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特開2023-163344ハイブリッド車両の制御方法及び制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163344
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御方法及び制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/30 20060101AFI20231102BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231102BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231102BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20231102BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231102BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20231102BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231102BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231102BHJP
【FI】
B60W10/30 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/02 900
B60W10/08 900
F16D28/00 A
F16D48/06 102
B60L15/20 K
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074193
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】大佐古 昌和
(72)【発明者】
【氏名】田中 敬介
【テーマコード(参考)】
3D202
3J057
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB00
3D202BB05
3D202BB12
3D202BB46
3D202BB64
3D202CC35
3D202CC42
3D202DD17
3D202DD26
3D202EE00
3D202EE19
3D202FF12
3D202FF13
3J057AA03
3J057BB03
3J057GB02
3J057GB13
3J057GB14
3J057HH02
3J057JJ01
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125BE05
5H125CA02
5H125CA09
5H125DD05
(57)【要約】
【課題】ハイブリッド車両の始動時にエンジンを用いた走行モードを実行する場合に、エンジンの始動性悪化を抑制すると共に、摩擦締結要素の制御性を確保する。
【解決手段】ハイブリッド車両1は、エンジン2とモータ4との間に設けられた第1クラッチCL1(摩擦締結要素)と、モータ4によって駆動され、第1クラッチにオイルを供給する機械式オイルポンプ17を有する。コントローラ20は、車両始動時にモータを用いた第1走行モードが実行不可である場合に、エンジンを用いた第2走行モードを実行すべく、エンジンをスタータ3により始動させた後、モータを作動させると共に、第1クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるように第1クラッチに油圧を付与する油圧制御を行う。特に、コントローラは、モータの作動によって駆動された機械式オイルポンプ17からの油圧を少なくとも用いて、油圧制御を行う。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータと、前記エンジンを始動させるためのスタータと、前記エンジンと前記モータとの間に断続可能に設けられた摩擦締結要素と、前記モータによって駆動され、前記摩擦締結要素にオイルを供給する機械式オイルポンプと、を有するハイブリッド車両に適用され、前記摩擦締結要素が解放状態であるときに、前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて走行する第1走行モードを実行する一方で、前記摩擦締結要素が締結状態であるときに、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて走行する第2走行モードを実行するハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両の始動時に前記第1走行モードを実行可能であるか否かを判定する第1工程と、
前記第1工程において前記第1走行モードを実行可能でないと判定された場合に、前記第2走行モードを実行すべく、前記エンジンを前記スタータにより始動させる第2工程と、
前記第2工程後に前記モータを作動させる第3工程と、
前記第2工程後に前記摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させるように前記摩擦締結要素に油圧を付与する油圧制御を行う第4工程と、
を有し、
前記第4工程では、前記第3工程での前記モータの作動によって駆動された前記機械式オイルポンプからの油圧を少なくとも用いて、前記油圧制御を行う、ことを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
前記第4工程では、前記油圧制御を前記モータの作動開始と略同時に開始する、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
前記ハイブリッド車両は、前記機械式オイルポンプとは別に、前記摩擦締結要素にオイルを供給する電動オイルポンプを更に有し、
前記第4工程では、前記機械式オイルポンプが作動する前に前記電動オイルポンプを作動して、この電動オイルポンプからの油圧を用いて、前記油圧制御を行う、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
前記電動オイルポンプは、前記機械式オイルポンプよりも小型に構成されている、請求項3に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
前記摩擦締結要素は、オイルが導入される油圧室を有し、この油圧室に導入されるオイルに応じて締結状態と解放状態とのいずれかの状態を取るように構成され、
前記第4工程では、前記油圧制御の開始時に、少なくとも前記電動オイルポンプからの油圧を用いて、前記摩擦締結要素の前記油圧室にオイルを充填する、
請求項3又は4に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記第2工程の前に、少なくとも前記摩擦締結要素にオイルを供給する油圧システム内にオイルを充填するように、前記電動オイルポンプを一時的に作動させる工程を更に有する、請求項3に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
前記電動オイルポンプは、前記機械式オイルポンプの作動後に、前記摩擦締結要素へのオイルの供給を停止する、請求項3に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項8】
ハイブリッド車両の制御システムであって、
エンジン及びモータと、
前記エンジンを始動させるためのスタータと、
前記エンジンと前記モータとの間に断続可能に設けられた摩擦締結要素と、
前記モータによって駆動され、前記摩擦締結要素にオイルを供給する機械式オイルポンプと、
前記エンジン、前記スタータ、前記モータ及び前記摩擦締結要素を制御するように構成された制御装置であって、前記摩擦締結要素が解放状態であるときに、前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて走行する第1走行モードを実行する一方で、前記摩擦締結要素が締結状態であるときに、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて走行する第2走行モードを実行するように構成された前記制御装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記ハイブリッド車両の始動時に前記第1走行モードを実行可能であるか否かを判定し、
前記第1走行モードを実行可能でないと判定された場合に、前記第2走行モードを実行すべく、前記エンジンを前記スタータにより始動させ、
前記エンジンの始動後に前記モータを作動させ、
前記エンジンの始動後に前記摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させるように前記摩擦締結要素に油圧を付与する油圧制御を行い、
前記制御装置は、更に、前記モータの作動によって駆動された前記機械式オイルポンプからの油圧を少なくとも用いて、前記油圧制御を行う、ことを特徴とするハイブリッド車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源としてのエンジン及びモータと、これらエンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替える摩擦締結要素(クラッチ)と、を有するハイブリッド車両の制御方法及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジン(内燃機関)と、車輪への動力伝達経路上においてエンジンの下流側に設けられたモータ(電動機)と、エンジンとモータとの間に断続可能に設けられたクラッチ(摩擦締結要素)と、を有するハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両は、クラッチが解放状態にあるときに、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第1走行モード(EV走行モード)を実行し、クラッチが締結状態にあるときに、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第2走行モード(エンジン走行モード又はハイブリッド走行モード)を実行する。
【0003】
このようなハイブリッド車両に関連する技術が、例えば特許文献1に記載されている。具体的には、特許文献1には、エンジンの低温時に、エンジンが始動した後にモータを起動して、エンジンとモータとの間のクラッチが締結するまで、オイルポンプからの吐出量を抑制すべく変速機を低ライン圧に制限する低温時油圧制御を継続する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5980436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したようなハイブリッド車両では、車両の始動時に、基本的には、燃費向上のためにエンジンを作動させずに、モータのトルクを用いた第1走行モードを実行するが、モータに電力を供給するバッテリの充電量が少ない場合などには、エンジンのトルクを用いた第2走行モードを実行する。通常、第2走行モードを実行すべくエンジンを始動させるときには、モータのトルクによってエンジンを始動させるが(つまりモータによってエンジンをクランキングする)、上記のようにバッテリの充電量が少ない場合には、モータがエンジン始動に必要なトルクを発生できないことがある。この場合、モータとは別にスタータをハイブリッド車両に具備させておけば、モータを作動させずに、スタータによってエンジンを適切に始動させることができる。
【0006】
こうしてスタータによってエンジンを始動させた場合、エンジンとモータとの間に設けられたクラッチ、つまり車輪への動力伝達経路上においてエンジンの下流側に設けられたクラッチを締結することで、エンジンの動力がクラッチ及びモータなどを介して車輪に伝達されることとなる。エンジンを始動してその動力をモータを経由して車輪側に伝達させるときに、上記したような理由によりモータが作動していない状況では、エンジンによってモータが連れ回されることとなる(最終的にモータ回転数がエンジン回転数に一致することでエンジンの動力がモータを経由して車輪側に伝達されることとなる)。このときに、エンジンのトルクがモータ回転数上昇に用いられることで、エンジンの始動性が悪化してしまう場合がある。換言すると、エンジンとモータとのトルク差により、エンジンの始動性が悪化してしまう場合がある。最悪の場合、エンストが生じてしまうことがある。
【0007】
他方で、上記したハイブリッド車両において、モータによって駆動される機械式オイルポンプからの油圧を用いて、エンジンとモータとの間に設けられたクラッチを動作させるものがある。そのようなハイブリッド車両では、上述したようにスタータによりエンジンを始動させようとした場合に、モータが作動していないために、機械式オイルポンプが適切に作動せずに、クラッチを締結するための制御性が悪化してしまうことがある。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、エンジンとモータとの間に設けられ、モータによって駆動される機械式オイルポンプからの油圧を用いて動作する摩擦締結要素を有するハイブリッド車両の制御方法及び制御システムにおいて、車両始動時にエンジンを用いた走行モードを実行する場合に、エンジンの始動性悪化を抑制すると共に、摩擦締結要素の制御性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、エンジンと、モータと、エンジンを始動させるためのスタータと、エンジンとモータとの間に断続可能に設けられた摩擦締結要素と、モータによって駆動され、摩擦締結要素にオイルを供給する機械式オイルポンプと、を有するハイブリッド車両に適用され、摩擦締結要素が解放状態であるときに、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いて走行する第1走行モードを実行する一方で、摩擦締結要素が締結状態であるときに、少なくともエンジンのトルクを用いて走行する第2走行モードを実行するハイブリッド車両の制御方法であって、ハイブリッド車両の始動時に第1走行モードを実行可能であるか否かを判定する第1工程と、第1工程において第1走行モードを実行可能でないと判定された場合に、第2走行モードを実行すべく、エンジンをスタータにより始動させる第2工程と、第2工程後にモータを作動させる第3工程と、第2工程後に摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させるように摩擦締結要素に油圧を付与する油圧制御を行う第4工程と、を有し、第4工程では、第3工程でのモータの作動によって駆動された機械式オイルポンプからの油圧を少なくとも用いて、油圧制御を行う、ことを特徴とする。
【0010】
このように構成された本発明は、ハイブリッド車両の始動時にモータのトルクを用いた第1走行モードが実行可能でないと判定された場合に、第2走行モードを実行すべく、エンジンをスタータにより始動させた後、モータを作動させると共に、摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させるように摩擦締結要素に油圧を付与する油圧制御を行う。特に、本発明は、モータの作動によって駆動された機械式オイルポンプからの油圧を少なくとも用いて、この油圧制御を行う。
【0011】
このように摩擦締結要素の油圧制御を行うに当たってモータを作動させておくことで、機械式オイルポンプを適切に作動させることができ、摩擦締結要素の制御性を確保することができる。また、こうして摩擦締結要素を制御して解放状態から締結状態へと移行させていくときに、つまりエンジンのトルクを摩擦締結要素を介してモータ側へと伝達させていくときに、モータが作動しているので、モータが作動していない場合と比較して、エンジンのトルクがモータ回転数上昇に用いられることによる(換言するとエンジンとモータとのトルク差による)、エンジンの始動性悪化を抑制することができる。以上より、本発明によれば、車両始動時にエンジンを用いた第2走行モードを実行する場合に、エンジンの始動性悪化を抑制できると共に、摩擦締結要素の制御性を確保できる。
更に、本発明によれば、エンジンの始動後にモータを作動することで、モータの稼働時間を短くすることができ、モータによるバッテリの電力消費を抑えることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、第4工程では、油圧制御をモータの作動開始と略同時に開始する。
このように構成された本発明によれば、モータの作動開始後に油圧制御を開始する場合と比較して、摩擦締結要素を速やかに解放状態から締結状態へと移行させることができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、ハイブリッド車両は、機械式オイルポンプとは別に、摩擦締結要素にオイルを供給する電動オイルポンプを更に有し、第4工程では、機械式オイルポンプが作動する前に電動オイルポンプを作動して、この電動オイルポンプからの油圧を用いて、油圧制御を行う。
このように構成された本発明によれば、機械式オイルポンプが作動する前に電動オイルポンプを作動して、この電動オイルポンプからの油圧を用いて油圧制御を行うので、機械式オイルポンプのみを用いる場合と比較して、摩擦締結要素を速やかに解放状態から締結状態へと移行させることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、電動オイルポンプは、機械式オイルポンプよりも小型に構成されている。
このように構成された本発明によれば、小型の電動オイルポンプを用いることで、搭載性向上や、構成の簡素化や、省電力化を実現することができる。
他方で、上記の本発明では、換言すると、電動オイルポンプは機械式オイルポンプよりもオイルの吐出量が少なくなっている。そのため、電動オイルポンプから供給されるオイルを用いて精密な油圧制御を行いにくい。しかしながら、電動オイルポンプを用いる油圧制御開始時は精密な制御が要求されないので、電動オイルポンプでも十分に制御要求を満たすことができる。そして、この後の精密な制御が要求される段階においては、精密な制御を行うことが可能な機械式オイルポンプによって制御要求を確実に満たすことができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、摩擦締結要素は、オイルが導入される油圧室を有し、この油圧室に導入されるオイルに応じて締結状態と解放状態とのいずれかの状態を取るように構成され、第4工程では、油圧制御の開始時に、少なくとも電動オイルポンプからの油圧を用いて、摩擦締結要素の油圧室にオイルを充填する。
このように構成された本発明によれば、油圧制御の開始時に、少なくとも電動オイルポンプからの油圧を用いて、摩擦締結要素の油圧室にオイルを充填する(プリチャージ)。これにより、機械式オイルポンプが十分に作動していない油圧制御の開始時に、電動オイルポンプによってプリチャージを適切に行うことができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、第2工程の前に、少なくとも摩擦締結要素にオイルを供給する油圧システム内にオイルを充填するように、電動オイルポンプを一時的に作動させる工程を更に有する。
このように構成された本発明によれば、エンジン始動前、つまりハイブリッド車両の始動直後に、電動オイルポンプを一時的に作動させることで、摩擦締結要素などにオイルを供給する油圧システム内にオイルを事前に充填しておくことができる。よって、この後の摩擦締結要素の油圧制御を速やかに開始することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、電動オイルポンプは、機械式オイルポンプの作動後に、摩擦締結要素へのオイルの供給を停止する。
このように構成された本発明によれば、電動オイルポンプによる電力消費を抑えることができる。
【0018】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、ハイブリッド車両の制御システムであって、エンジン及びモータと、エンジンを始動させるためのスタータと、エンジンとモータとの間に断続可能に設けられた摩擦締結要素と、モータによって駆動され、摩擦締結要素にオイルを供給する機械式オイルポンプと、エンジン、スタータ、モータ及び摩擦締結要素を制御するように構成された制御装置であって、摩擦締結要素が解放状態であるときに、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いて走行する第1走行モードを実行する一方で、摩擦締結要素が締結状態であるときに、少なくともエンジンのトルクを用いて走行する第2走行モードを実行するように構成された制御装置と、を有し、制御装置は、ハイブリッド車両の始動時に第1走行モードを実行可能であるか否かを判定し、第1走行モードを実行可能でないと判定された場合に、第2走行モードを実行すべく、エンジンをスタータにより始動させ、エンジンの始動後にモータを作動させ、エンジンの始動後に摩擦締結要素を解放状態から締結状態へと移行させるように摩擦締結要素に油圧を付与する油圧制御を行い、制御装置は、更に、モータの作動によって駆動された機械式オイルポンプからの油圧を少なくとも用いて、油圧制御を行う、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、車両始動時にエンジンを用いた第2走行モードを実行する場合に、エンジンの始動性悪化を抑制できると共に、摩擦締結要素の制御性を確保できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エンジンとモータとの間に設けられ、モータによって駆動される機械式オイルポンプからの油圧を用いて動作する摩擦締結要素を有するハイブリッド車両の制御方法及び制御システムにおいて、車両始動時にエンジンを用いた走行モードを実行する場合に、エンジンの始動性悪化を抑制できると共に、摩擦締結要素の制御性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態による第1クラッチの概略構成図である。
図3】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の電気的構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態による車両始動制御を説明するためのタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態による車両始動制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムを説明する。
【0022】
[装置構成]
図1は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムが適用されるハイブリッド車両の概略構成図である。
【0023】
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、主に、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するエンジン2(例えばガソリンエンジン)と、エンジン2を始動させるためのモータであるスタータ3と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてエンジン2よりも下流側に設けられ、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するモータ4と、図示しないインバータ等を介してモータ4との間で電力の授受を行うバッテリ5と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてモータ4よりも下流側に設けられ、エンジン2及び/又はモータ4による回転速度を変速する変速機6と、変速機6からのトルクを下流側に伝達する動力伝達系8と、動力伝達系8からのトルクによって車輪12を駆動するドライブシャフト10と、当該車輪(駆動輪)12と、を有する。
【0024】
エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸とは、断続(断接)可能な第1クラッチCL1を介して軸AX1によって同軸状に連結されている。この第1クラッチCL1により、エンジン2とモータ4との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第1クラッチCL1は、図示しないモータやソレノイドにより、クラッチ作動油流量及び/又はクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチや湿式多板クラッチなどによって構成されている。
【0025】
ここで、図2を参照して、第1クラッチCL1の具体的構成について説明する。図2は、第1クラッチCL1の一例を示す概略構成図である。図2に示すように、第1クラッチCL1は、オイルが導入される油圧室15aと、油圧室15aにオイルを供給する油路15bと(矢印A1参照)、油圧室15aに供給されるオイル(つまり油圧)に応じて動作するクラッチピストン15cと(矢印A2参照)、クラッチピストン15cが接触する第1クラッチプレート15dと、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触したときに、第1クラッチプレート15dとの間でトルクを伝達するようになる第2クラッチプレート15eと、油路15b上に設けられ、油圧室15aに供給される油圧を調整可能なソレノイド15fと、を備える。
【0026】
第1クラッチCL1は、付与する油圧を制御することで、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dから離間した解放状態と、クラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触した締結状態とを切り替えられるようになっている。第1クラッチCL1の解放状態では、エンジン2とモータ4との間におけるトルク伝達が遮断され、第1クラッチCL1の締結状態では、エンジン2とモータ4との間においてトルクが伝達される。この締結状態は、上記したようにクラッチピストン15cが第1クラッチプレート15dに接触した状態であるが、この状態には、第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとがスリップするスリップ状態(典型的には第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとが離間し、これらの間のオイルを介してトルクが伝達される状態)と、第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとの間で完全にトルクが伝達される完全締結状態(基本的には第1クラッチプレート15dと第2クラッチプレート15eとがしっかり当接した状態)とが含まれる。なお、このような第1クラッチCL1は、本発明における「摩擦締結要素」の一例である。
【0027】
図1に戻ると、モータ4の回転軸と変速機6の回転軸とは、軸AX2によって同軸状に連結されている。変速機6は、典型的には、サンギヤS1、リングギヤR1、ピニオンギヤP1(遊星歯車)及びキャリアC1を含む1つ以上のプラネタリギヤセットと、クラッチやブレーキ等の摩擦締結要素とを内部に備えており、車速やエンジン回転数などに応じてギヤ段(変速比)を自動的に切り替える機能を備えた自動変速機である。リングギヤR1はサンギヤS1と同心円上に配置され、ピニオンギヤP1はサンギヤS1及びリングギヤR1に噛み合うようにサンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されている。キャリアC1は、ピニオンギヤP1を自転可能且つサンギヤS1の周りを公転可能に保持する。
【0028】
また、変速機6は、断続(断接)な第2クラッチCL2を内部に備え、この第2クラッチCL2により、変速機6の上流側(エンジン2及びモータ4)と変速機6の下流側(車輪12など)との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第2クラッチCL2は、図示しないモータやソレノイドにより、クラッチ作動油流量及び/又はクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチや湿式多板クラッチなどによって構成されている。また、第2クラッチCL2も、付与する油圧を制御することで、解放状態と締結状態(スリップ状態又は完全締結状態)とのいずれかの状態とを切り替えられるようになっている。
なお、第2クラッチCL2は、実際には、変速機6において種々のギヤ段を切り替えるために用いられる多数のクラッチによって構成される。また、図1では単純化のためプラネタリギヤセットを1つだけ示しているが、実際には変速機6は複数のプラネタリギヤセットを備えている。第2クラッチCL2により代表される複数のクラッチや図示しない複数のブレーキ等の摩擦締結要素を選択的に締結して、各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えることにより、例えば複数の前進変速段と1段の後退速段とを実現可能となっている。
【0029】
動力伝達系8は、変速機6の出力軸AX3を介してトルクが入力される。動力伝達系8は、駆動力を左右一対の車輪12に対して分配するデファレンシャルギヤや、ファイナルギヤなどを含んで構成されている。
【0030】
また、ハイブリッド車両1は、モータ4によって駆動されることで(詳しくはモータ4直下流の軸AX2に連結されることでモータ4により駆動される)、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2にオイルを供給する機械式オイルポンプ17と、バッテリ5の電力により駆動されることで、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2にオイルを供給する電動オイルポンプ18と、油圧回路やソレノイドバルブなどを備え、機械式オイルポンプ17及び電動オイルポンプ18からのオイルを第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2へと供給するための油圧システム19(バルブボディに相当する)と、を有する。電動オイルポンプ18は、機械式オイルポンプ17よりも小型に構成されている。換言すると、電動オイルポンプ18は、機械式オイルポンプ17よりも、オイルの吐出量が少ない。
【0031】
油圧システム19は、機械式オイルポンプ17及び電動オイルポンプ18のいずれか一方からオイルが供給されるように切り替え可能に構成されたシフトバルブ19aを有する。このシフトバルブ19aは、機械式オイルポンプ17から十分な油圧のオイルが供給されると、電動オイルポンプ18からオイルが供給される油路を遮断するよう動作する。より詳しくは、シフトバルブ19aは、機械式オイルポンプ17及び電動オイルポンプ18の両方が作動している場合、機械式オイルポンプ17が十分な油圧を発生していないときには(例えば、機械式オイルポンプ17を駆動するモータ4の動作開始時など)、機械式オイルポンプ17及び電動オイルポンプ18の両方からのオイルを下流側へ流す一方で、機械式オイルポンプ17が十分な油圧を発生すると、電動オイルポンプ18からの油路を遮断し、機械式オイルポンプ17からのオイルのみを下流側へ流す。なお、油圧システム19は、実際には、機械式オイルポンプ17及び電動オイルポンプ18以外からもオイルが供給され、また、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2以外にもオイルを供給する。
【0032】
ここで、上記のハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1の締結と解放とを切り替えることで、走行モードを切り替えることができる。すなわち、ハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1を解放状態に設定して、エンジン2のトルクを用いずにモータ4のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第1走行モードと、第1クラッチCL1を締結状態に設定して、少なくともエンジン2のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第2走行モードと、を有する。第1走行モードは、所謂EV走行モードであり、第2走行モードは、エンジン2のトルクのみを用いてハイブリッド車両1を走行させるエンジン走行モード、及び、エンジン2及びモータ4の両方のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させるハイブリッド走行モードを含む。
【0033】
次に、図3は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の電気的構成を示すブロック図である。
【0034】
図3に示すように、コントローラ20には、エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数センサSN1からの信号と、モータ4の回転数を検出するモータ回転数センサSN2からの信号と、ドライバによるアクセルペダルの踏込み量に対応するアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN3からの信号と、ハイブリッド車両1を始動させるためのスタートスイッチSN4からの信号と、バッテリ5の充電量を示すSOC(State of Charge)を検知するSOCセンサSN5からの信号と、が入力されるようになっている。
【0035】
コントローラ20は、1つ以上のプロセッサ20a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを記憶するROMやRAMなどのメモリ20bと、を備えるコンピュータにより構成される。コントローラ20は、本発明における「制御装置」に相当し、また、本発明における「ハイブリッド車両の制御方法」を実行する。
【0036】
具体的には、コントローラ20は、上述したセンサ(スイッチ含む)SN1~SN5からの信号に基づき、主に、エンジン2、スタータ3、モータ4、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び電動オイルポンプ18に対して制御信号を出力し、これらを制御する。例えば、コントローラ20は、エンジン2の点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量を調整する制御や、モータ4の回転数、トルクを調整する制御や、第1及び第2クラッチCL1、CL2の状態(解放状態、スリップ状態、完全締結状態)を切り替えるための油圧制御や、電動オイルポンプ18のオン/オフを切り替える制御などを行う。実際には、コントローラ20は、エンジン2の点火プラグや燃料噴射弁やスロットル弁などを制御し、インバータを介してモータ4を制御し、油圧制御回路(モータやソレノイド15fなど)を介して第1及び第2クラッチCL1、CL2を制御する。
【0037】
[制御内容]
次に、本実施形態においてコントローラ20が行う制御内容について説明する。本実施形態では、コントローラ20は、ドライバによるスタートスイッチSN4の操作によるハイブリッド車両1の始動時において、モータ4のトルクを用いた第1走行モードが実行不可であるときに、典型的にはバッテリ5のSOCが所定値未満であるときに、第2走行モードを実行すべく、エンジン2をスタータ3により始動させた後、モータ4を作動させると共に、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させるように第1クラッチCL1に油圧を付与する油圧制御を行う。以下では、このようなハイブリッド車両1の始動時に行われる制御を「車両始動制御」と呼ぶ。特に、本実施形態では、コントローラ20は、この車両始動制御を行うときに、モータ4の作動によって駆動された機械式オイルポンプ17からの油圧を少なくとも用いて、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させるための油圧制御を行う。
【0038】
このような本実施形態によれば、第1クラッチCL1の油圧制御を行うに当たってモータ4を作動させておくことで、機械式オイルポンプ17を適切に作動させることができ、第1クラッチCL1の制御性を確保することができる。また、こうして第1クラッチCL1を制御して解放状態から締結状態へと移行させていくときに、つまりエンジン2のトルクを第1クラッチCL1を介してモータ4側へと伝達させていくときに、モータ4が作動しているので、モータ4が作動していない場合と比較して、エンジン2のトルクがモータ回転数上昇に用いられることによるエンジン2の始動性悪化を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態では、コントローラ20は、機械式オイルポンプ17が作動する前に電動オイルポンプ18を作動して、この電動オイルポンプ18からの油圧を用いて、上記の油圧制御を行う。これにより、機械式オイルポンプ17のみを用いる場合と比較して、第1クラッチCL1を速やかに解放状態から締結状態へと移行させることができる。こうして作動された電動オイルポンプ18から第1クラッチCL1へのオイルの供給は、上記した油圧システム19のシフトバルブ19aによって、機械式オイルポンプ17が十分に作動した後に停止されるので、これ以降、電動オイルポンプ18による電力消費を抑えることができる。
【0040】
また、本実施形態では、コントローラ20は、上記のように作動させた電動オイルポンプ18から第1クラッチCL1へと供給されたオイルを、主に、油圧制御開始時になされる第1クラッチCL1の油圧室15aへのオイル充填(プリチャージ)のために用いるようにする。電動オイルポンプ18は機械式オイルポンプ17よりもオイルの吐出量が少ないことから、電動オイルポンプ18から供給されるオイルを用いて精密な油圧制御を行いにくいが、プリチャージが行われる油圧制御開始時は精密な制御が要求されないので、電動オイルポンプ18でも十分に制御要求を満たすことができる。そして、油圧制御において精密な制御が要求されるプリチャージ後の段階(例えば第1クラッチCL1内においてクラッチピストン15cを移動させて第1クラッチプレート15dに接触させる段階など)においては、精密な制御を行うことが可能な機械式オイルポンプ17が十分に作動しているので、この機械式オイルポンプ17によって制御要求を確実に満たすことができる。
【0041】
次に、図4を参照して、本実施形態による車両始動制御について具体的に説明する。図4は、本実施形態による車両始動制御を説明するためのタイムチャートである。
【0042】
図4において、グラフG11は、エンジン回転数を示し、グラフG12は、モータ回転数を示し、グラフG21は、油圧制御において第1クラッチCL1に付与される油圧(以下では「CL1油圧」と呼ぶ。)の指令値(指示油圧)を示し、グラフG22は、この指示油圧を適用したときのCL1油圧の実油圧を示し、グラフG31は、電動オイルポンプ18の動作状態(オン/オフ)を示し、グラフG32は、機械式オイルポンプ17の動作状態(オン/オフ)を示し、グラフG4は、モータ4の出力トルク(モータトルク)を示している。
【0043】
なお、電動オイルポンプ18のオン/オフは、電動オイルポンプ18から第1クラッチCL1へのオイルの供給の有無を意味し、必ずしも電動オイルポンプ18の作動/停止には対応しない。電動オイルポンプ18が第1クラッチCL1にオイルを供給していなくても、電動オイルポンプ18が作動している場合があり、その場合には、電動オイルポンプ18は第1クラッチCL1以外の構成要素にオイルを供給していることがある(例えば他の構成要素の潤滑のためにオイルを供給していることがある)。
【0044】
まず、時刻t0において、ハイブリッド車両1を始動させるように、ドライバがスタートスイッチSN4を操作する。この直後の時刻t1において、コントローラ20は、第1クラッチCL1や第2クラッチCL2など種々の構成要素にオイルを供給する油圧システム19内にオイルを充填するように、電動オイルポンプ18を一時的に作動させる(グラフG31)。そして、時刻t2において、コントローラ20は、バッテリ5のSOCが所定値未満であるため、第1走行モードが実行不可と判定し、第2走行モードを実行すべく、エンジン2をスタータ3により始動させる(グラフG11)。
【0045】
この後、コントローラ20は、エンジン2が始動すると、具体的にはエンジン回転数が所定のアイドル回転数に達すると、時刻t3において、モータ4の作動を開始する。これにより、モータ回転数及びモータトルクが徐々に上昇していく(グラフG12、G4)。なお、上述したようなバッテリ5のSOCが所定値未満である状態では、第1走行モードを実行するようにモータ4を作動させることはできないが、モータ回転数を上昇させるようにモータ4を作動させることはできる。
【0046】
また、コントローラ20は、このようなモータ4の作動開始と略同時に、電動オイルポンプ18の作動を開始すると共に(グラフG31)、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させるための油圧制御を開始すべく、第1クラッチCL1にオイルが供給されるように、そのソレノイド15fを開に設定する(図4では図示せず)。モータ4は、作動指令を出してから速やかに動作を開始するが、第1クラッチCL1のソレノイド15fは、指令を出してから動作するまでモータ4よりも時間がかかるため、モータ4が作動を開始した時刻t3から少し遅れて、第1クラッチCL1の油圧制御が開始する、具体的には油圧制御のためのCL1油圧の指示油圧が立ち上がる(グラフG21)。
【0047】
コントローラ20は、油圧制御を開始すると、まず、第1クラッチCL1の油圧室15aへオイルを充填するために(プリチャージ)、指示油圧を比較的大きな油圧に設定する(グラフG21)。このプリチャージ時の指示油圧は、最初は、電動オイルポンプ18から供給されたオイルで実現される。この後、時刻t4において、モータ4の駆動により機械式オイルポンプ17が作動し始める(グラフG32)。よって、これ以降、プリチャージ時の指示油圧が、機械式オイルポンプ17及び電動オイルポンプ18の両方から供給されたオイルで実現されるようになる。
【0048】
そして、時刻t5において、コントローラ20は、上記したプリチャージを終了し、指示油圧をプリチャージから大きく低下させてほぼ一定に維持することで(グラフG21)、第1クラッチCL1において第1クラッチプレート15dから離間しているクラッチピストン15cを移動させて、このクラッチピストン15cを第1クラッチプレート15dに接触させるようにする。つまり、第1クラッチCL1を締結させるようにする。より詳しくは、第1クラッチCL1を解放状態からスリップ状態にし、この後、スリップ状態を維持するようにする。
【0049】
このような時刻t5からの油圧制御を行っている最中に、時刻t6において、機械式オイルポンプ17が十分に作動することで、油圧システム19のシフトバルブ19aが動作して、電動オイルポンプ18から第1クラッチCL1へのオイルの供給が停止される(グラフG31)。この後、時刻t7において、コントローラ20は、モータ回転数がエンジン回転数に一致するため、モータ4の作動を停止する(グラフG4)。そして、コントローラ20は、第1クラッチCL1を完全締結状態に設定すべく指示油圧を上昇させた後、時刻t8より、第1クラッチCL1を完全締結状態に維持すべく指示油圧を一定に維持する(グラフG21)。この後、コントローラ20は、油圧制御を終了すると共に、車両始動制御を終了する。
【0050】
次に、図5を参照して、本実施形態による車両始動制御の全体的な流れについて説明する。図5は、本実施形態においてコントローラ20によって実行される車両始動制御を示すフローチャートである。
【0051】
この車両始動制御は、ドライバがハイブリッド車両1のスタートスイッチSN4を操作したときに開始される。まず、ステップS101において、コントローラ20は、各種情報を取得する。具体的には、コントローラ20は、少なくとも上記したセンサ(スイッチ含む)SN1~SN5から信号を取得する。そして、ステップS102において、コントローラ20は、第1クラッチCL1や第2クラッチCL2など種々の構成要素にオイルを供給する油圧システム19内にオイルを充填するように、電動オイルポンプ18を事前に定められた所定時間だけ一時的に作動させる。
【0052】
次いで、ステップS103において、コントローラ20は、SOCセンサSN5によって検出されたバッテリ5のSOCが所定値未満であるか否かを判定している。ここでは、モータ4のトルクを用いた第1走行モード(EV走行モード)が実行できないほど、バッテリ5のSOCが低いか否かを判定している。そういった観点から、ステップS103の判定で用いられる所定値には、これ以上小さければ第1走行モードが実行不可となるようなバッテリ5のSOCが適用される。
【0053】
ステップS103の判定の結果、SOCが所定値未満である場合(ステップS103:Yes)、コントローラ20は、ステップS104に進み、ハイブリッド車両1に適用する走行モードを第2走行モードに設定する。これに対して、SOCが所定値以上である場合(ステップS103:No)、コントローラ20は、ステップS105に進み、ハイブリッド車両1に適用する走行モードを第1走行モードに設定する。この後、コントローラ20は、通常の第1走行モードでハイブリッド車両1を始動させるため、第2走行モードでのハイブリッド車両1の始動に関する制御である、本実施形態に係る車両始動制御を終了する。
【0054】
ステップS104の後、コントローラ20は、ステップS106に進み、エンジン2を始動させるようにスタータ3を制御する。そして、コントローラ20は、ステップS107において、エンジン2が始動したか否かを判定する。具体的には、コントローラ20は、エンジン回転数センサSN1によって検出されたエンジン回転数が所定のアイドル回転数に達したか否かを判定することで、エンジン2の始動を判定する。その結果、コントローラ20は、エンジン2が始動している場合(ステップS107:Yes)、ステップS108、S109に進み、エンジン2が始動していない場合(ステップS107:No)、ステップS107に戻る。後者の場合、コントローラ20は、エンジン2が始動するまで、ステップS107の判定を繰り返す。
【0055】
コントローラ20は、エンジン2が始動すると、モータ4の作動を開始し(ステップS108)、これと略同時に、電動オイルポンプ18の作動を開始すると共に(ステップS109)、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させるための油圧制御を開始すべく、第1クラッチCL1のソレノイド15fを開に設定する(ステップS110)。
【0056】
次いで、コントローラ20は、ステップS111に進み、油圧制御を実行する。具体的には、コントローラ20は、まず、第1クラッチCL1の油圧室15aへオイルを充填するために(プリチャージ)、指示油圧を比較的大きな油圧に設定する。このプリチャージ時の指示油圧は、最初は、機械式オイルポンプ17が作動していないため、電動オイルポンプ18から供給されたオイルのみで実現されるが、この後、モータ4の駆動により機械式オイルポンプ17が作動すると、機械式オイルポンプ17及び電動オイルポンプ18の両方から供給されたオイルで実現される。そして、コントローラ20は、上記のプリチャージが終了すると、指示油圧をプリチャージから大きく低下させてほぼ一定に維持することで、第1クラッチCL1において第1クラッチプレート15dから離間しているクラッチピストン15cを移動させて、このクラッチピストン15cを第1クラッチプレート15dに接触させるようにする。この場合、コントローラ20は、第1クラッチCL1を解放状態からスリップ状態にし、この後、スリップ状態を維持するようにする。このような油圧制御を行っている最中に、機械式オイルポンプ17が十分に作動することで、油圧システム19のシフトバルブ19aが動作して、電動オイルポンプ18から第1クラッチCL1へのオイルの供給が停止される。
【0057】
次いで、ステップS112において、コントローラ20は、上記のモータ4の作動によって上昇されたモータ回転数がエンジン回転数に到達したか否かを判定する。この場合、コントローラ20は、モータ回転数センサSN2によって検出されたモータ回転数と、エンジン回転数センサSN1によって検出されたエンジン回転数とに基づき、ステップS112の判定を行う。その結果、コントローラ20は、モータ回転数がエンジン回転数に到達している場合(ステップS112:Yes)、ステップS113に進み、モータ回転数がエンジン回転数に到達していない場合(ステップS112:No)、S112に戻る。後者の場合、コントローラ20は、モータ回転数がエンジン回転数に到達するまで、ステップS112の判定を繰り返す。
【0058】
次いで、ステップS113において、コントローラ20は、モータ回転数がエンジン回転数に到達したため、モータ4の作動を停止する。そして、ステップS114において、コントローラ20は、第1クラッチCL1を完全締結状態に設定すべく指示油圧を上昇させた後、第1クラッチCL1を完全締結状態に維持すべく指示油圧を一定に維持すると、油圧制御を終了する。この後、コントローラ20は、車両始動制御を終了する。
【0059】
[作用及び効果]
次に、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムの作用及び効果について説明する。
【0060】
本実施形態では、コントローラ20は、ハイブリッド車両1の始動時にモータ4のトルクを用いた第1走行モードが実行不可である場合に、第2走行モードを実行すべく、エンジン2をスタータ3により始動させた後、モータ4を作動させると共に、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態へと移行させるように第1クラッチCL1に油圧を付与する油圧制御を行う。特に、コントローラ20は、モータ4の作動によって駆動された機械式オイルポンプ17からの油圧を少なくとも用いて、この油圧制御を行う。
【0061】
このように第1クラッチCL1の油圧制御を行うに当たってモータ4を作動させておくことで、機械式オイルポンプ17を適切に作動させることができ、第1クラッチCL1の制御性を確保することができる。また、こうして第1クラッチCL1を制御して解放状態から締結状態へと移行させていくときに、つまりエンジン2のトルクを第1クラッチCL1を介してモータ4側へと伝達させていくときに、モータ4が作動しているので、モータ4が作動していない場合と比較して、エンジン2のトルクがモータ回転数上昇に用いられることによる(換言するとエンジン2とモータ4とのトルク差による)、エンジン2の始動性悪化を抑制することができる。このようなことから、本実施形態によれば、車両始動時にエンジン2を用いた第2走行モードを実行する場合に、エンジン2の始動性悪化を抑制できると共に、第1クラッチCL1の制御性を確保できる。
【0062】
更に、本実施形態によれば、エンジン2の始動後にモータ4を作動することで、モータ4の稼働時間を短くすることができ、バッテリ5の電力消費を抑えることができる。
【0063】
また、本実施形態では、コントローラ20は、油圧制御をモータ4の作動開始と略同時に開始するので、モータ4の作動開始後に油圧制御を開始する場合と比較して、第1クラッチCL1を速やかに解放状態から締結状態へと移行させることができる。
【0064】
また、本実施形態では、コントローラ20は、機械式オイルポンプ17が作動する前に電動オイルポンプ18を作動して、この電動オイルポンプ18からの油圧を用いて油圧制御を行うので、機械式オイルポンプ17のみを用いる場合と比較して、第1クラッチCL1を速やかに解放状態から締結状態へと移行させることができる。
【0065】
また、本実施形態では、電動オイルポンプ18は、機械式オイルポンプ17よりも小型に構成されている。この場合、電動オイルポンプ18は機械式オイルポンプ17よりもオイルの吐出量が少ないことから、電動オイルポンプ18から供給されるオイルを用いて精密な油圧制御を行いにくいが、電動オイルポンプ18を用いる油圧制御開始時は精密な制御が要求されないので、電動オイルポンプ18でも十分に制御要求を満たすことができる。そして、この後の精密な制御が要求される段階においては、精密な制御を行うことが可能な機械式オイルポンプ17によって制御要求を確実に満たすことができる。更に、電動オイルポンプ18を小型に構成することで、搭載性向上や、構成の簡素化や、省電力化を実現することができる。
【0066】
また、本実施形態では、コントローラ20は、油圧制御の開始時に、少なくとも電動オイルポンプ18からの油圧を用いて、第1クラッチCL1の油圧室15aにオイルを充填する(プリチャージ)。これにより、機械式オイルポンプ17が十分に作動していない油圧制御の開始時に、電動オイルポンプ18によってプリチャージを適切に行うことができる。
【0067】
また、本実施形態では、コントローラ20は、ハイブリッド車両1の始動直後に、電動オイルポンプ18を一時的に作動させるので、第1クラッチCL1などにオイルを供給する油圧システム19内にオイルを事前に充填しておくことができる。
【0068】
また、本実施形態では、電動オイルポンプ18は、機械式オイルポンプ17の作動後に、第1クラッチCL1へのオイルの供給を停止するので、電動オイルポンプ18による電力消費を抑えることができる。
【0069】
[変形例]
上記した実施形態では、バッテリ5のSOCが所定値未満である場合に、モータ4による第1走行モードを実行可能でないと判定していたが、他の例では、バッテリ5の温度が所定温度範囲外である場合や、第1走行モード実行に関係する構成要素等に異常がある場合などにも、モータ4による第1走行モードを実行可能でないと判定してもよい。
【0070】
また、上記した実施形態では、エンジン2が完全に始動した後に、モータ4の作動を開始していたが、他の例では、エンジン2が始動している最中に(具体的にはエンジン回転数が所定のアイドル回転数に達する前に)、モータ4の作動を開始してもよい。すなわち、エンジン2の始動を開始した後に、モータ4の作動を開始すればよい。同様に、エンジン2が始動している最中に、電動オイルポンプ18の作動を開始すると共に、第1クラッチCL1のソレノイド15fを開に設定してもよい。
【0071】
また、上記した実施形態では、プリチャージ後に、電動オイルポンプ18から第1クラッチCL1へのオイルの供給が停止したが(図4参照)、他の例では、プリチャージ中に、機械式オイルポンプ17が十分に作動してシフトバルブ19aが動作することで、電動オイルポンプ18から第1クラッチCL1へのオイルの供給が停止することもある。また、上記した実施形態では、プリチャージ中に、機械式オイルポンプ17が作動し始めたが(図4参照)、他の例では、機械式オイルポンプ17がプリチャージ後に作動し始めることもある。
【符号の説明】
【0072】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 スタータ
4 モータ
5 バッテリ
6 変速機
8 動力伝達系
12 車輪
15a 油圧室
17 機械式オイルポンプ
18 電動オイルポンプ
19 油圧システム
20 コントローラ(制御装置)
CL1 第1クラッチ(摩擦締結要素)
CL2 第2クラッチ
図1
図2
図3
図4
図5