(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163341
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】印刷装置および印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41F 31/14 20060101AFI20231102BHJP
B41F 31/20 20060101ALI20231102BHJP
B41M 1/06 20060101ALI20231102BHJP
B41M 1/08 20060101ALI20231102BHJP
B41N 1/14 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B41F31/14 Z
B41F31/20
B41M1/06
B41M1/08
B41N1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074187
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久世 康典
(72)【発明者】
【氏名】井上 武治郎
【テーマコード(参考)】
2C250
2H113
2H114
【Fターム(参考)】
2C250DA03
2C250DC02
2C250DC04
2C250DC05
2H113AA04
2H113AA05
2H113BA05
2H113BA06
2H113BB02
2H113BB22
2H113BC12
2H113DA04
2H113EA07
2H113EA08
2H113EA12
2H114AA05
2H114DA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、粘度の低いインキを使用した場合や、インキ供給量を増加した場合でも、ロングラン印刷で地汚れを抑制できるインキ回収機構付き印刷装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、平版印刷版と接することでインキを転移させるインキ着けローラーおよび前記平版印刷版上の余剰インキを除去する除去ローラーを備えた印刷装置であって、前記除去ローラーが、当該除去ローラーよりも表面自由エネルギーのより大きい回収ローラーと接している印刷装置である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版印刷版と接することでインキを転移させるインキ着けローラーおよび前記平版印刷版上の余剰インキを除去する除去ローラーを備えた印刷装置であって、前記除去ローラーが、当該除去ローラーよりも表面自由エネルギーのより大きい回収ローラーと接している、印刷装置。
【請求項2】
前記インキの供給手段と前記インキ着けローラーとの間に転移ローラーを備え、前記回収ローラーが回収した前記インキを前記転移ローラーの少なくとも一部に転移させる機構を備えた、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の印刷装置を用いる、印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記除去ローラーと平版印刷版とのニップ幅が、前記インキ着けローラーと前記平版印刷版とのニップ幅よりも小さい、請求項3に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記インキの25℃での粘度が1~1,000Pa・sである、請求項3または4に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記平版印刷版が水なし平版印刷版である、請求項3~5のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記水なし平版印刷版がシリコーンゴム層を有し、当該シリコーンゴム層中に1気圧における沸点が150℃以上であるインキ反発性の液体を10質量%以上30質量%以下含有する、請求項6に記載の印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記インキが顔料を含む、請求項3~7のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項9】
前記インキおよび/または前記インキの硬化物が導電性を有する、請求項3~8のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項10】
前記インキ着けローラーの周速が2~4m/sである、請求項3~9のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置および印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷方式には、平版印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷、スクリーン印刷、デジタル印刷など様々な種類がある。その中でも、平版印刷は高速に大量部数の印刷ができ、高精細であることから、多くの印刷物に使われている。
【0003】
平版印刷版を用いた印刷法としては、印刷時に版表面に予め湿し水の薄層を形成することで、インキを反発する水あり平版印刷と、この湿し水に代わりシリコーンゴムでインキを反発する水なし平版印刷があるが、非画像部でインキを十分に反発できないと、印刷物の意図しない箇所にインキが付着する“地汚れ”という品質問題が発生する。
【0004】
そこで、平版印刷では、一般的に他の印刷方式よりも粘度の高い、すなわち凝集力の強いインキを使用することで地汚れを防止しているが、粘度の低い機能性インキなどは使用することが出来ず、また、粘度の高いインキであってもインキ供給量を増やせない(盛れない)ので表現・意匠性に制限があるといった課題があった。
【0005】
これらの課題に対し、例えば特許文献1では、粘度の低いインキを使用するため、ローラーの周面に粘着面を備えたインキ除去装置を水なし平版に当接し、非画線部に付着したインキを除去する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるようなインキ除去装置では、インキ除去装置の周面にインキを保持し続けるため、ロングラン印刷するとインキ除去装置にインキが蓄積し、平版印刷版に再転写してしまう課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、粘度の低いインキの使用や、インキ供給量を増加した場合でも、ロングラン印刷で地汚れを抑制できる印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、平版印刷版と接することでインキを転移させるインキ着けローラーおよび前記平版印刷版上の余剰インキを除去する除去ローラーを備えた印刷装置であって、前記除去ローラーが、当該除去ローラーよりも表面自由エネルギーのより大きい回収ローラーと接している、印刷装置である。
【0010】
また本発明は、本発明の印刷装置を用いる、印刷物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粘度の低いインキを使用した場合や、インキ供給量を増加した場合でも、ロングラン印刷で地汚れを抑制できるインキ回収機構付き印刷装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の印刷装置の形状の一例を示す模式断面図である。
【
図2】インキ清掃機能を備えた本発明の印刷装置の形状の一例を示す模式断面図である。
【
図3】インキ循環機能を備えた本発明の印刷装置の形状の他の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施の形態にのみ限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0014】
[印刷装置]
本発明の印刷装置は、平版印刷版と接することでインキを転移させるインキ着けローラーおよび前記平版印刷版上の余剰インキを除去する除去ローラーを備える。
【0015】
(インキ着けローラー)
前記インキ着けローラーの材質は例えば、ニトリルゴム(以下、「NBR」と略記する場合がある)、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム(以下、「EPDM」と略記する場合がある)、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ウレタン、ハイパロンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。
【0016】
(転移ローラー)
本発明の印刷装置は、インキつぼのようなインキの供給源とインキ着けローラーとの間に、転移ローラーを備えることも好ましい。転移ローラーとしては例えば、インキ出しローラー、インキ練りローラー、インキ振りローラーを挙げることができる。
【0017】
前記転移ローラーの材質は、インキ着けローラーで例示したのと同様のものが挙げられる。また、金属ローラーを用いてもよい。前記金属ローラーの材質は例えば、銅、鉄、アルミ、クロム、ステンレスや、公知のローラー部材表面に金属メッキ処理したものなどが挙げられる。
【0018】
(除去ローラー)
前記除去ローラーは平版印刷版と直接接し、非画像部上の余剰インキを除去する機能を有する。
【0019】
前記除去ローラーの材質は例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ウレタン、ハイパロンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。ただし、後述の回収ローラーよりも、表面自由エネルギーのより小さいものを選定する必要がある。
【0020】
前記除去ローラーの表面自由エネルギーは、インキを回収ローラーへ移行しやすい点で、20~50mJ/cm2が好ましく、20~30mJ/cm2がより好ましい。
【0021】
前記除去ローラーは、表面自由エネルギーのより大きい回収ローラーと接するように設置されている。係る構成により、余剰インキは除去ローラーから回収ローラーへ移行する。
【0022】
(回収ローラー)
前記回収ローラーは前記除去ローラーと直接接しており、除去ローラーよりも表面自由エネルギーが大きく、インキに対する濡れ性が高いため、除去ローラーからインキを回収することができる。
【0023】
回収ローラーの材質は例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ウレタン、ハイパロンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。ただし、前記除去ローラーよりも、表面自由エネルギーのより大きいものを選定する必要がある。
【0024】
前記回収ローラーの表面自由エネルギーは、除去ローラーからインキを回収しやすい点で、30~70mJ/cm2が好ましく、35~50mJ/cm2がより好ましい。
【0025】
前記回収ローラーには、蓄積したインキを清掃するために、清掃設備が接触するように設置されていても良い。かかる態様により、前記回収ローラー上へのインキの蓄積も抑えられ、よりロングラン印刷が可能となる。
【0026】
前記清掃設備としては例えば、ブレード、不織布、スポンジなどを挙げることができる。
【0027】
また、前記回収ローラーよりもこれに接しうる前記転移ローラーの表面自由エネルギーが大きい場合は、前記回収ローラーが前記転移ローラーと接することで、前記転移ローラーを前記清掃設備とすることができる。この態様により、前記除去ローラーから前記回収ローラーを経て、前記転移ローラーへインキを循環させるため、前記回収ローラーにもインキが蓄積しなくなり、さらにロングラン印刷が可能となる。
【0028】
(印刷装置)
本発明の印刷装置としては、本発明の要旨を変更しない範囲で、インキ着けローラー、転移ローラー、除去ロ-ラーおよび回収ローラーを自由に配列し、構成させることができる。また、公知のオフセット印刷機に、本発明の要件を満足する前記除去ローラーと前記回収ローラーを追加して、本発明の印刷装置とすることもできる。
【0029】
本発明の印刷装置の形態としては、例えば、平台印刷機、枚葉印刷機、輪転印刷機、間欠式印刷機などが挙げられる。また、複数種類のインキを使用できる点で、多色印刷機が好ましい。
【0030】
以下、本発明の印刷装置を図面に基づいて説明する。
【0031】
本発明の印刷装置の代表的な形状の一例を
図1に示す。インキ回収機構付き印刷装置100において、インキつぼ6からインキ7が転移ローラー5を介してインキ着けローラー2に供給され、版胴8に巻き付けた平版印刷版1と接する。そうすることで、平版印刷版1の画像部にインキ7が付着する。平版印刷版1の非画像部に余剰したインキ7は、除去ローラー3と接することで、除去ローラー3の周面に移行し取り除かれる。さらに、除去ローラー3が表面自由エネルギーのより大きい回収ローラー4と接することで、インキ7が除去ローラー3から回収ローラー4の周面に移行する。これにより、除去ローラーの周面にはインキが蓄積せず、平版印刷版に再転写することがない。
【0032】
本発明の印刷装置の形状の他の一例を
図2に示す。インキ清掃機能を備えたインキ回収機構付き印刷装置200は、
図1のインキ回収機構付き印刷装置100において、回収ローラー4にブレード9を押し当て、インキ回収タンク10にインキを移行させることで、回収ローラー4を清掃する機能を有する。これにより、回収ローラーにもインキが蓄積し難くなり、よりロングラン印刷が可能となる。
【0033】
本発明の印刷装置の形状の他の一例を
図3に示す。インキ循環機能を備えたインキ回収機構付き印刷装置300は、
図1のインキ回収機構付き印刷装置100において、回収ローラー4をお互い接するように複数設置し、そのうちの1つが少なくとも転移ローラー5と接することで、除去ローラー3から回収ローラー4を経て、転移ローラー5へインキを循環させる機能を有する。これにより、回収ローラーにインキが蓄積しなくなり、さらにロングラン印刷が可能となる。
【0034】
転移ローラー、除去ロ-ラーおよび回収ローラーの本数と配列は、
図1~3から任意に変えることができ、上記のように平版印刷版から余剰インキの除去が可能であればよい。
【0035】
本発明の印刷装置は、少なくとも一つの印刷ユニット(版胴)が上記のような構成を備えるが、複数の印刷ユニットを備える場合には、それらが上記のような構成を備えることも、例えば多色のロングラン印刷にも対応できるため好ましい。
【0036】
[印刷物の製造方法]
本発明の印刷物の製造方法は、本発明の印刷装置を用いる。
【0037】
(平版印刷版)
本発明の印刷物の製造方法において、平版印刷版としては、非画像部で湿し水を保持することでインキを反発する水あり平版印刷版(以下、「水あり平版」と記載する場合がある)と、湿し水に代わりシリコーンゴム層でインキを反発する水なし平版印刷版(以下、「水なし平版」と記載する場合がある)のいずれも使用することができる。
【0038】
前記水あり平版および前記水なし平版としては、いずれも公知のものを使用することができる。
【0039】
(シリコーンゴム層)
前記水なし平版は、シリコーンゴム層を有するものが好ましい。
【0040】
前記シリコーンゴム層に用いられるシリコーンゴムとしては、硬化速度に優れ、生産性向上が期待できる点で、付加反応型シリコーンゴムが好ましい。前記付加反応型シリコーンゴムの組成物は、ビニル基を有するオルガノポリシロキサン、複数のヒドロシリル基(SiH基)を有する化合物および硬化触媒を含むことが好ましい。さらに、反応抑制剤を含有してもよい。
【0041】
前記ビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、下記一般式(α)で表される構造を有し、主鎖末端もしくは主鎖中にビニル基を有するものが好ましい。中でも主鎖末端にビニル基を有するものが好ましい。これらを2種以上含有してもよい。
-(SiR1R2-O-)n- (α)
一般式(α)中、nは2以上の整数を示す。R1およびR2は炭素数1~50の飽和または不飽和の炭化水素基を表す。炭化水素基は直鎖状でも枝分かれ状でも環状でもよく、芳香環を含んでいてもよい。R1およびR2は同じであっても異なっていてもよい。一般式(α)で表されるポリシロキサンに複数存在するR1は相互に同じであっても異なっていてもよい。また、一般式(α)で表されるポリシロキサンに複数存在するR2は相互に同じであっても異なっていてもよい。
【0042】
上記一般式(α)中、R1およびR2は全体の50%以上がメチル基であることが、水なし平版のインキ反発性の点で好ましい。
【0043】
また、精細度や耐傷性の観点から、前記ビニル基を有するオルガノポリシロキサンの重量平均分子量は20,000以上200,000以下が好ましい。
【0044】
前記複数のSiH基を有する化合物としては、例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、ジオルガノハイドロジェンシリル基を有する有機ポリマーが挙げられ、好ましくはオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。これらを2種以上含有してもよい。前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、直鎖状、環状、分岐状、網状の分子構造を有するものを用いてもよい。
【0045】
前記硬化触媒は公知のものから選ぶことができる。好ましくは白金系化合物であり、具体的には白金単体、塩化白金、塩化白金酸、オレフィン配位白金、白金のアルコール変性錯体、白金のメチルビニルポリシロキサン錯体などを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。
【0046】
なお、白金系化合物は、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法(SEM/EDX)分析により、分布と含有量を見積もることができる。
【0047】
前記硬化触媒の含有量は、シリコーンゴム層の硬化性の観点から、シリコーンゴム層の組成物中0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。また、シリコーンゴム層の組成物やその溶液の安定性の観点から、シリコーンゴム層の組成物中20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0048】
前記反応抑制剤としては例えば、含窒素化合物、リン系化合物、不飽和アルコールなどが挙げられ、アセチレン基を有するアルコールが好ましく用いられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの反応抑制剤を含有することにより、シリコーンゴム層の硬化速度を調整することができる。前記反応抑制剤の含有量は、シリコーンゴム層の組成物やその溶液の安定性の観点から、シリコーンゴム層の組成物中0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、シリコーンゴム層の硬化性の観点から、シリコーンゴム層組成物中20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0049】
また、前記シリコーンゴム層は、これらの成分の他に、水酸基含有オルガノポリシロキサンや加水分解性官能基含有シランもしくはこの官能基を含有するシロキサン、ゴム強度を向上させる目的でシリカなどの公知の充填剤、接着性を向上させる目的で公知のシランカップリング剤を含有してもよい。
【0050】
前記シランカップリング剤としては例えば、アルコキシシラン類、アセトキシシラン類、ケトキシミノシラン類などが好ましく、またビニル基やアリル基がケイ素原子に直結したものが好ましい。
【0051】
前記シリコーンゴム層は、1気圧における沸点が150℃以上であるインキ反発性液体を含有することが好ましい。かかる態様により、インキ反発性を向上させ、インキ供給量を増加させる、および/または、ロングラン印刷での地汚れを抑制することができる。前記インキ反発性液体は、印刷時に版面が加圧されたとき、シリコーンゴム層の表面に表出し、インキの剥離を助けることで非画像部におけるインキ反発性を向上させる。
【0052】
前記インキ反発性液体の沸点が150℃以上であれば、水なし平版を製造時に揮発することが少なく、この液体の添加によって得られるインキ反発性の効果を失うことがない。ここでいう沸点は、1気圧の環境下で1時間静置したのちの質量減少率が、0.5質量%以上になる温度で定義される。
【0053】
前記インキ反発性液体の25℃における表面張力は、15mN/m以上30mN/m以下が好ましい。表面張力が15mN/m以上であれば、シリコーンゴム層中に含まれる他の成分との親和性に優れ、シリコーンゴム層の安定性が向上する。一方、表面張力が30mN/m以下であれば、インキ反発性をより向上させることができる。
【0054】
前記インキ反発性液体の前記シリコーンゴム層中における含有量は、インキ反発性をより向上させる観点から、10質量%以上が好ましい。一方、シリコーンゴム層の膜強度を維持する観点から、前記含有量は、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
【0055】
前記インキ反発性液体は、シリコーン化合物であることが好ましく、シリコーンオイルがより好ましい。ここで言うシリコーンオイルとは、シリコーンゴム層の架橋に携わらないフリーのポリシロキサン成分のことを指す。
【0056】
前記シリコーンオイルとしては、
例えば、末端ジメチルポリジメチルシロキサン、環状ポリジメチルシロキサン、末端ジメチル-ポリジメチル-ポリメチルフェニルシロキサンコポリマー、末端ジメチル-ポリジメチル-ポリジフェニルシロキサンコポリマーなどのジメチルシリコーンオイル類、
例えば、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、エポキシポリエーテル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、アミド変性シリコーンオイル、カルバナ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイルなどの分子中のメチル基の一部に各種有機基を導入した変性シリコーンオイル類、
などが挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。これらの中でも、シリコーンゴム層と親和性が高く、多く含有できる点で、ジメチルシリコーンオイル類が好ましい。
【0057】
前記シリコーンオイルの重量平均分子量Mwは、1,000以上10万以下が好ましい。ここで、前記シリコーンオイルの重量平均分子量は、標品にポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0058】
(インキ)
本発明において、前記インキは公知のものを使用できる。前記インキとしては、汎用の染料・顔料インキの他に、光学的機能や電気的機能などの物理的機能、耐薬品性や生化学的機能などの化学的機能、または特殊な印刷仕上りを持つ表面加飾機能などを特別に付与された機能性インキも使用できる。
【0059】
前記インキの25℃での粘度は、レベリングし鮮明な印刷品質になる点で、1,000Pa・s以下が好ましく、500Pa・s以下がより好ましく、200Pa・s以下がさらに好ましい。一方、インキ膜厚を増加し表現・意匠性を向上できる点で、前記粘度は1Pa・s以上が好ましく、5Pa・s以上がより好ましく、10Pa・s以上がさらに好ましい。かかる粘度を有するインキは、例えばオフセットインキ、スクリーンインキ、フレキソインキなどに好適に用いることができる。
【0060】
ここで、インキの25℃における粘度は、コーン角1°、直径40mmのコーンプレートを装着したレオメーター(アントン・パール製MCR301)を用いて、インキ量0.15mL、温度25℃、回転数0.5rpmの条件で測定することができる。
【0061】
(導電性インキ)
本発明では、機能性インキの中でも導電性インキを好ましく用いることができる。導電性インキとは、導電性粒子を含むインキまたはペーストを指し、インキおよび/またはインキの硬化物が導電性を有する。
【0062】
導電性粒子とは、電気抵抗率が10-5Ω・m以下の物質で構成される粒子を指す。前記導電性粒子としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等の金属粒子が挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。これらの中でも、金、銀、銅、ニッケル、錫、ビスマス、鉛、亜鉛、パラジウム、白金、アルミニウムを含有する金属粒子が好ましく、銀粒子がより好ましい。
【0063】
前記導電性粒子の粒子径は、分散安定性を向上させる観点から、10nm以上が好ましい。一方、前記粒子径は、緻密な導電性層を形成する観点や、平版印刷版の耐損耗性を向上させる観点から、100nm以下が好ましい。
【0064】
ここで、導電性粒子の粒子径とは、導電性粒子の比表面積換算径Dpをいう。比表面積換算径Dpとは、単位質量に含まれる個々の粒子の表面積の総和である。個々の粒子は同一径を有する球形であると仮定すると、下記式の関係が成り立つ。
Dp=6/(ρSw)
ここに、
Dp:比表面積換算径(μm)
ρ:球形粒子の密度(g/cm3)
Sw:球形粒子の比表面積(m2/g)。
【0065】
密度ρは、全自動真密度測定装置(例えば、Macpycno;Mountech(株)製)、比表面積Sw(m2/g)(BET値)は、全自動比表面積測定装置(例えば、MacsorbHMmodel-1201;Mountech(株)製)により測定することができる。
【0066】
前記導電性インキは、活性エネルギー線により硬化し得る基(以下、「重合性基」と呼ぶ場合がある)を有する化合物を含むことができる。
【0067】
前記重合性基としては、例えば、(メタ)アクリレート基、ビニル基、アリル基などのエチレン性不飽和基が挙げられる。かかる重合性基を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリレートなどのモノマーやそれらのオリゴマー、側鎖に不飽和二重結合を有するアクリル系重合体などのポリマーなどが挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0068】
前述の水なし平版を用いる場合は、前記重合性基を有する化合物として、直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。かかる化合物を含むことにより、前記導電性インキの前記シリコーンゴム層に対する反発性を高め、導電性粒子によるシリコーン層の損耗に起因する、印刷中の非画像部へのインキの付着を抑制することができる。
【0069】
前記直鎖アルキル基の炭素数は、9以上が好ましい。直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソオクタデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。
【0070】
前記重合性基を有する化合物の含有量は、インキ反発性を向上させる観点から、導電性インキ中、0.5~10質量%が好ましい。
【0071】
前記導電性インキには、さらに、光重合開始剤や熱重合開始剤などの重合開始剤や、溶剤、その他添加剤を含んでもよい。
【0072】
(ニップ幅)
前記インキ着けローラーと前記平版印刷版とのニップ幅は、平版印刷版の画像部へのインキ転移性の点で、3~6mmに設定するのが好ましい。
【0073】
前記除去ローラーと前記平版印刷版とのニップ幅は、画像部に付着したインキの除去ローラーへの移行を抑制しつつ、非画像部上の余剰インキを除去するため、1~4mmに設定するのが好ましく、1~2mmに設定するのがより好ましい。
【0074】
また、前記除去ローラーと前記平版印刷版とのニップ幅は、前記インキ着けローラーと前記平版印刷版とのニップ幅よりも小さいことが、前記平版印刷版の画像部に付着した前記インキを取り除かないようにする上で好ましい。
【0075】
(印刷条件)
印刷速度については、インキ着けローラーが平版印刷版の非画像部と接触する時間が短い方が、非画像部上の余剰インキを少なくできるため、インキ着けローラーの周速は2~4m/sになるよう設定することが好ましい。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0077】
[評価・測定方法]
(1)表面自由エネルギー
インキ着けローラー、転移ローラー、除去ローラーおよび回収ローラーの表面自由エネルギーは、自動接触角計(協和界面科学株式会社製“Drop master”DM500)を用いて測定した。各ローラーから40mm×15mm×5mmに切り出したテストピースに対して、表面自由エネルギーが既知の水およびジヨードメタンを試薬として、接触角を測定した。試薬をテストピースに滴下してから30秒後の接触角を測定し、任意の5箇所の平均値を算出した。
【0078】
水およびジヨードメタンそれぞれの接触角の平均値を、Owens and Wendtの理論式に適用することで、インキ着けローラー、転移ローラー、除去ローラーおよび回収ローラーの表面自由エネルギーを算出した。
【0079】
(2)インキの粘度
コーン角1°、直径40mmのコーンプレートを装着したレオメーター(アントン・パール製MCR301)を用いて、インキ量0.15mL、温度25℃、回転数0.5rpmの条件で測定した。
【0080】
(3)ニップ幅
白インキNS PO(DICグラフィックス株式会社製)を対象のローラー(インキ着けローラー、除去ローラー)に塗布し、対象のローラーを印刷時と同じ位置したときに平版印刷版上に転移する白インキの幅を、ニップ幅とした。
【0081】
(4)印刷
印刷装置の版胴に、平版印刷版を巻き付け、インキを用いて、転移ローラー周速2.35m/s、毎時10,000枚の印刷速度条件で、コート紙(王子製紙株式会社製“OKトップコート”)10,000枚に印刷を行った。
【0082】
平版印刷版が水あり平版の場合、転移ローラーと水あり平版が接触する前に水棒を設け、水あり平版に湿し水が供給された後、インキが転移するように設定した。
【0083】
インキ供給量については、印刷物の画像部を反射分光光度計(X-rite(株)製“SpectroEye”)を用いて測定したときに、反射濃度2.0になるよう調整した。ただし、インキ反発性が高い水なし平版WL2に限っては、さらにインキ供給量を増加させることができたため、反射濃度2.6になるよう調整した。なお、インキ粘度が低いとレベリングしやすいため濃度は上がり易く、インキ供給量は少なく、インキ膜厚は低くなる。一方、インキ粘度が高いとレベリングしにくく濃度は上がり難いため、インキ供給量は多く、インキ膜厚は高くなる。
【0084】
印刷物は100枚目と10,000枚目をサンプリングし、画像部のインキ膜厚測定と非画像部の地汚れ濃度測定に用いた。
【0085】
(5)インキ膜厚
表面粗さ・輪郭形状測定機((株)東京精密製“SURFCOM”1400D)を用いて、JIS B 0601-2001の試験方法に準拠し、測定速度0.3mm/s、測定距離6mmの条件で、上記(4)で100枚目にサンプリングした印刷物の画像部と非画像部との段差から、画像部のインキ膜厚を測定した。
【0086】
顔料インキは表現・意匠性に優れる点で、また導電性インキは導電性が良好になる点で、インキ膜厚は0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上がさらに好ましく、2.0μm以上がさらに好ましい。
【0087】
(6)地汚れ濃度
上記(4)で100枚目と10,000枚目にサンプリングした印刷物の非画像部の地汚れ濃度を、反射分光光度計(X-rite(株)製“SpectroEye”)を用いて測定した。測定は5箇所で実施し、その平均値を地汚れ濃度とした。
【0088】
反射濃度が0.20以下であれば実用上問題なく、0.15以下が好ましく、0.10以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましく、0.02以下がさらにより好ましい。また、10,000枚目の印刷物で反射濃度が0.20以下であれば、ロングラン印刷が可能であると判断した。
【0089】
[インキ]
(顔料インキP1)
UVフレキソ500墨(株式会社T&K TOKA製)を顔料インキP1として用いた。P1の25℃での粘度は0.5Pa・sであった。
【0090】
(顔料インキP2,P3,P4)
ジアリルフタレート樹脂(株式会社大阪ソーダ製“ダイソーダップ”(登録商標)A)を30質量部、トリメチロールプロパントリアクリレートエチレンオキシド付加物(MIWON社製“Miramer”(登録商標)M3130)を69.9質量部、重合禁止剤として4-メトキシフェノール(東京化成工業(株)製)を0.1質量部、容器に量り入れ、100℃で5時間の条件下で撹拌溶解させた後、室温に冷却することでワニスを得た。
【0091】
前記ワニスを50質量部、顔料としてCABOT社製“MOGUL”(商標登録)Eを20質量部、MIWON社製“Miramer”(登録商標)M3130を10質量部、光重合開始剤としてBASFジャパン(株)製“イルガキュア”(商標登録)907を4質量部、BASFジャパン(株)製“イルガキュア”(商標登録)TPO-Lを6質量部、増感剤としてジエチルアミノベンゾフェノンを5質量部、体質顔料として日本タルク(株)製“ミクロエース”(登録商標)P-3を2質量部、顔料分散剤として楠本化成(株)製“ディスパロン”(登録商標)DA-325を2質量部、ワックスとしてPTFE(喜多村(株)製KTL-4N)を1質量部秤量し、粘度調整のため、さらに希釈モノマーとしてMIWON社製“Miramer”(登録商標)M3130を適宜加えながら、三本ロールミル(EXAKT社製“EXAKT”(商標登録)M-80S)を用いて、ローラーギャップ目盛りを1、ロール回転速度の目盛りを500rpmに設定し、4回混練することで粘度の異なる顔料インキP2,P3,P4を得た。
【0092】
P2,P3,P4の25℃での粘度は順に、3Pa・s、6Pa・s、15Pa・sであった。
【0093】
(顔料インキP5)
UV161墨(株式会社T&K TOKA製)を顔料インキP5として用いた。P5の25℃での粘度は100Pa・sであった。
【0094】
(導電性インキC1)
ホモジナイザーを用いて、下記の銀粒子、分散剤およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を下記の分量で、1200rpmの条件で30分間混合し、さらに、その混合液を、ジルコニアビーズが充填されたミル型分散機を用いて分散し、銀粒子分散体を得た。
銀粒子:平均粒子径60nm、Sigma-Aldrich製のものを80質量部
分散剤:ビックケミ-・ジャパン(株)製“DISPERBYK”(登録商標)140を4.2質量部
PGMEA:196質量部。
【0095】
また、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)を2質量部、PGMEAを50質量部、メタクリル酸を23.26質量部、ベンジルメタクリレートを31.46質量部、ジシクロペンタニルメタクリレートを32.80質量部、フラスコに仕込み、室温でしばらく撹拌し、フラスコ内をバブリングによって十分に窒素置換した後、70℃で5時間加熱撹拌し、アクリル樹脂の溶液を得た。得られた樹脂溶液に、メタクリル酸グリシジルを12.69質量部、ジメチルベンジルアミンを1質量部、p-メトキシフェノールを0.2質量部、PGMEAを100質量部添加し、90℃で4時間加熱撹拌し、樹脂の側鎖にエチレン性不飽和結合を導入した。得られた樹脂溶液に、固形分濃度が40質量%になるようにPGMEAを加え、アクリル樹脂溶液とした。
【0096】
次いで、上記の銀粒子分散体を62.00質量部に対して、上記のアクリル樹脂溶液を5.73質量部、光重合開始剤としてオキシムエステル系化合物(BASFジャパン社製“イルガキュア”(登録商標)OXE02)を0.41質量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(共栄社化学(株)製“ライトアクリレート”(登録商標)PE-4A)を1.30質量部混合したものに、ジアセトンアルコールを23.25質量部、PGMEAを7.31質量部添加・撹拌し、導電性インキC1を得た。
【0097】
C1の25℃での粘度は12Pa・sであった。
【0098】
[平版印刷版]
(水あり平版WE1)
機上現像型水あり平版原版(FUJIFILM製“SUPERIA”ZP)に対し、CTP用露光機(SCREEN(株)製“PlateRite”8900E)を用いて、照射エネルギー125mJ/cm2、ドラム回転数200rpmの条件で、650mm×550mmサイズの原版の中央に200×200mmのベタ露光を行った。その後、前述の(4)印刷の際に、湿し水および使用するインキで機上現像することで、水あり平版WE1を作製した。
【0099】
(水なし平版WL1)
(断熱層組成物溶液)
下記成分を室温にて撹拌混合することにより、断熱層組成物溶液を得た。
・エポキシ樹脂“jER”(登録商標)1010(三菱ケミカル(株)製):29.2質量部
・固形分濃度20質量%のポリウレタン(三洋化成工業(株)“サンプレン”(登録商標)LQ-T1331D製):51.7質量部
・アルミキレート(川研ファインケミカル(株)製ALCH-TR):4.5質量部
・固形分10質量%のレベリング剤(楠本化成(株)製“ディスパロン”(登録商標)LC951):0.1質量部
・酸化チタン(石原産業(株)製“タイペーク”(登録商標)CR-50)のN,N-ジメチルホルムアミド分散液(酸化チタン50質量%):14.5質量部
・N,N-ジメチルホルムアミド:450質量部
・メチルエチルケトン:150質量部。
【0100】
(感熱層組成物溶液)
下記成分を室温にて撹拌混合することにより、感熱層組成物溶液を得た。
・最大吸収波長774nmの赤外線吸収染料((株)林原製NK5559):12.0質量部
・フェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂(住友ベークライト(株)製“スミライトレジン”(登録商標)PR53195):70.4質量部
・チタニウム-n-ブトキシドビス(アセチルアセトネート)の濃度73質量%のn-ブタノール溶液(日本化学産業(株)製“ナーセム”(登録商標)チタン):17.6質量部
・テトラヒドロフラン:900質量部。
【0101】
(シリコーンゴム層組成物溶液)
下記成分を室温にて撹拌混合することにより、シリコーンゴム層組成物溶液-1を塗布直前に調製した。
・重量平均分子量49,500のα,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン(GELEST Inc.製DMS-V35):87.0質量部
・メチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサン共重合体(東レ・ダウコーニング(株)製RD-1):4.2質量部
・ビニルトリス(メチルエチルケトオキシイミノ)シラン:2.6質量部
・白金触媒(東レ・ダウコーニング(株)製SRX212):6.2質量部
・エッソ化学(株)製“アイソパー”(登録商標)E:900質量部。
【0102】
厚み0.24mmのアルミ基板(三菱アルミ(株)製)の脱脂した表面上に、上記の断熱層組成物溶液を塗布し、200℃で90秒間乾燥し、厚み6.0μmの断熱層を設けた。
【0103】
次いで、上記の感熱層組成物溶液を上記の断熱層上に塗布し、140℃で90秒間加熱乾燥し、厚み1.5μmの感熱層を設けた。
【0104】
次いで、上記のシリコーンゴム層組成物溶液-1を前記感熱層上に塗布し、140℃で80秒間加熱し、平均膜厚3.0μmのシリコーンゴム層を設け、水なし平版原版-1を得た。
【0105】
得られた水なし平版原版-1に対し、CTP用露光機(SCREEN(株)製“PlateRite”8900E)を用いて、照射エネルギー125mJ/cm2、ドラム回転数200rpmの条件で、650mm×550mmサイズの原版の中央に200mm×200mmのベタ露光を行った。
【0106】
次いで、東レ(株)製CP-Xを前処理液、水道水を現像液として、露光した原版を自動現像機(東レ(株)製TWL-1160F)に速度60cm/分で通し、水なし平版WL1を得た。
【0107】
(水なし平版WL2)
(シリコーンゴム層組成物溶液)
下記成分を室温にて撹拌混合することにより、シリコーンゴム層組成物溶液-2を塗布直前に調製した。
・重量平均分子量49,500のα,ω-ジビニルポリジメチルシロキサンGELEST Inc.製DMS-V35):67.9質量部
・重量平均分子量3,780、1気圧における沸点が150℃超の末端ジメチルポリジメチルシロキサン(信越化学工業(株)製KF-96-50cs):20.0質量部
・メチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサン共重合体(東レ・ダウコーニング(株)製RD-1):3.3質量部
・ビニルトリス(メチルエチルケトオキシイミノ)シラン:2.6質量部
・白金触媒(東レ・ダウコーニング(株)製SRX212):6.2質量部
・エッソ化学(株)製“アイソパー”(登録商標)E:900質量部。
【0108】
シリコーンゴム層組成物溶液としてシリコーンゴム層組成物溶液-2を用いた以外は水なし平版原版-1と同様にして、水なし平版原版-2を作製した。
【0109】
得られた水なし平版原版-2に対して、水なし平版原版-1と同様に露光・現像し、水なし平版WL2を得た。
【0110】
[実施例1]
(印刷装置)
2セットの印刷ユニットを備えた枚葉印刷機(桜井グラフィックシステムズ(株)製“オリバー266EPZ”)の1胴目に、
図1に示すような配置で、インキ着けローラー、転移ローラー、除去ローラーおよび回収ローラーを設置し、印刷装置1を準備した。なお、2胴目は用いなかった。
【0111】
インキ着けローラーおよび転移ローラー(インキ練りローラー)には、表面の材質がウレタンで表面自由エネルギーが55mJ/cm2の、テクノロール(株)製“トラスト・ゼータ”を使用した。除去ローラーには、表面の材質がEPDMで表面自由エネルギーが24.5mJ/cm2の(株)金陽社製UV-Bを使用した。また回収ローラーには、表面の材質がNBRで表面自由エネルギーが42mJ/cm2の(株)金陽社製“タフブルー”を使用した。
【0112】
(印刷版)
印刷装置1において、版胴に水なし平版WL1を巻き付けた。
【0113】
(ニップ幅)
インキ着けローラーの平版印刷版に対するニップ幅を4mm、除去ローラーの平版印刷版に対するニップ幅を1mmに設定した。
【0114】
(インキ)
顔料インキP1を用いて上記(4)のとおり印刷物を作製した。
【0115】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.09と、良好な結果であった。
【0116】
[実施例2]
除去ローラーの平版印刷版に対するニップ幅を3mmとした以外は実施例1と同様にして、印刷物を作製した。
【0117】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.05、10,000枚目で0.15であった。
【0118】
[実施例3]
除去ローラーの平版印刷版に対するニップ幅を4mmとした以外は実施例1と同様にして、印刷物を作製した。
【0119】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.10、10,000枚目で0.20であった。
【0120】
[実施例4]
(印刷版)
印刷装置1において、1胴目の版胴に水あり平版WE1を巻き付け、水あり平版WE1に湿し水が供給された後にインキが転移するように、インキ着けローラーの前に水棒を追加設置した。
【0121】
(ニップ幅)
インキ着けローラーの平版印刷版に対するニップ幅は4mm、除去ローラーの平版印刷版に対するニップ幅は1mmに設定した。
【0122】
(インキ)
顔料インキP1を用いて上記(4)のとおり印刷物を作製した。
【0123】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.09と、良好な結果であった。
【0124】
[実施例5]
除去ローラーの平版印刷版に対するニップ幅を4mmとした以外は実施例4と同様にして、印刷物を作製した。
【0125】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.10、10,000枚目で0.20であった。
【0126】
[実施例6]
(印刷装置)
印刷装置1からの変更点として、
図2に示すような配置で、回収ローラーに清掃設備としてラバーウォッシュアップブレード(ハイデルベルグ・ジャパン株式会社製)を押し当て、インキ回収タンクにインキを移行する設備を追加した。これを印刷装置2とした。
【0127】
(印刷版)
印刷装置2において、版胴に水なし平版WL1を巻き付けた。
【0128】
(ニップ幅)
インキ着けローラーの平版印刷版に対するニップ幅を4mm、除去ローラーの平版印刷版に対するニップ幅を1mmに設定した。
【0129】
(インキ)
顔料インキP1を用いて上記(4)のとおり印刷物を作製した。
【0130】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.03と、より良好な結果であった。
【0131】
[実施例7]
インキとして顔料インキP4を用いた以外は実施例6と同様にして、印刷物を作製した。
【0132】
インキ膜厚は1.6μmとより良好で、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.03と、より良好な結果であった。
【0133】
[実施例8]
印刷版として水なし平版WL2を用い、インキとして顔料インキP4を用いた以外は実施例6と同様にして、印刷物を作製した。
【0134】
インキ膜厚は2.1μmと非常に良好で、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.01と、非常に良好な結果であった。
【0135】
[実施例9]
印刷版として水なし平版WL2を用い、インキとして導電性インキC1を用いた以外は実施例6と同様にして、印刷物を作製した。
【0136】
インキ膜厚は2.0μmと非常に良好で、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.01と、非常に良好な結果であった。
【0137】
[実施例10]
(印刷装置)
印刷装置1からの変更点として、
図3に示すような配置で、回収ローラーをお互い接するように複数設置し、そのうちの1つが転移ローラーと接することで、除去ローラーから回収ローラーを経て、転移ローラーへインキを循環させるようにした。すなわち、印刷装置1に対してインキ循環機能を付与した。これを印刷装置3とした。
【0138】
(印刷版)
印刷装置3において、版胴に水なし平版WL1を巻き付けた。
【0139】
(ニップ幅)
インキ着けローラーの平版印刷版に対するニップ幅を4mm、除去ローラーの平版印刷版に対するニップ幅を1mmに設定した。
【0140】
(インキ)
顔料インキP1を用いて上記(4)のとおり印刷物を作製した。
【0141】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.00と、非常に良好な結果であった。
【0142】
[実施例11]
顔料インキP1を顔料インキP2に変更した以外は実施例10と同様にして、印刷物を作製した。
【0143】
インキ膜厚は0.7μm、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.00と、非常に良好な結果であった。
【0144】
[実施例12]
インキとして顔料インキP3を用いた以外は実施例10と同様にして、印刷物を作製した。
【0145】
インキ膜厚は1.2μmと良好で、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.00と、非常に良好な結果であった。
【0146】
[実施例13]
インキとして顔料インキP4を用いた以外は実施例10と同様にして、印刷物を作製した。
【0147】
インキ膜厚は1.6μmとより良好で、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.00と、非常に良好な結果であった。
【0148】
[実施例14]
インキとして顔料インキP5を用いた以外は実施例10と同様にして、印刷物を作製した。
【0149】
インキ膜厚は2.2μmと非常に良好で、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.00と、非常に良好な結果であった。
【0150】
[実施例15]
印刷版として水なし平版WL2を用い、インキとして顔料インキP4を用いた以外は実施例10と同様にして、印刷物を作製した。
【0151】
インキ膜厚は2.1μmと非常に良好で、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.00と、非常に良好な結果であった。
【0152】
[実施例16]
印刷版として水なし平版WL2を用い、インキとして導電性インキC1を用いた以外は実施例10と同様にして、印刷物を作製した。
【0153】
インキ膜厚は2.0μmと非常に良好で、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.00と、非常に良好な結果であった。
【0154】
[実施例17]
(印刷版)
印刷装置3において、1胴目の版胴に水あり平版WE1を巻き付け、水あり平版WE1に湿し水が供給された後にインキが転移するように、インキ着けローラーの前に水棒を追加設置した。
【0155】
(ニップ幅)
インキ着けローラーの平版印刷版に対するニップ幅は4mm、除去ローラーの平版印刷版に対するニップ幅は1mmに設定した。
【0156】
(インキ)
顔料インキP1を用いて上記(4)のとおり印刷物を作製した。
【0157】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.00と、非常に良好な結果であった。
【0158】
[実施例18]
インキとして顔料インキP3を用いた以外は実施例17と同様にして、印刷物を作製した。
【0159】
インキ膜厚は1.2μmと良好で、地汚れ濃度は100枚目で0.00、10,000枚目で0.00と、非常に良好な結果であった。
【0160】
[比較例1]
(印刷装置)
印刷装置1からの変更点として、除去ローラーおよび回収ローラーを設置せず、これを印刷装置4とした。
【0161】
(印刷版)
印刷装置4において、1胴目の版胴に水あり平版WE1を巻き付け、水あり平版WE1に湿し水が供給された後にインキが転移するように、インキ着けローラーの前に水棒を追加設置した。
【0162】
(ニップ幅)
インキ着けローラーの平版印刷版に対するニップ幅は4mmに設定した。
【0163】
(インキ)
顔料インキP1を用いて上記(4)のとおり印刷物を作製した。
【0164】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.80、10,000枚目で1.50と、印刷開始時点で地汚れ濃度が高く、実用不可の結果であった。
【0165】
[比較例2]
(印刷装置)
印刷装置1からの変更点として、回収ローラーを設置せず、これを印刷装置5とした。
【0166】
(印刷版)
印刷装置5において、1胴目の版胴に水あり平版WE1を巻き付け、水あり平版WE1に湿し水が供給された後にインキが転移するように、インキ着けローラーの前に水棒を追加設置した。
【0167】
(ニップ幅)
インキ着けローラーの平版印刷版に対するニップ幅は4mm、除去ローラーの平版印刷版に対するニップ幅は4mmに設定した。
【0168】
(インキ)
顔料インキP1を用いて上記(4)のとおり印刷物を作製した。
【0169】
インキ膜厚は0.3μm、地汚れ濃度は100枚目で0.24、10,000枚目で1.08と、印刷開始してすぐに地汚れ濃度が高くなり、実用不可の結果であった。
【0170】
[比較例3]
顔料インキP5を用いた以外は比較例2と同様にして、印刷物を作製した。
【0171】
インキ膜厚は2.2μmと非常に良好であったが、地汚れ濃度は100枚目で0.18、10,000枚目で1.02と高く、ロングラン印刷ができず、実用不可の結果であった。
【0172】
【0173】