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特開2023-163538鋼殻エレメントを用いた土留め構造及びその構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163538
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】鋼殻エレメントを用いた土留め構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/04 20060101AFI20231102BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
E02D5/04
E02D5/20 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074504
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏典
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049EA02
2D049FB03
2D049FB14
2D049FC01
2D049GB01
2D049GE05
2D049GE07
2D049GF02
(57)【要約】
【課題】地盤変状を抑制し、かつ高剛性で高品質な土留め構造を提供する。
【解決手段】土留め構造1は、地中に対し下向きに、貫入済みの鋼殻エレメント2と連結させながら順次鋼殻エレメント2を貫入することにより、複数の鋼殻エレメント2を縦列的に接続した鋼殻エレメント列3が複数並列された構造を有する。アースアンカー4又は隣接する貫入済みの鋼殻エレメント2で反力を確保した元押しジャッキ5を発進側に設置し、先端の推進機6に、順次鋼殻エレメント2を後続させて貫入する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に対し下向きに、貫入済みの鋼殻エレメントと連結させながら順次鋼殻エレメントを貫入することにより、複数の鋼殻エレメントを縦列的に接続した鋼殻エレメント列が複数並列されてなることを特徴とする鋼殻エレメントを用いた土留め構造。
【請求項2】
鋼殻エレメントの内部に、鋼殻エレメントの貫入方向の一部もしくは全長に亘る応力部材が配されている請求項1記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造。
【請求項3】
隣り合う前記鋼殻エレメント列において、貫入方向に隣り合う鋼殻エレメント同士の継ぎ目が、貫入方向に対して異なる位置に設けられている請求項1記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造。
【請求項4】
前記土留め構造の下端部に、鋼殻エレメントの貫入時に先端を掘進する推進機の少なくともスキンプレートが配されている請求項1記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造。
【請求項5】
上記請求項1~4いずれかに記載の土留め構造の構築方法であって、
前記土留め構造の構築予定領域の近傍にアースアンカーを施工するアースアンカー工と、
前記アースアンカーで反力を確保した元押しジャッキを発進側に設置し、先端の推進機に、順次鋼殻エレメントを後続させて貫入する基準エレメント施工と、
前記アースアンカー又は隣接する貫入済みの鋼殻エレメントで反力を確保した元押しジャッキを発進側に設置し、先端の推進機に、順次鋼殻エレメントを後続させて貫入済みの鋼殻エレメントと連結させながら貫入する後行エレメント施工と、
鋼殻エレメント間の土砂を撤去するエレメント間土砂撤去工と、
鋼殻エレメント内部及び鋼殻エレメント間にコンクリートを充填するコンクリート充填工と、
を含むことを特徴とする鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法。
【請求項6】
前記鋼殻エレメントに、鋼殻エレメント同士を連結する継手部が備えられており、
前記基準エレメント施工の前に、前記継手部の貫入予定領域を先行的に削孔する継手部先行削孔工が設けられている請求項5記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法。
【請求項7】
前記鋼殻エレメントに、鋼殻エレメント同士を連結する継手部が備えられており、
前記エレメント間土砂撤去工の後に、前記継手部内にグラウト材を充填する継手部内グラウト材充填工が設けられている請求項5記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法。
【請求項8】
前記コンクリート充填工の前に、鋼殻エレメントの内部に、鋼殻エレメントの貫入方向の一部もしくは全長に亘る応力部材を建て込む応力部材建込み工が設けられている請求項5記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法。
【請求項9】
前記推進機は、掘進完了後、スキンプレートを前記土留め構造の下端部に残して駆動部を回収する請求項5記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に対し下向きに、貫入済みの鋼殻エレメントと連結させながら順次鋼殻エレメントを貫入して形成した鋼殻エレメントを用いた土留め構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、開削トンネルや立坑、建物の地下部を構築するための土留め(山留め)の一つとして、地中連続壁工法が知られている。大規模な開削を行う場合の前記地中連続壁工法は、ベントナイト等の安定液を用いて溝壁の安定を図りながら溝状に掘削(トレンチ掘削)を行い、掘削完了後に溝内に鉄筋籠やH形鋼等の芯材を建て込み、安定液と置換しながらコンクリートを打設して地中に連続した鉄筋コンクリート壁(RC地中連続壁)を構築するという手順で行われる(例えば、下記特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-303553号公報
【特許文献2】特開2003-155742号公報
【特許文献3】特開2015-71904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の地中連続壁工法は、先行してトレンチ掘削を行った後、この掘削溝にコンクリートを充填するまでの間、この掘削溝の溝壁が掘削状態で放置されるため、軟弱地盤や均等係数が小さい地盤、礫混じり地盤など、溝壁の安定を保つことが難しい地盤では、溝壁面の崩壊などの地盤変状が生じる危険性がある。
【0005】
また、上述の地中連続壁工法では、溝内に鉄筋籠や芯材を建て込む際の抵抗による高止まりや、隣接エレメントとの接合部からの漏水が発生する場合があり、必ずしも充分な品質が確保できない課題があった。
【0006】
更に、上述の地中連続壁工法では、砂礫地盤などの透水性が良い地盤では安定液が逸液しやすく、安定液の水位を維持するのが難しいため、安定液の水位低下によって水圧が減少し、溝壁が崩壊しやすいという課題があった。
【0007】
地下鉄の路線や駅などの重要構造物に近接して地下構造物を構築する場合、上述の地中連続壁より高品質の土留め構造が望まれていた。
【0008】
ところで、出願人は、上記特許文献3に、貫入済みの鋼殻エレメントと連結させながら順次鋼殻エレメントを貫入することにより地下構造物を構築する際に使用する鋼殻エレメントの継手構造を提案した。
【0009】
上記特許文献3では、道路路線や鉄道路線などの路線下の地盤に非開削によって、複数の鋼殻エレメントを断面視で矩形状や円形状、異形状などに閉合させた地下構造物を構築し、内部の土砂を掘削することによりアンダーパストンネルを構築する角形鋼管推進工法に使用される鋼殻エレメントに好適な継手構造について記載されている。本発明は、この技術を応用して土留め構造を構築するものである。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、地盤変状を抑制し、かつ高剛性で高品質な土留め構造及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地中に対し下向きに、貫入済みの鋼殻エレメントと連結させながら順次鋼殻エレメントを貫入することにより、複数の鋼殻エレメントを縦列的に接続した鋼殻エレメント列が複数並列されてなることを特徴とする鋼殻エレメントを用いた土留め構造が提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明では、複数の鋼殻エレメントを地中に貫入して土留め構造を構築しているため、地中に貫入する際、先端の推進機に後続させて鋼殻エレメントを貫入すれば、従来の地中連続壁工法のように掘削状態で溝壁を放置することがなく、地盤変状が抑制でき、溝壁の崩壊が生じなくなる。また、貫入された鋼殻エレメントにコンクリートを充填して一体化することによって、高剛性で高品質な土留め構造が得られるようになる。
【0013】
請求項2に係る本発明として、鋼殻エレメントの内部に、鋼殻エレメントの貫入方向の一部もしくは全長に亘る応力部材が配されている請求項1記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造が提供される。
【0014】
上記請求項2記載の発明では、土留め構造の更なる高剛性化と品質向上のため、鋼殻エレメントの内部に、鋼殻エレメントの貫入方向の一部もしくは全長に亘る応力部材を配置している。
【0015】
請求項3に係る本発明として、隣り合う前記鋼殻エレメント列において、貫入方向に隣り合う鋼殻エレメント同士の継ぎ目が、貫入方向に対して異なる位置に設けられている請求項1記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造が提供される。
【0016】
上記請求項3記載の発明では、土留め構造の更なる高剛性化と品質向上のため、隣り合う前記鋼殻エレメント列において、鋼殻エレメントの継ぎ目を、貫入方向に対して異なる位置に設けている。
【0017】
請求項4に係る本発明として、前記土留め構造の下端部に、鋼殻エレメントの貫入時に先端を掘進する推進機の少なくともスキンプレートが配されている請求項1記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造が提供される。
【0018】
上記請求項4記載の発明では、先端の推進機に後続して鋼殻エレメントを貫入することにより、土留め構造の下端部に推進機の少なくともスキンプレートを配している。先端の推進機に後続して鋼殻エレメントを貫入し終えたならば、先端の推進機はスキンプレートを残して内部の駆動部が回収され、回収された駆動部がその後の掘削における掘進機に再利用される。
【0019】
請求項5に係る本発明として、上記請求項1~4いずれかに記載の土留め構造の構築方法であって、
前記土留め構造の構築予定領域の近傍にアースアンカーを施工するアースアンカー工と、
前記アースアンカーで反力を確保した元押しジャッキを発進側に設置し、先端の推進機に、順次鋼殻エレメントを後続させて貫入する基準エレメント施工と、
前記アースアンカー又は隣接する貫入済みの鋼殻エレメントで反力を確保した元押しジャッキを発進側に設置し、先端の推進機に、順次鋼殻エレメントを後続させて貫入済みの鋼殻エレメントと連結させながら貫入する後行エレメント施工と、
鋼殻エレメント間の土砂を撤去するエレメント間土砂撤去工と、
鋼殻エレメント内部及び鋼殻エレメント間にコンクリートを充填するコンクリート充填工と、
を含むことを特徴とする鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法が提供される。
【0020】
上記請求項5記載の発明では、先端の推進機に後続して鋼殻エレメントを貫入しているため、従来の地中連続壁工法のように掘削状態で溝壁を放置することがなく、地盤変状が抑制でき、溝壁の崩壊が生じなくなる。また、貫入された鋼殻エレメント内部及び鋼殻エレメント間にコンクリートを充填しているため、高剛性で高品質な土留め構造が得られるようになる。
【0021】
請求項6に係る本発明として、前記鋼殻エレメントに、鋼殻エレメント同士を連結する継手部が備えられており、
前記基準エレメント施工の前に、前記継手部の貫入予定領域を先行的に削孔する継手部先行削孔工が設けられている請求項5記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法が提供される。
【0022】
上記請求項6記載の発明では、鋼殻エレメントを貫入する前に、前記継手部の貫入予定領域を先行的に削孔することにより、前記継手部の貫入予定領域の土砂を緩めて、鋼殻エレメント貫入時における継手部の貫入抵抗を抑制している。
【0023】
請求項7に係る本発明として、前記鋼殻エレメントに、鋼殻エレメント同士を連結する継手部が備えられており、
前記エレメント間土砂撤去工の後に、前記継手部内にグラウト材を充填する継手部内グラウト材充填工が設けられている請求項5記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法が提供される。
【0024】
上記請求項7記載の発明では、前記継手部内にグラウト材を充填することにより、継手部の強度及び止水性を確保している。
【0025】
請求項8に係る本発明として、前記コンクリート充填工の前に、鋼殻エレメントの内部に、鋼殻エレメントの貫入方向の一部もしくは全長に亘る応力部材を建て込む応力部材建込み工が設けられている請求項5記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法が提供される。
【0026】
上記請求項8記載の発明では、鋼殻エレメントの内部に応力部材を建て込んでからコンクリートを充填することにより、更に高剛性で高品質な土留め構造が得られるようになる。
【0027】
請求項9に係る本発明として、前記推進機は、掘進完了後、スキンプレートを前記土留め構造の下端部に残して駆動部を回収する請求項5記載の鋼殻エレメントを用いた土留め構造の構築方法が提供される。
【0028】
上記請求項9記載の発明では、前記推進機の掘進完了後、推進機のスキンプレートを土留め構造の下端部に残して駆動部を回収しているため、回収した駆動部をその後の掘削における推進機に再利用することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上詳説のとおり本発明によれば、地盤変状が抑制でき、かつ高剛性で高品質な土留め構造及びその構築方法が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る土留め構造1の平面図である。
図2】その正面図である。
図3】推進施工時の断面図である。
図4】鋼殻エレメント2を示す斜視図である。
図5】継手部Jの断面図である。
図6】凹継手23の断面図である。
図7】アースアンカー工を示す平面図である。
図8】アースアンカー工を示す断面図(図7のVIII-VIII線矢視図)である。
図9】継手部先行削孔工を示す平面図である。
図10】継手部先行削孔工を示す断面図(図9のX-X線矢視図)である。
図11】基準エレメント施工を示す平面図である。
図12】基準エレメント施工を示す断面図(図11のXII-XII線矢視図)である。
図13】後行エレメント施工を示す平面図である。
図14】後行エレメント施工を示す断面図(図13のXIV-XIV線矢視図)である。
図15】エレメント間土砂撤去工を示す平面図である。
図16】エレメント間土砂撤去工を示す断面図(図15のXVI-XVI線矢視図)である。
図17】継手部内グラウト材充填工を示す平面図である。
図18】継手部Jの拡大断面図である。
図19】コンクリート充填工を示す平面図である。
図20】コンクリート充填工を示す断面図(図19のXX-XX線矢視図)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0032】
本発明に係る土留め構造1は、図1に示されるように、地下鉄の路線や駅などの地下の重要構造物に近接して地下構造物を構築する際、地盤の変位量を最小限に抑えるため、重要構造物との近接部位に、地表面から地中に向けて所定の深さに亘って、複数の鋼殻エレメント2を相互に連結しながら構築した土留め壁である。
【0033】
前記土留め構造1は、図1図3に示されるように、地中に対し下向きに、貫入済みの鋼殻エレメント2と連結させながら順次鋼殻エレメント2を貫入することにより、複数の鋼殻エレメント2を縦列的に接続した鋼殻エレメント列3が複数並列された構造を成している。すなわち、地表面から地中に対し下向きに、複数の鋼殻エレメント2を縦列的に接続して所定深さに亘る鋼殻エレメント列3を形成し、この鋼殻エレメント列3を相互に連結しながら水平方向に複数並設することにより、壁体が形成されている。
【0034】
前記鋼殻エレメント2を地中に貫入するには、図3に示されるように、土留め構造1の構築予定領域の近傍に地中深くに打ち込んだアースアンカー4で反力を確保した元押しジャッキ5を発進側に設置し、先端の推進機6に鋼殻エレメント2を後続させることにより行う。このように、推進機6で掘削した直後に後続する鋼殻エレメント2によって掘削壁面が覆われるため、掘削壁面が掘削状態で放置されることがなく、地盤変状が抑制でき、溝壁の崩壊が生じなくなる。
【0035】
また、貫入された鋼殻エレメント2の内部及び隣り合う鋼殻エレメント2、2間にはコンクリートが充填されて一体化されるため、高剛性で高品質な土留め構造が得られるようになる。
【0036】
前記鋼殻エレメント2としては、上記特許文献3(特開2015-71904号公報)に記載されたものを好適に使用できる。具体的には、前記鋼殻エレメント2は、図4に示されるように、上板20、下板21及び側板22、22によって構成される矩形断面のエレメントである。この鋼殻エレメント2は、前記上板20又は下板21が重要構造物側又はこれと反対側に向けて配置される。また、前記上板20及び下板21がそれぞれ両側の側板22より外方に延在するとともに、その一方側の先端に凹継手23が設けられ、他方側の先端に凸継手24が設けられている。また、鋼殻エレメント2の内面には、所定の高さを有する周方向に沿う環状のリブ38が、鋼殻エレメント2の軸方向に適宜の間隔で複数設けられている。
【0037】
前記鋼殻エレメント2、2の継手部Jは、図5に示されるように、貫入済みの鋼殻エレメント2に順次鋼殻エレメント2を連結するための継手構造であって、隣り合う一方の鋼殻エレメント2に設けられた前記凹継手23と、他方の鋼殻エレメント2に設けられた前記凸継手24との連結構造からなるものである。
【0038】
前記凹継手23は、図6に示されるように、鋼殻エレメント2の軸方向の全長に亘って延びるとともに、軸方向に沿って延びる溝部25を備え、かつ前記溝部25内において両側から突出する係止部27、27を備えた凹継手本体35と、前記溝部25の軸方向に沿うスリット状の開口を閉塞する止水部26とから構成されている。
【0039】
前記凹継手本体35は、鋳鋼製又は熱押型鋼製の断面略U字状に形成され、部材長手方向に沿って前記溝部25が形成されるとともに、部材長手方向の両端面に前記溝部25の端部開口が形成され、かつ隣接する鋼殻エレメント2に向けた端面に部材長手方向に沿って延びる前記溝部25のスリット状開口が形成さている。鋳物又は熱押型鋼で構成することによって、凹継手23の耐力が向上するとともに、製作コストが削減でき、かつ製作性を向上させることができる。
【0040】
前記止水部26は、少なくとも前記溝部25のスリット状開口の両側からそれぞれ開口中央方向に向けて延びる板バネ状のパッキン28、28によって形成されている。
【0041】
前記パッキン28は、断面視で、凹継手本体35の両側からそれぞれ溝部25のスリット状開口の中央方向に向けて延びるとともに、中間位置で溝部25の内方側に向けて折り曲げられた板厚約0.3mm程度の2枚の屈曲板状体によって構成され、外側端部が凹継手本体35側に固定され、開口側が自由端とされることにより板バネとして作用するものである。前記パッキン28、28の自由端同士は、溝部25の溝幅方向の略中央位置で突き合わされるように設けられている。パッキン28、28が溝部25の内側に向けて折り曲げ加工されることにより、凹継手23と凸継手24とを嵌合させたときに、パッキン28、28が溝部25の内側に向けて拡開するようになる。
【0042】
図6に示されるように、前記パッキン28、28の外側には、更に前記溝部25のスリット状開口の両側からそれぞれ開口中央方向に向けて延びる板バネ状の補助パッキン29、29’が設けられており、これによって、前記止水部26は、内側のパッキン28と外側の補助パッキン29、29’とからなる二重のパッキン30によって構成されている。
【0043】
前記内側のパッキン28及び外側の補助パッキン29、29’の取り付けは、図6に示されるように、凹継手23本体に対し、各パッキン間に配設されたスペーサー31、及び補助パッキン29、29’の外側に配設された押え金具32を介して、ボルト33によって固設されている。前記スペーサー31は、内側が、前記溝部25のスリット状開口側の側壁面より内方に突出して設けられ、好ましくは中間で折り曲げ加工された前記パッキン28の屈曲位置まで延在している。
【0044】
前記補助パッキン29、29’は、断面視で、凹継手本体35の両側からそれぞれ溝部25のスリット状開口の中央方向に向けてほぼ直線状に延びる板厚約0.3mm程度の2枚の板状体によって構成され、外側端部が凹継手本体35側に固定され、開口側が自由端とされることにより板バネとして作用するものである。前記補助パッキン29、29’同士は、溝部25のスリット状開口の中央部で重なり代を有するように設けられている。前記補助パッキン29、29’のうち、前記重なり代部分で外側に配置される一方の補助パッキン29の自由端は、前記重なり代部分で内側に配置される他方の補助パッキン29’より外側に長く延在しており、溝部25を介して対向する側壁に固定された前記スペーサー31の先端部に支持され、外側からの耐圧向上が図られている。
【0045】
一方、前記重なり代部分で内側に配置された他方の補助パッキン29’は、一方の補助パッキン29より短く形成され、好ましくは溝幅の中央部を若干越えた位置まで延在しており、凸継手24を嵌挿させたときに、外側の補助パッキン29と干渉して、拡開不能となるのを回避している。
【0046】
図6に示されるように、前記パッキン28、28及び補助パッキン29、29’からなる二重のパッキン30の間には、止水シール34を充填することが望ましい。前記止水シール34としては、高水圧に対する耐久性が高い油脂系の止水シールを用いるのが好ましく、特に、シールド機のワイヤーブラシ間に地下水や裏込材などが浸入するのを防ぐのに用いられるテールシーラー(登録商標、松村石油化成株式会社製)が好適である。前記止水シール34は、凹継手23と凸継手24を嵌合させる際には後述する凸継手24の突条部36が嵌挿する際の滑剤として機能し、嵌合完了後には止水材として機能する。
【0047】
図5に示されるように、前記凹継手23には、凸継手24との嵌合後、溝部25の口開きを防止するため、溝部25を跨いで両側壁を連結する口開き防止用ボルト38が設けられている。
【0048】
一方、前記凸継手24は、図5に示されるように、鋼殻エレメント2の側板22より側方に延在する平板状の突条部36を備えるとともに、この突条部36の先端に、突条部36の板厚方向の両側に突出する突起部37を備えている。
【0049】
図5に示されるように、凹継手23と凸継手24の嵌合時は、前記凸継手24の突条部36が、前記溝部25の上方側の端部開口から挿入されるとともに、前記パッキン28、28及び補助パッキン29、29’を夫々拡開させながら前記両側のパッキン30の間に嵌挿され、かつ前記突起部37が、溝部25の係止部27より奥側に挿入される。前記突状部36が嵌挿された状態では、図5に示されるように、両側のパッキン28、28及び補助パッキン29、29’がそれぞれ拡開しながらバネ作用により各パッキンの自由端部が突条部36に圧接されている。従来のように、両側壁に突設された止水ゴムの先端が接することにより止水する構造とは異なり、拡開した板バネ状のパッキン28、28及び補助パッキン29、29’の自由端部が圧接されることにより止水しているため、突条部36(凸継手24)の施工誤差の吸収が大きくなり、より確実に止水性が確保できるようになる。
【0050】
前記凹継手23と凸継手24の嵌合後、前記凹継手23の溝部25内であって、前記凸継手24との隙間に、グラウト材15が充填されることにより、前記凹継手23と凸継手24とが一体化され、止水性が確保される。前記グラウト材15としては、コンクリートやモルタルなどが使用され、流動性が良く、無収縮性を有するものが好適である。これによって、隣り合う鋼殻エレメント2、2間で力の伝達が可能となる。
【0051】
前記鋼殻エレメント2のうち、土留め構造1の中間部に配置される鋼殻エレメント2は、図4に示されるように、一方の側方に凹継手23が備えられるとともに、他方の側方に凸継手24が備えられているが、土留め構造1の両端に配置される鋼殻エレメント2は、一方の側方にのみ凹継手23又は凸継手24が備えられ、他方の側方は側板22より外側に突出するものがないフラットな平面状に形成されている。
【0052】
前記土留め構造1を構築する際、図1に示されるように、前記鋼殻エレメント2の内部に、鋼殻エレメント2の貫入方向の全長に亘る応力部材7を配置してもよい。前記応力部材7は、H形鋼などの形鋼材が用いられ、土留め構造1の深さ方向の一部もしくはほぼ全長に亘って延びている。前記応力部材7の配置は、土留め構造1の応力を負担する位置であるのが好ましく、図示例では前記鋼殻エレメント2の上板20、下板21及び側板22、22で囲われた領域内の前記上板20、下板21に沿って(土留め構造1の一方面側及び他方面側に沿って)間隔を空けて複数配置されている。この応力部材7は、鋼殻エレメント2にコンクリートを流し込む直前に建て込むのが好ましい。
【0053】
前記土留め構造1では、図2に示されるように、隣り合う鋼殻エレメント列3、3において、貫入方向(鋼殻エレメント2の軸方向)に隣り合う鋼殻エレメント2、2同士の継ぎ目8が、貫入方向に対して異なる位置に設けられるようにするのが好ましい。すなわち、貫入方向の鋼殻エレメント2同士の継ぎ目8が、隣り合う鋼殻エレメント列3、3同士で貫入方向と直交する方向(土留め構造1が延びる方向)に一致しないように、ずらして配置されている。これによって、任意の鋼殻エレメント列3の継ぎ目8が、該継ぎ目8に跨がるその両隣の鋼殻エレメント列3の鋼殻エレメント2によって補強されるため、土留め構造1の更なる高剛性化及び品質向上が図られる。
【0054】
図2に示されるように、前記土留め構造1の下端部には、鋼殻エレメント2の貫入時に先端を掘進する推進機6の少なくともスキンプレート9が配されている。鋼殻エレメント2の貫入時は、図3に示されるように、先端の推進機6に後続して鋼殻エレメント2が貫入されるが、所望の深さまで鋼殻エレメント2の貫入が完了した後は、図2に示されるように、推進機6のうち、外側のスキンプレート9だけ残して、内部の駆動部が回収され、その後コンクリートが充填される。これによって、回収した駆動部を次回以降の推進機6に再利用することができ、経済的である。また、駆動部の回収が困難なときは、内部の駆動部も含めて土留め構造1の下端部に残しておき、コンクリートを充填してもよい。
【0055】
次に、前記土留め構造1の構築方法について、手順に従い説明する。
【0056】
(アースアンカー工)
先ずはじめに、図7及び図8に示されるように、土留め構造の構築予定領域の近傍にアースアンカー4を施工する。前記アースアンカー4は、図示例では、各鋼殻エレメント列3に対して、土留め構造1の一方面及び他方面から離隔する位置にそれぞれ2箇所ずつの計4箇所設けられている。施工深度は、鋼殻エレメント2の大きさや土留め構造1の深さ、地盤の性状などによって適宜決定することができ、概ね10~50mである。アースアンカー4の施工方法は、通常のアースアンカー工法又はグラウンドアンカー工法を用いることができ、永久に残置されるものでも、施工後に撤去されるものでもよい。
【0057】
前記アースアンカー4は、最初に貫入する鋼殻エレメント列3(基準エレメント)の近傍にのみ設置し、それ以外の部位には設置しなくてもよい。最初に貫入する鋼殻エレメント列3(基準エレメント)の反力はアースアンカー4でとる必要があるが、次回以降に貫入する鋼殻エレメント列3(後行エレメント)の反力は、隣接する貫入済みの鋼殻エレメントで確保することができるため、この場合には、後行エレメントの近傍に施工するアースアンカーを不要とすることができる。
【0058】
(継手部先行削孔工)
次に、図9及び図10に示されるように、隣接する鋼殻エレメント2、2を連結する継手部Jの貫入予定領域10を先行的に削孔する。この領域10を削孔するには、図10に示されるように、SMW工法に用いられる多軸混練オーガー機11などを用いるのが好ましい。この継手部先行削孔工では、多軸混練オーガー機11によって継手部Jを中心とする直径約500~600mmの領域10の地盤を鋼殻エレメント2の貫入方向の全長に亘って削孔することで、この領域10の原地盤をほぐして緩めることを目的としており、原位置土を完全に除去するものではないため、孔壁の変位のおそれは極めて少ない。
【0059】
(基準エレメント施工)
図11及び図12に示されるように、土留め構造1の一方面及び他方面の上端部にそれぞれ、土留め構造1が延びる方向(鋼殻エレメント2の貫入方向と直交する水平方向)に沿って延びる断面略逆L字形のガイドウォール12を施工するガイドウォール工を行った上で、アースアンカー4で反力を確保した元押しジャッキ5を発進側に設置し、先端の推進機6(図3参照。)に、順次鋼殻エレメント2を後続させて地中に貫入する基準エレメント施工を行う。
【0060】
基準エレメント施工に先立って、前記ガイドウォール工においてガイドウォール12を施工しているため、前記ガイドウォール12が鋼殻エレメント2を貫入する際のガイドとして機能し、鋼殻エレメント2の施工精度が向上できる。前記ガイドウォール12は、プレキャストコンクリートなどによって形成することができる。
【0061】
前記元押しジャッキ5による鋼殻エレメント2の貫入方法について更に詳しく説明すると、図12に示されるように、貫入の際は、鋼殻エレメント2を跨いで跨設された2本の反力桁13の両端部がそれぞれアースアンカー4に固定されるとともに、各反力桁13の下面に2つずつ、合計4つの元押しジャッキ5が前記反力桁13を反力として下方向に伸長可能に設置されており、この元押しジャッキ5の下端に鋼殻エレメント2の前記上板20、下板21及び側板22の上端縁に当接する四角環状の押し輪14が備えられた仮設の貫入装置が使用される。前記4つの元押しジャッキ5を均等に伸長させることにより、前記押し輪14を介して鋼殻エレメント2に貫入方向の圧力が伝達され、先端の推進機6の掘進及び鋼殻エレメント2の貫入が行われる。
【0062】
基準エレメントの施工完了後、先端の推進機6は、スキンプレート9を残して内部の駆動部を回収する。
【0063】
(後行エレメント施工)
基準エレメントの施工が完了したら、図13及び図14に示されるように、アースアンカー4又は隣接する貫入済みの鋼殻エレメント2で反力を確保した元押しジャッキ5を発進側に設置し、先端の推進機6に、順次鋼殻エレメント2を後続させて貫入済みの鋼殻エレメント2と連結させながら貫入する後行エレメント施工を行う。後行エレメント施工で使用する貫入装置は、上記基準エレメント施工で使用した貫入装置をそのまま使用することができる。ただし、隣接する貫入済みの鋼殻エレメント2で反力を確保する場合は、反力桁13を隣接する貫入済みの鋼殻エレメント2に固定して使用する。
【0064】
継手部Jの施工要領について説明すると、好ましくは凹継手23が先行配置されるように、前記基準エレメントとして、凹継手23が備えられたものを使用する。この凹継手23を先行して貫入する際、上述の通り凹継手23には止水部26が備えられているため、溝部25内に土砂などが流入することなく貫入できる。
【0065】
その後、貫入済みの鋼殻エレメント2の凹継手23に、後行する鋼殻エレメント2の凸継手24を嵌合させながら、後行の鋼殻エレメント2を貫入する。後行エレメントの施工完了後、上記基準エレメント施工と同様に、先端の推進機は、スキンプレート9を残して内部の駆動部を回収する。上述の後行エレメント施工を、土留め構造1が延びる長さ分だけ繰り返す。
【0066】
(エレメント間土砂撤去工)
鋼殻エレメント2の貫入が全て完了したら、図15及び図16に示されるように、鋼殻エレメント2、2間であるエレメント間16の土砂を撤去するエレメント間土砂撤去工を行う。前記推進機6が掘削する範囲は、主に鋼殻エレメント2の上板20、下板21及び側板22、22で囲まれた領域であり、エレメント間16、すなわち側板22より外側の隣接する鋼殻エレメント2の側板22までの間の継手部Jが備えられる領域は、前記推進機6が掘削せず土砂が残留している領域である。エレメント間土砂撤去工は、このエレメント間16に残留した土砂を撤去するものである。
【0067】
具体的な撤去方法は、例えば削孔機によって地上からエレメント間16に削孔を施して土砂を緩めた上で、地上からバキュームで吸い取る、又は地上から掘り出すなどの方法を挙げることができる。また、他の方法として、同様に削孔機によってこの領域16の土砂を緩めた上で、鋼殻エレメント2の側板22に予め設けておいた開口を閉塞する閉塞板(図示せず)を取り外し、その開口から土砂を掻き出す方法を用いてもよい。
【0068】
(継手部内グラウト材充填工)
全てのエレメント間16の土砂の撤去が完了したら、図17及び図18に示されるように、前記継手部内にグラウト材15を充填する継手部内グラウト材充填工を行う。この施工手順は、必要に応じて凸継手24が嵌合した凹継手23の溝部25内を高圧洗浄水等によって清掃した後、溝部25内に高強度モルタル等のグラウト材15を充填する。
【0069】
(応力部材建込み工)
図19及び図20に示されるように、必要に応じて、鋼殻エレメント2の内部に、鋼殻エレメント2の貫入方向の全長に亘るH形鋼などからなる応力部材7を建て込む応力部材建込み工を行う。前記応力部材7は、適宜の手段により鋼殻エレメント2に固定するのが好ましい。
【0070】
(コンクリート充填工)
図19及び図20に示されるように、必要に応じて、鋼殻エレメント2内部や側板22の外面を高圧洗浄水等によって清掃するとともに、所要の配管を施工した後、鋼殻エレメント2内部及び鋼殻エレメント2、2間にコンクリートを充填する。ここで、鋼殻エレメント2内部とは、鋼殻エレメント2の上板20、下板21及び側板22、22で囲まれた領域のことであり、鋼殻エレメント2、2間とは、隣り合う鋼殻エレメント列3、3の対向する側板22、22間のことである。コンクリートの充填は、アジテータ車から直接流し込むことができる。
【符号の説明】
【0071】
1…土留め構造、2…鋼殻エレメント、3…鋼殻エレメント列、4…アースアンカー、5…元押しジャッキ、6…推進機、7…応力部材、8…継ぎ目、9…スキンプレート、10…継手部Jの貫入予定領域、11…多軸混練オーガー機、12…ガイドウォール、13…反力桁、14…押し輪、15…グラウト材、20…上板、21…下板、22…側板、23…凹継手、24…凸継手、25…溝部、26…止水部、27…係止部、28…パッキン、29・29’…補助パッキン、30…二重のパッキン、31…スペーサー、32…押え金具、33…ボルト、34…止水シール、35…凹継手本体、36…突状部、37…突起部
図1
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