(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163390
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
G05B23/02 R
G05B23/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074276
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 英晃
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 賢治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 安孝
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA04
3C223AA11
3C223AA23
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF05
3C223FF22
3C223FF46
3C223FF52
3C223GG01
3C223HH03
(57)【要約】
【課題】モデルに基づく予測をより高精度に実行する。
【解決手段】情報処理装置は、モデル生成部と予測部とを備える。モデル生成部は、監視対象のシステムの異常に関連する現象に関する変数の時系列データを用いた機械学習により、システムの保全のタイミングを特定するために用いられる指標を予測する予測モデルと、変数を予測する物理モデルと、を生成する。予測部は、予測モデルにより予測された指標を用いて学習される物理モデルを用いた第1予測処理と、予測モデルにより予測された指標を、物理モデルを用いて予測された変数を用いて修正する第2予測処理と、のいずれかを実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象のシステムの異常に関連する現象に関する変数の時系列データを用いた機械学習により、前記システムの保全のタイミングを特定するために用いられる指標を予測する予測モデルと、前記変数を予測する物理モデルと、を生成するモデル生成部と、
前記予測モデルにより予測された前記指標を用いて学習される前記物理モデルを用いた第1予測処理と、前記予測モデルにより予測された前記指標を、前記物理モデルを用いて予測された前記変数を用いて修正する第2予測処理と、のいずれかを実行する予測部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
従属変数または独立変数に基づく非線形基底関数を含む複数種類のサブライブラリと、各サブライブラリに含まれる複数の非線形基底関数のそれぞれの生成確率と、を記憶する記憶部をさらに備え、
前記モデル生成部は、複数種類の前記サブライブラリから、前記生成確率に基づき抽出した1つ以上の前記非線形基底関数を組み合わせることにより、前記予測モデルおよび前記物理モデルをそれぞれ生成する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記モデル生成部は、他の非線形基底関数より前記指標に対する影響が大きい非線形基底関数の前記生成確率が大きくなるように前記生成確率を修正する修正部を備え、
前記第1予測処理は、修正された前記生成確率に基づき抽出された前記非線形基底関数を組み合わせることにより生成される前記物理モデルを用いる、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記モデル生成部は、
前記予測モデルおよび前記物理モデルのいずれかである対象モデルについて、複数種類の前記サブライブラリから前記生成確率に基づき抽出した1つ以上の前記非線形基底関数を組み合わせることにより複数の前記対象モデルを生成し、複数の前記対象モデルそれぞれについて損失関数を算出する回帰式生成部と、
前記損失関数に基づいて、前記生成確率、および、前記機械学習のハイパーパラメータを修正する修正部と、
修正された前記ハイパーパラメータを用いた機械学習により、複数種類の前記サブライブラリから修正された前記生成確率に基づき抽出した1つ以上の前記非線形基底関数を組み合わせることにより前記対象モデルを再生成する回帰式再生成部と、
を備える、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記損失関数に基づいた順位により選択した複数の前記対象モデルを示す情報を出力する出力制御部をさらに備える、
請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記第2予測処理は、前記予測モデルにより前記指標を予測し、前記物理モデルにより前記変数を予測し、予測した前記変数と前記指標との関係を示す関係情報を用いて、前記予測モデルにより予測した前記指標を修正する処理を含む、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記予測モデルおよび前記物理モデルのいずれかである対象モデルは、線形回帰式であり、
前記モデル生成部は、前記線形回帰式の係数をスパース推定により推定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項8】
情報処理装置で実行される情報処理方法であって、
監視対象のシステムの異常に関連する現象に関する変数の時系列データを用いた機械学習により、前記システムの保全のタイミングを特定するために用いられる指標を予測する予測モデルと、前記変数を予測する物理モデルと、を生成するモデル生成ステップと、
前記予測モデルにより予測された前記指標を用いて学習される前記物理モデルを用いた第1予測処理と、前記予測モデルにより予測された前記指標を、前記物理モデルを用いて予測された前記変数を用いて修正する第2予測処理と、のいずれかを実行する予測ステップと、
を含む情報処理方法。
【請求項9】
コンピュータに、
監視対象のシステムの異常に関連する現象に関する変数の時系列データを用いた機械学習により、前記システムの保全のタイミングを特定するために用いられる指標を予測する予測モデルと、前記変数を予測する物理モデルと、を生成するモデル生成ステップと、
前記予測モデルにより予測された前記指標を用いて学習される前記物理モデルを用いた第1予測処理と、前記予測モデルにより予測された前記指標を、前記物理モデルを用いて予測された前記変数を用いて修正する第2予測処理と、のいずれかを実行する予測ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、情報処理装置、情報処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
予知保全技術として、対象とするシステムに対して、監視データ、または、システムダウン予測モデルに基づいて寿命予測を行う技術がある。物理現象のモデル化の技術として、機械学習の一種である関数同定問題を応用し、時系列データから物理現象を記述する数理モデルを獲得する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.L. Brunton, J.L. Proctor, J.N. Kutz,”Discovering governing equations from data by sparse identification of nonlinear dynamical systems”, Proc. Natl. Acad. Sci., 113 (2016), pp. 3932-3937
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、モデルに基づく予測をより高精度に実行できる情報処理装置、情報処理装置、情報処理方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の情報処理装置は、モデル生成部と予測部とを備える。モデル生成部は、監視対象のシステムの異常に関連する現象に関する変数の時系列データを用いた機械学習により、システムの保全のタイミングを特定するために用いられる指標を予測する予測モデルと、変数を予測する物理モデルと、を生成する。予測部は、予測モデルにより予測された指標を用いて学習される物理モデルを用いた第1予測処理と、予測モデルにより予測された指標を、物理モデルを用いて予測された変数を用いて修正する第2予測処理と、のいずれかを実行する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】き裂が生じたときの温度の伝わり方の変化の例を示す図。
【
図10】原因現象および各指標などの関係を示す図。
【
図12】予測により得られる寿命分布の例を示す図。
【
図15】予測モデルを用いた寿命予測のフローチャート。
【
図16】原因現象および各指標などの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる情報処理装置の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0009】
従来の予知保全における予測(異常予兆診断および寿命予測など)の技術では、材料強度、負荷算定、および、構造寸法などの不確定性の大きさに起因して、予測精度が悪く、精度向上が必要であった。また、予測モデル、および、予測指標に関する物理モデル(物理現象のモデル)の構築には、大量の学習データおよび解析データ、並びに、専門家による多大なエンジニアリング労力が必要となる。さらに、予測の結果についての原因を説明できない場合が多く、説明性の向上も要望されている。
【0010】
例えば、物理モデルとして疲労寿命モデルを生成する場合、疲労損傷現象および伝熱現象における複雑さの影響により、どのモデルを適用するかを人手で判断する必要があり、適切な物理モデルを使用することができない可能性がある。
【0011】
そこで、本実施形態では、少なくとも2つのモデルを生成し、2つのモデルを用いた予測を行う。これにより、モデルに基づく予測をより高精度に実行可能となる。また、本実施形態では、複数種類のサブライブラリから抽出されたサブライブラリを組み合わせることにより、各モデルを生成することができる。これにより、エンジニアリングレス、かつ、ドメイン知識および工学知見を盛り込んだ複数モデルに基づく予測の説明性向上、予測の精度向上、および、少数データ学習によるモデル生成を実現できる。
【0012】
本実施形態の情報処理システム(予知保全システム)は、主に以下の5つの構成要素を備える。
・構成要素E1:予知保全において保全のタイミングを特定(把握)するために用いられる指標(以下、タイミング指標)を予測する予測モデル。予測モデルは、システムダウンに至る現象の直接的な指標(以下、直接指標)を予測する物理モデルを入れ子構造として内包してもよい。
・構成要素E2:監視対象のシステムの異常に関連する現象に関する従属変数(例えば従属変数ベクトルX)を予測する物理モデル。従属変数(物理モデル)は2種類以上であってもよい。監視対象のシステムの異常に関連する現象は、システムダウンに至る現象の原因に関連する現象(以下、原因現象)、および、システムダウンに至る現象に対して間接的に現れる現象(以下、間接現象)の少なくとも一方である。
・構成要素E3:予測モデルおよび物理モデルをサロゲートモデルとして生成する機能。
・構成要素E4:サロゲートモデルに関するドメイン知識および工学知見を蓄積したサブライブラリ。
・構成要素E5:原因現象または間接現象に関する従属変数の監視データを取得する機能。
【0013】
タイミング指標としては、寿命、損傷確率、破損確率、故障確率、損傷リスク、破損リスク、および、故障リスクなどが挙げられる。システムダウンに至る現象としては、劣化現象、損傷現象、破損現象、および、故障現象が挙げられる。直接指標としては、予測モデルの入力変数(独立変数)となる、非弾性ひずみ範囲、破壊力学パラメータ、および、J積分値などが挙げられる。原因現象としては、温度および電流などが挙げられる。間接現象としては、き裂、異常摩擦および摩耗などの損傷発生に伴って生じる、異常発熱および異常振動現象が挙げられる。
【0014】
なお、システムダウンは、システムが停止する状態だけではなく、システムまたはシステム構成要素が、規定の性能または機能を満たさなくなる状態を含む。
【0015】
例えばパワーエレクトロニクスシステムの予知保全では、以下のような指標およびモデルが用いられる。
・タイミング指標:インバータなどのコンポーネントの交換時期(保全のタイミング)を特定するために必要な寿命(疲労寿命)。
・予測モデル:寿命の予測モデル。非弾性ひずみ範囲などの直接指標を予測する物理モデル(寿命指標推定モデル)を含んでもよい。
・物理モデル:温度を推定する温度推定モデル。
【0016】
これにより、例えば予測された寿命に基づき保全のタイミングを決定可能となり、保全の対応として、冷却器の清掃および損傷部の修理交換などを実施可能となる。
【0017】
上記のような構成要素を備える情報処理システムの構成例について説明する。
【0018】
図1は、情報処理システム100の一例を示す模式図である。
【0019】
情報処理システム100は、情報処理装置1と、対象装置2と、を備える。情報処理装置1と対象装置2とは、データまたは信号を授受可能に接続されている。
図1では1つの対象装置2が記載されているが、情報処理システム100は、2つ以上の対象装置2を備えてもよい。
【0020】
対象装置2は、1または複数の部品を備え、供給された電力によって駆動する機器である。対象装置2は、例えば、1つのラック内に1または複数の電子部品を搭載した各種装置に適用される。具体的には、対象装置2は、パワーエレクトロニクスシステム、風力発電プラントのドライブトレインのような回転機械システムなどの各種装置に適用される。
【0021】
対象装置2は、例えば、1つ以上の部品および1つ以上のセンサを備える。部品は、例えば、供給された電力に応じて駆動する装置である。この装置には、供給された電力に応じて駆動することで発熱する発熱部品が含まれる。なお、“駆動”には、電気的な駆動、および機械的な駆動、の双方が含まれる。
【0022】
発熱部品は、例えば、電子回路などである。なお、発熱部品は、供給された電力に応じて駆動することで発熱する部品であればよく、電子回路に限定されない。
【0023】
図2は、部品の一例を示す図である。
図2に示す部品20は、例えば、パワーエレクトロニクスシステムで用いられる半導体素子である。部品20は、基板26と、接合層25と、基板24と、接合層23と、チップ22と、ボンディングワイヤ21と、を含む。接合層23、25は、はんだ、または、銀焼結材などにより構成される。
【0024】
部品20は、発熱などに起因してき裂(クラック)が生じる場合がある。
図2では、き裂31~34が生じている部品20の例が示されている。
図3は、き裂が生じたときの温度の伝わり方の変化の例を示す図である。接合層25に生じたき裂34により、温度の伝わり方が悪化し、例えばセンサにより検出される温度に異常が生じる場合がある。また、き裂34が進展することにより、部品20が規定の性能または機能を満たさなくなる場合がある。
【0025】
部品は、発熱部品に限られず、例えば、アルミなどの金属ブロックにより構成される、冷却機能を有する部品であってもよい。
【0026】
センサは、例えば、環境変動の物理量を測定する。例えば測定対象となる1か所以上の位置(部位)が予め定められ、各位置に対応する1つ以上のセンサが備えられる。以下では、位置P1~位置P5における物理量を測定する複数のセンサが備えられる例を主に説明する。例えば、複数のセンサは、位置P1~位置P5における温度、電流、電圧、風速の物理量を検出し、検出結果を検出値として出力する。物理量および検出値は、例えば、温度、電流、電圧、風速等を示す数値で表される。なお、物理量および検出値は、圧力および空冷ファンの回転数等を含んでもよい。
【0027】
複数のセンサは、例えば、温度センサ、流量センサ、電流センサ、電圧センサなどである。
【0028】
複数のセンサは、対象装置2の筐体内または筐体外の環境変動を測定可能な位置に配置されていればよい。複数のセンサは、対象装置2に内蔵されてもよいし、測定時のみ対象装置2に外付けされてもよい。
【0029】
情報処理装置1は、センサ等により検出される対象装置2の監視データを用いて予測モデルおよび物理モデルを生成する機能、および、予測モデルおよび物理モデルを用いて予知保全における予測を行う機能を有する。情報処理装置1と、対象装置2に設けられた複数のセンサの各々とは、データまたは信号を授受可能に接続されている。なお、情報処理装置1は、対象装置2に搭載されたセンサ以外の他の各種の情報処理装置を含む対象装置と、データまたは信号を授受可能に更に接続されていてもよい。例えば、情報処理装置1は、複数のセンサと、複数の部品の内の少なくとも1つと、データまたは信号を授受可能に接続されていてもよい。また、情報処理装置1は、例えば、サーバやワークステーション等である。
【0030】
例えば、情報処理装置1は、複数のセンサから取得したデータを、記憶媒体やクラウドにより、遠隔にある情報処理装置へ一括でデータ送信するようにしてもよい。
【0031】
次に、情報処理装置1の機能的構成の一例を説明する。
【0032】
図1に示すように、情報処理装置1は、記憶部10と、取得部13と、モデル生成部11と、予測部14と、出力制御部15と、出力部12と、を備える。モデル生成部11と、記憶部10および出力部12とは、データまたは信号を授受可能に接続されている。
【0033】
記憶部10は、各種のデータを記憶する。記憶部10は、例えば、公知のHDD(ハードディスクドライブ)などの記憶媒体である。本実施形態では、記憶部10は、ライブラリ情報101と、予測モデル102と、物理モデル103と、を記憶する。
【0034】
ライブラリ情報101は、予測モデル102および物理モデル103の生成に用いられるサブライブラリなどを含む。予測モデル102および物理モデル103は、ライブラリ情報101を用いてモデル生成部11により生成され、記憶部10に記憶される。
【0035】
ライブラリ情報101は、非線形基底関数を含む複数種類のサブライブラリが定義された情報であるサブライブラリ定義情報と、各サブライブラリに含まれる複数の非線形基底関数のそれぞれの生成確率の情報である生成確率情報とを含む情報である。
【0036】
まず、
図4を用いて、サブライブラリについて説明する。各サブライブラリは、熱モデルを示す線形回帰式を生成するためのサブライブラリである。
図4は、サブライブラリ定義情報を示す図である。
図4に示すように、サブライブラリとして、熱伝導サブライブラリ、ふく射サブライブラリ、強制対流サブライブラリ、自然対流サブライブラリ、および発熱サブライブラリを含む。各サブライブラリは、1または複数の非線形基底関数を含む。なお、サブライブラリは、
図4に示すものに限られず、相変化を考慮する相変化サブライブラリを定義するようにしてもよい。
【0037】
図4に示すT
i、T
jは、位置P1~P5の何れかの位置の温度である。また、ΔT、ΔT
i-jは、2点間の温度差である。vは、速度(風速)である。Vは、電圧である。i
1、i
2は、電流である。このように、サブライブラリは、従属変数(温度)、独立変数(速度、電流、電圧)に基づく非線形基底関数を含む。
【0038】
図4に示すように、各サブライブラリは、1以上の非線形基底関数を含む。また、強制対流サブライブラリや自然対流サブライブラリは、指数が異なる非線形基底関数を複数含む。
【0039】
上記熱モデルは、節点(温度測定ポイント)に成り立つエネルギー保存則は、以下の式(1)に示す節点方程式で表現する。
【0040】
【0041】
上記式(1)のRが熱抵抗で、Tが温度で、Qが発熱量で、Δtが時間間隔である。また、mは時間の添え字である。
【0042】
上記式(1)を変形すると、以下の式(2)となる。
【0043】
【0044】
式(2)の右辺が示すように、Q/CやΔT/RCを示す非線形基関数を用意できれば、適切な線形回帰式を導くことができる。保守運用など、寸法や物性が変わらない場合、熱伝導サブライブラリ、ふく射サブライブラリ、強制対流サブライブラリ、および自然対流サブライブラリの非線形基底関数は、ΔT/RCに比例する。また、発熱サブライブラリは、Q/Cに比例する。本実施形態の情報処理装置1は、サブライブラリ定義情報で定義するサブライブラリを用いることで、熱モデルに即した線形回帰式を生成する。
【0045】
ライブラリ情報101は、同一サブライブラリに含まれる複数の非線形基底関数から選択される確率である生成確率の情報をさらに含む。
【0046】
続いて、
図5を用いて生成確率について説明する。
図5は、生成確率情報を示す図である。
図5に示すように、サブライブラリと、指数と、生成確率とが対応付けられている。
【0047】
図1に戻り、取得部13は、情報処理装置1で用いる各種情報を取得する。例えば取得部13は、監視対象のシステムの異常に関連する現象に関する変数の時系列データ(監視データ)を取得する。監視データは、例えば、複数のセンサによる検出結果(センサ情報)である。すなわち取得部13は、複数のセンサが検出した検出結果を取得する。例えば取得部13は、位置P1~位置P5における温度と、位置P5における風速と、位置P1および位置P2における電流と、位置P1における電圧とを所定時間毎に計測した検出結果を取得する。なお、取得部13は、空冷ファンの回転数や電圧の情報を取得し、これらの情報に基づいて風速を算出するようにしてもよい。
【0048】
ここで、取得部13が取得するデータの例を
図6に示す。
図6は、センサ情報の一例を示す図である。
図6に示すように、例えば、0.5秒毎に計測したデータを取得する。
図6に示すTemp1~Temp5は、位置P1~位置P5における温度である。
図6に示すvは、位置P5における風速である。i
1およびi
2は、位置P1および位置P2における電流である。
図6に示すVは、位置P1における電圧である。なお、取得部13は、取得した検出結果を記憶部10に登録するようにしてもよい。
【0049】
図1に戻り、モデル生成部11は、取得部13により取得された監視データを用いた機械学習により、予測モデル102と物理モデル103とを生成する。
【0050】
モデル生成部11は、例えば、複数種類のサブライブラリから、生成確率に基づき抽出した1つ以上の非線形基底関数を組み合わせることにより予測モデル102および物理モデル103をそれぞれ生成する。このように、モデル生成部11は、ライブラリ情報101を用いた同様の手順により予測モデル102および物理モデル103を生成することができる。以下では、予測モデル102および物理モデル103のいずれかである対象モデルとして、熱モデルを示す線形回帰式を生成する例を主に説明する。適用可能なモデルは熱モデルに限られない。
【0051】
また、予測モデル102および物理モデル103の生成方法は、ライブラリ情報101を用いた方法に限られず、どのような方法であってもよい。従って、情報処理装置1は、構成要素E4は備えなくてもよい。また、事前に生成された予測モデル102および物理モデル103を用いることができる場合等であれば、情報処理装置1は、モデル生成部11(構成要素E3)は備えなくてもよい。
【0052】
予測部14は、以下の2種類の予測処理のいずれかを実行する。
・予測処理PA(第1予測処理):予測モデル102により予測された指標(タイミング指標)を用いて学習される物理モデル103を用いた予測
・予測処理PB(第2予測処理):予測モデル102により予測された指標(タイミング指標)を、物理モデル103を用いて予測された変数を用いて修正する予測
【0053】
予測処理PAは、例えば、予測モデル102により予測されたタイミング指標を用いて修正された生成確率に基づき抽出された非線形基底関数を組み合わせることにより生成される物理モデル103を用いる予測である。また、予測処理PBは、予測モデル102によりタイミング指標を予測し、物理モデル103により予測した従属変数とタイミング指標との関係を示す関係情報を用いて、予測モデル102により予測したタイミング指標を修正する処理を含む。
【0054】
関係情報は、例えば、原因(システムの異常に関連する現象に関する従属変数)と、タイミング指標の分布(寿命の分布、損傷値の分布など)と、を関連づけるデータベース(以下、関係データベースという)である。関係データベースは、例えば記憶部10に記憶される。
【0055】
例えば、関係データベースは、原因現象または間接現象に関する従属変数(従属変数ベクトルX)と、寿命(寿命サイクル数、時間、破損確率など)と、の関係性を記述したデータまたはモデル(関係性を示す関係式、テーブル、および、数理モデルなど)である。
【0056】
予測部14は、物理モデル103により、原因現象または間接現象に関する従属変数の監視データを予測できる。また、予測部14は、予測した従属変数と関係データベースとにより、寿命を予測することができる。
【0057】
例えば、対象装置2の接合部の疲労破損の場合、き裂進展の長さ(以下、き裂進展長さ)により対象部位における熱抵抗の上昇度合が変化し、き裂が存在しない場合と比較して温度分布が変化する。寿命と原因の関係性の例としては、熱抵抗上昇とき裂進展長さの関係が挙げられる。例えば予測部14は、対象とする熱抵抗に関する項の係数の変化から、寿命と原因の関係を示す関係データベースを利用して、き裂進展長さ、および、寿命を算出することができる。
【0058】
このように、予測部14は、物理モデル103と関係データベースとを用いて、タイミング指標(例えば寿命)を予測することができる。
【0059】
一方、予測部14は、予測モデル102に含まれる物理モデル(直接指標を予測する物理モデルを用いて寿命を予測することもできる。例えば、対象装置2の接合部の疲労破損の場合、予測部14は、直接指標である非弾性ひずみ範囲およびJ積分値などの破壊力学指標のサロゲートモデル、および、確率モデルから、寿命則、き裂進展則、および、累積損傷則を用いて、寿命分布を予測することができる。
【0060】
このとき、例えば、接合部が疲労破損する恐れがある場合、接合部の寿命予測結果を用いて、接合部の累積損傷値の大きさに応じて、接合部のき裂進展と関連のある接触熱抵抗変化に関するサブライブラリの基底関数の生成確率を変化させてもよい。温度推定モデル(物理モデル103)は、変化させた生成確率を用いて生成することができる。これにより、物理モデル103を高精度化させることができる。このようにして生成された物理モデル103を用いた予測処理が、上記の予測処理PAに相当する。
【0061】
また、予測モデル102により予測したタイミング指標(寿命)を、物理モデル103と関係データベースとを用いて予測したタイミング指標を用いて修正する予測処理が、上記の予測処理PBに相当する。予測処理PBは、例えば、予測モデル102および物理モデル103のそれぞれを用いて算出したタイミング指標(寿命)に関する情報から、ベイズモデルを活用して、予測を高精度化する処理である。
【0062】
出力制御部15は、情報処理装置1で用いられる各種情報の出力を制御する。例えば出力制御部15は、モデル生成部11により生成されたモデルに関する情報、および、予測部14による予測結果などを出力部12に出力する。
【0063】
上記各部(モデル生成部11、取得部13、出力制御部15、および、予測部14)は、例えば、1または複数のプロセッサにより実現される。例えば上記各部は、CPUなどのプロセッサにプログラムを実行させること、すなわちソフトウェアにより実現してもよい。上記各部は、専用のICなどのプロセッサ、すなわちハードウェアにより実現してもよい。上記各部は、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。複数のプロセッサを用いる場合、各プロセッサは、各部のうち1つを実現してもよいし、各部のうち2以上を実現してもよい。
【0064】
出力部12は、出力制御部15による制御に応じて、各種の情報を出力する。例えば出力部12は、生成されたモデルの情報、および、モデルによる予測結果などを出力する。
【0065】
出力部12は、各種の情報を表示する表示機能、外部装置との間でデータを通信する通信機能、の少なくとも1つを備える。外部装置とは、対象装置2の外部に設けられた装置である。対象装置2と外部装置とは、ネットワークなどを介して通信可能とすればよい。例えば、出力部12は、公知の表示装置、および公知の通信装置の少なくとも1つを組み合わせることで構成される。
【0066】
次に、モデル生成部11の詳細について説明する。
【0067】
モデル生成部11は、回帰式生成部112と、修正部113と、回帰式再生成部114と、を備える。
【0068】
回帰式生成部112は、複数の回帰式を生成する。具体的に、回帰式生成部112は、まず、取得した時間毎のTemp1~Temp5をそれぞれ時間で微分する。また、回帰式生成部112は、取得部13が取得した各データを各サブライブラリの非線形基底関数に入力した行列データを生成する。このように、回帰式生成部112は、センサの検出結果と非線形基底関数とを用いて演算する。
【0069】
続いて、回帰式生成部112は、複数の非線形基底関数を含むサブライブラリから生成確率に基づいて非線形基底関数を抽出し、複数種類のサブライブラリの非線形基底関数を組み合わせて、Temp1~Temp5のそれぞれを算出するための線形回帰式をそれぞれ複数生成する。
【0070】
回帰式生成部112は、複数の非線形基底関数を含むサブライブラリから生成確率に基づいて非線形基底関数を抽出する際、上記生成確率情報の生成確率が高い指数を優先して抽出するようにする。
【0071】
続いて、回帰式生成部112は、公知技術のスパース推定により、上記複数の線形回帰式の係数を求める。例えば、回帰式生成部112は、最小二乗法で係数を求めた後、予め定められている閾値(ハイパーパラメータ)以下の係数を0にする。また、回帰式生成部112は、残った非ゼロの係数を持つ候補関数(非線形基底関数)で再度最小二乗法を行って係数更新し、予め定められている閾値以下の係数を0にする。なお、回帰式生成部112は、候補関数で再度最小二乗法を行って係数を更新し、閾値以下の係数を0にする処理を複数回繰り返す。
【0072】
なお、回帰式生成部112は、スパース推定により係数を求める以外に、他の公知の機械学習により係数を求めるようにしてもよい。
【0073】
また、回帰式生成部112は、複数の線形回帰式と、上記の演算した結果とを用いて損失関数を算出する。損失関数を算出する方法は、公知の方法により実現する。例えば、回帰式生成部112は、生成した複数の線形回帰式に、取得部13が取得した各データを各サブライブラリの非線形基底関数に入力した行列データを入力した結果と、時間毎のTemp1~Temp5をそれぞれ時間で微分した結果との誤差に基づく損失関数を生成する。なお、回帰式生成部112は、上記誤差だけでなく、さらに式の単純度合いに基づいた損失関数を算出するようにしてもよい。
【0074】
修正部113は、後述する条件に合致しない場合、線形回帰式の損失関数に基づいて、線形回帰式の係数を求める際に用いるハイパーパラメータおよび生成確率を修正する。ハイパーパラメータの修正方法については、従来技術の方法(例えば、非特許文献1に記載の方法)でもよい。修正部113は、各線形回帰式の損失関数が、予め定められている閾値を下回った場合、ハイパーパラメータにある値を加算するようにする。一方、修正部113は、各線形回帰式の損失関数が、当該閾値以上である場合、ハイパーパラメータにある値を減算するようにする。
【0075】
修正部113は、同一のハイパーパラメータで生成した複数の線形回帰式の損失関数のうち、最も小さい損失関数の線形回帰式を構成するサブライブラリの生成確率を上げるようにし、他のサブライブラリの生成確率を下げるようにする。なお、生成確率を修正する方法は、例えば、生成確率が高いものをさらに上げるようにしてもよい。すなわち、抽出する非線形基底関数を絞り込むように生成確率を修正するようにしてもよい。
【0076】
回帰式再生成部114は、複数の非線形基底関数を含むサブライブラリから、修正部113による修正後の生成確率に基づいて非線形基関数を抽出し、複数種類のサブライブラリの非線形関数を組み合わせた複数の線形回帰式を生成し、複数の線形回帰式の係数を、修正部113による修正後のハイパーパラメータを用いたスパース推定により推定し、複数の線形回帰式の損失関数を算出する。
【0077】
なお、回帰式再生成部114が、所定回数分、線形回帰式を生成していない場合、修正部113が、ハイパーパラメータおよび生成確率を再度修正する。そして、回帰式再生成部114が、再度修正したハイパーパラメータおよび生成確率に基づいて複数の線形回帰式の損失関数を算出する。このように、モデル生成部11は、所定回数分、ハイパーパラメータおよび生成確率を修正して、修正したハイパーパラメータおよび生成確率を用いて損失関数を算出する。
【0078】
本実施形態のように複数のモデル(予測モデル102、物理モデル103)が共通のサブライブラリを用いて生成される場合、各モデルの生成時に、共通に用いられる生成確率およびハイパーパラメータが修正されうる。従って、各モデルをより高精度に生成することが可能となる。
【0079】
修正部113は、モデルの予測結果を用いて生成確率およびハイパーパラメータの少なくとも一方を修正してもよい。例えば修正部113は、予測処理の中で予測モデル102により予測された指標(タイミング指標)を用いて、指標に寄与するサブライブラリの生成確率を修正することもできる。より具体的には、修正部113は、他の非線形基底関数より指標に対する影響が大きい非線形基底関数の生成確率が大きくなるように生成確率を修正することもできる。その後、この生成確率を用いて、さらに予測モデル102および物理モデル103が再生成される。このようにして再生成される物理モデル103を用いる予測処理が、上記の予測処理PAに相当する。
【0080】
出力制御部15は、所定条件に合致する場合、複数の線形回帰式から選択した線形回帰式を出力部12へ出力する。当該条件の例として、回帰式再生成部114が線形回帰式を生成した回数などがある。また、回帰式生成部112により算出された複数の線形回帰式の損失関数または回帰式再生成部114により算出された複数の線形回帰式の損失関数が、閾値以下となることを上記条件としてもよい。
【0081】
また、出力制御部15は、複数の線形回帰式の損失関数に基づいた順位により選択した複数の選択回帰式の情報を出力部12へ出力する。ここで、
図7および
図8を用いて、出力制御部15が、複数の線形回帰式を出力する例を説明する。
【0082】
図7は、内部処理の状態を示す図である。具体的に、
図7は、回帰式再生成部114が生成した、複数の線形回帰式についての反復回数(修正回数)と、線形回帰式の識別番号を示す回帰式No.と、損失関数とを対応付けた図である。
【0083】
図7に示すように、「反復回数」が「2」であり、「回帰式No.」が「2」である線形回帰式の損失関数「〇〇〇〇」が1位(損失関数が示す値が最も小さい)であり、「反復回数」が「2」であり、「回帰式No.」が「3」である線形回帰式の損失関数「××××」が2位であり、反復回数が「2」であり、「回帰式No.」が「4」である線形回帰式の損失関数「△△△△」が3位であるものとする。
【0084】
図8は、線形回帰式の情報の出力例を示す図である。出力制御部15は、
図7に示した損失関数の順位に基づき、損失関数および線形回帰式情報を出力部12へ出力する。ここで、線形回帰式情報とは、線形回帰式を示す情報であり、節点の連立方程式や基底関数の線形結合を示した情報等である。なお、出力制御部15は、線形回帰式情報を別画面で出力するようにしてもよい。
【0085】
なお、出力制御部15は、複数の線形回帰式のうち、最も損失関数が小さい線形回帰式を選択するようにしてもよい。
【0086】
なお、出力制御部15は、選択した線形回帰式を他の情報処理装置へ送信出力するようにしてもよい。これにより、当該他の情報処理装置は、当該線形回帰式を用いて温度予測計算を実行することができる。
【0087】
次に、情報処理装置1で実行するモデル生成処理の流れを説明する。
【0088】
図9は、情報処理装置1が実行するモデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、モデル生成処理は、予測モデル102の生成、および、物理モデル103の生成のいずれにも適用できる。
【0089】
取得部13は、複数のセンサの検出結果を取得する(ステップS1)。続いて、回帰式生成部112は、複数のセンサの検出結果を用いて、取得した時間毎のTemp1~Temp5をそれぞれ時間で微分したり、取得部13が取得した各データを各サブライブラリの非線形基底関数に入力した行列データを生成したりする。このように、回帰式生成部112は、センサの検出結果を用いて、非線形基底関数の演算処理をする(ステップS2)。
【0090】
回帰式生成部112は、複数の非線形基底関数を含むサブライブラリから生成確率に基づいて非線形基底関数を抽出し、複数種類のサブライブラリの非線形基底関数を組み合わせて、Temp1~Temp5のそれぞれを算出するための線形回帰式を複数生成する。また、回帰式生成部112は、スパース推定により、上記複数の線形回帰式の係数を求める(ステップS3)。
【0091】
回帰式生成部112は、複数の線形回帰式と、上記の演算した結果とを用いて損失関数を算出する(ステップS4)。所定回数分、線形回帰式を生成していない場合(ステップS5:No)、修正部113は、線形回帰式の損失関数に基づいて、生成確率およびハイパーパラメータを修正する(ステップS6)。例えば、修正部113は、各線形回帰式の損失関数が、予め定められている閾値を下回った場合、ハイパーパラメータにある値を加算するようにする。また、修正部113は、同一のハイパーパラメータで生成した複数の線形回帰式の損失関数のうち、最も小さい損失関数の線形回帰式を構成するサブライブラリの生成確率を上げるようにし、他のサブライブラリの生成確率を下げるようにする。
【0092】
回帰式再生成部114は、複数の非線形基底関数を含むサブライブラリから、修正部113による修正後の生成確率に基づいて非線形基関数を抽出し、複数種類のサブライブラリの非線形関数を組み合わせた複数の線形回帰式を生成し、複数の線形回帰式の係数を、修正部113による修正後のハイパーパラメータを用いたスパース推定により推定する(ステップS7)。また、回帰式再生成部114は、複数の線形回帰式の損失関数を算出し(ステップS8)、ステップS5に進む。
【0093】
ステップS5において、回帰式再生成部114が、所定回数分、線形回帰式を生成した場合、出力制御部15は、複数の線形回帰式から選択した線形回帰式を出力部12へ出力する(ステップS9)。そして、本ルーチンを終了する。
【0094】
次に、本実施形態を適用しうる予知保全の例について説明する。
図10は、パワーエレクトロニクスシステムで用いられる対象装置2の接合部における疲労破損を予測する場合の、原因現象および各指標などの関係を示す図である。具体的には、
図10は、疲労破損に関連する要因1001、サブライブラリの基底関数1002、直接指標1003、および、タイミング指標1004の関係の例を示す。
【0095】
直接指標1003は、ワイヤ接合部、チップ直下接合層、および、基板直下接合層の非弾性ひずみ範囲の履歴(非弾性ひずみ履歴)を含む。ワイヤ接合部、チップ直下接合層、および、基板直下接合層は、測定対象となる位置(部位)の例である。サブライブラリの基底関数1002は、せん断変形、曲げ変形、引張変形、ねじり変形、非弾性変形、および、特異場などに関する非線形基底関数を含む。関連する要因1001は、
図10に示すような負荷条件、環境・境界条件、構造・材料条件に関する要因を含む。
【0096】
サロゲートモデル(予測モデル102)は、要因、および、要因に関する非線形基底関数の組み合わせにより生成される基底関数を含む。このとき、各指標の確率モデルを用いて、タイミング指標の予測モデル102を構成してもよい。
【0097】
例えば、サブライブラリの基底関数1002のいずれかを組み合わせたモデルが、直接指標1003を予測する物理モデル(予測モデル102に含まれる物理モデル)に相当する。予測モデル102は、この物理モデルが出力する直接指標を入力し、タイミング指標1004である寿命を出力する。
【0098】
サロゲートモデルは、非線形基底関数を組み合わせて生成される回帰式に限られず、以下のようなモデルであってもよい。
・ディープラーニング ニューラルネットワーク(Deep Learning Neural Network)
・ラグランジアン/ハミルトニアン ニューラルネットワーク(Lagrangian/Hamiltonian Neural Network)
・ガラーキンPoD(Galerkin Proper Orthogonal Decomposition)
・DMD(Dynamic Mode Decomposition)
・応答曲面モデル(Response Surface Model)
・階層ベイズモデル
【0099】
また、シミュレーション結果データまたはセンサ信号データを機械学習により近似したサロゲートモデルは、以下のようなモデルであってもよい。
・熱回路網モデル
・流体回路網モデル
・電気回路網モデル(制御回路を含む)
・力学的1DCAEモデル(減衰を含む回転・振動機械トルク応答、荷重の非線形変形応答など)
【0100】
適用しうるシステムは、パワーエレクトロニクスシステムに限られない。本実施形態は、例えば、風力発電プラントなどにも適用できる。風力発電プラントの寿命予測の場合は、例えば、風および地震荷重変動による、ドライブトレイン軸受、溶接部、および、ボルト接合部の、応力範囲および非弾性ひずみ範囲などが直接指標となる。
【0101】
監視対象のシステムの異常に関連する現象(原因現象、間接現象)の例について説明する。例えば、対象装置2の接合部における疲労破損の場合は、き裂進展に伴い、熱抵抗が上昇し、周辺温度が異常になる現象が挙げられる。風力発電プラントの破損の場合は、ドライブトレイン軸受および溶接部の損傷、ボルト接合部のネジ緩みに起因した異常振動または異常変形現象、並びに、軸受のシビア摩擦摩耗により周辺温度が異常になる現象が挙げられる。
【0102】
取得する監視データ(従属変数)の例について説明する。例えば、対象装置2の接合部における疲労破損の場合は、上記のように周辺温度が異常になる現象が発生するため、取得部13は、温度の時系列データを監視データとして取得する。風力発電プラントの破損の場合は、上記のように異常振動または異常変形現象が発生するため、取得部13は、カメラ画像の時系列データ、並びに、変位センサ、加速度センサ、および、ひずみセンサの検出結果の時系列データなどを監視データとして取得する。軸受のシビア摩擦摩耗により周辺温度が異常になる現象の場合は、取得部13は、温度の時系列データを監視する。
【0103】
次に、予測部14による予測処理の流れについて説明する。予測処理は、事前に生成されたモデル(例えば
図9のモデル生成処理により生成されたモデル)を用いて実行されてもよいし、モデル生成処理と並行に実行されてもよい。以下では、予測処理PAおよびPBそれぞれに分けて説明する。
図11は、予測処理PAの一例を示すフローチャートである。
【0104】
取得部13は、複数のセンサの検出結果の時系列データである監視データを取得する(ステップS101)。予測部14は、予測モデル102を用いてタイミング指標を予測する(ステップS102)。ここでは、予測モデル102に含まれる寿命指標推定モデルにより、タイミング指標として寿命を予測するものとする。
【0105】
予測部14は、サイクルカウント法により、監視データについて、振幅(非弾性ひずみ範囲など)、サイクル数、周期、時間幅を算出する(ステップS103)。予測部14は、算出した振幅、サイクル数、周期、時間幅に従い、予測モデル102を用いて寿命分布を予測する(ステップS104)。
図12は、予測により得られる寿命分布の例を示す図である。
【0106】
図11に戻り、修正部113は、寿命分布を用いて、サブライブラリの生成確率を修正する(ステップS105)。例えば修正部113は、寿命指標推定モデルによる損傷への寄与が大きい場合、寿命指標推定モデルで用いられるサブライブラリの生成確率を上げることもできる。なお、寿命指標推定モデルによる損傷への寄与が大きくない場合等であれば、生成確率を修正する本ステップ、および、修正された生成確率を用いたモデルの再生成を行うステップS106は実行されなくてもよい。
【0107】
修正部113は、直接指標を予測する物理モデル(寿命指標推定モデルなど)の出力から得られる各部位の累積損傷値の大きさに応じて、生成確率を修正してもよい。例えば、上記のように、対象装置2の接合部における疲労破損の場合は、き裂進展に伴い、熱抵抗が上昇し、周辺温度が異常になる現象が生じうる。従って、修正部113は、累積損傷値が高い部位の接触熱抵抗に関する基底関数の生成確率を上げるように修正してもよい。修正された生成確率は、その後の物理モデル103の生成に反映させることができる。
【0108】
すなわち、モデル生成部11は、修正された生成確率を用いて物理モデル103および予測モデル102を再生成する(ステップS106)。なお、ここでは直接指標を予測する物理モデルの出力に応じて生成確率を修正し、モデルを再生成した。このような処理とともに、
図9に示すモデル生成処理により生成確率等を修正し、各モデルを再生成するように構成されてもよい。
【0109】
予測部14は、再生成された物理モデル103および関係データベースを用いて、タイミング指標を予測する(ステップS107)。例えば予測部14は、物理モデル103を用いて監視対象のシステムの異常に関連する現象に関する従属変数を予測し、関係データベースを用いて、予測した従属変数に対応するタイミング指標を求める。
【0110】
予測部14は、求められたタイミング指標が、指標に関する閾値以上であるか否かを判定する(ステップS108)。指標に関する閾値は、予知保全の対応が必要か否かを判定するための値であり、例えば、タイミング指標が閾値以上の場合に予知保全が必要と判定される。指標に関する閾値は、例えば記憶部10に記憶される。
【0111】
タイミング指標が閾値未満の場合(ステップS108:No)、予知保全は不要な場合に相当するため、予測処理が終了する。
【0112】
タイミング指標が閾値以上の場合(ステップS108:Yes)、出力制御部15は、タイミング指標が閾値以上であることを出力し(ステップS109)、予測処理を終了する。
【0113】
予測結果の出力方法は上記に限られない。例えば出力制御部15は、予知保全が必要かを判断するための表示画面を出力部12(表示機能)に出力してもよい。
図13は、表示画面の一例を示す図である。
【0114】
図14は、予測処理PBの一例を示すフローチャートである。
【0115】
ステップS201~ステップS204は、
図11(予測処理PA)のステップS101~ステップS104と同様であるため説明を省略する。
【0116】
予測処理PBでは、予測部14は、物理モデル103および関係データベースを用いて、タイミング指標を予測する(ステップS205)。この処理は、
図11のステップS107と同様である。
【0117】
予測部14は、ベイズモデルにより、寿命の事前確率分布から事後確率分布を算出する(ステップS206)。寿命の事前確率分布は、ステップS204で算出された寿命分布である。例えば予測部14は、ステップS205で求められたタイミング指標を尤度として、事前確率分布と尤度との乗算に基づき、事後確率分布を算出する。これにより、例えば事前確率分布である寿命分布より、確度が向上した寿命分布を得ることができる。
【0118】
複数の物理モデル103が用いられる場合、予測部14は、複数の物理モデル103それぞれにより予測されるタイミング指標を用いて、さらに高精度な事後確率分布(寿命分布)を算出してもよい。例えば、予測部14は、ある物理モデル103による予測結果を用いて算出した事後確率分布を事前確率分布とみなして、さらに別の物理モデル103による予測結果を用いて、事後確率分布を算出する。
【0119】
ステップS207~ステップS208は、
図11(予測処理PA)のステップS108~ステップS109と同様であるため説明を省略する。
【0120】
図15は、予測モデル102を用いた寿命予測、すなわち、
図9のステップS101~ステップS104(
図14のステップS201~ステップS204)の具体例を示すフローチャートである。
【0121】
予測部14は、負荷条件、強度条件、環境条件、材料特性条件、構造・寸法条件、および、境界条件などの寿命予測条件に関する不確定性を表現する確率モデルを選択する(ステップS301)。確率モデルは、各条件の状態が時間的に推移する場合のモデル化を含んでもよい。
【0122】
予測部14は、寿命予測条件のうち、監視対象とする条件に対応する物理量の監視データ(例えば温度の履歴を表す時系列データ)を取得する(ステップS302)。予測部14は、選択した確率モデルに基づくモンテカルロ法により、寿命予測条件のうち、監視する条件以外の条件のシナリオ(サンプリング点)を生成する(ステップS303)。
【0123】
予測部14は、生成したシナリオに基づき、監視データを予測モデル102に含まれる寿命指標推定モデルに入力し、非弾性ひずみ範囲などの直接指標を推定する(ステップS304)。
【0124】
予測部14は、例えばRainFlow法などのサイクルカウント法により、直接指標の時系列データについて、振幅(非弾性ひずみ範囲など)、サイクル数、周期、変化速度(上昇時、下降時のひずみ速度など)、および、負荷保持時間などを算出する(ステップS305)。
【0125】
予測部14は、寿命測(Coffin-Manson則、Basquin則など)および累積損傷則(線形累積損傷則、ひずみ分割法、非線形累積損傷則など)を選択する(ステップS306)。予測部14は、累積損傷値、および、時間的に同じ振幅値になるように換算した場合の等価な物理量となる指標の振幅値(等価非弾性ひずみ範囲など)を算出する(ステップS307)。
【0126】
予測部14は、対象とする時間(寿命サイクル数)における強度(疲労強度など)、または、クライテリア(疲労寿命サイクルなど)の確率分布から得られるモンテカルロサンプリング値と、算出した振幅値(等価非弾性ひずみ範囲など)と、を比較し、異常が発生するか(システムダウンに至るか否か)を判定する(ステップS308)。
【0127】
予測部14は、サンプリング数が規定値に達したか否かを判定する(ステップS309)。サンプリング数が規定値に達していない場合(ステップS309:No)、ステップS303に戻り、さらにサンプリング点の生成を行い処理を繰り返す。
【0128】
サンプリング数が規定値に達した場合(ステップS309:Yes)、予測部14は、ステップS308の判定結果を用いて、対象とする時間(寿命サイクル数など)においてシステムダウンに至る確率(破損確率など)を算出する(ステップS310)。得られた確率が、例えばステップS104(ステップS204)で予測される寿命分布に相当する。
【0129】
構成要素E1について、予測部14は、直接指標を予測する物理モデルを含まない予測モデル102を用いてタイミング指標(寿命など)を予測してもよい。この場合、例えば、サブライブラリの基底関数1002のいずれかを組み合わせることにより、タイミング指標1004である寿命を出力する予測モデル102が生成される。
【0130】
図16は、このような予測モデル102が用いられる場合の、原因現象および各指標などの関係を示す図である。
図16の例では、サブライブラリの基底関数1002のいずれかを組み合わせたモデルが、タイミング指標1004である寿命を出力する予測モデル102に相当する。
【0131】
次に、モデルの更新の例について説明する。モデルは、例えばシステムの運用に応じて逐次得られる監視データを用いて、定期的に、または、指定に応じて更新(再作成)されてもよい。
図17は、このように更新されるモデルの例を説明する図である。
【0132】
モデル1701は、例えば、運用開始1日目から10日目に取得される監視データを用いて生成されるモデルである。モデル1702、1703は、運用開始100日目から110日目に取得される監視データを用いて生成されるモデルの例である。取得される監視データが異なると、モデル1702、1703のように、異なる形式のモデルが生成されうる。
【0133】
T1~T10は、例えば10か所の部位の温度を表す。係数1711、および、関数1721は、モデル1701に含まれる非線形基底関数の係数および関数の例である。
【0134】
係数1712は、係数1711に対応するモデル1702内の係数の例であり、係数1711に対して値が25から5に更新されている。例えば、係数1711、1712が、接合層を介する素子から基板への熱の伝わりやすさを示す項の係数であるとする。この場合、係数の値が小さくなることは、例えば、素子と基板との間の接合層のき裂が進展したことにより、接触熱抵抗が上昇したことに相当する。予測部14は、き裂進展による接触熱抵抗の上昇の度合いと、寿命との関係から、寿命を予測することができる。
【0135】
関数1722は、関数1721に対応するモデル1703内の関数の例であり、関数1721に対して更新されている。例えば、関数1721が強制空冷に関連する関数であり、関数1722が自然空冷に関連する関数であるとする。この場合、強制空冷に関連する関数1721が、自然空冷に関連する関数1722に置き換えられることは、例えば、埃による冷却ファンの目詰まりが生じたことに相当する。すなわち、冷却性能の診断結果の原因が、冷却ファンの目詰まりであることを判定することができる。このように、本実施形態によれば、更新されたモデル1703による予測の説明性を向上させることができる。
【0136】
次に、サブライブラリの他の例について説明する。サブライブラリは上記の例に限られず、例えば以下のようなライブラリであってもよい。
・熱伝達関数群
・流体抵抗/管摩擦関数群
・材料力学に基づく変形応答関数群
・非弾性変形応答関数群
・摩擦モデル群
・疲労寿命則/損傷則群
【0137】
本実施形態が適用可能なシステムは上記に限られない。例えば、以下のようなシステムを監視対象とする予兆保全および制御についても本実施形態の手法を適応しうる。
・風力発電プラントのカメラ画像監視解析による変形挙動データから、ドライブトレイン構造の寿命において大きな影響を及ぼしつつある境界変位条件(メインシャフト面のねじり変形、支持面の曲げ変形など)を特定するとともに、寿命・故障リスクを予測し制御する。
・風力発電ドライブトレイン回転機械のカメラ画像監視解析に基づく変形・ひずみ分布データ履歴から、ネジゆるみ箇所、ガタのある箇所、または、潤滑異常箇所を特定するとともに寿命・故障リスクを予測し制御する。
・風力発電ドライブトレイン回転機械の温度データ履歴から潤滑異常箇所を特定する。
・風力発電ドライブトレイン発電機の出力および風速履歴から、パワエレ劣化、回転機械劣化、または、蓄電池劣化を特定するとともに寿命・故障リスクを予測し制御する。
・蓄電池システムにおける運転履歴などのセンサ履歴から、流体抵抗網を用いて風速を導出し熱回路網を用いて温度を予測し、劣化度合い・故障リスクを予測し制御する。
【0138】
以上のように、本実施形態では、2つのモデルを生成し、2つのモデルを用いた予測を行う。これにより、モデルに基づく予測をより高精度に実行可能となる。また、本実施形態の情報処理装置1は、複数の非線形基底関数を含むサブライブラリから生成確率に基づいて非線形基底関数を抽出し、複数種類のサブライブラリの非線形基底関数を組み合わせた線形回帰式を複数生成し、所定の条件に合致するまで、生成確率および機械学習のハイパーパラメータをチューニングしながら、線形回帰式を再生成する。
【0139】
この場合、情報処理装置1は、生成確率および機械学習のハイパーパラメータをチューニングしながら、線形回帰式を再生成しており、生成確率を変更することによる生成する線形回帰式を絞り込むことになる。この結果、情報処理装置1は、探索空間を狭めながら、適切な線形回帰式を出力することができる。すなわち、情報処理装置1は、適切な物理現象のモデルを生成することができる。
【0140】
次に、実施形態にかかる情報処理装置のハードウェア構成について
図18を用いて説明する。
図18は、実施形態にかかる情報処理装置のハードウェア構成例を示す説明図である。
【0141】
実施形態にかかる情報処理装置は、CPU(Central Processing Unit)51などの制御装置と、ROM(Read Only Memory)52やRAM(Random Access Memory)53などの記憶装置と、ネットワークに接続して通信を行う通信I/F54と、各部を接続するバス61を備えている。
【0142】
実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムは、ROM52等に予め組み込まれて提供される。
【0143】
実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Compact Disk Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録してコンピュータプログラムプロダクトとして提供されるように構成してもよい。
【0144】
さらに、実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0145】
実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムは、コンピュータを上述した情報処理装置の各部として機能させうる。このコンピュータは、CPU51がコンピュータ読取可能な記憶媒体からプログラムを主記憶装置上に読み出して実行することができる。
【0146】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0147】
1 情報処理装置
2 対象装置
10 記憶部
11 モデル生成部
12 出力部
13 取得部
14 予測部
15 出力制御部
100 情報処理システム
101 ライブラリ情報
102 予測モデル
103 物理モデル
112 回帰式生成部
113 修正部
114 回帰式再生成部