(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163393
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】打込み工具
(51)【国際特許分類】
B25C 1/06 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
B25C1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074280
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 美隆
(72)【発明者】
【氏名】宮下 勲
(72)【発明者】
【氏名】下前 拓人
【テーマコード(参考)】
3C068
【Fターム(参考)】
3C068AA01
3C068BB01
3C068CC07
3C068CC09
3C068JJ20
(57)【要約】
【課題】打込み工具におけるモータ及びフライホイールの配置に関する改良を提供する。
【解決手段】打込み工具は、工具本体と、モータと、フライホイールと、ドライバとを備える。モータは、工具本体に支持されている。モータは、ステータと、ロータと、出力シャフトとを有する。フライホイールは、出力シャフトに動作可能に連結され、出力シャフトによって第1の軸周りに回転駆動されるように構成されている。フライホイールの少なくとも一部は、モータの径方向外側でモータの少なくとも一部の周囲に配置されている。出力シャフトは、モータ軸受によって支持されている。フライホイールは、モータ軸受とは別個に工具本体に支持されたフライホイール軸受によって、工具本体に対して第1の軸周りに回転可能に支持されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打込み材を被加工物に打ち込むように構成された打込み工具であって、
工具本体と、
前記工具本体に支持されたモータであって、ステータと、ロータと、前記ロータと一体的に第1の軸周りに回転可能な出力シャフトとを有するモータと、
前記出力シャフトに動作可能に連結され、前記出力シャフトによって前記第1の軸周りに回転駆動されるように構成されたフライホイールと、
前記フライホイールの外周に対向するように配置され、前記フライホイールと摩擦係合するのに応じて直線状に移動することで、前記打込み材を前記被加工物に打込むように構成されたドライバとを備え、
前記フライホイールの少なくとも一部は、前記モータの径方向外側で前記モータの少なくとも一部の周囲に配置されており、
前記出力シャフトは、モータ軸受によって支持され、
前記フライホイールは、前記モータ軸受とは別個に前記工具本体に支持されたフライホイール軸受によって、前記工具本体に対して前記第1の軸周りに回転可能に支持されていることを特徴とする打込み工具。
【請求項2】
請求項1に記載の打込み工具であって、
前記ドライバは、第1摩擦係合部を備え、
前記フライホイールの前記外周は、前記ドライバの前記第1摩擦係合部に摩擦係合可能な第2摩擦係合部を備え、
前記ドライバと、前記フライホイールと、前記フライホイール軸受とは、前記第1の軸に直交する平面が、前記第1摩擦係合部と、前記第2摩擦係合部と、前記フライホイール軸受とを通過するように配置されていることを特徴とする打込み工具。
【請求項3】
請求項2に記載の打込み工具であって、
前記ドライバと、前記フライホイールと、前記モータ軸受とは、前記平面が、前記第1摩擦係合部と、前記第2摩擦係合部と、前記モータ軸受とを通過するように配置されていることを特徴とする打込み工具。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1つに記載の打込み工具であって、
前記モータ軸受と前記フライホイール軸受とは、単一の部材によって支持されていることを特徴とする打込み工具。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1つに記載の打込み工具であって、
前記フライホイールと、前記モータの前記出力シャフトとは、遊びがある状態で、回転伝達可能に互いに連結されていることを特徴とする打込み工具。
【請求項6】
請求項5に記載の打込み工具であって、
前記フライホイールと前記出力シャフトとは、スプライン嵌合していることを特徴とする打込み工具。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の打込み工具であって、
前記フライホイールと前記ドライバとが摩擦係合する摩擦係合領域と、前記ステータと、前記ロータとは、前記第1の軸の延在方向において、前記フライホイールと前記出力シャフトとが回転伝達可能に連結される回転伝達領域に対して同じ側に位置することを特徴とする打込み工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドライバによって打込み材を被加工物に打ち込む打込み工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、フライホイール式の打込み工具は、モータと、フライホイールと、ドライバとを備える。フライホイールは、モータによって回転駆動され、回転エネルギを蓄積する。ドライバは、フライホイールから伝達された回転エネルギによって直線状に移動し、釘等の打込み材を打撃して被加工物に打ち込む。打込み工具におけるモータとフライホイールの配置は様々である。例えば、特許文献1に開示されている打込み工具では、モータと、フライホイールとは、同軸状に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の打込み工具では、フライホイールはカップ状に形成されており、モータのインナロータのロータシャフトによって、片持ち梁状に支持されている。このような配置では、フライホイールにかかる負荷が、ロータシャフトに悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
上述の状況に鑑み、本開示は、打込み工具におけるモータ及びフライホイールの配置に関する改良を提供することを、非限定的な1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の非限定的な1つの態様によれば、打込み材を被加工物に打ち込むように構成された打込み工具が提供される。打込み工具は、工具本体と、モータと、フライホイールと、ドライバとを備える。モータは、工具本体に支持されている。モータは、ステータと、ロータと、ロータと一体的に第1の軸周りに回転可能な出力シャフトとを有する。フライホイールは、出力シャフトに動作可能に連結され、出力シャフトによって第1の軸周りに回転駆動されるように構成されている。ドライバは、フライホイールの外周に対向するように配置されている。ドライバは、フライホイールと摩擦係合するのに応じて直線状に移動することで、打込み材を被加工物に打込むように構成されている。
【0007】
フライホイールの少なくとも一部は、モータの径方向外側でモータの少なくとも一部の周囲に配置されている。出力シャフトは、モータ軸受によって支持されている。フライホイールは、モータ軸受とは別個に工具本体に支持されたフライホイール軸受によって支持されている。
【0008】
本態様の打込み工具では、フライホイールの少なくとも一部が、モータの径方向外側でモータの少なくとも一部の周囲に配置されている。つまり、第1の軸の延在方向において、フライホイールが占める領域とモータが占める領域とが、少なくとも部分的に重なっている。よって、モータ及びフライホイールが占める領域全体の寸法を抑え、打込み工具を小型化することかできる。また、フライホイールは、モータ軸受とは別個に工具本体に支持されたフライホイール軸受によって支持されている。よって、モータが、フライホイールにかかる負荷の影響を受ける可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】打込み工具の全体構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の非限定的な一実施形態において、ドライバは、第1摩擦係合部を備えてもよい。フライホイールの外周は、ドライバの第1摩擦係合部に摩擦係合可能な第2摩擦係合部を備えてもよい。ドライバと、フライホイールと、フライホイール軸受とは、第1の軸に直交する平面が、第1摩擦係合部と、第2摩擦係合部と、フライホイール軸受とを通過するように配置されていてもよい。この実施形態によれば、フライホイールとドライバとの摩擦係合時にフライホイールにかかる負荷(第1の軸に向かう方向の負荷)を、フライホイール軸受が確実に受けることができる。よって、フライホイールが第1の軸に対して傾くのを効果的に抑制することができる。
【0011】
また、この実施形態において、更に、ドライバと、フライホイールと、モータ軸受とは、第1の軸に直交する上記平面が、第1摩擦係合部と、第2摩擦係合部と、モータ軸受とを通過するように配置されていてもよい。つまり、フライホイール軸受とモータ軸受とが、第1の軸の延在方向においてほぼ同じ位置に配置され、出力シャフトの径方向に実質的に並んでいてもよい。この場合、フライホイール軸受とモータ軸受とが、第1の軸の延在方向において離れた位置に配置される場合に比べ、第1の軸の延在方向におけるフライホイールの寸法を短くすることができる。
【0012】
上記実施形態に加え、あるいは上記実施形態に代えて、モータ軸受とフライホイール軸受とは、単一の部材によって支持されていてもよい。なお、単一の部材は、例えば、実質的に移動不能に互いに連結されて工具本体を構成する複数の部材の1つであってもよい。この実施形態によれば、モータ軸受とフライホイール軸受とが別個の部材に夫々支持される場合に比べ、寸法誤差や組付け誤差が減るため、モータ軸受とフライホイール軸受との配置上の誤差を小さくすることができる。これにより、モータとフライホイールの配置精度を向上することができる。
【0013】
上記実施形態に加え、あるいは上記実施形態に代えて、フライホイールと、モータの出力シャフトとは、遊びがある状態で、回転伝達可能に互いに連結(係合)されていてもよい。この実施形態によれば、フライホイールの軸と出力シャフトの軸が若干ずれた場合でも、回転伝達が可能である。また、フライホイールと出力シャフトの連結(係合)が容易となる。また、この実施形態において、フライホイールと出力シャフトとは、スプライン嵌合していてもよい。スプライン嵌合は、例えば、キーとキー溝による連結に比べ、大きなトルクを伝達することができる。
【0014】
上記実施形態に加え、あるいは上記実施形態に代えて、フライホイールとドライバとが摩擦係合する摩擦係合領域と、ステータと、ロータとは、第1の軸の延在方向において、フライホイールと出力シャフトとが回転伝達可能に連結(係合)される回転伝達領域に対して同じ側に位置してもよい。この実施形態によれば、第1の軸の延在方向において、フライホイールが占める領域とモータが占める領域との重なりを大きくし、モータとフライホイールとが占める領域全体の大きさをより小さくすることができる。よって、打込み工具をより確実に小型化することかできる。
【0015】
以下、図面を参照して、本開示の代表的且つ非限定的な実施形態に係る打込み工具1について具体的に説明する。
【0016】
まず、
図1を参照して、打込み工具1の概略構成について説明する。
【0017】
打込み工具1は、直線状に移動するドライバ4を用いて、被加工物に打込み材9を打ち込むことが可能な工具である。打込み工具1は、例えば、釘打ち機、タッカ、ステープルガンとして具現化されうる。打込み工具1の種類に応じて、打込み材9として、例えば、釘、鋲、ピン、ステープルが使用されうる。
【0018】
打込み工具1の外郭は、本体ハウジング11と、ノーズ部12と、ハンドル14と、マガジン17とを主体として形成されている。
【0019】
本体ハウジング11には、モータ2、フライホイール3、ドライバ4等が収容されている。フライホイール3は、モータ2によって回転駆動され、回転エネルギを蓄積する。ドライバ4は、フライホイール3の外周に対向するように配置されている。ドライバ4は、フライホイール3と摩擦係合するのに応じてフライホイール3から伝達される回転エネルギによって、駆動軸DXに沿って直線状に移動し、打込み材9を被加工物に打ち込む。
【0020】
ノーズ部12は、駆動軸DXの延在方向(以下、単に駆動軸方向ともいう)における本体ハウジング11の一端に連結されている。ノーズ部12は、本体ハウジング11との連結側と反対側の端に、開口(射出口120)を有する。本体ハウジング11及びノーズ部12内には、ドライバ通路が規定されている。ドライバ通路は、射出口120まで駆動軸DXに沿って延びている。
【0021】
また、ノーズ部12には、コンタクトアーム13が配置されている。コンタクトアーム13の先端部は、射出口120の近傍に配置されている。本体ハウジング11内には、コンタクトアームスイッチ(図示せず)が配置されている。コンタクトアームスイッチは、常時にはオフ状態で維持されている。コンタクトアームスイッチは、使用者によってコンタクトアーム13が被加工物に押し付けられて押し込まれるのに応じてオン状態とされるように構成されている。
【0022】
ハンドル14は、本体ハウジング11から、駆動軸DXと交差する方向に突出している。ハンドル14の基端部(本体ハウジング11に接続された端部)には、使用者による押圧操作が可能に構成されたトリガ140が設けられている。ハンドル14内には、トリガスイッチ141が配置されている。トリガスイッチ141は、常時にはオフ状態で維持され、トリガ140の押圧操作に応じてオン状態とされるように構成されている。また、ハンドル14の先端部(基端部とは反対側の端部)には、端子等を備えたバッテリ装着部15が設けられている。バッテリ装着部15には、モータ2等に電力を供給する充電式のバッテリ19が取り外し可能に装着されている。
【0023】
マガジン17は、複数の打込み材9を充填可能に構成されており、ノーズ部12に装着されている。マガジン17に充填された打込み材9は、釘送り機構(図示せず)によって、ドライバ通路上に一本ずつ供給される。
【0024】
以下、打込み工具1の詳細構成について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、駆動軸方向(
図1の左右方向)を打込み工具1の前後方向と規定し、射出口120が設けられている側(
図1の右側)を打込み工具1の前側、反対側(
図1の左側)を後側と規定する。また、駆動軸DXに直交し、ハンドル14の延在方向に対応する方向(
図1の上下方向)を打込み工具1の上下方向と規定し、ハンドル14の基端部側(
図1の上側)を上側、ハンドル14の先端部側(
図1の下側)を下側と規定する。また、前後方向および上下方向に直交する方向を左右方向と規定する。
【0025】
まず、本体ハウジング11内に配置される要素について説明する。
【0026】
図1及び
図2に示すように、本体ハウジング11内には、工具本体10(
図1では図示略)、モータ2、フライホイール3、ドライバ4、ドライバ作動機構51、押圧機構53、戻し機構(図示せず)が配置されている。
【0027】
工具本体10は、フレーム又は支持体とも称され、本体ハウジング11に固定状に保持されている。工具本体10は、少なくとも、モータ2、フライホイール3を支持する。本実施形態の工具本体10は、互いに連結固定された複数の部材を含む。より詳細には、工具本体10は、第1部材101と第2部材102とが、実質的に互いに移動不能に連結されることで形成されている。第1部材101と第2部材102は、何れも金属(例えば、鉄、アルミニウム、あるいは、鉄又はアルミニウムの合金)で形成されている。
【0028】
なお、本実施形態では、第1部材101と第2部材102は、夫々、工具本体10の左側部分と右側部分に相当する。但し、工具本体10は、別の方向に分割された複数の部材が連結固定されることで構成されてもよい。また、工具本体10の少なくとも一部は、金属以外の材料で形成されていてもよい。
【0029】
モータ2は、本体ハウジング11の下部内で、工具本体10に支持されている。モータ2の回転軸RXは、駆動軸DXと直交する方向(具体的には左右方向)に延在する。なお、本実施形態では、コンタクトアームスイッチ及びトリガスイッチ141の何れか一方がオンとされた場合、モータ2が通電され、駆動される。フライホイール3は、モータ2と同軸状に配置され、工具本体10に支持されている。フライホイール3は、モータ2によって回転軸RX周りに回転駆動され、回転エネルギを蓄積する。なお、モータ2及びフライホイール3の詳細な構成及び配置については、後で詳述する。
【0030】
ドライバ4は、長尺状の部材であって、駆動軸方向(前後方向)に延在する。ドライバ4は、本体部41と、本体部41から上方に突出するローラ当接部43と、本体部41から下方に突出する第1摩擦係合部45とを含む。本体部41の前端部は、打込み材9を打撃する打撃部を構成する。ローラ当接部43は、後述する押圧ローラ531による押圧を受ける部位である。ローラ当接部43の前端部は、後方に向けて高さ(上下方向の厚み)が漸増するカム部として構成されている。第1摩擦係合部45は、フライホイール3(詳細には、第2摩擦係合部33)と摩擦係合可能に構成されている。本実施形態の第1摩擦係合部45は、複数の係合突起451を含む。各係合突起451は、前後方向に延びる突条である。
【0031】
ドライバ4は、フライホイール3の上方に配置され、フライホイール3の外周に対向している。ドライバ4は、初期位置(
図1に示す位置)と、ドライバ4の前端部が射出口120から僅かに突出する打込み位置(図示せず)との間で前後方向に移動可能である。ドライバ4は、常時には、初期位置(最後方位置)に保持されている。ドライバ4が初期位置にあるときには、ドライバ4とフライホイール3とは、摩擦係合しない。
【0032】
ドライバ作動機構51は、ドライバ4の上方で工具本体10に支持されている。ドライバ作動機構51は、ドライバ4を、フライホイール3から回転エネルギの伝達が可能となる位置まで前方へ移動させるように構成されている。本実施形態のドライバ作動機構51は、ソレノイド511と、レバー513とを含む。レバー513は、ソレノイド511の起動に応じて回動され、ドライバ4を前方へ押圧することで、ドライバ4を前方へ移動させる。なお、本実施形態では、ソレノイド511は、コンタクトアームスイッチ及びトリガスイッチ141の両方がオンとされるのに応じて起動される。つまり、ソレノイド511は、モータ2が駆動されている状態で起動される。
【0033】
押圧機構53は、本体ハウジング11内で、ドライバ4の上方に配置され、フライホイール3とは反対側でドライバ4と対向する。押圧機構53は、押圧ローラ531と、付勢バネ533とを含む。押圧ローラ531は、上下方向に移動可能、且つ、フライホイール3の回転軸RXと平行な軸周りに回転可能に支持されている。付勢バネ533は、押圧ローラ531を下方へ付勢する。押圧ローラ531は、ドライバ作動機構51によってドライバ4が初期位置から前方へ移動されるのに応じて、ローラ当接部43に当接する。押圧ローラ531は、ドライバ4をフライホイール3に向けて押圧し、ドライバ4をフライホイール3と摩擦係合させる。これにより、ドライバ4は、フライホイール3から伝達された回転エネルギを受けて、打込み位置まで前方へ直線状に移動し、打込み材9を被加工物に打ち込む。
【0034】
なお、上述のドライバ作動機構51及び押圧機構53に代えて、初期位置にあるドライバ4を押圧ローラによって下方に押圧し、フライホイール3に摩擦係合させる公知の押圧機構が採用されてもよい。この変更に伴い、ドライバ4の構成も適宜変更されうる。
【0035】
戻し機構は、打込み材9を打ち出した後のドライバ4を初期位置に復帰させるように構成されている。戻し機構として、例えば、打込み位置まで前方へ移動されたドライバ4を、弾性部材(例えば、圧縮コイルバネや捩りコイルバネ)の弾性力で後方の初期位置へ引き戻すように構成された公知の機構が採用されうる。
【0036】
以下、モータ2及びフライホイール3の詳細な構成及び配置について説明する。
【0037】
図2に示すように、モータ2は、ステータ21と、ロータ23と、ロータ23と一体的に回転可能な出力シャフト25とを含む。本実施形態のモータ2は、インナロータ型のブラシレスDCモータであって、ロータ23は、ステータ21の径方向内側に配置されている。出力シャフト25の軸方向の両端部は、ロータ23の軸方向の両端から突出している。出力シャフト25の回転軸RXは、左右方向に延びる。モータ2のステータ21及びロータ23は、回転軸RXに直交し、打込み工具1の実質的な左右方向の中心を通る仮想的な平面(回転軸RXに直交し、駆動軸DXを含む仮想的な平面)に対して一方側(右側)に配置されている。
【0038】
ステータ21は、モータケース20に収容された状態で、工具本体10に支持されている。モータケース20は、有底円筒状の部材であって、筒壁部201と、底壁部203とを有する。モータケース20は、工具本体10に実質的に移動不能に固定されている。より詳細には、モータケース20は、左方に開口し、底壁部203が右側に位置するように配置され、工具本体10の第2部材102にネジ(図示せず)で固定されている。
【0039】
出力シャフト25は、第1モータ軸受261と、第2モータ軸受262によって、工具本体10に対して回転軸RX周りに回転可能に支持されている。本実施形態では、第1モータ軸受261は、工具本体10に支持されている。より詳細には、第1モータ軸受261は、第2部材102のうち、円筒状に形成された部分(以下、円筒部103という)の内側に嵌め込まれ、支持されている。一方、第2モータ軸受262は、第2部材102に固定されたモータケース20に支持されている。より詳細には、第2モータ軸受262は、モータケース20の底壁部203の中央部に設けられた凹部に嵌め込まれ、支持されている。
【0040】
また、出力シャフト25のうち、ロータ23から左方に突出する部分には、第1回転伝達部27が設けられている。より詳細には、第1回転伝達部27は、第1モータ軸受261よりも左方に突出する部分に設けられている。第1回転伝達部27は、フライホイール3の第2回転伝達部35と係合し、出力シャフト25の回転をフライホイール3に伝達するように構成されている。本実施形態の第1回転伝達部27は、外周にスプライン(歯、リッジ)271が形成された外スプライン部として構成されている。
【0041】
フライホイール3は、全体としてはカップ状に形成されている。より詳細には、フライホイール3は、円筒状の大径部311と、大径部311よりも小さい内径及び外径を有する円筒状の小径部313とを含む。フライホイール3は、大径部311が右側、小径部313が左側となる向きに配置され、第1フライホイール軸受371によって、工具本体10に対して回転軸RX周りに回転可能に支持されている。第1フライホイール軸受371は、第2部材102の円筒部103の周囲に嵌め込まれ、支持されている。
【0042】
大径部311は、第1フライホイール軸受371の外周に嵌め込まれ、回転可能に支持されている。つまり、大径部311は、出力シャフト25の一部と、第1モータ軸受261と、円筒部103と、第1フライホイール軸受371の径方向外側でこれらの周囲に配置されている。
【0043】
また、大径部311の外周には、第2摩擦係合部33が設けられている。第2摩擦係合部33は、ドライバ4の第1摩擦係合部45と摩擦係合可能に構成されている。本実施形態の第2摩擦係合部33は、第1摩擦係合部45の複数の係合突起451に対応する複数の係合溝331を含む。各係合溝331は、フライホイール3の全周を取り巻く環状の溝である。係合溝331は、ドライバ4がフライホイール3に押し付けられたときに、係合突起451と少なくとも部分的に接触し、摩擦力によって係合突起451と係合するように構成されている。
【0044】
小径部313は、モータ2の出力シャフト25の第1回転伝達部27の周囲に配置されている。小径部313には、第2回転伝達部35が設けられている。第2回転伝達部35は、出力シャフト25の第1回転伝達部27と連結(係合)され、出力シャフト25と共に回転するように構成されている。本実施形態の第2回転伝達部35は、内周にスプライン(歯、リッジ)351が形成された内スプライン部として構成されている。
【0045】
第1回転伝達部27(スプライン271)と、第2回転伝達部35(スプライン351)とは、遊びがある状態で連結(係合)されている。つまり、出力シャフト25とフライホイール3とは、遊びがある状態でスプライン嵌合している。このような構成では、フライホイール3の軸と出力シャフト25の軸が若干ずれた場合でも、回転伝達が可能である。また、第1回転伝達部27及び第2回転伝達部35には高精度な寸法管理が不要であるため、製造が容易であるとともに、フライホイール3と出力シャフト25との連結(係合)が容易となる。更に、スプライン嵌合は、例えば、キーとキー溝による連結に比べ、大きなトルクを伝達することができるという利点がある。
【0046】
なお、回転軸RXの延在方向(つまり左右方向)において、第1回転伝達部27と第2回転伝達部35が回転伝達可能に係合する領域(回転伝達領域R4)は、出力シャフト25の先端部に対応する位置にある。第2摩擦係合部33と第1摩擦係合部45とが係合する領域(摩擦係合領域R3)と、ステータ21と、ロータ23とは、回転軸RXの延在方向(以下、回転軸方向という)において、回転伝達領域R4に対して同じ側(右側)に位置する。
【0047】
また、小径部313の先端部(より詳細には、第1回転伝達部27の左端よりも左方に突出する部分)の周囲には、第2フライホイール軸受372が嵌め込まれている。第2フライホイール軸受372は、工具本体10のうち、第1部材101に設けられた凹部に嵌め込まれ、支持されている。なお、本実施形態では、第1フライホイール軸受371は、単独でもフライホイール3の荷重を受けることが可能に設計されている。一方、第2フライホイール軸受372は、例えば、組立時のフライホイール3の第1部材101からの抜け止め、及び、フライホイール3の補助的な支持を目的として付加されている。よって、第2フライホイール軸受372は、省略されてもよい。
【0048】
以上に説明したように、本実施形態のフライホイール3の一部は、モータ2の径方向外側でモータ2の一部の周囲を取り囲んでいる。言い換えると、フライホイール3の一部は、回転軸方向において、モータ2の一部と重なるように配置されている。より詳細には、回転軸方向(左右方向)において、フライホイール3の両端(左端と右端)の間のフライホイール領域R1は、モータ2の両端(左端と右端)の間のモータ領域R2と部分的に重なる。より詳細には、モータ2とフライホイール3とは、フライホイール領域R1の一部が、モータ領域R2のうち、ステータ21、ロータ23の左端と出力シャフト25の先端(左端)との間の部分と重なるように配置されている。つまり、フライホイール3の一部が、出力シャフト25のうち、ステータ21、ロータ23から左方に突出する部分の周囲を取り巻いている。このような配置により、コンパクトな打込み工具1を実現することができる。
【0049】
具体的には、モータ2とフライホイール3とが、前後方向に並んで配置される構成に比べ、前後方向における打込み工具1の寸法を抑えることができる。更に、出力シャフト25からフライホイール3に回転を伝達するための機構を簡素化することができる。また、モータ2とフライホイール3とが、左右方向に並んで(重ならずに)配置される構成に比べ、左右方向における打込み工具1の寸法を抑えることができる。特に、本実施形態では、フライホイール3の大部分がモータ2の周囲に配置されている。具体的には、上述のフライホイール領域R1のうち、モータ領域R2と重なる領域は、フライホイール領域R1の四分の三以上である。よって、左右方向における打込み工具1の寸法を確実に抑えることができる。更に、フライホイール3は、その全体が、モータ2のうち、最大径を有するステータ21以外の部分の周囲に配置されている。このため、フライホイール3の少なくとも一部がステータ21の周囲に配置される場合に比べ、径方向の寸法を抑えることができる。
【0050】
また、フライホイール3は、出力シャフト25ではなく、工具本体10に支持された第1フライホイール軸受371によって支持されている。よって、出力シャフト25が、フライホイール3にかかる負荷を直接的に受けることがない。これにより、モータ2の耐久性を向上させることができる。
【0051】
また、打込み工具1では、ドライバ4は、打込み動作を行うために、フライホイール3に押し付けられてフライホイール3と摩擦係合する必要がある。このような方式では、フライホイール3には、第1摩擦係合部45と摩擦係合する第2摩擦係合部33から回転軸RXに向かう方向に(下方に)強い負荷がかかる。
【0052】
これに対し、本実施形態では、ドライバ4と、フライホイール3と、第1フライホイール軸受371とは、回転軸RXに直交する仮想的な平面(例えば、
図2の平面L)が、第1摩擦係合部45と、第2摩擦係合部33と、第1フライホイール軸受371とを通過するように配置されている。よって、ドライバ4からフライホイール3に付与される負荷を、工具本体10に支持された第1フライホイール軸受371が確実に受けることができる。よって、フライホイール3が回転軸RXに対して傾くことが抑制される。これにより、出力シャフト25からフライホイール3への伝達不良の可能性が低減される。
【0053】
更に、第1モータ軸受261は、第1摩擦係合部45と、第2摩擦係合部33と、第1フライホイール軸受371とを通過する上述の平面Lが、第1モータ軸受261を通過するように配置されている。つまり、第1フライホイール軸受371と第1モータ軸受261とは、回転軸方向においてほぼ同じ位置(摩擦係合領域R3と少なくとも部分的に重なる位置)に配置され、出力シャフト25の径方向に実質的に並んでいる。よって、第1フライホイール軸受371と第1モータ軸受261とが、回転軸方向において離れた位置に配置される場合に比べ、回転軸方向におけるフライホイール3の寸法を短くすることができる。
【0054】
また、第1モータ軸受261及び第1フライホイール軸受371は、工具本体10を構成する複数の部材(第1部材101及び第2部材102)のうち、同じ単一部材である第2部材102に支持されている。よって、第1モータ軸受261と第1フライホイール軸受371とが別個の部材に夫々支持される場合に比べ、寸法誤差や組付け誤差を低減することができる。これにより、第1モータ軸受261と第1フライホイール軸受371との配置上の誤差を小さくすることができるため、モータ2とフライホイール3の配置精度が向上する。
【0055】
上記実施形態の各構成要素(特徴)と本開示又は発明の各構成要素(特徴)の対応関係を以下に示す。但し、実施形態の各構成要素は、単なる一例であって、本開示又は本発明の各構成要素を限定するものではない。
【0056】
出力シャフト25の回転軸RXは、「第1の軸」の一例である。第1モータ軸受261は、「モータ軸受」の一例である。第1フライホイール軸受371は、「フライホイール軸受」の一例である。平面Lは、「第1の軸に直交する平面」の一例である。第2部材102は、「単一の部材」の一例である。
【0057】
なお、上記実施形態は単なる例示であり、本開示に係る打込み工具は、例示された打込み工具1に限定されるものではない。例えば、下記に例示される変更を加えることができる。また、これらの変更のうち少なくとも1つが、実施形態に例示される打込み工具1、及び各請求項に記載された特徴の少なくとも1つと組み合わされて採用されうる。
【0058】
例えば、モータ2は、モータケース20に収容されることなく、工具本体10に直接支持されていてもよい。モータ2は、ブラシモータであってもよいし、交流モータであってもよい。第1モータ軸受261は、回転軸方向において、第1フライホイール軸受371とほぼ同じ位置にある必要はないが、上述のように、モータ2とフライホイール3の配置精度の観点からは、第1フライホイール軸受371と共に同じ単一の部材に支持されていると好ましい。
【0059】
フライホイール3の形状や、モータ2に対するフライホイール3の配置は、フライホイール3がモータ2と同軸状に配置され、フライホイール3の少なくとも一部が、モータ2の径方向外側でモータ2の少なくとも一部の周囲に配置される限りにおいて、適宜変更されうる。例えば、フライホイール3の少なくとも一部が、モータ2全体の周囲に配置されてもよい。つまり、フライホイール3の一部が、ステータ21の周囲を取り巻いてもよい。かかる変更に応じて、第1フライホイール軸受371の位置も変更されうる。例えば、フライホイール3の一部がステータ21の周囲を取り巻く場合には、工具本体10にステータ21の周囲を取り巻く円筒部が設けられ、第1フライホイール軸受371は、この円筒部の周囲に嵌め込まれてもよい。
【0060】
また、ドライバ4の第1摩擦係合部45、フライホイール3の第2摩擦係合部33の構成は、第1摩擦係合部45と第2摩擦係合部33とが互いに摩擦係合してフライホイール3の回転エネルギをドライバ4に伝達可能である限りにおいて、適宜変更されうる。例えば、係合突起451、係合溝331の数や配置は、適宜選定されればよい。また、例えば、ドライバ4が係合溝を有し、フライホイール3が係合突起を有してもよい。
【0061】
本発明及び上記実施形態の趣旨に鑑み、以下の態様が構築される。以下の態様のうち少なくとも1つが、実施形態及びその変形例の特徴、あるいは各請求項に記載された特徴の少なくとも1つと組み合わされて採用されうる。
[態様1]
前記出力シャフトは、2つの軸受によって回転可能に支持されており、前記モータ軸受は、前記2つの軸受の1つである。
[態様2]
前記工具本体は、前記モータの一部の周囲を取り巻く円筒部を有し、
前記フライホイール軸受は、前記円筒部の周囲に嵌め込まれて支持され、
前記フライホイールの一部は、前記フライホイール軸受の周囲に嵌め込まれて回転可能に支持されている。
[態様3]
打込み工具は、前記ドライバを前記フライホイールに向けて押圧するように構成された押圧ローラを更に備える。
[態様4]
前記押圧ローラと、前記ドライバと、前記フライホイールと、前記フライホイール軸受とは、前記第1の軸に直交する直線が、前記押圧ローラと、前記第1摩擦係合部と、前記第2摩擦係合部と、前記フライホイール軸受とを通過するように配置されている。
[態様5]
前記フライホイールは、その全体が、前記モータのうち前記ステータ以外の部分の周囲に配置されている。
【符号の説明】
【0062】
1:打込み工具、10:工具本体、101:第1部材、102:第2部材、103:円筒部、11:本体ハウジング、12:ノーズ部、120:射出口、13:コンタクトアーム、14:ハンドル、140:トリガ、141:トリガスイッチ、15:バッテリ装着部、17:マガジン、19:バッテリ、2:モータ、20:モータケース、201:筒壁部、203:底壁部、21:ステータ、23:ロータ、25:出力シャフト、261:第1モータ軸受、262:第2モータ軸受、27:第1回転伝達部、271:スプライン、3:フライホイール、311:大径部、313:小径部、33:第2摩擦係合部、331:係合溝、35:第2回転伝達部、351:スプライン、371:第1フライホイール軸受、372:第2フライホイール軸受、4:ドライバ、41:本体部、43:ローラ当接部、45:第1摩擦係合部、451:係合突起、51:ドライバ作動機構、511:ソレノイド、513:レバー、53:押圧機構、531:押圧ローラ、533:付勢バネ、9:打込み材、R1:フライホイール領域、R2:モータ領域、R3:摩擦係合領域、R4:回転伝達領域、DX:駆動軸、RX:回転軸