(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163603
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
G05B 11/32 20060101AFI20231102BHJP
B21B 37/20 20060101ALI20231102BHJP
G05B 13/02 20060101ALN20231102BHJP
【FI】
G05B11/32 F
B21B37/20 110B
G05B13/02 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074612
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 泰志
(72)【発明者】
【氏名】服部 哲
【テーマコード(参考)】
4E124
5H004
【Fターム(参考)】
4E124AA07
4E124AA08
4E124BB02
4E124BB03
4E124BB06
4E124CC02
4E124CC03
4E124CC05
4E124CC06
4E124EE01
4E124GG01
5H004GA04
5H004GB03
5H004HA06
5H004HA10
5H004HB06
5H004HB10
5H004KA11
5H004KA69
5H004KB04
5H004KB33
5H004KC23
(57)【要約】
【課題】制御の精度を向上する技術を提供する。
【解決手段】制御システムが、変動要因の要因値に制御ゲインを乗算した第1制御出力を用いて制御対象に対するFF制御を行う第1制御装置と、要因値に制御ゲインを乗算して第2制御出力を算出し、状態量の実績値と目標値との偏差を積分して第3制御出力を算出し、制御対象に対して、第2制御出力を用いたFF制御と、第3制御出力を用いた積分制御とを行う第2制御装置と、制御対象に対する制御をどちらの制御装置に実行させるか選択する選択装置と、状態量から推定要因値を算出する不可観測変動要因予測装置と、推定要因値に基づいてどちらの制御装置を選択するか判定する制御装置切替判定装置と、を有する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
状態量を持ち所定の制御を実行し制御結果を得る制御対象に対して制御出力を出力する制御システムであって、
前記制御結果を変動させる要因となる変動要因に関する値である要因値に制御ゲインを乗算することにより第1制御出力を算出し、前記第1制御出力を用いて前記制御対象に対するフィードフォワード制御を行う第1制御装置と、
前記要因値に制御ゲインを乗算することにより第2制御出力を算出し、前記状態量の実績値と目標値との偏差を積分することにより第3制御出力を算出し、前記制御対象に対して、前記第2制御出力を用いたフィードフォワード制御と、前記第3制御出力を用いた積分制御とを行う第2制御装置と、
前記制御対象に対する制御を前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらに実行させるか選択する選択装置と、
前記状態量から要因値を予測した推定要因値を算出する不可観測変動要因予測装置と、
前記推定要因値に基づいて前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらを選択するか判定し、判定結果を前記選択装置に指示する制御装置切替判定装置と、
を有する制御システム。
【請求項2】
前記制御対象は、状態量を与えられ所定の制御を実行し制御結果を得る工程が上流から下流に複数連なるものであり、
前記不可観測変動要因予測装置は、上流工程における前記状態量から前記推定要因値を算出し、
前記制御装置切替判定装置は、前記上流工程における前記推定要因値を、前記上流工程よりも下流にある下流工程において前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらを用いるかの判定に用いる、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記制御対象は、前記上流工程と前記下流工程とにおいて同一の被加工物に対して加工を行うものであり、
前記変動要因は、その要因値が前記被加工物の箇所に依存して変化するものであり、
前記上流工程において前記推定要因値の所定の時間幅における中央値を算出し、前記被加工物における前記推定要因値が前記中央値となる箇所を特定し、前記箇所が前記下流工程における前記被加工物に対して加工を行う位置に到達するタイミングを算出し、前記第2制御装置から前記第1制御装置に切り替えるときに前記タイミングで切り替えることを前記選択装置に指示する制御補正装置を更に有する、
請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記上流工程において前記推定要因値に基づいて前記下流工程における前記第1制御出力の時間変化を推定し、前記第1制御出力の時間変化と、前記制御対象を制御する最大速度とに基づいて算出した割合で前記第1制御装置の制御ゲインを補正する制御補正装置を更に有する、
請求項2に記載の制御システム。
【請求項5】
前記制御装置切替判定装置は、前記推定要因値の周波数および振幅の少なくも一方に基づいて前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらを選択するか判定する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項6】
前記制御装置切替判定装置は、前記第1制御装置と前記第2制御装置との切り替えを、前記推定要因値が指令値と一致するタイミングで行うことを前記選択装置に指示する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項7】
前記不可観測変動要因予測装置は、算出した前記推定要因値を前記第1制御装置に入力し、
前記第1制御装置は、入力された前記推定要因値に前記制御ゲインを乗算することにより前記第1制御出力を算出する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項8】
前記第1制御装置は、前記要因値が前記状態量を増加させる正方向に変化している場合には、前記要因値に正方向補正ゲインを乗算し、前記要因値が前記状態量を減少させる負方向に変化している場合には、前記要因値に負方向補正ゲインを乗算する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項9】
前記制御対象は、被圧延材を圧延により加工する圧延機であり、
前記状態量は、前記被圧延材の板厚および前記被圧延材に加わる張力の少なくとも一方である、
請求項1から8のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項10】
状態量を持ち所定の制御を実行し制御結果を得る制御対象に対して制御出力を出力する制御システムであって、前記制御結果を変動させる要因となる変動要因に関する値である要因値に制御ゲインを乗算することにより第1制御出力を算出し、前記第1制御出力を用いて前記制御対象に対するフィードフォワード制御を行う第1制御装置と、前記要因値に制御ゲインを乗算することにより第2制御出力を算出し、前記状態量の実績値と目標値との偏差を積分することにより第3制御出力を算出し、前記制御対象に対して、前記第2制御出力を用いたフィードフォワード制御と、前記第3制御出力を用いた積分制御とを行う第2制御装置と、を有する制御システムにおける制御方法であって、
前記状態量から要因値を予測した推定要因値を算出し、
前記推定要因値に基づいて前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらによって前記制御対象に対する制御を実行するか選択する、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラント等の制御対象を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントを制御対象として制御が行われるプラント制御では、プラントに関する状態量を変動させる要因が存在する。その要因によってプラントの状態量が変動すると制御結果の精度が低下する。
【0003】
例えば、被圧延材の圧延によって薄い金属材料を生産するためのプラントである圧延機では、被圧延材に硬度ムラがあると、その硬度ムラによって、被圧延材の板厚が位置に応じて異なる板厚変動(板厚不良)が生じることがある。硬度ムラとは、被圧延材の硬さが一様でないことである。被圧延材の硬さは、圧延される際の変形抵抗となるため、圧延の際に被圧延材を搬送する圧延方向に硬度ムラがあると、被圧延材の潰れ方が位置に応じて異なることとなり、圧延された後の板厚が位置に応じて変化してしまい、板厚変動が発生する。
【0004】
また、圧延による金属材料の生産では、一般的に、被圧延材の板厚を元の原板厚から所望の製品厚まで加工するために、被圧延材が圧延機に複数回投入される。このため、被圧延材に硬度ムラがあると、圧延機に投入されるごとに板厚変動が発生してしまう。
【0005】
特許文献1~3には、複数の圧延機を含むタンデム圧延機にて生じる板厚変動を抑制することが可能な技術が開示されている。特許文献1~3に記載の技術では、前段の圧延機によって発生した板厚変動を検出し、その板厚変動に基づいて後段の圧延機を制御するフィードフォワード制御を行うことで、板厚変動を抑制している。このようなフィードフォワード制御では、前段の圧延機による板厚変動に応じて、フィードフォワード制御の制御ゲインが調整される。また、特許文献3に記載の技術は、板厚のような状態量と目標値との偏差が大きい場合、制御ゲインに加えて、制御出力タイミングを調整することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3384330号公報
【特許文献2】特許5581964号公報
【特許文献3】特許6404195号公報
【特許文献4】特開2021-081772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に制御対象プラントを制御するプラント制御装置では、板厚変動のような変動周期の短い状態量変動を抑制するためのフィードフォワード制御とは別に、長期的に状態量に生じるオフセット誤差(状態量と指令値との差)を抑制するためのフィードバック制御が行われることがある。
【0008】
フィードバック制御は、状態量を積分した制御出力を用いる積分制御を含むが、積分制御では、状態量変動と制御出力との間に90度の位相ズレが発生する。このため、フィードフォワード制御とフィードバック制御との両方が行われると、フィードバック制御による位相ズレの影響で、フィードフォワード制御の制御出力タイミングが適切な値からずれてしまい、フィードフォワード制御の制御効果が低減し、制御の精度が低下してしまうことがある。これについて、特許文献1~3には、フィードバック制御によりフィードフォワード制御の制御効果の低減を抑制することについて何ら開示していない。
【0009】
一方、特許文献4には、フィードフォワード制御の制御効果の低減を抑制しつつ、オフセット誤差を低減する技術が提案されている。しかしながら、その特許文献4に記載の技術によっても必ずしも制御に十分な精度が得られるとは限らず、制御の精度の更なる向上が望まれている。
【0010】
本開示の目的は、制御の精度を向上する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に従う制御システムは、状態量を持ち所定の制御を実行し制御結果を得る制御対象に対して制御出力を出力する制御システムであって、前記制御結果を変動させる要因となる変動要因に関する値である要因値に制御ゲインを乗算することにより第1制御出力を算出し、前記第1制御出力を用いて前記制御対象に対するフィードフォワード制御を行う第1制御装置と、前記要因値に制御ゲインを乗算することにより第2制御出力を算出し、前記状態量の実績値と目標値との偏差を積分することにより第3制御出力を算出し、前記制御対象に対して、前記第2制御出力を用いたフィードフォワード制御と、前記第3制御出力を用いた積分制御とを行う第2制御装置と、前記制御対象に対する制御を前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらに実行させるか選択する選択装置と、前記状態量から要因値を予測した推定要因値を算出する不可観測変動要因予測装置と、前記推定要因値に基づいて前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらを選択するか判定し、判定結果を前記選択装置に指示する制御装置切替判定装置と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、制御の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の制御対象プラントの一例を示す図である。
【
図3】
図2で説明した圧延現象を表すモデルを示す図である。
【
図6】積分制御による制御状態量と制御結果との位相ズレを説明するための図である。
【
図7】積分制御による制御状態量と制御結果との位相ズレを説明するための図である。
【
図8】積分制御による制御状態量と制御結果との位相ズレを説明するための図である。
【
図9】制御状態量に対するフィードフォワード制御の影響を説明するための図である。
【
図10】制御結果と制御ゲインおよび位相シフト量との関係を示す図である。
【
図11】本実施形態のプラント制御システムの概略ブロック図である。
【
図13】シミュレーションによる制御装置2の制御結果の一例を示す図である。
【
図14】状態量実績の偏差の変化を示す波形が正方向に偏った状態を示す図である。
【
図15】シミュレーションによる制御装置2のオフセット除去結果の一例を示す図である。
【
図18】オフセット補正の原理を説明するための図である。
【
図19】オフセット補正装置の一例を示す図である。
【
図20】シミュレーションによる制御装置1の制御結果の一例を示す図である。
【
図21】シミュレーションによる制御装置1の制御結果の一例を示す図である。
【
図22】プラント制御装置を説明するための図である。
【
図23】被圧延材の硬度ムラを評価する構成を示す図である。
【
図24】推定変形抵抗を算出する処理のフローチャートである。
【
図25】制御装置を切り替える処理のフローチャートである。
【
図26】制御装置2から制御装置1への切り替えについて説明するための図である。
【
図28】状態量の偏差を示した波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。ここではプラント制御システムによって制御対象プラントを制御する構成を例示する。
【0015】
<<制御対象プラント>>
【0016】
まず、制御対象プラントについて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の制御対象プラントの一例を示す図である。
【0018】
図1では、制御対象プラントとして、被圧延材200を圧延する複数の圧延機を備えるタンデム圧延機100が示されている。
図1に示すタンデム圧延機100は、4台の圧延機11~14を直列に並べた4スタンドのタンデム圧延機であるが、圧延機は4台に限定されない。
【0019】
各圧延機11~14は、被圧延材200を挟む複数のロールを備え、それらのロールを用いて被圧延材200を圧延する圧延処理を行う。図の例では、各圧延機11~14は、ロールとして被圧延材200を直接挟む1対の作業ロール1と、各作業ロール1の外側に配置される1対の中間ロール2と、各中間ロール2の外側に配置される1対のバックアップロール3を有する。また、被圧延材200は、圧延機11、圧延機12、圧延機13、圧延機14の順に搬送される。以下では、圧延機11を#1スタンド圧延機11、圧延機12を#2スタンド圧延機12、圧延機13を#3スタンド圧延機13、圧延機14を#4スタンド圧延機14と呼ぶこともある。
【0020】
図2は、各圧延機11~14によって被圧延材200に生じる圧延現象を説明するための図である。
図2に示すように被圧延材200の圧延は、被圧延材200を挟む1対の作業ロール1によって被圧延材200を潰すことで実施される。このとき、被圧延材200には、被圧延材200の搬送方向である圧延方向に対して、作業ロール1よりも前段側に向かう入側張力T
bと、作業ロール1よりも後段側に向かう出側張力T
fとが加わる。また、被圧延材200には、垂直方向に対して、作業ロール1間の距離であるロールギャップSに応じて決定される圧延荷重Pが印加される。これにより、被圧延材200は圧延され、被圧延材200の板厚が入側板厚Hから出側板厚hまで変化する。この圧延現象による先進率をf、後進率をbとすると、被圧延材200の入側速度V
eおよび出側速度V
oは、作業ロール1の回転速度である作業ロール速度がV
Rの場合、V
e=V
R(1+b)、V
o=V
R(1+f)となる。
【0021】
図3は、
図2で説明した圧延現象を表すモデルを示す図である。圧延機において被圧延材200に印加される入側張力T
bおよび出側張力T
fは、自圧延機及びその前後の圧延機の入側速度V
eおよび出側速度V
oに応じて変化する。また、張力が変化すると、圧延荷重P、出側板厚h、入側速度V
eおよび出側速度V
oが変化する。したがって、圧延現象は、入側板厚H、作業ロール速度V
RおよびロールギャップSを入力、入側張力T
b、出側張力T
fおよび出側板厚hを出力とする複雑な現象であり、さらには、張力を介して前後の圧延機における圧延現象とも関連するため、非常に複雑である。
【0022】
図1の説明に戻る。各圧延機11~14には、作業ロールを駆動するための駆動装置21~24と、作業ロール1のロールギャップを制御するロールギャップ制御装置31~34とが設けられる。駆動装置21~24は、例えば、作業ロール1を駆動する電動機(図示せず)と、電動機を操作して作業ロール速度を制御する電動機速度制御装置(図示せず)とを含む。
【0023】
また、各圧延機11~14の入側および出側には、被圧延材200の板厚を測定する板厚計40~44と、被圧延材200に印加されている張力を測定する張力計50~54とが設置されている。なお、被圧延材200の板厚は、被圧延材200の圧延により生産する製品の品質の観点から重要である。また、被圧延材200に印加される張力は、圧延操業の安定性のために重要であり、板厚の精度にも関わる。
【0024】
また、圧延機14の出側には、圧延機14の出側張力を発生させる出側ブライドルロール15が設けられている。出側ブライドルロール15には、駆動装置25が設けられている。駆動装置25は、例えば、出側ブライドルロール15を駆動する電動機(図示せず)と、電動機を操作して出側ブライドルロール15の回転速度を制御する電動機速度制御装置(図示せず)とを含む。
【0025】
また、各圧延機11~14には、圧延処理を制御するためのプラント制御装置として、板厚制御装置61~64と、張力制御装置71~74とが設けられている。
【0026】
圧延機11に対応する板厚制御装置61は、ロールギャップ制御装置31を用いて圧延機11のロールギャップを制御することで、圧延機11の出側板厚を制御する。圧延機12~14に対応する板厚制御装置62~64は、前段の圧延機11~13の駆動装置21~23を用いて、前段の圧延機11~13の作業ロール速度である前段スタンド速度を制御して、各圧延機12~14の出側板厚を制御する。
【0027】
板厚制御装置62~64は、対応する圧延機12~14の入側の板厚計(前段の圧延機11~13の出側の板厚計)41~43の検出結果を用いたフィードフォワード制御と、対応する圧延機12~14の出側の板厚計42~44の検出結果を用いたフィードバック制御とを実行する。例えば、板厚制御装置62の場合、板厚計41の検出結果を用いたフィードフォワード制御と、出側の板厚計42の検出結果を用いたフィードバック制御とが実施される。
【0028】
また、張力制御装置71~73は、対応する圧延機11~13の出側の張力計51~53の検出結果に基づいて、後段の圧延機12~14のロールギャップ制御装置32~34を用いて後段の圧延機12~14のロールギャップを制御して、対応する圧延機11~13の出側張力を制御する。例えば、張力制御装置71の場合、圧延機11の出側の張力計51の検出結果に基づいて、圧延機12のロールギャップを制御する。また、張力制御装置74は、対応する圧延機14の出側の張力計54の検出結果に基づいて、駆動装置25を用いて出側ブライドルロール15の回転速度を制御することにより、圧延機14の出側張力を制御する。
【0029】
次に板厚制御装置61~64が行う板厚制御についてより詳細に説明する。なお、板厚制御においては、板厚が変化する圧延機と板厚を検出する板厚計が物理的に離れた位置にある。そのため、被圧延材200の入側板厚の偏差を検出してから、その箇所が実際の制御操作を実施する圧延機に到達するまでには無駄時間が存在する。また、圧延機にて変化した板厚を出側の板厚計で検出するまでにも無駄時間が存在する。
【0030】
図4は、板厚制御の一例を説明するための図であり、#4スタンド圧延機14に対応する板厚制御装置64の構成例を示している。
図4の例では、板厚計43は、#3スタンド圧延機13の出側板厚と目標値との偏差を入側板厚偏差ΔHとして計測して出力し、板厚計44は、圧延機14の出側板厚と目標値との偏差を出側板厚偏差Δhとして計測して出力する。各目標値は予め定められている。
【0031】
板厚制御装置64は、入側の板厚計から圧延機までの無駄時間を補正する移送時間補償部201と、フィードフォワード制御部202と、比例回路203と、積分回路204とを有する。
【0032】
移送時間補償部201は、#3スタンド圧延機13の出側の板厚計43から出力された入側板厚偏差ΔHを、位相シフト量TFFだけ位相シフトさせる移送処理を行う。位相シフト量TFFは、移送時間TX3D-4とフィードフォワード制御用制御出力タイミングシフト量(以下、タイミングシフト量と略す)ΔTFFとを用いて、TFF=TX3D-4-ΔTFFで表される。移送時間TX3D-4は、被圧延材200における入側板厚偏差ΔHを有する箇所が板厚計43から圧延機14の作業ロール1の直下まで移動するのにかかる時間である。タイミングシフト量ΔTFFは、入側板厚偏差ΔHに応じた制御出力230が駆動装置23に到達するまでの無駄時間および制御出力230が駆動装置23に入力されてから応答するまでの応答時間などに応じて定められる。
【0033】
フィードフォワード制御部202は、移送時間補償部201にて移送処理が行われた入側板厚偏差ΔHに制御ゲインGFFを乗算してフィードフォワード制御出力210を生成する。
【0034】
比例回路203および積分回路204は、フィードバック制御を行うフィードバック制御部を構成する。比例回路203は、圧延機14の出側の板厚計44で計測された出側板厚偏差Δhに制御ゲインGFBを乗算して出力する。積分回路204は、比例回路203の出力に対して積分処理を行ってフィードバック制御出力220を生成する。ここで、制御ゲインGFBは、圧延機から出側の板厚計までの無駄時間を考慮して決定される。
【0035】
フィードフォワード制御出力210とフィードバック制御出力220とは互いに加算されて、板厚制御装置64の制御出力230として圧延機13の駆動装置23に入力される。
【0036】
次に張力制御装置71~74による張力制御についてより詳細に説明する。張力計は、被圧延材にかかる張力を直接検出するため、無駄時間を考慮する必要が無い。そのため、基本的にはフィードバック制御のみ実施する。
図5は、張力制御の一例を説明するための図であり、#3スタンド圧延機13に対応する張力制御装置73の構成例を示している。
【0037】
図5の例では、張力制御装置73は、比例積分部301を有する。比例積分部301は、圧延機13の出側に配置された張力計53にて計測された張力である張力実績値T
34FBと、外部から入力される張力指令値T
34REFとの偏差ΔT
34を用いて、圧延機14の比例積分制御を行う。具体的には、比例積分部301は、偏差ΔT
34に対して比例積分処理を行って、張力制御装置73の制御出力310を生成して、圧延機14のロールギャップ制御装置34に入力する。なお、比例積分制御は、比例制御と積分制御とを組み合わせた制御であり、ここでは、比例制御の比例ゲインをC
P、積分制御の積分ゲインをC
1としている。
【0038】
以上のように、タンデム圧延機100で行われる板厚制御は、比例制御であるフィードフォワード制御と、積分制御であるフィードバック制御とを組み合わせたものである。また、張力制御は比例積分制御を用いたフィードバック制御として構成される。
【0039】
一般的には、制御対象の状態量である制御状態量に対する積分制御では、制御出力の位相が制御状態量の位相に対して90度ずれるため、その結果、積分制御により得られる制御結果の位相が元の制御状態量の位相からずれるという問題がある。例えば、タンデム圧延機100では、制御結果である圧延機14の出側板厚(板厚偏差)の位相が元の変形抵抗(硬度)の位相からずれてしまう。
【0040】
図6~
図8は、積分制御による制御状態量と制御結果との位相ズレを説明するための図であり、タンデム圧延機100における圧延現象のシミュレーション結果を示す。
図6~
図8は、被圧延材200における変形抵抗400の圧延方向の変動を正弦波で表した時の、#4スタンド入側板厚偏差410、#4スタンド出側板厚偏差420、#3スタンド~#4スタンド間張力430、#4スタンド出側張力440および#4スタンド荷重450のそれぞれの変動をシミュレーション結果として示す。
【0041】
なお、#4スタンド入側板厚偏差410は、#4スタンド圧延機14の入側の板厚と目標値との偏差であり、#4スタンド出側板厚偏差420は、#4スタンド圧延機14の出側の板厚と目標値との偏差であり、#3スタンド~#4スタンド間張力430は、#4スタンド圧延機14の入側の張力であり、#4スタンド出側張力440は、#4スタンド圧延機14の出側の張力であり、#4スタンド荷重450は、#4スタンド圧延機14にて被圧延材200に印加される荷重である。
【0042】
図6は、板厚制御および張力制御の両方を実施しない場合のシミュレーション結果を示す。
図6の例では、元の制御状態量である変形抵抗400と、#4スタンド入側板厚偏差410および#4スタンド出側板厚偏差420とでは、それらの変動を示す波形のピーク位置が互いに一致しており、それらの位相にズレがないことが示されている。
【0043】
図7及び
図8は、張力制御装置73および74による張力制御と、板厚制御装置64による板厚制御との両方を実施した場合のシミュレーション結果を示す。ただし、
図7は、板厚制御としてフィードバック制御のみが実施された場合(フィードフォワード制御の制御ゲインG
FFを0とした場合)のシミュレーション結果を示し、
図8は、板厚制御としてフィードバック制御およびフィードフォワード制御の両方が実施された場合のシミュレーション結果を示す。
【0044】
板厚制御としてフィードフォワード制御が実施されていない
図7の例では、変形抵抗400と#4スタンド入側板厚偏差410との間には、位相ズレは生じていないが、制御結果である#4スタンド出側板厚偏差420には、位相が変形抵抗400よりも早くなる位相進みが生じている。これは、板厚制御として積分制御を実施することにより、板厚制御の制御出力に90度の位相遅れが生じているためである。なお、後述の
図9~
図10および式(1)~(3)で示すように、制御出力に位相遅れが生じている(つまり、制御出力による位相シフト量(Δ)が負である)と、制御結果である#4スタンド出側板厚偏差420の位相ズレ量(δ)は正となり、位相進みが発生することとなる。
【0045】
したがって、板厚制御などの制御を行うことにより、制御対象の状態量(タンデム圧延機100の場合、被圧延材200の板厚、被圧延材200にかかる張力および圧延荷重)の間の位相関係が変化する。
【0046】
さらに板厚制御としてフィードフォワード制御が実施された
図8の例では、#4スタンド入側板厚偏差410にも位相が変形抵抗400よりも進む位相進みが生じる。したがって、#4スタンド入側板厚偏差410を用いて#4スタンド出側板厚偏差420のフィードフォワード制御を実施する場合、変形抵抗400と#4スタンド入側板厚偏差410との位相ズレの影響により、変形抵抗400に応じた適切な制御が行うことができず、制御効果が低減してしまう。
【0047】
そのため、フィードフォワード制御を実施する場合、
図4に示したようにフィードフォワード制御における制御ゲインG
FFと位相シフト量T
FF(具体的には、タイミングシフト量ΔT
FF)とを調整して、制御状態量の位相と振幅とに合わせたフィードフォワード制御出力を生成することで、制御効果を高くすることが行われている。
【0048】
図9は、制御状態量に対するフィードフォワード制御の影響を説明するための図である。
図9では、制御状態量と目標値との偏差である制御偏差を入力とし、その制御偏差の変動が正弦波sin(ωt)で表されると仮定している。また、制御偏差と、制御偏差に位相シフトおよび制御ゲインを与えたフィードフォワード制御出力との差分を制御結果yとして出力している。位相シフト量をΔ、制御ゲインをGとすると、制御結果yは、以下の式(1)で表される。
【0049】
【0050】
ここで、制御結果yの振幅Xは、以下の式(2)で表され、制御結果yの制御偏差からの位相ズレ量δは、以下の式(3)で表される。
【0051】
【0052】
【0053】
図10は、制御結果yと制御ゲインGおよび位相シフト量Δとの関係を示す図である。具体的には、
図10(a)は、位相シフト量Δと制御結果yの位相ズレ量δとの関係を制御ゲインGごとに示す図であり、
図10(b)は、位相シフト量Δと制御結果yの振幅Xとの関係を制御ゲインGごとに示す図である。
【0054】
図10で示されたように、位相シフト量Δが大きくなると振幅Xも大きくなり、制御効果が低減する。さらに制御ゲインGによっては、位相シフト量Δが60度を超えると、振幅Xが1を超える。つまり、制御効果が得られないばかりか逆効果となってしまう。また、位相シフト量Δによって制御結果yの位相が元の正弦波sin(ωt)からずれてしまう。
【0055】
したがって、フィードフォワード制御においては、制御ゲインG(制御ゲインGFF)と位相シフト量Δ(タイミングシフト量ΔTFF)とを適切な値に調整する必要がある。これらの適切な値は、制御対象に関するパラメータ、および、制御対象に対して実施される他の制御などに応じて変わる。タンデム圧延機100の場合、制御対象に関するパラメータとしては、被圧延材200を圧延する圧延速度が挙げられる。なお、圧延速度が変化すると、板厚偏差の変動周波数が変わり、制御出力による制御操作端である駆動装置23の応答時間などが変化する。また、他の制御としては、他の圧延機に対して実施される板厚制御などが挙げられる。
【0056】
しかしながら、タンデム圧延機100のように、フィードフォワード制御およびフィードバック制御の両方が実施される場合、積分制御であるフィードバック制御によって制御状態量の位相が変化するため、フィードフォワード制御における制御ゲインと位相シフト量とを適切な値に調整することが難しい。
【0057】
<<プラント制御システム>>
【0058】
<システム概要>
【0059】
図11は、本実施形態のプラント制御システムの概略ブロック図である。
【0060】
図11を参照すると、本実施形態のプラント制御システムは、不可観測外乱予測装置604、制御装置切替判定装置926、制御補正装置925、およびプラント制御装置900を有する。プラント制御装置900は、制御装置1 601と、選択装置902と、制御装置2 901とを有する。
図11における制御対象プラント600が
図1に示したタンデム圧延機100である。プラント制御システムは、制御対象プラントに対して制御出力を出力する制御システムである。圧延機による被圧延材200の圧延においては、被圧延材200の硬度ムラが外乱dACTとなって制御結果である板厚を変動させる変動要因となる。硬度ムラとは、被圧延材200の箇所毎の硬度のばらつきをいう。
【0061】
制御装置1 601は、制御結果を変動させる要因となる変動要因の値である要因値に制御ゲインを乗算することにより第1制御出力を算出し、第1制御出力を用いて制御対象プラント600に対するフィードフォワード制御を行う制御装置である。
【0062】
制御装置2 901は、変動要因の要因値に制御ゲインを乗算することにより第2制御出力を算出し、また、所定の状態量の実績値と目標値との偏差を積分することにより第3制御出力を算出し、制御対象プラント600に対して、第2制御出力を用いたフィードフォワード制御と、第3制御出力を用いた積分制御とを行う制御装置である。
【0063】
選択装置902は、制御対象プラント600に対する制御を制御装置1 601と制御装置2 901のどちらに実行させるか選択する装置である。
【0064】
不可観測外乱予測装置604は、状態量および制御結果の少なくとも1つから要因値を予測した推定要因値を算出し、その推定要因値を制御装置1 601に入力する。
【0065】
制御装置切替判定装置926は、推定要因値に基づいて制御装置1 601と制御装置2 901のどちらを選択するか判定し、判定結果を選択装置902に指示する。
【0066】
本実施形態の制御対象プラントは、複数の制御の工程(スタンド)が上流から下流に複数連なるものであり、不可観測外乱予測装置604は、上流の工程における状態量から算出した推定要因値を、下流の工程における制御装置に入力する。そして、制御装置切替判定装置926は、上流の工程における推定要因値を、下流の工程において制御装置1 601と制御装置2 901のどちらを用いるかの判定に用いる。
【0067】
本実施形態のプラント制御システムによれば適切な制御装置を用いて制御対象プラント600を制御することが可能となる。
【0068】
以上、プラント制御システムの概要を説明したが、更に詳細については後述する。
【0069】
<制御装置2>
【0070】
上述の制御装置2 901は、フィードフォワード制御およびフィードバック制御の両方を実施する制御装置である。
【0071】
図12は、制御装置2 901の2つの例を示すブロック図である。
【0072】
図12(a)には、制御対象プラント600と、制御対象プラント600を制御する制御装置2 901と、制御対象プラント600から出力された制御対象の状態量である状態量実績xFBを検出無駄時間分だけ位相シフトさせる位相シフト要因602とが示されている。また、制御装置2 901は、状態量実績xFBと外部から入力される状態量の指令値である状態量指令値xREFとの偏差に基づいて、制御対象プラント600に対して比例積分制御を実施するPI制御装置511を備える。
【0073】
制御対象プラント600は、例えばタンデム圧延機100であり、制御対象に関する状態量実績xFBを出力する。状態量実績xFBには、位相シフト要因602によって位相シフトが発生する。位相シフト要因602は、例えば、制御対象プラント600が材料に対して加工を実施した場所と、その加工の結果である状態量実績xFBを検出する場所が物理的に離れていることなどである。
図11では、位相シフト要因602は、制御対象プラント600の外部に存在としているが、制御対象プラント600の内部に存在してもよい。
【0074】
また、制御対象プラント600は、制御外乱源603にて発生する制御対象プラント600に対する外乱である制御外乱dACTの影響を受ける。このため、制御外乱dACTは、状態量実績xFBを変動させる変動要因となる。制御外乱dACTは既知である。このとき、制御外乱dACTの平均値のような統計値が既知であればよい。
【0075】
なお、状態量実績xFBは、制御対象プラント600のモデル化誤差および外乱などの影響により、オフセット誤差を有する。PI制御装置511による比例積分制御に含まれる積分制御は、状態量実績xFBのオフセット誤差を補正して、状態量実績xFBを状態量指令値xREFに維持するための制御である。
【0076】
図12(b)の例は、
図12(a)の例と比較すると、制御装置2 901が、PI制御装置511の代わりに、制御対象プラント600に対して積分制御(フィードバック制御)を実施するI制御装置521と、制御対象プラント600に対してフィードフォワード制御を実施するFF制御装置522を備えている点で異なる。
【0077】
図12(b)に示すプラント制御システムは、圧延機における板厚制御と対応する。
図4と比較すると、外乱発生源603は圧延機の入側板厚偏差に対応し、それを入側板厚計43にて検出して制御外乱dACTとする。FF制御装置522は移送時間補償部201とフィードフォワード制御部202とに対応し、I制御装置521は比例回路203と積分回路204とに対応する。
【0078】
図12(b)の例では、制御外乱源603にて発生する制御対象プラント600に対する外乱である制御外乱dACTが既知である。このように制御外乱dACTが既知の場合、FF制御装置522は、制御外乱dACTと制御外乱dACTに対する外乱指令値dREFとの偏差に基づいて、制御対象プラント600に対してフィードフォワード制御を実施する。また、I制御装置521は、状態量実績xFBと状態量指令値xREFとの偏差に基づいて、制御対象プラント600に対して積分制御を実施する。
【0079】
なお、検出無駄時間は、制御対象プラント600が材料に対して加工を実施した場所と、その加工の結果を検出する場所が物理的に離れているために発生するものである。タンデム圧延機100の場合、
図2に示したように、圧延により被圧延材200が加工される圧延機11~14と、被圧延材200の板厚を検出する板厚計41~44とが物理的に離れており、被圧延材200が圧延機11~14から板厚計41~44まで移送されて被圧延材200の加工結果(板厚)が検出される。この被圧延材200の移送に要する時間が検出無駄時間となる。
【0080】
このように、制御装置2 901では、外乱などに起因するオフセット誤差を除去するために積分制御を含むフィードバック制御が実施される。この積分制御は、制御出力が制御状態量からの90度の位相遅れと、検出無駄時間による位相遅れとの和の位相遅れを生じさせる制御であり、外乱が大きいなどで制御出力が大きくなると、フィードフォワード制御の制御出力と干渉し、フィードフォワード制御の位相シフト量が設定値からずれてしまう。その結果、フィードフォワード制御の制御効果が低減する。
【0081】
図13は、シミュレーションによる制御装置2 901の制御結果の一例を示す図である。
図13では、制御外乱dACTと、制御結果である状態量実績xFB(具体的には、状態量実績xFBと状態量指令値xREFとの偏差)との時間変化を示す。
【0082】
図13(a)は、
図12(b)の構成例において、フィードフォワード制御を行わずに、積分制御のみを行った場合のシミュレーション結果を示す。検出無駄時間を0.25秒とし、積分制御の時定数を0.5秒としている。また、制御外乱dACTはステップ状に変動するものとした。この場合、状態量実績xFBは、非常に小さいアンダーシュートを示しており、積分制御としては問題がない。
【0083】
図13(b)は、
図12(b)の構成例において、積分制御を行わずに、フィードフォワード制御のみを行った場合のシミュレーション結果を示す。制御外乱dACTは、周期1.0Hz、振幅1.0の正弦波状に変動するものとした。また、フィードフォワード制御の制御ゲインは0.5とした。この場合、フィードフォワード制御により、制御外乱dACTが抑制され、状態量実績xFBの振幅が0.5となっている。
【0084】
図13(c)は、
図13(b)の状況において、
図13(a)と同様な積分制御をさらに行った場合のシミュレーション結果を示す。この場合、状態量実績xFBの振幅が0.7となり、積分制御を行わなかった場合よりも大きくなっている。つまり、積分制御により、フィードフォワード制御の制御効果が低減していると言える。
【0085】
なお、タンデム圧延機100の場合、0.25秒の検出無駄時間は、圧延機と板厚計との間の距離を2.5mとすると、被圧延材200の圧延速度が10m/s=600mpmとなる。また、制御外乱dACTの周期1.0Hzは、被圧延材200の長さで換算すれば10m周期となる。これは、1.6m程度の直径を有する回転体からの外乱とみなせる。また、1.6m程度の直径は圧延機のバックアップロールの直径程度である。このため、
図13(b)および
図13(c)におけるシミュレーション条件は妥当である。
【0086】
また、積分制御は、オフセットを除去して状態量実績の偏差の平均値を0とするような制御である。このため、元の制御状態量の偏差の変化を示す波形によっては、積分制御にて、オフセットを除去した状態量実績の偏差の変化を示す波形が上側または下側に偏ることがある。
【0087】
図14は、状態量実績の偏差の変化を示す波形が正方向(上側)に偏った状態、つまり、正のピーク値の絶対値が負のピーク値の絶対値よりも小さい状態を示す図である。この場合、後述するように、状態量実績が正のピーク値部分で許容範囲を超えて、製品不良が発生することがある。なお、被圧延材200の変化抵抗の変動は、
図14(a)に示すような波形で現れることが多い。
【0088】
図15は、シミュレーションによる制御装置2 901のオフセット除去結果の一例を示す図である。
図15では、制御外乱dACTと、制御結果である状態量実績xFB(具体的には、状態量実績xFBと状態量指令値xREFとの偏差)との時間変化を示す。制御外乱dACTの変動は方形波状の変動するものとした。
【0089】
図15(a)は、
図12(b)に示した構成例において、制御外乱dACTが正となる時間と負となる時間との時間比率が正:負=50:50であるときの、積分制御のみを行った場合の制御結果を示す。この例では、積分制御の結果、状態量実績xFBの正のピーク値と負のピーク値との大きさが等しい。
【0090】
図15(b)は、上記の時間比率が正:負=30:70であるときの、積分制御のみを行った場合の制御結果を示す。この例では、状態量実績xFBの正のピーク値が負のピーク値よりも大きく、状態量実績xFBが正方向に偏った状態となる。
【0091】
制御対象プラントで生産される製品の状態量には、通常、製品の規格などに応じて許容範囲が決まっており、許容範囲では、目標値から正方向への許容量と目標値から負方向への許容量とは均等であると考えられる。この場合、
図14(a)に示すように状態量の偏差が正方向に偏った波形となる場合、状態量が許容上限値を超えて製品不良が発生することがある。
【0092】
これに対して同様な振幅の波形であっても、状態量の最大値および最小値が許容範囲に収まるように、オフセットを除去して状態量を調整し、
図14(b)に示すように、中央値を指令値に一致させれば、製品不良とならないようにすることができる。
【0093】
以上説明したように、制御装置2 901にてフィードフォワード制御とフィードバック制御(積分制御)との両方を行うと、フィードバック制御(積分制御)により、フィードフォワード制御の制御出力の位相がずれてしまい、フィードフォワード制御の制御効果が低減する。また、フィードバック制御(積分制御)では、状態量実績の偏差の変化を示す波形が正方向または負方向に偏ってしまい、状態量実績が許容範囲から外れてしまうことがある。
【0094】
<制御装置1>
【0095】
図16は、制御装置1 601のブロック図である。
図16に示す制御装置1 601は制御対象プラント600を制御する。
【0096】
制御装置1 601は、FF制御装置611と、オフセット補正装置612とを有する。
【0097】
FF制御装置611は、制御外乱dACTと外乱指令値dREFとの偏差である外乱偏差に基づいて、制御対象プラント600が行う加工処理(例えば、圧延機11~14による圧延処理)のフィードフォワード制御を実施する。具体的には、FF制御装置611は、外乱偏差に補正ゲインを乗算した制御出力を用いて、制御対象プラント600が行う加工処理のフィードフォワード制御を実施する。なお、外乱偏差は、状態量実績xFBを変動させる変動要因である制御外乱dACTに関する要因値である。
【0098】
オフセット補正装置612は、FF制御装置611によるフィードフォワード制御にて制御対象プラント600の制御対象の状態量に生じるオフセットを補正する。
【0099】
図17は、FF制御装置611の一例を示す図である。
図17において、FF制御装置611は、差分回路701と、正フィルタ回路702と、負フィルタ回路703と、乗算器704~707と、積分回路708とを有する。
【0100】
差分回路701は、制御外乱dACTと外乱指令値dREFとの偏差である外乱偏差の差分を出力する。差分回路701は、具体的には、外乱偏差を単位時間(例えば、制御外乱dACTが周期的に変化する場合、その周期)だけ遅延させる遅延回路711を有し、遅延回路711で遅延させた信号を元の外乱偏差から引いた値を外乱偏差の差分として出力する。
【0101】
正フィルタ回路702は、差分回路701から出力した差分が正の値を有する場合に、その差分を出力する。負フィルタ回路703は、差分回路701から出力した差分が負の値を有する場合に、その差分を出力する。
【0102】
乗算器704は、正フィルタ回路702から出力された差分に補正ゲインとして正側補正ゲインG+を乗算して出力する。乗算器705は、負フィルタ回路703から出力された差分に補正ゲインとして負側補正ゲインG-を乗算して出力する。乗算器706は、乗算器704からの出力信号と乗算器705からの出力信号との和に制御抑制ゲインGpreを乗算して出力する。乗算器707は、乗算器706からの出力信号に制御ゲインGFFを乗算して出力する。
【0103】
積分回路708は、乗算器707からの出力信号を積分してフィードフォワード制御出力SFFNEWとして出力する。
【0104】
以上の動作において、正側補正ゲインG+および負側補正ゲインG-は、オフセット補正装置612にて算出され、乗算器704および705に設定される。正側補正ゲインG+および負側補正ゲインG-を適切に設定することで、状態量に生じるオフセットを補正することが可能になる。制御抑制ゲインGpreは制御補正装置925にて算出され、乗算器706に設定される。
【0105】
図18は、オフセット補正の原理を説明するための図である。
図18は、
図13(b)に示した応答(制御結果)において、状態量実績xFBの時間変化が正の場合のFF制御装置522の制御ゲインを変更したものである。
図18の下段に示すように、第1の領域Aでは、制御ゲイン(G)を正とし、第2の領域Bでは、制御ゲインを負とした。
【0106】
図18の上段に示すように、第1の領域Aでは、状態量実績xFBが増大し、その後、状態量実績xFBが正側でオフセットした状態となり、第2の領域Bでは、状態量実績xFBが減少し、その後、状態量実績xFBが負側でオフセットした状態となる。
【0107】
このようにフィードフォワード制御において、状態量実績xFBの時間変化が正の場合と負の場合とで制御ゲインを変更すると、状態量実績xFBの波形がピークとなる位置を変えずに、つまり状態量実績xFBの位相を変化させずに、オフセット位置を調整することができる。
【0108】
上記の原理を利用して、オフセット補正装置612は、状態量実績xFBに基づいて、オフセット量を算出し、そのオフセット量を抑制するように正側補正ゲインG+および負側補正ゲインG-を算出することで、状態量実績xFBの振幅の最大値と最小値の中間(中央値)が零となるように正側補正ゲインG+および負側補正ゲインG-を算出する。
【0109】
図19は、オフセット補正装置612の一例を示す図である。
図19に示すオフセット補正装置612は、状態量オフセット測定装置801と、補正ゲイン演算装置802とを有する。
【0110】
状態量オフセット測定装置801は、一定期間(例えば、制御外乱dACTの一周期)における、状態量実績xFBと目標値である状態量指令値xREFとの偏差の正のピーク値である最大値x+と、負のピーク値である最小値x-とを求める。状態量オフセット測定装置801は、その最大値x+および最小値x-に基づいて、状態量実績xFBの中央値(最大値x+および最小値x-の中点)の偏りΔxDIFF=x+―|x-|を算出する。
【0111】
補正ゲイン演算装置802は、状態量オフセット測定装置801にて算出された中央値の偏りΔxDIFFと、制御外乱dACTの振幅ΔdACTとに基づいて、正側補正ゲインG+および負側補正ゲインG-を算出する。
【0112】
具体的には、補正ゲイン演算装置802は、先ず、制御外乱dACTの振幅ΔdACTを中央値の偏りΔxDIFFに変換する変換ゲインをβとした場合、補正ゲインの変化量αを、α=|ΔxDIFF|/|β・ΔdACT|から算出する。なお、フィードフォワード制御は、既知の制御外乱に対する制御であるため、制御外乱の振幅を予め算出しておくことは可能であり、制御外乱dACTと状態量との関係も予測可能である。したがって、変換ゲインβを予め算出しておくことは可能である。
【0113】
続いて、補正ゲイン演算装置802は、変化量αに基づいて、正側補正ゲインG+および負側補正ゲインG-を算出する。
【0114】
具体的には、偏りΔxDIFFが正の場合、補正ゲイン演算装置802は、正方向への制御出力を抑制し、負方向への制御出力を増大させるように、正側補正ゲインG+を1よりも大きくし、負側補正ゲインG-を1よりも小さくする。具体的には、補正ゲイン演算装置802は、正側補正ゲインG+=1-αとし、負側補正ゲインG-をG-=1+αとする。
【0115】
一方、偏りΔxDIFFが負の場合、補正ゲイン演算装置802は、正方向への制御出力を増大し、負方向への制御出力を抑制させるように、正側補正ゲインG+を1よりも小さくし、負側補正ゲインG-を1よりも大きくする。具体的には、補正ゲイン演算装置802は、正側補正ゲインG+=1+αとし、負側補正ゲインG-をG-=1―αとする。
【0116】
補正ゲイン演算装置802にて算出された正側補正ゲインG+および負側補正ゲインG-は、FF制御装置611に出力され、乗算器704および705に設定される。
【0117】
図20および
図21は、シミュレーションによる制御装置1 601の制御結果の一例を示す図である。
図20および
図21では、制御外乱dACTと状態量実績xFB(具体的には、状態量実績xFBと状態量指令値xREFとの偏差)とを示している。
【0118】
図20(a)は、制御装置1 601による制御を行わない場合における、制御外乱dACTと状態量実績xFBとを示す。ここでは、状態量実績xFBは、制御外乱dACTに対して、2.5秒までは負側にオフセットしており、2.5秒以降では正側にオフセットしている。
【0119】
図20(b)は、
図12(b)に示した制御装置2 901によるフィードフォワード制御のみを実施した場合における、制御外乱dACTと状態量実績xFBとを示す。この場合、状態量実績xFBの振幅は減少するが、状態量実績xFBのオフセットは残る。
【0120】
図21(a)は、
図12(b)に示した制御装置2 901によるフィードフォワード制御および積分制御の両方を実施した場合における、制御外乱dACTと制御対象の状態量実績xFBとを示す。この場合、状態量実績xFBのオフセットは軽減されるが、状態量実績xFBの振幅は増大する。
【0121】
図21(b)は、
図16に示した制御装置1 601による制御を実施した場合における、制御外乱dACTと状態量実績xFBとを示す。この場合、状態量実績xFBの振幅およびオフセットが減少し、さらには、状態量実績xFBの正のピーク値と負のピーク値とが略同じ値となる。
【0122】
状態量実績の上限許容値を+0.5、下限許容値を-0.5とした場合、制御装置2 901では、
図21(a)の矢印で示したように状態量実績xFBは何度も許容値を超えるが、制御装置1 601では、
図21(b)の矢印で示したように、状態量実績xFBが許容値を超えるのは、状態量実績xFBの最大値x
+および最小値x
-が判明する前の1回だけである。したがって、制御装置1 601では、制御装置2 901に比べて制御効果が高くなっている。
【0123】
制御装置1 601によれば、FF制御装置611は、外乱偏差に乗算する補正ゲインとして、外乱偏差が状態量実績xFBを増加させる正方向に変化している場合には、外乱偏差に正方向補正ゲインを乗算し、外乱偏差が状態量実績xFBを減少させる負方向に変化している場合には、外乱偏差に負方向補正ゲインを乗算する。これにより、積分制御を含むフィードバック制御を行わずに、オフセット誤差を補正することが可能となるため、外乱が大きい場合であっても、フィードフォワード制御の制御効果の低減を抑制しつつ、オフセット誤差を低減することが可能になる。
【0124】
また、制御装置1 601によれば、オフセット補正装置612は、状態量実績xFBと目標値である状態量指令値xREFとの偏差の中央値に基づいて、補正ゲインを調整する。これにより、状態量実績xFBの偏りを軽減することが可能になる。
【0125】
また、制御装置1 601によれば、中央値が正の場合、正方向補正ゲインを1よりも小さくし、かつ、負方向補正ゲインを1よりも大きくし、中央値が負の場合、正方向補正ゲインを1よりも大きくし、かつ、負方向補正ゲインを1よりも小さくする。これにより、状態量実績xFBの偏りを適切に軽減することが可能になる。
【0126】
また、本実施例によれば、オフセット補正装置612は、中央値が零となるように補正ゲインを調整する。これにより、状態量実績xFBの偏りをより適切に軽減することが可能になる。
【0127】
<プラント制御装置>
【0128】
図22は、プラント制御装置を説明するための図である。
【0129】
プラント制御装置900は、既に詳述した制御装置1 601および制御装置2 901と、選択装置902とを有する。
【0130】
具体的には、制御装置2 901は、外乱偏差に制御ゲインを乗算した制御出力を用いて制御対象プラント600が行う加工処理のフィードフォワード制御を実施し、かつ、状態量実績xFBと状態量指令値xREFとの偏差を積分した制御出力を用いて制御対象プラント600が行う加工処理の積分制御を実施する。
【0131】
選択装置902は、外乱偏差に基づいて、制御対象プラント600が行う加工処理の制御を、制御装置1 601と制御装置2 901のいずれかに実行させる。
【0132】
例えば、圧延における硬度ムラのように、制御外乱が他の外乱周波数成分に対して非常に大きく、制御装置2 901では状態量実績が許容範囲内に収まりづらい場合には、制御装置1 601による制御が望ましく、制御装置2 901によって状態量実績が許容範囲に十分収まる場合には、制御装置2 901による制御を行ってもよい。本実施形態では、選択装置902は、制御外乱の周波数および振幅の少なくとも一方に基づいて、制御装置1 601および制御装置2 901のいずれかを選択し、制御対象プラント600に対する制御を実行させる。制御装置を切り替える処理の詳細については後述する。
【0133】
<不可観測外乱予測>
【0134】
図23は、被圧延材の硬度ムラを評価する構成を示す図である。本実施形態では、
図11に示したように、上流工程の圧延機11にて得られるデータから被圧延材200の各箇所の硬度(変形抵抗)を算出する。
【0135】
図2に示した被圧延材200に生じる圧延現象における圧延荷重Pは以下の式(4)で表される。
【0136】
【0137】
圧延機11の入側、出側には被圧延材200の板厚を測定する板厚計40、41と、被圧延材に印加されている張力を測定する張力計50、51とが設置されている。また、圧延機11にて被圧延材200に印加される荷重を測定する荷重計80が設置されている。
【0138】
板厚計40、張力計50、51、荷重計80で測定された測定値は板厚計41の位置まで移送処理演算903、904をし、不可観測外乱予測装置604の有する計算荷重算出装置905に入力される。計算荷重算出装置905では入力された圧延実績を式(4)を用いて、以下の式(5)で表される計算荷重Pcalを計算する。
【0139】
【0140】
図24は、推定変形抵抗を算出する処理のフローチャートである。本フローチャートは、計算荷重Pcalを用いて不可観測外乱予測装置604の有する推定変形抵抗算出装置906で推定変形抵抗k’の算出を実行するニュートン・ラプソン法のプログラムの例を示している。以下、このフローチャートに従い、推定変形抵抗k’の算出処理について説明する。
【0141】
プログラムは、実行を開始すると、まず、計算試行回数iを0とする(907)。
【0142】
次に、変形抵抗kをk0計算荷重Pcalに代入する(908)。式(4)よりk0を用いて計算荷重Pcalを計算する(909)。その結果、計算荷重Pcalと実績荷重Pactの絶対値が収束判定値εより小さければ(910でYES) kiを推定変形抵抗k’として出力(913)、収束判定値εより大きければ(910でNO) ki+1を算出する(911)。計算試行回数i+1をiとし(912)、kiを用いて計算荷重Pcalを計算し(909)、計算荷重Pcalと実績荷重Pactの絶対値が収束判定値εより小さくなるまで計算を繰り返し、kiを推定変形抵抗k'として出力する(913)。
【0143】
推定変形抵抗k’は、制御補正装置925に入力される。また、推定変形抵抗k’は、制御装置1 601にて既知の制御外乱dACTに代えて用いられてもよい。一例として平均値の制御外乱dACTに代えて、被圧延材200の箇所毎の推定変形抵抗k’を用いることで、制御装置1 601にて箇所毎の緻密な制御が可能となり、制御の精度が向上する。
【0144】
<制御装置自動切替>
【0145】
図25は、制御装置を切り替える処理のフローチャートである。本フローチャートは、推定変形抵抗k'を用いて制御装置1 601と制御装置2 901を自動切替する選択装置902における、制御装置切替判定装置926の自動切替手法を示している。以下、このフローチャートに従い、選択装置902の処理について説明する。
【0146】
被圧延材200が圧延方向に1mm進むごとに推定変形抵抗算出装置906で算出された推定変形抵抗k'を、1mmごとの距離における記憶領域を有しているトラッキングテーブルに記録する(914)。
【0147】
次に、推定変形抵抗k'を用いて硬度ムラの発生周期の3倍の長さを判定領域Lと定義して、判定領域L内に記録されている推定変形抵抗k'の最大値k'max、最小値k'minの差分を判定領域Lの平均値k'aveで割った変動量Dを算出する(915)。変動量Dを用いて自動切替する為のしきい値aは、変形抵抗の変動を発生させたシミュレーションを制御装置1 601、制御装置2 901で事前に実施し、適切な切替基準を検証したうえで設定する(916)。変動量Dがしきい値aより大きい時(917がYES)、制御を制御装置2 901に切替え(918)、変動量Dがしきい値aより小さい時(917がNO)、制御を制御装置1 601に切替える(919)。
【0148】
図26は、制御装置2 901から制御装置1 601への切り替えについて説明するための図である。不可観測外乱予測装置604から出力した推定変形抵抗k’を基に、選択装置902による自動切替処理で制御装置1 601に切り替える場合が例示される。
【0149】
不可観測外乱予測装置604から出力された推定変形抵抗k’は、推定変形抵抗テーブル920に一定期間記録され、波形の周期成分が抽出され、制御装置1 601の出力量を事前に演算し、変化率の最大値を算出する制御指令最大変化レートシミュレーション装置921とオフセットが生じない制御装置1 601による制御の開始タイミングを演算する外乱波形制御開始点演算装置922の演算に用いられる。制御装置1制御ゲイン抑制装置923は制御指令最大変化レートシミュレーション装置921で算出した変化率の最大値と制御対象機器を制御する最大速度を比較し制御装置1 601の制御ゲインを抑制する。制御投入タイミング指令装置924は外乱波形制御開始点演算装置922で演算された制御開始タイミングを基に選択装置902に制御装置1 601が制御を開始するタイミングの指令を出力する。
【0150】
図27は推定変形抵抗テーブル920の推定変形抵抗k’を用いて、式(5)で表される計算荷重P
calを計算し、計算荷重P
calをミル定数Mで割って演算した制御装置1 601の出力量s(t)を示す図である。
【0151】
制御指令最大変化レートシミュレーション装置921は、
図27で示した演算結果より、s(t)を微分して算出したs’(t)の絶対値| s’(t)|の判定領域Lにおける最大値Max
t(s’(t))を演算し出力する。
【0152】
外乱波形制御開始点演算装置922はオフセットが生じない制御装置1 601による制御の開始タイミングを演算する装置である。
【0153】
図28は、推定変形抵抗テーブル920を用いて算出された状態量の偏差を示した波形の一例を示す図である。
【0154】
判定領域Lにおける推定変形抵抗k’の最大値をMax(k’(t))、最小値をMin(k’(t))とする。状態量の偏差が0である点は推定変形抵抗k’= (Max(k’(t))+ Min(k’(t)))/2で算出される点である。
図28に示すように、状態量の指令値からの偏差が0である点あるいは状態量が中央値を取る点で、制御装置1 601による制御を開始することでオフセットが生じない制御を行うことが可能となり、n番目の開始点のテーブル識別番号Index(n)を出力する。
【0155】
制御装置1制御ゲイン抑制装置923は制御指令最大変化レートシミュレーション装置921から出力された変化率の最大値Maxt(s’(t))を用いて、制御ゲインを抑制する抑制率Gpreを演算する。変化率の最大値Maxt(s’(t))が制御対象機器を制御する最大速度ACTrate以下のとき、制御ゲインの抑制は行わず、抑制率Gpre=1が出力される。変化率の最大値Maxt(s’(t))が制御対象機器を制御する最大速度ACTrateより大きいとき、制御ゲイン抑制が行われ、抑制率Gpre=ACTrate/ Maxt(s’(t))が出力される。
【0156】
制御投入タイミング指令装置924は、外乱波形制御開始点演算装置922で演算されたn番目の開始点のテーブル識別番号Index(n)が該当スタンドに到達したタイミングで選択装置902に、制御装置1 601が制御を開始するタイミングの指令FLAGpre=1を出力する。
【0157】
以上説明した本実施形態は、本開示の説明のための例示であり、本開示の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本開示の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【0158】
なお、本実施形態では、プラント制御システムをタンデム圧延機100に適用したが、タンデム圧延機100以外の制御対象に適用することも可能である。例えば、制御外乱が大きく、フィードフォワード制御が必要とされるプラントに対して本開示のプラント制御システムを適用することができる。例えば、本開示のプラント制御システムは、熱間圧延機における板厚制御、鉄鋼ラインにおける張力制御などの他のプラントにも適用することができる。
【0159】
また、以上説明した本実施形態には、以下に示す事項が含まれる。ただし、本実施形態に含まれる事項が以下に示すもののみに限られることはない。
【0160】
(事項1)
状態量を持ち所定の制御を実行し制御結果を得る制御対象に対して制御出力を出力する制御システムであって、
前記制御結果を変動させる要因となる変動要因に関する値である要因値に制御ゲインを乗算することにより第1制御出力を算出し、前記第1制御出力を用いて前記制御対象に対するフィードフォワード制御を行う第1制御装置と、
前記要因値に制御ゲインを乗算することにより第2制御出力を算出し、前記状態量の実績値と目標値との偏差を積分することにより第3制御出力を算出し、前記制御対象に対して、前記第2制御出力を用いたフィードフォワード制御と、前記第3制御出力を用いた積分制御とを行う第2制御装置と、
前記制御対象に対する制御を前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらに実行させるか選択する選択装置と、
前記状態量から要因値を予測した推定要因値を算出する不可観測変動要因予測装置と、
前記推定要因値に基づいて前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらを選択するか判定し、判定結果を前記選択装置に指示する制御装置切替判定装置と、
を有する制御システム。
本事項によれば、状態量から要因値を予測し、予測された推定要因値に基づいて積分制御を含む制御を用いるか否か選択するので、制御の精度を向上することができる。
【0161】
(事項2)
事項1に記載の制御システムにおいて、
前記制御対象は、状態量を与えられ所定の制御を実行し制御結果を得る工程が上流から下流に複数連なるものであり、
前記不可観測変動要因予測装置は、上流工程における前記状態量から前記推定要因値を算出し、
前記制御装置切替判定装置は、前記上流工程における前記推定要因値を、前記上流工程よりも下流にある下流工程において前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらを用いるかの判定に用いる。
【0162】
(事項3)
事項2に記載の制御システムにおいて、
前記制御対象は、前記上流工程と前記下流工程とにおいて同一の被加工物に対して加工を行うものであり、
前記変動要因は、その要因値が前記被加工物の箇所に依存して変化するものであり、
前記上流工程において前記推定要因値の所定の時間幅における中央値を算出し、前記被加工物における前記推定要因値が前記中央値となる箇所を特定し、前記箇所が前記下流工程における前記被加工物に対して加工を行う位置に到達するタイミングを算出し、前記第2制御装置から前記第1制御装置に切り替えるときに前記タイミングで切り替えることを前記選択装置に指示する制御補正装置を更に有する。
本事項によれば、変動要因が中央値を取るときに第2制御装置から第1制御装置への切り替えを行うので切替時のオフセットの発生を抑制することができる。
【0163】
(事項4)
事項2に記載の制御システムにおいて、
前記上流工程において前記推定要因値に基づいて前記下流工程における前記第1制御出力の時間変化を推定し、前記第1制御出力の時間変化と、前記制御対象を制御する最大速度とに基づいて算出した割合で前記第1制御装置の制御ゲインを補正する制御補正装置を更に有する。
本事項によれば、第1制御出力の時間変化に応じて第1制御装置の制御ゲインを抑制するので、第1制御出力の変動の度合いに応じた適切な制御により制御の精度を向上することができる。
【0164】
(事項5)
事項1に記載の制御システムにおいて、
前記制御装置切替判定装置は、前記推定要因値の周波数および振幅の少なくも一方に基づいて前記第1制御装置と前記第2制御装置のどちらを選択するか判定する。
【0165】
(事項6)
事項1に記載の制御システムにおいて、
前記制御装置切替判定装置は、前記第1制御装置と前記第2制御装置との切り替えを、前記推定要因値が指令値と一致するタイミングで行うことを前記選択装置に指示する。
本事項によれば、変動要因が指令値と一致するときに制御装置の切り替えを行うので切替時のオフセットの発生を抑制することができる。
【0166】
(事項7)
事項1に記載の制御システムにおいて、
前記不可観測変動要因予測装置は、算出した前記推定要因値を前記第1制御装置に入力し、
前記第1制御装置は、入力された前記推定要因値に前記制御ゲインを乗算することにより前記第1制御出力を算出する。
本事項によれば、第1制御装置の制御の精度を向上することができる。
【0167】
(事項8)
事項1に記載の制御システムにおいて、
前記第1制御装置は、前記要因値が前記状態量を増加させる正方向に変化している場合には、前記要因値に正方向補正ゲインを乗算し、前記要因値が前記状態量を減少させる負方向に変化している場合には、前記要因値に負方向補正ゲインを乗算する。
本事項によれば、第1制御装置にてフィードフォワード制御のオフセットを補正するので、第1制御装置が選択されたときにオフセットが良好に抑制される。
【0168】
(事項9)
事項1から8のいずれか1項に記載の制御システムにおいて、
前記制御対象は、被圧延材を圧延により加工する圧延機であり、
前記状態量は、前記被圧延材の板厚および前記被圧延材に加わる張力の少なくとも一方である。
【符号の説明】
【0169】
1…作業ロール、2…中間ロール、3…バックアップロール、11~14…圧延機、15…出側ブライドルロール、21…駆動装置、23…駆動装置、25…駆動装置、31~34…ロールギャップ制御装置、40~44…板厚計、50~54…張力計、61~64…板厚制御装置、71~74…張力制御装置、80…荷重計、100…タンデム圧延機、200…被圧延材、201…移送時間補償部、202…フィードフォワード制御部、203…比例回路、204…積分回路、210…フィードフォワード制御出力、220…フィードバック制御出力、230…制御出力、301…比例積分部、310…制御出力、400…変形抵抗、410…スタンド入側板厚偏差、420…スタンド出側板厚偏差、430…スタンド間張力、440…スタンド出側張力、450…スタンド荷重、511…PI制御装置、521…I制御装置、522…FF制御装置、600…制御対象プラント、601…制御装置1、602…位相シフト要因、603…制御外乱源、604…不可観測外乱予測装置、611…FF制御装置、612…オフセット補正装置、701…差分回路、702…正フィルタ回路、703…負フィルタ回路、704~707…乗算器、708…積分回路、711…遅延回路、801…状態量オフセット測定装置、802…補正ゲイン演算装置、900…プラント制御装置、901…制御装置2、902…選択装置、903…移送処理演算、904…移送処理演算、905…計算荷重算出装置、906…推定変形抵抗算出装置、920…推定変形抵抗テーブル、921…制御指令最大変化レートシミュレーション装置、922…外乱波形制御開始点演算装置、923…制御ゲイン抑制装置、924…制御投入タイミング指令装置、925…制御補正装置、926…制御装置切替判定装置