(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163609
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】フィルター構造体
(51)【国際特許分類】
B01D 46/10 20060101AFI20231102BHJP
F24F 7/013 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B01D46/10 B
F24F7/013 102D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074621
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【弁理士】
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】葛西 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100206195
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】足立 将司
【テーマコード(参考)】
4D058
【Fターム(参考)】
4D058JA12
4D058JB41
4D058KC01
4D058KC28
4D058SA02
(57)【要約】
【課題】 フィルター構造体全体としての難燃性を維持したフィルター構造体を提供する。
【解決手段】フィルター構造体81は、対象物に貼着して通過する気体をろ過するためのものであって、通気性を有するシート状部材からなるフィルター層と、フィルター層の一方面の少なくとも一部に形成された、対象物へ貼着するための粘着剤層とを備える。粘着剤層は、難燃剤を3重量%以上含む。このように構成すると、粘着剤層に難燃性が付与されるので、フィルター構造体81全体の難燃性を向上することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に貼着して通過する気体をろ過するためのフィルター構造体であって、
通気性を有するシート状部材からなるフィルター層と、
前記フィルター層の一方面の少なくとも一部に形成された、前記対象物へ貼着するための粘着剤層とを備え、
前記粘着剤層は、難燃剤を3重量%以上含む、フィルター構造体。
【請求項2】
前記難燃剤が、有機系のノンハロゲン難燃剤である、請求項1記載のフィルター構造体。
【請求項3】
前記難燃剤が、前記粘着剤層中に10重量%以上30重量%以下の範囲で含有される、請求項1又は請求項2記載のフィルター構造体。
【請求項4】
前記フィルター層に前記粘着剤層が形成される箇所において、前記フィルター層に対して前記粘着剤層が5g/m2以上50g/m2以下の範囲で形成される、請求項1又は請求項2記載のフィルター構造体。
【請求項5】
前記粘着剤層がスプレー塗布により形成されたものである、請求項1又は請求項2記載のフィルター構造体。
【請求項6】
前記フィルター層に前記粘着剤層が形成される範囲の裏面に相当する、前記フィルター層の他方面におけるJIS L1091A-1法(45°ミクロバーナー法)による燃焼性試験の区分が3である、請求項1又は請求項2記載のフィルター構造体。
【請求項7】
前記対象物が、レンジフードである、請求項1又は請求項2記載のフィルター構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルター構造体に関し、特にレンジフード、エアコン、空気清浄機、通気口等の対象物に貼着して、通過する気体をろ過するためのフィルター構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンジフードの金属フィルター又は整流板、エアコンや空気清浄機の空気吸入口、屋内外の通気口等に装着して、通過する空気をろ過するためのフィルター構造体が、特開2002-85927号公報(特許文献1)、特開2017-15297号公報(特許文献2)等に記載されている。これらの文献に記載されたフィルター構造体は、不織布等からなるシート状のフィルター層の一方の面に、粘着剤層が形成された構造を有している。又、通常、粘着剤層の表面には厚みの薄い剥離シートが貼着される。更に、この粘着剤層としてアクリル系のホットメルト粘着剤を用いたフィルター構造体が、特開2016-36801号公報(特許文献3)に記載されている。さらに、不織布層の片側表面に粘着剤がスプレー塗布された粘着剤層を含むことでレンジフード等に貼着することができるフィルターが特開2018-161598号公報(特許文献4)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-85927号公報
【特許文献2】特開2017-15297号公報
【特許文献3】特開2016-36801号公報
【特許文献4】特開2018-161598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1から特許文献4に記載されるようなフィルター構造体を、レンジフード等の取付対象に取り付けるには、粘着剤層の表面に貼着された剥離フィルムを除去して粘着剤層の粘着面を露出させた後、粘着面を取付個所に位置合わせして押圧する等して貼り付けることで取り付けを行う。ここで、特許文献1から特許文献4に記載されるようなフィルター構造体を台所のガスレンジ上に設置されるレンジフード等に貼着する場合、フィルター構造体を構成する不織布に難燃性を付与するため、不織布を構成する繊維として難燃性繊維を使用したり、繊維に難燃化剤による処理(例えば、繊維にステアリン酸アルミニウムなどの脂肪酸金属塩を付着させるなど)が施されたりしている。このような難燃性の付与により台所での通常の加熱調理であれば、加熱調理時に炎が直接フィルター構造体に接することがないので、加熱調理時の熱でフィルター構造体が容易に溶けたり燃えたりすることはない。しかし、いわゆるフランベと呼ばれるような、食材を加熱調理する際にブランデーのようなアルコール度数の高い酒をフライパンの中に落として一気にアルコール分を飛ばす調理方法を行った場合には、揮発したアルコールにより大きく炎が立ち上がることがある。このような場合には、炎が直接フィルター構造体に接する場合があり、その場合にはフィルター構造体を構成する不織布が燃えるおそれがあるが、前述のように不織布に難燃性を付与していれば、不織布自体は燃えにくくなる。他方で、フィルター構造体が不織布の一方の面に、粘着剤層が形成された構成を採用している場合、粘着剤層は樹脂系粘着剤やゴム系粘着剤などで構成されており、これらは燃えやすいが、レンジフード等に貼着した状態では粘着剤層の反対側には不織布があり、ガスコンロから最も離隔した位置にあることから、不織布自体が燃えない限りは粘着剤層までもが燃えないようにも思われる。ところが、この予想に反し、不織布の片側表面全体に粘着剤層がスプレー塗布により形成されているような場合には、フランベのように炎がフィルター構造体に直接接するような状態になると、フィルター構造体が容易に燃えることがあることがわかった。この理由は定かではないが、不織布の片側表面全体に粘着剤層がスプレー塗布にて形成されている場合には、不織布の片側表面全体に粘着剤が散在し、その粘着剤が不織布を構成する繊維の一部または大半を覆うことになり、炎が不織布の繊維を覆う粘着剤に接して粘着剤に燃え移ったり、繊維間の隙間を通って粘着剤層まで炎が到達して燃え移ったりすることで、たとえ不織布に難燃性が付与されていたとしても、その難燃性を発揮する前に、不織布全体に燃え広がってしまうのではないか、と推察される。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みて、フィルター構造体全体としての難燃性を維持したフィルター構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、対象物に貼着して通過する気体をろ過するためのフィルター構造体であって、通気性を有するシート状部材からなるフィルター層と、フィルター層の一方面の少なくとも一部に形成された、対象物へ貼着するための粘着剤層とを備え、粘着剤層は、難燃剤を3重量%以上含むものである。
【0007】
このように構成すると、粘着剤層に難燃性が付与される、という作用1が得られる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、難燃剤が、有機系のノンハロゲン難燃剤であるものである。
【0009】
このように構成すると、難燃剤の熱による分解で有毒ガスが発生しにくい、という作用2が得られる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、難燃剤が、粘着剤層中に10重量%以上30重量%以下の範囲で含有されるものである。
【0011】
このように構成すると、粘着剤層の難燃性がさらに向上するとともに、フィルター構造体を取り付け対象物に取り付けた時に必要な粘着力を確保できる、という作用3を得られる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、フィルター層に粘着剤層が形成される箇所において、フィルター層に対して粘着剤層が5g/m2以上50g/m2以下の範囲で形成されるものである。
【0013】
このように構成すると、フィルター構造体を取り付け対象物に取り付けた時に必要な粘着力を確保できる、という作用4が得られる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、粘着剤層がスプレー塗布により形成されたものである。
【0015】
このように構成すると、スプレー塗布により形成できる粘着剤層にも難燃性が付与される、という作用5が得られる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、フィルター層に粘着剤層が形成される範囲の裏面に相当する、フィルター層の他方面におけるJIS L1091A-1法(45°ミクロバーナー法)による燃焼性試験の区分が3であるものである。
【0017】
このように構成すると、フィルターの他方面が燃えにくい、という作用6を得られる。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、対象物が、レンジフードであるものである。
【0019】
このように構成すると、難燃性が高いので、ガスコンロでの火気の使用時にもより安全に使用できる、という作用7が得られる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、上記作用1が得られるため、フィルター構造体全体の難燃性を向上することができる。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、上記作用2が得られるため、人体に対しての安全性がより高い。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、上記作用3が得られるため、フィルター構造体全体の難燃性をさらに向上させられると共に、フィルター構造体が剥がれたり脱落したりすることが抑制される。
【0023】
請求項4記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、上記作用4が得られるため、フィルター構造体が剥がれたり脱落したりすることが抑制されるとともに、フィルター層での気体のろ過が阻害されることがない。
【0024】
請求項5記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、上記作用5が得られるため、粘着剤層がスプレー塗布により形成されたものであっても、フィルター構造体全体の難燃性が向上する。
【0025】
請求項6記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、上記作用6が得られるため、フィルター構造体全体の難燃性が向上する。
【0026】
請求項7記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、上記作用7が得られるため、レンジフードに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施の形態によるフィルター構造体をレンジフードの金属フィルターへ取付ける場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の実施の形態によるフィルター構造体をレンジフードの金属フィルターへ取付ける場合の一例を示す図である。図を参照して、レンジフードは、ブーツ型のフードの内側に吸気口を備えたものからなる。吸気口の開口には、吸気口の内部に異物が入り込むのを防ぐために、金属フィルター74が取付けられている。金属フィルター74の外面は、対向する一対の一辺と対向する一対の他辺とからなる矩形形状を有する。また、図を参照して、フィルター構造体81は、通気性を有するシート状部材からなるフィルター層と、フィルター層の一方面の少なくとも一部に形成された、対象物へ貼着するための粘着剤層とを備え、金属フィルター74の大きさに合わせて、所定長さに切断されており、切断を補助するために、幅方向に縦断するミシン目82が所定間隔で形成されている。このミシン目82は必要に応じて省くことができる。また、フィルター構造体81は、予め所望の大きさに切断されたものであってもよいし、ロール状のフィルター構造体81を使用時に適宜切断して使用してもよい。前述のとおり、フィルター構造体81の一方面には、図示しない粘着剤が塗布されることで粘着剤層が形成されている。このフィルター構造体81は、対象物に貼着して通過する気体をろ過するためのものであり、通過する空気をろ過するシート状のフィルター層Sと、フィルター層Sの一方面の少なくとも一部に形成された、対象物へ貼着するための粘着剤層Nとを備える。また、使用前の状態では、粘着剤層N表面には剥離可能な剥離シート層が積層されており、使用時にこの剥離シート層を剥がしてシールを貼るようにしてフィルター構造体81を対象物に貼着する。
【0029】
本例のフィルター層Sは、例えば不織布、織布、又は編み布等で構成される。油煙やホコリ等の捕集と気体の流通とを両立させると共に、実用的な強度を確保するため、厚さを0.3~15.0mm、目付けを20~200g/m2の範囲とするのが好ましい。厚さが0.3mm未満、又は、目付けが20g/m2未満の場合は、実用的な強度が不足すると共に、十分な捕集機能を発揮しないおそれがある。厚さが15.0mmを超えるか、又は、目付けが200g/m2を超えると、気体の流通抵抗が大きくなり、エアフィルターとしての実用性が損なわれるおそれがある。フィルター層Sの材質としては、PET等のポリエステル、ポリプロピレン又はプロピレン主体の共重合体、モダクリルを含むアクリル等を用いることができるが、これらに限定されない。尚、本発明のフィルター構造体をレンジフード用のフィルター構造体として使用する場合、フィルター層Sは、例えば不織布であれば構成する繊維として難燃性繊維を用いたり、繊維に難燃化剤による処理(例えば、繊維にステアリン酸アルミニウムなどの脂肪酸金属塩を付着させるなど)を行うことが好ましい。又、フィルター層Sは、難燃性以外にも、抗ウイルス、抗菌、抗カビ等の機能を発揮する加工が施されていてもよい。
【0030】
粘着剤層Nは、フィルター層Sの一方面の少なくとも一部に、形成される。粘着剤層Nを形成する粘着剤は特に限定されず、例えば、2液混合型ポリウレタン系粘着剤のような主剤及び硬化剤を含む2液混合型粘着剤やアクリル系ホットメルト粘着剤のようなホットメルト粘着剤等が使用できる。又、粘着剤には、必要に応じ、密着性を向上させる粘着付与剤や、紫外線吸収剤、充填剤、着色剤、酸化防止剤、消泡剤、光安定剤等の添加剤、低温時における粘着力の低下、糊残り等を抑制するための各種添加剤を配合してもよい。フィルター層Sへの粘着剤層Nの形成方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、粘着剤をフィルター層Sに直接塗布するか、又は後述するような剥離可能な剥離シート層等に一旦に粘着剤を塗布した上で、この剥離シート層とフィルター層Sを接触させることによりフィルター層Sに粘着剤を転写する等の方法により間接的に塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を乾燥(固化)させる方法を採用することができる。直接的又は間接的に粘着剤層Nをフィルター層Sに塗布するにあたっての塗布方法は、限定されないが、例えばローラー、スプレー、刷毛、印刷等によって実施することができる。即ち、公知の装置を使用した、例えばロールコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、インクジェット法、リバースコーター法、シルクスクリーン法、グラビアコーター法等をいずれも採用することができる。直接的に塗布する場合は、例えばフィルター層Sの片面にスプレーにて全体又は部分的に粘着剤を吹き付けることにより、フィルター層Sに粘着剤層Nを形成することができる。又、間接的に塗布する場合は、例えばシリコーンコートが施された剥離可能な剥離シート層に粘着剤をロール等にて印刷した後、この剥離シート層の粘着剤層N側をフィルター層Sと接触させロール等で圧着することにより、フィルター層Sに粘着剤層Nを転写する方法等が採用できる。
【0031】
剥離シート層は、例えば、シリコーンコートが少なくとも一方の面に形成されたPETフィルム等が用いられる。剥離シート層を設けることによって粘着剤層Nの表面が保護されるから、フィルター構造体81の使用前に粘着剤層Nが目的の対象物以外に張り付くのを防止できる。又、複数のフィルター構造体81を重ね合わせることも可能になる等、取り扱い性が向上する。使用に際しては、剥離シート層を剥離し、露出させた粘着剤層Nを対象物に対しシールのように貼り付ければよい。剥離シート層の素材としては、PETフィルム以外に、セロファン、PET以外の樹脂フィルム、樹脂コートのような表面加工を施した紙、金属シート等も使用可能である。尚、粘着剤層Nは、前述のようにスプレー法で形成してもよく、パターン印刷により帯状や格子状に形成してもよく、文字、記号、図形のほか、キャラクターをデザイン化した絵柄を形成してもよい。又、5℃における粘着剤層Nの最大剥離荷重Kは、好ましくは0.01~0.05N/mmの範囲、より好ましくは0.02~0.04N/mmの範囲に設定される。粘着剤層Nをこのように設定することで、5℃という低温の温度条件下でも対象物からの脱落を確実に防止できる。
【0032】
ところで本例のフィルター構造体81は、フィルター層Sの一方面の少なくとも一部に粘着剤層Nが形成されていればよく、必ずしも全面に形成する必要はないが、フィルター層S全面への粘着剤層Nの形成を排除するものではない。フィルター層S全面への粘着剤層Nの形成の例としては、フィルター層Sの一方面に粘着剤をフィルター層Sの通気性を阻害しない程度の範囲の量でスプレー塗布することでフィルター層Sの全面に粘着剤層Nを形成することができる。もちろん、スプレー塗布の場合でも、フィルター層Sの一部のみに粘着剤層Nを形成することを採用することはできる。例えば、フィルター層Sが矩形形状の場合であれば、その矩形形状の外周近傍にのみ粘着剤層Nを形成して、内方側には粘着剤層Nを形成しない、という態様を採用できる。又、パターンコートにより、部分的に粘着剤層Nを形成してもよい。例えば、フィルター層Sが矩形形状の場合であれば、その矩形形状の外周又は外周近傍にのみ帯状の粘着剤層Nを形成して、内方側には粘着剤層Nを形成しない、という態様を採用できる。また、矩形形状の外周又は外周近傍に帯状の粘着剤層Nを形成することに加えて、内方側にはストライプ状や格子状の帯状の粘着剤層Nを形成する、という態様も採用できる。なお、パターンコートの場合は、粘着剤が形成された部分は繊維の隙間が完全に粘着剤で埋まってしまうことが多いので、フィルター層Sの一方面の少なくとも一部に粘着剤層Nが形成されている態様を採用するのが好ましい。粘着剤層Nの好ましい塗布量(形成量)は、フィルター層Sに粘着剤層Nが形成される箇所(一方面)において、フィルター層Sに対する粘着剤層Nの形成量が、好ましくは5g/m2以上50g/m2以下、より好ましくは15g/m2以上30g/m2以下である。このように構成すると、フィルター構造体81を取り付け対象物に取り付けた時に必要な粘着力を確保できるのでフィルター構造体81が剥がれたり脱落したりすることが抑制されるとともに、フィルター層Sでの気体のろ過が阻害されることがない。
【0033】
本発明のフィルター構造体81においては、粘着剤層Nは難燃剤を3重量%以上含む。このように構成することで、粘着剤層Nに難燃性が付与されるので、フィルター構造体81全体の難燃性を向上することができる。尚、難燃剤としては、本発明の効果を阻害しない限り、種々のものを用いることができる。難燃剤は大別すれば、ハロゲン元素を含むハロゲン系難燃剤とハロゲン元素を含まないノンハロゲン系難燃剤とに分けられるが、本発明で用いる難燃剤としてはいずれのものも使用できる。ハロゲン元素を含むハロゲン系難燃剤としては、例えば、臭素化合物、塩素化合物、含ハロゲンりん系化合物(例えば、含ハロゲンりん酸エステル)など化合物が挙げられる。この場合、難燃助剤として、Sb2O3(三酸化アンチモン)、ZnS(硫化亜鉛)、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛などの無機化合物を併用できる。
【0034】
又、ハロゲン元素を含まないノンハロゲン系難燃剤としては、無機系と有機系のものがある。例えば、無機系のノンハロゲン難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミ酸カルシウム等の水和金属化合物、赤りんなどのりん系化合物、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの窒素系化合物、モリブデン化合物、ホウ素亜鉛、錫酸亜鉛などの無機化合物が挙げられる。
【0035】
一方、有機系のノンハロゲン難燃剤としては、りん酸エステル、含りんポリオール、含りんアミンなどのハロゲンを含まないりん系化合物や、シリコーンポリマー粉末などのシリコーン化合物や、トリアジン化合物、メラミンシアヌレート、グアニジン化合物などのハロゲンを含まない窒素系化合物が挙げられる。
【0036】
この中でも本発明においては、熱による分解で有毒ガスが発生しにくいノンハロゲン難燃剤が好ましく、その中でも有機系のノンハロゲン難燃剤が好ましく、更にはその中でもりん酸エステルが燃焼時に発生するガスの人体に対しての安全性がより高いという点でより好ましい。
【0037】
本発明において、難燃剤は、粘着剤層N中に10重量%以上30重量%以下の範囲で含有されるのが好ましい。フィルター構造体81全体の難燃性をさらに向上することができるとともに、フィルター構造体81を取り付け対象物に取り付けた時に必要な粘着力を確保できるのでフィルター構造体81が剥がれたり脱落したりすることが抑制される。なお、粘着剤層N中の難燃剤の含有量が30重量%を超えると、粘着剤層Nに占める粘着剤の量が低下することによりフィルター構造体81の粘着力の低下が生じて、取り付け対象からフィルター構造体81が剥がれたり脱落したりするおそれがある。特にレンジフード用として用いた場合に加熱調理時にフィルター構造体81が剥がれたり脱落したりするとガスコンロの火がフィルター構造体81に燃え移る可能性もあるので好ましくない。
【0038】
又、本発明においては、フィルター層Sに粘着剤層Nが形成される範囲の裏面に相当する、フィルター層Sの他方面におけるJIS L1091A-1法(45°ミクロバーナー法)による燃焼性試験の区分が3であるのが好ましい。このように構成すると、フィルター構造体全体の難燃性が向上する。
【0039】
本発明のフィルター構造体81は、例えば台所や厨房のレンジフード、エアコン、換気扇等の家庭用機器、屋内外に設置される通気口等の他、工業用機器における通気個所におけるエアフィルター製品として広く使用することができる。この中でも、難燃性が高いので、レンジフードに好適に使用できる。
【0040】
尚、本発明のフィルター構造体81は、適用対象物として、表面に、アルミニウム-亜鉛合金メッキ等のメッキ、又は、ポリエステル塗装等の塗装が施されているものを選択することができる。特に、一般に汎用されているレンジフードは鋼板の表面に各種メッキやポリエステル製の塗装が施されたものから構成されていることが多いが、本発明のフィルター構造体81は、上記のようなメッキ又は塗装が表面に施された対象物に適用することで、取り外した時の糊残りの発生をより抑制することができる。
【0041】
又、粘着剤層Nによって、フィルターの交換時期を表示する文字、マーク、柄等を表記してもよい。フィルター層Sが、これら文字等以外の部分で空気中の油煙や塵埃を捕捉することによって着色される結果、使用開始前には殆ど判別できなかった無色の文字等が、使用時間の経過に伴い周囲が着色されることによって文字等が白抜き文字の状態となり、明瞭に読み取ることができるようになる。従って、文字等によって表示される内容を、フィルター交換時期を示すものとしておくことによって、フィルター交換時期を使用者に表示することができる。
【0042】
又、本発明のフィルター構造体81は、フィルター層Sの少なくとも一方の長さが、例えば25cm以上の比較的大型の製品を対象とすることができる。これは、フィルター層Sの少なくとも一方の長さが30cm以上、更には35cm以上、とフィルター構造体81が大型の製品になるほど、自重により対象物から脱落や部分的な剥離が生じるという問題が生じ易くなる。特にレンジフードに用いる場合、使用されるフィルター構造体81の大きさはそれぞれの機種により変わるが少なくとも一方の長さが数十cm以上の大型となることが一般的である。そこで、このような大型のフィルター構造体81に本発明を適用すれば、5℃という低温の温度条件下で対象物へ貼着したときにも該対象物から脱落することがない。
【実施例0043】
本発明のフィルター構造体によれば、難燃性が向上するという効果が得られることを、試験により実証した。
【0044】
試料には、レンジフードの金属フィルター用を想定して作製したものであって、後述する目付と通気性を備えた不織布からなる各フィルター層の一方面に異なる方法で粘着剤層を形成したフィルター構造体を用いた。
【0045】
PET(ポリエチレンテレフタレート)を原料とした繊維から製造した不織布をフィルター層として用いた。なお、PETを原料とした繊維には、難燃性を付与したPET繊維を40重量%含む。又、このフィルター層単体(粘着剤層を形成する前のフィルター層)での後述する1)JIS L 1091 A-1法(45°ミクロバーナー法)の試験結果は、いずれのフィルター層も区分3であり、2)垂直方向燃焼試験(残炎時間及びドリップの有無)の試験結果は、いずれのフィルター層も残炎時間及びドリップの有無でそれぞれ「〇」であった。
【0046】
粘着剤層としては、ホットメルト粘着剤及び溶剤系粘着剤をそれぞれ準備してフィルター構造体のサンプルを作成した。ホットメルト粘着剤については、実施例13及び比較例6は、ゴム系ホットメルト粘着剤であり、それ以外の実施例及び比較例ではアクリル系ホットメルト粘着剤を用いた。溶剤系粘着剤については、主剤と硬化剤とを含む2液混合型ポリウレタン系粘着剤を用いた。
【0047】
粘着剤層の形成は、パターンコート(剥離シートに一旦に粘着剤を所望のパターンデザインにて塗布した上で、この剥離シート層とフィルター層を接触させることによりフィルター層に粘着剤を転写する方法にて、フィルター層表面に帯状の粘着パターンを形成)及びスプレーコート(フィルター層の片面にスプレーにて全体又は部分的に粘着剤を吹き付けることにより、フィルター層に粘着剤層を形成する方法)にて行った。なお、パターンコートでは、フィルター層外周をぐるり一周する1cm幅の帯状の粘着パターン及び上下左右に5cm間隔となるように配置した1cm幅の格子状の粘着パターンにて粘着剤層を形成した。
【0048】
又、試験に使用したレンジフードとしては、富士工業製の型番「BDR-3HL-601BK」を用いた。
【0049】
試験は、1)JIS L 1091 A-1法(45°ミクロバーナー法)、2)垂直方向燃焼試験(残炎時間及びドリップの有無)、3)金属フィルターへのフィルター構造体の粘着力1(5℃での最大剥離荷重)、4)金属フィルターへのフィルター構造体の粘着力2(金属フィルターへのフィルター構造体取付後の状態観察)5)通気性、の5種類について行った。
1)JIS L 1091 A-1法(45°ミクロバーナ法)
この方法は、燃焼の広がりの程度(燃焼面積及び燃焼長さ)、残炎及び残じん時間を測定する方法である。この測定により、A-1法にて規定される燃焼性の区分に沿って、1分加熱及び着炎3秒後について、区分1、2及び3のいずれに該当するか評価した。
2)垂直方向燃焼試験(残炎時間及びドリップの有無)
実施例及び比較例の各フィルター構造体について、5cm×15cm幅の短冊を切り出し、試験体短冊は垂直方向に保持し下端5cmの方に炎の先端を当てる。炎を当てる場所は、粘着剤層が形成されている箇所とした。以下の表1の評価基準に基づいて評価した。
【0050】
【表1】
3)金属フィルターへのフィルター構造体の粘着力1(5℃最大剥離荷重)
「最大剥離荷重」は、基本的な測定方法は「JIS Z 0237:2009」に準じて行ったものであるが、測定条件は後述する条件にて行った。又、温度環境を5℃に設定して試験を行った。「最大剥離荷重」としては、試料を対象物に貼り付けた後、対象物から剥離するときの最大荷重を測定した。試験機として定速伸長形試験機を使用し、試料として巾5mm×長さ250mm及び巾10mm×長さ250mmのフィルター構造体(粘着剤層も同様の寸法)を準備した。貼り付ける対象面にはSUS304のステンレス鋼板を用いた。試験は、試料を上記の対象面に貼り付け、その表面を1kgのローラーで2往復した後、180度の方向へ100mm/分の剥離速度で剥離したときの最大荷重を測定するという方法で行った。この時の最大剥離荷重が、0.02N/mm以上であれば「〇」、0.01N/mm以上0.02N/mm未満であれば「△」、0.01N/mm未満であれば「×」と評価した。
4)金属フィルターへのフィルター構造体の粘着力2(金属フィルターへのフィルター構造体取付後の状態観察)
レンジフードから金属フィルターを外して、この金属フィルターを水平な台に載置する。金属フィルターと同寸法のフィルター構造体を準備し、このフィルター構造体を、粘着剤層が形成された面を金属フィルターの表面に貼り付けるようにして、取り付けた。尚、取付にあたっては、金属フィルターの表面に所定寸法のフィルター構造体を載置した状態でフィルター構造体の粘着剤層が形成されていない面をローラーで圧力2kg/cm
2にて1往復させて圧着した。その後、10分経過後に金属フィルターを垂直状態に起こしたときのフィルター構造体の金属フィルターからの脱落の有無を目視観察により評価した。即ち、金属フィルターからフィルター構造体の脱落が全く認められなかった場合を「○」、金属フィルターからフィルター構造体の一部でも剥離が認められたが、フィルター構造体は脱落しなかった場合を「△」、金属フィルターからフィルター構造体が脱落した場合を「×」と評価した。試験は、温度環境を5℃に設定して行った。
5)通気性(通気度)
JIS L 1096 A法(フラジール形法)によって、フィルターの通気度(cc/cm
2・sec)を測定した。
【0051】
試験結果を下記表2に示す。
【0052】