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特開2023-163613培養管理方法、培養管理システム、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163613
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】培養管理方法、培養管理システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20231102BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231102BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C12N1/00 B
C12M1/00 A
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074625
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】石部 恵子
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA90X
4B065BC12
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】細胞の培養を支援するための技術を提供すること。
【解決手段】培養管理システムの管理装置は、培養前のサンプルにおける細胞数である第1細胞数と、培養後のサンプルにおける細胞数である第2細胞数とを用いて、サンプルに含まれる細胞の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断する(S126)。細胞の増殖能が所与の基準より低いと判断すると、管理装置は、1以上の候補物質の各々について、培養における変化量を算出する(S118)。管理装置は、1以上の候補物質のそれぞれの変化量に基づいて、1以上の候補物質の中から原因物質を特定し(S128)、そして、当該原因物質を通知する(S130)。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルに含まれる細胞群の培養を管理する方法であって、
培養前の前記サンプルにおける細胞数である第1細胞数と、前記サンプルが培養された後の細胞数である第2細胞数とを用いて、培養された後の前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断するステップと、
前記サンプルの上清における、1以上の候補物質のそれぞれの培養における変化量を算出するステップと、を備え、
前記1以上の候補物質は、1以上の代謝物および1以上の酵素の少なくとも一方からなる群によって構成され、
前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が前記所与の基準より低いと判断された場合に、前記サンプルにおける前記1以上の候補物質の各々の培養前後の前記変化量に基づいて、前記1以上の候補物質の中から一部の候補物質を選択するステップと、
前記一部の候補物質を通知するステップと、をさらに備える、培養管理方法。
【請求項2】
前記選択するステップは、前記一部の候補物質として、培養前後の前記変化量が所与の範囲を超えた候補物質を選択することを含む、請求項1に記載の培養管理方法。
【請求項3】
前記選択するステップは、前記一部の候補物質として、前記増殖能の前記所与の基準より低いと判断された原因となる原因物質を特定することを含む、請求項1または請求項2に記載の培養管理方法。
【請求項4】
前記判断するステップは、前記第1細胞数に対する前記第2細胞数の比が所与の値より低い場合に、前記増殖能が前記所与の基準より低いと判断することを含む、請求項1または請求項2に記載の培養管理方法。
【請求項5】
前記通知するステップは、代謝経路において前記原因物質より上流に位置する物質を通知することを含む、請求項3に記載の培養管理方法。
【請求項6】
前記サンプルの培地交換を実施するステップをさらに備え、
前記変化量を算出するステップは、前記1以上の候補物質のそれぞれについて、培養開始時の上清における量と、交換された培地における量と、培養終了時の上清における量とを用いて、前記変化量を導出することを含む、請求項1または請求項2に記載の培養管理方法。
【請求項7】
前記原因物質を前記サンプルに添加するステップをさらに備える、請求項3に記載の培養管理方法。
【請求項8】
前記原因物質、および、代謝経路において前記原因物質より上流に位置する物質のうち少なくとも一方を前記サンプルに添加するステップをさらに備える、請求項3に記載の培養管理方法。
【請求項9】
前記細胞群のうち増殖能を失った細胞を前記サンプルから除去するステップをさらに備える、請求項1または請求項2に記載の培養管理方法。
【請求項10】
前記培養は、継代培養におけるいずれかの世代の培養を含み、
前記原因物質を通知するステップは、継代培養における世代の情報と共に前記原因物質を出力することを含む、請求項3に記載の培養管理方法。
【請求項11】
コンピュータによって実行されることにより、前記コンピュータに、請求項1または請求項2に記載の培養管理方法を実施させる、プログラム。
【請求項12】
サンプルに含まれる細胞を培養する細胞培養装置と、
前記サンプルにおける細胞数をカウントする解析装置と、
前記サンプルの上清の分析結果を出力する分析装置と、
管理装置と、を備え、
前記管理装置は、
培養前の前記サンプルにおける細胞数である第1細胞数と、前記サンプルが培養された後の細胞数である第2細胞数とを用いて、培養された後の前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断し、
前記サンプルの上清における、1以上の候補物質のそれぞれの培養における変化量を算出する、ように構成されており、
前記1以上の候補物質は、1以上の代謝物および1以上の酵素の少なくとも一方からなる群によって構成され、
前記管理装置は、
前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が前記所与の基準より低いと判断された場合に、前記サンプルにおける前記1以上の候補物質の各々の培養前後の前記変化量に基づいて、前記1以上の候補物質の中から一部の候補物質を選択し、
前記一部の候補物質を通知する、ように構成されている、培養管理システム。
【請求項13】
前記一部の候補物質を選択することは、前記一部の候補物質として、培養前後の前記変化量が所与の範囲を超えた候補物質を選択することを含む、請求項12に記載の培養管理システム。
【請求項14】
前記一部の候補物質を選択することは、前記一部の候補物質として、前記増殖能の前記所与の基準より低いと判断された原因となる原因物質を特定することを含む、請求項12または請求項13に記載の培養管理システム。
【請求項15】
前記管理装置は、前記第1細胞数に対する前記第2細胞数の比が所与の値より低い場合に、前記増殖能が前記所与の基準より低いと判断する、請求項12または請求項13に記載の培養管理システム。
【請求項16】
前記管理装置は、代謝経路において前記原因物質より上流に位置する物質をさらに通知する、請求項14に記載の培養管理システム。
【請求項17】
前記細胞培養装置は、前記原因物質を前記サンプルに添加する、請求項14に記載の培養管理システム。
【請求項18】
前記細胞培養装置は、前記原因物質、および、代謝経路において前記原因物質より上流に位置する物質のうち少なくとも一方を前記サンプルに添加する、請求項14に記載の培養管理システム。
【請求項19】
前記細胞培養装置は、前記細胞群のうち増殖能を失った細胞を前記サンプルから除去する、請求項12または請求項13に記載の培養管理システム。
【請求項20】
前記培養は、継代培養におけるいずれかの世代の培養を含み、
前記管理装置は、前記原因物質を継代培養における世代の情報と共に通知する、請求項14に記載の培養管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の培養の管理に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の培養について、種々の技術が提案されている。たとえば、ヒト由来の細胞(以下ヒト体細胞)の安定的な増殖および生育のための技術として、特許文献1(特開平7-274951号公報)は、ビタミン類を培地に添加する技術を開示し、また、特許文献2(特開2006-254753号公報)は、FGF(Fibroblast Growth Factor)やEGF(Epidermal Growth Factor)のような成長因子を培地に添加する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-274951号公報
【特許文献2】特開2006-254753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の技術は、細胞死による培養不良(増殖不良)が認められている細胞の培養環境を改善する技術である。このような技術も含め、細胞の培養を支援するための技術に対する要望は依然として存在している。
【0005】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたものであり、その目的は、細胞の培養を支援するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従う培養管理方法は、サンプルに含まれる細胞群の培養を管理する方法であって、培養前の前記サンプルにおける細胞数である第1細胞数と、前記サンプルが培養された後の細胞数である第2細胞数とを用いて、培養された後の前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断するステップと、前記サンプルの上清における、1以上の候補物質のそれぞれの培養における変化量を算出するステップと、を備え、前記1以上の候補物質は、1以上の代謝物および1以上の酵素の少なくとも一方からなる群によって構成され、前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が前記所与の基準より低いと判断された場合に、前記サンプルにおける前記1以上の候補物質の各々の培養前後の前記変化量に基づいて、前記1以上の候補物質の中から一部の候補物質を選択し、前記一部の候補物質を通知するステップと、をさらに備える。
【0007】
本開示のある局面に従うプログラムは、コンピュータによって実行されることにより、コンピュータに、上述の培養管理方法を実施させる。
【0008】
本開示のある局面に従う培養管理システムは、サンプルに含まれる細胞を培養する細胞培養装置と、前記サンプルにおける細胞数をカウントする解析装置と、前記サンプルの上清の分析結果を出力する分析装置と、管理装置と、を備え、前記管理装置は、培養前の前記サンプルにおける細胞数である第1細胞数と、前記サンプルが培養された後の細胞数である第2細胞数とを用いて、培養された後の前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断し、前記サンプルの上清における、1以上の候補物質のそれぞれの培養における変化量を算出する、ように構成されており、前記1以上の候補物質は、1以上の代謝物および1以上の酵素の少なくとも一方からなる群によって構成され、前記管理装置は、前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が前記所与の基準より低いと判断された場合に、前記サンプルにおける前記1以上の候補物質の各々の培養前後の前記変化量に基づいて、前記1以上の候補物質の中から一部の候補物質を選択し、前記一部の候補物質を通知する、ように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示のある局面に従うと、サンプルに含まれる細胞群の増殖能が所与の基準より低いと判断された場合に、1以上の候補物質の各々の培養における変化量に基づいて、1以上の候補物質の中から、増殖能の所与の基準より低いと判断された原因となる原因物質が特定され、当該原因物質が通知される。これにより、細胞の培養を支援するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施形態1に従う培養管理システム1000の概略構成図である。
図2】3種類のサンプルの培養前後の細胞数の変化の一例を表す図である。
図3図2のサンプルBについて、6継代目の培養後の候補物質の量の培養前の量に対する変化の一例を示す図である。
図4図2のサンプルCについて、8継代目の培養後の候補物質の量の培養前の量に対する変化の一例を示す図である。
図5】計測結果データベースのデータ構造の一例を示す図である。
図6】式(1)中の「M0」「M1」「M2」および「ME」を説明するための図である。
図7】関連テーブルのデータ構造の一例を示す図である。
図8】培養管理システム1000において実行される処理のフローチャートである。
図9】管理装置100において実施される処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
[実施形態1]
(1)培養管理システム
図1は、本開示の実施形態1に従う培養管理システム1000の概略構成図である。培養管理システム1000は、サンプルに含まれる細胞を培養し、当該培養に関する情報を管理する。培養管理システム1000は、管理装置100と、質量分析装置200と、継代培養装置300と、解析装置400と、搬送装置500とを含む。
【0013】
(1-1)管理装置100
管理装置100は、たとえば汎用のコンピュータによって構成される。図1の例では、管理装置100は、プロセッサ101と、メモリ102と、入出力インターフェース(I/F)103と、通信I/F104とを含む。
【0014】
プロセッサ101は、管理装置100が種々の処理を実施するために、各種のプログラムを実行する。メモリ102は、プロセッサ101によって実行されるプログラム、および、プログラムの実行に必要な各種のデータを格納する。入出力I/F103は、培養管理システム1000において、プロセッサ101を質量分析装置200、継代培養装置300、解析装置400、および、搬送装置500と通信させる。通信I/F104は、プロセッサ101を、培養管理システム1000外の装置とネットワークを通じて通信させる。
【0015】
管理装置100は、さらにディスプレイ110および入力装置120を含む。ディスプレイ110は、プロセッサ101の演算処理の結果を表示し、入力装置120(マウス、キーボード、タッチセンサ、等)は、プロセッサ101へのデータの入力操作を受け付ける。
【0016】
管理装置100は、質量分析装置200、継代培養装置300、解析装置400、および、搬送装置500の装置の動作のタイミングを制御する。これにより、培養管理システム1000では、各装置が他の装置と連携して動作する。
【0017】
(1-2)質量分析装置200
質量分析装置200は、質量分析計(たとえば、株式会社島津製作所製「液体クロマトグラフ質量分析計 LCMS-8060NX」)によって構成される。一実現例では、質量分析装置200は、サンプルの質量分析を実施し、当該培養液または培養上清中に含まれる物質の種類および量を特定する。
【0018】
(1-3)継代培養装置300
継代培養装置300は、継代培養装置(たとえば、株式会社ジェイテックコーポレーション社製「自動継代培養システム KB-4000」)によって構成される。一実現例では、継代培養装置300は、サンプルに含まれる細胞の継代および培養を実施する。継代培養装置300は、1以上の種類の試薬を保持し、サンプルに1以上の種類の試薬の中から指定された試薬を添加する(ピペッティングする)構成と培養中ないし培養後のサンプルから培養上清を回収する(サンプリングする)構成とを有する。
【0019】
(1-4)解析装置400
解析装置400は、サンプルの情報を、画像処理などの技術を利用して解析する装置(たとえば、株式会社島津製作所製「細胞培養解析装置 CS-1」)によって構成される。解析装置400は、サンプルの画像を解析して、当該サンプルに含まれる細胞数を特定するように構成される。
【0020】
(1-5)搬送装置500
搬送装置500は、質量分析装置200、継代培養装置300、および解析装置400の間で容器を移動させるように構成される。一実現例では、搬送装置500は、容器を移動させるアームと、当該アームを移動させるモータとを含む。
【0021】
(2)培養管理
(2-1)候補物質と原因物質
培養管理システム1000は、継代培養中に細胞の増殖能が所与の基準より低くなった場合、その原因となった物質(原因物質)を特定し、特定された原因物質をサンプルに添加することによって培養を管理するように構成されていてもよい。
【0022】
培養の管理のために、原因物質の候補として1以上の候補物質が定義される。培養管理システム1000は、細胞の増殖能が所与の基準より低くなった場合、培養前後のサンプル内の1以上の候補物質のそれぞれの量の変化に基づいて、1以上の候補物質の中から1以上の原因物質を特定する。そして、培養管理システム1000は、特定された1以上の原因物質のうち少なくとも1つをサンプルに添加する。
【0023】
(2-2)細胞数と候補物質量の培養における変化の具体例
(2-2-1)細胞数の変化
図2は、3種類のサンプル(A,B,C)の培養前後の細胞数の変化の一例を表す図である。図2には、サンプルごとに、異なる種類のハッチングが利用されている。
【0024】
図2のグラフの縦軸は、容器に播種された細胞の数に対する、培養後の細胞数の比を表す。比が「1」であるということは、培養後の細胞数が、播種されたときから変化していないことを意味する。比が「1」を下回ることは、細胞数が減っていることを意味し、比が「1」を上回ることは、細胞数が増加していることを意味する。横軸は、継代の回数を表す。たとえば、「4継代目」は、継代の実施回数、すなわち継代数が4回であることを表す。「4継代目」の値は、4回目の継代で播種された後の細胞数に関する値を意味する。
【0025】
図2のグラフは、サンプルAおよびサンプルBのそれぞれについては4~8回目の継代後の結果を含む。
【0026】
図2の例において、サンプルBの6継代目の培養後についての比が0.5程度である。すなわち、サンプルBでは、6継代目の培養後の細胞数は、播種された細胞数を下回っている。また、図2の例において、サンプルCの8継代目の培養後についての比が0.5程度である。すなわち、サンプルCでは、8継代目の培養後の細胞数は、播種された細胞数を下回っている。
【0027】
培養管理システム1000は、あるサンプルにおいて培養後の細胞数が播種された細胞数を下回った場合、当該サンプルについて原因物質を特定する。以下に、図3および図4を参照して、原因物質の特定について具体的に説明する。
【0028】
(2-2-2)候補物質量の変化
(2-2-2-1)第1の具体例
図3は、図2のサンプルBについて、6継代目の培養後の候補物質の量の培養前の量に対する変化の一例を示す図である。図3の例は、4種類の候補物質(グリシン、システイン、リボフラビン、4-ヒドロキシプロリン)のそれぞれについて、量を表す指標を示す。
【0029】
図3に示された指標の算出には、一定量の上清の質量分析結果における、内部標準物質(1mMの2-イソプロピルリンゴ酸)のピーク面積(Ps)に対する各物質のピーク面積(Po)の比(Po/Ps)が利用される。この比は、各物質の濃度(上清の単位容積あたりの量)に従って変化する。したがって、この比は、各物質の量に相当する。
【0030】
そして、上記指標は、所与の継代数での培養後に算出された比から、培養前に算出された比が差し引かれた値として算出される。すなわち、指標の値は、培養における変化量の一例である。なお、培養中に培養液の交換作業(培地交換)が実施された場合には、培養に使用される前の培養液中の候補物質の量と培地交換時の培地上清中の候補物質の差分を培地交換ごとに算出しておき、培養に使用される前の培養液中の候補物質の量と培養後の上清における候補物質の量との差分に加算することで指標の値としても構わない。
【0031】
指標の値が0であることは、所与の継代数の培養後の候補物質の量が、培養が開始されたときから変化していないことを意味する。指標が正の値であれば、所与の継代数の培養後の量が、培養が開始されたときの量より増加していることを意味する。指標が負の値であれば、所与の継代数の培養後の量が、培養が開始されたときの量より減少していることを意味する。
【0032】
図3に示された指標は、6継代目の培養後の上清について上述の通りに算出された比から、継代数6の培養に使用した培養液について上述の通りに算出された比を差し引くことによって算出されている。
【0033】
図3の例では、4-ヒドロキシプロリンについては、指標は正の値を有するが、グリシン、システイン、およびリボフラビンのそれぞれについては、指標は負の値を有する。
【0034】
一実現例では、培養管理システム1000は、図3に示された指標の値(差分)が負の値を有する候補物質を、原因物質として特定する。すなわち、図3の例では、培養管理システム1000は、グリシン、システイン、およびリボフラビンを原因物質として特定する。
【0035】
培養管理システム1000は、これらの3種類の原因物質のうち少なくとも1種類をサンプルに添加してもよい。これにより、サンプルBにおいて、以降の培養での細胞の増殖能の増加が期待される。
【0036】
(2-2-2-2)第2の具体例
図4は、図2のサンプルCについて、8継代目の培養後の候補物質の量の培養前の量に対する変化の一例を示す図である。図4では、図3と同様に、4種類の候補物質のそれぞれの指標の値が示される。
【0037】
図4の例では、図3の例と同様に、4-ヒドロキシプロリンについては、指標は正の値を有するが、グリシン、システイン、およびリボフラビンのそれぞれについては、指標は負の値を有する。
【0038】
一実現例では、培養管理システム1000は、図4の例においても、グリシン、システイン、およびリボフラビンを原因物質として特定する。
【0039】
培養管理システム1000は、これらの3種類の原因物質のうち少なくとも1種類をサンプルに添加する。これにより、サンプルCにおいて、以降の培養での細胞の増殖能の増加が期待される。
【0040】
(2-3)添加される物質
候補物質(原因物質)は、代謝物であってもよいし、酵素であってもよい。原因物質として特定された物質が代謝物である場合、添加される物質は、当該代謝物そのものであってもよいし、代謝経路において当該代謝物に対して上流に位置する物質(図7を参照して説明される「上流代謝物」)であってもよい。
【0041】
(3)データベース
(3-1)計測結果
図5は、計測結果データベースのデータ構造の一例を示す図である。計測結果データベースは、サンプルに関する計測結果を含み、たとえばメモリ102に格納される。なお、プロセッサ101がアクセス可能な記憶装置であれば、計測結果データベースは、管理装置100外の記憶装置に格納されていてもよい。
【0042】
図5に示されるように、計測結果データベースでは、質量分析装置200での測定に対応する識別番号(測定ID)に、細胞を培養している容器の識別番号(容器ID)継代数、細胞数、播種細胞数、および、複数の候補物質のそれぞれの変化量が関連付けられている。図5において、測定IDはM1,M2,…等で表され、容器IDはV1,V2,…等で表され、細胞数は、N1、N2、…等で表され、播種細胞数は、P0,P1,…等で表され、候補物質の変化量は、QA1、QA2、…QB1、QB2、…等で表される。
【0043】
継代数は、継代が実施された回数を表す。継代数が0であることは、初めての培養が実施されることを意味する。たとえば、図5の例において、測定ID「M1」のサンプルは、初めての培養において、細胞数がP0からN1まで変化している。このサンプルの培養において、候補物質の一例であるグリシンの変化量は、QA1である。
【0044】
継代数が1であることは、培養が1回の継代後に実施されることを意味する。たとえば、図5の例において、測定ID「M4」のサンプルは、1回の継代後の培養において、細胞数がP1からN4まで変化している。このサンプルの培養において、候補物質の一例であるグリシンの変化量は、QA4である。
【0045】
候補物質の変化量は、培養における候補物質の量の変化を表す。培養において培地交換が行われなかった場合には、候補物質の変化量は、培養前の培地(上清)における候補物質量から培養後の上清における候補物質量を差し引くことによって導出される。培養において培地交換が行われた場合には、候補物質の変化量は、培養前後の候補物質量に加えて、培地交換前後の候補物質量を用いて導出される。たとえば、培地交換用の培地として培養開始時の培養液と同じものが利用される場合、当該培養液における候補物質の量をM0とするとき、候補物質の変化量は次の式(1)に従って導出される。
【0046】
[候補物質の変化量]=(M1-M0)+(M2-M0)+…+(ME-M0) (1)
図6は、式(1)中の「M0」「M1」「M2」および「ME」を説明するための図である。図6において、「M0」は、培養開始に利用された培養液および培地交換用の培養液における候補物質の量を表す。「M1」は、1回目の培地交換時(培地交換直前)の上清中の候補物質の量を表す。「M2」は、2回目の培地交換時(培地交換直前)の上清中の候補物質の量を表す。「ME」は、培養終了時の上清中の候補物質の量を表す。
【0047】
「M1-M0」の項は、1回目の培地交換の前後における候補物質の変化量を意味する。「M2-M0」の項は、2回目の培地交換の前後における候補物質の変化量を意味する。すなわち、式(1)で示される候補物質の変化量は、各回の培地交換前後の候補物質の変化量の総和として導出される。
【0048】
図5の例では、候補物質における酵素の一例として「ヘキソキナーゼ」が示されている。
【0049】
(3-2)関連テーブル(上流代謝物)
図7は、関連テーブルのデータ構造の一例を示す図である。関連テーブルは、候補物質の一例である代謝物を、代謝経路において当該代謝物に対して上流に位置する他の代謝物(上流代謝物)に関連付ける。関連テーブルは、培養管理システム1000の管理者などによって予め準備される。関連テーブルは、たとえばメモリ102に格納されるが、プロセッサ101がアクセス可能な記憶装置であれば、管理装置100外の記憶装置に格納されていてもよい。
【0050】
以下、関連テーブルに登録されている各候補物質の上流代謝物について説明する。なお、培養管理システム1000において、図7の各候補物質に対する上流代謝物は、図7に示されたものに限定されない。入手が容易であること、サンプルに直接添加することが容易であること、などの各種の要件を考慮して、図7に示された物質以外の物質が上流代謝物として選択されてもよい。
【0051】
(3-2-1)グリシン
図7の例は、候補物質「グリシン」に対して登録されている上流代謝物として、4種類の物質(トレオニン、L-アロトレオニン、サルコシン、および2-アミノ-3-オキソ酪酸)を含む。これらの4種類の物質は、たとえば、「グリシン、セリン、およびセレオニンの代謝経路」において、クエン酸回路で使用されているピルビン酸が合成される方向に代謝が進むと仮定されたときに、グリシンに対して上流に位置する。「グリシン、セリン、およびセレオニンの代謝経路」は、たとえば、京都大学のKEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)において提供される(https://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map00260)。
【0052】
(3-2-2)システイン
図7の例は、候補物質「システイン」に対して登録されている上流代謝物として、3種類の物質(アセチル-L-セリン、L-シスタチオニン、およびS-スルホ-L-システイン)を含む。これらの3種類の物質は、たとえば、「システインおよびメチオニンの代謝経路」において、ピルビン酸が合成される方向に代謝が進むと仮定されたときに、システインに対して上流に位置する。「システインおよびメチオニンの代謝経路」は、たとえば、京都大学のKEGGにおいて提供される(https://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?amc00270)。
【0053】
(3-2-3)リボフラビン
図7の例は、候補物質「リボフラビン」に対して登録されている上流代謝物として、3種類の物質(6,7-ジメチル-8-リビチルルマジン、GTP(グアノシン三リン酸)、およびリブロース-5-リン酸)を含む。これらの3種類の物質は、たとえば、「リボフラビンの代謝経路」において、クエン酸回路においてコハク酸からフマル酸が合成される際の反応に利用される、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)の合成が進むと仮定されたときに、リボフラビンに対して上流に位置する。「リボフラビンの代謝経路」は、たとえば、京都大学のKEGGにおいて提供される(https://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map00740)。
【0054】
(3-2-4)4-ヒドロキシプロリン
図7の例は、候補物質「4-ヒドロキシプロリン」に対して登録されている上流代謝物として、3種類の物質(4-オキソプロリン、プロリン、およびcis-4-ヒドロキシ-D-プロリン)を含む。これらの3種類の物質は、たとえば、「アルギニンおよびプロリンの代謝経路」において、ピルビン酸が合成される方向に代謝が進むと仮定されたときに、4-ヒドロキシプロリンに対して上流に位置する。「アルギニンおよびプロリンの代謝経路」は、たとえば、京都大学のKEGGにおいて提供される(https://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?hsa00330)。
【0055】
(4)処理の流れ
図8は、培養管理システム1000において実行される処理のフローチャートである。この処理は、培養用のサンプルが培養管理システム1000にセットされた状態で開始される。一実現例では、管理装置100、質量分析装置200、継代培養装置300、解析装置400、および搬送装置500のそれぞれにおいてこの処理のために実施される制御は、それぞれに含まれるプロセッサが所与のプログラムを実行することによって実現される。以下、この処理の内容を説明する。
【0056】
ステップS100にて、解析装置400は、培養に利用される細胞を収容する容器における細胞数をカウントする。このとき、この容器は搬送装置500によって解析装置400にセットされている。解析装置400は、ステップS100におけるカウント値を、管理装置100へ送信する。管理装置100において、プロセッサ101は、受信したカウント値を元の細胞数としてメモリ102に登録する。
【0057】
ステップS102にて、ユーザは、各容器に播種する細胞数を決定し、決定した細胞数を容器IDとともに管理装置100に入力する。管理装置100のプロセッサ101は、入力された各容器の細胞数を、計測結果データベース(図5)に登録する。より具体的には、プロセッサ101は、計測結果データベースにおいて、ユーザから入力された各容器IDに測定IDを付与し、さらに、各容器IDに関連付けて入力された細胞数を、「播種細胞数」(P0、等)として登録する。ユーザは、各容器IDに関連付けて、継代数を管理装置100に入力してもよい。プロセッサ101は、計測結果データベースにおいて、各容器IDに関連付けられて入力された継代数を計測結果データベースに登録してもよい。
【0058】
ステップS104にて、質量分析装置200は、培養に使用する培養液を分析することにより、各候補物質の量を特定する。このとき、培養液を収容した容器は、搬送装置500によって質量分析装置200にセットされている。質量分析装置200は、培養液から一定量を吸引して、分析を実施し、分析結果を管理装置100へ送信する。管理装置100は、ステップS102において送信された分析結果を、同様に送信された容器IDに関連付けてメモリ102に登録する。
【0059】
ステップS106にて、継代培養装置300は、ステップS102で決定された数の細胞を、各容器に播種する。このとき、各容器には、ステップS104において分析された培養液も充填される。細胞の播種および/または培養液の充填は、ユーザによって実施されてもよい。
【0060】
ステップS108にて、継代培養装置300はサンプルの培養終了条件が満たされたか否かを判断する。培養終了条件の一例は、培養開始から予め定められた培養時間が経過したことである。ただし、培養終了条件は、適宜設定され得る。継代培養装置300は、培養終了条件が満たされたと判断するまではステップS110へ制御を進め(ステップS108にてNO)、培養終了条件が満たされたと判断すると(ステップS108にてYES)、ステップS116へ制御を進める。
【0061】
ステップS110にて、継代培養装置300は、サンプルの培地交換を実施するかどうかを判断する。培地交換を実施する条件の一例は、培養開始からあらかじめ定められた培養時間が経過したことである。ただし、培地交換を実施する条件は適宜設定され得る。継代培養装置300は培地交換を実施する条件が満たされたと判断するまではステップS108へと制御を戻すことで培養を継続し(ステップ110にてNO)、培地交換を実施する条件が満たされたと判断するとステップS112へ制御を進める。
【0062】
ステップS112にて、質量分析装置200は、サンプルの容器IDを特定し、そして、ステップS104において培養液を分析したのと同様に、当該サンプルの上清を分析して、各候補物質の量を特定する。このとき、上清の回収は継代培養装置300にて実施され、回収された上清が存在する容器は、搬送装置500によって質量分析装置200にセットされている。回収時に継代培養装置300は回収対象の容器の容器IDを管理装置100へと送信する。質量分析装置200は、サンプルから一定量の上清を吸引して、分析を実施する。質量分析装置200は、容器IDと特定された各候補物質の量とを、管理装置100へ送信する。管理装置100において、プロセッサ101は、送信された各候補物質の量を、送信された容器IDに関連付けてメモリ102に登録する。このとき、各候補物質の量は、培地交換直前の量として登録される。
【0063】
ステップS114にて、継代培養装置300は培養容器内の培養液を破棄し、新たな培地を添加することで培地交換を実施する。
【0064】
ステップS115にて、質量分析装置200は、ステップS104において培養液を分析したのと同様に、サンプルの上清を分析することにより各候補物質の量を特定し、管理装置100へ送信する。管理装置100は、送信された各候補物質の量を、メモリ102に登録する。このとき、各候補物質の量は、培地交換直後の量として登録される。なお、培地交換において、ステップS104において利用された培養液と同じ培養液が利用される場合には、ステップS115では、培養液の分析は省略され、ステップS104において登録されたのと同じ量が登録されてもよい。
【0065】
ステップS116にて、質量分析装置200は、サンプルの容器IDを特定し、そして、ステップS104において培養液を分析したのと同様に、当該サンプルの上清を分析して、各候補物質の量を特定する。このとき、上清の回収は継代培養装置300にて実施され、回収された上清が存在する容器は、搬送装置500によって質量分析装置200にセットされている。回収時に継代培養装置300は回収対象の容器の容器IDを管理装置100へと送信する。質量分析装置200は、サンプルから一定量の上清を吸引して、分析を実施する。質量分析装置200は、容器IDと特定された各候補物質の量とを、管理装置100へ送信する。管理装置100において、プロセッサ101は、送信された各候補物質の量を、送信された容器IDに関連付けてメモリ102に登録する。このとき、各候補物質の量は、培養終了時の量として登録される。
【0066】
ステップS118にて、管理装置100は、式(1)を参照して説明されたように、サンプルごとに、各候補物質の変化量を算出する。
【0067】
ステップS120にて、継代培養装置300は、サンプルの継代培養終了条件が満たされたか否かを判断する。継代培養終了条件の一例は培養開始時に定められた継代数に到達することである。ただし継代培養終了条件は適宜設定されうる。継代培養装置300は継代培養終了条件が満たされたと判断されるまではステップS122へ制御を進め(ステップS120にてNO)、継代培養終了条件が満たされたと判断すると(ステップS120にてYES)、サンプルの継代培養を終了する。継代培養が終了したサンプルが存在する培養容器は、搬送装置500によって、培養管理システム1000の外へ搬出される。管理装置100は、外部からの指示に応じて、搬送装置500に、培養容器を培養管理システム1000の外へ搬出させてもよい。外部からの指示は、入力装置120を介して、または、外部の装置から通信I/F104を介して、管理装置100へ入力されてもよい。
【0068】
ステップS122にて、継代培養装置300はサンプルから増殖能を失った細胞を除去する。なお、増殖能を失った細胞とは、増殖能を完全に失った細胞のみに限定されず、予め定められた条件に従って増殖能が低いと判断された細胞をも意味する。
【0069】
一実現例では、継代培養装置300は、増殖能を失った細胞を特定する機能および一部の細胞をサンプルから除去する機能を有する。一実現例では、増殖能を失った細胞を特定する機能は、サンプルを撮影するカメラと、当該カメラの画像を解析するコンピュータとによって実現される。コンピュータは、撮影された画像において、増殖能を失った細胞の特徴として予め登録されている特徴(たとえば、色および形状)を特定する。一実現例では、一部の細胞をサンプルから除去する機能は、吸引装置と、当該吸引装置を移動させるアームによって実現される。コンピュータは、吸引装置に、サンプルのうち、当該特徴が特定された部分を吸引させた後、当該部分を除去が行われる容器以外の容器に吐出させる。
【0070】
ステップS124にて、解析装置400は、サンプル内の細胞数をカウントする。このとき、サンプルを収容した容器は、搬送装置500によって解析装置400にセットされている。解析装置400は、カウント値を、管理装置100へ送信する。管理装置100において、プロセッサ101は、受信したカウント値を、計測結果データベース(図5)に、細胞数(N1、等)として登録する。
【0071】
ステップS126にて、管理装置100は、サンプルに含まれる細胞の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断する。
【0072】
一実現例では、所与の基準の一例は、ステップS124においてカウントされた細胞数(C1)の、ステップS106において登録された播種細胞数(C2)に対する比(C1/C2)が1であることである。この例では、当該比が1より小さい場合には、細胞の増殖能が所与の基準より低いと判断され、当該比が1以上である場合には、細胞の増殖能が所与の基準より低くないと判断される。
【0073】
管理装置100は、ステップS126において上記の比を算出し、算出された比が1未満であれば、サンプルに含まれる細胞の増殖能が所与の基準より低いと判断し(ステップS126にてYES)、ステップS128へ制御を進める。一方、管理装置100は、算出された比が1以上であれば、サンプルに含まれる細胞の増殖能が所与の基準より低くないと判断し(ステップS126にてNO)、ステップS102へ制御が戻されることで継代が実施される。
【0074】
なお、上述の「所与の基準」は、培養管理システム1000が適用される状況などに応じて、適宜設定され得る。
【0075】
ステップS128にて、管理装置100は、「(2-2-2)候補物質量の変化」にて上述されたように、ステップS118において特定された各候補物質の変化量を利用して原因物質を特定する。
【0076】
ステップS130にて、管理装置100は、ステップS128において特定された原因物質を通知する。
【0077】
ステップS130における通知は、予め定められた者への通知であってもよい。「予め定められた者」は、たとえば、培養管理システム1000の管理者にサンプルに関する情報の提供を依頼した者(依頼者)である。管理装置100のメモリ102には、依頼者への通知方法を特定する情報(たとえば、メールアドレス)が登録されていてもよく、管理装置100は、特定された原因物質を記述したメールを、そのメールアドレスを送信先とした送信することによって、原因物質を通知する。
【0078】
ステップS130における通知は、ディスプレイ110に原因物質を表示することであってもよい。
【0079】
ステップS130における通知では、原因物質が、対象とされる培養の継代数(継代培養における世代の情報)とともに表示されてもよい。たとえば、図3に示されたように、各候補物質の量の表示が、サンプルを特定する情報(サンプルB)と世代の情報(6継代目)を含んでいてもよい。そして、当該表示は、1以上の候補物質の中の原因物質を他の候補物質とは異なる態様(たとえば、異なる色)で表しても良い。
【0080】
ステップS132にて、管理装置100は、サンプルに原因物質を添加する指示を受けたか否かを判断する。一実現例では、管理装置100は、ステップS130にて原因物質を通知した後、一定時間、ユーザから、サンプルへの原因物質の添加の要否の指示を受け付ける。管理装置100は、上記一定時間内に、原因物質の添加の指示を受けたと判断すると(ステップS132にてYES)、ステップS134へ制御を進め、そうでなければ(ステップS132にてNO)、ステップS102へ制御を戻す。
【0081】
ステップS134にて、管理装置100は、継代培養装置300に、原因物質の添加を指示する。継代培養装置300は、培養液に、ステップS120において特定された原因物質を添加する。一実現例では、継代培養装置300は、1以上の候補物質(原因物質)のそれぞれを収容する試料ラックと、ピペッティング用の装置とを含む。継代培養装置300は、ピペッティング用の装置に、試料ラックに収容された原因物質を培養液へ添加させる。原因物質の代わりに、または、原因物質とともに、上流代謝物が添加されてもよい。原因物質(および/または上流代謝物)の添加量は、予め定められていてもよいし、原因物質の変化量に応じて設定されてもよい。より具体的には、添加量は、原因物質の減少量が多いほど多く設定されてもよい。
【0082】
1以上の候補物質には、予め優先順位が設定されていてもよい。継代培養装置300は、ステップS130において2以上の種類の原因物質が特定された場合、特定された2以上の種類の原因物質のうち、優先順位の高いものから予め定められた数の種類の原因物質のみをサンプルに添加してもよい。
【0083】
特定された原因物質が代謝物である場合、継代培養装置300は、当該代謝物に代えて、または当該代謝物に加えて、当該代謝物に対応する上流代謝物(図7)を、サンプルに添加してもよい。上記優先順位は、1以上の候補物質および1以上の上流代謝物において設定されていてもよい。継代培養装置300は、特定された1種類以上の原因物質およびその上流代謝物のうち、優先順位の高いものから予め定められた数の種類の物質のみをサンプルに添加してもよい。
【0084】
その後、制御はステップS102へ戻される。
以上説明された図8の処理では、容器に含まれる細胞の増殖能が所与の基準より低い場合、原因物質が特定される。図8の処理において、ステップS102において、決定される播種細胞数は「第1細胞数」の一例である。一方、ステップS124において、培養後にカウントされる細胞数は「第2細胞数」の一例である。
【0085】
図8の処理では、ステップS102において、継代培養における各世代の培養の開始時の細胞数が特定および登録され、ステップS124において、継代培養における各世代の培養の終了時の細胞数が特定および登録される。
【0086】
なお、各世代の培養の途中で、サンプル中の細胞数が取得されてもよい。たとえば、ステップS112における上清の分析後であってステップS114における培地の交換前に、サンプルの画像解析によってサンプル中の細胞数が特定されてもよい。このとき、培養開始時から細胞数が減少している場合に、プロセッサ101は、ステップS112における分析結果を利用して原因物質を特定し、ユーザに通知してもよい。ユーザは、通知された原因物質をサンプルに添加するとともに、添加された原因物質の種類および量を管理装置100に入力してもよい。ユーザは、原因物質をサンプルへ添加することを管理装置100に指示してもよい。管理装置100のプロセッサ101は、入力された原因物質の量を、計測結果データベースに登録してもよい。
【0087】
ステップS112における上清の分析後であってステップS114における培地の交換前に、ユーザは、サンプルの画像解析に基づいて細胞の形状における異常の有無を判断してもよい。プロセッサ101は、ステップS112における分析結果を利用して原因物質を特定し、通知してもよい。ユーザは、細胞の形状に異常がある場合と判断した場合に、通知された原因物質をサンプルに添加するとともに、添加された原因物質の種類および量を管理装置100に入力してもよい。管理装置100のプロセッサ101は、入力された原因物質の量を、計測結果データベースに登録してもよい。
【0088】
また、図8の処理において、管理装置100は、ステップS128における制御を省略し、ステップS130において、培養の開始からの量の変化が大きい候補物質を通知してもよい。このときの「量の変化が大きい」ことは、量が大きく減ったことおよび量が大きく増えたことのいずれでも良い。一実現例では、管理装置100は、ステップS126において増殖能が低いと判断したときに、その時点での量の培養の開始時の量に対する変化量が所与の範囲を超えた候補物質を選択し、選択された候補物質の名称を、ステップS130において通知してもよい。「所与の範囲」は、培養管理システム1000が実施される状況に応じて適宜設定され得る。管理装置100は、また、ステップS130において、各候補物質の培養の開始時の量に対する変化量を通知してもよい。管理装置100は、ステップS130において、上述のような原因物質の通知とともに、変化量が大きい候補物質(およびその変化量)を通知してもよい。
【0089】
[実施形態2]
(1)概要
実施形態2では、実施形態1の培養管理システム1000において装置によって実施されていた処理(培養、継代、上清の分析、および細胞数のカウント)が、人の手によって実施される。
【0090】
実施形態2では、管理装置100(図1)に、サンプルにおける細胞数および各候補物質量が入力される。細胞数および各候補物質量は、作業員によって、入力装置120を介して入力されてもよいし、外部の装置から、ネットワークを通じ通信I/Fを介して入力されてもよい。
【0091】
管理装置100は、細胞数を利用して、細胞の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断する。細胞の増殖能が所与の基準より低いと判断すると、管理装置100は、上清の分析結果を利用して、原因物質を特定する。以下、管理装置100において実施される処理の内容を説明する。
【0092】
(2)処理の流れ
図9は、管理装置100において実施される処理のフローチャートである。図9の処理は、サンプルごとに実施され、たとえばプロセッサ101が所与のプログラムを実行することによって実施される。利用される細胞数および候補物質量は、対象となるサンプルについてのものである。
【0093】
ステップS200にて、管理装置100は、培養前の細胞数のカウント値を取得する。培養前の細胞数のカウント値とは、培養が一度も行われていない継代数0のサンプル、または継代培養中に行われる継代作業で回収されたサンプルについての値を意味する。
【0094】
ステップS202にて、管理装置100は、所与の継代数の培養後の細胞数のカウント値を取得する。「所与の継代数」は、たとえば管理装置100のユーザによって指定される。
【0095】
ステップS204にて、管理装置100は、上記所与の回数の継代培養後の細胞の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断する。ステップS204における判断は、ステップS114(図8)での判断と同様であってもよい。すなわち、一実現例では、所与の基準の一例は、ステップS202において取得された細胞数のカウント値(CA)の、ステップS200において取得された細胞数のカウント値(CB)に対する比(CA/CB)が1であることである。この例では、当該比が1より小さい場合には、細胞の増殖能が所与の基準より低いと判断され、当該比が1以上である場合には、細胞の増殖能が所与の基準より低くないと判断される。
【0096】
管理装置100は、細胞の増殖能が所与の基準より低いと判断すると(ステップS204にてYES)、ステップS206へ制御を進める。一方、管理装置100は、細胞の増殖能が所与の基準より低くないと判断すると(ステップS204にてNO)、ステップS220へ制御を進める。
【0097】
ステップS206にて、管理装置100は、培養に使用した培養液中の各候補物質の量を取得する。
【0098】
ステップS208にて、管理装置100は、培養中に培地交換を行ったか否かを判断する。ステップ208における判断は例えば管理装置100の作業員によって行われる。すなわち、一実現例ではステップS206の後に作業員が入力装置120または外部の装置から、ネットワークを通じ通信I/Fを介して培地交換を行った、または行っていないことを入力する。
【0099】
ステップS208における判断は、予め定められた計画に基づいてもよい。すなわち一実現例では、培養作業の実施前に作業員が入力装置120または外部の装置から、ネットワークを通じ通信I/Fを介してメモリ102へ培養中の作業計画を登録することで、ステップS208において登録された作業計画に従って培地交換を実施したかどうかを判断する。
【0100】
管理装置100は培地交換が行われたと判断すると(ステップ208においてYES)、ステップS210へ制御を進める。一方、管理装置100は、培地交換がおい粉われなかったと判断すると(ステップS208においてNO)、ステップS212へ制御を進める。
【0101】
ステップS210にて、管理装置100は培地交換時の培養上清中の各候補物質の量を取得する。培地交換が複数回実施されていた場合は、各培地交換での培養上清中の候補物質量を取得する。
【0102】
ステップS212にて、管理装置100は上記所与の継代数の培養後の各候補物質の量を取得する。
【0103】
ステップS214にて、管理装置100は、各候補物質について、ステップS206にて取得された量とステップS212にて取得された量との差分を算出する。差分は、ステップS118と同様に、「(2-2-2)候補物質量の変化」にて上述されたように算出されてもよい。またステップS210にて培地交換時の培養上清中の候補物質量を取得している場合はステップS206にて取得された量とステップS212にて取得された量の差分にステップS206にて取得された量とステップS210にて取得された量の差分を加算して候補物質量の変化を算出してもよい。
【0104】
ステップS216にて、管理装置100は、ステップS214にて算出された各候補物質についての差分に基づいて、原因物質を特定する。原因物質は、ステップS130と同様に、「(2-2-2)候補物質量の変化」にて上述されたように特定されてもよい。
【0105】
ステップS218にて、管理装置100は、ステップS216にて特定された原因物質をディスプレイ110に表示する。管理装置100は、原因物質に加えて、または原因物質の代わりに、原因物質に対する上流代謝物(図7)を表示してもよい。その後、管理装置100は、図9の処理を終了させる。
【0106】
ステップS220にて、管理装置100は、ステップS204の判断の結果、すなわち、細胞の増殖能が所与の基準より低くないことを表示して、図9の処理を終了させる。
【0107】
以上説明された実施形態2では、あるサンプルが所与の継代数だけ継代培養された場合、当該サンプルについて、管理装置100は、継代前の細胞数と所与の回数の培養後の細胞数とを用いて、細胞の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断する。
【0108】
さらに、管理装置100は、候補物質のそれぞれの、継代前の量と所与の継代数の培養後の量とを用いて、原因物質を特定し、当該原因物質をディスプレイ110に表示する。これにより、ユーザは、原因物質を認識し得る。さらに、ユーザは、当該サンプルに原因物質を添加することにより、当該サンプルにおける細胞の増殖能を向上させることを期待できる。また、ユーザは、当該サンプルと同じ細胞を新たに培養する際に、培地における当該原因物質の量を増加させることにより、新たな培養において細胞の増殖能が低くなる事態を回避することを期待できる。
【0109】
なお、管理装置100は、ステップS218においても、図8のステップS130と同様に、原因物質の表示に代えて、または、原因物質の表示とともに、培養の開始時からの変化量が大きい候補物質を表示してもよい。
【0110】
[変形例]
(1)上清の分析方法
候補物質量は、上清の分析結果の一例である。候補物質量の特定に利用される上清の分析方法は、質量分析によるものに限定されない。質量分析によるものに代えて、またはこれに加えて、液体クロマトグラフを用いた分析、および/またはELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法に従った分析によるものであってもよい。この場合、培養管理システム1000において、質量分析装置200は、採用される分析方法に従って適宜変更され得る。
【0111】
(2)増殖能に関する判断基準
増殖能が低いと判断される基準(S128またはS204における基準)は、各継代数の培養後の細胞数の培養前の細胞数に対する比が1であることに限定されない。この基準は、培養管理システムを実施する者が適宜設定し得る。
【0112】
基準の他の例は、今回の培養後の細胞数の前回の継代数の培養後の細胞数に対する比が1であることであってもよい。この場合、たとえば、4継目の培養後の細胞数が3継代目の培養後の細胞数より少ないとき、4継代目の培養後のサンプルにおいて細胞の増殖能が所与の基準より低いと判断される。一方、4継代目の培養後の細胞数が3継代目の培養後の細胞数以上であるとき、4継代目の培養後のサンプルにおいて細胞の増殖能が所与の基準より低くはないと判断される。
【0113】
基準の他の例は、前回の培養後から今回の培養後までの細胞数の増分が、前々回の培養後から前回の培養後までの細胞数の増分と同じであることであってもよい。この場合、たとえば、4継代目の培養後の細胞数が3継代目の培養後の細胞数の1.5倍であり、3継代目の培養後の細胞数が2継代目の培養後の細胞数の2.0倍であるとき、前者の増分(1.5倍)が後者の増分(2.0倍)より小さいため、4継代目の培養後のサンプルにおいて細胞の増殖能が所与の基準より低いと判断される。一方、前者の増分が後者の増分以上であるときには、4継代目の培養後のサンプルにおいて細胞の増殖能が所与の基準より低くはないと判断される。
【0114】
基準の他の例は、継代数ごとの、培養後の細胞数の培養前の細胞数に対する比の相対的な値であってもよい。例えば、図2の例において、4継代目のサンプルAの培養後の細胞数の培養前の細胞数に対する比は3.8程度であるのに対し、サンプルBは1.2程度である。つまり、サンプルBについての比は、サンプルAについての比と比較して半分以下である。この場合、4継代目の培養後において、サンプルBは細胞の増殖能が所与の基準より低いと判断される。一方、図2の例において、7継代目のサンプルAの培養後の細胞数の培養前の細胞数に対する比は2.2程度であるのに対し、サンプルBは2.0程度である。つまり、サンプルAとBの比は同程度である。この場合、サンプルAとサンプルBの増殖能は同程度であり、7継代目の培養後のサンプルにおいてサンプルBの細胞の増殖能は、所与の基準より低くはないと判断される。一実現例では、「あるサンプル」の比が「他のサンプル」の比の0.8倍未満であれば、「他のサンプル」の細胞は増殖能が高いと判断され、「あるサンプル」の細胞は増殖能が低いと判断される。他の実現例では、「あるサンプル」の比が「他のサンプル」の比の0.8倍以上1.25倍未満であれば、「他のサンプル」の細胞と「あるサンプル」の細胞は増殖能が同程度である判断される。ここで、比較に利用される複数のサンプル(上述の例では、サンプルAとサンプルB)としては、各々のサンプルの培養条件に共通点があることを前提に選定される。共通点としては、たとえば、培養される細胞種、細胞株、培養に使用する培地、サンプルに用いられる細胞もしくは試薬、培養開始時に播種された細胞数、培養容器の単位面積当たりの播種される細胞数、または、培養開始時の細胞数が挙げられる。
【0115】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0116】
(第1項) 一態様にかかる培養管理方法は、サンプルに含まれる細胞群の培養を管理する方法であって、培養前の前記サンプルにおける細胞数である第1細胞数と、前記サンプルが培養された後の細胞数である第2細胞数とを用いて、培養された後の前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断するステップと、前記サンプルの上清における、1以上の候補物質のそれぞれの培養における変化量を算出するステップと、を備え、前記1以上の候補物質は、1以上の代謝物および1以上の酵素の少なくとも一方からなる群によって構成され、前記サンプルに含まれる細胞群の増殖能が前記所与の基準より低いと判断された場合に、前記1以上の候補物質の各々の培養前後の前記変化量に基づいて、前記1以上の候補物質の中から一部の候補物質を選択するステップと、前記一部の候補物質を通知するステップと、をさらに備えていてもよい。
【0117】
第1項に記載の培養管理方法によれば、サンプルにおいて細胞の増殖能が所与の基準に対して低いと判断された場合に、培養前後の変化量に基づいて選択された物質が通知される。これにより、細胞の培養を支援するための情報が提供される。
【0118】
(第2項) 第1項に記載の培養管理方法において、選択するステップは、一部の候補物質として、培養前後の変化量が所与の範囲を超えた候補物質を選択することを含んでいてもよい。
【0119】
第2項に記載の培養管理方法によれば、細胞群の増殖能が所与の基準より低いと判断されたときに、ユーザは、培養前後での変化量が大きかった候補物質を認識できる。
【0120】
(第3項) 第1項または第2項に記載の培養管理方法において、選択するステップは、一部の候補物質として、増殖能の前記所与の基準より低いと判断された原因となる原因物質を特定することを含んでいてもよい。
【0121】
第3項に記載の培養管理方法によれば、ユーザは、培養に使用する培地に原因物質を添加することにより、当該サンプルにおける細胞の増殖能を向上させることを期待できる。また、ユーザは、当該サンプルと同じ細胞を新たに培養する際に、培地における当該原因物質の量を増加させることにより、新たな培養において細胞の増殖能が低くなる事態の回避を期待できる。
【0122】
(第4項) 第1項~第3項のいずれか1項に記載の培養管理方法において、判断するステップは、第1細胞数に対する第2細胞数の比が所与の値より低下した場合に、増殖能が所与の基準より低いと判断することを含んでもよい。
【0123】
第4項に記載の培養管理方法によれば、増殖能についての判断が簡便になされる。
(第5項) 第1項~第4項のいずれか1項に記載の培養管理方法において、通知するステップは、代謝経路において原因物質より上流に位置する物質を通知することを含んでいてもよい。
【0124】
第5項に記載の培養管理方法によれば、原因物質が入手の難しい物質またはサンプルに直接添加することが困難である物質であっても、ユーザは、代謝経路において原因物質より上流に位置する物質をサンプルに添加することができる。
【0125】
(第6項) 第1項~第5項のいずれか1項に記載の培養管理方法は、前記サンプルの培地交換を実施するステップをさらに備え、前記変化量を算出するステップは、前記1以上の候補物質のそれぞれについて、培養開始時の上清における量と、交換された培地における量と、培養終了時の上清における量とを用いて、前記変化量を導出することを含んでいてもよい。
【0126】
第6項に記載の培養管理方法によれば、培地交換をされた場合にも、細胞の培養の管理が実施され得る。
【0127】
(第7項) 第1項~第6項のいずれか1項に記載の培養管理方法は、原因物質をサンプルに添加するステップをさらに備えていてもよい。
【0128】
第7項に記載の培養管理方法によれば、細胞の培養の管理が、細胞の増殖能が所与の基準に対して低くなったと判断されたときの対応とともに総合的に実施され得る。
【0129】
(第8項) 第1項~第6項のいずれか1項に記載の培養管理方法は、前記原因物質、および、代謝経路において前記原因物質より上流に位置する物質のうち少なくとも一方を前記サンプルに添加するステップをさらに備えていてもよい。
【0130】
第8項に記載の培養管理方法によれば、細胞の培養の管理が、細胞の増殖能が所与の基準に対して低くなったと判断されたときの対応とともに総合的に実施され得る。
【0131】
(第9項) 第1項~第8項のいずれか1項に記載の培養管理方法は、細胞群のうち増殖能を失った細胞をサンプルから除去するステップをさらに備えていてもよい。
【0132】
第9項に記載の培養管理方法によれば、細胞の培養の管理が、増殖能を失った細胞をサンプルから除去とともに総合的に実施され得る。
(第10項) 第1項~第9項のいずれか1項に記載の培養管理方法において、前記培養は、継代培養におけるいずれかの世代の培養を含み、前記原因物質を通知するステップは、継代培養における世代の情報と共に前記原因物質を出力することを含んでいてもよい。
【0133】
第10項に記載の培養管理方法によれば、継代培養において、各世代の培養に関する情報が当該世代の情報とともに提供される。
【0134】
(第11項) 一態様にかかるプログラムは、コンピュータによって実行されることにより、コンピュータに、第1項~第5項のいずれか1項に記載の培養管理方法を実施させる。
【0135】
第11項に記載のプログラムによれば、細胞の培養の管理がコンピュータによって実施され得る。
【0136】
(第12項) 一態様にかかる培養管理システムは、サンプルに含まれる細胞を培養する細胞培養装置と、サンプルにおける細胞数をカウントする解析装置と、サンプルの上清の分析結果を出力する分析装置と、管理装置と、を備え、管理装置は、培養前のサンプルにおける細胞数である第1細胞数と、サンプルが培養された後の細胞数である第2細胞数とを用いて、培養された後のサンプルに含まれる細胞群の増殖能が所与の基準より低いか否かを判断し、サンプルの上清における、1以上の候補物質のそれぞれの培養における変化量を算出する、ように構成されており、1以上の候補物質は、1以上の代謝物および1以上の酵素の少なくとも一方からなる群によって構成され、管理装置は、サンプルに含まれる細胞群の増殖能が所与の基準より低いと判断された場合に、サンプルにおける1以上の候補物質の各々の培養前後の変化量に基づいて、1以上の候補物質の中から一部の候補物質を選択し、一部の候補物質を通知する、ように構成されていてもよい。
【0137】
第12項に記載の培養管理システムによれば、サンプルにおいて細胞の増殖能が所与の基準に対して低いと判断された場合に、培養前後の変化量に基づいて選択された物質が通知される。これにより、細胞の培養を支援するための情報が提供される。
【0138】
(第13項) 第12項に記載の培養管理システムにおいて、一部の候補物質を選択することは、一部の候補物質として、培養前後の変化量が所与の範囲を超えた候補物質を選択することを含んでいてもよい。
【0139】
第13項に記載の培養管理システムによれば、細胞群の増殖能が所与の基準より低いと判断されたときに、ユーザは、培養前後での変化量が大きかった候補物質を認識できる。
【0140】
(第14項) 第12項または第13項に記載の培養管理システムにおいて、一部の候補物質を選択することは、一部の候補物質として、増殖能の前記所与の基準より低いと判断された原因となる原因物質を特定することを含んでいてもよい。
【0141】
第14項に記載の培養管理システムによれば、ユーザは、培養に使用する培地に原因物質を添加することにより、当該サンプルにおける細胞の増殖能を向上させることを期待できる。また、ユーザは、当該サンプルと同じ細胞を新たに培養する際に、培地における当該原因物質の量を増加させることにより、新たな培養において細胞の増殖能が低くなる事態の回避を期待できる。
【0142】
(第15項) 第12項~第14項のいずれかに記載の培養管理システムにおいて、管理装置は、第1細胞数に対する第2細胞数の比が所与の値より低下した場合に、増殖能が所与の基準より低いと判断してもよい。
【0143】
第15項に記載の培養管理システムによれば、増殖能についての判断が簡便になされる。
【0144】
(第16項) 第12項~第15項のいずれか1項に記載の培養管理システムにおいて、管理装置は、代謝経路において原因物質より上流に位置する物質をさらに通知してもよい。
【0145】
第16項に記載の培養管理システムによれば、原因物質が入手の難しい物質またはサンプルに直接添加することが困難である物質であっても、ユーザは、代謝経路において原因物質より上流に位置する物質をサンプルに添加することができる。
【0146】
(第17項) 第12項~第16項のいずれか1項に記載の培養管理システムでは、細胞培養装置は、原因物質を培養液に添加してもよい。
【0147】
第17項に記載の培養管理システムによれば、細胞の継代および培養、細胞数のカウント、ならびに培養の管理が、細胞の増殖能が所与の基準に対して低くなったと判断されたときの対応とともに総合的に実施され得る。
【0148】
(第18項) 第12項~第16項のいずれか1項に記載の培養管理システムでは、細胞培養装置は、原因物質、および、代謝経路において原因物質より上流に位置する物質のうち少なくとも一方をサンプルに添加してもよい。
【0149】
第18項に記載の培養管理システムによれば、細胞の継代および培養、細胞数のカウント、ならびに培養の管理が、細胞の増殖能が所与の基準に対して低くなったと判断されたときの対応とともに総合的に実施され得る。
【0150】
(第19項) 第12項~第18項のいずれか1項に記載の培養管理システムにおいて、細胞培養装置は、細胞群のうち増殖能を失った細胞をサンプルから除去してもよい。
【0151】
第19項に記載の培養管理システムによれば、細胞の継代および培養、細胞数のカウント、ならびに培養の管理が、殖能を失った細胞をサンプルから除去とともに総合的に実施され得る。
【0152】
(第20項) 第12項~第19項のいずれか1項に記載の培養管理システムにおいて、培養は、継代培養におけるいずれかの世代の培養を含み、管理装置は、原因物質を継代培養における世代の情報と共に通知してもよい。
【0153】
第18項に記載の培養管理システムによれば、継代培養において、各世代の培養に関する情報が当該世代の情報とともに提供される。
【0154】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態中の各技術は、単独でも、また、必要に応じて実施の形態中の他の技術と可能な限り組み合わされても、実施され得ることが意図される。
【符号の説明】
【0155】
100 管理装置、101 プロセッサ、102 メモリ、110 ディスプレイ、120 入力装置、200 質量分析装置、300 継代培養装置、400 解析装置、500 搬送装置、1000 培養管理システム。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9