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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016362
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/42 20060101AFI20230126BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20230126BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20230126BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20230126BHJP
【FI】
B29C70/42
B29B11/16
B29C70/12
B29K105:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120623
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】寺師 信夫
【テーマコード(参考)】
4F072
4F205
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA07
4F072AB06
4F072AB10
4F072AB14
4F072AB31
4F072AB33
4F072AD09
4F072AD16
4F072AE14
4F072AG22
4F072AH03
4F072AH40
4F072AH49
4F072AJ04
4F072AJ11
4F072AJ36
4F072AK02
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL17
4F205AA36
4F205AA37
4F205AB25
4F205AC06
4F205AD16
4F205HA06
4F205HA08
4F205HA25
4F205HA33
4F205HA36
4F205HB01
4F205HC08
4F205HF05
4F205HK03
4F205HK04
4F205HL15
4F205HL21
4F205HM03
(57)【要約】
【課題】強化繊維の配向による強度の低下を抑制し、機械的強度が良好な成形体の製造方法が提供できる。
【解決手段】本実施形態の成形体41の製造方法は、熱硬化性樹脂A、強化繊維Bを分散媒中で分散した後、抄造法を用いて前記分散媒を除去して、抄造体11を得る工程と、抄造体11と、分散剤Cとを混合し、抄造混合物21を得る工程と、抄造混合物21から分散剤Cを除去しつつ、抄造混合物21を加圧して成形することにより素形体31を得る工程と、素形体31を加圧および加熱して硬化することにより成形体41を得る工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、強化繊維を分散媒中で分散した後、抄造法を用いて前記分散媒を除去して、抄造体を得る工程と、
前記抄造体と、分散剤とを混合し、抄造混合物を得る工程と、
前記抄造混合物から前記分散剤を除去しつつ、前記抄造混合物を加圧して成形することにより素形体を得る工程と、
前記素形体を加圧および加熱して硬化することにより成形体を得る工程と、
を含む、成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された成形体の製造方法であって、
前記分散剤が、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、アルギン酸及びその塩からなる群から選択される1種または2種以上を含む、成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された成形体の製造方法であって、
前記抄造混合物を得る前記工程において、前記抄造体に対する前記分散剤の配合量が30~95質量%である、成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載された成形体の製造方法であって、
前記素形体を得る前記工程において、前記抄造混合物を0.1MPa~30MPaで加圧する、成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載された成形体の製造方法であって、
前記抄造混合物を得る前記工程で得られた前記抄造混合物の粘度(20℃)は、6000~12000mPa・sである、成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載された成形体の製造方法であって、
前記抄造混合物を得る前記工程において、1,000~30,000rpmで、10秒~5分間混合する、成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項に記載された成形体の製造方法であって、
前記素形体を得る前記工程において、
前記抄造混合物を金型に投入し、当該金型に設けられた貫通孔から前記分散剤を排出させることで、前記抄造混合物から前記分散剤を除去する、成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか一項に記載された成形体の製造方法であって、
前記強化繊維の含有量が、当該抄造体に対して30~60体積%である、成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれか一項に記載の成形体の製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上を含む、成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれか一項に記載の成形体の製造方法であって、
前記強化繊維が、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、およびエチレンビニルアルコール繊維の中から選ばれる1種または2種以上を含む、成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれか一項に記載の成形体の製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂の含有量が、前記成形体全量に対して、20~80体積%である、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抄造体から得られる成形体は、使用する強化繊維や樹脂の種類を選択することにより所望の特性を付与でき、設計の自由度が高いことから、種々の物品に用いられている。なかでも、強化繊維を用いた抄造体およびこれから得られる成形体は、強化繊維による機械的強度が効果的に発揮されるため、軽量で高い機械的強度が得られる材料として注目されている。
【0003】
特許文献1には、特殊な装置を用い、粘性を有する分散液中にマトリックス樹脂と、強化繊維を分散させた後、抄造法を用いて前記分散媒を除去して、繊維強化プラスチック成形体用基材を得る方法が開示されている。また、特許文献1によれば、分散液の粘性が大きいほど、強化繊維の分散性に優れ、強化繊維の切れや折れが少なくなることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-37580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1等の従来技術においては、抄造法により得られた抄造体はその後、上下方向(厚み方向)から加熱加圧により硬化され、製品化されるものであったため、強化繊維が層状に積層するものであった。そのため、強化繊維が抄造体の面内方向には二次元ランダムに配置しているものの、面外方向に対しては平行に配置することになる。そのため、抄造体をそのまま用いた場合、抄造体の強化繊維の層間が剥離しやすく、層間における(面内方向に対する)機械的強度が十分ではなかった。
【0006】
そこで、本発明者は、強化繊維による高い機械的強度を得つつ、従来の抄造体の強化繊維の層間における機械的強度を向上させるべく、新たに抄造体を用いた成形体を得る観点から鋭意検討を行った。その結果、従来の抄造法で抄造体を得たのちに、抄造体に分散剤を添加して混合することで、抄造体の面内方向で配向した強化繊維をほぐすことができることを知見した。そして、抄造体と分散剤の混合物を用いて成形し、分散剤を除去するとともに、加熱加圧成形して成形体を得ることで、強化繊維が配向することによって生じる強度の低下を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
熱硬化性樹脂、強化繊維を分散媒中で分散した後、抄造法を用いて前記分散媒を除去して、抄造体を得る工程と、
前記抄造体と、分散剤とを混合し、抄造混合物を得る工程と、
前記抄造混合物から前記分散剤を除去しつつ、前記抄造混合物を加圧して成形することにより素形体を得る工程と、
前記素形体を加圧および加熱して硬化することにより成形体を得る工程と、
を含む、成形体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強化繊維の配向による強度の低下を抑制し、機械的強度が良好な成形体の製造方法が提供できる。また、本発明によれば、抄造体と分散剤の混合物を用いることで、成形体の形状設計の自由度も向上できる成形体の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る抄造体の製造方法の一例を示す断面模式図である。
図2】本実施形態に係る成形体の製造方法の一例を示す断面模式図である。
図3】本実施形態に係る成形体の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
<成形体の製造方法>
図1は、本実施形態に係る抄造体の製造方法の一例を示す断面模式図であり、図2は、本実施形態に係る成形体の製造方法の一例を示す断面模式図である。以下、図1,2を用いて、説明する。
【0012】
本実施形態の成形体41の製造方法は、以下の工程を含む。
[工程1]熱硬化性樹脂A、強化繊維Bを分散媒中で分散した後、抄造法を用いて前記分散媒を除去して、抄造体11を得る工程
[工程2]抄造体11と、分散剤Cとを混合し、抄造混合物21を得る工程
[工程3]抄造混合物21から分散剤Cを除去しつつ、抄造混合物21を加圧して成形することにより素形体31を得る工程
[工程4]素形体31を加圧および加熱して硬化することにより成形体41を得る工程
工程1~4は、この順で行われる。以下、各工程の詳細について説明する。
【0013】
[工程1:抄造体を得る工程]
図1は、本実施形態の抄造体11の製造方法を説明する模式断面図である。本実施形態の抄造体11の製造方法は、例えば、以下の工程を有する。
(工程1a)熱硬化性樹脂Aと、強化繊維Bを分散媒中で混合して、スラリーを調製する工程。
(工程1b)底面にメッシュを備える容器に、得られたスラリーを入れ、分散媒を分離する工程。
(工程1c)メッシュ上に残った凝集物を脱水プレスする工程。
(工程1d)乾燥させる工程。
以下、各工程について詳述する。
【0014】
(工程1a)
スラリーの調製は、図1(a)に示すように、熱硬化性樹脂Aと、強化繊維Bとを分散媒中で混合、撹拌することにより行われる。上記分散媒中での混合方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、攪拌機を備える容器中で撹拌する方法を用いることができる。
【0015】
分散媒としては限定されず、具体的には、水;エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸メチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、ジオキサン、フルフラールなどのエーテル類などが挙げられる。分散媒としては、上記具体例のうち、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、入手が容易であり、環境負荷が低く、安全性が高いことから、水を用いることが好ましい。
【0016】
以下、スラリーに含まれる各種成分について説明する。
【0017】
・熱硬化性樹脂A
熱硬化性樹脂Aとしては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、及びポリウレタンの中から選択される一種又は二種以上が挙げられる。なかでも、高い機械的強度を得る観点から、フェノール樹脂、エポキシ樹脂を含むことが好ましく、フェノール樹脂を含むことがより好ましい。
【0018】
熱硬化性樹脂Aの配合量は、抄造体11全体に対して、好ましくは5体積%以上であり、より好ましくは20体積%以上であり、さらに好ましくは30体積%以上である。これにより、加工性を向上しやすくなる。
一方で、熱硬化性樹脂Aの配合量は、抄造体11全体に対して、好ましくは90体積%以下であり、より好ましくは70体積%以下であり、さらに好ましくは60体積%以下である。これにより、抄造体11の強化繊維Bによる機械的強度をより効果的に向上させることが可能となる。
【0019】
・強化繊維B
本実施形態で用いられる強化繊維Bとしては、金属繊維、木材繊維、木綿、麻、羊毛などの天然繊維;レーヨン繊維などの再生繊維;セルロース繊維などの半合成繊維;ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、エチレンビニルアルコール繊維などの合成繊維;炭素繊維;ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維などが挙げられるがこれらに限定されない。強化繊維Bは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
なかでも、高い機械的強度を得る観点から、炭素繊維、及び無機繊維が好ましい。
【0020】
強化繊維Bの繊維長さは、要求される特性に応じて使い分けることが望ましく、例えば、500μm以上10mm以下であることが好ましい。繊維長さを上記下限値以上とすることで、機械的強度、剛性などの特性を発現させることができる。一方、繊維長さを上記上限値以下とすることで、良好な成形加工性を確保することができる。
【0021】
強化繊維Bの径は、1μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上80μm以下であることがより好ましい。
強化繊維Bの径を上記下限値以上とすることで、成形体41の機械的強度を確保することができ、上記上限値以下とすることで、成形加工性を確保することができる。
【0022】
強化繊維Bの繊維長さ及び径は、例えば、得られた抄造体11または成形体41を電子顕微鏡で観察することにより、確認することができる。さらに、平均繊維長さ、平均径は、得られた抄造体11または成形体41の表面から観察される強化繊維Bを合計で100本選び、その平均値を算出することで、求めることができる。
【0023】
強化繊維Bの配合量は、抄造体11に対して30~60体積%であることが好ましく、40~50体積%であることがより好ましい。
強化繊維Bの配合量を上記下限値以上とすることにより、機械的強度を向上できる。一方、強化繊維Bの配合量を上記上限値以下とすることにより、強化繊維Bの良好で均一な分散性を保持し、抄造体11および成形体41の機械的強度のバラツキを抑制できる。
【0024】
・パルプ繊維
抄造体11およびスラリーは、パルプ繊維を含んでもよい。これにより、熱硬化性樹脂Aの凝集をより効果的に発生させることができる。
パルプ繊維とは、有機繊維をフィブリル化したものをいう。
有機繊維とは、天然繊維、合成繊維のうち、有機物質を主成分とする繊維の総称である。パルプ繊維としては、具体的には、リンターパルプや木材パルプ等のセルロース繊維、ケナフ、ジュート、竹などの天然繊維;パラ型全芳香族ポリアミド繊維やその共重合体、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維、メタ型アラミド繊維やその共重合体、アクリル繊維、アクリロニトリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維などの合成繊維をフィブリル化したパルプ状繊維が挙げられる。パルプ繊維は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
パルプ繊維の含有量は、抄造体11全体に対して0.5体積%以上であることが好ましく、1.5体積%以上であることがより好ましく、3体積%以上であることがさらに好ましい。これにより、製造工程中における熱硬化性樹脂Aの凝集をより効果的に発生させて、さらに安定的な成形体41の製造を実現することができる。
一方、パルプの含有量は、抄造体11全体に対して、15体積%以下であることが好ましく、10体積%以下であることがより好ましく、6体積%以下であることがさらに好ましい。これにより、成形体41の機械的特性や熱的特性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0026】
・凝集剤
抄造体11およびスラリーは、凝集剤を含んでもよい。凝集剤は、後述する抄造法を用いた抄造体11の製造方法において、熱硬化性樹脂A、強化繊維Bをフロック状に凝集させる機能を有する。このため、より安定的な抄造体11および成形体41の製造を実現することができる。
【0027】
上記の凝集剤は、例えば、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、及び両性高分子凝集剤から選択される一種又は二種以上を含むことができる。このような凝集剤の例示としては、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、ホフマンポリアクリルアミド、マンニックポリアクリルアミド、両性共重合ポリアクリルアミド、カチオン化澱粉、両性澱粉、ポリエチレンオキサイドなどを挙げることができる。また、凝集剤において、そのポリマー構造や分子量、水酸基やイオン性基などの官能基量などは、必要特性に応じて特に制限無く調整することが可能である。
【0028】
・ポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョン
抄造体11およびスラリーは、さらに、ポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョンを含むでもよい。なお、ポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョンは、熱硬化性樹脂A、強化繊維B、および任意の各種成分を分散媒中で混合し、撹拌した後に添加してもよいし、上記成分と同時に混合してもよい。各種成分をより高度に分散させるために、ポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョンは、上記各成分を分散媒中で混合し撹拌した後に加えるのが好ましい。
【0029】
・その他
本実施形態において、抄造体11およびスラリーは、例えば、特性向上を目的とした酸化防止剤や紫外線吸収剤などの安定剤、離型剤、可塑剤、難燃剤、樹脂の硬化触媒や硬化促進剤、顔料、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤などの紙力向上剤、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、サイズ定着剤、消泡剤、酸性抄紙用ロジン系サイズ剤、中性製紙用ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニルコハク酸無水物系サイズ剤、特殊変性ロジン系サイズ剤などのサイズ剤、硫酸バンド、塩化アルミ、ポリ塩化アルミなどの凝結剤などの添加剤から選択される一種又は二種以上を、生産条件調整や、要求される物性を発現させることを目的として含むことができる。
【0030】
これら各種成分はいずれも公知の方法でスラリーの中に溶解または分散させて用いられる。
【0031】
(工程1b)
本実施形態では、図1(b)に示すように、底面にメッシュ60を備える容器に、得られたスラリーを入れることにより、分散媒を分離する。その結果、図1(c)に示すようにメッシュ60上に、スラリー中に含まれていた凝集物がシート状に残存する。
【0032】
ここで、強化繊維Bは、ある程度長さを有するため、互いに絡まり合った状態で層状に重なるようにして、メッシュ60の面上に、堆積する。
【0033】
シート状の抄造体11の厚みは、材料スラリー中の各種成分の量を調整したり、再度スラリーを作製して分離する工程を繰り返すことによって調整することができる。
【0034】
また、メッシュ60の形状を適宜選択することによって、のちに得られるシート状の抄造体11の形状を調整することが可能である。
【0035】
(工程1c)
次いで、メッシュ60上に残った凝集物を脱水プレスすることで、シート状の抄造体11を得る(図1(c))。脱水プレスの条件は、例えば、温度20℃以上30℃以下で、圧力1kgf/cm以上50kgf/cm以下とすることができる。
ここで、脱水プレスは、例えば、シート状の抄造体11の脱水率が20%以下となるように行われることが好ましい。なお、本実施形態にかかる脱水率とは、脱水処理する前に凝集物に含まれる分散媒の質量を100%としたとき、脱水処理した後の凝集物に含まれる分散媒の質量を示す。
【0036】
(工程1d)
乾燥工程では、図2(d)に示すように、オーブン70内で凝集物を熱処理する。これにより、シート状の抄造体11から分散媒をさらに取り除く。なお、乾燥する方法としては、限定されず、オーブン70以外の方法を用いてもよい。
【0037】
乾燥する温度は、熱硬化性樹脂Aの融点以上反応温度以下とすることができる。なお、反応温度とは、示差走査熱量(DSC:Differential scanning calorimetry)測定における昇温過程において、算出される反応率が0%を最初に越える温度である。ここで、反応率とは、次のように求められる。まず、硬化反応を行っていない抄造体について、DSC測定により温度プロファイルを測定する。これにより得られる硬化反応の温度プロファイルから算出される、硬化反応の発熱ピークの単位質量あたりに換算した発熱量をx[mJ/mg]とする。次いで、反応率を算出する抄造体についても、同様に、硬化反応の発熱ピークの単位質量あたりに換算した発熱量y[mJ/mg]を算出する。上記x及びyを用いて、以下の式より、反応率が求められる。
(式) (反応率)=y/x×100[%]
【0038】
以上の工程により、Bステージ状態のシート状の抄造体11が得られる。
【0039】
[工程2:抄造混合物を得る工程]
次に、図2(a)に示すように、粉砕機等を用いて抄造体11と、分散剤Cとを混合し、抄造混合物21を得る。抄造混合物21とは、分散剤Cが抄造体11と混ぜ合わさることで、抄造体11の形状がなくなった状態のものを意図する。
すなわち、抄造体11では、強化繊維Bは、面内方向において配向し互いに絡み合い、これが層状に重なった状態となっている。そこで、本実施形態においては、分散剤Cが抄造体11と混ぜ合わさることで、かかる強化繊維Bの絡まりをほぐすことができるとともに、強化繊維Bが折れたり曲がったりすることなく抄造混合物21中に均一に分散させることができる。その結果、強化繊維Bが層状に配向することによる機械的強度の低下を抑制できる。そして、成形体41においては、機械的強度の配向が低減されるため、成形体41の設計の自由度を高めることができる。
さらに、強化繊維Bは繊維状であるため熱硬化性樹脂A中に分散させにくいため、従来その使用量が制限される傾向にあるが、本実施形態においては、抄造法を用いるため、多量の分散媒によって強化繊維Bの使用量が高くてもこれを熱硬化性樹脂A中に分散させることができる。その結果、本実施形態の成形体41においては、より一層強化繊維Bによる高い機械的強度を得ることができる。
【0040】
混合条件は、強化繊維Bの配合量や長さ等に応じて適宜調整されるが、1,000~30,000rpmで、10秒~5分間混合することが好ましく、1,200~20,000rpmとすることがより好ましい。また、分散剤Cの適度な流動性を得る観点から、混合時の温度は10~30℃とすることが好ましく、室温としてもよい。これにより、強化繊維Bが折れたり曲がったりすることなく、強化繊維Bの絡まりをほぐし良好に分散させることができる。
【0041】
抄造体11に対する分散剤Cの配合量は、30~95質量%であることが好ましく、40~90質量%であることがより好ましい。
抄造体11に対する分散剤Cの配合量を上記下限値以上とすることにより、強化繊維Bを分散させ強化繊維Bによる機械的強度を高めやすくできる。一方、抄造体11に対する分散剤Cの配合量を上記上限値以下とすることにより、後述の素形体31の製造工程において、分散剤Cを除去しやすくし、製造効率を高めることができる。
【0042】
抄造混合物21の粘度(20℃)は、6000~12000mPa・sであることが好ましく、8000~10000mPa・sであることがより好ましい。
抄造混合物21の粘度(20℃)を上記下限値以上とすることにより、強化繊維Bを分散させやすくなる。その結果、成形体41において強化繊維Bによる機械的強度を高めやすくできる。一方、抄抄造混合物21の粘度(20℃)を上記上限値以下とすることにより、作業性を良好にし、後述の素形体31の製造工程において、分散剤Cを除去しやすくできる。
【0043】
抄造混合物21の粘度(20℃)の測定はB型粘度計を用いて行われる。
【0044】
分散剤Cは、強化繊維Bの絡まりをほぐし、分散させるものである。また、抄造混合物21に粘性を付与できるものである。
分散剤Cは、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、アルギン酸及びその塩からなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましく、なかでも、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシドであることが好ましい。
【0045】
上記のポリアルキレンオキシドのアルキレンオキシド単位としては、炭素数2~4のアルキレンオキシドであることが好ましく、炭素数2のエチレンオキシド、炭素数3のプロピレンオキシドであることがより好ましく、エチレンオキシドであることがさらに好ましい。
【0046】
分散剤Cの重量平均分子量は、分散性を高め、粘性を付与する点から、好ましくは400万~1500万、さらに好ましくは800万~1000万である。
【0047】
[工程3:素形体を得る工程]
次に、抄造混合物21から分散剤Cを除去しつつ、抄造混合物21を加圧して成形することにより素形体31を得る。また、素形体31はBステージ状態が保持されている。
まず、図2(b)に示すように工程2で得られた抄造混合物21を所定の下金型50の内部に注入する。本実施形態において抄造混合物21は、流動性を有し、ジェル状であるため、下金型50内にシリンダーなどを用いて注入することができる。
また、金型としては公知のものを用いることができるが、後の工程で、分散剤Cを除去するため、下金型50の底部は貫通孔が設けられていてもよい。
【0048】
次に、図2(c)に示すように、金型上方から抄造混合物21に対して圧力をかけ、抄造混合物21に含まれる分散剤Cを含む分散媒を絞り出しつつ、予備成形し、素形体31を得る。分散剤Cを除去する方法としては、例えば、図2(c)に示すように、複数の貫通孔を有する下金型50を用い、上金型51を下降させ抄造混合物21を圧迫することにより、貫通孔を介して分散剤Cのみを外に排出する方法が挙げられる。この際、抄造混合物21中の強化繊維Bも分散剤Cとともに排出されないよう、下金型50には、貫通孔を覆うように開口が小さな金網52が配置されていてもよい。
すなわち、抄造混合物21に対して一定方向から圧力をかけ、予備成形する。圧力は0.01~1MPaが好ましく、0.05~0.1MPaがより好ましい。圧力を上記下限値以上とすることにより、分散剤Cを除去しやすくしつつ、適度な固さの素形体31が得られる。一方、圧力を上記上限値以下とすることにより、強化繊維Bが折れたり曲がったりすることを抑制することができる。
【0049】
[工程4:成形体を得る工程]
その後、図2(d)に示すように、上金型51を用いて得られた素形体31をさらに加熱加圧して完全硬化させることにより成形体41を得る。
硬化条件は、使用原料等によって適宜決定されるが、熱可塑性樹脂の融点以下であって、熱硬化性樹脂の硬化温度以上に加熱することが好ましい。例えば、フェノール樹脂が用いられている場合、150~200℃とすることが好ましく、160~180℃とすることがより好ましい。また、加圧条件として、圧力は、10~80MPaとすることが好ましく、30~60MPaとすることがより好ましい。また、加圧時間は、1~10分間程度が好ましい。
【0050】
また、素形体31をいったん金型から取り出し、工程3で行った加圧方向とは異なる方向から加圧が行われるように素形体31を回転させて再度金型に戻してから、加熱加圧を行っても完全硬化させて成形体41を得てもよい。これにより、素形体31中で加圧方向にいったん配向した強化繊維Bをランダム化させることができ、成形体41において強化繊維Bの配向による機械的強度の低下を抑制できる。なお、回転の程度は、作業性の観点から工程3の加圧方向、すなわち素形体31が受けた加圧方向に対して90°回転させることが好適である。
【0051】
<成形体>
図3は、本実施形態に係る成形体の一例を示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)の側面の拡大図である。図3に示されるように、本実施形態の成形体41は、強化繊維Bが絡まり合いつつも、ランダムに配置されているため、高い機械的強度が得られる。
熱硬化性樹脂の含有量が、成形体41全量に対して、好ましくは20~80体積%である。
本実施形態の成形体41は、軽量かつ高い機械的強度を有するため、建築材料、自動車および航空機等の各種輸送機械、スポーツ用品等の種々の用途に広く利用できる。
【0052】
本実施形態の成形体41は、機械的強度に優れており、なかでも高い曲げ強度を有する。曲げ強度は、公知の方法で測定することができ、例えば、エー・アンド・デイ社製「テンシロン」、島津製作所製「オートグラフ」等の測定機器を用いて測定できる。
【0053】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
[工程1]抄造体の作製
分散媒としての水に、熱硬化性樹脂(レゾール型フェノール樹脂、住友ベークライト株式会社製「スミライトレジンPR-51723」)50重量部、強化繊維(リサイクルカーボン、平均繊維長6mm)40重量部、およびパルプ繊維(アラミド微小繊維、ダイセルファインケム株式会社製「ティアラ KY-400S」平均繊維長500~600μm)10重量部を加え、20分間撹拌して、固形分濃度0.15重量%のスラリーを得た。
得られたスラリーに、あらかじめ調製したポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョン(ハイモ株式会社製の「ハイモロック DR-9300」)を、スラリー中の固形分に対して300ppmとなるように添加し、スラリー中の固形分を凝集させた。
次いで、凝集物を含むスラリーを、30メッシュの金属網(スクリーン)で濾過し、スクリーン上に残ったシート状の凝集物を、圧力3MPaでプレスして脱水した。脱水した凝集物を、70℃で3時間乾燥させて、シート状の抄造体(サイズ300mm×300mm:厚み5mm)を得た。
【0056】
[工程2]抄造混合物の作製
得られたシート状の抄造体1質量部と、分散剤1(ポリアクリルアミド「製品名パムオール」明成化学社製、重量平均分子量1000万~1500万)99質量部を、以下の条件で混合して、抄造混合物を得た。得られた抄造混合物の粘度(20℃)を測定したところ、約8000mPa・sであった。
・混合条件
粉砕器:Labo Milser LM-PLUS(大阪ケミカル製)
粉砕用カッター:PN-J56
温度:常温
粉砕容器:ミクロン容器PN-J55
粉砕回転数:20,000rpm
粉砕時間:1min
【0057】
[工程3]素形体の作製
得られた抄造混合物を金型内に配置し、冷間加圧予備成形により、分散剤1を下金型の貫通孔から下方に排出して除去しながら、以下の条件で重力方向に加圧して、略直方体の素形体を得た。
・条件
圧力:0.1MPa、時間:1分
【0058】
[工程4]成形体の作製
得られた素形体を金型から取り出し、重力方向に対して90°回転させたのち、再度、金型内に配置し、以下の条件で硬化させた。
・硬化条件
温度:180℃、型締圧:30MPa、時間:10分
【0059】
<実施例2>
工程4において、素形体を回転させずに、そのまま硬化させた以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0060】
<参考例1>
実施例1の工程1で得られた抄造体を用いて、実施例1の工程4と同じ条件で硬化させて成形体を得た。
【0061】
得られた成形体について、以下の測定、観察を行った。結果を表1に示す。
[測定]
・曲げ強度:成形体の厚み方向(硬化時の加圧方向)に対して直交する方向から、成形体に対して曲げ応力をかけ、測定の結果から換算した。試験機はエー・アンド・デイ社の
テンシロンを用いた。
具体的には、幅b[mm]、厚さh[mm]の試験片を用いて測定した曲げモーメントがM[kg・cm]であったとき、曲げ強度σf[MPa]は、σf=9.8×6×10×M/(bh2)の関係から算出した。
【0062】
[観察]
各成形体の硬化時の加圧方向での断面について、光学顕微鏡観察を行って強化繊維の配向を観察した。
観察した結果、実施例1および実施例2の成形体は、強化繊維の配向が観察されず、また、曲げ試験後による亀裂が分散しており、また亀裂の進行が観察されなかった。一方、参考例1の成形体は、曲げ試験による亀裂が進行し、横方向にほぼ平行な亀裂が見られた。
【0063】
【表1】
【符号の説明】
【0064】
11 抄造体
21 抄造混合物
31 素形体
41 成形体
50 下金型
51 上金型
52 金網
60 メッシュ
70 オーブン
A 熱硬化性樹脂
B 強化繊維
C 分散剤
図1
図2
図3