(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163425
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】レンズモジュール及びカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20231102BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20231102BHJP
G03B 30/00 20210101ALI20231102BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B1/115
G02B7/02 B
G03B30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074340
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内山 真志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安紘
【テーマコード(参考)】
2H044
2K009
【Fターム(参考)】
2H044AB28
2H044AD01
2K009AA02
2K009BB02
2K009BB11
2K009CC03
2K009DD03
2K009DD04
2K009FF01
2K009FF02
(57)【要約】
【課題】黄変度の互いに異なる材料から成る複数のレンズを備えたレンズモジュールにおいて、黄変の抑制と生産性とを最適化する。
【解決手段】樹脂材料から成る第1の光学素子と、前記第1の光学素子よりも黄変度が低い材料から成る第2の光学素子とを少なくとも含む複数の光学素子を有するレンズモジュールにおいて、前記第1の光学素子には、コバ面を含む光学素子全体を覆うように第1の反射防止膜を形成し、前記第2の光学素子には、コバ面を除き、少なくとも有効領域を含む物体側の面及び像面側の面に第2の反射防止膜を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料から成る第1の光学素子と、前記第1の光学素子よりも黄変度の低い材料から成る第2の光学素子とを少なくとも含む複数の光学素子を有するレンズモジュールであって、
前記第1の光学素子には、コバ面を含む光学素子全体を覆うように第1の反射防止膜が形成されており、
前記第2の光学素子には、コバ面を除き、少なくとも有効領域を含む物体側の面及び像側の面に第2の反射防止膜が形成されていることを特徴とするレンズモジュール。
【請求項2】
前記第1の反射防止膜は、前記第2の反射防止膜よりも酸素透過度が低いことを特徴とする請求項1に記載のレンズモジュール。
【請求項3】
前記第1及び第2の反射防止膜は、低屈折率層と、前記低屈折率層よりも屈折率の高い高屈折率層とを積層して成り、前記第1の反射防止膜は、更に前記低屈折率層及び前記高屈折率層よりも酸素透過度が低いガスバリア層を有し、前記第2の反射防止膜は、前記ガスバリア層を有していないことを特徴とする請求項2に記載のレンズモジュール。
【請求項4】
前記第2の光学素子は、前記第1の光学素子とは異なる樹脂材料から成ることを特徴とする請求項1に記載のレンズモジュール。
【請求項5】
前記第2の光学素子は、ガラスから成ることを特徴とする請求項1に記載のレンズモジュール。
【請求項6】
前記第2の光学素子は、複数の光学素子のうち、最も物体側に配置されていることを特徴とする請求項5に記載のレンズモジュール。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のレンズモジュールと、前記レンズモジュールによって形成された像を撮像する撮像素子とを備えたカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光学素子を有するレンズモジュール及びこのレンズモジュールを備えたカメラモジュールに関し、特に監視カメラまたは車載カメラに用いるのに適したレンズモジュール及びカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
監視カメラや車載カメラは、屋外や車内などの高温下で使用されるため、高い耐環境性が必要とされる。一方で、近年の低コスト化の要望に対し、コスト的に有利な樹脂レンズが積極的に検討されている。特許文献1には、樹脂レンズの酸化による黄変を抑制するため、樹脂レンズの表面の全体を、酸素透過防止膜及び反射防止膜で被ったレンズユニットが記載されている。また、反射防止膜を樹脂レンズの有効径を含む表面部分を被うように部分的に設けてもよいことが記載されている。
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、複数のレンズを備えたレンズユニットにおいて、反射防止膜でレンズの全面を被う構成と、反射防止膜を部分的に設ける構成とを、レンズの種類に応じて使い分けることに関しては記載されていない。レンズはその材料によって黄変度が異なるため、全てのレンズに同一の構成の反射防止膜を用いていたのでは、黄変の抑制と生産性とを最適化することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明は、樹脂材料から成る第1の光学素子と、前記第1の光学素子よりも黄変度が低い材料から成る第2の光学素子とを少なくとも含む複数の光学素子を有するレンズモジュールにおいて、前記第1の光学素子には、コバ面を含む光学素子全体を覆うように第1の反射防止膜を形成し、前記第2の光学素子には、コバ面を除き、少なくとも有効領域を含む物体側の面及び像面側の面に第2の反射防止膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、黄変度が高い光学素子には、全体を覆うように第1の反射防止膜を形成し、黄変度が低い光学素子には、コバ面を除く面に第2の反射防止膜を形成することによって、黄変の抑制と生産性を最適化することができる。
また、本発明において、第1の反射防止膜を、前記第2の反射防止膜よりも酸素透過度が低い構成とすることが望ましい。この構成によって、黄変の抑制と生産性を更に最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明のカメラモジュールの一実施形態を示す概略断面図。
【
図2】
図1の実施形態における第2の反射防止膜の構成例を示す概略断面図。
【
図3】
図1の実施形態における第1の反射防止膜の構成例を示す概略断面図。
【
図4】
図1の実施形態における第2の反射防止膜の変形例を示す概略断面図。
【
図5】本発明の実施例2における第2の反射防止膜の構成を示す概略断面図。
【
図6】本発明の実施例3における第2の反射防止膜の構成を示す概略断面図。
【
図7】本発明の実施例4における第2の反射防止膜の構成を示す概略断面図。
【
図8】本発明の実施例4における第2の反射防止膜の反射特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、全ての図面を通して、同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0009】
(カメラモジュールの構成)
図1は、本発明のカメラモジュールの一実施形態を示す概略断面図である。
図1において、カメラモジュール55は、レンズモジュール54、赤外線(IR)カットフィルタ52及び撮像素子51から構成される。撮像素子51は、レンズモジュール54によって形成された像を撮像する。また、レンズモジュール54は、物体側から順に配置された第1~第5レンズ50a~50eと、第1レンズ50a及び第2レンズ50bの間に配置された絞り53とから構成される。これらの部材は、不図示の鏡筒内に収容され、鏡筒によって保持されている。また、必要に応じて各レンズ間には、不図示の遮光板が設けられる。
【0010】
図1において、第1~第5レンズ50a~50eの各面は簡略化して平面で描いている。ただ、実際には一方の面或いは両面に、凸状或いは凹状の曲面(球面或いは非球面を含む)を有し、第1~第5レンズ50a~50eは正又は負の屈折力(パワー)を有する。これらのレンズは、本発明における複数の光学素子に対応する。但し、本発明において、光学素子とは屈折力を有するレンズに限らず、各種フィルタや保護ガラスなどの平板形状のものや、プリズム等を含むものである。
【0011】
(各レンズの構成)
レンズモジュール54を構成するレンズのうち、第1レンズ50aは、ガラス材料から成るガラスレンズである。一方、第2レンズ50b及び第4レンズ50dと、第3レンズ50c及び第5レンズ50eとは、互いに異なる樹脂(プラスチック)材料から成る樹脂レンズである。第3及び第5レンズ50c及び50eは、第2及び第4レンズ50b及び50dよりも黄変度の低い樹脂材料から成る。ここで黄変とは、酸素などの影響で樹脂(プラスチック)が「黄色」に変色する現象を言う。日本工業規格(JIS K7373)においては、プラスチックの黄色度YI(イエローインデックス)と黄変度ΔYIの測定方法が規定されている。黄変度ΔYIは、変化後のYIと初期のYIとの差として定義される。なお黄変度は、主にプラスチックの品質を評価するために用いられるものであるが、本発明においては、ガラスをプラスチックよりも黄変度の低い材料として扱う。
【0012】
本実施形態のレンズモジュールを特許請求の範囲に対応させると、第2レンズ50b及び第4レンズ50dが第1の光学素子に対応する。また、第1レンズ50a、第3及び第5レンズ50c及び50eが第2の光学素子に対応する。
【0013】
第1レンズ50aを形成するガラス材料としては、レンズとして必要とされる機械的、光学的、熱的な性能を有するものが利用される。このような材料として、オハラ社やHOYA社などの硝材メーカが取り扱っている各種のガラス材料を利用する事ができる。一方、第2~第5レンズ50b~50eを形成する樹脂材料としては、ポリエステル系、ポリウレタン系、オレフィン系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、PET(ポリエチレンテレフタレート)系、PES(ポリエーテルスルホン)系、ポリスルホン系、PEN(ポリエチレンナフタレート)系、PC(ポリカーボネート)系、及びポリイミド系などの様々な合成樹脂を使用することができる。さらに、有機無機ハイブリッド材料などを用いてもよい。
【0014】
樹脂は、ガラスなどと比較すると、柔軟で軽く、加工性に優れるが、熱による変形や変質を起こしやすい。このため、レンズを形成する樹脂材料としては、高耐熱性を有していることが望ましい。例えば、ガラス転移温度が120℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。さらには吸水による影響を考慮する場合は、吸水率の小さいオレフィン系、特にシクロオレフィン系の材料などが好適である。また、高屈折率でアッベ数の小さい材料が求められる場合には、例えばPC系の樹脂やフルオレン含有ポリエステル樹脂などが好適である。
【0015】
本実施形態において、第3及び第5レンズ50c及び50eは、黄変度の低い熱硬化樹脂、フルオレン含有ポリエステル系樹脂、PC系樹脂などから形成される。一方、第2及び第4レンズ50b及び50dは、黄変度の高いシクロオレフィン系樹脂などから形成される。これらの材料、つまりシクロオレフィン系とフルオレン含有ポリエステル系の樹脂レンズ、またはシクロオレフィン系とPC系の樹脂レンズは、屈折率やアッベ数の関係から光学設計的に同一レンズモジュール内で組み合わせて使われる事が多い。本実施形態においても、このように互いに黄変度が異なる2種類の材料から成る樹脂レンズが用いられている。
【0016】
(反射防止膜の構成)
本実施形態において、各レンズには反射防止膜が施されているが、反射防止膜の構成は、レンズを形成する材料の黄変度によって異ならせている。黄変度の高い第2及び第4レンズ50b及び50dには、
図1に示すように、コバ面を含むレンズ全体を覆うように第1の反射防止膜31が形成されている。ここで、コバ面とは、レンズの物体側の面及び像側の面を除く側面(側方の端面)を言う。一方、これらのレンズよりも黄変度の低いガラスから成る第1レンズ50aは、コバ面を除く、レンズの物体側の面及び像側の面にのみ、第2の反射防止膜21が形成されている。また、黄変度の低い樹脂材料から成る第3及び第5レンズ50c及び50eにおいても、コバ面を除く、レンズの物体側の面及び像側の面にのみ、第2の反射防止膜21が形成されている。
【0017】
反射防止膜は、レンズ全体を覆うように形成した方が、レンズへの酸素の侵入が妨げられるため、黄変を抑制する効果が高い。ただ、レンズ全体を覆うように形成する方法は、後述するように成膜レートが遅いため、生産性を低下させてしまう。そのため、本実施形態においては、黄変度の高い材料から成るレンズに対しては、レンズ全体を覆うように反射防止膜を形成し、黄変度の小さな材料から成るレンズには物体側及び像側の面にのみ反射防止膜を形成することによって、黄変の抑制と生産性を最適化するものである。
【0018】
また、本実施形態において、第1の反射防止膜31は、第2の反射防止膜21よりも酸素透過度が低い。酸素透過度を抑えるためには、後述するようにガスバリア性の高い層を形成することになるが、そのためには反射防止膜を構成する薄膜層の種類を増やす必要があり、生産性の低下につながる。本実施形態では、黄変度の高い材料から成るレンズに、黄変度の低い材料から成るレンズよりも、酸素透過度が低い反射防止膜を形成することにより、黄変の抑制と生産性を最適化するものである。
【0019】
(第2の反射防止膜)
図2は、本実施形態における第2の反射防止膜の構成例を示す概略断面図である。第1、第3及び第5レンズ50a、50c及び50eを構成する基材20上に、第2の反射防止膜21が形成される。第2の反射防止膜21は、密着層25上に、低屈折率層24及び低屈折率層24よりも屈折率の高い高屈折率層23を交互に複数層、積層することによって形成される。本実施形態では、8層積層した例を示している。
【0020】
高屈折率層23としては、波長500nmにおける屈折率が1.8以上で、反射防止の対象波長領域で吸収が少なく、安定的に成膜が可能な材料が好適である。例えばTiO2、Nb2O5、ZrO2、Ta2O5、HfO2、La2Ti2O7(LaTiO3)などを主成分とした薄膜層、またはこれらの複合層が好適に用いられる。この中でも光学特性を重視する場合は、屈折率が高いTiO2やNb2O5が特に好ましく、紫外線の吸収を抑えたい場合は、Ta2O5、HfO2、La2Ti2O7等を用いることがより好ましい。
【0021】
低屈折率層24としては、波長500nmにおける屈折率が1.6以下で、反射防止の対象波長領域で吸収が少なく、安定的に成膜が可能な材料が好適である。例えばSiO2或いはMgF2などを主成分とした薄膜層が好適に用いられる。薄膜層を積層する場合には、界面で発生する膜応力による局所的な歪みを可能な限り抑制し、薄膜層のクラックや剥離を防止することが望ましい。そのため、膜応力を考慮して材料が選択されることがあるが、例えば、圧縮応力が好ましい場合はSiO2を、引張応力が好ましい場合はMgF2を主成分とした薄膜層が良い。また、光学特性を重視する場合は屈折率が低いMgF2の方が好ましく、環境性を重視する場合はSiO2の方が好ましい。
【0022】
図2においては、高屈折率層23としてTiO
2層、低屈折率層24としてSiO
2層を用いた例を示した。密着層25は、基材20と反射防止膜21との密着性を高める層である。
図2においては、基材(樹脂レンズ)20との密着性が高く、SiO
2層との密着性も高いSiO層を用いた例を示した。
【0023】
(第1の反射防止膜)
図3は、本実施形態における第1の反射防止膜の構成例を示す概略断面図である。第2及び第4レンズ50b及び50dを構成する基材30上に、第1の反射防止膜31が形成される。第1の反射防止膜31は、基材30上に、ガスバリア層32、低屈折率層34、高屈折率層33及び低屈折率層34を順に形成し、この4層を一組として、複数組積層することによって形成される。本実施形態では2組、8層積層した例を示している。なお、
図3では、反射防止膜31が基材30上の一部に形成されているように描いているが、実際には
図1に示すように、レンズ(基材)全体を覆うように形成される。
【0024】
第1の反射防止膜31において、高屈折率層33及び低屈折率層34としては、
図2を用いて説明した第2の反射防止膜21と同様の材料が用いられる。本実施形態では、高屈折率層33としてTiO
2層、低屈折率層34としてSiO
2層を用いた例を示した。一方、ガスバリア層32は、高屈折率層33及び低屈折率層34より酸素透過度が低い、つまり酸素に対するガスバリア効果が高い薄膜層とした。このようなガスバリア層32の材料としては、反射防止の対象波長領域で吸収が少なく、安定的に成膜可能な材料が好ましい。例えば、Al
2O
3、Si
3N
4、AlN、SiONなどを主成分とした組成、またはこれらの材料を組み合わせた複合層などが好適に用いられる。
図2においては、ガスバリア層32として、Al
2O
3層を用いた例を示した。
【0025】
第1の反射防止膜31は、ガスバリア層32を含むことによって、第2の反射防止膜21よりも酸素透過度が低い構成となっている。ここで、酸素透過度とは、日本工業規格(JIS K7126)で規定されるガス透過度試験方法で、試験ガスを酸素として測定することができる。ここで、酸素透過度は、単位時間に単位面積の試験片を酸素が通過する体積として定義される。
【0026】
第1の反射防止膜31において、ガスバリア層32に、さらに水分に対するバリア効果も高い材料を用いれば、高湿度下においても、水分に起因する樹脂の膨張や樹脂材料の加水分解を抑制する事ができる。ガスバリア層32は膜密度が高いなどの理由から比較的硬い膜質となる事が多い。一方で高いガスバリア効果を得る為にはある程度の厚膜化が必要となる。従って、構造的にガスバリア層は他の層よりも膜応力などに起因したクラックが入り易い。そこで、本実施形態の第1の反射防止膜31では、ガスバリア層32を複数層に分割する事でガスバリア層1層の物理的な膜厚を所定の数値以下となるように構成した。このようなガスバリア層は1層の厚さが30nm以下、より好ましくは20nm以下が好適である。
【0027】
さらには、第1の反射防止膜31における高いガスバリア性能を維持するために、反射防止膜全体として構成されるガスバリア層の物理的な膜厚を所定の数値以上となるように構成した。このように第1の反射防止膜31に含まれる複数のガスバリア層32の物理膜厚の合計値としては、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。また、1層を薄くして膜応力を低減する観点から、分割されたガスバリア層32は1層だけ厚くなるような事を避け、均等に分割する事が好ましい。一方で、ガスバリア層に隣接する層の膜厚に顕著な差がある場合は、厚い層に挟まれたガスバリア層が他のガスバリア層よりも厚くなるように膜厚を調整した方が良い場合もある。
【0028】
(反射防止膜の膜応力)
第1及び第2の反射防止膜31及び21において、膜応力により発生するクラックを抑制することが望まれる。そのため、反射防止膜を形成する全ての層の膜応力が、引張応力または弱い圧縮応力と、圧縮応力との交互層となるような積層構成とする事が望ましい。特にガスバリア層32は、隣接する2つの層と膜応力の方向が反対となるように構成した方が好ましい。ここで弱い圧縮応力とは、例えば100nmの厚さに換算した場合に-100MPaよりも小さな圧縮応力を指している。また、隣接する全ての層の膜応力が、引張応力と圧縮応力で相殺されるような応力値に調整される事が特に望ましい。このような膜応力値の調整には、各層の膜厚や膜密度などを制御すれば良い。さらには、各層の膜応力値自体が小さい値、例えば膜厚が薄い層の積層構成となる事が特に望ましい。
【0029】
また、本実施形態において、第1及び第2の反射防止膜31及び21は、互いに成膜されるエリアが異なっているが、同一レンズ上に形成される反射防止膜の全ての薄膜層が同じエリアに形成される構成とした。つまり、第2の反射防止膜21のように、基材の表裏面(物体側の面及び像側の面)のみに形成する場合は、全ての薄膜層を同じエリアに積層した。一方、第1の反射防止膜31のように、レンズの全面を覆うように成膜した場合は、全ての積層膜がレンズ全面を覆うように積層した。例えば、基材に接して形成される薄膜層だけ全面を覆うように形成し、その他の薄膜膜を表裏面だけを覆うように成膜した場合、連続的なプロセスで成膜する事は著しく困難であり、生産性を損なう問題がある。また、成膜プロセスが異なる事で、全面膜と表裏面膜との界面における密着や、界面に起因したクラックなどの不具合が発生する虞が大きい。密着不良やクラックは反射防止膜としてのガスバリア性に悪影響を与える事から、本実施形態においては、このような構成は取らず、先に説明した通りの構成とした。
【0030】
(反射防止膜の特性)
本実施形態における第1及び第2の反射防止膜31及び21は、特には400~700nmの可視波長領域における反射を低減する機能を有する多層膜である。より具体的には400~700nmの波長領域において反射率が1%以下となる特性を有していることが望ましい。本発明の反射防止膜が対象とする波長領域は、可視波長だけに限らず、700nm以上の近赤外波長や400nm以下の紫外線波長を対象としても良い。
【0031】
(樹脂レンズの形成方法)
本実施形態において、樹脂材料によって形成される第2~第5レンズ50b~50eは、例えば射出成形法などにより成形することができる。具体的には、まず成形機の固定側の鏡面駒と可動側の鏡面駒を突き合わせて形成されるレンズ部や、外周部、ゲート部などを含むキャビティに、ゲート部より樹脂材料を充填する。そして、樹脂が硬化した後に金型を開放し、樹脂レンズを取り出し、レンズのゲート部を切断する。このような方式で、ガラスでは加工が難しい非球面レンズや高曲率レンズも比較的容易に作製することができる。なお、基板の成形は射出成型法に限らず、射出圧縮成型法や注型重合法など様々な方法を用いることができる。
【0032】
また、本実施形態の樹脂レンズを形成する場合に、成形による内部応力の解放やレンズの基材に吸着した水分の除去を目的に、反射防止膜を形成する前に、アニール処理を行うことが好ましい。アニール処理は、80℃~基板のガラス転移温度以下程度、好ましくは基材のガラス転移温度の15℃程度以下の温度で、0.5~24時間程度、より好ましくは1~12時間程度実施するのが好適である。
【0033】
(反射防止膜の成膜プロセス)
本実施形態において、第1及び第2の反射防止膜31及び21は、例えば物理的、若しくは化学的成膜方法で形成される。これらの成膜方法の中で、再現性や膜の耐環境性などの観点からは、スパッタ法や、何らかのアシストを付加した蒸着方法など、比較的高エネルギーで膜を形成できるプロセスが好ましい。より具体的には、スパッタ法、IAD(Ion Assist Deposition)法、イオンプレーティング法、IBS(Ion Beam Sputter)法、クラスター蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法などに加え、これらを複合的に用いた成膜プロセスの適用が可能である。以上の成膜方法の中で、第1の反射防止膜31のようにレンズ全体を覆うにコーティングする事は、IAD法など通常の蒸着法やスパッタ法では極めて難しく、ALD法など限られたプロセスを選択する必要がある。一方で、特にALD法などは成膜レートが非常に遅いため、生産性を低下させてしまう虞が大きい。また、ウェット系の成膜プロセスでは、本実施例のような高精度を必要とする光学膜に対する膜厚制御が大変難しく、光学特性の再現性を低下させてしまう虞がある。これらを考慮し、求められる再現性や膜密度などの薄膜特性や生産性などから、適宜で最適な成膜方法を選択する必要がある。
【0034】
また、成膜中は樹脂の耐熱性に合わせて加熱する事が好ましい。高い環境性を必要とする本実施形態で使用されるような樹脂レンズの場合、ガラス転移温度などの耐熱性も高く、通常の樹脂材料と比較しても高温で処理する事が可能である。以上の理由から、例えば100℃以上で加熱する事が好ましく、特に車載カメラのような高温下での使用が想定される用途の場合は、110℃以上で加熱する事が好ましい。逆に、ガラス転移温度に近い、またはガラス転移温度を超えるような温度での加熱は避けた方が良く、概ねガラス転移温度から15℃~20℃以上低い温度で成膜する事が望ましい。
【0035】
(樹脂レンズの環境特性)
本実施形態の第2~第5レンズ50b~50eのような樹脂レンズを、例えば使用温度範囲が広い車載カメラや監視カメラなどに搭載する場合は、温度による屈折率変化が小さいことが望まれる。例えば、e線において0℃における屈折率と80℃における屈折率の差が0.8%以下であることが好ましく、0.6%以下であることがより好ましい。また、高温による光学特性の変化、特に黄変度(ΔYI)が低いことが好ましい。例えば110℃ 1500時間における黄変度ΔYIの値が10以下であることが好ましく、さらには3以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、樹脂レンズの透過率は400~700nmの可視光波長領域において80%以上であることが望ましい。また、110℃、1500時間の環境試験後も、可視光波長における透過率が60%以上であることが好ましい。これらの樹脂レンズを複数含むレンズモジュールや、このレンズモジュールを組み込んだカメラモジュールでは、収差などの光学特性を調整するため、本実施形態のように、屈折率やアッベ数の異なる複数種類の樹脂材料を組み合わせて使用される。
【0036】
(反射防止膜の変形例)
図1の実施形態の第1レンズ50aにおいて、第2の反射防止膜21は、レンズのコバ面を除く、表裏面(物体側の面及び像側の面)の全体に形成したが、表裏面の一部に形成しても良い。
図4は、このよう第2の反射防止膜21の変形例を示す概略断面図である。この例では、反射防止膜21は、第1レンズ50aの有効領域(有効径)EDにのみ形成されている。レンズモジュール54において、像を形成する光は、絞り等の働きによってレンズの表裏面全てを透過するわけではない。そのため、レンズに光が通る口径の最大値として有効領域(有効径)が定義される。
図4の例では、反射防止機能が必要とされる、この有効領域(有効径)EDにのみ、反射防止膜21を形成したものである。また、
図1の第3及び第5レンズ50c及び50eにおいても、同様の構成とすることができる。
【0037】
以下、先に説明した実施形態に基づき、実際にレンズモジュールを作成した実施例について説明する。
【0038】
(実施例1)
図1に示す構成のレンズモジュールを作成した。第1の反射防止膜31及び第2の反射防止膜21としては、それぞれ
図3及び
図2に示す構成を用いた。
図3に示す第1の反射防止膜31に関して、第1レンズ50aはガラスを基材20とし、第3及び第5レンズ50c及び50eは、150℃以上のガラス転移温度を有するフルオレン含有ポリエステル系の樹脂で形成されたレンズを基材20とした。これらの基材20上に、密着層25として、SiO層を形成した後、低屈折率層24としてのSiO
2層、高屈折率層23としてのTiO
2層をIAD法により交互に積層して、8層で構成された第2の反射防止膜21を形成した。
【0039】
SiO層は樹脂レンズとの密着性が高く、さらにはSiO2層との密着性も高い事から、基材(樹脂レンズ)20と低屈折率層24との密着性を高める目的で、これらの界面に配置した。特にレンズが樹脂製の場合、レンズと反射防止膜との熱膨張率の違いから界面を起点にクラックが入る事があるが、密着層25を形成することで、反射防止膜のクラックの発生を抑制する事ができた。
【0040】
高屈折率層23は、引張応力を有するTiO2層とした。TiO2層は蒸着源としてTi3O5を用いた。そして、所定の組成となるように、イオンソースからO2イオンを照射して酸化を促し、エネルギーを与えて成膜をアシストする事で、高密度のTiO2層を形成した。このようなTiO2層は、アシストパワーや加熱条件などの成膜条件を変える事で弱い圧縮応力としても良い。
【0041】
低屈折率層24は、圧縮応力を有するSiO2層とした。SiO2層は、SiO層直上に設けたSiO2層以外の層は、蒸着源としてSiO2を用いた。そして、所定の組成となるように、イオンソースからO2イオンを照射して酸化を促し、エネルギーを与えて成膜をアシストする事で、高密度のSiO2層を形成した。
【0042】
密着層25であるSiO層は、蒸着源としてSiOを用い、イオンソースのアシストは使用せずEB蒸着により形成した。前述のようにSiO層は基材20であるレンズとSiO2層との密着力を高める目的で形成されている。そのため、5~20nmと比較的薄い物理膜厚とする事で吸収等の発生を抑制し、膜応力も小さい値に制御している。隣接するSiO2層と組成が近い事から、界面で酸素をやり取りしたり、共有したりする。そのため、他の界面に比べて組成が連続的に変化して一体的になっており、このようなSiO層はSiO2層の一部として捉える事ができる。実際に、蒸着源としてSiOを用い、SiO層を形成した直後に、プロセスを区切らず連続的に、イオンソースによるアシストを実施して、そのままSiO2膜を連続成膜した。このようなSiO層直上に設けられたSiO2層は、他のSiO2層と同様に蒸着源にSiO2を用いて、イオンソースからO2イオンを照射する事でも形成する事ができる。
【0043】
本実施例1において、
図1に示す第2及び第4レンズ50b及び50dは、黄変に対する耐性が低いシクロオレフィン系の樹脂で形成した。これらのレンズには、
図3に示す第1の反射防止膜31を、コバ面を含むレンズ全体を覆うように形成した。反射防止膜31を構成する全ての層は、ALD法により成膜した。
【0044】
ALD法は、CVD法と類似の気相薄膜形成法である。CVD法では反応チャンバー内に2種のプリカ―サを同時に導入し、反応生成物が基板に堆積していくのに対し、ALD法は反応チャンバー内に導入するプリカ―サは基本的には1種のみである。ALD法では、基板に吸着したプリカ―サ以外は、他のプリカーサと化学反応することはなく、基板の表面のみで反応生成物が形成される。このため、ALD法は膜中の欠陥が極めて少なく、複雑な形状の基板、例えば曲率の大きなレンズなどに対してもコンフォーマルな層を形成することができるので、ガスバリア性に特に優れる。一方でIAD法やスパッタ法などと比較するとALD法は成膜レートが遅く、生産性に劣る部分がある。そのため、本実施例1では、黄変に強いガラスとフルオレン含有ポリエステル系の樹脂レンズに対しては生産性を重視してIAD法を、黄変に弱いシクロオレフィン系の樹脂レンズに対しては耐黄変性を重視してALD法を選択した。
【0045】
反射防止膜31において、ガスバリア層(Al2O3層)32は、第1プリカ―サとしてTMA(トリメチルアルミ)を、第2プリカーサとして水分子を用いたALD法で形成した。同様に、低屈折率層(SiO2層)34は、第1のプリカ―サとしてTDMAS(トリスジメチルアミノシラン)、第2のプリカ―サとして水分子を用い、ALD法によって形成した。また、高屈折率層(TiO2層)33は、第1のプリカ―サとしてTDMAT(テトラキスジメチルアミノチタン)、第2のプリカ―サとして水分子を用いて、ALD法によって成膜した。ここで、第2プリカーサを水分子としたが、活性酸素、例えばオゾンなどを用いても良い。また、形成する膜材料によっては第2のプリカ―サとしてアンモニアガスや窒素ガスを用いても良い。さらに、本実施例1では、最も基材側のガスバリア層32を形成する際に、基材30に第1のプリカ―サが吸着できるサイト、例えばOH基を設けた。OH基を設けるには、プラズマ処理やUVオゾン処理などを用いてもよいし、水分子をプリカ―サとしてOH基を吸着させてもよい。
【0046】
ALD法は成膜面への単分子層の吸着により成膜が進行するため、基板の形状に影響を受けることなく、均一な膜厚で成膜することができる。そのため、例えば高曲率や非球面レンズなどへの成膜に好適である。さらに、形成される層は単分子層なので、精密な膜厚制御が可能である。またさらに、ALD法は物理蒸着などとは異なり、単分子レベルで層を形成できるため、膜欠陥が少ない事から、ガスバリア性に優れる層を形成する事ができる。このため、基材に樹脂材料を用いる場合には、樹脂の酸化に起因する黄変、水分に起因する膨張や加水分解を抑制する効果が期待できる。
【0047】
本実施例1ではALD法を用いる成膜手法を説明したが、CVD法とALD法を組みわせた成膜プロセスを選択することもできる。なお、ALD法には熱を用いたサーマルALD法や、プラズマを用いたプラズマALD法などがあるが、どちらのプロセスを選択する事も可能である。特に本実施例1のように樹脂基材上に成膜する場合は、成膜中の温度を低くできるメリットからプラズマALD法を選択する事が望ましい場合が多い。この時、基材(樹脂レンズ)30のプラズマによるダメージを避けるため、例えばプラズマを反応チャンバー外で発生させ、ここで励起したOHラジカルのみが反応チャンバーに到達するようなプロセスであることが好ましい。同様に、基材が樹脂の場合はCVD法での成膜もプラズマCVD法を用いることが良い場合がある。
【0048】
本実施例1では、ALD法により第1の反射防止膜31を成膜した。ここで、ALDプロセスにおいてAl2O3はプリカーサの種類も多く、最も安定的に薄膜が形成される材料の1つである。そのため、成膜される基材30との界面の密着状態や、膜組成や膜密度の均質化などを考慮し、基材30に接する初期層に、ガスバリア層32であるAl2O3層を配置した。Al2O3層は、圧縮応力を有するので、この上に、圧縮応力を有する低屈折率層34であるSiO2層を形成し、さらにその上に引張応力を有する高屈折率層33であるTiO2層を積層した。さらに低屈折率層(SiO2層)34を積層した後、ガスバリア層32であるAl2O3層を再度形成し、その後、SiO2層、TiO2層、SiO2層をこの順に積層した。このように本実施例1では、反射防止膜31を構成する薄膜層の全てが、引張応力と圧縮応力との交互層となるように構成した。このような積層構成とする事で、各界面で発生する膜応力による局所的な歪みを可能な限り抑制し、高温環境下を模した高温試験においても膜のクラックや剥離を抑制する事ができる。また、2層のAl2O3層はそれぞれ約20nmの物理膜厚とし、厚膜化することによる局所的な歪みを低減した。一方で良好な酸素ガスバリア効果を得る為には、ガスバリア層の合計膜厚が40nm以上必要と判断されたため、20nmを2層に分割配置する構成を選択した。
【0049】
本実施例1において、第2の反射防止膜21は、ガスバリア層32が挿入され、レンズ全体を覆うようにコーティングされている第1の反射防止膜31よりもガスバリア性能は低い。しかし、第2の反射防止膜21を多層膜構成とした事により、酸素がレンズ基板内に侵入する事を抑制する事ができ、コーティング膜の無い、レンズ基板の全てが周囲雰囲気に剥き出しの状態と比較すると、ガスバリア効果は高い。
【0050】
また本実施例1では、第1及び第2の反射防止膜31及び21を構成する薄膜層の全てが、引張応力または弱い圧縮応力と、圧縮応力との交互層となるように構成した。また、特にガスバリア層32は、隣接する2つの層と膜応力の方向が反対となるように構成した。このような積層構成とする事で、各界面で発生する膜応力による局所的な歪みを可能な限り抑制し、高温環境下を模した高温試験においても膜のクラックや剥離を抑制する事ができた。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同様に、
図1に示す構成のレンズモジュールを作成した。但し、本実施例2においては、第1、第3及び第5レンズ50a、50c及び50eに、第2の反射防止膜21に代えて、
図5に示す第2の反射防止膜61を形成した。第2及び第4レンズ50b及び50dには、実施例1と同様に、
図3に示す第1の反射防止膜31を形成した。なお、
図5では第2の反射防止膜61は、基材60の一面の一部に形成されるように描かれているが、実際にはコバ面を除く、基材(レンズ)60の表裏面のみ、少なくともレンズの有効領域(有効径)を含む面(領域)に形成されている。
【0052】
本実施例2において、第1レンズ50aはガラスを基材60とし、第3及び第5レンズ50c及び50eは、150℃以上のガラス転移温度を有するPC系の樹脂で形成されたレンズを基材60とした。そして
図5に示すように、この基材60上に、低屈折率層64であるSiO
2層と、高屈折率層63であるNb
2O
5層を交互積層する構成を基本とし、7層で構成された第2の反射防止膜61を形成した。第2の反射防止膜61においては、スパッタ法により全ての薄膜層を成膜した。特に、金属ターゲットをスパッタして極薄の金属膜を形成した後、専用の反応ソースで金属膜を酸化や窒化させる事で酸化膜や窒化膜を形成する、後反応方式のスパッタ法を用いた。
【0053】
高屈折率層63は、弱い圧縮応力を有するNb2O5層とした。Nb2O5層はNbターゲットを用い、極薄のNb薄膜を形成した後、所定の組成となるようにO2ガスを流した反応ソースで酸化させる事でNb2O5薄膜とした。そして、所定の膜厚になるまでこのプロセスを繰り返して各高屈折率層(Nb2O5層)63を形成した。また、このようなNb2O5層はスパッタ条件や酸化条件、加熱条件などを変える事で引張応力としても良いが、特に本実施例のようなスパッタプロセスでは、膜密度が大幅に低下してしまう弊害が懸念されたため、本実施例2では弱い圧縮応力となるように調整した。
【0054】
低屈折率層64は圧縮応力を有するSiO2層とした。SiO2層はSiターゲットを用い、極薄のSi薄膜を形成した後、所定の組成となるようにO2ガスを流した反応ソースで酸化させる事でSiO2薄膜とした。そして、所定の膜厚になるまでこのプロセスを繰り返して各低屈折率膜(SiO2層)64を形成した。
【0055】
本実施例2において、
図1に示す第2及び第4レンズ50b及び50dは、黄変に対する耐性が低いシクロオレフィン系の樹脂で形成した。これらのレンズ上には、
図3で示したような第1の反射防止膜31を構成する全ての薄膜層をALD法により成膜した。本実施例2では、黄変に強いガラスとPC系の樹脂レンズに対しては生産性を重視したIAD法を、黄変に弱いシクロオレフィン系の樹脂レンズに対しては耐黄変性を重視したALD法を選択した。
【0056】
本実施例2において、第1の反射防止膜31の各薄膜層は、実施例1と同様のプロセスによって、全く同一の構成となるように形成した。本実施例2においても、ALD法は、サーマルALD法、プラズマALD法のどちらを用いても良い。また、CVD法とALD法を組み合わせた成膜プロセスを選択することもできる。更に、実施例2において、第1及び第2の反射防止膜31及び61を構成する各薄膜層の材料及び膜厚は、実施例1と同様に、ガスバリア性、クラックや剥離を抑制する観点から選択した。
【0057】
(実施例3)
実施例1において、第2の反射防止膜21は、ガスバリア層を有していない構成としたが、ガスバリア層を設けても良い。
図6は、このような第2の反射防止膜の変形例を示す概略断面図である。
図6において、基材70上に複数の薄膜層を積層することによって、第2の反射防止膜71を形成した。まず、基材70上に密着層75としてSiO層を形成した後、SiO
2層から成る低屈折率層74を形成した。その後、ガスバリア層72としてのAl
2O
3層、低屈折率層74としてのSiO
2層、高屈折率層73としてのTiO
2層、低屈折率層74としてのSiO
2層をこの順に形成した。そして、この4層を1組として、更に2組の薄膜層を積層することによって、全部で14層から成る第2の反射防止膜71を形成した。
【0058】
本実施例3において、ガスバリア層72を含め、反射防止膜71を構成する全ての薄膜層は、生産性の高い方法(EB蒸着及びIAD法)によって成膜した。そのため、実施例1に対してガスバリア性能は高くなっているが、第2の反射防止膜21と同様に、レンズの全面を覆った状態ではなく、レンズの物体側の面及び像面側の面にのみ形成した。なお、本実施例3のレンズモジュールは、反射防止膜71以外は、実施例1と同様に構成される。
【0059】
(実施例4)
実施例2において、第2の反射防止膜61は、ガスバリア層を有していない構成としたが、ガスバリア層を設けても良い。
図7は、このような第2の反射防止膜の変形例を示す概略断面図である。
図7において、基材80上に複数の薄膜層を積層することによって、第2の反射防止膜81を形成した。まず、基材80上に、低屈折率層84としてのSiO
2層、高屈折率層83としてのNb
2O
5層、低屈折率層84としてのSiO
2層、ガスバリア層82としてのSiON層をこの順に形成した。そして、この4層を1組として、更に1組の薄膜層を積層した。この上に、低屈折率層84としてのSiO
2層、高屈折率層83としてのNb
2O
5層、低屈折率層84としてのSiO
2層をこの順に形成することによって、全部で11層から成る第2の反射防止膜81を形成した。
【0060】
本実施例4において、ガスバリア層82を含め、反射防止膜81を構成する全ての薄膜層は、生産性の高いスパッタ法によって成膜した。そのため、実施例2に対してガスバリア性能は高くなっているが、第2の反射防止膜61と同様に、レンズの全面を覆った状態ではなく、レンズの物体側の面及び像面側の面にのみ形成した。なお、本実施例4のレンズモジュールは、反射防止膜81以外は、実施例2と同様に構成される。
【0061】
図8は、本実施例4における、第2の反射防止膜81の反射特性を示す図である。
図8の横軸は波長(Wavelength[nm])を示し、縦軸は反射率(Reflectance[%])を示す。反射率の数値が低ければ低いほど、光の反射が抑えられることを表す。本実施例4の第2の反射防止膜は、400~700nmの波長領域において反射率が1%以下であり、優れた反射防止効果を有していることがわかる。反射特性は省略するが、実施例4以外の本発明に用いられる第1及び第2の反射防止膜も、実施例4と同様に、良好な反射防止効果を有するものである。
【0062】
(他の実施形態)
本発明は、以上説明した実施形態に限らず、種々の変形、応用が可能である。例えば、先に説明した実施形態においては、5枚のレンズからレンズモジュールが構成されていたが、これに限らず、いかなるレンズ構成、レンズ枚数のレンズモジュールにおいても本発明を適用可能である。また、実施形態においては、環境の影響を受け易い、最も物体側のレンズのみをガラスレンズとしたが、最も像側のレンズもガラスレンズとしても良い。このような構成を用いると、ガラスレンズと鏡筒によって、内部に収容された樹脂レンズを封止することができるので、より黄変を抑制することが期待できる。また、実施形態のカメラモジュールでは、IRカットフィルタを設けているが、ここにIRパスフィルタなど他の光学フィルタを配置しても良い。更に、光学フィルタを複数配置して併用したり、複数の光学フィルタを選択的に光軸上に出し入れしたりする事も可能である。
【0063】
また、先の実施形態のように異なる樹脂材料から成る2種類以上の樹脂レンズを含む場合に、全ての樹脂レンズにレンズ全体を覆ように反射防止膜を形成し、ガラスレンズにのみコバ面を除くレンズの表裏面に反射防止膜を形成するようにしても良い。また、ガラスレンズを用いずに、全て樹脂レンズで構成することも出来る。この場合、黄変度の高い樹脂レンズには、レンズ全体を覆うように反射防止膜を形成し、黄変度の低い樹脂レンズには、コバ面を除くレンズの表裏面に反射防止膜を形成する。先に説明したように、本発明のレンズモジュールには、レンズだけでなく、各種フィルタや保護ガラスなどの平板形状のものや、プリズム等の光学素子を含んでいても構わない
【0064】
さらに、レンズモジュールにフルオレン含有ポリエステル系、PC系、シクロオレフィン系など3種類以上の異なる樹脂レンズを併用する事も可能である。この場合、少なくても最も黄変に対する耐性が低い樹脂、例えば前述の3種類を例にすると、シクロオレフィン系の樹脂レンズは、ALD法でレンズ全体を覆うように反射防止膜を形成する。一方、フルオレン含有ポリエステル系とPCの樹脂レンズは、IAD法やスパッタ法など、ALD法と比較して生産性の高い成膜プロセスで、コバ面を除くレンズの表裏面にのみ反射防止膜を形成する。また、フルオレン含有ポリエステル系の樹脂レンズのみIAD法などでレンズの表裏面にのみ反射防止膜を形成し、PC系とシクロオレフィン系の樹脂レンズに対して、ALD法でレンズ全体を覆うように反射防止膜を形成しても良い。
【0065】
以上説明した、いずれの変形例においても、レンズ全体を覆うように形成される反射防止膜としては、先に説明した第1の反射防止膜のように、ガスバリア層を有することが望ましい。つまり、レンズ全体を覆うように形成される反射防止膜は、レンズの表裏面にのみ形成される反射防止膜よりも、酸素透過度が低いことが望ましい。
【0066】
本実施例1~4で説明したALD法は、原理的に膜をコーティングするレンズなどの基板上の清浄度に影響を受け易く、特に基板表面に汚れやパーティクルが存在した状態で成膜すると膜に欠陥ができやすい。欠陥はガスバリア性に悪影響を及ぼすため、このパーティクルの影響を少なくする目的で、例えばCVD法などで、想定されるパーティクルを十分に埋めてしまえる程度の膜厚、例えば数μmから数十μmの厚さを有する下地層を形成した後、ALD法で成膜しても良い。この場合、CVD法で作製した下地層は光学的な影響を考慮し、対象波長領域で透明なものが好ましく、基板の屈折率に近い屈折率を有する材料とする事が望ましい。さらに、パーティクルを埋める事が目的である為、生産性を重視する事が望ましい。従って、下地層を形成する成膜プロセスは、ある程度成膜レートが高く、下地層から反射防止膜の成膜に移行する際に、一度大気開放するようなプロセスでは無い方が好ましく、ALDプロセスと一連で成膜できるプロセスが良い。従って、ALD法による成膜前の下地層を作製するプロセスとしては、成膜条件を変える事でALD法からの成膜プロセスの切替えが可能な、CVD法が特に好ましい。
【0067】
本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限りにおいて、上記の変形例、応用例を全て包含するものである。
【符号の説明】
【0068】
21 第2の反射防止膜
31 第1の反射防止膜
50a~50e 第1~第5レンズ
51 撮像素子
52 IRカットフィルタ
53 絞り
54 レンズモジュール
55 カメラモジュール