(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163409
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】生産計画立案装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20231102BHJP
G06Q 10/06 20230101ALI20231102BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q10/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074319
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 知弘
(72)【発明者】
【氏名】宇都野 正史
(72)【発明者】
【氏名】山田 健一
(72)【発明者】
【氏名】亀山 浩二
【テーマコード(参考)】
3C100
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA13
3C100AA16
3C100BB01
3C100BB12
3C100BB13
5L049AA06
(57)【要約】
【課題】複数のラインでの生産に要する総所要時間を、段取り替え時間を考慮した上で最小化する生産計画を立案する。
【解決手段】生産計画立案装置は、複数の工程から構成され、各工程は複数のラインから構成される生産ラインの生産計画を立案する。生産計画立案装置は、混合整数計画法を用いて、各工程において、各ラインにおける加工にかかる総所要時間を算出し、各ラインにおける総所要時間の最大値(負荷時間)を最小とするロットの振り分け方を算出する。この際、生産計画立案装置は、加工する品種が異なる際に発生する段取り替え作業に要する段取り替え時間を考慮して負荷時間を算出する。また、段取り替え作業の回数を抑えるように、各ラインに振り分けたロットの投入順序を決定する。
【選択図】
図14B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の種類の物品をそれぞれ並行して処理する複数のラインをそれぞれ含む複数の工程と、前記工程間に配設され、直前の前記工程で処理された物品であって直後の前記工程が処理する物品が載置される物品置き場と、を備える後補充生産方式による生産ラインであって、前記各ラインにおいて処理する物品の品種が異なる際に段取り替え作業が発生する生産ラインの生産計画を立案する生産計画立案装置において、
混合整数計画法を用いて前記工程毎ライン毎に算出する総所要時間であって、物品の処理にかかる所要時間及び発生する前記段取り替え作業に要する段取り替え時間を含む当該工程に含まれる各ラインの総所要時間のうち最大値を、当該工程における負荷時間として算出する場合、前記各工程において負荷時間が最小となるよう前記複数の種類の物品をいずれかのラインに振り分けることで生産計画を立案する計画立案手段を有することを特徴とする生産計画立案装置。
【請求項2】
前記計画立案手段は、振り分けた物品の処理順を、前記段取り替え作業の発生回数を抑えるように決定することを特徴とする請求項1に記載の生産計画立案装置。
【請求項3】
前記計画立案手段は、後補充生産方式による生産計画の立案を繰り返し実行する場合において、最初に処理する物品の品種が、直前の生産計画の立案において最後に処理された物品の品種と同じとなるよう生産計画を立案することを特徴とする請求項2に記載の生産計画立案装置。
【請求項4】
前記計画立案手段は、前記各工程に含まれる各ラインにおいて段取り替え作業が同時並行して発生しないように生産計画を立案することを特徴とする請求項1又は2に記載の生産計画立案装置。
【請求項5】
複数の種類の物品をそれぞれ並行して処理する複数のラインをそれぞれ含む複数の工程と、前記工程間に配設され、直前の前記工程で処理された物品であって直後の前記工程が処理する物品が載置される物品置き場と、を備える後補充生産方式による生産ラインであって、前記各ラインにおいて処理する物品の品種が異なる際に段取り替え作業が発生する生産ラインの生産計画を立案するコンピュータを、
混合整数計画法を用いて前記工程毎ライン毎に算出する総所要時間であって、物品の処理にかかる所要時間及び発生する前記段取り替え作業に要する段取り替え時間を含む当該工程に含まれる各ラインの総所要時間のうち最大値を、当該工程における負荷時間として算出する場合、前記各工程において負荷時間が最小となるよう前記複数の種類の物品をいずれかのラインに振り分けることで生産計画を立案する計画立案手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産計画立案装置及びプログラム、特に複数の種類の物品をそれぞれ並行して処理する複数のラインをそれぞれ含む複数の工程と、工程間に配設される物品置き場と、を備える後補充生産方式による生産ラインにおいて段取り替え作業が発生する場合の生産計画の立案に関する。
【0002】
仕掛品や半製品など作業の対象となる物(以下、「仕掛品」と総称)を一連の工程に順番に流しながら製品を完成させる生産ラインにおいて、生産ラインの運用に起因する製品原価の増加分を低く抑えるために、工程間に滞留させる在庫を極力少なくすることが望ましい。ただ、在庫を極端に少なくすると、後工程への仕掛品をジャストインタイムに供給できなくなるおそれがある。
【0003】
在庫の増加を防ぎつつ、後工程への供給を途絶えさせないことを目的とした生産方式として「後補充生産方式」がある。後補充生産方式の流れは、次の通りである。
【0004】
すなわち、前工程の最終段に設置された在庫置き場から、後工程は必要なときに必要な分だけの仕掛品を引き取る。なお、仕掛品を引き取る際には、仕掛品に付随するかんばん(以降、「仕掛けかんばん」)を外し、かんばんポストに入れる。後工程が生産を継続すると、仕掛けかんばんは、かんばんポストに複数枚溜められることとなる。複数枚の仕掛けかんばんは、一定の時間間隔で前工程の先頭に送られる。このように、前工程においては、後工程から引き取られた仕掛けかんばんが、仕掛品を補充生産するための生産指示となる。つまり、前工程に生産指示するための生産計画は、後工程から送られてきた複数枚の仕掛けかんばんに基づいて立案される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】渡辺展男 「数理計画ソフトウェにおけるモデルと計算手続きの記述について」 情報科学研究 No.33-57, (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
仮に、前工程の生産ラインが1本で、生産できる品番が数種類程度に限られる場合、生産計画を立案することは容易である。前工程に対する生産計画は、後工程から送られてきた複数枚の仕掛けかんばんから得られる各品種の仕掛品の数を1本の生産ラインで生産するよう立案すればよいからである。
【0008】
しかしながら、前工程の生産ラインが複数本あると、複数枚の仕掛けかんばんから得られる各品種の各仕掛品の数を各生産ラインに振り分ける必要がある。このため、生産計画を簡単に立案することはできない。何の制約もなければ、振り分けることは困難でないかもしれないが、生産効率を考慮すると、生産に要する総所要時間を極力短縮化したい。また、複数の品種を生産する場合、品種に対応した加工を行う治具を交換する作業が発生しうるので、この治具の交換に要する時間(以下、「段取り替え時間」)をも考慮して生産に要する総所要時間を短縮化したい。
【0009】
本発明は、複数のラインでの生産に要する総所要時間を、段取り替え時間を考慮した上で最小化する生産計画を立案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る生産計画立案装置は、複数の種類の物品をそれぞれ並行して処理する複数のラインをそれぞれ含む複数の工程と、前記工程間に配設され、直前の前記工程で処理された物品であって直後の前記工程が処理する物品が載置される物品置き場と、を備える後補充生産方式による生産ラインであって、前記各ラインにおいて処理する物品の品種が異なる際に段取り替え作業が発生する生産ラインの生産計画を立案する生産計画立案装置において、混合整数計画法を用いて前記工程毎ライン毎に算出する総所要時間であって、物品の処理にかかる所要時間及び発生する前記段取り替え作業に要する段取り替え時間を含む当該工程に含まれる各ラインの総所要時間のうち最大値を、当該工程における負荷時間として算出する場合、前記各工程において負荷時間が最小となるよう前記複数の種類の物品をいずれかのラインに振り分けることで生産計画を立案する計画立案手段を有することを特徴とする。
【0011】
また、前記計画立案手段は、振り分けた物品の処理順を、前記段取り替え作業の発生回数を抑えるように決定することを特徴とする。
【0012】
また、前記計画立案手段は、後補充生産方式による生産計画の立案を繰り返し実行する場合において、最初に処理する物品の品種が、直前の生産計画の立案において最後に処理された物品の品種と同じとなるよう生産計画を立案することを特徴とする。
【0013】
また、前記計画立案手段は、前記各工程に含まれる各ラインにおいて段取り替え作業が同時並行して発生しないように生産計画を立案することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るプログラムは、複数の種類の物品をそれぞれ並行して処理する複数のラインをそれぞれ含む複数の工程と、前記工程間に配設され、直前の前記工程で処理された物品であって直後の前記工程が処理する物品が載置される物品置き場と、を備える後補充生産方式による生産ラインであって、前記各ラインにおいて処理する物品の品種が異なる際に段取り替え作業が発生する生産ラインの生産計画を立案するコンピュータを、混合整数計画法を用いて前記工程毎ライン毎に算出する総所要時間であって、物品の処理にかかる所要時間及び発生する前記段取り替え作業に要する段取り替え時間を含む当該工程に含まれる各ラインの総所要時間のうち最大値を、当該工程における負荷時間として算出する場合、前記各工程において負荷時間が最小となるよう前記複数の種類の物品をいずれかのラインに振り分けることで生産計画を立案する計画立案手段として機能させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数のラインでの生産に要する総所要時間を、段取り替え時間を考慮した上で最小化する生産計画を立案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る生産計画立案装置の一実施の形態を示すブロック構成図である。
【
図2】本実施の形態における生産ラインの典型的な構成例を示す図である。
【
図3】
図2に示す矢線を説明する表1を示す図である。
【
図4】本実施の形態における各工程に含まれる各ラインの設備構成を示す概念図である。
【
図5】本実施の形態における生産ラインに含まれる各工程のライン構成を示す概念図である。
【
図6A】本実施の形態において取り扱う品番ごと設備ごとのサイクルタイムを示す表2-1を示す図である。
【
図6B】
図6Aに続く品番ごと設備ごとのサイクルタイムを示す表2-2を示す図である。
【
図7】本実施の形態における生産計画立案処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】本実施の形態における第n工程計画立案処理を示すフローチャートである。
【
図9】本実施の形態においてロットを振り分けた結果を、ガントチャートを用いて示す概念図である。
【
図10】本実施の形態において、生産ラインに関するパラメータを示す表3を示す図である。
【
図11】本実施の形態において、品番に関するパラメータを示す表4を示す図である。
【
図12】本実施の形態において、ロットに関するパラメータを示す表5を示す図である。
【
図13】本実施の形態において、生産ラインに対するロットの振り分けを決定する際に用いるパラメータを示す表6を示す図である。
【
図14A】本実施の形態におけるロットの振り分け処理を実施する前のロットの振り分けを、ガントチャートを用いて示す概念図である。
【
図14B】本実施の形態におけるロットの振り分け処理を実施した後のロットの振り分けを、ガントチャートを用いて示す概念図である。
【
図15】本実施の形態において、試行条件1の設定例を示す表7を示す図である。
【
図16】本実施の形態において、試行条件2の設定例を示す表7を示す図である。
【
図17A】本実施の形態における生産計画立案装置10が試行条件1に従って動作することによって立案される生産計画及び工程間バッファにおける在庫数の遷移を示すグラフ図である。
【
図18A】本実施の形態における生産計画立案装置10が試行条件2に従って動作することによって立案される生産計画及び工程間バッファにおける在庫数の遷移を示すグラフ図である。
【
図19】本実施の形態において、第一工程のライン#3の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0018】
1.生産計画立案装置の構成
図1は、本発明に係る生産計画立案装置の一実施の形態を示すブロック構成図である。本実施の形態における生産計画立案装置10のハードウェアは、サーバコンピュータやパーソナルコンピュータなどの1又は複数のコンピュータにより実現可能である。生産計画立案装置10のハードウェアは、従前からある汎用的な装置構成で実現できる。すなわち、生産計画立案装置10は、CPU、ROM、RAM、記憶手段としてのハードディスクドライブ、通信手段としてのネットワークインタフェース、マウスやキーボード等の入力手段及びディスプレイ等の表示手段を含むユーザインタフェースを内部バスに接続して構成される。
【0019】
本実施の形態における生産計画立案装置10は、情報入出力部11、在庫管理部12及び計画立案部13を有する。なお、本実施の形態の説明に用いない構成要素は図から省略する。
【0020】
情報入出力部11は、計画立案や在庫管理に必要な情報を生産管理システムが管理する情報やユーザにより指定された情報をネットワーク経由で取得したり、管理者等により画面入力された情報を取得したりする。また、情報入出力部11は、生産計画立案装置10における処理結果、つまり立案した生産計画等を生産管理システムや管理者が使用するコンピュータにネットワーク経由で提供したり、画面に出力したりすることによって情報提供する。在庫管理部12は、生産計画の立案の際に、工程間バッファに載置される物品の数、いわゆる在庫を管理する。計画立案部13は、本実施の形態の主要部を成し、情報入出力部11が入力した情報及び在庫管理部12が管理する在庫数を参照して生産計画を立案する。
【0021】
生産計画立案装置10における各構成要素11~13は、生産計画立案装置10を形成するコンピュータと、コンピュータに搭載されたCPUで動作するプログラムとの協調動作により実現される。
【0022】
また、本実施の形態で用いるプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD-ROMやUSBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。通信手段や記録媒体から提供されたプログラムはコンピュータにインストールされ、コンピュータのCPUがプログラムを順次実行することで各種処理が実現される。
【0023】
2.生産ラインの構成
2.1 生産ラインの概要
次に、本実施の形態における生産計画立案装置10が適合する生産ラインについて説明する。
【0024】
図2は、本実施の形態における生産ラインの典型的な構成例を示す図である。本実施の形態では、第一工程、第二工程及び第三工程の3工程から構成される生産ラインを例にして説明する。
図2に示す工程の構成は一例であって、この工程数に限る必要はない。
図2に示す生産ラインでは、第一工程が先頭の工程、第三工程が最終工程という位置づけで示しているが、第一工程の前や第三工程の後に他の工程を設けてもよい。
【0025】
各工程の間には、中間在庫を取り置くための工程間バッファが設置されている。具体的には、第一工程と第二工程の間には工程間バッファ1が、第二工程と第三工程の間には工程間バッファ2が、それぞれ配設される。工程間バッファ1は、直前の第一工程で処理された仕掛品が載置される仕掛品置き場である。そして、第一工程の直後の第二工程は、必要なときに必要な数の仕掛品を工程間バッファ1から引き取って仕掛品を処理する。本実施の形態では、各工程において処理の対象とする物品として仕掛品を例にして説明する。第三工程では、仕掛品を処理することで物品を製品として完成させる。また、仕掛品に施す処理としては、製品として仕上げるための種々の加工等がある。本実施の形態では、「処理」と「加工」を同義に用いる。工程間バッファ2は、直前の第二工程で処理された仕掛品が載置される仕掛品置き場である。そして、工程間バッファ2の直後の第三工程は、必要なときに必要な数の仕掛品を工程間バッファ2から引き取る。
【0026】
本実施の形態における生産計画立案装置10は、後補充生産方式による生産ラインに適合した生産計画を立案する。ここで、本実施の形態でいう「後補充生産方式」というのは、ある工程が引き取った量だけ直前の工程が補充する方式のことをいう。ここで、仕掛品を引き取った「ある工程」を「後工程」と、「直前の工程」を「前工程」と称することにすると、例えば、後工程が第二工程の場合、前工程は第一工程となる。この場合を例にして説明すると、第二工程は、必要なときに必要な分だけの仕掛品を工程間バッファ1から引き取るが、仕掛品を引き取る際には、仕掛品に付随するかんばん(以降、「仕掛けかんばん」)を外し、かんばんポストに入れる。第二工程が生産を継続すると、仕掛けかんばんは、かんばんポストに複数枚溜められる。複数枚の仕掛けかんばんは、一定の時間間隔で第一工程の先頭に送られ、第二工程に引き取られた仕掛品を補充生産するための第一工程に対する生産指示となる。つまり、第一工程の生産計画は、かんばんポストから到着した複数枚の仕掛けかんばんに基づいて立案される。ちなみに、詳細は後述するが、仮に前工程の生産ラインが1本で、生産できる品番が数種類程度に限られる場合、生産計画を立案することは比較的容易である。しかしながら、前工程が複数のラインで構成されていると、複数枚の仕掛けかんばんに基づく生産指示をいずれかのラインに振り分ける必要があるので、生産計画の立案は、相対的に難しくなる。なお、立案した生産計画に従って各ラインに対して生産指示がされるので、本実施の形態では、「生産計画」と「生産指示」を同義で用いる。
【0027】
2.2 仕掛品及び仕掛けかんばんの流れ
図2では、生産ラインの構成に加え、仕掛品と仕掛けかんばんの動きを矢線にて合わせて示している。
図3には、
図2に示した矢線を説明している表1が示されている。
図2,3において、黒い矢線は仕掛品の動きを、灰色の矢線は仕掛けかんばんの動きを示す。
図2,3には、6種類の矢線を示しているが、それぞれを識別する番号(No.)を付けている。以下、仕掛品及び仕掛けかんばんの流れについて説明するが、以下の説明では、この番号を用いて矢線を特定する。
【0028】
第三工程では、加工の対象とする仕掛品を工程間バッファ2から引き取り(No.1)、加工を行う(No.2)。その際に、仕掛品を引き取った技能員は、仕掛品に付随する仕掛けかんばんを外し、かんばんポストに入れる(No.3)。ある所定時間、No.1~3が繰り返し行われた後、かんばんポストに溜まった複数枚の仕掛けかんばんは、人または機械的な手段により第二工程の先頭に移動される(No.4)。その後、その移送された複数枚の仕掛けかんばんに基づき、第二工程の生産指示となる生産計画が立案される(No.5)。なお、本実施の形態でいう「生産指示」とは、複数枚の仕掛けかんばんに記載された全ての仕掛品を振り分けるラインと、そのラインにおける投入順序を決めるものである。第二工程の技能員は、生産指示に従って仕掛品を工程間バッファ1から引き取り(No.1)、加工を開始する(No.2)。この際、仕掛けかんばんは、仕掛品に付随して第二工程を移動する(No.6)。
【0029】
以上説明したように、仕掛品は、複数の工程に亘って加工されつつ移動する一方で、仕掛けかんばんは、それぞれの工程内を巡回する、当該工程に対する生産指示となる。
【0030】
2.3 工程の構成
図4は、本実施の形態における各工程に含まれる各ラインの設備構成を示す概念図である。各ラインには、任意の品番の仕掛品に対して加工等何らかの処理を施す1又は複数の設備が設けられ、当該ラインにおいて目的とする処理を仕掛品に施す。本実施の形態では、各工程に含まれる各ラインは、同じ設備構成にて実現される。ラインについては、後述する。
【0031】
図4(a)に示すように、本実施の形態における第一工程に含まれる各ラインは、7台の設備1-1~1-7によって仕掛品を順番に処理していくよう構成される。また、
図4(b)に示すように、本実施の形態における第二工程に含まれる各ラインは、9台の設備2-1~2-9によって仕掛品を順番に処理していくよう構成される。第二工程及び第三工程が多段で設備が構成されるのに対し、本実施の形態における第三工程に含まれる各ラインは、
図4(c)に示すように、1台の設備3-1のみで構成されている。なお、各設備には、上記の通り“m-n”(mは工程番号、nは工程内における並び順番号)という設備番号が割り振られる。従って、各設備は、ライン番号と設備番号との組によって識別される。
【0032】
なお、各ラインに設ける設備の台数や接続関係は一例であって、
図4に示す台数や直列のみとする接続関係に限定するものではない。
【0033】
図5は、本実施の形態における生産ラインに含まれる各工程のライン構成を示す概念図である。本実施の形態では、
図4に示すラインが複数本存在し、それぞれの工程で品番ごとに柔軟なラインの選択ができる混流生産ラインを対象とする。複数本のラインの概念図を
図5に示す。なお、各ラインは、仕掛品を生産する生産ラインであるが、
図2に示す生産計画の立案対象とする生産ライン全体との混同を回避するために、各工程に含まれる生産ラインを単に「ライン」と称することにする。
【0034】
図5に示すように、本実施の形態における第一工程、第二工程および第三工程はそれぞれ、複数で同数の10ラインから構成されるものとする。なお、このような生産ラインは、一般に「フレキシブルフローショップ」と呼ばれる。以降では、第一工程、第二工程および第三工程におけるそれぞれのラインに番号を付け、「ライン#」と記載する。なお、図では、「#n」(nはライン番号)と図示する。
【0035】
図5に示すように、第一工程の各ラインにおいて処理された仕掛品は、工程間バッファ1に一旦集められ、第二工程に移動する。この際、第一工程のいずれかのラインで加工された仕掛品は、第二工程のどのラインでも加工できるものとする。また、第二工程の各ラインにおいて処理された仕掛品は、工程間バッファ2に一旦集められ、第三工程に移動する。この際、第二工程のいずれかのラインで加工された仕掛品は、第三工程のどのラインでも加工できるものとする。なお、
図2と同様に、
図5においても仕掛品と仕掛けかんばんの動きを示す矢線を図示した。動き自体は
図2と同じなので、ここでは説明を省略する。本実施の形態では、直前の工程の先頭に移動した複数枚の仕掛けかんばんに基づき、各工程のそれぞれ10ラインに対する生産指示を含む生産計画を立案することを目的とする。
【0036】
3. 生産計画立案の実施例
3.1 品番ごと設備ごとのサイクルタイム
本実施の形態では、
図2,4,5から特定される生産ラインを用いて、100品番の製品を生産する計画を立案する。また、各品番共に24台ずつ、計2400台の製品を生産することにする。1ロットに含まれる仕掛品の所定数を12台とする。1ロットには、同じ品番の仕掛品が含まれる。
図6A及び
図6Bにはそれぞれ、品番ごと設備ごとのサイクルタイムを示す表2-1及び表2-2が示されている。このサイクルタイムは、実際の生産状況を模擬して設定したものである。なお、表2-1は、品番w001~w050のサイクルタイムを、表2-2は、表2-1に続く品番w051~w100のサイクルタイムを、それぞれ示す。設備は、
図4で示した設備番号を用いて示している。品種は5種類とし、各品種共に20品番を含む。本実施の形態では、品種を「品種1」~「品種5」と表記する。各ラインにおいて処理する仕掛品の品種が変更される場合、それぞれの品種に対応する加工を行うために用いる治具に交換するための段取り替え作業(以降、「段取り替え」と称する)が発生するものとする。本実施の形態では、品種の変化に伴う段取り替え作業に要する時間(以下、「段取り替え時間」)を57秒と設定した。これは、表2-1,表2-2におけるサイクルタイムの最大値(該当する部分を灰色とした)と同じ数値とした。各工程の複数のラインにおけるサイクルタイムは、表2-1,表2-2と同様とする。つまり、同じ工程内における各ライン(第一工程におけるライン#1~#10、第二工程におけるライン#11~#20、第三工程におけるライン#21~#30の各品番のサイクルタイムは同一とする。
【0037】
3.2 生産計画立案処理の流れ
本実施の形態では、複数枚の仕掛けかんばんをかんばんポストから回収し、前工程の先頭に移動させる作業は、2時間おきに行うことにする。つまり、いわゆるリードタイムの最大値を2時間とする。また、仕掛けかんばんが、かんばんポストから前工程の先頭に移動する時間はゼロ秒とした。
【0038】
以下、本実施の形態における生産計画立案処理の流れの概要を
図7に示すフローチャートを用いて説明する。本実施の形態における生産計画立案処理では、工程間バッファから2時間の間に後工程に引き取られた仕掛品を、その直後の2時間かけて前工程が補充するための生産計画を立案するものである。
【0039】
まず、情報入出力部11は、生産計画の立案に先立って必要となる情報を収集する(ステップ110)。収集する情報は、
図6A,Bに示した品番ごと設備ごとのサイクルタイム、第三工程で生産する品番ごとのロット数、工程間バッファ1,2における初期のロット数(以降、「初期在庫」と称する)、第一、第二及び第三工程における各10ラインの稼働状態等である。情報の収集先は、情報の格納場所や管理システム、例えば、立案した生産計画に従って生産ラインにおける生産を管理する生産管理システム等である。あるいは、管理者等のユーザにより入力された情報でもよい。
【0040】
続いて、計画立案部13は、各工程の生産計画を立案するが、本実施の形態では、後工程から前工程に向けて順番に生産計画を立案する。そのために、最終の第N工程を変数nに代入する(ステップ120)。本実施の形態の場合、
図2に示すようにN=3である。本実施の形態では、図面を参照しながら説明するので、説明の便宜上、N=3として説明する。
【0041】
まず、第三工程の場合(ステップ130でY)、計画立案部13は、第三工程の10ラインで負荷時間が最も短くなる計画を立案する(ステップ150)。なお、工程間バッファ3は存在しないので、在庫数を算出する必要はない。本実施の形態でいう「負荷時間」というのは、各工程において、各ラインの処理にかかる総所要時間の最大値のことをいう。つまり、10ラインそれぞれにおいて処理に要する所要時間のうち最大の所要時間が当該工程における負荷時間となる。負荷時間が短いほど(つまり、最大値が小さいほど)、生産効率が高いといえるので、本実施の形態では、各工程において生産効率を最大化する生産計画の立案を目指すことになる。計画立案処理の詳細については、後述するが、本実施の形態では、混合整数計画法を用いて計画立案の計算を行う。最初に生産計画を立案する第三工程では、ゼロ秒を開始時刻とし、2時間分の生産計画を立案する。第三工程は、加工のために必要となる仕掛品を工程間バッファ2から引き取る。工程間バッファ2から仕掛品を引き取る際には、仕掛品に付随する仕掛けかんばんを外し、所定のかんばんポストに入れる。
【0042】
工程間バッファ3は存在しないので(ステップ160でY)、ステップ170は実施しない。続いて、計画立案の対象を第二工程に移行する(ステップ180でN,190)。
【0043】
第二工程の場合(ステップ130でN)、在庫管理部12は、工程間バッファ2に置かれている各品番の在庫数を算出する(ステップ140)。各品番の在庫数は、ステップ110で取得した工程間バッファ2の当該品番の初期在庫から、第三工程で引き取られた仕掛品の数を品番ごとに差し引くことで算出できる。
【0044】
続いて、計画立案部13は、第三工程の場合と同様に、第二工程の10ラインで負荷時間が最も短くなる計画を立案する(ステップ150)。生産計画立案処理の詳細については、後述する。但し、第三工程の開始時刻をゼロ秒としたのに対し、第二工程の開始時刻は2時間後とする。具体的には、ゼロ秒の2時間後から4時間後までの2時間分の生産計画を立案する。また、第二工程は、加工のために必要となる仕掛品を工程間バッファ1から引き取る。工程間バッファ1から仕掛品を引き取る際には、仕掛品に付随する仕掛けかんばんを外し、所定のかんばんポストに入れる。
【0045】
続いて、在庫管理部12は、工程間バッファ2の在庫状況を更新する(ステップ160でN,170)。すなわち、在庫管理部12は、ステップ140で算出した工程間バッファ2に置かれている各品番の在庫数に、ステップ150において立案された生産計画に基づき第二工程で補充生産される仕掛品の数を品番ごとに加算する。
【0046】
続いて、計画立案の対象を第一工程に移行するが(ステップ180でN,190)、第一工程の場合(ステップ130でN)、在庫管理部12は、工程間バッファ1に置かれている各品番の在庫数を算出する(ステップ140)。各品番の在庫数は、ステップ110で取得した工程間バッファ1の当該品番の初期在庫から、第二工程で引き取られた仕掛品の数を品番ごとに差し引くことで算出できる。
【0047】
続いて、計画立案部13は、第三、二工程と同様に、第一工程の10ラインで負荷時間が最も短くなる計画を立案する(ステップ150)。生産計画立案処理の詳細については、後述する。但し、第三工程の開始時刻をゼロ秒、第二工程の開始時刻を2時間後としたのに対し、第一工程の開始時刻は4時間後とする。具体的には、ゼロ秒の4時間後から6時間後までの2時間分の生産計画を立案する。また、第一工程は、加工のために必要となる原材料は、随時供給されることとする。
【0048】
続いて、在庫管理部12は、工程間バッファ1の在庫状況を更新する(ステップ160でN,170)。すなわち、在庫管理部12は、ステップ140で算出した工程間バッファ1に置かれている各品番の在庫数に、ステップ150において立案された生産計画に基づき第一工程で補充生産される仕掛品の数を品番ごとに加算する。ここでは、n=1なので(ステップ180でY)、処理を終了させる。
【0049】
以上説明した一連の処理では、第一工程、第二工程および第三工程それぞれに対して2時間分の生産計画を立案することができる。但し、各前工程は、各後工程から2時間遅延した計画が立案されることとなる。従って、本実施の形態では、
図7に示す生産計画立案処理を複数回繰り返して生産計画を立案することが望ましい。
【0050】
3.3 第n工程計画立案処理の概要
図8は、本実施の形態における第n工程計画立案処理を示すフローチャートであり、
図7に示すフローチャートのステップ150に対応する処理である。第n工程計画立案処理は、各ラインへのロットの振り分け(ステップ151)、ライン毎の投入順序の決定(ステップ152)、および処理時間の詳細化(ステップ153)という3段階の処理から構成される。
【0051】
第1段階に相当する各ラインへのロットの振り分け(ステップ151)は、各工程においてロットを10ラインに振り分ける。前述したように、ロットには、同じ品番の仕掛品が12台含まれている。この処理では、ロット毎のラインにおけるサイクルタイムの最大値である「ボトルネックサイクルタイム」に基づいて、総所要時間をライン毎に算出する。この際、各工程において、各ラインにおける総所要時間の最大値(上記「負荷時間」)を最小とするロットの振り分け方を算出する。
【0052】
第2段階に相当するライン毎の投入順序の決定(ステップ152)は、第1段階における処理結果、すなわち各ラインに振り分けたロットの投入順序をライン毎に決定する。この処理は、
図7に示す生産計画立案処理を複数回繰り返す場合に有効である。繰り返す場合の各繰り返し回を1周目、2周目と、「周回」で表現すると、本実施の形態では、各ラインにおいて、各周回の最初に投入するロットの品種を決めることに留めている。
【0053】
第3段階に相当する処理時間の詳細化(ステップ153)は、第2段階における処理結果、すなわち各ラインにおいて、ロットの投入順序を考慮して各設備における処理時間を詳細に求める。具体的には、1台の仕掛品に対して、ラインを構成する複数台の設備の処理時間を、ガントチャートに基づく演算により求める。ガントチャートに基づく演算は、既存の技術を利用すればよい。例えば、潮俊光 著「マックス代数によるシステム理論の基礎」数理解析研究所講演録,1020巻(1997),pp165-179に記載された演算を利用する。
【0054】
3.4 各ラインへのロットの振り分け(ステップ151)
この処理は、ナップザック問題を改良して実施される。計画立案部13は、前述したように一工程に含まれる10ラインそれぞれの総所要時間の最大値(上記「負荷時間」)を最小とするロットの振り分け方を算出する。
【0055】
図9は、本実施の形態においてロットを振り分けた結果を、ガントチャートを用いて示す概念図である。なお、
図9では、第一工程におけるロットの振り分け結果を図示しており、この振り分け結果のうち第一工程に含まれる一部、具体的にはライン#1~#3の総所要時間を抜粋して示している。また、説明の便宜上、ライン#4~#10を考慮しない場合で説明する。図示したライン#1~#3の総所要時間に着目すると、ライン#1の総所要時間が最大値となるので、ライン#1の総所要時間が第一工程における負荷時間となる。また、
図9に示すように、本実施の形態では、ロットの品種が切り替わる際に発生する段取り替え時間を含めて負荷時間を算出する。なお、本処理では、ロットの品種間の投入順序について考慮していない。例えば、ライン#1に対して、品種1を3個、品種2を2個、品種1を2個、それぞれ振り分けるよう決定したが、品種1,2,3の投入順序については、決定していない。
【0056】
前述したように、本実施の形態では、混合整数計画法を用いて生産計画の立案の計算を行う。本実施の形態では、この計算を定式化する。以下、計算式について説明する。
【0057】
まず、数学の記述方法に則り、各パラメータを集合として記載している。
図10,11,12にはそれぞれ、生産ライン、品番およびロットに関するパラメータをまとめて示す表3,4,5が示されている。なお、それぞれの集合の具体的なイメージを示すために、表3,4,5の右端には、対応する集合の例を示している。また、RとNはそれぞれ、実数と負でない整数を表す。また、
図13には、生産ラインに対するロットの振り分けを決定する際に用いるパラメータを示す表6が示されている。表6で、具体例を割愛する。
【0058】
表2~5から、工程qにおけるi番目の生産ラインの負荷時間LT
iは、式(1)で表される。
【数1】
【0059】
式(1)の第一項は、i番目のラインにおける段取り替え時間を含まない負荷時間を示す。但し、第一項におけるmax(Nji)は、ロットjのi番目のラインにおけるサイクルタイムの最大値(ボトルネックサイクルタイム)を示す。また、第二項は、i番目のラインにおける段取り替え時間の総和を示す。本実施の形態では、式(1)に示すように、段取り替え時間を考慮して各ラインiの負荷時間LTiを算出する。
【0060】
式(1)の第二項のσ
irは、以下に示す式(2)~(4)を用いて求める。
【数2】
【0061】
但し、M∈Rは、例えば100又は200などの十分に大きな数である。式(3),(4)は、big-M法と呼ばれる指示変数を生成するテクニックを利用している。
【0062】
次に、本アルゴリズムの目的関数を式(5)に示す。式(5)は、式(1)で表される全てのラインの負荷時間の最大値を最小化することを示している。
【数3】
【0063】
本実施の形態では、式(5)となるようなロットの振り分け方、すなわちx
iyにおける0と1の配置を決定する(表6に記載)。次に、式(1)を求める際の制約条件を式(6)に示す。式(6)は、各ロットが振り分けられるラインは1本であることを示している。
【数4】
【0064】
3.5 ライン毎の投入順序の決定(ステップ152)
上記「3.4各ラインへのロットの振り分け(ステップ151)」では、各ラインにおいて、ロットの投入順序について考慮していない。例えば、
図9には、便宜的にロットを並べているが、
図9に示すロットの並び、すなわちロットの投入順序が効率的な生産計画であるとは限らない。本処理では、ステップ151における処理結果を踏まえて、ロットの投入順序を決定する。
【0065】
図14Aは、本処理を実施する前のロットの振り分けを、ガントチャートを用いて示す概念図である。
図14Aでは、
図9と同様に後補充生産方式による生産計画の立案を複数周回繰り返し実行する場合において、第一工程における1周目と2周目の振り分け例が示されている。
図14Aにおいても、
図9と同様にライン#1~#3に対する振り分けのみ具体例を示している。なお、本実施の形態では、投入するロットを、品種ごとのグループ(以降、「ロットグループ」と称する)に分割し、その前後関係を決めるようにしている。
図14Aのライン#1では、品種1,2,3それぞれから構成される3つのグループA,B,Cに分割したことを示している。
【0066】
2周目以降の振り分けにおいて、最初に投入するロットを直前の周回(つまり、1周目)において最後に投入されたロットの品種を考慮しないで投入するとする。例えば、各周回において、品種番号の小さい順に並べてロットを投入するという規則に従って投入するかもしれない。この場合、
図14Aに例示するように、1周目の最後に投入されたロットの品種と2周目の最初に投入されるロットの品種が異なることになり、2周目の開始時点で段取り替えが生じる可能性が高くなる。それも、各ラインにおいて段取り替えが2周目の開始時点で同時に発生することになるので、段取り替えを行う技能員が一人だけでは生産計画通りに対応しきれない事態が発生する。換言すると、生産計画を遵守させるためには、複数の技能員、例えばライン数と同数の技能員が必要となってくる。
【0067】
図14Bは、本処理を実施した後のロットの振り分けを、ガントチャートを用いて示す概念図である。
図14Bには、
図14Aと同様に、第一工程において、1周目と2周目の振り分け例が示されている。但し、
図14Bでは、2周目以降の振り分けに対し本処理を適用することにより、2周目の最初に投入され処理されるロットを、直前の周回(すなわち、1周目)において最後に投入され処理されたロットの品種を考慮して決定する。具体的には、2種目において直前の周回(1周目)の最後に投入されたロットの品種と同じ品種が振り分けられている場合、計画立案部13は、同じ品種のロットグループを続けて処理するように2周目におけるロットグループの投入順序を決定する。これにより、
図14Bに例示したように、2周目の開始時点で段取り替えが発生しないように生産計画を立案することが可能となる。つまり、段取り替えの発生回数を1つ削減することが可能となる。
図14Bには、ライン#1のみにロットグループの前後関係の変更の内容を示しているが、この例のようにロットグループの前後関係を変えてもラインの負荷時間が増えることはない。むしろ、ロットの投入順序を変えることによって2周目の開始時点で段取り替えを発生させなくすることができ、更に段取り替えの回数を減らすことが可能となる。すなわち、ラインにおける総所要時間を短縮することができる。
【0068】
なお、
図14Bでは、全てのラインにおいて2周目の開始時点で段取り替えが発生しないようにロットグループの投入順序を決定したが、多くて1つのラインでは、2周目の開始時点で段取り替えを発生させてもよい。この場合でも、1人の技能員で対処できる。このように、計画立案部13は、技能員の人数を制約条件としてロットの投入順序を決定するようにしてもよい。
【0069】
ところで、本実施の形態では、2周目以降の開始時点に着目して説明したが、1つの工程の1つの周回の途中で複数のラインで段取り替えが同時に発生する可能性もある。この場合、計画立案部13は、周回の開始時点と同様にロットグループの前後関係を入れ替えるなどして各ラインにおいて段取り替えが同時に発生しないように調整すればよい。本実施の形態では、第一工程に着目して説明したが、生産ラインを構成する全ての工程において段取り替えの同時発生を極力抑えるように生産計画を立案するのが望ましい。
【0070】
3.6 処理時間の詳細化(ステップ153)
本処理では、第1段階で各ラインに振り分けられたロット毎、またロットを構成する仕掛品毎、またラインを構成する設備毎の処理時間を求める。計画立案部13は、例えば表2-1,2-2を参照して処理時間を積算していくことで各処理時間を算出することができる。そして、計画立案部13は、第2段階で決定された各品番のロットの投入数及び段取り替えの回数を参照することで、各ラインにおける総所要時間を算出でき、そして各工程における負荷時間を算出できる。
【0071】
4. 試行例
本実施の形態における生産計画立案装置10が動作することによって、どのような生産計画を立案するかということについて、具体例をあげて説明する。ここでは、全ての工程の全てのライン#1~#30が正常に稼働しているときに試行させる場合とそうでない場合に分けて説明する。
【0072】
図15には試行条件1の設定例を示す表7が、
図16には試行条件2の設定例を示す表7が、それぞれ示されている。設定する試行条件は、「正常に稼働しているライン」、「第三工程で生産するロット数」、「工程間バッファ1における初期在庫数」及び「工程間バッファ2における初期在庫数」である。「正常に稼働しているライン」の設定例のように、試行条件1は、全てのライン#1~#30が正常に稼働している場合の試行条件である。試行条件2は、そうでない場合の例として、第一工程のライン#1と第二工程のライン#11の2ラインが停止している場合の試行条件である。稼働しているライン以外の条件は、試行条件1,2共に同じである。すなわち、第三工程で生産するロット数、すなわち本実施の形態において例示する生産ラインでは、1サイクルタイムで2ロットずつ生産する。なお、上記の通り、1ロットには、同じ品番の12台の仕掛品が含まれている。そして、工程間バッファ1,2における初期在庫数は、各品番w100~w300共に4ロットずつ、すなわち48台とする。試行条件1,2に基づく試行では、上記3.2で説明した生産計画の立案の流れを3周行うことで、各工程において6時間分の生産計画を立案する。
【0073】
4.1 全てのラインが正常に稼働している場合
図17A及び
図17Bは 生産計画立案装置10が
図15に示される試行条件1に従って動作することによって立案される生産計画及び工程間バッファ1,2における在庫数の遷移を示すグラフ図である。
図17A及び
図17Bを区別なく説明する場合は「
図17」と総称する。後述する
図18においても同様とする。
【0074】
図17において、横軸は時間を示す。また、縦軸に「第一工程」「第二工程」および「第三工程」と記載されているグラフは、対応する工程の各ラインのガントチャートを示す。なお、便宜的にラインの一部を省略する。ガントチャートでは、処理対象となる仕掛品を、品種毎に異なるパターンで示している。また、
図17では図示されていないが、段取り替え時間は、黒色で示す。第一工程と第二工程における各ライン#1~#10,#11~#20は、それぞれ複数の設備1-1~1-7、2-1~2-10から構成されるが、
図17では、全ての設備をライン毎にまとめて図示している。この点については、後述する。縦軸に「工程間バッファ1」、「工程間バッファ2」で記載されたグラフは、それぞれのバッファに在庫として置かれるロット数を示している。なお、
図17,18に示す在庫数の遷移は概念的に示すに留まり、正しい実績値を示すとは限らない。
【0075】
前述したように、各工程に対し、
図7に示す生産計画処理を3周実施している。
図17では、ガントチャートの上部に、各周を示す時間の範囲を両矢線で示すと共「1周目」、「2周目」および「3周目」と記載した。
図17から明らかなように、1周目の計算は、第三工程の0秒から2時間後、第二工程の2時間後から4時間後、第一工程の4時間後から6時間後、と2時間毎にずれている。すなわち、前工程は、後工程の生産実績に応じて生産計画が立案されることがわかる。また、
図7に示す処理手順から明らかなように、これらの計算に伴い、工程間バッファ1,2の在庫数の推移も適宜算出される。
【0076】
工程毎の各周の計算では、負荷時間が最小となるように10ライン分の計画が立案されるが、上記試行条件1に従う場合、各工程の2時間分の計画を立案する時間は3分程度であった。試行条件1では、第一工程及び第二工程の各10ラインで5品種を生産するため、単純に1品種を2ラインに振り分けて生産すればよい。従って、
図17に例示するように段取り時間の発生しない生産計画を立案可能である。第三工程では、説明の便宜上、段取り替えが発生している例を示しているが、上記「3.5 ライン毎の投入順序の決定(ステップ152)」を実施した結果、2周目以降の先頭、更に各周の途中においても複数のラインで段取り替えが同時に発生していないように生産計画が立案される。
【0077】
4.2 いずれかのラインが正常に稼働していない場合
図18は 生産計画立案装置10が
図16に示される試行条件2に従って動作することによって立案される生産計画及び工程間バッファ1,2における在庫数の遷移を示すグラフ図である。グラフの見方等は、
図17と同じなので説明を省略する。
【0078】
図18において、破線31,32で示すように、第一工程のライン#1及び第二工程のライン#11では、生産ラインの停止を想定しているため、いずれの品種も生産していない。試行条件1では、10ライン全てが稼働しているため、1品種を2ラインに振り分けることで、
図17に例示するように段取り時間の発生しない生産計画を立案可能である。これに対し、試行条件2では、第一、二工程は共に稼働する9ラインで5品種を生産する必要があるため、試行条件1の場合のような単純なロットの振り分けができず、段取り替えが発生することになる。
【0079】
ところで、第一、二工程に対応するガントチャートでは、一ラインは長方形ではなく平行四辺形で図示している。このことについて、第一工程のライン#3のガントチャート33を例にして説明する。
【0080】
図19は、第一工程のライン#3の詳細を示す図である。前述したように、第一工程における各ライン#1~#10は、設備1-1~1-7で構成される。そして、設備1-2は、設備1-1から流れてくる仕掛品を処理する。設備1-3は、設備1-2から流れてくる仕掛品を処理する。すなわち、後段の設備は、直前の設備から一サイクルタイムずれて処理が開始される。
図19には、この一サイクルタイム分の時間のずれを示しているが、7つの設備1-1~1-7の生産状況を一ラインでまとめて図示すると、
図17,18に示すように平行四辺形となる。なお、第三工程は、1つの設備3-1のみから構成されるので長方形でよい。厳密には、各工程に含まれる設備の数によってガントチャートの時間軸と直交する高さ方向の厚みは、異なってくるかもしれないが、
図17,18では、便宜的に同じ高さで図示している。
【0081】
図18に戻ると、試行条件2では、第一、二工程は共に9ラインで稼働する必要がある。特に、第二工程は、第三工程で引き取られた仕掛品を2時間で補充生産できていない。このため、生産ラインが稼働している間、工程間バッファ2における在庫数は、試行条件1の場合と比較すると徐々に減少する。
【0082】
5. まとめ
本実施の形態においては、後補充生産方式において生産を行う生産ラインに対する生産計画を立案する際、生産ラインを構成する各工程に対する生産指示、具体的にはロットの各ラインへの振り分けを、混合整数計画法という手法を利用して定式化した。特に、本実施の形態においては、取り替え時間を考慮した上で各工程における負荷時間を最小化できるようにした。更に、段取り替えの発生回数を極力抑えることができるようにロット、すなわち仕掛品の投入順序を決定できるようにした。
【0083】
なお、本実施の形態では、生産ラインは複数の工程から構成されること、また各工程は複数のラインから構成されることを前提とし、その具体的な数値を上げて説明した。ただ、上記実施例で用いた工程数、ライン数、また設備数は一例であって、これに限る必要はない。
【0084】
また、本実施の形態では、生産ラインを流れる物品の例として仕掛品を説明したが、加工等の処理の対象となる物品であれば、仕掛品でなくても、例えば半製品や製品でもよい。
【符号の説明】
【0085】
10 生産計画立案装置、11 情報入出力部、12 在庫管理部、13 計画立案部。