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2023-163343ハイブリッド車両の制御方法及び制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163343
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御方法及び制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20231102BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231102BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20231102BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231102BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231102BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20231102BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20231102BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231102BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231102BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/387
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/30 900
F16D28/00 A
F16D48/06 102
B60L15/20 K
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074192
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 忠志
(72)【発明者】
【氏名】引地 勇気
【テーマコード(参考)】
3D202
3J057
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB00
3D202BB12
3D202BB37
3D202BB46
3D202BB64
3D202BB66
3D202CC42
3D202DD18
3D202DD26
3D202DD39
3D202DD41
3D202EE00
3D202FF12
3D202FF13
3J057AA03
3J057BB03
3J057GA66
3J057GB02
3J057GB13
3J057GB14
3J057HH02
3J057JJ01
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125BE05
5H125CA02
5H125CA09
5H125DD05
5H125EE08
5H125EE31
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】ハイブリッド車両のエンジン始動時に、エンジンとモータとの間に設けられた摩擦締結要素を的確に制御することで、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制する。
【解決手段】ハイブリッド車両10においてコントローラ20は、走行モードを切り替えるためにエンジン2を始動させる場合に、解放状態にある第1クラッチCL1(摩擦締結要素)を締結状態へと移行させつつ、モータ4のクランキングによってエンジン回転数を上昇させ、モータ4のクランキングによってエンジン回転数が上昇した後、このエンジン回転数がモータ回転数に一致する前に、第1クラッチCL1の締結トルクを一時的に低下させ、こうして第1クラッチCL1の締結トルクを一時的に低下させた後、エンジン回転数とモータ回転数とが一致した後に、第1クラッチCL1を完全な締結状態に設定するように締結トルクを上昇させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間に断続可能に設けられた摩擦締結要素と、を有するハイブリッド車両に適用され、前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる走行モードから、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる走行モードへと切り替えるべく、停止している前記エンジンを始動させるためのエンジン始動制御を行うハイブリッド車両の制御方法であって、
前記エンジン始動制御が開始されると、解放状態にある前記摩擦締結要素を締結状態へと移行させつつ、前記モータのクランキングによってエンジン回転数を上昇させる第1工程と、
前記第1工程での前記モータのクランキングによってエンジン回転数が上昇した後、このエンジン回転数がモータ回転数に一致する前に、前記摩擦締結要素の締結トルクを一時的に低下させる第2工程と、
前記第2工程で前記締結トルクを一時的に低下させた後、前記エンジン回転数と前記モータ回転数とが一致した後に、前記摩擦締結要素を完全な締結状態に設定するように前記締結トルクを上昇させる第3工程と、
を有する、ことを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
前記第2工程では、前記エンジン回転数と前記モータ回転数との差が所定値未満になったときに、前記締結トルクの一時的な低下を開始する、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
前記第3工程では、前記エンジン回転数と前記モータ回転数との差が所定値未満である状態が所定時間継続したときに、前記締結トルクの一時的な低下を終了し、前記摩擦締結要素を完全な締結状態に設定するための前記締結トルクの上昇を開始する、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
前記摩擦締結要素は、付与される油圧に応じて動作するように構成され、
前記第1工程は、
前記摩擦締結要素の油圧室へオイルを充填するように前記摩擦締結要素に第1油圧を付与する工程と、
前記第1油圧を付与してから前記第2工程までの間に、前記摩擦締結要素に前記第1油圧よりも低い第2油圧を付与し続ける工程と、
を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
前記第1工程は、
前記エンジン始動制御時にドライバから所定の加速要求がない場合には、前記第1油圧を付与してから前記第2油圧を付与するまでの間に、前記摩擦締結要素に付与する油圧を前記第2油圧よりも低い第3油圧に一時的に低下させる工程と、
前記エンジン始動制御時にドライバから前記所定の加速要求がある場合には、前記第1油圧を付与してから前記第2工程までの間に、前記摩擦締結要素に付与する油圧を前記第3油圧に一時的に低下させずに、前記摩擦締結要素に前記第2油圧を付与し続ける工程と、
を有する、請求項4に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記第2工程で前記摩擦締結要素に付与される油圧は、前記第2油圧未満で前記第3油圧以上である、請求項5に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
ハイブリッド車両の制御システムであって、
エンジン及びモータと、
前記エンジンと前記モータとの間に断続可能に設けられた摩擦締結要素と、
前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる走行モードから、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる走行モードへと切り替えるべく、停止している前記エンジンを始動させるためのエンジン始動制御を行うように、前記エンジン、前記モータ及び前記摩擦締結要素を制御するよう構成された制御装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記エンジン始動制御が開始されると、解放状態にある前記摩擦締結要素を締結状態へと移行させつつ、前記モータのクランキングによってエンジン回転数を上昇させ、
前記モータのクランキングによってエンジン回転数が上昇した後、このエンジン回転数がモータ回転数に一致する前に、前記摩擦締結要素の締結トルクを一時的に低下させ、
前記締結トルクを一時的に低下させた後、前記エンジン回転数と前記モータ回転数とが一致した後に、前記摩擦締結要素を完全な締結状態に設定するように前記締結トルクを上昇させる、
ように構成される、ことを特徴とするハイブリッド車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源としてのエンジン及びモータと、これらエンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替える摩擦締結要素(クラッチ)と、を有するハイブリッド車両の制御方法及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジン(内燃機関)と、車輪への動力伝達経路上においてエンジンの下流側に設けられたモータ(電動機)と、エンジンとモータとの間に断続可能に設けられたクラッチ(摩擦締結要素)と、を有するハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両は、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第1走行モード(EV走行モード)と、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第2走行モード(エンジン走行モード又はハイブリッド走行モード)と、を切り替え可能に構成されている。特に、このハイブリッド車両は、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるときに、停止しているエンジンを始動させるべく、解放状態にあるクラッチを締結状態へと移行させつつ、このクラッチを介してモータのトルクをエンジンに伝達させる(換言するとモータによってエンジンをクランキングする)ような制御、つまりエンジン始動制御を行っている。
【0003】
このようなハイブリッド車両に関連する技術が、例えば特許文献1に記載されている。具体的には、特許文献1には、第1走行モード(EVモード)から第2走行モード(HVモード)への移行時に、クラッチの入力軸と出力軸との回転速度差が閾値未満となるまで、クラッチの伝達トルクを漸増させることで、クラッチの接続に伴って車両にトルクショックが生じることを抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-30507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなハイブリッド車両では、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるとき、つまりエンジン始動制御によってエンジンを始動させるとき、モータ回転数は、モータが走行に使用されているため、基本的にはドライバの要求に応じた回転数で推移する一方で、エンジン回転数は、モータによるクランキングによって0から上昇していき、最終的にモータ回転数と同期することとなる。このようにエンジン回転数とモータ回転数とが同期したときに、エンジンとモータとの間にトルクの差異がある場合がある。この場合、エンジン及びモータの互いのトルクが完全に伝達される状態、つまりクラッチが全トルクを伝達する完全締結状態になっていると、エンジンとモータとの間のトルクの差異によって比較的大きな振動(以下「車両ショック」呼ぶ。)が発生し、乗員に不快感を与えてしまう可能性がある。他方で、このような車両ショックの抑制を優先するようにクラッチやモータなどの制御を行うと、エンジン始動の応答性が悪化してしまう。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、ハイブリッド車両のエンジン始動時に、エンジンとモータとの間に設けられた摩擦締結要素を的確に制御することで、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、エンジンと、モータと、エンジンとモータとの間に断続可能に設けられた摩擦締結要素と、を有するハイブリッド車両に適用され、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる走行モードから、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる走行モードへと切り替えるべく、停止しているエンジンを始動させるためのエンジン始動制御を行うハイブリッド車両の制御方法であって、エンジン始動制御が開始されると、解放状態にある摩擦締結要素を締結状態へと移行させつつ、モータのクランキングによってエンジン回転数を上昇させる第1工程と、第1工程でのモータのクランキングによってエンジン回転数が上昇した後、このエンジン回転数がモータ回転数に一致する前に、摩擦締結要素の締結トルクを一時的に低下させる第2工程と、第2工程で締結トルクを一時的に低下させた後、エンジン回転数とモータ回転数とが一致した後に、摩擦締結要素を完全な締結状態に設定するように締結トルクを上昇させる第3工程と、を有する、ことを特徴とする。
【0008】
このように構成された本発明では、走行モードを切り替えるためにエンジンを始動させる場合に、モータのクランキングによってエンジン回転数が上昇した後、このエンジン回転数がモータ回転数に一致する前に、摩擦締結要素の締結トルクを一時的に低下させる。これにより、エンジン回転数とモータ回転数とが同期するときに、摩擦締結要素の伝達トルクを低下させておくことができる。その結果、エンジンとモータとの間のトルクの差異を、伝達トルクが低下されたスリップ状態にある摩擦締結要素において逃がすことができ、つまり摩擦締結要素の滑りトルクとして逃がすことができ、トルクの差異による車両ショックを抑制することが可能となる。また、このような摩擦締結要素の締結トルクの低下は一時的なものなので、エンジン始動の応答性を確保することができる。よって、本発明によれば、走行モードを切り替えるためにエンジンを始動させるときに、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができる。
なお、摩擦締結要素の締結トルクは、摩擦締結要素にかかるトルクであり、摩擦締結要素の締結度合いに相当する。また、摩擦締結要素の伝達トルクは、摩擦締結要素を介してモータとエンジンとの間で伝達されるトルクに相当する。
【0009】
本発明において、好ましくは、第2工程では、エンジン回転数とモータ回転数との差が所定値未満になったときに、締結トルクの一時的な低下を開始する。
このように構成された本発明によれば、エンジンとモータとの間における回転同期時のトルクの差異による車両ショックを効果的に抑制することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、第3工程では、エンジン回転数とモータ回転数との差が所定値未満である状態が所定時間継続したときに、締結トルクの一時的な低下を終了し、摩擦締結要素を完全な締結状態に設定するための締結トルクの上昇を開始する。
このように構成された本発明によれば、エンジンとモータとの間のトルクの差異がほとんど無くなったタイミングで、締結トルクの一時的な低下を的確に終了することができるので、エンジン始動の応答性の確保及び車両ショックの抑制を効果的に両立することが可能となる。
【0011】
本発明において、好ましくは、摩擦締結要素は、付与される油圧に応じて動作するように構成され、第1工程は、摩擦締結要素の油圧室へオイルを充填するように摩擦締結要素に第1油圧を付与する工程と、第1油圧を付与してから第2工程までの間に、摩擦締結要素に第1油圧よりも低い第2油圧を付与し続ける工程と、を有する。
このように構成された本発明によれば、解放状態にある摩擦締結要素を締結状態へと移行させて、この摩擦締結要素を介してモータのトルクをエンジンに伝達することでエンジン回転数を的確に上昇させることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、第1工程は、エンジン始動制御時にドライバから所定の加速要求がない場合には、第1油圧を付与してから第2油圧を付与するまでの間に、摩擦締結要素に付与する油圧を第2油圧よりも低い第3油圧に一時的に低下させる工程と、エンジン始動制御時にドライバから所定の加速要求がある場合には、第1油圧を付与してから第2工程までの間に、摩擦締結要素に付与する油圧を第3油圧に一時的に低下させずに、摩擦締結要素に第2油圧を付与し続ける工程と、を有する。
このように構成された本発明によれば、所定の加速要求がない場合には、解放状態にある摩擦締結要素が締結し始めるときに発生するショックを低減することができ、所定の加速要求がある場合には、エンジンの速やかな始動を確保することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、第2工程で摩擦締結要素に付与される油圧は、第2油圧未満で第3油圧以上である。
このように構成された本発明によれば、エンジン始動の応答性の確保及び車両ショックの抑制を効果的に両立することが可能となる。
【0014】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、ハイブリッド車両の制御システムであって、エンジン及びモータと、エンジンとモータとの間に断続可能に設けられた摩擦締結要素と、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる走行モードから、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる走行モードへと切り替えるべく、停止しているエンジンを始動させるためのエンジン始動制御を行うように、エンジン、モータ及び摩擦締結要素を制御するよう構成された制御装置と、を有し、制御装置は、エンジン始動制御が開始されると、解放状態にある摩擦締結要素を締結状態へと移行させつつ、モータのクランキングによってエンジン回転数を上昇させ、モータのクランキングによってエンジン回転数が上昇した後、このエンジン回転数がモータ回転数に一致する前に、摩擦締結要素の締結トルクを一時的に低下させ、締結トルクを一時的に低下させた後、エンジン回転数とモータ回転数とが一致した後に、摩擦締結要素を完全な締結状態に設定するように締結トルクを上昇させる、ように構成される、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、走行モードを切り替えるためにエンジンを始動させるときに、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハイブリッド車の制御方法及び制御システムによれば、ハイブリッド車両のエンジン始動時に、エンジンとモータとの間に設けられた摩擦締結要素を的確に制御することで、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態による第1クラッチの概略構成図である。
図3】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の電気的構成を示すブロック図である。
図4】従来のエンジン始動制御の一例を示すタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態によるエンジン始動制御の一例を示すタイムチャートである。
図6】本発明の実施形態によるエンジン始動制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムを説明する。
【0018】
[装置構成]
図1は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムが適用されるハイブリッド車両の概略構成図である。
【0019】
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、主に、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するエンジン2(例えばガソリンエンジン)と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてエンジン2よりも下流側に設けられ、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するモータ4と、図示しないインバータ等を介してモータ4との間で電力の授受を行うバッテリ5と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてモータ4よりも下流側に設けられ、エンジン2及び/又はモータ4による回転速度を変速する変速機6と、変速機6からのトルクを下流側に伝達する動力伝達系8と、動力伝達系8からのトルクによって車輪12を駆動するドライブシャフト10と、当該車輪(駆動輪)12と、を有する。
【0020】
エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸とは、断続(断接)可能な第1クラッチCL1を介して軸AX1によって同軸状に連結されている。この第1クラッチCL1により、エンジン2とモータ4との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第1クラッチCL1は、図示しないモータやソレノイドにより、クラッチ作動油流量及び/又はクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチや湿式多板クラッチなどによって構成されている。
【0021】
ここで、図2を参照して、第1クラッチCL1の具体的構成について説明する。図2は、第1クラッチCL1の一例を示す概略構成図である。図2に示すように、第1クラッチCL1は、オイルが導入される油圧室15aと、油圧室15aにオイルを供給する油路15bと(矢印A1参照)、油圧室15aに供給されるオイル(つまり油圧)に応じて動作するクラッチピストン15cと(矢印A2参照)、クラッチピストン15cが接触する第1クラッチプレート15dと、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触したときに、第1クラッチプレート15dとの間でトルクを伝達するようになる第2クラッチプレート15eと、油路15b上に設けられ、油圧室15aに供給される油圧を調整可能なソレノイド15fなどを備える。
【0022】
第1クラッチCL1は、付与する油圧を制御することで、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dから離間した解放状態と、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触した締結状態とを切り替えられるようになっている。第1クラッチCL1の解放状態では、エンジン2とモータ4との間におけるトルク伝達が遮断され、第1クラッチCL1の締結状態では、エンジン2とモータ4との間においてトルクが伝達される。この締結状態は、上記したようにクラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触した状態であるが、この状態には、第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとがスリップするスリップ状態(典型的には第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとが離間し、これらの間のオイルを介してトルクが伝達される状態)と、第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとの間で完全にトルクが伝達される完全締結状態(基本的には第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとがしっかり当接した状態)とが含まれる。なお、このような第1クラッチCL1は、本発明における「摩擦締結要素」の一例である。
【0023】
図1に戻ると、モータ4の回転軸と変速機6の回転軸とは、軸AX2によって同軸状に連結されている。変速機6は、典型的には、サンギヤS1、リングギヤR1、ピニオンギヤP1(遊星歯車)及びキャリアC1を含む1つ以上のプラネタリギヤセットと、クラッチやブレーキ等の摩擦締結要素とを内部に備えており、車速やエンジン回転数などに応じてギヤ段(変速比)を自動的に切り替える機能を備えた自動変速機である。リングギヤR1はサンギヤS1と同心円上に配置され、ピニオンギヤP1はサンギヤS1及びリングギヤR1に噛み合うようにサンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されている。キャリアC1は、ピニオンギヤP1を自転可能且つサンギヤS1の周りを公転可能に保持する。
【0024】
また、変速機6は、断続(断接)な第2クラッチCL2を内部に備え、この第2クラッチCL2により、変速機6の上流側(エンジン2及びモータ4)と変速機6の下流側(車輪12など)との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第2クラッチCL2は、図示しないモータやソレノイドにより、クラッチ作動油流量及び/又はクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチや湿式多板クラッチなどによって構成されている。また、第2クラッチCL2も、付与する油圧を制御することで、解放状態と締結状態(スリップ状態又は完全締結状態)とのいずれかの状態とを切り替えられるようになっている。
なお、第2クラッチCL2は、実際には、変速機6において種々のギヤ段を切り替えるために用いられる多数のクラッチによって構成される。また、図1では単純化のためプラネタリギヤセットを1つだけ示しているが、実際には変速機6は複数のプラネタリギヤセットを備えている。第2クラッチCL2により代表される複数のクラッチや図示しない複数のブレーキ等の摩擦締結要素を選択的に締結して、各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えることにより、例えば複数の前進変速段と1段の後退速段とを実現可能となっている。
【0025】
動力伝達系8は、変速機6の出力軸AX3を介してトルクが入力される。動力伝達系8は、駆動力を左右一対の車輪12に対して分配するデファレンシャルギヤや、ファイナルギヤなどを含んで構成されている。
【0026】
上記のハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1の締結と解放とを切り替えることで、走行モードを切り替えることができる。すなわち、ハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1を解放状態に設定して、エンジン2のトルクを用いずにモータ4のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第1走行モードと、第1クラッチCL1を締結状態に設定して、少なくともエンジン2のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第2走行モードと、を有する。第1走行モードは、所謂EV走行モードであり、第2走行モードは、エンジン2のトルクのみを用いてハイブリッド車両1を走行させるエンジン走行モード、及び、エンジン2及びモータ4の両方のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させるハイブリッド走行モードを含む。
【0027】
次に、図3は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の電気的構成を示すブロック図である。
【0028】
図3に示すように、コントローラ20には、エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数センサSN1からの信号と、モータ4の回転数を検出するモータ回転数センサSN2からの信号と、ドライバによるアクセルペダルの踏込み量に対応するアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN3からの信号と、ハイブリッド車両1が走行する路面の勾配角(又は路面上のハイブリッド車両1の前後方向の傾斜角)を検出する勾配センサSN4からの信号と、が入力されるようになっている。
【0029】
コントローラ20は、1つ以上のプロセッサ20a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを記憶するROMやRAMなどのメモリ20bと、を備えるコンピュータにより構成される。コントローラ20は、本発明における「制御装置」に相当し、また、本発明における「ハイブリッド車両の制御方法」を実行する。
【0030】
具体的には、コントローラ20は、上述したセンサSN1~SN4からの検出信号に基づき、主に、エンジン2、モータ4、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に対して制御信号を出力し、これらを制御する。例えば、コントローラ20は、エンジン2の点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量を調整する制御や、モータ4の回転数、トルクを調整する制御や、第1及び第2クラッチCL1、CL2の状態(解放状態、スリップ状態、完全締結状態)を切り替える制御などを行う。実際には、コントローラ20は、エンジン2の点火プラグや燃料噴射弁やスロットル弁などを制御し、インバータを介してモータ4を制御し、油圧制御回路(モータやソレノイド15fなど)を介して第1及び第2クラッチCL1、CL2を制御する。
【0031】
[ハイブリッド車両の制御]
次に、本実施形態においてコントローラ20が行う制御内容について説明する。本実施形態では、コントローラ20は、主に、エンジン2のトルクを用いずにモータ4のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第1走行モードから、少なくともエンジン2のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第2走行モードへと切り替えるべく、停止しているエンジン2を始動させるために、第1クラッチCL1に付与する油圧(以下「CL1油圧」と呼ぶ。)を制御して、解放状態にある第1クラッチCL1を締結状態へと移行させつつ、モータ4及びエンジン2を制御して、モータ4のクランキングによってエンジン2を始動させるようなエンジン始動制御を行う。なお、CL1油圧は、第1クラッチCL1に付与する油圧の指令値(指示油圧)に相当する。このCL1油圧を実現するに当たって、コントローラ20は、第1クラッチCL1の油圧制御回路(例えばソレノイド15fなど)を制御する。
【0032】
まず、図4を参照して、エンジン始動制御の基本概念について説明する。図4は、従来のエンジン始動制御の一例を示すタイムチャートである。図4において、グラフG1は、CL1油圧の時間変化を示し、グラフG21、G22は、それぞれエンジン回転数及びモータ回転数の時間変化を示す。
【0033】
時刻t1において、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるべく、停止しているエンジン2を始動させるためのエンジン始動制御を開始する。具体的には、時刻t1より、コントローラ20は、第1クラッチCL1の油圧室15aへオイルを充填するために(プリチャージ)、CL1油圧を比較的大きな第1油圧P1に設定する(期間T1)。次いで、時刻t2以降において、コントローラ20は、第1クラッチCL1において離間しているクラッチピストン15cを第1クラッチプレート15dに接触させ、その後、第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとをスリップさせた状態にて、モータ4のクランキングによってエンジン回転数を徐々に上昇させるようにする。具体的には、コントローラ20は、最初に、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触するときのショックを低減するために、CL1油圧を第1油圧P1から大きく低下させた第3油圧P3に維持する(期間T2)。そして、コントローラ20は、時刻t3より、CL1油圧を第3油圧P3よりも大きな第2油圧P2に維持して、モータ4のクランキングによってエンジン回転数が上昇するのを待つ(期間T3)。
【0034】
次いで、時刻t4において、上昇したエンジン回転数がモータ回転数に到達し、この後、コントローラ20は、エンジン回転数とモータ回転数とを同期させるように(具体的には安定した回転同期状態となるように)、CL1油圧を少し上昇させる(期間T4)。次いで、時刻t5において、エンジン回転数とモータ回転数とが同期し、この後、コントローラ20は、第1クラッチCL1を完全締結状態に設定すべくCL1油圧を更に上昇させ、第1クラッチCL1が完全締結状態に設定されると、CL1油圧の上昇を終了して、CL1油圧を一定に維持する(期間T5)。
【0035】
ここで、上記のようにエンジン回転数とモータ回転数とが同期したときに、エンジン2とモータ4との間にトルクの差異がある場合がある。この場合、第1クラッチCL1がエンジン2及びモータ4の互いのトルクをほぼ完全に伝達するような状態(完全締結状態又は完全締結状態に近いスリップ状態)になっていると、エンジン2とモータ4との間のトルクの差異によって比較的大きな振動(車両ショック)が発生し、乗員に不快感を与えてしまう可能性がある。他方で、このような車両ショックの抑制を優先するように、第1クラッチCL1やモータ4などを緩やかに制御すると、エンジン始動の応答性が悪化してしまう。
【0036】
したがって、本実施形態では、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるためのエンジン2の始動時に、エンジン始動の応答性の確保及び車両ショックの抑制を両立するように第1クラッチCL1を制御するようにした。具体的には、コントローラ20は、モータ4のクランキングによって上昇したエンジン回転数がモータ回転数に一致する直前に、第1クラッチCL1の締結トルク(第1クラッチCL1において第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとにかかるトルクであり、第1クラッチCL1の締結度合いに相当する)を低下させるべくCL1油圧を一時的に低下させる。これにより、エンジン回転数とモータ回転数とが同期するときに、第1クラッチCL1の伝達トルク(第1クラッチCL1を介してモータ4からエンジン2に伝達されるトルクに相当する)を一時的に低下させることができる。その結果、エンジン2とモータ4との間のトルクの差異を、伝達トルクが低下されたスリップ状態にある第1クラッチCL1において逃がすことができ、つまり第1クラッチCL1の滑りトルクとして逃がすことができ、車両ショックを抑制することが可能となる。また、このような第1クラッチCL1の締結トルクの低下は一時的なものなので、エンジン始動の応答性を確保することができる。
【0037】
次に、図5を参照して、本実施形態によるエンジン始動制御について具体的に説明する。図5は、本実施形態によるエンジン始動制御の一例を示すタイムチャートである。図5において、グラフG11、G12は、CL1油圧(指示油圧)の時間変化を示し、グラフG21、G22は、それぞれエンジン回転数及びモータ回転数の時間変化を示す。特に、グラフG12は、エンジン始動制御時にドライバから所定の加速要求、詳しくはエンジン2を速やかに始動させてハイブリッド車両1を比較的高い加速度で加速させる要求(以下「ファスト始動要求」と呼ぶ。)がある場合に適用されるCL1油圧を示し、グラフG11は、そのようなファスト始動要求がない場合に適用されるCL1油圧を示す。ファスト始動要求がある場合とは、アクセル開度センサSN3によって検出されたアクセル開度が所定値以上である場合や、勾配センサSN4によって検出された路面の勾配角が所定値以上である場合である。なお、図5において、図4と同一の符号を付した要素は、図4と同一の意味を有するものとして、その説明を適宜省略する。
【0038】
まず、ファスト始動要求がない場合について説明する(グラフG11参照)。時刻t1から時刻t4直前までは(期間T1、T2、T3)、コントローラ20は、図4と同様の制御を行う。本実施形態では、コントローラ20は、モータ4のクランキングによって上昇したエンジン回転数がモータ回転数に到達する時刻t4の直前において、具体的にはエンジン回転数とモータ回転数との差が所定値未満になった時刻t4aより、第1クラッチCL1の締結トルクを低下させるべく、CL1油圧を第4油圧P4に一時的に低下させる(期間T4)。この第4油圧P4は、期間T3で適用される第2油圧P2未満で、且つ期間T2で適用される第3油圧P3以上である(P3≦P4<P2)。
【0039】
次いで、コントローラ20は、エンジン回転数とモータ回転数とが一致する時刻t5から所定時間後の時刻t5a、換言するとエンジン回転数とモータ回転数との差が所定値(0に近い値)未満である状態が所定時間継続した時刻t5aにおいて、CL1油圧の一時的な低下を終了する。この時刻t5aは、エンジン2とモータ4とのトルクの差異がほとんど無くなったタイミングに相当する。そして、時刻t5a以降、コントローラ20は、第1クラッチCL1を完全締結状態に設定すべくCL1油圧を上昇させ、第1クラッチCL1が完全締結状態に設定されると、CL1油圧の上昇を終了して、CL1油圧を一定に維持する(期間T5)。
【0040】
次に、ファスト始動要求がある場合について説明する(グラフG12参照)。ここでは、上記のファスト始動要求がない場合(グラフG11参照)との相違点のみを説明する。ファスト始動要求がある場合には、コントローラ20は、油圧室15aへオイルを充填するためにCL1油圧を第1油圧P1に設定した期間T1の直後の期間T2において、ファスト始動要求がない場合のように、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触するときのショックを低減するためのCL1油圧の第3油圧P3への一時的な低下を行わない。具体的には、コントローラ20は、ファスト始動要求がある場合には、期間T2において、CL1油圧を、エンジン回転数の上昇を待機する期間T3で適用する第2油圧P2に設定する、つまり期間T2及び期間T3に亘ってCL1油圧を第2油圧P2に維持する。こうすることで、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触するときのショックをある程度許容して、エンジン2の速やかな始動を優先させるようにする。
【0041】
次に、図6を参照して、本実施形態によるエンジン始動制御の全体的な流れについて説明する。図6は、本実施形態においてコントローラ20によって実行されるエンジン始動制御を示すフローチャートである。
なお、このフローチャートに係るエンジン始動制御は、現在停止しているエンジン2の始動要求が発せられた場合に開始される。例えば、この始動要求は、ドライバがEVモードにおいて比較的大きな加速を要求している場合(つまり走行モードをEVモードからHVモードに切り替える必要があるような加速度をドライバが要求している場合)に発せられる。加えて、始動要求は、このようなドライバ要求以外に、パワートレイン等を含む制御システムから発せられる(以下では、この始動要求を適宜「システム要求」と呼ぶ)。このシステム要求は、車速や負荷やバッテリ状態やエンジン温度などに応じて、ハイブリッド車両1の走行モードをEVモードからHVモードに切り替えるべきである場合に発せられる。例えば、目標駆動力を実現するためにはモータ4の駆動力だけでは不足する場合や、バッテリ5を充電すべき場合(バッテリ5のSOCが所定値未満である場合)や、減速時にエンジン2によるエンジンブレーキを付与すべき場合などにおいて、システム要求が発せられる。
【0042】
エンジン始動制御が開始されると、まず、ステップS101において、コントローラ20は、各種情報を取得する。具体的には、コントローラ20は、少なくとも上記したセンサSN1~SN4から検出信号を取得する。
【0043】
次いで、ステップS102において、コントローラ20は、第1クラッチCL1の油圧室15aへオイルを充填するために、CL1油圧を比較的大きな第1油圧P1に設定するように、第1クラッチCL1を制御する(プリチャージ)。そして、コントローラ20は、ステップS103に進み、CL1油圧を第1油圧P1に設定してから所定時間が経過したか否かを判定する。この所定時間は、第1クラッチCL1の油圧室15aへオイルを充填するのに必要な時間(実験やシミュレーションや所定の演算式により求められる)に基づき、事前に定められる。
【0044】
ステップS103の結果、コントローラ20は、所定時間が経過した場合(ステップS103:Yes)、ステップS104に進む。これに対して、コントローラ20は、所定時間が経過していない場合(ステップS103:No)、ステップS102に戻る。この場合、コントローラ20は、所定時間が経過するまで、ステップS102、S103を繰り返すことで、CL1油圧を第1油圧P1に維持する。
【0045】
次いで、ステップS104において、コントローラ20は、エンジン2のファスト始動要求があるか否かを判定する。コントローラ20は、アクセル開度センサSN3によって検出されたアクセル開度が所定値以上である場合、又は、勾配センサSN4によって検出された路面の勾配角が所定値以上である場合に、ファスト始動要求があると判定し(ステップS104:Yes)、ステップS105に進む。他方で、このようなファスト始動要求がない場合(ステップS104:No)、コントローラ20は、ステップS106に進む。
【0046】
コントローラ20は、ファスト始動要求がない場合(ステップS104:No)、ステップS106において、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触するときのショックを低減するために、CL1油圧を第1油圧P1から大きく低下させた第3油圧P3に設定するように、第1クラッチCL1を制御する。そして、コントローラ20は、ステップS107に進み、CL1油圧を第3油圧P3に設定してから所定時間が経過したか否かを判定する。この所定時間は、第1クラッチCL1の油圧室15aへオイルが充填されてから、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触するまでの時間(実験やシミュレーションや所定の演算式により求められる)に基づき、事前に定められる。
【0047】
ステップS107の結果、コントローラ20は、所定時間が経過した場合(ステップS107:Yes)、ステップS105に進む。これに対して、コントローラ20は、所定時間が経過していない場合(ステップS107:No)、ステップS106に戻る。この場合、コントローラ20は、所定時間が経過するまで、ステップS106、S107を繰り返すことで、CL1油圧を第3油圧P3に維持する。
【0048】
他方で、コントローラ20は、ファスト始動要求がある場合には(ステップS104:Yes)、エンジン2の速やかな始動を優先すべく、CL1油圧を第3油圧P3に設定せずに、ステップS105において、CL1油圧を第3油圧P3よりも大きな第2油圧P2に設定するように、第1クラッチCL1を制御する。また、コントローラ20は、ファスト始動要求がない場合において、CL1油圧を第3油圧P3に所定時間維持した後(ステップS107:Yes→ステップS105)、CL1油圧を第3油圧P3から第2油圧P2に設定するように、第1クラッチCL1を制御する。
【0049】
このようにCL1油圧を第2油圧P2に設定しているときに、第1クラッチCL1は、モータ4のトルクをエンジン2に伝達可能な状態(具体的にはスリップ状態)になる。このときに、コントローラ20は、エンジン2及びモータ4を制御することで、モータ4のクランキングによってエンジン回転数を上昇させるようにする。こうして、コントローラ20は、CL1油圧を第2油圧P2に維持しながら、エンジン回転数が上昇するのを待つようにする。
【0050】
次いで、コントローラ20は、上記のステップS105の後、ステップS108に進み、エンジン回転数とモータ回転数との差(回転数差)が所定値未満になったか否かを判定する。ここでは、コントローラ20は、モータ4のクランキングによって上昇したエンジン回転数がモータ回転数に到達しそうな状況を判定している。コントローラ20は、回転数差が所定値未満になった場合に(ステップS108:Yes)、エンジン回転数がモータ回転数に到達しそうであると判定して、ステップS109に進み、CL1油圧を第4油圧P4に一時的に低下させるように第1クラッチCL1を制御する。こうすることで、エンジン2とモータ4との間における回転同期時のトルクの差異による車両ショックを抑制するようにする。
そういった観点より、ステップS108で回転数差を判定するための所定値は、このような車両ショックを的確に抑制するためにCL1油圧の一時的な低下を開始すべき、エンジン回転数がモータ回転数に到達する前のタイミングに基づき、事前に定められる。また、CL1油圧を一時的に低下させる第4油圧P4は、このような車両ショックを抑制しつつ、エンジン始動の応答性を悪化させないようなCL1油圧が適用される。基本的には、第4油圧P4は、少なくとも第2油圧P2未満で第3油圧P3以上に設定される。これら所定値や第4油圧P4は、実験やシミュレーションや所定の演算式などに基づき定められる。
【0051】
他方で、コントローラ20は、回転数差が所定値未満になっていない場合(ステップS108:No)、ステップS105に戻る。この場合、コントローラ20は、回転数差が所定値未満になるまで、ステップS105、S108を繰り返すことで、CL1油圧を第2油圧P2に維持する。
【0052】
次いで、コントローラ20は、上記のステップS109の後、ステップS110に進み、エンジン回転数とモータ回転数との差(回転数差)が所定値(0に近い値)未満の状態が所定時間継続したか否かを判定する。ここでは、コントローラ20は、エンジン2とモータ4とのトルクの差異がほとんど無くなっている状況を判定している。よって、ステップS110で用いられる所定時間には、エンジン回転数とモータ回転数とがほぼ一致してから、エンジン2とモータ4とのトルクの差異がほとんど無くなるまでに要する時間(実験やシミュレーションや所定の演算式により求められる)に基づき、事前に定められる。
【0053】
ステップS110の結果、コントローラ20は、回転数差が所定値未満の状態が所定時間継続した場合(ステップS110:Yes)、ステップS111に進む。これに対して、コントローラ20は、回転数差が所定値未満の状態が所定時間継続していない場合(ステップS110:No)、ステップS109に戻る。この場合、コントローラ20は、回転数差が所定値未満の状態が所定時間継続するまで、ステップS109、S110を繰り返すことで、CL1油圧を第4油圧P4に維持する。
【0054】
次いで、ステップS111において、コントローラ20は、第1クラッチCL1を完全締結状態に設定するために、CL1油圧の第4油圧P4への一時的な低下を終了し、CL1油圧を漸増させるように第1クラッチCL1を制御する。そして、コントローラ20は、CL1油圧が第1クラッチCL1の完全締結状態に対応する最終目標油圧に到達すると、ステップS112に進み、CL1油圧の漸増を終了して、CL1油圧を一定に維持する。この後、コントローラ20は、エンジン始動制御を終了する。
【0055】
[作用及び効果]
次に、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムの作用及び効果について説明する。
【0056】
本実施形態によれば、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるためにエンジン2を始動させる場合に、モータ4のクランキングによってエンジン回転数が上昇した後、このエンジン回転数がモータ回転数に一致する前に、第1クラッチCL1の締結トルクを低下させるように、第1クラッチCL1に付与する油圧を一時的に低下させる。これにより、エンジン回転数とモータ回転数とが同期するときに、第1クラッチCL1の伝達トルクを低下させておくことができる。その結果、エンジン2とモータ4との間のトルクの差異を、伝達トルクが低下されたスリップ状態にある第1クラッチCL1において逃がすことができ、つまり第1クラッチCL1の滑りトルクとして逃がすことができ、トルクの差異による車両ショックを抑制することが可能となる。また、このような第1クラッチCL1の締結トルクの低下は一時的なものなので、エンジン始動の応答性を確保することができる。よって、本実施形態によれば、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるためにエンジン2を始動させる場合に、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、エンジン回転数とモータ回転数との差が所定値未満になったときに、第1クラッチCL1の締結トルクの一時的な低下を開始するので、エンジン2とモータ4との間における回転同期時のトルクの差異による車両ショックを効果的に抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、エンジン回転数とモータ回転数との差が所定値未満である状態が所定時間継続したときに、第1クラッチCL1の締結トルクの一時的な低下を終了し、第1クラッチCL1を完全な締結状態に設定するための締結トルクの上昇を開始する。これにより、エンジン2とモータ4との間のトルクの差異が無くなったタイミングで、締結トルクの一時的な低下を的確に終了することができ、エンジン始動の応答性の確保及び車両ショックの抑制を効果的に両立することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、エンジン始動制御時に、第1クラッチCL1の油圧室15aへオイルを充填するように第1クラッチCL1に第1油圧P1を付与し、この後に、第1クラッチCL1に第1油圧P1よりも低い第2油圧P2を付与し続ける。これにより、解放状態にある第1クラッチCL1を締結状態へと移行させて、モータ4のクランキングによってエンジン回転数を的確に上昇させることができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、エンジン2のファスト始動要求がない場合には、第1油圧P1を付与してから第2油圧P2を付与するまでの間に、第1クラッチCL1に付与する油圧を第2油圧P2よりも低い第3油圧P3に一時的に低下させる。これにより、解放状態にある第1クラッチCL1が締結し始めるときに発生するショックを低減することができる。他方で、コントローラ20は、エンジン2のファスト始動要求がある場合には、第1油圧P1を付与した後に、第1クラッチCL1に付与する油圧を第3油圧P3に一時的に低下させずに、第1クラッチCL1に第2油圧P2を付与し続ける。これにより、エンジン2の速やかな始動を優先することができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、第1クラッチCL1の締結トルクを一時的に低下させるために第1クラッチCL1に付与する油圧(第4油圧P4)を、第2油圧P2未満で第3油圧P3以上に設定する。これにより、エンジン始動の応答性の確保及び車両ショックの抑制を効果的に両立することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
4 モータ
5 バッテリ
6 変速機
8 動力伝達系
12 車輪
15a 油圧室
15c クラッチピストン
15d 第1クラッチプレート
15e 第2クラッチプレート
15f ソレノイド
20 コントローラ(制御装置)
CL1 第1クラッチ(摩擦締結要素)
CL2 第2クラッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6