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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163523
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】搬送車両及び交通管制システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20231102BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B60T7/12 A
B60T7/12 F
B60T8/172 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074486
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】小原 大輝
(72)【発明者】
【氏名】魚津 信一
(72)【発明者】
【氏名】本庄 佑馬
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA13
3D246DA01
3D246EA05
3D246HA13A
3D246HA39A
3D246HA64A
3D246HA86B
3D246HA97A
3D246HB23A
3D246MA36
(57)【要約】
【課題】メンテナンスの頻度を低減しつつ、正常に車体を停止可能な搬送車両を提供する。
【解決手段】搬送車両は、経路勾配及び経路制限速度を含む地図情報を記憶する記憶装置と、車体の位置、方位、走行速度及び地図情報に基づいて目標速度を生成する車両制御装置を備える。車両制御装置は、走行速度及び経路勾配に基づいて、機械ブレーキ装置の作動検知からの時間経過に応じて増加する保護用制限速度を算出する。車両制御装置は、予め定められたメンテナンス時間の経過後に経路制限速度が目標速度の上限値として設定された場合に走行可能な第1距離を算出し、保護用制限速度が目標速度の上限値として設定された場合に走行可能な第2距離を算出し、第1距離が第2距離よりも小さい場合には保護用制限速度及び経路制限速度のうち小さい方を目標速度の上限値とし、第1距離が第2距離よりも大きい場合にはメンテナンス要求指示を出力する。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に設けられる車輪と、
前記車体の位置を取得する位置センサと、
前記車体の方位を取得する方位センサと、
前記車体の走行速度を取得する速度センサと、
前記車輪に制動力を付与する機械ブレーキ装置及び電気ブレーキ装置を含み、前記車輪を駆動する走行駆動装置と、
前記車体の走行経路の経路形状、経路勾配及び経路制限速度を含む地図情報を記憶する記憶装置と、
前記車体の位置と、前記車体の方位と、前記車体の走行速度と、前記地図情報と、に基づいて目標速度を含む制御目標を生成し、前記車体の走行速度が前記目標速度となるように前記走行駆動装置を制御する車両制御装置と、を備えた搬送車両において、
前記車両制御装置は、
前記速度センサにより取得される前記走行速度と、前記地図情報に含まれる経路勾配とに基づいて、前記機械ブレーキ装置の作動を検知してからの時間であって前記機械ブレーキ装置が作動してその後非作動になった状態も含む時間が経過するほど増加する前記機械ブレーキ装置の保護用制限速度を算出し、
前記機械ブレーキ装置の作動を検知してからの経過時間幅であって前記機械ブレーキ装置が作動してその後非作動になった状態も含む所定の経過時間幅において、予め定められたメンテナンス時間の経過後に前記経路制限速度が前記目標速度の上限値として設定された場合に走行可能な第1距離を算出し、
前記機械ブレーキ装置の作動を検知してからの前記所定の経過時間幅において、前記保護用制限速度が前記目標速度の上限値として設定された場合に走行可能な第2距離を算出し、
前記第1距離が前記第2距離よりも小さい場合には、前記保護用制限速度及び前記経路制限速度のうち小さい方を前記目標速度の上限値として前記車体を走行させ、
前記第1距離が前記第2距離よりも大きい場合には、前記車体の停止状態を維持しつつ、メンテナンス要求指示を出力する
ことを特徴とする搬送車両。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送車両において、
前記搬送車両の積載量を取得する積載量センサを備え、
前記車両制御装置は、前記積載量センサにより取得される積載量を加味して、前記保護用制限速度を算出する
ことを特徴とする搬送車両。
【請求項3】
請求項1に記載の搬送車両において、
前記地図情報は、さらに、前記走行経路の路面抵抗を含み、
前記車両制御装置は、前記路面抵抗を加味して、前記保護用制限速度を算出する
ことを特徴とする搬送車両。
【請求項4】
請求項1に記載の搬送車両において、
前記車両制御装置は、
前記機械ブレーキ装置の作動を検知した場合には、前記経路勾配と前記速度センサにより取得された前記走行速度に基づいて、前記機械ブレーキ装置の蓄積熱量を算出し、
前記蓄積熱量に基づいて、前記保護用制限速度を算出する
ことを特徴とする搬送車両。
【請求項5】
請求項1に記載の搬送車両において、
前記機械ブレーキ装置の温度を取得するブレーキ温度センサを備え、
前記車両制御装置は、
前記機械ブレーキ装置の作動を検知した場合には、前記ブレーキ温度センサにより取得される前記機械ブレーキ装置の温度に基づいて、前記機械ブレーキ装置の蓄積熱量を算出し、
前記蓄積熱量に基づいて、前記保護用制限速度を算出する
ことを特徴とする搬送車両。
【請求項6】
請求項1に記載の搬送車両において、
前記メンテナンス要求指示に応じて前記搬送車両のメンテナンス要求を報知する報知装置を備え、
前記車両制御装置は、
前記機械ブレーキ装置の作動を検知した場合には、前記機械ブレーキ装置の蓄積熱量の累計値を算出し、
算出した前記蓄積熱量の累計値が所定値を超える場合には、前記報知装置に前記メンテナンス要求指示を出力する
ことを特徴とする搬送車両。
【請求項7】
請求項1に記載の搬送車両において、
前記車両制御装置は、
前記地図情報に含まれる前記経路勾配と、前記速度センサにより取得された前記走行速度とに基づいて、前記電気ブレーキ装置のみを使用した場合の減速度を算出し、
算出した前記減速度に基づいて前記経路制限速度が減少する位置よりも前記車体に近い位置で前記目標速度を減少させる
ことを特徴とする搬送車両。
【請求項8】
請求項3に記載の搬送車両において、
前記車両制御装置は、
前記機械ブレーキ装置の作動を検知したときに前記速度センサにより取得された前記走行速度と、前記機械ブレーキ装置の作動を検知したときに前記位置センサにより取得された前記車体の位置と、前記機械ブレーキ装置の作動により前記車体が停止したときに前記位置センサにより取得された前記車体の位置と、前記経路勾配とに基づいて、前記路面抵抗を算出し、
算出した前記路面抵抗により前記地図情報の前記路面抵抗を更新する
ことを特徴とする搬送車両。
【請求項9】
請求項1に記載の搬送車両と、前記搬送車両の交通管制を行う管制サーバと、を含む交通管制システムにおいて、
前記車両制御装置は、
前記機械ブレーキ装置の作動を検知した場合には、前記速度センサにより取得された前記走行速度に基づいて、前記機械ブレーキ装置の蓄積熱量を算出し、
算出した前記機械ブレーキ装置の蓄積熱量と、前記蓄積熱量を算出した時刻とを前記管制サーバに送信し、
前記管制サーバは、
気象情報を取得し、
取得した前記気象情報に基づいて単位時間当たりの放熱量を決定し、
前記蓄積熱量を算出した時刻からの経過時間と、前記単位時間当たりの放熱量とに基づいて、前記蓄積熱量を補正した補正後蓄積熱量を算出し、
前記補正後蓄積熱量を前記搬送車両の前記車両制御装置に送信し、
前記車両制御装置は、前記補正後蓄積熱量に基づいて、前記保護用制限速度を算出する
ことを特徴とする交通管制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送車両及び交通管制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自律走行が可能な搬送車両として、エンジンと、エンジンにより駆動される発電機と、発電機からの電力により駆動される電動モータと、電動モータにより駆動される車輪と、を備えたシリーズハイブリッド式のダンプトラックが知られている。
【0003】
シリーズハイブリッド式のダンプトラックは、電動モータの発電による回生トルクを制動力として走行速度を減少させる電気ブレーキ装置と、摩擦力を制動力として走行速度を減少させる機械ブレーキ装置と、を備えている。通常の自律走行運転では、電気ブレーキ装置により減速制御が行われる。このため、機械ブレーキ装置は、ほとんど摩耗することがない。
【0004】
機械ブレーキ装置は、障害物との衝突を防止する際、及び、停車指示を受けた際に使用される。機械ブレーキ装置は、使用後、発熱と摩耗によって制動性能が低下する。このため、機械ブレーキ装置が使用されると、機械ブレーキ装置のメンテナンスのために、搬送車両の稼働を停止する。機械ブレーキ装置のメンテナンスでは、制動性能が基準値を満たしているかが調査され、制動性能が基準値を満たしていない場合には修理が行われる。
【0005】
このように、自律走行可能な搬送車両において機械ブレーキ装置が使用されると、機械ブレーキ装置のメンテナンスにより、搬送車両の稼働時間が減少し、作業効率が低下する。また、機械ブレーキ装置が使用されるたびに機械ブレーキ装置のメンテナンスを行うと、メンテナンスコストが増加する。
【0006】
機械ブレーキ装置が使用される場合に、メンテナンスコストを増加させることなく、運転を継続可能な装置として、特許文献1に記載の技術が提案されている。特許文献1には、巻上機によりシーブを回動させることにより、シーブに掛けられたロープに接続された乗りかごを昇降させる乗りかご昇降システムと、シーブの回動を摩擦により停止させる非常ブレーキと、乗りかご昇降システムを制御するシステム制御部と、を備えたエレベーター装置が開示されている。非常ブレーキは、ブレーキディスクをライニングにより挟むことによりブレーキディスクの回転を停止させる機械ブレーキ装置である。システム制御部は、非常ブレーキの作動を検知する非常ブレーキ作動検知部と、非常ブレーキが作動する直前の乗りかごの速度を取得する非常ブレーキ作動時速度取得部と、非常ブレーキ作動時速度取得部により取得された速度から、非常ブレーキのライニングの摩耗量を算出するライニング摩耗量算出部と、算出された摩耗量に基づいて乗りかご昇降システムの動作を指令する乗りかご運転指令部と、を有する。
【0007】
特許文献1に記載の技術では、機械ブレーキ装置が作動する直前の速度を取得し、取得された速度からライニングの摩耗量を算出する。摩耗量は、機械ブレーキ装置が作動する直前の摩耗量に、機械ブレーキ装置の作動による摩耗量の増加分を加算する。特許文献1に記載の技術では、摩耗量の累計値が、エレベーターの走行限界の摩耗量以上になった場合には、エレベーターの運転を休止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-178495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、エレベーターの機械ブレーキ装置の記載はあるが、搬送車両の機械ブレーキ装置の記載はない。
【0010】
ダンプトラックなどの搬送車両は、平地だけでなく、下り坂や上り坂を走行する。平地で機械ブレーキ装置が作動した場合と、坂道で機械ブレーキ装置が作動した場合とでは、機械ブレーキ装置に対する影響が異なる。このため、平地だけでなく、下り坂であっても、機械ブレーキ装置により車体を正常に停止させることが可能であって、メンテナンスの頻度を低減可能な搬送車両が要望されている。
【0011】
本発明は、機械ブレーキ装置のメンテナンスの頻度を低減することが可能であって、機械ブレーキ装置により正常に車体を停止させることが可能な搬送車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様による搬送車両は、車体と、前記車体に設けられる車輪と、前記車体の位置を取得する位置センサと、前記車体の方位を取得する方位センサと、前記車体の走行速度を取得する速度センサと、前記車輪に制動力を付与する機械ブレーキ装置及び電気ブレーキ装置を含み、前記車輪を駆動する走行駆動装置と、前記車体の走行経路の経路形状、経路勾配及び経路制限速度を含む地図情報を記憶する記憶装置と、前記車体の位置と、前記車体の方位と、前記車体の走行速度と、前記地図情報と、に基づいて目標速度を含む制御目標を生成し、前記車体の走行速度が前記目標速度となるように前記走行駆動装置を制御する車両制御装置と、を備える。前記車両制御装置は、前記速度センサにより取得される前記走行速度と、前記地図情報に含まれる経路勾配とに基づいて、前記機械ブレーキ装置の作動を検知してからの時間であって前記機械ブレーキ装置が作動してその後非作動になった状態も含む時間が経過するほど増加する前記機械ブレーキ装置の保護用制限速度を算出し、前記機械ブレーキ装置の作動を検知してからの経過時間幅であって前記機械ブレーキ装置が作動してその後非作動になった状態も含む所定の経過時間幅において、予め定められたメンテナンス時間の経過後に前記経路制限速度が前記目標速度の上限値として設定された場合に走行可能な第1距離を算出し、前記機械ブレーキ装置の作動を検知してからの前記所定の経過時間幅において、前記保護用制限速度が前記目標速度の上限値として設定された場合に走行可能な第2距離を算出し、前記第1距離が前記第2距離よりも小さい場合には、前記保護用制限速度及び前記経路制限速度のうち小さい方を前記目標速度の上限値として前記車体を走行させ、前記第1距離が前記第2距離よりも大きい場合には、前記車体の停止状態を維持しつつ、メンテナンス要求指示を出力する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機械ブレーキ装置のメンテナンスの頻度を低減することが可能であって、機械ブレーキ装置により正常に車体を停止させることが可能な搬送車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、交通管制システムの概略構成を示す図である。
図2図2は、搬送車両の構成を示す図である。
図3図3は、車両制御装置のハードウェア構成を示す図である。
図4図4は、第1実施形態に係る車両制御装置の機能ブロック図であり、車両制御装置に接続されるハードウェア及び車両制御装置の機能について示す。
図5図5は、搬送路内を走行する搬送車両の走行経路について示す図である。
図6図6は、第1実施形態に係る地図・車両情報記憶部に記憶されている地図情報のテーブルの例を示す図である。
図7図7は、第1実施形態に係る地図・車両情報記憶部に記憶されている車両情報のテーブルの例を示す図である。
図8図8は、機械ブレーキ熱量算出部により実行される機械ブレーキ蓄積熱量Qの算出処理の流れの一例について示すフローチャートである。
図9A図9Aは、機械ブレーキ蓄積熱量Qの時間変化の一例を示すグラフである。
図9B図9Bは、累計機械ブレーキ蓄積熱量Uの時間変化の一例を示すグラフである。
図10図10は、制限速度算出部により実行される制限速度算出処理の流れの一例について示すフローチャートである。
図11図11は、制御目標生成部により実行される目標速度算出処理の流れの一例について示すフローチャートである。
図12図12は、制限速度Vcと目標速度Vtの時間変化の例について示すタイムチャートである。
図13図13は、メンテナンスの有無による制限速度の差異の例を示す図である。
図14図14は、第2実施形態に係る車両制御装置の機能ブロック図である。
図15図15は、第2実施形態に係る地図・車両情報記憶部に記憶されている地図情報のテーブルの例を示す図である。
図16図16は、記憶情報更新装置により実行される記憶情報更新処理の流れの一例について示すフローチャートである。
図17図17は、天気に応じた機械ブレーキ蓄積熱量Qの時間変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。また、本実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0016】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る交通管制システム1の概略構成を示す図である。図1に示す交通管制システム1は、鉱山などの作業現場で、土砂や鉱石等の積荷を搬送する少なくとも1台以上の搬送車両20A,20Bと、搬送車両20A,20Bの交通管制を行う管制サーバ31と、を含む。なお、搬送車両20A,20Bは、総称して搬送車両20とも記す。搬送車両20は、作業現場の形状から設定される搬送路10内を走行する。搬送車両20は、オペレータが搭乗することなく、自律走行が可能な無人車両である。管制サーバ31は、作業現場の近傍あるいは作業現場から遠く離れた場所に設けられる管制局30内に配置される。管制サーバ31と搬送車両20とは、無線通信回線39を介して相互の情報の授受を行う。
【0017】
搬送車両20は、積荷を積載するベッセル(荷台)が設けられる車体21と、車体21に設けられる4つの車輪22と、を備える。
【0018】
図2は、搬送車両20の構成を示す図である。図2に示すように、搬送車両20は、車輪22を駆動する走行駆動装置120と、走行駆動装置120を制御する車両制御装置100とを備えている。走行駆動装置120は、エンジン121と、エンジン121によって駆動される発電機122と、発電機122によって発電された電力を制御して走行モータ124L,124Rに供給する電力制御装置123と、車輪22を駆動する走行モータ124L,124Rと、車輪22を操舵するステアリング装置125と、車輪22に制動力を付与するブレーキ装置(電気ブレーキ装置126及び機械ブレーキ装置127)と、を有している。
【0019】
走行モータ124L,124Rは、車体21を加速させるための電動モータである。走行モータ124L,124Rへの供給電力は、電力制御装置123によって制御され、走行モータ124L,124Rの回転速度が制御される。
【0020】
電力制御装置123は車両制御装置100に接続され、車両制御装置100は電力制御装置123を制御する。車両制御装置100は、電力制御装置123を介してステアリング装置125及びブレーキ装置を制御する。
【0021】
ステアリング装置125は、操舵角を変更するための操舵モータを備えている。
【0022】
ブレーキ装置は、電気ブレーキ装置126及び機械ブレーキ装置127を含む。電気ブレーキ装置126は、電動モータである走行モータ124L,124Rの発電による回生トルクを制動力として走行速度を減少させる回生ブレーキ装置である。機械ブレーキ装置127は、電気ブレーキ装置126よりも大きな制動力を発生することができる摩擦式の機械ブレーキ装置である。機械ブレーキ装置127は、例えば、車輪22のホイール内に設けられるディスクブレーキ装置であり、摩擦力を制動力として走行速度を減少させる。
【0023】
電気ブレーキ装置126は、通常時の車両の減速及び停止に用いられる。一方、機械ブレーキ装置127は、緊急時の車両の減速及び停止に用いられる。緊急時とは、車両制御装置100によって、搬送車両20の周囲に衝突する可能性のある障害物が検知されたとき、及び、管制サーバ31から搬送車両20に緊急停止信号が送信されたときなどである。緊急時には、電気ブレーキ装置126と機械ブレーキ装置127とが協調されて作動し、協調ブレーキによる制動力が発生する。なお、緊急時にブレーキ装置が作動すると、制動力が生じ、車体21が減速し、車体21が停止し、その後、車体21の停止状態が維持される。ブレーキ装置の作動が解除されると、制動力が消失する。ブレーキ装置の作動が解除された状態で、走行モータ124L,124Rが駆動されることにより、車体21が走行を開始する。
【0024】
また、搬送車両20は、図3に示すように、様々な物理量を検出するセンサ装置110と、センサ装置110からの信号等に基づいて走行駆動装置120を制御する車両制御装置100と、を備える。
【0025】
図3は、車両制御装置100のハードウェア構成を示す図である。図3に示すように、車両制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等の処理装置101、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の不揮発性メモリ102、所謂RAM(Random Access Memory)と呼ばれる揮発性メモリ103、入力インタフェース104、出力インタフェース105、及び、その他の周辺回路を備えたコンピュータで構成される。これらのハードウェアは、協働してソフトウェアを動作させ、複数の機能を実現する。なお、車両制御装置100は、1つのコンピュータで構成してもよいし、複数のコンピュータで構成してもよい。また、処理装置101としては、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。
【0026】
不揮発性メモリ102は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体である。不揮発性メモリ102には、OS(Operating System)、各種演算が実行可能な制御プログラム、アプリケーション・プログラム、各種演算に用いられる閾値、及び、データベース等が格納されている。すなわち、不揮発性メモリ102は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶装置(記憶媒体)である。処理装置101は、不揮発性メモリ102に記憶されたプログラムを揮発性メモリ103に展開して演算実行する装置であって、プログラムに従って入力インタフェース104、不揮発性メモリ102及び揮発性メモリ103から取り入れたデータに対して所定の演算処理を行う。
【0027】
入力インタフェース104は、センサ装置110等から入力された信号を処理装置101で演算可能なように変換する。また、出力インタフェース105は、処理装置101での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号を走行駆動装置120及び報知装置130等に出力する。
【0028】
図4は、車両制御装置100の機能ブロック図であり、車両制御装置100に接続されるハードウェア及び車両制御装置100の機能について示す。
【0029】
図4を参照して、車両制御装置100に接続されているハードウェアについて説明する。車両制御装置100には、センサ装置110、走行駆動装置120、報知装置130及び無線通信装置131が接続されている。無線通信装置131は、無線通信回線39の一部を構成する無線基地局と無線通信可能な通信装置であって、例えば2.1GHz帯等の帯域を感受帯域とする通信アンテナを含む通信インタフェースを有する。無線通信装置131は、無線通信回線39を介して、管制サーバ31と情報の授受を行う。無線通信回線131は、携帯電話事業者等が展開する携帯電話通信網(移動通信網)、インターネット等の広域ネットワークである。
【0030】
報知装置130は、車両制御装置100から出力されるメンテナンス要求指示に応じて、搬送車両20のメンテナンス要求を報知する。報知装置130は、例えば、車体21の外郭に取り付けられるLED表示機であり、メンテナンス要求指示を受信した場合に、メンテナンス要求指示に応じた色のLEDを点灯させる。また、報知装置130は、メンテナンス要求指示を受信した場合に、メンテナンス要求指示に応じた音(ホーン鳴動)を出力する音出力装置(鳴動装置)であってもよい。
【0031】
センサ装置110は、種々のセンサを含む。センサ装置110は、積載量センサ111と、位置センサ112と、方位センサ113と、速度センサ114と、操舵角センサ115と、ブレーキ温度センサ116と、を有する。
【0032】
積載量センサ111は、搬送車両20の積載量を取得するためのものである。積載量センサ111は、例えば、搬送車両20のサスペンションに作用する荷重あるいは油圧シリンダ(サスペンションシリンダ)内の作動油の圧力を検出し、その検出結果に基づいて搬送車両20の積載量を演算する。
【0033】
位置センサ112は、車体21の位置(車両位置)を取得するためのものである。方位センサ113は、車体21の方位(搬送車両20の向き)を取得するためのものである。位置センサ112及び方位センサ113は、例えば、複数のGNSS(Global Navigation Satellite System:全地球衛星測位システム)用のアンテナ(以下、GNSSアンテナと記す)と、GNSSアンテナで受信された複数の測位衛星からの衛星信号(GNSS電波)に基づいて、3次元空間の実座標で表される車体21の位置、及び基準方位からの角度である方位角を演算する測位演算装置と、を有する。車体21の位置は、例えば、地理座標系(グローバル座標系)における車体21の位置座標で表される。
【0034】
なお、位置センサ112及び方位センサ113は、単一のGNSSアンテナと、測位演算装置とによって構成してもよい。この場合、方位センサ113は、車体21の位置の軌跡から方位角を演算する。また、方位センサ113は、例えば、IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)と、IMUにより検出された角加速度情報の時間変化から方位角を演算する演算装置と、を備えたものであってもよい。
【0035】
速度センサ114は、車体21の走行速度(車両速度)Vを取得するためのものである。速度センサ114は、例えば、車輪22の回転速度を検出する車輪速センサである。なお、速度センサ114は、位置センサ112により演算された車体21の位置の時間変化から速度を演算する装置であってもよい。
【0036】
操舵角センサ115は、搬送車両20の操舵角を取得するためのものである。操舵角センサ115は、例えば、ステアリング装置125に取り付けられるエンコーダなどの角度検出装置である。
【0037】
ブレーキ温度センサ116は、搬送車両20の機械ブレーキ装置127の温度(以下、機械ブレーキ温度とも記す)を取得するためのものである。ブレーキ温度センサ116は、例えば、機械ブレーキ装置127の周辺温度を機械ブレーキ温度として計測する。
【0038】
車両制御装置100は、搬送車両20の動作を制御する。図5は、搬送路10内を走行する搬送車両20の走行経路11について示す図である。図5に示すように、車両制御装置100は、走行経路11に沿って自律走行を行うために、走行駆動装置120に対して走行制御指令を出力する。走行制御指令には、ブレーキ操作量、アクセル操作量、及び操舵角操作量が含まれる。
【0039】
走行経路11は、複数のノード12によって特定される。複数のノード12に関する情報は、後述するように、地図・車両情報記憶部157(図4参照)に記憶される。走行経路11は、搬送路10内の曲線を示すデータであり、ノード12は走行経路11上の座標を示すデータである。車両制御装置100は、走行経路11との偏差が最小となるように搬送車両20を自律走行させてもよいし、ノード12上を通過するように搬送車両20を自律走行させてもよい。本実施形態では、走行経路11は搬送路10の中心を通る曲線とされる。また、ノード12は、走行経路11上に等間隔に配置される。
【0040】
車両制御装置100は、位置センサ112により取得された車体21の位置と、方位センサ113によって取得された車体21の方位と、速度センサ114によって取得された車体21の走行速度Vと、不揮発性メモリ102に記憶されている地図情報と、に基づいて目標速度Vtを含む制御目標を生成し、車体21の走行速度Vが目標速度Vtとなるように走行駆動装置120を制御する。
【0041】
図4を参照して、車両制御装置100の機能の詳細について説明する。図4に示すように、車両制御装置100は、機械ブレーキ作動検知部151、制限速度生成部152、制御目標生成部155、自律走行制御部156、及び地図・車両情報記憶部157としての機能を有する。地図・車両情報記憶部157としての機能は、不揮発性メモリ102によって発揮される。機械ブレーキ作動検知部151、制限速度生成部152、制御目標生成部155、及び自律走行制御部156の機能は、処理装置101が不揮発性メモリ102に記憶されているプログラムを実行することによって発揮される。
【0042】
地図・車両情報記憶部157は、地図情報をテーブル形式で記憶する地図情報記憶領域と、車両情報をテーブル形式で記憶する車両情報記憶領域とを有する。また、地図・車両情報記憶部157には、種々の閾値が記憶されている。図6を参照して、地図・車両情報記憶部157に記憶される地図情報について説明する。図6は、地図情報のテーブルの例を示す図である。
【0043】
図6に示すように、地図情報は、車体21(自車両)の走行経路11(図5参照)の経路形状、経路勾配及び経路制限速度等を定める一連のノードの情報である。具体的には、地図情報には、ノード毎に、ノードID、ノード座標(X,Y)、経路制限速度Va、経路勾配θ、及び路面抵抗Frが定められている。
【0044】
ノードIDはノードの識別情報であり、ノード座標は走行経路11の経路形状を定めるノードの位置情報である。ノード座標は、例えば、作業現場に座標原点を設定した現場座標系の座標である。現場座標系は、X,Y座標からなる2次元直交座標系である。なお、ノード座標は、地理座標系の座標を用いてもよい。現場座標系の座標と地理座標系の座標は変換が可能である。経路制限速度Vaは、機械ブレーキ装置127が未使用であることを想定し、機械ブレーキ装置127により正常に車体21を停止させることが可能な走行速度の上限値として定められている。また、経路制限速度Vaは、走行経路11の曲率及び経路勾配θの少なくとも一方を加味して定められる。なお、走行経路11の曲率は、所定個数のノード12を円周上に持つ円の半径の逆数として求めることができる。また、走行経路11の曲率は、予め有人走行試験などにより、走行経路11に沿って搬送車両20を走行させたときの車体21の方位角もしくは車体21の位置の時間変化から算出した走行軌跡の旋回半径の逆数として求めてもよい。
【0045】
経路勾配θは、搬送車両20の走行経路11の水平方向に対する傾きである。路面抵抗Frは、搬送車両20の進行方向と反対向きに車輪22に作用する力である。なお、路面抵抗Frに代えて、抵抗係数を地図情報に含めてもよい。抵抗係数は、路面抵抗の算出に用いられる係数である。路面抵抗は、例えば、この抵抗係数に、車輪22から路面に加わる荷重(路面から車輪22に加わる荷重)を乗じることにより算出される。
【0046】
図4に示す地図・車両情報記憶部157には、搬送車両20が走行するために必要な区間分の地図情報が予め記憶されている。地図・車両情報記憶部157に記憶される地図情報は、管制サーバ31から送信される情報によって更新される。管制サーバ31は、搬送車両20が備えている不揮発性メモリ102内の情報を更新する記憶情報更新装置32を備えている。記憶情報更新装置32は、複数の搬送車両20同士が接触しないように、排他的な走行経路11を定めた地図更新情報を無線通信装置35を介して各搬送車両20に対して送信する。車両制御装置100は、無線通信装置131を介して受信した地図更新情報に基づいて、地図・車両情報記憶部157に記憶されている地図情報を更新する。
【0047】
なお、地図情報は更新される場合に限定されない。予め定めた地図情報は、管制サーバ31からの情報に基づいて更新されることなく、保持されるようにしてもよい。この場合、管制サーバ31は、複数の搬送車両20同士の接触を回避するために、各搬送車両20の位置に基づいて、減速指令、停止指令を所定の搬送車両20に送信する。
【0048】
図7を参照して、地図・車両情報記憶部157に記憶される車両情報について説明する。図7は、車両情報のテーブルの例を示す図である。図7に示すように、車両情報は、機械ブレーキ蓄積熱量Qと、機械ブレーキ蓄積熱量Qの累計値である累計機械ブレーキ蓄積熱量Uと、機械ブレーキ蓄積熱量Q及び累計機械ブレーキ蓄積熱量Uを算出した時刻である蓄積熱量算出時刻Tと、を含み、後述の機械ブレーキ熱量算出部153によって更新される。
【0049】
図4に示す機械ブレーキ作動検知部151は、速度センサ114により取得される走行速度Vの減少率が予め定めた減少率閾値未満の状態から減少率閾値以上になった場合に、機械ブレーキ装置127の作動を検知する。なお、機械ブレーキ作動検知部151は、ブレーキ温度センサ116により取得されるブレーキ温度の上昇率が予め定めた閾値以上になることをもって、機械ブレーキ装置127が作動したことを検知してもよい。
【0050】
制限速度生成部152は、機械ブレーキ熱量算出部153と、制限速度算出部154とを有する。機械ブレーキ熱量算出部153は、機械ブレーキ作動検知部151により機械ブレーキ装置127の作動が検知された場合に、速度センサ114により取得された車体21の走行速度Vに基づいて、機械ブレーキ装置127の蓄積熱量(以下、機械ブレーキ蓄積熱量とも記す)Qを算出する。機械ブレーキ蓄積熱量Qとは、機械ブレーキ装置127の作動により機械ブレーキ装置127に蓄積した熱量である。機械ブレーキ熱量算出部153は、算出した機械ブレーキ蓄積熱量Qと、機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出した時刻である蓄積熱量算出時刻Tとを紐付けて地図・車両情報記憶部157に記憶する。
【0051】
機械ブレーキ熱量算出部153は、地図・車両情報記憶部157に記憶されている累計機械ブレーキ蓄積熱量Uに、算出した機械ブレーキ蓄積熱量Q(より具体的には後述する発熱量Qa)を加算することにより、新たな累計機械ブレーキ蓄積熱量Uとして地図・車両情報記憶部157に記憶する。
【0052】
機械ブレーキ熱量算出部153は、機械ブレーキ装置127の作動により蓄積された機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出した後、機械ブレーキ装置127からの放熱量Qbを算出し、算出した放熱量Qbの分だけ機械ブレーキ蓄積熱量Qを低下させる。所定時間毎に、所定時間内の放熱量Qbを機械ブレーキ蓄積熱量Qから減算することにより、時間の経過にしたがって低下する機械ブレーキ蓄積熱量Qが算出される。
【0053】
制限速度算出部154は、機械ブレーキ熱量算出部153により算出された機械ブレーキ蓄積熱量Qに基づいて、保護用制限速度Vbを算出する。保護用制限速度Vbは、機械ブレーキ蓄積熱量Qが大きいほど小さくなる。機械ブレーキ蓄積熱量Qは、機械ブレーキ装置127の作動が検知されると増加し、その後、徐々に減少する(図9A参照)。このため、保護用制限速度Vbは、機械ブレーキ装置127の作動を検知してからの時間であって機械ブレーキ装置127が作動してその後非作動になった状態も含む時間が経過するほど増加する特性となる。
【0054】
制御目標生成部155は、制限速度算出部154により算出された保護用制限速度Vbと、経路制限速度Vaを含む地図情報と、車両情報とに基づいて、目標速度Vt及び目標操舵角を含む制御目標を生成する。自律走行制御部156は、制御目標生成部155により生成された制御目標と、速度センサ114により取得された走行速度Vと、操舵角センサ115により取得された操舵角とに基づいて制御指令を生成する。自律走行制御部156は、生成した制御指令を走行駆動装置120に出力する。これにより、走行駆動装置120の各部が制御され、車体21が走行経路11に沿って走行する。なお、機械ブレーキ熱量算出部153、制限速度算出部154、及び制御目標生成部155の詳細な機能については後述する。
【0055】
図8を参照して、機械ブレーキ蓄積熱量Qの算出の処理手順について説明する。図8は、機械ブレーキ熱量算出部153により実行される機械ブレーキ蓄積熱量Qの算出処理の流れの一例について示すフローチャートである。図8のフローチャートに示す処理は、例えば、車両制御装置100が起動されることにより開始され、所定の制御周期(演算周期)で繰り返し実行される。
【0056】
図8に示すように、ステップS100において、機械ブレーキ熱量算出部153は、地図・車両情報記憶部157から地図情報及び車両情報を取得し、処理をステップS105に進める。ステップS105において、機械ブレーキ熱量算出部153は、機械ブレーキ作動検知部151によって機械ブレーキ装置127の作動が検知されたか否かを判定する。ステップS105において、機械ブレーキ装置127の作動が検知されたと判定されると、処理がステップS110に進む。ステップS105において、機械ブレーキ装置127の作動が検知されていないと判定されると、処理がステップS130に進む。
【0057】
ステップS110において、機械ブレーキ熱量算出部153は、積載量センサ111によって取得された積載量W、及び速度センサ114によって取得された走行速度Vを取得し、処理をステップS115に進める。
【0058】
ステップS115において、機械ブレーキ熱量算出部153は、機械ブレーキ装置127の作動により発生した熱量(以下、発熱量とも記す)Qaを算出する。機械ブレーキ熱量算出部153は、搬送車両20の運動エネルギーが熱量に変換されることを想定して、以下の式(1)に基づき、発熱量Qaを算出する。
【0059】
【数1】
【0060】
Mは搬送車両20の空荷時の重量(以下、車両重量とも記す)であり、予め地図・車両情報記憶部157に記憶されている。WはステップS110で取得された積載量であり、VはステップS110で取得された走行速度である。
【0061】
ステップS115において発熱量Qaが算出されると、処理がステップS120に進む。ステップS120において、機械ブレーキ熱量算出部153は、発熱量Qaを機械ブレーキ蓄積熱量Qに加算し、その結果(Q+Qa)を新しい機械ブレーキ蓄積熱量Qとして地図・車両情報記憶部157に記憶する。これにより、地図・車両情報記憶部157の車両情報における機械ブレーキ蓄積熱量Qが更新される。
【0062】
また、ステップS120において、機械ブレーキ熱量算出部153は、発熱量Qaを累計機械ブレーキ蓄積熱量Uに加算し、その結果(U+Qa)を新しい累計機械ブレーキ蓄積熱量Uとして地図・車両情報記憶部157に記憶する。これにより、地図・車両情報記憶部157の車両情報における累計機械ブレーキ蓄積熱量Uが更新される。
【0063】
さらに、ステップS120において、機械ブレーキ熱量算出部153は、このときの時刻を地図・車両情報記憶部157の車両情報における蓄積熱量算出時刻Tとして更新する。このように、ステップS120において、機械ブレーキ熱量算出部153は、ステップS115で算出された発熱量Qaに基づいて、地図・車両情報記憶部157の車両情報(T,Q,U)を更新する。
【0064】
ステップS130において、機械ブレーキ熱量算出部153は、機械ブレーキ装置127から放出される熱量(以下、放熱量とも記す)Qbを算出する。機械ブレーキ装置127は、作動により発熱し、その後、時間の経過に応じて所定の割合で放熱する。機械ブレーキ熱量算出部153は、予め実験等により定められた単位時間当たりの放熱量qbを用いて、以下の式(2)により、放熱量Qbを算出する。
【0065】
【数2】
【0066】
qbは単位時間当たりの放熱量であり、予め地図・車両情報記憶部157に記憶されている。tbは、前回、機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出してからの経過時間である。例えば、tbは、一つ前の制御周期における蓄積熱量算出時刻Tからの経過時間であり、本フローチャートでの制御周期に相当する。
【0067】
ステップS130において、放熱量Qbが算出されると、処理がステップS135に進む。ステップS135において、機械ブレーキ熱量算出部153は、放熱量Qbを機械ブレーキ蓄積熱量Qから減算し、その結果(Q-Qb)を新しい機械ブレーキ蓄積熱量Qとして地図・車両情報記憶部157に記憶する。これにより、地図・車両情報記憶部157の車両情報における機械ブレーキ蓄積熱量Qが更新される。
【0068】
さらに、ステップS135において、機械ブレーキ熱量算出部153は、このときの時刻を地図・車両情報記憶部157の車両情報における蓄積熱量算出時刻Tとして更新する。このように、ステップS135において、機械ブレーキ熱量算出部153は、ステップS130で算出された放熱量Qbに基づいて、地図・車両情報記憶部157の車両情報(T,Q)を更新する。
【0069】
ステップS120またはステップS135の更新処理が終了すると、図8のフローチャートに示す処理が終了する。
【0070】
図9A及び図9Bを参照して、機械ブレーキ熱量算出部153により算出される機械ブレーキ蓄積熱量Q及び累計機械ブレーキ蓄積熱量Uの時間変化の一例について説明する。図9Aのグラフでは、横軸が時刻を表し、縦軸が機械ブレーキ蓄積熱量Qを表している。図9Bのグラフでは、横軸が時刻を表し、縦軸が累計機械ブレーキ蓄積熱量Uを表している。
【0071】
図9A及び図9Bに示すように、時刻ta1において、機械ブレーキ装置127が作動すると、機械ブレーキ蓄積熱量Q及び累計機械ブレーキ蓄積熱量Uが発熱量Qa分だけ増加する。その後、放熱により、機械ブレーキ蓄積熱量Qは緩やかに減少する。時刻ta2において、再び、機械ブレーキ装置127が作動すると、機械ブレーキ蓄積熱量Q及び累計機械ブレーキ蓄積熱量Uが発熱量Qa分だけ増加する。その後、放熱により、機械ブレーキ蓄積熱量Qは緩やかに減少する。
【0072】
図10を参照して、制限速度算出部154の制限速度算出の処理手順について説明する。図10は、制限速度算出部154により実行される制限速度算出処理の流れの一例について示すフローチャートである。図10のフローチャートに示す処理は、例えば、車両制御装置100が起動されることにより開始され、所定の制御周期(演算周期)で繰り返し実行される。
【0073】
図10に示すように、ステップS140において、制限速度算出部154は、地図・車両情報記憶部157から地図情報及び車両情報を取得し、処理をステップS143に進める。
【0074】
ステップS143において、制限速度算出部154は、ステップS140で取得した車両情報に含まれる機械ブレーキ蓄積熱量Qが、機械ブレーキ作動限界熱量Qmaxよりも大きいか否かを判定する。機械ブレーキ作動限界熱量Qmaxは、機械ブレーキ装置127が作動中に破損しない限界値に基づいて定められる閾値であり、予め地図・車両情報記憶部157に記憶されている。ステップS143において、機械ブレーキ蓄積熱量Qが機械ブレーキ作動限界熱量Qmax以下であると判定されると、処理がステップS146に進む。ステップS143において、機械ブレーキ蓄積熱量Qが機械ブレーキ作動限界熱量Qmaxよりも大きいと判定されると、処理がステップS170に進む。
【0075】
ステップS146において、制限速度算出部154は、ステップS140で取得した車両情報に含まれる累計機械ブレーキ蓄積熱量Uが、累計機械ブレーキ作動限界熱量Umaxよりも大きいか否かを判定する。累計機械ブレーキ作動限界熱量Umaxは、機械ブレーキ装置127が作動中に破損しない限界値に基づいて定められる閾値であり、予め地図・車両情報記憶部157に記憶されている。ステップS146において、累計機械ブレーキ蓄積熱量Uが累計機械ブレーキ作動限界熱量Umax以下であると判定されると、処理がステップS149に進む。ステップS146において、累計機械ブレーキ蓄積熱量Uが累計機械ブレーキ作動限界熱量Umaxよりも大きいと判定されると、処理がステップS170に進む。
【0076】
ステップS149において、制限速度算出部154は、位置センサ112から車体21の位置(現在位置)P、速度センサ114から走行速度V、及び積載量センサ111から積載量Wを取得し、処理をステップS152に進める。
【0077】
ステップS152において、制限速度算出部154は、車体21の位置(現在位置)Pの経路勾配θと路面抵抗Frを地図・車両情報記憶部157から取得し、以下の式(3)により機械ブレーキ装置127を作動させた場合の制動距離Lを算出する。制動距離Lは、機械ブレーキ装置127を作動させてから停車(V=0)するまでに搬送車両20が走行する距離である。
【0078】
【数3】
【0079】
Rは、機械ブレーキ装置127により発揮できる減速力(制動力)であり、車体21の進行方向とは反対方向の力である。減速力Rは、平地で発揮可能な減速力を事前に計測し、その計測結果に基づき定めることができる。この場合、減速力Rは、一定値であり、予め地図・車両情報記憶部157に記憶される。なお、減速力Rは、ブレーキ温度センサ116により取得される機械ブレーキ温度に基づいて補正してもよい。この場合、地図・車両情報記憶部157に記憶されている減速力の基準値(補正前の減速力)に対して、機械ブレーキ温度に反比例して減少させた値を補正後の減速力Rとして算出する。
【0080】
Gは、経路勾配θによって生じる推力(勾配抵抗)である。なお、Gは、下り坂であれば、進行方向の力となるが、上り坂であれば、進行方向とは反対方向の力となる。推力Gは、搬送車両20の前方において現在位置の経路勾配θが続くと想定し、経路勾配θと車両重量Mと積載量Wと重力加速度gから算出される(G=(M+W)×g×sinθ)。なお、制限速度算出部154は、移動距離lに基づいて地図情報から取得した経路勾配θ(l)を用いて、移動距離lによって変化する推力G(l)を算出してもよい。
【0081】
路面抵抗Frは、鉱山の土質等に基づき、予めノード毎に固定値が設定されている。Mは、車両重量であり、予め地図・車両情報記憶部157に記憶されている。Wは、積載量であり、積載量センサ111によって取得される。
【0082】
ステップS152において機械ブレーキ装置127を作動させた場合の制動距離Lが算出されると、処理がステップS155に進む。ステップS155において、制限速度算出部154は、位置エネルギーの変化量ΔNを算出する。制限速度算出部154は、機械ブレーキ装置127の作動の開始から停車までの制動距離Lと、地図情報の経路勾配θとに基づいて、現在位置から停車予想位置までの標高差hを算出する。標高差hは、搬送車両20の前方において現在位置の経路勾配θが続くと想定し、経路勾配θと制動距離Lから演算される(h=L×sinθ)。なお、制限速度算出部154は、現在位置から停車予想位置までの移動距離lに応じた経路勾配θ(l)を用いて標高差hを演算してもよい。制限速度算出部154は、算出した標高差hと、車両重量Mと、積載量Wと、重力加速度gに基づいて位置エネルギー変化量ΔNを算出する(ΔN=(M+W)×g×h)。
【0083】
ステップS155において位置エネルギーの変化量ΔNが算出されると、処理がステップS158に進む。ステップS158において、制限速度算出部154は、機械ブレーキ装置127が停車まで正常に稼働できる許容可能運動エネルギーEaを算出する。制限速度算出部154は、機械ブレーキ作動限界熱量Qmaxから位置エネルギーの変化量ΔNと機械ブレーキ蓄積熱量Qを減算した第1の値Q1(=Qmax-ΔN-Q)と、累計機械ブレーキ作動限界熱量Umaxから位置エネルギーの変化量ΔNと累計機械ブレーキ蓄積熱量Uを減算した第2の値Q2(=Umax-ΔN-U)とを算出する。制限速度算出部154は、第1の値Q1と第2の値Q2とを比較し、第1の値Q1と第2の値Q2のうち小さい方を許容可能運動エネルギーEaとして算出する(Ea=Min(Q1,Q2))。
【0084】
ステップS158において許容可能運動エネルギーEaが算出されると、処理がステップS161に進む。ステップS161において、制限速度算出部154は、許容可能運動エネルギーEa、車両重量M、及び積載量Wに基づいて、機械ブレーキ装置127が停車まで正常に稼働できる速度を保護用制限速度(停車可能速度)Vbとして算出する。保護用制限速度Vbは、以下の式(4)により算出される。
【0085】
【数4】
【0086】
ステップS161において保護用制限速度Vbが算出されると、処理がステップS164に進む。ステップS164において、制限速度算出部154は、ステップS140で取得した地図情報に含まれる経路制限速度Vaと、ステップS158で算出された保護用制限速度Vbとを比較し、小さい方を制限速度Vcとして設定する。
【0087】
ステップS143またはステップS146において肯定判定されると、処理がステップS170に進む。ステップS170において、制限速度算出部154は、制限速度Vcを0に設定し(Vc=0)、処理をステップS175に進める。
【0088】
ステップS175において、制限速度算出部154は、メンテナンス要求指示を報知装置130に出力する。報知装置130は、メンテナンス要求を報知する。ステップS164またはステップS175の処理が終了すると、図10のフローチャートに示す処理が終了する。
【0089】
報知装置130によりメンテナンス要求が報知されると、メンテナンス作業員が、機械ブレーキ装置127のメンテナンスを行う。機械ブレーキ装置127のメンテナンスでは、制動性能が基準値を満たしているかが調査され、制動性能が基準値を満たしていない場合には修理が行われる。
【0090】
なお、制限速度生成部152は、機械ブレーキ装置127の作動が検知されると、停車予想位置から車体21の前方の走行経路11における所定の範囲内のノード12の制限速度Vbを予め算出する。所定の範囲は、後述する所定の経過時間幅で走行可能な範囲を含む。
【0091】
図11図13を参照して、制御目標生成部155による目標速度Vtの算出処理の内容について説明する。図11を参照して、制御目標生成部155の目標速度の算出処理手順について説明する。図11は、制御目標生成部155により実行される目標速度算出処理の流れの一例について示すフローチャートである。図11のフローチャートに示す処理は、例えば、車両制御装置100が起動されることにより開始され、所定の制御周期(演算周期)で繰り返し実行される。
【0092】
図11に示すように、ステップS180において、制御目標生成部155は、機械ブレーキ作動検知部151によって機械ブレーキ装置127の作動が検知されたか否かを判定する。ステップS180において、機械ブレーキ装置127の作動が検知されていないと判定されると、処理がステップS185に進む。
【0093】
ステップS185において、制御目標生成部155は、制限速度Vcに基づき、目標速度Vtを算出する。制御目標生成部155は、制限速度Vcが上昇する場合には、制限速度Vcの上昇に追随するように目標速度Vtを算出する。また、制御目標生成部155は、制限速度Vcが減少する場合には、実際の走行速度Vが制限速度Vcを超えないように目標速度Vtを算出する。
【0094】
図12は、制限速度Vcと目標速度Vtの時間変化の例について示すタイムチャートである。図12のタイムチャートは、横軸が時刻を表し、縦軸が制限速度Vc及び目標速度Vtを表している。例えば、図12に示すように、制御目標生成部155は、現在の搬送車両20の位置から所定の距離だけ離れた前方の位置(ノード)に設定されている制限速度Vc(=Va)が現在の走行速度V(=Vc1)よりも小さい場合、事前に減速が開始されるように目標速度Vtを算出する。目標速度Vtは、電気ブレーキ装置126が発揮可能な減速度に基づいて算出される。減速度は、単位時間当たりの速度の変化量(傾き)である。
【0095】
制御目標生成部155は、地図情報に含まれる経路勾配θと、速度センサ114により取得された走行速度Vとに基づいて、電気ブレーキ装置126のみを使用した場合の減速度を算出する。
【0096】
図12に示す例では、制限速度VcがVc1からVc2に低下し始める時刻tb2の前の時刻tb1から目標速度Vtが低下し始めている。このように、制御目標生成部155は、算出した減速度に基づいて経路制限速度Vaが減少する位置よりも車体21に近い位置で目標速度Vtを減少させる。これにより、走行速度Vが制限速度Vcを上回ることを防止できる。
【0097】
制限速度Vcは、時刻tb3でVc2に設定される。なお、上記減速度は、Vc2-Vc1/(tb3-tb2)に相当する。その後、時刻tb4で機械ブレーキ装置127の作動条件が成立すると、制限速度Vc及び目標速度Vtが0(ゼロ)に設定され、機械ブレーキ装置127及び電気ブレーキ装置126が作動する。その結果、実際の走行速度V(不図示)が急減し、車体21が停止する(V=0)。なお、機械ブレーキ装置127の作動条件は、例えば、搬送車両20の周囲に衝突する可能性のある障害物が検知されたときに成立する。また、機械ブレーキ装置127の作動条件は、管制サーバ31から搬送車両20に緊急停止信号が送信されたときに成立する。時刻tb5において、管制サーバ31から搬送車両20の走行開始信号が送信されると、搬送車両20が走行を開始する。制限速度Vcの上昇に応じて目標速度Vtが上昇するため、搬送車両20の走行速度Vが徐々に上昇する。
【0098】
図11に示すように、ステップS180において、機械ブレーキ装置127の作動が検知されたと判定されると、処理がステップS190に進む。ステップS190において、制御目標生成部155は、機械ブレーキ装置127の作動が検知されてからの所定の経過時間幅Δtにおいて、予め定められたメンテナンス時間tmの経過後に経路制限速度Vaが目標速度の上限値として設定された場合に走行可能な第1距離Laを算出する。なお、所定の経過時間幅Δtは、機械ブレーキ装置127が作動してその後非作動になった状態も含む経過時間幅である。第1距離Laが算出されると、処理がステップS192に進む。
【0099】
ステップS192において、制御目標生成部155は、機械ブレーキ装置127の作動が検知されてからの上記所定の経過時間幅Δtにおいて、保護用制限速度Vbが目標速度Vtの上限値として設定された場合に走行可能な第2距離Lbを算出する。第2距離Lbが算出されると、処理がステップS194に進む。
【0100】
図13は、メンテナンスの有無による制限速度の差異の例を示す図である。図13に示すように、時刻tc1で機械ブレーキ装置127の作動条件が成立すると、制限速度Vcが0(ゼロ)に設定され、機械ブレーキ装置127及び電気ブレーキ装置126が作動する。その結果、実際の走行速度V(不図示)が急減し、時刻tc2において車体21が停止する(V=0)。
【0101】
制御目標生成部155は、機械ブレーキ装置127の作動を検知してからの所定の経過時間幅Δtにおいて、機械ブレーキ装置127の作動により時刻tc2で車体21が停止してからメンテナンス時間tmの経過後の時刻tc3から経路制限速度Vaで走行した場合の走行距離である第1距離La(図中、ドットのハッチング領域の面積に相当)を算出する。なお、図13では、経路制限速度Vaが0(ゼロ)から所定の傾きで連続的に増加する例について示しているが、経路制限速度Vaは0から不連続的に増加するようにしてもよい。メンテナンス時間tmは、実験等により予め定められ、地図・車両情報記憶部157に記憶されている。また、図13に示す例では、メンテナンス時間tmの始期が停車時刻tc2とされているが、メンテナンス時間tmの始期は機械ブレーキ装置127の作動を検知した時刻tc1としてもよい。
【0102】
制御目標生成部155は、機械ブレーキ装置127の作動を検知してからの所定の経過時間幅Δtにおいて、保護用制限速度Vbで走行した場合の走行距離である第2距離Lb(図中、斜線のハッチング領域の面積に相当)を算出する。なお、搬送車両20は、時刻tc2で停止し、直ちに走行を再開することを想定してもよいし、時刻tc2から所定時間経過後に走行を再開することを想定してもよい。機械ブレーキ蓄積熱量Qは、機械ブレーキ装置127の作動後、時間の経過とともに徐々に低下する。このため、保護用制限速度Vbは、時間の経過とともに徐々に増加する。
【0103】
所定の経過時間幅Δtは、機械ブレーキ装置127の作動を検知した時刻tc1から保護用制限速度Vbが経路制限速度Vaに達する時刻tc4までの時間以上の値とすることが好ましい。なお、所定の経過時間幅(固定値)Δtは、実験等により予め定められ、地図・車両情報記憶部157に記憶されている。
【0104】
所定の経過時間幅Δtは、固定値とする場合に限定されない。例えば、制御目標生成部155は、機械ブレーキ装置127が作動を開始したときの走行速度Vに基づいて所定の経過時間幅Δtを演算するようにしてもよい。この場合、走行速度Vと経過時間幅Δtとを対応付けたデータテーブルが地図・車両情報記憶部157に記憶される。このデータテーブルは、走行速度Vが大きくなるほど経過時間幅Δtが大きくなる特性を定める。
【0105】
図11に示すように、ステップS194において、制御目標生成部155は、ステップS190で算出された第1距離LaがステップS192で算出された第2距離Lb以上であるか否かを判定する。ステップS194において、第1距離Laが第2距離Lb以上であると判定されると、処理がステップS196に進む。ステップS194において、第1距離Laが第2距離Lbよりも小さいと判定されると、処理がステップS185に進む。
【0106】
ステップS196において、制御目標生成部155は、目標速度Vtを0に設定し(Vt=0)、処理をステップS198に進める。ステップS198において、制御目標生成部155は、メンテナンス要求指示を報知装置130に出力する。報知装置130は、メンテナンス要求を報知する。ステップS185またはステップS198の処理が終了すると、図11のフローチャートに示す処理が終了する。
【0107】
機械ブレーキ装置127のメンテナンスが行われた後、走行が再開された場合の所定時刻tc4までに走行可能な距離(第1距離La)が、機械ブレーキ装置127のメンテナンスが行われることなく走行が再開された場合の所定時刻tc4までに走行可能な距離(第2距離Lb)よりも大きい場合には、機械ブレーキ装置127のメンテナンスを行った方が平均速度が高く、生産性が向上する。このため、本実施形態では、車両制御装置100は、第1距離Laが第2距離Lbよりも大きい場合には、車体21の停止状態を維持しつつ、メンテナンス要求指示を報知装置130に出力する。
【0108】
なお、第1距離Laが第2距離Lbよりも小さい場合には、機械ブレーキ装置127のメンテナンスを行わない方が平均速度が高く、生産性が向上する。このため、本実施形態では、車両制御装置100は、第1距離Laが第2距離Lbよりも小さい場合には、保護用制限速度Vb及び経路制限速度Vaのうち小さい方を目標速度Vtの上限値として車体21を走行させる。
【0109】
以上で説明したように、本実施形態に係る車両制御装置100は、機械ブレーキ装置127の使用時の発熱と摩耗により制動性能が低下する場合に、機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出する。車両制御装置100は、搬送車両20の前方の路面抵抗Frと経路勾配θと積載量Wから算出される停車時に増加または減少する位置エネルギーと、機械ブレーキ蓄積熱量Qと、機械ブレーキ作動限界熱量Qmaxとに基づいて、機械ブレーキ装置127が正常に作動する状態で停車可能な運動エネルギー(許容可能運動エネルギー)Eaを算出する。車両制御装置100は、許容可能運動エネルギーEaに基づいて保護用制限速度Vbを算出する。車両制御装置100は、保護用制限速度Vb以下で搬送車両20の稼働を継続することで、機械ブレーキ装置127のメンテナンスによる稼動時間の減少を抑制することができる。さらに、保護用制限速度Vbによる所定時間後の走行距離よりもメンテナンスを実施した場合の経路制限速度Vaによる所定時間後の走行距離が長い場合は、メンテナンスを要求することで、平均速度を改善し、生産性の低下を防止することができる。
【0110】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0111】
(1)搬送車両20は、車体21と、車体21に設けられる車輪22と、車体21の位置を取得する位置センサ112と、車体21の方位を取得する方位センサ113と、車体21の走行速度(車両速度)Vを取得する速度センサ114とを備える。搬送車両20は、車輪22に制動力を付与する機械ブレーキ装置127及び電気ブレーキ装置126を含み、車輪22を駆動する走行駆動装置120を備える。搬送車両20は、車体21の走行経路11の経路形状を表すノード座標、経路勾配θ及び経路制限速度Vaを含む地図情報を記憶する不揮発性メモリ(記憶装置)102を備える。搬送車両20は、車体21の位置と、車体21の方位と、車体21の走行速度Vと、地図情報と、に基づいて目標速度Vtを含む制御目標を生成し、車体21の走行速度Vが目標速度Vtとなるように走行駆動装置120を制御する車両制御装置100を備える。
【0112】
車両制御装置100は、速度センサ114により取得される走行速度Vと、地図情報に含まれる経路勾配θとに基づいて、機械ブレーキ装置127の作動を検知してからの時間であって機械ブレーキ装置127が作動してその後非作動になった状態も含む時間が経過するほど増加する機械ブレーキ装置127の保護用制限速度Vbを算出する。車両制御装置100は、機械ブレーキ装置127の作動を検知してからの経過時間幅であって機械ブレーキ装置127が作動してその後非作動になった状態も含む所定の経過時間幅Δtにおいて、予め定められたメンテナンス時間tmの経過後に経路制限速度Vaが目標速度Vtの上限値として設定された場合に走行可能な第1距離Laを算出する。車両制御装置100は、機械ブレーキ装置127の作動を検知してからの上記所定の経過時間幅Δtにおいて、保護用制限速度Vbが目標速度Vtの上限値として設定された場合に走行可能な第2距離Lbを算出する。車両制御装置100は、第1距離Laが第2距離Lbよりも小さい場合には、保護用制限速度Vb及び経路制限速度Vaのうち小さい方を目標速度Vtの上限値として車体21を走行させる。一方、車両制御装置100は、第1距離Laが第2距離Lbよりも大きい場合には、車体21の停止状態を維持しつつ、メンテナンス要求指示を出力する。
【0113】
この構成では、第1距離Laが第2距離Lbよりも小さい場合には、メンテナンスを行うことなく走行を継続し、メンテナンスによる稼働停止時間(メンテナンス時間tm)が発生することを防止できる。この場合の目標速度Vtの上限値となる保護用制限速度Vbは、機械ブレーキ装置127の作動を検知してからの時間が経過するほど増加する特性である。このような特性とすることにより、機械ブレーキ装置127が作動したばかりの温度が高い状態では走行速度Vが低く抑えられるため、走行中に、機械ブレーキ装置127が再び作動することになったとしても、車体21を正常に停止させることができる。
【0114】
また、第1距離Laが第2距離Lbよりも大きい場合には、車両制御装置100は、メンテナンス要求指示を報知装置130に出力する。これにより、機械ブレーキ装置127に異常が発生する前の段階で、メンテナンスを実施することができる。
【0115】
以上のとおり、本実施形態によれば、機械ブレーキ装置127のメンテナンスの頻度を低減することが可能であって、機械ブレーキ装置127により正常に車体21を停止させることが可能な搬送車両20を提供することができる。
【0116】
(2)搬送車両20は、搬送車両20の積載量を取得する積載量センサ111を備えている。車両制御装置100は、積載量センサ111により取得される積載量Wを加味して、保護用制限速度Vbを算出する(図8図10参照)。この構成によれば、積載量Wの変化に応じて、適切な保護用制限速度Vbを算出することができる。
【0117】
(3)地図情報は、走行経路11の路面抵抗Frを含む。車両制御装置100は、路面抵抗Frを加味して、保護用制限速度Vbを算出する(図10参照)。この構成によれば、路面抵抗Frの変化に応じて、適切な保護用制限速度Vbを算出することができる。
【0118】
(4)搬送車両20は、メンテナンス要求指示に応じて搬送車両20のメンテナンス要求を報知する報知装置130を備える。車両制御装置100は、機械ブレーキ装置127の作動を検知した場合には、機械ブレーキ装置127の作動により機械ブレーキ装置127に蓄積した熱量である機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出する。車両制御装置100は、算出した機械ブレーキ蓄積熱量Qが所定値(機械ブレーキ作動限界熱量)Qmaxを超える場合には、報知装置130にメンテナンス要求指示を出力する(図10のS143でYes,S170,S175)。
【0119】
また、車両制御装置100は、機械ブレーキ装置127の作動を検知した場合には、機械ブレーキ装置127の作動により機械ブレーキ装置127に蓄積した熱量の累計値(発熱量Qaの累計値)である累計機械ブレーキ蓄積熱量Uを算出する。車両制御装置100は、算出した累計機械ブレーキ蓄積熱量Uが所定値(累計機械ブレーキ作動限界熱量)Umaxを超える場合には、報知装置130にメンテナンス要求指示を出力する(図10のS146でYes,S170,S175)。
【0120】
この構成によれば、機械ブレーキ装置127の作動により停車した後、機械ブレーキ装置127が作動限界に近い状態で、走行が開始されることを防止できる。
【0121】
<第2実施形態>
図14図17を参照して、本発明の第2実施形態に係る交通管制システム1Aについて説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。
【0122】
図14は、第2実施形態に係る車両制御装置100Aの機能ブロック図である。図14に示すように、第2実施形態に係る交通管制システム1Aは、2台以上の搬送車両20と、搬送車両20の交通管制を行う管制サーバ31Aと、を含む。
【0123】
第1実施形態では、各ノードの路面抵抗Frが固定値である例について説明した。これに対して、第2実施形態に係る車両制御装置100Aは、地図情報に含まれる路面抵抗Frを実測値に基づいて更新する。例えば、車両制御装置100Aは、走行時の車輪速と走行速度Vの比から路面抵抗Frを推定し、地図情報に含まれる路面抵抗Frを更新する。
【0124】
なお、路面抵抗Frの更新方法は、これに限定されない。例えば、車両制御装置100Aは、機械ブレーキ装置127の作動を検知したときに速度センサ114により取得された走行速度Vと、機械ブレーキ装置127の作動を検知したときに位置センサ112により取得された車体21の位置P(ブレーキ作動位置)と、機械ブレーキ装置127の作動により車体21が停止したときに位置センサ112により取得された車体21の位置(停止位置)と、ブレーキ作動位置から停止位置までの走行経路11の経路勾配θとに基づいて、路面抵抗Frを算出する。そして、車両制御装置100Aは、算出した路面抵抗Frにより地図情報の路面抵抗Frを更新する。なお、車両制御装置100Aは、速度センサ114により取得された走行速度Vが0(ゼロ)になったときに、車体21が停止したと判定する。
【0125】
この構成によれば、地図情報の路面抵抗Frの精度を高めることができる。その結果、保護用制限速度Vbの精度を高めることができる。
【0126】
車両制御装置100Aは、機械ブレーキ装置127の作動を検知した場合には、速度センサ114により取得された走行速度Vに基づいて、機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出する。車両制御装置100Aは、算出した機械ブレーキ蓄積熱量Qと、蓄積熱量算出時刻Tとを管制サーバ31Aに送信する。
【0127】
搬送車両20は、走行中に記録した情報である走行記録(地図情報及び車両情報を含む)を管制サーバ31Aに送信する。管制サーバ31Aは、複数の搬送車両20の走行記録を収集する。管制サーバ31Aは、複数の搬送車両20から取得した路面抵抗Frを集約し、各搬送車両20の地図情報を更新する。これにより、例えば、搬送車両20Aが走行したことのない走行経路11であって、搬送車両20Bが走行したことのある走行経路11のノードの最新の路面抵抗Frを搬送車両20Aが取得することができる。
【0128】
また、管制サーバ31Aは、気象情報を取得し、取得した気象情報に基づいて単位時間当たりの放熱量qbを決定する。管制サーバ31Aは、所定の搬送車両20Aの車両制御装置100Aにより算出された機械ブレーキ蓄積熱量Qと、その機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出した時刻(蓄積熱量算出時刻)Tを取得する。管制サーバ31Aは、蓄積熱量算出時刻Tからの経過時間ΔTを算出し、経過時間ΔTと、単位時間当たりの放熱量qbとに基づいて、機械ブレーキ装置127の蓄積熱量Qを補正した補正後蓄積熱量Q´を算出する。管制サーバ31Aは、補正後蓄積熱量Q´を搬送車両20Aの車両制御装置100Aに送信する。搬送車両20Aの車両制御装置100Aは、補正後蓄積熱量Q´に基づいて、保護用制限速度Vbを算出する。つまり、車両制御装置100Aは、地図・車両情報記憶部157Aに記憶されている車両情報に含まれる機械ブレーキ蓄積熱量Qを補正後蓄積熱量Q´に置き換えて、保護用制限速度Vbを算出する。
【0129】
第2実施形態によれば、車両制御装置100Aは、管制サーバ31Aから取得した路面抵抗Fr及び補正後蓄積熱量Q´を用いて、保護用制限速度Vbをさらに精度よく算出することができる。以下、第2実施形態に係る交通管制システム1Aについて詳しく説明する。
【0130】
管制サーバ31Aは、記憶情報更新装置32Aと、気象情報取得装置34Aと、を備える。記憶情報更新装置32A及び気象情報取得装置34Aのハードウェア構成は、図3に示す車両制御装置100のハードウェア構成と同様である。つまり、記憶情報更新装置32A及び気象情報取得装置34Aは、それぞれ処理装置、不揮発性メモリ(記憶装置)、揮発性メモリ(記憶装置)及び入出力インタフェース、及び、その他の周辺回路を備えたコンピュータで構成される。記憶情報更新装置32A及び気象情報取得装置34Aは、それぞれプログラムの演算、揮発性メモリの作業領域への情報の読み書き、プログラムの一時的な格納を行い、所定の機能を発揮する。なお、記憶情報更新装置32Aと気象情報取得装置34Aは、一つのコンピュータで構成してもよい。
【0131】
図15は、第2実施形態に係る地図・車両情報記憶部157Aに記憶されている地図情報のテーブルの例を示す図である。図15に示すように、地図・車両情報記憶部157Aに記憶されている地図情報には、第1実施形態で説明した情報に加え、路面抵抗更新時刻tが含まれている。
【0132】
図14に示す気象情報取得装置34Aは、天気と気温を含む気象情報を取得し、記憶情報更新装置32Aに出力する。記憶情報更新装置32Aは、地図情報の路面抵抗Fr、車両情報の機械ブレーキ蓄積熱量Q及び蓄積熱量算出時刻Tを更新する。
【0133】
図16を参照して、記憶情報更新装置32Aの処理手順について説明する。図16は、記憶情報更新装置32Aにより実行される記憶情報更新処理の流れの一例について示すフローチャートである。記憶情報更新装置32Aは、所定の制御周期で、図16のフローチャートに示す処理を繰り返し実行する。
【0134】
図16に示すように、ステップS205において、記憶情報更新装置32Aは、気象情報取得装置34Aから気象情報を取得し、処理をステップS210に進める。
【0135】
ステップS210において、記憶情報更新装置32Aは、変数kを1に設定し、処理をステップS215に進める。変数kは、複数の搬送車両20の中から所定の搬送車両20を特定するための番号である。
【0136】
ステップS215において、記憶情報更新装置32Aは、k番目の搬送車両20から無線通信装置35を介して地図・車両情報記憶部157Aから車両情報に含まれる機械ブレーキ蓄積熱量Qと蓄積熱量算出時刻Tを取得し、処理をステップS220に進める。
【0137】
ステップS220において、記憶情報更新装置32Aは、気象情報に基づいて単位時間当たりの放熱量qbを設定し、処理をステップS225に進める。
【0138】
記憶情報更新装置32Aは、例えば、天気の情報(晴天、曇天)と放熱量qbとが対応付けられた天気テーブルを有している。天気テーブルには、晴天時の放熱量qbである晴天時放熱量qb1と、雲天時の放熱量qbである雲天時放熱量qb2とが定められている。記憶情報更新装置32Aは、天気テーブルを参照し、ステップS205で取得した気象情報に含まれる天気に基づいて、放熱量qbを設定する。
【0139】
なお、単位時間当たりの放熱量qbは、気温に対応した値が設定されるようにしてもよい。この場合、記憶情報更新装置32Aは、気温と予め定めた気温閾値とを比較して、その比較結果に応じて、放熱量qbを設定する。
【0140】
図17は、天気に応じた機械ブレーキ蓄積熱量Qの時間変化の一例を示すグラフである。図17に示すように、晴天時または気温が高い場合は、機械ブレーキ装置127と外気との温度差が小さく、機械ブレーキ蓄積熱量Qは減少に時間を要する。このため、晴天時または気温が高い場合は、雲天時または気温が低い場合に比べて小さい値の放熱量qbが設定される。曇天時または気温が低い場合は、機械ブレーキ装置127と外気との温度差が大きく、晴天時または気温が高い場合と比較して機械ブレーキ蓄積熱量Qは早く減少する。このため、雲天時または気温が低い場合は、晴天時または気温が高い場合に比べて大きい値の放熱量qbが設定される。
【0141】
図16に示すように、ステップS225において、記憶情報更新装置32Aは、蓄積熱量算出時刻Tから現在時刻までの経過時間tdを算出し、処理をステップS230に進める。
【0142】
ステップS230において、記憶情報更新装置32Aは、単位時間当たりの放熱量qbと経過時間tdに基づいて、現在時刻の機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出する。記憶情報更新装置32Aは、前回の蓄積熱量算出から現在時刻までの放熱量Qbを算出し(Qb=qb×td)、放熱量Qbを機械ブレーキ蓄積熱量Qから減算することで現在の機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出する。
【0143】
ステップS230において現在の機械ブレーキ蓄積熱量Qが算出されると、処理がステップS235に進む。ステップS235において、記憶情報更新装置32Aは、k番目の搬送車両20に無線通信装置35を介して不揮発性メモリ102の車両情報に含まれる機械ブレーキ蓄積熱量Qを更新し、処理をステップS240に進める。
【0144】
ステップS240において、記憶情報更新装置32Aは、変数kに1を足し、処理をステップS245に進める。
【0145】
ステップS245において、記憶情報更新装置32Aは、変数kが管制対象となっている搬送車両20の台数よりも大きいか否かを判定する。ステップS245において、変数kが搬送車両20の台数以下であると判定されると、処理がステップS215に進む。ステップS245において、変数kが搬送車両20の台数よりも大きいと判定されると、処理がステップS250に進む。
【0146】
ステップS250において、記憶情報更新装置32Aは、全ての搬送車両20の地図情報からノード毎の路面抵抗Frを取得し、各ノードの路面抵抗Frの最新の値を全ての搬送車両20に送信する。各搬送車両20は、地図・車両情報記憶部157Aに記憶された地図情報に含まれる路面抵抗Frを、受信した最新の路面抵抗Frに置き換える。つまり、搬送車両20は、管制サーバ31Aから情報に基づいて、地図情報を更新する。ステップS250において、地図情報の路面抵抗Frの更新処理が終了すると、図16のフローチャートに示す処理が終了する。
【0147】
本実施形態によれば、車両制御装置100Aは、自車両だけでなく、他車両の走行記録から推定された最新の路面抵抗Frを取得することができる。また、車両制御装置100Aは、気象情報が考慮された放熱量qbに基づいて算出された機械ブレーキ蓄積熱量Qを取得することができる。このため、車両制御装置100Aは、より精度よく、保護用制限速度Vbを算出することができる。その結果、より確実に、車体21を正常に停止させることができる。
【0148】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0149】
<変形例1>
第1実施形態では、搬送車両20に積載量センサ111が設けられ、車両制御装置100が積載量Wと走行速度Vに基づいて保護用制限速度Vbを算出する例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。
【0150】
<変形例1-1>
車両制御装置100は、積載量センサ111により取得した積載量Wを用いずに、保護用制限速度Vbを算出してもよい。この場合、車両重量Mは、空荷時の車両重量ではなく、最大積載量を加味した車両重量とすることが好ましい。
【0151】
<変形例1-2>
車両制御装置100は、地図情報に含まれる路面抵抗Frを加味することなく、保護用制限速度Vbを算出してもよい。
【0152】
<変形例2>
機械ブレーキ蓄積熱量Qの演算方法は、上記実施形態で説明した方法に限定されない。
【0153】
<変形例2-1>
機械ブレーキ装置127の発熱量Qaと、発熱による機械ブレーキ装置127の温度変化量(上昇温度)とは比例関係にある。このため、車両制御装置100は、機械ブレーキ装置127の作動を検知した場合には、ブレーキ温度センサ116により取得される機械ブレーキ装置127の温度の変化に基づいて発熱量Qaを算出してもよい。車両制御装置100は、算出した発熱量Qaに基づいて、機械ブレーキ装置127に蓄積した機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出する。
【0154】
このように、本変形例では、車両制御装置100が、機械ブレーキ装置127の温度に基づいて機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出し、機械ブレーキ蓄積熱量Qに基づいて保護用制限速度Vbを算出する。この構成によれば、機械ブレーキ蓄積熱量Qをより精度よく算出することができる。
【0155】
<変形例2-2>
機械ブレーキ熱量算出部153は、機械ブレーキ装置127の作動開始から停車までの位置エネルギーの変化量ΔNを考慮して、以下の式(5)により発熱量Qaを算出してもよい。
【0156】
【数5】
【0157】
位置エネルギーの変化量ΔNは、機械ブレーキ装置127の作動の開始から停車までの制動距離Lと、地図情報の経路勾配θと、積載量Wと、車両重量Mとに基づいて算出される。なお、制動距離Lは、上記実施形態において、式(3)により算出する例について説明したが、走行速度Vの積分値として算出してもよいし、車両位置の変動量として算出してもよい。
【0158】
このように、本変形例に係る車両制御装置100は、機械ブレーキ装置127の作動を検知した場合には、経路勾配θと速度センサ114により取得された走行速度Vに基づいて、機械ブレーキ蓄積熱量Qを算出する。さらに、車両制御装置100は、算出した機械ブレーキ蓄積熱量Qに基づいて、保護用制限速度Vbを算出する。この構成によれば、下り坂などを搬送車両20が走行する場合に、より精度よく保護用制限速度Vbを算出することができる。
【0159】
<変形例2-3>
発熱量Qaは固定値として予め地図・車両情報記憶部157に記憶させておいてもよい。この場合、発熱量Qaは、実験等により、一回の機械ブレーキ装置127の作動で生じる発熱量の測定結果から定められる。
【0160】
<変形例2-4>
また、機械ブレーキ熱量算出部153は、予め実験等により定められた単位時間当たりの発熱量qaを用いて、以下の式(6)により、発熱量Qaを算出してもよい。
【0161】
【数6】
【0162】
qaは単位時間当たりの発熱量であり、予め地図・車両情報記憶部157に記憶されている。teは、機械ブレーキ装置127が作動を開始してから停車するまでの経過時間である。
【0163】
<変形例3>
第1実施形態では、図10のステップS146において、機械ブレーキ装置127の累計機械ブレーキ蓄積熱量Uと累計機械ブレーキ作動限界熱量Umaxとを比較し、その比較結果に基づいて、機械ブレーキ装置127が作動限界(摩耗限界)に達しているか否かを判定する例について説明した。しかしながら、図10のステップS146の処理に代えて、累計機械ブレーキ摩耗量と、累計機械ブレーキ限界摩耗量とを比較し、その比較結果に基づいて、機械ブレーキ装置127が作動限界(摩耗限界)に達しているか否かを判定してもよい。
【0164】
累計機械ブレーキ摩耗量と累計機械ブレーキ蓄積熱量とは一定の関係がある。制限速度算出部154は、累計機械ブレーキ蓄積熱量を累計機械ブレーキ摩耗量に換算する。さらに、制限速度算出部154は、累計機械ブレーキ摩耗量が、累計機械ブレーキ作動限界摩耗量よりも大きいか否かを判定する。累計機械ブレーキ作動限界摩耗量は、機械ブレーキ装置127が作動中に破損しない限界値に基づいて定められる閾値であり、予め地図・車両情報記憶部157に記憶されている。ステップS146において、制限速度算出部154は、累計機械ブレーキ摩耗量が累計機械ブレーキ作動限界摩耗量以下であると判定すると、処理をステップS149に進める。ステップS146において、制限速度算出部154は、累計機械ブレーキ摩耗量が累計機械ブレーキ作動限界摩耗量よりも大きいと判定すると、処理をステップS170に進める。
【0165】
このような変形例によれば、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0166】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0167】
1,1A…交通管制システム、10…搬送路、11…走行経路、12…ノード、20…搬送車両、21…車体、22…車輪、30…管制局、31,31A…管制サーバ、32,32A…記憶情報更新装置、34A…気象情報取得装置、35…無線通信装置、100,100A…車両制御装置、101…処理装置、102…不揮発性メモリ(記憶装置)、揮発性メモリ(記憶装置)、110…センサ装置、111…積載量センサ、112…位置センサ、113…方位センサ、114…速度センサ、115…操舵角センサ、116…ブレーキ温度センサ、120…走行駆動装置、121…エンジン、122…発電機、123…電力制御装置、124L,124R…走行モータ、125…ステアリング装置、126…電気ブレーキ装置、127…機械ブレーキ装置、130…報知装置、131…無線通信装置、151…機械ブレーキ作動検知部、152…制限速度生成部、153…機械ブレーキ熱量算出部、154…制限速度算出部、155…制御目標生成部、156…自律走行制御部、157,157A…地図・車両情報記憶部、Ea…許容可能運動エネルギー、Fr…路面抵抗、g…重力加速度、G…推力、h…標高差、L…制動距離、La…第1距離、Lb…第2距離、M…車両重量、Q…機械ブレーキ蓄積熱量、qa…単位時間当たりの発熱量、Qa…発熱量、qb…単位時間当たりの放熱量、Qb…放熱量、qb1…晴天時放熱量、qb2…雲天時放熱量、Qmax…機械ブレーキ作動限界熱量(所定値)、R…減速力、t…路面抵抗更新時刻、T…蓄積熱量算出時刻、tm…メンテナンス時間、U…累計機械ブレーキ蓄積熱量、Umax…累計機械ブレーキ作動限界熱量(所定値)、V…走行速度(車両速度)、Va…経路制限速度、Vb…保護用制限速度(停車可能速度)、Vc…制限速度、Vt…目標速度、W…積載量、ΔN…位置エネルギーの変化量、Δt…経過時間幅、θ…経路勾配
図1
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