(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163590
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】紡糸引取機
(51)【国際特許分類】
D01D 7/00 20060101AFI20231102BHJP
D01D 11/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
D01D7/00 Z
D01D11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074580
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(74)【代理人】
【識別番号】100180297
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 徹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 研志
(72)【発明者】
【氏名】岩木 孝之
(72)【発明者】
【氏名】七山 大督
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
【テーマコード(参考)】
4L045
【Fターム(参考)】
4L045AA05
4L045BA03
4L045DB01
4L045DB07
4L045DC01
4L045DC11
4L045DC28
4L045DC31
4L045DC41
4L045DC43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】糸切断吸引装置により糸を確実に切断することが可能な紡糸引取機を提供する。
【解決手段】複数の糸が並ぶ配列方向に沿って走行する複数の糸を切断可能なカッタ32と、カッタ32で切断された糸を吸引可能な吸引装置35と、を有する糸切断吸引装置30と、糸切断吸引装置30よりも糸走行方向の下流側に配置され、走行する複数の糸を糸走行方向に送るゴデットローラと、糸切断吸引装置30により糸Yが切断されて吸引されるときに、ゴデットローラを停止させる制御を行うことが可能な制御装置とを備える。複数の糸Yと、カッタ32及び吸引装置35と、を近づけることによって、複数の糸Yを順に切断して吸引可能である。制御装置は、少なくとも複数の糸Yが切断状態となったことに基づいてゴデットローラを停止させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸が並ぶ配列方向に沿って走行する前記複数の糸を切断可能なカッタと、該カッタで切断された糸を吸引可能な吸引装置と、を有する糸切断吸引装置と、
前記糸切断吸引装置よりも糸走行方向の下流側に配置され、走行する前記複数の糸を前記糸走行方向に送るローラと、
前記糸切断吸引装置により前記糸が切断されて吸引されるときに、前記ローラを停止させる制御を行うことが可能な制御装置と、
を備え、
前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、を近づけることによって、前記複数の糸を順に切断して吸引可能であり、
前記制御装置は、
前記複数の糸のうち一の糸が切断状態であるとしても前記ローラの回転を減速させず、少なくとも複数の糸が切断状態となったことに基づいて前記ローラを停止させる制御を行う、
ことを特徴とする紡糸引取機。
【請求項2】
前記複数の糸が前記配列方向に沿って走行している状態で、前記カッタ及び前記吸引装置が前記複数の糸に近付くように移動する、
ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸引取機。
【請求項3】
前記カッタ及び前記吸引装置が移動せず、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、が近づくように前記複数の糸を移動させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸引取機。
【請求項4】
前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、が近づくように、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、の両方が移動する、
ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸引取機。
【請求項5】
前記配列方向に沿う前記複数の糸の間隔は、
前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、が近づく前と近付いた後とで変わらないように構成されている、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の紡糸引取機。
【請求項6】
前記複数の糸のうち第1の糸と、前記配列方向に沿って前記第1の糸に隣り合う第2の糸と、の間隔をdとし、
前記複数の糸に対する前記カッタ及び前記吸引装置の相対速度をvとした場合、
前記複数の糸を順に切断して吸引するとき、v≦5d の関係で、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置、とが近づくように、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、のうち少なくともいずれかが移動する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の紡糸引取機。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記配列方向に並んで走行する前記複数の糸の全部が切断状態となるまで前記ローラの回転を減速させず、前記複数の糸の全部が切断状態となったことに基づいて前記ローラを停止させる制御を行う、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の紡糸引取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸切断吸引装置を備える紡糸引取機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡出された糸条を、ゴデッドローラを介して送出し、巻取部で巻き取る紡糸引取機が知られている。このような紡糸引取機では、巻取部による糸条の巻き取りを中断したとしても糸条が紡出され続けるため、紡出され続ける糸条を、糸切断吸引装置により切断して吸引しておく必要がある。
【0003】
例えば特許文献1には、複数の糸条の配列方向に移動し、走行する糸条を切断するカッタと、吸引源に接続され、カッタで切断された糸を吸引する吸引装置と、を含む糸切断吸引装置が開示されている。特許文献1に開示される糸切断吸引装置では、糸条の巻き取り中、吸引源と吸引装置との接続が遮断される(例えば、特許文献1の段落[0031]を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように糸切断吸引装置では、糸条の巻き取りが中断されると、吸引源と吸引装置とが接続されて、カッタにより切断された糸条が吸引される。ところが、糸条の巻き取りが中断されると糸の張力が低下し、走行する糸を切断し難くなるおそれがある。また、走行する糸が太かったりする場合にも、走行する糸を切断し難くなるおそれがある。
【0006】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、糸切断吸引装置により糸を確実に切断することが可能な紡糸引取機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の紡糸引取機は、
複数の糸が並ぶ配列方向に沿って走行する前記複数の糸を切断可能なカッタと、該カッタで切断された糸を吸引可能な吸引装置と、を有する糸切断吸引装置と、
前記糸切断吸引装置よりも糸走行方向の下流側に配置され、走行する前記複数の糸を前記糸走行方向に送るローラと、
前記糸切断吸引装置により前記糸が切断されて吸引されるときに、前記ローラを停止させる制御を行うことが可能な制御装置と、
を備え、
前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、を近づけることによって、前記複数の糸を順に切断して吸引可能であり、
前記制御装置は、
前記複数の糸のうち一の糸が切断状態であるとしても前記ローラの回転を減速させず、少なくとも複数の糸が切断状態となったことに基づいて前記ローラを停止させる制御を行う、
ことを特徴とする。
【0008】
上記(1)に記載の紡糸引取機によれば、複数の糸のうち一の糸が切断状態であるだけではローラの回転が減速されず、少なくとも複数の糸が切断状態となるまではローラを停止させる制御が行われない。そのため、複数の糸が切断状態となるまで、未切断の糸の張力低下を抑制できる。よって、糸走行方向に走行する糸を確実に切断することができる。なお、「前記ローラの回転を減速させず、」は、糸切断吸引装置よりも糸走行方向の下流側の糸張力が低下しないように少なくともローラの回転が維持されればよく、ローラの回転が増速される場合も含む。
【0009】
(2)本発明の紡糸引取機において、
前記複数の糸が前記配列方向に沿って走行している状態で、前記カッタ及び前記吸引装置が前記複数の糸に近付くように移動する、
ことを特徴とする。
【0010】
上記(2)の紡糸引取機によれば、安定して走行している複数の糸に対してカッタ及び吸引装置を近づけることで、確実に糸を切断することができ、切断された糸が絡んでしまうことを抑制できる。
【0011】
(3)本発明の紡糸引取機において、
前記カッタ及び前記吸引装置が移動せず、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、が近づくように前記複数の糸を移動させる、
ことを特徴とする。
【0012】
上記(3)に記載の紡糸引取機によれば、カッタ及び吸引装置が固定された状態で糸を切断することができるため、カッタ及び吸引装置の移動による振動等の影響を受けずに安定した状態で糸の切断を行うことができる。
【0013】
(4)本発明の紡糸引取機において、
前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、が近づくように、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、の両方が移動する、
ことを特徴とする。
【0014】
上記(4)に記載の紡糸引取機によれば、複数の糸と、カッタ及び吸引装置と、が近づくように、複数の糸と、カッタ及び吸引装置と、の両方が移動する。このようにすることで、複数の糸の移動量、並びにカッタ及び吸引装置の移動量、を抑制しつつ、ひいては装置の大型化を抑制しつつ、複数の糸Yの全部を、1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となる。
【0015】
(5)本発明の紡糸引取機において、
前記配列方向に沿う前記複数の糸の間隔は、
前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、が近づく前と近付いた後とで変わらないように構成されている、
ことを特徴とする。
【0016】
上記(5)に記載の紡糸引取機によれば、複数の糸と、カッタ及び吸引装置と、が近づく前と近付いた後とで複数の糸の間隔が変わらないため、配列方向に沿って配列された複数の糸Yの全部を、確実に、1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となる。
【0017】
(6)本発明の紡糸引取機において、
前記複数の糸のうち第1の糸と、前記配列方向に沿って前記第1の糸に隣り合う第2の糸と、の間隔をdとし、
前記複数の糸に対する前記カッタ及び前記吸引装置の相対速度をvとした場合、
前記糸切断吸引装置は、
前記複数の糸を順に切断して吸引するとき、v≦5d の関係で、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置、とが近づくように、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、のうち少なくともいずれかが移動する、
ことを特徴とする。
【0018】
上記(6)に記載の紡糸引取機によれば、v≦5d の関係で、複数の糸と、カッタ及び吸引装置、とが近づくため、糸走行方向に走行する糸が順に1本ずつ切断されるようになる。そのため、走行糸を1本ずつ確実に切断しつつ、短期間でカッタの刃こぼれが発生することを抑制できる。
【0019】
(7)本発明の紡糸引取機において、
前記制御装置は、
前記配列方向に並んで走行する前記複数の糸の全部が切断状態となるまで前記ローラの回転を減速させず、前記複数の糸の全部が切断状態となったことに基づいて前記ローラを停止させる制御を行う、
ことを特徴とする。
【0020】
上記(7)に記載の紡糸引取機によれば、糸の張力低下が抑制された状態で、糸走行方向に走行する複数の糸の全部を、確実に切断することができる。
【0021】
なお、上記(1)~(7)に記載の紡糸引取機において、「切断状態」とは、糸が現に切断された状態のみならず、糸が切断されたものとみなす状態を含む趣旨である。
【0022】
また、本発明に係る紡糸引取機は、上記(1)~(7)に記載された構成の全部を備えることは必須でない。例えば、上記(1)に記載された紡糸引取機に係る発明において、上記(2)~(7)に記載された構成の全部は必須でない。また、整合を図ることができる範囲で、上記(1)に記載された構成と、上記(2)~(7)のいずれかに記載された構成と、を任意に組み合わせたものを、本発明に係る紡糸引取機とすることもできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、糸切断吸引装置により糸を確実に切断することが可能な紡糸引取機を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態に係る紡糸引取機の一例を示す概略構成である。
【
図2】本実施の形態に係る糸規制ガイド及び糸切断吸引装置の一例を示す概略図である。
【
図3】本実施の形態に係る紡糸引取機の電気的構成の概略を示すブロック図の一例である。
【
図4】本実施の形態において、運転停止時処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本実施の形態において、糸切断吸引装置による複数の糸を切断して吸引する動作について説明する図であって、(A)最も一方側の糸のみが切断及び吸引されていることを示す図の一例、(B)最も一方側の糸及びこの糸と他方側に隣り合う糸のみが切断吸引されていることを示す図の一例である。
【
図6】第1変形例に係る糸規制ガイド及び糸切断吸引装置の一例を示す概略図である。
【
図7】第2変形例に係る糸規制ガイド及び糸切断吸引装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、説明の便宜上、上下方向、左右方向、及び、前後方向の各方向は、後述する各図に示されるとおりである。
【0026】
[1.紡糸引取機の概要]
先ず、本発明の実施の形態(以下「本実施の形態」と称する)に係る紡糸引取機1の概要について、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係る紡糸引取機1の一例を示す概略構成である。
【0027】
紡糸引取機1は、主として、例えば、紡糸装置2と、給油ガイド3と、糸規制ガイド20と、糸切断吸引装置30と、糸Yを延伸させる2つのゴデットローラ(第1ゴデットローラ4a,第2ゴデットローラ4b)と、延伸された糸Yを巻き取る糸巻取装置10と、制御装置50(後述の
図3を参照)とを備える。
【0028】
紡糸装置2は複数の口金2aを有し、各口金2aからは、高温の液状の溶融ポリマー(糸材料)が連続的に押し出される。各口金2aから押し出された糸材料は、冷却されて固化し、複数のフィラメントFからなる1本の糸Yとして紡出される。このようにして、複数の口金2aから複数の糸Yが紡出される。複数のフィラメントFは、例えばポリエステル等の溶融繊維材料からなる。
【0029】
給油ガイド3は、紡糸装置2の下方に配置されており、紡糸装置2の口金2aから紡出された複数の糸Yに油剤を付与する。給油ガイド3は、隣り合う糸Yどうしの左右方向(本発明の配列方向)における間隔を一定に規定する。
【0030】
糸規制ガイド20は、給油ガイド3の下方であって、第1ゴデットローラ4aの上方に設けられている。
【0031】
糸切断吸引装置30は、紡糸装置2の口金2aから紡出された複数の糸Yを切断して吸引する装置であって、糸走行方向において給油ガイド3よりも下流側に配置されている。紡糸装置2の口金2aからは、処理を中断したとしても複数の糸Yが連続的に紡出され続けるため、糸切断吸引装置30は、糸切断吸引装置30よりも下流側の処理が中断している間、紡出され続ける複数の糸Yを切断して吸引する。糸切断吸引装置30の詳細については後述する。
【0032】
2つのゴデットローラ4a,4bは、給油ガイド3により油剤が付与された糸Yを引き取って、下方に配置された糸巻取装置10へと送る。第2ゴデットローラ4bは、糸走行方向において第1ゴデットローラ4aよりも下流側であって、第1ゴデットローラ4aの後方上部に配置されている。第1ゴデットローラ4a及び第2ゴデットローラ4bは、それぞれ、第1駆動モータ5a及び第2駆動モータ5b(いずれも後述の
図3を参照)によって駆動される。なお、ゴデットローラの数は2つに限定されない。
【0033】
糸巻取装置10は、2つのゴデットローラ4a,4bから送られた複数の糸Yを巻き取る装置であって、主として、例えば、振支点ガイド11と、トラバースガイド12と、巻取軸13と、ターレット14と、本体フレーム15と、コンタクトローラ16とを備える。
【0034】
振支点ガイド11は、複数の糸Yそれぞれに対応する複数の振支点ガイド11を有し、第2ゴデットローラ4bから送られた複数の糸Yをそれぞれ分配する。トラバースガイド12は、複数の糸それぞれに対応する複数のトラバースガイド12を有し、複数の振支点ガイド11によって分配された糸Yをそれぞれ綾振る。巻取軸13は、軸方向を同じとする例えば2つの巻取軸13を有する。巻取軸13には、複数のボビンBが軸心に沿って直列に装着される。ターレット14は、回転可能な円盤状のものであり、2つの巻取軸13それぞれの一端を支持する。本体フレーム15は、ターレット14を回転可能に支持する。コンタクトローラ16は、本体フレーム15に対して上下方向に移動可能であり、巻取軸13に装着されたボビンBに対して離接可能となっている。
【0035】
[2.糸切断吸引装置]
図2は、本実施の形態に係る糸規制ガイド20及び糸切断吸引装置30の一例を示す概略図である。
【0036】
図2に示されるように、糸切断吸引装置30は、糸走行方向における糸規制ガイド20のすぐ上流側において、左右方向に配列された状態で走行する複数の糸Yの糸道よりも左側に配置されている。なお、複数の糸Yは例えば12本であるが、糸Yの数はこれに限定されない。また、
図2において、複数の糸Yについて、本来であれば複数の糸Yの全部に符号を付すべきところ、便宜上、3本の糸Yにのみ符号を付している(後述の
図5~
図7においても同様。)。
【0037】
糸規制ガイド20は、複数の糸Yそれぞれに対応して左右方向に並んだ複数の溝20aを有する櫛歯状をしている。複数の糸Yは、複数の溝20aにそれぞれ通される。糸規制ガイド20は、複数の溝20aそれぞれの左右方向の間隔により、ゴデットローラ4a,4bに巻き掛けられる複数の糸Yの左右方向の間隔を一定に規定する。なお、
図2において、複数の溝20aについて、本来であれば複数の溝20aの全部に符号を付すべきところ、便宜上、3つの溝20aにのみ符号を付している(後述の
図5~
図7においても同様。)。
【0038】
糸切断吸引装置30は、主として、例えば、基体となるホルダ31と、糸Yを切断するカッタ32と、カッタ32で切断された糸Yを吸引する吸引装置35と、カッタ32を糸Yの配列方向(
図2の左右方向)に移動させることが可能なエアシリンダ37とを有する。
【0039】
カッタ32は、複数の糸Yを1本ずつ又は複数本まとめて切断可能な刃部33と、刃部33を保持する刃部保持部材34とを有する。
【0040】
吸引装置35は、カッタ32の刃部33によって切断された複数の糸Yを吸引するためのものである。吸引装置35は、吸引源(不図示)と、電磁弁42(後述の
図3を参照)を介して吸引源に接続される筒部材36とを有する。筒部材36の下面には、刃部保持部材34が取り付けられている。筒部材36の下面に刃部保持部材34が取り付けられた状態で、刃部33は、筒部材36の右側先端部の吸引口36aの近傍に位置する。吸引口36aには、切断された糸Yを吸引する吸引力が発生する。カッタ32で切断された糸Yは、吸引口36aから吸引される。
【0041】
エアシリンダ37は、カッタ32及び吸引装置35(より詳しくは筒部材36)を、複数の糸Yに対して移動させるものである。エアシリンダ37は、シリンダロッド37aを有しており、基体となるホルダ31内に設けられている。シリンダロッド37aは、カッタ32(より詳しくは刃部保持部材34)を介して筒部材36に接続されている。エアシリンダ37が駆動すると、シリンダロッド37aが左右方向に拡縮し、これに伴ってカッタ32及び吸引装置35が左右方向に進退する。なお、シリンダロッド37aが拡縮したとしてもホルダ31は移動しない。
【0042】
図2に示されるシリンダロッド37aは縮状態である。シリンダロッド37aが縮状態であるとき、カッタ32は、いずれの糸Yも切断することができない退避位置にある。シリンダロッド37aが縮状態から拡状態に向けて(
図2の右方向に向けて)移動すると、カッタ32及び筒部材36が右方向(すなわち複数の糸Yと近付く方向)に進出し、刃部33により糸Yを切断することができる。本実施の形態においては、左右方向の左側が本発明の配列方向の一方側に相当し、左右方向の右側が本発明の配列方向の他方側に相当する。
【0043】
なお、本実施の形態では、カッタ32及び吸引装置35を、シリンダロッド37aを作動させて配列方向に移動するように構成されているが、これに限られず、カッタ32及び吸引装置35に係合されるギアをモータで回転させて移動するように構成してもよい。
【0044】
[3.制御装置]
図3は、本実施の形態に係る紡糸引取機1の電気的構成の概略を示すブロック図の一例である。
【0045】
図3に示されるように、制御装置50は、少なくとも、運転停止信号及び運転開始信号を受信可能となっている、運転停止信号及び運転開始信号は、例えば、オペレータの操作に基づいて発生する。また、運転停止信号は、糸Yの切断を検知したとき、すなわち糸切信号を受信したときにも発生する。
【0046】
制御装置50は、少なくとも、第1電磁弁42と、第2電磁弁38と、第1駆動モータ5aと、第2駆動モータ5bと、糸巻取装置用駆動源17とに、電気的に接続されている。
【0047】
第1電磁弁42は、吸引源(不図示)と筒部材36(
図2を参照)との接続状態を切り換えるものである。例えば、紡糸引取機1の運転中は、吸引源40と筒部材36との接続が遮断されており、吸引口36aに、切断された糸Yを吸引する吸引力が発生しない。そして、制御装置50が運転停止信号を受信すると、第1電磁弁42を作動させ、吸引源40と筒部材36とが接続され、吸引口36aに、切断された糸Yを吸引する吸引力が発生する。
【0048】
第2電磁弁38は、エアシリンダ37に接続されており、シリンダロッド37a(
図2を参照)の拡縮状態を切り換えるものである。例えば、第2電磁弁38が第1の位置に作動すると、シリンダロッド37aが拡方向に移動するように、エアシリンダ37に圧縮エアが供給される。また、第2電磁弁38が第2の位置に作動すると、シリンダロッド37aが縮方向に移動するように、エアシリンダ37に圧縮エアが供給される。第2電磁弁38が中立位置にあるとき、シリンダロッド37aはその位置で保持される。紡糸引取機1の運転中、シリンダロッド37aは、縮状態で保持されている。
【0049】
第1駆動モータ5aは、第1ゴデットローラ4aを回転させるための駆動源である。第2駆動モータ5bは、第2ゴデットローラ4bを回転させるための駆動源である。
【0050】
糸巻取装置用駆動源17は、糸巻取装置10を駆動させるための駆動源である。糸巻取装置用駆動源17は、例えば、ターレット14を回転させるためのモータ(不図示)、及び、2つの巻取軸13をそれぞれ回転させるためのモータ(不図示)等が相当する。
【0051】
[4.運転停止時処理]
次に、紡糸引取機1(
図1を参照)の運転を停止する場合に制御装置50により実行される運転停止時処理と、運転停止時処理における糸切断吸引装置30の動作とについて、
図4及び
図5を参照して説明する。
【0052】
図4は、本実施の形態において、制御装置50により実行される各種処理のうち、運転停止時処理の一例を示すフローチャートである。なお、
図4に示されるフローチャートは、本実施の形態を説明するための便宜上のフローチャートである。
図5は、本実施の形態において、糸切断吸引装置30による複数の糸Yを切断して吸引する動作について説明する図であって、(A)複数の糸Y1~Y12のうち配列方向における最も一方側の糸Y1のみが切断及び吸引されていることを示す図の一例、(B)複数の糸Y1~Y12のうち、糸Y1、及び、糸Y1よりも配列方向において他方側に隣り合う糸Y2のみが切断吸引されていることを示す図である。
【0053】
紡糸引取機1(
図1を参照)の運転中、カッタ32及び筒部材36は退避位置(
図2に示される位置)にある。このとき、吸引源(不図示)と筒部材36との接続が遮断され、吸引口36aからの吸引力が発生していない。また、シリンダロッド37aは縮状態である。また、説明するまでもないが、紡糸引取機1の運転中、第1駆動モータ5a、第2駆動モータ5b、及び、2つの巻取軸13のうち少なくとも1つの巻取軸13を回転させるためのモータ(不図示)は回転している。
【0054】
図4に示されるように、制御装置50は、運転停止信号を受信すると(
図4に示されるS1がYes判定の場合)、処理を、S2に移す。一方、運転停止信号の受信がなければ(
図4に示されるS1がNo判定の場合)、
図4に示されるS1~S7の処理は実行されない。
【0055】
S2において、制御装置50は、吸引源(不図示)と筒部材36とが接続状態となるように制御する。具体的には、制御装置50は、第1電磁弁42を作動させることで、吸引源と筒部材36とを接続する。吸引源と筒部材36とが接続されると、吸引口36aから
図5(A)に示される矢印方向に向けて糸Yを吸引することが可能となる。制御装置50は、S2の処理に続いて、S3の処理を実行する。
【0056】
S3において、制御装置50は、複数の糸Yに向けて、すなわち配列方向における一方側から他方側に向けて、カッタ32及び吸引装置35の移動が開始されるように制御する。具体的には、制御装置50は、第2電磁弁38を第1の位置に作動させる。第2電磁弁38が第1の位置に作動すると、シリンダロッド37aが拡方向(
図5の右方向)に向けて作動するように、エアシリンダ37に圧縮エアが供給される。シリンダロッド37aが拡方向に向けて作動すると、カッタ32及び吸引装置35がともに、配列方向の一方側から他方側(
図5の右方向)に向けて移動する。すなわち、糸規制ガイド20は移動せず、複数の糸Yと糸切断吸引装置30とが近づくように、糸切断吸引装置30が移動する。
【0057】
ところで、糸Yの線径が太い場合、刃部33が複数の糸Yをまとめて切断することが困難となる場合がある。また、刃部33が複数の糸Yがまとめて切断する場合、糸走行方向(
図5における下方向)に走行する糸Yによる過度なせん断力が刃部33に作用し、刃こぼれが発生するおそれがある。
【0058】
そこで、本実施の形態では、糸走行方向に走行する複数の糸Yを1本ずつ順に切断することができるように、カッタ32及び吸引装置35を、配列方向の一方側から他方側(
図5の右方向)に向けて低速で移動するようにしている。配列方向の一方側から他方側に向けてのカッタ32及び吸引装置35の移動速度を、例えば、従来は57mm/秒であったものを、本実施の形態では20mm/秒といった概ね3分の1程度としている。なお、配列方向の一方側から他方側に向けてのカッタ32及び吸引装置35の移動速度は、例えば、拡方向に向けて作動するシリンダロッド37aの作動速度を遅くすることで低速とすることができる。
【0059】
図5(A)に示されるように、配列方向に配列された12本の糸Y1~Y12のうち、配列方向における最も一方側の糸Y1と、配列方向の他方側において糸Y1と隣り合う糸Y2との間隔をdとする。また、糸Y1が切断状態となってから糸Y2が切断状態となるまでの時間をtとし、配列方向の一方側から他方側に向けて移動するカッタ32及び吸引装置35の移動速度をvとする。このとき、カッタ32及び吸引装置35は、「v≦d/t」の関係が成立する移動速度で、配列方向の一方側から他方側に向けて移動する。このようにすることで、
図5(A)に示されるように糸Y1が確実に切断及び吸引された後、
図5(B)に示されるように糸Y2の切断及び吸引が行われることとなる。なお、本実施の形態では、上記の間隔dは4mmである。また、上述したように、カッタ32及び吸引装置35の移動速度vは20mm/秒である。上記の間隔dと、カッタ32及び吸引装置35の移動速度vとの間には比例関係が成立するため、上記の時間tは概ね5秒となる。すなわち、カッタ32及び吸引装置35を、「v≦5d」の関係が成立する移動速度で、配列方向の一方側から他方側に向けて移動させるとよい。
【0060】
ところで、カッタ32及び吸引装置35の移動速度vを20mm/秒とし、糸Y1と糸Y2との間隔dを4mmとして発明者が行った実験結果によれば、線径を問わず、すなわち太銘柄の線種であったとしても、100%の確率で、糸Yを1本ずつ切断することができた。また、カッタ32及び吸引装置35の移動速度vを20mm/秒とし、糸Y1と糸Y2との間隔dを6mmとして行った実験結果においても、線径を問わず、100%の確率で、糸Yを1本ずつ切断することができた。ただし、カッタ32及び吸引装置35の移動速度vを従来と同様の57mm/秒とした場合には、糸Y1と糸Y2との間隔dが4mm及び6mmのいずれであっても、概ね20%の確率でしか糸Yを切断することができなかった。
【0061】
制御装置50は、S3の処理を実行した後、S4の処理に移る。ところで、糸走行方向に走行する糸Yをカッタ32で切断する場合、糸走行方向に走行する糸Yの張力が低下すると、かかる糸Yを良好に切断することができない場合がある。糸走行方向に走行する糸Yを良好に切断することができなかった場合、吸引口36aから糸Yを上手く吸引できず、切断された糸Yがカッタ32の下方で絡まってしまうおそれがある。
【0062】
そこで、制御装置50は、運転停止信号を受信したことに基づいてただちに回転中の巻取軸13を停止させるのではなく、複数の糸Yの全部が切断状態にあることを判別した上で(S4)、第1駆動モータ5a及び第2駆動モータ5bを停止させる(S5)ようにしている。すなわち、複数の糸Yが例えば12本の場合、この12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となった後、第1ゴデットローラ4a及び第2ゴデットローラ4bの回転が停止されることとなる。したがって、12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態にあると判別されない限り(S4においてYes判定されない限り)、第1ゴデットローラ4a及び第2ゴデットローラ4bの回転が継続される。このようにすることで、糸走行方向に走行する複数の糸Yの全部Y1~Y12を、張力低下が抑制された状態で確実に切断することが可能となる。
【0063】
「複数の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態にある」とは、複数の糸Yの全部Y1~Y12が現に切断された状態にのみならず、複数の糸Yの全部Y1~Y12が切断されたものとみなす状態を含む趣旨である。例えば、糸規制ガイド20の下流側に、複数の糸Yのそれぞれを検出する複数のセンサを設け、かかる複数のセンサの全部において糸Yを検出できなくなった場合、複数の糸Yの全部Y1~Y12が切断された状態であると判別することができる。
【0064】
また、複数の糸Yの全部Y1~Y12が切断される位置まで刃部33又は吸引口36aが到達した場合には、複数の糸Yの全部Y1~Y12が切断されたことを直接検出するものではないが、複数の糸Yの全部Y1~Y12が切断されたものとみなす状態であるといえる。同様に、シリンダロッド37aが拡方向に向けて作動限界まで作動したときに複数の糸Yの全部Y1~Y12が切断される態様であれば、シリンダロッド37aが拡方向に向けて作動限界まで作動した状態を、複数の糸Yの全部Y1~Y12が切断されたものとみなす状態であるといえる。
【0065】
制御装置50は、S5の処理を実行した後、S6の処理に移る。S6において、制御装置50は、糸巻取装置用駆動源(具体的には回転中の巻取軸13を回転させるためのモータ)停止する。このように、制御装置50が運転停止信号を受信した後、回転中の巻取軸13をただちに停止させるのではなく、12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまでは少なくとも回転速度が維持されるようにすることによって、未切断の糸について、少なくとも糸切断吸引装置30よりも下流側の糸Yの張力低下を抑制できる。
【0066】
12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断されて吸引装置35で吸引された状態となった後、カッタ32及び吸引装置35の移動を停止させた状態で、オペレータがサクションガン(不図示)を吸引口36aに近づける。そして、サクションガンの先端のカッタ(不図示)によって複数の糸Yを切断した後、サクションガンによって複数の糸Yを吸引保持する。
【0067】
その後、例えばオペレータの操作に応じて、制御装置50は、S7の処理として、退避位置(
図2に示される位置)に向けて、すなわち配列方向における他方側から一方側に向けて、カッタ32及び吸引装置35の移動が開始されるように制御する。具体的には、制御装置50は、第2電磁弁38を第2の位置に作動させる。第2電磁弁38が第2の位置に作動すると、シリンダロッド37aが縮方向(
図5の左方向)に向けて作動するように、エアシリンダ37に圧縮エアが供給される。シリンダロッド37aが縮方向に向けて作動すると、カッタ32及び吸引装置35がともに、配列方向の他方側から一方側に向けて移動する。
【0068】
[5.作用効果]
上述の本実施の形態によれば、カッタ32及び吸引装置35は、配列方向に配列された複数の糸Yを1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となるように、安定して走行している複数の糸に対して低速で移動する。そのため、短期間で刃部33が刃こぼれしてしまうことを抑制できるだけでなく、カッタ32により切断された糸Yを、吸引装置35により確実に吸引することが可能となる。また、切断された糸が絡んでしまうことも抑制できる。
【0069】
また、上述の本実施の形態によれば、例えば12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまで、ゴデットローラ4a,4bを停止させる制御が行われない。すなわち、12本の糸Y1~Y12のうち一部の糸Yが切断状態にあるだけでは、ゴデットローラ4a,4bは停止せず、糸Yの張力低下が生じるほど減速もしない。そのため、12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまで、未切断の糸Yの張力低下を抑制できる。よって、糸走行方向に走行する糸Yの全部Y1~Y12を確実に切断することができる。
【0070】
[6.拡張例]
上述の本実施の形態では、12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまで、ゴデットローラ4a,4bを停止させる制御が行われないが、必ずしもこれに限られない。例えば、12本の糸Y1~Y12のうち、配列方向における最も一方側の糸Y1が切断状態にあるだけではゴデットローラ4a,4bを停止させる制御が行われず、少なくとも複数の糸Y(例えば、糸Y1及び糸Y2)が切断状態となるまではゴデットローラ4a,4bを停止させる制御が行われないようにしてもよい。すなわち、12本の糸Yの全部Y1~Y12が必ずしも切断状態とならなくとも、少なくとも糸Y1が切断状態となるまではゴデットローラ4a,4bを停止させないようにすることで、少なくとも糸Y1については確実に切断することができる。
【0071】
また、上述の本実施の形態では、12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となった後、第1ゴデットローラ4a及び第2ゴデットローラ4bの回転を停止している。すなわち、制御装置50は、運転停止信号を受信したとしても2つのゴデットローラ4a,4bの回転をただちに停止させるのではなく、2つのゴデットローラ4a,4bの回転速度が維持された状態で回転を継続している。ただし、未切断の糸Yの張力低下を抑制できれば、上記の態様に限らず、制御装置50が運転停止信号を受信してから12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまでの間、2つのゴデットローラ4a,4bの回転速度が少なくとも減速されなければよい。よって、制御装置50は、運転停止信号を受信した後、12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまでの間に、2つのゴデットローラ4a,4bの回転速度が増速されるようにしてもよい。
【0072】
また、上述の本実施の形態では、制御装置50が運転停止信号を受信した後、2つのゴデットローラ4a,4bの回転速度が減速されないようにしているが、必ずしもこれに限られない。例えば、2つのゴデットローラ4a,4bのうち、少なくとも一つのゴデットローラ(例えば、第2ゴデットローラ4bよりも糸切断吸引装置30に近い第1ゴデットローラ4a)の回転速度が減速されないようにすれば、未切断の糸Yの張力低下を抑制できる。
【0073】
また、上述の本実施の形態では、制御装置50が運転停止信号を受信した後、ゴデットローラ4a,4bの回転速度が減速されないようにしているが、これに代えて又は加えて、糸切断吸引装置30の下流側に配置される糸送りローラの回転速度が減速されないようにした場合でも、未切断の糸Yの張力低下を抑制できる。
【0074】
また、上述の本実施の形態において、複数の糸Yそれぞれに対応して左右方向に並んだ複数の溝20aを有する糸規制ガイド20を備えている。しかし、この糸規制ガイド20は、複数の糸Yの張力低下が抑制された状態で、複数の糸Yをカッタ32及び吸引装置35により切断及び吸引するための必須の構成ではない。すなわち、本願発明は、糸規制ガイド20を備えない紡糸引取機に適用することもできる。また、本願発明は、糸規制ガイド20を備えるものの、カッタ32及び吸引装置35により複数の糸Yを切断及び吸引する際に、例えば複数の糸Yから退避する紡糸引取機に適用することもできる。
【0075】
なお、上述の本実施の形態では、複数の糸Yに対してカッタ32及び吸引装置35を移動させて、複数の糸Yと、カッタ32及び吸引装置35と、を近づける例について説明した。ただし、複数の糸Yと、カッタ32及び吸引装置35と、を近づけるには、複数の糸Yに対してカッタ32及び吸引装置35を移動させる例に限定されない。例えば、カッタ32及び吸引装置35に対して複数の糸Yを移動させてもよいし、複数の糸Yに対してカッタ32及び吸引装置35を移動させるとともに、カッタ32及び吸引装置35に対して複数の糸Yを移動させてもよい。これらの変形例について、以下に説明する。
【0076】
[8.変形例]
次に、本本実施の形態の糸規制ガイド20及び糸切断吸引装置30に変更を加えた第1変形例及び第2変形例について、以下に説明する。なお、上述の糸切断吸引装置30と共通する構成については説明を省略し、糸切断吸引装置30と異なる構成を主として説明する。
【0077】
[8-1.第1変形例]
図6は、第1変形例に係る糸規制ガイド20A及び糸切断吸引装置30Aの一例を示す概略図である。糸規制ガイド20Aは、糸規制ガイド20(例えば
図2を参照)と同様に、複数の糸Yに対応して左右方向に並んだ複数の溝20Aaを有する櫛歯状をしており、複数の溝20Aaには、それぞれ複数の糸Yが通される。
【0078】
第1変形例に係る糸切断吸引装置30Aは、複数の糸Yの切断及び吸引が行われるとき、配列方向における他方側から一方側に向けて糸規制ガイド20Aが移動する点において、配列方向における一方側から他方側に向けてカッタ32及び吸引装置35が移動する糸切断吸引装置30と異なる。すなわち、この第1変形例では、糸切断吸引装置30Aが移動せず、複数の糸Yと糸切断吸引装置30Aとが近づくように糸規制ガイド20Aが移動する。
【0079】
図6に示されるように、糸切断吸引装置30Aは、エアシリンダ37(例えば
図2を参照)を備えておらず、エアシリンダ37よりも拡縮のストロークが大きいエアシリンダ39を備えている。エアシリンダ39は、糸規制ガイド20Aを、カッタ32及び吸引装置35に対して移動させるものである。エアシリンダ39は、シリンダロッド39aを有しており、基体となるホルダ31内に設けられている。シリンダロッド39aは、糸規制ガイド20Aの配列方向における一方側の端部に接続されている。エアシリンダ39が駆動すると、シリンダロッド39aが左右方向に拡縮し、これに伴って糸規制ガイド20Aが左右方向に進退する。
図6に示される糸規制ガイド20Aの位置は、紡糸引取機1が運転中における位置である。なお、シリンダロッド39aが拡縮したとしてもホルダ31は移動しない。
【0080】
また、制御装置50は、運転停止時処理のS3において、配列方向における一方側から他方側に向けてカッタ32及び吸引装置35の移動が開始されるように制御することに代えて、配列方向における他方側から一方側に向けて糸規制ガイド20Aの移動が開始されるように制御する。具体的には、シリンダロッド39aを縮方向に向けて作動させて、糸規制ガイド20Aを、配列方向の他方側から一方側(
図5の左方向)に向けて移動させる。このとき、糸規制ガイド20Aは、一の糸Yn(nは整数)と、この一の糸Ynと隣り合う糸Y(n+1)との配列方向における間隔を保ちながら、配列方向における他方側から一方側に向けて移動する。すなわち、配列方向に沿う糸Ynと糸Y(n+1)との間隔は、複数の糸Yと、カッタ32及び吸引装置35と、が近づく前と近付いた後とで変わらない。このようにして、カッタ32及び吸引装置35が複数の糸Yに対して相対移動する。
【0081】
糸規制ガイド20Aは、配列方向の他方側から一方側(
図6の左方向)に向けて、例えば20mm/秒といった低速で移動する。なお、配列方向の他方側から一方側に向けての糸規制ガイド20Aの移動速度は、例えば、縮方向に向けて作動するシリンダロッド39aの作動速度を遅くすることで低速とすることができる。
【0082】
例えば、配列方向に配列された複数の糸Yのうち、一の糸Yn(nは整数)と、配列方向の他方側において糸Ynと隣り合う糸Y(n+1)との間隔を全てdとする。また、糸Ynが切断状態となってから糸Y(n+1)が切断状態となるまでの時間をtとし、配列方向の他方側から一方側に向けて移動する糸規制ガイド20Aの移動速度をuとする。このとき、糸規制ガイド20Aを、糸Ynと糸Y(n+1)との間隔dを確保しつつ、「u≦d/t」の関係、すなわち「u≦d/5」の関係が成立する移動速度で配列方向の他方側から一方側に向けて移動させることができる。よって、配列方向に配列された複数の糸Yを、1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となる。
【0083】
このように、第1変形例に係る糸規制ガイド20A及び糸切断吸引装置30Aによれば、上述の本実施の形態において説明した作用効果と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、配列方向に配列された複数の糸Yを1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となるため、短期間で刃部33が刃こぼれしてしまうことを抑制できるだけでなく、カッタ32により切断された糸Yを、吸引装置35により確実に吸引することが可能となる。また、例えば12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまで、ゴデットローラ4a,4bを停止させる制御が行われない。そのため、上述の本実施の形態において説明した作用効果と同様に、12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまで、未切断の糸Yの張力低下を抑制できる。よって、糸走行方向に走行する糸Yの全部Y1~Y12を確実に切断することができる。
【0084】
さらに、第1変形例に係る糸規制ガイド20A及び糸切断吸引装置30Aによれば、カッタ32を移動させずに固定された状態で糸Yを切断することができるため、移動による振動等の影響を受けずに安定した状態で糸Yの切断を行うことができる。また、糸規制ガイド20Aは、糸Yn(nは整数)と糸Y(n+1)との間隔dを確保しつつ移動する。すなわち、上記の間隔dは、紡糸引取機1の運転中(すなわち紡糸生産時)と、紡糸引取機1の運転が停止して糸切断吸引装置30Aにより糸Yを切断及び吸引しているときとで同じである。よって、糸規制ガイド20Aが糸切断吸引装置30Aに対して移動した場合であっても、配列方向に配列された複数の糸Yを、確実に、1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となる。
【0085】
また、第1変形例に係る糸規制ガイド20A及び糸切断吸引装置30Aは、上述の本実施の形態において説明した拡張例と同様に拡張することができる。
【0086】
また、上述の第1変形例では、複数の糸Yの切断及び吸引が行われるとき、複数の糸Yと糸切断吸引装置30Aとが近づくように糸規制ガイド20Aが移動する旨を説明したが、糸切断吸引装置30Aに対して複数の糸Yを近付かせるための手段は、糸規制ガイド20Aに限られない。例えば、複数の糸Yに対応して左右方向に並んだ複数の溝20Aaを有する糸規制ガイド20Aに代えて、複数の糸Yを通すことができる例えばフック状の一つ又は複数の溝を有するガイドとしてもよい。この場合、複数の糸Yを一つ又は複数の溝で引っ掛けるように、配列方向における他方側から一方側に向けてガイドを移動させることによって、配列方向に配列された複数の糸Yを、切断及び吸引することが可能となる。
【0087】
[8-2.第2変形例]
図7は、第2変形例に係る糸規制ガイド20A及び糸切断吸引装置30Bの一例を示す概略図である。糸規制ガイド20Aは、第1変形例に係る糸規制ガイド20Aと同様の構成であり、複数の溝20Aaには、それぞれ複数の糸Yが通される。
【0088】
第2変形例に係る糸切断吸引装置30Bでは、複数の糸Yの切断及び吸引が行われるとき、配列方向における一方側から他方側に向けてのカッタ32及び吸引装置35の移動と、配列方向における他方側から一方側に向けての糸規制ガイド20Aの移動と、の両方がともに行われる。第2変形例に係る糸切断吸引装置30Bは、このようにして、カッタ32及び吸引装置35が複数の糸Yに対して相対移動するようにしたものである。すなわち、この第2変形例では、複数の糸Yと糸切断吸引装置30Bとが近づくように、糸切断吸引装置30B及び糸規制ガイド20Aの両方が移動する。
【0089】
図7に示されるように、糸切断吸引装置30Bは、上述の本実施の形態において
図2、
図5(A)、(B)を参照して説明したエアシリンダ37と、上述の第1変形例において
図6を参照して説明したエアシリンダ39との両方を備えている。
【0090】
また、制御装置50は、運転停止時処理のS3において、配列方向における一方側から他方側に向けてカッタ32及び吸引装置35の移動が開始されるように制御するとともに、配列方向における他方側から一方側に向けて糸規制ガイド20Aの移動が開始されるように制御する。具体的には、シリンダロッド37aを拡方向に向けて作動させるとともに、シリンダロッド39aを縮方向に向けて作動させる。このようにして、カッタ32及び吸引装置35を、複数の糸Yに対して相対移動させることができる。なお、糸規制ガイド20Aは、一の糸Yn(nは整数)と、この一の糸Ynと隣り合う糸Y(n+1)との配列方向における間隔を保ちながら、配列方向における他方側から一方側に向けて移動する。
【0091】
また、複数の糸Yに対するカッタ32及び吸引装置35の相対速度が、例えば20mm/秒といった低速で移動するようにすることが好ましい。例えば、拡方向に向けて作動するシリンダロッド37aの作動速度と、縮方向に向けて作動するシリンダロッド39aの作動速度との両方を遅くすることで、複数の糸Yに対するカッタ32及び吸引装置35の相対速度を低速とすることができる。
【0092】
例えば、配列方向に配列された複数の糸Yのうち、一の糸Yn(nは整数)と、配列方向の他方側において糸Ynと隣り合う糸Y(n+1)との間隔を全てdとする。また、糸Ynが切断状態となってから糸Y(n+1)が切断状態となるまでの時間をtとし、配列方向の一方側から他方側に向けて移動するカッタ32及び吸引装置35の移動速さをVとし、配列方向の他方側から一方側に向けて移動する糸規制ガイド20Aの移動速さをUとする。このとき、糸Yに対するカッタ32及び吸引装置35の移動速度は(V+U)である。このとき、カッタ32、吸引装置35及び糸規制ガイド20Aのそれぞれを、「V+U≦d/t」の関係、すなわち「V+U≦d/5」の関係が成立する移動速さで移動させる(特に糸規制ガイド20Aについては、糸Ynと糸Y(n+1)との間隔dを確保しつつ移動させる)ことができる。そのため、配列方向に配列された複数の糸Yを、1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となる。また、糸規制ガイド20Aは、糸Yn(nは整数)と糸Y(n+1)との間隔dを確保しつつ移動する。すなわち、上記の間隔dは、紡糸引取機1の運転中と、紡糸引取機1の運転が停止して糸切断吸引装置30Bにより糸Yを切断及び吸引しているときとで同じである。よって、糸規制ガイド20Aが糸切断吸引装置30Bに対して移動した場合であっても、配列方向に配列された複数の糸Yを、確実に、1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となる。
【0093】
このように、第2変形例に係る糸規制ガイド20A及び糸切断吸引装置30Bによれば、上述の本実施の形態において説明した作用効果と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、配列方向に配列された複数の糸Yを1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となるため、短期間で刃部33が刃こぼれしてしまうことを抑制できるだけでなく、カッタ32により切断された糸Yを、吸引装置35により確実に吸引することが可能となる。また、例えば12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまで、ゴデットローラ4a,4bを停止させる制御が行われない。そのため、上述の本実施の形態及び第1変形例において説明した作用効果と同様に、12本の糸Yの全部Y1~Y12が切断状態となるまで、見切断の糸Yの張力低下を抑制できる。よって、糸走行方向に走行する糸Yの全部Y1~Y12を確実に切断することができる。
【0094】
さらに、第1変形例に係る糸規制ガイド20A及び糸切断吸引装置30Bによれば、カッタ32及び吸引装置35の移動量を、上述の本実施の形態において説明したカッタ32及び吸引装置35と比べて小さくすることができるため、エアシリンダ37をコンパクトにすることができる。また、糸規制ガイド20Aの移動量を、上述の第1変形例において説明した糸規制ガイド20Aと比べて小さくすることができるため、エアシリンダ39をコンパクトにすることができる。このように、複数の糸Yを切断吸引するために必要な、複数の糸に対する糸切断吸引装置30Bのな移動量を、カッタ32及び吸引装置35の移動量と、糸規制ガイド20Aの移動量とに分散させることができる。よって、糸切断吸引装置30Bの周辺設備(特に、エアシリンダ37及びエアシリンダ39)ひいては装置全体の大型化を抑制しつつ、配列方向に配列された複数の糸Yの全部を、1本ずつ順に切断及び吸引することが可能となる。
【0095】
また、第2変形例に係る糸規制ガイド20A及び糸切断吸引装置30Bは、上述の本実施の形態において説明した拡張例と同様に拡張することができる。
【0096】
なお、上述の第2変形例では、複数の糸Yの切断及び吸引が行われるとき、複数の糸Yと糸切断吸引装置30Bとが近づくように糸切断吸引装置30B及び糸規制ガイド20Aの両方が移動する旨を説明したが、糸切断吸引装置30Bに対して複数の糸Yを近付かせるための手段については、糸規制ガイド20Aに限られない。例えば、変形例1においても説明したように、複数の糸Yに対応して左右方向に並んだ複数の溝20Aaを有する糸規制ガイド20Aに代えて、複数の糸Yを通すことができる例えばフック状の一つ又は複数の溝を有するガイドとしてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 紡糸引取機
32 カッタ
30 糸切断吸引装置
4a 第1ゴデットローラ
4b 第2ゴデットローラ
50 制御装置
Y 糸
【手続補正書】
【提出日】2023-04-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸が並ぶ配列方向に沿って走行する前記複数の糸を切断可能なカッタと、該カッタで切断された糸を吸引可能な吸引装置と、を有する糸切断吸引装置と、
前記糸切断吸引装置よりも糸走行方向の下流側に配置され、走行する前記複数の糸を前記糸走行方向に送るローラと、
前記糸切断吸引装置により前記糸が切断されて吸引されるときに、前記ローラを停止させる制御を行うことが可能な制御装置と、
を備え、
前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、を近づけることによって、前記複数の糸を順に切断して吸引可能であり、
前記制御装置は、
前記複数の糸のうち一の糸が切断状態であるとしても前記ローラの回転を減速させず、少なくとも複数の糸が切断状態となったことに基づいて前記ローラを停止させる制御を行う、
ことを特徴とする紡糸引取機。
【請求項2】
前記複数の糸が前記糸走行方向に沿って走行している状態で、前記カッタ及び前記吸引装置が前記複数の糸に近付くように移動する、
ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸引取機。
【請求項3】
前記カッタ及び前記吸引装置が移動せず、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、が近づくように前記複数の糸を移動させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸引取機。
【請求項4】
前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、が近づくように、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、の両方が移動する、
ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸引取機。
【請求項5】
前記配列方向に沿う前記複数の糸の間隔は、
前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、が近づく前と近付いた後とで変わらないように構成されている、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の紡糸引取機。
【請求項6】
前記複数の糸のうち第1の糸と、前記配列方向に沿って前記第1の糸に隣り合う第2の糸と、の間隔をdとし、
前記複数の糸に対する前記カッタ及び前記吸引装置の相対速度をvとした場合、
前記複数の糸を順に切断して吸引するとき、v≦5d の関係で、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置、とが近づくように、前記複数の糸と、前記カッタ及び前記吸引装置と、のうち少なくともいずれかが移動する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の紡糸引取機。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記配列方向に並んで走行する前記複数の糸の全部が切断状態となるまで前記ローラの回転を減速させず、前記複数の糸の全部が切断状態となったことに基づいて前記ローラを停止させる制御を行う、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の紡糸引取機。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
(2)本発明の紡糸引取機において、
前記複数の糸が前記糸走行方向に沿って走行している状態で、前記カッタ及び前記吸引装置が前記複数の糸に近付くように移動する、
ことを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
図3に示されるように、制御装置50は、少なくとも、運転停止信号及び運転開始信号を受信可能となっている
。運転停止信号及び運転開始信号は、例えば、オペレータの操作に基づいて発生する。また、運転停止信号は、糸Yの切断を検知したとき、すなわち糸切信号を受信したときにも発生する。