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特開2023-163446着色ポリエチレン繊維、およびそれを含む製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163446
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】着色ポリエチレン繊維、およびそれを含む製品
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/04 20060101AFI20231102BHJP
   D01F 1/04 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
D01F6/04 Z
D01F1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074374
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大塚 未音
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖憲
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE09
4L035EE20
4L035JJ10
4L035JJ28
(57)【要約】
【課題】 優れた発色、色の耐久性が優れ、且つ高強度である、着色ポリエチレン繊維を得ること。
【解決手段】 着色ポリエチレン繊維に含まれるポリエチエンが、重量平均分子量が30000~300000であり、且つ着色顔料を前記着色ポリエチレン繊維に対し0.5~10重量%含有することを特徴とする着色ポリエチレン繊維。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L*a*b表色系におけるL*値が45~65、a*値が3~6、及びb*値が8~13であり、摩擦に対する染色堅ろう度が乾燥時及び湿潤時のいずれにおいても4級以上であり、キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度が3級以上であり、且つ強度が8cN/dtex以上である着色ポリエチレン繊維であって、前記着色ポリエチレン繊維に含まれるポリエチエンが、重量平均分子量が30000~300000であり、且つ着色顔料を前記着色ポリエチレン繊維に対し0.5~10重量%含有することを特徴とする着色ポリエチレン繊維。
【請求項2】
前記着色顔料の平均粒径が0.01~20μmであり、且つ前記着色ポリエチレン繊維の単糸繊度が0.5~20dtexである、請求項1記載の着色ポリエチレン繊維。
【請求項3】
欧州規格であるEN388法に基づいて測定したクープテスターのインデックス値が4.0以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の着色ポリエチレン繊維。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の着色高強度ポリエチレン繊維を含む製品であって、織物、編物、不織布、かばん、組紐、ネット、手袋、釣糸、ロープ、並びにベストからなる群から選択される製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐切創性に優れた着色ポリエチレン繊維および該繊維を含む製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手袋など耐切創性を必要とする分野では、耐切創性に優れる高強度ポリエチレン繊維を使用することが知られ、重量平均分子量(Mw)、及び重量平均分子量と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)を規定したポリエチレン樹脂を用いた繊維の製造技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
高強度ポリエチレン繊維は、ポリエステルやナイロン等の他の繊維に比べ一般的には着色が困難であるが、耐切創性が高い着色糸には高いニーズが存在していた。着色の手法として、原料のポリエチレン樹脂に顔料を先に混合する、原着と呼ばれる手法が知られており、着色手法では色の耐久性が一般的に高いことから、高強度ポリエチレン繊維の原着化が期待されてきた。しかしながら、高強度ポリエチレン繊維を原着しようとした場合、製造工程で顔料等を添加するためにその添加物が高強力を発現するための結晶形成過程などに於いて欠陥として作用し、繊維強度低下の要因となる大きな問題が生じていた。また顔料等の凝集により生産性が低下するという課題もあった。染料を用いて繊維表面を着色する手法では、繊維強度の低下は防げるが、色の耐久性が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-019050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
着色高強度ポリエチレン繊維において、原着による良い発色の着色高強度ポリエチレン繊維を得るため、顔料を加えていくと、顔料等の凝集により、引張り強度の低下、耐切創性の低下を生じていた。顔料の凝集は、製造装置の目詰まりを発生させ生産性が低下する問題も引き起こしていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、顔料を含む発色の良い着色高強度ポリエチレン繊維中であって、同時に十分な強度を有し、耐切創性に優れ、色においても十分な耐光性と摩擦堅牢度を有するものである。さらに上記繊維を含む各種製品を提供することができる。すなわち、本発明にかかる着色ポリエチレン繊維、およびそれを用いた製品は、以下の通りである。
【0007】
(1)L*a*b表色系におけるL*値が45~65、a*値が3~6、及びb*値が8~13であり、摩擦に対する染色堅ろう度が乾燥時及び湿潤時のいずれにおいても4級以上であり、キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度が3級以上であり、且つ強度が8cN/dtex以上である着色ポリエチレン繊維であって、前記着色ポリエチレン繊維に含まれるポリエチエンが、重量平均分子量が30000~300000であり、且つ着色顔料を前記着色ポリエチレン繊維に対し0.5~10重量%含有することを特徴とする着色ポリエチレン繊維。
(2)前記着色顔料の平均粒径が0.01~20μmであり、且つ前記着色ポリエチレン繊維の単糸繊度が0.5~20dtexである着色ポリエチレン繊維。
(3)欧州規格であるEN388法に基づいて測定したクープテスターのインデックス値が4.0以上であることを特徴とする着色ポリエチレン繊維。
(4)前記着色高強度ポリエチレン繊維を含む製品であって、織物、編物、不織布、手袋、組紐、ネット、釣糸、ロープ、並びにベストからなる群から選択される製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、十分な強度を有し、優れた耐切創性を有し、生産性の高い、着色高強度ポリエチレン繊維、および該繊維を用いた製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、繊維状態の重量平均分子量が300,000以下であること、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が4.0以下であることが重要である。好ましくは、繊維状態の重量平均分子量が250,000以下で、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が3.5以下である。更に好ましくは、繊維状態の重量平均分子量が200,000以下で、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が3.0以下である。
【0010】
繊維状態のポリエチレンの重量平均分子量が300、000を越えるような重合度のポリエチレンを原料とした場合は、溶融粘度が極めて高くなり、溶融成型加工が極めて困難となる。また、繊維状態の重量平均分子量と数平均分子量の比が4.0以上となると、同じ重量平均分子量の重合体を用いた場合と比較し最高延伸倍率が低く、また、得られた繊維の強度は低いものとなる。これは、同じ重量平均のポリエチレンで比較した場合、緩和時間の長い分子鎖が延伸を行なう際に延びきることができずに破断が生じてしまうことと、分子量分布が広くなることによって低分子量成分が増加するために、分子末端が増加することにより強度低下が起こると推測している。繊維状態での分子量と分子量分布をコントロールするためには、溶解・押し出し工程や紡糸工程で意図的にポリマーを劣化させてもよいし、予め狭い分子量分布を持つポリエチレンを使ってもよい。
【0011】
また、本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、極限粘度が4.9dL/g未満であることが好ましい。極限粘度を4.9dL/g未満にすることにより、溶融紡糸法での製糸が容易になり、いわゆるゲル紡糸等で製糸する必要がない。そのため、製造コストの抑制、作業工程の簡略化の点で優位である。さらに、製造時に溶剤を用いないため、作業者や環境への影響も小さい。また製品となった繊維中の残留溶剤も存在しないため溶製品使用者に対する溶媒の悪影響がない。本発明においては、ヘキサンを用いて抽出される残留溶剤量が50
ppm以下の極めて低い値を示す。また、極限粘度を0.8dL/g以上とすることにより、ポリエチレンの分子末端基の減少により、繊維中の構造欠陥数を減少させることができる。そのため、強度や弾性率等の繊維の力学物性や耐切創性能を向上させることができる。
【0012】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維の平均強度は、8cN/dtex以上であることが望ましく、好ましくは、10cN/dtex以上である。平均強度が8cN/dtex未満の場合、応用製品を作成したとき、強度が不足する可能性がある。
【0013】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維あるいは着色高強度ポリエチレン繊維から得られる加工物は、CIE-L*a*b*色差測定法で測定した際、L*a*b表色系におけるL*値が45~65、a*値が3~6、及びb*値が8~13であると発色が好ましい。
近年要求が高いブラウン系の着色糸を、本発明で達成する場合、a*値が3~6、及びb*値が8~13であることが望ましく、その際L*値を45~65に設定すると発色の良い着色高強度ポリエチレン繊維が得られる。
【0014】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、摩擦に対する染色堅ろう度が乾燥時及び湿潤時のいずれにおいても4級以上であるのが好ましい。摩擦に対する染色堅ろう度はその等級が高いほど、色落ち及び色移りし難い繊維であることを示す。したがって、摩擦に対する染色堅ろう度は4級以上、より好ましくは5級である。摩擦に対する染色堅ろう度は、JIS L 0801(2000)に準じて調製した試料について、学振形摩擦試験機を使用してJIS L 0849(2006)に準じた摩擦堅ろう度試験を行い、汚染用グレースケール(JIS L 0805(2005))を使用して評価を行う。試験及び評価方法の詳細は実施例において説明する。
【0015】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度が3級以上であるのが好ましい。キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度はその等級が高いほど、光の作用による色の変化の程度(変退色)が小さいことを示す。したがってキセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度は3級以上、より好ましくは4級以上である。キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度はJIS L 0801(2000)に準じて調製した試料について、JIS L 0843(2006)に準じた染色堅ろう度試験を行い、変退色用グレースケール(JIS L 0804(2006))、ブルースケール(JIS L 0804(2006))を使用して測定を実施した。
【0016】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、単糸繊度が0.5~20dtex、ヤーン繊度が10~2000dtexであるのが好ましい。この範囲であると、織物または編物(織編物)に形成した際の風合いが堅くならず、柔軟性が損なわれない。
【0017】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維における着色顔料の含有量は、着色高強度ポリエチレン繊維の0.5~10重量%である。好ましくは1~8重量%であり、更に好ましくは3~7重量%である。着色顔料の含有量が10重量%を超えると糸物性が著しく低下し、また、操業中の糸切れの原因となる。また、添加量が0.5重量% 未満になると、十分な耐光性効果や発色を得ることが難しくなる。
【0018】
本発明で用いられる着色顔料とは、アゾ系、チオインジオ系、アントラキノン系、インジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、フタロン系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、金属錯体系、フタロシアニン系、レーキ系などの有機顔料、あるいは黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、クロムイエロー、オーカー、チタンイエロー、モリブデートオレンジ、アンバー、酸化鉄、べんがら、カドミウムレッド、ウルトラマリン、コバルトブルー、ミロリーブルー、セルリアンブルー、酸化クロム、クロムグリーン、コバルトグリーン、カーボンブラック、酸化チタンなどの無機顔料である。複数種類の顔料を併用しても良く、併用する顔料は、有機顔料同士、無機顔料同士、有機顔料と無機顔料の双方のいずれでも可能である。
これらの着色顔料を添加する方法としては、重合体へ滑剤、酸化防止剤などの各種添加剤を添加する際に使用される二軸混練機でブレンドしてもよいし、あるいは、樹脂チップと原着顔料をブレンドして溶融押出機に投入して、スタティックミキサーで更に混合した後、紡糸口金から吐出させてもよい。
【0019】
本発明で用いられる着色顔料は、平均粒径が0.01~20μmであるのが好ましい。この範囲であると、顔料の凝集が生じにくく、顔料含有による繊維の引張り強度の低下、耐切創性の低下が、最小限に抑えられる。また同時に繊維を製造する際に目詰まりし難く、繊維の生産性を上げることができる。
【0020】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、耐切創性に優れることが重要であり、クープテスターのインデックス値は4.0以上であることが望ましく、さらに望ましくは5.0以上である。
【0021】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、芯鞘構造を適用してもよく、また星形、三角や、中空等の異形の形状を有していてもよい。
【0022】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維を得る製造方法については、溶融紡糸法を用いることができる。ここで、例えば、溶剤を用いて行う超高分子量ポリエチレン繊維の製法の一つであるゲル紡糸法を用いると、高強度のポリエチレン繊維を得られるものの、生産性が低いばかりでなく、繊維中に残留する溶剤が製品使用者の健康に与える影響が大きい。
【0023】
よって、本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は溶融紡糸法を用いるのが好ましい。溶融紡糸法を用いて本発明の着色高強度ポリエチレン繊維を製造する方法について、具体的に以下に説明する。なお、本発明の着色高強度ポリエチレン繊維を製造する方法は、以下の工程や数値に限定されない。
【0024】
上述したポリエチレン樹脂と、着色顔料を含む低密度ポリエチレン樹脂とをブレンドし、押出機等を用いて融点よりも10℃以上、好ましくは50℃以上、更に好ましくは80℃以上で溶融押出しをして、定量供給装置を用いてポリエチレンの融点より80℃、好ましくは100℃以上の温度で紡糸ノズル(紡糸口金)に供給する。この時、0.001MPa以上、0.8MPa以下の不活性化ガスを供給することが好ましく、より好ましくは0.05MPa以上、0.7MPa以下、更に好ましくは0.1MPa以上、0.5MPa以下である。その後、直径を0.3以上、2.5mm以下、好ましくは直径0.5以上、1.5mm以下を有するノズルより0.1g/min以上の吐出量で吐出する。紡糸ノズルから溶融樹脂を吐出する際の吐出線速度は、10cm/min以上、120cm/min以下とするのが好ましい。より好ましい吐出線速度は、20cm/min以上、110cm/min以下であり、更に好ましくは30cm/min以上、100cm/min以下である。
【0025】
次に、該吐出溶融樹脂を5~40℃まで冷却した後に50m/min以上で巻き取り、得られた未延伸糸を、少なくとも1回以上の回数で該繊維の融点以下で延伸する。具体的には、2段階以上に分けて延伸工程を行うことが好ましい。延伸の初期の温度は、ポリエチレンの結晶分散温度未満が好ましく、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは75℃以下である。次いで、ポリエチレン繊維の結晶分散温度以上、融点以下、好ましくは90℃以上、融点未満で延伸するのが好ましい。
【0026】
延伸倍率は、6倍以上とするのが好ましく、より好ましくは8倍以上であり、更に好ましくは10倍以上である。また、延伸倍率は、30倍以下とするのが好ましく、より好ましくは25倍以下であり、更に好ましくは20倍以下である。なお、多段延伸を採用する場合、例えば、2段延伸を行う場合であれば、1段階目の延伸倍率は1.05倍以上、4.00倍以下とするのが好ましく、2段階目の延伸倍率は2.5倍以上、15倍以下とするのが好ましい。
【0027】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維を使用した製品、例えば、織編物は、耐切創性織編物、手袋及びベスト等として好適に用いられる。例えば、手袋は、本発明の着色高強度ポリエチレン繊維を編み機に掛けることで得られる。もしくは、本発明の着色高強度ポリエチレン繊維を織り機に掛けて布帛を得、それを裁断、縫製して手袋とすることもできる。
【0028】
このようにして得られた手袋は、例えば、そのまま手袋として使用することもできるが、必要であれば滑り止め性を付与するために、樹脂を塗布することもできる。ここで用いられる樹脂は、例えば、ウレタン系やエチレン系などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0029】
本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、後述の実施例からも分かるように、耐切創性能に優れており、色落ち及び色移りし難い。よって、織物、編物、不織布、組紐、ネット等への加工が可能であり、さらに具体用途として上記の手袋やベスト以外にも、釣糸やロープに応用可能である。さらにテープ、資材防護カバー、シート、カイト用糸、かばん、内装材、バックパック、フットウエア、スポーツウェア、アウトドアウェア、タクティカルウエア、作業服、パフォーマンスアパレル、洋弓弦、セールクロス、テント、幕材として好適に用いられる。もちろん、本発明の着色高強度ポリエチレン繊維を用いた製品はこれらに限定されない。
【0030】
また、本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、高い耐切創性を有するため、該耐切創性を活かした材料、例えば、繊維強化樹脂補強材、セメント補強材、繊維強化ゴム補強材、あるいは環境変化が想定される防護材、防弾材、医療用縫合糸、人工腱、人工筋肉、工作機械部品、電池セパレーター、化学フィルターとして好適に用いられる。もちろん、本発明の着色高強度ポリエチレン繊維は、これらの材料として用いられるのに限定されず、様々な材料として用いることができる。
【実施例0031】
以下に、実施例を例示し、本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0032】
まず、後述の実施例および比較例で作製した繊維(繊維サンプル)およびそれを用いた筒編み物(編物サンプル)に対して行った特性値の測定及び評価について説明する。
【0033】
(1)強度・弾性率 本発明における強度、弾性率は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長200mm(チャック間長さ) 、伸長速度100%/分の条件で歪- 応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力を強度(cN/dtex)、曲線の原点付近の最大勾配を与える接線より弾性率(cN/dtex)を計算して求めた。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0034】
(2)重量平均分子量Mw、数平均分子量MnおよびMw/Mn 重量平均分子量Mw、数平均分子量MnおよびMw/Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては、Waters製GPC 150C ALC/GPCを持ち、カラムとしてはSHODEX製GPC UT802.5を一本、UT806Mを二本用いて測定した。測定溶媒は、o-ジクロロベンゼンを使用しカラム温度を145℃にした。試料濃度は1.0mg/mlとし、200マイクロリットル注入し測定した。分子量の検量線は、ユニバーサルキャリブレーション法により分子量既知のポリスチレン試料を用いて構成されている。
【0035】
(3)繊度 ポリエチレン繊維を長手方向の位置の異なる3箇所で各々100cmにカットし、その重量を測定し、その平均値を用いてヤーン繊度を求めた。単糸繊度は、ヤーン繊度から算出することができる。
【0036】
(4)顔料の含有量 繊維中の顔料の含有量の測定は、NMRでポチエチレンと顔料成分とのピーク比から算出した。また、含有量の測定は、TGAから顔料分の減少量を読み取る方法、熱キシレンにポリエチレンを溶かしてろ過し、顔料分の重量を測定する方法などを用いることができる。
【0037】
(5)染色堅ろう度試験方法通則(JIS L 0801(2011))に準じて試料を準備した。乾燥状態及び湿潤状態の試料について、摩擦試験機II形(学振形)を使用して、JIS L 0849(2013)に準じて摩擦に対する染色堅ろう度の試験を行った。結果を、汚染用グレースケール(JIS L 0805(2005))を使用して視覚法により染色堅ろう度の判定を行った。 なお、試料は、実施例、比較例で得られた繊維の少なくとも1本を学振形摩擦試験機のサンプル台に固定して測定を行った。繊維の長さが十分ある場合は、繊維を複数本並べてサンプル台に固定して測定を行ってもよいし、サンプル台と同程度の大きさの長方形の板紙に、板紙の長辺の方向に平行して密に硬く巻きつけた試料を作製しこれを測定してもよいし、また筒編み等により布帛の状態として測定してもよい。サンプルが布帛の場合はそのまま用いてよい。
【0038】
(6)染色堅ろう度試験方法通則(JIS L 0801(2011))に準じて試料を準備した。キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法(JIS L 0843(2006))に準じてキセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験を行った。結果を、変退色用グレースケール(JIS L 0804(2006))、ブルースケール(JIS L 0804(2006))を使用して視覚法によりキセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度の判定を行った。なお、試料は、実施例、比較例で得られた繊維の少なくとも1本を耐光試験機のサンプル台に固定して測定を行った。繊維の長さが十分ある場合は、繊維を複数本並べてサンプル台に固定して測定を行ってもよいし、サンプル台と同程度の大きさの長方形の板紙に、板紙の長辺の方向に平行して密に硬く巻きつけた試料を作製しこれを測定してもよいし、また筒編み等により布帛の状態として測定してもよい。サンプルが布帛の場合はそのまま用いてよい。
【0039】
(7)クープテスターのインデックス値
耐切創性は、クープテスター(ソドマット(SODMAT)社製)を用い、欧州規格であるEN388法に基づいて測定を行った。この装置の試料台にはアルミ箔が設けられており、この上に編物サンプルを載置した。次いで、装置に備えられた円形の刃を、走行方向とは逆方向に回転させながら試料の上を走らせた。なお、編物サンプルが切断されると、円形刃とアルミ箔とが接触して通電することで、耐切創性試験が終了したことが検知された。円形刃が作動している間中、装置に取り付けられているカウンターがカウントを行うので、その数値を記録した。
【0040】
この試験では、目付け約300g/m2の平織りの綿布をブランクとし、編物サンプルの切創レベルを評価した。ブランクからテストを開始し、ブランクのテストと編物サンプルのテストとを交互に行い、編物サンプルを5回テストし、最後に6回目のブランクをテストして、1セットの試験を終了した。以上の試験を5セット行い、5セットの平均のIndex値(インデックス値)を耐切創性の代用評価とした。インデックス値が高いほど、耐切創性に優れることを意味する。
【0041】
インデックス値は、次式により算出される。 A=(サンプルテスト前の綿布のカウント値+サンプルテスト後の綿布のカウント値)/2 インデックス値=(サンプルのカウント値+A)/A
【0042】
耐切創性の評価に使用したカッターは、OLFA株式会社製のロータリーカッターL型用φ45mmである。材質はSKS-7タングステン鋼であり、刃厚0.3ミリ厚であった。また、テスト時にかかる荷重は3.14N(320gf)にして評価を行った。
【0043】
(8)(平均粒径) 着色顔料の粒度分布は、マイクロトラック粒度測定装置を用い、0.01~10000μmのレンジで体積平均径を測定することによって求めた。
【0044】
(9)色の測定(CIE-L*a*b*表色系) 測定条件として、JIS Z 8781-4 2013に準拠して測定を行った。SPECTROPHOTOMETER CM-3700d(コニカミノルタ株式会社製)を用い、データカラー・スペクトラフラッシュ(Datacolor Spectraflash)モデルSF-300比色計(ニュージャージー州、ローレンスビルのデータカラー・インターナショナル(Datacolor International))を用いてD65/10度光源を使用して行った。測定用試料は、実施例、比較例で得られた繊維をステンレス製(SUS304)の板に出来るだけ隙間が生じ無いように巻きつけて作製した。
【0045】
測定はCIELABのL*a*b*色空間の基準色座標を使用する“Commission Internationale de L’Eclairage”(パリ、フランス)(照明に関する国際協会(International Society for Illumination/Lighting))(“CIE”)により公表された国際基準色測定方法を使用した。「L*」は明度座標を示し、「a*」は赤色/緑色座標を示し(+a*は赤色を示し、-a*は緑色を示し)、「b*」は黄色/青色座標を示している(+b*は黄色を示し、-b*は青色を示す)。
【0046】
(実施例1) 重量平均分子量120,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が3.0である高密度ポリエチレンに、粒径0.1~10μmの無機、有機顔料1.0重量%を含む高密度ポリエチレン樹脂を加したブレンドポリマーを、φ0.9mm、180Hからなる紡糸口金から280℃で単孔吐出量0.30g/minの速度で押出した。押出された糸状を、10cmの保温区間を通させ、その後20℃、0.5m/sのクエンチで冷却し、230m/minの速度で巻き取り、ポリエチレン繊維状物(未延伸糸)を得た。該ポリエチレン繊維状物を、複数台の温度コントロールの可能なローラーにて延伸した。一段延伸は55℃で2.0倍、更にその後、100℃まで加熱して5.5倍の延伸を行ない、着色高強度ポリエチレン繊維(延伸糸)を作製した。得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表1に示す。
上記得られた着色高強度ポリエチレン繊維を合糸したもの(800dtex程度)を用い、島精機製作所社製の丸編み機を用いて、目付が350g/m2±35g/m2の筒編み物を作製した。得られた筒編み物のクープテスターのインデックス値を表1に示す。
【0047】
(実施例2) 粒径0.1~10μmの無機、有機顔料2.0重量%を含む高密度ポリエチレン樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で着色高強度ポリエチレン繊維(延伸糸)を作製した。得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表1に示す。また、得られた着色ポリエチレン繊維を用いて実施例1と同様に筒編み物を作製した。得られた筒編み物のクープテスターのインデックス値を表1に示す。
【0048】
(比較例1) 粒径0.1~10μmの無機、有機顔料20.0重量%を含む高密度ポリエチレン樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で着色高強度ポリエチレン繊維(延伸糸)を作製した。比較例1では紡糸中に糸切れが多発し、糸を安定して採取することができなかった。得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表1に示す。また、得られた着色ポリエチレン繊維を用いて実施例1と同様に筒編み物を作製した。得られた筒編み物のクープテスターのインデックス値を表1に示す。
【0049】
(比較例2) 粒径0.1~10μmの無機、有機顔料0.1重量%を含む高密度ポリエチレン樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で着色高強度ポリエチレン繊維(延伸糸)を作製した。得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表1に示す。また、得られた着色ポリエチレン繊維を用いて実施例1と同様に筒編み物を作製した。得られた筒編み物のクープテスターのインデックス値を表1に示す。比較例2では所望の色相を得られないため、好ましくない。
【0050】
(比較例3) 粒径10~30μmの無機、有機顔料0.1重量%を含む高密度ポリエチレン樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で着色高強度ポリエチレン繊維(延伸糸)を作製した。比較例3では糸切れが多発し、糸を採取できなかった。得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表1に示す。
【0051】
(比較例4) 顔料を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件でポリエチレン繊維を作製し、得られたポリエチレン繊維にL値*がL*値が60、かつa*値が5、かつb*値が10である染料を塗布し着色した。得られた着色ポリエチレン繊維の物性を表1に示す。また、得られた着色ポリエチレン繊維を用いて実施例1と同様に筒編み物を作製した。得られた筒編み物のクープテスターのインデックス値を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
以上、本発明の実施の形態および各実施例について説明したが、今回開示された実施の形態および各実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の着色ポリエチレン繊維は、高い耐切創性を有し、色に関しても極めて耐久性が高く、強度や耐切創性が要求される産業用資材として広く利用可能で、産業界へ大きく寄与できる。