(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016336
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】医薬品または化粧品組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/737 20060101AFI20230126BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230126BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230126BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230126BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A61K31/737
A61P43/00 105
A61P17/00
A61K8/73
A61Q19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120589
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000113908
【氏名又は名称】マルホ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 勇輝
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD341
4C083AD342
4C083BB51
4C083CC03
4C083EE12
4C083EE13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC01
(57)【要約】
【課題】高いクローディン-1産生促進能を有する組成物、及びタイトジャンクションバリアを増強できる組成物を提供する。
【解決手段】多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を有効成分として含有する、クローディン-1産生促進剤、及び、多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を有効成分として含有する、タイトジャンクションバリア増強剤。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を有効成分として含有する、クローディン-1産生促進剤。
【請求項2】
多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を有効成分として含有する、タイトジャンクションバリア増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローディン-1産生促進剤に関する。また、本発明は、タイトジャンクションバリア増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は外側から表皮、真皮、その下の皮下組織で構成されており、皮膚の最外層である表皮は、皮膚のバリア機能の維持に最も重要な役割を果たしている。また、皮膚の表皮は、角質層(角層)・顆粒層・有棘層・基底層から構成されており、皮膚のバリア機能は、主に、角質層に由来する角質層バリアと、顆粒層に由来するタイトジャンクション(TJ:Tight Junction)バリアの2つが担っている。
【0003】
このうち角質層バリアでは、天然保湿因子(NMF:Natural Moisturizing Factor)や角質細胞間脂質が、角質層バリア機能の形成や水分保持に重要な役割を果たしていると考えられている。
他方、タイトジャンクションバリアでは、顆粒層に存在する細胞間接着構造であるタイトジャンクションが、身体の水分やイオンなどの漏出を防ぐとともに、病原体などの異物の侵入を防ぐ役割を担っていると考えられている。
【0004】
従来、皮膚のバリア機能は角質層のみが担っていると考えられていたが、現在は、顆粒層のタイトジャンクションも、皮膚のバリア機能に重要な役割を担うことが知られている。タイトジャンクションは、細胞膜タンパク質であるクローディン(claudin)ファミリー及びオクルディン(occludin)、並びに細胞内裏打ちタンパク質であるZO-1などで構成されていることが知られている。これらの構成タンパク質の中でも、クローディン-1は、クローディン-1をノックアウトさせたマウスが、水分蒸散により生後1日で死亡することから、タイトジャンクションバリア機能に特に重要な役割を果たしていると考えられている。また、クローディン-1をノックアウトさせたマウスの真皮にビオチンを投与すると、ビオチンは顆粒層を通過し角層まで漏出することから、タイトジャンクションが表皮の物質透過障壁としての役割も果たしていると考えられている(非特許文献1)。
【0005】
また、クローディン-1は、皮膚だけでなく、眼球の角膜、精巣、脳、腎臓、肺、肝臓などの組織に分布していることが知られているため(非特許文献2)、クローディン-1の産生を促進することができれば、皮膚のバリア機能を改善できるだけでなく、上記各組織においてクローディン-1の低下によりもたらされる疾患の治療あるいは予防効果も期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The Journal of Cell Biology 156:1099-1111 (2002)
【非特許文献2】福岡医誌 99(2):25-31, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、優れたクローディン-1産生促進能を有する組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、優れたタイトジャンクションバリア増強作用を有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、クローディン-1の産生を促進できる物質について検討を行った結果、多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩が、優れたクローディン-1産生能を有すること、及び、優れたタイトジャンクションバリア増強作用を有することを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を有効成分として含有するクローディン-1産生促進剤に関する。
【0010】
また、本発明は、多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を有効成分として含有する、タイトジャンクションバリア増強剤に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ヘパリン類似物質(MPS)、コンドロイチン硫酸(ChS)、ヒアルロン酸(HA)が、ヒト表皮角化細胞におけるクローディン-1mRNA量に与える影響を示すグラフである。
図1において、クローディン-1mRNAの量は、評価物質非添加群のmRNA量を1とした場合の相対量で表される。
【
図2】ヘパリン類似物質(MPS)、コンドロイチン硫酸(ChS)、ヒアルロン酸(HA)が、ヒト表皮角化細胞におけるクローディン-1タンパク発現量に与える影響を示すウエスタンブロットの画像である。
【
図3】ヘパリン類似物質(MPS)、コンドロイチン硫酸(ChS)、ヒアルロン酸(HA)が、ヒト表皮角化細胞における経上皮電気抵抗(TER:Transepithelial Electrical Resistance)に与える影響を示すグラフである。
【
図4】ヘパリン類似物質(MPS)、コンドロイチン硫酸(ChS)、ヒアルロン酸(HA)が、ヒスタミン誘発タイトジャンクションバリア低下モデルにおける経上皮電気抵抗(TER)に与える影響を示すグラフである。
【
図5】ヘパリン類似物質(MPS)が、タイトジャンクションバリア低下モデル(副腎皮質ステロイドを添加した三次元培養ヒト皮膚モデル)におけるクローディン-1タンパク発現量に与える影響を示すウエスタンブロット画像とグラフである。
【
図6】ヘパリン類似物質(MPS)が、タイトジャンクションバリア低下モデル(副腎皮質ステロイドを添加した三次元培養ヒト皮膚モデル)におけるビオチン漏出に与える影響を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のクローディン-1産生促進剤/タイトジャンクションバリア増強剤は、有効成分として多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を含む。
多硫酸化コンドロイチン硫酸とは、N-アセチル-D-ガラクトサミンとD-グルクロン酸からなる二糖を反復単位とし、一単位(二糖)あたり、硫酸エステル残基を2~4個程度、好ましくは2~3個程度含むポリマーである。
【0013】
多硫酸化コンドロイチン硫酸は、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸(A、C、D、E)等のコンドロイチン成分とクロロ硫酸、濃硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体等の硫酸化剤を反応させる公知の方法により容易に製造できる。なお、コンドロイチン硫酸Aは、アセチルガラクトサミンの4位に硫酸エステル残基を有するものであり、コンドロイチン硫酸Cは、アセチルガラクトサミンの6位に硫酸エステル残基を有するものであり、コンドロイチン硫酸Dは、アセチルガラクトサミンの6位及びグルクロン酸の2位又は3位に硫酸エステル残基を有するものであり、コンドロイチン硫酸Eは、アセチルガラクトサミンの4位と6位の両方に硫酸エステル残基を有するものである。
【0014】
好ましい多硫酸化コンドロイチン硫酸の例として、日本薬局方外医薬品成分規格に収載されているヘパリン類似物質が挙げられる。
具体的には、物理化学的性質として次の値を示す多硫酸化コンドロイチン硫酸である。
a)硫酸基含量:25.8~37.3重量%
b)極限粘度:0.09~0.18
【0015】
多硫酸化コンドロイチン硫酸は、硫酸残基に由来する遊離の酸の形態で用いてもよいが、通常は、塩基塩を用いる。
【0016】
該塩基塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、マグネシウム塩等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられる多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、8,000~10,000,000程度であり、好ましくは8,000~1,000,000程度であり、より好ましくは、10,000~100,000程度であり、特に好ましくは、10,000~50,000程度である。
【0018】
有効成分である多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩の含有率は、クローディン-1産生促進剤、又は、タイトジャンクションバリア増強剤の全重量を基準として(ただし、クローディン-1産生促進剤/タイトジャンクションバリア増強剤が、原液と噴射剤とからなる場合は、原液の全重量を基準とする)、0.01~10重量%であることが好ましく、0.05~5重量%であることがより好ましく、0.1~1.0重量%であることが特に好ましい。
【0019】
多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩は、クローディン-1の高い産生促進作用を有する。また、多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩は、タイトジャンクションによるバリア機能を評価する指標として用いられているTER(バリア機能が低下すると、TERも低下する)を上昇させ、顆粒層から角質層への物質の漏出を改善した。このことから、多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩は、タイトジャンクションバリアの増強作用を有することが分かった。
【0020】
そのため、本発明は、皮膚の保湿能低下に起因する状態及び/又は疾患を、予防及び/又は治療するために用いることができる。また本発明は、皮膚以外にも、クローディン-1が分布している組織(角膜、精巣、脳、腎臓、肺、肝臓など)において、クローディン-1の産生低下に起因する疾患を治療又は予防するために用いることができる。
【0021】
さらに、ヒスタミンが、クローディン-1の産生を低下させることや、皮膚のバリア機能を阻害することが報告されており(例えば、Allergy 68, 37-47 (2013)参照)、本発明者らによる実験でも、ヒスタミンによってTERが低下する傾向が確認された。これに対して、ヒスタミンと、多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩とを併用すると、ヒスタミンにより低下したTERが上昇すること、すなわちタイトジャンクションによるバリア機能が回復することが観察された。このため、本発明は、ヒスタミンにより低下したクローディン-1産生又はタイトジャンクションバリアを回復するために用いることもできる。
【0022】
本発明のクローディン-1産生促進剤/タイトジャンクションバリア増強剤は、医薬組成物又は化粧品組成物として使用することができる。
医薬組成物としては、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に規定される医療用医薬品、要指導医薬品、一般用医薬品、又は医薬部外品に該当する組成物が挙げられる。
化粧品組成物としては、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に規定される化粧品、及び薬用化粧品である医薬部外品に該当する組成物が挙げられる。
【0023】
本発明のクローディン-1産生促進剤/タイトジャンクションバリア増強剤は、全身投与又は局所投与にて用いることができる。例えば、全身投与のために、経口剤、点滴及び注射剤として用いることができ、あるいは、口腔内、気管支、肺、鼻、直腸、皮膚、目、耳に塗布/投与するための局所用製剤(例えば、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、坐剤、皮膚外用剤など)として用いることができる。
【0024】
本発明のクローディン-1産生促進剤/タイトジャンクションバリア増強剤は、特に皮膚塗布用であることが好ましく、このための剤型は、皮膚に適用可能な形態であれば特に限定されるものではなく、例えば、日本薬局方に記載の軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ローション剤、スプレー剤(フォーム剤を含む)、貼付剤等の形態が挙げられ、薬学的に許容される添加剤と共に医薬組成物又は化粧品組成物として使用することができる。
【0025】
前記添加剤の例としては、特に限定されないが、基剤、界面活性剤、保存剤、pH調節剤、増粘剤等が挙げられる。
【0026】
基剤の例としては、特に限定されないが、白色ワセリン、スクワラン及び軽質流動パラフィン等の高級炭化水素、サラシミツロウ、ラノリン及びセレシンロウ等のロウ類、オリーブ油、ホホバ油、トリアセチン、硬化ヒマシ油等の油脂類、ラノリンアルコール、セタノール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、及びセトステアリルアルコール等の高級アルコール、ステアリン酸等の脂肪酸、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ステアリル、中鎖脂肪酸トリグリセリド等のエステル類、グリセリン及び1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール、エタノール、及びイソプロパノール等の低級一価アルコール、水(精製水)、マクロゴール(ポリエチレングリコール)、シリコン油等が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。
【0027】
界面活性剤(乳化剤の他、起泡剤として使用されるものを含む)の例としては、特に限定されないが、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。陽イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ヤシアルコールエトキシ硫酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、乳化セトステアリルアルコール(セトステアリルアルコール・セトステアリル硫酸ナトリウム混合物)等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、モノステアリン酸グリセリル等のグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、及びポリオキシエチレンベヘニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、及びトリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタイン、イミダゾリン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0028】
保存剤の例としては、特に限定されないが、ジブチルヒドロキシトルエン、エデト酸ナトリウム水和物、及びパラオキシ安息香酸エステル等が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。
【0029】
pH調節剤の例としては、特に限定されないが、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウム等が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。
【0030】
増粘剤の例としては、特に限定されないが、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、カルボキシビニルポリマー、及びカルボキシメチルセルロース等が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。
【0031】
また、剤型がフォーム剤の場合は、多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を含有する原液とともに、液化石油ガス(LPG)等の液化ガスや、圧縮ガス等の噴射剤を用いることができる。
【0032】
本発明のクローディン-1産生促進剤/タイトジャンクションバリア増強剤は、上記以外にも、医薬組成物又は化粧品組成物の添加剤として一般に用いられる添加剤(例えば、緩衝剤、香料、着色料、紫外線吸収剤等)を含んでもよい。
【0033】
本発明に係るクローディン-1産生促進剤/タイトジャンクションバリア増強剤の投与量・頻度は、対象疾患及びその症状の程度、多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩の濃度、年齢・体重等に応じて適宜調節すればよい。例えば、皮膚に塗布して用いる場合、多硫酸化コンドロイチン硫酸として、皮膚1cm2あたり0.03μg~30mg、好ましくは0.3μg~3mgを、1日1回または数回塗布すればよい。
【0034】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【実施例0035】
多硫酸化コンドロイチン硫酸またはその塩(略称:MPS)として、日本薬局方外医薬品成分規格に収載されているヘパリン類似物質(有機硫酸基含量:25.8~37.3%w/w、グルクロン酸含量19.0~24.0%w/w、マルホ株式会社)を使用した。
比較用の対照物質としては、ヒアルロン酸(略称:HA、東京化成工業株式会社)及びコンドロイチン硫酸(略称:ChS、有機硫酸基含量:15~17%w/w、マルホ株式会社)を用いた。
【0036】
[実施例1]ヘパリン類似物質(MPS)による、ヒト表皮角化細胞におけるクローディン-1mRNA発現作用
成人ヒト表皮角化細胞(Thermo Fisher Scientific社より購入)の細胞浮遊液を、24ウェルマイクロプレートに播種し、37℃、5%CO2、95%airで培養した。その6時間後にMPS又は比較対照物質含有(0.1、1、10及び100μg/mL)培地又は非含有培地(HuMedia-KG2 (クラボウ社))を500μL/ウェルとなるよう添加し、37℃、5%CO2、95%airで48時間培養した。培養上清を除去し、PBSで細胞を洗浄した後、RNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN社)を用いてtotal RNAを抽出した。その後、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNA、TaqMan Gene Expression1 Master Mix(Thermo Fisher Scientific社)、TaqMan Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を混合し、クローディン-1のmRNA量をリアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社)を用いて測定した。なお、コントロール遺伝子として、GAPDHを使用し、補正した。相対発現量は、評価物質非添加群の発現量を1とした場合の各評価物質添加群の発現量比を示す。各評価物質添加群及び非添加群は4例とした。
【0037】
結果を
図1に示す。図中の*P<0.05、**P<0.01は、評価物質非添加群(
図1の左端に「0」として示す)に対する有意差を示す。MPS添加群では、クローディン-1mRNAの濃度依存的な増加が確認された。これに対して、対照物質ChSでは有意差は確認されず、対照物質HAでは、クローディン-1mRNAの量が減少していた。これらの結果から、MPSは表皮角化細胞におけるクローディン-1の発現増加作用を有することが示唆された。
【0038】
[実施例2]ヘパリン類似物質(MPS)による、ヒト表皮角化細胞におけるクローディン-1タンパク発現作用
成人ヒト表皮角化細胞(Thermo Fisher Scientific社より購入)の細胞浮遊液を、12ウェルマイクロプレートに播種して37℃、5%CO2、95%airで培養した。6時間後、MPS又は比較対照物質含有(0.1、1、10及び100μg/mL)培地又は非含有培地(HuMedia-KG2(クラボウ社))を2mL/ウェルとなるよう添加し、37℃、5%CO2、95%airでさらに48時間培養した。
培養終了後、RIPA Buffer(Radio Immunoprecipitation Assay Buffer、ナカライテスク株式会社)を添加し、細胞を溶解し、遠心分離し、上清を回収した。これを細胞抽出液とし、そのタンパク濃度はBCA Protin Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社)のマニュアルに従って測定し、SDS-PAGEに供するタンパク濃度を一定に調製した。XV PANTERA System及びTrans-Blot(登録商標)Transfer Systemを用いてSDS-PAGE及び膜転写を行った。5%スキムミルクでブロッキング後、一次抗体液(Claudin-1 Polyclonal Antibody (Thermo Fisher Scientific社)、β-actin (8H10D10) Mouse mAb (Cell signaling社))に浸し、4℃で一晩振盪した。TBS-Tで洗浄後、二次抗体液(Anti-rabbit IgG、HRP-linked Antibody (Cell signaling社)、Anti-mouse IgG, HRP-linked Antibody (Cell signaling社))に浸し、再度洗浄し、化学発光はSuperSignal West Dura Extended Duration Substrate(Thermo Fisher Scientific社)を用いて検出した。
【0039】
結果を
図2に示す。
図2から明らかなように、MPS添加群では、クローディン-1タンパク質量の濃度依存的な増加が確認された。これに対して、対照物質ChS及びHAでは、そのような作用は確認できなかった。これらの結果から、MPSは表皮角化細胞におけるクローディン-1タンパク質量の増加作用を有することが確認された。
【0040】
[実施例3]ヘパリン類似物質(MPS)による、ヒト表皮角化細胞における経上皮電気抵抗(TER)上昇作用
【0041】
TER値は、リアルタイム細胞解析装置(ECIS-Zθ、Applied BioPhysics社)及び電極ステーション96W(ECIS-96WAS、Applied BioPhysics社)を用いて測定した。
電極付96ウェルプレート(96W20idf PET、Applied BioPhysics社)に10mMのL-cysteine水溶液(ナカライテスク株式会社)を添加した。その後、各ウェルを蒸留水で洗浄した。成人ヒト表皮角化細胞(Thermo Fisher Scientific社より購入)の細胞浮遊液を1.25×105細胞/cm2で、各ウェルに播種し、細胞播種から6時間後に、MPS又は比較対照物質含有(0.1、1、10及び100μg/mL)培地又は非含有培地(HuMedia-KG2 (クラボウ社))を200μL/ウェルとなるよう添加し、経時的に37℃、5%CO2、95%airで、ECIS-Zθによる測定を開始した。各測定時点のTER値は、被験物質添加時点からの変化量として算出し、72時間後まで測定した。
【0042】
結果を
図3に示す。図中の*P<0.05、**P<0.01は、評価物質非添加群(ビヒクル)に対する有意差を示す。
図3から明らかなように、MPS(
図3A)は、ヒト表皮角化細胞におけるTERを濃度依存的に増加した。対照物質ChS及びHA(
図3B及びC)も、TER増加作用を示したが、MPSが最も高いTER増加作用を有することが確認された。TERは、タイトジャンクションがイオンの透過を制限することから生じる抵抗値であり、タイトジャンクションバリア機能を評価する指標として広く用いられている。実施例3によるTERの測定結果から、MPSが、タイトジャンクションバリア機能を向上させることが確認された。
【0043】
[実施例4]ヘパリン類似物質(MPS)による、ヒスタミン誘発タイトジャンクションバリア低下モデルにおける経上皮電気抵抗(TER)上昇作用
細胞播種から6時間後に、ヒスタミン(0.1mM)単独、ヒスタミン(0.1mM)及びMPS含有(0.1、1、10及び100μg/mL)培地、ヒスタミン(0.1mM)及び比較対照物質含有(0.1、1、10及び100μg/mL)培地、又は非含有培地(HuMedia-KG2 (クラボウ社))を200μL/ウェルとなるよう添加し、測定時間を48時間後までとした以外は、実施例3と同様の方法により、TER値を測定した。
【0044】
結果を
図4に示す。
図4から明らかなように、ヒスタミンによりTERは大きく低下した(タイトジャンクションバリア機能が低下した)。MPSは、ヒスタミンにより低下したTERを濃度依存的に増加したが(
図4A)、対照物質ChS及びHAでは、増加作用はほとんど認められなかった(
図4B及びC)。このことから、MPSが、ヒスタミンで低下したタイトジャンクションバリア機能を回復させることが確認された。
【0045】
[実施例5]
三次元培養ヒト皮膚モデルによるタイトジャンクションバリアの評価
三次元培養ヒト皮膚モデル(EPI-200、MatTek)を、種々の濃度のMPSと、単一濃度のクロベタゾールプロピオン酸エステル(CP、東京化成工業株式会社)との混合試験液(MPS濃度:0、1、10及び100μg/mL、CP濃度:30μg/mL)又は培地2mL(ビヒクル)を入れた6ウェルプレートに移し、CO2インキュベーター内(設定:37℃、5%CO2)でインキュベートした後、1mg/mLビオチンを含む試験液にそれぞれ移し替えて、インキュベートした。48時間インキュベート後、分割して、凍結ブロックの作製及びウエスタンブロットに用いた。
【0046】
ウエスタンブロット
培養終了後、RIPA Buffer(ナカライテスク)を加え、三次元培養ヒト皮膚モデルを溶解し、遠心分離し、上清(細胞抽出液)を回収した。これを細胞抽出液とし、そのタンパク濃度はBCA Protin Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社)のマニュアルに従って測定し、SDS-PAGEに供するタンパク濃度を一定に調製した。XV PANTERA System及びTrans-Blot(登録商標)Transfer Systemを用いてSDS-PAGE及び膜転写を行った。5%スキムミルクでブロッキング後、一次抗体液(Claudin-1 Polyclonal Antibody (Thermo Fisher Scientific社)、β-actin (8H10D10) Mouse mAb (Cell signaling社))に浸し、4℃で一晩振盪した。TBS-Tで洗浄後、二次抗体液(Anti-rabbit IgG、HRP-linked Antibody (Cell signaling社)、Anti-mouse IgG, HRP-linked Antibody (Cell signaling社))に浸し、室温で1時間振盪した。化学発光はSuperSignal West Dura Extended Duration Substrate(Thermo Fisher Scientific社)を用いて検出した。
【0047】
免疫染色
凍結ブロックを5μmで薄切し、95%EtOH(-20℃、30分)で固定後、1%BSA/PBS(-)でブロッキングした。1%BSA/PBS(-)で希釈した一次抗体 (Claudin-1 Polyclonal Antibody (Invitrogen社)、Anti-Mouse E-cadherin Monoclonal Antibody (Invitrogen社))400μLを加え、湿潤箱中で4℃、一晩静置した。PBSで洗浄後、1%BSA/PBS(-)で倍希釈した二次抗体(Goat anti-Rabbit IgG(H+L)Cross-Adsorbed Secondary Antibody、Alexa Fluor 488 (Invitrogen社)、Streptavidin,Alexa FluorTM568 conjugate (Invitrogen社)、Alexa Fluor 647-conjugated AffiniPure Goat Anti-Rat IgG、Light Chain Specific (Jackson ImmunoResarch社)、Hoechst 33342 (Invitrogen社))400μLを加え、室温で1時間静置した。PBSで洗浄後、Mowiolを用いて封入し、共焦点レーザースキャン顕微鏡(オリンパス株式会社)で観察を行った。
【0048】
図5Aにウエスタンブロットから得られた画像を示す。
図5Bは、β-アクチンに対するクローディン-1の相対量を示す(n=6)。
図5B中、††P<0.01(CP及びMPSが共に0μg/mLのビヒクル群に対して)、*P<0.05、**P<0.01(CPが30、MPSが0μg/mLのコントロール群に対して)。
図5から明らかなように、副腎皮質ステロイド(CP)の添加により、クローディン-1タンパク質量は著しく低下したが、MPSの添加により濃度依存的に回復した。
【0049】
図6に免疫染色の結果を示す。上段は、クローディン-1(緑)の蛍光像を示す。中段と下段はビオチン(赤)及びZO-1(緑)の蛍光像を示し、下段は中段の一部拡大図である。SCは角質層を示し、SGは顆粒層を示す。
培地のみを添加した正常な3次元培養皮膚モデル(以下、正常皮膚モデル。
図6中では「Vehicle」と表記)では、上段に示すように、クローディン1の発現が明確に確認できる。また、正常皮膚モデルでは、トレーサー(ビオチン)が顆粒層側にとどまっており(正常皮膚モデルの下段の画像の矢印は、ビオチンがタイトジャンクションにより顆粒層側にとどまっている様子を示す)、角質層側への漏出は認められない。これらの画像は、正常皮膚モデルにおいて、タイトジャンクションバリアが正常に機能していることを示す。これに対して、CPを添加した三次元培養皮膚モデル(以下、CPモデル)では、上段に示すようにクローディン-1の減少が認められた。また、中段・下段に示すように、顆粒層に存在するタイトジャンクションバリアが破壊され、その結果、顆粒層から角質層側へのビオチンの漏出が認められた(CPモデルの下段の画像の矢印は、ビオチンが、角質層側に漏出しているポイントを示す)。
他方、CPモデルにMPSをCPと同時添加することで、正常皮膚モデルと同様、クローディン-1の発現が明確に確認でき、且つ、ビオチンの角質層側への漏出は認められなかった。
実施例5の結果から、MPSの添加により、クローディン-1タンパク質の発現が増加すること、及び、タイトジャンクションバリア機能が改善することが確認された。