(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163563
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】多コート競技場
(51)【国際特許分類】
E04H 3/14 20060101AFI20231102BHJP
A63C 19/02 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
E04H3/14 B
E04H3/14 E
E04H3/14 Z
A63C19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074538
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】517064843
【氏名又は名称】河野 久米彦
(71)【出願人】
【識別番号】502410196
【氏名又は名称】株式会社 横河システム建築
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 久米彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮田 智夫
(72)【発明者】
【氏名】朱 大立
(72)【発明者】
【氏名】村岡 真
(72)【発明者】
【氏名】今井 卓司
(72)【発明者】
【氏名】大関 信彦
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち特許文献1の多目的スポ―ツ施設のように広大な土地を必要とせず、またコート変更作業を行うことなく異種の競技コートに変更することができる競技場を提供することである。
【解決手段】本願発明の多コート競技場は、客席と競技が行われる競技エリアを有する競技場であって、競技エリアに配置される昇降床と、昇降床の上面に敷設可能な客席用レール、客席の一部であるスライド客席を備えたものである。このうち昇降床には、2種類以上の個別競技用コートが配置され、スライド客席は、客席用レール上を移動することができる。選択された1の個別競技用コートまで左側スライド客席と右側スライド客席が客席用レール上を移動することによって、個別競技用コートの周囲に客席の一部が配置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
客席と、競技が行われる競技エリアと、を有する競技場であって、
前記競技エリアに配置され、2種類以上の個別競技用コートが敷設された昇降床と、
前記昇降床の上面に敷設可能な客席用レールと、
前記客席の一部であって、前記客席用レール上を移動可能なスライド客席と、を備え、
2以上の前記個別競技用コートは、前記競技エリアに設定される第1軸方向に並べられ、
前記客席用レールは、前記第1軸方向となるように敷設され、
前記スライド客席は、前記客席用レールの一端側に設けられる左側スライド客席と、該客席用レールの他端側に設けられる右側スライド客席と、を含み、
選択された1の前記個別競技用コートまで前記左側スライド客席と前記右側スライド客席が前記客席用レール上を移動することによって、該個別競技用コートの周囲に前記客席の一部が配置される、
ことを特徴とする多コート競技場。
【請求項2】
1の前記個別競技用コートが配置される固定床と、
前記昇降床を吊上げかつ吊降ろす昇降装置と、をさらに備え、
前記昇降装置によって吊降ろされた前記昇降床は、前記固定床の上面に載置可能であり、
前記昇降装置によって前記昇降床を所定高さまで吊上げると、前記固定床に配置された前記個別競技用コートが使用可能になる、
ことを特徴とする請求項1記載の多コート競技場。
【請求項3】
前記昇降床は、複数の分割床で構成され、
前記昇降装置は、前記分割床ごとに独立して吊上げかつ吊降ろしが可能であり、
前記固定床の上面に載置された前記分割床の前記個別競技用コートの周囲に前記客席の一部を配置したうえで、前記昇降装置によって吊上げられた前記分割床の下方では該固定床に配置された前記個別競技用コートの一部が使用可能になる、
ことを特徴とする請求項2記載の多コート競技場。
【請求項4】
前記固定床の上面の一部には天然芝が敷設され、
前記昇降床の下面側には、支持脚が設けられるとともに、照明手段と散水手段が設置され、
前記昇降床が前記固定床の上面に載置されると、該固定床の上面のうち前記天然芝が敷設されていない部分に前記支持脚が接地するとともに、前記照明手段と前記散水手段が該天然芝から所定の距離をとって配置される、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の多コート競技場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、バスケットボールやバレーボール、フットサルなどを行う競技場に関するものであり、より具体的には、多種の競技を選択的に実施することができる競技場に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
バスケットボールやバレーボール、バドミントンなどは、通常、スポーツアリーナや体育館といった施設(以下、「屋内競技用施設」という。)で行われる。そしてこの屋内競技用施設は、特定の競技のみ(例えば、バスケットボールのみ)を行う専用施設として利用されることは稀であり、多種多様な競技を行うために利用されるのが一般的である。
【0003】
各種競技は、当然ながらそれぞれルールや競技スペースが異なり、また競技用のラインも異なる。例えばバスケットボールでは、センターラインとサイドライン、エンドラインに加え、センターサークルやフリースローライン、3ポイントラインなども設けられる。またバレーボールでは、センターラインとサイドライン、エンドラインのほか、アタックラインが設けられる。同様に、フットサルやバドミントン、ハンドボール、屋内テニスなどもそれぞれ特有のラインが設けられる。
【0004】
このようにそれぞれ競技によってコートに設けられるラインが異なるため、競技種類が変更されるたびに前回競技のラインを除去あるいはカムフラージュし、次回競技用として新たにラインを付していく作業(以下、「コート変更作業」という。)が必要であった。そしてコート変更作業は、床面が損傷するおそれがあるうえ、手間と時間を要することから短期間(例えば、同日)で異種の競技を実施することができないといった問題を抱えていた。そのため、競技種類を変更する際のコート変更作業をより効率的に実施できる技術が切望されていた。そこで、これまでもコート変更作業を省略することができる技術が提案されており、例えば特許文献1では一つの領域内に多種の競技用コートがあらかじめ設けられた多目的スポ―ツ施設について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される多目的スポ―ツ施設は、同じ施設内に陸上競技用トラックや5人制フットボール用のコート、バレーボール用のコート、バスケットボール用のコートなどが配置されており、それぞれのコートにはあらかじめ各競技に応じたラインが付されている。そのためこの多目的スポ―ツ施設では、コート変更作業を行うことなく複数種類の競技を実施することができる。しかしながら、多種の競技用コートを配置するが故に自ずとその占有面積は大きくなり、つまりその多目的スポ―ツ施設が広大となる結果、一部の観客席から目的の競技用コートがはるか遠方に位置することもある。例えば特許文献1が示す
図1の場合、競技場のうち左側の観客席とバスケットボールのコートとの間に5人制フットボール用のコートが配置されており、左側観客席からバスケットボールコートまで相当の距離がある。このように特許文献1に開示される多目的スポ―ツ施設は、観客にとっては著しく観戦し難いという問題を抱えていた。
【0007】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち特許文献1の多目的スポ―ツ施設のように広大な土地を必要とせず、またコート変更作業(ラインの除去新設)を行うことなく異種の競技コートに変更することができる競技場を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、複数種類の個別競技用コートを配置するとともに、それぞれの個別競技用コート付近まで一部の客席が移動する、という点に着目して開発されたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0009】
本願発明の多コート競技場は、客席と競技が行われる競技エリアを有する競技場であって、競技エリアに配置される昇降床と、昇降床の上面に敷設可能な客席用レール、客席の一部であるスライド客席を備えたものである。このうち昇降床には、2種類以上の個別競技用コートが敷設され、スライド客席は、客席用レール上を移動することができる。なお、2以上の個別競技用コートは競技エリアに設定される第1軸方向に並べられ、客席用レールは第1軸方向となるように敷設される。またスライド客席は、客席用レールの一端側に設けられる左側スライド客席と、客席用レールの他端側に設けられる右側スライド客席を含んで構成される。そして、選択された1の個別競技用コートまで左側スライド客席と右側スライド客席が客席用レール上を移動することによって、個別競技用コートの周囲に客席の一部が配置される。
【0010】
本願発明の多コート競技場は、1の個別競技用コートが配置される固定床と、昇降床を吊上げかつ吊降ろす昇降装置をさらに備えたものとすることもできる。なお昇降装置によって吊降ろされた昇降床は、固定床の上面に載置可能である。また昇降装置によって昇降床を所定高さまで吊上げると、固定床に配置された個別競技用コートが使用可能になる。
【0011】
本願発明の多コート競技場は、昇降床が複数の分割床で構成されたものとすることもできる。この場合の昇降装置は、分割床ごとに独立して吊上げかつ吊降ろしが可能である。そして、固定床の上面に載置された分割床の個別競技用コートの周囲に客席の一部を配置したうえで、昇降装置によって吊上げられた分割床の下方では固定床に配置された個別競技用コートの一部が使用可能になる。
【0012】
本願発明の多コート競技場は、固定床の上面の一部に天然芝が敷設されたものとすることもできる。この場合の昇降床の下面側には、支持脚が設けられるとともに、照明手段と散水手段が設置される。なお、昇降床が固定床の上面に載置されると、固定床の上面のうち天然芝が敷設されていない部分に支持脚が接地するとともに、照明手段と散水手段が天然芝から所定の距離をとって配置される。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の多コート競技場には、次のような効果がある。
(1)一つの競技施設で、多種多様な競技を行うことができる。
(2)コート変更作業(ラインの除去新設)を行うことなく異種の競技コートに変更することができることから、短期間で次の競技の準備を整えることができる。
(3)スライド客席が個別競技用コートまで接近することから、特許文献1のように遠く離れた観客席から観戦するような不都合を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願発明の多コート競技場を模式的に示す平面図。
【
図2】左側スライド客席と右側スライド客席が中央の個別競技用コートの周辺まで移動した状態を模式的に示す平面図。
【
図3】左側スライド客席のみが右端の個別競技用コートの周辺まで移動した状態を模式的に示す平面図。
【
図4】本願発明の多コート競技場を構成する固定床を模式的に示す平面図。
【
図5】(a)は昇降床と固定床からなる2層構造の多コート競技場を模式的に示す第2軸方向に見た断面図、(b)は昇降床と固定床からなる2層構造の多コート競技場を模式的に示す第1軸方向に見た鉛直断面図。
【
図6】昇降装置によって昇降床が吊り上げられた多コート競技場を模式的に示す断面図。
【
図7】複数に分割床によって形成された昇降床を模式的に示す平面図。
【
図8】特定の個別競技用コートを含む分割床が固定床上に載置され、他の分割床が吊り上げられ固定床用コートの上方空間が開放された状態を模式的に示す平面図。
【
図9】特定の個別競技用コートを含む分割床が固定床上に載置され、他の分割床が吊り上げられ固定床用コートの上方空間が開放された状態を模式的に示す断面図。
【
図10】昇降床の下面側に設けられた照明手段と散水手段を模式的に示す断面図。
【
図11】全ての分割床が固定床上に載置された状態から、一部の分割床が吊上げられた状態とするまでの手順を断面図で示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明の多コート競技場の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0016】
図1は本願発明の多コート競技場100を模式的に示す平面図である。この図に示すように本願発明の多コート競技場100は、中央に競技エリアが形成されるとともに、競技エリアの周囲に客席110が設置されるものであって、昇降床120と客席用レール130を含んで構成され、さらに後述する固定床や昇降装置などを含んで構成することもできる。以下、本願発明の多コート競技場100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0017】
(昇降床)
昇降床120は、競技エリアを形成するいわば基盤であり、その上面に2以上の種類の個別競技用コート121が敷設されることで競技エリアを形成するものである。例えば
図1では、左からハンドボール用コート、バレーボール用コート、人工芝テニス用コート、フットサル用コート、バスケットボール用コートの順で敷設されており、さらに周囲には陸上用トラックTRを敷設することによって競技エリアを形成している。このように複数の個別競技用コート121は、一方向に並ぶように配置される。便宜上ここでは、個別競技用コート121が並ぶ方向(水平面上の方向)のことを「第1軸方向(図では左右方向)」、この第1軸方向に直交する方向(水平面上の方向)のことを「第2軸方向(図では上下方向)」ということとする。
【0018】
昇降床120の上面には、個別競技用コート121に加え、客席用レール130が敷設される。この客席用レール130は第1軸方向となるように敷設され、例えば
図1では個別競技用コート121を挟むように2条の客席用レール130がそれぞれ第1軸方向となるように敷設されている。ただし客席用レール130は、敷設後にも撤去可能な構成とされ、さらに複数の分割体(分割レール)を連結することで1条の客席用レール130が完成する構造にするとよい。なお昇降床120は、後述するように昇降装置によって昇降する構造とすることもできるし、昇降することなく定位置に固定する構造とすることもできる。なお昇降しない構造とする場合、昇降床120は「競技用コート床120」ということもできる。
【0019】
(客席)
客席110は、昇降床120(つまり、競技エリア)を取り囲むように配置され、スライド客席111と固定客席112を含んで構成される。また、このうちのスライド客席111は、左側スライド客席111Lと右側スライド客席111Rを含んで構成される。例えば
図1では、第1軸方向に離れて向かい合うように左側スライド客席111Lと右側スライド客席111Rが配置され、換言すれば、左側スライド客席111Lが客席用レール130の一端側(図では左側)に配置されるとともに、右側スライド客席111Rが客席用レール130の他端側(図では右側)に配置されている。そして、第2軸方向に離れて向かい合うように(図では上下に)、固定客席112が2個所に配置されている。
【0020】
客席110を構成する固定客席112は、その位置を動くことがなく固定されている。これに対してスライド客席111(つまり、左側スライド客席111Lと右側スライド客席111R)は、客席用レール130上を第1軸方向に移動可能な構造とされる。スライド客席111を移動させるにあたっては、ローラーチェーンやジャッキ、ウィンチといった牽引装置や、あるいはモーターやエンジンといった自走手段など、従来用いられている種々技術を活用することができる。なお便宜上ここでは、
図1に示すようにスライド客席111が固定客席112と一連となる配置のことを「定位置」ということとし、さらにスライド客席111が定位置から離れる方向に移動する(つまり、競技エリアの中央側に移動する)ことを「前進移動」、スライド客席111が定位置に戻る方向に移動することを「後退移動」ということとする。すなわち
図1の例では、左側スライド客席111Lが右方向に移動するのが前進移動であって、左方向に移動するのが後退移動であり、同様に、右側スライド客席111Rが左方向に移動するのが前進移動であって、右方向に移動するのが後退移動である。
【0021】
既述したとおり、複数種類の個別競技用コート121が敷設された昇降床120は、自ずとその占有面積が大きくなり、一部の客席110から目的の個別競技用コート121が遠方に位置することになる。例えば
図1の場合、中央の個別競技用コート121(つまり、人工芝テニス用コート)で競技が行われているときは、左側スライド客席111Lと右側スライド客席111Rからは観戦し難い。そこで
図2に示すように、左側スライド客席111Lをテニス用の個別競技用コート121付近まで前進移動させるとともに、右側スライド客席111Rをテニス用の個別競技用コート121付近まで前進移動させる。これにより、左側スライド客席111Lと右側スライド客席111Rともにテニス用の個別競技用コート121に接近することとなり、その競技(この場合、テニス)の観戦を満喫することができるわけである。もちろん競技が終了すれば、左側スライド客席111Lと右側スライド客席111Rは後退移動させて定位置に戻しておくとよい。
【0022】
図2に示すように左側スライド客席111Lと右側スライド客席111Rの両方を移動させるケースに限らず、どちらか一方のみ移動させて観戦することもできる。例えば
図3では、最も右側に配置された個別競技用コート121(つまり、バスケットボール用コート)で競技が行われるケースであり、左側スライド客席111Lはバスケットボール用の個別競技用コート121付近まで前進移動させているが、右側スライド客席111Rはバスケットボール用の個別競技用コート121に十分接近していることから定位置のまま移動していない。
【0023】
(固定床)
図4は、本願発明の多コート競技場100を構成する固定床140を模式的に示す平面図である。固定床140は、昇降床120と同様、競技エリアを形成するいわば基盤である。ただし、固定床140の上面には、昇降床120に敷設された個別競技用コート121よりも大きな面積を要する競技用のコート(以下、「固定床用コート141」という。)が敷設され、例えば
図4ではサッカー用の固定床用コート141が敷設されている。
【0024】
固定床140を備える多コート競技場100は、
図5に示すように昇降床120が上段であって固定床140が下段となるような2層構造とされる。なお、この場合の昇降床120は、固定床140の上面に載置可能な構造にするとよい。ただし、固定床用コート141に直接的に載置すると、例えば固定床用コート141の天然芝などが損傷するおそれがあるため、固定床用コート141に干渉しないように(接触しないように)載置できる構造にすることが望ましい。
図5(b)の例では、昇降床120の下面であって両端側(図では、第1軸方向における両端)に支持脚122を設けている。この支持脚122は、固定床用コート141(例えば、天然芝)が敷設されていない部分に接地し、これにより固定床用コート141に干渉しないように昇降床120を固定床140上に載置できるわけである。換言すれば、昇降床120を固定床140上に載置したとき、支持脚122によって固定床用コート141と昇降床120の間に所定の空間(以下、「育成空間」という。)が形成される。なお
図5(b)では、支持脚122が第1軸方向(図では紙面奥行方向)に連続する一体型の構成としているが、これに限らず第1軸方向に間隔を設けて複数の支持脚122がいわば点在する構成とすることもできるし、第2軸方向における両端側にも支持脚122を設ける構成とすることもできる。
【0025】
ところで、上段の昇降床120と下段の固定床140からなる2層構造にすると、当然ながら昇降床120を固定床140上に載置したときには固定床用コート141を使用することができない。そこで、本願発明の多コート競技場100が昇降装置を備えることとし、この昇降装置によって昇降床120を昇降し得る構成にするとよい。昇降装置は、昇降床120を吊上げかつ吊降ろす装置であり、昇降床120を昇降させることができれば従来用いられている種々の技術を利用することができる。
【0026】
例えば
図6に示す昇降装置は、天井梁161と複数の吊ロープ162、そしてこの図では示されていない巻上手段(例えば、ウィンチやホイスト式クレーン、ジャッキなど)を含む構成とされている。天井梁161は、天井支持体152によって支持される天井屋根151に設置され、しかも平面視で昇降床120の一部あるいは全体を覆うように配置される。例えば、昇降床120の第1軸方向(あるいは第2軸方向)の長さ以上(あるいは同等)の長さを持つ天井梁161を、昇降床120の第2軸方向(あるいは第1軸方向)における両端側に配置することによって、昇降床120の一部を覆うことができる。あるいは、間隔を設けて第2軸方向(あるいは第1軸方向)に並ぶように複数の天井梁161を平行配置することによって可動床面210全体を覆うこともできるし、天井梁161を面状(盤状)の構造として昇降床120全体を覆うこともできる。
【0027】
また、吊ロープ162の下端は天井支持体152に取り付け可能とされ、天井梁161には巻上手段(ウィンチなど)が設置される。そして、吊ロープ162の下端を天井支持体152に取り付けたうえで、この巻上手段が吊ロープ162を巻き取ることによって昇降床120が上昇し、巻上手段が吊ロープ162を巻き出すことによって昇降床120が下降する。なお
図6では、昇降床120の第1軸方向(図では左右方向)における両端側に吊ロープ162(図では、2本ずつ)を配置する構成としているが、これに限らず第1軸方向全体にわたって間隔を設けつつ複数の吊ロープ162を配置する構成とすることもできるし、第2軸方向に複数の吊ロープ162を配置する構成とすることもできる。ただし、吊ロープ162が昇降床120上の個別競技用コート121に干渉しないよう、昇降床120の両端側に吊ロープ162を配置する構成とすることが望ましい。
【0028】
(分割床)
昇降床120が昇降する構成とする場合、昇降床120は、分割することなく全体を一体として形成することもできるし、
図7に示すように昇降床120を複数に平面分割(図では、5分割)した分割床120Sによって形成することもできる。特に昇降床120の面積が広大でその重量が相当に大きいときは、2以上の昇降床120によって昇降床120を形成するとよい。なお、
図7の例では、個別競技用コート121ごとに昇降床120を分割し、換言すれば、それぞれの分割床120Sの上面に1の個別競技用コート121が敷設されているが、これに限らず分割床120Sの上面に2の個別競技用コート121が敷設するなど、状況に応じて適宜設計することができる。
【0029】
昇降床120を複数に分割床120Sによって形成する場合、昇降装置がそれぞれの分割床120Sを独立して(単独で)昇降することができる仕様にすることが望ましい。例えば、分割床120Sごとに吊ロープ162と巻上手段(ウィンチなど)を配置し、分割床120Sごとに昇降操作が可能な構成とすることができる。これにより、特定の個別競技用コート121を使用しつつ、同時に固定床用コート141の部分的な使用が可能となる。すなわち、特定の個別競技用コート121が敷設された分割床120Sは固定床140上に載置するものの、他の分割床120Sは昇降装置によって吊上げて固定床用コート141の上方空間を開放するわけである。
図8の例では、右から2番目の個別競技用コート121(つまり、人工芝テニス用コート)で競技が行われており、このテニス用の個別競技用コート121を含む分割床120Sが固定床140上に載置されたうえで、スライド客席111がテニス用の個別競技用コート121に接近するまで移動している。一方、他の分割床120S(図では左側の分割床120S)は昇降装置によって吊上げられており、
図9に示すように固定床用コート141の上方には所定の空間(
図9で破線で示す空間)が形成され、サッカーの練習やミニゲームなどを行うことができる。
【0030】
(照明手段と散水手段)
上段の昇降床120と下段の固定床140からなる2層構造にすると、昇降床120を固定床140上に載置したときに固定床用コート141の上方全体が覆われることとなる。そのため、固定床用コート141上面に天然芝が敷設されたケースでは、その天然芝には日光が当たることなく、また雨水を受けることもできない。そこで
図10に示すように、昇降床120の下面側に照明手段171と散水手段172を設けるとよい。既述したとおり、昇降床120を固定床140上に載置したときには育成空間が形成される。このとき、照明手段171と散水手段172は、天然芝から育成にとって好ましい距離をとって配置される。そして、照明手段171が天然芝に人工光を照射するとともに、散水手段172が天然芝に散水し、すなわち昇降床120を固定床140上に載置したときであっても天然芝は育成環境に置かれることとなる。なお、天然芝を全体的に網羅するように複数個所に照明手段171と散水手段172(あるいはどちらか一方)を配置する構成とすることもできるし、照明手段171と散水手段172(あるいはどちらか一方)が遠隔操作によって移動する構成とすることもできる。また、照明手段171と散水手段172に加えて、育成空間に送風可能な送風装置(ブロアなどの)を配置することもできる。
【0031】
(使用例)
続いて、
図11を参照しながら本願発明の多コート競技場100の使用例について説明する。なおこの図では、右から2番目の個別競技用コート121(つまり、人工芝テニス用コート)で競技が行いつつ、固定床用コート141の一部でサッカーの練習を行うケースを示している。
図10(a)は、何ら準備が行われていない状態であって、すべての分割床120S(つまり、昇降床120)が固定床140上に載置されている。そして
図10(b)では、左側スライド客席111Lと右側スライド客席111Rが前進移動した結果、テニス用の個別競技用コート121の周囲に客席110の一部が形成されている。
【0032】
左側スライド客席111Lと右側スライド客席111Rを移動すると、
図10(c)に示すように他の分割床120S(図では左側の分割床120S)を、昇降装置によって所定高さ(例えば、40m上方)まで吊上げる。ことのき、昇降しようとする分割床120S上に敷設された分割レールは、他の分割レール(昇降しない分割床120Sの分割レール)との連結を解除し、その分割レールをあらかじめ撤去したうえで吊上げるとよい。そして、分割床120が所定高さまで吊上げられると、固定床用コート141の上方には所定の空間が形成される。これにより、個別競技用コート121で競技(この場合、テニス)を実施しながら、同時に固定床用コート141の一部でサッカーの練習も実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明の多コート競技場は、バスケットボールやバレーボール、バドミントン、フットサル、屋内テニスなど種々の競技を実施する施設で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
100 本願発明の多コート競技場
110 (多コート競技場の)客席
111 (客席の)スライド客席
111L (スライド客席の)左側スライド客席
111R (スライド客席の)右側スライド客席
112 (客席の)固定客席
120 (多コート競技場の)昇降床
121 (昇降床の)個別競技用コート
122 (昇降床の)支持脚
120S (昇降床の)分割床
130 (多コート競技場の)客席用レール
140 (多コート競技場の)固定床
141 (固定床の)固定床用コート
151 (多コート競技場の)天井屋根
152 (多コート競技場の)天井支持体
161 (多コート競技場の)天井梁
162 (多コート競技場の)複数の吊ロープ
171 (多コート競技場の)照明手段
172 (多コート競技場の)散水手段
TR 陸上用トラック