(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163323
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】液化ガスタンク
(51)【国際特許分類】
B65D 90/00 20060101AFI20231102BHJP
F17C 13/00 20060101ALI20231102BHJP
B66C 11/06 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B65D90/00 Z
F17C13/00 302E
B66C11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074156
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】池崎 明博
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
3F203
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AB29
3E170GB06
3E170RA02
3E170RA20
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB11
3E172AB15
3E172AB20
3E172BA06
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD05
3E172EB10
3E172KA03
3E172KA11
3F203DA08
(57)【要約】
【課題】タンク内から液化ガスの払い出し用のポンプを取り出す際に、ポンプバレル内への空気の混入を防止する。
【解決手段】液化ガスタンク1は、液化ガスを貯留するタンク本体10と、タンク本体10を上下方向に貫通するポンプバレル2と、タンク本体10内に設置され、タンク本体10内に貯留された液化ガスを、ポンプバレル2を通して払い出すポンプ3と、ポンプバレル2のバレル開口2Hを覆うように、タンク屋根11の上に設置されたチャンバー4と、チャンバー4内に設置され、ポンプバレル2を通してチャンバー内空間4Aへポンプ3を吊り上げる吊り上げ装置5と、チャンバー内空間4Aを、少なくとも貯留する液化ガスのガス環境若しくは不活性ガス環境に置換するガス置換装置6と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯留するタンク本体と、
前記タンク本体を上下方向に貫通するポンプバレルと、
前記タンク本体内に設置され、前記タンク本体内に貯留された前記液化ガスを、前記ポンプバレルを通して払い出すポンプと、
前記ポンプバレルの上端のバレル開口を覆うように、前記タンク本体の外部に設置されたチャンバーと、
前記タンク本体の外部に設置され、前記ポンプバレルを通して前記チャンバー内へ前記ポンプを吊り上げる吊り上げ装置と、
前記チャンバー内を、少なくとも貯留する液化ガスのガス環境若しくは不活性ガス環境に置換するガス置換装置と、
を備える液化ガスタンク。
【請求項2】
請求項1に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記チャンバーは、前記タンク本体の外周よりも径方向外側に突出した突出部を含み、
前記突出部は、前記ポンプを前記チャンバー内から外部に搬出若しくは外部から前記チャンバー内に搬入するためのポンプ搬入出口を備える、液化ガスタンク。
【請求項3】
請求項1に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記チャンバー内に設置され、前記タンク本体内から吊り上げられた前記ポンプが一時的に保持されるポンプ仮置き部をさらに備える、液化ガスタンク。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記チャンバーは、前記タンク本体の屋根上に設置され、
前記チャンバーにおける前記タンク本体の中心側の側壁又は前記タンク本体の径方向に沿った側壁から、当該チャンバー内へのアクセスを可能とする入口部を備える、液化ガスタンク。
【請求項5】
請求項4に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記入口部と前記チャンバーとの間に設置される予備室をさらに備える、液化ガスタンク。
【請求項6】
請求項5に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ガス置換装置は、前記予備室内を、少なくとも不活性ガス環境若しくは大気環境に相互置換する、液化ガスタンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低温の液化ガスを貯留する液化ガスタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液化水素や液化天然ガスなどの液化ガスを貯留する液化ガスタンクには、タンク内の液化ガスの払い出し用のポンプを付設する必要がある。タンク屋根を通して液化ガスの払い出しを行う場合、ポンプはタンク内に設置され、タンク屋根を貫通する筒状のポンプバレルを通して液化ガスを外部に送り出す(例えば特許文献1)。
【0003】
ポンプのメンテナンス作業等のため、当該ポンプのタンク内からの取り出しが必要となる場合がある。この場合、ポンプはポンプバレルを通して吊り上げられ、ポンプバレル上端のバレル開口からポンプが取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バレル開口からのポンプの取り出しの際、ポンプバレルを通してタンク内に空気を混入させないことが望ましい。とりわけ、タンク内に貯留された液化ガスが極低温の液化水素である場合、バレル開口からバレル内に進入した空気を液化または固化させることから、安全面を含め種々の問題が生じる。
【0006】
本開示の目的は、タンク内から液化ガスの払い出し用のポンプを取り出す際に、ポンプバレル内への空気の混入を防止できる液化ガスタンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面に係る液化ガスタンクは、液化ガスを貯留するタンク本体と、前記タンク本体を上下方向に貫通するポンプバレルと、前記タンク本体内に設置され、前記タンク本体内に貯留された前記液化ガスを、前記ポンプバレルを通して払い出すポンプと、前記ポンプバレルの上端のバレル開口を覆うように、前記タンク本体の外部に設置されたチャンバーと、前記タンク本体の外部に設置され、前記ポンプバレルを通して前記チャンバー内へ前記ポンプを吊り上げる吊り上げ装置と、前記チャンバー内を、少なくとも貯留する液化ガスのガス環境若しくは不活性ガス環境に置換するガス置換装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、タンク内から液化ガスの払い出し用のポンプを取り出す際に、ポンプバレル内への空気の混入を防止可能な液化ガスタンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示に係る液化ガスタンクの構造の概略図であって、タンク本体部分を断面で表した図である。
【
図2】
図2は、タンク本体の外部に設置されるチャンバーの内部を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、本開示の実施形態に係る液化ガスタンクを詳細に説明する。本開示の液化ガスタンクは、低温の液化ガスを貯留するタンクである。貯留される液化ガスは、例えば液化水素、液体ヘリウム、液体窒素、液化天然ガス、液化石油ガス又は液化アンモニア等である。とりわけ、本開示に係る液化ガスタンクは、液化水素を貯留するタンクとして好適である。
【0011】
[タンクの全体構造]
図1は、本開示に係る液化ガスタンク1の構造を示す概略図である。液化ガスタンク1は、極低温の液化水素LHを貯留するタンクであって、地上据え置き式の多重殻構造を備えた平底タンクである。液化ガスタンク1は、液化水素LHを貯留するタンク本体10と、液化水素LHをタンク本体10から払い出すための構造体であるポンプバレル2と、タンク本体10内において液化水素LHに浸漬された状態で設置される潜没式のポンプ3と、タンク本体10の外部に設置されるチャンバー4と、を備える。
図1では、タンク本体10の部分を断面で示している。
【0012】
タンク本体10は、液化水素LHを貯留する貯留空間を有する。
図1では簡略化して単殻構造を示しているが、実際のタンク本体10は、二重殻構造又は三重殻構造などの多重殻構造を備えている。二重殻構造の場合、タンク本体10は、基礎の上に立設される外槽と、この外槽に内包される内槽と、外槽と内槽との間の保冷層とで構成される。液化水素LHは、前記内槽の内部に貯留される。前記保冷層には、例えば粒状パーライトのような粉体断熱材と低沸点ガスとが充填される。三重殻構造の場合、タンク本体10は、前記外槽と前記内槽との間にさらに中間槽を備える構造となる。この他、タンク本体10は、平底以外の形状を備えるタンク、あるいは地中埋め込み式のタンク等であっても良い。
【0013】
ポンプバレル2は、タンク本体10を上下方向に貫通するように設置された円筒体であって、タンク本体10内の液化水素LHを外部へ払い出す際の導出管となる。ポンプバレル2は、液化水素LHが流通する内部空間であるバレル内空間2Aと、タンク本体10の底板付近に配置され液化水素LH内に没入される下端部21と、タンク屋根11を貫通して上方に延びる上端部22とを備える。上端部22の一部は、チャンバー4内に入り込んでいる。バレル内空間2Aは、下端部21と上端部22との間において鉛直方向に延び、ポンプ3を通過させ得る内径を有している。
【0014】
ポンプ3は、下端部21付近のバレル内空間2Aに収容されている。ポンプバレル2の下端部21の取り入れ開口には、フート弁23が取り付けられている。ポンプ3はフート弁23の上に載置された状態で配置され、ポンプ3の自重によってフート弁23が垂下することで、下端部21の前記取り入れ開口が開放された状態となる。ポンプ3は、タンク本体10内の液化水素LHを取り込み、圧力を上げてバレル内空間2Aへ液化水素LHを送り出す。
【0015】
ポンプバレル2の上端部22付近には、払い出しポート24が突設されている。チャンバー4に収容されているポンプバレル2の上端には、バレル内空間2Aと外部空間とを連通させるバレル開口2Hが設けられている。液化ガスタンク1の運用時、バレル開口2Hはヘッドプレート25で封止される。ポンプ3の稼働により、バレル内空間2Aから払い出しポート24を通して、液化水素LHが払い出される。
【0016】
一方、ポンプ3のメンテナンス作業時等において、ヘッドプレート25が外され、バレル開口2Hが開放される。ポンプ3は、ポンプバレル2を通して吊り上げられ、バレル開口2Hから取り出される。フート弁23は、上記の吊り上げによってポンプ3の重量が加わらなくなると上昇し、下端部21の前記取り入れ開口を封止する。メンテナンス作業を終えると、バレル開口2Hからポンプバレル2を通してポンプ3が吊り降ろされ、フート弁23の上に据え付けられる。その後、バレル開口2Hはヘッドプレート25で封止される。
【0017】
チャンバー4は、ポンプバレル2がタンク本体10を貫通する位置において、タンク屋根11上に設置されている。チャンバー4は、ポンプバレル2の上端の、ヘッドプレート25で封止された状態にあるバレル開口2Hを覆うように設置される。なお、バレル開口2Hを「覆う」とは、例えば、バレル開口2Hの開口面積よりも大きな断面積を持つ空間で、当該バレル開口2Hを取り囲むことを企図している。本実施形態では、バレル開口2Hの上方、側方および下方が、チャンバー4で囲われた密閉空間であるチャンバー内空間4A内に位置するように、チャンバー4が設置されている例を示している。
【0018】
上述の通り、メンテナンス作業時等に、タンク本体10内に据え付けられているポンプ3を取り出すに当たり、バレル開口2Hを開放する必要がある。この際、ポンプバレル2内に空気が混入し得る。本実施形態では、タンク本体10は液化水素LHを貯留しているので、ポンプバレル2内に進入した空気(窒素および酸素)を液化または固化させ、安全面を含め種々の問題を惹起する。そこで、本実施形態では、タンク本体10内からポンプ3を取り出す際に、ポンプバレル2内への空気の混入を防止できるようチャンバー4を設置している。チャンバー4の設置により、メンテナンス作業時等にヘッドプレート25が外された場合でも、バレル開口2Hを通してバレル内空間2Aと大気とを直接的に連通させず、両者間にチャンバー内空間4Aを介在させることができる。以下、チャンバー4の詳細構造を説明する。
【0019】
[チャンバーの詳細構造]
図2は、チャンバー4の内部構造を概略的に示す図である。チャンバー4は、チャンバー本体41、予備室42、開閉扉43(入口部)、内扉44、ポンプ搬入出口45およびポンプ仮置き部46を含む。チャンバー4内には、ポンプ3を吊り上げる吊り上げ装置5が配置されている。また、チャンバー4に対して不活性ガスを供給可能なガス置換装置6が付設されている。
【0020】
チャンバー4は、タンク屋根11の上に設置されたデッキ40の上に組み立てられている。デッキ40は、タンク屋根11上においてポンプバレル2の上端部22を取り囲むように設置されている。デッキ40は、タンク屋根11上に立設されチャンバー4を下支えする支柱となる縦フレーム401と、縦フレーム401で支持される横フレーム402とを含む。横フレーム402は、バレル開口2Hよりも低い位置に設置され、チャンバー4の底面を支持している。
【0021】
チャンバー本体41は、置換ガスの入排気のための開口を除いて閉じた空間とされるチャンバー内空間4Aを区画する。チャンバー本体41の形状については、バレル開口2Hを覆うように設置され且つ作業のための空間が確保できる限りにおいて制限はなく、例えば直方体状、扇形状、円筒状、半月状、切妻屋根状の形状に設定できる。
図2では、直方体状のチャンバー本体41を例示しており、当該チャンバー本体41は、天壁411、内側壁412、外側壁413、底壁414および径方向側壁415を含む。
【0022】
天壁411はチャンバー本体41の天井面を区画し、底壁414はチャンバー本体41の底面を区画している。底壁414を貫通して、ポンプバレル2の上端部22がチャンバー内空間4Aに入り込んでいる。
図2では、ヘッドプレート25が開放され、ポンプバレル2のバレル開口2Hがチャンバー内空間4Aにおいて開口している状態が示されている。底板414の下方においてポンプバレル2には、伸縮管26が外嵌されている。伸縮管26の上端は底板414に、下端はポンプバレル2の外周に、それぞれ気密に取り付けられている。タンク本体10は、熱収縮によりタンク中心に向かう方向に伸縮するため、常設のチャンバー4に対して相対変位が生じる。伸縮管26は、前記相対変位の吸収と、チャンバー内空間4Aの気密性確保のために配設されている。なお、伸縮管26を底板414の上方側、すなわちチャンバー内空間4Aに配置する態様としても良い。内側壁412は、タンク本体10の中心側の側壁である。外側壁413は、タンク本体10の径方向外側の側壁である。径方向側壁415は、タンク本体10の径方向に沿った側壁であって、内側壁412および外側壁413の端縁同士を繋いでいる。
【0023】
チャンバー本体41は、タンク本体10の外周、つまりタンク本体10の側壁よりも径方向外側に突出した突出部41Tを有する。突出部41Tは、タンク本体10から吊り上げたポンプ3の搬出を容易とするために設けられている。突出部41Tの支持のため、横フレーム402はタンク本体10の外周よりも径方向外側に延出している。外側壁413は、タンク本体10の側壁よりも径方向外側に位置している。
【0024】
チャンバー本体41の側壁には、入気孔416および排気孔417が備えられている。本実施形態では、入気孔416が内側壁412に、排気孔417が外側壁413に、各々設けられている例を示す。これに代えて、天壁411、外側壁413若しくは径方向側壁415を利用して、入気孔416および排気孔417を設けても良い。入気孔416は、チャンバー4のチャンバー内空間4Aに置換ガスを取り入れるための開口である。排気孔417は、チャンバー内空間4Aから置換ガスを排気するための開口である。
【0025】
予備室42は、チャンバー本体41の内側壁412に隣接して設置され、予備室内空間4Bを区画している。予備室42の側壁には、開閉扉43が設置されている。さらに、内側壁412には内扉44が設置されている。開閉扉43および内扉44は、作業員のチャンバー本体41内へのアクセスを可能とする入口部である。予備室42は、開閉扉43とチャンバー本体41との間に配置され、チャンバー内空間4Aの環境とタンク外の大気環境とが直接的に連通し難い構造とするために設けられている。メンテナンス時等において作業員は、開閉扉43を開けて予備室内空間4Bに入り、開閉扉43を閉じた後に内扉44を開けてチャンバー本体41のチャンバー内空間4Aに入る。予備室42には、予備室内空間4Bの環境を所定の置換ガス環境に置換するための予備室入気孔421および予備室排気孔422が備えられている。
【0026】
ポンプ搬入出口45は、チャンバー4に対するポンプ3の搬入出に用いられる開口部である。ポンプ搬入出口45は、突出部41Tにおいてチャンバー本体41の底壁414に開設されている。ポンプ搬入出口45は、ポンプ3をチャンバー内空間4Aから外部に搬出する、若しくは外部からチャンバー内空間4Aへポンプ3を搬入する際に用いられる。ポンプ搬入出口45には、常時閉とされる扉であって、ポンプ3の搬入出時に開放される扉が付設されている。
【0027】
ポンプ仮置き部46は、チャンバー本体41内に設置され、タンク本体10内から吊り上げられたポンプ3が一時的に保持される保管部である。本実施形態では、ポンプ仮置き部46は、底壁414に組み付けられ、ポンプ3を収容可能な小チャンバーの形態を例示している。吊り上げられたポンプ3は、ポンプ搬入出口45から搬出する前に、ポンプ仮置き部46内に一時的に留め置かれる。この間に、当該ポンプ3内に残存している液化水素LHをパージすることが可能となる。前記パージの促進のため、ポンプ仮置き部46には、不活性ガスの入気孔および排気孔を設けることが望ましい。なお、ポンプ仮置き部46は、小チャンバーの形態ではなく、チャンバー本体41内の適所に設置された仮保管スペースであっても良い。
【0028】
吊り上げ装置5は、チャンバー本体41内の天壁411付近に設置されている。吊り上げ装置5は、タンク本体10の外部に設置されていれば良く、チャンバー本体41の外側、例えば天壁411の上方に設置されていても良い。吊り上げ装置5は、ポンプバレル2を通して、メンテナンスを要するポンプ3をチャンバー内空間4Aへ吊り上げる。また、吊り上げ装置5は、メンテナンス後のポンプ3若しくは新たなポンプ3を、ポンプバレル2を通してタンク本体10内に吊り下げる。さらに、吊り上げ装置5は、ポンプ搬入出口45を通してのポンプ3の吊り上げ、並びに吊り下げを行う。
【0029】
吊り上げ装置5は、軸回りに正転および反転するドラム51と、ドラム51に巻回された吊りワイヤ52とを含む。ドラム51の正転により吊りワイヤ52が繰り出され、ドラム51の反転により吊りワイヤ52が巻き取られる。ポンプ3の吊り上げ時、吊りワイヤ52はバレル開口2Hを通してバレル内空間2Aに垂下され、吊りワイヤ52の先端はポンプ3に連結される。
【0030】
吊り上げ装置5は、ポンプバレル2の鉛直上方とポンプ搬入出口45の鉛直上方とを移動可能に設置される。チャンバー本体41の天壁411付近には、水平方向に延びるホイストレール53が架設されている。ホイストレール53は、内側壁412と突出部41Tの外側壁413との間において、バレル開口2Hの上方位置からポンプ搬入出口45の上方位置まで延びている。ホイストレール53には、ドラム51を保持する移動コロ54が係合されている。これによりドラム51は、バレル開口2Hの上空からポンプ搬入出口45の上空まで、ホイストレール53に沿って水平方向に移動が可能である。この移動の経路上に、ポンプ仮置き部46も配置されている。
【0031】
ガス置換装置6は、チャンバー内空間4Aおよび予備室内空間4Bを、空気環境から所定の置換ガス環境に置換する設備である。置換ガス環境は、少なくともタンク本体10に貯留している液化ガスのガス環境、本実施形態では液化水素LHの気化ガスである水素ガス環境、或いは不活性ガス環境である。不活性ガスとしては、ヘリウムなどの希ガス類や窒素ガスを例示できる。
【0032】
ガス置換装置6は、置換ガスの供給源、送気ポンプ、流量調整バルブなどを含む。ガス置換装置6の主送気管61がチャンバー本体41の入気孔416に、予備室用送気管62が予備室入気孔421に、それぞれ接続されている。ポンプ3のメンテナンス時には、ガス置換装置6から主送気管61を通して、水素ガスまたはヘリウムガスがチャンバー内空間4Aに供給される。供給前にチャンバー内空間4Aに存在していた空気は、排気孔417から外部に排出される。これにより、ポンプ3の吊り上げのためポンプバレル2のヘッドプレート25を開放しても、バレル開口2Hからバレル内空間2Aへの空気の進入を未然に防止できる。
【0033】
なお、ヘリウムガスに代えて窒素ガスをチャンバー内空間4Aに供給しても良い。この場合、窒素ガスがバレル内空間2Aに進入しない対策を施す。例えば、バレル内空間2Aの圧力よりもチャンバー内空間4Aの圧力を小さく設定する圧力調整を行う。前記圧力調製に基づく圧力差により、チャンバー内空間4Aに充填される窒素ガスのバレル内空間2Aへの進入を防止できる。
【0034】
また、メンテナンス時には、ガス置換装置6から予備室用送気管62を通して、窒素ガス等の不活性ガスが予備室内空間4Bに供給される。供給前に予備室内空間4Bに存在していた空気は、予備室排気孔422から外部に排出される。これにより、内扉44が開放されてチャンバー内空間4Aの密閉性が解除されても、空気がチャンバー内空間4Aに入らないようにすることができる。窒素ガスに代えて、水素ガスまたはヘリウムガスを予備室内空間4Bに供給しても良い。
【0035】
[ポンプ取出作業]
続いて、例えばメンテナンス作業においてポンプ3を取り出す際に、チャンバー4で実行される作業の一例を簡単に説明する。先ず、ガス置換装置6を稼働させ、チャンバー内空間4Aおよび予備室内空間4Bに、上述したような所定の置換ガスを供給する。置換ガスは、メンテナンス作業中は連続供給として、チャンバー内空間4Aおよび予備室内空間4Bの換気を継続することが望ましい。作業員は開閉扉43から入室する際、酸素ボンベを装備する。
【0036】
作業者は、ヘッドプレート25を取り外してバレル開口2Hを開放し、ヘッドプレート25の近傍においてポンプバレル2内に格納されている吊りワイヤ52を取り出す。当該吊りワイヤ52の一端部が、吊り上げ装置5に取り付けられる。なお、吊りワイヤ52の一端部の他端部は、予めポンプ3に取り付けられている。続いて作業者は、吊り上げ装置5を操作して、吊りワイヤ52をドラム51に巻き取らせる。この作業により、ポンプバレル2の下端部21に据え付けられていたポンプ3は、バレル内空間2Aを通してチャンバー内空間4Aに吊り上げられる。その後、ヘッドプレート25でバレル開口2Hが閉じられる。
【0037】
次に作業者は、ホイスト駆動装置を操作して、ポンプ3を吊った状態のドラム51をホイストレール53に沿って移動させ、ポンプ仮置き部46の上空へ位置させる。そして、ポンプ3を下降させ、ポンプ仮置き部46にポンプ3を収納する。所定のパージ時間だけポンプ3をポンプ仮置き部46内で保持させた後、ドラム51に吊りワイヤ52の巻き取り動作を行わせて再びポンプ3を吊り上げる。続いて、ドラム51をポンプ搬入出口45の上空まで、ホイストレール53に沿って移動させる。
【0038】
その後、ポンプ搬入出口45が開かれる。そして、ポンプを吊りワイヤ52をドラム51から繰り出して吊られたポンプ3を下降させ、
図2の点線部分で示すように、ポンプ搬入出口45からポンプ3をチャンバー本体41の外部に搬出する。ポンプ搬入出口45は突出部41Tに開設されているので、そのままポンプ3を単に下降させるだけで、地上若しくは回収車の荷台にポンプ3を接面させることができる。下降が済んだら、ポンプ3から吊りワイヤ52が外され、ポンプ3が回収される。メンテナンス後のポンプ3、若しくは新たなポンプ3をタンク本体10内に据え付ける場合は、上記と逆の作業が行われる。
【0039】
以上説明した、本実施形態に係る液化ガスタンク1によれば、バレル開口2Hを覆うように設置されたチャンバー4のチャンバー内空間4Aが、ガス置換装置6によって、貯留している液化水素に対応する水素ガス環境若しくは不活性ガス環境に置換可能である。また、吊り上げ装置5は、ポンプバレル2を通してチャンバー内空間4Aへポンプ3を吊り上げる。このため、バレル開口2Hが空気に曝されない状態で、タンク本体10内のポンプ3をタンク本体10の外部へ取り出すことができる。従って、タンク本体10の周囲に存在する空気のポンプバレル2内への混入を防止できる。
【0040】
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を取ることができる。
【0041】
(1)チャンバー4をシンプル化するべく、予備室42やポンプ仮置き部46の設置を省くようにしても良い。逆に、予備室42を二段構えとし、一方の予備室を空気から窒素ガスに置換する空間、チャンバー本体41に近い他方の予備室を窒素ガスから水素ガス又はヘリウムガスに置換する空間として用いる態様としても良い。
【0042】
(2)上記実施形態では、吊り上げたポンプ3をホイストレール53に沿って移動させる態様を例示した。これに代えて、ポンプバレル2を通したポンプ3の昇降用の第1吊り上げ装置と、ポンプ搬入出口45を通したポンプ3の昇降用の第2吊り上げ装置とをチャンバー本体41に設置し、両装置間のポンプ3の移動を、移動台車または搬送ロボット等の搬送装置に行わせるようにしても良い。
【0043】
(3)上記実施形態では、チャンバー本体41に突出部41Tを設け、この突出部41Tの底壁414にポンプ搬入出口45を開設する例を示した。突出部41Tを設けずに、径方向側壁415或いは天壁411などにポンプ3の搬出用の開口を設け、外部に設置したクレーン等でポンプ3を地上に降ろすようにしても良い。
【0044】
[本開示のまとめ]
以上説明した具体的実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0045】
本開示の第1の態様に係る液化ガスタンクは、液化ガスを貯留するタンク本体と、前記タンク本体を上下方向に貫通するポンプバレルと、前記タンク本体内に設置され、前記タンク本体内に貯留された前記液化ガスを、前記ポンプバレルを通して払い出すポンプと、前記ポンプバレルの上端のバレル開口を覆うように、前記タンク本体の外部に設置されたチャンバーと、前記タンク本体の外部に設置され、前記ポンプバレルを通して前記チャンバー内へ前記ポンプを吊り上げる吊り上げ装置と、前記チャンバー内を、少なくとも貯留する液化ガスのガス環境若しくは不活性ガス環境に置換するガス置換装置と、を備える。
【0046】
この液化ガスタンクによれば、バレル開口を覆うように設置されたチャンバーの内部が、ガス置換装置により貯留する液化ガスのガス環境若しくは不活性ガス環境に置換可能である。また、吊り上げ装置は、ポンプバレルを通してチャンバー内へ前記ポンプを吊り上げる。このため、バレル開口が空気に曝されない状態で、タンク本体内のポンプをタンク本体の外部へ取り出すことが可能となる。従って、タンク本体の周囲に存在する空気のポンプバレル内への混入を防止できる。
【0047】
第2の態様に係る液化ガスタンクは、第1の態様の液化ガスタンクにおいて、前記チャンバーは、前記タンク本体の外周よりも径方向外側に突出した突出部を含み、前記突出部は、前記ポンプを前記チャンバー内から外部に搬出若しくは外部から前記チャンバー内に搬入するためのポンプ搬入出口を備える。
【0048】
第2の態様によれば、ポンプ搬入出口を通して、タンク本体内から吊り上げたポンプをチャンバーから外部に搬出する、或いは、新たなポンプ乃至はメンテナンス後のポンプを外部からチャンバー内に搬入することができる。また、ポンプ搬入出口はチャンバーの突出部に設けられているので、単純な昇降装置で、チャンバーに対するポンプの搬入出を行わせることができる。
【0049】
第3の態様に係る液化ガスタンクは、第1または第2の態様の液化ガスタンクにおいて、前記チャンバー内に設置され、前記タンク本体内から吊り上げられた前記ポンプが一時的に保持されるポンプ仮置き部をさらに備える。
【0050】
第3の態様によれば、ポンプ仮置き部を利用して、吊り上げたポンプをチャンバー内に一時的に留め置くことができる。このため、例えばポンプ仮置き部へのポンプの仮置き中に、当該ポンプ内に残存している液化ガスをパージすることが可能となる。
【0051】
第4の態様に係る液化ガスタンクは、第1から第3の態様のいずれかの液化ガスタンクにおいて、前記チャンバーは、前記タンク本体の屋根上に設置され、前記チャンバーにおける前記タンク本体の中心側の側壁又は前記タンク本体の径方向に沿った側壁から、当該チャンバー内へのアクセスを可能とする入口部を備える。
【0052】
第4の態様によれば、タンク本体の中心側の側壁又は径方向に沿った側壁に入口部が設けられる、このため作業員等は、タンク本体の屋根から入口部を通して、容易にチャンバー内に出入りすることができる。
【0053】
第5の態様に係る液化ガスタンクは、第4の態様の液化ガスタンクにおいて、前記入口部と前記チャンバーとの間に設置される予備室をさらに備える。
【0054】
第5の態様によれば、予備室の介在により、チャンバー内空間と大気とが入口部の開閉の際に直接的に連通し難い構造とすることができる。従って、チャンバー内への空気の進入を規制し易い。
【0055】
第6の態様に係る液化ガスタンクは、第5の態様の液化ガスタンクにおいて、前記ガス置換装置は、前記予備室内を、少なくとも不活性ガス環境若しくは大気環境に相互置換する。
【0056】
第6の態様によれば、例えば入口部が開放される前に予め予備室を不活性ガス環境に置換でき、予備室からチャンバー内への空気の流れ込みを抑止できる。
【符号の説明】
【0057】
LH 液体水素(液化ガス)
1 液化ガスタンク
10 タンク本体
2 ポンプバレル
2A バレル内空間
2H バレル開口
3 ポンプ
4 チャンバー
4A チャンバー内空間
4B 予備室内空間
41 チャンバー本体(チャンバー)
41T 突出部
412 内側壁(タンク本体の中心側の側壁)
42 予備室
43 開閉扉(入口部)
44 内扉
45 ポンプ搬入出口
46 ポンプ仮置き部
5 吊り上げ装置
6 ガス置換装置