(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163437
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品、および積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
H01G4/30 201N
H01G4/30 311Z
H01G4/30 515
H01G4/30 512
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074358
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】谷口 克哉
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AC10
5E001AD02
5E001AD05
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E001AH01
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC19
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG16
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG28
5E082JJ03
5E082JJ23
5E082LL03
(57)【要約】
【課題】 耐湿性および信頼性に優れた積層セラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 積層セラミック電子部品は、複数の誘電体層と複数の内部電極層とが交互に積層された積層部分を含み、異なる端面に接続された内部電極層12同士が対向する容量領域と、複数の誘電体層11および複数の内部電極層12の2側面側の端部を覆うように設けられセラミックを主成分とするサイドマージン16と、を備え、サイドマージン16は、ホウ素およびケイ素を含み、容量領域側から外側に向かって順に第1領域161および第2領域162を備え、第1領域161におけるホウ素の濃度は、第2領域162におけるホウ素の濃度よりも大きく、第2領域162におけるケイ素の偏析度合いは、第1領域161におけるケイ素の偏析度合いよりも大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層と、複数の内部電極層とが交互に積層された積層部分を含み、積層された複数の前記内部電極層が、対向する2端面に交互に露出するように配置され、前記2端面以外に積層方向の上面および下面と、2側面とを有する素体を備え、
前記素体は、異なる端面に接続された前記内部電極層同士が対向する容量領域と、前記複数の誘電体層および前記複数の内部電極層の前記2側面側の端部を覆うように設けられセラミックを主成分とするサイドマージンと、を備え、
前記サイドマージンは、ホウ素およびケイ素を含み、前記容量領域側から外側に向かって順に第1領域および第2領域を備え、
前記第1領域におけるホウ素の濃度は、前記第2領域におけるホウ素の濃度よりも大きく、
前記第2領域におけるケイ素の偏析度合いは、前記第1領域におけるケイ素の偏析度合いよりも大きい、積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記第2領域は、ポアを有し、
前記第2領域のケイ素は、前記ポアに偏析している、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記第1領域におけるホウ素の濃度は、前記第2領域におけるホウ素の濃度よりも0.1at%以上大きい、請求項1または請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記サイドマージンにおいて、ホウ素の濃度が、前記容量領域側から外側に向かって、徐々に低下している、請求項1または請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
誘電体グリーンシート上に、内部電極パターンと、前記内部電極パターンの外側に位置してホウ素およびケイ素を含む第1誘電体パターンと、前記第1誘電体パターンよりも外側に位置し、ホウ素およびケイ素を含み、前記第1誘電体パターンよりもホウ素濃度の低い第2誘電体パターンと、が形成された積層単位を用意する工程と、
前記積層単位を複数積層することで未焼成の素体を得る工程と、
前記未焼成の素体を焼成する工程と、を含む、積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記第1誘電体パターンにおけるホウ素の濃度と、前記第2誘電体パターンにおけるホウ素の濃度との差を、0.2at%よりも大きくする、請求項5に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記誘電体グリーンシート上に前記内部電極パターンを複数配列させて形成しておき、
複数の前記内部電極パターンにまたがって前記第2誘電体パターンを形成する、請求項5または6に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記未焼成の素体を焼成する際の温度を、1180℃以上、1230℃以下とする、請求項5または請求項6に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品、および積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの小型大容量化が進展している。それに伴い、誘電体層および内部電極層の薄層化が進行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-52132号広報
【特許文献2】特開2020-31242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘電体層および内部電極層の薄層化に伴い、誘電体材料および内部電極材料の小径化も顕著である。それに伴って、焼結時の安定性確保が難しくなっている。しかしながら、信頼性設計には、容量領域に加えてサイドマージンの焼結設計も、水分侵入防止の観点から重要となっている。
【0005】
還元焼成時に内部電極層の金属成分が酸化すると、周囲の誘電体(容量領域およびサイドマージン)に拡散が生じる。しかしながら、当該金属成分の拡散濃度は、容量領域>サイドマージンとなる。金属成分の拡散は、焼成過程において緻密化促進に寄与することから、容量領域に比べてサイドマージンの緻密化は遅れる傾向となる。そこで、耐湿性を確保するために必要な緻密化レベルまでサイドマージンの焼結を進めることが考えられる。しかしながら、この場合、容量領域が過焼結になり、内部電極層の球状化による寿命低下が生じ、十分な信頼性が得られない、といった課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、耐湿性および信頼性に優れた積層セラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、複数の誘電体層と、複数の内部電極層とが交互に積層された積層部分を含み、積層された複数の前記内部電極層が、対向する2端面に交互に露出するように配置され、前記2端面以外に積層方向の上面および下面と、2側面とを有する素体を備え、前記素体は、異なる端面に接続された前記内部電極層同士が対向する容量領域と、前記複数の誘電体層および前記複数の内部電極層の前記2側面側の端部を覆うように設けられセラミックを主成分とするサイドマージンと、を備え、前記サイドマージンは、ホウ素およびケイ素を含み、前記容量領域側から外側に向かって順に第1領域および第2領域を備え、前記第1領域におけるホウ素の濃度は、前記第2領域におけるホウ素の濃度よりも大きく、前記第2領域におけるケイ素の偏析度合いは、前記第1領域におけるケイ素の偏析度合いよりも大きくなっている。
【0008】
上記積層セラミック電子部品において、前記第2領域は、ポアを有し、前記第2領域のケイ素は、前記ポアに偏析していてもよい。
【0009】
上記積層セラミック電子部品において、前記第1領域におけるホウ素の濃度は、前記第2領域におけるホウ素の濃度よりも0.1at%以上大きくてもよい。
【0010】
上記積層セラミック電子部品の前記サイドマージンにおいて、ホウ素の濃度が、前記容量領域側から外側に向かって、徐々に低下していてもよい。
【0011】
本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、誘電体グリーンシート上に、内部電極パターンと、前記内部電極パターンの外側に位置してホウ素およびケイ素を含む第1誘電体パターンと、前記第1誘電体パターンよりも外側に位置し、ホウ素およびケイ素を含み、前記第1誘電体パターンよりもホウ素濃度の低い第2誘電体パターンと、が形成された積層単位を用意する工程と、
前記積層単位を複数積層することで未焼成の素体を得る工程と、前記未焼成の素体を焼成する工程と、を含む。
【0012】
上記製造方法において、前記第1誘電体パターンにおけるホウ素の濃度と、前記第2誘電体パターンにおけるホウ素の濃度との差を、0.2at%よりも大きくしてもよい。
【0013】
上記製造方法において、前記誘電体グリーンシート上に前記内部電極パターンを複数配列させて形成しておき、複数の前記内部電極パターンにまたがって前記第2誘電体パターンを形成してもよい。
【0014】
上記製造方法において、前記未焼成の素体を焼成する際の温度を、1180℃以上、1230℃以下としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐湿性および信頼性に優れた積層セラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図5】(a)はポアを例示する図であり、(b)はポアにおけるケイ素の偏析を例示する図である。
【
図6】LA-ICP-MSの測定結果を例示する図である。
【
図7】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図8】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【
図9】(a)および(b)は他の積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0018】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する素体10と、素体10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、素体10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、素体10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0019】
なお、
図1~
図3において、X軸方向は、素体10の長さ方向であって、素体10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向は、内部電極層の幅方向であり、素体10の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。Z軸方向は、積層方向であり、素体10の上面と下面とが対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0020】
素体10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、素体10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13は、誘電体層11と組成が同じであっても、異なっていても構わない。なお、内部電極層12が異なる2つの面に露出して、異なる外部電極に導通していれば、
図1から
図3の構成に限られない。
【0021】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0022】
内部電極層12は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、スズ(Sn)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。内部電極層12の厚みは、例えば、0.1μm以上1μm以下である。
【0023】
誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、チタン酸バリウム(BaTiO3),ジルコン酸カルシウム(CaZrO3),チタン酸カルシウム(CaTiO3),チタン酸ストロンチウム(SrTiO3),チタン酸マグネシウム(MgTiO3),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3は、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。例えば、誘電体層11において、主成分セラミックは、90at%以上含まれている。誘電体層11の厚みは、例えば、2μm以上5μm以下であり、1μm以上3μm以下であり、0.2μm以上1.0μm以下である。
【0024】
誘電体層11には、添加物が添加されていてもよい。誘電体層11への添加物として、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0025】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0026】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0027】
図3で例示するように、素体10において、サイドマージン16は、誘電体層11および内部電極層12の2側面側の端部(Y軸方向の端部)を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0028】
サイドマージン16は、セラミック材料を主成分とする。サイドマージン16の主成分セラミックは、容量領域14内の誘電体層11の主成分セラミックと同じ組成を有していてもよく、異なる組成を有していてもよい。サイドマージン16の主成分セラミックと、容量領域14内の誘電体層11の主成分セラミックとで、添加物の種類や含有量だけが異なっていてもよい。サイドマージン16は、添加物としてホウ素およびケイ素を含み、容量領域14側から外側に向かって順に第1領域161および第2領域162を備えている。
【0029】
第1領域161におけるホウ素の濃度は、第2領域162におけるホウ素の濃度よりも高くなっている。ホウ素はセラミック材料の焼結を促進する働きを有していることから、容量領域14の過焼結を生じさせない範囲で、第1領域161を緻密化させることができる。それにより、容量領域14に対する水分の侵入を抑制することができる。なお、ホウ素の濃度とは、ペロブスカイト構造を有する主成分セラミックのBサイト元素を100at%とする場合のホウ素の比率のことである。また、容量領域14における過焼結を抑制することができることから、内部電極層12の球状化が抑制され、寿命低下が抑制され、優れた信頼性を実現することができる。
【0030】
一方、第2領域162におけるホウ素の濃度が第1領域161におけるホウ素の濃度よりも低くなっていることから、第2領域162の緻密化が第1領域161ほどではないものの、ケイ素の偏析度合いが大きくなる。したがって、第2領域162におけるケイ素の偏析度合いが、第1領域161におけるケイ素の偏析度合いよりも大きくなる。例えば、
図4で例示するように、第2領域162では、ケイ素が凝集して偏析して介在物30となり、偏析度合いが大きくなっている。第1領域161では、ケイ素が偏析していないか、偏析して介在物30が存在しても偏析度合いが小さくなっている。ケイ素の偏析度合いが大きくなっている第2領域162がサイドマージン16の外側に位置することで、サイドマージン16の緻密化度が低くてもサイドマージン16の外部からの水分の侵入を抑制することができる。
【0031】
以上のことから、本実施形態においては、サイドマージン16が第1領域161および第2領域162を備えることで、耐湿性および信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを実現することができる。
【0032】
ケイ素の介在物30の偏析度合いは、例えば、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定することができる。なお、ケイ素の介在物30の偏析度合いは、例えば、ケイ素の強度が周囲の二倍以上の領域が1平方μm以上あることのように定義することができる。測定範囲は、例えば、30μm×40μm程度であってもよい。
【0033】
サイドマージン16において、ホウ素は、例えば、酸化物またはガラスのような形態で存在している。サイドマージン16において、ケイ素の介在物30は、例えば、酸化物またはガラスのような形態で存在している。
【0034】
例えば、第2領域162のホウ素濃度が低く緻密化が十分でない場合に、
図5(a)で例示するように、第2領域162にポア40が形成されていることがある。ポア40が形成されている場合には、
図5(b)で例示するように、ケイ素の介在物30は、ポア40内に配置されていることが好ましい。この場合、ポア40を介した水分侵入を抑制することができる。なお、
図5(b)においては、介在物30を黒で示してある。
【0035】
サイドマージン16において、Y軸方向に沿って、容量領域14側から外部向かって、ホウ素の濃度が徐々に減少(漸減)していくことが好ましい。この構成では、第1領域161の容量領域14に近い側で緻密度を高くすることができる。それにより、容量領域14に対する水分の侵入を効果的に抑制することができる。また、第2領域162の外側表面近傍で、ケイ素の介在物30の偏析度合いを大きくすることができる。それにより、サイドマージン16の表面において、外部からの水分の侵入を効果的に抑制することができる。なお、ここで、「徐々に減少」とは、連続的に減少(単調減少)することを含むとともに、Y軸方向に沿って容量領域14側から外部に向かって複数のサンプル点でホウ素の濃度を測定した場合に、上下を繰り返しつつ全体として減少することを含む。
【0036】
例えば、
図6は、LA(Laser Ablation)-ICP(Inductively Coupled Plasma)-MS(Mass Spectrometry)の測定結果を例示する図である。
図6の測定においては、内部電極層12の主成分金属にNiを用いてある。誘電体層11の主成分セラミックにチタン酸バリウムを用いてある。
【0037】
図6において、横軸は、Y軸方向におけるサイドマージン16の表面からの距離(μm)を示す。したがって、0μmは、サイドマージン16の表面を意味する。左の縦軸は、チタンを100at%とした際のホウ素の原子数比(at%)を示す。右の縦軸は、ニッケル(m/z=58)積算カウントを示す。
【0038】
「Bn=1」は、1回目のホウ素の測定結果を示す。「Bn=2」は、2回目のホウ素の測定結果を示す。「Niカウントn=1」は1回目のNiの測定結果を示す。「Niカウントn=2」は2回目のNiの測定結果を示す。
図6で例示するように、50μmよりも大きい距離では、ニッケルの積算カウントが略一定となっている。これは、50μmよりも大きい距離では、内部電極層12が存在しているからである。50μmあたりから25μmあたりにかけてニッケルの積算カウントが徐々に小さくなっている。これは、50μmあたりから25μmあたりにかけて、容量領域14とサイドマージン16との界面が存在しているからである。例えば、50μm以上の略一定値の半分の値になる位置を、容量領域14とサイドマージン16との界面と定義することができる。
【0039】
50μmよりも大きい距離では、ホウ素の原子数比が略一定になっている。これは、容量領域14の誘電体層11にホウ素を添加してあるからである。
図6で例示するように、上記で定義した界面から0μmにかけて、ホウ素濃度が徐々に低下していることが好ましい。なお、第2領域162におけるホウ素濃度は、例えば、
図6で例示するように、容量領域14の誘電体層11におけるホウ素濃度以下となっている。
【0040】
第2領域162の厚みが薄いと水分の浸入抑制効果が小さくなるので、第2領域162のY軸方向の厚みに対する第1領域161のY軸方向の厚みの比は、1:1であり、または2:3であり、または1:2である。
【0041】
ケイ素の偏析度の差異を大きくする観点から、第1領域161におけるホウ素の平均濃度と、第2領域162におけるホウ素の平均濃度との差に下限を設けることが好ましい。例えば、第1領域161におけるホウ素の平均濃度と第2領域162におけるホウ素の平均濃度との差は、0.1at%以上であることが好ましく、0.15at%以上であることがより好ましく、0.3at%以上であることがさらに好ましい。
【0042】
一方、緻密化度合の差が大きくなった場合に生じるクラック抑制の観点から、第1領域161におけるホウ素の平均濃度と、第2領域162におけるホウ素の平均濃度との差に上限を設けることが好ましい。例えば、第1領域161におけるホウ素の平均濃度と第2領域162におけるホウ素の平均濃度との差は、1.0at%以下であることが好ましく、0.8at%以下であることがより好ましく、0.6at%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
容量領域14の過焼結抑制の観点から、第1領域161におけるホウ素の平均濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、第1領域161におけるホウ素の平均濃度は、0.1at%以上であることが好ましく、0.2at%以上であることがより好ましく、0.3at%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
サイドマージン16の過焼結抑制の観点から、第1領域161におけるホウ素の平均濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、第1領域161におけるホウ素の平均濃度は、1.5at%以下であることが好ましく、1.2at%以下であることがより好ましく、1.0at%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
サイドマージン16の緻密化の観点から、第2領域162におけるホウ素の平均濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、第2領域162におけるホウ素の平均濃度は、0.05at%以上であることが好ましく、0.1at%以上であることがより好ましく、0.2at%以上であることがさらに好ましい。
【0046】
ケイ素の偏析度確保の観点から、第2領域162におけるホウ素の平均濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、第2領域162におけるホウ素の平均濃度は、1.0at%以下であることが好ましく、0.8at%以下であることがより好ましく、0.6at%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
容量領域14の過焼結抑制の観点から、第1領域161および第2領域162におけるケイ素の平均濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、第1領域161および第2領域162におけるケイ素の平均濃度は、0.1at%以上であることが好ましく、0.2at%以上であることがより好ましく、0.3at%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
サイドマージン16の過焼結抑制の観点から、第1領域161および第2領域162におけるケイ素の濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、第1領域161および第2領域162におけるケイ素の濃度は、1.2at%以下であることが好ましく、1.0at%以下であることがより好ましく、0.8at%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図7は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0050】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、チタン酸バリウムは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このチタン酸バリウムは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0051】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、ジルコニウム、ハフニウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、バナジウム、クロム、希土類元素(イットリウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウムおよびイッテルビウム)の酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0052】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。なお、粉砕の際には、ジルコニアビーズなどを用いることができる。ジルコニアビーズを用いることで、誘電体材料にジルコニウムを若干量添加することができる。
【0053】
次に、第1領域161を形成するための第1誘電体パターン材料を用意する。第1誘電体パターン材料は、第1領域161の主成分セラミックの粉末を含む。主成分セラミックの粉末として、例えば、誘電体材料の主成分セラミックの粉末を用いることができる。目的に応じて所定の添加化合物を添加する。少なくとも、ホウ素およびケイ素を、酸化物などの形態で添加する。
【0054】
次に、第2領域162を形成するための第2誘電体パターン材料を用意する。第2誘電体パターン材料は、第2領域162の主成分セラミックの粉末を含む。主成分セラミックの粉末として、例えば、誘電体材料の主成分セラミックの粉末を用いることができる。目的に応じて所定の添加化合物を添加する。少なくとも、ホウ素およびケイ素を、酸化物などの形態で添加する。
【0055】
第1領域161における主成分セラミックに対するホウ素の濃度が、第2領域162における主成分セラミックに対するホウ素の濃度よりも高くなるようにする。一方、第2領域162における主成分セラミックに対するケイ素の濃度は、第1領域161における主成分セラミックに対するケイ素の濃度と同じにしてもよく、異ならせてもよい。
【0056】
(塗工工程)
次に、得られた原料粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に誘電体グリーンシート51を塗工して乾燥させる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。塗工工程を例示する図は省略した。
【0057】
(内部電極形成工程)
次に、
図8(a)および
図8(b)で例示するように、誘電体グリーンシート51上に、内部電極パターン52を印刷する。なお、
図8(a)は平面図であり、
図8(b)は断面図である。
図8(b)ではハッチを省略してある。内部電極パターン52には、内部電極層12の主成分金属の金属ペーストを用いる。金属ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50nm以下のチタン酸バリウムを均一に分散させてもよい。
【0058】
誘電体グリーンシート51上に、複数の内部電極パターン52が配列されるように印刷してもよい。この場合においては、少なくとも、X軸方向に複数の内部電極パターン52が配列されるようにしてもよい。
【0059】
誘電体グリーンシート51上において、内部電極パターン52を囲むように第1誘電体パターン53を印刷する。次に、第1誘電体パターン53よりもY軸方向の外側に第2誘電体パターン54を印刷する。それにより、Y軸方向において、内部電極パターン52の外側に第1誘電体パターン53が印刷され、第1誘電体パターン53の外側に第2誘電体パターン54が印刷される。X軸方向に複数の内部電極パターン52が配列されている場合には、複数の内部電極パターン52にまたがって第2誘電体パターン54を印刷することが好ましい。内部電極パターン52、第1誘電体パターン53、および第2誘電体パターン54が印刷された誘電体グリーンシート51を、積層単位とする。
【0060】
(圧着工程)
次に、誘電体グリーンシート51を基材から剥がしつつ、内部電極パターン52がX軸方向に交互にずれるように積層単位を積層する。次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシートを所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法にカットする。カバーシートは、誘電体グリーンシート51と同じ成分であってもよく、添加物が異なっていてもよい。
【0061】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧が10-12MPa~10-9MPa、1160℃~1280℃(例えば、1180℃以上、1230℃以下)の還元雰囲気で、5分~10時間の焼成を行なう。
【0062】
(再酸化処理工程)
還元雰囲気で焼成された誘電体層11の部分的に還元された主相であるチタン酸バリウムに酸素を戻すために、内部電極層12を酸化させない程度に、約1000℃でN2と水蒸気の混合ガス中、もしくは500℃~700℃の大気中での熱処理が行われることがある。この工程は、再酸化処理工程とよばれる。
【0063】
(めっき処理工程)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、銅、ニッケル、スズ等の金属コーティングを行う。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0064】
本実施形態に係る製造方法によれば、第1誘電体パターン53から第1領域161が形成され、第2誘電体パターン54から第2領域162が形成される。第1誘電体パターン53のホウ素濃度が第2誘電体パターン54のホウ素濃度よりも高くなっていることから、第1領域161におけるホウ素の濃度が、第2領域162におけるホウ素の濃度よりも高くなる。ホウ素はセラミック材料の焼結を促進する働きを有していることから、容量領域14の過焼結を抑制しつつ、第1領域161を緻密化させることができる。それにより、容量領域14に対する水分の侵入を抑制することができる。
【0065】
一方、第2領域162におけるホウ素の濃度が第1領域161におけるホウ素の濃度よりも低くなることから、第2領域162の緻密化が第1領域161ほどではないものの、ケイ素の偏析度合いが大きくなる。したがって、第2領域162におけるケイ素の偏析度合いが、第1領域161におけるケイ素の偏析度合いよりも大きくなる。ケイ素の偏析度合いが大きくなっている第2領域162がサイドマージン16の外側に位置することで、サイドマージン16の外部からの水分の侵入を抑制することができる。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る製造方法によれば、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0067】
ケイ素の偏析度の差異を大きくする観点から、第1誘電体パターン53におけるホウ素の濃度と、第2誘電体パターン54におけるホウ素の濃度との差に下限を設けることが好ましい。例えば、第1誘電体パターン53におけるホウ素の濃度と第2誘電体パターン54におけるホウ素の濃度との差は、0.2at%より大きいことが好ましく、0.3at%以上であることがより好ましく、0.4at%以上であることがさらに好ましい。
【0068】
一方、緻密化度合の差が大きくなった場合に生じるクラック抑制の観点から、第1誘電体パターン53におけるホウ素の濃度と、第2誘電体パターン54におけるホウ素の濃度との差に上限を設けることが好ましい。例えば、第1誘電体パターン53におけるホウ素の濃度と第2誘電体パターン54におけるホウ素の濃度との差は、1.0at%以下であることが好ましく、0.8at%以下であることがより好ましく、0.6at%以下であることがさらに好ましい。
【0069】
過焼結抑制の観点から、第1誘電体パターン53におけるホウ素の濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、第1誘電体パターン53におけるホウ素の濃度は、0.2at%以上であることが好ましく、0.3at%以上であることがより好ましく、0.4at%以上であることがさらに好ましい。
【0070】
過焼結抑制の観点から、第1誘電体パターン53におけるホウ素の濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、第1誘電体パターン53におけるホウ素の濃度は、2.0at%以下であることが好ましく、1.5at%以下であることがより好ましく、1.2at%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
過焼結抑制の観点から、第2誘電体パターン54におけるホウ素の濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、第2誘電体パターン54におけるホウ素の濃度は、0.1at%以上であることが好ましく、0.15at%以上であることがより好ましく、0.2at%以上であることがさらに好ましい。
【0072】
過焼結抑制の観点から、第2誘電体パターン54におけるホウ素の濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、第2誘電体パターン54におけるホウ素の濃度は、1.5at%以下であることが好ましく、1.2at%以下であることがより好ましく、0.8at%以下であることがさらに好ましい。
【0073】
過焼結抑制の観点から、第1誘電体パターン53および第2誘電体パターン54におけるケイ素の濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、第1誘電体パターン53および第2誘電体パターン54におけるケイ素の濃度は、0.1at%以上であることが好ましく、0.15at%以上であることがより好ましく、0.2at%以上であることがさらに好ましい。
【0074】
過焼結抑制の観点から、第1誘電体パターン53および第2誘電体パターン54におけるケイ素の濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、第1誘電体パターン53および第2誘電体パターン54におけるケイ素の濃度は、2.0at%以下であることが好ましく、1.5at%以下であることがより好ましく、1.2at%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
誘電体グリーンシート51上において、逆パターンとしての第1誘電体パターン53および第2誘電体パターン54を形成しなくてもよい。例えば、
図9(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51と、当該誘電体グリーンシート51と同じ幅の内部電極パターン52とを交互に積層することで、積層部分を得る。この積層部分の上面および下面に、カバーシート55を積層する。次に、
図9(b)で例示するように、積層部分のY軸方向の両側面に、第1誘電体シート56および第2誘電体シート57を順に貼り付ける。第1誘電体シート56は、第1誘電体パターン53と同じ成分を有する。第2誘電体シート57は、第2誘電体パターン54と同じ成分を有する。
【0076】
なお、上記各実施形態においては、積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の積層セラミック電子部品を用いてもよい。
【実施例0077】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0078】
(実施例1~6および比較例1~2)
チタン酸バリウムの粉末にバインダと、有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合し、得られたスラリを使用して、基材上に誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させ、その上に内部電極パターンを成膜し、
図8(a)および
図8(b)で例示したように、第1誘電体パターンおよび第2誘電体パターンを印刷し、積層単位を作成した。積層単位を積層して得られた積層体の上下にカバーシートを積層して熱圧着させ、所定チップ寸法にカットし、セラミック積層体を得た。
【0079】
実施例1および実施例2では、第1誘電体パターンにおけるホウ素の濃度を1.0at%とし、第2誘電体パターンにおけるホウ素の濃度を0.6at%とした。実施例3および実施例4では、第1誘電体パターンにおけるホウ素の濃度を1.0at%とし、第2誘電体パターンにおけるホウ素の濃度を0.4at%とした。実施例5および実施例6では、第1誘電体パターンにおけるホウ素の濃度を1.0at%とし、第2誘電体パターンにおけるホウ素の濃度を0.2at%とした。比較例1および比較例2では、第1誘電体パターンにおけるホウ素の濃度を1.0at%とし、第2誘電体パターンが印刷される箇所にも第1誘電体パターンを印刷した。すなわち、比較例1および比較例2では、第2誘電体パターンを設けなかった。
【0080】
その後、得られたセラミック積層体をN2雰囲気で脱バインダ処理した後に、還元雰囲気で焼成を行なった。実施例1,3,5、および比較例1では、焼成温度(焼成処理の最高温度)を1180℃とした。実施例2,4,6、および比較例2では、焼成温度を1230℃とした。
【0081】
サイドマージンにおけるホウ素濃度は、LA-ICP-MSを用いて測定した。実施例1~6のいずれでも、Y軸方向において、サイドマージンの内側から外側に向かって、ホウ素濃度が徐々に小さくなっていることが確認された。一方、比較例1,2では、ホウ素の濃度低下は明確には確認されなかった。
【0082】
サイドマージンにおけるケイ素の偏析の有無を、EPMAを用いて調べた。ケイ素の介在物の偏析度合いについてケイ素の強度が周囲の3倍以上の領域が1平方μm以上ある箇所が複数箇所あれば、ケイ素の偏析が「有り」と判定した。実施例1~実施例6では、Y軸方向において、サイドマージンの半分よりも内側ではケイ素の偏析が「無し」と判定され、サイドマージンの半分よりも外側ではケイ素の偏析が「有り」と判定された。一方、比較例1および比較例2では、サイドマージンのいずれの箇所においても、ケイ素の偏析が「無し」と判定された。
【0083】
(耐湿性)
次に、実施例1~6および比較例1,2の各サンプルについて、耐湿性を試験した。耐湿性については、温度40±2℃、湿度90~95%下において500時間動作させた後24時間放置した。その後、絶縁抵抗値を測定し500μΩ・μF以上の結果が得られれば合格「〇」と判定し、500μΩ・μF未満であれば不合格「×」と判定した。
【0084】
(信頼性)
次に、実施例1~6および比較例1~2の各サンプルについて、信頼性を試験した。信頼性については、125℃下において12Vの電圧を印加する加速寿命試験を行なった、その結果、MTTF(平均故障時間)が500min以上であれば信頼性を合格「〇」と判定し、500min未満であれば不合格「×」と判定した。
【0085】
結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1~6では、耐湿性が合格「〇」と判定された。これは、ホウ素の濃度がサイドマージンの容量領域に近い領域で高くなることから、当該領域で緻密化が進み、またサイドマージンの表面近くでケイ素の偏析度合いが大きくなることで水分の侵入が抑制されたからであると考えられる。また、実施例1~6では、信頼性も合格「〇」と判定された。これは、第1誘電体パターンと第2誘電体パターンとの間に適切なホウ素濃度差があることで、第2領域162にケイ素偏析が生じて比較的低い焼結密度でも耐湿性が確保できるため、第1誘電体パターンと第2誘電体パターンのホウ素濃度量を少なくすることができ、容量領域14へのホウ素拡散量を抑制できることによって容量領域14の過焼結が抑制されたからであると考えられる。
【表1】
【0086】
一方、比較例1では、耐湿性が不合格「×」と判定された。これは、ケイ素の偏析が生じなかったことで、水分の侵入を十分に抑制できなかったからであると考えられる。比較例2では、耐湿性については合格「〇」と判定された。これは、焼成温度を1230℃まで高くしたことで、サイドマージンの緻密化が進んだからであると考えられる。しかしながら、比較例2では、信頼性が不合格「×」と判定された。これは、サイドマージンの緻密化が進んだものの、焼成温度を高くしたことで容量領域の焼結が過度に進行してしまい、内部電極層の球状化が進行して局所的に電極間距離が小さくなる箇所が発生したからであると考えられる。
【0087】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。