くことも可能である。
【0042】
図5(c)に、
図5(b)のTIA50の入力電流波形に対応する期間におけるローパスフィルタLPFの出力電圧であるコモンモード電圧V
LPFの波形を示す。V
LPFは
図5(b)の入力電流のパルスに対応したパルス電圧信号V
outを平滑化したものであり、V
outの2値信号である高電位と低電位の中間電位に向かってローパスフィルタの時定数に従い漸近的に収束していく。
【0043】
差動増幅器60は、差動対として動作する2つのn-MOSFETのMn2、Mn3と、Mn2とMn3のゲートに接続される2つの入力端子、能動負荷として動作する2つのp-MOSFETのMn4、Mn5、Mn4とMn5のソースに接続される2つの出力端子と、電流源として動作するn-MOSFETのMn6を有する。一方の入力端子には、TIA50の出力電圧Voutが入力され、他方の入力端子には、ローパスフィルタLPFの出力電圧VLPFが入力される。出力端子は、非反転出力端子と反転出力端子となっており、単相差動変換回路40は、TIA50の出力電圧VoutとローパスフィルタLPFの出力電圧VLPFの差の正負に応じて、同相と逆相の差動信号を出力する。但し、単相差動変換回路40の構成はこれに限らない。
【0044】
図4において70で示すキャパシタ20~22は、コンタクトパッド11の下部に形成されるキャパシタである。本実施例においては、キャパシタ20をローパスフィルタのキャパシタの一部として利用している。
【0045】
図3は本発明による集積回路10のコンタクトパッド11とその周辺の構造を示している。
図3(a)は、コンタクトパッド11の平面図であり、
図3(b)は、集積回路10のコンタクトパッド11を含む部分の断面図である。本実施例による集積回路10においては、パッシベーション膜12、配線部13、第1電極15、第2電極16、シリコン基板17及びビア18等が、絶縁領域14を介して配置されている。
【0046】
配線部13の表面には、配線や下層の半導体素子を保護するためのパッシベーション膜12が形成されている。この例では、配線部13は、コンタクトパッド11と一体に形成され、回路的にコンタクトパッド11と接続されている。
【0047】
コンタクトパッド11は、外部回路との信号線、電源供給線、回路グランド配線等の接続を行う電極であり、ボンディングワイヤやバンプを用いて外部回路との接続を行うため、表面にはパッシベーション膜12は設けられていない。図示したコンタクトパッド11は、配線部13とビア18を介して半導体素子19の一端子と接続されている。
【0048】
コンタクトパッド11は、例えば、一辺Lの略正方形をしている。但し、コンタクトパッド11の形状は、正方形に限定されない。長方形でも円形でもよく、外部との電気接続に適する形状を選択できる。
【0049】
第2電極16は、配線部13よりも下層に設けられる。第2電極16は、例えば、配線層の最下層に配置され、集積回路10のグランド配線と接続される。以下の説明においては、第2電極16は、グランド配線に接続されているものとして説明する。本実施例においては、第1電極15を、第2電極16の配線層の直上の配線層を用いて形成しているため、第1電極と第2電極との間の距離d1が、第1電極とコンタクトパッドの間の距離d2に比べて小さくなり、容量CGは容量CFに比べて十分大きくすることが可能である。
【0050】
集積回路10は、コンタクトパッド11の直下を除き、配線層が配線部13と第2電極16の間に複数設けられる。
図3(b)には、配線部13からシリコン基板17に形成された半導体素子19の一端子に向かって、ビア18が形成されていることを示している。ビア18は、複数の配線層の間に設けられた個々の孔であり、内部を銅メッキ等の金属によってコーティングされている。ビア18によって、複数の配線層の導通が取られる。
【0051】
本実施例の集積回路10は、コンタクトパッド11の下部に、第1電極15と第2電極を設け、第1電極と第2電極の間に形成されたキャパシタを、ローパスフィルタLPFを構成するキャパシタの一部として用いることが特徴である。
【0052】
図6は、従来の集積回路100の構造の例を示す。従来の集積回路100のコンタクトパッド11の直下には、グランド配線として用いられる第2電極16のみが配置されている。コンタクトパッド11の直下の構造以外は、本発明の集積回路10と同じであるので説明は省略する。従来の集積回路100のコンタクトパッド11と第2電極16の間には、寄生容量のみが形成される。
【0053】
図7は、従来の集積回路100における光受信装置の顕微鏡写真である。中央に白枠で囲んだTIA、BUFで示した領域が回路実装領域である。周囲の白く矩形に塗りつぶされた複数の領域がそれぞれコンタクトパッド11である。TIA、BUF等の実装面積に比べても、1つのコンタクトパッド11の面積は大きいが、コンタクトパッド11は、外部回路との信号線、電源給電線、回路グランド配線等の接続に複数必要であり、複数のコンタクトパッド11全体では大きな面積実装を占める。
【0054】
<実装面積の削減効果>
図8は、
図4の光受信装置30の基板実装レイアウト図である。INV-TIAで示した領域は、TIA50の実装領域である。S2Dで示した領域は、単相差動変換回路40の実装領域である。破線で示した領域は、従来のローパスフィルタLPFのキャパシタC
LPFの実装領域に相当し、本実施例において削減できた実装領域である。キャパシタC
LPFに相当するキャパシタは、Pad+Capacitorで示したコンタクトパッド11の下部に構成された。
【0055】
コンタクトパッド11の下部に形成した第1のキャパシタ20による実装面積の削減効果を表1に示す。
【0056】
【0057】
本実施例では、キャパシタCLPFを完全に置き換えることができ、実装面積を29%削減することができた。削減した面積は、電源安定化のためのデカップリングコンデンサの実装領域として活用することができる。
【0058】
<第2のキャパシタCFの回路動作への影響>
次に回路性能への影響についての検証結果を示す。本実施例において、第2のキャパシタ21(容量CF)は、TIA50の入力端子と単相差動変換回路40の差動入力端子の一端に接続される。このため、従来構成と比べて、キャパシタ21を介するノイズによる動作速度への影響が懸念される。
【0059】
図9は、実施例と従来構成について、光受信装置のTIA50のトランスインピーダンスゲインを比較した図である。
図9の縦軸はトランスインピーダンスゲインであり、横軸は周波数である。実施例によるゲインをproposedで示し、従来構成によるゲインをreferenceで示した。実施例と従来構成のゲインはほぼ重なっており、-3db帯域への影響は1.2%であった。
【0060】
図10は従来構成における光受信装置の出力信号波形のアイダイヤグラムである。
図11は実施例における光受信装置の出力信号波形のアイダイヤグラムである。両者にほとんど差はなく特性に影響は見られない。したがって、本発明のコンタクトパッド11の下部に形成したキャパシタを回路に活用することで、回路性能に影響をほとんど与えることなく、実装面積を削減できることが確認できた。
【0061】
なお、本発明は上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において種々の変更や改良が可能であることは勿論である。例えば、上述の実施例においてコンタクトパッド11は、フォトダイオードPDにより生成される電流信号の出力端子と集積回路10のTIA50の入力端子を接続するために用いているが、他の信号の入力端子または出力端子として用いられるものであっても構わない。
【符号の説明】
【0062】
10 集積回路、11 コンタクトパッド、12 パッシベーション層、13 配線部、14 絶縁層、15 第1電極、16 第2電極、17 シリコン基板、18 ビア、19 半導体素子、20 第1のキャパシタ、21 第2のキャパシタ、22 寄生容量、30 光受信装置、40 単相差動変換回路、50 TIA(トランスインピーダンスアンプ)、60 差動増幅器、70 コンタクトパッド下部のキャパシタ、LPF ローパスフィルタ、PD フォトダイオード