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特開2023-163627伸縮継手構造体及び伸縮継手のカバー部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163627
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】伸縮継手構造体及び伸縮継手のカバー部材
(51)【国際特許分類】
   F16L 27/10 20060101AFI20231102BHJP
   F16L 27/12 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
F16L27/10 A
F16L27/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074647
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 翔一
(72)【発明者】
【氏名】湊 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小岩 右京
【テーマコード(参考)】
3H104
【Fターム(参考)】
3H104JA08
3H104LB16
3H104LG03
3H104LG30
(57)【要約】
【課題】孔食の発生の低減を図り、かつメンテナンス負荷を軽減することが可能な伸縮継手構造体及び伸縮継手のカバー部材を提供する。
【解決手段】 伸縮継手構造体は、一対のダクト同士の間に設けられ、かつ前記一対のダクトの接続方向において伸縮自在な伸縮部を有する伸縮継手と、前記伸縮継手の周方向に亘って環状に形成され、かつ前記伸縮継手の一端側に取り付けられる取付部及び、前記取付部の内側の縁から前記伸縮継手の軸方向において前記伸縮部の終端側まで延び、かつ前記伸縮継手の周方向に亘って前記伸縮部の内壁を覆うカバー部と、を有する伸縮継手のカバー部材を含む。前記取付部は、前記取付部は、前記伸縮継手に対して着脱可能に形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のダクト同士の間に設けられ、かつ前記一対のダクトの接続方向において伸縮自在な伸縮部を有する伸縮継手と、
前記伸縮継手の周方向に亘って環状に形成され、かつ前記伸縮継手の一端側に取り付けられる取付部及び、前記取付部の内側の縁から前記伸縮継手の軸方向において前記伸縮部の終端側まで延び、かつ前記伸縮継手の周方向に亘って前記伸縮部の内壁を覆うカバー部を有する伸縮継手のカバー部材を含み、
前記取付部は、前記伸縮継手に対して着脱可能に形成される、伸縮継手構造体。
【請求項2】
前記取付部は、前記伸縮継手の一端側に形成される継手フランジにボルトによって締結可能に形成される、請求項1に記載の伸縮継手構造体。
【請求項3】
前記カバー部は、前記伸縮継手の軸方向に垂直な方向において、前記伸縮継手の内壁と間隔を有して設けられ、
前記伸縮継手の軸方向に直交する前記伸縮部の終端側の断面において、前記カバー部の端部によって囲まれる第1の領域の面積は、前記伸縮部の端部及び前記カバー部の端部によって囲まれる第2の領域の面積よりも大きい、請求項1又は2に記載の伸縮継手構造体。
【請求項4】
前記第2の領域の面積A2と、前記第1の領域の面積A1と、の関係は、下記の式を満たす請求項3に記載の伸縮継手構造体。
0.0002≦A2/A1≦0.0450
【請求項5】
一対のダクトを接続し、かつ前記一対のダクトの接続方向において伸縮自在な伸縮部を有する伸縮継手に取り付けられる伸縮継手のカバー部材であって、
前記伸縮継手の周方向に亘って環状に形成され、かつ前記伸縮継手の一端側に取り付けられる取付部と、
前記取付部の内側の縁から前記伸縮継手の軸方向において前記伸縮部の終端側まで延び、かつ前記伸縮継手の周方向に亘って前記伸縮部と対向するカバー部と、を有し、
前記取付部は、前記伸縮継手に対して着脱可能に形成される伸縮継手のカバー部材。
【請求項6】
前記取付部は、前記伸縮継手の一端側に形成される継手フランジにボルトによって締結可能に形成される、請求項5に記載の伸縮継手のカバー部材。
【請求項7】
前記カバー部は、前記接続方向に伸縮自在に形成され、かつ前記接続方向の長さを調整する調整部を有する、請求項5又は6に記載の伸縮継手のカバー部材。
【請求項8】
前記カバー部は、基材層と、前記基材層上に形成される防食塗料を含む塗膜層と、を備える、請求項5又は6に記載の伸縮継手のカバー部材。
【請求項9】
前記カバー部は、基材層と、前記基材層上に形成される防食塗料を含む塗膜層と、を備える、請求項7に記載の伸縮継手のカバー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、一対のダクトを接続する伸縮継手構造体及び伸縮継手のカバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所、製鉄所、ゴミ焼却場等の燃焼設備は、その稼働により生じた高温のガスをダクトから外部に排出する。ダクトがガスの熱によって膨張すると、例えば、ダクト同士を接続する継手に接続方向の力が加わる。このため、継手にはガスの熱によるダクトの熱膨張等を吸収する目的で伸縮継手が使用される。
【0003】
例えば、製鉄所で発生するガスのように、腐食性物質を含んだガスを外部に排出する場合、当該ダクト同士の接続には、耐食性に優れた金属製ベローズを用いた伸縮継手が使用される。
【0004】
ベローズはその伸縮性のために肉薄に形成される。このため耐食性を有する材料であっても腐食性物質に長期間晒されると腐食が進行して孔食が生じる。ベローズに孔食が生じると、外部にガスが漏出する、すなわち、ガスに所定の処理がなされる前に大気に放出されるおそれがある。また、ガスが外部に漏出すると、ガスから回収する熱エネルギの損失が生じるため、プラント操業の稼働効率が低下する問題がある。
【0005】
したがって、従来、伸縮継手の耐久性を高めることで、伸縮継手の外部にガスが漏れることを防止している。例えば、特許文献1には、外周側から順番に第1金属層、メッシュ層、耐熱層、第2金属層を積層した伸縮継手が開示されている。特許文献1では、耐熱層の上に第2金属層を積層することにより、伸縮継手の主たる機能を有する耐熱層(伸縮継手の内部)への水や埃などの侵入を防止し、孔食が発生することを防止している。
【0006】
また、特許文献2には、金属製ベローズの内周面を覆う無機質繊維製織布を有する伸縮継手が開示されている。無機質繊維製織布が金属製ベローズの内周面を覆うことによって、金属製ベローズの溝にダストが堆積することを防止し、ダストの除去に要する清掃時間を短縮できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-299731号公報
【特許文献2】特開2000-220777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された伸縮継手に用いる各金属層は、伸縮継手の伸縮性を確保するために薄膜等の金属層を用いることが好ましい。したがって、薄膜等の金属層では、十分な耐食性や耐久性を得るための層厚を確保することが難しい問題がある。
【0009】
また、特許文献2の伸縮継手は、結露が生じる環境での使用が想定されていないため、結露に起因する金属ベローズの腐食を抑制することができない問題がある。
【0010】
特に、特許文献2に記載された無機質繊維製織布は、プラントの操業状態に応じて弛み量が変化する。無機質繊維製織布の弛み量の変化に伴って、無機質繊維製織布上に堆積した固体物が金属製ベローズに落下することがある。そのため、結露によって生じる水と落下した固体物との反応により金属製ベローズの腐食が進行しやすい状態になることがある。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、孔食の発生の低減を図り、かつメンテナンス負荷を軽減することが可能な伸縮継手構造体及び伸縮継手のカバー部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]
一対のダクト同士の間に設けられ、かつ前記一対のダクトの接続方向において伸縮自在な伸縮部を有する伸縮継手と、
前記伸縮継手の周方向に亘って環状に形成され、かつ前記伸縮継手の一端側に取り付けられる取付部及び、前記取付部の内側の縁から前記伸縮継手の軸方向において前記伸縮部の終端側まで延び、かつ前記伸縮継手の周方向に亘って前記伸縮部の内壁を覆うカバー部を有する伸縮継手のカバー部材を含み、
前記取付部は、前記伸縮継手に対して着脱可能に形成される、伸縮継手構造体。
[2]
前記取付部は、前記伸縮継手の一端側に形成される継手フランジにボルトによって締結可能に形成される、[1]に記載の伸縮継手構造体。
[3]
前記カバー部は、前記伸縮継手の軸方向に垂直な方向において、前記伸縮継手の内壁と間隔を有して設けられ、
前記伸縮継手の軸方向に直交する前記伸縮部の終端側の断面において、前記カバー部の端部によって囲まれる第1の領域の面積は、前記伸縮部の端部及び前記カバー部の端部によって囲まれる第2の領域の面積よりも大きい、[1]又は[2]に記載の伸縮継手構造体。
[4]
前記第2の領域の面積A2と、前記第1の領域の面積A1と、の関係は、下記の式を満たす[3]に記載の伸縮継手構造体。
0.0002≦A2/A1≦0.0450
[5]
一対のダクトを接続し、かつ前記一対のダクトの接続方向において伸縮自在な伸縮部を有する伸縮継手に取り付けられる伸縮継手のカバー部材であって、
前記伸縮継手の周方向に亘って環状に形成され、かつ前記伸縮継手の一端側に取り付けられる取付部と、
前記取付部の内側の縁から前記伸縮継手の軸方向において前記伸縮部の終端側まで延び、かつ前記伸縮継手の周方向に亘って前記伸縮部と対向するカバー部と、を有し、
前記取付部は、前記伸縮継手に対して着脱可能に形成される伸縮継手のカバー部材。
[6]
前記取付部は、前記伸縮継手の一端側に形成される継手フランジにボルトによって締結可能に形成される、[5]に記載の伸縮継手のカバー部材。
[7]
前記カバー部は、前記接続方向に伸縮自在に形成され、かつ前記接続方向の長さを調整する調整部を有する、[5]又は[6]に記載の伸縮継手のカバー部材。
[8]
前記カバー部は、基材層と、前記基材層上に形成される防食塗料を含む塗膜層と、を備える、[5]又は[6]に記載の伸縮継手のカバー部材。
[9]
前記カバー部は、基材層と、前記基材層上に形成される防食塗料を含む塗膜層と、を備える、[7]に記載の伸縮継手のカバー部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、腐食性物質を含有するガスが流れるダクト同士の接続に用いた場合、伸縮継手の伸縮部の内壁を覆うカバー部を有するため、その腐食を抑制することができる。したがって、腐食性物質による腐食が進行することにより生じる孔食の発生を抑制することができ、伸縮継手からガスが外部に漏洩することを抑制することができる。また、伸縮継手のカバー部材が伸縮継手に対して着脱可能に構成されていることにより、例えば、伸縮継手のカバー部材を外して目視にて腐食の進行状況を確認することができる。これにより、腐食の有無の状況を迅速に把握することができ、腐食の進行状況に応じた適切な処置を施すことができる。したがって、伸縮継手の補修や交換などのメンテナンス負荷を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る伸縮継手構造体の断面図である。
図2図1のI1―I1線に沿った伸縮継手構造体の断面図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る伸縮継手構造体を示す断面図である。
図4図3のI2―I2線に沿った伸縮継手構造体の断面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る伸縮継手のカバー部材を示す斜視図である。
図6図5の伸縮継手のカバー部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る伸縮継手構造体を示す図である。図1に示すように、伸縮継手構造体100は、一対のダクトD1,D2同士を接続する。伸縮継手構造体100は、一対のダクトD1,D2同士の間に設けられる伸縮継手10と、伸縮継手10の一端側に取り付けられる伸縮継手のカバー部材20と、を含む。
【0016】
ダクトD1,D2は、例えば、火力発電所、製鉄所、ゴミ焼却場等の燃焼設備に設けられている。本実施形態のダクトD1,D2は、これらの設備から排出される比較的高温であり、かつ腐食性物質を含む排気ガス(以下、ガスとも称する)の流路をなす。本実施形態においては、ダクトD1は、ダクトD2に対して当該流路の上流に位置する場合を説明する。
【0017】
ダクトD2は、例えば、その終端側に触媒等の所定の処理を行う処理装置(図示せず)が接続される。したがって、ダクトD1,D2を通ったガスは、例えば、所定の処理がなされた後に大気に放出される。また、ダクトD1,D2を通ったガスから熱エネルギが回収されるようにしてもよく、例えば、ダクトD2の終端側において熱エネルギ回収装置(図示せず)が設けられるようにしてもよい。
【0018】
ダクトD1,D2は、筒状に形成されている。本実施形態においては、ダクトD1,D2は、円筒状に形成されている。ダクトD1,D2は、その両端に他の部材と接続するための環状のフランジDFが設けられている。フランジDFには、例えば、ボルトを挿通可能な取付孔(図示せず)が環の縁に沿って複数形成されている。
【0019】
尚、各ダクトD1,D2の形状は、ガスが移動可能な流路が形成されるものであればよく、円筒状に限定されない。ダクトD1,D2は、例えば、角柱状であってもよい。また、各ダクトD1,D2の材質としては、特には限定されないが、耐食性の点でステンレス鋼が用いられることが好ましい。
【0020】
各ダクトD1,D2は高温かつ多量のガスを流動させることができるように構成される。例えば、各ダクトD1,D2が円筒状である場合、その内径が0.4m以上10.0m以下であるとよい。また、例えば、各ダクトD1,D2が角柱状である場合、各ダクトD1,D2の軸線方向に直交する断面における一辺がそれぞれ0.4m以上10.0m以下であるとよい。尚、各ダクトD1,D2のガスの流量は、例えば、500m/min以上5000m/min以下とするとよい。
【0021】
伸縮継手10は、一対のダクトD1,D2の接続方向に伸縮自在な伸縮部11と、伸縮部11の一端側及び終端側に設けられている接続部12を有する。
【0022】
伸縮部11は、例えば、いわゆるベローズタイプを用いることができる。本実施形態においては、伸縮部11は、伸縮継手10の軸AX方向に伸縮可能な蛇腹状に形成されている。したがって、伸縮継手10は伸縮継手10の軸方向AXに生じる各ダクトD1,D2の伸縮を吸収可能に構成されている。尚、伸縮継手10の軸AXは、本実施形態においては、一対のダクトD1,D2の接続方向と同じである。
【0023】
また、伸縮部11は、このような蛇腹状に形成されていることにより、ガスの圧力、流量の変動又は、外部の機器の振動などに起因する各ダクトD1,D2の振動が発生したとしても、当該蛇腹部位が伸縮することによりその振動を吸収することが可能である。
【0024】
尚、伸縮部11は、例えば、耐食性のある材質で形成されることが好ましい。このような耐食性のある材質としては、例えば、ステンレス鋼が挙げられる。
【0025】
また、伸縮部11の内径は、各ダクトD1,D2の内径と同程度に設定するとよい。ここで、伸縮部11の内径とは、蛇腹状の伸縮部11の内径のうち、最小の内径(蛇腹状の溝の縁における内径)を意味している。
【0026】
さらに、伸縮部11の板厚は、ベローズタイプの場合、当該伸縮部11の伸縮性、耐食性、疲労に対する耐久性などの観点から、0.5mm以上3.5mm以下程度に設定されているとよい。
【0027】
尚、伸縮部11は、伸縮継手10の軸AX方向における各ダクトD1,D2の伸縮の吸収及び、これの部材の振動の吸収ができるように構成されていればよい。例えば、伸縮部11は、ベローズタイプに代えて、いわゆるスリーブタイプであってもよい。スリーブタイプの場合、例えば、一のパイプと、一のパイプに収容され、かつ一のパイプの軸方向にスライド可能に配置された他のパイプと、一のパイプ及び他のパイプの間の気密性を保つ封止材と、を有するものを用いることができる。
【0028】
接続部12の各々は、伸縮継手10の軸AXに垂直な方向(径方向)の外側に向かって突出して形成された環状のフランジを有する。接続部12の各々のフランジは、例えば、ボルトを挿通可能な取付孔(図示せず)が環の縁に沿って複数形成されている。
【0029】
伸縮継手のカバー部材20は、伸縮継手10の一端側に取り付けられる取付部21と、伸縮継手10の周方向に亘って伸縮部11の内壁を覆うカバー部22と、を有する。
【0030】
取付部21は、伸縮継手10の周方向に亘って環状に形成されたフランジ(継手フランジ)を有する。取付部21のフランジ(継手フランジ)は、例えば、ボルトを挿通可能な取付孔(図示せず)が環の縁に沿って複数形成されている。
【0031】
カバー部22は、筒状に形成されるもので、取付部21の内側の縁から伸縮継手10の軸方向AXにおいて伸縮部11の終端側まで延び、かつ伸縮継手10の周方向に亘って伸縮部11を覆うように(伸縮部11と対向して)形成されている。本実施形態においては、カバー部22は、円筒状に形成されている。
【0032】
尚、カバー部22は、取付部21の内側の縁の近傍から伸縮継手10の軸方向AXに沿って延びて形成されていればよい。すなわち、カバー部22は、取付部21の下流側のダクトD2に対向する面から伸縮継手10の軸方向AXに沿って延びて形成されていればよい。
【0033】
ここで、「伸縮部11を覆うように」とは、条件(1):伸縮継手10の軸AXに垂直な方向からみて、伸縮部11とカバー部22とが、互いに重なりあって(対向して)配置されること、かつ条件(2):当該伸縮部11の全長Lの少なくとも8割が、カバー部22と重なり合って配置されている(対向している)こと、を満たすことを意味する。
【0034】
尚、条件(2)は、伸縮部11のばね定数、及びダクトD1,D2の膨張の態様に応じて適宜変更することができる。すなわち、各ダクトD1,D2は、プラントから排出される高温のガスによって熱膨張し、それに伴って伸縮部11が収縮する(全長Lが短くなる)。したがって、伸縮部11が収縮した状態において、当該伸縮部11の一端側から終端側までがカバー部22と重なり合って両者が配置されるとよい。言い換えれば、カバー部22は、例えば、伸縮部11がダクトD1,D2からの熱膨張の影響を受けない常温においては、伸縮部11の全長Lの少なくとも8割と重なり合う長さを有するとよい。
【0035】
図1においては、カバー部22は、伸縮部11の全長Lよりも長く形成されている。また、カバー部22は、条件(1)を満たすように配置され、かつ伸縮部11がダクトD1,D2からの熱膨張の影響を受けない常温において、当該伸縮部11の全長の10割と重なり合って(対向して)配置されているため、条件(2)を満たすように配置されている。
【0036】
ダクトD1のフランジDF、伸縮継手10の接続部12、伸縮継手のカバー部材20の取付部21の各々は、気密性を有して組付けられている。また、伸縮継手のカバー部材20は、伸縮継手10に対して着脱可能に組み付けられている。尚、このように伸縮継手構造体100を設ける場合には、ダクトD1は、ダクトD2に対して上流に位置するように配置するとよい。
【0037】
具体的には、本実施形態においては、ダクトD1のフランジDF、伸縮継手10の接続部12、伸縮継手のカバー部材20の取付部21は、これらの部材の各々の取付孔にボルトを挿通させ、ナットを螺合することにより締結されている。ダクトD1のフランジDF、伸縮継手10の接続部12、伸縮継手のカバー部材20の取付部21の各々の間には、パッキン、ガスケット等の封止材(図示せず)を設けてもよい。また、伸縮継手のカバー部材20の取付部21は、伸縮継手10に対して着脱可能に形成されていればよい。例えば、ダクトD1のフランジDF、伸縮継手10の接続部12、伸縮継手のカバー部材20の取付部21は、このような態様以外にもC型クランプなどの締め具を用いて締結されてもよい。
【0038】
ダクトD2のフランジDF、伸縮継手10の接続部12の各々は、気密性を有して組付けられている。具体的には、本実施形態においては、ダクトD2のフランジDF、伸縮継手10の接続部12は、これらの部材の各々の取付孔にボルトを挿通させ、ナットを螺合することにより締結されている。ダクトD2のフランジDF、伸縮継手10の接続部12の各々の間には、パッキン、ガスケット等の封止材(図示せず)を設けてもよい。
【0039】
図2は、図1のI1―I1線に沿った伸縮継手構造体の伸縮部の終端側の断面、すなわち、伸縮継手10の軸AX方向に直交する断面を示している。図2に示すように、カバー部22は、伸縮継手10の軸方向に垂直な方向において、伸縮継手10(伸縮部11)の内壁と間隔Gを有して設けられている。本実施形態においては、間隔Gは、伸縮継手10の周方向において一定となるように設けられている。
【0040】
カバー部22は、基材層23と、基材層23上に形成される防食塗料を含む塗膜層24と、を含むことが好ましい。
【0041】
基材層23は、特には限定されないが、ガスの移動に伴って生じる振動に耐え得る強度、及び耐食性を有する材質で構成されている。このような材質としては、例えば、ステンレス鋼が挙げられる。また、基材層23は、1.0mm以上10.0mm以下程度であることが好ましい。
【0042】
塗膜層24に含まれる防食塗料は、腐食性物質に対して防食性を有する任意の塗料を用いることができる。このような塗料としては、例えば、シリコーン樹脂を含むものが挙げられる。
【0043】
塗膜層24に含まれる防食塗料は、例えば、伸縮継手構造体100が発電所などに用いられるダクトの接続に用いられる場合には、高温ガスが流動するため、防食性と共に耐熱性を備えることが好ましい。
【0044】
このような環境においては、例えば、常温から300℃程度までの耐熱性と防食性を有する塗料を用いるとよい。このような塗料としては、大豊塗料株式会社製、サントモDHX(製品名)が挙げられる。
【0045】
塗膜層24に含まれる防食塗料は、上記以外にも任意の成分を添加して機械的強度の向上を図ってもよい。例えば、ガラスフレークを塗料の成分として添加することにより、防食塗膜の耐熱性と共に機械的強度も上昇させることができる。このような塗料としては、たとえば、日本化学塗料株式会社製のフレークガード(製品名)が挙げられる。
【0046】
尚、塗膜層の厚さは、下地調整層(不陸調整層)を除いて、15~2000μmとするとよく、250~2000μmとすることが好ましく、550~2000μmとすることがさらに好ましい。塗膜層の厚みを15μm以上とすることで十分な耐食性を付与することができる。塗膜層の厚みを2000μm以下とすること防食処理コストを抑制することができる。
【0047】
塗膜層24は、ダクトD1,D2を流動するガスとカバー部22とが接触する可能性がある位置に設けられているとよい。このような位置としては、カバー部22の内壁面、外壁面が挙げられる。このうち、内壁面は、特にガスに晒される可能性が高いため塗膜層24が設けられていることが好ましい。本実施形態においては、塗膜層24は、カバー部22の内壁面に設けられている。
【0048】
例えば、腐食性物質を含むガスの移動、結露の発生、腐食性物質の水溶液の生成等の腐食発生要因が生じた場合、塗膜層24がカバー部22に設けられていることにより、カバー部22の腐食を抑制することができる。その結果、伸縮継手構造体100のメンテナンス頻度を抑えることができる。なお、塗膜層24は、カバー部22の内壁面や外壁面だけでなく、伸縮部11の内壁面に設けてもよい。伸縮部11の内壁面に塗膜層24を設けることにより、伸縮継手10の腐食の進行を一層抑えることができる。
【0049】
図2において、カバー部22の端部の内壁によって囲まれる第1の領域は、伸縮部11の端部の内壁及びカバー部22の端部の外壁によって囲まれる第2の領域よりも大きく形成されている。言い換えれば、伸縮継手10の軸AX方向からみた第1の領域の面積A1は、第2の領域の面積A2(以下、第1の領域の面積A1及び、第2の領域の面積A2と称する)よりも大きい。
【0050】
したがって、例えば、腐食の進行により伸縮部11に孔が形成された場合、第2の領域の面積A2が第1の領域の面積A1よりも小さいため、ダクトD1からダクトD2にガスが流れると、ベルヌイの定理に従い、第1の領域の静圧が第2の領域よりも低下する。すなわち、流速が第2の領域よりも大きい第1の領域では静圧が第2の領域よりも低下する。その結果、静圧が高い第2の領域から低い第1の領域に向けた気体の流れが発生する。
【0051】
したがって、伸縮部11の孔から外気が流入し、当該外気が伸縮継手10を流れるガスと合流するガス流れが発生する。これにより、たとえ伸縮部11に孔が形成された場合でも、伸縮継手10を流れるガスが外部に漏出することを抑制できる。
【0052】
第2の領域の面積A2と第1の領域の面積A1との関係は、下記の(1)式の関係を満足することが好ましい。
0.0002≦A2/A1≦0.0450 ・・・(1)
【0053】
すなわち、第2の領域の面積A2と第1の領域の面積A1との関係が、式(1)を満たすことで、伸縮部11の孔から流入した外気の流れを適切なものとすることができる。
【0054】
例えば、上記の式(1)において、第1の領域の面積A1に対する第2の領域の面積A2の面積比(A2/A1)が、下限値の0.0002である場合、第2の領域の面積A2は、第1の領域の面積A1の0.02%である。
【0055】
第1の領域の面積A1に対する第2の領域の面積A2が当該下限値よりも下回ると、伸縮部11の孔から流入した外気の流れの圧力損失が高くなり、伸縮継手10内に外気が吸引されにくくなる傾向がある。
【0056】
また、例えば、第1の領域の面積A1に対する第2の領域の面積A2の面積比(A2/A1)が、上限値の0.0450である場合、第2の領域の面積A2は、第1の領域の面積A1の4.50%である。
【0057】
第1の領域の面積A1に対する第2の領域の面積A2が当該上限値よりも上回ると、ベルヌイの定理に従った第1の領域の静圧の低下効果が低くなる。したがって、伸縮部11の孔から伸縮継手10内に外気が吸引されにくくなる傾向がある。
【0058】
上述した本発明の実施形態に係る伸縮継手構造体100の作用について説明する。例えば、図示しない燃焼設備の運転が開始されると、燃焼によって生じた高温のガスが各ダクトD1,D2及び伸縮継手構造体100を通過する。
【0059】
本発明の実施形態では、伸縮継手10伸縮部11は、伸縮継手のカバー部材20のカバー部22によって覆われている。したがって、ガスに含まれる煤や、腐食性物質などが伸縮部11に堆積することを抑制でき、伸縮部11の腐食の進行を抑制することができる。
【0060】
以上のように、本実施形態に係る伸縮継手構造体100によれば、伸縮継手のカバー部材20の取付部21が、伸縮継手10の接続部12の継手フランジ(ガスの流動方向の上流側に位置する)に着脱可能にボルトで締結される。したがって、ユーザは、点検時に伸縮継手のカバー部材20を取り外して、目視にて伸縮継手10及び、伸縮継手のカバー部材20の腐食状況を確認することができる。このため、腐食性物質を含有する流体による伸縮部11の腐食を早期に発見して、ガスが外部に漏洩することを抑止することができると共に、伸縮継手10の補修や交換などのメンテナンス負荷を軽減することができる。
【0061】
また、伸縮部11にいわゆる孔食が生じた場合について説明する。例えば、伸縮継手10内の結露に腐食性物質が溶解すると、その水溶液によって伸縮部11の腐食が徐々に進行し孔が形成される。
【0062】
上述のように、伸縮部11の孔からして外気が流入すると、ベルヌイの定理にしたがって、外気は第2の領域からダクトD2向かって流れる。したがって、伸縮部11に腐食が生じて孔14が形成された場合であっても、伸縮継手10を流動するガスが外部に漏洩することを抑制できる。その結果、伸縮継手10の補修や交換などのメンテナンス負荷を軽減できる。
【0063】
(第2の実施形態)
上述した第1実施形態では、カバー部22の外壁と伸縮部11との間隔Gが伸縮継手10の周方向において一定となるように設けられている例を説明した。カバー部22の外壁と伸縮部11との間隔Gは、鉛直方向の位置に応じて異なるようにしてもよい。
【0064】
図3は、第2の実施形態に係る伸縮継手構造体100を示している。図4は、図3のI2-I2線に沿った伸縮継手構造体100の断面を示している。図3及び4に示すように、カバー部22の外壁と伸縮部11との間隔は、鉛直方向の位置に応じて異なる。具体的には、鉛直方向の下側に位置するカバー部22の外壁と伸縮部11との間隔Gdownは、鉛直方向の上側に位置するカバー部22の外壁と伸縮部11との間隔Gupよりも狭くなっている。
【0065】
例えば、伸縮部11で生じた結露は、鉛直方向の上側よりも下側に滞留しやすい。このため、伸縮部11の鉛直方向の下側では孔食が生じやすい。そこで、間隔Gdownを、間隔Gupよりも狭くすることにより、外気の流速を鉛直方向の下側を上側よりも速めることができる。伸縮継手10内への外気の流入を促進させることができる。
【0066】
(第3実施形態)
上述の実施形態においては、カバー部22は、伸縮継手10の軸AX方向の長さが一定であるものについて説明した。カバー部22は、伸縮継手10の軸AX方向(ダクトD1,D1の接続方向)において伸縮自在に形成されるものであってもよい。
【0067】
図5は、本発明の第3実施形態に係る伸縮継手のカバー部材30の一例を示している。図6は、図5の伸縮継手のカバー部材30の軸方向に沿った断面を示している。図5及び6に示すように、伸縮継手のカバー部材30は、伸縮継手10の一端側に取り付けられる取付部31と、伸縮継手10の周方向に亘って伸縮部11の内壁を覆うカバー部32と、を有する。
【0068】
取付部31は、伸縮継手10の周方向に亘って環状に形成されたフランジ(継手フランジ)を有する。取付部31のフランジ(継手フランジ)は、例えば、ボルトを挿通可能な取付孔31aが環の縁に沿って複数形成されている。
【0069】
カバー部32は、取付部31に固定される筒状の第1のカバー部32aと、第1のカバー部32aに収容され、かつ第1のカバー部32aに対して伸縮継手10の軸AX方向にスライド可能な筒状の第2のカバー部32bと、第2のカバー部32bのスライド量を調整する調整部35を有する。
【0070】
本実施形態においては、第1のカバー部32a及び第2のカバー部32bは、いずれも円筒状に形成されている。すなわち、カバー部32は、共通の軸心を有する一組の円筒(二重円筒)である第1のカバー部32a及び、第2のカバー部32bを含んで構成されている。
【0071】
第1のカバー部32a及び第2のカバー部32bの間には気密性を保持するためにパッキン、ガスケット等の封止材が設けられている。したがって、第2のカバー部32bは、気密状態が維持された状態で第1のカバー部32aに収容されている。このように、カバー部32は、いわゆるスリーブタイプにより構成することが可能である。
【0072】
調整部35は、第1のカバー部32a及び第2のカバー部32bの周面に形成された複数のネジ孔(図示せず)、当該ネジ孔に挿通可能なボルト35a及び、ボルト35aに螺合可能なナット35bを有する。
【0073】
第1のカバー部32a及び第2のカバー部32bに形成されるネジ孔は、伸縮継手10の軸AXに沿って2か所以上に形成されていればよい。本実施形態においては、伸縮継手10の軸AXにおいて4か所に列状に形成されている。このようにネジ孔が形成されていることにより、所望の位置に第1のカバー部材32aのネジ孔及び、第2のカバー部32bのネジ孔を合わせて、ボルト35aとナット35bで締結することができる。これにより、第2のカバー部32bの第1のカバー部32aに対する伸縮を調整することができる。
【0074】
尚、第1のカバー部32a及び第2のカバー部32bに形成されるネジ孔は、ボルト35a以外の部材によって閉塞されてもよい。例えば、第2のカバー部31bを最も伸ばした状態において、第1のカバー部材32aの取付部31側に配置されている3つのネジ孔は、ボルト35a以外の閉塞部材によって閉塞されてもよい。このような閉塞部材としては、例えば、ガスケット、パテ等が挙げられる。
【0075】
また、第1のカバー部32a及び第2のカバー部32bに形成されるネジ孔は、周方向の2か所以上に形成されていればよい。本実施形態においては、伸縮継手10の軸AXに対して対称となる2か所の位置に形成されている。このようにネジ孔が形成されていることにより、第2のカバー部32bの第1のカバー部32aに対する固定をより強固にすることができる。
【0076】
すなわち、調整部35のボルト35a、ナット35bは、ダクトD1,D2から伝導した振動の影響を受けやすい。しかし、第1のカバー部32a及び第2のカバー部32bの周方向においてネジ孔が複数形成されていることにより、周方向に加わるこれらの部材への影響を分散させることが可能になる。これにより、第1のカバー部32a及び第2のカバー部32bの固定状態を安定して維持することが可能となる。
【0077】
このようにカバー部32を伸縮継手10の軸AXの方に伸縮自在な構成とすることで、流体の流動方向に沿う方向にその全長を調整することが可能となる。したがって、本実施形態の伸縮継手10のカバー部材は、伸縮部11の全長Lが互いに異なる複数の種類の伸縮継手10に取り付けることが可能となる。したがって、伸縮継手10の全長Lの長さに応じた種類によらず、取り付けることができるため、汎用性を高めることが可能となる。
【0078】
伸縮継手のカバー部材30は、上述の実施形態と同様に、伸縮継手10に取り付けることによって、伸縮継手構造体100として用いることができる。このように伸縮継手構造体100をダクトD1,D2の接続に用いることにより、上述の実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
【0079】
さらに、本実施形態の伸縮継手のカバー部材30によれば、伸縮部11の全長Lの長さに応じた様々な種類の伸縮継手10に対して用いて、伸縮継手構造体100とすることができる。
【0080】
例えば、腐食が進行してカバー部32を交換する必要が生じた場合、本実施形態の伸縮継手のカバー部材30を用いることで、その伸縮継手10のために専用設計された専用品を用いる必要がなくなる。したがって、設備の保守、点検のためのコストを減らすことが可能となる。
【符号の説明】
【0081】
100 伸縮継手構造体
10 伸縮継手
11 伸縮部
20 伸縮継手のカバー部材
21 取付部
22 カバー部
23 基材層
24 塗膜層
25 調整部
A1 第1の領域の面積
A2 第2の領域の面積
AX 伸縮継手の軸(一対のダクトの接続方向)
D1,D2 ダクト
図1
図2
図3
図4
図5
図6