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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163577
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】食器
(51)【国際特許分類】
   A47G 19/00 20060101AFI20231102BHJP
   A47G 19/08 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A47G19/00 Z
A47G19/00 A
A47G19/00 H
A47G19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074557
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】514028374
【氏名又は名称】FUNFAM株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 恒行
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 康代
【テーマコード(参考)】
3B001
【Fターム(参考)】
3B001AA01
3B001AA02
3B001AA04
3B001AA11
3B001AA12
3B001BB02
3B001CC21
3B001CC22
3B001CC37
3B001CC38
3B001DA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】児童、高齢者、視覚障碍者等の食器取扱難易者/困難者が食器形状を視覚および触覚にて容易に判別でき、どこを持ったら滑り落としの危険が少ないことを認識できる食器、より具体的には、取扱難易者/困難者用食器もしくは自助食器を提供する。
【解決手段】本発明に係る食器は、食品が収容される食品収容部と、前記食品収納部の外周形に添って設けられたアフォーダンス部とを備える。前記アフォーダンス部は、前記食品収納部の外側面の略全周に亘って、略同一幅、略同一深さの1以上の溝であり、前記溝は幅略10~略20mm、深さ略5~略10mmのU字溝である。上記特徴により、児童、高齢者、視覚障碍者等の食器取扱難易者/困難者が食器形状を視覚および触覚にて容易に判別でき、食器とそれを持ち上げる手指との摩擦係数が大となるので滑り落としの危険が少なく、また、食器の製造方法が容易である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品が収容される食品収容部と、
前記食品収納部の外周形に添って設けられたアフォーダンス部と
を備えることを特徴とする食器。
【請求項2】
前記アフォーダンス部は、前記食品収納部の外側面の略全周に亘って設けられた、略同一幅、略同一深さの1以上の溝であることを特徴とする請求項1記載の食器。
【請求項3】
前記溝は幅略10~略20mm、深さ略5~略10mmのU字溝であることを特徴とする請求項2記載の食器。
【請求項4】
前記溝の一部に、異なる幅あるいは/および異なる深さの溝が設けられることを特徴とする請求項2記載の食器。
【請求項5】
前記食器は、竹材を含む木材を材質とすることを特徴とする請求項2記載の食器。
【請求項6】
前記溝に対して、前記食品収納部の外側面と異なる着色が施されていることを特徴とする請求項2記載の食器。
【請求項7】
前記溝に対して、前記食品収納部の外側面と異なる着色が施されていることを特徴とする請求項5記載の食器。
【請求項8】
前記溝部の素材色が周囲素材色と異なることを特徴とする請求項2記載の食器。
【請求項9】
前記溝部の素材色が周囲素材色と異なることを特徴とする請求項5記載の食器。
【請求項10】
前記竹材を含む木材の木目を略直交するように圧着張り合わせて構成されることを特徴とする請求項4記載の食器。
【請求項11】
前記竹材を含む木材の木目を略直交するように圧着張り合わせて構成されることを特徴とする請求項7記載の食器。
【請求項12】
前記溝の上端あるいは下端に窪みマークが配設されていることを特徴とする請求項2記載の食器。
【請求項13】
前記食器の糸尻に適合する窪みあるいは貫通穴に、および外周に、それぞれ溝を有するトレイに設置できることを特徴とする請求項1記載の食器。
【請求項14】
前記食器の糸尻に適合する窪みあるいは貫通穴に、および外周に、それぞれ溝を有するトレイであって前記窪みあるいは前記貫通穴の至近に窪みマークを付したトレイに設置できることを特徴とする請求項1記載の食器。
【請求項15】
前記食器の糸尻に適合する窪みあるいは貫通穴に、および外周に、それぞれ溝を有するトレイであって、前記窪みあるいは貫通穴が、使用者側から見た略クロックポジションに沿って配列されたトレイに設置できることを特徴とする請求項1記載の食器。
【請求項16】
複数の食器が重ね合わせられて収容される際に、前記複数の食器に設けられたそれぞれの溝同士が係合することを特徴とする請求項2記載の食器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はたとえば食器に係り、特に、児童、高齢者、視覚障碍者等の食器の運搬や取扱いに不慣れな取扱難易者及び/もしくは困難者に適する取扱難易者/困難者用食器もしくは自助食器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、児童の情操教育の一環として「食育」と言われる食事を中心とした教育が行われている。上記教育には、食事の調理に始まり、食事マナー、食卓の準備、後片づけ等が含まれる。参考文献1には、小児でも使い易い食器が提案されており、前記食育が広く進められている。しかし、刃物を使用する調理中の怪我ばかりでなく、食事を運ぶ時に食器を滑り落として火傷をしたり、落とした食器で怪我をする等の危険がある。
【0003】
これ等の危険は、児童に限らず、手先の感覚が衰えた高齢者の食事にも起こる危険であり、特に視覚障碍者の食事時には注意をしなければならない。食卓で用いる食器には様々な形態があり、慣れていない児童は食器のどこをもって運べば良いかが分からず、手を滑らせてしまうことがある。手先の感覚や力が衰えている高齢者も手掛かりの無い表面が滑らかな食器を持つ場合は同様な滑り落としの危険がある。
【0004】
特に、視覚障碍者は、まず持ち上げようとする食器の形状を認識して、どこを支持して持ち上げるかを確認しなければならない。食器の形状によっては食器に盛られた料理に手先が接触してしまう恐れもある。
【0005】
通常、食器の持ち上げには食器側面に取っ手を付けたり、手掛け用の突起を付けるが、食器を重ねて収容する際にこの取っ手や突起が邪魔となり不安定になったり収容スペースが大きくなってしまう恐れがある。
【0006】
参考文献2には食器を滑り落とさないような発明が提案されている。この発明では、食器表面の一部あるいは全部に凹凸面を形成することにより食器を持つ手先との摩擦を多くして滑り落としを防いでいる。滑り落とし防止には良い形態ではあるが、当該形態の食器を製作することが難しい。型抜きをする陶器や樹脂製の食器の場合は比較的良いが、日本伝統の椀の様な木製の場合は、製作が非常に難しくなってしまう。
【0007】
また、視覚障碍者にとっては、食器の形状を認識できても、食器に盛られた食品がなんであるかを識別できるわけではない。食器に盛られた食品が熱いスープの様なものでは迂闊に触っては火傷してしまう恐れがある。
【0008】
参考文献3に於いては、食事習慣の意識につながるランチョンマットとして、食器の配置を示唆する複数の第1マーカが印刷された紙製のシートの考案を開示している。しかし、前述のごとく、視覚障碍者は上記シートの食器位置を認識することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許5636478号公報
【特許文献2】実登3211575号公報
【特許文献3】実登3182558公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、食事という人間が生命体を維持する上で不可欠であり日々の日常体験に伴うものに関わる食器には、特に非健常者、幼年者、老年者や取扱難易者及び/もしくは困難者にとって常に危険が発生し得る状況にあった。
【0011】
そこで、本発明は、上記のごとき食器の問題点を解決すべく、児童、高齢者、視覚障碍者等の食器取扱難易者/困難者が食器形状を視覚および触覚にて容易に判別でき、どこを持ったら滑り落としの危険が少ないことを認識できる食器、より具体的には、取扱難易者/困難者用食器もしくは自助食器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題の解決にあたり、本発明者は、食器と児童、高齢者、視覚障碍者等の食器取扱難易者/困難者との関係をさらに深く考察することからスタートした。
【0013】
まず、本発明者の考察の結果、視覚障碍者が食器の形状を認識する場合に、食器の形状ばかりか、手掛かりが出来る食器の側面を簡単に認識できなければならないことに想到した。
【0014】
さらに、本発明者の考察を深めた結果、食器の形状から、当該食器に盛られた食品が何なのかを識別できる、すなわち自助食器と言う概念が必要となることに思い至った。
【0015】
そのうえで本発明者は、さらに、上記のごとき自助食器が実現できても、その自助食器がテーブル上の何処にあるのか、何処に戻したら使い易いのかを考慮することも必要である点に想到した。
【0016】
結論的に、本発明の骨子として、取扱難易者/困難者用食器として、次の諸点が満たされることが必要条件であり、また、十分条件でもあることに想到した。
第1には、児童、高齢者、視覚障碍者等の食器取扱難易者、困難者が食器形状を視覚および触覚にて容易に判別でき、どこを持ったら滑り落としの危険が少ないことを認識できること。
第2には、食器と、それを持ち上げる手指との摩擦係数が大なることにより、滑り落としの危険が少ないこと。
第3には、食器の製造方法が容易であること。
第4には、視覚障碍者においても、皿に盛られている食材を触覚的に把握できること。
第5には、食器材質が、陶器、ガラス、樹脂、木材が適用可能になること。
第6には、食器を重ね合わせて収容する場合、重ね合わせた体積が小なること。
第7には、食器形状識別が容易であること。
第8には、食器の触診により食器に盛られた食品が推測できること。
第9には、食器の設置位置が容易にわかり、該設置位置が容易にずれないこと。
【0017】
そこで、上述した課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る食器は、食品が収容される食品収容部と、前記食品収納部の外周形に添って設けられたアフォーダンス部とを備えることを特徴とする。
【0018】
「アフォーダンス」とは、元来は、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンが、「与える、提供する」という意味の英単語「afford」から作った造語で、主に生態光学や生態心理学、さらには認知心理学の各分野において用いられ、環境が人間をはじめとする動物に対して与えている価値や意味、ここから発展して、環境のさまざまな要素が人間や動物に影響を与え、感情や動作が生まれること、を意味する用語である。本発明者は、ここから着想を得た上で独自に考察を加えて発展させて、食器に適用できる概念に再構築した。すなわち、本発明においては、具体的な一態様的には、上述した溝という特定形態によって、たとえば視覚障碍者を含み得る利用者はスプーン等の移載方向を目視で把握できるという意味・価値或いは認知を獲得できるようにするための技術思想として、より概括的には、本発明の各態様に係る食器に設けられる溝や、(後述する)掘り込み、窪み、貫通穴、窪みマーク等の形状及び/もしくは構造をとることにより、たとえ視覚に障害がある者であったり(老齢や衰弱等によって)認知力が衰えた者であったりしても、特定の形状及び/もしくは構造が食器及び/もしくは食器を用いた当該者による食事体験と連動することで、特定の意味及び/もしくは価値、特に、摂食するのに伴って必要となる社会的慣習、たとえば、スプーン等の食器を特定方向に移載させること、或いは、食器のどの場所にはどのような食物が配置されていて当該食物ごとのピックアップ(掬い取る、挟み込む、突き刺す、吸い出す、切る等)の仕方として特定の方法を用いること、もしくは、体内への摂取の仕方(冷ましてから口に入れる、口にいれたものを噛む、口に入れたものを飲み込む等)として特定の方法を用いること、に連動して期待される行動様式に係る意味/価値を感得せしめることができる機能を本発明における「アフォーダンス機能」と定義し、及び、そのような機能を実現できるような形状及び/もしくは構造、換言すれば、一定のメッセージ性が特定対象者に対して伝達されるような形状及び/もしくは構造、を本発明における「アフォーダンス部」と定義する。この場合、形状及び/もしくは構造に対して、触感(たとえば、ザラザラ/ツルツル/なめらか/ふさふさなどといった肌触り感、ふわふわ/ごつごつ/くねくねなどといった押圧感等を含む)を刺激する材質性、温度、色彩、模様等が組み合わされて「アフォーダンス部」が構成されてもよい。本願の技術思想には、これらすべてもしくは一部が包摂される。
【0019】
上記「アフォーダンス部」のさらに具体的な態様としては、食器の外周形状に沿って溝、掘り込み、窪み、貫通穴、窪みマークのうちの少なくともいずれかを配設(刻設、切削、貫通、彫刻のうちのいずれかであってもよい)すること、或いは、食器の外面のいずれか特定の(意味性を持った)位置に立体性をもったマーク(すなわち手指の触覚によって認識できるマーク)もしくは空隙を設けること(刻印、切削、貫通、彫刻、挿入、挿設、焼き付けのいずれかであってもよい)、もしくは、食器の外面のいずれか特定の(意味性を持った)位置に周囲とは異なる触感を与えること(木目が一定の方向に並ぶようにすること、ざらざら層を設けること、すべすべ感を与える塗装を施すこと、のいずれかであってもよい)、があるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の第2の態様として、上記第1の態様において、前記アフォーダンス部は、前記食品収納部の外側面の略全周に亘って設けられた、略同一幅、略同一深さの1以上の溝であるとしてもよい。これにより、製作者が溝に指を入れて研磨することが可能となり、製造が容易となる。また、利用者も溝に指を掛けることで、手指と食器間の摩擦係数が大となり、滑り落としの危険を防止できる。
【0021】
第1の態様及び第2の態様に係る上記特徴を備えることで、児童、高齢者、視覚障碍者等の食器取扱難易者/困難者が食器形状を視覚および触覚にて容易に判別でき、どこを持ったら滑り落としの危険が少ないことを認識できる。さらに、食器と、それを持ち上げる手指との摩擦係数が大となるので滑り落としの危険が少ないこととなり、また、食器の製造方法が容易であるというメリットも享受できる。本質的に、視覚障碍者においても、皿に盛られている食材を触覚的に把握できるし、また、製造者観点からは、食器材質が、陶器、ガラス、樹脂、木材が適用可能になる。また別に、サービス提供者/利用者、すなわち食器取扱難易者/困難者食器への補助者/介添者/ケアワーカーの観点からは、食器を重ね合わせて収容する場合、重ね合わせた体積が小なるため、収容性が高いというメリットを享受できる。さらに、食器取扱難易者/困難者、取扱業者、サービス提供者/利用者、のいずれの立場にいる者にとっても、食器形状識別が容易である、食器の触診により食器に盛られた食品が推測できる、食器の設置位置が容易にわかり、該設置位置が容易にずれない、といった独自の効果を期待できる。
【0022】
なお、上記第2の態様において、「溝」は、食品収納部の外側面の略全周に亘って設けられる必要は必ずしもなく、特定の場所にスポット的に設けられるものであってもよい。このことは、「溝」に限らず、掘り込み、窪み、貫通穴、窪みマーク、立体性をもったマーク、空隙、周囲とは異なる触感、塗装等の配設される箇所についても同様である。たとえば溝が外側面の略全周に亘って設けられる場合には、食器の全体形状を認識させること、或いは、掘り込みマークが一定の位置に配置される場合には「ご飯」や「さかな」などの食物の種類を認識させること等、要は、一定のメッセージ性及び/もしくは意味性がこの配置から利用者に対して伝わるものであればよい。
【0023】
本発明の第3の態様として、上記第2の態様において、前記溝は幅略10~略20mm、深さ略5~略10mmのU字溝であるとしてもよい。これにより、上記第1の態様によって得られる効果をより高度に享受することができる。さらには、製作者が溝に指を入れて研磨することが可能となり、製造が容易となる。また、利用者も溝に指を掛けることで、手指と食器間の摩擦係数が大となり、滑り落としの危険を防止できる。
【0024】
本発明の第4の態様として、上記第1もしくは第2の態様において、前記溝の一部に、異なる幅あるいは/および異なる深さの溝が設けられることとしてもよい。これにより、上記第1の態様によって得られる効果をより高度に享受することができる。さらには、滑り落とし防止用の取っ手のごとき突起物を設けなくとも、突起とならない溝構造を用いていることから、食器を重ね合わせて収容する場合、重ね合わせた体積を小とすることができる。
【0025】
本発明の第5の態様として、上記第3の態様において、食器材質として陶器、ガラス、樹脂、木材を適用することとしてもよい。
【0026】
或いは代替的な本発明の第5の態様として、上記第3の態様において、特に竹材を含む木材を材質としてもよい。
【0027】
本発明の第6の態様として、上記第1もしくは第2の態様において、前記食品収納部の外側面と異なる着色が施されている態様、或いは、前記溝内を周囲外側面と異なる着色としてもよい。これにより、弱視の利用者でも、色の違いにより、食器の形状識別が容易となるため、上記第1の態様によって得られる効果をより高度に享受することができる。
【0028】
本発明の第7の態様として、上記第5の態様において、前記食品収納部の外側面と異なる着色が施されている態様、或いは、前記溝内を周囲外側面と異なる着色としてもよい。これにより、弱視の利用者でも、色の違いにより、食器の形状識別が容易となるため、上記第1の態様によって得られる効果をより高度に享受することができる。
【0029】
本発明の第8の態様として、上記第2の態様において、前記溝部の素材色が周囲素材色と異なる態様、或いは、前記溝内を周囲外側面と異なる着色としてもよい。これにより、弱視の利用者でも、色の違いにより食器の形状識別が容易となるため、上記第1の態様によって得られる効果をより高度に享受することができる。
【0030】
本発明の第9の態様として、上記第5の態様において、前記溝部の素材色が周囲素材色と異なる態様、或いは、前記溝内を周囲外側面と異なる着色としてもよい。これにより、弱視の利用者でも、色の違いにより食器の形状識別が容易となるため、上記第1の態様によって得られる効果をより高度に享受することができる。
【0031】
本発明の第10の態様として、上記第4の態様において、前記竹材を含む木材の木目を略直交するように圧着張り合わせて構成される態様、或いは、竹材を含む木材の木目を略直交するごとく圧着張り合わせて用いてもよい。これにより、破損時の飛び散りが防止され、また、スプーン等の移載方向を目視で把握できるというアフォーダンス機能のうちの一効果を奏する。
【0032】
本発明の第11の態様として、上記第7の態様において、前記竹材を含む木材の木目を略直交するように圧着張り合わせて構成される態様、或いは、竹材を含む木材の木目を略直交するごとく圧着張り合わせて用いてもよい。これにより、破損時の飛び散りが防止され、また、スプーン等の移載方向を目視で把握できるというアフォーダンス機能のうちの一効果を奏する。
【0033】
本発明の第12の態様として、上記第1もしくは第2の態様において、前記溝の上端あるいは下端に窪みマークが配設されていることとしてもよい。これにより、視覚障碍者においても、皿に盛られている食材を触覚的に把握できるため、上記第1の態様によって得られる効果をより高度に享受することができる。
【0034】
本発明の第13の態様として、上記第1もしくは第2の態様において、前記食器の糸尻に適合する窪みあるいは貫通穴に、および外周に、それぞれ溝を有するトレイに設置できるようにしてもよい。これにより、食器の設置位置が容易にわかり、該設置位置が容易にずれないため、上記第1の態様によって得られる効果をより高度に享受することができる。
【0035】
本発明の第14の態様として、上記第1もしくは第2の態様において、前記食器の糸尻に適合する窪みあるいは貫通穴に、および外周に、それぞれ溝を有するトレイであって前記窪みあるいは前記貫通穴の至近に窪みマークを付したトレイに設置できるとしてもよい。
【0036】
本発明の第15の態様として、上記第1もしくは第2の態様において、前記食器の糸尻に適合する窪みあるいは貫通穴に、および外周に、それぞれ溝を有するトレイであって、前記窪みあるいは貫通穴が、使用者側から見た略クロックポジションに沿って配列されたトレイに設置できるとしてもよい。これにより、視覚障碍者においても、食器の設置位置が容易にわかり、該設置位置が容易にずれないため、上記第1の態様によって得られる効果をより高度に享受することができる。
【0037】
本発明第16の態様として、上記各態様の何れかの態様に加え、複数の食器が重ね合わせられて収容される際に、前記複数の食器に設けられたそれぞれの溝同士が係合するとしてもよい。この構成をとることが好ましい場合もある。この場合、上記態様に係る形状を有していない食器を重ねる場合に比べて、重ね合わせによって構成される食器群全体が占める体積がより小となる効果が奏される。これは、収容にとってより便利となる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の各態様に係る取扱難易者用食器によれば、食器の形状を視覚と触覚の両者によって確認することができ、食器のどこを持って持ち上げれば良いかを直ちに認識でき、食器滑り落としの危険を著しく軽減することが可能になる。
【0039】
さらに、取っ手無しにより、重ね置きした場合の体積を減少できるため、食器保管に便利である。
【0040】
本発明は、総じて、食卓で用いる各種食器に広く適用可能で、同様な食器を揃えることにより、共通の取扱ができ、持ち上げの際に手から滑り落としの危険を大幅に軽減できる。特に上述した態様に係る食器設置トレイを用いれば、テーブル上から食器を滑り落としの危険性を限りなく消滅せしめるだけでなく、視覚障碍者も食器を使い易い位置に設置することができるうえ、食器を触診するだけで望みの食品を摂取することができるという効果を生ずる。更に、溝付き食器としてブランド化することにより購入消費を喚起し、製造者の販売促進と言うメリットを生じさせる効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の一実施形態に係る取扱難易者/困難者用食器の概略を示した斜視図である。
図1A図1に示した食器1についての斜視図及び断面図であり、特に、断面図は、図1に示された食器1のA-A’断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る取扱難易者/困難者用食器の他の実施例の概略を示した斜視図である。
図2A図2に示した食器5についてのB-B’断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る取扱難易者/困難者用食器の別の実施例の概略を示した斜視図である。
図3A図3に示した食器6についてのC-C’断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る取扱難易者/困難者用食器の別の実施例の概略を示した斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る取扱難易者/困難者用食器と組み合わせる、食器設置トレイの実施例の概略を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る取扱難易者/困難者用食器について説明する。
【0043】
図1は、本発明の一実施形態に係る取扱難易者/困難者用食器1を説明するための斜視図であり、図1Aは、図1に示した食器1についての斜視図及び断面図を示し、特に、断面図は、図1に示された食器1のA-A’断面図を示す。
【0044】
図1及び図1Aの両図において、食器1には、液体を含む食品3を収容する収容部の外側外縁部4より下部に、幅W,深さDの溝2が設けられている。食器取扱難易者/困難者、取扱業者、サービス提供者/利用者、のいずれの立場にいる者にとっても、溝2に指を掛けて食器1を持ち上げれば、溝2の縁と指先との間の摩擦係数の増大により食器をしっかり保持することができるため、食器1の滑り落とし危険を大幅に減少できる。
【0045】
また、溝2は食器1の外側全周もしくは略外側全周に亘って設けられているため、任意の溝部分を持っても滑り落とし事故を防ぐことができる。さらに、視覚障碍者はこの溝2指先で辿ることにより食器1の形状を認識することができる。図1及び図1Aにおいては、食器1の側面が比較的垂直に近い食器の例を示したが、同様な外壁を有する深皿、椀、コップ形状であっても、上述した技術思想を適用することで、同様な滑り落とし防止効果を発揮することは自明である。また、食器の材質としては特に限定なく、陶器、ガラス、樹脂、木材、そのほかのいずれであってもよく、また、木材には竹材を含んでもよい。さらにはまた、溝2には、食器1、特にそのうちの食品収納部、の外側面と異なる着色を施すようにしてもよい。この場合には、上述したアフォーダンス機能をさらに増進させることができる。
【0046】
図1AのA-A’断面図において、溝2については、溝幅Wを略10~略20mm、溝深さDを略5~略10mm、のU字溝とすることにより、小児及び/もしくは成人の指がこれに当てがわれて持ち上げられた場合に、十分に滑り止めとして作用することが、本発明者による実験によって確かめられた。
【0047】
製造者/販売者観点からすれば、もとより、食器1は、素材が竹を含む木材の場合には、加工が容易であり、食器の側面に断面がU字型の溝2を掘り込むことは容易である。なお、素材が陶器や樹脂の場合には型抜き方法で比較的容易に作成可能である。
【0048】
図2には、略垂直形状の外壁を有しない浅皿状食器5に上述した本技術思想を適用した場合を説明するための斜視図であり、図2Aは、図2に示した食器5についてのB-B’断面図である。図2AのB-B’断面図において、溝2については、溝幅Wを略10~略20mm、溝深さDを略5~略10mm、のU字溝とすることにより、小児及び/もしくは成人の指がこれに当てがわれて持ち上げられた場合に、十分に滑り止めとして作用することが、本発明者による実験によって確かめられた。
【0049】
なお、図1図1A図2図2Aでは、垂直方向に一段のU字溝としているが、複数のU字溝としても良く、或いはV字型の溝としてもよく、間隔を空けても、連続形としても良い。さらには、溝の一部に、異なる幅及び/もしくは異なる深さの溝を設けるようにしてもよい。この溝2は、食器1と同様、食器5の外側全周に亘って掘り込んでおくことにより、視力障碍者はまず食器外側を触り、溝2を確認し、その溝2を指先でたどることにより食器の形状を認識し、どこを持ち上げたら良いかを知ることができる。
【0050】
上述した実施形態に係る食器1および食器5は比較的重量の軽い食器の例であるが、丼ぶりや大皿の様な重量が大なる食器に本発明に係る技術思想を応用適用する場合について、次に説明する。図3は、本発明の別の一実施形態に係る取扱難易者/困難者用食器であって丼ぶりや大皿の様な重量が大なる食器6を説明するための斜視図であり、図3Aは、図3に示した食器6についてのC-C’断面図である。
【0051】
図3及び図3Aに示されるように、丼ぶり状の重量が大なる食器6には、食器1、食器5と同様な溝3を設けるが、溝3の一部に、さらに手指がしっかり掛かるような掘り込み7が複数設けられている。掘り込み7は、図3に示されるような3本指型に限定されるものではなく連続形状としても良く、食器のデザインと相まって各種の形状が考えられ、これらはすべて本発明の発明思想に含まれるものである。
【0052】
掘り込み7は、使用者が溝3を指先で辿って行けばすぐ見つけることができるため、視覚障碍者でも掘り込み7の存在を容易に認識することができ、この結果、食器の滑り落とし事故をさらに軽減できる。
【0053】
上記で説明した各実施形態に係る食器1、食器5、食器6に設ける溝の外縁部4からの位置としては、食器の形状によって、滑り止めに最も良いと思われる位置であるのが好適であることは自明である。また、各実施形態に係る食器1、食器5、食器6のそれぞれの溝2もしくは溝3の部分を視覚的に目立たせるため周囲の外周部分と異なる色に着色するか、あるいは溝2もしくは溝3の部分を、たとえば参考文献1の食器のごとく周囲とは異なる色の素材で構成しても良い。
【0054】
特に、素材色が異なる素材で食器を作成する場合に、互いの木目(繊維方向)を略直交する如く張り合わせると、食器を落とした場合に木目に沿って飛び散ってけがをすることを防止できる。この場合の張り合わせは、圧着であっても、接着剤による接着であっても、或いは代替的に、接合具(たとえば釘、ダボ等)を用いた接合であっても、いずれでもよい。
【0055】
上記実施形態における掘り込み7は、食器を持ち上げるときにしっかり指先を固定するためのものであるが、掘り込み7とは別に、後述する図5に示されるのと同様な三角形の窪みマークを溝2もしくは溝3の上端あるいは下端に付することにより食器の識別マークとしてもよい。すなわち、図5に示される例では窪みを2個とし、この「2個」に対応するようにこの食器の識別マークをNo.2として認識させることもできる。同様に窪み1個の場合はNo.1とし、3個の場合はNo.3(図示しない)、…以下同様とすることもできる。この場合の窪みマークとは、視覚的にマークであると認識させるのみならず、表面に凹凸形状が配設されることで、視覚障害者であっても触覚により認識することができる態様で設けられている何らかの識別特性をもった対象をいう。この場合において、「配設」とは、刻設、切削、押圧、物理的/化学的処理による予めの処理、その他であってもよく、これらをすべて包摂する概念である。
【0056】
図5では窪みマークを三角形としたが、U字型あるいは線状型と色々考えられるがそれ等はすべて本発明の発明思想に含まれるものである。さらに、窪みマークの数により識別ナンバーとしたが、窪みの形状を図4のごとく魚形マークにして、魚料理を盛り付ける専用食器とする等、色々変化形が考えられるが、それ等はすべて本発明思想に含まれるものである。
【0057】
例えば、食事の準備ができたときに、「今日の食事に関しては、No.1の食器にはごはんが、No.2の食器には味噌汁が…」等と説明しておけば、視覚障害者は食器の周囲の溝を辿ることにより容易に識別マークを確認し、火傷の危険や食品をこぼしたりすることなく安心して食事をすることができる。すなわち、食器デザインに分かり易い特徴を持たせることにより、格段な説明をしなくとも誰でもが使えるようになる、いわゆるアフォーダンス効果を持った新しいコンセプトによる食器発明を実現したものと言うことができる。
【0058】
上記のごとく、食器周囲に溝を設置することにより、食器を持ち上げるときの滑り落としの危険を防止できるが、食器をテーブルに戻すときに滑らせたり、そばの食器に触れて倒したりする危険があるが、これを本願発明によって解決するものとして、図4はこのような危険を避けるための食器設置トレイの一例を示した斜視図である。
【0059】
図5は、本発明の一実施形態に係る取扱難易者/困難者用食器と組み合わせる、食器設置トレイの実施例の概略を示した斜視図である。
【0060】
同図に示されるように、厚みのある板状の食器設置トレイ10には、周囲には、食器と同様の溝3が設けられ、表面には食器の糸尻に合った窪み11あるいは貫通穴12が掘り込まれてあり、窪み11あるいは貫通穴12の傍には食器の識別マークと同様な窪み13、14が掘り込まれてある。健常者は上述した窪みマークもしくは識別マークを見てそれぞれの識別マークの食器の糸尻15に合わせて窪み11あるいは貫通穴12に設置すれば、食器がテーブル上から滑り落ちることを防ぐことができる。視覚障害者は食器の識別マーク及びトレイ上の上述した窪みマークもしくは識別マークを触診認識することにより正しい位置に食器を置くことができる。なお、食器設置トレイの材質として、竹を含む木材、陶器、樹脂等を含んでもよいことは上述の説明通りである。
【0061】
同図におい、窪み11あるいは貫通穴12を、使用者側から見て略クロックポジションに配列しておくことにより、一度取り上げた食器をどの位置に戻したらよいかを概略推定できると共に、料理の並べ方の作法を知ることができるという食育にも活用することができる。
【0062】
また、上述した例では図示しなかったが、複数の食器が重ね合わせられて収容される際に、前記複数の食器に設けられたそれぞれの溝同士が係合することにより、本願の実施形態に係る形状を有していない食器を重ねる場合に比べて、重ね合わせによって構成される食器群全体が占める体積がより小となる効果が奏される。これは、収容にとってより便利となる。
【0063】
上記で説明した各実施形態に係る食器1、食器5、食器6については、単純な形状のものを一例として取り上げて説明したが、実際には小児の食育用に動物形や自動車、飛行機形状等、各種の複雑な形態の食器であっても、本願に係る上述した技術思想は適用可能である。すなわち、食器外側部分に上述した技術思想に係る溝を設けることは容易であり、本発明は殆どの食器に適用可能であり、これらはすべて本発明の発明思想に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、視覚、触覚によるアフォーダンス効果を利用して、食器取扱難易者、困難者の食器滑り落とし事故を軽減するという新しい思想、コンセプトに基づくいわゆる自助食器に関する発明であり、新しく広い分野への利用可能性が期待できるものである。
【0065】
特に、食育用食器、学校給食用食器、高齢者施設、視覚障碍者施設等、公共施設の食堂用食器として安心して用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
1…本発明の一実施形態に係る食器
2…溝
3…食品
4…外縁部
5…本発明の一実施形態に係る別形状食器
6…本発明の他一実施形態に係る形状の食器
7…掘り込み
10…食器設置トレイ
11…窪み
12…貫通穴
13,14…窪み
図1
図1A
図2
図2A
図3
図3A
図4
図5