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特開2023-163623蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法
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  • 特開-蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163623
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20231102BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20231102BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20231102BHJP
   H01G 11/28 20130101ALI20231102BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01G11/30
H01G11/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074641
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢東
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀之
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA10
5E078AB01
5E078BA09
5E078BA30
5E078FA23
5H050AA07
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB11
5H050DA03
5H050FA02
5H050FA09
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA07
5H050GA12
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA09
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】Siを含む多孔体の活物質層と集電体との接合性をより高める。
【解決手段】本開示の蓄電デバイス用電極は、SiとAlとを少なくとも含み空隙を有し板状の多孔質シリコン材料を電極活物質として有する活物質層と、集電体と、活物質層と集電体との間に介在し集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとAlとを少なくとも含み空隙を有し板状の多孔質シリコン材料を電極活物質として有する活物質層と、
集電体と、
前記活物質層と前記集電体との間に介在し、前記集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体と、
を備えた蓄電デバイス用電極。
【請求項2】
前記多孔質シリコン材料は、一体形状を有し結着材を含まない、請求項1に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
前記膜体は、Snからなる、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項4】
前記膜体は、その厚さが50nm以上300nm以下の範囲である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
前記膜体と前記活物質層との間に300nm以下の厚さのSi膜が形成されている、
請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項6】
(1)~(5)のいずれか1以上の特徴を有する、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
(1)前記多孔質シリコン材料は、Si及びAlの全体を100at%としたときにSiを90at%以上の範囲で含む。
(2)前記多孔質シリコン材料は、空隙率が10体積%以上50体積%以下の範囲である。
(3)前記多孔質シリコン材料の板状体は、その厚さが10μm以上50μm以下の範囲である。
(4)前記多孔質シリコン材料の板状体は、1つの面に前記膜体を介在して前記集電体が加熱圧着されている。
(5)前記集電体はCuを含む。
【請求項7】
正極活物質を含む正極と、
請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極である負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項8】
SiとAlとを少なくとも含み空隙を有さない板状のシリコン合金である前駆体と集電体との間に、前記集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体を介在させた状態で、該前駆体及び該集電体を150℃を超える接合温度で加熱圧着する接合工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して板状の形状を有する多孔質シリコン材料の活物質層を形成する電極化工程と、
を含む蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項9】
前記接合工程では、Snからなる前記膜体を用いる、請求項8に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項10】
前記接合工程では、厚さが50nm以上300nm以下の範囲である前記膜体を用いる、請求項8又は9に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンの負極材料としては、50質量%以上の第1元素であるAlと50質量%以下のSiとを含むシリコン合金を溶解して粒子化する粒子化工程と、シリコン合金中の第1元素を除去して多孔質シリコン粒子を得る多孔化工程と、を含む製造方法より得られる多孔質シリコン粒子が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。この多孔質シリコン粒子は、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲であり、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、平均空隙率が50体積%以上95体積%以下の範囲であり、酸素を除く元素の比率でSiを85質量%以上含み、Alを15質量%以下の範囲で含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-123517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の多孔質シリコン粒子では、比較的微細な粒子で空隙率が高く、電極にする際の塗工が困難であった。また、この多孔質シリコン粒子では、この多孔質シリコン粒子を含む活物質層と集電体との接合性に課題があった、
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、Siを含む多孔体の活物質層と集電体との接合性をより高めることができる蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、AlとSiとを少なくとも含むシリコン合金を熔融し、板状の前駆体を得たのち、所定の膜体を介して前駆体と集電体とを接合してAlを含む化合物を除去すると、活物質層と集電体との接合性をより高めることができることを見いだし、本開示の蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の蓄電デバイス用電極は、
SiとAlとを少なくとも含み空隙を有し板状の多孔質シリコン材料を電極活物質として有する活物質層と、
集電体と、
前記活物質層と前記集電体との間に介在し、前記集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体と、
を備えたものである。
【0008】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述した蓄電デバイス用電極である負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0009】
本開示の蓄電デバイス用電極の製造方法は、
SiとAlとを少なくとも含み空隙を有さない板状のシリコン合金である前駆体と集電体との間に、前記集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体を介在させた状態で、該前駆体及び該集電体を150℃を超える接合温度で加熱圧着する接合工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して板状の形状を有する多孔質シリコン材料の活物質層を形成する電極化工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、Siを含む多孔体の活物質層と集電体との接合性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、多孔質シリコンに集電体を接合する際に、加圧圧着することが考えられるが、加圧により多孔体の空隙率が減少してしまうことがあり、加圧には限度がある。また、Alを用いてSiを多孔化する場合、酸やアルカリによりAlを除去することがあるが、多孔化前に集電体を加圧圧着したのちにAlを除去すると、集電体の接合性が低下することがあった。本開示では、集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体を介して活物質層と集電体とを接合するためAlの除去によっても接合強度の低下をより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
図2】Al-Si二元系状態図。
図3】蓄電デバイス用電極の製造方法の一例を示す説明図。
図4】参考例2の多孔質シリコン材料の評価結果。
図5】参考例2の電極の評価結果。
図6】実験例1~6、8の製造方法の一例を示す説明図。
図7】実験例1~3、8の酸処理時の観察写真。
図8】実験例2の断面のSEM写真及びその微細構造の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(蓄電デバイス用電極)
本開示の蓄電デバイス用電極は、活物質層と、集電体と、活物質層と集電体との間にある膜体とを備える。活物質層は、SiとAlとを少なくとも含み、空隙を有し板状の多孔質シリコン材料を電極活物質として有する。膜体は、集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mにより構成されている。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この電極は、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などに利用することができる。多孔質シリコン材料は、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、この骨格状シリコンの内部又は外部にAlが存在するものとしてもよい。
【0013】
活物質層は、SiとAlとを少なくとも含み空隙を有し板状の多孔質シリコン材料を電極活物質として有する。活物質層は、一体形状を有し結着材を含まないものとしてもよい。同様に、多孔質シリコン材料の板状体は、一体形状を有し結着材を含まないものとしてもよい。活物質層は、導電材や結着材を含まないものとすれば、容量をより高めることができ好ましい。多孔質シリコン材料の板状体は、その厚さが10μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。厚さが10μm以上では、容量をより大きくする観点から好ましく、50μm以下では、板状体の強度の観点から好ましい。この厚さは、20μm以上40μm以下の範囲がより好ましい。なお、多孔質シリコン材料の厚さは、求められる電池特性に合わせて適宜選択するものとすればよい。多孔質シリコン材料の板状体は、1つの面に膜体を介在して集電体が加熱圧着されているものとしてもよい。加熱圧着では、膜体によって接合強度を高めやすく、好ましい。この加熱圧着の条件等は詳しくは後述する。
【0014】
活物質層は、空隙率が10体積%以上50体積%以下の範囲である多孔質シリコン材料を有するものとしてもよい。この空隙率は、40体積%以下であることが好ましく、35体積%以下であることがより好ましく、30体積%以下としてもよい。また、空隙率は、15体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、25体積%以上としてもよい。この空隙率は、シリコンの体積変化の観点からはより大きいことが好ましく、蓄電デバイスの充放電容量の観点からはより少ないことが好ましい。この空隙率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。
【0015】
活物質層は、水銀圧入法で求めた細孔径の分布範囲が1nm以上500nm以下の範囲である多孔質シリコン材料を有するものとしてもよい。この細孔径は、10nm以上としてもよいし、50nm以上としてもよいし、100nm以上としてもよい。また、この細孔径は、250nm以下が好ましく、200nm以下としてもよいし、150nm以下としてもよい。この多孔質シリコン材料において、水銀圧入法で求めた平均細孔径は、5nm以上500nm以下の範囲としてもよいし、10nm以上250nm以下の範囲としてもよい。
【0016】
活物質層は、冷却時に結晶化する初晶シリコンを含む粗粒(マイクロスケール)と、Alとの共晶シリコンを含む微粒(ナノスケール)と、の2種類の組織を含む多孔質シリコン材料を有するものとしてもよい。この構造を有すると、充放電時の体積膨張の応力を緩和することができると推察される。粗粒は、例えば、1μm以上5μm以下の範囲の粒状部とすることができる。また、微粒は、例えば、10nm以上100nm以下の範囲の粒状部とすることができる。
【0017】
活物質層は、酸素や不可避的不純物を除き、Si及びAlの全体を100at%としたときに、Siを75at%以上含む多孔質シリコン材料を有することが好ましい。このSiの含有率は、80at%以上がより好ましく、85at%以上が更に好ましく、90at%以上や98at%以上としてもよい。Siの含有率は、充放電容量の観点からはより高いことが好ましく、相対的な骨格補強の観点からはより低いものとしてもよい。Alの含有率は、0.5at%以上15at%以下の範囲が好ましく、12.5at%以下が好ましく、10at%以下がより好ましく、7.5at%以下としてもよい。また、Alの含有率は、1at%以上が好ましく、2at%以上がより好ましく、2.5at%以上としてもよい。Alの含有率は、骨格の補強を補う観点からはより多いことが好ましく、充放電しない成分であるため、蓄電デバイスの充放電容量の観点からはより少ないことが好ましい。更に、多孔質シリコン材料は、15質量%以下の範囲で第2元素としてのTi、Sn、Ca、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料は、Si,Alの他に、不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物としては、Si、Alなどの精製の際に不可避的に残存する成分であり、例えば、FeやC、Cu、Ni、Pなどが挙げられる。不可避的不純物は、例えば、2at%以下が好ましく、1at%以下がより好ましい。なお、第2元素や不可避的不純物は、より少ないことが好ましい。
【0018】
集電体は、電子伝導製に優れ、外部に電流を取り出す部材であり、活物質層の一面に形成されている。集電体は、少なくとも金属Mにより構成される膜体を介在して活物質層と一体化されている。この集電体は、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。このうち集電体は、Cuを含むことが好ましく、Cu合金としてもよいが、純銅であることがより好ましい。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられるが、箔状がより好ましい。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられるが、30μm以下や20μm以下、15μm以下の厚さが好ましい。
【0019】
膜体は、活物質層と集電体との間に介在し、集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mにより構成されるものである。この膜体は、集電体に直接隣接するものとする。また、この膜体は、活物質層に対しては、直接接触しているものとしてもよいし、所定の中間膜を介して形成されているものとしてもよい。この膜体は、金属Mとして、例えば、Snからなるものとしてもよい。Snは、活物質層のSiと、集電体のCuとの両方に対して共晶系合金を形成することができる。また、Snは、より低い温度、例えば、250℃以下においても、流動性を生じるなど、接合性を高めることができ、好ましい。この膜体は、その厚さが50nm以上300nm以下の範囲であることが好ましい。厚さが50nm以上では、接合性向上の効果を十分奏することができ、300nm以下では、充放電容量に関与しない成分の存在量を減じることができ、エネルギー密度の観点から好ましい。膜体の厚さは、例えば、75nm以上が好ましく、100nm以上としてもよい。また、この膜体の厚さは、250nm以下が好ましく、200nm以下としてもよい。また、この蓄電デバイス用電極は、膜体と活物質層との間に300nm以下の厚さの中間膜としてのSi膜が形成されているものとしてもよい。活物質層は、例えば、前駆体であるSiAl合金からAlを除去して作製するが、中間膜としてSi膜が存在すると、活物質層と膜体との接合性をより高めることができより好ましい。この中間膜は、厚さが50nm以上としてもよいし、100nm以上としてもよい。また、中間膜の厚さは、350nm以下としてもよいし、200nm以下としてもよい。中間膜の厚さは、活物質層の多孔性に影響が出ないような範囲とすることが好ましい。
【0020】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する活物質層と集電体と膜体とを備えた蓄電デバイス用電極を有するものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。蓄電デバイスは、上述した蓄電デバイス用電極を負極として備えることが好ましい。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/32などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。
【0021】
蓄電デバイスの正極は、上述した正極活物質を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、正極活物質を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、正極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。正極に用いられる集電体などは、上述した蓄電デバイス用電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0022】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0023】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0024】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0025】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質層13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質層16と、集電体17とを有する。負極15は、上述した蓄電デバイス用電極であり、SiとAlとを少なくとも含み空隙23を有し板状の多孔質シリコン材料21を電極活物質として有する負極活物質層16と、集電体17と、負極活物質層16と集電体17との間に介在し集電体17を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体25とを備える。また、膜体25と負極活物質層16との間には、Siにより形成された中間膜24が形成されているものとしてもよい。
【0026】
(全固体リチウムイオン二次電池)
この蓄電デバイスは、全固体リチウムイオン二次電池とすることが好ましい。全固体電池では、電解液による性能の変化をより抑制することができ、更に安全性を高めることができ好ましい。この全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述した蓄電デバイス用電極である負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する固体電解質と、を備えたものとしてもよい。正極は、上述した蓄電デバイスに示したいずれかを用いることができる。また、負極は、上述した蓄電デバイス用電極を用いることができる。
【0027】
固体電解質は、例えば、LiとLaとZrと少なくとも含むガーネット型酸化物としてもよい。この固体電解質は、基本組成がLi7.0+x-y(La3-x,Ax)(Zr2-y,Ty)O12であるものとしてもよい。但し、AはSr、Caのうち1種以上であり、TはNb、Taのうち1種以上であり、0<x≦1.0、0<y<0.75を満たすものである。あるいは、固体電解質は、基本組成(Li7-3z+x-yz)(La3-xx)(Zr2-yy)O12や、(Li7-3z+x-yz)(La3-xx)(Y2-yy)O12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦z≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦2であるものとしてもよい。この基本組成式において、0.05≦z≦0.1を満たすことがより好ましい。この基本組成式において、0.05≦x≦0.1を満たすことがより好ましい。また、この基本組成式において、0.1≦y≦0.8を満たすことがより好ましい。このような範囲では、イオン伝導度をより好適なものとすることができる。
【0028】
あるいは、固体電解質としては、例えば、一般的な、Li3N、LISICONと呼ばれるLi14Zn(GeO44、硫化物のLi3.25Ge0.250.754、ペロブスカイト型のLa0.5Li0.5TiO3、(La2/3Li3x1/3-2x)TiO3(□:原子空孔)、ガーネット型のLi7La3Zr212、NASICON型と呼ばれるLiTi2(PO43、Li1.30.3Ti1.7(PO34(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li2S・20P25(mol%)組成のガラスから得られたLi7311、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi10Ge2PS2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P25、Li3PO4-Li4SiO4、Li3BO4-Li4SiO4、そしてSiO2、GeO2、B23、P25をガラス系物質としてLi2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi2S-GeS2系、Li2S-GeS2-ZnS系、Li2S-Ga22系、Li2S-GeS2-Ga23系、Li2S-GeS2-P25系、Li2S-GeS2-SbS5系、Li2S-GeS2-Al23系、Li2S-SiS2系、Li2S-P25系、Li2S-Al23系、LiS-SiS2-Al23系、Li2S-SiS2-P25系などが挙げられる。これらの固体電解質は、板状に形成して正極と負極との間に配置するものとしてもよい。
【0029】
また、全固体リチウムイオン二次電池は、正極、固体電解質及び負極を積層した積層体を積層方向に対して拘束する拘束部材を備えるものとしてもよい。この拘束部材は、例えば、積層体の積層方向の両端側から積層体を挟む1対の板状部と、1対の板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結されネジ構造等によって1対の板状部の間隔を調整する調整部とを備えるものとしてもよい。
【0030】
(蓄電デバイス用電極の製造方法)
本開示の蓄電デバイス用電極の製造方法は、上述した蓄電デバイス用電極を作製するものとしてもよい。ここでは、多孔質シリコン材料の各物性などについて、上述した蓄電デバイス用電極と同様であるものとしてその詳細な説明を省略する。本開示の蓄電デバイス用電極の製造方法は、接合工程と、電極化工程とを含む。また、蓄電デバイス用電極の製造方法は、接合工程の前に前駆体を作製する前駆体工程を含むものとしてもよい。この前駆体工程は、作製済みの前駆体を準備することによって省略することができる。蓄電デバイス用電極の製造方法において、接合工程では、SiとAlとを少なくとも含み空隙を有さない板状のシリコン合金である前駆体と集電体との間に、集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体を介在させた状態で、この前駆体及びこの集電体を150℃を超える接合温度で加熱圧着する。また、電極化工程では、シリコン合金に含まれるAl成分を除去して板状の形状を有する多孔質シリコン材料を蓄電デバイス用電極の一部として得る処理を行う。まず、原料組成について説明する。
【0031】
図2は、Al-Si二元系状態図である。一般的に、共晶系Si-Al合金の平衡状態図において、液相線が極小となる共晶組成の融液を凝固させるとSi相とAl相とが繊維状(ラメラ状)に相分離した共晶組織が形成される。この時、形成されるラメラ組織のサイズは、冷却速度が速いほど細かくなり、1000K/s以上の冷却速度ではナノサイズの組織が形成される。この共晶組織から、Al元素のみを選択除去することができれば、共晶組織を特徴としたSi元素からなる材料を得ることができる。Si-Al合金の場合、13Si-87Alが共晶組成付近になる。この場合、Alを溶解すると自立膜を得ることが難しいが、50Si-50Al付近で合金を作製すると、共晶SjとAlと合金化しない初晶Siが成長する。この初晶Siが電極がシート状を保つ骨格になる。そして、電気化学反応時には、共晶Siが形成する細孔が電極の膨張・収縮を緩和するように作用する。
【0032】
(前駆体工程)
前駆体工程では、SiとAlとの全体を100at%としたときに、Alを30at%以上70at%以下の範囲で含み残部をSiとする原料を用いることが好ましい。なお、原料には、不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物は、より少ないことが好ましい。Alの配合比は、65at%以下が好ましく、60at%以下がより好ましく、55at%以下としてもよい。また、Alの配合比は、35at%以上が好ましく、40at%以上がより好ましく、45at%以上としてもよい。Alをこのような範囲で含むシリコン合金では、空隙率をより高めると共に、より好適な形状、サイズの空隙を得ることができ好ましい。Alの含有量が多いと、溶融して合金としたあと、急速冷却するとAlの単相が大きく析出するので、多くの空隙を形成させることができる。この冷却速度は、より急冷であることが好ましく、例えば、溶融状態から102℃/s以上108℃/s以下の範囲としてもよい。
【0033】
この工程において、原料を溶解する場合は、Arなど不活性ガス雰囲気中の高周波融解が好ましいが、いかなる融解手法を用いても構わない。前駆体工程では、シリコン合金の溶湯をロール急冷法で冷却し、板状(薄膜状を含む)の前駆体を得るものとしてもよい。ロール急冷法で得られた前駆体は合金組織が微細となるため、溶出処理後に微細な細孔を有する多孔質シリコンを得ることができる。
【0034】
この前駆体工程では、図3Aに示す単ロール急冷装置を用いるものとしてもよい。図3は、蓄電デバイス用電極の製造方法の一例を示す説明図であり、図3Aが前駆体30を形成する処理、図3Bが中間膜24を形成する処理、図3Cが膜体25を形成する処理、図3Dが集電体17との加熱圧着処理、図3Eが電極化処理の説明図である。この工程では、酸素除去材を含む減圧状態のチャンバー内で冷却ロールに、SiとAlとを含む原料を溶融した融液を噴射して冷却し、板状の前駆体30を得るものとしてもよい。冷却ロールで液体急冷する場合、冷却速度に影響を及ぼすパラメータとして、融液の温度や熱伝導度、ノズル先端の穴径d、ロールとノズル間のギャップサイズg、ロール回転数rなどが挙げられる。ノズル先端の穴径dは、例えば、0.1mm以上5mm以下の範囲とすることができ、0.2mm以上2mm以下の範囲としてもよい。ギャップサイズgは、0.1mm以上5mm以下の範囲とすることができ、0.2mm以上2mm以下の範囲としてもよい。ロール回転数rは、1000rpm以上5000rpm以下の範囲とすることができ、2000rpm以上4000rpm以下の範囲としてもよい。チャンバーは、10-3Pa以下に減圧することが好ましい。また、チャンバー内に不活性ガスを導入することが好ましい。不活性ガスは、例えば、Arが好ましい。内圧は、例えば、30cmHg以上、40cmHg以上としてもよい。また、内圧は、100cmHg以下が好ましい。原料が溶融するまで加熱し、Arガスを噴射してノズル先端から冷却ロールに向けて融液を噴霧して、急冷凝固させた前駆体30を得ることができる。
【0035】
前駆体工程では、厚さが10μm以上50μm以下の範囲の板状の前駆体30を得るものとしてもよい。この厚さは、20μm以上40μm以下としてもよい。前駆体30の厚さは、蓄電デバイスに要求される性能に応じて適宜選択すればよい。前駆体工程では、導電材や結着材を含まない一体形状を有する板状の前駆体を得ることが好ましい。
【0036】
この前駆体工程では、AlとSiとに加えTi、Sn、Ca、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含む第2元素を含む原料を用いてもよい。このうち、第2元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。第2元素は、Alの含有量よりも少ないことが好ましく、例えば、シリコン合金の全体に対して。10質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以下の範囲より好ましい。
【0037】
(接合工程)
接合工程では、前駆体30と集電体17とを150℃を超える接合温度で加熱圧着する。接合温度は、例えば、200℃以上としてもよいし、250℃以上としてもよい。また、この接合温度は、300℃以下としてもよいし、250℃以下としてもよい。接合温度がより高いと接合強度を高めることができ、接合温度がより低いとエネルギー消費の観点から好ましい。また、この工程での加圧は、例えば、10MPa以上が好ましく、25MPa以上がより好ましく、40MPa以上としてもよい。また、この加圧は、100MPa以下としてもよい。加圧力がより高いと接合強度を高めることができ、加圧力がより低いとエネルギー消費の観点から好ましい。接合温度と加圧力とは、所望する接合性に応じて適宜選択すればよい。
【0038】
この工程では、前駆体30と集電体17との間に、集電体17を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体25を介在させた状態でこれらを加熱圧着する。集電体17は、上記説明したものを適宜利用するものとしてもよい。集電体17は、Cuを含むものが好ましく、Cu合金としてもよいが、純銅であることがより好ましい。また、集電体17は、その形状は特に限定されないが、箔状であることが好ましい。集電体17の厚さは、例えば、1μm以上50μm以下の範囲としてもよいし、30μm以下や20μm以下、15μm以下としてもよい。接合工程では、Snからなる膜体25を用いることが好ましい。また、この工程では、厚さが50nm以上300nm以下の範囲である膜体25を用いることが好ましい。また、前駆体30と膜体25との間にSiを含む中間膜24を介在してもよい。即ち、接合工程では、膜体25と前駆体30との間に300nm以下の厚さの中間膜24を形成したあと、前駆体30及び集電体17を加熱圧着するものとしてもよい。中間膜24は、Si膜とすることが好ましい。また、中間膜24の厚さは、50nm以上であることが好ましい。中間膜24や膜体25は、例えば、化学蒸着法や、スパッタなどの物理蒸着法で形成することができ、スパッタ法が好ましい。
【0039】
(電極化工程)
電極化工程では、上記作製した集電体17との圧着体の前駆体30からSi以外の物質を除去し、前駆体30を多孔質シリコン材料とする処理を行う。この工程によれば、集電体17が既に接合した状態で多孔質シリコン材料の電極が得られるため、多孔質シリコン材料としたあとに集電体17を圧着することによる空隙率の減少をより抑制することができる。除去するSi以外の物質としては、例えば、Alやその化合物などが挙げられる。この工程では、酸又はアルカリによってAl成分、即ちAl相やその化合物を選択的に除去することが好ましい。用いる酸またはアルカリは、シリコン合金中のシリコン以外の元素及び/又は化合物を溶出し、シリコンが溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。この酸又はアルカリは、水溶液とすることが好ましい。酸又はアルカリの濃度は、Alやその化合物を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、1mol/L以上5mol/L以下の範囲などにすることができる。この除去処理は、例えば、30℃~60℃で加温するものとしてもよい。得られた蓄電デバイス用電極は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0040】
電極化工程では、Si以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去するものとしてもよい。例えば、Alその他の酸素などは、残存しても構わないが、電極活物質として利用する際には、充放電容量の観点からは、より少ない方が好ましい。また、Alなどの成分は、シリコン骨格を補強し、耐久性向上の観点からは、所定量以上含まれることが好ましい。この電極化工程では、Si及びAlの全体を100at%としたときに、Alを0.5at%以上15at%以下の範囲で含有する多孔質シリコン材料含む電極を得ることが好ましい。この多孔質シリコン材料において、Alは、1.0at%以上含んでもよいし、2.0at%以上含んでもよい。また、Alは、10at%以下としてもよいし、7.5at%以下の範囲で含有するものとしてもよい。
【0041】
電極化工程では、空隙率が10体積%以上50体積%以下の範囲の多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この空隙率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。この空隙率は、例えば、15体積%以上であることが好ましく、20体積%以上としてもよい。また、空隙率は、例えば、50体積%以下が好ましく、40体積%以下や30体積%以下であるものとしてもよい。空隙率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化に応答しやすく、より小さいと単位体積あたりに存在するSi量が多くなり、好ましい。
【0042】
以上詳述したように、本実施形態の蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法では、Siを含む多孔体の活物質層と集電体との接合性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、多孔質シリコンに集電体を接合する際に、加圧圧着することが考えられるが、加圧により多孔体の空隙率が減少してしまうことがあり、加圧には限度がある。また、Alを用いてSiを多孔化する場合、酸やアルカリによりAlを除去することがあるが、多孔化前に集電体を加圧圧着したのちにAlを除去すると、集電体の接合性が低下することがあった。ここでは、集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体を介して活物質層と集電体とを接合したのち、Alを除去して多孔質シリコン材料を得るため、Alの除去によっても接合強度の低下をより抑制することができる。また、この多孔質シリコン材料は、自立膜であるため、導電材や結着材を添加することなく、そのまま電極として用いることができる。それ故、エネルギー密度の高い電極の提供が可能になる。また、構成シリコンのサイズと混合比率の最適化により、リチウムイオン電池に用いた場合、体積の膨張・収縮が緩和され、サイクル特性が向上するので、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【0043】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0044】
本開示は、以下の[1]~[15]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] SiとAlとを少なくとも含み空隙を有し板状の多孔質シリコン材料を電極活物質として有する活物質層と、
集電体と、
前記活物質層と前記集電体との間に介在し、前記集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体と、
を備えた蓄電デバイス用電極。
[2] 前記多孔質シリコン材料は、一体形状を有し結着材を含まない、[1]に記載の蓄電デバイス用電極。
[3] 前記膜体は、Snからなる、[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス用電極。
[4] 前記膜体は、その厚さが50nm以上300nm以下の範囲である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極。
[5] 前記膜体と前記活物質層との間に300nm以下の厚さのSi膜が形成されている、[1]~[4]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極。
[6] (1)~(5)のいずれか1以上の特徴を有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極。
(1)前記多孔質シリコン材料は、Si及びAlの全体を100at%としたときにSiを90at%以上の範囲で含む。
(2)前記多孔質シリコン材料は、空隙率が10体積%以上50体積%以下の範囲である。
(3)前記多孔質シリコン材料の板状体は、その厚さが10μm以上50μm以下の範囲である。
(4)前記多孔質シリコン材料の板状体は、1つの面に前記膜体を介在して前記集電体が加熱圧着されている。
(5)前記集電体は、Cuを含む。
[7] 正極活物質を含む正極と、
[1]~[6]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極である負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
[8] SiとAlとを少なくとも含み空隙を有さない板状のシリコン合金である前駆体と集電体との間に、前記集電体を構成する元素及びSiと共晶系合金を形成する金属Mの膜体を介在させた状態で、該前駆体及び該集電体を150℃を超える接合温度で加熱圧着する接合工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して板状の形状を有する多孔質シリコン材料の活物質層を形成する電極化工程と、
を含む蓄電デバイス用電極の製造方法。
[9] 前記接合工程では、Snからなる前記膜体を用いる、[8]に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
[10] 前記接合工程では、厚さが50nm以上300nm以下の範囲である前記膜体を用いる、[8]又は[9]に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
[11] 前記接合工程では、一体形状を有し結着材を含まない前記前駆体を用いる、[8]~[10]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
[12] 前記接合工程では、前記膜体と前記前駆体との間に300nm以下の厚さのSi膜を形成したあと、前記前駆体及び前記集電体を加熱圧着する、[8]~[11]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
[13] 前記接合工程では、(6)~(8)のいずれか1以上の部材を用いる、[8]~[12]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極。
(6)前記前駆体は、Si及びAlの全体を100at%としたときにSiを30at%以上70at%以下の範囲で含む。
(7)前記前駆体は、その厚さが10μm以上50μm以下の範囲である。
(8)前記集電体は、Cuを含む。
[14] 前記電極化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する、[8]~[13]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
[15] [8]~[14]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料の製造方法であって、
SiとAlとを少なくとも含む原料を溶融し、酸素除去材を含む減圧状態のチャンバー内で冷却ロールに前記原料を溶融した融液を噴射して冷却し前記板状のシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程、
を含む蓄電デバイス用電極の製造方法。
【実施例0045】
以下には、本開示の蓄電デバイス用電極および蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~7が本開示の実施例であり、実験例8~7が比較例である。
【0046】
(リボン状Al-Siインゴットの作製)
最初に、Al-Siインゴットを作製し、組成について検討した。表1にインゴットの組成をまとめた。原料のAl(高純度化学、99.5%粒状)およびSi(高純度化学、99.999%粒状)を、所望の組成(表1)になる様に秤量した(参考例1~4)。アーク溶解炉(日新技研NEV-ACD1)のチャンバー内の銅ハースに秤量した原料をセットした。更に、酸素ゲッターとしてTi塊もセットした。チャンバー内を10-3Pa以下まで真空引きしたあと、40cmHgまでArを導入し、アーク放電でTi塊を溶融して残留酸素を除去したあと、原料を溶かしてAl-Si合金のインゴットを得た。この時、試料の均一性を高めるためインゴットを裏返し再溶解するプロセスを3回以上繰り返した。
【0047】
次に、図3に示す単ロール型の液体急冷装置を用いて、合成したインゴットを急冷凝固処理した。単ロールで液体急冷する場合、冷却速度に影響を及ぼすパラメータとして、融液の温度や熱伝導度、ノズル先端の穴径d、ロールとノズル間のギャップサイズg、ロール回転数rなどが考えられる。融液の温度や熱伝導度は試料に依存したパラメータであるが、残りは装置のセッティングで調節できる。今回は、(1)ノズル先端の穴径d=0.5mm、(2)ギャップサイズg=0.5mm、(3)ロール回転数r=3000rpmに調節した。作製したインゴットを石英製のノズルに入れ、高周波溶解装置に接続した。チャンバー内を10-3Pa以下まで真空引き後、50cmHgまでArガスを導入した。電流値を徐々に上げ、放射温度計で温度を確認しながら試料が溶融するまで加熱し、Arガスを噴射してノズル先端から銅ロールに向けて融液を噴霧して、急冷凝固リボン試料(板状の前駆体)を得た。ここでは、前駆体の厚さを30μmとした。
【0048】
(電気化学評価)
試料を1mg秤量し、それを銅集電箔上にのせたものを作用極とした。電解液には1M-LiPF6をエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=3/7(体積比)に溶解したものを用い、ポリエチレン微多孔膜のセパレータを介して対極にはリチウム金属を用いた。得られた試験セルを用い、電流密度1/20C、下限電位50mV、上限電位2Vで充放電を行った。
【0049】
(電極観察)
3000mAh/gのLiを挿入後、電池をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で解体し、シリコン負極をジメチルカーボネート(DMC)で3回洗浄した。それを室温で減圧乾燥して試料を調整した。これを、大気非暴露のホルダーを用いて、SEMへ導入して電極断面を観察した。なお、実験例1に関しては、電池抵抗が大きく、2800mAh/gまでLi挿入してSEM観察を行った。
【0050】
(多孔質シリコン材料の物性測定)
酸処理後の多孔質シリコン材料に対して走査電子顕微鏡(SEM,HITACHI製S-4300)およびエネルギー分散型X線分析(EDAX,HITACHI製S-4300)で観察、元素分析を行った。また、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POWERMASTER60GT)で細孔分布や平均空隙率を測定した。
【0051】
図4は、参考例2の多孔質シリコン材料の評価結果であり、図4Aが原料合金のXRDチャートであり、図4Bが酸処理後の多孔質シリコンリボンのXRDチャートであり、図4Cが原料合金のSEM写真であり、図4Dが酸処理後の多孔質シリコンリボンのSEM写真であり、図4Eが酸処理後の多孔質シリコンリボンの表面SEM写真である。図5は、参考例2の電極の評価結果であり、図5Aが充放電曲線、図5Bが初期の断面SEM像、図5Cが3000mAh/gのLi挿入時の断面SEM像である。表1に、各試料の仕込み組成、酸処理後の結晶相と結晶性、酸処理後の形状などをまとめた。また、表1には、充放電評価結果として初回Li挿入容量A(mAh/g)、初回Li脱容量B(mAh/g)、初回充電効率(B/A×100;%)、3000mAh/gのLi挿入時の電極膨張率(体積%)をまとめた。
【0052】
表1に示すように、仕込み組成がAl70Si30、Al50Si50及びAl30Si70の参考例1~3では、冷却後及び酸処理後は、長いリボン状もしくはリボン状の形状を有していた。また、参考例1~3では、高結晶シリコンが検出され、結晶性が高いことがわかった。更に、参考例1~3では、その断面を観察すると、冷却時に結晶化する初晶シリコンを含む粗粒(マイクロスケール)と、Alとの共晶シリコンを含む微粒(ナノスケール)と、の2種類の組織が観察された。一方、Al含有量の少ない参考例4では、粉末状であり、形状の保持性が低く、結晶性も低かった。また、参考例4では、その断面を観察すると、微粒は見られず、粗粒(マイクロスケール)が連結した形状が認められた。また、参考例2~4では、初回Li挿入容量が3000mAh/g以上であり、初回Li脱離容量が2500mAh/g以上であり、初回充放電効率も70%以上を示し、いずれも高かった。一方、参考例1では、2800mAh/gがLi挿入限界であり、挿入容量、脱離容量及び初回充放電効率のいずれもが比較的低かった。参考例1では、Al量が多く、抵抗が高いことに起因しているものと視察された。また、電極の膨張率では、参考例1~3が良好である一方、参考例4では、体積膨張が50体積%以上あり、体積変化が大きかった。Alの仕込み組成は、30~70at%の範囲が良好であると推察された。
【0053】
【表1】
【0054】
(集電体との接合強度の検討)
上述した参考例に基づき、リボン形状を維持できたAl50Si50(参考例2)およびAl30Si70(参考例3)に対して、集電体としてのCu箔との接合を検討した。上記参考例と同様に得られたリボン状試料(前駆体)を、10mmの長さに切断し、蒸着装置チャンバーにセットして、5×10-4Pa以下まで減圧し、SiあるいはSnの蒸着源に電子ビームを照射して前駆体の板状体の表面に、最初にSiを0~300nm形成したあと、その上にSnを50~300nmの厚さで製膜した。Si膜/Sn膜を製膜した試料をCu箔(厚さ20μm)に載せたあと、50MPaの圧力下、100~250℃で30分間、加熱圧着して接合した(実験例1~6)。また、比較のため、Si膜を形成せずSnのみを製膜した試料(実験例7)、何も製膜しない試料(実験例8)、Siのみを製膜した試料(実験例9)、を作製し、実験例1と同様の条件で圧着した。図6は、各試料の作製条件を示す説明図であり、図6Aが実験例8、図6Bが実験例1~6の説明図である。
【0055】
得られた試料をシャーレ中の1Nの塩酸水溶液に浸漬し、回転子により300rpmで撹拌しながら、室温で1~5時間処理して、Alを選択除去した。その後、蒸留水で3回以上洗浄し、Cu箔一体型の自立膜型多孔質シリコン負極を得た。図7は、酸処理における実験例1~3、8の観察写真であり、図7Aが1時間後、図7Bが5時間後の観察写真である。図8は、実験例2の断面のSEM写真及びその微細構造の一例を示す説明図である。表2に、実験例1~10の仕込み組成、界面構造、酸処理による剥離時間のほか、水銀圧入法により求めた多孔質シリコン材料の平均空隙率(体積%)と、EDAXで測定した酸処理後のAl,Si組成(at%)をまとめた。なお、実験例1~6の多孔質シリコン材料は、平均空隙率が25~50体積%であり、Siが95at%以上であった。表2に示すように、SiやSnを蒸着せずに圧着した実験例8では、塩酸水溶液に浸漬後1時間以内に、自立膜型シリコンが剥離してしまい、十分な界面強度が得られなかった。それに対し、Snを製膜せずSiを製膜した実験例9では、界面強度が向上したが、2時間以内に剥離が生じた。他方、Snを蒸着した実験例1~7では、4時間まで剥離が生じず、界面強度が改善されることが分かった。更に、シリコン自立膜とSn膜との間にSi膜を介在させて製膜すると、Si/Snの膜厚に関わらず、塩酸水溶液に5時間浸漬しても、剥離が生じず、界面強度がより改善されていることが分かった(図7参照)。
【0056】
次に、 圧着時の加熱温度の影響を明らかにするため、Al50Si50の表面上にSiの100nm膜を形成し、更にその上にSnを200nmの厚さで製膜し、種々の温度で圧着した。表3に実験例2、10~12の試験結果をまとめた。圧着温度が150℃以下では、十分な強度が得られなかったが、圧着温度を150℃超過、更に200℃以上まで上げると、界面強度が改善されることがわかった。Snは、Si及びCuと共晶合金を形成可能な金属であるため、多孔質シリコン材料と、集電体(Cu)とを接合するのに好ましく、このSn膜の存在によって、蓄電デバイス用電極の構造強度をより高めることができることがわかった。
【0057】
また、活物質層を形成する多孔質シリコン材料は、一体形状を有し結着材を含まないものであり、充放電容量の観点から好ましいと推察された。また、Sn膜は、接合温度が150℃超過250℃以下の範囲が好ましく、加熱圧着が行いやすかった。更に、Sn膜は、その厚さが50nm以上300nm以下の範囲が良好であると推察された。更にまた、Sn膜と多孔質シリコン材料との間に50nm以上300nm以下の厚さのSi膜が形成されていることが、接合強度の観点から好ましいものと推察された。なお、このSi膜は省略しても十分接合強度を有することが確認された。そして、多孔質シリコン材料の前駆体は、Si及びAlの全体を100at%としたときにSiを30at%以上70at%以下の範囲で含むことが好ましいことがわかった。そしてまた、多孔質シリコン材料の板状体は、その厚さが10μm以上50μm以下の範囲が好ましいものと推察された。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
なお、本開示は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質層、14 集電体、15 負極、16 負極活物質層、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 多孔質シリコン材料、23 空隙、24 Si膜、25 膜体、30 前駆体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8