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特開2023-163424光学フィルタ、光学フィルタを搭載した撮像装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163424
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】光学フィルタ、光学フィルタを搭載した撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20231102BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20231102BHJP
   G02B 1/113 20150101ALI20231102BHJP
【FI】
G02B5/00 A
G02B1/18
G02B1/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074339
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安紘
【テーマコード(参考)】
2H042
2K009
【Fターム(参考)】
2H042AA06
2H042AA08
2H042AA22
2K009AA04
2K009CC03
2K009CC06
2K009CC26
2K009EE00
2K009EE05
(57)【要約】
【課題】
撥水性や潤滑性を持ち、且つ長期にわたり環境安定性の良好な光学フィルタを提供する。
【解決手段】
基板1上に形成された、誘電体層2と光吸収層3とが交互に積層された光吸収積層体4と、光吸収積層体4の上に反射防止積層体9と、を備え、反射防止積層体9は、反射防止積層体の各層のうちでも最もガスバリア性の高いガスバリア層5と、反射防止積層体9の各層のうちでも最も光学膜厚の大きな主反射防止層6と、主反射防止層6よりも撥水性の高い撥水層8と、の少なくとも3層を基板1側から表層側に向かってこの順で設けたことを特徴とする。
【選択図】図1



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された、誘電体層と光吸収層とが交互に積層された光吸収積層体と、
前記光吸収積層体の上に形成された反射防止積層体と、を備え、
前記反射防止積層体は、
前記反射防止積層体の各層のうちでも最もガスバリア性の高いガスバリア層と、
前記反射防止積層体の各層のうちでも最も光学膜厚の大きな主反射防止層と、
前記主反射防止層よりも撥水性の高い撥水層と、の少なくとも3層を前記基板側から表層側に向かってこの順で設けたことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記ガスバリア層の膜厚が前記撥水層の膜厚以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記主反射防止層と前記撥水層との間にSiO(1≦x≦2)からなる密着層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記撥水層が含フッ素有機層であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記主反射防止層の光学膜厚が、前記反射防止積層体を形成する全ての層の光学膜厚の50%以上であることを特徴とした請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記主反射防止層がMgFであることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記ガスバリア層が、Alを含むことを特徴とした請求項1記載の光学フィルタ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の光学フィルタと、
前記光学フィルタを光路上に挿入するための光学フィルタ駆動部と、
前記光学フィルタを通過した光による像を撮像する撮像素子と、を備えた撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタ、及び光学フィルタを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラやセンサなどの撮像装置には、CCDやCMOSなどの受光素子が搭載されており、受光素子に入射した光を電気信号に変換している。撮像装置には受光素子に入射する光量を状況に応じて調整するNDフィルタなどの光学フィルタが搭載される。NDフィルタは基板上に光吸収層と誘電体層とを積層したND膜から形成され、対象波長において透過率平坦性や低反射率であることが求められる。
【0003】
また、特許文献1には、撥水性を付与するために、NDフィルタの最表層に撥水膜を形成することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-151219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、金属又は金属酸化物からなる光吸収層を含む光吸収膜の最表層にSiO2と撥水膜が形成されたNDフィルタが開示されている。しかしながら、撥水膜は一般的に水蒸気透過率が高くガスバリア性が低い。NDフィルタの場合に、特許文献1の撥水層を用いた場合には、ガスバリア性の低さに起因して、水蒸気の影響で反射率が高くなり、環境安定性が低下する可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の光学フィルタは、
基板上に形成された、誘電体層と光吸収層とが交互に積層された光吸収積層体と、
前記光吸収積層体の上に形成された反射防止積層体と、を備え、
前記反射防止積層体は、
前記反射防止積層体の各層のうちでも最もガスバリア性の高いガスバリア層と、
前記反射防止積層体の各層のうちでも最も光学膜厚の大きな主反射防止層と、
前記主反射防止層よりも撥水性の高い撥水層と、の少なくとも3層を前記基板側から表層側に向かってこの順で設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、撥水性を持ちつつ、環境安定性に優れた光学フィルタ及び、これを搭載した撮像装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る光学フィルタの構成図
図2】本発明に係る光学フィルタの変形例の構成図
図3】実施例1に係る光学フィルタの光学特性を示したグラフ
図4】実施例2に係る光学フィルタの光学特性を示したグラフ
図5】実施例3に係る光学フィルタの光学特性を示したグラフ
図6】本発明の実施形態に係る撮像装置の例
【発明を実施するための形態】
【0009】
図を基に本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1に本発明に係る光学フィルタの構成図を示す。本発明の光学フィルタ11は、基板1上に形成された、誘電体層2と光吸収層3とからなる光吸収積層体4と、光吸収積層体4の上に形成された、ガスバリア層5と主反射防止層6と撥水層8とがこの順で積層された反射防止積層体9とから構成される。
【0011】
光吸収積層体4について説明する。光吸収積層体4は、交互に積層された誘電体層2と光吸収層3とから形成され、光吸収層3の光吸収特性と、誘電体層2と光吸収層3との光干渉作用を利用して、対象波長領域である可視光波長領域、あるいは可視から近赤外光波長における透過率を略均一にする機能を有する。
【0012】
光吸収積層体4に利用できる誘電体層2としては、例えば、MgF、SiO、SiO、Si、Al、MgO、LaTiO、ZrO、TiO、Nb、Ta等の金属の酸化物や窒化物が使用できる。後述する光吸収層3は前述の対象波長領域において比較的屈折率が高いことを鑑み、光吸収層3との光干渉作用を効果的に利用するため、誘電体層2としては、屈折率の低い、MgFやSiO、Alなどが好適に使用できる。この内、光吸収層3への酸素や水蒸気の侵入を抑制するという目的で、ガスバリア性が高いAlが最適な誘電体層2である。
【0013】
なお、光吸収積層体を構成する誘電体層2は必ずしも1種の層で形成される必要はなく、必要に応じて複数種の誘電体層であってもよい。また、同じ化学種であっても層によって若干化学組成が異なっていてもよい。具体的には、誘電体層2にAlを用いる場合、層によってはAlOx(x<3)で表記される酸素欠損気味の層を含んでいても良い。特に光吸収層の直上をAlOx(x<3)とすることで、成膜時に酸素を導入しないで成膜可能となり、直前の層の光吸収層の酸化を抑制しながら成膜できるため、光学特性の再現性が良好な光学フィルタとすることができる。
【0014】
光吸収層3は金属あるいは金属化合物からなり、例えば、Ti、Ni、Cr、Fe、Nb、Ta、等の金属や合金、酸化物、窒化物などを用いることができる。光吸収層に金属酸化層、金属窒化層、金属酸化窒化層を用いる場合、光吸収層3は光吸収を得られる程度に化学量論的に欠損を有する。例えば、光吸収層3をTiの酸化物であるTiOとした時、酸化数xは0<x<2を満たす。一般に、金属酸化物あるいは窒化物、若しくは酸化窒化物は金属と比較すると消衰係数が小さい。このため、光吸収層3の膜厚をある程度厚く保つことができ、膜設計の自由度が高まり、光学フィルタ11として低反射化や透過率の平坦性向上がしやすくなる。更に、光吸収層3に極端に薄い層を設けることなく、膜厚制御精度が向上し分光特性が良好で且つ、光学再現性の良い光吸収積層体4とすることができる。
【0015】
本発明において光吸収層3の膜厚は、物理膜厚で600Å以下、好ましくは、350Å以下であることが好ましい。光吸収層3は金属若しくは金属の不飽和酸化物あるいは窒化物であるため成膜雰囲気の影響を受けやすく、光吸収層一層当たりの膜厚が厚くなると、その層における成膜初期と成膜後期の組成の差が大きくなりやすい。このため、1層当たりの膜厚が厚すぎると設計値に対する光学特性のバラツキが生じやすくなる。また、光吸収層3の膜厚は30Å以上であることが好ましい。膜厚を30Å以上とすると、光吸収層3は海島構造になりにくく、良好に光を吸収することができる。
【0016】
また、光吸収積層体4を構成する光吸収層3が複数設けられる場合にはそれぞれの層が互いに化学種の異なる層であってもよいし、もちろん、金属の光吸収層と金属酸化物あるいは窒化物からなる光吸収層の両方を含んでいてもよい。また、同じ化学種であってもその酸化数あるいは窒化数が異なっていてもよい。例えば、光吸収層にTiO(0<x<2)を用いた場合、層によってxの値が異なっていてもよい。光波長400nmにおける消衰係数をkλ400、光波長700nmにおける消衰係数をkλ700とした時、TiOxは酸化が進むほどkλ700/kλ400の値が大きくなる傾向がある。すなわち、光吸収層によってTiOの酸化の程度を変化させることで、対象波長において各波長における光吸収量が大きく異なることを抑制することが可能となり、透過率平坦性の良好な膜設計がしやすくなる。光吸収層において酸化数あるいは窒化数を変化させる場合、基板側の光吸収層から順番に段階的に酸化数あるいは窒化数を変化させてもよいし、不規則に変化させてもよい。
【0017】
次に反射防止積層体9について説明する。本発明において反射防止積層体9はガスバリア層5、主反射防止層6、撥水層8の順で基板1側から形成される。ここで、反射防止積層体9は反射防止積層体9を構成する全ての層の光学膜厚の合計が、対象波長領域の中心波長をλとした時、λ/4程度となっている。ここで、λ/4程度とは、0.7λ/4~1.3λ/4を指す。反射防止積層体9を構成する全ての層の光学膜厚の合計が、λ/4程度が好ましく、特に好ましくは、0.9λ/4~1.1λ/4である。
【0018】
ガスバリア層5は、光吸収積層体4を構成する、基板から最も遠い光吸収層の酸化防止層としての機能を持つ。この点より、主反射防止層6よりもガスバリア性が高いこと、すなわち水蒸気や酸素の透過率が低いことが求められる。この点より、例えばAlやAl+SiOの混合材、SiO(1<x≦2)、Si、SiOなどが使用できる。ガスバリア層5は反射防止機能も持っていることが好ましく、この点より、光吸収層3よりも屈折率が低い、AlやAl+SiO、SiO(1<x≦2)が好適に用いられる。ガスバリア性と反射防止効果を考慮すると特にAlを含むことが好ましく、Alが最適である。ここで、一般的な蒸着で成膜された膜では、Si>SiO>Al>Al+SiO>SiO(1<x≦2)>MgFの順でガスバリア性が高くなる。なお、Al+SiOとSiOに関しては、Al+SiOの混合比率や、SiOの酸化数によってガスバリア性が入れ替わることがある。ガスバリア性の指標の一つであるガス透過率は、等圧法・差圧法のいずれで測定してもよく、検知方式も化学センサ・重量・圧力・ガスクロマトグラフィー等のいずれであってもよい。ガス透過率はg/m・day若しくはcc/m・day・atmで表される。ガスバリア層5は十分なガスバリア性を持たせるために、層であることが好ましく、物理膜厚で80Å以上であることが好ましい。
【0019】
本発明のように、撥水層などにより撥水性や潤滑性を付与する場合、これらの層を含めて反射防止積層体9の光学膜厚をλ/4程度にすると、撥水層の膜厚分、誘電体層(無機層)の膜厚が薄くなるため、通常の反射防止積層体若しくは反射防止層よりもガスバリア性が低下してしまう。光吸収層3は酸素や水蒸気により酸化すると、一般的に光吸収量が減少するが、このとき、可視光波長において、短波長側の方が変化量は大きく、これにより光学濃度だけではなく、透過率平坦性も変化してしまう。すなわち、本発明のガスバリア層5は長期にわたり良好な光学特性を維持する上で重要な役割を果たす。このガスバリア層5の効果を好適に得るためには、ガスバリア層5の物理膜厚がガスバリア性の低い撥水層8以上であることが好ましい。
【0020】
主反射防止層6は、反射防止積層体9において反射防止機能の主たる役割を担う。すなわち、主反射防止層6は反射防止積層体9を構成する層の内で最も膜厚が厚い。このようにすることで、反射防止積層体9において、主反射防止層6に反射防止機能の主たる役割を担わせることができる。更に、主反射防止層6は、ガスバリア層5よりも屈折率が低く、MgFやSiOが好適に用いられる。ここで、主反射防止層6にMgFを使用する場合、後に形成する撥水層8と密着性が低く、剥がれやすくなる可能性がある。このような場合には、図2に示すように、主反射防止層6と撥水層8との界面に密着層7を設けてもよい。
【0021】
密着層7は、撥水層8との密着機能を有し、光吸収積層体4を形成する光吸収層3よりも屈折率が低く、更にシラノール基を有していることが好ましい。撥水層8の代表例であるフルオロアルキルエーテルや含フッ素有機珪素化合物などは、シラノール基と反応し、強固な膜を形成することが知られているためである。これらの点を鑑みると、密着層7としてはSiO(1<x≦2)が最適な材料である。密着層7としては、撥水層8との密着を保つことができれば、必ずしも層を形成している必要はなく物理膜厚で20~200Å程度が好適である。
【0022】
撥水層8は反射防止機能と撥水機能を有し、更には光学フィルタへの異物が付着する確率若しくは、付着強度を低減し、更には潤滑性を有していることが好ましい。撥水層8としては、テトラフルオロエチレンなどの非晶質フッ素樹脂やフルオロアルキルエーテルや含フッ素有機珪素化合物などの材料が好ましい。撥水層8の材料として撥水性を示す材料は、表面エネルギーの小さい含フッ素有機物に起因するものや、微細凹凸構造等の形状によるもの、材料起因と構造を組み合わせたものが挙げられる。潤滑性及びその耐久性を考慮した場合、材料起因での撥水性発現が好ましく、更には、反射防止積層体9の一部を形成することより、薄膜の制御が比較的容易なドライコーティング、具体的には蒸着法により成膜されることが好ましい。特にフルオロアルキルエーテルや含フッ素有機珪素化合物などが蒸着法で好適に成膜できる。撥水層は、含フッ素有機化合物を用いた含フッ素有機層とすると潤滑性も付与することができる。
【0023】
蒸着法で形成できる撥水層8の材料としては、例えば、OF-210、OF-SR、SURFCLEAR100、SURFCLEAR300(以上商品名、キヤノンオプトロン社製)、MS-SY、MS-DC100(以上商品名、SOLTEC社製)、WR1、WR4(以上商品名、MERCK社製)、KF-1(商品名、稀産金属社製)などが具体的に挙げられる。撥水層8を蒸着法により成膜する場合は、その膜厚は3~20nm程度、更には5~15nm程度とすることがより好ましい。膜厚が薄すぎると長期にわたり十分な撥水性や潤滑性が得られない一方、膜厚が厚くなり過ぎると光散乱が生じやすくなってしまうためである。なお、本発明において撥水層8とは、純水との接触角が90°以上、更に好ましくは接触角100°以上の層を指す。更に、撥水層8に潤滑性を持たせる場合、撥水層8の動摩擦係数は小さい方が良く、0.2以下であることが好ましく、更には0.15以下であることが好ましい。なお、動摩擦係数は連続荷重式表面測定機(HEIDON Type22:新東科学株式会社製)の一定荷重摩擦測定モードで、Φ1/8のアルミナ球を圧子として使用し、移動速度1mm/s、一定荷重100gの条件で測定した値である。
【0024】
反射防止積層体9を形成する層の内、主反射防止層6の光学膜厚はガスバリア層5、密着層7、撥水層8の光学膜厚の和よりも大きいことが好ましい。すなわち、主反射防止層6の光学膜厚が反射防止積層体9の光学膜厚の総和の50%以上であることが好ましい。このようにすることで、反射防止積層体9において、主反射防止層6に反射防止機能を担わせやすくすることができる。
【0025】
本発明に使用する基板1としては、所望の光波長領域において透明な基板であれば、任意の基板を使用することが可能である。ここで、所望の光波長領域とは例えば可視光波長(400~700nm)を指し、透明とは透過率が80%以上であることを指す。例えばガラスや水晶などの無機材料からなる基板や、ポリエステル系、ノルボルネン系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルスルホン)系、ポリスルホン系、PEN(ポリエチレンナフタレート)系、PC(ポリカーボネート)系、及びポリイミド系などの様々な合成樹脂基板を使用することができる。合成樹脂基板は、ガラスなどの無機基板に比べ、柔軟で軽く、加工性が良いという利点があるが、熱応力による変形や水分による特性変化を起こしやすく、更に製造方法によっては偏光特性が大きくなってしまう場合がある。
【0026】
このため、合成樹脂基板を用いる場合は、高耐熱性(高ガラス転移温度Tg)、低吸水性で、複屈折の小さい材料を用いることが望ましい。これらを満たす合成樹脂としてはノルボルネン系などが挙げられる。また、必要に応じて、有機-無機ハイブリッド材料からなる基板、例えばシルセスキオキサン骨格を有する基板などを用いてもよい。本発明に係る基板の厚みは、剛性やハンドリング性向上のためある程度厚い方がよく、0.1~30mm程度、更には0.4~20mm程度であることがより好ましい。板厚が厚すぎると、特に合成樹脂性の基板を用いた場合、複屈折率に起因したリタデーションが大きくなる虞がある。本発明において、染料・顔料・金属イオンなどにより特定波長域、例えば近赤外領域や紫外性領域に光吸収性を有する基板を用いてもよい。
【0027】
次に、本発明に係る光学フィルタの製造方法について説明する。本発明の光学フィルタ10は、基板1に気相蒸着法によって、光吸収積層体4、反射防止積層体9が形成される。ここでは、気相蒸着法の内、真空蒸着法による製造方法を説明するが、これに限らず、イオンプレーティング法、イオンアシスト法、スパッタリング法などの他の物理蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法に依る化学蒸着法などの既知の様々な方法で製造することができる。
【0028】
先ず、基板1を成膜マスク及びホルダーからなる成膜治具にセットし、これを成膜面が蒸着源と対向するように蒸着ドームに取り付ける。次に、蒸着ドームを蒸着チャンバーに投入し、排気を行う。蒸着チャンバー内が所望の真空度、例えば1.0×10-3Pa程度となったら、光吸収積層体4を構成する誘電体層2及び光吸収層3を成膜する。具体的には坩堝に充填された誘電体層の出発材料を電子ビームで加熱し、基板1に蒸着させる。誘電体層2の成膜時には極力酸素などの反応性ガスを導入しないで成膜することが好ましい。反応性ガスを導入すると、直前に成膜した光吸収層3と反応してしまう虞があるためである。
【0029】
基板1に成膜された1層目の誘電体層2が所望の膜厚に到達したら、電子ビームによる出発材料の加熱を止め、誘電体層2と略同様の手法で光吸収層3を成膜する。なお、光吸収積層体4は、基板1との界面を誘電体層2とすることが好ましい。このようにすることで、特に合成樹脂基板を用いる場合、基板1が含んでいる水分などの影響で光吸収層3の酸化が促進することを防ぐことができる。また、ガラスなどの無機基板を用いる場合であっても、基板1に含まれるアルカリ成分等の析出を効果的に抑制することができるためである。また、必要に応じて、基板1と光吸収積層体4の間に密着層を設けてもよい。密着層としてはSiO(1≦x≦2)が好適に使用できる。
【0030】
誘電体層2と光吸収層3を所望の積層数となるように成膜したら、次に反射防止積層体9を構成するガスバリア層5、主反射防止層6、密着層7を形成する。これらは光吸収積層体4を形成する誘電体層2と略同様の手法で成膜できる。ガスバリア層5を成膜するときは特に、成膜時に反応性ガスを導入しないことが好ましい。こうすることで、光吸収積層体4の基板1から最も遠い光吸収層3が反応性ガスと反応し、酸化などが進んでしまうことを抑制することができる。ガスバリア層5の膜厚が撥水層8の膜厚以上であると、環境安定性を確保しやすい。
【0031】
密着層7の成膜が完了したら、次に撥水層8を成膜する。撥水層8は、例えばスチールウールなどの金属の保持体にフッ素化合物を含浸させた蒸着材料を、抵抗加熱法により間接的に加熱してフッ素化合物を飛散させることで成膜することができる。これらのフッ素化合物は、一般的に加水分解・縮合して硬化することで密着層7と強固に密着する。例えば、室温(25℃)・湿度50%で8~12時間程度放置することで良好な密着強度が得られる。なお、必要に応じて加温や加湿することで放置時間を短くすることもできる。
【0032】
(実施例1)
表1に実施例1に係る光学フィルタの膜構成を示す。実施例1の光学フィルタは、ガラス基板硝材名D263Teco)上に、光吸収積層体4を構成する誘電体層2にAl、光吸収層にTiOが形成されている。本実施例では、光吸収層であるTiOは全て略同程度の酸化数であり、x=1.2程度である。更に、反射防止積層体9を構成するガスバリア層5としてAl、主反射防止層6としてSiO、撥水層8としてSURFCLEAR100がそれぞれ形成されている。本実施例において、反射防止積層体9の光学膜厚は、0.2319であり、0.9276λ/4となっている。また、主反射防止層6であるSiOの光学膜厚は0.1825であり、ガスバリア層5、撥水層8の光学膜厚の和である0.0494よりも大きく、主反射防止層6の光学膜厚は、反射防止積層体9の光学膜厚の総和の約79%となっている
【0033】
【表1】
【0034】
図3は実施例1の光学フィルタの透過率特性及び反射率特性を示したグラフである。図3より、実施例1の光学フィルタは可視光波長において反射率1%以下となっている。更に、可視光波長域における最大透過率をTmax、最小透過率をTmin、500~600nmにおける平均透過率をTaveとした時、(Tmax-Tmin)×100/Taveで示される透過率平坦性は1.60%となっている。
【0035】
(実施例2)
表2に実施例2に係る光学フィルタの膜構成を示す。実施例2の光学フィルタはガラス基板(硝材名D263Teco)上に、光吸収積層体4を構成する誘電体層2にAl、光吸収層にTiOが形成されている。本実施例では、光吸収層であるTiOは全て略同程度の酸化数であり、x=1.2程度である。更に、反射防止積層体9を構成するガスバリア層5としてAl、主反射防止層6としてMgF、密着層7としてSiO、撥水層8としてOF-SRがそれぞれ形成されている。本実施例において、反射防止積層体9の光学膜厚は、0.2433であり、0.9732λ/4となっている。また、主反射防止層6であるMgFの光学膜厚は0.1406であり、ガスバリア層5、密着層7、撥水層8の光学膜厚の和である0.1027よりも大きく、主反射防止層6の光学膜厚は、反射防止積層体9の光学膜厚の総和の約58%となっている。
【0036】
【表2】
【0037】
図4は実施例2の光学フィルタの透過率特性及び反射率特性を示したグラフである。図4より、実施例2の光学フィルタは可視光波長において反射率1%以下となっている。更に、可視光波長域における最大透過率をTmax、最小透過率をTmin、500~600nmにおける平均透過率をTaveとした時、(Tmax-Tmin)×100/Taveで示される透過率平坦性は0.77%と小さい値となっている。
【0038】
(実施例3)
表3に実施例3に係る光学フィルタの膜構成を示す。実施例3の光学フィルタはガラス基板(硝材名D263Teco)上に、光吸収積層体4を構成する誘電体層2にAl、光吸収層にTiOが形成されている。本実施例では、光吸収層であるTiOの酸化数は基板1から離れるにしたがい大きくなりxは0.8程度から1.4程度まで段階的に変化している。更に、反射防止積層体9を構成するガスバリア層5としてAl、主反射防止層6としてMgF、密着層7としてSiO、撥水層8としてSURFCLEAR100がそれぞれ形成されている。本実施例において、反射防止積層体9の光学膜厚は、0.2186であり、0.8744λ/4となっている。また、主反射防止層6であるMgFの光学膜厚は0.1328であり、ガスバリア層5、密着層7、撥水層8の光学膜厚の和である0.0858よりも大きく、主反射防止層6の光学膜厚は、反射防止積層体9の光学膜厚の総和の約61%となっている。
【0039】
【表3】
【0040】
図5は実施例3の光学フィルタの透過率特性及び反射率特性を示したグラフである。図5より、実施例3の光学フィルタは可視光波長において反射率1%以下となっている。更に、可視光波長流域における最大透過率をTmax、最小透過率をTmin、500~600nmにおける平均透過率をTaveとした時、(Tmax-Tmin)×100/Taveで示される透過率平坦性は0.49%と非常に小さい値となっている。
【0041】
図6に本発明に係る撮像装置の例を示す。入射光はレンズ12、15~17、絞り羽根13a、13bや光学フィルタ11等を通過して、撮像素子18へと入射して電気信号に変換され映像化される。絞り羽根13a、13bの位置情報は光量制御部19へと伝達され、光量制御部19は撮像素子18からの光量情報と絞り羽根13a、13bの位置情報などから最適な開口となるように絞り羽根13a、13bを駆動させる。また、光学フィルタ駆動部14は光量制御部19の指示に従い、光学フィルタ11を光路上へ挿入・退避を行う。光学フィルタ11は一般的に枠体に保持されるが、本発明の光学フィルタ11は最表面に撥水層が形成されており、接着剤や両面テープなどとの密着性が十分確保できない場合がある。このようなときは、光学フィルタの枠体と光学フィルタを接着する領域においては、少なくとも撥水層を成膜せずに、接着代を設けることで解決できる。更に、本発明の光学フィルタは長期にわたり光学特性が安定しており、本発明の光学フィルタを搭載した撮像光学系は長期にわたり色再現性の良好な画像を取得することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 基板
2 誘電体層
3 光吸収層
4 光吸収積層体
5 ガスバリア層
6 主反射防止層
7 密着層
8 撥水層
9 反射防止積層体
10 ND膜
11 光学フィルタ
12、15~17 レンズ
13a、b 絞り羽根
14 光学フィルタ駆動部
18 受光素子
19 光量制御部

図1
図2
図3
図4
図5
図6