(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163554
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】核酸合成反応用添加剤
(51)【国際特許分類】
C08F 8/44 20060101AFI20231102BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20231102BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20231102BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20231102BHJP
C07H 21/04 20060101ALI20231102BHJP
C07H 1/00 20060101ALI20231102BHJP
C08F 26/06 20060101ALI20231102BHJP
C08F 20/36 20060101ALI20231102BHJP
C12N 15/00 20060101ALN20231102BHJP
【FI】
C08F8/44
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/48
C12Q1/686 Z
C07H21/04 B
C07H1/00
C08F26/06
C08F20/36
C12N15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074523
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荻原直人
(72)【発明者】
【氏名】金井勇樹
(72)【発明者】
【氏名】田尾文哉
(72)【発明者】
【氏名】馬場航希
【テーマコード(参考)】
4B063
4C057
4J100
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4C057AA30
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4J100AL03Q
4J100AL08P
4J100AL08R
4J100BA08R
4J100BA31P
4J100BA32H
4J100BC73P
4J100CA01
4J100CA04
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4J100CA31
4J100DA71
4J100FA03
4J100FA19
4J100HB34
4J100HD01
4J100HE14
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】
本発明は、核酸合成反応において、核酸増幅効率を向上させることのできる核酸合成反応用添加剤、当該添加剤を含む組成物、キット、及び核酸合成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
アミンオキシド基を有する化合物を含む、核酸合成反応用添加剤。前記アミンオキシド基を有する化合物が、質量平均分子量2,000以上のビニル系ポリマー(A)である、上記の核酸合成反応用添加剤。アミンオキシド基を有する化合物が、一般式1~3からなる群より選ばれる一種以上の構造単位を有する、上記の核酸合成反応用添加剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミンオキシド基を有する化合物を含む、核酸合成反応用添加剤。
【請求項2】
前記アミンオキシド基を有する化合物が、質量平均分子量2,000以上のビニル系ポリマー(A)である、請求項1記載の核酸合成反応用添加剤。
【請求項3】
アミンオキシド基を有する化合物が、下記一般式1~3からなる群より選ばれる一種以上の構造単位を有する、請求項2記載の核酸合成反応用添加剤。
【化1】
【化2】
【化3】
[一般式1~3中、
Xは、2価の結合基、
yは、0又は1、
R
1は、炭素数1~6のアルキレン基、
R
2及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、
R
4は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、
R
5~R
9のうち4つは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R
5~R
9のうち1つは、ビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表し、
*は、ビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表す。]
【請求項4】
前記一般式1~3からなる群より選ばれる一種以上の構造単位の含有量が、ビニル系ポリマー(A)を構成する単量体単位の合計100質量%に対して、30~95質量%である、請求項3記載の核酸合成反応用添加剤。
【請求項5】
ビニル系ポリマー(A)が、炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)に基づく構造単位を含み、前記炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)に基づく構造単位の含有量が、ビニル系ポリマー(A)を構成する単量体単位の合計100質量%に対して、5~70質量%である、請求項2又は3記載の核酸合成反応用添加剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の核酸合成反応用添加剤を含み、前記アミンオキシド基を有する化合物の最終濃度が1μg/mL~200μg/mLである、核酸合成反応液組成物。
【請求項7】
鋳型となる核酸、DNA合成酵素、1個以上のオリゴヌクレオチドプライマー、1種以上のヌクレオチド又はそれらの誘導体、及び、請求項1又は2記載の核酸合成反応用添加剤を含む、核酸合成反応液組成物。
【請求項8】
前記鋳型となる核酸がRNA又はDNAである、請求項7記載の核酸合成反応液組成物。
【請求項9】
前記DNA合成酵素が、DNAポリメラーゼ及び/又は逆転写酵素である、請求項7記載の核酸合成反応液組成物。
【請求項10】
請求項1又は2記載の核酸合成反応用添加剤を用いる、核酸の合成方法。
【請求項11】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含む、請求項10記載の核酸の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ポリメラーゼ貯蔵緩衝液における、又はPolymeraseChainReaction(PCR)などの反応における核酸合成に関する様々な組成物、キット、及び方法において使用するための添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素反応の高い特異性を活かした様々な検査方法や診断方法が開発され、その一部は製品として世の中に普及している。酵素反応の中でもよく知られたものの一つに、ポリメラーゼによる配列特異的な核酸合成反応がある。PCRは(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって、試料中の標的核酸を増幅するに代表される核酸増幅法する方法であり、学術研究の場のみならず、遺伝子検査などに活用されている(例えば特許文献1~3)。
【0003】
検出対象核酸がRNAである場合、たとえば病原性微生物の検出において対象がRNAウイルスであるとき、あるいは遺伝子の発現量をmRNAの定量によって測定するときなどは、逆転写酵素によりRNAをcDNAに変換する反応(逆転写反応)をPCRの前に行うRT-PCRも広く行われている。これはRNAから逆転写反応によって生成されたcDNAに対してPCRを行う方法であり、RNAウイルスの検出やmRNAの解析など、診断用途でも広く利用されている(例えば非特許文献1)。
【0004】
PCRやRT-PCRは、温度サイクルを実施する機器は必要なものの、その高い増幅効率から、数コピーの標的核酸を、可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅することを可能にする。
【0005】
また、等温状態で実施可能な標的核酸の増幅法も開発されており、StrandDisplacementAmplification(SDA)法、RollingCircleAmplification(RCA)法、IsothermalandChimericPrimer-initiatedAmplificationofNucleicAcids(ICAN)法、Helicase-dependentAmplification(HDA)法、Loop-mediatedIsothermalAmplification(LAMP)法などが知られている。
【0006】
特に食品、環境中の微生物検査などにおいては、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用したLAMP法などの等温増幅法による核酸増幅法が普及している。この方法では、標的核酸の末端領域に、配列が自己相補的となるような領域を導入してループ構造を形成させる。伸長反応の起点となる3´末端は、このループ構造形成の際の自己相補的なハイブリダイゼーションよって、またループ構造形成によって生じた1本鎖ループ領域へのプライマーのアニーリングによって提供され、鎖置換型DNAポリメラーゼの働きによって該3´末端が伸長され、その下流のDNA鎖が置換される。この方法はDNAの変性を行わず、等温で増幅できるため、複雑な装置を必要とせず、短時間でターゲットを増幅することができる(例えば特許文献4、非特許文献2及び3)。
【0007】
以上のように、等温状態で実施可能ないくつかの標的核酸増幅法が考案されており、それらはいずれも温度サイクリング装置が不要で、PCR法に比して利点を有している。しかし、これら等温増幅で使用される鎖置換能を有するポリメラーゼは一般的に熱安定性が低く、60℃を超えるような高温での反応は難しい。また、それぞれに一長一短があり、その原理の性質上、PCR用プライマーの設計に比してより大きな制約があり、ある種の核酸配列を標的とした場合には、該配列を好適に増幅するプライマーを設計することが不可能又は困難であるという場合がある。
【0008】
このように様々な条件で標的核酸を増幅する方法が考案されているが、一方で、PCRにおいて使用される核酸ポリメラーゼの熱安定性が高くても、それらは、温度設定や時間設定により、不活性になる傾向にある。さらに、これらのポリメラーゼはまた、補助因子の最適に満たない濃度を伴うか、又は最適に満たないpHレベルを有するか、又は化学もしくは生物学阻害剤の存在を含む、反応混合物環境に導入されることによって、不活性になり得る。
【0009】
標的核酸を増幅する条件下で酵素を安定化するため、PCR反応液組成の改良が様々検討されてきたが、例えば、緩衝液や界面活性剤などの安定化剤を添加することが検討されている。
【0010】
緩衝液には、例えば、トリス(TRIS)、トリシン(TRICINE)、ビスートリシン(BIS-TRICINE)、へペス(HEPES)、モプス(MOPS)、テス(TES)、タプス(TAPS)、ピペス(PIPES)、キャプス(CAPS)などが試され、塩溶液として、ジカルボン酸塩からなる2価のカルボキシルイオンを添加することによりPCRの成功率が向上することが報告されている(特許文献5)。
【0011】
界面活性剤は、酵素の活性型とその液体環境との間の界面を安定化する界面活性化合物である。例えば、Taq核酸ポリメラーゼの活性は、NP-40又はTween(登録商標)20(非特許文献4)などの非イオン性界面活性剤の添加によって安定化された。しかしながら、いくつかの用途では、Tween(登録商標)20安定化核酸ポリメラーゼは、増幅の低効率を有するか、又は非特異的産物の増幅をもたらす。加えて、いくつかの界面活性剤は、高濃度での添加を必要とする。さらに、いくつかの界面活性剤(例えば、NP-40)は、有害特性を有することも知られている。また、プロリン変性した両性イオン型界面活性剤も提案されている(特許文献6)。
【0012】
さらには、核酸増幅効率を向上させる方法として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド、グリセロール、ベタインなども提案されている(特許文献7、8、9)。
【0013】
このように、溶液中の核酸ポリメラーゼの安定性を改善する化合物の必要性が存在するが、それぞれの酵素の向き不向きによることなく反応液組成を最適化することが求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第2093730号公報
【特許文献2】特許第2093731号公報
【特許文献3】特許第2622327号公報
【特許文献4】国際公開WO00/28082号パンフレット
【特許文献5】特開2003-144169号公報
【特許文献6】特許第6742238号公報
【特許文献7】特許4761265号公報
【特許文献8】特許4300321号公報
【特許文献9】特開2014-27934号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】木下朝博,下遠野邦忠:PCR法によるRNAの解析,蛋白質核酸酵素,35,p.2992-3002(1990)
【非特許文献2】NotomiT,OkayamaH,MasubuchiH,YonekawaT,WatanabeK,AminoN,HaseT:Loop-mediatedisothermalamplificationofDNA.NucleicAcidsRes,28,E63,(2000)
【非特許文献3】NagamineK,HaseT,NotomiT:Acceleratedreactionbyloop-mediatedisothermalamplificationusingloopprimers.MolCellProbes,16,p.223-229(2002)
【非特許文献4】Bachmann,etal.Nuc.AcidsRes.18(5):1309(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、核酸合成反応において、核酸増幅効率を向上させることのできる核酸合成反応用添加剤、当該添加剤を含む組成物、キット、及び核酸合成方法を提供することを目的とする。かかる用途は、貯蔵緩衝液、及び核酸合成又は増幅反応においての使用を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、適切な出発材料を化学修飾することによって合成された高分子型双性イオン性界面活性剤化合物が提供される。
【0017】
いくつかの実施形態では、かかる新規化合物は、熱安定性ポリメラーゼと共に組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、かかる組成物は、安定化された熱安定性酵素組成物である。一実施形態では、酵素は、サーマス・アクアティクス(Thermusaquaticus)(Taq)ポリメラーゼから精製された核酸ポリメラーゼである。いくつかの実施形態では、酵素は、組換え手法によって生成された核酸ポリメラーゼである。別の実施形態では、酵素は、該ポリメラーゼを可逆的に阻害することができる抗体(複数可)及び/又はオリゴヌクレチドと組み合わされた核酸ポリメラーゼである。
【0018】
本明細書において提供される新規化合物は、種々の用途で使用され得、かつ例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの核酸増幅反応などに使用される様々な組成物中に含まれ得る。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち、本発明は、アミンオキシド基を有する化合物を含む、核酸合成反応用添加剤に関する。
【0020】
また、本発明は、前記アミンオキシド基を有する化合物が、質量平均分子量2,000以上のビニル系ポリマー(A)である、上記の核酸合成反応用添加剤に関する。
【0021】
また、本発明は、アミンオキシド基を有する化合物が、下記一般式1~3からなる群より選ばれる一種以上の構造単位を有する、請求項1又は2記載の核酸合成反応用添加剤に関する。
【化1】
【化2】
【化3】
[一般式1~3中、
Xは、2価の結合基、
yは、0又は1、
R
1は、炭素数1~6のアルキレン基、
R
2及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、
R
4は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、
R
5~R
9のうち4つは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R
5~R
9のうち1つは、ビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表し、
*は、ビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表す。]
【0022】
また、本発明は、前記一般式1~3からなる群より選ばれる一種以上の構造単位の含有量が、ビニル系ポリマー(A)を構成する単量体単位の合計100質量%に対して、30~95質量%である、上記の核酸合成反応用添加剤に関する。
【0023】
また、本発明は、ビニル系ポリマー(A)が、炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)に基づく構造単位を含み、前記炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)に基づく構造単位の含有量が、ビニル系ポリマー(A)を構成する単量体単位の合計100質量%に対して、5~70質量%である、上記の核酸合成反応用添加剤に関する。
【0024】
また、本発明は、上記の核酸合成反応用添加剤及び水を含み、前記アミンオキシド基を有する化合物の最終濃度が1μg/mL~200μg/mLである、核酸合成反応液組成物に関する。
【0025】
また、本発明は、鋳型となる核酸、DNA合成酵素、1個以上のオリゴヌクレオチドプライマー、1種以上のヌクレオチド又はそれらの誘導体、及び、上記の核酸合成反応用添加剤を含む、核酸合成反応液組成物に関する。
【0026】
また、本発明は、前記鋳型となる核酸がRNA又はDNAである、上記の核酸合成反応液組成物に関する。
【0027】
また、本発明は、前記DNA合成酵素が、DNAポリメラーゼ及び/又は逆転写酵素である、上記の核酸合成反応液組成物に関する。
【0028】
また、本発明は、上記の核酸合成反応用添加剤を用いる、核酸の合成方法に関する。
【0029】
また、本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含む、上記の核酸の合成方法に関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、核酸合成反応において、核酸増幅効率を向上させることのできる核酸合成反応用添加剤、当該添加剤を含む組成物、キット、及び核酸合成方法を提供することが可能になった。本発明の核酸合成反応用添加剤は、ポリメラーゼと共に組成物中に存在させることができる。得られた組成物を用いて、PCRなどの拡散増幅反応を実施した際に、核酸生産量を増大させることが可能である。また、本発明の核酸合成反応用添加剤を使用することにより、核酸産生性を促進することも可能となるため、等温増幅法であるLAMP法やSmartAmp法にも有用である。
【0031】
アミンオキシド基を有し、かつ、質量平均分子量が2,000以上であるビニル系ポリマー(A)を核酸合成反応用添加剤として使用することで、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの拡散増幅反応を実施した際に、核酸生産量を増大させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<核酸合成反応用添加剤>
本発明の核酸合成反応用添加剤は、アミンオキシド基を有する化合物を含む。アミンオキシド基を有する化合物を含むことで、1本鎖核酸テンプレートから新しい相補鎖合成の役割を担うPCRの重要な構成要素であるポリメラーゼの分散性を保ち、活性を増長する効果を発揮する。
【0033】
<アミンオキシド基を有する化合物>
本発明のアミンオキシド基を有する化合物は、アミンオキシド基を有していればよい。アミンオキシド基の例を下記一般式4にて示す。式中、R10、R11、R12は、それぞれ独立に有機基を表す。
【0034】
【0035】
アミンオキシド基を有する化合物は、アミンオキシド基の前駆官能基とでもいうべき3級アミノ基を有する化合物と酸化剤との反応生成物として得ることができる。
【0036】
アミンオキシド基を有する化合物としては、例えば、ビニル系ポリマー、ウレタンポリマー等の高分子化合物の他、トリメチルアミンオキシド、トリブチルアミンオキシド、ジメチルエチルアミンオキシド、ジメチルヘプチルアミンオキシド、ジメチルオクチルアミンオキシド、ジヘプチルメチルアミンオキシド、ラウリルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、オレイルジメチルアミンオキシド、ヤシ油アルキルジメチルアミンオキシドが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、R10、R11、及びR13が全てメチル基であるトリメチルアミンオキシドや、ラウリルジメチルアミンオキシドが好ましい。
【0037】
また、特開2000-219668号公報に記載されているアミドアミンオキシド型界面活性剤も好適に使用することができる。
【0038】
<アミンオキシド基を有し、質量分子量が2000以上であるビニル系ポリマー(A)>
アミンオキシド基を有する化合物は、アミンオキシド基を有し、質量分子量が2000以上であるビニル系ポリマー(A)を含むことが好ましい。
ビニル系ポリマー(A)は、上記のアミンオキシド基を有し、かつ、質量平均分子量が2,000以上であればよく、従来公知のポリマーを用いることができ、2種以上を併用してもよい。
【0039】
アミンオキシド基を有するビニル系ポリマー(A)は、前記一般式4におけるR10、R11、R12のうち、少なくとも1つがポリマーに連結している。ビニル系ポリマー(A)がアミンオキシド基を有することで、優れた核酸増幅効率向上効果を発揮する。
【0040】
ビニル系ポリマー(A)としては、具体的には、下記一般式1~3で表される少なくともいずれかの構造を含むものであることが好ましく、中でも一般式1で表される構造を含むものが特に好ましい。アミンオキシド基が下記式で表されるものであることによって、ポリマーが好適な水溶性を発現することができる。
ビニル系ポリマー(A)は、共重合体であることが好ましく、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
[一般式1~3中、
Xは、2価の結合基、
yは、0又は1、
R1は、炭素数1~6のアルキレン基、
R2及びR3は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、
R4は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、
R5~R9のうち4つは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R5~R9のうち1つは、ビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表し、
*は、ビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表す。]
【0045】
アミンオキシド基を有するビニル系ポリマーは、例えば以下のような方法で得ることができる。
(1)アミンオキシド基を有するモノマーとその他のモノマーとの共重合体として得る方法。
(2)3級アミノ基含有モノマー(a)と、必要に応じてその他のモノマーとを重合しビニル系ポリマーを得た後、前記3級アミノ基と酸化剤との反応生成物として得る方法。
(3)3級アミノ基含有モノマー(a)と酸化剤との反応生成物モノマー(アミンオキシド基含有モノマー)と、その他のモノマーとの共重合体として得る方法。
3級アミノ基に酸化剤(以下、オキシド化剤ともいう)を反応させることで、ポリマー又はモノマーにアミンオキシド基を導入することができる。この反応を以下「オキシド化」ともいう。
【0046】
上記方法の中でも、副反応を生じ難いという点で(2)の方法が好ましい。(2)の方法においては3級アミノ基含有モノマー(a)以外のその他モノマーを重合させることが好ましく、当該その他モノマーは、炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)を含むことが好ましい。
【0047】
<3級アミノ基含有モノマー(a)>
オキシド化前の前駆体としての3級アミノ基含有モノマー(a)のうち、一般式1の構造を形成するためものとしては、例えば、
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピオン酸ビニル、N,N-ジエチルアミノプロピオン酸ビニル、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアリルアミン、p-ジメチルアミノメチルスチレン、p-ジメチルアミノエチルスチレン、p-ジエチルアミノメチルスチレン、p-ジエチルアミノエチルスチレン、N,N-ジメチルビニルアミン、N,N-ジエチルビニルアミン、N,N-ジフェニルビニルアミン、あるいは、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和基含有酸無水物と、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン等との反応生成物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有不飽和化合物とN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン等との反応生成物が挙げられる。
好ましくは、(メタ)アクリレートモノマーであり、より好ましくはN,N-ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート又はN,N-ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリレートである。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を表し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を表すものとする。
【0048】
一般式2の構造を形成するためのものとしては、例えば、
1-ビニルイミダゾール、2-メチル-1-ビニルイミダゾール、4-メチル-1-ビニルイミダゾール、5-メチル-1-ビニルイミダゾール、2-ラウリル-1-ビニルイミダゾール、4-(t-ブチル)-1-ビニルイミダゾールが挙げられる。
【0049】
一般式3の構造を形成するためのものとしては、例えば、
2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-3-ビニルピリジン、2-メチル-4-ビニルピリジン、3-メチル-4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、3-メチル-5-ビニルピリジン、4-メチル-5-ビニルピリジン、2-ラウリル-4-ビニルピリジン、2-ラウリル-5-ビニルピリジン、2-(t-ブチル)-4-ビニルピリジン、2-(t-ブチル)-5-ビニルピリジンが挙げられる。
【0050】
<その他モノマー>
ビニル系ポリマー(A)を得る際に、前記3級アミノ基含有モノマー(a)の他に、1分子中に1つのエチレン性不飽和基を有する、その他モノマーを用いることができる。その他モノマーに基づく構造の導入により、極性やTgが適切に制御され、溶媒溶解性等を制御することができる。
その他モノマーとしては、炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)を用いることが、PCRの重要な構成要素であるポリメラーゼの分散性の観点から好ましい。
【0051】
[炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)]
炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)は、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と炭素数1~18のアルキル基とを有するモノマーが好ましい。ビニル系ポリマー(A)は、炭素数1~18のアルキル基を有することで、極性が制御され、周囲の環境を適切に制御することができる。
【0052】
モノマー(b)としては、特に限定はされないが、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0053】
[(a)、(b)以外のモノマー(c)]
さらに、ビニル系ポリマーを得る際に、前記モノマー(a)、(b)以外のモノマー(c)を用いてもよい。(a)(b)以外のモノマー(c)は、モノマー(a)や(b)と共重合可能であり、モノマー(a)(b)以外の、1分子中に1つのエチレン性不飽和基を有するモノマーであることが好ましい。
【0054】
モノマー(c)としては、特に限定はされないが、
メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアクリルエステル(メタ)アクリレート;
ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族エステル(メタ)アクリレート;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有するモノマー;
マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボン酸基、若しくはその無水物を有するモノマー;
N-ビニル-2-ピロリドンなどの1~3級アミド基を有するモノマー;
(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、トリメチル-3-(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル-3-(1-(メタ)アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、及びトリメチル-3-(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルエチル)アンモニウムクロライドなどの4級アミノ基を有するモノマー;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリエーテル鎖を有するモノマー;
ラクトン変性(メタ)アクリレートなどのポリエステル鎖を有するエチレン性不飽和化合物などの側鎖に高分子構造を有する(メタ)アクリレート系モノマー;
スチレンなどの芳香族ビニルモノマー;
(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル基含有エチレン性不飽和モノマー;
酢酸ビニルなどの脂肪酸ビニル系化合物;
ブチルビニルエーテル、などのビニルエーテル系エチレン性不飽和モノマー;
などが挙げられる。
【0055】
<ビニル系ポリマー(A)の組成>
【0056】
ビニル系ポリマー(A)が、前記一般式1~3からなる群より選ばれる一種以上の構造単位を含む場合、その含有量は、ビニル系ポリマー(A)を構成する単量体単位の合計100質量%に対して、30~95質量%であることが好ましく、40~90質量%であることがより好ましく、50~85質量%であることが更に好ましく、65~80質量%であることが特に好ましい。一般式1~3で示される少なくともいずれかの構造単位の含有量を上記範囲とすることで、特に優れたポリメラーゼの分散性を発揮する。
【0057】
ビニル系ポリマー(A)が、炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)に基づく構造単位を含む場合、その含有量は、ビニル系ポリマー(A)を構成する単量体単位の合計100質量%に対して、5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、15~50質量%であることが更に好ましい。
【0058】
ビニル系ポリマー(A)におけるその他モノマー(c)に基づく構造単位の含有量は、ビニル系ポリマー(A)を構成する単量体単位の合計100質量%に対して、0~65質量%であることが好ましく、0~30質量%であることがより好ましい。
【0059】
<オキシド化>
モノマー(a)に由来する3級アミノ基は、各種酸化剤を使用することでアミンオキシド基化することができる。これによりビニル系ポリマー(A)にアミンオキシド基を導入することができる。オキシド化は、ビニル系ポリマー(A)の重合前、重合後のいずれであってもよく、重合前のオキシド化は、3級アミノ基含有モノマー(a)を含む溶液に、重合後のオキシド化は、3級アミノ基含有モノマー(a)を必須とするモノマーを重合したビニル系ポリマーを含む溶液に、オキシド化剤を加えて20℃~100℃の範囲で0.1~100時間、好ましくは1~50時間反応させることによって、3級アミノ基をオキシド化することができる。
【0060】
オキシド化剤としては、過酸化物又はオゾン等の酸化剤が用いられる。過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ソーダ、過酢酸、メタクロロ過安息香酸、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド等が挙げられ、過酸化水素が好ましく、通常は水溶液の形で用いられる。程度の違いはあるとはいうものの、過酸化物にはラジカル発生剤としての機能もあるので、3級アミノ基含有不飽和モノマー(a)を必須の原料とするビニル系ポリマーの場合には、重合後にオキシド化することが好ましい。
【0061】
一般的にはオキシド化剤の使用量は、オキシド化可能な官能基、即ち、3級アミノ基に対して、0.2~3倍モル当量の割合で使用し、更に0.5~2倍モル当量使用するのがより好ましい。得られたポリマー溶液は、残存した過酸化物を公知の方法で処理した後、使用することもできる。具体的には還元剤添加処理、イオン交換処理、活性炭処理、金属触媒による処理等があげられる。得られたポリマー溶液はそのまま使用することもできるが、必要に応じて再沈殿、溶媒留去等の公知の方法でアミンオキシド基含有ポリマーを単離して使用することも出来る。また、単離したアミンオキシド基含有ポリマーは、必要ならば再沈殿や、溶剤洗浄、膜分離、吸着処理等によってさらに精製できる。
【0062】
本発明におけるビニル系ポリマーとしては、モノマーとして、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有不飽和化合物や2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等のイソシアネート基含有不飽和化合物と、ヒドロキシエチル-N,N-ジメチルアミンオキシド等のアミンオキシド基含有化合物との反応生成物を用いて共重合したものも用いることができる。
【0063】
<質量平均分子量(Mw)>
アミンオキシド基を有する化合物の質量平均分子量は、好ましくは2,000~10,000,000であり、より好ましくは5,000以上であり、さらに好ましくは10,000以上であり、特に好ましくは20,000以上である。より好ましくは、500,000以下であり、特に好ましくは、200,000以下である。分子量が上記範囲であることにより、増粘作用を低下させゲル化等の不具合を防ぐことができる。またピペット操作などの取り扱いが容易になる。
【0064】
(質量平均分子量(Mw)の測定方法)
質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準プルラン換算で計測した値を採用した。測定装置及び測定条件としては下記条件1を用いた。その他の事項については、JISK7252-1~4:2008を参照した。なお、難溶の高分子化合物については下記条件の下、溶解可能な濃度で測定した。また、ビニル系ポリマー(A)の分子量測定が困難な場合は、アミンオキシド前駆体ポリマーの質量平均分子量をビニル系ポリマー(A)の質量平均分子量とすることができる。アミンオキシド前駆体ポリマーの質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算で計測した値を採用し、測定装置及び測定条件としては、下記条件2によることを基本とした。
【0065】
(条件1)
カラム:OHpakSB-G、
OHpakSB-806MHQを3本及び、
OHpakSB-802.5HQを連結したもの。
キャリア:1/15mol/LpH7.0リン酸緩衝液
(りん酸緩衝剤粉末1/15mol/LpH7.0(富士フイルム和光純薬(株)製)をイオン交換水1Lに溶解させたもの)
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.5質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
注入量:0.1mL
【0066】
(条件2)
カラム:TOSOHTSKgelSuperAW4000、
TOSOHTSKgelSuperAW3000及び
TOSOHTSKgelSuperAW2500を連結したもの。
キャリア:N,N-ジメチルホルムアミド(1L)、トリエチルアミン(3.04g)、LiBr(0.87g)の混合液
測定温度:40℃
キャリア流量:0.6mL/min
【0067】
<核酸合成反応液組成物>
本発明の核酸合成反応用添加剤は、例えば、鋳型となる核酸、DNA合成酵素、1個以上のオリゴヌクレオチドプライマー、及び、1種以上のヌクレオチド又はそれらの誘導体(dNTPs)を含む組成物に添加することで、核酸合成反応液組成物(以下、単に反応液組成物ということがある)とすることができる。当該核酸合成反応液組成物には、さらに、反応バッファー、マグネシウムイオン等の金属イオンを、実施する核酸増幅方法により必要に応じて存在させることができる。上記鋳型となる核酸は、RNA又はDNAであることが好ましい。
【0068】
<DNA合成酵素>
上記DNA合成酵素としては、DNAポリメラーゼが好ましく、耐熱性のDNAポリメラーゼ、耐熱性のα型DNAポリメラーゼ、耐熱性のPolI型DNAポリメラーゼ、耐熱性のα型DNAポリメラーゼと耐熱性のPolI型DNAポリメラーゼを混合した混合型酵素を用いることができる。
具体的には、DNAポリメラーゼとして、Taq,EX-Taq,LA-Taq,Expandシリーズ,Plutinumシリーズ,Tbr,Tfl,Tru,Tth,T1i,Tac,Tne,Tma,Tih、Tfi,Pfu,Pfutubo,Pyrobest,Pwo,KOD,Bst,Sac,Sso,Poc,Pab,Mth,Pho,ES4,VENT,DEEPVENT、並びにそれらの突然変異体、変異体及び誘導体から成る群より選択することができる。
【0069】
なお一例として、PCR法を用いた核酸増幅においては、反応液組成物中には、上記DNA合成酵素の他、鋳型核酸、オリゴヌクレオチド、dNTPs、反応バッファーが一般的に必要である。
【0070】
リアルタイムPCRの場合は、核酸増幅を経時的に確認するため、さらにSYBRGreenI(登録商標)やEvaGreen(登録商標)などの蛍光色素や蛍光標識をしたプローブを必要に応じて存在させる。
【0071】
RT-PCRの場合は、さらに、逆転写に必要なものとして逆転写酵素を必要に応じて存在させる。
【0072】
リアルタイムRT-PCRの場合も、さらに、逆転写に必要なものとして逆転写酵素を必要に応じて存在させる。また、核酸増幅を経時的に確認するため、さらにSYBRGreenI(登録商標)やEvaGreen(登録商標)などの蛍光色素や蛍光標識をしたプローブを必要に応じて存在させる。
【0073】
本発明の核酸合成反応用添加剤を含む反応液組成物において、アミンオキシド基を有する化合物は、DNA合成酵素と同一の容器に含まれていてもよいし、別々の容器に保持されていたものを使用するより前に混合してもよい。特にワンステップRT-PCRの場合は、逆転写酵素を存在させる必要があるが、この逆転写酵素についても前記の試薬類と同一の容器に含まれていてもよいし、別々の容器に保持されていたものを使用するより前に混合してもよい。
【0074】
本発明の核酸合成反応用添加剤を含む反応液組成物において、アミンオキシド基を有する化合物の最終濃度は、反応液組成物中に1~200μg/mLであることが好ましく、アミンオキシド基を有する化合物の最終濃度が1μg/mLより多い場合に核酸合成反応を促進することができる。また、DNA合成酵素の作用を阻害しないという観点から、アミンオキシド基を有する化合物の最終濃度は200μg/mL以下であることが好ましい。
【0075】
<核酸の合成方法>
本発明の核酸合成反応用添加剤を用いた、核酸の合成方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含むことが好ましい。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)としては例えば、等温状態で実施可能なSDA法、RCA法、ICAN法、HDA法、LAMP法などの等温増幅法による核酸増幅法の形態であってもよい。
【0076】
本発明の核酸合成反応用添加剤を用いる核酸の合成方法において、核酸増幅のための温度・時間・反応サイクル等の条件は、増幅したい核酸の種類や塩基の配列、鎖長等によって変わるが、適宜設定することができる。
【実施例0077】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例及び比較例における「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表し、molは物質量を表し、mol%は全単量体中の物質量の割合を表す。
【0078】
<核酸合成反応用添加剤の製造>
[製造例1]
(核酸合成反応用添加剤A-1)
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートを100質量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを1質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後6時間加熱を継続した。その後、室温に冷却し反応を停止した。
次に、エタノール150部とオキシド化剤として35%過酸化水素水を32.7部(用いたN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートと等モル量)加え、70℃で16時間反応させることで3級アミノ基のオキシド化を行った。その後、ダイヤフラムポンプで溶剤を除去し、アミンオキシド基を有するビニル系ポリマーを得た。
次に、Nucleaseフリーの水(以下、水という)9g中に、得られたビニル系ポリマーを1g入れて撹拌して溶解させた後、25℃で24時間放置して、水で10質量%に希釈された添加剤A-1を得た。
【0079】
[製造例2~16、比較製造例1~2]
(添加剤A-2~A-17、B-1~2)
表1に示す組成に変更した以外は、添加剤A-1と同様にして、ビニル系ポリマーを得た後、水に溶解させて、水で10質量%に希釈された添加剤A-2~A-17、B-1~2を得た。
【0080】
【0081】
表1中の略称の詳細は以下の通りである。
DMAEMA:N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート
DMAPAA:N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
VI:1-ビニルイミダゾール
VP:2-ビニルピリジン
MMA:メチルメタクリレート
ISTA:イソステアリルアクリレート
PME-1000:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(日油社製、ブレンマーPME-1000)
St:スチレン
AA:アクリル酸
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
【0082】
[比較製造例3]
(核酸合成反応用添加剤B-3)
還流器及び撹拌機を備えた反応容器に、日油製ブレンマ-ALE-200(ノニルフェノキシ-ポリエチレングリコール-モノアクリレート、エチレンオキサイドの平均付加モル数30)100.0重量部、ピロリジン-2-カルボン酸7.2重量部、エタノール160.3重量部を仕込んだ。撹拌しながら昇温した後、75℃で15時間反応させた。得られた生成物について、1H-NMRを測定し、原料のエチレン性不飽和単量体の不飽和結合由来のピークδ値5.79、6.11、6.36の消失を確認し、ピロリジン-2-カルボン酸のアクリルロイル基への付加反応が完了している事を確認した。反応後、生成物をヘキサンで再沈し、減圧乾燥をおこなった。生成物を水に溶解させて、水で10質量%に希釈された添加剤B-3を得た。生成物は化合物(1)で表される両性界面活性剤である。
【0083】
【0084】
[実施例1~33、比較例1~6]
<cDNAサンプルの調製-1>
ヒト肝がん細胞株HepG2細胞を10%FBS-DMEM培地で250,000cells/mLとなるように懸濁した後、96ウェルU底マイクロプレートのウェルに1ウェルあたり200μLになるように播種した。その後、本プレートをCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内にて静置状態で3日間培養した。3日間培養後のHepG2細胞を含む培養液を回収し、遠心分離にすることで細胞を回収した。回収したHepG2細胞をRNeasyMicroKit(QIAGEN製)を用いてトータルRNAを抽出した。抽出した全RNAをReverTraAceqPCRRTMasterMix(東洋紡製)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。
【0085】
<PCR反応-1>
cDNA、目的遺伝子(CYP3A4)のTaqManprobe(ThermoFisher製、Hs00604506_m1)、TaqManFastAdvancedMasterMix(ThermoFisher製)、及び表2に示した添加剤を混合した反応液組成物を用い、以下の温度サイクルでPCRを実施した。なお、水の添加により、添加剤中の化合物が表2に示した最終濃度となるよう調整を行っている。
1)95℃20秒(1サイクル)
2)95℃5秒-60℃1分(50サイクル)
【0086】
<結果>
cDNAの段階希釈試料から作成された検量線から反応効率を算出し、添加剤を含まない反応液組成物でqRT-PCR法を実施した時の値を1とした場合の相対値で判定した。評価結果を表2に示す。
(評価基準)
a:1.05以上:良好
b:1以上1.05未満:使用可能
c:1未満:不良
【0087】
【0088】
表2、3における最終濃度の単位はμg/mLである。
また、表2、3で使用した略称の詳細は以下のとおりである。
LDMAO:ラウリルジメチルアミンオキシド
LAPDMAOラウリン酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド
TMAO:トリメチルアミンオキシド
BSA:牛血清アルブミン
F68:プルロニック(登録商標)F68
PVP:ポリビニルピロリドン
【0089】
[実施例34~53、比較例7~12]
<cDNAサンプルの調製-2>
ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞をMEMα培地へ加え、遠心(500g3分、室温)を行った。上清をアスピレートし、ペレットをタッピングし、MEMα培地を2ml添加し、AGCテクノグラス製のφ100mmのIWAKI接着処理ディッシュに、細胞を播種した。37℃、5%CO2にて、インキュベーターで3日培養した。培養3日目、1mlのトリプシンEDTA溶液を加え、37℃、CO2濃度5%で5分間静置し、残りの細胞を接着処理から剥離し、細胞を回収した。細胞接種の3日後に、TRIzol試薬(InvitrogenCorporation,Carlsbad,CA.USA)で培養物から全RNAを抽出し、製造業者のプロトコルに従ってPrimeScriptTMRTMasterMix(PerfectRealTime)(Takara、Cat#RR036A)でcDNAを合成した。
【0090】
<PCR反応-2>
cDNA、目的遺伝子(CXCR4)の特異的プライマー(ThermoFisher製、Hs00607978_s1)、TBGreenPremixExTaqII(Takara製、RR820A)、及び表3に示した添加剤を混合した反応液組成物を用い、以下の温度サイクルでPCRを実施した。なお、水の添加により、添加剤中の化合物が表3に示した最終濃度となるよう調整を行っている。
1)95℃30秒(1サイクル)
2)95℃5秒-60℃30秒(40サイクル)
3)95℃15秒
4)60℃30秒
5)95℃15秒
【0091】
<結果>
cDNAの段階希釈試料から作成された検量線から反応効率を算出し、添加剤を含まない反応液組成物でqRT-PCR法を実施した時の値を1とした場合の相対値で判定した。評価結果を表3に示す。
(評価基準)
a:1.05以上:良好
b:1以上1.05未満:使用可能
c:1未満:不良
【0092】
【0093】
表2及び表3に示すように、本発明の核酸合成反応用添加剤を用いることで、良好な反応効率を示した。これは本発明の核酸合成反応用添加剤に含まれるアミンオキシド基を有する化合物がPCRの重要な構成要素であるポリメラーゼの分散性を保ち、活性を増長する効果を発揮したためであると考えられる。
【0094】
それに対して、アミンオキシド基を有しない化合物を使用した、表2の比較例1~6及び表3の比較例7~12は、反応効率が不良であった。これは、アミンオキシド基を有する化合物を含んでいないことにより、ポリメラーゼの周囲の環境を適切に制御できなかったためであると考えられる。
【0095】
以上の結果から、本発明の核酸合成反応用添加剤は、核酸合成反応において、核酸増幅効率を向上させる効果を発揮することが示された。
本発明の核酸合成反応用添加剤は、核酸増幅において反応阻害がなく、核酸増幅反応用のプレミックス試薬への混合という用途において、より利便性の高い試薬形態を供給可能である。本発明は、遺伝子発現解析に際して特に有用であり、遺伝子診断、臨床検査といった医療分野、食品や環境の微生物検査等においても利用できる。