(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163322
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ジルコニア複合セラミックスの製造方法および歯科用ジルコニアセラミックス補綴物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20231102BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20231102BHJP
A61C 13/003 20060101ALI20231102BHJP
A61C 5/70 20170101ALN20231102BHJP
【FI】
C04B35/488
A61L27/10
A61C13/003
A61C5/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074155
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】橋本 明香里
(72)【発明者】
【氏名】原 裕
(72)【発明者】
【氏名】中島 慶
【テーマコード(参考)】
4C081
4C159
【Fターム(参考)】
4C081AB06
4C081CF121
4C081CF131
4C081CF151
4C081DA01
4C081EA04
4C159RR15
4C159SS01
4C159TT10
(57)【要約】
【課題】 歯科用ジルコニアセラミックス補綴物として好適に使用できる、高い曲げ強さを有するジルコニア複合セラミックスを、効率よく製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 酸化ジルコニウム、酸化イットリウムからなる安定化剤、酸化アルミニウム添加剤を含む、安定化又は部分安定化ジルコニア粉体の仮焼結体を主要構造として含み、これが二酸化ケイ素の微粒子などの二酸化ケイ素成分と複合化した「複合化ジルコニア仮焼結体」を準備し、必要に応じてCAD/CAMシステムを用いて切削加工してから1250~1800℃の温度で本焼結し、その後、100~900(℃/時間)で400~900℃の範囲にある特定の一次冷却温度まで徐冷し、引き続き1000~9000(℃/時間)で50℃以下となるまで冷却する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部、酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部、及び二酸化ケイ素又はその前駆体:0.05~5.0質量部(但し、二酸化ケイ素の前駆体の質量部は、二酸化ケイ素換算の質量部を表す。)を含み、且つ前記酸化ジルコニウムの仮焼結体を主要構造として含む、複合化ジルコニア仮焼結体を準備する仮焼結体準備工程;
前記仮焼体準備工程で準備された前記複合化ジルコニア仮焼結体を1250~1800℃の温度で焼結する焼結工程;及び
前記焼結工程で焼結された焼結体を冷却する冷却工程を含むジルコニア系セラミックスの製造方法であって、
前記冷却工程は、前記焼結体を100~900(℃/時間)の冷却速度で400~900℃の範囲から選ばれる所定の温度である1次冷却温度になるまで冷却する第一冷却工程と、前記第一冷却工程で前記1次冷却温度まで冷却された焼結体を1000~9000(℃/時間)の冷却速度で50℃以下になるまで冷却する第二冷却工程を含む、
ことを特徴とする、ジルコニア複合セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記仮焼結体準備工程が、
(A)酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部及び酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部を含むジルコニアベース粉体を含む第一の原料組成物を所定の形状に成形した後に600~1200℃で仮焼結することにより、相対密度が45~65%で外部に向かって開口した細孔を有する微多孔性仮焼結体を得る工程;及び
酸化ジルコニウム100質量部に対して0.05~5.0質量部の二酸化ケイ素の微粒子を前記工程で得られた微多孔性仮焼結体の細孔内に収着させる工程を含み、
前記微多孔性仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素の微粒子が収着された複合化ジルコニア仮焼結体を準備する工程であるか、又は
(B)酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部及び酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部を含むジルコニアベース粉体と、「動的光散乱法で測定される平均1次粒子径が1~500nmである非晶質二酸化ケイ素粒子」及び/又は「焼結することにより二酸化ケイ素化合物に転化し得るケイ素含有物質からなる二酸化ケイ素源材料」からなる「二酸化ケイ素の前駆体」:0.05~5.0質量部と、が均一に分散している第二の原料組成物を調製する原料組成物調製工程;
前記第二の原料組成物を成形して所定の形状を有する成形体を得る成形工程;並びに
600~1200℃で前記成形体を仮焼結する仮焼結工程;を含み、
前記仮焼結工程で得られた仮焼結体からなる複合化ジルコニア仮焼結体を準備する工程である、
請求項1に記載のジルコニア複合仮焼結体の製造方法。
【請求項3】
酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部、酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部、及び二酸化ケイ素又はその前駆体:0.05~5.0質量部(但し、二酸化ケイ素の前駆体の質量部は、二酸化ケイ素換算の質量部を表す。)を含み、且つ前記酸化ジルコニウムの仮焼結体を主要構造として含む、複合化ジルコニア仮焼結体からなる被切削加工部を有するジルコニア歯科用ミルブランクをCAD/CAMシステムを用いて切削加工することにより、目的とする歯科用補綴物の形状に対応する形状を有する半製品を得る切削加工工程;
前記工程で得られた半製品を、1250~1800℃の温度で焼結する焼結工程;及び
前記焼結工程で焼結された焼結体を冷却する冷却工程を含む歯科用ジルコニアセラミックス補綴物の製造方法であって、
前記冷却工程は、前記焼結体を100~900(℃/時間)の冷却速度で400~900℃の範囲から選ばれる所定の温度である1次冷却温度になるまで冷却する第一冷却工程と、前記第一冷却工程で前記1次冷却温度まで冷却された焼結体を1000~9000(℃/時間)の冷却速度で50℃以下になるまで冷却する第二冷却工程を含む、
ことを特徴とする、歯科用ジルコニアセラミックス補綴物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア複合セラミックスの製造方法および歯科用ジルコニアセラミックス補綴物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICTの発展により歯科分野において、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Adid Design)やコンピュータ支援製造(CAM:Computer Aided Manufacturing)技術の導入が進んでいる。たとえば、歯冠補綴物の作製に関しては、口腔内の撮影画像から、CAD/CAM装置を用いて、非金属材料からなる歯科加工用ブランクに切削加工を施して歯科用補綴物を作製するCAD/CAMシステムが多用されるようになってきている。ここで、歯科加工用ブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)を意味し、通常は、被切削加工部と、これを切削加工機に取り付け可能にするための保持部と、を有する。そして、被切削加工部としては、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック又は板状若しくは盤状に成形された(ソリッド)ディスク等が一般的に知られている。
【0003】
非金属材料としては、強度や靭性に優れ、審美性の高い歯科用補綴物を作製できることから、ジルコニア系セラミックス材料が使用されることが多い。完全焼結されたジルコニア系セラミックス材料は、その強度ゆえに切削加工が難しいため、CAD/CAMシステムを用いてジルコニア系セラミックスからなる歯科用補綴物(以下、「ジルコニア補綴物」ともいう。)を作製する場合には、ジルコニア歯科用ミルブランク(単に、「ジルコニアミルブランク」ともいう。)の被切削加工部としては、比較的低い焼結温度で仮焼結したジルコニア系セラミックス仮焼結体が一般的に用いられている。そして、高温での本焼結を行った際に発生する収縮等を考慮したCADに基づいて、CAMにより最終的に得られる補綴物の形状に対応する形状に切削加工してから、本焼結を行って緻密化・高強度化されたジルコニア補綴物が作製されている。
【0004】
ジルコニア系セラミックスに関しては、純粋なジルコニア(酸化ジルコニウム)は、温度によって体積変化を伴う相転移を起こすため、焼結後の冷却過程において体積変化による応力によってクラックが発生して低強度化を招くことがある。そして、このような相転移を防ぐために、酸化イットリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの安定化剤を添加して、冷却しても低温で安定な単斜晶に転移せずに、高温で安定な正方晶又は正方晶と立方晶との混晶系として存在することができるようにした安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアが開発されている。ジルコニアミルブランクに使用されるジルコニア原料粉体としても、このような安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアが使用され、更に高強度化のためにアルミナ(添加剤)を添加したものが一般的に使用されている。例えば特許文献1には、常圧焼結することにより特に前歯用義歯として適した透光性及び強度を兼備したジルコニア焼結体を与えることができる原料粉末として、「4.0mol%を超え6.5mol%以下のイットリアと、0.1wt%未満のアルミナを含有し、BET比表面積が8~15m2/gであることを特徴とするジルコニア粉末」が記載されている。
【0005】
ところで、安定化剤としてイットリア(酸化イットリウム)を配合した(部分)安定化ジルコニアの焼結体については、非特許文献1に示されるように、イットリアの添加量を調整することで正方晶ジルコニアと立方晶ジルコニアとの存在比が変化し、それに応じて強度や透明性が変化することが知られている。すなわち、イットリア含有量が増えるに従い透明性向上に寄与する立方晶の含有量が増え、それに対応して高強度化に寄与する正方晶が減るため、高強度と高透明性とは所謂トレードオフの関係となってしまう。このため、前歯等の高い透明性が必要とされる補綴物を作製する場合には透明性を優先し、やや強度が劣る“イットリア含有量が5モル%以上の部分安定化ジルコニア”が使用されるのが一般的である。
【0006】
一方、高強度が要求される臼歯用補綴物やロングスパンブリッジを作製する場合には、“イットリア含有量が3.5モル%以下の安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニア”、すなわち正方晶ジルコニアが使用されるのが一般的であるが、水分存在下で正方晶から単斜晶へと相変態することで結晶格子体積が増加しクラックが生じるとされる低温劣化を引き起こすために、強度耐久性への問題が指摘されている(特許文献2参照)。そして、特許文献2によれば、完全焼結体の微視的な剪断変形性(あるいは、ダイヤモンド装填具による研磨加工時の抵抗性)や熱水に対する老化耐性を向上させるために安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアに、ストロンチウムアルミネートやスピネルなどを、特に好適には4~6体積%となるように配合したものを成形後に仮焼結する技術が開示されている。さらに、特許文献2には、このようにして得られた仮焼結体を加工後に焼結して得られた完全焼結体は、平均0.1~2.0μmの粒度を有する酸化ジルコニアマトリックス相中に、好ましくは0.2~0.5μmの粒度を有する上記ストロンチウムアルミネートやスピネルなどからなる二次相が分散した構造を有し、(二次相を有しない場合と比べて)硬度が低下すること、二次相の種類に応じてその量を最適化すれば破壊靱性が向上すること、及び損傷(ビッカース硬度圧子)後の残留強度が向上すること等が示されているが、初期の曲げ強さの向上については検討されていない。
【0007】
また、特許文献3には、ジルコニア粉末からなる成形体を本焼結して得られる安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアからなる歯科用補綴物について、本来有する審美性を損なうことなく、また製造負荷を特に高めることなく、接着性を改良するための技術として、安定化又は部分安定化ジルコニア仮焼結体の表層部に、テトラエチルオルトケイ酸塩(TEOS)及び硝酸アルミニウム九水和物からなる触媒を水に混合して得たゾル等からなる浸透剤を浸透させてから本焼結し、その後表層部をエッチングする技術が開示されているが、このようにして得られる材料の曲げ強さについては検討されていない。
【0008】
さらに、特許文献4には、完全焼結後に得られたジルコニア歯科用修復物へのグレージング処理を省略してジルコニアミルブランクから透光性の高い外側表面を有するジルコニア歯科用修復物を短時間で製造する技術として、ミルブランクから切削加工にて作製した多孔質歯科用ジルコニア修復物の外側表面の少なくとも一部の深さ5μm以内の領域にガラスを存在させてから、所定の昇温プロファイル及び冷却プロファイルを含む焼結プロトコルで焼結する方法が記載されている。しかし特許文献4においても、このようにして得られる材料の曲げ強さについては検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2015/098765号パンフレット
【特許文献2】特許第6333254号公報
【特許文献3】特表2007-534368号公報
【特許文献4】特表2021-515754号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】伴清治著「CAD/CAMマテリアル完全ガイドブック 臨床に役立つ材料選択と接着操作」医歯薬出版株式会社出版、2017年12月20日、p.18-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記したように、審美性(透明性)が重要視される前歯用補綴物を作製する場合には、低強度のジルコニアを使用するのが一般的であり、更なる高強度化が求められる。また、高強度を有する正方晶ジルコニアにおいても、低温劣化による強度耐久性への問題から、更なる高強度化が求められる。
【0012】
そこで、本発明は、歯科用ジルコニアセラミックス補綴物として好適に使用できる、高い曲げ強さを有するジルコニア複合セラミックスを効率よく製造することができる方法、及びCAD/CAMシステムを用いて高い曲げ強さを有するジルコニア複合セラミックスからなる歯科用補綴物を効率よく製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部、酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部、及び二酸化ケイ素又はその前駆体:0.05~5.0質量部(但し、二酸化ケイ素の前駆体の質量部は、二酸化ケイ素換算の質量部を表す。)を含み、且つ前記酸化ジルコニウムの仮焼結体を主要構造として含む、複合化ジルコニア仮焼結体を準備する仮焼結体準備工程;
前記仮焼体準備工程で準備された前記複合化ジルコニア仮焼結体を1250~1800℃の温度で焼結する焼結工程;及び
前記焼結工程で焼結された焼結体を冷却する冷却工程を含むジルコニア系セラミックスの製造方法であって、
前記冷却工程は、前記焼結体を100~900(℃/時間){=1.7~15.0℃/分}の冷却速度で400~900℃の範囲から選ばれる所定の温度である1次冷却温度になるまで冷却する第一冷却工程と、前記第一冷却工程で前記1次冷却温度まで冷却された焼結体を1000~9000(℃/時間){=17.0~150.0℃/分}の冷却速度で50℃以下になるまで冷却する第二冷却工程を含む、
ことを特徴とする、ジルコニア複合セラミックスの製造方法である。
【0014】
上記第一の形態のジルコニア複合セラミックスの製造方法(以下、「本発明のジルコニア複合セラミックスの製造方法」ともいう。)においては、前記仮焼結体準備工程が、
(A)酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部及び酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部を含むジルコニアベース粉体を含む第一の原料組成物を所定の形状に成形した後に600~1200℃で仮焼結することにより、相対密度が45~65%で外部に向かって開口した細孔を有する微多孔性仮焼結体を得る工程;及び
酸化ジルコニウム100質量部に対して0.05~5.0質量部の二酸化ケイ素の微粒子を前記工程で得られた微多孔性仮焼結体の細孔内に収着させる工程を含み、
前記微多孔性仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素の微粒子が収着された複合化ジルコニア仮焼結体を準備する工程であるか、又は
(B)酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部及び酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部を含むジルコニアベース粉体と、「動的光散乱法で測定される平均1次粒子径が1~500nmである非晶質二酸化ケイ素粒子」及び/又は「焼結することにより二酸化ケイ素化合物に転化し得るケイ素含有物質からなる二酸化ケイ素源材料」からなる「二酸化ケイ素の前駆体」:0.05~5.0質量部と、が均一に分散している第二の原料組成物を調製する原料組成物調製工程;
前記第二の原料組成物を成形して所定の形状を有する成形体を得る成形工程;並びに
600~1200℃で前記成形体を仮焼結する仮焼結工程;を含み、
前記仮焼結工程で得られた仮焼結体からなる複合化ジルコニア仮焼結体を準備する工程である、ことが好ましい。
【0015】
本発明の第二の形態は、酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部、酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部、及び二酸化ケイ素又はその前駆体:0.05~5.0質量部(但し、二酸化ケイ素の前駆体の質量部は、二酸化ケイ素換算の質量部を表す。)を含み、且つ前記酸化ジルコニウムの仮焼結体を主要構造として含む、複合化ジルコニア仮焼結体からなる被切削加工部を有するジルコニア歯科用ミルブランクをCAD/CAMシステムを用いて切削加工することにより、目的とする歯科用補綴物の形状に対応する形状を有する半製品を得る切削加工工程;
前記工程で得られた半製品を、1250~1800℃の温度で焼結する焼結工程;及び
前記焼結工程で焼結された焼結体を冷却する冷却工程を含む歯科用ジルコニアセラミックス補綴物の製造方法であって、
前記冷却工程は、前記焼結体を100~900(℃/時間)の冷却速度で400~900℃の範囲から選ばれる所定の温度である1次冷却温度になるまで冷却する第一冷却工程と、前記第一冷却工程で前記1次冷却温度まで冷却された焼結体を1000~9000(℃/時間)の冷却速度で50℃以下になるまで冷却する第二冷却工程を含む、
ことを特徴とする、歯科用ジルコニアセラミックス補綴物の製造方法(以下、「本発明の歯科用ジルコニア補綴物の製造方法」ともいう。)である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のジルコニア複合セラミックスの製造方法によれば、従来の安定化又は部分安定化ジルコニアが有する、焼結後の冷却過程で大きな体積変化を伴う相転移を起こさないという特徴を保持したまま、得られる焼結体の曲げ強さを向上させることが可能となる。
【0017】
また、本発明の歯科用ジルコニア補綴物の製造方法によれば、透光性及び強度がともに高い歯科用ジルコニア補綴物を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討を行った結果、安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアの結晶粒界に適量の非晶質シリカが存在したようなジルコニア複合セラミッスとした場合には、透明性を低下させずに強度が向上すること、及びそのようなジルコニア複合セラミッスは、安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアの原料となる原料粉体組成物の仮焼結体と、二酸化ケイ素又はその前駆体(焼成することにより二酸化ケイ素に転化する化合物)と、を複合化させた複合化ジルコニア仮焼結体を焼結することにより得られることを見出し、既に報告している(特願2020-188760及び特願2021-129542)。
【0019】
具体的には、“安定化剤及び酸化アルミニウム添加剤を含む結晶性酸化ジルコニウム紛体を所定の形状に成形した後に600~1200℃で仮焼結することにより、相対密度が45~65%である微多孔性仮焼結体を得、これを二酸化ケイ素の微粒子が分散媒中に分散したゾルに浸漬して、前記仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素の微粒子を収着させた後に分散媒を除去する方法”(以下、「浸漬法」ともいう。)によって得られた複合化ジルコニア仮焼結体、又は“二酸化ケイ素又はその前駆体(焼成することにより二酸化ケイ素に転化する化合物)を含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアの原料となる原料粉体組成物を仮焼結する方法”(以下、「事前添加法」ともいう。)によって得られた複合化ジルコニア仮焼結体、を1250~1800℃の温度で焼結することにより、二酸化ケイ素を含まない場合と比べて二軸曲げ強さが向上することを報告している。
【0020】
本発明は、得られるジルコニア複合セラミッスの二軸曲げ強さが、これら複合化ジルコニア仮焼結体を焼結した後の冷却条件によって影響を受けることを見出すと共に、高い二軸曲げ強さが得られる冷却方法を見出したことによりなされたものである。
【0021】
なお、前記複合化ジルコニア仮焼結体を焼結して得られたジルコニア複合セラミッスの二軸曲げ強さが向上する理由については、本発明者等の分析により、上記ジルコニア複合セラミッスにおいて、二酸化ケイ素は、相互に隣接するジルコニア結晶粒の粒界及び/又は隣接するジルコニア結晶粒と酸化アルミニウム結晶粒との粒界に存在することが確認されたことから、二酸化ケイ素が応力負荷時における破壊起点を減少させるか、亀裂の進展を抑制するか、或いは特に立方晶における界面強度を高めるといった働きをすることにより、更なる高強度化が図られたものと思われる。また、本発明のジルコニア複合セラミックスの製造方法における冷却方法を採用することにより高強度化が図られた理由は、所定の温度までは徐冷した後に急冷することにより、焼結体内に亀裂等が発生しないようにすると共に、二酸化ケイ素が急冷されて低密度な二酸化ケイ素ガラスとなり、ジルコニア複合セラミックスに圧縮応力が内在することにより、高強度化が図られたものと思われる。
【0022】
以下、本発明のジルコニア複合セラミックスの製造方法、本発明の浸漬法によるジルコニア複合仮焼結体の製造方法、本発明の事前添加法によるジルコニア複合仮焼結体の製造方法、および歯科用ジルコニアセラミックス補綴物の製造方法について詳しく説明する。
【0023】
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。
【0024】
1.本発明のジルコニア複合セラミックスの製造方法
本発明のジルコニア複合セラミックスの製造方法は、安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアとなる酸化ジルコニウムの仮焼結体からなる主要構造を有し、且つ二酸化ケイ素又はその前駆体を所定量含む複合化ジルコニア仮焼結体を準備し(仮焼結体準備工程)、これを本焼結した(焼結工程)後に、所定の冷却プロファイルに従って冷却する(冷却工程)点に大きな特徴を有する。
以下、上記各工程について詳しく説明する。
【0025】
1-1.仮焼結体準備工程
仮焼結体準備工程では、酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部、酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部、及び二酸化ケイ素又はその前駆体:0.05~5.0質量部(但し、二酸化ケイ素の前駆体の質量部は、二酸化ケイ素換算の質量部を表す。)を含み、且つ前記酸化ジルコニウムの仮焼結体を主要構造として含む、複合化ジルコニア仮焼結体を製造する。
【0026】
仮焼結体準備工程で準備される複合化ジルコニア仮焼結体は、上記の条件を満足するものであれば特に限定されないが、前記「浸漬法」又は前記「事前添加法」により製造されたものであることが好ましい。
【0027】
すなわち、仮焼結体準備工程は、
(A)酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部及び酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部を含むジルコニアベース粉体を含む第一の原料組成物を所定の形状に成形した後に600~1200℃で仮焼結することにより、相対密度が45~65%で外部に向かって開口した細孔を有する微多孔性仮焼結体(以下、「収着用微多孔性仮焼結体」ともいう。)を得る工程(以下、「収着用微多孔性仮焼結体製造工程」ともいう。);及び
酸化ジルコニウム100質量部に対して0.05~5.0質量部の二酸化ケイ素の微粒子を前記工程で得られた微多孔性仮焼結体の細孔内に収着させる工程(以下、「収着工程」ともいう。)を含み、
前記微多孔性仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素の微粒子が収着された複合化ジルコニア仮焼結体を準備するか、又は
(B)酸化ジルコニウム:100質量部、酸化イットリウムからなる安定化剤:4~14質量部及び酸化アルミニウム添加剤:0.005~0.3質量部を含むジルコニアベース粉体と、「動的光散乱法で測定される平均1次粒子径が1~500nmである非晶質二酸化ケイ素粒子」及び/又は「焼結することにより二酸化ケイ素化合物に転化し得るケイ素含有物質からなる二酸化ケイ素源材料」からなる「二酸化ケイ素の前駆体」:0.05~5.0質量部と、が均一に分散している第二の原料組成物を調製する原料組成物調製工程;
前記第二の原料組成物を成形して所定の形状を有する成形体を得る成形工程;並びに
600~1200℃で前記成形体を仮焼結する仮焼結工程;を含み、
前記仮焼結工程で得られた仮焼結体からなる複合化ジルコニア仮焼結体を準備する、ことが好ましい。
【0028】
要するに、前記(A)の「浸漬法」を用いた方法では、ジルコニアベース粉体を含む第一の原料組成物を所定形状に成形した後に仮焼結して収着用微多孔性仮焼結体を得、これに二酸化ケイ素微粒子を収着させることにより、収着用微多孔性仮焼結体と二酸化ケイ素微粒子が複合化した複合化ジルコニア仮焼結体を準備するのに対し、前記(B)「事前添加法」を用いた方法では、ジルコニアベース粉体と「二酸化ケイ素の前駆体」を含む第二の原料組成物を所定形状に成形した後に仮焼結して複合化ジルコニア仮焼結体を準備する。(A)で準備される複合化ジルコニア仮焼結体がジルコニアベース粉体の仮焼結体を基本構造として有することは、その製法から明らかであるが、(B)における仮焼結条件は(A)における仮焼結条件と基本的には同じであり、また、第二の原料組成物に含まれる「二酸化ケイ素の前駆体」の量が少ないことから、(B)で準備される複合化ジルコニア仮焼結体もジルコニアベース粉体の仮焼結体を基本構造として有していると言える。
【0029】
このような共通性に鑑み、上記(A)及び(B)について、先ず、これらに共通する事項について説明すると、前記第一の原料組成物及び第二の原料組成物で使用される前記ジルコニアベース粉体としては、従来のジルコニアミルブランクに使用されるジルコニア原料粉体として使用できるものが特に限定なく使用できる。安定化剤が固溶して正方晶又は正方晶と立方晶との混晶系の結晶性を有する酸化ジルコニウム粒子(安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアからなる粒子)で構成されるものを使用することが好ましく、結晶の相変態が生じにくいという理由及び焼結により粒成長が進みすぎないという理由から、平均結晶子径が0.001μm~50μm、特に0.003μm~20μmであるものを使用することが好ましい。また、粉体の取り扱い易さの観点から、ジルコニアベース粉体における酸化ジルコニウム粉体の平均二次粒子径は0.01~500μm、特に0.05~100μmが好ましい。酸化物結晶の相変態が生じにくいという理由及び焼結により粒成長が進みすぎないという理由から、平均結晶子径は0.001μm~50μm、特に0.003μm~20μmであることが好ましい。
【0030】
また、ジルコニアベース粉体における各成分の酸化ジルコニウム100質量に対する配合量は、酸化イットリウムについては5.5~12質量部であることが好ましく、酸化アルミニウム添加剤については、0.05~0.1質量部であることが好ましい。
【0031】
前記第一の原料組成物及び第二の原料組成物は、顔料を含んでいてもよい。顔料は特に限定されず、公知のものを自由に組み合わせて用いることができ、例えば、酸化エルビウム、酸化コバルト、酸化鉄等が使用できる。また、焼結前は白色であっても、焼結後に着色し顔料として使用可能であるものも使用できる。さらに、その他成分として、バインダー、微細フィラー、遮光剤、蛍光剤等を含むことができる。バインダー成分の添加の有無は、焼結体の成形方法等に応じて適宜選択することができる。バインダー成分を添加する場合、例えばアクリル系バインダーやオレフィン系バインダー、ワックス等を使用することができる。
【0032】
前記(A)及び(B)における各原料組成物の成形は、第一又は第二の原料組成物を所定形状の圧縮成形体又はグリーン体とすることにより好適に行われる。このとき成形方法は、従来のジルコニアミルブランクを製造する際の成形方法と特に変わる点は無く、プレス成形、押出成形、射出成形、鋳込成形、テープ成形、積層造形による成形、粉体造形による成形、光造形による成形等、粉体成形法或いはグリーン体成形法として知られている方法が特に制限なく使用できる。また、多段階的な成形を施してもよい。例えば、原料粉体を一軸プレス成形した後に、さらにCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方圧プレス)処理を施したものでもよい。また、成形工程において、複数種の混合粉末を積層し成形してもよい。
【0033】
成形工程で得られる圧縮成形体又はグリーン体の形状は、目的物の形状に応じて適宜決定すればよいが、たとえばミルブランクを製造する場合には、通常は円盤状のもの(ディスクタイプ)、或いは直方体又は略直方体形状のもの(ブロックタイプ)などが一般的である。
【0034】
仮焼結では、前記成形にて得られた圧縮成形体又はグリーン体を本焼結処理よりも低い温度で焼結することで脱脂処理や仮焼処理を行い、微多孔性仮焼結体を得る。ここで、脱脂処理とは、前記成形にて得られた圧縮成形体又はグリーン体に含まれる水分、溶媒、バインダーなどを揮発除去或いは分解除去する処理を意味し、仮焼処理とは、加熱により金属酸化物の粉体粒子の表面における分子や原子の拡散(凝着、融着)現象を引き起こし、多結晶体に変化させると共に、得られる微多孔質の仮焼結体の強度を取り扱い易く且つ加工しやすい強度まで向上させる処理を意味する。この仮焼結温度は、通常、600℃~1200℃であり、仮焼結温度が600℃より低い場合には、収着工程時に形状を保つことのできる強度が得られない可能性があり、1200℃より高い場合には、微多孔性仮焼結体の密度が高くなり、十分にゾルが浸透できず高強度とならない可能性がある。
【0035】
脱脂及び/又は仮焼処理の方法としては、従来から知られている方法が特に制限されず使用でき、連続的に行っても、多段階的に行ってもよい。また、有機物を効率的に除去するため、酸素を含む空気雰囲気下で行うことが好ましい。なお、脱脂及び/又は仮焼処理は、その前工程である成形工程と同一の装置を用いた方法、例えばSPS(放電プラズマ焼結:Spark Plasma Sintering)法やHP(ホットプレス)法等により、連続的に行うこともできる。
【0036】
前記(A)及び(B)における仮焼結又は仮焼結工程では、複合化ジルコニア仮焼結体に主要構造として含まれる酸化ジルコニウムの仮焼結体、具体的にはジルコニアベース粉体の仮焼結体が形成される。この酸化ジルコニウムの仮焼結体(収着用微多孔性仮焼結体でもある。)自体は、相対密度が45~65%で外部に向かって開口した細孔を有する微多孔性仮焼結体である。(B)では仮焼結される原料(第二の原料組成物)事態に少量の「二酸化ケイ素の前駆体」が含まれているため、微多孔性の程度や相対密度は若干変動するものの収着用微多孔性仮焼結の値と大きく変わるものではない。
【0037】
なお、相対密度とは、理論密度に対する実密度の割合{相対密度=(実密度/理論密度)×100(%)によって求められるもの}であり、仮焼結温度や仮焼結時間を制御することにより調整することができる。相対密度が上記範囲外である場合には、浸漬法によりジルコニア複合仮焼結体を得ることが困難となる。また、このような相対密度となるように仮焼結を行えば、仮焼結体は通常、外部に向かって開口した細孔を有する微多孔性となる。これら細孔の平均細孔径は、通常、50~200nmの範囲内にある。ここで、平均細孔径とは、水銀圧入法、すなわち水銀ポロシメーターによる測定で得られた細孔径5nm~250μmの範囲の細孔容積分布から求めたメディアン径を意味する。
【0038】
また、理論密度は、安定化剤の種類及び含有量並びに酸化アルミニウム添加剤の含有量によって異なり、正方晶ジルコニアの理論密度である6.10g/cm3からこれらの含有量が増えるに従って、僅かに減少する傾向がある。例えば特許文献1の表1には、イットリア、アルミナ配合系のジルコニアの理論密度が示されているので、参考として以下に転載する。
【0039】
【0040】
以上、前記(A)及び(B)に共通する事項について説明したが、(A)と(B)とでは、二酸化ケイ素又はその前駆体との複合化方法が異なる。そこで、その違いとなる(A)の収着工程、(B)の原料組成物調製工程について以下に説明する。
【0041】
(A)の収着工程では、仮焼結で得られた微多孔性仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素の微粒子を酸化ジルコニウム100質量部に対して0.05~5.0質量部収着させる。このとき、微多孔性仮焼結体としては、前記した方法に従って新たに作製したものを用いてもよいが、酸化イットリウムからなる安定化剤及び酸化アルミニウムを、上記範囲を満たして含有し、さらに、アルキメデス法などにより密度測定を行ってその相対密度を確認し、その値が上記範囲内となるジルコニア仮焼結体であれば、市販されている従来のジルコニアミルブランクの被切削部材用をそのまま収着用微多孔性仮焼結体として使用してもよい。
【0042】
収着工程で微多孔性仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素の微粒子を収着させる方法は、前記微多孔性仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素の微粒子が収着される方法であれば特に限定されないが、二酸化ケイ素の微粒子が分散媒中に分散したゾル(以下、「二酸化ケイ素ゾル」ともいう。)に微多孔性仮焼結体を一定時間浸漬させた後、分散媒を除去する方法が好ましい。
【0043】
二酸化ケイ素ゾルとしては、二酸化ケイ素が主成分として分散した液であれば特に限定されないが、当該微多孔性仮焼結体の細孔内に含浸させる観点から、粘度が0.05Pa・s以下の分散媒に二酸化ケイ素微粒子が分散した二酸化ケイ素ゾルが好ましく、特に水又はアルコールを分散媒に用いた二酸化ケイ素ゾルが好ましい。ここで主成分とは、二酸化ケイ素ゾル中に分散する酸化物の全質量に対し80質量%以上を含むものを意味するものとする。
【0044】
前記二酸化ケイ素ゾルにおいて、二酸化ケイ素ゾル中に分散する二酸化ケイ素の濃度は、0.03~0.9質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.05~0.5質量%である。二酸化ケイ素の濃度が0.03質量%より低い場合には、本焼結後に歯科用焼結体として十分な強度が得られない可能性があり、0.9質量%より多い場合には、酸化ジルコニウムとの屈折率差から透明性が低下する可能性や、二酸化ケイ素の強度の低さから歯科用焼結体として十分な強度が得られない可能性、さらに、二酸化ケイ素の凝集等が発生し一次粒子間の微細な細孔まで含浸しない可能性がある。
【0045】
また、二酸化ケイ素ゾル中に主成分として含まれる二酸化ケイ素微粒子は、必然的に微多孔性仮焼結体の細孔内に入り得る大きさである必要があり、その平均1次粒子径は前記微多孔性仮焼結体の、水銀圧入法で測定される平均細孔径より小さいことが好ましく、この条件を満たし且つ2~100nm、特に10~30nmであることが好ましい。二酸化ケイ素微粒子の一次粒子径が2nmより小さい場合には、高分散状態を保つことが難しく収着工程時に凝集する可能性があり、一次粒子径が100nm以上の場合には、前記微多孔性仮焼結体の内部まで二酸化ケイ素微粒子が含浸することができず、歯科用焼結体として十分な強度が得られない可能性がある。
【0046】
なお、二酸化ケイ素微粒子の一次粒子径は、窒素吸着法により決定された値である。すなわち、媒体を乾燥して得られた乾燥粉を窒素吸着法により求められる比表面積Sと二酸化ケイ素の密度に基づき算出される平均粒子径を意味する。
【0047】
二酸化ケイ素ゾルは、二酸化ケイ素微粒子の沈降を防ぐためにバインダー、分散剤、乳化剤、pH調整剤等の添加剤を含んでもよく、添加剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0048】
バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジブチルフタル酸などが挙げられる。
【0049】
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリアクリル酸アンモニウム、アクリル共重合体樹脂、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸、ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、オレイングリセリド、アミン系界面活性剤、オリゴ糖アルコールなどが挙げられる。
【0050】
乳化剤としては、例えば、アルキルエーテル、フェニルエーテル、ソルビタン誘導体、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0051】
pH調整剤としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0052】
さらに、二酸化ケイ素ゾルは、ジルコニアの着色成分や蛍光付与成分を含んでもよい。着色成分としては、鉄イオン、コバルトイオンなどが挙げられ、蛍光付与成分としては、ビスマスイオン、ネオジムイオンなどが挙げられる。
【0053】
二酸化ケイ素ゾルに微多孔性仮焼結体を一定時間浸漬させる方法としては、前記微多孔性仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素ゾルが浸透する方法であれば、特に限定されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れでも構わない。浸漬時間も前記微多孔性仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素ゾルが十分に浸透する時間であれば自由に選択することができる。浸漬温度も前記微多孔性仮焼結体の細孔内に二酸化ケイ素ゾルが十分に浸透する温度であれば自由に選択することができるが、二酸化ケイ素ゾルの分散媒の沸点よりも低い温度であることが好ましい。
【0054】
分散媒を除去する方法としては、二酸化ケイ素ゾルの溶媒を除去できる方法であれば特に限定されないが、微多孔性仮焼結体の形状を維持しつつ、容易に溶媒を除去することが可能である点から、減圧乾燥法及び/又は加熱乾燥法を採用することが好ましい。ここで、減圧乾燥法とは、例えば800ヘクトパスカル以下での減圧下にて分散媒を除去する方法であり、加熱乾燥法とは、室温以上の温度にて分散媒を除去する方法であり、減圧下で加熱することにより、分散媒の沸点よりも低い温度で分散媒の除去(乾燥)を行うことができる。
【0055】
また、乾燥工程と共に再び仮焼処理を行ってもよく、同時に行っても、多段階的に行ってもよい。
【0056】
次に前記(B)の原料組成物調製工程について説明すると、該原料組成物調製工程では、前記ジルコニアベース粉体と動的光散乱法で測定される平均1次粒子径が1~500nmである非晶質二酸化ケイ素粒子及び/又は焼結することにより二酸化ケイ素化合物に転化し得るケイ素含有物質からなる二酸化ケイ素源材料からなる二酸化ケイ素の前駆体:0.05~5.0質量部とが均一に分散している原料組成物を調製する。
【0057】
非晶質二酸化ケイ素粒子を使用する場合は、効果の観点から、動的光散乱法(例えば、測定装置として大塚電子株式会社製ELSZ-2000ZSを用い、分散媒として水を使用)で測定される平均1次粒子径が5~100nm、特に5~50nmである非晶質ナノ二酸化ケイ素粒子であることが好ましい。
【0058】
二酸化ケイ素前駆体として前記ケイ素含有物質を使用する場合の、当該ケイ素含有物質は、焼結することにより二酸化ケイ素化合物に転化し得るものであれば特に限定されず、無機あるいは有機のケイ素化合物が使用できる。焼結することにより二酸化ケイ素化合物に容易に転化し得るという観点から、有機ケイ素化合物を使用することが好ましい。このような有機ケイ素化合物としては、Si―O結合を有し、ケイ素1分子換算の前記有機ケイ素化合物の分子量が500以下である有機ケイ素化合物が好適である。好適に使用できる有機ケイ素化合物を例示すれば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、トリエチルシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、シリコーンオイルなどを挙げることができる。ケイ素含有量が多い点から、テトラエトキシシラン及び/又はテトラメトキシシランを使用することが特に好ましい。
【0059】
また、(B)で得られるジルコニア複合仮焼結体中に含まれる前記非晶質二酸化ケイ素粒子及び/又は前記二酸化ケイ素前駆体(以下、総称して「二酸化ケイ素前駆体等」ともいう。)の含有量は、ジルコニア複合仮焼結体の質量を基準とする二酸化ケイ素換算の質量%で、0.05~5.0質量%である必要があり、より好ましくは、0.09~1.5質量%である。二酸化ケイ素源材料の含有量が二酸化ケイ素換算で0.05質量%より低い場合には、本焼結後に歯科用焼結体として十分な強度が得られない可能性があり、5.0質量%より多い場合には、酸化ジルコニウムとの屈折率差から透明性が低下する可能性や、二酸化ケイ素の強度の低さから歯科用焼結体として十分な強度が得られない可能性がある。
【0060】
ジルコニアベース粉体と前記二酸化ケイ素前駆体等とを混合する方法としては、ジルコニアベース粉体と二酸化ケイ素前駆体等とが均一に分散している原料組成物を調製することができる方法であれば特に限定されないが、分散媒の存在下に前記ジルコニアベース粉体と前記二酸化ケイ素前駆体等と、を混合して前記原料組成物を調製し、得られた分散媒を含む原料組成物から分散媒を除去する湿式調製が好ましい。
【0061】
ジルコニアベース粉体と二酸化ケイ素前駆体等とを混合する方法としては、分散媒中に前記ジルコニアベース粉体が分散したスラリー又は分散液と、有機ケイ素化合物の溶液及び/又は分散媒中に前記ナノ二酸化ケイ素粒子が分散したゾルと、を混合するのがより好ましい。湿式調製で用いる分散媒としては、二酸化ケイ素前駆体等が分散もしくは溶解する溶媒であれば限定されず、例えば、水、エタノール等のアルコール類、アセトン等公知のものが使用可能であるが、安全性及び溶媒除去の容易性の観点から水もしくはアルコール類を使用することが好ましい。さらに、成形工程時に原料組成物の取り扱いが容易であることから、調製時にジルコニアベース粉体の二次粒子を崩さない混合方法がより好ましい。具体的には、湿式下での撹拌、振盪、振動、超音波等による方法が採用できるが、湿式下での撹拌、振盪による混合がより好ましい。
【0062】
分散媒を含む原料組成物から分散媒を除去する方法としては、分散媒が除去できる方法であれば特に限定されないが、溶媒除去にかかる時間の短さや溶媒をほぼ全て除去できるという観点から、減圧乾燥法及び/又は加熱乾燥法を採用することが好ましい。ここで、減圧乾燥法とは、例えば800ヘクトパスカル以下での減圧下にて溶媒を除去する方法であり、加熱乾燥法とは、室温以上の温度にて溶媒を除去する方法であり、減圧下で加熱することにより、有機溶媒の沸点よりも低い温度で有機溶媒の除去(乾燥)を行うことができる。高温下での処理を必要としないと言う観点から、加熱乾燥法を採用する場合でも、適宜減圧乾燥法と併用する等して100℃以下の温度で乾燥させることが好ましい。さらに、スプレードライ等を用いて乾燥と共に造粒を行ってもよい。
【0063】
1-2.焼結工程
焼結工程では、前記仮焼体準備工程で準備された前記複合化ジルコニア仮焼結体を1250~1800℃の温度で焼結する。
【0064】
本焼結は、1300℃以上、1700℃以下で行うのが好ましく、より好ましくは、1400℃以上、1600℃以下である。本焼結の温度が1250℃以下の場合には、十分な焼結密度、透光性、及び強度が得られない可能性があり、焼結温度が1800℃より高い場合には、酸化ジルコニウムの粒成長が進みすぎることにより十分な強度が得られない可能性がある。
【0065】
焼結方法としては、従来から知られている方法が特に制限されず使用でき、焼結温度での保持時間は、30分~4時間が好ましい。
【0066】
1-3.冷却工程
冷却工程は、前記焼結工程で焼結された焼結体を100~900(℃/時間){=1.7~15.0℃/分}の冷却速度で400~900℃の範囲から選ばれる所定の温度である1次冷却温度になるまで冷却する第一冷却工程と、前記第一冷却工程で前記1次冷却温度まで冷却された焼結体を1000~9000(℃/時間){=17.0~150.0℃/分}の冷却速度で50℃以下になるまで冷却する第二冷却工程を含む。
【0067】
(1)第一冷却工程
第一冷却工程では、焼結工程で焼結された焼結体を100~900(℃/時間)の冷却速度で400~900℃の範囲から選ばれる所定の温度である1次冷却温度になるまで冷却する。ここで、冷却速度とは、焼結工程における加熱停止時における焼結体の温度(加熱温度)と1次冷却温度との差(℃)を、焼結工程における加熱を停止してから1次冷却温度に達するまでの時間(時間)で除した、平均冷却速度を意味する。
【0068】
第一冷却の方法は、上記条件が達成される方法であれば特に限定されないが、高温条件であることから安全性等を加味し、焼結炉内にて冷却する方法が好ましい。
【0069】
第一冷却工程における冷却速度は、350~800(℃/時間)が好ましく、より好ましくは、450~750(℃/時間)である。冷却速度が100℃/時間より遅い場合には、焼結体にかかると予想される圧縮応力が熱により除去され十分な強度向上効果が得られない可能性があるだけでなく、冷却に非常に長時間を要する。冷却速度が900℃/時間より速い場合には、第二冷却工程における極端な急冷により焼結体や焼結皿といった各種部材が熱履歴に対応できず破損する恐れがある。
【0070】
また、第一冷却工程における1次冷却温度は、400~750℃が好ましく、より好ましくは、400~550℃である。1次冷却温度が400℃より低い場合には、二酸化ケイ素が低密度な二酸化ケイ素ガラスにならず内在する圧縮応力が不十分なために十分な強度向上効果が得られない可能性があり、1次冷却温度が900℃よりも高い場合には、第二冷却工程における極端な急冷により焼結体や焼結皿といった各種部材が熱履歴に対応できず破損する恐れがある。
【0071】
(2)第二冷却工程
第二冷却工程では、前記第一冷却工程で前記1次冷却温度まで冷却された焼結体を1000~9000(℃/時間)の冷却速度で50℃以下になるまで冷却する。ここで、冷却速度とは、1次冷却温度から50℃を差引いた差(℃)を、1次冷却温度に達してから50℃に達するまでの時間(時間)で除した、平均冷却速度を意味する。
【0072】
第二冷却の方法は、上記条件が達成される方法であれば特に限定されないが、焼結炉内においては焼結炉内の温度が高く冷却速度を速めることが困難であることから、焼結炉外に取り出し、室温大気中で冷却する方法が好ましい。
【0073】
第二冷却工程における冷却速度は、1000~3000(℃/時間)が好ましく、より好ましくは、1200~2500(℃/時間)である。冷却速度が1000℃/時間より遅い場合には、焼結体にかかると予想される圧縮応力が熱により除去され十分な強度向上効果が得られない可能性がある。冷却速度が9000℃/時間より速い場合には、極端な急冷により焼結体や焼結皿といった各種部材が熱履歴に対応できず破損する恐れがある。
【0074】
2.歯科用ジルコニア補綴物の製造方法
本発明の歯科用ジルコニア補綴物の製造方法は、CAD/CAMシステムを用いてジルコニアミルブランクを切削加工してから本焼結する従来のジルコニア補綴物の製造方法において、ジルコニアミルブランクとして「本発明のジルコニア複合セラミックスの製造方法」における仮焼結体準備工程で準備される複合化ジルコニア仮焼結体からなる被切削部を有するものを用い、更に本焼結後の冷却において「本発明のジルコニア複合セラミックスの製造方法」における冷却工程と同様の冷却プロファイルを採用した点に特徴を有する。そして、得られるジルコニア補綴物は、「本発明のジルコニア複合セラミックスの製造方法」によって得られるジルコニア複合セラミックスによって構成されるものとなるため、従来のジルコニア補綴物に比べて高強度のものとなる。例えば、本発明の歯科用ジルコニア補綴物の製造方法によって得られるジルコニア補綴物を構成する材料のJIS T6526:2018に従って測定される二軸曲げ強さは、800~2000MPaと高く、1100~2500MPaとすることも可能である。このため、本発明の歯科用ジルコニア補綴物の製造方法はロングスパンブリッジなど高い強度が必要となる補綴物を製造する方法として好適である。
【0075】
なお、前記複合化ジルコニア仮焼結体からなる被切削加工部を有するジルコニア歯科用ミルブランクは、被切削加工部の材質が前記複合化ジルコニア仮焼結体である点を除き、ジルコニアミルブランクと特に変わる点は無く、例えば被切削部は、円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック状又は板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスク状が好ましく、必要に応じてこれを切削加工機に取り付け可能にするための保持部を有してもよい。また、上記ジルコニアミルブランクをCAD/CAMシステムを用いて切削加工することにより、目的とする歯科用補綴物の形状に対応する形状を有する半製品を得る方法も、従来法と同様にして行うことができる。さらに、得られた半製品は、CAD/CAMシステムを用いて切削加工後、技工エンジン等を用いてさらに形態を修正したり、表面を研磨したりしてもよい。また、必要に応じて、浸透タイプの着色剤や透明化液等を用いて色調の調整を行ってもよい。
【実施例0076】
以下、実施例および比較例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0077】
先ず、各実施例および比較例で用いた原材料及びその略称・略号等について説明する。
【0078】
1.ジルコニアベース粉体
・ZpexSmile:東ソー株式会社製酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム含有量0.05質量%、酸化イットリウム含有量9.3質量%、理論密度:6.050g/cm3
・Zpex4:東ソー株式会社製酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム含有量0.05質量%、酸化イットリウム含有量6.9質量%、理論密度:6.078g/cm3
・Zpex:東ソー株式会社製酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム含有量0.05質量%、酸化イットリウム含有量5.3質量%、理論密度:6.093g/cm3
・TZ-8YSB:東ソー株式会社製酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム含有量0.005質量%以下(検出下限以下)、酸化イットリウム含有量13.74質量%、理論密度:6.011g/cm3。
【0079】
2.二酸化ケイ素ゾル
・LUDOX-LS:シグマアルドリッチ社製二酸化ケイ素ゾル、含有量30質量パーセント、一次粒子径12nm、分散媒水
・LUDOX-SM:シグマアルドリッチ社製二酸化ケイ素ゾル、含有量30質量パーセント、一次粒子径7nm、分散媒水。
【0080】
3.二酸化ケイ素前駆体等
・LUDOX-LS:シグマアルドリッチ社製二酸化ケイ素ゾル、含有量30質量パーセント、一次粒子径12nm、分散媒水
・TEOS:テトラエトキシシランSi(OC2H5)4、東京化成工業株式会社製、ケイ素1分子換算の分子量208g/mol。
【0081】
4.分散媒
・蒸留水:富士フィルム和光純薬株式会社製
・エタノール:富士フィルム和光純薬株式会社製。
【0082】
実施例1(浸漬法により得られた複合化ジルコニア仮焼結体を用いた例)
(1)収着用微多孔性仮焼結体の製造及び評価
ZpexSmile(第一の原料組成物)1.5gを直径20mmのプレス用金型を用いて、最大荷重200MPaで一軸プレスすることにより円盤状の成形体(厚さ:1.45mm)を得た。その後、成形体を、リングファーネスを用いて、1000℃、30分の条件で仮焼結して収着用微多孔性仮焼結体となる微多孔性仮焼結体(厚さ:1.45mm)を得た。得られた円盤状の微多孔性仮焼結体の質量と体積から密度を算出し、これを理論焼結密度で除することにより相対密度を求めたころ、49.8%であった。
【0083】
また、これとは別に、使用する粉体量を6.5gに変更する以外は同様にして厚さ5mmの円盤状の微多孔性仮焼結体を作製後、5mm×5mm×5mmの角柱状に切り出しを行って、平均細孔径測定試料を作製し、平均細孔径を測定したところ、平均細孔径は、103nmであった。なお、平均細孔径は、全自動多機能性水銀ポロシメーター(カンタクローム社製「POREMASTER」)を用い、水銀表面張力を480erg/cm2、接触角を140°、排出接触角を140°、圧力を0~50000psiaで行った。
【0084】
(2)収着工程及び得られた複合化ジルコニア仮焼結体の評価
LUDOX-LS 0.03gとイオン交換水 10mLを混合し二酸化ケイ素ゾルを調製した。収着用微多孔性仮焼結体の製造工程にて得られた収着用微多孔性仮焼結体を調製した二酸化ケイ素ゾルに常温常圧(25℃1気圧)下で浸漬し、1時間静置した後に、二酸化ケイ素ゾルから取り出し、120℃に設定したホットスターラー上で20分間乾燥を行い、複合化ジルコニア仮焼結体を得た。別途同様にして作製した複合化ジルコニア仮焼結体について電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA)分析を行い、その結果に基づいて二酸化ケイ素の含有量を求めたところ、0.24質量%であった。
【0085】
(3)焼結工程、冷却工程及び得られたジルコニア複合セラミックスの評価
得られた複合化ジルコニア仮焼結体を電気炉にて室温から1450℃まで3時間で昇温した後、1450℃で2時間保持後、1次冷却温度である500℃まで600℃/時で、焼結炉内で徐冷し、500℃に達した時点で室温に取り出し1500℃/時で、50℃以下まで急冷することによりジルコニア複合セラミックスを得た。得られたジルコニア複合セラミックスについて、次のようにして二軸曲げ強さ及び透明性を評価したところ、二軸曲げ強さは1065MPaであり、コントラスト比:Yb/Ywは0.648であった。
【0086】
[二軸曲げ強さの評価]
株式会社島津製作所社製の試験機を用い、JIS T6526:2018に従い、クロスヘッド速度1.0mm/min、支持円の直径10mm、圧子直径1.4mmの条件で測定を行った。また、下記式にて二軸曲げ強さを算出した。
δ=-0.2387×P×(X-Y)/b2
X=(1+ν)×ln[(r2/r3)2]+[(1-ν)/2]×(r2/r3)2
Y=(1+ν)×[1+{ln(r1/r3)2}]+(1-ν)×(r1/r3)2
δ[MPa]:2軸曲げ強さ
P[N]:試験力
b[mm]:試験片厚さ
ν:ポアソン比(0.31)
r1[mm]:支持円半径
r2[mm]:圧子半径
r3[mm]:試験片半径。
【0087】
[透明性評価]
本焼結体を耐水研磨紙#800、#1500、#3000を用いて研磨して1mm厚とし、その後、ポーセレン・ハイブリットレジン・ジルコニア用研磨材であるスーパースターV(日本歯科工業社製)を用いて両面を鏡面研磨して透明性評価用サンプルとした。透明性は、上記サンプルについて分光光度計(東京電色製、分光型測色計「TC-1800MKII」)を用いて、背景色黒、背景色白で分光反射率を測定し、背景色黒におけるY値(Yb)を背景色白におけるY値(Yw)で除したコントラスト比:Yb/Ywで評価した。なお、Yb/Ywが小さいほど透明となる。
【0088】
実施例2~7及び比較例1~4
ジルコニアベース粉体の種類、二酸化ケイ素ゾルの種類と配合量及び冷却条件を表2及び表3に示すように変える他は実施例1と同様にして微多孔性仮焼結体、複合化ジルコニア仮焼結体及びジルコニア複合セラミックスを製造し、実施例と同様にして評価を行った。評価結果を表5に示す。なお、表2及び3中の「↑」は「同上」を意味し、「1次冷却工程」おける「冷却温度」は「1次冷却温度」を意味する。
【0089】
実施例8(事前添加法により得られた複合化ジルコニア仮焼結体を用いた例)
(1)複合化ジルコニア仮焼結体の製造及び評価
ZpexSmile 30gと蒸留水 150gを秤量後、LUDOX―LS 0.2gを添加し、10分撹拌子を用いて混合した。その後、エバポレーターを用い、50℃にて減圧することで水を除去し、原料組成物粉体(第二の原料組成物)を得た。
【0090】
得られた原料組成物粉体1.5gを直径20mmのプレス用金型を用いて、最大荷重200MPaで一軸プレスすることにより円盤状の成形体(厚さ:1.45mm)を得た。その後、成形体を、リングファーネスを用いて、1000℃、30分の条件で仮焼結して複合化ジルコニア仮焼結体(厚さ:1.45mm)を得た。別途同様にして作製した複合化ジルコニア仮焼結について蛍光X線分析装置(XRF)分析を行い、その結果に基づいて二酸化ケイ素換算の二酸化ケイ素源材料の含有量を求めたところ、0.21質量%であった。
【0091】
(2)焼結工程、冷却工程及び得られたジルコニア複合セラミックスの評価
得られた複合化ジルコニア仮焼結体を実施例1と同様にして焼結し、ジルコニア複合セラミックスを得た。得られたジルコニア複合セラミックスについて、二軸曲げ強さを評価したところ、二軸曲げ強さは1044MPaであった。
【0092】
実施例9~10及び比較例5~7
ジルコニアベース粉体の種類、二酸化ケイ素前駆体の種類と配合量、分散媒の種類及び冷却条件を表6及び表7に示すように変える他は実施例8と同様にして複合化ジルコニア仮焼結体及びジルコニア複合セラミックスを製造し、実施例8と同様にして評価を行った。評価結果を表8に示す。
【0093】
実施例1~10の結果から理解されるように、本発明で規定する条件を満たす方法にてジルコニア複合セラミックスを製造した場合に、高い強度を有する焼結体が得られ、同量の酸化イットリウムからなる安定化剤及び酸化アルミニウム添加剤を含む従来のジルコニア焼結体と比較し二軸曲げ強さの強度向上率が15%以上であることが分かる。これに対し、1次冷却温度が規定する下限未満である比較例1、2、5及び、一次冷却工程の冷却速度が規定する下限未満である比較例3は、本焼結体の二軸曲げ強さが、同量の酸化イットリウムからなる安定化剤及び酸化アルミニウム添加剤を含む従来のジルコニア焼結体と比較し僅かに強度が向上する傾向は見られるが、強度向上率が15%未満である。また、酸化アルミニウムの含有量が本発明で規定する下限値未満である比較例4では、二軸曲げ強さの向上が見られない。さらに、二酸化ケイ素の含有量が本発明で規定する上限値より多い比較例6では、二酸化ケイ素が脆弱層となるため二軸曲げ強さが低下し、一方で二酸化ケイ素の含有量が本発明で規定する下限値未満である比較例7では、二酸化ケイ素の含有量が少ないために、十分な強度向上効果が得られなかった。
【0094】
参考例1~5(二酸化ケイ素成分と複合化していない従来の仮焼結体を用いて従来のジルコニア焼結体を製造した例)
参考例1では、二酸化ケイ素ゾルの代わりに二酸化ケイ素を含まないイオン交換水10mLを用いて浸漬を行う他は実施例1と同様にして複合化ジルコニア仮焼結体及びジルコニア複合セラミックスを得た。また参考例2~5では、ジルコニアベース粉体の種類及び冷却条件を表4に示すように変える他は参考例1と同様にして複合化ジルコニア仮焼結体及びジルコニア複合セラミックスを製造した。なお、ジルコニアベース粉体、仮焼結条件及び本焼結条件、冷却条件については、参考例1は実施例1と、参考例2は比較例2と同じであり、参考例3及び4は、夫々実施例6及び7と同じである。得られた複合化ジルコニア仮焼結体及びジルコニア複合セラミックスの評価結果を表5に示す。
【0095】
表5に示されるように、実施例1及び実施例6、7で得られた本焼結体の二軸曲げ強さはいずれも15%以上向上している。また、参考例1と2の比較から明らかなように、二酸化ケイ素を含まない場合には、本発明の冷却条件を用いた場合にも、二軸曲げ強さ向上は見られない。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】