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  • 特開-船速計および船速計測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016340
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】船速計および船速計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 5/00 20060101AFI20230126BHJP
   G01S 15/58 20060101ALI20230126BHJP
   G01P 5/24 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
G01P5/00 K
G01S15/58
G01P5/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120595
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】八木 佑輔
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA01
5J083AB20
5J083AC17
5J083AD09
5J083AE10
5J083AF16
5J083BA01
5J083BE07
5J083BE16
5J083BE21
5J083CA01
5J083CC02
5J083DA01
5J083EA00
5J083EB04
5J083EB20
5J083EC19
(57)【要約】
【課題】的確な船速を求める。
【解決手段】計測された船舶の瞬時の速度の値のうち瞬時の速度に係る加速度が所定範囲内である瞬時の速度の値を所定の期間だけバッファに蓄え、バッファに蓄えられている瞬時の速度の値を用いて船速値を計算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測された船舶の瞬時の速度の値のうち瞬時の速度に係る加速度が所定範囲内である瞬時の速度の値を所定の期間だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値を用いて船速値を計算する、
ことを特徴とする船速計。
【請求項2】
計算された前記船速値を所定の個数だけ第2のバッファに蓄え、前記第2のバッファに蓄えられている前記船速値を用いて前記加速度を計算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の船速計。
【請求項3】
前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値が更新されている場合のみ、前記所定範囲の基準とする加速度を計算する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の船速計。
【請求項4】
前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値が更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に、前記所定範囲を規定する条件を変更する、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の船速計。
【請求項5】
前記瞬時の速度を計測する方式が音響式である、
ことを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の船速計。
【請求項6】
計測された船舶の瞬時の速度の値のうち瞬時の速度に係る加速度が所定範囲内である瞬時の速度の値を所定の期間だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値を用いて船速値を計算する、
ことを特徴とする船速計測方法。
【請求項7】
計算された前記船速値を所定の個数だけ第2のバッファに蓄え、前記第2のバッファに蓄えられている前記船速値を用いて前記加速度を計算する、
ことを特徴とする請求項6に記載の船速計測方法。
【請求項8】
前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値が更新されている場合のみ、前記所定範囲の基準とする加速度を計算する、
ことを特徴とする請求項6または7に記載の船速計測方法。
【請求項9】
前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値が更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に、前記所定範囲を規定する条件を変更する、
ことを特徴とする請求項6から8のうちのいずれか1項に記載の船速計測方法。
【請求項10】
前記瞬時の速度を計測する方式が音響式である、
ことを特徴とする請求項6から9のうちのいずれか1項に記載の船速計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船速計および船速計測方法に関し、船速の計測に適用して有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
船速を計測する船速計の方式の1つとして音響式(「ドップラ式」とも呼ばれる)が知られている。音響式船速計は、船舶から水中へと向けて音波を発信し、発信した音波の周波数と、水中の浮遊物(具体的には、プランクトンなど)によって反射した前記音波の反射波の周波数との差(即ち、相対速度に応じたドップラ周波数)に基づき、水に対する船舶の相対的な速度を算出する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-099868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、船速計によって計測される船速は、異常値を示すことがある。例えば、音響式船速計は、外来ノイズや泡かみなどに起因してドップラ周波数が異常値を示すことがある。この場合、異常なドップラ周波数を使用して船速を計算すると、誤った船速値を出力・表示してしまう、という問題がある。音響式以外の方式の船速計も、各方式の計測に用いる信号にノイズが重畳するなどの理由によって異常値を示すことがあり、誤った船速値を出力・表示してしまう、という問題がある。
【0005】
そこでこの発明は、的確な船速を求めることが可能な、船速計および船速計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係る船速計は、計測された船舶の瞬時の速度の値のうち瞬時の速度に係る加速度が所定範囲内である瞬時の速度の値を所定の期間だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値を用いて船速値を計算する、ことを特徴とする。
【0007】
この発明に係る船速計は、計算された前記船速値を所定の個数だけ第2のバッファに蓄え、前記第2のバッファに蓄えられている前記船速値を用いて前記加速度を計算する、ようにしてもよい。
【0008】
この発明に係る船速計は、前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値が更新されている場合のみ、前記所定範囲の基準とする加速度を計算する、ようにしてもよい。
【0009】
この発明に係る船速計は、前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値が更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に、前記所定範囲を規定する条件を変更する、ようにしてもよい。
【0010】
この発明に係る船速計は、前記瞬時の速度を計測する方式が音響式である、ようにしてもよい。
【0011】
また、この発明に係る船速計測方法は、計測された船舶の瞬時の速度の値のうち瞬時の速度に係る加速度が所定範囲内である瞬時の速度の値を所定の期間だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値を用いて船速値を計算する、ことを特徴とする。
【0012】
この発明に係る船速計測方法は、計算された前記船速値を所定の個数だけ第2のバッファに蓄え、前記第2のバッファに蓄えられている前記船速値を用いて前記加速度を計算する、ようにしてもよい。
【0013】
この発明に係る船速計測方法は、前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値が更新されている場合のみ、前記所定範囲の基準とする加速度を計算する、ようにしてもよい。
【0014】
この発明に係る船速計測方法は、前記バッファに蓄えられている前記瞬時の速度の値が更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に、前記所定範囲を規定する条件を変更する、ようにしてもよい。
【0015】
この発明に係る船速計測方法は、前記瞬時の速度を計測する方式が音響式である、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る船速計や船速計測方法によれば、瞬時の速度に係る加速度が所定範囲内である瞬時の速度の値のみを用いて船速値を計算するようにしているので、船速値を計算する際に異常なドップラ周波数に基づく瞬時の速度の値を排除することができ、的確な船速を求めることが可能となる。この発明に係る船速計や船速計測方法によれば、また、加速度を判定基準として用いるようにしているので、船速の傾向を判定基準とすることができ、一層自然な船速値の計算を行うことが可能となる。
【0017】
この発明に係る船速計や船速計測方法によれば、正常な(言い換えると、許容範囲にある)瞬時の速度の値が用いられて計算される船速値に基づいて異常判定の基準とする加速度が計算されるので、的確な船速を求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の実施の形態に係る船速計の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1の船速計における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態に係る船速計測方法の処理手順の概要を示すフローチャートである。
図3図1の船速計において計算される基準加速度を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
図1は、この発明の実施の形態に係る船速計1の概略構成を示す機能ブロック図である。図2は、船速計1における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態に係る船速計測方法の処理手順の概要を示すフローチャートである。
【0021】
船速計1は、音響式(「ドップラ式」とも呼ばれる)の船速計としての構成・機能を含み、船舶に搭載されて当該船舶の対水速度(即ち、対水船速[kn])を計測して出力するための機序であり、主に、制御部2,記憶部3,センサ4,計測部5,船速計算部6,インターフェース部7,および表示部8を有する。
【0022】
実施の形態に係る船速計1は、センサ4および計測部5ならびに瞬時船速計算部61によって計測・計算された船舶の瞬時の対水速度の値のうち瞬時の対水速度に係る加速度が所定範囲内である瞬時の対水速度の値を異常値判定部62が瞬時船速バッファ31に蓄え、瞬時船速バッファ31に蓄えられている所定の期間の瞬時の対水速度の値を用いて船速値計算部63が船速値Vを計算し、また、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時の対水速度の値が更新されていると更新判定部64によって判断された場合に、基準加速度計算部65が前記所定範囲の基準とする基準加速度arを計算する、ようにしている(図1参照)。
【0023】
また、実施の形態に係る船速計測方法は、計測された船舶の瞬時の対水速度の値のうち瞬時の対水速度に係る加速度が所定範囲内である瞬時の対水速度の値を所定の期間だけ瞬時船速バッファ31に蓄え(ステップS1~S4)、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時の対水速度の値を用いて船速値Vを計算し(ステップS5)、また、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時の対水速度の値が更新されている場合に(ステップS7:Yes)、前記所定範囲の基準とする基準加速度arを計算する(ステップS9,S10)、ようにしている(図2参照)。
【0024】
制御部2は、船速計1を構成する各部の動作を制御する機能を備え、例えば、船舶の対水速度(対水船速)の計測に纏わる演算処理を行う中央処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)などを有する機序として構成される。
【0025】
制御部2は、記憶部3に格納されている、船速計1の動作を制御するためのプログラム(図示省略)を中央処理装置が実行することにより、前記プログラムに従って船速計1を構成する各部の処理の開始,内容,および終了を統制して制御する。
【0026】
記憶部3は、中央処理装置が船舶の対水速度(対水船速)の計測に纏わる演算処理を行う際に生成されるデータや情報などを一時的に記憶などするための作業領域となったり各種の情報,プログラム,およびデータなどを記憶して格納などするための記憶領域となったりする機能を備え、例えば、読み出し可能な記憶装置であるROM(Read Only Memory の略)、読み出しおよび書き込み可能な記憶装置であるRAM(Random Access
Memory の略)、ならびにハードディスクのうちの少なくとも1つを有する機序として構成される。
【0027】
センサ4は、例えば、船体の船底部もしくは船底の近傍に設置され、一定の時間間隔で水中へと向けて所定の周波数でパルス状の音波を発信(別言すると、発射,送信)するとともに、前記音波が発信されてから次の音波が発信されるまでの間、前記音波の反射波を連続的に受信(別言すると、検出)する機能を備える。センサ4は、すなわち、パルス状の音波の発信と前記音波の反射波の受信とを交互に繰り返して行う。ただし、センサ4の計測の仕法は前記の方式に限定されるものではなく、例えば、連続した信号を送信するとともに前記信号の反射信号を受信するようにしてもよい。
【0028】
センサ4は、そのうえで、受信した反射波の周波数を少なくとも出力する。センサ4は、例えばトランスデューサによって構成されるようにしてもよい。
【0029】
センサ4が音波を発信する一定の時間間隔のことを「計測時間間隔」と呼び、その値をΔtと表記する。計測時間間隔Δt[秒]は、特定の時間長さには限定されないものの、例えば、20~80ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる。
【0030】
すなわち、センサ4は、計測時間間隔Δtごとに、反射波の周波数(「反射波周波数」と呼ぶ)のデータを出力する。なお、センサ4は、必要に応じて他の情報/データを出力するようにしてもよい。
【0031】
計測部5は、センサ4の動作を制御してセンサ4によって計測を行い、前記センサ4から出力される前記計測の結果を取得する機能を備える。計測部5は、具体的には、計測時間間隔Δtごとに、反射波周波数[Hz]のデータを取得する。
【0032】
計測部5は、センサ4から反射波周波数のデータを取得すると、前記データに、計測部5が備える時計機能(図示省略)によって特定される所定時点からの経過時間tick[秒]を対応づける。
【0033】
そして、計測部5は、計測時間間隔Δtごとの、経過時間tick[秒]および反射波周波数[Hz]の組み合わせデータを出力する。
【0034】
なお、経過時間tick[秒]の基準となる上記所定時点は、特定の時点に限定されるものではなく、例えば、当該の船速計1が起動した時点とすることが考えられる。
【0035】
船速計算部6は、計測部5によって取得されるデータを用いて対水船速を計算する機能を備え、瞬時船速計算部61,異常値判定部62,船速値計算部63,更新判定部64,および基準加速度計算部65を有する。
【0036】
瞬時船速計算部61は、計測部5によって取得されるデータを用いて船舶の瞬時の対水速度(「瞬時船速」と呼ぶ)を計算する(ステップS1)。
【0037】
瞬時船速計算部61は、計測部5から出力される経過時間tickおよび反射波周波数の組み合わせデータの入力を受け、前記組み合わせデータを用いて、経過時間tickごとに、センサ4による音波の発信方向の流速成分(言い換えると、センサ4の測定方向の流速成分)を算出するとともに前記流速成分に基づいて船体の船首から船尾方向の流速を求めて瞬時船速として出力する。なお、瞬時船速計算部61が、船体の左右方向の流速を求めるようにしてもよい。
【0038】
なお、センサ4から発信される音波の周波数[Hz]はセンサ4の設定値や計測部5による制御値として既知である。したがって、センサ4から発信される音波の周波数と、水中の浮遊物(具体的には、プランクトンなど)によって反射した前記音波の反射波の周波数との差(即ち、相対速度に応じたドップラ周波数)が求められ得る。
【0039】
経過時間tick[秒]が対応づけられている組み合わせデータが用いられて計算される瞬時船速の値、すなわち経過時間tick[秒]における瞬時船速の値を「v_tick」と表記する。
【0040】
瞬時船速の計算の具体的な仕法は、この発明では特定の手法や手順に限定されるものではなく、また、種々の公知の手法や手順が存在するので(例えば、特開昭61-099868号公報,特開2019-128219号公報,特開2003-004846号公報を参照)、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
瞬時船速計算部61は、計測時間間隔Δtごとの、経過時間tick[秒]と瞬時船速の値v_tick[kn]との組み合わせデータを出力する。
【0042】
異常値判定部62は、瞬時船速計算部61から出力される経過時間tickと瞬時船速の値
_tickとの組み合わせデータの入力を受け、前記瞬時船速の値v_tickが異常であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0043】
ここで、後述するステップS5の処理において船速値V[kn]が計算される時間間隔であるとともに後述するステップS10の処理において基準加速度ar[kn/秒]が計算される時間間隔のことを「計算時間間隔」と呼び、その値をIと表記する。そして、以下の説明では、或る経過時間Tから計算時間間隔Iだけ経過した経過時間「T+I」における船速値V_T+Iが計算される場合を例に挙げて説明する。
【0044】
計算時間間隔Iは、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば船速計1の方式ならびに船種や対水船速に関係する様々な条件などが考慮されたシミュレーションによって得られる結果が考慮されるなどしたうえで適当な時間長さに適宜設定される。
【0045】
計算時間間隔Iは、例えば、0.5~5秒程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる。
【0046】
異常値判定部62は、具体的には、船速値計算部63から出力される経過時間Tにおける船速値V_Tおよび基準加速度計算部65から出力される経過時間Tについての基準加速度ar_T(尚、船速値Vおよび基準加速度arの計算については後述する)の入力を受けるとともに、瞬時船速計算部61から出力される経過時間「T+Δt」から「T+I」までの経過時間tickと瞬時船速の値v_tickとの組み合わせデータの入力を受け、前記船速値V_Tおよび前記基準加速度ar_Tに基づいて前記瞬時船速の値v_tickが異常であるか否かを判定する。
【0047】
異常値判定部62へと入力される経過時間「T+Δt」から「T+I」までについての、経過時間「T+Δt×n」における瞬時船速の値を「v_T+nΔt」と表記する。ただし、n=1,2,3,・・・,kであり、この実施の形態では、Δt×k=Iである。
【0048】
ステップS2の処理に関し、基準加速度ar[kn/秒]からの加速度の変化の上限に関する閾値(「加速度上限閾値aut」と呼ぶ)および基準加速度arからの加速度の変化の下限に関する閾値(「加速度下限閾値alt」と呼ぶ)が予め設定される。
【0049】
加速度上限閾値aut[kn/秒]や加速度下限閾値alt[kn/秒]は、特定の値に限定されるものではなく、例えば船の種類や性能・仕様などに基づいて通常想定される(別言すると、通常あり得る)加速度の変化の幅が考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。なお、加速度上限閾値autと加速度下限閾値altとは、絶対値が同じであるように設定されるようにしてもよく、或いは、絶対値が相互に異なるように設定されるようにしてもよい。
【0050】
そのうえで、異常値判定部62は、経過時間「T+Δt×n」における瞬時船速の値v_T+nΔtのそれぞれについて、船速が経過時間Tにおける船速値V_Tから経過時間「T+Δt×n」における瞬時船速の値v_T+nΔtへと変化する際の加速度(即ち、(v_T+nΔt-V_T)/(Δt×n);「瞬時船速に係る加速度」と呼ぶ)が、基準加速度からの加速度の変化の下限「ar_T-alt」から基準加速度からの加速度の変化の上限「ar_T+aut」までの範囲に入っているか否かを判断する(図3参照)。
【0051】
異常値判定部62は、すなわち、下記の数式1が成り立つか否かを判断する。
(数1) ar_T-alt≦(v_T+nΔt-V_T)/(Δt×n)≦ar_T+aut
【0052】
上記の数式1は下記の数式2のように変形されて用いられてもよい。
(数2)
V_T+(ar_T-alt)×(Δt×n)≦v_T+nΔt≦V_T+(ar_T+aut)×(Δt×n)
【0053】
そして、上記の数式1(または、数式2)が成り立たない場合は(ステップS2:No)、異常値判定部62は、瞬時船速の値v_T+nΔtは異常値であるとして前記瞬時船速の値v_T+nΔtを以降の処理の対象から排除する(ステップS3)。
【0054】
一方、上記の数式1(または、数式2)が成り立つ場合は(ステップS2:Yes)、異常値判定部62は、瞬時船速の値v_T+nΔtは正常値(言い換えると、許容値)であるとして前記瞬時船速の値v_T+nΔtを以降の処理において採用する値とし、経過時間「T+Δt×n」と瞬時船速の値v_T+nΔtとの組み合わせデータを瞬時船速バッファ31の先頭に(言い換えると、時系列で最も新しいデータとして)追加して格納する(ステップS4)。
【0055】
瞬時船速バッファ31は、記憶部3内に構成され、経過時間tickと瞬時船速の値v_tickとの組み合わせデータを時系列(具体的には、降順)で記憶して蓄えておく機能を備える。
【0056】
瞬時船速バッファ31には、先頭に格納されている(言い換えると、時系列で最も新しい)瞬時船速の値v_tickに対応づけられている経過時間tickから所定の期間(言い換えると、所定の時間長さぶん)の経過時間と瞬時船速の値vとの組み合わせデータのみが蓄えられ、前記所定の期間よりも前の(言い換えると、時系列で古い)組み合わせデータは廃棄される。
【0057】
船速値計算部63は、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値を用いて船速値を計算する(ステップS5)。
【0058】
船速値計算部63は、計算時間間隔Iごとに、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値vを読み込み、前記瞬時船速の値vの平均値を計算して船速値V[kn]として出力する。船速値計算部63は、例えば経過時間「T+I」の時点において瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値vを用いて平均値を計算して経過時間「T+I」における船速値V_T+Iとする。なお、船速値計算部63は、瞬時船速の値vの平均値として、例えば、単純平均の値を計算するようにしてもよく、或いは、時系列で新しい瞬時船速の値vほど大きく寄与するように経過時間の進みを表す値nで重みづけした加重平均の値を計算するようにしてもよい。
【0059】
ここで、前述のとおり瞬時船速バッファ31には先頭に格納されている(言い換えると、時系列で最も新しい)瞬時船速の値v_tickに対応づけられている経過時間tickから所定の期間の経過時間(この実施の形態では、Δt×n)と瞬時船速の値vとの組み合わせデータのみが蓄えられるところ、前記所定の期間は、すなわち、船速値Vを計算する際の瞬時船速の値vの平均をとる時間幅(別言すると、平均化時間)となる。
【0060】
船速値Vを計算する際の瞬時船速の値vの平均をとる時間幅(また、瞬時船速バッファ31に蓄えられる瞬時船速の値vの時間幅)は、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば船速計1の方式ならびに船種や対水船速に関係する様々な条件などが考慮されたシミュレーションによって得られる結果が考慮されるなどしたうえで適当な時間長さに適宜設定される。
【0061】
船速値Vを計算する際の瞬時船速の値vの平均をとる時間幅は、例えば、1~60秒程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる。
【0062】
船速値計算部63は、計算時間間隔Iごとに、計算した船速値Vのデータをインターフェース部7を介して出力する(ステップS6)。
【0063】
インターフェース部7は、船速計算部6に対する入出力のインターフェースを提供する機能を備え、例えば、船速値計算部63によって計算される船速値Vのデータの入力を受け、前記船速値Vを表示部8に表示して出力する。
【0064】
表示部8は、インターフェース部7から出力される船速値Vを含む各種の情報を表示する機能を備え、例えば、液晶ディスプレイを備える機序として構成される。
【0065】
更新判定部64は、前回の処理において船速値Vが計算された後に、瞬時船速バッファ31が更新されたか否かを判定する(ステップS7)。
【0066】
更新判定部64は、例えば、経過時間「T+I」における船速値V_T+Iが計算されたとき、経過時間「T+I」の時点における瞬時船速バッファ31の先頭に格納されている(言い換えると、時系列で最も新しい)経過時間tickと瞬時船速の値v_tickとの組み合わせデータが、経過時間Tの時点における瞬時船速バッファ31の先頭に格納されている(言い換えると、時系列で最も新しい)経過時間tickと瞬時船速の値v_tickとの組み合わせデータと、同じである場合に瞬時船速バッファ31は更新されていないと判断し、異なる場合に瞬時船速バッファ31が更新されていると判断する。
【0067】
そして、瞬時船速バッファ31が更新されていない場合は(ステップS7:No)、更新判定部64は、今回の処理において計算された船速値(ここでは即ち、経過時間「T+I」における船速値V_T+I)を以降の処理の対象から排除する(ステップS8)。そして、制御部2は、船舶の対水速度(対水船速)の計測の処理手順をステップS1の処理へと移行させる。
【0068】
一方、瞬時船速バッファ31が更新されている場合は(ステップS7:Yes)、更新判定部64は、今回の処理において計算された船速値(ここでは即ち、経過時間「T+I」における船速値V_T+I)を以降の処理において採用する値とし、経過時間「T+I」と船速値V_T+Iとの組み合わせデータを船速値バッファ32の先頭に(言い換えると、時系列で最も新しいデータとして)追加して格納する(ステップS9)。
【0069】
船速値バッファ32(尚、瞬時船速バッファ31とは異なるバッファである点において第2のバッファである)は、記憶部3内に構成され、経過時間と船速値Vとの組み合わせデータを時系列(具体的には、降順)で記憶して蓄えておく機能を備える。
【0070】
船速値バッファ32には、所定の個数の経過時間と船速値Vとの組み合わせデータのみが蓄えられ、前記所定の個数を超える場合には時系列で古い組み合わせデータが廃棄される。
【0071】
基準加速度計算部65は、船速値バッファ32に蓄えられている船速値を用いて基準加速度arを計算する(ステップS10)。
【0072】
基準加速度計算部65は、計算時間間隔Iごとに、船速値バッファ32に蓄えられている経過時間と船速値Vとの組み合わせデータを読み込み、前記経過時間の幅(別言すると、時間長さ)と前記船速値Vの変化の幅とに基づいて加速度を計算して基準加速度ar[kn/秒]として異常値判定部62に対して出力する。
【0073】
基準加速度計算部65は、例えば経過時間「T+I」における船速値V_T+Iが計算された後に、その時点において船速値バッファ32に蓄えられている経過時間と船速値Vとの組み合わせデータを用いて加速度を計算して経過時間「T+I」についての基準加速度ar_T+Iとする。
【0074】
図3に示す例では、経過時間「T-I」における船速値V_T-Iと経過時間Tにおける船速値V_Tとが用いられて経過時間Tについての基準加速度ar_T(=(V_T-V_T-I)/I)が計算され、前記経過時間Tについての基準加速度ar_Tが用いられて、経過時間「T+Δt」から「T+I」までについての、経過時間「T+Δt×n」における瞬時船速の値v_T+nΔtが異常であるか否かの判定が行われたうえで、経過時間「T+I」における船速値V_T+Iが計算される。
【0075】
ここで、前述のとおり船速値バッファ32には所定の個数の経過時間と船速値Vとの組み合わせデータのみが蓄えられるところ、前記所定の個数は、特定の値に限定されるものではなく、基準加速度として妥当な値が計算され得ることが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。
【0076】
船速値バッファ32に蓄えられる経過時間と船速値Vとの組み合わせデータの個数は、例えば、2~4個程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0077】
そして、制御部2は、船舶の対水速度(対水船速)の計測の処理手順をステップS1の処理へと移行させる。
【0078】
また、制御部2は、インターフェース部7を介したユーザからの指示を受けたり予め定められる終了事由(例えば、船の停止など)が生じたりするまで、ステップS1からステップS10までの処理を繰り返し、船速値Vの計測および出力の処理を継続する。
【0079】
実施の形態に係る船速計1や船速計測方法によれば、瞬時船速に係る加速度が所定範囲内である瞬時船速の値vのみを用いて船速値Vを計算するようにしているので、船速値Vを計算する際に異常なドップラ周波数に基づく瞬時船速の値vを排除することができ、的確な対水船速を求めることが可能となる。実施の形態に係る船速計1や船速計測方法によれば、また、加速度を判定基準として用いるようにしているので、船速の傾向を判定基準とすることができ、一層自然な船速値Vの計算を行うことが可能となる。
【0080】
実施の形態に係る船速計1や船速計測方法によれば、正常な(言い換えると、許容範囲にある)瞬時船速の値vが用いられて計算される船速値Vに基づいて基準加速度arが計算されるので、的確な対水船速を求めることが可能となる。
【0081】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0082】
例えば、上記の実施の形態では船速計1が音響式(ドップラ式)の船速計としての構成・機能を含むようにしているが、この発明が適用され得る船速計の方式は音響式に限定されるものではなく、この発明は、上記の実施の形態におけるような瞬時船速を計測し得る方式の船速計であれば種々の方式の船速計に適用され得る。
【0083】
また、上述の実施の形態では船速計1が対水船速を計測するようにしているが、この発明は対地船速(即ち、船舶の対地速度)を計測する場合にも適用され得る。
【0084】
また、上記の実施の形態では、瞬時船速の値vが異常値であるとして以降の処理の対象から排除される(ステップS2:No,ステップS3)事象が連続すると瞬時船速バッファ31が更新されない(ステップS7:No)ので、瞬時船速の値vが排除され続けて瞬時船速バッファ31が更新されない間はステップS5の処理において計算される船速値Vが変化しないことになる。そこで、一定期間連続して瞬時船速の値vが排除され続けた場合の対策として、(例えば船舶が前進している場合に)基準加速度からの加速度の変化の下限「ar_T-alt」を0[kn/秒]にしたり、基準加速度からの加速度の変化の上限「ar_T+aut」を解除(つまり、上限無しに)したりしてもよく、また、(例えば船舶が後進している場合に)基準加速度からの加速度の変化の下限「ar_T-alt」を解除(つまり、下限無しに)したり、基準加速度からの加速度の変化の上限「ar_T+aut」を0[kn/秒]にしたりしてもよい。この場合、例えば、最後に計算された基準加速度arで航行していると仮定したときに所定の船速(尚、特定の速度には限定されないものの、例えば船の性能・仕様などに基づく最高速度や0に設定されることが考えられる)に達した場合に、瞬時船速の値vが排除され続けた場合の対策が実行されるようにしてもよい。あるいは、所定の時間(尚、特定の時間長さには限定されないものの、例えば5~15秒程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる)にわたって瞬時船速バッファ31が更新されない場合に、瞬時船速の値vが排除され続けた場合の対策が実行されるようにしてもよい。つまり、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値vが更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に、瞬時船速に係る加速度の範囲を規定する条件(具体的には、基準加速度からの加速度の変化の下限「ar_T-alt」,基準加速度からの加速度の変化の上限「ar_T+aut」)を変更するようにしてもよい。
【0085】
また、上記の実施の形態では瞬時船速の値vが正常値(言い換えると、許容値)であるとして以降の処理において採用する値であるとき(ステップS2:Yes)、瞬時船速の値vそれぞれをすべて瞬時船速バッファ31に追加して格納する(ステップS4)ようにしているが、瞬時船速バッファ31への追加・格納はこの態様に限定されるものではなく、例えば、計算時間間隔I(具体的には例えば、経過時間「T+Δt」から「T+I」まで)において採用される瞬時船速の値vの平均値と経過時間の代表値(例えば、T+I/2)との組み合わせデータが瞬時船速バッファ31の先頭に追加されて格納されるようにしてもよく、或いは、計算時間間隔I(具体的には例えば、経過時間「T+Δt」から「T+I」まで)において採用される瞬時船速の値vのうち瞬時船速に係る加速度が基準加速度に最も近い瞬時船速の値vと経過時間の代表値(例えば、T+I/2)との組み合わせデータが瞬時船速バッファ31の先頭に追加されて格納されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 船速計
2 制御部
3 記憶部
31 瞬時船速バッファ
32 船速値バッファ
4 センサ
5 計測部
6 船速計算部
61 瞬時船速計算部
62 異常値判定部
63 船速値計算部
64 更新判定部
65 基準加速度計算部
7 インターフェース部
8 表示部
図1
図2
図3