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  • 特開-ポリサルコシン及びその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163607
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ポリサルコシン及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/42 20170101AFI20231102BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20231102BHJP
   C08G 69/10 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61K47/42
A61K9/10
C08G69/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074619
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 一成
(72)【発明者】
【氏名】奥野 陽太
【テーマコード(参考)】
4C076
4J001
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA95
4C076EE41F
4C076FF16
4C076FF43
4C076GG41
4C076GG45
4J001DA01
4J001DB05
4J001DB10
4J001DD20
4J001EA33
4J001FA03
4J001FB01
4J001FC01
4J001GA05
4J001GE02
4J001JA20
4J001JB01
(57)【要約】
【課題】 薬物送達システムでの担体としての使用に問題のないコアセルベートを提供する。また、かかる新規なコアセルベートの製造方法を提供する。
【解決手段】末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体。
【請求項2】
前記重合体の数平均分子量が700~35000である、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体を含む、コアセルベート。
【請求項4】
平均粒子径が50nm~200nmである、請求項3に記載のコアセルベート。
【請求項5】
末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体を水中に溶解し、コアセルベートを得る工程を含む、コアセルベートの製造方法。
【請求項6】
前記コアセルベートを超音波処理する工程をさらに含む、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリサルコシン及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物送達システム(ドラッグデリバリーシステム、DDS:Drug Delivery System)は、体内の薬物分布を量的、空間的及び時間的に制御するシステムである。薬物送達システムの担体として機能するためには、サイズが制御されていること(30 nm~200 nm)、生体内の環境で壊れないこと、薬物を効率的に内包することができること、それ自体や分解生成物が生体適合性であること等の要件を備えていることが求められている。
今日までに、薬物送達システムの担体や生体内ナノリアクターとして、膜を有するカプセル型と膜無し型(コアセルベート)とが知られている。
カプセル型は、リン脂質、高分子等が形成するカプセル内に薬剤等を担持させることができ、例えば、抗がん剤を包含させたリポソーム製剤等が知られている。
コアセルベートは、高分子が形成する水中内の液滴に薬剤やタンパク質を担持させることができ、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載のイオン性のコアセルベートが知られている。ポリイオンコンプレックスコアセルベートは、互いに反対の荷電を有する線状高分子を水溶液中で反応させることで静電相互作用により生成される複合体である。
【0003】
しかしながら、これらのイオン性コアセルベートは、生体内のように塩が存在する水溶液中では不安定であり、薬物送達システムでの担体として使用することが難しく、その性質の改善が求められている。
実質的に電荷を有さない非イオン性のナノサイズコアセルベートとしては、特定の繰り返し配列を有するペプチドが僅かに知られているに過ぎない(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-020872号公報
【特許文献2】特開2015-86142号公報
【特許文献3】特開2011-219427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、薬物送達システムでの担体としての使用に問題のないコアセルベートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた。その研究過程において、本発明者らは非イオン性の、即ち実質的に電荷を有さない、新規な重合体を合成することに成功した。本発明者らは、更に当該重合体が水中で分子集合体を容易に形成し、所望のコアセルベートが得られることをも見出した。本発明はかかる知見に基づいてさらに改良を加えることにより完成したものである。
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体。
項2.
前記重合体の数平均分子量が700~35000である、項1に記載の重合体。
項3.
実質的に非イオン性である、項1又は2に記載の重合体。
項4.
末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体を含む、コアセルベート。
項5.
平均粒子径が50nm~200nmである、項4に記載のコアセルベート。
項6.
塩水溶液中で安定であることを特徴とする、項4又は5に記載のコアセルベート。
項7.
末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体を水中に溶解し、コアセルベートを得る工程(1)を含む、コアセルベートの製造方法。
項8.
前記コアセルベートを超音波処理する工程(2)をさらに含む、項7に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
サルコシンの単独重合体(ホモポリサルコシン、以下単に「ポリサルコシン」という)では、水に可溶なため水中で自己会合が起こらず会合体を形成することができない。これに対して、ポリサルコシンの末端にオリゴ糖鎖を結合させた本発明のポリサルコシンは、自己会合、コアセルベーションが惹起され、水中で単分散のナノコロイドを形成することができる。ポリサルコシンの末端にオリゴ糖鎖を導入すること(ペプトイドのグリコシル化)によってコアセルベーションが生ずるという現象は、本発明者らですら予測できなかった驚くべき知見である。
【0008】
ポリサルコシンは、水溶性の非イオン性ペプチド誘導体であり、生体適合性、生分解性、免疫系へのステルス性等を有していることから、バイオメディカル用途に適した性質を有している。
それ故、本発明の新規重合体であるグリコシル化されたポリサルコシンも、バイオメディカル用途に使用することには問題がない。
更に驚くべきことに本発明の糖鎖を導入したポリサルコシンが形成するコアセルベートは、塩が高濃度で存在する水溶液中でも安定であるという優れた特性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】マルトオリゴトース-ポリサルコシンの分子構造である。
図2】マルトオリゴトース-ポリサルコシンから形成されたコアセルベートの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本発明は、オリゴ糖鎖付加ポリサルコシンを好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本発明は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0011】
1.本発明の重合体
本発明の重合体は、末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体(ポリサルコシン)である。
【0012】
本発明の重合体において、オリゴ糖鎖は3~8個の単糖からなる。本発明のオリゴ糖は、公知のオリゴ糖であれば特に限定されない。オリゴ糖を構成する単糖としては、特に制限がなく、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース等が挙げられる。また、オリゴ糖としては、具体的には、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘプタオース等が挙げられる。中でも、好ましくは、マルトトリオース、マルトテトラオース、又はマルトペンタオースである。
【0013】
本発明の重合体において、N-メチルグリシンに由来する構成単位の繰り返し数(n)は、通常10~500である。当該範囲の下限値は、例えば10、15、又は20であってもよい。また、当該範囲の上限値は、例えば500、400、300、200、150、又は100であってもよい。N-メチルグリシンに由来する構成単位の繰り返し数は、特に、20~100であることが好ましい。
【0014】
本発明の重合体において、オリゴ糖鎖と、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とするポリサルコシンとは、直接結合していてもよいし、リンカーを介して結合していてもよい。リンカーは、本発明の重合体の自己組織化能が維持されている限り、その種類は特に限定されない。本発明において、「自己組織化能」とは、水中に溶解すると自発的にコアセルベートを形成することができる性質をいう。
【0015】
本発明の重合体の数平均分子量は、通常700~40000である。当該範囲の下限値は、例えば700、800、900、1000、1100、1200、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2500、又は3000であってもよい。また、当該範囲の上限値は、例えば35000、30000、25000、20000、15000、10000、9000、8000、又は12000であってもよい。本発明の重合体の数平均分子量は、特に、1400~12000であることが好ましい。
【0016】
数平均分子量は、通常公知の方法によって測定される。例えば、具体的な方法として、後述するGPC(Gel Permeation Chromatography)法によりPMMAやPEG等の換算質量として、数平均分子量を求めることができる。
【0017】
本発明の重合体は、例えば以下に示す製造方法A及び製造方法Bに従って製造される。
[製造方法A]
オリゴ糖鎖とホモポリサルコシンとを反応させることにより、本発明の重合体が製造される。出発原料であるオリゴ糖鎖は、公知のものであるか、公知の方法に従い容易に製造されるものである。他の一つの出発原料であるホモポリサルコシンは、N-メチルグリシン(サルコシン)を公知の方法で重合させることにより容易に製造される。
これらの製造条件は、後述する製造例1に記載の通りであり、製造例1に記載されている製造条件を参考にして、所望の目的化合物を製造することができる。
[製造方法B]
オリゴ糖鎖の末端にN-メチルグリシン(サルコシン)を重合させることにより、本発明の重合体が製造される。
重合の反応条件は、後述する製造例2に記載の通りであり、実施例2に記載されている製造条件を参考にして、所望の目的化合物を製造することができる。
【0018】
上記製造方法A及び製造方法Bにより得られた本発明の重合体は、公知の単離、精製手段、例えば蒸留、遠心分離、溶剤抽出、再結晶、ゲルろ過やシリカゲルクロマトグラフィー等を適宜採用することにより、反応混合物から容易に単離し、精製される。
【0019】
本発明の重合体は、水中に溶解すると自発的にマイクロメーターサイズのコアセルベートを形成する。
【0020】
2.本発明のコアセルベート
本発明のコアセルベートは、末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体を含む。
【0021】
本発明において「コアセルベート」の用語は、コロイド粒子を含む液滴を意味し、超音波処理により微細化されたナノサイズコアセルベート、マイクロスフェア及びナノスフェアが含まれる。ここで、マイクロスフェアとは、粒子径が数μm程度の球状の製剤を、ナノスフェアとは、粒子径が1μm未満の球状の製剤を指す。
【0022】
本発明のコアセルベートは、水の他に、例えば必要に応じて、任意の許容される添加物を含んでいてもよい。水には、例えば水道水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水、滅菌水等が含まれる。
【0023】
本発明のコアセルベートを医薬として用いる場合には、当業者に公知の方法で製剤化することができる。水の他に、例えば必要に応じて、任意の薬学的に許容される液体でコアセルベートを形成し、薬物を内包させることによって、薬物送達システムでの担体として使用可能な形態へと調製することができる。「薬学的に許容される液体」という用語は、その物質が不活性であり、かつ薬物用の希釈剤又はビヒクルとして使用される公知の物質を広く含む。
【0024】
本発明のコアセルベートは、本発明の重合体を水中に溶解することで、自発的に形成される。本発明のコアセルベートは、超音波処理により更に微細化され、ナノサイズコアセルベートを形成する。
【0025】
本発明のコアセルベートを形成するに当たり、水に対する本発明重合体の割合は、所望のコアセルベートが得られる限り特に制限されず、例えば0.01重量%以上100重量%未満である。当該範囲の下限値は、例えば0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10であってもよい。また、当該範囲の上限値は、例えば99、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、又は10であってもよい。水に対する本発明重合体の割合は、特に、0.01重量%~10重量%であることが好ましく、1重量%~10重量%であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明において、超音波処理の条件は、所望のナノサイズコアセルベートが得られる限り特に制限されない。本発明において、超音波処理温度は、所望のナノサイズコアセルベートが得られる限り特に制限されず、例えば4℃~40℃で行うことができる。また、本発明において、超音波の発振周波数は、所望のナノサイズコアセルベートが得られる限り特に制限されず、例えば20kHz~100kHzとすることができる。さらに、本発明において、超音波処理時間は、所望のナノサイズコアセルベートが得られる限り特に制限されず、例えば1分~60分とすることができる。本発明において、超音波処理に用いる装置は、所望のナノサイズコアセルベートが得られる限り特に制限されず、例えばバスタイプソニケーター、ホモジナイザー等を用いることができる。
【0027】
本発明のコアセルベートの平均粒子径は、通常50~200nmである。好ましくは、50~150nmである。より好ましくは、50~100nmである。
【0028】
本発明のコアセルベートの平均粒子径は、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering:DLS)により測定することができる。
【0029】
本発明のコアセルベートは、実質的に非イオン性であり、塩水溶液中で安定であることを特徴とする。
【0030】
3.本発明のコアセルベート製造方法
本発明のコアセルベート製造方法は、末端にオリゴ糖鎖を有し、N-メチルグリシンに由来する構成単位を繰り返し単位とする重合体を水中に溶解し、コアセルベートを得る工程(1)を含む。
【0031】
本発明のコアセルベート製造方法は、前記自己組織化した重合体を超音波処理する工程(2)をさらに含んでいてもよい。当該工程(2)により、微細化したコアセルベートを形成することができる。
【0032】
本発明の微細化したコアセルベートの平均粒子径は、通常10~100nmである。好ましくは、20~100nmである。より好ましくは、20~50nmである。
【0033】
本発明の微細化したコアセルベートの平均粒子径は、動的光散乱法(DLS)により測定することができる。
【0034】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。さらに、本発明において「A~B(A及びBは任意の数値を表わす)」は「A以上B以下」と同義である。
【0035】
本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0036】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0037】
本実施例には、以下の原料を用いた。
・マルトペンタオース(純度> 98%)
・マルトトリオース(純度> 98%)
・無水酢酸(純度> 93%)
・モリブデン酸アンモニウム(純度> 99.98%)
・臭化銅(I)(純度> 95%)
・プロパルギルアミン(純度> 95%)
・サルコシン(純度> 98%)
・クロロギ酸メチル(純度> 96%)
・塩化チオニル(純度> 98%)
・ベンジルアミン(純度> 99%)
・アジド酢酸(純度> 97%)
・ピレン(純度> 97%)
・フルオレセインイソチオシアネート(純度> 97%)
・ローダミンB
・フルオレセイン1,8-ANS(純度> 98%)
マルトペンタオース、マルトトリオース、無水酢酸、及びモリブデン酸アンモニウム、臭化銅(I)は富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。プロパルギルアミン、サルコシン、クロロギ酸メチル、塩化チオニル、ベンジルアミン、アジド酢酸、ピレン、及びフルオレセインイソチオシアネートは東京化成工業株式会社から購入した。ローダミンB及びフルオレセインはSigma-Aldrich Co.LLCから購入した。1,8-ANSはCayman Chemical Companyから購入した。
【0038】
本実施例には、以下の方法を用いた。
DLS測定
DLS測定は、波長632.8 nm、検出角度173°で動作するZetasizer Nano ZS装置(Malvern Instruments社製)を使用して実施した。
1 H NMR測定
すべての出発物質及び溶媒は、さらに精製することなく使用した。核磁気共鳴スペクトルは、1H-NMRスペクトルを取得するために、Bruker Avance III 400MHz分光計を使用してメタノール-d4で実行した。化学シフト(δ)は100万分の1で表され、1H-NMRスペクトルの内部標準として溶媒ピークと比較して報告される。質量スペクトルは、Thermo Exactive分光計で記録した。
GPC(Gel Permeation Chromatography)法
分子量分布(MWD)曲線、数平均分子量(Mn)、及び多分散度指数(DM)は、リニアタイプポリスチレンゲルカラム(東ソーテクノシステム社製、TSKgel SuperHM-M;除外限界:4×106 g mol-1;粒子サイズ:3 μm;細孔サイズ:N/A; 6.0 mmi.d.×15 cm)、HLC-8320GPC(東ソーテクノシステム社製)屈折率、及びUV-可視検出器(λ= 254 nm)を備えた機器を用いて、10 mM LiBrを含むN、N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、40℃(流量= 0.50 mL min-1)でGPCによって測定した。カラムは、分子量標準物質として数平均分子量の異なる12種類のポリメチレンメタクリレート(PMMA)に対してキャリブレーションした[PSS:Mp = 8.00×102~2.20×106 g mol-1; DM(GPC)= 1.04-1.22]。
【0039】
重合体の製造例
[製造例1:マルトオリゴトース-ポリサルコシンの合成(製造方法A)]
(1)ポリサルコシンセグメントの合成
異なる長さのポリサルコシンセグメント(Sar-10.7、Sar-8.0、Sar-6.1、Sar-4.5、Sar-2.6)を合成した(スキーム1)。
【0040】
〔化合物[4]:N-(メトキシカルボニル)-N-メチルグリシンの合成〕
サルコシン(30.0 g、337 mmol)を337 mLの1M NaOH水溶液に溶解し、クロロギ酸メチル(33.9 mL、438 mmol)を0℃の氷浴で冷却しながら滴下した。混合物を室温で6時間撹拌した。次に、反応溶液のpHを2N HCl水溶液で11から6に調整した。化合物をジエチルエーテルで抽出した後、溶媒を減圧下で除去した。化合物[4]は白色の固体(42.54 g、288 mmol、84%)であった。
【0041】
〔化合物[5]:サルコシン-N-カルボキシ無水物(NCA)の合成〕
化合物[4](5.00 g、34.0 mmol)をSOCl2(50 mL、0.693 mol)に溶解し、溶液を70℃の油浴で12分間撹拌した。石油エーテルを用いてNCAを沈殿させた。結晶を濾過により集め、真空で乾燥させ、化合物[5]を得た(1.28 g、11.12 mmol、33%)。
【0042】
〔化合物[1-1]~[1-5]:ポリサルコシンホモポリマーの合成〕
化合物[5](1.16 g、10.1 mmol)を乾燥ジメチルホルムアミド(10 mL)に溶解し、ベンジルアミン(10.8 μL、101 μmol)を溶液に注入した。混合物をアルゴン雰囲気下、室温で12時間撹拌した。次に、ポリマー溶液をジエチルエーテルに加え、再沈殿させた。化合物[5]の量は、8 mLの乾燥DMFで0.928 g(8.08 mmol)、6 mLの乾燥DMFで0.696 g(6.06 mmol)、4 mLの乾燥DMFで0.464 g(4.04 mmol)、0.232 g(2.02 mmol)に調整した。異なる長さのポリサルコシンを得るために、化合物[5]とベンジルアミンの比を調整した。いずれの長さのポリサルコシンホモポリマーの調製においても、得られた固体は白色粉末であった。
【0043】
〔ポリマー[Sar-10.7]~[Sar-2.6]:アジド官能化ポリサルコシンホモポリマーの合成〕
化合物[1-1](100 mg、13.9 μmol)を3 mLの乾燥DMFに溶解した。(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)(25.2 mg、58.9 μmol)、シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル(Oxyma)(8.39 mg、58.9 μmol)、及び2-アジド酢酸(10 μL、134 μmol)、続いてN、N-ジ(イソプロピル)(エチル)アミン(10 μL、101 μmol)を溶液に添加した。混合物を室温で24時間撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、残留物を酢酸エチル及びジエチルエーテルで洗浄した。得られた固体はわずかに黄色の粉末であった(90 mg、12.3 μmol、88%)。
化合物[1-2]、[1-3]、[1-4]又は[1-5]を使用し、COMU、Oxyma及び2-アジド酢酸の量を適宜調整してそれぞれの目的化合物を製造した。
【0044】
【化1】
【0045】
(2)オリゴ糖鎖の合成
マルトトリオース及びマルトペンタオースを合成した(スキーム2)。
【0046】
〔化合物[S3]:アルキン官能化マルトトリオース〕
マルトトリオース(化合物[8]、1.09 g、2.16 mmol)をプロパルギルアミン(2.6 mL、40.6 mmol)に溶解し、混合物を室温で144時間撹拌した。次に、溶液をジエチルエーテルに滴下し、得られた白色の固体を濾過により分離した。 白色の固体を乾燥メタノール(280 mL)と無水酢酸(15.0 mL、159 mmol)の混合物に溶解した。溶液を室温で144時間撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、そして残留物を真空中で乾燥させた。
得られた固体は白色粉末であった(993 mg、90%)。
化合物[S3]の1H NMR測定を行った結果は以下の通りである。
1H NMR(400 MHz、メタノール-d4):δ= 2.22及び2.28、2.49及び2.74、3.40-4.16、5.06~5.10、4.81及び5.43。
【0047】
〔化合物[S5]:アルキン官能化マルトペンタオース〕
マルトペンタオース(化合物[9]、1.09 g、1.31 mmol)をプロパルギルアミン(2.6 mL、40.6 mmol)に溶解し、混合物を室温で144時間撹拌した。次に、溶液をジエチルエーテルに滴下し、得られた白色の固体を濾過により分離した。 白色の固体を乾燥メタノール(280 mL)と無水酢酸(15.0 mL、159 mmol)の混合物に溶解した。溶液を室温で144時間撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、そして残留物を真空中で乾燥させた。
得られた固体は白色粉末であった(1.06 g、89%)。
化合物[S5]の1H NMR測定を行った結果は以下の通りである。
1H NMR(400 MHz、メタノール-d4):δ= 2.22及び2.28、2.49及び2.77、3.4-4.16、5.15~5.20、4.91及び5.53。
【0048】
【化2】
【0049】
(3)マルトオリゴトース-ポリサルコシンの合成
〔ポリマー[S3-Sar10.7]から[S3-Sar2.6]:マルトトリオース-b-ポリサルコシン〕
スキーム1で合成した異なる長さのポリサルコシンセグメントとスキーム2で合成したマルトトリオースを結合させた(スキーム3)。
化合物[S3](30.0 mg、51.4 μmol)及び化合物[Sar-10.7](50.0 mg、7.93 μmol)を2 mLの乾燥DMFに溶解した。CuBr(I)(2.0 mg、13.9 μmol)を溶液に加え、溶液を室温で72時間撹拌した。次に、溶液をSiliaMetS(商標)トリアミン(SiliCycle社製)に通して銅を除去した。溶媒を蒸発させ、残留物を、セファデックスLH-20(溶離液はメタノール)でのゲル濾過クロマトグラフィーによって精製した。
他の長さのマルトトリオース-b-ポリサルコシン(S3-Sar8.0からS3-Sar2.6)も同じ手順で合成した。
すべてのブロック共重合体はわずかに黄色の固体であった。以下にマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)により得られたポリマーを分析した結果を示す。
m/z:[S3-Sar10.7+Na]計算値 C404H667N129NaO141、9584.91の場合、実測値:9584.62。
m/z:[S3-Sar8.0+Na]計算値 C293H482N92NaO104、6955.53の場合、実測値:6955.62。
m/z:[S3-Sar6.1+Na]計算値 C227C372N70NaO82、5391.71の場合、実測値:5392.12。
m/z:[S3-Sar4.5+Na]計算値 C134H217N39NaO51、3190.57の場合、実測値:3189.72。
m/z:[S3-Sar2.6+Na]計算値 C98H157BN27NaO39、2336.11の場合、実測値:2335.99。
【0050】
【化3】
【0051】
〔ポリマー[S5-Sar10.7]から[S5-Sar2.6]:マルトペンタオース-b-ポリサルコシン〕
スキーム1で合成した異なる長さのポリサルコシンセグメントとスキーム2で合成したマルトペンタオースを結合させた(スキーム4)。
化合物[S5](40.0 mg、44.1 μmol)及び化合物[Sar-10.7](50.0 mg、7.93 μmol)を2 mLの乾燥DMFに溶解した。CuBr(I)(2.0 mg、13.9 μmol)を溶液に加え、溶液を室温で72時間撹拌した。次に、溶液をSiliaMetS(商標)トリアミン(SiliCycle社製)に通して銅を除去した。溶媒を蒸発させ、残留物を、セファデックスLH-20(溶離液はメタノール)でのゲル濾過クロマトグラフィーによって精製した。
他の長さのマルトペンタオース-b-ポリサルコシン(S5-Sar8.0からS5-Sar2.6)も同じ手順で合成した。
すべてのブロック共重合体はわずかに黄色の固体であった。
MALDI-TOF(マトリックス:CHCA)
m/z:[S5-Sar10.7+Na]計算値 C455H752N142NaO164、10834.50の場合、実測値:10832.90。
m/z:[S5-Sar8.0+Na]計算値 C293H482N88NaO110、6996.96の場合、実測値:6997.62。
m/z:[S5-Sar6.1+Na]計算値 C233H382N68NaO90、5574.75の場合、実測値:5575.62。
m/z:[S5-Sar4.5+Na]計算値 C173H282N48NaO70、4154.00の場合、実測値:4154.02。
m/z:[S5-Sar2.6+Na]計算値 C110H177N27NaO49、2661.22の場合、実測値:2661.35。
【0052】
【化4】
【0053】
[製造例2:マルトオリゴトース-ポリサルコシンの合成(製造方法B)]
(1)マルトトリオースへのBoc-エチレンジアミンの付加
マルトトリオース(500mg、0.99 mmol)にBoc-エチレンジアミン(10.0 mL, 63.1 mmol)を添加し、40℃で72時間撹拌した。得られた粘調液体はメタノール(30 mL)で希釈した後、ジエチルエーテルに滴下することで再沈殿操作を行い、淡黄色沈殿を得た。得られた沈殿は濾別したのち、真空乾燥した。得られた淡黄色固形物は粉末であった(583 mg、85%)。
【0054】
(2)脱Boc
上述の方法で得られた粉末を4N HCl水溶液で3時間25℃で撹拌し脱保護(脱Boc)した。撹拌後の透明水溶液中の塩酸水溶液及び脱Boc副生成物は真空留去により除去し、淡黄色固体を得た。
【0055】
(3)サルコシン伸長
製造例1と同様の方法でMoc-Sar-OHよりSar-NCAを調製した。Sar-NCA(100 mg, 0.87 mmol)を超脱水DMF(7.7 mL)に溶解した。上述の方法で調製したマルトトリオースーエチレンジアミン(5.1 mg, 0.0087 mmol)を1 mLの超脱水DMFに溶解し、これを先に調製したSar-NCAのDMF溶液に添加し、24時間撹拌した。その後DMFを減圧留去により除去し、淡黄色固体を得た。得られた固体は再度メタノールに溶解し、ジエチルエーテルを貧溶媒として再沈殿精製を行い、淡黄色固体を得た。
【0056】
製造例1及び2のオリゴ糖鎖付加ポリサルコシンの評価
[製造例1(製造方法A)]
(1)オリゴ糖鎖付加ポリサルコシンの合成
オリゴ糖とポリサルコシンの長さによる自己組織化への影響を確認するため、3糖又は5糖と、20、40、60、80、又は100サルコシン単位のマルトオリゴトース-ポリサルコシン(以下、オリゴ糖鎖付加ポリサルコシン)を設計した(図1)。 [ベンジルアミン]:[NCA] = 10.0:1000、12.5:1000、16.7:1000、25.0:1000、又は50.0:1000の脱水DMF中の1000 mMサルコシンNCAに、開始剤としてベンジルアミンを注入した。ミリモル対ミリモルベースで、アルゴン雰囲気下、20℃で12時間溶液を撹拌した。得られたすべてのポリマー(化合物Sar-10.7~Sar-2.6)のゲル浸透クロマトグラム(GPC)は、分子量分布が極めて狭い単一のピークを示し、分子量の強いピークトップは開始剤とサルコシンNCAの調製モル比を反映した(表1)。
GPC法によるポリサルコシンセグメントの数平均分子量測定結果を表1に示す。
【表1】
【0057】
ポリサルコシンのN末端をアジド酢酸でキャップした。得られたアジド官能化ポリサルコシンセグメントは、Cu触媒によるアジド-アルキン付加環化反応(CuAAc)を介して、アルキン官能化マルトトリオース(S3)又はマルトペンタオース(S5)と結合させた。得られたすべてのポリマー(化合物S5-Sar10.7~S5-Sar2.6及びS3-Sar10.7~S3-Sar2.6)のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)も、分子量分布が非常に狭い単一のピークを示した(表2)。
上記と同様に、GPC法によるマルトオリゴトース-ポリサルコシンの数平均分子量の測定結果と、1H NMRによって決定した重合度(DP)を表2に示す。
【表2】
表2は、分子量標準物質としてPMMAを使用してGPCから計算された分子量からなる各糖鎖付加ポリサルコシンのDPも示す。これらのポリマーの合成は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)によって確認した。これらの観察に基づいて、我々は、目的の糖鎖付加ポリサルコシン、即ちマルトトリオース-ポリサルコシン又はマルトペンタオース-ポリサルコシンが合成されたことを確認した。
【0058】
(2)オリゴ糖鎖付加ポリサルコシンの自己組織化
最初に、動的光散乱法(DLS)を使用した水溶液中の自己組織化したオリゴ糖鎖付加ポリサルコシンのサイズを評価した(表3)。
20℃でDLSによって測定された自己組織化したオリゴ糖鎖付加ポリサルコシンのサイズ、分布、及び散乱強度(n = 5)を表3に示す。超音波処理時間は5分で、溶液濃度は10.0 mg/mLであった。
【表3】
オリゴ糖鎖付加ポリサルコシンのメタノール溶液をガラス管に加え、溶媒を減圧下で除去した。得られたポリマー薄膜を超純水で水和し、10.0 mg/mLの濃度のポリマー水溶液を得た。すべてのオリゴ糖鎖付加ポリサルコシンはすぐに水に溶解した。オリゴ糖鎖付加ポリサルコシンの水溶液を、20℃(40 kHz、130 W)のバスタイプのソニケーターで5分間超音波処理した。マルトトリオース-ポリサルコシン(S3-Sarシリーズ)の場合、直径150~220 nmの単分散粒子が観察され、サイズはポリサルコシンの分子量とは無関係であった(表3)。逆に、マルトペンタオース-ポリサルコシン(S5-Sarシリーズ)から形成される粒子のサイズは、ポリサルコシンの分子量に応じて変化した。高分子量のS5-Sarシリーズ(S5-Sar10.7及びS5-Sar8.0)は、S3-Sarシリーズと同様に150~220 nmの範囲で単分散粒子を形成した。低分子量のポリサルコシンを持つ他のS5-Sar(S5-Sar6.1、S5-Sar4.5、及びS5-Sar2.6)は、比較的広範囲の分散度でより大きな粒子を形成した(表3)。
【0059】
[製造例2(製造方法B)]
得られたポリマーを製造例1に記載の方法と同じ方法でGPC分析したところ、PMMA換算の重量平均分子量は10700、数平均分子量は8800であり、分散指数Mw/Mnは1.24であった。
得られたポリマーを1.0 mg/mLで超純水に溶解したのち、製造例1と同様の装置を用いて5分間の超音波処理を行った。その後DLS測定を実施したところ、粒径は308 nmであった。
【0060】
上記で得られたコアセルベートの模式図は、図2に示す通りであった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
粒径が数十から数百nmに制御されたナノ粒子は、例えば固形がんに特異的に集積する性質があることが知られており、本発明の重合体及びコアセルベートは、医用応用が見込める有望材料である。さらに本発明で使用されるオリゴ糖及びペプトイドは共に生体適合性材料であり、生体内の塩が存在する環境でも安定であることから、例えば薬剤送達システムや生体内ナノリアクターの基盤材料として活用し得るものである。
図1
図2