(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163478
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】感湿材料、感湿材料の製造方法、および、湿度センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20231102BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
G01N27/04 B
G01N27/12 J
G01N27/12 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074420
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】全 文錫
(72)【発明者】
【氏名】秋久保 一馬
(72)【発明者】
【氏名】原崎 修
(72)【発明者】
【氏名】吉村 昭彦
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046AA09
2G046BA08
2G046BA09
2G046FC07
2G046FC08
2G060AA01
2G060AB02
2G060AE19
2G060AF07
2G060AG03
2G060AG10
2G060BB09
2G060JA02
2G060KA04
(57)【要約】
【課題】湿度範囲に拘わらず、抵抗値の変化を概ね線形にする。
【解決手段】感湿材料110は、グラファイトで構成される第1層220と、窒素がドープされた複数のカーボンナノウォールで構成され、第1層220上に設けられる第2層230と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトで構成される第1層と、
窒素がドープされた複数のカーボンナノウォールで構成され、前記第1層上に設けられる第2層と、
を備える、感湿材料。
【請求項2】
前記第2層は、1または複数のAu粒子が付着した、前記複数のカーボンナノウォールで構成される、請求項1に記載の感湿材料。
【請求項3】
前記Au粒子は、前記カーボンナノウォールにおける対向する壁面の間に形成される間隙より小さい、請求項2に記載の感湿材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の感湿材料を備える、湿度センサ。
【請求項5】
グラファイトで構成される第1層を基板上に形成する工程と、
窒素がドープされた複数のカーボンナノウォールで構成される第2層を前記第1層上に形成する工程と、
前記複数のカーボンナノウォールに、1または複数のAu粒子を付着させる工程と、
を含む、感湿材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、感湿材料、感湿材料の製造方法、および、湿度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性粒子が分散された吸湿性高分子を感湿膜として備える電気抵抗式の湿度センサが開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1のような従来の吸湿性高分子で構成される感湿膜では、湿度変化に応じた抵抗値の変化が、低湿度範囲および高湿度範囲と、中湿度範囲とで極端に異なる。例えば、30RH%以上50RH%以下の中湿度範囲において、抵抗値は100倍以上変化する。一方、0RH%以上30RH%未満の低湿度範囲および50RH%超100RH%以下の高湿度範囲において、抵抗値の変化は5倍未満である。
【0005】
このため、従来の感湿膜は、湿度範囲によって抵抗値の変化が非線形になってしまうという問題がある。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑み、湿度範囲に拘わらず、抵抗値の変化を概ね線形にすることが可能な感湿材料、感湿材料の製造方法、および、湿度センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る感湿材料は、グラファイトで構成される第1層と、窒素がドープされた複数のカーボンナノウォールで構成され、第1層上に設けられる第2層と、を備える。
【0008】
また、第2層は、1または複数のAu粒子が付着した、複数のカーボンナノウォールで構成されてもよい。
【0009】
また、Au粒子は、カーボンナノウォールにおける対向する壁面の間に形成される間隙より小さくてもよい。
【0010】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る湿度センサは、上記感湿材料を備える。
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る感湿材料の製造方法は、グラファイトで構成される第1層を基板上に形成する工程と、窒素がドープされた複数のカーボンナノウォールで構成される第2層を第1層上に形成する工程と、複数のカーボンナノウォールに、1または複数のAu粒子を付着させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、湿度範囲に拘わらず、抵抗値の変化を概ね線形にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る湿度センサを説明する第1の図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る湿度センサを説明する第2の図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る第2層を説明する図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る測定装置の機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る湿度センサの製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、変形例に係る湿度センサを説明する図である。
【
図7】
図7は、実施例1、実施例2、および、比較例1の水接触角の測定結果を示す図である。
【
図8】
図8は、比較例1の感湿材料を用いて作成された湿度センサによる抵抗値を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例1の感湿材料を用いて作成された湿度センサによる抵抗値を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例2の感湿材料を用いて作成された湿度センサによる抵抗値を示す図である。
【
図11】
図11は、比較例2の感湿材料を用いて作成された湿度センサによる抵抗値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
[湿度センサ100]
図1は、本実施形態に係る湿度センサ100を説明する第1の図である。
図2は、本実施形態に係る湿度センサ100を説明する第2の図である。
図3は、本実施形態に係る第2層230を説明する図である。本実施形態の
図1~
図3、
図6では、垂直に交わるX軸、Y軸、Z軸を図示の通り定義している。また、
図3中、黒丸は、Au粒子を示す。
【0016】
図1、
図2に示すように、湿度センサ100は、感湿材料110と、電極120、122と、測定装置130とを含む。
【0017】
感湿材料110は、基板210と、第1層220と、第2層230とを含む。感湿材料110は、例えば、膜形状である。
【0018】
基板210は、炭化物を形成しやすい元素を含む材料で構成される。基板210は、例えばSi(シリコン)で構成される。
【0019】
第1層220は、基板210上に積層される。第1層220は、グラファイトで構成される。本実施形態において、第1層220を構成するグラファイトには、窒素がドープされている。
【0020】
第2層230は、第1層220上に設けられる。
図3に示すように、第2層230は、複数のカーボンナノウォール232で構成される。カーボンナノウォール232は、1または複数のグラフェンシートで構成される。本実施形態において、第2層230を構成するカーボンナノウォール232には、窒素がドープされている。
【0021】
カーボンナノウォール232は、第1層220の表面から、
図3中、Z軸方向に立設する。つまり、カーボンナノウォール232は、第1層220(基板210)に対して、略垂直に立設する。カーボンナノウォール232と第1層220との為す角は、例えば、45度以上、135度以下である。
【0022】
1のカーボンナノウォール232の厚みTの平均値は、例えば、1nm以上100nm以下である。1のカーボンナノウォール232の高さHの平均値は、例えば、500nmである。また、カーボンナノウォール232における対向する壁面の間に形成される間隙232aの幅Wの平均値は、例えば、1nm以上10μm以下である。例えば、1のカーボンナノウォール232が湾曲しており、1のカーボンナノウォール232において壁面が対向する箇所がある場合、当該対向する壁面の間に間隙232aが形成される。また、複数のカーボンナノウォール232のうち、隣り合うカーボンナノウォール232の壁面同士が対向する箇所がある場合、当該対向する壁面の間に間隙232aが形成される。また、間隙232aの幅Wは、例えば、カーボンナノウォール232における対向する壁面の間の最短距離である。なお、厚みTおよび幅Wは、
図3中、XY平面上の長さである。高さHは、
図3中、Z軸方向の長さである。
【0023】
また、本実施形態において、第2層230を構成するカーボンナノウォール232の先端部分には、1または複数のAu(金)粒子234が付着している。Au粒子234の粒径は、例えば、1nm以上である。また、Au粒子234は、カーボンナノウォール232における対向する壁面の間に形成される間隙232aよりも小さい。
【0024】
カーボンナノウォール232の先端部分は、カーボンナノウォール232の高さHに対し、先端232bから20%程度の長さの部分である。カーボンナノウォール232の先端部分の長さ(
図3中、Z軸方向の長さ)は、例えば、100nm程度である。
【0025】
図1、
図2に戻って説明すると、本実施形態において、第2層230の
図1、
図2中、Y軸方向の長さは、第1層220よりも短い。このため、第1層220の両端の領域220a、220bは、第2層230が設けられない。
【0026】
電極120は、第1層220の領域220aに設けられる。電極122は、第1層220の領域220bに設けられる。電極120、122は、例えば、金属ペーストで構成される。電極120と、電極122とは、配線124で電気的に接続される。
【0027】
測定装置130は、配線124に電気的に接続される。測定装置130は、電極120と電極122との間の抵抗値を測定する装置である。
図4は、本実施形態に係る測定装置130の機能ブロック図である。
図4に示すように、測定装置130は、中央制御部132と、メモリ134と、表示部136と含む。
【0028】
中央制御部132は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成される。中央制御部132は、ROMからCPUを動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出す。中央制御部132は、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して測定装置130全体を管理および制御する。
【0029】
本実施形態において、中央制御部132は、抵抗値取得部150、湿度演算部152として機能する。
【0030】
抵抗値取得部150は、電極120と電極122との間の抵抗値を取得する。
【0031】
湿度演算部152は、メモリ134に記憶された検量情報を参照し、抵抗値取得部150によって取得された抵抗値に基づき、湿度(相対湿度RH%)を演算する。検量情報は、抵抗値と湿度とが関連付けられた情報である。検量情報は、実験等を行うことによって予め作成される。
【0032】
メモリ134は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成される。メモリ134は、中央制御部132に用いられるプログラムや各種データを記憶する。本実施形態において、メモリ134は、検量情報を記憶する。
【0033】
表示部136は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成される。表示部136は、例えば、湿度演算部152によって演算された湿度を表示する。
【0034】
[湿度センサ100の製造方法]
続いて、上記湿度センサ100の製造方法について説明する。
図5は、本実施形態に係る湿度センサ100の製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図5に示すように、湿度センサ100の製造方法は、第1形成工程S110と、第2形成工程S120と、付着工程S130と、エッチング工程S140と、組立工程S150とを含む。以下、各工程について説明する。
【0035】
[第1形成工程S110]
第1形成工程S110は、第1層220を基板210上に形成(成膜)する工程である。
【0036】
[第2形成工程S120]
第2形成工程S120は、第1形成工程S110で形成された第1層220上に、窒素がドープされた複数のカーボンナノウォール232を形成(成膜)する工程である。
【0037】
第1形成工程S110および第2形成工程S120は、成膜装置を用いて行われる。成膜装置は、例えば、シートプラズマCVD装置である。シートプラズマCVD装置を用いる場合、シートプラズマCVD装置のチャンバ内に基板210を設置する。そして、チャンバ内において、基板210を、例えば、650℃に保持する。また、チャンバ内に混合ガスを供給して、第1形成工程S110および第2形成工程S120を行う。混合ガスは、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)、メタンガス、および、窒素ガスを少なくとも含む。また、混合ガスは、水素をさらに含んでもよい。
【0038】
[付着工程S130]
付着工程S130は、第2形成工程S120で形成された複数のカーボンナノウォール232に、1または複数のAu粒子234を付着させる工程である。付着工程S130は、例えば、スパッタリング装置を用いて行われる。なお、スパッタリング装置を用いる場合、スパッタリング用のターゲット(Au)と第2層230(カーボンナノウォール232)とを対向させて配置してもよい。
【0039】
第2形成工程S120および付着工程S130を行うことにより、第1層220上に第2層230が形成される。
【0040】
[エッチング工程S140]
エッチング工程S140は、第2層230の所定の2つの領域をエッチングする工程である。エッチング工程S140は、例えば、レーザー照射装置を用いて行われる。レーザー照射装置を用いる場合、例えば、パルス幅が10-12秒未満のレーザーを、第2層230における互いに離隔した2つの領域にレーザーを照射する。これにより、第1層220上において第2層230を備えない領域220a、220bが形成される。
【0041】
[組立工程S150]
組立工程S150では、電極120が領域220aに設けられ、電極122が領域220bに設けられる。そして、電極120および電極122に配線124が接続され、配線124に測定装置130が接続される。こうして、湿度センサ100が製造される。
【0042】
以上説明したように、湿度センサ100は、第1層220および第2層230を含む感湿材料110を備える。
【0043】
第2層230を構成するカーボンナノウォール232は、その上部が物理的にも電気的にも接続されていない。一方、上記したように、基板210と第2層230(カーボンナノウォール232)との間には、第1層220が連続して形成される。したがって、カーボンナノウォール232同士は、その底部において第1層220(グラファイト)によって物理的かつ電気的に連通している。
【0044】
第2層230を構成するカーボンナノウォール232における対向する壁面の間には間隙232aが配される。間隙232aは、絶縁体である。このため、第2層230に何も付着していない場合(以下、「初期状態」と称する)、測定装置130によって測定される抵抗値は大きくなる。
【0045】
一方、カーボンナノウォール232に水が付着すると、カーボンナノウォール232同士が電気的に接続され(第2層230の電気的特性が変化し)、測定装置130によって測定される抵抗値は、初期状態よりも小さくなる。また、カーボンナノウォール232に付着する水の量が増加するほど、測定装置130によって測定される抵抗値は低くなる。したがって、湿度センサ100は、抵抗値に基づいて湿度を測定することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態に係るカーボンナノウォール232は、窒素がドープされている。窒素がドープされていないカーボンナノウォールは、水に対する親和性が低い。一方、カーボンナノウォール232は、窒素がドープされているため、水に対する親和性が高い。したがって、湿度センサ100は、窒素がドープされた複数のカーボンナノウォール232で構成される第2層230を備えるため、空気中の水、つまり、湿度を高感度で測定することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態に係る感湿材料110において、カーボンナノウォール232に付着する水の量に応じた抵抗値の変化率は、湿度範囲に拘わらず略一定である。つまり、本実施形態に係る感湿材料110では、低湿度から高湿度(例えば、20RH%から90RH%)に亘って、抵抗値の変化率が略一定である。このため、感湿材料110は、湿度範囲に拘わらず、抵抗値の変化を概ね線形にすることが可能となる。感湿材料110を備える湿度センサ100は、湿度範囲に拘わらず、感度のバラツキを低減することができる。
【0048】
また、上記したように、本実施形態に係る第2層230は、窒素がドープされた複数のカーボンナノウォール232で構成され、カーボンナノウォール232には、1または複数のAu粒子234が付着している。Au粒子234により、カーボンナノウォール232の水に対する親和性を長期間に亘って維持させることができる。したがって、湿度センサ100の耐久性を向上させることができる。
【0049】
また、上記したように、カーボンナノウォール232に付着したAu粒子234の粒径は、間隙232aより小さい。これにより、Au粒子234によって間隙232aが塞がれてしまう事態を回避することができる。したがって、Au粒子234による、間隙232aへの空気の進入の阻害を防止することが可能となる。このため、湿度センサ100は、感度低下を防止することができる。
【0050】
[変形例]
図6は、変形例に係る湿度センサ300を説明する図である。
図6に示すように、湿度センサ300は、感湿材料310と、電極120、122と、測定装置130とを含む。感湿材料310は、基板210と、第1層220と、第2層330とを含む。なお、上記湿度センサ100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】
変形例に係る第2層330は、複数のカーボンナノウォール232で構成される。第2層230を構成するカーボンナノウォール232と同様に、第2層330を構成するカーボンナノウォール232には、窒素がドープされている。
【0052】
一方、第2層230を構成するカーボンナノウォール232とは異なり、変形例に係る第2層330を構成するカーボンナノウォール232には、Au粒子234が付着していない。
【0053】
変形例に係る感湿材料310は、カーボンナノウォール232で構成される第2層330を備える。上記したように、カーボンナノウォール232は、窒素がドープされているため、水に対する親和性が高い。このため、感湿材料310を含む湿度センサ300は、空気中の水、つまり、湿度を高感度で測定することが可能となる。
【0054】
また、感湿材料310において、カーボンナノウォール232に付着する水の量に応じた抵抗値の変化率は、湿度範囲に拘わらず略一定である。つまり、変形例に係る感湿材料310では、低湿度から高湿度(例えば、20RH%から90RH%)に亘って、抵抗値の変化率が略一定である。このため、感湿材料310は、湿度範囲に拘わらず、抵抗値の変化を概ね線形にすることが可能となる。したがって、感湿材料310を備える湿度センサ300は、湿度範囲に拘わらず、感度のバラツキを低減することができる。
【0055】
[実施例]
実施例1、実施例2、比較例1、および、比較例2の感湿材料を作成した。実施例1、実施例2、比較例1、および、比較例2は、基板210としてシリコン基板を用いた。下記表1は、実施例1、実施例2、比較例1、および、比較例2の作成条件を示す。
【表1】
【0056】
表1に示すように、実施例1は、シートプラズマCVD装置を用いて作成された。実施例1では、シートプラズマCVD装置のチャンバ内に基板210を収容し、キャリアガスとしてアルゴンガスを80sccm(standard cc/min)でチャンバ内に供給し、プラズマ電流70Aとして、チャンバ内にプラズマを生成させた。続いて、基板210を650℃とし、水素ガスを10sccmでチャンバ内に供給して、基板210の表面を洗浄した。そして、原料ガスとして、メタンガスを10sccm、窒素ガスを10sccmでチャンバ内に供給した。また、成膜時間を10分とした。また、実施例1では、Au粒子234の付着は行わなかった。実施例1の感湿材料310は、基板210と、第1層220と、窒素がドープされた複数のカーボンナノウォール232で構成される第2層330とを備える。
【0057】
実施例2は、シートプラズマCVD装置およびスパッタリング装置を用いて作成された。実施例2のシートプラズマCVD装置による成膜条件は、実施例1と同様である。実施例2では、スパッタリング装置を用いて、実施例1の複数のカーボンナノウォール232に、さらに、1または複数のAu粒子234を付着させた。実施例2の感湿材料110は、基板210と、第1層220と、第2層230とを備える。
【0058】
比較例1は、シートプラズマCVD装置を用いて作成された。比較例1では、シートプラズマCVD装置のチャンバ内に基板210を収容し、キャリアガスとしてアルゴンガスを80sccmでチャンバ内に供給し、プラズマ電流70Aとして、チャンバ内にプラズマを生成させた。続いて、基板210を650℃とし、水素ガスを10sccmでチャンバ内に供給して、基板210の表面を洗浄した。そして、原料ガスとして、メタンガスを10sccmでチャンバ内に供給した。また、成膜時間を10分とした。つまり、比較例1では、カーボンナノウォールへの窒素のドープは行わなかった。比較例1の感湿材料は、基板210と、窒素がドープされていないグラファイトで構成される第1層と、窒素がドープされていない複数のカーボンナノウォールで構成される第2層とを備える。
【0059】
比較例2は、シートプラズマCVD装置およびスパッタリング装置を用いて作成された。比較例2のシートプラズマCVD装置による成膜条件は、実施例1と同様である。比較例2では、スパッタリング装置を用いて、実施例1の複数のカーボンナノウォール232に、さらに、1または複数のPt(白金)粒子を付着させた。比較例2の感湿材料は、基板210と、第1層220と、1または複数のPt粒子が付着した複数のカーボンナノウォール232で構成される第2層とを備える。
【0060】
そして、上記実施例1、実施例2、および、比較例1の水接触角(WCA:Water Contact Angle)を測定した。また、実施例1、実施例2、比較例1、および、比較例2の感湿材料を備える湿度センサを作成し、湿度を変化させて抵抗値[Ω]を測定した。以下、測定結果について説明する。
【0061】
[水接触角]
水接触角は、協和界面科学株式会社製、接触角計DMs-301を用い、以下の条件で測定した。
純水の滴下量:3μL
測定温度:25℃
純水を滴下して5秒経過後の接触角を測定した。
【0062】
図7は、実施例1、実施例2、および、比較例1の水接触角の測定結果を示す図である。
図7中、白い四角は、比較例1を示す。
図7中、黒い丸は、実施例1を示す。
図7中、白い丸は、実施例2を示す。
【0063】
図7に示すように、比較例1の水接触角は、作成直後において約100°であり、8日経過後において約110°であった。また、比較例1の水接触角は、26日経過後および34日経過後において、約100°であった。つまり、比較例1の水接触角は、時間の経過に拘わらず、約100°であることが確認された。
【0064】
一方、実施例1の水接触角は、作成直後において約30°であった。また、実施例1の水接触角は、7日経過後において約45°であり、14日経過後において約50°であり、21日経過後および24日経過後において約60°であり、34日経過後において約70°であり、42日経過後において約80°であった。
【0065】
この結果から、実施例1の水接触角は、時間の経過に拘わらず、比較例1の水接触角より小さいことが分かった。これにより、実施例1は、比較例1よりも水の親和性が高いことが確認された。つまり、実施例1は、親水性であり、比較例1は、疎水性であることが分かった。したがって、カーボンナノウォールに窒素をドープすることにより、水との親和性を向上できることが確認された。
【0066】
実施例2の水接触角は、作成から1日経過後、および、2日経過後において約15°であった。また、実施例2の水接触角は、35日経過後、および41日経過後においても、約10°であった。
【0067】
この結果から、実施例2の水接触角は、時間の経過に拘わらず、15°以下に維持されることが確認された。
【0068】
一方、実施例2とは異なり、実施例1の水接触角は、時間の経過に伴って上昇することが確認された。この結果から、実施例1の感湿材料は、Au粒子234を備えないため、空気中の酸素等の不純物によって、カーボンナノウォール232の一部(例えば、先端部分)が変化し、水の親和性が低下したと推測される。これに対し、実施例2の感湿材料110は、Au粒子234を備えるため、不純物によるカーボンナノウォール232の変化が抑制され、水の親和性の低下を防止できることが確認された。
【0069】
[湿度変化に対する抵抗値変化]
図8は、比較例1の感湿材料を用いて作成された湿度センサによる抵抗値を示す図である。
図9は、実施例1の感湿材料310を用いて作成された湿度センサ300による抵抗値を示す図である。
図10は、実施例2の感湿材料110を用いて作成された湿度センサ100による抵抗値を示す図である。
図11は、比較例2の感湿材料を用いて作成された湿度センサによる抵抗値を示す図である。
図8~
図11中、黒丸は、1回目の測定結果を示す。
図8、
図9中、白丸は、2回目の測定結果を示す。
図8~
図10中、白四角は、3回目の測定結果を示す。また、1回目と2回目との間は、約3時間であり、1回目と3回目との間は、約1日である。
【0070】
図8に示すように、比較例1の1回目の測定では、湿度23.6RH%の際の抵抗値Rは410Ωであり、湿度52.6RH%の際の抵抗値Rは409Ωであり、湿度70RH%の際の抵抗値Rは408Ωであり、湿度85.7RH%の際の抵抗値Rは406Ωであった。また、比較例1の2回目の測定では、湿度22.5RH%の際の抵抗値Rは405Ωであり、湿度51.7RH%の際の抵抗値Rは401Ωであり、湿度69.4RH%の際の抵抗値Rは401Ωであり、湿度85.8RH%の際の抵抗値Rは401Ωであった。
【0071】
以上の結果から、比較例1は、1回目の測定において、湿度が上昇するに従って、抵抗値Rが低下することが確認された。しかし、比較例1は、2回目の測定において、約20RH%から約70RH%の湿度範囲において、湿度が上昇するに従って、抵抗値Rが低下したものの、約90RH%では、約70RH%よりも抵抗値Rが増加した。また、比較例1では、1回目と2回目とで、同湿度における抵抗値Rが5Ω以上異なっていた。これにより、比較例1は、湿度と抵抗値Rとの関係に再現性が認められないことが確認された。
【0072】
図9に示すように、実施例1の1回目の測定では、湿度27RH%の際の抵抗値Rは335Ωであり、湿度42.3RH%の際の抵抗値Rは331Ωであり、湿度73.4RH%の際の抵抗値Rは328Ωであり、湿度91.1RH%の際の抵抗値Rは320Ωであった。また、実施例1の2回目の測定では、湿度21.2RH%の際の抵抗値Rは335Ωであり、湿度42.3RH%の際の抵抗値Rは331Ωであり、湿度74.4RH%の際の抵抗値Rは329Ωであり、湿度92.3RH%の際の抵抗値Rは320Ωであった。実施例1の3回目の測定では、湿度21.9RH%の際の抵抗値Rは337Ωであり、湿度56.5RH%の際の抵抗値Rは334Ωであり、湿度74.6RH%の際の抵抗値Rは333Ωであり、湿度94RH%の際の抵抗値Rは327Ωであった。
【0073】
以上の結果から、実施例1は、1回目の測定および2回目の測定において、湿度が上昇するに従って、抵抗値Rが低下することが確認された。また、実施例1では、1回目と2回目とで、湿度範囲に拘わらず、抵抗値の変化が概ね線形であった。また、実施例1では、1回目と2回目とで、同湿度における抵抗値Rにほとんど差がなかった。
【0074】
一方、実施例1では、1回目および2回目と、3回目とで、同湿度における抵抗値Rが2Ω以上異なっていた。これにより、実施例1は、1日未満の短期間において、湿度と抵抗値Rとの関係に再現性が認めることが確認された。つまり、実施例1は、1日未満の短期間において、20RH%以上90RH%以下の湿度を測定する湿度センサ300として好適に利用できることが分かった。
【0075】
図10に示すように、実施例2の1回目の測定では、湿度21.5RH%の際の抵抗値Rは350Ωであり、湿度55.1RH%の際の抵抗値Rは348Ωであり、湿度72.6RH%の際の抵抗値Rは345Ωであり、湿度88.3RH%の際の抵抗値Rは340Ωであった。また、実施例2の2回目の測定は行わなかった。実施例2の3回目の測定では、湿度20.3RH%の際の抵抗値Rは352Ωであり、湿度56RH%の際の抵抗値Rは347Ωであり、湿度71.2RH%の際の抵抗値Rは346Ωであり、湿度89.1RH%の際の抵抗値Rは340Ωであった。
【0076】
以上の結果から、実施例2は、1回目の測定および3回目の測定において、湿度が上昇するに従って、抵抗値Rが低下することが確認された。また、実施例2では、1回目と3回目とで、湿度範囲に拘わらず、抵抗値の変化が概ね線形であった。また、実施例2では、1回目と3回目とで、同湿度における抵抗値Rにほとんど差がなかった。これにより、実施例2は、1日以上の長期間において、湿度と抵抗値Rとの関係に再現性が認めることが確認された。つまり、実施例2は、1日以上の長期間において、20RH%以上90RH%以下の湿度を測定する湿度センサ100として好適に利用できることが分かった。
【0077】
図11に示すように、比較例2の1回目の測定では、湿度20.5RH%の際の抵抗値Rは583Ωであり、湿度51.2RH%の際の抵抗値Rは583Ωであり、湿度70.5RH%の際の抵抗値Rは581Ωであり、湿度77.7RH%の際の抵抗値Rは582Ωであった。
【0078】
以上の結果から、比較例2は、湿度に拘わらず、抵抗値Rがほとんど変化しないことが確認された。実施例2および比較例2の結果から、Au粒子234は、カーボンナノウォール232の水に対する親和性を長期間に亘って維持させることができることが分かった。
【0079】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0080】
例えば、上述した実施形態において、第1層220を構成するグラファイトに窒素がドープされる場合を例に挙げた。しかし、第1層220を構成するグラファイトに窒素がドープされていなくてもよい。
【0081】
また、第1形成工程S110、第2形成工程S120、および、付着工程S130は、同一の装置内で行われてもよいし、それぞれ異なる装置内で行われてもよい。
【0082】
また、基板210、第1層220(グラファイト)、第2層230(カーボンナノウォール232)、および、Au粒子234のうちのいずれか1または複数は、不可避不純物を含んでもよい。
【0083】
本開示は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0084】
S110 第1形成工程
S120 第2形成工程
S130 付着工程
100 湿度センサ
110 感湿材料
210 基板
220 第1層
230 第2層
232 カーボンナノウォール
232a 間隙
234 Au粒子
300 湿度センサ
310 感湿材料
330 第2層